説明

1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置

【課題】1,4−ジオキサン分解菌を用いた1,4−ジオキサン含有廃水の生物学的処理において、1,4−ジオキサンの大気放出の問題を特別な分解装置を必要としない簡単な構成で効果的に解決することができる。
【解決手段】1,4−ジオキサンを含有する廃水の処理装置10において、廃水をエア曝気する散気管14Aを備えると共に1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、廃水をエア曝気しながら1,4−ジオキサン分解菌とを接触させる生物処理槽12と、生物処理槽12のエア曝気により廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを、生物処理槽12に戻す戻し手段14と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置に係り、特に廃水中の1,4−ジオキサンを1,4−ジオキサン分解菌で生物学的に処理する1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4−ジオキサンは一般的に溶剤等として使用されており、塗料などの溶剤として使用されることが多い。また、市販のポリオキシアルキルエーテルのような洗剤中にも含まれている。このため、1,4−ジオキサンを製造する製造工場あるいはポリオキシアルキルエーテルを製造する製造工場の工場廃水、及びポリオキシアルキルエーテルを含有する洗剤を使用した家庭廃水を介して1,4−ジオキサンが下水等に排出される。
【0003】
しかし、1,4−ジオキサンは水溶性の難分解性物質であるため、下水処理場における生物処理や固液分離処理では殆ど分解できず、水環境に対する汚染が懸念されている。
【0004】
一方、環境庁の行う指定化学物質の環境汚染調査において、1,4−ジオキサンは広い範囲で検出されており、特に河川や湖沼等の水環境中での汚染が報告されている。また、地下水から1,4−ジオキサンが検出された例も報告されている。
【0005】
このような背景から、平成16年4月の水道法の改正に伴い、飲料水基準として1,4−ジオキサンの規制値を0.05mg/Lとする内容が導入された。更に、平成22年4月には、環境基準値が制定されており、廃水中の1,4−ジオキサンを効率的に分解除去するための処理技術が要望されている。
【0006】
従来、廃水中の1,4−ジオキサンを分解除去する方法としては、オゾン処理を主として過酸化水素処理及び紫外線処理を併用し、OHラジカルの形成を促進する促進酸化法が提案されている(例えば特許文献1〜3)。また、金属触媒下で過酸化水素水を添加して、OHラジカルを形成させるフェントン酸化法も知られている。
【0007】
しかし、特許文献1〜3の促進酸化法や、フェントン酸化法は、電力消費や薬品使用料が多く、ランニングコストが大きくなるという問題がある。このため、低コストで処理が可能な生物学的な処理方法の開発が求められている。
【0008】
従来、1,4−ジオキサンの生物学的な処理は困難であるとされており、生物学的な処理に関する詳細な報告は極めて少ない。その中で、本出願の出願人は、1,4−ジオキサンを分解する微生物(以後「1,4−ジオキサン分解菌」という」の活性を向上させ、廃水処理に適用することを提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−029966号公報
【特許文献2】特開2001−121163号公報
【特許文献3】特開2000−202466号公報
【特許文献4】特開2008−306939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、出願人は、1,4−ジオキサン分解菌を用いて、実際の廃水(例えば下水)を具体的に処理する上で次の問題があることを見出した。
【0011】
即ち、1,4−ジオキサン分解菌を有する生物処理装置で生物学的に分解処理する場合、好気性条件を必要とするためエア曝気すると、廃水中の1,4−ジオキサンの一部が大気中に放出されてしまうという問題が生じる。しかし、廃水から放出される1,4−ジオキサンを分解処理するための特別な分解装置を設けることは、装置コストが増大するという弊害がある。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、1,4−ジオキサン分解菌を用いた1,4−ジオキサン含有廃水の生物学的処理において、1,4−ジオキサンの大気放出の問題を特別な分解装置を必要としない簡単な構成で効果的に解決することができる1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1は、1,4−ジオキサンを含有する廃水の処理方法において、前記廃水を生物処理槽内でエア曝気しながら1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌と接触させて処理水を得る生物処理工程と、前記生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを前記生物処理槽に戻す戻し工程と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、1,4−ジオキサンを生物処理槽において生物学的に処理する際のエア曝気で放出したガス中の1,4−ジオキサンを再び生物処理槽に戻して生物処理するようにした。これにより、生物処理槽を中心とした1,4−ジオキサン処理のためのクローズドシステムを簡単な構成で構築することができるので、放出したガスを分解処理するための特別な分解装置を必要としないで大気放出の問題を解決することができる。
【0015】
ちなみに、特別な分解装置で物理化学的に1,4−ジオキサンを分解する場合には、分解廃液が発生し、この処理を行う装置も必要になる。
【0016】
本発明の処理方法において、前記廃水中の1,4−ジオキサン量と、前記廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン量とのバランスを制御する制御工程を有することが好ましい。
【0017】
このように、廃水中の1,4−ジオキサン量と、廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン量とのバランスを制御することにより、生物処理槽での1,4−ジオキサンの分解効率を高めることができる。この分解効率の良し悪しをエア曝気量との関係で見ると、廃水中の溶存酸素要求量(DO)を2.0〜6.0mg/Lの範囲になるように調整することで高い分解効率を得ることができる。廃水中の溶存酸素要求量(DO)のより好ましい範囲は、3.0〜5.0mg/Lである。
