説明

1,2−プロパンジオールの製造方法

【課題】温和な条件下で、優れた選択率で目的化合物を製造することができる1,2−プロパンジオールの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の1,2−プロパンジオールの製造方法は、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価の銅成分を含有する触媒及び水素の存在下で、グリセロールを水素化分解して1,2−プロパンジオールを得ることを特徴とする。前記ハイドロタルサイトは、他の金属成分としてアルミニウム成分及び/又はマグネシウム成分を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率よくグリセロールを水素化分解して1,2−プロパンジオールを得ることができる1,2−プロパンジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の供給不安や、二酸化炭素排出による温暖化問題が深刻化するなか、それらの問題を解決する方法として生物資源由来のバイオディーゼル燃料の利用が普及し始めている。そして、バイオディーゼル燃料の利用増加に伴い、その製造過程で副生するグリセロールが供給過剰になりつつある。そのため、グリセロールの有効利用が求められている。
【0003】
グリセロールは、食品、医薬品、化粧品などの添加剤としてや、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール等の炭素数3のアルコール類の原料として使用することが知られている。特に、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール等の炭素数3のアルコール類は、保湿剤、乳化剤、溶剤、プラスチック原料などとして非常に有用であるため、グリセロールを原料とした炭素数3のアルコール類の製造は、世界的に注目されている。
【0004】
特許文献1には、触媒として銅−白金担持シリカを使用した、1,2−プロパンジオールの製造方法が記載されている。しかし、水素圧2MPa(5L/min)の厳しい流通条件であり、しかも1,2−プロパンジオールの選択率が90%程度にとどまる点が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−111618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、温和な条件下で、優れた選択率で目的化合物を製造することができる1,2−プロパンジオールの製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、再利用可能な触媒を使用した1,2−プロパンジオールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価の銅成分を含有する触媒及び水素の存在下で、グリセロールを水素化分解すると、温和な条件下で、優れた選択率で1,2−プロパンジオールを得ることができることを見いだした。また、前記触媒は、容易に再利用することができ、更に使用−再生を繰り返しても作用が低下しないことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価の銅成分を含有する触媒及び水素の存在下で、グリセロールを水素化分解して1,2−プロパンジオールを得る1,2−プロパンジオールの製造方法を提供する。
【0009】
ハイドロタルサイトとしては、他の金属成分としてアルミニウム成分及び/又はマグネシウム成分を含むことが好ましく、銅成分と他の金属成分を、前者/後者(金属原子モル比)が、10/1〜1/10となる割合で含有することが好ましい。
【0010】
本発明は、また、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価及び1価の銅成分を含有する触媒を提供する。
【0011】
本発明は、更にまた、前記触媒の製造方法であって、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを、水に分散した状態で還元する工程を有する触媒の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る1,2−プロパンジオールの製造方法は、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価の銅成分を含有する触媒を使用するため、優れた反応促進作用を有し、温和な条件下でも、グリセロールを水素化分解することにより、極めて高い収率で1,2−プロパンジオールを選択的に製造することができる。