説明

1,2−ジヒドロピリジン化合物の塩

【課題】本発明の目的は、医薬品として適した3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン(下記式(1)で表される化合物)の種々の塩またはその水和物を提供することである。
【解決手段】3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンの酸付加塩またはその水和物であって、当該酸がベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、臭化水素酸および硫酸からなる群から選ばれる、酸付加塩またはその水和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AMPA(α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸)受容体拮抗作用および/またはカイニン酸受容体阻害作用を有するパーキンソン病等の治療剤として有用な3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンのベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩および硫酸塩に関する。
【背景技術】
【0002】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンを含む1,2−ジヒドロピリジン化合物は、AMPA受容体拮抗作用および/またはカイニン酸受容体阻害作用を有し、パーキンソン病等の治療剤として有用であることが知られている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンのフリー体は特許文献1の実施例7および特許文献2の実施例1Xに開示されている。特許文献1は、「(22)前記(1)において化合物が(中略)3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン、(中略)から選ばれるいずれか1つの化合物である化合物もしくはその塩またはそれらの水和物」(特許文献1第13頁第3行目から第20頁第18行目)を開示し、またこの塩の例示として、「本願明細書における「塩」とは、本発明にかかる化合物と塩を形成し、且つ薬理学的に許容されるものであれば特に限定されないが、好ましくはハロゲン化水素酸塩(例えばフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等)、無機酸塩(例えば硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩等)有機カルボン酸塩(例えば酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(例えばメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等)、アミノ酸塩(例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)等があげられ、当該「薬理学的に許容できる塩」として、より好ましくは塩酸塩、シュウ酸塩、等である。」と一般的な開示がされている。(特許文献1第50頁下から第9行目から第51頁第4行目)
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2には、具体的な実施例として、3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンは開示されているものの、その塩は一切記載されていない。
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/96308号パンフレット
【特許文献2】国際公開第06/04107号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医薬品として有用な化合物の塩の種類によって変動しうる性質の1つに水溶媒への溶解速度がある。経口剤の場合、薬剤の溶解速度は、活性薬剤自体が吸収される速度や吸収量のばらつき等に影響を与え得る。したがって、より早く、安定した薬理活性を発現する為にも、活性薬剤の溶解速度は、医薬品として重要な特性の1つである。(宮嶋孝一郎編「医薬品の開発 第15巻『製剤の物理化学的性質』」東京廣川書店、1989年10月25日、p.41,84、J.T.Carstensenら編「医薬品の溶出」1977年10月30日、地人書館、p.172−174)
また、医薬品の工業的生産において(特に注射剤や液剤を製造する場合)、高品質の維持や安定的な工業的な生産性の維持のためにも、原薬が適切な溶解速度であることが望まれる。特に、医療現場での使用性の観点等からは、用時調製の注射剤や液剤である場合、原薬がある程度高い溶解速度であることが必要である。
【0007】
このように医薬品として有用な化合物およびその塩ならびにその結晶ならびにその非晶質体の物性は、薬物のバイオアベイラビリティー、原薬の純度、製造方法、製剤の処方等に影響を与えるため、医薬品開発においては、当該化合物に関し、どの塩・結晶形・非晶質体が医薬品として最も優れているかを、研究する必要がある。
しかしながら、それらの物性は、個々の化合物の属性に依存するため、複雑な化合物において、溶解速度等を含めた物理化学的性質、薬理活性等において、医薬品として適切な塩を予測することは困難であり、各化合物毎に医薬品として有用な種々の塩を見出すことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン(下記式(1)で表される化合物)について、各種の塩を合成、単離し、その物性や形態を把握し、種々検討を行った結果、良好な物性を有する原薬用の塩を見出し、本発明を完成した。