【0018】
本発明の処理方法において、前記戻し工程では、前記廃水から放出されたガスをスクラビング処理することにより前記ガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収し、該スクラビング水を前記生物処理槽に戻すことが好ましい。
【0019】
本発明の処理方法において、前記スクラビング水として、前記生物処理槽での処理水を使用することが好ましい。スクラビング水として水道水や工業用水を使用することも勿論可能であるが、これらの水を使用すると、生物処理槽内の水量が増加するため、水理学的滞留時間が変動してしまうので、1,4−ジオキサンの分解効率に悪影響が生じる。
【0020】
これに対して、生物処理槽で処理した処理水をスクラビング水として使用すれば、生物処理槽内の水量が増加しないので、水理学的滞留時間が安定し、1,4−ジオキサンの分解効率に悪影響が生じない。
【0021】
本発明の処理方法において、前記戻し工程では、前記廃水から放出されたガスを前記生物処理槽のエア曝気用ガスとして戻すことが好ましい。これにより、廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを簡単な構成で生物処理槽に戻すことができる。
【0022】
前記目的を達成するために、本発明の請求項7は、1,4−ジオキサンを含有する廃水の処理装置において、前記廃水をエア曝気する曝気手段を備えると共に前記1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、前記廃水をエア曝気しながら前記1,4−ジオキサン分解菌とを接触させる生物処理槽と、前記生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを、前記生物処理槽に戻す戻し手段と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項7は、本発明を装置として構成したものであり、従来の問題であった1,4−ジオキサンの大気放出の問題を簡単な構成で解決することができる。これにより、生物処理槽を中心とした1,4−ジオキサン処理のためのクローズドシステムを簡単な構成で構築することができるので、放出したガスを分解処理するための特別な分解装置を必要としないで大気放出の問題を解決することができる。
【0024】
本発明の処理装置において、前記廃水中の1,4−ジオキサン量と、前記廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン量とのバランスを制御する制御手段を有し、前記制御手段は、前記廃水中の溶存酸素要求量を測定するDO測定手段と、前記DO測定手段の測定結果に基づいて所定の溶存酸素要求量になるように前記曝気手段からのエア曝気量を調整する曝気量コントローラと、を備えることが好ましい。これにより、上記したように、生物処理槽での1,4−ジオキサンの分解効率を高めることができる。
【0025】
本発明の処理装置において、前記戻し手段は、前記廃水から放出されたガスをスクラビング処理することにより前記ガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収し、該スクラビング水を前記生物処理槽に戻すスクラビング処理装置であることが好ましい。これにより、廃水から放出されたガスを簡単な構成で生物処理槽に戻すことができる。
【0026】
本発明の処理装置において、前記戻し手段は、前記生物処理槽の密閉構造に形成されたヘッドスペースと前記曝気手段とを繋ぐ配管と、前記配管に設けられ、前記ヘッドスペースに溜まったガスを前記曝気手段に送る送風ファンと、を備えたことを特徴とする。これは戻し手段の別態様であり、廃水から放出されたガスを簡単な構成で生物処理槽に戻すことができる。
【0027】
本発明の処理装置において、前記生物処理槽は、前記生物処理槽を覆う蓋部材と、前記生物処理槽に廃水が供給される供給口及び前記生物処理槽で処理された処理水の排出口に形成された水封構造と、を備えることが好ましい。
【0028】
これにより、廃水から放出されたガスが大気に漏洩することを確実に防止することができるので、1,4−ジオキサン処理のクローズシステムを一層確実に構築できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、1,4−ジオキサン分解菌を用いた1,4−ジオキサン含有廃水の生物学的処理において、1,4−ジオキサンの大気放出の問題を特別な分解装置を必要としない簡単な構成で効果的に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置の第1の実施の形態を説明する断面図
【図2】第1の実施の形態の変形例を説明する断面図
【図3】本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置の第2の実施の形態を説明する断面図
【図4】本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置の第3の実施の形態を説明する断面図
【図5】本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置の第4の実施の形態を説明する断面図
【図6】1,4−ジオキサン分解菌を含有する包括固定化担体の製造ステップの説明図
【図7】エア曝気による1,4−ジオキサンの廃水からの除去率を示す図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面に従って本発明に係る1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0032】
[第1実施の形態]
図1に示す1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10は、主として、1,4−ジオキサンを含有する廃水をエア曝気する曝気手段を備えると共に1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、廃水をエア曝気しながら1,4−ジオキサン分解菌とを接触させる生物処理槽12と、生物処理槽12のエア曝気により廃水から放出されたガスを生物処理槽12に戻す戻し手段14(例えばスクラビング装置14)と、で構成される。
