説明

1,3,5−トリアジン化合物の製造方法

【課題】 1,3,5−トリアジン化合物を高収率かつ高純度で製造するための新規合成法を提供する。
【解決手段】 特定の1,3,5−トリアジン化合物と有機ホウ素化合物とを、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム触媒と、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属リン酸塩から選ばれる少なくとも一種の塩基の存在下にカップリング反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3,5−トリアジン化合物の新規製造方法に関するものである。1,3,5−トリアジン化合物は、有機電界発光素子材料、有機半導体材料などとして幅広く使用できるものである。
【背景技術】
【0002】
1,3,5−トリアジン誘導体を製造する方法として、金属触媒の存在下に有機金属試薬を反応させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)が、反応収率および粗生成物の純度は低く、工業的な製造方法としては好ましい方法ではない。
【0003】
また、1,3,5−トリアジン誘導体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2および非特許文献1参照)が、それらの反応収率および粗生成物の純度も低く、工業的な製造方法とは言い難いものである。
【0004】
【特許文献1】特開2007−314503公報
【特許文献2】特開2007−137829公報
【非特許文献1】Chemistry Letters、33巻、1244頁、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有機電界発光素子材料として有用な1,3,5−トリアジン化合物を簡便な操作で、高収率かつ高純度で製造するための工業的な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で示される1,3,5−トリアジン化合物と一般式(2)で示される有機ホウ素化合物とを、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム触媒と特定の塩基の存在下に作用させることにより前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメタンスルホキシ基を表す。Yは各々独立して水素原子またはメチル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Arは置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。)
で示される化合物と一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Arは置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基を表し、2つの(OR)は結合するホウ素原子と一体となって環を形成してもよい。)
で示される有機ホウ素化合物とを、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム触媒と、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属リン酸塩から選ばれる少なくとも一種の塩基の存在下にカップリング反応させることを特徴とする、一般式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Y,n,ArおよびArは前記と同じである。)
で示される1,3,5−トリアジン化合物の製造方法に関するものである。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
一般式(1)で示される1,3,5−トリアジン化合物において、Xとしては塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメタンスルホキシ基が例示され、収率および選択性がよい点で塩素原子または臭素原子が好ましい。
【0016】
Yは各々独立して水素原子またはメチル基を表す。有機電界発光素子としての性能がよい点で水素原子が好ましい。
【0017】
Arで表される置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、置換されていてもよいフェニル基もしくはナフチル基を挙げることができる。