【化1】

【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンの酸付加塩またはその水和物であって、当該酸がベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、臭化水素酸および硫酸からなる群から選ばれる、酸付加塩またはその水和物;
〔2〕3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン ベンゼンスルホン酸塩またはその水和物;
〔3〕3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン p−トルエンスルホン酸塩またはその水和物;
〔4〕3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 塩酸塩またはその水和物;
〔5〕3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 臭化水素酸塩またはその水和物;
〔6〕3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 硫酸塩またはその水和物;
〔7〕前記〔1〕記載の塩またはその水和物を含有してなる医薬;
〔8〕前記〔1〕記載の塩またはその水和物を含有してなる医薬組成物;
〔9〕前記〔1〕記載の塩またはその水和物を含有してなるパーキンソン病、パーキンソン症候群、てんかんまたは多発性硬化症の治療剤;
〔10〕前記〔1〕記載の塩またはその水和物を含有してなるパーキンソン病の治療剤;
〔11〕前記〔1〕記載の塩またはその水和物を含有してなるパーキンソン症候群の治療剤;
〔12〕前記〔1〕記載の塩またはその水和物を含有してなるてんかんの治療剤;および
〔13〕前記〔1〕記載の塩またはその水和物を含有してなる多発性硬化症の治療剤、等に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン(以下、化合物(1)という。)の塩およびその水和物は、優れたAMPA受容体拮抗作用および/またはカイニン酸受容体阻害作用を有するとともに、さらに、水溶液への高い溶解速度等医療用の薬剤として優れた物性を有し、パーキンソン病等の治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本明細書において記載する用語、記号等の意義を説明し、本発明を詳細に説明する。
【0012】
酸付加塩とは、化合物と酸性物質(無機酸または有機酸)とから形成された塩を意味し、「3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンの酸付加塩」とは、3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンと酸性物質(無機酸または有機酸)とから形成された塩を意味する。
【0013】
本発明にかかる「塩」とは、化合物(1)と酸により形成されるものであれば特に限定されないが、具体的には例えば、化合物(1)1分子に対し、酸は0.1〜5分子の適宜な比で塩を形成する。
【0014】
本明細書においては、化合物(1)の塩またはその水和物が、結晶多形(擬似結晶多形を含む)または非晶質として存在することもあり、いずれかの結晶多形、非晶質の単一物であっても混合物であってもよい。本発明である「化合物(1)の塩もしくはその水和物」とは、化合物(1)の塩の無水物、化合物(1)の塩の水和物またはこれらの混合物であってもよいことを意味する。
【0015】
本発明の化合物は、以下に記載する方法により製造することができる。但し、本発明の化合物の製造方法は、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の化合物(1)の塩は以下の方法で製造することができる。
化合物(1)は、上記特許文献1または特許文献2に記載の方法に従い合成することができる。
塩の製造に使用する化合物(1)は、どのような形態であってもよい。すなわち、水和物でも無水物でもよく、非晶質でも結晶質(複数の結晶多形からなるものを含む)でもよく、これらの混合物であってもよい。
【0017】
化合物(1)の塩を製造する際、化合物(1)と酸と溶媒を混合するが、化合物(1)と酸と溶媒の加える順番は限定されず、何回かに分けて加えてもよい。
化合物(1)を加える際、化合物(1)の固体を加えても、化合物と溶媒との混合物(溶液、懸濁またはスラリー状態等)を加えてもよい。
塩の製造に使用する酸は、溶液中へ塩化水素ガス等の酸性ガス類をバブリングにより加えても、濃硫酸、メタンスルホン酸等の酸性液体類、酸性物質の固体類を溶液に溶かすことなく加えても、これら酸性ガス類、酸性物質の固体類または酸性液体類を水もしくは有機溶媒に溶かした酸性溶液を加えてもよい。
【0018】
化合物(1)と酸と溶液を混合後、この混合液を撹拌、静置もしくは溶媒留去して化合物(1)の塩を析出させる。析出した塩を通常の濾過操作で分離し、必要に応じて適切な溶媒(通常は析出に用いた溶媒と同一)で洗浄し、さらに乾燥し、本発明の化合物の塩を得ることができる。
【0019】
また、上記のように、一度化合物(1)と酸との塩を生成後、さらに再度溶媒と混合し、この混合液を撹拌、静置もしくは溶媒留去して化合物(1)の塩を析出させる。析出した塩を通常の濾過操作で分離し、必要に応じて適切な溶媒(通常は析出に用いた溶媒と同一)で洗浄し、さらに乾燥し、本発明の化合物の塩を得ることもできる。
【0020】
