説明

1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの製造方法

【課題】ポリイミドなどの高耐熱性高分子の原料として有用な高純度の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを製造するための低コストで工業的に有利な方法を提供する。
【解決手段】下記式(式中、Xはアミノ基またはアシルアミノ基を示し、Yは水素またはアルカリ金属原子を示す。)で表わされる2,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、2,4−ビス(3−アシルアミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、あるいはそれらのアルカリ金属塩を硫酸中で加熱して、スルホン酸基および、アシル基がある場合にはそのアシル基を脱離させることを特徴とする1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンはポリイミドなどの高耐熱性高分子の原料として有用な化合物であり、特にこれを用いて得られるポリイミドは広く用いられているビス(4−アミノフェニル)エーテルなどを用いて得られるポリイミドに比べてガラス転位温度が低くなる傾向があり、したがって金属などへの接着性能に優れる事が、接着性ポリイミドとして有用である(特許文献1参照)。
【0003】
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの製造方法としてはアルカリの存在下に1,3−ジブロモベンゼンと3−アミノフェノールとを反応させる方法(特許文献2参照)や、アルカリの存在下にレゾルシノールと3−ブロモアニリンとを反応させる方法(特許文献3参照)が知られているが、反応性が低いため収率はそれぞれ65%と58%に過ぎず、工業的な方法とは言いがたかった。
【0004】
また、アルカリの存在下に1,3−ジフルオロベンゼンと3−アミノフェノールとを反応させる方法(特許文献4、および特許文献5参照)が提案されているが、200℃以上の高温と長い反応時間を必要とし、しかも分離し難い副産物の生成を伴うため繁雑な精製操作が必要であった。
【0005】
一方、アルカリの存在下に1,3,5−トリクロロベンゼンと3−アミノフェノールを反応させて得られる1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−クロロベンゼンをアルカリの存在下に還元処理を行うことにより塩素原子を水素原子に置換する方法が知られている(特許文献6、7、8)が、この方法においても分離し難い副産物の生成を伴うため、塩酸塩精製(特許文献6)、蒸留(特許文献7、8)などの繁雑な精製工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−143477号公報
【特許文献2】米国特許第4222962号
【特許文献3】PCT国際出願WO92/12118号公報
【特許文献4】特開2003−267935号公報
【特許文献5】特開2006−28081号公報
【特許文献6】特開昭60−87247号公報
【特許文献7】特開平3−255058号公報
【特許文献8】特開平4−154746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高純度の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを製造するための低コストで工業的に有利な方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは1,3−ジハロゲノベンゼンのスルホン化生成物である2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸あるいは2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸塩をアルカリの存在下に3−アセトアミノフェノールまたは3−アミノフェノールと反応させて容易に得られる2,4−ビス(3−アセトアミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸塩または2,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸塩よりスルホン酸基及びアセチル基を脱離させることにより、高純度の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンが得られることに着目して本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は一般式(1)
【化1】

(1)
(式中、Xはアミノ基またはアシルアミノ基を示す。Yは水素原子またはアルカリ金属原子を示す。)
で表される2,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、2,4−ビス(3−アシルアミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、あるいはそれらのアルカリ金属塩からスルホン酸基、およびアシル基がある場合にはそのアシル基を脱離させることを特徴とする下記構造式(2)
【化2】

