説明

1,3−ジオール化合物の製造方法

【課題】 本発明の課題は、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物から、直接的に(一工程で)、高い反応速度、高収率且つ高選択的に1,3−ジオール化合物を与える、1,3−ジオール化合物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、水素源の存在下、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物と水素化分解用触媒とを接触させることを特徴とする、1,3−ジオール化合物の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物を水素化分解して、対応する1,3−ジオール化合物を製造する方法に関する。
【0002】
本発明の水素化分解用触媒によって製造される1,3−ジオール化合物は、例えば、ポリエステル類の原料、溶媒、不凍液や接着剤料の添加剤等として有用な化合物である。
【背景技術】
【0003】
従来、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物を水素化分解して、対応する1,3−ジオール化合物を製造する方法は全く知られておらず、1,3−ジオール化合物を製造する方法としては、例えば、以下の方法が開示されている。
(1)イリジウムをシリカに担持した触媒の存在下、グリセリンを還元することにより1,3−プロパンジオールを得る方法(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
(2)白金、パラジウム、ルテニウム等を含む触媒の存在下、グリセリンを水素化分解することにより1,3−プロパンジオールを得る方法(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−275029号公報
【特許文献2】特開2008−163000号公報
【非特許文献1】Applied.Cat.B.,105(2011)117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記方法(1)では、1,3−プロパンジオールの最大収率での選択率が39.2%と非常に低いだけでなく、反応速度も極めて遅いため、1,3−プロパンジオール収率を30%以上にするには、12時間以上の反応時間を要していた。更に、分離困難な1,2−プロパンジオールが多く副生するという課題もあった。
又、前記方法(2)では、グリセリンの転化率が低いだけでなく、必要とする1,3−プロパンジオールよりも、副生成物である分離困難な1,2−プロパンジオールが優先して生成するという問題があった。
【0006】
これに対して、グリセリン化合物は、例えば、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物と水とを反応させることによって得ることができる。そこで、当該ジオキソラン化合物と水とを反応させてグリセリン化合物を得、前記の方法(1)又は(2)により1,3−ジオール化合物を製造できるとも思われる。
【0007】
しかしながら、この方法は二段階での反応であるために操作が極めて煩雑となり、工程数が増えれば、それだけ収率の低下を招くという蓋然性もあった。又、ふたつの工程によって生じるそれぞれの副生成物を制御・管理する必要があった。従って、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物を水素化分解して、対応する1,3−ジオール化合物を直接的に製造する方法が求められていた。
【0008】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物から、直接的に(一工程で)、高い反応速度、高収率且つ高選択的に1,3−ジオール化合物を与える、1,3−ジオール化合物の製造方法を提供することにある。特に、副生成物である1,2−ジオール化合物を副生させることなく、選択的に1,3−ジオール化合物を製造させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、水素源の存在下、一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基、Zはケト基、チオケト基、メチレン基又はジメチルメチレン基を示す。なお、
【0012】
【化2】