本発明に係る1,2−プロパンジオールの製造方法によれば、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生するグリセロールから、有用な1,2−プロパンジオールを効率よく製造することができ、生物資源を有効利用することにより、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量をより低減することができる。更に、本発明において使用する触媒は再利用可能であり、繰り返し使用してもその高い触媒作用を維持することができる。そのため、コストを削減することができ、工業化に有利であり、有用な1,2−プロパンジオールを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】製造例1で得られたCu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0:触媒(1))、及び該触媒(1)を1回使用−再生した後の触媒(触媒(2))、及び該触媒(1)を4回使用−再生を繰り返した後の触媒(触媒(5))のX線回折結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[触媒]
本発明においては、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価の銅成分を含有する化合物を触媒として使用する。
【0015】
ハイドロタルサイトの銅成分含有量としては、例えば、0.1〜10重量%程度、好ましくは1〜10重量%程度、特に好ましくは3〜10重量%程度である。銅成分含有量が上記範囲を下回ると、触媒作用が低下する傾向がある。一方、銅成分含有量が上記範囲を上回ると、銅成分の凝集が起こりやすくなる傾向がある。
【0016】
ハイドロタルサイトは、例えば、下記式(1)
[MII1-XIIIX(OH)2][A2-x/2]・nH2O (1)
(式中、MIIは、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+、Mn2+から選択される1種以上の二価の金属であり、少なくともCu2+を含む。MIIIはAl3+、Fe3+、Mn3+、Ru3+から選択される少なくとも1種の三価の金属である。xは0以上、1未満を示す。A2-は二価のアニオンを示し、nは0〜30の整数を示す)
で表される。
【0017】
式(1)中におけるA2-としては、例えば、炭酸アニオン、塩素アニオン、酢酸アニオン、硫酸アニオン、テレフタル酸アニオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸アニオン、ドデシル硫酸アニオン又はセバシン酸アニオン等を挙げることができる。
【0018】
本発明におけるハイドロタルサイトとしては、なかでも、銅成分以外の他の金属成分としてアルミニウム成分及び/又はマグネシウム成分を含むことが、1,2-プロパンジオールの選択性と触媒の安定性に優れる点で好ましく、特に、上記式(1)においてMIIがCu2+、又はCu2+及びMg2+(特に、Cu2+が好ましい)、MIIIがAl3+、A2-が炭酸アニオン(CO32-)であるものが好ましい。銅成分と他の金属成分の含有割合としては、例えば、前者/後者(金属原子モル比)が、10/1〜1/10程度、好ましくは5/1〜1/8程度である。
【0019】
また、MIIとして、Cu2+とMg2+が組み合わされる場合、Cu2+とMg2+の割合としては、例えば、前者/後者(金属原子モル比)は、1/10〜3/1程度、好ましくは1/8〜1/1程度である。本発明においては、特に、Cu4Al2(OH)12CO3・nH2Oで表されるハイドロタルサイトを好適に使用することができる。
【0020】
上記ハイドロタルサイトは、例えば、Cu(NO32、Cu(OAc)2、CuCl2、CuSO4等の銅化合物の水溶液と、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム等から選択される1種以上の水溶液、及びアルカリ(例えば、NaOH、Na2CO3等の塩基性水溶液)を同時に滴下し、続いて、熟成処理(例えば、60〜80℃の温度で1〜5時間程度静置)を施す方法(同時滴下法)により製造することができる。
【0021】
上記同時滴下法では、滴下中の反応液をpH8〜9程度に調整することが好ましい。
【0022】
上記製造方法により得られたハイドロタルサイトは、その後、洗浄処理(水や有機溶媒等により洗浄)、乾燥処理(真空乾燥等により乾燥)等を施すことが好ましい。
【0023】
本発明の触媒は、上記ハイドロタルサイトを還元処理して得られる。ハイドロタルサイトに還元処理を施すことにより、含有する銅成分(Cu:2価)が還元され、1価の銅成分(Cu+)及び/又は0価の銅成分(Cu(0))となる。
【0024】
本発明における触媒には、0価の銅成分(Cu(0))を含有することを特徴とする。本発明においては、なかでも、0価の銅成分(Cu(0))と1価の銅成分(Cu+)を共に含有することが好ましい。0価の銅成分(Cu(0))と1価の銅成分(Cu+)を共に含有すると、目的とする1,2−プロパンジオールの選択率をより向上させることができ、その上、使用−再生を繰り返しても、1価の銅成分(Cu+)が焼結や、0価の銅成分(Cu(0))の凝集(シンタリング)を防止することができ、劣化(触媒活性の低下)を抑制することができる。