(2)
で表される1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
既知の方法に比べて安価な原料を出発原料とし、繁雑な精製工程を必要としない高純度の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の原料として使用される2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸OLE_LINK3あるいは2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩は、OLE_LINK3いかなる方法で製造されたものであってもよい。アルカリ金属塩としてはナトリウム塩やカリウム塩が好ましい。
【0012】
本発明の方法に用いることができる2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸には、2,4-ジフルオロベンゼンスルホン酸、2,4-ジクロロベンゼンスルホン酸、2,4-ジブロモベンゼンスルホン酸、および2,4-ジヨードベンゼンスルホン酸があるが、好ましくは2,4-ジフルオロベンゼンスルホン酸または2,4-ジクロロベンゼンスルホン酸が良い。
【0013】
本発明で用いられるm−アシルアミノフェノールあるいはm−アミノフェノールは予めアルカリ金属塩としてから2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸あるいは2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩と反応させてもよく、また反応器にm−アシルアミノフェノールあるいはm−アミノフェノールとアルカリ剤、2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸あるいは2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩等を一括仕込みして反応させてもよい。
【0014】
本発明の方法に用いることができるアルカリ剤としては、水酸化アルカリまたは炭酸アルカリがあり、具体的には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム,炭酸カリウムなどがある。
【0015】
m−アシルアミノフェノールあるいはm−アミノフェノールの使用量は2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸あるいは2,4−ジハロゲノベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩1モルに対し通常2倍モル、好ましくは2.1〜3.0モルで使用するのがよい。
【0016】
本発明の方法に用いることができる溶媒としては非プロトン性極性溶媒が挙げられ、具体的にはジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、ヘキサメチルホスホルトリアミド(HMPA)などを用いることができる。
【0017】
溶媒の使用量は特に制限はないが、m−アセトアミノフェノールあるいはm−アミノフェノールの使用量に対し通常1〜20質量倍、好ましくは3〜10質量倍で使用するのがよい。
【0018】
本発明の方法を実施するには、反応系にトルエン、キシレンなどを共存させて反応中に生成する水を共沸により除去するのがより好ましい。
【0019】
トルエンやキシレンの使用量は共沸脱水できればよく、また反応温度によっても異なってくるため特に制限はないが、使用する溶媒に対して通常0.05〜1質量倍、好ましくは0.05〜0.5質量倍で使用するのがよい。
【0020】
反応は120℃ないし220℃の範囲で行うことができるが、好ましくは140℃ないし200℃の範囲で行うのが良く、より好ましくは160℃ないし180℃の範囲で行うのが良い。
【0021】
加水分解における硫酸濃度は55%〜70%の範囲で行うのがよく、より好ましくは硫酸濃度62%〜65%である。硫酸濃度が低いと加水分解の速度が遅く硫酸濃度が高いと硫酸酸化がおこり望ましくない。
【0022】
加水分解における反応温度は100℃〜130℃であり、それぞれの硫酸濃度の還流温度に対応する。
【0023】
[実施例]
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これによってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
攪拌機、温度計、冷却管を備えたディーン・スタークトラップ付き300mLフラスコに2,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム18.0g(0.065モル)、m−アセトアミノフェノール29.1g(0.174モル)、水酸化カリウム(純度85%)11.6g(0.176モル)、炭酸カリウム5.0g(0.036モル)、NMP100g、トルエン43g、水15gを仕込み、水およびトルエンを回収しつつ150〜180℃で31時間反応させた。反応後、減圧蒸留により溶剤を回収して2,4−ビス(3−アセトアミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む蒸留残渣を得た。
この蒸留残渣に62.5%硫酸100.0g(0.637モル)を仕込み122〜126℃で26時間反応し、スルホン酸基とアセチル基を同時に脱離させた。反応液を25℃まで冷却し、水40.0gを加え、36%塩酸80.0g(0.790モル)を1時間で滴下し、さらに5℃まで冷却して濾過し、LC純度92.1%の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの塩酸塩50.1g・wetを得た。
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの塩酸塩50.1g・wetに19.0wt%水酸化ナトリウム水溶液100.0g(0.475モル)を加えて室温で1時間攪拌した。濾過してケーキを取り出し、このケーキに3.0wt%水酸化ナトリウム水溶液100.0g(0.075モル)を加えて室温で1時間攪拌し濾過した。ケーキを水100.0gでスラリー洗浄して濾過し乾燥してLC純度98.8%の粗1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン9.8gを得た。2,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウムを基準とした縮合、脱スルホン化、および加水分解反応の通算収率46.4%。