【0013】
は、単結合又は二重結合を示す。)
で示されるヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物と水素化分解用触媒とを接触させることを特徴とする、一般(2)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Rは前記と同義である。)
で示される1,3−ジオール化合物の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物を水素化分解して、高い反応速度で、高収率且つ高選択的に対応する1,3−ジオール化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(水素化分解用触媒)
本発明の水素化分解用触媒は、下記のいずれかの触媒である(以後、触媒1〜3をまとめて水素化分解用触媒と称することもある)。
【0018】
(A)周期表第8族又は9族を含む金属化合物、
及び(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した触媒(以下、触媒1と称することもある)。
【0019】
(A)周期表第8族又は9族を含む金属化合物、
(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
及び(C)酸化ルテニウム化合物、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した触媒(以下、触媒2と称することもある)。
【0020】
(A)周期表第8族又は9族の金属を含む金属化合物、
(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
及び(D)多価酸塩、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した触媒(以下、触媒3と称することもある)。
【0021】
以下、水素化分解用触媒の各構成成分について順次説明する。
【0022】
(A)周期表第8族又は9族を含む金属化合物(以下、単に金属化合物と称することもある)
本発明において使用する周期表第8族又は9族の金属のいずれかを含む金属化合物の金属としては、例えば、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられるが、好ましくはルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、更に好ましくはルテニウム、ロジウム、イリジウムである。
【0023】
前記金属化合物の形態は特に限定されず、例えば、金属単体、金属合金、金属塩、金属錯体、金属酸化物等のいずれの形態であっても良く、水和物や有機化合物の付加体であっても良い。又、担体に担持されていても良い。なお、これらの金属化合物は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0024】
金属化合物の具体的な例としては、例えば、三塩化ルテニウム、三臭化ルテニウム、五塩化ルテニウム二アンモニウム、六塩化ルテニウム三アンモニウム、六塩化ルテニウム二カリウム、六塩化ルテニウム二ナトリウム、六臭化ルテニウム三カリウム、六臭化ルテニウム二カリウム等のルテニウム化合物;二塩化コバルト、二臭化コバルト、二ヨウ化コバルト、二フッ化コバルト、二硝酸コバルト、酸化コバルト、リン酸コバルト、二酢酸コバルト等のコバルト化合物;三塩化ロジウム、六塩化ロジウム三アンモニウム、六塩化ロジウム三カリウム、六塩化ロジウム三ナトリウム、三硝酸ロジウム等のロジウム化合物;三塩化イリジウム、三臭化イリジウム、四塩化イリジウム、四臭化イリジウム、イリジウム酸アンモニウム塩、ヘキサアンミンイリジウム三塩化物、ペンタアンミンクロロイリジウム二塩化物、六塩化イリジウム三アンモニウム、六塩化イリジウム三カリウム、六塩化イリジウム三ナトリウム、四塩化イリジウム二アンモニウム、六塩化イリジウム二アンモニウム、六塩化イリジウム二カリウム、六塩化イリジウム酸、六塩化イリジウム二ナトリウム等のイリジウム化合物が挙げられるが、好ましくは三塩化ルテニウム、二塩化コバルト、三塩化ロジウム、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、六塩化イリジウム酸が使用される。
【0025】
なお、周期表第8族又は9族を含む金属化合物以外にも、周期表第3族〜7族又は第10〜11族の金属のいずれかを含む金属化合物を適宜使用することができる。
【0026】
(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物(以下、単に金属酸化物と称することもある)
本発明において使用する周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物の金属としては、例えば、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム等が挙げられるが、好ましくはバナジウム、モリブデン、タングステン、レニウムである。
【0027】
前記金属酸化物の形態は、ひとつの金属−酸素結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、水和物や有機化合物の付加体であっても良い。又、担体に担持されていても良い。なお、これらの金属酸化物は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0028】
