説明

1,3−プロパンジオールの製造方法、及びグリセリンの水素化反応用触媒

【課題】グリセリンと水素の反応において硫酸を使用しなくても、グリセリンを高い転化率(反応率)で反応させることができ、なおかつ高い選択率で1,3−プロパンジオールを生成させることができる1,3−プロパンジオールの製造方法を提供する。
【解決手段】グリセリン及び水素を触媒の存在下で反応させ、1,3−プロパンジオールを生成させる方法であって、前記触媒は、MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含む触媒であることを特徴とする1,3−プロパンジオールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3−プロパンジオールの製造方法に関する。より詳しくは、グリセリンと水素とを反応させることにより、グリセリンの水素化分解物としての1,3−プロパンジオールを製造する方法に関する。また、上記製造方法に使用されるグリセリンの水素化反応用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グリセリン(グリセロール)と水素とを反応させることによって、グリセリンの少なくとも1つの水酸基が水素化された水素化分解物としての各種アルコール類(例えば、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、2−プロパノール等)を製造する方法が知られている。近年、このようなグリセリンの水素化分解物の中でも、特に、ポリエステルやポリウレタンの原料などとして有用な1,3−プロパンジオールに注目が集められている。このため、グリセリンと水素の反応により、高い選択率で1,3−プロパンジオールを製造する方法の開発が求められている。
【0003】
グリセリンと水素とを反応させることにより、特に、1,3−プロパンジオールを高い選択率で生成させる方法として、シリカ上に担持したイリジウムのナノ粒子をレニウム酸化物にて修飾した触媒、及び硫酸の存在下で、グリセリンと水素を反応させる方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記方法では硫酸を反応系中に必須成分として存在させる必要があるため、工業的な製造設備においては、硫酸を除去するための工程を設ける必要があり、経済的に(特に設備費等の面で)不利であった。このため、特に、硫酸を使用することなく1,3−プロパンジオールを高い選択率で得ることができる、グリセリンと水素の反応プロセスの開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yoshinao Nakagawa,et al.“Direct hydrogenolysis of glycerol into 1,3−propanediol over rhenium−modified iridium catalyst”,Journal of Catalysis,2010,272,p.191−194.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、グリセリンと水素の反応において硫酸を使用しなくても、グリセリンを高い転化率(反応率)で反応させることができ、なおかつ高い選択率で1,3−プロパンジオールを生成させることができる1,3−プロパンジオールの製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、グリセリンと水素の反応において硫酸を使用しなくても、グリセリンを高い転化率(反応率)で反応させることができ、なおかつ高い選択率で1,3−プロパンジオールを生成させることができるグリセリンの水素化反応用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の金属種を特定の担体に担持させた触媒の存在下において、グリセリンと水素とを反応させることによって、硫酸を使用しなくても、グリセリンを高い転化率(反応率)で反応させることができ、なおかつ高い選択率で1,3−プロパンジオールを生成させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、グリセリン及び水素を触媒の存在下で反応させ、1,3−プロパンジオールを生成させる方法であって、前記触媒は、MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含む触媒であることを特徴とする1,3−プロパンジオールの製造方法を提供する。
【0009】
さらに、前記反応における反応温度が80〜350℃である前記の1,3−プロパンジオールの製造方法を提供する。
【0010】
さらに、前記反応における反応圧力が1〜50MPaである前記の1,3−プロパンジオールの製造方法を提供する。
【0011】
