説明

1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物およびその製造方法

【課題】耐熱性ポリマーの原料として有用な1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物を提供する。
【解決手段】次の式(1)で示される1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物。
【化1】


(式(1)中、R、Rは、同一であっても異なってもよく、水素原子またはメチル基を示し、Xは、水素原子、アルキル基またはハロゲン原子の何れかを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物およびその製造方法に関する。本発明の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物はポリマー原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリマーにはその用途に応じて種々の性能が求められるが、その機能の一つとして耐熱性が挙げられる。
【0003】
例えば、現在市販されているアクリレートポリマーの耐熱性は一般に低く、その分解温度は高くても300℃前後である。そこで、耐熱性を高めるために芳香族基の導入が検討され、例えば1,4−ナフタレンジオールジアクリレート及びそれよりなるポリマーが知られている(特許文献1参照)。本発明者らは、さらに高い耐熱性を求め、3環性のアントラセン骨格を含む9,10−アントラセンジオールジアクリレートを合成したが、この化合物は重合性を有していなかった。
【特許文献1】特開2001−276587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、3環性芳香族性骨格を持ち、耐熱性を有し、しかも、重合可能なアクリレート化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明はの第1の要旨は、次の式(1)で示される1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物に存する。
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)中、R、Rは、同一であっても異なってもよく、水素原子またはメチル基を示し、Xは、水素原子、アルキル基またはハロゲン原子の何れかを示す。)
【0008】
本発明の第2の要旨は、1,2,3,4−テトラヒドアントラセン−9,10−ジオール化合物を塩化アクリロイル又は塩化メタアクリロイルと反応させることを特徴とする1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物は、耐熱ポリマーの原料として有用である。また、この1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物は、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオールを塩化アクリロイル又は塩化メタアクリロイルと反応させることによって工業的に容易に得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物は、上記の式(1)に記載の構造を有する化合物であり、式(1)中、R、Rは、同一であっても異なってもよく、水素原子またはメチル基を示し、Xは、水素原子、アルキル基またはハロゲン原子の何れかを示す。
【0011】
式(1)中、Xで表されるアルキル基の炭素数は、通常1〜12、好ましくは1〜8であり、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、4−メチルペンチル基、4−メチル−3−ペンテニル基などが挙げられる。
【0012】
式(1)で表される1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物の代表例としては、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジアクリレート、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジメタアクリレート、2−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジアクリレート、2−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジメタアクリレート、2−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジアクリレート、2−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジメタアクリレート、2−(4−メチルペンチル)−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジアクリレート、2−(4−メチルペンチル)−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジメタアクリレート、2−(4−メチル−3−ペンテニル)−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジアクリレート、2−(4−メチル−3−ペンテニル)−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジメタアクリレート等が挙げられる。代表的化合物の式を以下に示す。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−アクリレート化合物又は1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−メタアクリレート化合物は、1,4−ナフトキノンと置換ブタジエンのディールス・アルダー反応により得られる1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノンを原料とし、次のようにして製造することが出来る。すなわち、先ず、酸触媒または塩基性触媒存在下に異性化して1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール又はそのナトリウム塩を得、次いで、水素化して1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール又はそのナトリウム塩を得、更に、塩基性化合物の存在下又は非存在下に塩化アクリロイル又は塩化メタアクリロイルを作用させる。これらの反応ルートを以下に示す。