前記金属酸化物としては、酸化金属及び過酸化金属酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好適に使用されるが、その具体的な例としては、例えば、三塩化バナジウム、酸化バナジウム、三酸化二バナジウム、二酸化バナジウム、五酸化二バナジウム、三臭化バナジウム、ピロバナジン酸カリウム、テトラオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム、ピロバナジン酸ナトリウム、トリオキソバナジン(V)酸リチウム等のバナジウム酸化物;ケイモリブデン酸、五塩化モリブデン、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン酸カルシウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸マグネシウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸リチウム、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等のモリブデン酸化物;テトラオキソタングステン(VI)酸ナトリウム、テトラオキソタングステン(VI)酸カドミウム(II)、テトラオキソタングステン(VI)酸カリウム、テトラオキソタングステン(VI)酸カルシウム等;三塩化レニウム、五塩化レニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、六塩化レニウム三カリウム、六塩化レニウム二カリウム、二酸化レニウム、三酸化レニウム、七酸化二レニウム等のレニウム酸化物が挙げられるが、好ましくは五酸化二バナジウム、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム、ピロバナジン酸ナトリウム、テトラオキソタングステン(VI)酸ナトリウム、ケイモリブデン酸、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウムテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、七酸化二レニウムが使用される。
【0029】
(C)酸化ルテニウム化合物
本発明において使用する酸化ルテニウム化合物としては、酸化ルテニウム及び過酸化ルテニウム酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好適に使用される。酸化ルテニウムとしては、例えば、二酸化ルテニウム、三酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム等が挙げられるが、好ましくは四酸化ルテニウムが使用される。過酸化ルテニウム酸塩としては、例えば、過ルテニウム酸カリウム、過ルテニウム酸(テトラプロピルアンモニウム)、過ルテニウム酸(テトラブチルアンモニウム)、テトラオキソルテニウム(VI)酸二カリウム等が挙げられるが、好ましくは過ルテニウム酸カリウム、過ルテニウム酸(テトラプロピルアンモニウム)が使用される。これらの酸化ルテニウム化合物は、水和物や有機化合物の付加体であっても良く、又、担体に担持されていても良い。
【0030】
(D)多価酸塩
本発明において使用する多価酸塩とは、炭酸、硫酸、リン酸、シュウ酸等の2価以上の酸に由来する塩のことをいう。そのような多価酸塩としては、多価無機酸塩であれば、例えば、リン酸三カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸一水素二アンモニウム等のリン酸塩(リン酸水素塩も含む広い意味として);炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩(炭酸水素塩も含む広い意味として);硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の硫酸塩等が挙げられる。又、多価有機酸塩であれば、例えば、シュウ酸ジカリウム、シュウ酸ジナトリウム等の多価有機酸塩が挙げられる。これらの多価酸塩は、水和物や有機化合物の付加体であっても良く、又、担体に担持されていても良い。
【0031】
なお、好適には多価無機酸塩であり、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸一水素二アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、更に好ましくはリン酸三カリウム、リン酸三アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸一水素二アンモニウム、炭酸カリウム、硫酸カリウムが使用される。
【0032】
(触媒1の製造)
【0033】
本発明の触媒1の製造は、金属化合物と金属酸化物とを物理的に混合することによってなされる。
【0034】
より具体的には、金属化合物と金属酸化物とを溶媒(例えば、水等)に加えて溶媒溶液(例えば、水溶液等)とした後、得られた水溶液を、好ましくは60〜200℃、更に好ましくは100〜150℃で加熱攪拌させ混合物を得る。
【0035】
前記混合する際の金属酸化物の使用量は、金属化合物1モルに対して、好ましくは1〜30モル、更に好ましくは0.5〜20モルである。なお、これらの値は、金属原子換算である。
【0036】
得られた混合物は、その後、そのまま還元処理することにより触媒1とすることができる。還元処理においては、水素を発生させることが可能な通常の還元剤を用いて行うことができるが、水素ガスと接触させる方法が好適に採用される。当該混合物と水素ガスとを接触させる際の接触温度は、好ましくは40〜300℃、更に好ましくは50〜200℃であり、接触圧力は、好ましくは1〜12MPa、更に好ましくは4〜8MPaである。
【0037】