塩の製造に使用する溶媒として、メチルエチルケトン、アセトンのようなケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノールのようなアルコール類、酢酸エチル、酢酸メチルのようなエステル類、ヘキサン、ヘプタンのような炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンのようなエーテル類、酢酸のようなカルボン酸類、もしくは水、あるいはこれらの混合溶媒が典型的に挙げられるが、これらに限定されない。溶媒の使用量は、化合物(1)と各酸とが加熱により混合する量(例えば溶解、懸濁またはスラリー状態等)を下限とし、塩の収量が著しく低下しない量を上限として適宜選択することができる。化合物(1)と各酸とを混合する温度は、溶媒に応じて適宜選択すればよい。また、最終的な冷却温度は、塩の収量と品質等から適宜選択することができるが、好ましくは室温〜0℃である。
【0021】
また、化合物(1)と各酸とを混合した溶液に貧溶媒(ヘキサン、ヘプタン等)を加えることによって、本発明の塩を析出させてもよい。
【0022】
濾過操作で分離した塩の乾燥は、大気下に放置することでも可能であるが、大量に製造する場合には効率的でなく、加熱によって乾燥することが好ましい。乾燥温度としては、製造量に応じて適宜選択することができる。乾燥時間は、残留溶媒が所定の量を下回るまでの時間を製造量、乾燥装置、乾燥温度等に応じて適宜選択すればよい。また、乾燥は通風下でも減圧下でも行うことができるが、減圧下で行うことが好ましい。減圧度は、製造量、乾燥装置、乾燥温度等に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
化合物(1)のパーキンソン病等治療剤に関しては、特許文献1および特許文献2等に詳細に開示されており、同様に本発明の塩またはその水和物はパーキンソン病等の治療剤の有効成分として使用することができる。
【0024】
本発明の塩またはその水和物を医薬として使用する場合、通常、本発明の塩またはその水和物と適当な添加剤とを混和し、製剤化したものを使用する。ただし、本発明の塩またはその水和物を原体のまま医薬として使用することを否定するものではない。
【0025】
上記添加剤としては、一般に医薬に使用される、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等を挙げることができ、所望により、これらを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0026】
賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニトール、ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム等を挙げることができる。
【0027】
結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を挙げることができる。
【0028】
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ポリエチレングリコール、コロイドシリカ等を挙げることができる。
【0029】
崩壊剤としては、例えば結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム等を挙げることができる。
【0030】
着色剤としては、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カルミン、カラメル、β−カロチン、酸化チタン、タルク、リン酸リボフラビンナトリウム、黄色アルミニウムレーキ等医薬品に添加することが許可されているものを挙げることができる。
【0031】
矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等を挙げることができる。
【0032】
乳化剤または界面活性剤としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0033】
溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、安息香酸ベンジル、エタノール、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド等を挙げることができる。
【0034】
懸濁化剤としては、前記界面活性剤のほか、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子を挙げることができる。
【0035】
等張化剤としては、ブドウ糖、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール等を挙げることができる。
【0036】
緩衝剤としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液を挙げることができる。
【0037】
防腐剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等を挙げることができる。
【0038】
抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロール等を挙げることができる。
【0039】
安定化剤としては、一般に医薬に使用されるものを挙げることができる。
【0040】
吸収促進剤としては、一般に医薬に使用されるものを挙げることができる。
【0041】
