説明

1,3−ブタジエンの二量化方法及び4−ビニルシクロヘキセンの製造方法

【課題】より高選択率、高収率な1,3−ブタジエンの環化二量化方法、及び、4−ビニルシクロヘキセンの製造方法を提供する。これにより、例えばC4留分のような混合物をそのまま使用できる反応系を提供する。
【解決手段】本発明の一手段に係る1,3−ブタジエンの二量化方法は、密閉容器又は高圧流通反応容器の中で、1,3−ブタジエンを160℃以上250℃以下の範囲内で加熱することを特徴とする。また本発明の多の一手段に係る4−ビニルシクロヘキセンの製造方法は、密閉容器又は高圧流通反応容器の中で、1,3−ブタジエンを160℃以上250℃以下の範囲内で加熱することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルベンゼンやスチレンの製造原料として有用な1,3−ブタジエンの二量化方法及び4−ビニルシクロヘキセンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−ビニルシクロヘキセンは、エチルベンゼンやスチレンの製造原料として有用であり、1,3−ブタジエンの環化二量化による4−ビニルシクロヘキセンを製造する方法が、例えば下記特許文献1乃至7に提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、トリス(アセチルアセトナート)鉄などの鉄化合物、エチレンビス(ジフェニルホスフィン)などのリン化合物、および、トリエチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウムからなる3元触媒系が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、一価の銅化合物と酸性有機化合物との組み合わせからなる触媒が提案されている。なおこの触媒は約130℃の高温でも使用できるため熱安定性に優れている。
【0005】
また、下記特許文献3には、鉄ペンタカルボニルなどの鉄カルボニルと一酸化窒素などのニトロシル化剤とからなる2元触媒系が提案されている。
【0006】
また、下記特許文献4には、ニトロシルトリカルボニル鉄(I)ナトリウムなどと臭化ジニトロシルコバルトなどとからなる2元触媒系が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献5には、塩化ジニトロシル鉄とスズなどの還元剤を含む2元触媒系あるいは3元触媒系が提案されている。
【0008】
また、下記特許文献6には、触媒として二価の銅化合物および芳香族カルボン酸の存在下で、160℃〜210℃で加熱することで、90%選択率・73%収率で4−ビニルシクロヘキセンを得られることが述べられている。さらに、下記特許文献7には、銅イオンで交換したゼオライトを触媒として、反応温度70〜190℃、プロセス圧力7〜70気圧の範囲で、流通操作で1,3−ブタジエンから4−ビニルシクロヘキセン生成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭44−29451号公報
【特許文献2】特開昭47−17734号公報
【特許文献3】特公昭49−47737号公報
【特許文献4】特開昭49−93337号公報
【特許文献5】米国特許第4144278号明細書
【特許文献6】特開平7−48289号公報
【特許文献7】特表平8−504758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、目的物である4−ビニルシクロヘキセンの選択率が低いといった課題がある。これは工業生産上において大きな問題点となっている。
【0011】
また、上記特許文献2に記載の技術は、高価な一価の銅化合物を多量に用いる必要があるため、工業生産上、充分な触媒性能を確保するのは非常に難しい。
【0012】
また、上記特許文献3、4に記載の技術は、確かに高い触媒活性を有する長所があるが、反応を−20℃以下の低温で開始しなければならないなど熱安定性に問題がある。
【0013】
また上記特許文献5に記載の技術は、触媒系の熱安定性がかなり改良されているものの、反応を約60℃以下で行う必要があり、触媒を回収、再使用するのに充分な熱安定性を有しているとは言い難い。
【0014】
また上記特許文献6,7に記載の技術では、4−ビニルシクロヘキセン速度が数百時間で半減し、触媒が活性劣化することが知られている。
【0015】
そこで、本発明は、触媒が有する上述の問題点を解決して、より効率のよい1,3−ブタジエンの環化二量化方法、及び、4−ビニルシクロヘキセンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する第一の観点に係る1,3−ブタジエンの二量化方法は、耐圧密閉容器又は高圧流通反応容器の中で、1,3−ブタジエンを160℃以上250℃以下の範囲内で加熱することを特徴とする。
【0017】
また、上記課題を解決する第二の観点に係る4−ビニルシクロヘキセンの製造方法は、耐圧密閉容器又は高圧流通反応容器の中で、1,3−ブタジエンを160℃以上250℃以下の範囲内で加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上、本発明によると、より高選択率、高収率な1,3−ブタジエンの環化二量化方法、及び、4−ビニルシクロヘキセンの製造方法を提供することができる。これにより、例えばC4留分のような混合物をそのまま使用できる反応系を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ狭く限定されるものではない。
【0020】
本実施形態に係る4−ビニルシクロヘキセン製造方法(以下「本製造方法」という。)は、耐圧密閉容器又は高圧流通反応容器の中で、1,3−ブタジエンを160℃以上250℃以下の範囲内で加熱することにより、1,3−ブタジエンを環化二量化する。