さらに、前記反応において、グリセリンの濃度が20〜98重量%である溶液を原料として用いる前記の1,3−プロパンジオールの製造方法を提供する。
【0012】
さらに、前記触媒におけるレニウムとイリジウムの重量比[レニウム/イリジウム]が0.1〜10である前記の1,3−プロパンジオールの製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含むことを特徴とするグリセリンの水素化反応用触媒を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は上記構成を有するため、該方法によると、硫酸を使用することなくグリセリンを高い転化率(反応率)で反応させることができ、なおかつ、グリセリンの水素化分解物の中でも、特に、1,3−プロパンジオールを高い選択率で得ることができる。このため、1,3−プロパンジオールを高収率で製造することができ、生産性に優れる。さらに、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法では、硫酸を使用しなくても1,3−プロパンジオールを高収率で製造できるため、プロセス上、硫酸の除去工程が不要であり、設備費等のコスト面で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、グリセリン及び水素を触媒の存在下で反応させ、グリセリンの水素化分解物の中でも、特に、1,3−プロパンジオールを高収率で製造する方法である。なお、上記「グリセリンの水素化分解物」とは、グリセリンが有する3つの水酸基(ヒドロキシル基)のうち、少なくとも一つが水素原子に置換された化合物、例えば、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、2−プロパノールを意味する。
【0016】
[グリセリン]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法において、原料として使用するグリセリンは、特に限定されず、精製グリセリンであってもよいし、粗製グリセリンであってもよい。また、上記グリセリンの原料についても特に限定されず、上記グリセリンは、例えば、エチレン、プロピレンなどから化学合成されたグリセリンであってもよいし、バイオディーゼルの製造における植物油などのエステル交換反応で生じるような天然資源由来のグリセリンであってもよい。さらに、上記グリセリンとしては、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法により得られる反応結果物(通常、1,3−プロパンジオールを含む組成物である)から回収した未反応のグリセリンを利用(再利用)することもできる。
【0017】
上記グリセリンの純度は、特に限定されないが、触媒の失活を抑制する観点で、90重量%以上(例えば、90〜100重量%)が好ましく、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上である。
【0018】
[水素]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法において使用する水素(水素ガス)は、そのままで(実質的に水素のみの状態で)用いてもよいし、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス等により希釈した状態で用いてもよい。また、さらに、水素としては、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法により得られる反応結果物から回収した水素を利用(再利用)することもできる。
【0019】
[触媒]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法において使用する触媒は、MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含む触媒(グリセリンの水素化反応用触媒)である。
【0020】
上記MFI型ゼオライトとは、国際ゼオライト学会による構造コード「MFI」に分類されるゼオライトを意味する。上記MFI型ゼオライトとしては、例えば、ZSM−5、シリカライト、Si以外の元素としてAl以外のFe、Ga、Tiなどの金属元素やBを含むメタロシリケート等が挙げられる。中でも、ZSM−5が好ましい。なお、上記ZSM−5とは、モービルオイル社が開発した結晶性アルミノシリケートである(米国特許第3,702,886号明細書参照)。
【0021】
上記MFI型ゼオライト(特に、ZSM−5)が細孔内に有するカチオン種としては、特に限定されないが、例えば、プロトン、アンモニウムカチオン、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、ランタン、セリウム等の希土類金属などのカチオンが挙げられる。中でも、反応性向上の観点で、プロトンが好ましい。即ち、上記MFI型ゼオライトとしては、プロトン型のMFI型ゼオライト(特に、プロトン型のZSM−5)が好ましい。