前記の還元処理によって得られた触媒1は、例えば、濾過、洗浄する等して一旦単離した後に使用しても、そのまま1,3−ジオール化合物の製造に使用できるが、更に、先に示した酸化ルテニウム化合物(C)及び/又は多価酸塩(D)を混合して、先述の条件にて還元処理することでも水素化分解用触媒として使用することができる。即ち、触媒1に、酸化ルテニウム化合物及び/又は多価酸塩が還元された状態で物理的に混合したものを本発明の水素化分解用触媒とすることができる。
【0038】
その際の酸化ルテニウム化合物又は多価酸塩の使用量は、金属化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜30モル、更に好ましくは0.2〜20モルである
【0039】
(触媒2の製造)
本発明の触媒2の製造においては、まずは金属化合物、酸化ルテニウム化合物及び金属酸化物を混合する。その混合順序は特に限定されないが、金属化合物と酸化ルテニウム化合物とを混合した後、金属酸化物を加える方法が好適に採用される。
【0040】
より具体的には、金属化合物と酸化ルテニウム化合物とを溶媒(例えば、水等)に加えて溶液(例えば、水溶液等)とした後、得られた水溶液を、好ましくは60〜200℃、更に好ましくは100〜150℃で加熱攪拌させ、次いで、金属酸化物を加えて、好ましくは60〜200℃、更に好ましくは100〜150℃で加熱攪拌させて混合物を得る。
【0041】
前記混合する際の酸化ルテニウム化合物の使用量は、金属化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜30モル、更に好ましくは0.2〜20モルである。又、金属酸化物の使用量は、金属化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜30モル、更に好ましくは1〜20モルである。なお、これらの値は、金属原子換算である。
【0042】
得られた混合物は、その後、そのまま還元処理することにより触媒2とすることができる。還元処理においては、水素を発生させることが可能な通常の還元剤を用いて行うことができるが、水素ガスと接触させる方法が好適に採用される。当該混合物と水素ガスとを接触させる際の接触温度は、好ましくは40〜300℃、更に好ましくは50〜200℃であり、接触圧力は、好ましくは1〜12MPa、更に好ましくは4〜8MPaである。
【0043】
前記の還元処理によって得られた触媒2は、例えば、濾過、洗浄する等して一旦単離した後に1,3−ジオール化合物の製造に使用しても、そのまま1,3−ジオール化合物の製造に使用しても良い。
【0044】
(触媒3の製造)
本発明の触媒3の製造においては、まずは金属化合物、多価酸塩及び金属酸化物を混合する。その混合順序は特に限定されないが、金属化合物と多価酸塩とを混合した後、金属酸化物を加える方法が好適に採用される。
【0045】
より具体的には、金属化合物と多価酸塩とを溶媒(例えば、水等)に加えて溶液(例えば、水溶液等)とした後、得られた水溶液を、好ましくは60〜200℃、更に好ましくは100〜150℃で加熱攪拌させ、次いで、金属酸化物を加えて、好ましくは60〜200℃、更に好ましくは100〜150℃で加熱攪拌させて混合物を得る。
【0046】
前記混合する際の多価酸塩の使用量は、金属化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜30モル、更に好ましくは0.2〜20モルである。又、金属酸化物の使用量は、金属化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜30モル、更に好ましくは1〜20モルである。なお、これらの値は、金属原子換算である。
【0047】
得られた混合物は、その後、そのまま還元処理することにより水素化分解用触媒とすることができる。還元処理においては、水素を発生させることが可能な通常の還元剤を用いて行うことができるが、水素ガスと接触させる方法が好適に採用される。当該混合物と水素ガスとを接触させる際の接触温度は、好ましくは40〜300℃、更に好ましくは50〜200℃であり、接触圧力は、好ましくは1〜12MPa、更に好ましくは4〜8MPaである。
【0048】
前記の還元処理によって得られた触媒3は、例えば、濾過、洗浄する等して一旦単離した後に1,3−ジオール化合物の製造に使用しても、そのまま1,3−ジオール化合物の製造に使用しても良い。
【0049】
又、水素化分解用触媒は担体に担持した触媒でも良く、そのような担持触媒は前記の混合物を得る際に担体を存在させることによって製造できる。使用される担体は、多孔質の担体が好適に用いられるが、具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、シリカルミナ(アルミノシリケート)、セリア、マグネシア、カルシア、チタニア、シリカチタニア(チタノシリケート)、ジルコニア、活性炭、ゼオライト、メソ孔体(メソポーラス−アルミナ、メスポーラス−シリカ、メスポーラス−カーボン)等が使用される。なお、これらの担体は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0050】
水素化分解用触媒が担持触媒である場合には、焼成を行った上で使用しても良い。焼成をする場合の温度は、好ましくは50〜800℃、更に好ましくは100〜600℃であり、焼成時間は適宜調整するが、好ましくは0.1〜20時間、更に好ましくは0.25〜15時間である。
【0051】
以上の方法によって得られた水素化分解用触媒は、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物から1,3−ジオール化合物を製造するための触媒となり得る。
【0052】
(1,3−ジオール化合物の製造)
本発明においては、水素源の存在下、一般式(1)
【0053】
【化4】

