説明

1,4−ブタンジオールおよびその前駆体の生合成のための組成物および方法

本発明は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を有する4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒を提供し、ここで、外因性核酸は、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するのに十分な量で発現される。また、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒が提供され、この経路は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素などをコードする少なくとも1つの外因性核酸を含み、ここで、外因性核酸は、1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するのに十分な量で発現される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、一般には、生物のインシリコ(in silico)設計に関し、より具体的には、1,4−ブタンジオール生合成能力を有する生物に関する。
【0002】
化合物である4−ヒドロキシブタン酸(4−hydroxybutanoic acid)(4−ヒドロキシブタン酸塩(4−hydroxybutanoate)、4−ヒドロキシ酪酸塩(4−hydroxybutyrate)、4−HB)は、種々の商品および特殊な化学製品のための構成要素として産業上の潜在能力を有する4個の炭素の炭酸である。特に、4−HBは、溶媒、レジン、高分子前駆体、および特殊な化学製品を含む、1,4−ブタンジオールファミリーの化学製品に新しいエントリーポイントとして役立つ潜在能力を有する。1,4−ブタンジオール(BDO)は、高分子中間体および産業上溶媒であり、世界市場が約30億ポンド/年である。現在、BDOは、石油化学前駆体、主としてアセチレン、無水マレイン酸、および酸化プロピレンから生産されている。
【0003】
例えば、アセチレンをReppe合成反応(KroschwitzおよびGrant、Encyclopedia of Chem.Tech.,John Wiley and Sons,Inc.,New York(1999))において2分子のホルムアルデヒドと反応させ、その後、接触水素化によって、1,4−ブタンジオールを形成する。米国で生産される90%のアセチレンは、ブタンジオール生産のために消費されることが推定されている。あるいは、ブタンジオールは、ブタンから誘導される無水マレイン酸のエステル化および接触水素化によって形成することができる。下流では、ブタンジオールは、例えば、ピロリドンおよびN−メチル−ピロリドンにさらに転換することができる□−ブチロラクトンへの酸化によって、またはテトラヒドロフランへの水素化分解によって、さらに変換することができる(図1)。これらの化合物は、高分子中間体、溶媒、および添加物として様々な用途を有し、ほぼ20億ポンド/年の複合市場を有する。
【0004】
石油系原料の代わりに再生可能なエネルギーを用いるだけでなく、より少ないエネルギーおよび資本集約的なプロセスを用いる代替手段によってこれらの化学物質を生産する方法を開発することが望ましい。エネルギー省は、ブタンジオールファミリーの製品を製造するための主要な生物学的に生産される中間体として、1,4−二塩基酸、特にコハク酸を提案している(DOEレポート、”Top Value−Added Chemicals from Biomass”,2004)。しかしながら、コハク酸は、単離し、精製するには費用が嵩み、ブタンジオールへの接触還元のために高温および高圧を必要とする。
【0005】
したがって、商業的量の1,4−ブタンジオールおよびその化学的前駆体を効率的に生産するための代替手段必要である。本発明は、この必要性を満たすものであり、同様に関連した利点を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を有する4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒を提供し、ここで、外因性核酸は、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するのに十分な量で発現される。また、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒が提供され、この経路は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素、4−酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱水素酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含み、ここで、外因性核酸は、1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するのに十分な量で発現される。さらに、4−HBを生産する方法が提供される。この方法は、実質的に嫌気的条件下で、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する天然に存在しない微生物を培養することを含む。さらに、BDOを生産する方法が提供される。この方法は、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物の生体触媒を培養することを含み、この経路は、1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素、4−ヒドロキシ酪酸キナーゼ、ホスホトランスヒドロキシブチリラーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む。4−HBおよび/またはBDO生産物は、培地に分泌され得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】1,4−ブタンジオール(BDO)ファミリーの化合物の生産物パイプラインに4−ヒドロキシブタン酸塩(4−HB)のエントリーポイントを示す系統図であり、石油化学原料から化学合成ルートとの比較である。実線の黒色の矢印は、化学合成ルートを示す;破線の青色の矢印は、4−HB、続くBDOファミリー化合物への変換工程までの生合成ルートを示す。
【図2】4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール生産までの生化学経路を示す系統図である。最初の5工程は、E.coliに対して内因性であり、残りは、異種に発現され得る。生合成反応を触媒する酵素は、(1)スクシニル−CoA合成酵素;(2)CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素;(3)α−ケトグルタル酸脱水素酵素;(4)グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ;(5)グルタミン酸脱炭酸酵素;(6)CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素;(7)4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素;(8)α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素;(9)4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素;(10)酪酸キナーゼ;(11)ホスホトランスブチリラーゼ;(12)アルデヒド脱水素酵素;(13)アルコール脱水素酵素である。
【図3】E.coliにおけるホモセリン生合成を示す系統図である。
【図4】L−ホモセリンから4−HBへの予測されるホモセリン生体経路の系統図を示す。工程1は、推定されたアンモニア−リアーゼ(ECクラス4.3.1)であり、推定されたΔrxnGは12kJ/molである。工程2は、推定された酸化還元酵素(ECクラス1.3.1)であり、推定されたΔrxnGは−59kJ/molである。
【図5】フマル酸を介したコハク酸へのアスパラギン酸変換のための内因性E.coli経路のための系統図を示す。この経路は、予測されるホモセリン生体経路に類似した化学を示す。
【図6】BDOに対する(A)ホモセリンと(B)スクシニル−CoA生合成経路との間の並行を図示する系統図を示す。
【図7】E.coliにおけるアセト酢酸への生化学経路を示す系統図である。
【図8】コハク酸セミアルデヒドを介したアセト酢酸塩からBDOへの生化学経路を示す系統図である。
【図9】D−リジン−5,6−アミノムターゼの反応スキームを示す系統図である。
【図10】アセチル−CoAからアセト酢酸塩への経路を示す系統図である。酵素は、(1)ピルビン酸ギ酸−リアーゼ、(2)ピルビン酸脱水素酵素、(3)アセチル−CoA:アセトアセチル−CoA転移酵素、(4)アセチル−CoA C−アセチル転移酵素、(5)ホスホトランスアセチラーゼ、および(6)酢酸キナーゼである。酵素7は、図8におけるBDO経路への多工程アセト酢酸塩を表す。
【図11】4−HB経路遺伝子の種々の組み合わせを発現するプラスミドを有するE.coli菌株を用いた、グルコース最少培地における4−HB生産を示す。(a)培養ブロス中の4−HB濃度;(b)培養ブロス中のコハク酸濃度;(c)600nmで測定される培養物OD。バーのクラスターは、24時間、48時間、および72時間(測定される場合)の時間点を表す。x軸に沿ったコードは、用いられた菌株/プラスミドの組み合わせを示す。最初の見出しは、宿主菌株を指す:1、MG1655 lacI;2、MG1655 ΔgabD lacI;3、MG1655 ΔgabD ΔaldA lacI。2番目の見出しは、用いられるプラスミドの組み合わせを指す:1、pZE13−0004−0035およびpZA33−0036;2、pZE13−0004−0035およびpZA33−0010n;3、pZE13−0004−0008およびpZA33−0036;4、pZE13−0004−0008およびpZA33−0010n;5、対照ベクターpZE13およびpZA33。
【図12】Mycobacterium tuberculosis由来のα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素を発現しているE.coli菌株におけるグルコースから4−HBの生産を示す。菌株1〜3は、pZE13−0032およびpZA33−0036を含む。菌株4は、空ベクターpZE13およびpZA33のみを発現する。宿主菌株は次のとおりである:1および4、MG1655 lacI;2、MG1655 ΔgabD lacI;3、MG1655 ΔgabD ΔaldA lacI。バーは、24時間および48時間での濃度を指す。
【図13】組換えE.coli菌株における10mMの4−HBからのBDO生産を示す。番号付けされた位置は、pZA33−0024を含み、P.gingivalisのcat2を発現するMG1655 lacIを用いた実験に対応し、下記の遺伝子がpZE13で発現される:1、なし(対照);2、0002;3、0003;4、0003n;5、0011;6、0013;7、0023;8、0025;9、0008n;10、0035。遺伝子の番号は表6において定義されている。各位置については、バーは、それぞれ好気的、微好気的、および嫌気的条件を指す。微好気的条件は、培養チューブを密封するが、それらから気体を抜かないことによって作成した。
【図14】4g/Lの未標識グルコース(a、c、e、およびg)、均一に標識した13C−グルコース(b、d、f、およびh)で補足されたM9最少培地において増殖させたMG1655 lacI pZE13−0004−0035−0002 pZA33−0034−0036によって生産される4−HBおよびBDOの質量分析を示す。(a)および(b)は、誘導されたBDOの、質量116の特徴的断片、2個の炭素原子を含む;(c)および(d)、誘導されたBDOの、質量177の特徴的断片、1個の炭素原子を含む;(e)および(f)、誘導された4−HBの、質量117の特徴的断片、2個の炭素原子を含む;(g)および(h)、誘導された4−HBの、質量233の特徴的断片、4個の炭素原子を含む。
【図15】γ−ブチロラクトンを生産するためのバイオプロセスの系統的なプロセスフロー図である。パネル(a)は、バッチ分離を伴う供給−バッチ発酵を図示し、パネル(b)は、連続分離を伴う供給−バッチ発酵を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)、γ−ブチロラクトンおよび1,4−ブタンジオールのための生合成生産能力を有する細胞および生物の設計および生産に関する。一態様では、本発明は、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)の生合成生産のための代謝的設計を同定するEscherichia coli代謝のインシリコ(in silico)の化学量論的モデルを利用する。本明細書に記載される結果は、代謝経路が、Escherichia coliおよび他の細胞または生物における4−HB、並びに1,4−ブタンジオールなどの下流生産物の生合成を達成するように設計され、組換え的に操作され得ることを指示する。例えば、インシリコ設計についての4−HBの生合成生産は、設計された代謝遺伝子型を有する菌株の構築によって確かめることができる。また、これらの代謝的に操作された細胞または生物は、理論的に最大の増殖を近づく条件下を含む、4−HB生合成をさらに増加させるための適応進化に供され得る。
【0009】
ある種の態様では、設計された菌株に特徴的な4−HB生合成は、それらを遺伝的に安定させ、特に連続的なバイオプロセスにおいて有用にさせる。別の菌株設計戦略は、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素およびCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはグルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼのいずれからの4−HBおよび1,4−ブタンジオールを生産する代謝経路をもたらすE.coliに、異なる非天然または異種の反応能力の組み込みを用いて同定された。E.coliおよび酵母種の両方において、これらの代謝経路の各々から4−HBの生合成をもたらすインシリコの代謝設計が同定された。1,4−ブタンジオール中間体のγ−ブチロラクトンは、pH<7.5の条件下、特に酸性条件下、例えば、pH5.5未満、例えば、pH<7、pH<6.5、pH<6、および特にpH<5.5以下で自然環化によって培養中に生産可能である。
【0010】
プラットフォームの計算要素を介して同定された菌株は、4−HB、1,4−ブタンジオールまたは他の中間体および/または下流生産物の生合成生産をもたらす予測される代謝代替物のいずれも遺伝子操作することによって実際の生産に乗せることができる。なお更なる態様では、これらの化合物の生合成生産を示す菌株は、さらに、生産物生合成をさらに増加するための適応進化に供され得る。また、適応進化後の生産物生合成収率のレベルは、このシステムの計算要素によって予測可能である。
【0011】
他の特定の態様では、微生物は、コハク酸から4−HBおよび4−HB−CoAへの酵素的工程をコードする4−HB生合成経路を発現するように構築された。宿主微生物におけるコハク酸補酵素A転移酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、NAD依存性4−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素および4−ヒドロキシ酪酸補酵素A転移酵素の同時発現は、4−HB生合成経路を欠如している宿主微生物と対比して、4−HBの優位な生産をもたらした。更なる特定の態様では、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素およびNAD依存性4−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードする核酸を導入することによって、基質としてα−ケトグルタル酸を利用する4−HBを生産する微生物が生じた。
【0012】
別の特定の態様では、4−HBの存在下で培養したとき、BDOを生合成する1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を含む微生物を構築した。BDO生合成経路は、多機能性アルデヒド/アルコール脱水素酵素のいずれかをコードする核酸、あるいはアルデヒド脱水素酵素およびアルコール脱水素酵素をコードする核酸からなっていた。4−HB基質による増殖を支持するために、これらのBDOを生産する微生物もホスホトランスヒドロキシブチリラーゼとともに、4−ヒドロキシ酪酸CoA転移酵素または4−酪酸キナーゼを発現した。なお更なる特定の態様では、機能的な4−HB生合成経路、並びに機能的なBDO生合成経路をコードする核酸の外因性発現を通じたBDOを合成する微生物を生じた。4−HB生合成経路は、コハク酸補酵素A転移酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、NAD依存性4−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素および4−ヒドロキシ酪酸補酵素A転移酵素からなっていた。BDO経路は、多機能性アルデヒド/アルコール脱水素酵素からなっていた。
【0013】
本明細書中で使用するとき、用語「天然に存在しない」とは、本発明の微生物(microbial organism)または微生物(microorganism)に言及して用いられる場合、微生物が、参照される種の野生型の菌株を含む、参照される種の天然に存在している菌株においては通常見いだされない少なくとも1つの遺伝的改変を有することを意味することが意図される。遺伝的改変には、例えば、代謝性ポリペプチドをコードする発現可能な核酸を誘導する修飾、他の核酸付加、核酸欠失および/または微生物の遺伝的物質の他の機能的破壊が挙げられる。このような修飾には、例えば、参照される種に対して、異種、同種または異種および同種ポリペプチドの両方をコードする領域およびその機能的な断片が含まれる。更なる修飾には、例えば、修飾により遺伝子またはオペロンの発現が改変される非コーディング調節領域が挙げられる。例示的な代謝ポリペプチドには、4−HB生合成経路内の酵素、並びに化合物のBDOファミリーのための生合成経路内の酵素が含まれる。
【0014】
代謝性修飾とは、天然に存在する状態から改変される生化学的反応を指す。したがって、天然に存在しない微生物は、代謝性ポリペプチド、またはその機能性断片をコードする核酸に対する遺伝子修飾を有する。例示的な代謝性修飾は、E.coliおよび酵母微生物の両方について、さらに下記に記載されている。
【0015】
本明細書中で使用するとき、用語「単離された」とは、微生物に言及して用いられる場合、参照された微生物が天然に見いだされるときの少なくとも1つの成分が実質的にない生物を意味することが意図される。この用語には、天然の環境に見いだされるときのいくつかのまたは全ての成分から取り除かれている微生物が含まれる。また、この用語には、微生物が天然に存在しない環境において見いだされるときのいくつのまたは全ての成分から取り除かれている微生物が含まれる。したがって、単離された微生物は、他の物質とは部分的にまたは完全に区別され、それは、天然に見いだされるか、または天然に存在しない環境において増殖され、保存され、もしくは存在するためである。単離された微生物の具体的な例には、部分的には純粋な微生物(microbe)、実質的に純粋な微生物、天然に存在しない培地で培養された微生物が含まれる。
【0016】
本明細書中で使用するとき、用語「微生物(microbial)」、「微生物(microbial organism)」または「微生物(micoorganism)」とは、古細菌、細菌または真核生物(eukarya)の範囲内に含まれる微小細胞として存在するいずれかの生物を意味することが意図される。したがって、この用語は、原核細胞もしくは真核細胞または微小サイズを有する生物を包含することが意図され、全ての種の細菌、古細菌および真正細菌、並びに酵母および真菌などの真核微生物を含む。また、この用語は、生化学的な生産のために培養され得るいずれかの種の細胞培養物を含む。
【0017】