また、製剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤のような経口剤;坐剤、軟膏剤、眼軟膏剤、テープ剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤のような外用剤または注射剤を挙げることができる。
【0042】
経口剤は、上記添加剤を適宜組み合わせて製剤化する。なお、必要に応じてこれらの表面をコーティングしてもよい。
【0043】
外用剤は、上記添加剤のうち、特に賦形剤、結合剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤または吸収促進剤を適宜組み合わせて製剤化する。
【0044】
注射剤は、上記添加剤のうち、特に乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤または吸収促進剤を適宜組み合わせて製剤化する。
【0045】
本発明の塩またはその水和物を医薬として使用する場合、その使用量は症状や年齢により異なるが、通常、本発明の塩またはその水和物の1日1人あたりの投与量は、経口剤の場合には、0.1〜30mg(好ましくは0.5〜10mg)であり、注射剤の場合には、0.1〜10mgであり、経口剤、注射剤いずれの場合にも1日に1回または2〜6回に分けて投与することができる。外用剤の場合には、1回の使用量としては0.5〜40mgであり、1日に1回もしくは数回使用することができまた1日から10日の間で1回使用することも可能である。
なお、上記経口剤および注射剤については、実際に投与する値を、また、外用剤については、実際に生体に吸収される値を示している。
【0046】
本発明である化合物(1)の塩またはその水和物を含有する、人への治療に用いるための製剤は、特許文献2に記載の製剤処方等、製剤学的に一般的に用いられている方法によって得ることができる。
【実施例】
【0047】
本発明の化合物(1)は、例えば、以下の実施例に記載した方法により製造することができ、また、当該化合物の効果は、以下の試験例に記載した方法により確認することができる。ただし、これらは例示的なものであって、本発明は、如何なる場合も以下の具体例に制限されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0048】
[実施例1] 3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 塩酸塩
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン・水和物(4.73g,3.25mmol)とエタノール(少量)の混合物を減圧下濃縮し、次いでその残渣に酢酸エチル(少量)を加え、さらに減圧下濃縮した。得られた残渣を含む酢酸エチル(80mL)懸濁液へ4N−HCl酢酸エチル溶液(3.9mL、15.6mmol)を加え、混合物を室温で3.5時間撹拌した。析出した固体を濾取し、酢酸エチル(少量)で洗浄後、減圧乾燥し、標記化合物4.64gを淡黄色結晶として得た。(カールフィッシャー法により、当該結晶中の水分含量が1.6%であることを確認した)。
【0049】
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.65 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 8.62 (d, J = 2.8Hz, 1H), 8.47 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 8.15 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.03-8.10 (m, 1H),7.93 (dd, J = 1.2, 7.2 Hz, 1H), 7.79 (dt, J = 1.2, 7.2 Hz, 1H), 7.74 (d, J =7.2 Hz, 1H), 7.46-7.55 (m, 5H), 7.46-7.55 (m, 2H).
【0050】
[実施例2] 3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 臭化水素酸塩
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン・水和物(4.73g,3.25mmol)とエタノール(少量)の混合物を減圧下濃縮し、次いでその残渣に酢酸エチル(少量)を加え、さらに減圧下濃縮した。得られた残渣を含む酢酸エチル(30mL)懸濁液へ25%−HBr酢酸溶液(1.04g、4.2mmol)を加え、混合物を室温で3.5時間撹拌した。析出した固体を濾取し、酢酸エチル(少量)で洗浄後、減圧乾燥し、標記化合物1.28gを淡黄色結晶として得た。
【0051】
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.63 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 8.56 (d, J = 2.8Hz, 1H), 8.46 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 8.08 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.91-7.99 (m, 2H),7.79 (dt, J = 1.2, 7.2 Hz, 1H), 7.72 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.46-7.55 (m, 5H),7.48-7.54 (m, 1H), 7.38-7.43 (m, 1H).