【0022】
上記MFI型ゼオライトがZSM−5である場合、上記ZSM−5のケイ素原子とアルミニウム原子の組成比(Si/Al比)は、特に限定されないが、反応性の観点で、1〜500が好ましく、より好ましくは10〜400、さらに好ましくは25〜200である。
【0023】
上記MFI型ゼオライト(特に、ZSM−5)の、アンモニアの昇温脱離法(NH3−TPD)により測定される、上記MFI型ゼオライト1gあたりのアンモニアの吸着量(以下、単に「アンモニアの吸着量」と称する場合がある)は、特に限定されないが、0.01〜10mmol/gが好ましく、より好ましくは0.05〜5mmol/g、さらに好ましくは0.1〜3mmol/gである。上記アンモニアの吸着量が0.01mmol/g未満であると、グリセリンの転化率及び1,3−プロパンジオールの選択率が低下し、その結果、1,3−プロパンジオールの収率が低下する傾向がある。
【0024】
上記アンモニアの吸着量は、アンモニアの昇温脱離法(NH3−TPD;NH3−Temperature Programmed Desorption)により測定され、1gあたりのMFI型ゼオライトから、100〜500℃の温度範囲で脱離したアンモニアの量(単位:mmol/g)により定義される。上記アンモニアの吸着量は、上記MFI型ゼオライトの表面に存在するアンモニア(塩基性化合物)の吸着点、即ち、酸点の数を表すものであり、上記「アンモニアの吸着量」を「総酸点数」と称する場合がある。上記アンモニアの吸着量(総酸点数)は、例えば、以下のアンモニアの昇温脱離法(NH3−TPD)により測定することができる。
<アンモニアの昇温脱離法(NH3−TPD)>
MFI型ゼオライト約0.2gを、ヘリウム雰囲気下で、500℃、60分の条件で加熱して前処理する。次いで、アンモニア(NH3)を100℃、100kPa、30分の条件で吸着させる。その後、100℃、30分の条件で真空処理(脱着処理)を行った後、下記装置及び検出器を用いて、下記条件にてTPD測定を行う。
装置:触媒分析装置「BELCAT−B」(日本ベル(株)製)
検出器:オンラインガス分析計「BELMass」(日本ベル(株)製)
TPD測定条件:ヘリウムを50mL/分で流通下、昇温速度10℃/分で100℃から500℃まで昇温する。
なお、100〜500℃の温度範囲で脱離したアンモニアの量は、オンラインガス分析計「BELMass」でのガス検出により定量することができる。
【0025】
上記MFI型ゼオライトの比表面積は、特に限定されないが、反応性の観点で、200〜1000m2/gが好ましく、より好ましくは300〜700m2/gである。なお、上記MFI型ゼオライトの比表面積は、例えば、JIS Z8831−2に準拠したBET法により測定できる。
【0026】
上記MFI型ゼオライトの平均細孔径は、特に限定されないが、反応性の観点で、0.4〜20nmが好ましく、より好ましくは0.45〜10nm、さらに好ましくは0.5nm以上、2nm未満である。なお、上記MFI型ゼオライトの平均細孔径は、例えば、気体吸着法や水銀圧入法などにより測定できる。
【0027】
上記MFI型ゼオライトの細孔容積は、特に限定されないが、反応性の観点で、0.01mL/g以上が好ましく、より好ましくは0.1mL/g以上である。なお、上記MFI型ゼオライトの細孔容積は、例えば、気体吸着法や水銀圧入法などにより測定できる。
【0028】
上記MFI型ゼオライトは、公知乃至慣用の方法(例えば、水熱合成法)により合成することができ、その製法(合成法)は特に限定されない。上記MFI型ゼオライトのシリカ源としては、特に限定されず、例えば、水ガラス、シリカゾル、シリカゲルなどを用いることができる。また、MFI型ゼオライト(特に、ZSM−5)のケイ素以外の元素源(特に、アルミナ源)としては、特に限定されず、例えば、硝酸塩、塩化物、酸化物等種々の無機化合物や有機金属化合物を用いることができる。また、上記MFI型ゼオライトの合成に際しては、必要に応じて、例えば、尿素化合物、4級アンモニウム塩、ジアミン、アルコール等の有機テンプレートを使用することもできる。上記有機テンプレートは、焼成や液相での酸化等の公知乃至慣用の方法により除去することができる。また、上記MFI型ゼオライトのカチオン種は、公知乃至慣用のイオン交換操作により適宜変更することもできる。
【0029】
上記MFI型ゼオライトとしては、市販品を利用することもできる。
【0030】
上記触媒の担体として使用するMFI型ゼオライトの形状は、特に限定されないが、例えば、粉末、押出成型物、噴霧成型物、球形成型物、打錠成型物などの任意の形状のものが使用できる。
【0031】