本明細書中で使用するとき、用語「4−ヒドロキシブタン酸」とは、化学式C、分子量104.11g/mol(そのナトリウム塩については126.09g/mol)である酪酸の4−ヒドロキシ誘導体を意味することが意図される。また、化合物の4−ヒドロキシブタン酸は、4−HB、4−ヒドロキシ酪酸塩、ガンマ−ヒドロキシ酪酸またはGHBとして、当該技術分野において知られている。この用語は、本明細書中で使用するとき、いずれかの化合物の種々の塩の形態を含むことが意図され、例えば、4−ヒドロキシブタン酸塩および4−ヒドロキシ酪酸塩が含まれる。4−HBについての塩形態の具体例には、ナトリウム4−HBおよびカリウム4−HBが含まれる。したがって、用語4−ヒドロキシブタン酸、4−HB、4−ヒドロキシ酪酸塩、4−ヒドロキシブタン酸塩、ガンマ−ヒドロキシ酪酸およびGHB、並びに他の技術認識された名称は、本明細書では同意語として用いられる。
【0018】
本明細書中で使用するとき、用語「単量体」とは、4−HBに言及して用いられる場合、非高分子性または非誘導形態である4−HBを意味することが意図される。高分子性4−HBの具体例には、ポリ−4−ヒドロキシブタン酸、並びに例えば、4−HBおよび3−HBの共重合体が含まれる。4−HBの誘導形態の具体例は、4−HB−CoAである。他の高分子性4−HB形態および4−HBの他の誘導形態も当該技術分野において知られている。
【0019】
本明細書中で使用するとき、用語「γ−ブチロラクトン」とは、化学式C、分子量86.089g/molを有するラクトンを意味することが意図される。また、化合物γ−ブチロラクトンは、GBL、ブチロラクトン、1,4−ラクトン、4−ブチロラクトン、4−ヒドロキシ酪酸ラクトン、およびガンマ−ヒドロキシ酪酸ラクトンとして、当該技術分野において知られている。この用語は、本明細書中で使用するとき、化合物の種々の塩形態のいずれかを含むことが意図される。
【0020】
本明細書中で使用するとき、用語「1,4−ブタンジオール」とは、化学式C10、分子量90.12g/molを有する2つのヒドロキシル基を担持するアルカンブタンのアルコール誘導体を意味することが意図される。また、化合物1,4−ブタンジオールは、BDOとして当該技術分野において知られ、BDOファミリーの化合物として本明細書において言及される化合物のファミリーの化学的中間体または前駆体であり、それらのいくつかは図1に例示されている。
【0021】
本明細書中で使用するとき、用語「テトラヒドロフラン」とは、化学式CO、分子量72.11g/molを有する芳香族化合物フランの完全に水素化された類似体に対応する複素環式有機化合物を意味することが意図される。また、化合物テトラヒドロフランは、THF、テトラヒドロフラン、1,4−エポキシブタン、ブチレン酸化物、シクロテトラメチレン酸化物、オキサシクロペンタン、ジエチレンオキシド、オキソラン、フラニジン、ヒドロフラン、テトラ−メチレンオキシドとして、当該技術分野において知られている。この用語は、本明細書中で使用するとき、化合物の種々の塩形態のいずれかを含むことが意図される。
【0022】
本明細書中で使用するとき、用語「CoA」または「補酵素A」とは、その存在が、活性な酵素系を形成するために多くの酵素(アポ酵素)の活性に必要とされる有機補因子または補欠基(酵素の非タンパク質部分)を意味することが意図される。補酵素Aは、ある種の縮合酵素において機能し、アセチルまたは他のアシル基転移において、脂肪酸合成および酸化、ピルビン酸酸化において、並びに他のアセチル化において作用する。
【0023】
本明細書中で使用するとき、用語「実質的に嫌気的」とは、培養または増殖条件に言及して用いられる場合、酸素量が、液体培地に含まれる溶解した酸素に関して、飽和の約10%未満であることを意味することが意図される。また、この用語は、約1%未満の酸素の雰囲気で維持された液体または固体培地の密封したチャンバーを含むことが意図される。
【0024】
本発明の天然に存在しない微生物は、安定な遺伝的改変を含むことができ、それは、改変せずに、5を超える世代間、培養することができる微生物を指す。一般に、安定な遺伝的改変には、10を超える世代で持続する修飾を含み、特別には安定な修飾は、約25より多い世代で持続し、より特別には安定な遺伝的修飾は、50を超える世代であり、無限の場合を含む。
【0025】
当業者は、本明細書中に例示された代謝性修飾を含む遺伝的改変は、E.coliおよび酵母遺伝子並びにそれらの対応する代謝反応に関連して記載されていることを理解する。しかしながら、幅広い生物の完全なゲノム配列決定、並びにゲノミックスの領域における高いレベルの技術が与えられれば、当業者は、本明細書において与えられる教示およびガイダンスを本質的に全ての他の生物に容易に適用することができる。例えば、本明細書において例示されているE.coliの代謝変調は、参照される種以外の種から同じであるかまたは類似のコード化された核酸を組み込むことによって他の種に容易に適用することができる。このような遺伝的改変には、例えば、一般には、種相同性の遺伝的改変、具体的には、オルソログ、パラログまたは非オルソロガス遺伝子置換が含まれる。
【0026】
オルソログは、垂直降下によって関連付けられ、異なる生物において実質的に同じ(same)または同一(identical)の機能に関与している。例えば、マウスのエポキシド加水分解酵素およびヒトのエポキシド加水分解酵素は、エポキシドの加水分解の生物学的機能についてオルソログであると考えることができる。遺伝子は、例えば、それらが相同性であるか、または共通の祖先からの進化によって関連付けられていると指示するのに十分な量の配列同一性をそれらが共有する場合に、垂直降下によって関連付けられる。また、遺伝子は、3次元構造を共有するが、しかし、一次配列の類似性が同一視することができない程度まで共通の祖先から進化してきたことを指示するのに十分な量の配列同一性を必ずしも共有しない場合に、オルソログであると考えることができる。オルソロガスである遺伝子は、約25%の配列類似性から100%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質をコードすることができる。また、25%未満のアミノ酸配列の類似性を共有するタンパク質をコードする遺伝子は、それらの3次元構造も類似性を示す場合に、垂直降下によって生じていると考えることができる。組織プラスミノーゲン活性化因子およびエラスターゼを含む酵素のセリンプロテアーゼファミリーのメンバーは、共通の祖先から垂直降下によって生じていると考えられる。
【0027】
オルソログには、例えば、進化を通じて、構造または全体の活性において分化してきた遺伝子またはそれらがコードする遺伝子生産物が含まれる。例えば、ある種が2つの機能を示す遺伝子生産物をコードする場合、このような機能が第2種における異なった遺伝子に分離されている場合、3つの遺伝子およびそれらの対応する産物はオルソログであると考えられる。生化学的生産物の増殖に連動した生産物に関して、当業者は、崩壊されるべき代謝活性を含むオルソロガスな遺伝子は、天然に存在しない微生物の構築のために選択されるべきであることを理解する。分離可能な活性を示すオルソログの例は、異なる活性が、2以上の種間、または単一の種内で異なる遺伝子産物に分離されている場合である。具体例は、2つのタイプのセリンプロテアーゼ活性であるエラスターゼタンパク質分解およびプラスミノーゲンタンパク質分解を、プラスミノーゲン活性化因子およびエラスターゼとして異なる分子に分離することである。第2の例は、マイコプラズマ5’−3’エキソヌクレアーゼおよびショウジョウバエDNAポリメラーゼIII活性の分離である。第1種のDNAポリメラーゼは、第2種からのエキソヌクレアーゼもしくはポリメラーゼのいずれかまたはその両方にオルソログ、あるいはその反対であると考えることができる。
【0028】
対照的に、パラログは、例えば、複製、続く進化的分岐によって関連付けられるホモログであり、類似または共通した機能を有するが、同一の機能を有しない。パラログは、例えば、同種または異種を起源とするかまたは由来することができる。例えば、ミクロソームエポキシド加水分解酵素(エポキシド加水分解酵素I)および可溶性エポキシド加水分解酵素(エポキシド加水分解酵素II)は、パラログであると考えることができ、それは、それらは、異なる反応を触媒し、同種において異なる機能を有する、共通の祖先から同時に進化した、2つの異なる酵素を示すためである。パラログは、互いに顕著な配列類似性を有する同種由来のタンパク質であって、これは、それらがホモロガスであるか、または共通の祖先から同時の進化を通じて関連付けられることを示唆している。パラロガスなタンパク質ファミリーのグループには、HipAホモログ、ルシフェラーゼ遺伝子、ペプチダーゼ、およびその他が含まれる。
【0029】
非オルソロガスな遺伝子置換は、異種における参照される遺伝子機能に置き換えることができる1つの種から非オルソロガスな遺伝子である。置換には、例えば、異種における参照される機能と比較して、起源の種において同じであるかまたは類似の機能を実質的に行うことができることが含まれる。一般には、非オルソロガスな遺伝子置換は、参照される機能をコードする知られた遺伝子に構造的に関連し、構造的には関連性が小さいが、機能的には類似した遺伝子として同定可能であり、それらの対応する遺伝子産物は、それにも関わらず、なおも、本明細書中で使用するとき、この用語の意味の範囲内にある。機能的類似性は、例えば、置換されるべき機能をコードする遺伝子と比較して、非オルソロガスな遺伝子の活性部位または結合領域において少なくともいくつかの構造的類似性を必要とする。したがって、非オルソロガスな遺伝子には、例えば、パラログまたは無関係な遺伝子が含まれる。
【0030】
したがって、4−HB、GBLおよび/またはBDO生合成能力を有する本発明の天然に存在しない微生物の同定および構築において、当業者は、本明細書において提供される教示およびガイダンスを、代謝性修飾の同定がオルソログの同定および封入または不活性化を含むことができる特定の種に適用することをもって理解する。パラログおよび/または非オルソログな遺伝子置換は、類似したまたは実質的に類似した代謝反応を触媒する酵素をコードする参照される微生物において存在するという程度まで、当業者もこれらの進化的に関連した遺伝子を利用することができる。
【0031】
オルソログ、パラログおよび非オルソロガスな遺伝子置換は、当業者に周知な方法によって測定することができる。例えば、2つポリペプチドのための核酸またはアミノ酸配列の検討は、比較される配列間の配列同一性および類似性を表す。このような類似性に基づいて、当業者は、タンパク質が共通の祖先からの進化を通じて関連付けられることを指示するのに、この類似性が十分に高いかどうかを決定することができる。当業者に周知なアルゴリズム、例えば、Align、BLAST、Clustal Wおよびその他は、生の配列の類似性または同一性を比較し、決定し、さらに、加重またはスコアを課すことができる配列においてギャップの存在または有意性を決定する。また、このようなアルゴリズムは当該技術分野において知られ、同様に、ヌクレオチド配列の類似性または同一性を決定するのに適用可能である。関連性を測定するには十分な類似性のパラメータは、統計学的な類似性、またはランダムポリペプチドにおける類似のマッチを見いだす機会、措定されたマッチの有意性を計算するための周知な方法に基づいて計算される。また、2以上の配列のコンピュータ比較は、所望により、当業者によって視覚的に最適化可能である。関連した遺伝子産物またはタンパク質は、高い類似性、例えば、25%〜100%の配列同一性を有することが期待され得る。関係ないタンパク質は、十分な大きさのデータベースがスキャンされる場合(約5%)、偶然に起こることが期待されるのと本質的には同じである同一性を有することができる。5%と24%との間の配列は、比較される配列が関連付けられることを結論付けるのに十分な相同性を示してもよくまたは示さなくてもよい。データベースセットの大きさを与えるこのようなマッチの有意性を決定するための更なる統計学的分析は、これらの配列の関連性を決定するために行うことができる。
【0032】
例えば、BLASTアルゴリズムを用いた2以上の配列の関連性を決定するための例示的なパラメータは、下記に記載することができる。要約すると、アミノ酸配列アラインメントは、BLASTPバージョン2.0.8(1999年1月5日)、および次のパラメータ: マトリックス:0 BLOSUM62;ギャップオープン:11;ギャップ伸長:1;x ドロップオフ:50;期待:10.0;ワードサイズ:3;フィルター:オンを用いて行うことができる。核酸配列アラインメントは、BLASTNバージョン2.0.6(1998年9月16日)、および次のパラメータ:マッチ:1;ミスマッチ:−2;ギャップオープン:5;ギャップ伸長:2;x ドロップオフ:50;期待:10.0;ワードサイズ:11;フィルター:オフを用いて行うことができる。当業者は、比較のストリンジェンシーを増加させるかまたは減少させるために、例えば、2以上の配列の関連性を決定するために上記パラメータにいかなる修飾を行い得るかを知っている。
【0033】
本発明は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、アルファ−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、またはグルタミン酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒を提供し、ここで、外因性核酸は、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するには十分な量で発現される。また、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素は、4−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素または4−HB脱水素酵素とも呼ばれる。また、スクシニル−CoA合成酵素は、スクシニル−CoAシンターゼまたはスクシニル−CoAリガーゼとも呼ばれる。
【0034】
また、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒が提供され、ここで、外因性核酸は、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するには十分な量で発現される。
【0035】
本発明の天然に存在しない微生物生体触媒には、本発明の化合物を生合成的に生産するための代謝反応の組み合わせを使用する微生物が含まれる。生合成された化合物は、細胞内で生産されるかおよび/または培地中に分泌され得る。天然に存在しない微生物によって生産される例示的な化合物には、例えば、4−ヒドロキシブタン酸、1,4−ブタンジオールおよびγ−ブチロラクトンが挙げられる。化学合成または生合成に関して、これらの例示的な化合物の関係が図1に例示される。
【0036】
一態様では、天然に存在しない微生物は、4−HBを生産するように操作される。この化合物は化合物の1,4−ブタンジオールファミリーへの1つの有用なエントリーポイントである。コハク酸塩から、スクシニル−CoAを介したコハク酸塩から、またはα−ケトグルタル酸から4−HBを形成するための生化学的反応は、図2の工程1〜8に示される。
【0037】
本発明は、本明細書においては、代謝反応、その反応物もしくは生産物を一般に参照して、または参照される代謝反応、反応物もしくは生産物と関連したまたはそれを触媒する酵素をコードする1以上の核酸もしくは遺伝子を具体的に参照して記載されている。本明細書において他の明らかに記述がなければ、当業者は、反応への言及もその反応の反応物および生産物への言及を構成することを理解する。同様に、本明細書において他の明らかに記述がなければ、反応物または生産物への言及もその反応を参照し、これらの代謝構成物のいずれかへの言及も参照される反応、反応物または生産物を触媒する酵素をコードする遺伝子(単数)または遺伝子(複数)を参照する。同様に、代謝生化学、酵素学およびゲノミックスの周知な領域が与えられると、本明細書における遺伝子またはコードする核酸への言及も、対応するコードされた酵素およびそれが触媒する反応、並びにその反応の反応物および生産物への言及を構成する。
【0038】
本発明の微生物を用いた生合成モードを介した4−HB生産は、それが単量体4−HBを生産することができるため、特に有用である。また、本発明の天然に存在しない微生物、並びに4−HBおよびBDOファミリー化合物のそれらの生合成は特に有用であり、それは、4−HB生産物が、(1)分泌され;(2)補酵素Aなどのいずれかの誘導体化がなくてもよく;(3)生合成中に熱力学的変化を避け;(4)BDOの調節的な生合成を可能にし、(5)酸性pHの培地においてγ−ブチロラクトンへの4−HBの自発的な化学変換を可能にするためである。また、この後者の特徴は、例えば、1,4−ブタンジオールおよび/またはテトラヒドロフラン(THF)などのBDOファミリー化合物の効率的な化学合成または生合成に特に有用である。
【0039】
微生物は、一般に、4−HBを合成する能力を欠損し、したがって、図1に示される化合物のいずれかは、1,4−ブタンジオールファミリーの化合物内にあることで知られ、または1,4−ブタンジオールの化合物内にあることが当業者に知られている。さらに、必要な代謝酵素能力の全てを有する生物は、記載されている酵素、並びに本明細書に例示されている経路からの4−HBを生産することは知られていない。むしろ、下記にさらに記載されている数個の嫌気性微生物の可能性を除いて、酵素能力を有する微生物は、例えば、コハク酸塩を生産するために基質として4−HBを用いる。対照的に、本発明の天然に存在しない微生物は、生産物として4−HBを生じる。上述したように、単量体形態での4−HBの生合成は、BDOファミリーの化合物の化学合成に特に有用であるだけでなく、BDOファミリーの化合物の更なる生合成を可能にし、全体の化学合成手法を避ける。
【0040】
4−HBを生産することができる天然に存在しない微生物は、宿主微生物が、本発明の少なくとも1つの4−HB生合成経路の完全な生化学合成についての機能的能力を含むことを確かめることによって生産される。少なくとも1つの必要な4−HB生合成経路の確保により、宿主微生物の4−HB生合成能力が与えられる。
【0041】
5つの必要な4−HB生合成経路が本明細書中に例示され、図2において例示を目的として示されている。1つの必要な4−HB生合成経路には、コハク酸塩からの4−HBの生合成(コハク酸塩経路)が含まれる。この4−HBに関与する酵素には、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素が含まれる。この経路では、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素は、図2に示される矢印とは反対の反応を触媒する。別の必要な4−HB生合成経路には、スクシニル−CoAを介したコハク酸塩からの生合成(スクシニル−CoA経路)が含まれる。この4−HB経路に関与する酵素には、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素が含まれる。3つの他の必要な4−HB生合成経路には、α−ケトグルタル酸塩からの4−HBの生合成(α−ケトグルタル酸塩経路)が含まれる。したがって、第3の必要な4−HB生合成経路は、グルタミン酸塩:セミアルデヒドトランスアミナーゼ、グルタミン酸脱炭酸酵素および4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素を介したコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素の生合成である。また、第4の必要な4−HB生合成経路には、α−ケトグルタル酸塩からの4−HBの生合成が含まれるが、コハク酸セミアルデヒド合成を触媒するためにα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素を利用する。4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素は、コハク酸セミアルデヒドから4−HBへの変換を触媒する。第5の必要な4−HB生合成経路には、スクシニル−CoAを介したα−ケトグルタル酸塩からの生合成が含まれ、上述されるスクシニル−CoA経路に送り込むスクシニル−CoAを生産するためにα−ケトグルタル酸脱水素酵素を利用する。これらの4−HB生合成経路、それらの基質、反応物および生産物の各々は、実施例においてさらに後述される。
【0042】
本発明の天然に存在しない微生物は、1以上の4−HB生合成経路に関与する1以上の酵素をコードする発現可能な核酸を導入することによって生産することができる。生合成について選択される宿主微生物に依存して、特定の4−HB生合成経路のいくつかまたは全てについての核酸を発現することができる。例えば、選択される宿主は、コハク酸塩から4−HBへの経路において両方の酵素を欠損し、この経路が4−HB生合成のために選択される場合、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素の両方について発現可能な核酸は、その後の外因性の発現について宿主内に導入される。あるいは、選択される宿主が、内因性のCoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素を示すが、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素を欠損している場合、コード化された核酸は、4−HB生合成を達成するためにこの酵素を必要とする。