【0054】
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基、Zはケト基、チオケト基、メチレン基又はジメチルメチレン基を示す。なお、
【0055】
【化5】

【0056】
は、単結合又は二重結合を示す。)
で示されるヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物と水素化分解用触媒(触媒1〜3)とを接触させることを特徴とする、一般式(2)
【0057】
【化6】

【0058】
(式中、R及び
【0059】
【化7】

【0060】
は、前記と同義である。)
で示される1,3−ジオール化合物を製造する。
【0061】
前記の一般式(1)において、Rは水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基であり、具体的には、例えば、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基である。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0062】
又、
【0063】
【化8】

【0064】
は、単結合又は二重結合を示す。
【0065】
一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物としては、具体的には、一般式(1a)〜(1h)
【0066】
【化9】

【0067】
(式中、Rは、前記と同義である。)
で示される化合物が挙げられる。
【0068】
一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物の具体例としては、例えば、4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン(実施例中ではグリセリンカーボネートと表記)、4−(ヒドロキシメチル)−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−エチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−ブチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−ペンチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソル−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−メチル−1,3−ジオキソル−2−オン、5−エチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソル−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−プロピル−1,3−ジオキソル−2−オン、5−ブチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソル−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−ペンチル−1,3−ジオキソル−2−オン、(1,3−ジオキソラン4−イル)メタノール、(5−メチル−1,3−ジオキソラン4−イル)メタノール、(5−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(5−プロピル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(5−ブチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(5−ペンチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(5−メチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(5−エチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(5−プロピル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(5−ブチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(5−ペンチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−チオン、4−(ヒドロキシメチル)−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−チオン、5−エチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−チオン、4−(ヒドロキシメチル)−5−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−チオン、5−ブチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−チオン、4−(ヒドロキシメチル)−5−ペンチル−1,3−ジオキソラン−2−チオン、4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソル−2−チオン、4−(ヒドロキシメチル)−5−メチル−1,3−ジオキソル−2−チオン、5−エチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソル−2−チオン、4−(ヒドロキシメチル)−5−プロピル−1,3−ジオキソル−2−チオン、5−ブチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソル−2−チオン、4−(ヒドロキシメチル)−5−ペンチル−1,3−ジオキソル−2−チオン、(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(2,2,5−トリメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(5−エチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(2,2−ジメチル−5−プロピル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(5−ブチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(2,2−ジメチル−5−ペンチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(2,2,5−トリメチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(5−エチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(2,2−ジメチル−5−プロピル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(5−ブチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、(2,2−ジメチル−5−ペンチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール等が挙げられるが、好ましくは4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−エチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−プロピル−1,3−ジオキソラン2−オン、5−ブチル−4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−(ヒドロキシメチル)−5−ペンチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソル−4−イル)メタノール、更に好ましくは4−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オンが使用される。
【0069】
一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物と水素化分解用触媒とを接触させて得られる1,3−ジオール化合物は、前記の一般式(2)で示される。その一般式(2)において、R及び
【0070】
【化10】

【0071】
は、前記と同義である。
【0072】
一般式(2)で示される1,3−ジオール化合物の具体例としては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,3−ヘプタンジオール、1,3−オークタンジオール等が挙げられるが、好ましくは1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオールであり、更に好ましくは1,3−プロパンジオールである。
【0073】
以下、水素源の存在下、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物と水素化分解触媒とを接触させて1,3−ジオール化合物を製造する反応のことを、本発明の反応と称することもある。
【0074】
本発明の反応をより具体的に説明すると、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物において、ヒドロキシメチル基が結合している炭素と、エーテル基を形成している酸素との結合を切断して、対応する1,3−プロパンジオール化合物を得る反応である。
【0075】
【化11】

【0076】
(式中、R、Z及び
【0077】
【化12】

【0078】
は、前記と同義である。)
【0079】
本発明の反応において使用する水素化分解用触媒の量は、金属化合物の原子換算で、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物1モルに対して、好ましくは0.0005〜0.1モル、更に好ましくは0.001〜0.075モルである。この使用量とすることで、十分な反応速度を得つつ、高収率且つ高選択的にヒドロキシ化合物を得ることができる。なお、水素化分解用触媒は、複数種の触媒を別々に調製して使用しても良い。
【0080】
本発明の反応において使用する水素源とは、水素を提供する化合物ならば特に限定されず、例えば、水素ガス、アンモニアガス等の還元性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈されていても良い);水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ギ酸、酢酸、クロロギ酸等の有機酸類;塩酸、硫酸等の無機酸類が挙げられるが、好ましくは還元性ガス、更に好ましくは水素ガスが使用される。
【0081】
前記水素源の量は、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物1モルに対して、好ましくは5〜200モル、更に好ましくは10〜160モルである。この使用量とすることで、十分な反応速度を得つつ、高収率且つ高選択的に1,3−ジオール化合物を得ることができる。なお、水素化分解用触媒は、複数種の触媒を別々に調製して使用しても良い。
【0082】
本発明の反応は溶媒中で行うのが望ましく、使用する溶媒としては反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロシクロヘキサン等のハロゲン化炭化水素類が挙げられるが、好ましくは炭化水素類、エーテル類、更に好ましくはシクロヘキサン、1,2−ジエトキシエタンである。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0083】
前記溶媒の使用量は、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物1gに対して、好ましくは0.05〜100g、更に好ましくは0.1〜20gである。この使用量とすることで、攪拌が速やかに行われ、反応をスム−ズに進行させることができる。
【0084】
本発明の反応形態は、触媒の形態により回分式(バッチ式)又は連続式のいずれの方法も選択することができる。又、触媒の性質により均一系、不均一系(懸濁反応)のいずれの反応系でも実施でき、担体に担持させた触媒であれば、固定床で連続的に反応を行うこともできる。
【0085】
本発明の反応は、例えば、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物、水素化分解用触媒(系内で調製しても良い)及び溶媒を混合し、水素源の存在下にて、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは25〜200℃、より好ましくは50〜150℃、反応圧力は、水素分圧として、好ましくは常圧〜20MPa、更に好ましくは0.2〜15MPaである。この反応温度、反応圧力とすることで、副生成物を生じさせることなく、高い反応速度で、高収率且つ高選択的に目的物である1,3−ジオール化合物を得ることができる。
【0086】
本発明の反応により、目的とする1,3−ジオール化合物が得られるが、この1,3−ジオール化合物は、反応終了後、得られた反応液から、例えば、濾過、濃縮、抽出、蒸留、昇華、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な操作によって単離・精製することができる。
【実施例】
【0087】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0088】
実施例1(1,3−プロパンジオールの合成)
【0089】
【化13】