上記触媒は、MFI型ゼオライトに担持されたイリジウム(Ir)を含む。上記MFI型ゼオライトに担持されるイリジウム(Ir)の量は、特に限定されないが、イリジウムと担体(MFI型ゼオライト)の総量(100重量%)に対して、0.01〜50重量%が好ましく、より好ましくは1〜20重量%である。イリジウムの量が0.01重量%未満であると、グリセリンの転化率が著しく低下する場合がある。一方、イリジウムの量が50重量%を超えると、触媒費用が高くなり、経済的に不都合になる場合がある。なお、上記触媒において、MFI型ゼオライトに担持されるイリジウムの量は、例えば、触媒の調製時に、MFI型ゼオライトに対して含浸させる溶液(イリジウムを含有する溶液)の濃度や含浸させる量を調整する等により制御することができる。
【0032】
上記触媒において、イリジウムをMFI型ゼオライトに担持させる方法は、特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法を利用することができる。具体的には、例えば、イリジウムを含有する溶液(例えば、塩化イリジウム酸水溶液など)を上記MFI型ゼオライトに含浸させた後、乾燥させ、次いで焼成する方法により担持させることができる。なお、イリジウムを含有する溶液の上記MFI型ゼオライトへの含浸、及び乾燥は、繰り返して実施することにより、上記MFI型ゼオライトに担持させるイリジウムの量を多くすることができる。イリジウムを含有する溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた担体(MFI型ゼオライト)を乾燥させる際の温度は、特に限定されない。
【0033】
上記MFI型ゼオライトにイリジウムを含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後、上記MFI型ゼオライトを焼成する際の温度は、特に限定されないが、例えば、大気中において427〜727℃が好ましく、より好ましくは427〜527℃である。また、焼成する際の雰囲気は、上述のように大気中に限定されず、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、水素等の還元性ガス雰囲気などで焼成することができる。
【0034】
上記触媒は、上述の上記MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムのほか、ニッケル(Ni)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びオスミウム(Os)からなる群より選択された少なくとも1種以上の金属(金属元素)を含む。上記金属(Ni、Re、Rh、Pd、Pt、及びOsからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属)を含むことにより、グリセリンの水素化分解物の中でも、特に1,3−プロパンジオールの選択率が向上する。上記金属の中でも、特に、1,3−プロパンジオールの選択率向上の観点で、レニウムが好ましい。
【0035】
上記触媒において、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属が含まれる態様は、特に限定されないが、例えば、上記金属が金属単体、金属塩、又は金属錯体として含まれる態様、若しくは、上記金属が担体に担持された状態で含まれる態様などが挙げられる。上記の中でも、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属は、担体に担持された状態で含まれていることが好ましく、特に、イリジウムを担持しているMFI型ゼオライトに担持された状態で含まれていることがより好ましい。即ち、上記触媒は、上記MFI型ゼオライトに、イリジウム、並びに、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属が担持された触媒であることが好ましい。
【0036】
上記触媒における、上記のニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムの量(合計量)は、特に限定されないが、イリジウム(100重量部)に対して、10〜1000重量部が好ましく、より好ましくは50〜500重量部である。上記合計量が10重量部未満であると、1,3−プロパンジオールの選択率が低下する場合がある。一方、上記合計量が1000重量部を超えると、製造コストが高くなる場合がある。
【0037】
上記のニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属を担体(特に、MFI型ゼオライト)に担持させる場合、その方法は特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法を利用することができる。具体的には、例えば、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属含有溶液を担体(例えば、イリジウムを含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の上記MFI型ゼオライト)に含浸し、乾燥させた後、焼成する方法などが挙げられる。なお、上記金属含有溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた担体(特に、上記MFI型ゼオライト)を乾燥させる際の温度は特に限定されない。また、上記担体(特に、上記MFI型ゼオライト)を焼成する際の温度も、特に限定されず、例えば、上述の温度範囲から適宜選択することができる。