【0043】
同様に、4−HB合成がスクシニル−CoA経路までコハク酸塩を介して(スクシニル−CoA経路)生じるように選択される場合、酵素のスクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および/または4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素における宿主の欠如のコード化された核酸は、レシピエント宿主において外因的に発現されることである。コハク酸セミアルデヒド経路までのα−ケトグルタル酸塩を介した4−HB生合成(α−ケトグルタル酸塩経路)の選択は、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、グルタミン酸脱水素酵素および/または4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素および4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素についての酵素の1以上において宿主欠損に関する外因性発現を利用することができる。
【0044】
選択された宿主微生物の4−HB生合成経路の構成要素に依存して、本発明の天然に存在しない微生物の4−HB生合成は、少なくとも1つの外因的に発現した4−HB経路を発現している核酸、最大にして1以上の4−HB生合成経路に関する全てのコード化された核酸を含む。例えば、4−HB生合成は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素をコードする核酸の外因的発現を通じて、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素における5個全ての経路から確立され得る。対照的に、4−HB生合成は、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、グルタミン酸脱炭酸酵素、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、α−ケトグルタル酸脱水素酵素および4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素の8個全ての外因的発現を通じて8個全ての酵素における宿主欠損において5個全ての経路から確立することができる。
【0045】
本明細書において提供される教示およびガイダンスを前提にして、当業者は、発現可能な形態で導入されるコード化された核酸の数は、少なくとも、選択される宿主微生物の4−HB経路の欠損に匹敵することを理解する。したがって、本発明の天然に存在しない微生物は、1以上の4−HB生合成経路を構成する上記酵素をコードする1、2、3、4、5、6、7または8個の核酸を有することができる。いくつかの態様では、天然に存在しない微生物も、4−HB生合成を促進するかもしくは最適化し、または他の有用な機能を宿主の微生物に与える他の遺伝的修飾を含むことができる。1つのこのような他の機能性には、例えば、コハク酸塩、スクシニル−CoAおよび/またはα−ケトグルタル酸塩などの1以上の4−HB経路前駆体の合成を増大することを含むことができる。
【0046】
いくつかの態様では、本発明の天然に存在しない微生物は、4−HBを合成するための酵素的能力を含む宿主から生じる。この特定の態様では、例えば、4−HB生産に向けられた4−HB経路反応を進行するための4−HB経路産物の合成または蓄積を増加させることは有用であり得る。合成または蓄積の増加は、例えば、上述される1以上の4−HB経路酵素をコードする核酸の過剰発現によって達成することができる。4−HB経路酵素(単数)または酵素(複数)の過剰発現は、例えば、内因性遺伝子(単数)もしくは遺伝子(複数)の外因性発現を通じて、または異種遺伝子(単数)もしくは遺伝子(複数)の外因性発現を通じて生じさせることができる。したがって、天然に存在しない生物は、4−HB生合成経路の酵素をコードする1、2、3、4、5または全6個の核酸の過剰発現を通じて本発明の天然に存在しない4−HBを生産する微生物となるように容易に生じさせることができる。さらに、天然に存在しない微生物は、4−HB生合成経路における酵素の活性の増加をもたらす内因性遺伝子の突然変異誘発によって生じさせることができる。
【0047】
特に有用な態様では、コード化された核酸の外因性発現が用いられる。外因性発現は、宿主に発現および/または調節要素を必要に応じて変更する能力、並びにユーザーによって調節される所望の発現レベルを達成するための用途を与える。しかしながら、内因性発現も例えば、誘導可能なプロモーターまたは他の調節要素に連結された場合に遺伝子プロモーターの負の調節エフェクターまたは誘導を取り除くことによって、他の態様において利用することもできる。このようにして、天然に存在しない誘導可能なプロモーターを有する内因性遺伝子は、適切な誘導剤を提供することによってアップレギュレートされ得て、または、内因性遺伝子の調節領域は、誘導可能な調節要素を組み込むように操作することができ、それによって、所望時間で内因性遺伝子の発現増加を調節することができる。同様に、誘導可能なプロモーターは、天然に存在しない微生物に導入される外因性遺伝子に対して調節要素として誘導可能である(例えば、実施例IIおよびIVを参照されたい)。
【0048】
「外因性」とは、本明細書中で使用するとき、参照される分子または参照される活性が、例えば、宿主染色体への組み込みによって、宿主の遺伝子素材のコード化された核酸を導入することを含む、宿主微生物に導入されることを意味することが意図される。したがって、この用語は、コード化された核酸の発現との関連で用いられるとき、コード化された核酸の発現に関連して微生物への発現可能な形態での導入を指す。生合成活性との関連で用いられるとき、この用語は、宿主の参照生物に導入される活性を指す。供給源は、例えば、宿主の微生物への導入後の参照される活性を発現する同種または異種のコード化する核酸であり得る。したがって、用語「内因性」とは、宿主に存在する参照される分子または活性を指す。同様に、この用語は、コード化された核酸の発現との関連で用いられるとき、微生物内に含まれるコード化された核酸の発現を指す。用語「異種」とは、参照される種以外の供給源由来の分子または活性を指し、「同種」とは、宿主微生物由来の分子または活性を指す。したがって、本発明のコード化された核酸の外因性発現は、異種もしくは同種のコード化された核酸のいずれかまたはその両方を用いることができる。
【0049】
4−HB経路酵素に対するコード化された核酸の供給源は、例えば、いずれかの種であってもよく、この場合、コードされた遺伝子産物は、参照される反応を触媒することができる。このような種には、原核生物または真核生物の両方が含まれ、例えば、限定されないが、細菌、例えば古細菌および真正細菌、例えば、酵母、植物、昆虫、動物、および哺乳動物、例えばヒトが含まれる。このような供給源に対する例示的な種には、E.coli、Saccharomyces cerevisiae、Clostridium kluyveri、Clostridium acetobutylicum、Clostridium beijerinckii、Clostridium saccharoperbutylacetonicum、Clostridium perfringens、Clostridium difficile、Ralstonia eutropha、Mycobacterium bovis、Mycobacterium tuberculosisおよびPorphyromonas gingivalisが挙げられる。例えば、4−HB生合成生産物を有する微生物は、E.coliおよび酵母宿主に関して、本明細書において例示されている。しかしながら、395の微生物ゲノム、並びに様々な酵母、真菌、植物、および哺乳動物のゲノムを含む、現在、550を超える種(これらの半分を超えるものがNCBIなどの公開データベースで利用可能である)について利用可能である完全なゲノム配列を用いて、例えば、知られている遺伝子のホモログ、オルソログ、パラログおよび非オルソロガスな遺伝子置換を含む、関連したまたは遠隔の種における1以上の遺伝子に対する必要な4−HB生合成活性をコードする遺伝子の同定、並びに生物間の遺伝子変化の交換は、日常的であり、当該技術分野において周知である。したがって、E.coliまたは酵母などの特定の生物との関連で、本明細書に記載されている本発明の4−HBおよび他の化合物の生合成を可能にする代謝変調は、原核生物真核生物等を含む他の微生物に容易に適用することができる。本明細書に提供される教示およびガイダンスを前提にして、当業者は、1つの生物において例示される代謝変調が他の生物に同等に適用され得ることを承知する。
【0050】
いくつかの例では、例えば、代替の4−HB生合成経路が関係ない種に存在する場合、4−HB生合成は、参照される反応を置換するための、同様であるがまだ同定されていない代謝反応を触媒する関係ない種からのパラログ(単数)またはパラログ(複数)の外因性発現によって、宿主の種に与えることができる。代謝ネットワークのうちのある種の相違が、異なる生物間に存在するため、当業者は、抗体となる生物間での実際の遺伝子使用が異なる場合があることを理解する。しかしながら、本明細書に提供される教示およびガイダンスを前提にして、当業者も、本発明の教示および方法が、単量体4−HBを合成する対象とする種における微生物を構築するように、本明細書に例示されているものと同じ代謝変調を用いて、全ての微生物に適用することができると理解する。
【0051】
宿主微生物は、例えば、細菌、酵母、真菌、発酵プロセスに適用できる他の様々な微生物から選択可能であり、天然に存在しない微生物はそれらにおいて生じさせることができる。例示的な細菌には、E.coli、Klebsiella oxytoca、Anaerobio spirillum succiniciproducens、Actinobacillus succinogenes、Mannheimia succiniciproducens、Rhizobium etli、Bacillus subtilis、Corynebacterium glutamicum、Gluconobacter oxydans、Zymomonas mobilis、Lactococcus lactis、Lactobacillus plantarum、Streptomyces coelicolor、Clostridium acetobutylicum、Pseudomonas fluorescens、およびPseudomonas putidaから選択される種が挙げられる。例示的な酵母または真菌には、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces marxianus、Aspergillus terreus、Aspergillus nigerおよびPichia pastorisから選択される種が挙げられる。
【0052】
4−HBを生産する天然に存在しない宿主の発現レベルを構築し、試験する方法は、例えば、当該技術分野において周知である組換え法および検出法によって行うことができる。このような方法は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(2001);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons,Baltimore,MD(1999)に記載されるように、見いだすことができる。4−HBおよびGBLは、例えば、Spherisorb 5 ODS1カラム、70%の10mMリン酸バッファー(pH=7)および30%のメタノールの移動相を用いたHPLCによって分離し、215nmでのUV検出器(Hennessyら、2004,J.Forensic Sci.46(6):1−9)を用いて検出することができる。BDOは、ガスクロマトグラフィーによるか、またはAminex HPX−87Hカラム、0.5mMの硫酸の移動相を用いたHPLCおよび屈折率検出器によって検出される(Gonzalez−Pajueloら、Met.Eng.7:329−336(2005))。
【0053】
例えば、発現ベクター(単数)またはベクター(複数)は、1以上の4−HB生合成経路、並びに宿主生物において機能的な発現対照配列に操作可能に連結された、本明細書に例示される1以上の生合成のコード化された核酸を含むように構築され得る。本発明の微生物宿主生物における使用に適した発現ベクターには、例えば、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター、エピソームおよび人工染色体が挙げられ、宿主染色体への安定な組み込みのために操作可能なベクターおよび選択配列またはマーカーが含まれる。また、例えば、抗生物質または毒素に対する耐性、補体栄養要求性欠如を提供し、培地にはない重要な栄養素を供給する選択マーカー遺伝子が含まれ得る。発現対照配列には、当該技術分野において周知である、構成的プロモーター、転写エンハンサー、転写ターミネーターなどが含まれ得る。2以上の外因性コード化された核酸が同時に発現されるべき場合には、両方の核酸は、例えば、単一の発現ベクターまたは別々の発現ベクターに挿入することができる。単一のベクター発現に関して、コード化された核酸は、1つの共通の発現対照配列に操作可能に連結され得るか、または1つの誘導可能なプロモーターおよび1つの構成プロモーターなどの異なる発現対照配列に操作可能に連結され得る。代謝または合成経路に関与する外因性核酸配列の形質転換は、当該技術分野において周知である方法を用いて確かめることができる。
【0054】
本発明の天然に存在しない微生物は、単量体4−HBを生産するのに十分な量で、4−HB経路酵素をコードする少なくとも1つの核酸を外因的に発現するように、上記で例示される、当該技術分野において周知である方法を用いて構築される。各経路における4−HB酵素についての例示的な発現レベルは、実施例において下記にさらに記載されている。本明細書において提供される教示およびガイダンスに従って、本発明の天然に存在しない微生物は、約0.1〜25mMの間またはそれ以上の細胞内濃度をもたらす単量体4−HBの生合成を達成することができる。一般に、単量体4−HBの細胞内濃度は、約3〜20nM、特別には約5〜15mM、より特別には約8〜12nMであり、約10mM以上を含む。また、これらの例示的な範囲の各々の間およびそれを超える細胞内濃度は、本発明の天然に存在しない微生物から達成することができる。
【0055】
さらに後述されるように、4−HBの生合成を達成するための一例の増殖条件は、嫌気的培養または発酵条件を含む。ある種の態様では、本発明の天然に存在しない微生物は、嫌気的条件または実質的に嫌気的条件下で、維持され、培養され、または発酵され得る。要約すると、嫌気的条件とは、酸素がない環境を指す。実質的に嫌気的条件には、例えば、培地に溶解した酸素濃度が飽和の0〜10%で維持されるように、培養、バッチ発酵または連続発酵が含まれる。また、実質的に嫌気的条件には、1%未満の酸素の雰囲気で維持された密閉されたチャンバー内で、液体培地内または固形寒天上で細胞を増殖させるかまたは静止させることが含まれる。酸素の割合は、例えば、N/CO混合物または他の適した非酸素ガス(単数)もしくはガス(複数)を用いて培養物に散布することによって維持することができる。
【0056】
また、本発明は、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒が提供され、この経路は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、4−ヒドロキシブタン酸塩:CoA転移酵素、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、グルタミン酸脱炭酸酵素、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素またはアルコール脱水素酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含み、ここで、外因性核酸は、1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するには十分な量で発現される。4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素は、4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素としても知られている。
【0057】
さらに、本発明は、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒を提供し、この経路は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、4−ヒドロキシブタン酸塩:CoA転移酵素、4−酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱水素酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含み、ここで、外因性核酸は、1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するには十分な量で発現される。
【0058】
また、BDOを生合成する天然に存在しない微生物も生じさせることができる。本発明の4−HBを生産する微生物と同様に、BDOを生産する微生物は、BDOを細胞内で生産するかまたは培地に分泌することができる。4−HBを合成する微生物の構築について、以前に提供された教示およびガイダンスに従って、追加のBDO経路は、BDOおよび他のBDOファミリー化合物も合成する生物を生じさせるように、4−HBを生産する微生物に導入することができる。BDOおよびその下流生産物の化学合成は、図1に例示される。BDO生合成を可能にする、本発明の天然に存在しない微生物は、図2に例示されるエントリーポイントとして4−HBを用いて、これらの化学合成を避ける。また、さらに後述されるように、4−HB生産体を用いて、例えば、化学的に4−HBをGBLに、次にBDOまたはTHFに変換することができる。あるいは、4−HB生産体は、4−HBおよび/またはGBLをBDOに変換する生合成能力を含むように、さらに修飾することができる。
【0059】
4−HB生産体に導入するための追加のBDO経路には、例えば、宿主欠乏バックグラウンド、または図2では工程9〜13として例示される1以上の酵素の過剰発現における外因性発現が含まれる。1つのこのような経路には、例えば、図2では工程9、12および13として示される反応を実行するために必要な酵素活性が含まれ、ここで、アルデヒドおよびアルコール脱水素酵素は、別々の酵素、またはアルデヒドおよびアルコール脱水素酵素活性の両方を有する多機能性酵素であり得る。別のこのような経路には、例えば、図2では工程10、11、12および13として示される反応を実行するために必要な酵素活性が含まれ、同様に、アルデヒドおよびアルコール脱水素酵素は、別々の酵素、またはアルデヒドおよびアルコール脱水素酵素活性の両方を有する多機能性酵素であり得る。したがって、4−HB生産体に導入するために追加のBDO経路は、例えば、宿主欠乏バックグラウンド、または4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素、酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素またはアルコール脱水素酵素の1以上の過剰発現における外因性発現が含まれる。4−HBを修飾することができる内因性のアシル−CoA合成酵素がない場合、BDOを生産する天然に存在しない微生物は、4−HBのための選択的な外因性のアシル−CoA合成酵素、または4−HBから4−HB−CoAへの最終的な反応変換として有する複合酵素の組み合わせをさらに含むことができる。下記の実施例においてさらに例示されるように、酪酸キナーゼおよびホスホトランスブチリラーゼ、は、BDO経路活性を示し、4−HB基質を用いて、図2に例示される変換を触媒する。したがって、これらの酵素も、本明細書において、それぞれ4−ヒドロキシ酪酸キナーゼおよびホスホトランスヒドロキシブチリラーゼと称することもできる。
【0060】
これらのインビボでの4−HBからBDOへの変換のために用いることができる例示的なアルコールおよびアルデヒド脱水素酵素は、下記の表1に列挙されている。
【0061】
表1.4−HBからBDOへの変換のためのアルコールおよびアルデヒド脱水素酵素
【0062】
【表1−1】