【0015】
【化3】

【0016】
以下、第1反応の異性化反応、第2反応の水素化反応、第3反応のアクリル化反応についてそれぞれ説明する。
【0017】
(第1反応)
1,4−ナフトキノンと置換ブタジエンのディールス・アルダー反応により得られる1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン化合物を酸触媒または塩基性触媒を使用して異性化することにより1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物を得る。
【0018】
1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン化合物としては、例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン、2−クロル−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン、2−(4−メチルペンチル)−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン、2−(4−メチル−3−ペンテニル)−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン等が挙げられる。
【0019】
酸触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸のような液状の酸性化合物の他、固体酸であるイオン交換性樹脂、酸化アルミ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、塩基性触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩も塩基性異性化触媒として使用可能である。
【0020】
異性化触媒の使用量は、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン化合物に対し、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。異性化触媒の使用量が0.1重量%未満の条件では反応速度が遅くなり、10重量%を超える条件では副反応が起きて生成物の純度が低下する。
【0021】
通常、異性化は溶媒の存在下に行われ、溶媒としては、酸触媒や塩基性触媒と反応する官能基を持たなければ特に種類を選ばない。酸触媒を使用する場合は、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、クロルベンゼン、t−ブチルベンゼン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒が好適に使用される。また、塩基性触媒を使用する場合は、上記溶媒以外に、メタノール、エタノール,2−プロパノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、更には、水も使用可能である。特に異性化触媒として、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属塩を用いる場合は、溶媒として水が好適に使用される。
【0022】
なお、芳香族系溶媒を使用する場合は、反応の進行に伴い、1,4−ジヒドロアントラセン−9,1−ジオールの結晶が析出するが、得られた反応混合物は、そのまま次の水素化反応に供してもよいし、また、単離した後に水素化してもよい。
【0023】
溶媒の使用量は、溶媒の種類にもよるが、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン化合物の濃度が5〜25重量%程度になるように調節する。1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン化合物が溶媒に完全に溶解せずにスラリー状となる場合でも反応は問題なく進行する。
【0024】
異性化の反応温度は、通常80〜150℃、好ましくは90〜120℃である。反応温度が80℃未満の条件では、反応の進行が遅くなり、150℃を超える条件では生成物の純度が低下する。
【0025】
(第2反応)
溶媒中、貴金属触媒存在下、第1反応で得られた1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物を水素ガスにより水素化することにより1,2,3,4−テトラヒドロ−9,10−アントラセンジオールを得る。
【0026】
原料の1,4−ジヒドロアントラセンー9,10−ジオール化合物の具体例としては、1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−メチル−1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−クロロ−1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−(4−メチルペンチル)−1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−(4−メチル−3−ペンテニル)−1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール等が挙げられる。
【0027】
溶媒としては、水素化される官能基を持たなければ特に種類を選ばない。特に、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、クロルベンゼン、t−ブチルベンゼン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒が挙げられる。また、反応原料が1,4−ジヒドロアントラセンー9,10−ジオール化合物のナトリウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である場合は、これらが水に可溶であるので水または水と水可溶性溶媒の混合溶媒も反応溶媒として好適に使用される。
【0028】
水素化触媒としては、例えば、パラジウム担持活性炭、パラジウム担持アルミナ、白金担持活性炭、白金担持アルミナ等の白金属(遷移金属)触媒が挙げられる。通常、5%パラジウム担持活性炭が好適に使用される。
【0029】