【0018】
置換されていてもよいフェニル基としては、フェニル基、p−トリル基、m−トリル基、o−トリル基、p−トリフルオロメチルフェニル基、m−トリフルオロメチルフェニル基、o−トリフルオロメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、メシチル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2,4−ジエチルフェニル基、3,5−ジエチルフェニル基、2−プロピルフェニル基、3−プロピルフェニル基、4−プロピルフェニル基、2,4−ジプロピルフェニル基、3,5−ジプロピルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、2,4−ジイソプロピルフェニル基、3,5−ジイソプロピルフェニル基、2−ブチルフェニル基、3−ブチルフェニル基、4−ブチルフェニル基、2,4−ジブチルフェニル基、3,5−ジブチルフェニル基、2−tert−ブチルフェニル基、3−tert−ブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、ビフェニル−4−イル基、ビフェニル−3−イル基、ビフェニル−2−イル基、2−メチルビフェニル−4−イル基、3−メチルビフェニル−4−イル基、2’−メチルビフェニル−4−イル基、4’−メチルビフェニル−4−イル基、2,2’−ジメチルビフェニル−4−イル基、2’,4’,6’−トリメチルビフェニル−4−イル基、6−メチルビフェニル−3−イル基、5−メチルビフェニル−3−イル基、2’−メチルビフェニル−3−イル基、4’−メチルビフェニル−3−イル基、6,2’−ジメチルビフェニル−3−イル基、2’,4’,6’−トリメチルビフェニル−3−イル基、5−メチルビフェニル−2−イル基、6−メチルビフェニル−2−イル基、2’−メチルビフェニル−2−イル基、4’−メチルビフェニル−2−イル基、6,2’−ジメチルビフェニル−2−イル基、2’,4’,6’−トリメチルビフェニル−2−イル基、2−トリフルオロメチルビフェニル−4−イル基、3−トリフルオロメチルビフェニル−4−イル基、2’−トリフルオロメチルビフェニル−4−イル基、4’−トリフルオロメチルビフェニル−4−イル基、6−トリフルオロメチルビフェニル−3−イル基、5−トリフルオロメチルビフェニル−3−イル基、2’−トリフルオロメチルビフェニル−3−イル基、4’−トリフルオロメチルビフェニル−3−イル基、5−トリフルオロメチルビフェニル−2−イル基、6−トリフルオロメチルビフェニル−2−イル基、2’−トリフルオロメチルビフェニル−2−イル基、4’−トリフルオロメチルビフェニル−2−イル基、3−エチルビフェニル−4−イル基、4’−エチルビフェニル−4−イル基、2’,4’,6’−トリエチルビフェニル−4−イル基、6−エチルビフェニル−3−イル基、4’−エチルビフェニル−3−イル基、5−エチルビフェニル−2−イル基、4’−エチルビフェニル−2−イル基、2’,4’,6’−トリエチルビフェニル−2−イル基、3−プロピルビフェニル−4−イル基、4’−プロピルビフェニル−4−イル基、2’,4’,6’−トリプロピルビフェニル−4−イル基、6−プロピルビフェニル−3−イル基、4’−プロピルビフェニル−3−イル基、5−プロピルビフェニル−2−イル基、4’−プロピルビフェニル−2−イル基、2’,4’,6’−トリプロピルビフェニル−2−イル基、3−イソプロピルビフェニル−4−イル基、4’−イソプロピルビフェニル−4−イル基、2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル−4−イル基、6−イソプロピルビフェニル−3−イル基、4’−イソプロピルビフェニル−3−イル基、5−イソプロピルビフェニル−2−イル基、4’−イソプロピルビフェニル−2−イル基、2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル−2−イル基、3−ブチルビフェニル−4−イル基、4’−ブチルビフェニル−4−イル基、2’,4’,6’−トリブチルビフェニル−4−イル基、6−ブチルビフェニル−3−イル基、4’−ブチルビフェニル−3−イル基、5−ブチルビフェニル−2−イル基、4’−ブチルビフェニル−2−イル基、2’,4’,6’−トリブチルビフェニル−2−イル基、3−tert−ブチルビフェニル−4−イル基、4’−tert−ブチルビフェニル−4−イル基、2’,4’,6’−トリ−tert−ブチルビフェニル−4−イル基、6−tert−ブチルビフェニル−3−イル基、4’−tert−ブチルビフェニル−3−イル基、5−tert−ブチルビフェニル−2−イル基、4’−tert−ブチルビフェニル−2−イル基および2’,4’,6’−トリ−tert−ブチルビフェニル−2−イル基等が挙げられる。有機電界発光素子用材料としての性能がよい点でフェニル基、p−トリル基、m−トリル基、o−トリル基、4−ブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、ビフェニル−4−イル基およびビフェニル−3−イル基が好ましく、合成が容易である点でフェニル基、p−トリル基およびビフェニル−3−イル基がさらに好ましい。