【0063】
【表1−2】

【0064】
【表1−3】

また、上記で例示されたもの以外の経路を用いて、天然に存在しない微生物においてBDOの生合成を生じさせることができる。一態様では、生合成は、L−ホモセリンからBDO経路を用いて達成することができる。この経路は、0.90mol/molグルコースのモル収率を有し、同等物を減少させる能力によって制限されるようである。第2の経路は、アセトアセテートからBDOを合成し、1.091mol/molグルコースの最大理論的収率を達成することができる。いずれかの経路の実行は、2つの外因性酵素の導入によって達成することができ、両方の経路は、スクシニル−CoAを介したBDO生産を付加的に補完することができる。経路酵素、熱力学、理論的収率、および全体の実行可能性は、さらに後述される。
【0065】
また、ホモセリン経路は、BDOを生産する微生物を生じさせるように操作可能である。ホモセリンは、アルパラギン酸塩を介したオキサロ酢酸塩から形成される、スレオニンおよびメチオニン代謝の中間体である。オキサロ酢酸塩からホモセリンへの変換は、1個のNADH、2個のNADPH、および1個のATPを必要とする(図3)。一度形成されると、ホモセリンは、スレオニンとメチオニンの両方に関する生合成経路へと流れ込む。大部分の生物では、高レベルのスレオニンまたはメチオニンは、ホモセリン生合成経路を抑制するためにフィードバックする(Caspiら、Nucleic Acids Res.34:D511−D516(1990))。
【0066】
ホモセリンの4−ヒドロキシ酪酸塩(4−HB)への形質転換は、図4に示される2つの酵素工程において達成することができる。この経路の第1工程は、推定上のアンモニアリアーゼによるホモセリンの脱アミノ化である。この反応は、熱力学的障壁が12kJ/molと推測されるが、濃度勾配によって前進方向に促進する可能性がある。工程2では、生産物のアルケン、4−ヒドロキシブタ−4−エノエートは、1個のNADHのコストで推定上の還元酵素によって4−HBに還元される。この反応工程は、4−HB合成の方向に非常に熱力学的に有利であり、ΔrxnGは−59kJ/molと推定される。次に、4−HBは、上述した図2のようにBDOに変換され得る。
【0067】
上記の形質転換に利用可能な酵素は、図5に示される。例えば、この経路の工程1におけるアンモニアリアーゼは、アスパラギン酸塩アンモニア−リアーゼ(アルパルターゼ)の化学とよく似ている。アルパルターゼは、微生物において広く知られた酵素であり、広く特徴付けられている(Viola,R.E.、Mol.Biol.74:295−341(2008))。E.coliのアルパルターゼの結晶構造が解明されていて(Shiら、Biochemistry 36:9136−9144(1997))、したがって、ホモセリンを含むようにその基質特異性を変更する酵素活性部位において突然変異を直接操作することが可能である。工程2における酸化還元酵素は、E.coliのTCAサイクルにおけるフマル酸還元酵素を含む、いくつかの十分に特徴付けられた酵素に類似した化学を有する。この反応の熱力学は非常に有利であるため、幅広い基質特異性を有する内因性の還元酵素は、4−ヒドロキシブタ−2−エノエートを還元する可能性がある。嫌気的条件下でのこの経路の収量は、0.9mol BDO/molグルコースであるが、図2の経路と比較すると(1.09mol/molグルコース)、両方の経路は、代謝前躯体であるオキサロ酢酸から同様のエネルギー的還元要求を有するようである(図6)。
【0068】
スクシニル−CoA経路は、よりエネルギー的に効率的であるという事実に起因して、より高い収率を有することが判明した。ホモセリン経路を介したBDOの1個のオキサロ酢酸分子の変換は、2ATP同等物の消費を必要とする。2個のオキサロ酢酸分子へのグルコースの変換は、可逆的であるPEPカルボキシナーゼを想定する最大3個のATP分子を生じることができるため、ホモセリンを介したBDOへのグルコースの全変換は、負のエネルギー収率を有する。期待されるように、本発明者らは、エネルギーが呼吸を介して生じ得ることを想定する場合、ホモセリン経路の最大収量は、スクシニル−CoA経路収率の96%である1.05mol/molグルコースまで増加させる。スクシニル−CoA経路は、ピルビン酸脱水素酵素を介した炭素フラックス、エネルギーを消費しないで、還元同等物とスクシニル−CoAの両方を生じるためのTCAサイクルの酸化的分岐のいくつかを導くことができる。このようにして、フラックスの全てが、オキサロ酢酸を介したスクシニル−CoAからBDOへと導入されるわけではないので、ホモセリン経路と同じエネルギー困難性に直面しない。全体として、ホモセリン経路は、BDOへの中程度に高い収率ルートを示す。1つの特別に有用な特徴は、たった2つの非天然の工程を用いた最少の操作を伴うことである。この経路は、BDO合成の方向に熱力学的に有利である可能性がある。
【0069】
また、アセト酢酸塩経路は、BDOを生産する微生物を生じるように操作することができる。E.coliでは、アセト酢酸塩は、アセトンおよびロイシンの分解から生産される。また、アセト酢酸塩は、アセチル−CoAアセチル転移酵素およびアセトアセチル−CoA転移酵素を含む、脂肪酸代謝と関連した酵素によってアセチル−CoAから形成することができる(図7)。また、アセト酢酸塩を介した生合成ルートは、アセチル−CoAを形成するための単一の炭素化合物を代謝することができる微生物において特に有用である。
【0070】
アセト酢酸塩からコハク酸セミアルデヒドへの3つの工程ルート(図8)を用いて、アセト酢酸塩からBDOを合成することができる。コハク酸セミアルドデヒド(semialddehyde)は、スクシニル−CoAから取り出された1つの還元工程、またはα−ケトグルタル酸塩から取り出された1つの脱カルボキシル化工程であり、3つの還元工程の後にBDOへと変換され得る(図2)。要約すると、アセト酢酸塩生体経路の工程1は、ω−アミノ転移酵素による3−アミノブタン酸塩へのアセト酢酸塩の変換を伴う。Alcaligens denitrificans由来のω−アミノ酸:ピルビン酸アミノ転移酵素(ω−APT)は、E.coliにおいて過剰に発現され、インビトロでは3−アミノブタン酸塩に向けた高活性を有することが示された(Yunら、Appl Environ.Microbiol.70:2529−2534(2004)。ここで必要とされる方向におけるω−APTの活性は、反応混合物におけるアセト酢酸塩からアセトンへの自然分解により、この研究では測定されなかった。しかしながら、熱力学は、それが実行可能であることを指示する。
【0071】
工程2では、推定上のアミノムターゼは、炭素骨格の3位から4位にアミノ基をシフトする。3−アミノブタン酸塩に対するこの機能を行うアミノムターゼは特徴付けられていないが、Clostridium sticklandii由来の酵素は非常に類似した代謝を有する(図9)。酵素であるD−リジン−5,6−アミノムターゼは、リジン生合成に関与する。
【0072】
アセト酢酸塩からBDOへの合成ルートは、グルタミン酸塩の脱カルボキシル化から通常形成されるE.coliにおける代謝物である4−アミノブタン酸塩を通る。一度形成されると、4−アミノブタン酸は、生合成的に特徴付けられた酵素である4−アミノブタン酸塩トランスアミナーゼ(2.6.1.19)によってコハク酸セミアルデヒドに変換され得る。この酵素の熱力学並びにこの経路の他の工程は平衡に近く、そのため、対象とする方向における酵素の操作は、基質および生産物濃度によって促進される可能性がある。
【0073】
この経路における候補酵素を選択するための1つの考慮は、最初の2つの工程に関与される酵素の立体選択性である。Alcaligens denitrificansにおけるω−ABTは、3−アミノブタン酸塩のL−立体異性体に特異的であり、D−リジン−5,6−アミノムターゼは、D−立体異性体を必要とする。相補的立体特異性を有する酵素が見いだされないかまたは操作することができない場合、L−3−アミノブタン酸塩をD−3−アミノブタン酸塩へと変換することができるラセマーゼ活性を含む経路に第3の酵素を添加することが必要となる。アミノ酸ラセマーゼは広く知られているが、これらの酵素がω−アミノ酸に機能するかどうかは知られていない。
【0074】
嫌気的条件下でのこの経路の最大理論的なモル収率は、1.091mol/molグルコースである。アセト酢酸塩からBDOにフラックスを生じさせるために、アセチル−CoA:アセトアセチル−CoA転移酵素(図10では酵素3)が可逆的であることを想定することが必要であった。E.coliにおけるこの酵素の機能は、最初にそれらをチオエステルに変換することによって、短鎖脂肪酸を代謝することである。
【0075】
酢酸塩を消費する方向におけるアセチル−CoA:アセトアセチル−CoA転移酵素の操作がE.coliにおいて実験的に示されていないが、他の生物における類似酵素についての研究は、この反応が可逆的であるという推測を支持する。腸内微生物であるRoseburia sp.およびF.prasnitziiにおける酵素であるブチリル−CoA:酢酸塩:CoA転移酵素は、酪酸塩を生産する酢酸塩利用の方向で作動する(Duncanら、Appl.Environ.Microbiol 68:5186−5190(2002))。また、Trypanosoma bruceiにおけるべつの非常に類似した酵素であるアセチル:コハク酸塩CoA転移酵素は、酢酸塩を利用する方向において作動する。この反応は、平衡に近いΔrxnGを有し、そのため、高濃度の酢酸塩は、対象とする方向において反応を促進する可能性がある。1.09mol/molグルコースの最大理論のBDO生産率で、シミュレーションは、E.coliが発酵の副産物なしに1molのグルコースあたり1.098molのATPを生じ得ることを予測する。このATP収率は、細胞増殖、維持、および生産に十分でなければならない。アセト酢酸塩生体経路は、アセチル−CoAからBDOへの高収率ルートである。ホモセリン経路と同様に、この経路は、最少の菌株操作を必要とし、BDO経路に加えて、たった2つの天然にない工程を含む。
【0076】
したがって、選択された宿主における4−HB生合成を確立するための、前記で例示された種々の修飾のいずれかに加えて、BDOを生産する微生物は、4−HB経路代謝性修飾の以前の組み合わせおよび順列のいずれか、並びにGBLおよび/またはBDOのための生合成経路を生じさせる、CoA非依存性アルデヒド脱水素酵素、CoA依存性アルデヒド脱水素酵素またはアルコール脱水素酵素についての発現のいずれかの組み合わせを含むことができる。したがって、本発明のBDO生産体は、例えば、6個の4−HB経路酵素のいずれか、および/または4個のBDO経路酵素のいずれかに対応する、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個全ての酵素の外因性発現を有することができる。
【0077】
遺伝子修飾された微生物の設計および構築は、BDOを生産するには十分な量の発現を達成するために、当該技術分野において周知である方法を用いて実行される。特に、本発明の天然に存在しない微生物は、約0.1〜25mMまたはそれ以上の細胞内濃度をもたらすBDOの生合成を達成することができる。一般に、BDOの細胞内濃度は、約3〜20mM、特別には約5〜15mM、より特別には約8〜12mMであり、約10mM以上を含む。また、これらの例示的な範囲の各々の間およびそれを超える細胞内濃度は、本発明の天然に存在しない微生物から達成することができる。4−HB生産体と同様に、BDO生産体も嫌気的条件下で維持され、培養されまたは発酵され得る。
【0078】
さらに、本発明は、4−HBを生産するための方法を提供する。この方法は、実質的に嫌気的条件下で、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、またはグルタミン酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する天然に存在しない微生物を培養することを含む。この方法は、付加的に、例えば、4−HBからGBL、BDOからTHFへの化学変換を含むことができる。
【0079】
さらに、4−HBを生産する方法が提供される。この方法は、実質的に嫌気的条件下で、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する天然に存在しない微生物を培養することを含む。4−HB生産物は、培地に分泌され得る。
【0080】
さらに、BDOを生産する方法が提供される。この方法は、1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物生体触媒を培養することを含み、この経路は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵、4−ヒドロキシブタン酸塩:CoA転移酵素、4−ヒドロキシ酪酸キナーゼ、ホスホトランスヒドロキシブチリラーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱水素酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む。BDO生産物は、培地に分泌され得る。
【0081】
本発明の方法において、1以上の外因性核酸のいずれかが微生物に導入され、本発明の天然に存在しない微生物を生産することができることは理解される。核酸は、例えば、4−HB、BDO、THFまたはGBL生合成経路を微生物に与えるように誘導することができる。あるいは、コード化された核酸は、4−HB、BDO、THFまたはGBL生合成能力を与えるのに必要な反応のいくつかを触媒するための生合成能力を有する中間微生物を生産するために誘導され得る。例えば、4−HB生合成経路を有する天然に存在しない微生物は、4−ヒドロキシブタン酸塩およびα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素の組み合わせ;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびCoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素の組み合わせ;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵の組み合わせ;CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵およびスクシニル−CoA合成酵素の組み合わせ;スクシニル−CoA合成酵素およびグルタミン酸脱炭酸酵素の組み合わせなど所望の酵素をコードする少なくとも2つの外因性核酸を含むことができる。このようにして、生合成経路の2以上の酵素の任意の組み合わせは、本発明の天然に存在しない微生物に含めることができることは理解される。同様に、生合成経路の3以上の酵素の任意の組み合わせ、例えば、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素およびCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵;CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素およびスクシニル−CoA合成酵素;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵およびグルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼなどを、所望の通り、所望の生合成経路の酵素の組み合わせが対応する所望の生産物の生産をもたらす限り、本発明の天然に存在しない微生物に含めることができることは理解される。