【0090】
ガラス製内筒管を備えた内容積50mlのオートクレーブに、四塩化イリジウム(和光純薬社製)51.9mg(0.11mmol)、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム・2水和物(和光純薬社製)42.3mg(0.17mmol)及び5質量%グリセリンカーボネート・1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)を含有する)加え、窒素雰囲気にて、120℃で1時間撹拌した。次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)を備えた注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は98.3%であり、1,3−ペンタンジオールの選択率は25.5%であった。なお、副生成物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは、それぞれ0.3%及び1.3%生成していた。
【0091】
実施例2(1,3−プロパンジオールの合成)
ガラス製内筒管を備えた内容積50mlのオートクレーブに、三塩化イリジウム・n水和物(石津社製、イリジウム含量53%)39.9mg(0.11mmol)、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム・2水和物(和光純薬社製)42.3mg(0.17mmol)及び1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)を入れ、管内を窒素置換後、120℃で1時間加熱撹拌した。次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら160℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は56.5%であり、1,3−プロパンジオールの選択率は57.9%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオールが0.3%生成しており、グリセリンは全く生成していなかった。
【0092】
実施例3(1,3−プロパンジオールの合成)
ガラス製内筒管を備えた内容積50mlのオートクレーブに、三塩化ロジウム・3水和物(和光試薬社製)29.0mg(0.11mmol)、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム(アルドリッチ社製)92.0mg(0.32mmol)及び1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)を入れ、管内を窒素置換後、120℃で1時間加熱撹拌した。次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は100%であり、1,3−プロパンジオールの選択率は75.7%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオールは生成しておらず、グリセリンが22.7%生成していた。
【0093】
実施例4(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例3において、反応時間を2時間から1時間にしたこと以外は、実施例3と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は49.1%、1,3−プロパンジオールの選択率は87.5%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは、全く生成していなかった。
【0094】
比較例1(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例3において、1,2−ジエトキシエタンを水に代え、反応温度を180℃から120℃にしたこと以外は、実施例3と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は47.6%で、1,3−プロパンジオールは全く生成しなかった。なお、副生物であるグリセリンが95.4%で生成していた。
【0095】
実施例5(1,3−プロパンジオールの合成)
シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)1.5gに四塩化イリジウム(和光純薬製99.5%)0.104g(0.31mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液で含侵させ、110℃で12時間乾燥した。この粉体にテトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム・4水和物(和光純薬社製)0.055g(0.044mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した後、更に500℃で3.5時間焼成し、イリジウムが4%、モリブデンが2%担持した固体(以下、「Ir−Mo/SiO」と称することもある)を得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Ir−Mo/SiO」を25mgと1,2−ジエトキシエタン2.50gを加えたものを水素で8MPaまで加圧したした後、200℃で1時間加熱撹拌した。これを一旦室温まで冷却し、水素を放圧した後、1,2−ジエトキシエタン溶液2.50g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)を入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら200℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は5.4%、1,3−プロパンジオールの選択率は42.1%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0096】
実施例6(1,3−プロパンジオールの合成)
シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)1.5gに六塩化イリジウム酸・6水和物(HIrCl・6HO;和光純薬製)0.61g(0.31mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液で含侵させ、110℃で12時間乾燥した。得られた粉体物にテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム0.086g(0.32mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した後、更に500℃で3.5時間焼成し、イリジウムが4%、レニウムが4%担持した固体(以下、「Ir−Re/SiO」と称することもある)を得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Ir−Re/SiO」25mgと1,2−ジエトキシエタン2.50gを加えたものを水素で8MPaまで加圧したした後、200℃で1時間加熱撹拌した。これを一旦室温まで冷却し、水素を放圧した後、1,2−ジエトキシエタン溶液2.50g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)を入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は7.7%、1,3−プロパンジオールの選択率は65.5%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0097】
実施例7(1,3−プロパンジオールの合成)
シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)1.5gに三塩化ロジウム・3水和物(添川理化学株式会社製)0.154g(0.58mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した。得られた粉体物にテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム(アルドリッチ社製)0.078g(0.29mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した後、更に500℃で3.5時間焼成し、ロジウムが4%、レニウムが3.6%担持した固体(以下、「Rh−Re/SiO」と称することもある)を得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Rh−Re/SiO」25mgと、1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)を入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は19.6%、1,3−プロパンジオールの選択率は97.5%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0098】
実施例8(1,3−プロパンジオールの合成)
シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)1.5gに三塩化ルテニウム・n水和物(和光純薬社製)0.123g(0.59mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した。得られた粉体物にテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム(アルドリッチ社製)0.0259g(0.1mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した後、更に500℃で3.5時間焼成し、ルテニウムが4%、レニウムが1.2%担持した固体(以下、「Ru−Re/SiO」と称することもある)を得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Ru−Re/SiO」25mgと、1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)を入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は41.0%、1,3−プロパンジオールの選択率は50.2%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0099】