【0033】
生物処理槽12は、天井面12Aが閉じられた槽として形成され、天井面12Aに排気口13が設けられる。生物処理槽12には廃水の原水配管16が接続されると共に、生物処理槽12内の底部には曝気管18が設けられ、曝気管18はブロア20に接続される。これにより、生物処理槽12に流入した1,4−ジオキサン含有の廃水をエア曝気して好気性状態にする。また、生物処理槽12の廃水中にDO測定器22が設けられ、DO測定器22が信号ケーブル又は無線により曝気量コントローラ24に接続される。そして、曝気量コントローラ24は、DO測定器22による廃水中のDO(溶存酸素要求量)に応じて、廃水中のDOが2.0〜6.0mg/Lの範囲、より好ましくは3.0〜5.0mg/Lの範囲になるように制御する。
【0034】
また、生物処理槽12の上部で、原水配管16とは反対側にトラフ26が設けられ、生物処理槽12で処理された処理水が処理水排出口28からトラフ26に流出する。処理水排出口28は、生物処理槽12の液面よりも下方に形成され、トラフ26に溜まった処理水により水封される。これにより、エア曝気により廃水から放出されたガスが処理水排出口28から外部にリークすることを防止している。
【0035】
また、生物処理槽12内には、1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、この1,4−ジオキサン分解菌は好気性状態下で1,4−ジオキサンを分解する。ここで、「1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有する」とは、1,4−ジオキサン分解菌のみが存在するとの誤解を避ける意味であり、他の細菌が併存していてもよい。
【0036】
1,4−ジオキサン分解菌を含む種汚泥としては、1,4−ジオキサンを扱う工場(例えば1,4−ジオキサンを製造する製造工場あるいはポリオキシアルキルエーテルを製造する製造工場)の土壌、あるいはその工場廃水を処理する廃水処理場の汚泥等を用いることができる。しかし、このまま種汚泥を生物処理槽12に投入しても1,4−ジオキサン分解菌の菌数濃度が低く十分な活性を発揮することはできないので、予め培養することが好ましい。1,4−ジオキサンの単離・培養の説明については後述する。
【0037】
また、曝気管18によって廃水をエア曝気することによって廃水から放出されるガスを生物処理槽12に戻す戻し手段14として、ここでは生物処理槽12の液面上方に設けたスクラビング処理装置14の散水管14Aの例で説明する。
【0038】
スクラビング処理装置14は、散水管14Aと、散水管14Aにスクラビング水を供給する供給配管14Bとで構成される。散水管14Aは、液面全体をカバーできるように複数設けることが好ましい。この場合、散水管14Aからスクラビング水をミスト状に噴霧して、液面上方にミスト層を形成することも好ましい。スクラビング水としては、水道水、工業用水を使用することができるが、生物処理槽12で処理された処理水を使用することがより好ましい。即ち、図2に示すように、散水管14Aに接続された供給配管14Bの先端に水中ポンプ14Cを設け、この水中ポンプ14Cをトラフ26に溜まった処理水中に浸漬させる。
【0039】
次に、上記の如く構成された1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10を用いて廃水中から1,4−ジオキサンを除去するための処理方法について説明する。
【0040】
原水配管16から生物処理槽12に供給された廃水は、曝気管18によるエア曝気によって好気性状態下で1,4−ジオキサン分解菌と接触する。これにより、廃水中に含有される1,4−ジオキサンが分解処理される。
【0041】
本発明で使用する1,4−ジオキサン分解菌は好気性細菌である。また、廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを再び生物処理槽12に戻し、廃水中及びガス中の合計の1,4−ジオキサン量は殆ど変わらない。したがって、廃水から1,4−ジオキサンを分解除去する観点から見ると、エア曝気量を多くして好気性微生物である1,4−ジオキサンの分解効率を向上させる方向に考え易い。
【0042】
しかしながら、本発明者は次の知見を得た。即ち、エア曝気量が多過ぎると、1,4−ジオキサンが廃水中で1,4−ジオキサン分解菌と接触する時間よりも、ガス中に存在して分解処理されない時間の方が長くなるため、分解効率が悪くなる。逆に、エア曝気量が少な過ぎると、1,4−ジオキサン分解菌が十分に酸素を消費できないだけでなく、廃水中における1,4−ジオキサン負荷が大きくなり過ぎるために、1,4−ジオキサンの分解効率が悪くなる。
【0043】
したがって、エア曝気の曝気量を調整し、廃水中の1,4−ジオキサン量と、廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン量とのバランスを制御することにより、生物処理槽での1,4−ジオキサンの分解効率を高めることができる。
【0044】
ここで、図2の試験装置を用いて、エア曝気量と分解効率の関係を調べた試験結果を説明する。試験は、スクラビング装置14を稼働せずに、エア曝気量を変えたときに、排気口13から排出される1,4−ジオキサン量と、処理水中の1,4−ジオキサン濃度とがどのように変わるかを調べた。
【0045】
有効容積1Lの反応槽(生物処理槽)を用い、反応槽内部に1,4−ジオキサン分解菌を固定化した包括固定化担体を100mL(10%充填率)充填した。水温を25℃とすると共に、pHコントローラによりpHが7.0となるように水酸化ナトリウムを自動供給した。
【0046】
そして、エア曝気量をコントロールすることで反応槽内のDO値(溶存酸素)を変動させて、そのときの処理水中の1,4−ジオキサン濃度及び排気口13から排出される1,4−ジオキサン量を調べた。
【0047】
その結果、反応槽内のDO値を2〜6mg/Lの範囲にすると、反応槽内での生物反応が良好になり、処理水中の1,4−ジオキサン濃度は10mg/L程度となった。
【0048】
しかしながら、DO値が2mg/Lを下回ると、曝気量不足により包括固定化担体が反応槽内で流動せず攪拌が不完全となった。これにより、1,4−ジオキサン含有水と、1,4−ジオキサン分解菌を包括固定した担体との接触効率が悪くなり、処理水中の1,4−ジオキサン濃度が20mg/L以上に上昇する傾向が確認された。
【0049】