【0052】
[実施例3] 3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 硫酸塩
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン(1.0g,0.687mmol)とエタノール(少量)の混合物を減圧下濃縮し、次いでその残渣に酢酸エチル(少量)を加え、さらに減圧下濃縮した。得られた残渣を含む酢酸エチル(15mL)懸濁液へ10%(v/v)−HSO酢酸エチル溶液(0.439mL、0.824mmol)を加え、室温で4日間撹拌した。析出した固体を濾取し、酢酸エチル(少量)で洗浄後、減圧乾燥し、標記化合物475mgを白色結晶として得た。
【0053】
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.61 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 8.55 (d, J = 2.8Hz, 1H), 8.46 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 8.06 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.89-7.96 (m, 2H),7.79 (dt, J = 1.2, 7.2 Hz, 1H), 7.72 (dd, J = 1.2, 7.2 Hz, 1H) , 7.56-7.62 (m,5H), 7.48-7.54 (m, 1H), 7.35-7.40 (m, 1H).
【0054】
[実施例4] 3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 硫酸塩
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン(200mg,0.138mmol)とテトラヒドロフラン(20mL)の混合物へ、氷冷下、濃硫酸(60μL,1.08mmol)とテトラヒドロフラン(5mL)の混合物を加え、混合物を氷冷下で1時間撹拌した。析出した固体を濾取し、酢酸エチル(少量)で洗浄後、減圧乾燥し、標記化合物212mgを白色結晶として得た。
【0055】
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.64 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 8.57 (d, J = 2.8Hz, 1H), 8.45 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 8.10 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.96-8.10 (m, 2H),7.93 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.79 (dt, J = 1.2, 7.2 Hz, 1H), 7.72 (d, J = 7.2 Hz,1H) , 7.56-7.62 (m, 5H), 7.49-7.55 (m, 1H), 7.40-7.45 (m, 1H)
【0056】
[実施例5] 3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン ベンゼンスルホン酸塩
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン(506mg、1.40mmol)とアセトン(5mL)の混合物へ、ベンゼンスルホン酸水溶液(1mL,ベンゼンスルホン酸2.02mmolを含む)を加え、オイルバスにて還流加熱し、完全に溶解させた。この混合物へイソプロパノール(20mL)を加えて、混合物を60℃で40分攪拌した後、加温を止めたオイルバス中で13時間放置した。次いでこの混合物を5℃で2時間放置した後、析出した固体を濾取した。得られた析出物を60℃で3時間通風乾燥し、標記化合物442mgを淡黄色結晶として得た。
【0057】
[実施例6] 3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン p−トルエンスルホン酸塩
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン(532mg、1.47mmol)とアセトン(5mL)の混合物へ、p−トルエンスルホン酸水溶液(1.25mL,p−トルエンスルホン酸1.97mmolを含む)およびイソプロパノール(30mL)を加え、混合物を80℃(オイルバス)にて攪拌した。この混合物へ精製水(2.25mL)を添加して濾過した。濾液を80℃に再度加温した後、加温を止めたオイルバス中で13時間放置した。次いでこの混合物を5℃で5時間放置した後、析出した固体を濾取した。得られた析出物を60℃で約3時間通風乾燥し、標記化合物483mgを淡黄色結晶として得た。
【0058】
粉末X線回折パターンの測定
各実施例で得られた結晶の粉末X線回折測定は、日本薬局方の一般試験法に記載された粉末X線回折測定法に従い、以下の測定条件で行った。
(装置)
粉末X線回折測定装置:RINT−2000(株式会社リガク製)
(操作方法)
試料についてメノウ乳鉢で粉砕後13mm径ガラス板にサンプリングし、以下の条件で測定を行った。
使用X線:CuKα線
管電圧:40kV
管電流:200mA
発散スリット:1/2deg
受光スリット:0.3mm
散乱スリット:1/2deg
走査速度:1゜/分
走査ステップ:0.01゜
測定範囲(2θ):5〜40゜
【0059】