【0082】
同様に、例えば、BDO生産を与えるように導入される任意の1以上の外因性核酸に関して、BDO生合成経路を有する天然に存在しない微生物は、所望の酵素をコードする少なくとも2つの外因性核酸、例えば、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびα−ケトグルタル酸脱水素酵素;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素および4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素および酪酸キナーゼ;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびホスホトランスブチリラーゼ;4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素およびアルデヒド脱水素酵素;4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素およびアルコール脱水素酵素;4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素およびアルデヒド/アルコール脱水素酵素などを含む。このようにして、生合成経路の2以上の酵素の任意の組み合わせは、本発明の天然に存在しない微生物に含めることができることは理解される。同様にして、生合成経路の3以上の酵素の任意の組み合わせ、例えば、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素および4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、酪酸キナーゼおよびホスホトランスブチリラーゼ;4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素およびアルデヒド脱水素酵素;4−ヒドロキシブチリルCoA:アセチル−CoA転移酵素、アルデヒド脱水素酵素およびアルコール脱水素酵素;酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼおよびアルデヒド/アルコール脱水素酵素などが本発明の天然に存在しない微生物に含めることができることは理解される。同様に、本明細書に記載されるような生合成経路の4、5個以上の酵素の任意の組み合わせは、所望の通り、所望の生合成経路の酵素の組み合わせが対応する所望の生産物の生産をもたらす限り、本発明の天然に存在しない微生物に含めることができる。
【0083】
前述の天然に存在しない微生物にいずれかは、本発明の生合成生産物を生産し、および/または分泌するように培養することができる。例えば、4−HB生産体は、4−HBの生合成生産のために培養することができる。4−HBは、GBL、THFおよび/またはBDOを生じるように、下記に記載されるように単離または処理され得る。同様に、BDO生産物は、BDOの生合成生産のために培養することができる。BDOは、図1に例示される下流化合物などのBDOファミリー化合物の化学合成のために単離されるかまたは更なる処理に供されてもよい。
【0084】
増殖培地は、例えば、天然に存在しない微生物に炭素供給源を供給することができるいずれかの糖質供給源であり得る。このような供給源には、例えば、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース、フルクトースおよびスターチなどの糖類が挙げられる。糖質の他の供給源には、例えば、再生可能原料およびバイオマスなどが挙げられる。本発明の方法において原料として用いることができる典型的なタイプのバイオマスには、セルロース性バイオマス、ヘミセルロース性バイオマス、およびリグニン原料または原料の一部が挙げられる。このようなバイオマス原料は、例えば、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース、フルクトースおよびスターチなどの炭素供給源として有用な糖質基質を含む。本明細書に提供される教示およびガイダンスを前提にして、当業者は、上記で例示されたもの以外の再生可能原料およびバイオマスも、本発明の4−HBおよび他の化合物を生産するための本発明の微生物の培養に用いることができることを理解する。
【0085】
したがって、本明細書に提供される教示およびガイダンスを前提にして、当業者は、糖質などの炭素供給源上で増殖される場合、本発明の生合成された化合物を分泌する天然に存在しない微生物を生産することができることを理解する。このような化合物には、例えば、4−HB経路、BDO経路および/または組み合わせた4−HBおよびBDO経路における4−HB、BDOおよび中間代謝物のいずれかが含まれる。必要とされるもの全ては、例えば、4−HBおよび/またはBDO生合成経路のいくつかまたはその全ての包含物を含む所望の化合物または中間体の生合成を活性化するために、図2に示される1以上の酵素活性において操作されるべきである。したがって、本発明は、糖質上で増殖した場合には4−HBを分泌し、糖質上で増殖した場合にはBDOを分泌し、および/または糖質上で増殖した場合は図2に示される中間代謝物のいずれかを分泌する天然に存在しない微生物を提供する。本発明のBDOを生産する微生物は、例えば、コハク酸塩、スクシニル−CoA、α−ケトグルタル酸塩、コハク酸セミアルデヒド、4−HB、4−ヒドロキシブチリルホスフェート、4−ヒドロキシブチリル−CoA(4−HB−CoA)および/または4−ヒドロキシブチルアルデヒドから合成を開始することができる。
【0086】
いくつかの態様では、培養条件は、嫌気的または実質的に嫌気的な増殖または維持条件を含む。例示的な嫌気的条件は、前述され、当該技術分野において周知である。発酵プロセスのための例示的な嫌気的条件は、以下の実施例に記載されている。これらの条件のいずれかは、天然に存在しない微生物、並びに当該技術分野において周知である他の嫌気的条件とともに用いることができる。このような嫌気的条件下で、4−HBおよびBDO生産体は、それぞれ単量体4−HBおよびBDOを、5〜10mMの細胞内濃度並びに前に例示された他の全ての濃度で合成することができる。
【0087】
また、本発明の天然に存在しない微生物を生産する4−HBおよびBDOに対する多数の下流化合物を生じさせることができる。本発明の4−HBを生産する微生物に関して、単量体4−HBおよびGBLは、培地に平衡状態で存在する。4−HBからGBLの変換は、例えば、酸性pH培地で微生物を培養することによって効率的に達成され得る。7.5未満またはそれに等しいpH、特にpH5.5以下では、図1に例示されるように、自然に4−HBはGBLに変換される。
【0088】
得られたGBLは、当該技術分野において周知な様々な方法を用いて、培養物に含まれる4−HBおよび他の成分とから分離することができる。このような分離法は、例えば、実施例に例示される抽出手法、並びに連続液体−液体抽出、パーベーパーレイション、膜ろ過、膜分離、逆浸透、電気透析、蒸留、結晶化、遠心分離、抽出ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、および超音波を含む方法が挙げられる。上記方法の全ては、当該技術分野において周知である。分離されたGBLは、例えば、蒸留によって、さらに精製することができる。
【0089】
本発明の4−HBを生産する天然に存在しない微生物から生産され得る別の下流化合物には、例えば、BDOが含まれる。この化合物は、例えば、GBLの化学的水素化によって合成することができる。化学的水素化反応は、当該技術分野において周知である。1つの例示的な手法には、1,4−ブタンジオールを生産するために、水素とともに異種もしくは同種の水素化触媒、または化学量論的もしくは触媒的に用いられる水素化物系の還元剤を用いた、培養物由来の4−HBおよび/またはGBLあるいはこれらの2つの化合物の混合物の化学的還元が含まれる。
【0090】
当該技術分野において周知である他の手法は、上記の化学反応に等しく適用可能であり、例えば、酸化銅および酸化亜鉛触媒上の気相中のガンマ−ブチロラクトンの水素化分解について記載する国際公開第WO82/03854(Bradleyら)を含む。英国特許第1,230,276号は、酸化銅−酸化クロム触媒を用いたガンマ−ブチロラクトンの水素化について記載する。水素化は、液相で行われる。また、高い全リアクター圧を有するバッチ反応が例示される。リアクター内の反応物および生産物の部分圧は、それぞれの露点を優位に上回っている。英国特許第1,314,126は、酸化ニッケル−コバルト−トリウム触媒上の液相におけるガンマ−ブチロラクトンの水素化について記載する。それぞれの成分の露点を優位に上回っている高い全圧および成分部分圧を有するバッチ反応が例示される。英国特許第1,344,557は、酸化銅−酸化クロム触媒上の液相におけるガンマ−ブチロラクトンの水素化について記載する。気相または気体を含む混合された相は、ある場合には適していると指示される。連続流管型リアクターは、高い全リアクター圧を用いて例示される。英国特許第1,512,751号は、酸化銅−酸化クロム触媒上の液相におけるガンマ−ブチロラクトンから1,4−ブタンジオールの水素化について記載する。高い全リアクター圧を有するバッチ反応が例示され、測定できる場合には、反応物および生産物の部分圧は、それぞれの露点を優位に上回っている。米国特許第4,301,077号は、Ru−Ni−Co−Zn触媒上の1,4−ブタンジオールからガンマ−ブチロラクトンへの水素化について記載する。この反応は、液相もしくは気相または混合された液−気相において行うことができる。高い全リアクター圧および相対的に低いリアクター生産力の連続流液相反応が例示される。米国特許第4,048,196号は、酸化銅−酸化亜鉛触媒上のガンマ−ブチロラクトンの液相水素化による1,4−ブタンジオールの生産について記載する。さらに、高い全リアクター圧、高い反応物および生産物部分圧で操作する連続流管型リアクターが例示される。米国特許第4,652,685号は、ラクトンからグリコールへの水素化について記載する。
【0091】
本発明の4−HBを生産する微生物から生産され得る更なる下流化合物には、例えば、THFが含まれる。この化合物は、例えば、GBLの化学的水素化によって合成することができる。GBLからTHFへの変換に適した当該技術分野において周知である1つの例示的な手法には、例えば、テトラヒドロフランを生産するために、水素とともに異種もしくは同種の水素化触媒、または化学量論的もしくは触媒的に用いられる水素化物系の還元剤を用いた、培養物由来の4−HBおよび/またはGBLあるいはこれらの2つの化合物の混合物の化学的還元が含まれる。当該技術分野において周知である他の手法は、上記の化学反応に等しく適用可能であり、例えば、水素化触媒を用いて調製される高い表面積のゾル−ゲルルートについて記載する米国特許第6,686,310号が挙げられる。また、マレイン酸からテトラヒドロフラン(THF)および1,4−ブタンジオール(BDO)に還元する手法、ガンマブチロラクトンからテトラヒドロフランおよび1,4−ブタンジオールに還元する手法が記載されている。
【0092】
培養条件には、例えば、液体培養手法、並びに発酵、および他の大スケールな培養手法が含まれ得る。下記の実施例にさらに記載されるように、本発明の生合成生産物の特に有用な収量は、嫌気的または実質的に嫌気的な培養条件下で得ることができる。
【0093】
さらに、本発明は、4−HBを製造する方法を提供する。この方法は、実質的に嫌気的条件下で、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、CoA非依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、a−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、またはグルタミン酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する天然に存在しない微生物を発酵することを含み、このプロセスは、供給−バッチ発酵およびバッチ分離;供給−バッチ発酵および連続分離、または連続発酵および連続分離を含む。
【0094】
また、上述される培養および化学的水素化は、4−HB、GBL、BDOおよび/またはTHFを製造するためにスケールアップおよび連続的に増大することができる。例示的な増大手法には、例えば、供給−バッチ発酵およびバッチ分離;供給−バッチ発酵および連続分離、または連続発酵および連続分離が挙げられる。これらの手法の全ては、当該技術分野において周知である。4−HB生産体を用いることにより、同時の4−HB生合成、並びにGBL、BDOおよび/またはTHFへの化学的変換を可能にし、これは、発酵などの連続培養法と同時である上記の水素化手法を用いることによる。また、他の水素化手法は、当該技術分野において周知であり、本発明の方法に等しく適用可能である。
【0095】
発酵手法は、4−HBおよび/またはBDOの商業的量の生合成生産のために特に有用である。一般に、非連続的培養手法と同様に、4−HBまたはBDOの連続および/または連続に近い生産は、対数期にある増殖を持続および/またはほぼ持続するのに十分な栄養素および培地において、本発明の4−HBまたはBDOを生産する天然に存在しない生物を培養することを含む。このような条件下での連続培養は、1日、2日、3日、4日もしくは5日、6日または7日あるいはそれを超えることが含まれ得る。さらに、連続培地は、1週間、2週間、3週間、4週間もしくは5週間またはそれを超え、最大数カ月を含むことができる。あるいは、本発明の生物は、特定の応用に適用可能であれば、数時間培養され得る。また、連続および/または連続に近い培養条件は、これらの例示的な期間の全ての時間間隔を含むことができる。
【0096】
発酵手法は、当該技術分野において周知である。要約すると、本発明の4−HB、BDOまたは他の4−HB誘導の生産物の生合成生産のための発酵は、例えば、供給−バッチ発酵およびバッチ分離;供給−バッチ発酵および連続分離、または連続発酵および連続分離において利用可能である。当該技術分野において周知であるバッチおよび連続発酵手法の例には、下記の実施例においてさらに例示される。
【0097】