比較例2(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例7で使用したテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウムを使用しないこと以外は、実施例7同様にして触媒調製を行い、ロジウムが4%担持した固体(以下、「Rh/SiO」と称することもある)を得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Rh/SiO」25mgを用いたこと以外は、実施例7と同様に反応を行ったところ、グリセリンカーボネートの転化率は7.7%、1,3−プロパンジオール及び副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは、全く生成していなかった。
【0100】
実施例9(1,3−プロパンジオールの合成)
5%Rh/C(エヌイーケムキャット社製、51.7%含水品)0.30gにテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム(アルドリッチ社製)0.0093g(0.035mmol)を水0.25gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥し、ロジウムが5%、レニウムが4.5%担持した固体(以下、「Rh−Re/C」と称することもある)を得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Rh−Re/C」25mgと1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)とを加え、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は97.8%、1,3−プロパンジオールの選択率は80.7%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0101】
実施例10(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例9において、反応温度を180℃から160℃に下げたこと以外は、実施例9と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は44.0%、1,3−プロパンジオール選択率は89.7%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0102】
実施例11(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例7において、反応温度を180℃から200℃に上げ、溶媒を1,2−ジエトキシエタンから1,2−ジクロロエタンに代えたこと以外は、実施例7と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は5.2%、1,3−プロパンジオールの選択率は63.2%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0103】
実施例12(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例9において、反応温度を180℃から160℃に下げ、溶媒を1,2−ジエトキシエタンからテトラヒドロフランに代えたこと以外は、実施例9と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は35.1%、1,3−プロパンジオールの選択率は75.3%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0104】
実施例13(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例12において、反応温度を160℃から200℃に上げたこと以外は、実施例12と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は43.7%、1,3−プロパンジオールの選択率は63.4%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0105】
実施例14(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例7において、溶媒を1,2−ジエトキシエタンから1,2−ジメトキシエタンに代えたこと以外は、実施例7と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は10.4%、1,3−プロパンジオール選択率は95.2%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0106】
実施例15(1,3−プロパンジオールの合成)
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、実施例7と同様の方法で調製した「Rh−Re/SiO」0.10gと、グリセリンカーボネート1.00g(8.47mol)を入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は48.7%、1,3−プロパンジオールの選択率は67.9%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0107】
比較例3(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例7において、反応温度を180℃から120℃に下げ、溶媒を1,2−ジエトキシエタンから水に代えたこと以外は、実施例7と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は22.7%であり、1,3−プロパンジオールは全く生成していなかった。なお、副生物であるグリセリンは23.6%生成していた。
【0108】
実施例16(1,3−プロパンジオールの合成)
シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)1.5gに三塩化ロジウム・3水和物(添川理化学株式会社製)0.154g(0.58mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した。得られた粉体物を、500℃で3.5時間焼成し、ロジウムが4%担持した固体(以下、「Rh/SiO」と称することもある)を得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Rh/SiO」0.10g、七酸化二レニウム1.9mg(0.004mmol)及びグリセリンカーボネート1.00g(8.47mol)を入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は46.7%、1,3−プロパンジオールの選択率は69.1%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0109】
実施例17(1,3−プロパンジオールの合成)
実施例16において、七酸化二レニウムの代わりにテトラオキソレニウム酸アンモニウム1.9mg(0.007mmol)を用いたこと以外は、実施例16と同様に反応を行った。その結果、グリセリンカーボネートの転化率は43.5%、1,3−プロパンジオールの選択率は70.3%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは全く生成していなかった。
【0110】
実施例18(1,3−プロパンジオールの合成)
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、四塩化イリジウム13.9mg(0.04mmol)、炭酸アンモニウム4.0mg(0.04mmol)、七酸化二レニウム10.1mg(0.02mmol)及び水2mlを加え、120℃で30分間加熱攪拌した。これを室温まで冷却後、シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)0.2gを加え、60℃で減圧濃縮後、残渣を60℃で8時間減圧乾燥して灰色粉体(以下、「Ir−CO−Re/SiO」と称することもある)0.21gを得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Ir−CO−Re/SiO」25mgと1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間加反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は39.9%、1,3−プロパンジオールの選択率は65.5%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは、全く生成していなかった。
【0111】
実施例19(1,3−プロパンジオールの合成)
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、四塩化イリジウム13.9mg(0.04mmol)、過ルテニウム酸カリウム8.5mg(0.04mmol)、七酸化二レニウム10.1mg(0.02mmol)及び水2mlを加え、120℃で、30分間加熱攪拌した。これを室温まで冷却後、シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)0.2gを加え、60℃で減圧濃縮後、濃縮物を60℃で8時間減圧乾燥して灰色粉体(以下、「Ir−Ru−Re/SiO」と称することもある)0.21gを得た。
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、先に得られた「Ir−Ru−Re/SiO」25mgと1,2−ジエトキシエタン溶液5.00g(グリセリンカーボネート0.250g(2.12mol)含有)入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンカーボネートの転化率は71.0%、1,3−プロパンジオールの選択率は62.2%であった。なお、副生物である1,2−プロパンジオール及びグリセリンは、全く生成していなかった。
【0112】
実施例20(1,3−プロパンジオールの合成)
【0113】
【化14】