【0038】
上記触媒が、MFI型ゼオライトにイリジウム及びレニウムを担持した触媒である場合、レニウム(Re)とイリジウム(Ir)の重量比[レニウム/イリジウム]は、特に限定されないが、1/10〜10/1(0.1〜10)が好ましく、より好ましくは1/2〜7/2(0.5〜3.5)、さらに好ましくは1/1〜3/1(1〜3)である。レニウムとイリジウムの重量比[レニウム/イリジウム]が10/1を超えると、1,3−プロパンジオールの選択率が低下する場合がある。
【0039】
上記触媒が、MFI型ゼオライトにイリジウム及びレニウムを担持した触媒である場合、レニウム(Re)とイリジウム(Ir)のモル比[レニウム/イリジウム]は、特に限定されないが、1/10〜10/1(0.1〜10)が好ましく、より好ましくは1/2〜7/2(0.5〜3.5)、さらに好ましくは1/1〜3/1(1〜3)である。レニウムとイリジウムのモル比[レニウム/イリジウム]が10/1を超えると、1,3−プロパンジオールの選択率が低下する場合がある。
【0040】
[本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含む触媒の存在下で、グリセリン及び水素を反応させて、グリセリンの水素化分解物としての1,3−プロパンジオールを製造する方法である。
【0041】
上記触媒の存在下におけるグリセリンと水素との反応は、特に限定されず、液状グリセリンと水素ガスと上記触媒との三相系(気液固三相系)で進行させてもよいし、グリセリンガスと水素ガスと上記触媒との二相系(気固二相系)で進行させてもよい。中でも、グリセリンの炭素−炭素結合が切断されてエチレングリコール、エタノール、メタノール、メタン等が生成する副反応の進行を抑制する観点からは、上記反応を三相系(気液固三相系)で進行させることが好ましい。
【0042】
なお、上記反応を三相系(気液固三相系)で進行させる場合には、グリセリンを水や有機溶媒などに溶解させたグリセリン溶液を原料として好ましく使用することができる。上記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが使用できる。上記の中でも、反応性の観点で、上記グリセリン溶液としてグリセリンの水溶液を使用することが好ましい。
【0043】
上記グリセリン溶液(特に、グリセリン水溶液)におけるグリセリンの濃度(グリセリン溶液100重量%に対する濃度)は、特に限定されないが、20〜98重量%が好ましく、より好ましくは20〜90重量%、さらに好ましくは40〜90重量%、特に好ましくは60〜80重量%である。グリセリンの濃度が20重量%未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、グリセリンの濃度が98重量%を超えると、粘度が高くなり、操作が煩雑になる場合がある。
【0044】
上記グリセリン溶液には、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分(例えば、アルコール類など)を含有させてもよい。また、上記グリセリン溶液には、例えば、グリセリンの原料に由来する不純物(例えば、長鎖脂肪酸、金属塩、チオールやチオエーテルなどの含硫黄化合物、アミンなどの含窒素化合物等)が含まれる場合があるが、このような不純物は触媒を劣化させるおそれがあるため、公知乃至慣用の方法(例えば、蒸留、吸着、イオン交換、晶析、抽出等)により、できるだけグリセリン溶液から除去することが好ましい。
【0045】
上記グリセリン溶液は、特に限定されないが、グリセリンと、必要に応じて水や有機溶媒、その他の成分とを均一に混合することにより得られる。この場合の混合には、特に限定されないが、例えば、公知乃至慣用の攪拌機などを用いることができる。
【0046】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、特に限定されず、回分方式(バッチ式)、半回分方式、連続流通方式のいずれの方式によっても実施することができる。
【0047】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を回分方式で実施する場合には、例えば、回分式の反応器に、グリセリン(又はグリセリン溶液)、上記触媒、及び水素(水素ガス)を仕込み、必要に応じて加熱し、攪拌下で反応させることによって実施することができる。