また、DO値を6mg/Lを超えると処理水中の1,4−ジオキサン濃度は10mg/L程度で変わらないものの、反応槽外に気散する1,4−ジオキサン量が急激に増加し、DO値を6mg/Lのときの1.5倍以上まで増加することが確認された。
【0050】
この結果から、エア曝気量は、反応槽(生物処理槽)のDO値で見たときに、2.0〜6.0mg/Lの範囲であることが好ましく、より好ましくは安全を見て3.0〜5.0mg/Lの範囲になるように制御することにより、高い分解効率を得ることができる。
【0051】
ところで、1,4−ジオキサンはエア曝気により廃水中から放出され易く、1,4−ジオキサン量の放出率は30%以上となり、多い場合には70%程度になる。しかし、大気汚染の問題から、放出されたガスをそのまま大気に逃がすことはできない。ここで放出率30%とは、エア曝気しない前の廃水中の1,4−ジオキサンの30%がエア曝気により廃水から放出されることを意味する。
【0052】
そこで、本発明では、生物処理槽12の液面上方に複数の散水管14Aを設け、廃水から放出されるガスを、散水管14Aから散水されるスクラビング水によりスクラビング処理するようにした。これにより、水溶性である1,4−ジオキサンは、スクラビング水中に吸収され、1,4−ジオキサンを吸収したスクラビング水が生物処理槽12の液面に降り注ぐ。これにより、スクラビング水中の1,4−ジオキサンが生物処理槽12において分解処理される。
【0053】
この場合、スクラビング水として水道水や工業用水を使用することも勿論可能であるが、これらの水を使用すると、生物処理槽12内の水量が増加するため、水理学的滞留時間が変動してしまうので、1,4−ジオキサンの分解効率に悪影響が生じる。
【0054】
これに対して、図2で示したように、生物処理槽12で処理した処理水をスクラビング水として使用すれば、生物処理槽12内の水量が増加しないので、水理学的滞留時間が安定し、1,4−ジオキサンの分解効率に悪影響が生じない。
【0055】
これにより、第1の実施の形態の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10によれば、1,4−ジオキサン分解菌を用いた1,4−ジオキサン含有廃水の生物学的処理において、1,4−ジオキサンの大気放出の問題を特別な分解装置を必要としない簡単な構成で効果的に解決することができる。
【0056】
次に、1,4−ジオキサンの単離・培養について説明する。
【0057】
〈1,4−ジオキサンの単離・培養〉
1,4−ジオキサン分解菌は増殖速度が極めて小さいため、単離工程において他の微生物が混入し、優先的に増殖しないようにする必要がある。そして、培養工程では、単離した1,4−ジオキサン分解菌の増殖を促すために、1,4−ジオキサン分解菌に有機物を与えることが重要である。このため、単離工程では、有機物として1,4−ジオキサンのみを含む無機培地を使用し、培養工程では1,4−ジオキサン以外の有機物を主に含む有機培地を使用する。
【0058】
即ち、単離工程では、まず、無機培地に、濃度が10〜100mg/Lとなるよう1,4−ジオキサンを添加した培地100〜500mLに、1,4−ジオキサン分解菌を含む種汚泥(ジオキサンを含む廃水の廃水処理工程から採取した汚泥)を約500〜20000mg/L添加し、集積培養する。集積培養は、20〜30℃の条件下で、約1〜3ヶ月間行うことが好ましい。なお、1,4−ジオキサン分解菌の存在については、培地中の1,4−ジオキサン濃度変化を測定することにより確認できる。1,4−ジオキサン濃度の減少率が50%を超えた段階で、集積培養を終了することが好ましい。培地中の1,4−ジオキサン濃度は、公知の方法により測定できる(安部明美(1997)環境化学 vol.7 No1 p95-100)。
【0059】
集積培養を終了した後、上記無機培地に寒天を10〜15%添加した平板培地で、20〜35℃恒温下にて静置培養する。静置培養後、コロニーが形成されたことを確認することで、1,4−ジオキサン分解菌を単離することができる。
【0060】
無機培地を構成する無機物質としては、特に限定されないが、無機塩類(例えば、KHPO、(NHSO、MgSO・7HO、FeCl、CaCl、NaCl)が好ましい。
【0061】
次の培養では、上記のように単離した1,4−ジオキサン分解菌を、有機物を主成分とする有機培地で培養する。有機物としては、CGY培地、具体的には、ペプトン、肉エキス、グリセリン、カジトン、酵母エキス等の易分解性の有機物が好ましい。有機物には、1,4−ジオキサンが含まれてもよい。培養は、1,4−ジオキサン分解菌の活性が約27℃で最も高いことから、培養温度は27℃が好ましく、水温としては約15〜35℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。培養時間は、約5〜30日間が好ましい。
【0062】
1,4−ジオキサン分解菌は、菌数が少ないうちに過剰に1,4−ジオキサンが与えられると増殖しにくく、一方、1,4−ジオキサンが全く与えられないと1,4−ジオキサン分解活性が低下する。このため、培養初期には1,4−ジオキサン以外の有機物を与え、1,4−ジオキサン分解菌の菌数がある程度増加した培養中期、後期において、1,4−ジオキサンを与えることが好ましい。すなわち、1,4−ジオキサン以外の有機物は、主に、1,4−ジオキサン分解菌の増殖を促すように機能し、1,4−ジオキサンは、主に、1,4−ジオキサン分解菌の分解活性を維持又は向上させるように機能する。1,4−ジオキサンの添加は、1,4−ジオキサン分解菌の菌数が1×10cells/mL以上となったときに行うことが好ましい。1,4−ジオキサンの添加量は、有機培地に対して1〜500mg/L以上であり、10〜200mg/L以上とすることが好ましい。これは、1,4−ジオキサンが1mg/L未満であると、1,4−ジオキサン分解菌の分解活性を復活させる効果が小さくなるためである。また、1,4−ジオキサンが200mg/L以
上になると分解活性がそれ以上変わらなくなり、1000mg/Lとしても200mg/Lのときと同等であるためである。また、培地を無害な状態で廃棄するために、培地中の1,4−ジオキサン濃度をできるだけ低くする必要がある。このため、1,4−ジオキサンの添加は、1,4−ジオキサン分解菌の菌数や活性の程度に応じて、少量ずつ行うのが好ましい。なお、培養初期から、1,4−ジオキサンを有機培地に含有させてもよい。この場合、1,4−ジオキサンの含有量は、上記と同様にすることができる。
【0063】