【0114】
50mlのガラス製内筒管を備えたオートクレーブに、実施例7で得られた「Rh−Re/SiO」25mgと、(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール0.25g(1.89mol)を含有した1,2−ジエトキシエタン溶液5.00gを入れ、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、攪拌しながら180℃で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。
得られた濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノールの転化率は13.3%、1,3−プロパンジオールの選択率は12.3%であった。なお、副生物であるグリセリンが81.0%生成していた。
【0115】
以上の結果より、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物から、高い反応速度で、高収率且つ高選択的に1,3−ジオール化合物を与えることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明により、ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物を水素化分解して、高い反応速度で、高収率且つ高選択的に対応する1,3−ジオール化合物を与えることができる。得られた1,3−ジオール化合物は、例えば、ポリエステル類の原料、溶媒、不凍液や接着剤料の添加剤等として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素源の存在下、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基、Zはケト基、チオケト基、メチレン基又はジメチルメチレン基を示す。なお、
【化2】

は、単結合又は二重結合を示す。)
で示されるヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物と水素化分解用触媒とを接触させることを特徴とする、一般(2)
【化3】

で示される1,3−ジオール化合物の製造方法。
【請求項2】
水素化分解用触媒が、
(A)周期表第8族又は9族を含む金属化合物、
及び(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した触媒である請求項1記載の1,3−ジオール化合物の製造方法。
【請求項3】
水素化分解用触媒が、
(A)周期表第8族又は9族を含む金属化合物、
及び(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した後、更に、
(C)酸化ルテニウム化合物、
を混合して得られた混合物を還元処理した触媒である請求項2記載の1,3−ジオール化合物の製造方法。
【請求項4】
水素化分解用触媒が、
(A)周期表第8族又は9族を含む金属化合物、
及び(C)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した後、更に、
(D)多価酸塩、
を混合して得られた混合物を還元処理した触媒である請求項2記載の1,3−ジオール化合物の製造方法。
【請求項5】
水素化分解用触媒が、
(A)周期表第8族又は9族を含む金属化合物、
(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
及び(C)酸化ルテニウム化合物、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した触媒である請求項1記載の1,3−ジオール化合物の製造方法。
【請求項6】
水素化分解用触媒が、
(A)周期表第8族又は9族の金属を含む金属化合物、
(B)周期表第5族、6族又は7族の金属を含む金属酸化物、
及び(D)多価酸塩、
を混合した後、得られた混合物を還元処理した触媒である請求項1記載の1,3−ジオール化合物の製造方法。
【請求項7】
ヒドロキシメチル基を有するジオキソラン化合物が一般式(1a)〜(1h)
【化4】

(式中、Rは、前記と同義である。)
で示される化合物である請求項1記載の1,3−ジオール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2013−67598(P2013−67598A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209161(P2011−209161)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】