【0019】
また、置換されていてもよいナフチル基としては、1−ナフチル基、4−メチルナフタレン−1−イル基、4−トリフルオロメチルナフタレン−1−イル基、4−エチルナフタレン−1−イル基、4−プロピルナフタレン−1−イル基、4−ブチルナフタレン−1−イル基、4−tert−ブチルナフタレン−1−イル基、5−メチルナフタレン−1−イル基、5−トリフルオロメチルナフタレン−1−イル基、5−エチルナフタレン−1−イル基、5−プロピルナフタレン−1−イル基、5−ブチルナフタレン−1−イル基、5−tert−ブチルナフタレン−1−イル基、2−ナフチル基、6−メチルナフタレン−2−イル基、6−トリフルオロメチルナフタレン−2−イル基、6−エチルナフタレン−2−イル基、6−プロピルナフタレン−2−イル基、6−ブチルナフタレン−2−イル基、6−tert−ブチルナフタレン−2−イル基、7−メチルナフタレン−2−イル基、7−トリフルオロメチルナフタレン−2−イル基、7−エチルナフタレン−2−イル基、7−プロピルナフタレン−2−イル基、7−ブチルナフタレン−2−イル基および7−tert−ブチルナフタレン−2−イル基等が挙げられる。有機電界発光素子用材料としての性能がよい点で1−ナフチル基、4−メチルナフタレン−1−イル基、4−tert−ブチルナフタレン−1−イル基、5−メチルナフタレン−1−イル基、5−tert−ブチルナフタレン−1−イル基、2−ナフチル基、6−メチルナフタレン−2−イル基、6−tert−ブチルナフタレン−2−イル基、7−メチルナフタレン−2−イル基および7−tert−ブチルナフタレン−2−イル基が好ましく、合成が容易な点で2−ナフチル基がさらに好ましい。
【0020】
一般式(2)で示される有機ホウ素化合物において、Arで表される置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、フェニル基、p−トリル基、m−トリル基、o−トリル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、メシチル基、1−ナフチル基、4−メチルナフタレン−1−イル基、4−エチルナフタレン−1−イル基、ピリジン−2−イル基、3−メチルピリジン−2−イル基、4−メチルピリジン−2−イル基、5−メチルピリジン−2−イル基、6−メチルピリジン−2−イル基、ピリジン−3−イル基、3−メチルピリジン−3−イル基、4−メチルピリジン−3−イル基、5−メチルピリジン−3−イル基、6−メチルピリジン−3−イル基、ピリジン−4−イル基、3−メチルピリジン−4−イル基、4−メチルピリジン−4−イル基、5−メチルピリジン−4−イル基、6−メチルピリジン−4−イル基、4−(ピリジン−2−イル)フェニル基、4−(ピリジン−3−イル)フェニル基、4−(ピリジン−4−イル)フェニル基、3’−(ピリジン−2−イル)−ビフェニル−4−イル基、3’−(ピリジン−3−イル)−ビフェニル−4−イル基、3’−(ピリジン−4−イル)−ビフェニル−4−イル基、4’−(ピリジン−2−イル)−ビフェニル−3−イル基、4’−(ピリジン−3−イル)−ビフェニル−3−イル基、4’−(ピリジン−4−イル)−ビフェニル−3−イル基、4’−(ピリジン−2−イル)−ビフェニル−4−イル基、4’−(ピリジン−3−イル)−ビフェニル−4−イル基、4’−(ピリジン−4−イル)−ビフェニル−4−イル基等が挙げられる。有機電界素子用材料としての性能がよい点で、4−(ピリジン−2−イル)フェニル基、4−(ピリジン−3−イル)フェニル基、4−(ピリジン−4−イル)フェニル基、4’−(ピリジン−2−イル)−ビフェニル−4−イル基、4’−(ピリジン−3−イル)−ビフェニル−4−イル基、4’−(ピリジン−4−イル)−ビフェニル−4−イル基が好ましい。
【0021】
B(ORとしては、B(OH)、B(OMe)、B(OPr)、B(OBu)等が例示でき、収率がよい点でB(OH)が好ましい。また、2つの(OR)が結合するホウ素原子と一体となって環を形成した場合のB(ORの例として、次の(I)〜(VI)で示される基が例示できる。
【0022】
【化4】