培養した1,4−ジオキサン分解菌は、そのまま第2生物処理槽内に投入して使用することもできるが、より高密度に廃水中に投入するために、1,4−ジオキサン分解菌を担体材料に固定化したものを使用することが好ましい。固定化方法としては、含水ゲルに培養した1,4−ジオキサンを包括固定して槽内に流動させる方法(包括固定化担体)、担体材料の表面に培養した1,4−ジオキサンを付着固定して槽内に流動させる方法(付着固定化担体)、及び固定床に培養した1,4−ジオキサンを固着する方法等がある。
【0064】
なお、1,4−ジオキサン分解菌としては、Pseudonocardia dioxanivoransが報告されており、分譲機関(ATCC:American Type Culture Collection) を通して購入し、分解試験に活用することもできる(1,4Dioxane biodegradation at low temperatures in Arctic groundwater samples Water Research, Volume 44 ,Issue 9, 2010,Pages 2894-2900参照) 。
【0065】
[第2実施の形態]
図3は、第2の実施の形態の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10であり、廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを生物処理槽12に戻す戻し手段14を別の態様に変えたものである。なお、第1の実施の形態で説明したと同様の装置、部材は同符号を付すと共に説明は省略する。
【0066】
第2の実施の形態の生物処理槽12は、上面が開放されていない密閉構造に形成され、液面上方にエア曝気により放出されたガスが溜まるヘッドスペース30が形成される。また、処理水排出口28も上記説明したように水封構造に形成される。
【0067】
そして、戻し手段14は、ヘッドスペース30とブロア20とを繋ぐ配管32と、配管32に設けられヘッドスペース30に溜まったガスをブロア20の吸込口側に送風する送風ファン34と、送風ファン34とブロア20との間に設けられたバッファータンク36とで構成される。
【0068】
これにより、ヘッドスペース30に溜まったガスを送風ファン34によりバッファータンク36を経由してブロア20に送り、曝気管18からエア曝気用ガスとして廃水中に曝気するようにした。この場合、送風ファン34で送風する風量よりも、曝気管18から曝気する風量が多くなるようにすることが好ましく、バッファータンク36が負圧になる。これにより、逆止弁38が開いて大気がバッファータンク36内に補充される。
【0069】
1,4−ジオキサンは水溶性であり、1,4−ジオキサンを含むガスを廃水中に曝気することにより、1,4−ジオキサンは廃水中に溶解する。これにより、生物処理槽12において、ガス中の1,4−ジオキサンと1,4−ジオキサン分解菌とが接触するので、生物処理槽12から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを効果的に除去することができる。
【0070】
これにより、第2の実施の形態の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10についても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
[第3実施の形態]
図4は、第3の実施の形態の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10であり、廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを生物処理槽12に戻す戻し手段14を更に別の態様に変えたものである。なお、第1及び第2の実施の形態で説明したと同様の装置、部材は同符号を付すと共に説明は省略する。
【0072】
図4に示すように、生物処理槽12は、生物処理槽12を覆う蓋部材40が設けられ、これにより液面上方にヘッドスペース30が形成される。生物処理槽の一端側側面上部には原水配管16の先端部がヘッドスペース30に挿入される開口42が形成されると共に、生物処理槽12の他端側側面上部には処理水が排出される越流口44が形成される。即ち、第3の実施の形態では、開口42及び越流口44を介してヘッドスペース30と外部とが連通される。
【0073】
また、生物処理槽12の上方に、密閉構造のスクラビング塔46が設けられ、スクラビング塔46内の上部位置にスクラビング水の散水管46Aが設置される。スクラビング塔46内の下部位置にスクラビング水の貯水部46Bが設けられ、貯水部46Bと散水管46Aとは循環ポンプ46Cを介して循環用配管46Dにより接続される。更に、貯水部46Bにはスクラビング水を供給する供給配管46Eが接続される。なお、スクラビング塔46の天井面に排気口13が設けられる。
【0074】
また、スクラビング塔46の側面で散水管46Aと貯水部46Bとの間から延びたガス導入管46Fが、生物処理槽12の蓋部材40を貫通してヘッドスペース30まで延設されると共に、ガス導入管46Fには送風ファン46Gが設けられる。また、スクラビング塔46の貯水部46Bから下方に延びた戻し配管46Hが、生物処理槽12の蓋部材40を貫通してヘッドスペース30に延設されると共に、戻し配管46Hには流量調整バルブ46Jが設けられる。
【0075】
これにより、生物処理槽12のヘッドスペース30に溜まったガスは、ガス導入管46Fを経由してスクラビング塔46に送られ、散水管46Aから散水されるスクラビング水によってスクラビング処理される。そして、ガス中の1,4−ジオキサンはスクラビング水に吸収され、1,4−ジオキサンを吸収したスクラビング水が貯水部46Bに溜まる。スクラビング塔46の運転開始時には、供給配管46Eから貯水部46Bにスクラビング水が予め貯水される。供給配管46Eから貯水部46Bに供給されるスクラビング水としては、水道水、工業用水、及び生物処理槽での処理水を使用することができる。
【0076】
貯水部46Bに溜まったスクラビング水の一部は、流量調整バルブ46Jの開度に応じた一定量が、戻し配管46Hを介して重力により落流して生物処理槽12に戻され、スクラビング水中の1,4−ジオキサンが生物処理される。
【0077】
また、生物処理槽12に戻されたスクラビング水と同量のスクラビング水が、供給配管46Eから貯水部46Bに補充される。これにより、スクラビング水中の1,4−ジオキサン濃度が上昇し、スクラビング効率が低下することを防止できる。
【0078】