【0021】
本製造方法は、密閉容器又は高圧流通反応容器内において行われる。密閉容器又は高圧流通反応容器を用いるのは、本製造方法が液相において非常に効率よく行なわれることに由来するものであり、できる限り閉じた系で反応を行なわせることで、液体状態を残し、反応させるためである。この場合において、限定されるわけではないが、反応圧力は、10気圧以上100気圧以下であることが好ましい。
【0022】
また本製造方法は、上記密閉容器又は高圧流通反応容器内において、160℃以上250℃以下の範囲内において反応を行なわせる。より好ましくは170℃以上220℃以下である。160℃以上とすることで反応速度の著しい低下を防止することができ、170℃以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、250℃以下とすることで高い選択率を維持することができ、220℃以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0023】
また本製造方法の反応時間としては、限定されるわけではないが、上記温度範囲内において30分以上10時間以内であることが好ましく、より好ましくは1時間以上8時間以内である。
【0024】
また本製造方法の反応は回分式で行なうこともでき、連続式で行なうこともできる。反応混合物からの4−ビニルシクロヘキセンの分離・精製法としては、蒸留法が普通に採用される。
【0025】
本製造方法において、反応溶媒は用いない方が好ましいが、用いる場合、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素や、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族炭化水素や、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等、反応条件下において安定な化合物を用いることができる。また、これらの化合物を溶媒として混合して用いる場合、その使用量は、1,3−ブタジエンに対し、通常20重量倍以下で用いるのが好ましい。
【0026】
また本製造方法において、重合禁止剤は用いない方が好ましいが、用いる場合、原料である1,3−ブタジエンや目的物である4−ビニルシクロヘキセンの重合を抑制するため、例えばハイドロキノン、t−ブチルカテコール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどの重合禁止剤を加えて反応を行ってもよい。その際、重合禁止剤の使用量は、1,3−ブタジエンに対し100以上1000ppmの割合が一般的である。
【0027】
以上、本製造方法により、触媒が有する上述の問題点を解決して、高収率、高選択率の1,3−ブタジエンの環化二量化方法、及び、4−ビニルシクロヘキセンの製造方法を提供することができる。すなわち、1,3−ブタジエンから4−ビニルシクロヘキセンを製造する製造において、高選択率・高収率で4−ビニルシクロヘキセンを得られ、またC4留分のような混合物をそのまま使用できる反応系を提供することができる。
【実施例】
【0028】
以下、上記実施形態に係る発明の効果について、実施例を挙げて説明するが、上記したとおり、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、原料の1,3−ブタジエンは、試薬で購入したものを使用した。
【0029】
(実施例1)
耐圧ステンレス製オートクレーブに装着できる内容積20mlのパーフルオロポリエーテル製の内筒容器を−5℃に冷却し、5.5gの1,3−ブタジエンを充填し、密封した。そしてこの1,3−ブタジエンを充填した内筒容器をオートクレーブに装着し、オートクレーブを200℃の恒温槽に入れ、反応させた。反応時間2時間の後、オートクレーブを0℃まで冷却し、反応混合物をデカンで希釈し、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率(いずれも1,3−ブタジエン基準、以下の実施例において同じ)は各々59.5%、90.6%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが4.3%の収率で生成していることが確認できた。
【0030】
(実施例2)
実施例1において、1,3−ブタジエンの充填量を3.0gとした以外は実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々52.2%、90.6%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが3.3%の収率で生成していることが確認できた。
【0031】
(実施例3)
実施例1において、1,3−ブタジエン充填量を8.0gとした以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々67.2%、90.0%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが5.4%の収率で生成していることが確認できた。
【0032】
(実施例4)
実施例1において、200℃での放置時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々67.1%、90.5%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが4.9%の収率で生成していることが確認できた。
【0033】
(実施例5)
実施例1において、200℃での放置時間を6時間とした以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々69.7%、91.2%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが4.7%の収率で生成していることが確認できた。