【0048】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を回分方式で実施する場合、反応器へのグリセリンと水素の仕込み量は、特に限定されないが、グリセリンと水素のモル比[水素(mol)/グリセリン(mol)]が、1以上であることが好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは10以上である。上記モル比が1未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。
【0049】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を回分方式で実施する場合、上記触媒の使用量(仕込み量)は、特に限定されないが、グリセリン100重量部に対し、0.01〜50重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜20重量部である。上記使用量が0.01重量部未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、上記使用量が50重量部を超えると、コスト面で不利となる場合がある。
【0050】
一方、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を連続方式(連続流通方式)で実施する場合には、例えば、内部に上記触媒を滞留させた流通式反応器の一端に、グリセリン(又はグリセリン溶液)及び水素(水素ガス)を連続的に供給し、他端から上記触媒を含まない反応液を連続的に排出させる方法により、グリセリンと水素の反応を行うことができる。なお、上記流通式反応器における反応は、移動床、懸濁床、固定床など、いずれによっても行うことができる。
【0051】
上記の中でも、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、連続流通方式で実施することが好ましく、特に、1,3−プロパンジオールの選択率及び収率が高く、触媒の分離プロセスが不要である点で、流通式反応器としてトリクルベッド反応器を用いることがより好ましい。なお、上記トリクルベッド反応器とは、固体触媒が充填された触媒充填層を内部に有し、該触媒充填層に対して液体(本発明では、例えば、グリセリン溶液)と気体(本発明では、水素)とを共に、反応器の上方から下向流(気液下向並流)で流通する形式の反応器(固定床連続反応装置)である。
【0052】
上記グリセリンと水素の反応における温度(反応温度)は、特に限定されないが、80〜350℃が好ましく、より好ましくは90〜300℃、さらに好ましくは100〜200℃である。反応温度が80℃未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応温度が350℃を超えると、グリセリンの分解(例えば、炭素−炭素結合の開裂など)が生じやすく、1,3−プロパンジオールの選択率が低下する場合がある。
【0053】
上記グリセリンと水素の反応における水素の圧力(反応圧力、グリセリンと水素の反応における水素圧)は、特に限定されないが、1〜50MPaが好ましく、より好ましくは3〜40MPa、さらに好ましくは5〜30MPaである。反応圧力が1MPa未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応圧力が50MPaを超えると、高度な耐圧性を有する反応器が必要となるため、製造コストが高くなってしまう場合がある。
【0054】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法には、上述の水素とグリセリンとを反応させる工程のほか、必要に応じてその他の工程が含まれていてもよい。具体的には、例えば、グリセリンを精製したり、グリセリン溶液を調製・精製したりする工程等を含んでいてもよいし、反応により得られた反応結果物(例えば、グリセリン、水素、及びグリセリンの水素化分解物等を含む溶液)を分離したり、グリセリンの水素化分解物を精製する工程等を含んでいてもよい。
【0055】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、グリセリンと水素との反応を特定の触媒(MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含む触媒)の存在下で行うものであり、硫酸を使用しなくても、グリセリンを高い反応率で反応させることができ、なおかつ、グリセリンの水素化分解物の中でも、特に、1,3−プロパンジオールを高い選択率で生成させることができる。このため、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法によると、1,3−プロパンジオールを高い収率で得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではなく、前記及び後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0057】