したがって、第3の実施の形態の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10についても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
[第4実施の形態]
図5は、第4の実施の形態の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10であり、生物処理槽12への廃水供給口と処理水排出口を水封構造にすると共に、1,4−ジオキサン分解菌を包括固定し、包括固定化担体を集積培養させたものを生物処理槽12に投入した場合である。なお、図4と同様の装置及び部材は同符号を付して、説明は省略する。
【0080】
図5に示すように、生物処理槽12に廃水が供給される入口トラフ48が設けられ、入口トラフ48と生物処理槽12とを連通する廃水供給口50が生物処理槽12の液面よりも下方に形成される。同様に、生物処理槽12で処理された処理水が排出される出口トラフ52が設けられ、出口トラフ52と生物処理槽12とを連通する処理水排出口54が生物処理槽12の液面よりも下方に形成される。これにより、廃水供給口50は入口トラフ48に溜まった廃水で水封され、処理水排出口54は出口トラフ52に溜まった処理水により水封される。また、生物処理槽12には、1,4−ジオキサン分解菌を培養して菌数を高めた包括固定化担体56が投入される。包括固定化担体の製造方法については後記する。なお、生物処理槽12は水封されており、ブロア20で送られたエアはガス導入管46Fを通してスクラビング塔46へ移送できるので、ファン46Gは必ずしも必要ではない。
【0081】
このように構成された第4の実施の形態の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10によれば、第1〜第3の実施の形態に比べて処理水中の1,4−ジオキサン濃度を顕著に低減できると共に、エア曝気によって放出される1,4−ジオキサンの量も低減できる。
【0082】
次に、1,4−ジオキサン分解菌含有の包括固定化担体の製造方法を説明する。
【0083】
〈1,4−ジオキサン分解菌含有の包括固定化担体の製造方法〉
1,4−ジオキサン分解菌を、以下の方法で包括固定化したものを用いた。
【0084】
図6は、包括固定化担体の製造方法の流れを説明する図である。図6に示すように、まず、プレポリマー材料等の固定化材料と、単離した1,4−ジオキサン分解菌の培養液とを混合し、pHを中性付近(6.5〜8.5)に調整した混合液を調製する。本実施例では、固定化材料として、ポリエチレングリコール系のものを使用した。
【0085】
次いで、この混合液に重合開始剤(本実施例では過硫酸カリウムを使用)を添加して攪拌した後、直ちにシート形状又はブロック形状にゲル化させる(重合させる)。重合温度は、15〜40℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。重合時間は1〜60分が好ましく、10〜60分がより好ましい。そして、ゲル化させたシート又はブロックを所定のサイズ(本実施例では、略3mm角の立方体状)に切断し、これにより包括固定化担体を得た。1,4−ジオキサン分解菌の初期固定化濃度としては、1×10cells/mL・担体とした。
【0086】
そして、得られた包括固定化担体を、1,4−ジオキサンを含む無機廃水を用いて水温25℃、1,4−ジオキサン負荷を1〜8kg−(Dioxan)/m・担体/日とし、約1カ月間連続培養を行った。その結果、担体当たりの1,4−ジオキサン分解活性が7.1kg−(Dioxan)/m・担体となり、この包括固定化担体を試験Aに使用した。
【0087】
なお、包括固定化担体の製造方法は、上記した方法に限らず、チューブ成形法、滴下造粒法等を採用することもできる。
【0088】
なお、図5で示した処理装置のみに包括固定化担体56を投入しているが、図1〜図4の処理装置に包括固定化担体56を投入してよいことは勿論である。
【0089】
また、本発明の処理装置を多段に設けることもできる。これにより、1,4−ジオキサン処理のクローズシステムを連続的に形成できるので、1,4−ジオキサンが大気放出される問題を解決し、しかも最終段の生物処理槽で処理した処理水中の1,4−ジオキサン濃度を極めて低レベルまで下げることが可能となる。
【0090】
[実施例]
[試験A(スクラビングなし、1,4−ジオキサン分解菌担体なし)]
試験Aでは、図1の処理装置からスクラビング装置を外した装置を形成した。この装置で1,4−ジオキサン含有廃水を処理したときに、処理水中の1,4−ジオキサン濃度、及びエア曝気により廃水から大気中に放出される1,4−ジオキサン量を調べた。
【0091】
試験Aは、1,4−ジオキサン濃度が500mg/Lの無機合成廃水を用いた。また、反応容積が1Lの生物処理槽に、1,4−ジオキサンを含む化学工場の廃水を長期間処理していた活性汚泥を付着させて生物膜を形成したプラスチック担体を、見掛け充填率で40%になるように充填した。そして、無機合成廃水を生物処理槽に供給し、滞留時間(HRT)が24時間(1L/日)になるように連続通水した。水温は25℃とした。このときの1,4−ジオキサン負荷は0.5g/日になる。また、生物処理槽のエア曝気量は0.8L/分(DOとして約4.0mg/L)で行った。
【0092】
その結果、処理水中の1,4−ジオキサン濃度は230mg/Lとなった。このとき、エア曝気により廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン濃度を排気口の位置で測定し、エア曝気量から1日の1,4−ジオキサン気散量を計算したところ、0.24g/日であった。
【0093】
このことは、試験Aでの1,4−ジオキサン負荷が0.5g/日であることから、約半分の1,4−ジオキサンが大気中に気散したことになる。したがって、上記の生物膜を形成したプラスチック担体は、1,4−ジオキサンの分解活性は殆どないことが分かった。
【0094】
[試験B(スクラビングあり、1,4−ジオキサン分解菌担体なし)]
試験Bでは、生物処理槽の処理水をスクラビング装置の散水管から散水するように構成した図2の処理装置を用いて行った。その他の条件は、試験Aと同様である。
【0095】
その結果、処理水中の1,4−ジオキサン濃度は360mg/Lとなり、試験Aの処理水よりも高くなった。このとき、エア曝気により廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン濃度を測定し、エア曝気量から1日の1,4−ジオキサン気散量を計算したところ、0.12g/日であった。