水素化触媒の使用量は、1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物に対し、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。水素化触媒の使用量が0.01重量%未満の条件では反応速度が遅くなり、10重量%を超える条件では副反応が起きて生成物の純度が低下する。
【0030】
水素化反応の反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜50℃である。反応温度が0℃よりも低い条件では反応の進行が遅くなり、100℃を越える条件では生成物の純度が低下する。
【0031】
水素化反応終了後、窒素雰囲気下に水素化触媒を濾別して除き、濾液を濃縮して、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物を得ることが出来る。
【0032】
(第3反応)
塩基性化合物の存在下又は非存在下、第2反応で得られた1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物またはそのナトリウム塩を塩化アクリロイルもしくは塩化メタアクリロイルと反応させることにより1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物を得る。
【0033】
原料の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物としては、例えば、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−(4−メチルペンチル)−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール、2−(4−メチル−3−ペンテニル)−1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール等が挙げられる。
【0034】
塩基性化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。塩基性化合物の使用量は、1,2,3,4−テトラヒドロ−9,10−アントラセンジオールに対し、通常2.0〜4.5モル倍、好ましくは2.2〜3.6モル倍である。塩基性化合物の使用量が2.0モル倍未満の場合は反応が遅く、また、4.5モル倍を超える場合は副反応が起きて生成物の純度が低下する。
【0035】
通常、第3反応は溶媒の存在下に行われ、溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン化炭素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられれる。
【0036】
1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物に対する塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルの使用量は、通常2〜3モル倍、好ましくは2.2〜2.4モル倍である。反応温度は、通常0〜80℃、好ましくは10〜20℃である。本反応は発熱反応であり、冷却が必要である。反応時間は15〜60分程度である。
【0037】
有機溶媒中で反応を行った場合は、反応終了後、反応液に水を加えて析出した塩酸塩を溶解し、有機分を酢酸エチルで抽出後、有機層を純水で洗浄する。洗浄後の有機層を濃縮して得られるオイル状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー法によって精製して目的物を得ることが出来る。一方、水中で反応を行った場合は、反応終了後、析出した結晶を濾過し、水やメタノールで洗浄することにより目的物を得ることが出来る。
【0038】
また、上記の第1、第2、第3反応は、それぞれの中間体を単離することなく、1つの反応器で行うことも可能である(ワンポット反応)。その場合、最初に、第1反応の異性化触媒、第2反応の水素化触媒および第3反応のアクリル化における塩基性化合物を一緒に仕込むことにより、ワンポット反応を達成することが出来る。また、第1反応の際、異性化触媒として塩基性触媒を使用する場合は、第3反応のアクリル化における塩基性化合物と同じものを使用することが出来る。
【0039】
以下、本発明を、実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。得られた生成物についての諸特性の確認は、次のようにして行った。
【0040】
(1)生成物が固体の場合は、融点測定装置(JIS K0064に準拠した、ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式:MFB−595)による融点測定を行った。
【0041】
(2)赤外線(IR)分光光度計(日本分光社製、型式:IR−810)によるIRスペクトル測定を行った。
【0042】
(3)核磁気共鳴装置(NMR)(日本電子社製、型式:GSX FT NMR Spectrometer)によるH−NMR分析を行った。
【0043】
(4)Massスペクトル測定を行った(島津製作所社製、質量分析計、型式:GCMS−QP5000を使用)。
【0044】
[実施例1]
<1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10―ジアクリレートの合成>
【0045】
(第1反応)
攪拌機、温度計を装備した容量が200mlの耐圧ガラス容器に、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン10g(47.1ミリモル)、メチルピロリドン100ml、トリエチルアミン11.4g(113ミリモル)、ジメチルアミノピリジン0.6g(4.7ミリモル)、パラジウム担持活性炭0.5g(50%wet)を仕込み、窒素置換を行った。100℃に昇温し1時間攪拌を継続して異性化反応を行い、1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール溶液を得た。
【0046】
(第2反応)
上記の第1反応で得られた反応液をそのまま、水素圧0.4MPaで100℃で6時間攪拌を継続して水素化反応を行い、1,2,3,4−テトラヒドロ−9,10−アントラセンジオール溶液を得た。
【0047】
(第3反応)