実施例1で得た塩の粉末X線回折パターンを図1に示し、実施例2で得た塩の粉末X線回折パターンを図2に示し、実施例3で得た塩の粉末X線回折パターンを図3に示し、実施例4で得た塩の粉末X線回折パターンを図4に示し、実施例5で得た塩の粉末X線回折パターンを図5に示し、実施例6で得た塩の粉末X線回折パターンを図6に示した。
【0060】
(試験例1:溶解速度測定試験方法)
[方法]
化合物(1)の各塩(実施例1,実施例2,実施例3,実施例5および実施例6)ならびに化合物(1)のフリー体の溶解速度を回転ディスク法(J.H.Woodら、J.Pharm. Soc.,54,1068(1965)を参照)を用いて以下の条件にて測定した。試料溶液を経時的にサンプリングし、以下のHPLC条件にて濃度を測定した。次いで、測定時間と濃度との関係に直線性が保たれている範囲に基づいて回帰分析より溶解速度を算出した。
化合物(1)フリー体は、特許文献2(国際公開第06/04107号パンフレット)実施例1Xの記載に基づき合成したものを用いた。
【0061】
〈回転ディスク法の条件〉
溶媒:日本薬局方の一般試験法(崩壊試験法)に記載された第1液(pH1.2)(以下JP1液と示す。)および第2液(pH6.8)(以下JP2液と示す。)
溶媒量:500mL
ディスク成型圧:2トン
温度:37℃
ディスクの回転速度:50rpm
ディスクにおける溶媒と接する粉体の面積:1cm
サンプリング量:200μL
【0062】
〈HPLC条件〉
・HPLCシステム:LC-10AT system (島津製作所製)
・検出器:紫外吸光光度計(測定波長:290nm)
・カラム:YMC Pack Pro C18 4.6 mm I.D.×150 mm、(株式会社ワイエムシィ製)
・カラム温度:35℃
・オートサンプラー温度:25℃
・移動相:
A:水/アセトニトリル/酢酸アンモニウム(900:100:1, v/v/w)
B:水/アセトニトリル/酢酸アンモニウム(100:900:1, v/v/w)
A:B=600:400
・測定時間:20分
・流量:1.0mL/分
・注入量:50μL(JP1液)、150μL(JP2液)
【0063】
(2)結果
下表のように、実施例1,実施例2,実施例3,実施例5および実施例6の化合物(1)の各塩は、JP1液およびJP2液の各溶液において、化合物(1)フリー体より早い溶解速度を示した。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明である化合物(1)の塩およびその水和物は、優れたAMPA受容体拮抗作用および/またはカイニン酸受容体阻害作用を有するとともに、さらに、水溶液への高い溶解速度等医療用の薬剤として優れた物性を有し、パーキンソン病等の治療剤として有用な医薬となりうる。すなわち、本発明によれば、原薬として利用することができる、化合物(1)の塩酸塩をはじめとする化合物(1)の種々の塩を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1で得た、化合物(1)・塩酸塩の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)を示し、縦軸はピーク強度を示す。
【図2】実施例2で得た、化合物(1)・臭化水素酸塩の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)を示し、縦軸はピーク強度を示す。
【図3】実施例3で得た、化合物(1)・硫酸塩の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)を示し、縦軸はピーク強度を示す。
【図4】実施例4で得た、化合物(1)・硫酸塩の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)を示し、縦軸はピーク強度を示す。
【図5】実施例5で得た、化合物(1)・ベンゼンスルホン酸塩の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)を示し、縦軸はピーク強度を示す。
【図6】実施例6で得た、化合物(1)・p−トルエンスルホン酸塩の粉末X線回折パターンである。横軸は回折角(2θ)を示し、縦軸はピーク強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オンの酸付加塩またはその水和物であって、当該酸がベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、臭化水素酸および硫酸からなる群から選ばれる、酸付加塩またはその水和物。
【請求項2】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン ベンゼンスルホン酸塩またはその水和物。
【請求項3】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン p−トルエンスルホン酸塩またはその水和物。
【請求項4】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 塩酸塩またはその水和物。
【請求項5】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 臭化水素酸塩またはその水和物。
【請求項6】
3−(2−シアノフェニル)−5−(2−ピリジル)−1−フェニル−1,2−ジヒドロピリジン−2−オン 硫酸塩またはその水和物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−167102(P2009−167102A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126574(P2006−126574)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】