【0023】
本発明の製造方法は、第三級ホスフィンを配位子とするパラジウム触媒の存在下に行うことが必須である。第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体は、パラジウム塩または錯化合物に第三級ホスフィンを添加し、反応系中で調製することができる。この際用いることのできるパラジウム塩としては、塩化パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウムおよび硝酸パラジウム等が例示できる。また、パラジウム錯化合物としては、π−アリルパラジウムクロリドダイマー、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが例示できる。入手容易であり、収率がよい点で、酢酸パラジウムおよびトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが好ましい。
【0024】
また、第三級ホスフィンとしては、一般式(4)
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、Rは炭素数4〜8の第三級アルキル基を表す。)
または一般式(5)
【0027】
【化6】

【0028】
(式中、Arは置換されていてもよいフェニル基を表す。Rは炭素数4〜8の第二級アルキル基もしくは第三級アルキル基を表す。)
で示される構造のものが好ましい。
【0029】
一般式(4)で示される第三級ホスフィンにおいて、Rで表される炭素数4〜8の第三級アルキル基としては、tert−ブチル基、2−メチルブタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、3−エチルペンタン−3−イル基および1−メチルシクロへキシル基等を例示することができ、入手容易であり、収率がよい点で、tert−ブチル基が好ましい。一般式(5)で示される第三級ホスフィンにおいて、Rで表される炭素数4〜8の第三級アルキル基としては、Rで例示した第三級アルキル基を挙げることができる。Rで表される炭素数4〜8の第二級アルキル基としては、2−ブチル基、3−メチルブタン−2−イル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、シクロペンチル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、2−へキシル基およびシクロへキシル基等を例示することができる。入手容易であり、収率がよい点で、シクロへキシル基が好ましい。また、Arで表される置換されていてもよいフェニル基としては、フェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、2−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基および2−ビフェニリル基等が挙げられる。入手容易であり、収率がよい点で、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基または2,6−ジメトキシフェニル基が好ましい。
【0030】
第三級ホスフィンとパラジウム塩または錯化合物とのモル比は、1:10〜10:1が好ましく、収率がよい点で1:2〜5:1がさらに好ましい。
【0031】
第三級ホスフィンを配位子とするパラジウム触媒の使用量は特に限定するものではないが、一般式(1)で示される1,3,5−トリアジン化合物に対し、通常パラジウム換算で0.001〜20モル%の範囲である。また、高い選択率で1,3,5−トリアジン化合物を合成できる点で、より好ましい触媒使用量は、1,3,5−トリアジン化合物に対し、パラジウム換算で0.01〜5モル%の範囲である。
【0032】
また、本発明の製造方法は、塩基の存在下に行うことが必須である。本発明において使用される塩基としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属リン酸塩から選択すればよく、安価である点で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、リン酸カリウムおよびリン酸ナトリウム等を例示することができ、さらに収率がよい点で水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸セシウムおよびリン酸カリウムが好ましい。
【0033】
また、塩基は固体として反応系中に加えてもよいが、塩基水溶液として用いてもよい。塩基水溶液の濃度に特に制限はなく、1%から飽和溶液を用いることができる。用いる塩基の量は、一般式(1)で示される1,3,5−トリアジン化合物に対し化学量論量を用いることで反応は進行するが、収率および選択性がよい点で、3〜15倍モルを用いることが好ましい。塩基量が3倍モル未満では一般式(3)で示される1,3,5−トリアジン化合物を合成する際の反応時間が長くなる傾向にある。塩基を過剰に加えても1,3,5−トリアジン化合物の収率に変化はないが、15倍モルを越えると反応終了後の後処理操作が煩雑になる場合がある。
【0034】
本発明において使用される一般式(1)で示される1,3,5−トリアジン化合物と一般式(2)で示される有機ホウ素化合物とのモル比は、1:2〜1:10が好ましく、収率がよい点で1:2〜1:4がさらに好ましい。
【0035】
本発明における反応に使用できる溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればいずれでもよく、特に限定するものではないが、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系有機溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、水等が例示でき、これらを適宜組み合わせて用いてもよい。収率および選択性がよい点で、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶媒と水との組み合わせが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法は、0〜300℃の範囲で行うことができる、より好ましくは50〜150℃の範囲である。
【0037】
目的の1,3,5−トリアジン化合物は、反応終了後に通常の処理を行うことで得られるが、反応終了後に反応系中に貧溶媒を加え、生成物を析出させ、ろ過することにより、純度よく目的化合物を得ることができる。このような貧溶媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ジエチルエーテル、ヘキサンおよびヘプタン等が例示でき、純度がよい点で、水が好ましい。貧溶媒の量は、使用した反応溶媒に対して0.01〜1倍容量を加えることができ、より好ましくは0.05〜0.5倍容量である。さらに、必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィーまたは昇華等で精製してもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の製造方法によれば、高純度の1,3,5−トリアジン化合物を温和な条件下で得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および参考例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
H−NMRおよび13C−NMRスペクトルの測定には、Bruker社製 DPX250およびDPX500スペクトロメーターを使用した。
【0041】
HPLC測定には、東ソー社製 LC−8020およびWaters製 2690を使用した。
【0042】
また、実験で使用した試薬は、Sigma−Aldrich Co.,Ltd.、東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、関東化学株式会社から購入し、必要に応じて精製したものを使用した。
【0043】
実施例1
【0044】
【化7】