実施例1
(触媒の調製)
担体(固体酸担体)として、ZSM−5(ZSM−5型ゼオライト、比表面積:342m2/g、細孔容積:0.37mL/g、平均細孔径:0.75nm(細孔分布のピーク値:0.6nm)、Si/Alモル比:100)を使用した。上記固体酸担体に、塩化イリジウム酸を使用して調製したイリジウム濃度(Ir濃度)0.7重量%の水溶液を滴下して、上記固体酸担体全体を湿潤させた後、該固体酸担体を80℃で30分間乾燥させた。そして、このような塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥を繰り返した(最後の乾燥の時間は3時間とした)。次に、上記固体酸担体に対し、過レニウム酸アンモニウム水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥と同様にして行い、イリジウム(Ir)及びレニウム(Re)の量が固体酸担体(ZSM−5)に対してそれぞれ4重量%となるように担持させた。乾燥後の固体酸担体を、空気雰囲気下(大気中)、500℃、3時間の条件で焼成して、実施例1で使用した触媒(Re−Ir/ZSM−5)を得た。
なお、上記ZSM−5のアンモニアの昇温脱離法(NH3−TPD)により測定される、上記担体(ZSM−5)1gあたりのアンモニアの吸着量(総酸点数)を、上述の条件により測定したところ、0.18mmol/gであった。
【0058】
(グリセリンの水素化(還元)反応)
グリセリン80重量部、及び水20重量部を混合して、グリセリンの濃度が80重量%(質量%)のグリセリン水溶液を作製した。
水素パージした内容積190mLのオートクレーブ中に、上記で製造した触媒(Re−Ir/ZSM−5)150mg、及び上記グリセリン水溶液5mLを仕込み、120℃で15時間加熱してグリセリンと水素の反応を行った。なお、初期圧力は8MPa(ゲージ圧)とした。
【0059】
(生成物の分析)
グリセリンの還元反応を終了させた後、ガスクロマトグラフィー(ガスクロマトグラフ装置:「GC−2014」((株)島津製作所製)、GCカラム:TC−WAX、DB−FFAP、検出器:FID)により生成物の定量分析を行い、グリセリンの転化率、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、2−プロパノール、並びにガス成分(プロパン、エタン、及びメタン)の選択率を算出した。
【0060】
比較例1
担体として、ZSM−5の代わりに、二酸化ケイ素(SiO2)(富士シリシア化学(株)製、商品名「CARIACTG−6」、平均粒子径(平均粒径):11.9μm、比表面積:479m2/g)を用いて、実施例1と同様に触媒(Re−Ir/SiO2)を調製し、該触媒(Re−Ir/SiO2)を使用したこと以外は実施例1と同様にしてグリセリンと水素の反応を行った。また、実施例1と同様にして生成物の分析を行い、結果を表1に示した。
【0061】
比較例2
固体酸担体として、ZSM−5の代わりに、Y型ゼオライト(日揮ユニバーサル(株)製、商品名「LZ−210」、平均粒子径:2μm、比表面積:850m2/g、Si/Alモル比:24)を用いて、実施例1と同様に触媒(Re−Ir/Y型ゼオライト)を調製し、該触媒(Re−Ir/Y型ゼオライト)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、グリセリンと水素の反応を行った。また、実施例1と同様にして生成物の分析を行い、結果を表1に示した。
なお、上記Y型ゼオライトのアンモニアの昇温脱離法(NH3−TPD)により測定される、上記固体酸(Y型ゼオライト)1gあたりのアンモニアの吸着量(総酸点数)を、上述の条件により測定したところ、0.98mmol/gであった。
なお、上記Y型ゼオライトは、国際ゼオライト学会の構造コード「FAU」に分類される。
【0062】
比較例3
固体酸担体として、ZSM−5の代わりに、L型ゼオライト(日揮ユニバーサル(株)製、商品名「LZ−KL」、平均粒子径:1μm、比表面積:380m2/g、Si/Alモル比:12.6)を用いて、実施例1と同様に触媒(Re−Ir/L型ゼオライト)を調製し、該触媒(Re−Ir/L型ゼオライト)を使用したこと以外は実施例1と同様にしてグリセリンと水素の反応を行った。また、実施例1と同様にして生成物の分析を行い、結果を表1に示した。
なお、上記L型ゼオライトのアンモニアの昇温脱離法(NH3−TPD)により測定される、上記固体酸(L型ゼオライト)1gあたりのアンモニアの吸着量(総酸点数)を、上述の条件により測定したところ、0.01mmol/gであった。
なお、上記L型ゼオライトは、国際ゼオライト学会の構造コード「LTL」に分類される。
【0063】
比較例4
(触媒の調製)
固体酸担体として、ZSM−5の代わりに、β型ゼオライト(Na)(触媒学会参照触媒、「JRC−Z−B25」)を用いて、実施例1と同様に触媒(Re−Ir/β型ゼオライト(Na))を調製した。