【0034】
(実施例6)
実施例1において、反応温度を215℃とした以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々68.1%、88.8%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが5.9%の収率で生成した。
【0035】
(実施例7)
実施例1において、反応温度を175℃、反応時間を6時間とした以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々62.7%、90.2%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが3.3%の収率で生成し、ジビニルシクロブタンが1.5%の収率で生成していることが確認できた。
【0036】
(実施例8)
実施例7において、1,3−ブタジエン充填量を10.0gとした以外は、実施例7と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々66.5%、91.5%であった。また、副生成物として、シクロオクタジエンが4.3%の収率で生成していることが確認できた。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、1,3−ブタジエン充填量を1.7gとした以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々17.1%、90.8%であった。このとき、使用した1.5gの1,3−ブタジエンは、反応条件下ですべて気化するため高圧気体として容器に充満しているが、この条件では二量化反応は効率よく進行しないことがわかる。したがって、反応条件下で液相が存在している上記実施例と比較すると、本件の二量化反応は液相中で進行していることが推察される。すなわち、液体を残して行わせることが有用であることが確認できた。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、触媒としてゼオライト0.10gを加えてオートクレーブに充填した以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々53.1%、72.5%であった。三量体以上のオレゴマーが生成したため、ゼオライト触媒の使用により選択率が低下した。本条件下で、活性の高い触媒を用いると、活性な触媒による副反応を制御できず、目的物の収率が低下してしまったことがわかる。
【0039】
(比較例3)
実施例2において、溶媒としてテトラヒドロフラン3.0gを加えてオートクレーブに充填した以外は実施例2と同様にして反応及び分析を行った。実施例2と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々56.5%、91.3%であった。溶媒を用いないで同じ体積の1,3−ブタジエンを充填した実施例1と比較して、収率が低いことが確認できた。
【0040】
(比較例4)
実施例2において、溶媒としてn−ヘキサン3.0gを加えてオートクレーブに充填した以外は実施例2と同様にして反応及び分析を行った。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々54.4%、88.7%であった。溶媒を用いないで同じ体積の1,3−ブタジエンを充填した実施例1と比較して、収率が低いことが分かった。また、1,3−ブタジエンを充填体積の大きい実施例3では、溶媒の使用は液相中での反応物の1,3−ブタジエンの分子同士の接触確率を低下させるため、収率を低下させると考えられる。したがって、無溶媒で反応を行う方が収率を高くできることがわかる。
【0041】
(比較例5)
実施例1において、反応温度を150℃、反応時間を6時間とした以外は、実施例1と同様にして反応および分析を行なった。その結果、4−ビニルシクロヘキセンの収率および選択率は各々36.1%、81.5%であった。150℃と反応温度が低い場合には、長時間は反応させても、4−ビニルシクロヘキセンの収率が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、1,3−ブタジエンの環化二量化による4−ビニルシクロヘキセンの製造方法として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器又は高圧流通反応容器の中で、1,3−ブタジエンを160℃以上250℃以下の範囲内で加熱することを特徴とする1,3−ブタジエンの二量化方法。
【請求項2】
触媒の不存在下において行われる請求項1記載の1,3−ブタジエンの二量化方法。
【請求項3】
溶媒の不存在下において行われる請求項1又は2記載の1,3−ブタジエンの二量化方法。
【請求項4】
前記1,3−ブタジエンが液体の状態で行われる請求項1記載の1,3−ブタジエンの二量化方法。
【請求項5】
密閉容器又は高圧流通反応容器の中で、1,3−ブタジエンを160℃以上250℃以下の範囲内で加熱することを特徴とする4−ビニルシクロヘキセンの製造方法。
【請求項6】
触媒の不存在下において行われる請求項1記載の4−ビニルシクロヘキセンの製造方法。
【請求項7】
溶媒の不存在下において行われる請求項1又は2記載の4−ビニルシクロヘキセンの製造方法。
【請求項8】
前記1,3−ブタジエンが液体の状態で行われる請求項1記載の4−ビニルシクロヘキセンの製造方法。



【公開番号】特開2013−56874(P2013−56874A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197725(P2011−197725)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】