【0025】
また、0価の銅成分(Cu(0))と1価の銅成分(Cu+)とを共に含有する場合、その含有割合としては、例えば、前者/後者(金属原子モル比)が90/10〜60/40程度が好ましい。0価の銅成分(Cu(0))と1価の銅成分(Cu+)の含有割合は、例えば、X線回折法等により求めることができる。
【0026】
ハイドロタルサイトの還元処理は、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを、水に分散した状態で還元することが好ましい。ハイドロタルサイトを分散するための水の量としては、例えば、ハイドロタルサイト濃度が5〜20重量%程度、好ましくは10〜20重量%程度となる範囲が好ましい。
【0027】
ハイドロタルサイトの還元処理に使用する還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)等の水素化ホウ素錯化合物、ヒドラジン、水素(H2)、ジメチルフェニルシラン等のシラン化合物、ヒドロキシ化合物等を挙げることができる。ヒドロキシ化合物としては、例えば、第1級アルコール、第2級アルコール等のアルコール化合物を挙げることができる。また、ヒドロキシ化合物は、複数のヒドロキシル基を有していてもよく、1価アルコール、2価アルコール、多価アルコール等の何れであってもよい。
【0028】
本発明においては、なかでも、水素(H2)、水素化ホウ素錯化合物が好ましく、特に、水素(H2)が好ましい。還元剤として水素(H2)を使用すると、還元力が比較的弱いため、ハイドロタルサイトに含有する銅成分について、0価の銅成分(Cu(0))と1価の銅成分(Cu+)が共存した状態を形成することができる。還元剤として水素(H2)を使用する場合は、例えば、分散液中に水素ガスをバブリングすることにより還元反応を行うことができる。
【0029】
還元処理温度及び時間としては、例えば、80〜120℃(好ましくは、100〜120℃)の温度で、1〜8時間(好ましくは、4〜8時間)程度である。還元処理温度及び時間を上記範囲に調整することにより、0価の銅成分(Cu(0))と1価の銅成分(Cu+)が共存した状態を形成することができる。
【0030】
[1,2−プロパンジオールの製造方法]
本発明に係る1,2−プロパンジオールの製造方法は、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価の銅成分を含有する触媒及び水素の存在下で、グリセロールを水素化分解して1,2−プロパンジオールを得ることを特徴する。
【0031】
また、触媒は、予め、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトに還元処理を施して得られたものを使用してもよく、前記ハイドロタルサイトを反応系内で還元処理することにより触媒を生成させ、それを使用してもよい。
【0032】
上記触媒の使用量(銅成分換算)としては、例えば、グリセロールに対して0.0001〜50モル%程度(なかでも0.01〜50モル%程度、より好ましくは0.1〜50モル%程度、最も好ましくは1.0〜50モル%程度)が好ましい。
【0033】
また、水素の供給方法としては、例えば、水素中(すなわち、水素雰囲気下)で反応を行う方法や、水素ガスをバブリングする方法等を挙げることができる。水素中で反応を行う場合、反応時の圧力は、特に制限されず、常圧でも加圧でもよいが、好ましくは0.1〜15MPa(特に、5〜14MPa)である。
【0034】
上記反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方法により行うことができる。
【0035】
また、上記反応は溶媒の存在下で行うことが好ましい。無溶媒下で反応させると、基質となるグリセロールが触媒に吸着してダマになり反応の進行が阻害される場合があるためである。溶媒としては、例えば、水;トリフルオロトルエン、フルオロベンゼン、フルオロヘキサン等のフッ素系溶媒;芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン等)や脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等)等の炭化水素;1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等のエーテル類;アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル;これらの混合物等を挙げることができる。これらのなかでも、溶媒としてはエーテル類が好ましく、特に1,4−ジオキサンが好ましい。また、溶媒の使用量としては、例えば、回分式で反応させる場合はグリセロールの初期濃度が0.5〜5重量%程度となる範囲内で使用することが好ましい。