また、実質的な量の単量体4−HBおよびBDOを連続的に生産するための、本発明のそれぞれの4−HBまたはBDO生産体を用いた上記の発酵手法に加えて、4−HB生産体は同様に、例えば、単量体4−HBから、例えばGBL、BDOおよび/またはTHFへの化学的変換について前述される化学的合成手法に同時に供されることができる。BDO手法は、例えば、BDOから、例えばTHF、GBL、ピロリドンおよび/または他のBDOファミリー化合物への化学的変換について前述される化学的合成手法に同時に供されることができる。さらに、4−HBおよびBDO生産体の手法は、本明細書に開示されるように、発酵培地から分離し、連続して化学的変換に供することができる。
【0098】
要約すると、発酵ブロスにおけるGBLの水素化は、Frostら、Biotechnology Progress 18:201−211(2002)に記載されるように行うことができる。発酵中の水素化のための別の手法には、例えば、米国特許第5,478,952号に記載される方法が含まれる。この方法は、さらに、下記の実施例に例示される。
【0099】
したがって、本発明は、さらに、γ−ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン(THF)または1,4−ブタンジオール(BDO)を製造する方法を提供する。この方法は、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および/または1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する天然に存在しない微生物を発酵することを含み、この経路は、実質的に嫌気的な条件下で、1,4−ブタンジオール(BDO)、GBLまたはTHFを生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、4−ヒドロキシブタン酸塩:CoA転移酵素、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、グルタミン酸脱炭酸酵素、4−ヒドロキシブタン酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、CoA非依存性1,4−ブタンジオールセミアルデヒド脱水素酵素、CoA依存性1,4−ブタンジオールセミアルデヒド脱水素酵素、CoA非依存性1,4−ブタンジオールアルコール脱水素酵素またはCoA依存性1,4−ブタンジオールアルコール脱水素酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含み、この発酵は、供給−バッチ発酵およびバッチ分離;供給−バッチ発酵および連続分離、または連続発酵および連続分離を含む。
【0100】
本明細書に記載される本発明の4−HB、BDOおよび他の生産物の生合成に加えて、本発明の天然に存在しない微生物および方法も、互いに、当該技術分野において周知である他の微生物および方法とともに種々の組み合わせにおいて利用して、他のルートによる生産物生合成を達成することもできる。例えば、4−HB生産体および化学的工程の使用以外、または直接的にはBDO生産体の使用以外のBDOを生産するための1つの代案は、本明細書に例示される4−HBまたは4−HB生産物をBDOに変換することができる別の微生物の添加を介するものである。
【0101】
このようなある手法には、例えば、上述および後述されるように、4−HBを生産するための本発明の4−HBを生産する微生物の発酵が含まれる。次に、4−HBは、4−HBを、例えば、BDO、GBLおよび/またはTHFに変換する第2の微生物に対する基質として用いることができる。4−HBは、第2の生物の別の培養に直接添加することができ、または4−HB生産体の元々の培養は、例えば、細胞分離によるこれらの微生物を枯渇することができ、次に、その後の発酵ブロスへの第2の生物の添加を利用して、中間の精製工程なしに最終生産物を生産することができる。例えば、BDOへの変換のための基質として4−HBを生化学的に利用する能力を有する、ある例示的な第2の生物は、Clostridium acetobutylicumである(例えば、Jewellら、Current Microbiology,13:215−19(1986)を参照されたい)。
【0102】
他の態様では、本発明の天然に存在しない微生物および方法は、例えば、記載されるような4−HBおよび/またはBDOの生合成を達成するための幅広いサブ経路に集めることができる。これらの態様では、本発明の所望の生産物に対する生合成経路は、異なる微生物に分離することができ、異なる微生物を同時に培養して、最終生産物を生産することができる。このような生合成スキームでは、1つの微生物の生産物は、最終生産物が合成されるまで、第2の微生物のための基質となる。例えば、BDOの生合成は、前述されるように、4−HBを介した内因性のコハク酸などの基質を最終生産物のBDOに変換する生合成経路を含む微生物を構築することによって達成することができる。あるいは、BDOも、同じ容器内で2つの生物を用いて同時培養または同時発酵を介して微生物から生合成的に生産することもできる。第1の微生物は、コハク酸から4−HBを生産する遺伝子を有する4−HB生産体であり、第2の微生物は、4−HBをBDOに変換する遺伝子を有するBDO生産体である。
【0103】
本明細書に提供される教示およびガイダンスを前提にして、当業者は、広範囲の組み合わせおよび順列は、他の微生物とともに、サブ経路を有する他の天然に存在しない微生物の同時培養とともに、本発明の4−HB、BDO、GBLおよびTHF生産物を生産するための、当該技術分野において周知である他の化学的および/または生化学的手法の組み合わせとともに、本発明の天然に存在しない微生物および方法のために存在することを理解する。
【0104】
生産物の生合成に有利に働く代案を特定し、設計するための1つの計算法は、OptKnock計算フレームワーク、Burgardら、Biotechnol Bioeng,84:647−57(2003)である。OptKnockは、標的生産物を過剰生産する遺伝的に安定な微生物をもたらす遺伝子欠失戦略を示唆する代謝モデリングおよびシミュレーションプログラムである。具体的には、フレームワークは、細胞増殖の必須の副産物となるように所望の生化学を強制する遺伝的操作を示唆するために、微生物の完全な代謝および/または生化学ネットワークを調べる。戦略的に配置された遺伝子欠失または他の機能的遺伝子破壊を介して、生化学的生産と細胞増殖とを結合させることによって、バイオリアクター中での長期間後の操作された菌株に与えられた増殖選択圧は、強制的な増殖を結合した生化学的生産物の結果として、性能における改善をもたらす。最後に、遺伝子が構築される場合、OptKnockによって選択される遺伝子はゲノムから完全に除去されるべきであるため、それらの野生型状態に戻る設計された菌株のごく僅かな可能性がある。したがって、この計算方法論は、4−HBおよび/またはBDOの生合成をもたらす代替の経路を同定するために用いられるか、または4−HBおよび/またはBDO生合成の更なる最適化のために天然に存在しない微生物と関連させて用いることができる。
【0105】
要約すると、OptKnockは、本明細書において、細胞の代謝をモデリングするための計算法およびシステムに言及して用いられる用語である。OptKnockプログラムは、特定の制約を流束均衡解析(FBA)モデルに組み込むモデルと方法のフレームワークに関する。これらの制約には、例えば、定性的反応速度情報、定性的規制情報、および/またはDNAマイクロアレイ実験データが含まれる。また、OptKnockは、例えば、流束均衡モデルを介して誘導される流束境界を狭め、その後、遺伝子の付加または欠失の存在下で、代謝ネットワークの性能限界を探ることによって、種々の代謝問題に対する解も計算する。OptKnock計算フレームワークは、代謝ネットワークの性能限界の効果的なクエリーを可能にするモデル形式の構築を可能にし、得られた混合整数線形計画問題を解決する方法を提供する。OptKnockなどの本明細書において言及される代謝モデリングおよびシミュレーション法は、例えば、2002年1月10日に出願された米国特許仮出願第10/043,440号、2002年1月10日に出願された国際特許出願第PCT/US02/00660号に記載されている。
【0106】
生産物のバイオ合成生産に有利に働く代謝変調を同定し、設計するための別の計算方法は、SimPheny(登録商標)と称される代謝のモデリングおよびシミュレーションシステムである。この計算方法およびシステムは、例えば、2002年6月14日に出願された米国特許第10/173,547号、2003年6月13日に出願された国際特許出願第PCT/US03/18838号に記載されている。
【0107】
SimPheny(登録商標)は、インシリコでネットワークモデルを作り出し、生物系の化学反応を通して質量、エネルギー、または電荷の流束をシミュレートして、その生物系における化学反応の任意および全ての可能な機能性を含む解空間を規定し、それによりその生物系に許容される活性の範囲を判定するために用いることができる計算システムである。このアプローチは、含まれる反応の既知の化学量論、並びに反応による最大流束に関連する反応熱力学および容量制約などの制約によって、解空間が規定されるため、制約に基づくモデリングと称される。これらの制約によって規定される空間は、生物系またはその生化学成分の表現型の能力および性質を判定するために問い合わせることができる。凸解析、線形計画法、および例えばSchillingら、J.Theor.Biol.203:229−248(2000);Schillingら、Biotech.Bioeng.71:286−306(2000)、Schillingら、Biotech.Prog.15:288−295(1999年)などに記載される極限経路(extreme pathways)の計算は、このような表現型の能力を判定するために用いることができる。下記の実施例において記載されるように、この計算方法論を用いて、実行可能性、並びに4−HBを生産しない微生物における最適な4−HB生合成経路を同定し、分析した。
【0108】
上述のように、本発明に適用可能な計算プログラムで使用される制約に基づく1つの方法は、流束均衡解析である。定常状態条件における流束均衡に基づく流束均衡解析は、例えば、VarmaおよびPalsson、Biotech.Bioeng.12:994−998(1994)に記載されているように行うことができる。流束均衡アプローチは、例えば、FellおよびSmall、J.Biochem.138:781−786(1986)に記載されている脂肪細胞代謝、MajewskiおよびDomach、Biotech.Bioeng.35:732−738(1990)に記載されているATP最大化条件下でのE.coliからの酢酸塩分泌、またはVanrolleghemら、Biotech.Prog.12:434−448(1996)に記載されている酵母によるエタノール分泌のシステム特性をシミュレートまたは予測するために、反応ネットワークに適用されてきた。さらにこの方法を用いて、多様な単一炭素源におけるE.coliの増殖、またEdwardsおよびPalsson、Proc.Natl.Acad.Sci.97:5528−5533(2000);EdwardsおよびPalsson、J.Bio.Chem.274:17410−17416(1999)およびEdwardsら、Nature Biotech.19:125−130(2001)に記載されるようにH.influenzaeの代謝を予測またはシミュレートすることもできる。
【0109】
一度解空間が規定されると、様々な条件下での可能な解を判定するために解析することができる。生物系には適応性があり、異なる多くの方式で同じ結果に到達することができるため、この計算アプローチは生物学的現実に合致する。生物系は、全生命系が直面しなければならない基本的制約によって制限されてきた進化機構を通して設計されている。したがって、制約に基づくモデリング戦略は、これらの一般的現実を包含する。さらに、制約の強化によりネットワークモデルにさらなる制限を持続的に課す能力は、解空間のサイズの減少をもたらし、それにより生理学的機能または表現型の推測精度を向上させる。
【0110】
本明細書に提供される教示およびガイダンスを前提として、当業者は、E.coliおよび酵母以外の宿主微生物における4−HB、BDO、GBL、THFおよび他のBDOファミリー化合物の生合成を設計し、実行するための代謝のモデリングおよびシミュレーション用の様々な計算フレームワークを適用することができる。このような代謝のモデリングおよびシミュレーション法には、例えば、SimPheny(登録商標)およびOptKnockなどの上記で例示された計算システムが含まれる。本発明を説明するために、いくつかの方法が、モデリングおよびシミュレーションのためのOptKnock計算フレームワークに言及して記載されている。当業者は、当該技術分野において周知であるこのような他の代謝のモデリングとシミュレーションの計算フレームワークおよび計算のいずれかに、OptKnockを用いた代謝変調の同定、設計および実施を適用する仕方を知っている。
【0111】
生化学的生産物を生合成的に生産する細胞または生物の能力は、インシリコのモデルを用いて計算された典型的な代謝ネットワークの生化学的生産の限界に照らして説明することができる。これらの限界は、制限基質(単数または複数)の摂取速度(単数または複数)をそれらの実験的に測定された値(単数または複数)に修正し、それぞれの到達可能な増殖レベルで生化学的生産の最大および最小速度を計算することによって得られる。所望の生化学物質の生産は、一般に、細胞内の供給源に関してバイオマス形成と直接競合する。これらの状況もとで、強化された生化学的生産速度は必然的に最大下増殖速度には及ばなくなる。OptKnockなど上記の代謝のモデリングおよびシミュレーションプログラムにより示唆されるノックアウトは、野生型菌株の代謝挙動の変化を強いる許容解の境界を制限するよう設計されている。所定の菌株の実際の解の境界は、基質の摂取速度(単数または複数)が増加あるいは減少すると拡大または縮小するが、それぞれの実験点は、その計算された解の境界内に位置する。これらのようなプロットは、設計された菌株がその性能限界にどの程度近づいているかの正確な予測を可能とし、改善の余地がどの程度であるかも示される。
OptKnock数学的フレームワークは、生合成、特に、増殖連動型の生化学的生産をもたらす遺伝子欠損を特定するために本明細書に例示されている。この手順は、支配する物理化学的制約を連続的に課すことによって、細胞系が示すことができる可能な表現型の範囲を狭める、制約に基づく代謝のモデリングを基礎としている、Priceら、Nat Rev Microbiol、2:886−97(2004)。上述のように、制約に基づくモデルおよびシミュレーションは当該技術分野において周知であり、一般に、ネットワークの化学量論を前提に、特定の細胞目標の最適化を引き合いに出して、考えられる流束分布を示唆する。
【0112】
要約すると、代謝物のセットN={1,...,N}と代謝反応のセットM={1,...,M}で構成される定常状態の代謝ネットワークの総反応流束として定量化された細胞目標の最大化は、数学的に以下のように表現される。
【0113】
【化1】