【0064】
(グリセリンの水素化(還元)反応及び生成物の分析)
グリセリン20重量部、及び水80重量部を混合して、グリセリンの濃度が20重量%のグリセリン水溶液を作製した。
水素パージした内容積190mLのオートクレーブ中に、上記で製造した触媒(Re−Ir/β型ゼオライト(Na))150mg、及び上記グリセリン水溶液5mLを仕込み、120℃で24時間加熱してグリセリンと水素の反応を行った。なお、初期圧力は8MPa(ゲージ圧)とした。反応終了後、実施例1と同様にして生成物の分析を行い、結果を表1に示した。
なお、上記β型ゼオライトは、国際ゼオライト学会の構造コード「BEA」に分類される。
【0065】
比較例5
触媒として、比較例1で調製した触媒(Re−Ir/SiO2)を使用したこと以外は比較例4と同様にして、グリセリンと水素の反応(グリセリンの還元反応)及び生成物の分析を行った。結果を表1に示した。
【0066】
参考例1
触媒として、比較例1で調製した触媒(Re−Ir/SiO2)を使用した。
グリセリン80重量部、1重量%硫酸水溶液0.03重量部、及び水20重量部を混合して、グリセリンの濃度が80重量%のグリセリン水溶液(硫酸を含む)を作製した。
水素パージした内容積190mLのオートクレーブ中に、上記触媒(Re−Ir/SiO2)150mg、及び上記グリセリン水溶液5mLを仕込み、120℃で15時間加熱してグリセリンと水素の反応を行った。なお、初期圧力は8MPa(ゲージ圧)とした。生成物の分析結果を表1に示した。
【0067】
参考例2
触媒として、比較例1で調製した触媒(Re−Ir/SiO2)を使用した。
グリセリン20重量部、1重量%硫酸水溶液0.03重量部、及び水80重量部を混合して、グリセリンの濃度が20重量%のグリセリン水溶液(硫酸を含む)を作製した。
水素パージした内容積190mLのオートクレーブ中に、上記触媒(Re−Ir/SiO2)150mg、及び上記グリセリン水溶液5mLを仕込み、120℃で24時間加熱してグリセリンと水素の反応を行った。なお、初期圧力は8MPa(ゲージ圧)とした。生成物の分析結果を表1に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、本発明の規定を満たす触媒を用いた場合(実施例)には、硫酸を使用しなくてもグリセリンの転化率が高く、さらに、1,3−プロパンジオールを高選択率で得ることができた。また、この場合の1,3−プロパンジオールの収率は、硫酸を使用した場合(参考例1、2)と同程度の高い値であった。
一方、MFI型ゼオライト以外の担体を使用した触媒を用いた場合(比較例)は、特に同条件の実施例と比較して、グリセリンの転化率が低く、1,3−プロパンジオールを高収率で得ることはできなかった。
【0070】
表1で用いた略号は以下の通りである。
1,3−PD : 1,3−プロパンジオール
1,2−PD : 1,2−プロパンジオール
1−PrOH : 1−プロパノール
2−PrOH : 2−プロパノール
gas : ガス成分(プロパン、エタン、及びメタン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン及び水素を触媒の存在下で反応させ、1,3−プロパンジオールを生成させる方法であって、
前記触媒は、MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含む触媒であることを特徴とする1,3−プロパンジオールの製造方法。
【請求項2】
前記反応における反応温度が80〜350℃である請求項1に記載の1,3−プロパンジオールの製造方法。
【請求項3】
前記反応における反応圧力が1〜50MPaである請求項1又は2に記載の1,3−プロパンジオールの製造方法。
【請求項4】
前記反応において、グリセリンの濃度が20〜98重量%である溶液を原料として用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の1,3−プロパンジオールの製造方法。
【請求項5】
前記触媒におけるレニウムとイリジウムの重量比[レニウム/イリジウム]が0.1〜10である請求項1〜4のいずれか1項に記載の1,3−プロパンジオールの製造方法。
【請求項6】
MFI型ゼオライトに担持されたイリジウムと、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、白金、及びオスミウムからなる群より選択された少なくとも1種以上の金属とを含むことを特徴とするグリセリンの水素化反応用触媒。

【公開番号】特開2012−240936(P2012−240936A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110182(P2011−110182)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】