【0036】
本発明に係る1,2−プロパンジオールの製造方法は温和な条件でも、円滑に反応を進行させることができる。反応温度としては、例えば、50〜250℃、好ましくは100〜220℃程度、特に好ましくは150〜200℃程度である。反応時間は、反応温度及び圧力に応じて適宜調整することができ、例えば30分〜10時間程度、好ましくは1時間〜8時間程度、特に好ましくは3時間〜8時間程度である。
【0037】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0038】
本発明の1,2−プロパンジオールの製造方法によれば、グリセロールの水素化分解反応を温和な条件下で行うことができ、優れた転化率で、選択的に1,2−プロパンジオールを製造することができる。
【0039】
更にまた、反応に使用した触媒は、使用−再生を繰り返しても触媒活性成分である0価の銅成分が凝集しにくいため、高い触媒活性を維持することができる。一方、触媒活性成分が凝集すると、表面積が低下するため、触媒活性は低下する。また、触媒活性成分である銅成分がハイドロタルサイトに含有された構造を有するため、有機合成反応においても前記銅成分が反応溶液中に溶出しにくく、反応液から濾過、遠心分離等の物理的な分離手法により容易に回収することができる。回収された触媒はそのままで、又は洗浄、乾燥処理を施した後、再利用される。洗浄処理は、適宜な溶媒(例えば、水)により数回(例えば2〜3回)洗浄する方法により行うことができる。
【0040】
回収された触媒は、未使用の触媒と比べ、ほぼ同等の触媒能を示すことができ、使用−再生を複数回繰り返しても(例えば、5回程度使用−再生を繰り返しても)、その触媒能はほとんど低下することがない。そのため、本発明に係る1,2−プロパンジオールの製造方法によれば、高価な触媒を回収し、繰り返し利用することができるため、製造コストを大幅に削減することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0042】
製造例1
(ハイドロタルサイトの調製)
1Lの4口ナス型フラスコ中に、脱イオン水 200mLを加え、25℃で撹拌した。そこへ、Cu(NO32・3H2O(24.16g、0.1mol)、Al(NO33・9H2O(18.76g、0.0499mol)、及び脱イオン水(140mL)の混合溶液を滴下した。その際、塩基性水溶液[水酸化ナトリウム(17.5g、0.44mol)と炭酸ナトリウム(11.91g、0.112mol)と脱イオン水(140mL)の混和物]を同時に滴下して、反応液中のpHを8〜9の範囲に調整した。
滴下終了後、65℃で2時間熟成した。その後、濾過し、脱イオン水で洗浄して塩基性水溶液を洗い流し、65℃で8時間真空乾燥させて、2価の銅成分及びアルミニウム成分を含有するハイドロタルサイト(Cu2+−Al−ハイドロタルサイト;Cu/Al=2.0/1.0)を得た。
【0043】
(還元工程)
得られたCu2+−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)5gを50mLの水に分散して分散液を得、得られた分散液を110℃に調整して、水素ガスを気泡計で1気泡/秒で5時間バブリングした。
その後、吸引濾過し、脱イオン水 1Lで洗浄し、24時間真空乾燥させて灰色の粉末のCu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)(Cuの含有量:7重量%)を得た。
【0044】
製造例2
50mLのナス型フラスコ中でKBH4(5.5mmol)に水(50mL)を加えて溶解し、そこに製造例1のハイドロタルサイトの調製で得られたCu2+−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)5gを加え、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。
撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水 1Lで洗浄し、24時間真空乾燥させて黒色の粉末のCu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)(Cuの含有量:7重量%)を得た。
【0045】
製造例3
Cu(NO32・3H2Oの使用量を(24.16g、0.1mol)から、36.24g(0.15molmol)へ変更した以外は製造例1と同様にして、Cu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=3.0/1.0)を得た。
【0046】
製造例4