式中、Sij、は反応jにおける代謝物iの化学量論係数であり、vは反応jの流束であり、v基質取り込みは制限基質(単数または複数)の想定あるいは測定された摂取速度(単数または複数)を表わし、vatp維持は非増殖関連のATP維持要求である。ベクトルvは内向きおよび外向き流束の双方を含む。この研究では、細胞目標は、多くの場合、バイオマス形成に必要とされる比率での生合成前駆体の放出となるよう想定される、Neidhardt、F.C.ら、Escherichia coli and Salmonella:Cellular and Molecular Biology,第2版,1996,Washington,D.C:ASM Press.2v.(xx,2822,lxxvi)。流束は、一般に、バイオマス形成が、生産されたバイオマスg/gDW・hrまたは1/hrとして表現されるように、1gDW・hr(乾燥重量グラム×時間)あたりで報告される。
【0114】
遺伝子欠損のモデリング、したがって、反応の排除は、最初に制約に基づくアプローチへのフレームワークに2値変数の組み込みを行う、Burgardら、Biotechnol Bioeng、74:364−375(2001);Burgardら、Biotechnol Prog、17:791−797(2001)。これらの2値変数
【0115】
【化2】

は、反応jが活性の場合は1の値を、不活性の場合は0の値を想定する。以下の制約
【0116】
【化3】

によって、反応流束vが、変数y=0の場合のみゼロに設定されることが確保される。あるいは、y=1のとき、vは下限vminと上限vmaxとの間の任意の値を想定できる。ここで、vminおよびvmaxは、上記のネットワーク制約の対象となるあらゆる反応流束をそれぞれ最小化、最大化することにより同定される、Mahadevanら、Metab Eng、5:264−76(2003)。
【0117】
最適な遺伝子/反応ノックアウトは、得られたネットワークの最適増殖解が、対象とする化学物質を過剰に生産するように、活性反応(y=1)のセットを選定する二工程最適化問題を解決することによって同定される。数学的には、この二工程最適化問題は、以下の二工程混合整数最適化問題として表現される。
【0118】
【化4】

式中、v化学物質は、例えば、コハク酸または他の生化学的生産物など所望の標的生産物の生産であり、Kは許容される遺伝子破壊の数である。K=0の設定は、完全なネットワークの最大バイオマスの解を返し、K=1の設定は、得られたネットワークがその最大バイオマス収率を前提として最大過剰生成を伴うように、単一遺伝子/反応ノックアウト(y=0)を同定する。最後の制約によって、得られたネットワークが最小バイオマス収率を満たすことが確保される。Burgardら、Biotechnol Bioeng、84:647−57(2003)は、モデル形成および解法についてのより詳細な説明を提供している。何百もの2値変数を含む問題は、GAMS、Brookeら、GAMS Development Corporation(1998)を通じてアクセスされるCPLEX8.0、GAMS:The Solver Manuals。2003:GAMS Development Corporationのモデル化環境をIBM RS6000−270ワークステーション上で用いて、数分から数時間程度で解決できる。OptKnockフレームワークは、生化学物質過剰生産のための有望な遺伝子欠損戦略を同定することが既に可能であり、Burgardら、Biotechnol Bioeng、84:647−57(2003);Pharkyaら、Biotechnol Bioeng、84:887−899(2003)、代謝および調節モデリングのフレームワークの更なる改善を必然的に網羅する体系的なフレームワークを確立する。
【0119】
前述の二工程OptKnock問題のいかなる解も、1セットの破壊される代謝反応を提供する。そのセット内の各反応の排除、あるいは代謝修飾により、生物の増殖相において強制的な生産物として4−HBまたはBDOをもたらすことができる。反応が知られているため、二工程OptKnock問題の解は、反応のセット内の各反応を触媒する1つ以上の酵素をコードする関連遺伝子(単数または複数)も提供する。反応のセットおよび各反応に参加する酵素をコードする対応する遺伝子の同定は、一般に、自動プロセスであり、反応と、酵素とコード化された遺伝子との間の関係を有する反応データベースとの相互関係によって達成される。
【0120】
一度同定されると、4−HBまたはBDO生産を達成するために破壊される反応のセットは、標的細胞または生物において、そのセット内の各代謝反応をコードする少なくとも1つの遺伝子の機能破壊によって実施される。反応のセットの機能破壊を達成するための1つの特に有用な手段は、コード化された遺伝子の欠損によるものである。しかしながら、いくつかの例では、例えば突然変異、プロモーターもしくは調節因子のcis結合部位などの調節領域の欠損、または任意の数の位置でのコード化された配列の切断を含む、他の遺伝子異常によって反応を破壊することが有益となり得る。遺伝子のセットの全欠損に満たないこととなるこれら後者の異常は、例えば、コハク酸塩共役の迅速な評価が望まれる場合、または遺伝子の復帰が起こる可能性が低い場合に有用となる。
【0121】
増殖連動型の4−HBまたは他の生化学生産物の生産を含む生合成をもたらすことができる、更なる反応のセットの破壊または代謝修飾をもたらす、上記の二工程OptKnock問題の更なる生成的な解を同定するために、整数切捨てと称される最適化方法が実施できる。この方法は、各反復に整数切捨てと称される更なる制約を組み込み、上記に例示されるOptKnock問題を反復して解決することにより進行する。整数切捨て制約は、解法が、生成物生合成を増殖に強制的に共役する、以前の任意の反復において同定されたのと全く同じ反応のセットを選定するのを効果的に防止する。例えば、以前に同定された増殖連動型の代謝修飾が、破壊される反応1、2、および3を特定する場合、y+y+y≧1という制約は、同じ反応が後の解で同時に検討されるのを防止する。整数切捨て方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、参考文献のBurgardら、Biotechnol Prog,17:791−797(2001)に見いだすことができる。代謝のモデリングおよびシミュレーションのためのOptKnock計算フレームワークとの組み合わせで、その使用に関連して本明細書に記載されている全ての方法と同様に、反復計算解析における冗長性を減少させる整数切捨て方法も、例えば、SimPheny(登録商標)を含む当該技術分野において周知の他の計算フレームワークとともに適用することができる。
【0122】
上記の形式の制約は、以前に同定されたセットを含む、より大きい反応のセットの同定を防ぐ。例えば、更なる反復で上記の整数切捨て最適化方法を使用すると、破壊される反応1、2、および3を特定した4反応のセットは、これらの反応が以前に同定されているため、同定することが防げる。生産物の生合成生産につながる全ての可能な反応のセットを確実に同定するために、整数切捨て方法の修正を用いることができる。
【0123】
要約すると、修正された整数切捨て法は、反復「ゼロ」で始まり、これは野生型ネットワークの最適増殖で目的の生化学物質の最大生成を計算する。この計算は、K=0でのOptKnock解に相当する。次に、単一のノックアウトが検討され、2つのパラメータのセットであるobjstoreiterおよびystoreiter,jが導入されて、各反復iterで目標機能(v化学物質)および反応オン−オフ情報(y)がそれぞれ保存される。次に、各反復で、OptKnock公式に以下の制約が引き続き付与される。
【0124】
【化5】

上記の方程式では、εとMは、それぞれ小さい数および大きい数である。一般に、εは約0.01に設定でき、Mは約1000に設定できる。しかしながら、これらの数値よりも小さい数や大きい数も使用できる。Mは、制約が以前に同定されたノックアウト戦略のみを拘束することができることを確実にし、εは、以前に同定された戦略へのノックアウトの追加が、最適増殖での生化学的生産において少なくともεの増加をもたらさなければならないことを確実にする。このアプローチは、単一の欠損戦略が野生型菌株を改良するのに失敗したときは、常に2つの欠損へと移行する。2つの欠損戦略が野生型菌株を改良しない場合は、次に3つの欠損が検討され、以下同様である。最適増殖での所望の生化学的生産として表わされる最終結果は、少なくとも1つのノックアウトの分だけ互いに異なる別個の欠損戦略の順位付けられたリストである。この最適化手順、および破壊された場合に生化学的生産物の増殖連動型の生産をもたらす多種多様な反応のセットの同定は、。本明細書において提供される教示および指針を前提として、当業者は、本明細書に例示される方法および代謝的操作設計が、細胞または微生物増殖の任意の生化学的生産物への強制的共役に、同等に適用可能であることを理解する。
【0125】
上記に例示され、下記の実施例でさらに説明される方法は、標的の生化学的生産物の生産を、同定された遺伝子改変を有するように操作された細胞または生物の増殖に強制的に共役することを可能にする。この関連で、4−HBおよび1,4−ブタンジオールの生合成をもたらす代謝変調が同定されている。同定された代謝変調によって構成された微生物菌株は、修飾されていない微生物と比較して、高いレベルの4−HBまたはBDOを生産する。これらの菌株は、連続式発酵プロセスにおける、例えば4−HB、BDO、THFおよびGBLの商業生産のために、負の選択圧を受けることなく有利に用いることができる。
【0126】
したがって、本明細書に記載される計算法は、OptKnockまたはSimPhenyから選択されるインシリコの方法によって同定される代謝修飾のセットの同定および実施を可能にする。この代謝修飾のセットは、例えば、1以上の生合成経路酵素の付加および/または遺伝子欠損による破壊を含む1以上の代謝反応の機能破壊を含むことができる。
【0127】
本発明の種々の態様の活性に実質的に影響を及ぼさない修飾も、本明細書に提供される発明の定義内に含まれることが理解される。したがって、下記の実施例は、本発明を例示するためであり、限定しないことが意図される。
【実施例】
【0128】
(実施例I)
4−ヒドロキシブタン酸の生合成
本実施例は、4−HB生産のための生化学的経路を説明する。
【0129】
微生物における4−HB合成の従来の報告は、生分解性プラスチックであるポリ−ヒドロキシアルカン酸塩(PHA)の生産における中間体としてこの化合物に焦点が当てられていた(米国特許第6,117,658号)。ポリ−3−ヒドロキシ酪酸塩ポリマー(PHB)に対する4−HB/3−HBの使用は、脆性が少ないプラスチックをもたらすことができる(SaitoおよびDoi、Intl.J.Biol.Macromol.16:99−104(1994))。本明細書に記載されている単量体4−HBの生産は、いくつかの理由で根本的には異なったプロセスである:(1)細胞内に生産され、細胞内に残存するPHAとは対照的に、生産物が分泌される;(2)ヒドロキシブタン酸塩ポリマーを生産する微生物に対して、遊離4−HBは生産されないが、むしろ、補酵素A誘導体がポリヒドロキシアルカン酸塩合成酵素によって用いられる;(3)このポリマーの場合、粒状生産物の形成が熱力学を変化させる;(4)細胞外pHは、このポリマーの生産のための問題ではなく、それは、4−HBが遊離酸または共役塩基状態で存在するかどうか、また4−HBとGBLとの間で平衡して存在するかどうかに影響を及ぼす。
【0130】
4−HBは、中間体としてコハク酸セミアルデヒドを用いて、TCAサイクルの中心的な代謝物であるコハク酸塩から2つの酵素還元工程で生産することができる(図2)。これらの酵素のうちの第1であるコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素は、NADH−およびNADPH−依存性酵素が見出されているE.coliを含む多くの生物を原産としている(DonnellyおよびCooper、Eur.J.Biochem.113:555−561(1981);DonnellyおよびCooper、J.Bacteriol.145:1425−1427(1981);MarekおよびHenson、J.Bacteriol.170:991−994(1988))。また、S.cerevisiaeにおけるコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素活性を支持する証拠があり(Ramosら,Eur.J.Biochem.149:401−404(1985))、推定遺伝子は、配列相同性によって同定されている。しかしながら、大部分のレポートは、この酵素は、図2示されるように、4−HBおよびガンマ−アミノ酪酸塩の分解経路に参加しているコハク酸合成の方向に進むことを指示している(DonnellyおよびCooper、上述;Lutke−EverslohおよびSteinbuchel、FEMS Microbiol.Lett.181:63−71(1999))。また、コハク酸セミアルデヒドは、2つの酵素であるグルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドアミノ基転移酵素およびグルタミン酸脱炭酸酵素の作用を介して、TCAサイクルの中間体であるα−ケトグルタル酸塩を通じてE.coliなどのある種の微生物によって天然に生産される。コハク酸塩を分解するための偏性嫌気性のClostridium kluyveriによって使用される別の経路は、コハク酸塩をスクシニル−CoAに活性化し、次に、この方向で機能することが知られている代替のコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素を用いたコハク酸セミアルデヒドをコハク酸セミアルデヒドに変換する(SohlingおよびGottschalk、Eur.J.Biochem.212:121−127(1993))。しかしながら、このルートは、コハク酸塩をスクシニル−CoAに変換させるのに必要とされるATPのエネルギー消費がある。
【0131】
この経路の第2の酵素である4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素は、E.coliおよび酵母を原産としないが、C.kluyveriおよびRalstonia eutrophaなどの種々の細菌に見出される(Lutke−EverslohおよびSteinbuchel、上述;SohlingおよびGottschalk,J.Bacteriol.178:871−880(1996);Valentinら、Eur.J.Biochem.227:43−60(1995);WolffおよびKenealy,Protein Expr.Purif.6:206−212(1995))。これらの酵素は、NADH依存性であることが知られているが、NADPH依存性形態も存在する。アルファ−ケトグルタル酸塩から4−HBへの追加の経路が、ポリ(4−ヒドロキシブタン酸)の蓄積をもたらすE.coliにおいて示された(Songら,Wei Sheng Wu Xue.Bao.45:382−386(2005))。組換え菌株は、3つの異種遺伝子であるPHAシンターゼ(R.eutropha)、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素(R.eutropha)および4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素)(C.kluyveri)、並びに2つの天然のE.coli遺伝子:グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドアミノ基転移酵素およびグルタミン酸脱炭酸酵素の過剰発現を必要とした。図2における工程4および5は、代替的に、Euglena gracilisにおいて同定されたものなどのアルファ−ケトグルタル酸脱炭酸酵素によって実施することができる(Shigeokaら、Biochem.J.282(Pt2):319−323(1992);ShigeokaおよびNakano、Arch.Biochem.Biophys.288:22−28(1991);ShigeokaおよびNakano,Biochem J.292(Pt2):463−467(1993))。しかしながら、この酵素は、従来、いずれかの生物における4−HBまたは関連したポリマーの製造に影響を及ぼすようには適用されていなかった。
【0132】
コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素の報告されている方向性は、4−HB代謝の熱力学の調査へと導く。具体的には、この研究は、4−HBへのコハク酸塩またはスクシニル−CoAの変換に関与する反応が、E.coliおよびS.cerevisiaeに存在する典型的な生理学的条件下で熱力学的に望ましい(即ち、ΔG<0)。全ての酸化/還元反応は、NADHを利用するものと推測されるが、NADPH利用の推定は、結果として同じである。標準生産ギブス自由エネルギー(ΔG)は、原子団寄与法(Mavrovouniotis,M.L.、J.Biol.Chem.266:14440−14445(1991))に基づいて、図2に示されるコハク酸塩およびスクシニル−CoA経路において、各化合物について計算された。次に、各々の標準生産ギブス自由エネルギーは、特定の圧力、温度、pH、およびイオン強度で自然変化の基準を得るために変換された(Alberty,R.A.、Biochem.Biophys.Acta 1207:1−11(1994))(式1)。
【0133】
【化6】

式中、ΔGは、標準生産ギブス自由エネルギーであり、Nは、化合物中の水素原子の数であり、Rは、一般気体定数であり、Tは、298Kで一定であり、zは、対象とするpHでの分子の電荷であり、Iは、Mにおけるイオン強度であり、Bは、1.6L0.5/mol0.5に等しい定数である。
【0134】
方程式1は、細胞内pHおよびイオン強度が、熱力学的実行可能性の測定において役割を果たすことを表す。通常、細胞の細胞内pHは、培養pHが大きく変動する場合であっても非常に十分に制御される。E.coliおよびS.cerevisiaeの細胞内pHはともに、文献に報告されている。E.coliは、中性バッファーでの典型的な増殖状態で細胞内pHを7.4〜7.7に維持するが、pH6の培地では7.2まで下がり、さらに、外部pHが5である場合に対しては6.9程度の低さに達することもあり得る(Riondetら、Biotechnology Tech.11:735−738(1997))。しかしながら、E.coliの増殖は、6を下回る外部pHで大幅に阻害される。酵母のpHは、より大きな変動を示す。指数増殖期では、S.cerevisiaeの内部pHは、外部pHが5.0に調節されている場合、6.7〜7.0の範囲にあることが測定されている(DombekおよびIngram、Appl Environ.Microbiol.53:1286−1291(1987))。他方では、静止細胞では、内部pHは、外部pHが6以下である場合、6未満に下がる(ImaiおよびOhno、J.Biotechnol.38:165−172(1995))。この分析は、細胞内pHがE.coliでは7.4、S.cerevisiaeでは6.8であると推測している。また、イオン強度は0.15であると推測された(Valentiら、上述)。
【0135】
変換された生産ギブスエネルギーは、標準状態(pH=7.0、I=0)、E.coli(pH=7.4、I=0.15)およびS.cerevisiae(pH=6.8、I=0.15)の生理学的状態で計算された。次に、変換された反応ギブスエネルギー(ΔGr)は、生産物と反応物との間のΔGにおける差異を測ることによって計算された。コハク酸塩またはスクシニル−CoAを4−HBに変換するのに必要な変換された反応ギブスエネルギーを表2に示す。ある工程では、デルタGが正の値として計算されたが、これらの計算および濃度勾配に対する標準誤差は、どの工程も実行可能であることを指示する。グループ寄与理論によって計算されたΔGfの標準誤差であるUf,estは4kcal/molであることに留意されたい。ΔG,Ur,estの不確定性は、各化合物のΔGfに対する不確定性のユークリッドノルム(Euclidean norm)として計算することができる(式)。
【0136】
【化7】