粗1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン9.8gにトルエン36g、5.0%水酸化ナトリウム水溶液56.0g(0.070モル)を加え75℃まで昇温して15分加熱攪拌した。静置して下層の水層を除去し、上層のトルエン層を5.0wt%水酸化ナトリウム水溶液10.0g(0.012モル)で2回アルカリ水洗浄を行った後、水10gで5回洗浄した。トルエン層46.0gに活性炭1.0g・wetを加え室温で15分攪拌後、濾過した。濾液が25.0gになるまで濃縮し濾過乾燥してLC純度99.5%の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン8.5gを得た。精製収率86.7%。融点107〜108℃。OLE_LINK2
OLE_LINK2
【実施例2】
【0025】
攪拌機、温度計、冷却管を備えたディーン・スタークトラップ付き300mLフラスコにm−アセトアミノフェノール29.1g(0.174モル)、水酸化カリウム(純度85%)11.6g(0.176モル)、NMP100g、トルエン43g、水15gを仕込み、120℃から150℃で脱水し水21gを回収した。一旦100℃まで冷却し2,4−ジフルオロベンゼンスルホンナトリウム14.1g(0.065モル)を仕込み、水およびトルエンを回収しつつ150〜185で35時間反応させた。反応後、減圧蒸留により溶剤を回収して、蒸留残渣としてLC純度69.5%の2,4−ビス(3−アセトアミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム78.0gを得た。
この蒸留残渣に62.5%硫酸100.0g(0.637モル)を仕込み、122〜125℃で14時間反応させてスルホン酸基およびアセチル基を同時に脱離した後実施例と同様に処理し、乾燥してLC純度99.5%の粗1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン15.4gを得た。2,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸ナトリウムを基準とした縮合、脱スルホン化、および加水分解反応の通算収率73.0%。
実施例1と同様に精製し、乾燥してLC純度99.6%の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン12.6gを得た。精製収率81.8%。融点105〜106℃。
【実施例3】
【0026】
m−アセトアミノフェノールの代わりにm−アミノフェノール19.1g(0.174モル)を用いたほかは実施例1と同様にし、150〜180℃で31時間反応させた。反応後、減圧蒸留により蒸留残渣としてLC純度53.5%の2,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム84.0gを得た。
この蒸留残渣に60.4%硫酸138.2g(0.851モル)を仕込み、106〜119℃で25時間反応させてスルホン酸基を脱離させた後、実施例1と同様に処理し、乾燥してLC純度99.2%の粗1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン8.5gを得た。2,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウムを基準とした縮合、脱スルホン化、および加水分解反応の通算収率40.3%。
さらに、実施例1と同様に精製し、乾燥してLC純度99.6%の1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン6.7gを得た。精製収率78.8%。融点105〜106℃。
(比較例1)
【0027】
攪拌機、温度計、窒素導入管、冷却管を備えたディーン・スタークトラップ付き100mLフラスコにm−アミノフェノール12.0g(0.174モル)、水酸化カリウム(純度88%)7.3g(0.115モル)、NMP50g、トルエン6g、水10gを仕込んだ。窒素気流下170℃まで昇温して水13g、トルエン6gを回収した。一旦160℃まで冷却後、m-ジクロロベンゼン7.4g(0.050モル)を仕込み段階的に温度を上げ185℃で20時間、195℃で7時間反応させた。GC分析の結果、m-ジクロロベンゼン0.5%、m−アミノフェノール14.1%、3−アミノ−3’−クロロジフェニルエーテル45.0%、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン7.5%であった。この結果はスルホン酸基の活性化効果を明らかに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(1)
(式中、Xはアミノ基またはアシルアミノ基を示す。Yは水素またはアルカリ金属原子を示す。)
で表される2,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、2,4−ビス(3−アシルアミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、あるいはそれらのアルカリ金属塩からスルホン酸基および、アシル基がある場合にはそのアシル基を脱離させることを特徴とする下記構造式(2)
【化2】

(2)
で表される1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンの製造方法。
【請求項2】
2,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、2,4−ビス(3−アシルアミノフェノキシ)ベンゼンスルホン酸、あるいはそれらのアルカリ金属塩を硫酸中で加熱することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アシルアミノ基がアセトアミノ基であることを特徴とする請求項1および2に記載の方法。

【公開番号】特開2010−159233(P2010−159233A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3502(P2009−3502)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(391029462)和歌山精化工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】