Cu(NO32・3H2Oの使用量を(24.16g、0.1mol)から、36.24g(0.15molmol)へ変更した以外は製造例2と同様にして、Cu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=3.0/1.0)を得た。
【0047】
製造例5
Cu(NO32・3H2Oの使用量を(24.16g、0.1mol)から、12.08g(0.05mol)へ変更した以外は製造例1と同様にして、Cu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=1.0/1.0)を得た。
【0048】
製造例6
Cu(NO32・3H2Oの使用量を(24.16g、0.1mol)から、12.08g(0.05mol)へ、変更した以外は製造例2と同様にして、Cu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=1.0/1.0)を得た。
【0049】
製造例7
Cu(NO32・3H2Oの使用量を(24.16g、0.1mol)から、6.04g(0.025mol)へ、変更した以外は製造例1と同様にして、Cu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=0.5/1.0)を得た。
【0050】
製造例8
Cu(NO32・3H2O(24.16g、0.1mol)、Al(NO33・9H2O(18.76g、0.0499mol)に代えて、Cu(NO32・3H2O(6.04g、0.025mol)、Al(NO33・9H2O(18.76g、0.0499mol)、及びMg(NO32・6H2O(32.05g、0.125mol)を使用した以外は製造例1と同様にして、Cu−Mg−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Mg/Al=0.5/2.5/1.0)を得た。
【0051】
製造例9
Cu(NO32・3H2O(24.16g、0.1mol)、Al(NO33・9H2O(18.76g、0.0499mol)に代えて、Al(NO33・9H2O(18.76g、0.0499mol)、Mg(NO32・6H2O(38.46g、0.15mol)を使用し、還元工程を設けなかった以外は製造例1と同様にしてMg−Al/HT(Mg/Al=3.0/1.0)を得た。
【0052】
製造例10
Cu(NO32・3H2O(1.78g、0.01mol)とシリカ(SiO2:商品名「CARiACT」、富士シリシア化学(株)製)9.0gとを撹拌して、Cu2+担持シリカ(Cu2+/SiO2)(Cuの担持量:7重量%)を得た。
【0053】
Cu2+−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)に代えて、得られたCu2+担持シリカ(Cu2+/SiO2)を使用した以外は製造例1と同様に還元処理を施して、Cu/SiO2(Cuの担持量:7重量%)を得た。
【0054】
製造例11
シリカ(SiO2:商品名「CARiACT」、富士シリシア化学(株)製)に代えて、マグネシア(MgO:商品名「酸化マグネシウム」、和光純薬工業(株)製)9.0gを使用した以外は製造例10と同様にして、Cu/MgO(Cuの担持量:7重量%)を得た。
【0055】
実施例1
テフロン(登録商標)製内筒をいれたステンレス製耐圧反応管に、製造例1で得られたCu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)25mg(Cu:7.0重量%)、グリセロール 0.35mmol、1,4−ジオキサン 3.0mLを加え、水素雰囲気下(10atm)、180℃で5時間撹拌して1,2−プロパンジオールを得た(転化率:98.0%、選択率:98.0%、収率:96.0%)。尚、転化率、選択率、及び収率の測定にはガスクロマトグラフィーによる標準的な測定方法を使用した。
【0056】
実施例2〜8、比較例1〜3
製造例1で得られたCu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)に代えて、下記表に記載の触媒を使用した以外は実施例1と同様にして、1,2−プロパンジオールを得た。尚、実施例2は製造例2、実施例3は製造例3、実施例4は製造例4、実施例5は製造例5、実施例6は製造例6、実施例7は製造例7、実施例8は製造例8、比較例1は製造例9、比較例2は製造例10、比較例3は製造例11で得られた触媒を使用した。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例9
実施例1の反応終了後、反応液を濾過して残渣を分取し、水で2回洗浄した後、室温(25℃)で減圧乾燥して触媒(2)を得た。触媒(2)をICP発光分光分析装置(ICP−AES)で分析した結果、残渣からは、銅成分が7.0重量%検出された。
【0059】
製造例1で得られたCu−Al−ハイドロタルサイト(Cu/Al=2.0/1.0)(Cu:7.0重量%)(以後、「触媒(1)」と称する場合がある)に代えて、触媒(2)を使用した以外は実施例1と同様にして、1,2−プロパンジオールを得た(転化率:97.8%)。