【0045】
アルゴン気流下、4−(ピリジン−2−イル)フェニルボロン酸(8.35g)、2−(3,5−ジブロモフェニル)−4,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−1,3,5−トリアジン(10.0g)、酢酸パラジウム(36.2mg)、トリ−tert−ブチルホスフィン(0.48mmol)を含むヘキサン溶液(1.5mL)をテトラヒドロフラン(720mL)に懸濁し、加熱還流した。4規定−水酸化ナトリウム水溶液(30mL)を加え、さらに4時間還流した。反応混合物を放冷後、水(40mL)を加えた。析出した固体をろ別し、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5‘−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量5.90g、収率95%、LC純度98%)を得た。
【0046】
H−NMR(CDCl):δ7.30−7.35(m,2H),7.43−7.49(m,2H),7.56(dd、J=7.8,7.6Hz,4H),7.72(dd、J=7.7,7.7Hz,2H),7.80(d,J=7.8Hz,4H),7.82−7.93(m,6H),7.98(d,J=8.3Hz,4H),8.21(t,J=1.7Hz,1H),8.23(d,J=8.3Hz,4H),8.79(d,J=4.9Hz,2H),8.83(d,J=7.7Hz,2H),9.09(s,2H),9.10(d,J=1.7Hz,2H)
13C−NMR(CDCl):δ120.6,122.3,126.9,127.4,127.6,127.7,127.8,127.8,128.1,129.0,129.3,130.1,131.4,136.8,136.9,137.6,138.9,140.8,141.3,141.8,141.9,149.9,157.0,171.7,171.9
実施例2
アルゴン気流下、4−(ピリジン−2−イル)フェニルボロン酸(104mg)、2−(3,5−ジブロモフェニル)−4,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−1,3,5−トリアジン(124mg)、酢酸パラジウム(0.4mg)、10wt%−トリ−tert−ブチルホスフィン−ヘキサン溶液(18.1μL)、4規定−水酸化カリウム水溶液(0.25mL)をテトラヒドロフラン(5.0mL)に懸濁し、18時間還流した。反応混合物を放冷後、水(0.5mL)を加えた。析出した固体をろ別し、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量144mg、収率93%、LC純度98%)を得た。
【0047】
実施例3
4N−水酸化カリウム水溶液に換え、リン酸カリウム(212mg)と水(0.5mL)を用いて実施例2と同様の反応を行うことで、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量150mg、収率97%、LC純度97%)を得た。
【0048】
実施例4
4N−水酸化カリウム水溶液に換え、炭酸セシウム(326mg)と水(0.5mL)を用いて実施例2と同様の反応を行うことで、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量137mg、収率89%、LC純度97%)を得た。
【0049】
実施例5
4N−水酸化カリウム水溶液に換え、炭酸カリウム(138mg)と水(0.5mL)を用いて実施例2と同様の反応を行うことで、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量143mg、収率93%、LC純度92%)を得た。
【0050】
実施例6
アルゴン気流下、4−(ピリジン−2−イル)フェニルボロン酸(129mg)、2−(3,5−ジブロモフェニル)−4,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−1,3,5−トリアジン(155mg)、酢酸パラジウム(0.6mg)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル(4.8mg)、4規定−水酸化ナトリウム水溶液(0.31mL)をテトラヒドロフラン(5.0mL)に懸濁し、18時間還流した。反応混合物を放冷後、水(0.5mL)を加えた。析出した固体をろ別し、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量180mg、収率94%、LC純度96%)を得た。
【0051】
実施例7
2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニルに換え、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(4.1mg)を用いて実施例6と同様の反応を行うことで、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量184mg、収率96%、LC純度98%)を得た。
【0052】
実施例8
酢酸パラジウムに換え、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(2.3mg)を用いて実施例6と同様の反応を行うことで、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量188mg、収率98%、LC純度97%)を得た。
【0053】
実施例9
酢酸パラジウムおよび2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2‘,4’,6’−トリイソプロピルビフェニルに換え、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(2.3mg)および2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2‘,6’−ジメトキシビフェニル(4.1mg)を用いて実施例6と同様の反応を行うことで、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量187mg、収率97%、LC純度98%)を得た。
【0054】
実施例10
【0055】
【化8】