【0096】
このことは、試験Bのように廃水から放出されるガスをスクラビング処理して、ガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収して生物処理槽に戻すことにより、スクラビング水を外部から供給することなく、大気中に気散される1,4−ジオキサン量は試験Aの半分に減らすことができた。
【0097】
[試験C(外部スクラビングあり、1,4−ジオキサン分解菌担体なし)]
試験Cでは、処理装置の廃水供給口及び処理水供給口を水封構造にした図5の処理装置を用いて行った。但し、図5では1,4−ジオキサン分解菌の包括固定化担体を投入した図になっているが、試験Cは試験A〜Bと同様にプラスチック担体による生物膜を用いた。その他の条件は、試験Aと同様である。
【0098】
その結果、処理水中の1,4−ジオキサン濃度は440mg/Lとなり、試験Bの処理水よりも高くなった。しかし、排出口の位置において、1,4−ジオキサン気散量を計算したところ、0.03g/日となり、試験Bよりも更に低減されていた。
【0099】
このことは、試験Cのように生物処理槽の廃水供給口及び処理水供給口を水封構造にしたことで、廃水から放出されるガスが廃水供給口及び処理水供給口からリークしないだけでなく、無駄な空気が廃水供給口及び処理水供給口から侵入しないことにより、スクラビング処理の効率が向上したものと考察される。
【0100】
[試験D(スクラビングなし、1,4−ジオキサン分解菌担体あり)]
試験Dでは、試験Aと同様にスクラビング装置を有しない処理装置を用い、1,4−ジオキサン分解菌を包括固定化した担体を生物処理槽に投入した処理装置を用いて行った。1,4−ジオキサン分解菌の包括固定担体は3mm角の立方体のものを用いた。即ち、集積培養における1,4−ジオキサン分解菌の初期固定化濃度は、1×10cells/mL・担体とし、ポリエチレングリコール系の固定化材料に包括固定した。得られた包括固定化担体を、1,4−ジオキサンを含有する無機廃水を用いて水温25℃、1,4−ジオキサン負荷が2〜9kg(dioxin)/m・担体・日とし、約1カ月間連続培養を行った。このときの担体当たりの1,4−ジオキサン分解活性は5.0kg(dioxin)/m・担体となった。
【0101】
そして、得られた包括固定化担体を生物処理槽に100mL(充填率10%)になるように充填した。その他の条件は、試験Aと同様である。
【0102】
その結果、処理水中の1,4−ジオキサン濃度は10mg/Lとなり、上記した試験A〜試験Cと比べて大幅に低減されていた。また、1,4−ジオキサン気散量を計算したところ、スクラビング処理装置がないにも係わらず0.01g/日まで低減されており、試験Aの0.24g/日よりも大幅に低減された。
【0103】
このことは、試験Dのように生物処理槽内に1,4−ジオキサン分解菌を集積培養した包括固定化担体を投入したことで、廃水中の1,4−ジオキサンの分解効率が顕著に良くなったことに起因しているものと考察される。即ち、1,4−ジオキサン分解効率が良くなり廃水中の1,4−ジオキサン濃度を低濃度に維持することにより、エア曝気により廃水から放出される1,4−ジオキサン量が大幅に低減したものと考えられる。
【0104】
[試験E(廃水中の1,4−ジオキサン濃度と除去率の関係)]
試験Eでは、エア曝気によって放出されて廃水から除去される1,4−ジオキサンの除去率が、エア曝気される廃水中の1,4−ジオキサン濃度によってどのように変わるかを調べた。
【0105】
試験Eは、試験Aで用いた生物処理槽を用いて、無機合成廃水の1,4−ジオキサン濃度を次のように調製したサンプル6点について、0.75L/分の一定条件でエア曝気したときの放出されるガス中の1,4−ジオキサン濃度を調べた。但し、生物処理槽には、包括固定化担体を投入しないで行った。滞留時間(HRT)は12時間に設定した。
【0106】
試験に供した無機合成廃水中の1,4−ジオキサン濃度は、次の通りである。
【0107】
・サンプル1(S−1)…2mg/L
・サンプル2(S−2)…9mg/L
・サンプル3(S−3)…75mg/L
・サンプル4(S−4)…100mg/L
・サンプル5(S−5)…360mg/L
・サンプル6(S−6)…500mg/L
その結果を図7に示す。図7の結果から分かるように、廃水中での1,4−ジオキサン濃度に関係なく、エア曝気により廃水中の20〜40%(平均で約30%)の1,4−ジオキサンが除去されることが分かる。したがって、例えば、1,4−ジオキサン分解菌を含有する実装置規模の生物処理槽において、槽内の1,4−ジオキサン濃度が100g/mまでしか下がらない場合には、1m/日の滞留時間で処理すると、エア曝気によって1日に約30gの1,4−ジオキサンが大気に放出されてしまうことになる。
【0108】
これに対して、槽内の1,4−ジオキサン濃度を1g/mまで下げることができれば、1m/日の滞留時間で処理すると、エア曝気によって1日に0.3g程度の1,4−ジオキサンしか放出されず、放出量を顕著に低減することができる。
【0109】
即ち、エア曝気による1,4−ジオキサンの放出を抑制するには、槽内の1,4−ジオキサン濃度をできだけ下げることが極めて重要であり、そのためには、試験Eの結果から分かるように、生物処理槽での1,4−ジオキサンの分解活性を高めて、生物処理槽における廃水中の1,4−ジオキサン濃度を常に低レベルに維持することが重要になる。
【0110】
[試験F(スクラビングあり、1,4−ジオキサン分解菌担体あり)]
試験Fでは、図2の処理装置を用いて、生物処理槽内部に1,4−ジオキサン分解菌を包括固定化した包括固定化担体を100mL(充填率10%)になるように充填した。生物処理槽内の包括固定化担体が異なる以外は、試験Bと同様に行った。
【0111】
その結果、処理水中の1,4−ジオキサン濃度は10mg/Lとなった。このことは、1,4−ジオキサン分解菌を包括固定化した担体の効果により、試験Bの結果である360mg/Lから飛躍的に1,4−ジオキサン濃度を減少できたことを示しており、試験Dと同等であった。
【0112】
また、排気口から排気されるガス中の1,4−ジオキサン量は僅か0.004g/日となり、系外に排出される1,4−ジオキサン量を大幅に削減できた。
【0113】
[試験G(外部スクラビングあり、1,4−ジオキサン分解菌担体あり)]
試験Gでは、生物処理槽内部に1,4−ジオキサン分解菌を包括固定化した包括固定化担体を100mg/L(10%充填率)充填した。生物処理槽内部の包括固定化担体が異なる以外は試験Cと同様に行った。