【0060】
実施例10
実施例9の反応終了後、反応液を濾過して残渣を分取し、水で2回洗浄した後、室温(25℃)で減圧乾燥して触媒(3)を得た。触媒(1)に代えて、触媒(3)を使用した以外は実施例1と同様にして、1,2−プロパンジオールを得た(転化率:98.0%)。
【0061】
実施例11
実施例10の反応終了後、反応液を濾過して残渣を分取し、水で2回洗浄した後、室温(25℃)で減圧乾燥して触媒(4)を得た。触媒(1)に代えて、触媒(4)を使用した以外は実施例1と同様にして、1,2−プロパンジオールを得た(転化率:98.0%)。
【0062】
実施例12
実施例11の反応終了後、反応液を濾過して残渣を分取し、水で2回洗浄した後、室温(25℃)で減圧乾燥して触媒(5)を得た。触媒(1)に代えて、触媒(5)を使用した以外は実施例1と同様にして、1,2−プロパンジオールを得た(転化率:98.0%)。
【0063】
上記実施例1〜8、及び比較例1〜3より、本発明に係る1,2−プロパンジオールの製造方法によれば、優れた収率で、1,2−プロパンジオールを選択的に製造できることがわかった。また、実施例9〜12より、本発明において使用する触媒は、反応液中に触媒活性成分が溶出することが無く、反応後の液を濾過することにより簡単に回収することができ、繰り返し使用しても高い触媒活性を維持することができることがわかった。
【0064】
本発明における触媒の再利用可能性について、更に下記方法により評価した。
【0065】
テフロン(登録商標)製内筒をいれたステンレス製耐圧反応管に、触媒(1) 25mg(Cu:7.0重量%)、グリセロール 0.35mmol、1,4−ジオキサン 3.0mLを加え、水素雰囲気下(10atm)、180℃で2時間30分間撹拌して1,2−プロパンジオールを得た(転化率:50.0%)。
その後、反応液を濾過し、濾液を180℃で2時間30分間撹拌したが、水素化分解反応は進まなかった。また、濾液をICP発光分光分析装置(ICP−AES)で分析した結果、銅成分は検出されなかった。
【0066】
更に、上記触媒(1)、触媒(2)、及び触媒(5)について、X線回折測定を行った(図1参照)。43.3、50.5、及び74.1に現れた回折ピーク2θは0価の銅成分に起因し、36.51、61.39に現れた回折ピーク2θは1価の銅成分に起因する。すなわち、触媒活性成分である0価の銅成分、及び触媒活性を有し、且つ前記0価の銅成分の焼結を防止する作用を有する1価の銅成分のピークが明確に現れていた。この結果は、Joint Committee for Power Diffraction Standards(JCPDS)のCardNo.4−0836、及び5−0667により立証される。
【0067】
更にまた、上記触媒(1)と触媒(5)について、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を使用して観察したところ、銅成分の凝集は起こっていなかった。
【0068】
これらの結果から、本発明における触媒は、使用−再生を繰り返しても、触媒活性成分である銅成分をハイドロタルサイトに保持することができ、更に、使用−再生を繰り返しても、焼結による表面積の低下が起こらないため、優れた触媒活性を維持することができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価の銅成分を含有する触媒及び水素の存在下で、グリセロールを水素化分解して1,2−プロパンジオールを得る1,2−プロパンジオールの製造方法。
【請求項2】
ハイドロタルサイトが、他の金属成分としてアルミニウム成分及び/又はマグネシウム成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の1,2−プロパンジオールの製造方法。
【請求項3】
ハイドロタルサイトが、銅成分と他の金属成分を、前者/後者(金属原子モル比)が、10/1〜1/10となる割合で含有する請求項2に記載の1,2−プロパンジオールの製造方法。
【請求項4】
金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを還元処理して得られる、0価及び1価の銅成分を含有する触媒。
【請求項5】
請求項4に記載の触媒の製造方法であって、金属成分として、少なくとも銅成分を含むハイドロタルサイトを、水に分散した状態で還元する工程を有する触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−188390(P2012−188390A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53598(P2011−53598)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】