上記の第2反応で得られた反応液をそのまま、10℃まで冷却し、塩化アクリロイル9.4g(104ミリモル)を加え、室温で1時間攪拌を継続した。このフラスコに酢酸エチル80ml、純水40mlを加え、パラジウム担持活性炭を濾別した後、さらに飽和食塩水50mlを加え、純水50mlで2回、飽和食塩水50mlで1回洗浄操作を行った。そして、純水によって洗浄した後の液から有機層を分離した。分離した有機層を濃縮し、得られた油状物質を、ヘキサン、酢酸エチルを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー法によって精製し、白色結晶の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジアクリレート7.7g(24.0ミリモル)を得た。生成物の1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノンに対する収率は、51mol%であった。なお、第1、第2、第3反応は、ワンポットで行った。
【0048】
生成物について、上記した特性測定を行った結果は次のとおりであり、生成物は、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジアクリレートであることが確認された。
【0049】
(1)融点:151〜152℃。
(2)IRスペクトル(KBr,cm−1):418、761、806、978、1055、1155、1232、1362、1412、1736、2939。
(3)H−NMR(CDCl,ppm):δ1.82(s,4H)、2.76(s,4H)、6.12(dd,J=1Hz,J=11Hz,2H)、6.50(dd,J=11Hz,J=17Hz,2H)、6.75(dd,J=1Hz,J=17Hz,2H)、7.41−7.48(m,2H)、7.67−7.73(m,2H)。
(4)Massスペクトル:(EI−MS)m/z=322(M)。
【0050】
[実施例2]
<1,2,3,4−テトラヒドロアントラセンー9,10−ジメタクリレートの合成>
【0051】
(第1反応)
攪拌機、温度計を装備した容量が500mlの三口フラスコに、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノン66g(311ミリモル)、水酸化ナトリウム25g(622ミリモル)、水209gを仕込み、窒素置換を行った。90℃に昇温し1時間攪拌を継続した。反応液を室温まで冷却して、深赤色の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオールのナトリウム塩水溶液300gを得た。
【0052】
(第2反応)
攪拌機、温度計を装備した容量が300mlの耐圧ガラス容器に、パラジウム担持活性炭8.8g(50%wet)と、上記の第1反応で得られた1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノンのナトリウム塩水溶液200g(22重量%、211ミリモル)を仕込み、水素圧0.5MPaで60℃で1時間、90℃で1時間攪拌を継続した。反応液を室温まで冷却し、窒素雰囲気下でパラジウム担持活性炭を濾別し、深赤色の1,2,3,4−テトラヒドロ−9,10−アントラセンジオールのナトリウム塩水溶液197gを得た。
【0053】
(第3反応)
攪拌機、温度計を装備した容量が100mlの三口フラスコに、上記の第2反応で得られた1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオールのナトリウム塩水溶液20g(15重量%、14.0ミリモル)と純水18ml、アセトニトリル30mlを仕込み、氷浴上で、フラスコの内容物を混合した後、塩化メタクリロイル3.2g(30.3ミリモル)をアセトニトリル5mlに溶解した溶液を添加し、室温で1時間攪拌を継続した。析出した結晶を濾別し、得られた結晶を純水10mlとメタノール10mlとによって洗浄し、白色結晶の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10―ジメタクリレート2.8g(8.1ミリモル)を得た。生成物の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオールに対する収率は、57mol%であった。
【0054】
生成物について、上記した特性測定を行った結果は次のとおりであり、生成物は、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジメタクリレートであることが確認された。
【0055】
(1)融点:182〜184℃。
(2)IRスペクトル(KBr,cm−1):750、1032、1118、1290、1727、2925。
(3)H−NMR(CDCl,ppm):δ1.55−2.86(m,8H)、2.16(s,6H)、5.86(s,2H)、6.53(s,2H)、7.41−7.44(m,2H)、7.66−7.70(m,2H)。
(4)Massスペクトル:(EI−MS)m/z=350(M)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)で示される1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物。
【化1】

(式(1)中、R、Rは、同一であっても異なってもよく、水素原子またはメチル基を示し、Xは、水素原子、アルキル基またはハロゲン原子の何れかを示す。)
【請求項2】
1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物を塩化アクリロイル又は塩化メタアクリロイルと反応させることを特徴とする1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【請求項3】
1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−ジオール化合物が、1,4−ナフトキノンと置換ブタジエンとのディールス・アルダー反応により得られる1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9,10−アントラキノンを異性化し1,4−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオールとした後に水素化して得られたものである、請求項2に記載の1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン−9,10−(メタ)アクリレート化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−169324(P2008−169324A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4624(P2007−4624)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】