【0114】
その結果、処理水中の1,4−ジオキサン濃度は10mg/Lとなり、試験E、Fと同等の処理性能であった。また、排気口から排気される1,4−ジオキサン量を測定した結果、気散する1,4−ジオキサン気散量は0.004g/日で試験Fと同等であり、系外に排出される1,4−ジオキサン量を大幅に削減できた。
【符号の説明】
【0115】
10…1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置、12…生物処理槽、13…排気口、14…戻し手段(スクラビング装置)、14A…散水管、14B…供給配管、14C…水中ポンプ、16…原水配管、18…曝気管、20…ブロア、22…DO測定器、24…曝気量コントローラ、26…トラフ、28…処理水排出口、30…ヘッドスペース、32…配管、34…送風ファン、36…バッファータンク、38…逆止弁、40…蓋部材、42…開口、44…越流口、46…スクラビング塔、46A…散水管、46B…貯水部、46C…循環ポンプ、46D…循環用配管、46E…供給配管、46F…ガス導入管、46G…送風ファン、46H…戻し配管、46J…流量調整バルブ、48…入口トラフ、50…廃水供給口、52…出口トラフ、54…処理水排出口、56…包括固定化担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ジオキサンを含有する廃水の処理方法において、
前記廃水を生物処理槽内でエア曝気しながら1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌と接触させて処理水を得る生物処理工程と、
前記生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを前記生物処理槽に戻す戻し工程と、を備えたことを特徴とする1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項2】
前記廃水中の1,4−ジオキサン量と、前記廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン量とのバランスを制御する制御工程を有することを特徴とする請求項1に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項3】
前記制御工程では、前記エア曝気による廃水中の溶存酸素要求量(DO)が2〜6mg/Lの範囲になるようにすることで前記バランスを制御することを特徴とする請求項2に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項4】
前記戻し工程では、前記廃水から放出されたガスをスクラビング処理することにより前記ガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収し、該スクラビング水を前記生物処理槽に戻すことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項5】
前記スクラビング水として、前記生物処理槽での処理水を使用することを特徴とする請求項4に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項6】
前記戻し工程では、前記廃水から放出されたガスを前記生物処理槽のエア曝気用ガスとして戻すことを特徴とする請求項1に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項7】
1,4−ジオキサンを含有する廃水の処理装置において、
前記廃水をエア曝気する曝気手段を備えると共に前記1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、前記廃水をエア曝気しながら前記1,4−ジオキサン分解菌とを接触させる生物処理槽と、
前記生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを、前記生物処理槽に戻す戻し手段と、を備えたことを特徴とする1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置。
【請求項8】
前記廃水中の1,4−ジオキサン量と、前記廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン量とのバランスを制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、
前記廃水中の溶存酸素要求量を測定するDO測定手段と、
前記DO測定手段の測定結果に基づいて所定の溶存酸素要求量になるように前記曝気手段からのエア曝気量を調整する曝気量コントローラと、を備えたことを特徴とする請求項7に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置。
【請求項9】
前記戻し手段は、
前記廃水から放出されたガスをスクラビング処理することにより前記ガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収し、該スクラビング水を前記生物処理槽に戻すスクラビング処理装置であることを特徴とする請求項7又は8に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置。
【請求項10】
前記戻し手段は、
前記生物処理槽の密閉構造に形成されたヘッドスペースと前記曝気手段とを繋ぐ配管と、
前記配管に設けられ、前記ヘッドスペースに溜まったガスを前記曝気手段に送る送風ファンと、を備えたことを特徴とする請求項7又は8に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置。
【請求項11】
前記生物処理槽は、
前記生物処理槽を覆う蓋部材と、
前記生物処理槽に廃水が供給される供給口及び前記生物処理槽で処理された処理水の排出口に形成された水封構造と、を備えることを特徴とする請求項9又は10に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−179590(P2012−179590A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22978(P2012−22978)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】