【0056】
アルゴン気流下、4−(ピリジン−2−イル)フェニルボロン酸(27.7g)、2−(3,5−ジブロモフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン(25.0g)、酢酸パラジウム(240mg)、トリ−tert−ブチルホスフィン(3.2mmol)を含むトルエン溶液(3.6mL)をテトラヒドロフラン(1.2L)に懸濁し、加熱還流した。16重量%−水酸化ナトリウム水溶液(100mL)を加え、さらに3時間還流した。反応混合物を放冷後、溶媒を減圧留去し、水(70mL)を加えた。析出した固体をろ別した。得られた粗生成物をオルトキシレンから再結晶し、2,4−ジフェニル−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量28.9g、収率87%、LC純度99%)を得た。
【0057】
H−NMR(CDCl):δ7.25(ddd、J=7.2,4.8,1.2Hz,2H),7.57−7.67(m,6H),7.78−7.82(m,2H),7.94(d,J=8.3Hz,4H),8.15(t,J=1.7Hz,1H),8.20(d,J=8.3Hz,4H),8.76(brd,J=4.8Hz,2H),8.79−8.85(m,4H),9.05(d,J=1.7Hz,2H)
13C−NMR(CDCl):δ120.6,122.3,126.9,127.5,127.9,128.8,129.1,129.9,132.7,136.2,136.9,137.5,138.9,141.3,141.9,149.9,157.0,171.5,171.8
比較例1
【0058】
【化9】

【0059】
アルゴン気流下、4−(ピリジン−2−イル)フェニルボロン酸(7.76g)、2−(3,5−ジブロモフェニル)−4,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−1,3,5−トリアジン(9.29g)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(420mg)を、テトラヒドロフラン(338mL)および4規定−水酸化ナトリウム水溶液(18.8mL)の混合溶液に懸濁し、6時間還流した。反応混合物を放冷後、溶媒を留去し、水(20mL)を加えた。析出した固体をろ別し、2,4−ビス(ビフェニル−3−イル)−6−[4,4”−ビス(ピリジン−2−イル)−1,1’:3’,1”−テルフェニル−5’−イル]−1,3,5−トリアジンの白色固体(収量10.2g,収率89%、LC純度91%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメタンスルホキシ基を表す。Yは各々独立して水素原子またはメチル基を表す。nは1〜3の整数を表す。Arは置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。)
で示される化合物と、一般式(2)
【化2】

(式中、Arは置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基を表し、2つの(OR)は結合するホウ素原子と一体となって環を形成してもよい。)
で示される有機ホウ素化合物とを、第三級ホスフィンを配位子として有するパラジウム触媒と、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属リン酸塩から選ばれる少なくとも一種の塩基の存在下にカップリング反応させることを特徴とする、一般式(3)
【化3】

(式中、Y、n、ArおよびArは前記と同じである。)
で示される1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項2】
配位子が、一般式(4)
【化4】

(式中、Rは炭素数4〜8の第三級アルキル基を表す。)
または一般式(5)
【化5】

(式中、Arは置換されていてもよいフェニル基を表す。Rは炭素数4〜8の第二級アルキル基もしくは第三級アルキル基を表す。)
で示される第三級ホスフィンであることを特徴とする請求項1に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項3】
がtert−ブチル基、またはRがシクロへキシル基であり、Arが2,4,6−トリイソプロピルフェニル基もしくは2,6−ジメトキシフェニル基であることを特徴とする請求項2に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で示される1,3,5−トリアジン化合物に対し、パラジウム触媒を0.001〜20モル%用いることを特徴とする請求項1〜3に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項5】
塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸セシウムおよびリン酸カリウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)で示される1,3,5−トリアジン化合物に対し、塩基を3〜15倍モル用いることを特徴とする請求項1〜5に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項7】
Arが置換されていてもよいフェニル基もしくはナフチル基であることを特徴とする請求項1〜6に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項8】
Arが少なくとも一つのピリジル基が置換している芳香族炭化水素基であることを特徴とする請求項1〜7に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。
【請求項9】
Arが4−(ピリジン−2−イル)フェニル基であることを特徴とする請求項1〜8に記載の1,3,5−トリアジン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−100552(P2010−100552A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272525(P2008−272525)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】