式中、nは、化学量論係数(stochiometric coefficient)であり、iは、化合物である。試験された反応について、この不確定性は、8kcal/molのオーダーである。
【0137】
表2.異なるpHおよびイオン強度値での反応のギブス自由エネルギー。第1のカラムは、標準条件下であり、他は、式1に従って調整される。温度は、298Kで一定である。これらの値の誤差バーは、式2により計算すると、8kcal/molのオーダーである。省略形:suc、コハク酸塩;sucsa、コハク酸セミアルデヒド;succoa、スクシニル−CoA;Pi、無機リン酸塩。
【0138】
【表2】

表2は、本発明者らによる形成において潜在的な不確定性を考慮後の熱力学的障壁に直面する最も可能性のある反応は、コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素であることを表す(図2の第1工程)。また、関与している代謝産物の想定される濃度を変更することによって、熱力学的実行可能性に近づいて、この反応が推進するかどうかも研究した。例えば、標準ギブスエネルギーは、全ての関与している化合物(水を除く)について1Mの濃度であることを推測する。嫌気性環境では、NADHは、NADよりも数倍高い濃度で存在している。[NADH]=5×[NAD]であると仮定して、本発明者らは、式
【0139】
【化8】

を用いて、ΔG’への影響を計算した。
【0140】
この変化は、コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素に対して、デルタG値の約1kcal/molの差をもたらす。また、式3は、反応を推進するための高いコハク酸塩濃度などの、ΔGに対する他の影響を計算するために用いられた。コハク酸塩およびコハク酸セミアルデヒドの濃度における1000倍の差は、デルタGに約5kcal/molを寄与する。8kcal/molの推測される不確定性と合わせて考慮すると、コハク酸セミアルデヒドが、ある一連の生理学的条件下、コハク酸セミアルデヒドに向けて操作するという可能性は、排除することができない。このようにして、コハク酸塩から4−HBへの直行ルートは、依然として、その後の分析における検討事項となる。
【0141】
4−ヒドロキシ酪酸塩の微生物による生産能力が、2つの微生物であるEscherichia coliおよびSaccharomyces cerevisiaeにおいて、各微生物のインシリコ(in silico)代謝モデルを用いて調査された。4−HBに対する潜在的な経路は、図2に示されるように、コハク酸塩、スクシニル−CoA、またはアルファ−ケトグルタル酸塩中間体を介して進行する。
【0142】
コハク酸塩からの4−HB生産経路における第1工程は、NADH−またはNADPH−依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素を介して、コハク酸塩からコハク酸セミアルデヒドへの変換を伴う。E.coliでは、gabDは、NADP依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素であり、4−アミノ酪酸塩の取り込みおよび分解に関与する遺伝子クラスターの一部である(Niegemannら、Arch.Microbiol.160:454−460 (1993);Schneiderら、J.Bacteriol.184:6976−6986(2002))。sadは、NAD依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素活性のための酵素をコードすると考えられている(MarekおよびHenson、上述)。S.cerevisiaeは、推定上UGA2に指定されている、NADPH−依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素だけを含み、これは、細胞質ゾルに局在している(Huhら、Nature 425:686−691(2003))。E.coliおよびS.cerevisiaeの両方における4−HBへのコハク酸塩経路を推定する最大収量計算は、非天然の4−HB脱水素酵素がそれらの代謝経路網に加わっていたという推定だけを必要とする。
【0143】
コハク酸塩−CoAから4−ヒドロキシ酪酸塩までの経路は、4−ヒドロキシ酪酸塩単量体単位を含むポリヒドロキシアルカン酸塩を作製するためのプロセスの一部として、米国特許第6,117,658号に記載された。Clostridium kluyveriは、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素活性を有することで知られている1つの例示的な生物である(SohlingおよびGottschalk、上述;SohlingおよびGottschalk、上述)。この研究では、C.kluyveriまたは別の生物由来のこの酵素は、E.coliまたはS.cerevisiaeにおいて、非天然または異種の4−HB脱炭酸酵素とともに発現し、スクシニル−CoAから4−HBまでの経路を完成するものと推定される。アルファ−ケトグルタル酸塩から4−HBまでの経路は、E.coliにおいて、乾燥細胞重量の30%までポリ(4−ヒドロキシ酪酸)の蓄積をもたらすことが示された(Songら、上述)。E.coliおよびS.cerevisiaeは、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素およびグルタミン酸脱炭酸酵素の両方を有するので(Colemanら、J.Biol.Chem.276:244−250(2001))、AKGから4−HBまでの経路は、非天然の4−HB脱水素酵素が存在することだけを推定することによって、両生物において完成され得る。
【0144】
(実施例II)
E.coliにおける4−ヒドロキシ酪酸の生産
本実施例は、各生化学的経路からもたらされる4−ヒドロキシブタン酸に対する生合成収量を記載する。
【0145】
この節では、グルコースからの4−HBの最大理論収量が計算され、図2に示される3つの代謝経路の各々がE.coliにおいて機能的であることを推測する。Reedら、Genome Biol.4:R54(2003)に記載されているのと同じである、E.coliのゲノム規模が、分析の基準として用いられた。各最大収量経路のエネルギー獲得は、生産されたATP分子の観点から計算され、他に記載がなければ、嫌気的条件であると推測される。4−ヒドロキシ酪酸は、大部分の有機酸と同様に、プロトン共輸送を介してE.coliに存在するものと推定される。また、GBLは、単純拡散によって分泌されることがあり得て、この場合、エネルギー論は、ここで考えられる場合よりも好都合である。また、各経路の最大収量およびエネルギー論における関与している酵素の補因子特異性の影響を調べた。
【0146】
分析の結果を表3A〜Cに示す。エネルギー論および収量の観点から、コハク酸塩から4−HBへの経路は最も期待される。具体的には、計算により、グルコースから最大理論収量が1.33mol/mol(0.77g/g;0.89Cmol/Cmol)であることが示され、コハク酸塩から4−HBへの経路が機能的であることが推定される。さらに、コハク酸塩を介した4−HBの嫌気的生産は、関与している酵素の推定される補因子特異性に依存して、グルコースあたり1.8、1.5、または1.1molのいずれかのATPの正味の生産量をもたらす。これらのエネルギー収率は、グルコースあたり2.0ATPに匹敵し、それは、E.coliにおける嫌気性ホモ−4−HB生産のための潜在性を示唆するエタノールまたは乳酸塩の生産によって、基質レベルのリン酸化を介して得ることができる。
【0147】
スクシニル−CoAから4−HBへの経路は、最大収量およびエネルギー論を考慮すると、別の有望な経路である。4−HBの1.33mol/mol収率は、経路工程の少なくとも1つがNADH依存性であると推定される場合、E.coliにおいて達成可能である。しかしながら、この経路は、スクシニル−CoAの形成を必要とするため、そのエネルギー収率は、コハク酸塩経路のエネルギー収率よりも低い。酸素需要量は、CoA−依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および4−HB脱水素酵素工程がNADPH依存性であると推定される場合、高い4−HB収量であると予測される。この場合、最大収量での4−HB生産は、正味でないATP獲得をもたらし、E.coli生存に必要とされるエネルギー維持要求を支持する可能性はない。このようにして、ある種のエネルギーは、ホモ−発酵性4−HB精製を可能にする酸化的リン酸化由来でなければならない。4−HBへ向かう、グルタミン酸塩:コハク酸セミアルデヒドアミノ基転移酵素およびグルタミン酸脱炭酸酵素を利用するアルファ−ケトグルタル酸塩経路は、3つの潜在的なルートの少なくとも好都合であり、最大達成可能な収量は、1molのグルコースあたり、1.0molの4−HBであった。より低い最大収量に加えて、この経路は、4−HBに変換されるグルコース1molあたり1.5molの酸素の利用を要求する。この経路のエネルギーは、4−HB脱水素酵素の推定される補因子特異性によって影響を受けない。
【0148】
表3.4−HBへの全基質の変換化学量論であり、A)コハク酸塩、B)スクシニル−CoA、またはC)アルファ−ケトグルタル酸塩生産ルートがE.coliにおいて機能的であることを推定する。グルコースおよび酸素の取り込みが開始され、他の全ての分子が生産される。
【0149】
【表3】

この報告書において提案される計算による予測を確かめるために、4−HBまでの完全な経路を発現している菌株を構築し、試験することができる。確認は、E.coli(実施例IIおよびIV)およびS.cerevisiae(実施例III)の両方を用いて行われる。E.coliでは、関連遺伝子は、中または高コピーのプラスミド上で誘導可能なプロモーターの後方に合成オペロンにおいて発現される;例えば、pBAD系のプラスミド上のアラビノースによって誘導されるPBADプロモーターがある(Guzmanら、J.Bacteriol.177:4121−4130(1995))。S.cerevisiaeでは、遺伝子は、天然のピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子に代えて、PDClプロモーターの後方に、染色体内に組み込まれる。この結果は、プラスミド由来よりも高い外来遺伝子の発現をもたらすことが報告され(Ishidaら、Appl.Environ.Microbiol.71:1964−1970(2005))、また、嫌気的条件での発現を確保する。
【0150】
関連構築物を含む細胞は、PBADプロモーター下で発現される遺伝子を含むE.coliの場合にはアラビノースの添加を伴う、グルコースを含む最少培地で増殖される。試料は、遺伝子発現および酵素活性分析の両方のために周期的に採取される。酵素活性アッセイは、当該技術分野において周知である手法を用いて粗製な細胞抽出物において行われる。あるいは、全ての脱水素酵素反応工程において生産され、分光測光法によって検出可能であるNAD(P)Hの酸化に基づくアッセイを利用することができる。さらに、抗体を用いて、特定の酵素のレベルを検出することができる。酵素活性測定の代わりにまたはそれに加えて、RNAは、逆転写PCRによって測定される、対象とする遺伝子の平行な試料および転写物から単離することができる。検出可能な転写物発現が不足しているいずれかの構築物は、コードしている核酸が発現可能な形態で提供されることを確かめるために再分析される。転写物が検出される場合、この結果は、不活性酵素の翻訳または生産の欠損のいずれかを指示する。当該技術分野において周知である様々な方法は、追加的に用いることができ、例えば、コドン最適化、強力なリボソーム結合部位の操作、異種由来の遺伝子の使用、およびAsn残基からAspへの変換によるN−グリコシル化(酵母における細菌酵素の発現を目的とする)などが挙げられる。一度、必要とされる全ての酵素活性が検出されると、次の工程は、インビボにおいて4−HPの生産を測定することができる。3点測定の振とうフラスコ培養物が、必要とされる条件(上記を参照)に応じて、嫌気的または微好気的のいずれかで増殖され、試料が周期的に採取される。培養上清に存在する有機酸は、Aminex AH−87Xカラムを用いたHPLCによって分析される。4−HBの溶出時間は、化学物質製造業者から購入した標準を用いて測定される。
【0151】
CoA非依存性経路が実行され、確認のために試験することができる。この場合、過剰発現した遺伝子は、各生物由来の天然のコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、およびRalstonia eutropha由来の4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素である。一度、両方の酵素活性が、上記で検討されるように検出されると、菌株は、4−HB生産について試験される。また、CoA依存性経路の実行から確認が得られる。Clostridium kluyveri由来のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素は、上述されるように発現される。さらに、天然のスクシニル−CoA合成酵素の過剰発現も行われ、異種経路により多くのコハク酸塩を注ぎ込むためである。最終的に、4−HB生産が好ましくない場合、異なる培養条件を試験することができ、例えば、NAD(P)H/NAD(P)比を操作することができる酸化状態の変化が挙げられる。
【0152】
(実施例III)
酵母における4−ヒドロキシブタン酸の生産
本実施例は、S.cerevisiaeにおける各生化学的経路からもたらされる4−ヒドロキシブタン酸のための生合成収量を記載する。
【0153】
この節では、グルコースからの4−HBの最大理論収量を計算し、図2に示される3つの代謝経路の各々が、S.cerevisiaeにおいて機能的であることを推測する。Forsterら、Genome Res.13:244−253(2003)に記載されるものと同じように、S.cerevisiaeのゲノム規模の代謝モデルを分析用の基準として用いた。各最大収量経路のエネルギー獲得は、他に記載がなければ、嫌気的条件であると推測される。4−ヒドロキシ酪酸は、大部分の有機酸と同様に、プロトン共輸送を介してS.cerevisiaeに存在するものと推定される。また、各経路の最大収量およびエネルギー論における関与している酵素の補因子特異性(即ち、NADHまたはNADPH依存性)の影響を調べた。
【0154】
分析からの結果を表4A〜Cに示す。E.coliと同様に、コハク酸塩から4−HBへの経路は最も期待されるが、ただし、実施例1において生じた熱力学的関連性は克服され得る。この計算は、グルコースからの4−HBの最大理論収量は、S.cerevisiaeにおいて1.33mol/mol(0.77g/g;0.89Cmol/Cmol)であることを表す。さらに、コハク酸塩を介した4−HBの嫌気的生産は、関与している酵素の推定される補因子特異性に依存して、グルコースあたり1.4、1.1、または0.5molのいずれかのATPの正味の生産量をもたらす。
【0155】
4−HBまでのスクシニル−CoA経路は、2番目に好ましい経路である。1.33mol 4−HB/molグルコースの最大収量は、補因子特異性に関わらずにS.cerevisiaeにおいて達成可能である。しかしながら、最大理論収量での正味のエネルギー発生は、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および4−HB脱水素酵素工程の両方がNADH依存性であると推定される場合にのみ可能である。いずれかの工程がNADPH依存的である場合、嫌気的4−HB生産から得られず、代替のエネルギー源(例えば、酸化的リン酸化)が細胞増殖および維持を支持するために必要とされる。4−HBに向かうアルファ−ケトグルタル酸塩ルートは、S.cerevisiaeにおいて3つの潜在的な経路のうち少なくとも好ましいが、1.1−1.2mol 4−HB/molグルコースの最大収量はE.coliに見られたものよりも僅かに高い。それにも関わらず、この経路は、エネルギー的に天然になるために、1molのグルコースあたり0.8〜0.9mol酸素の酸素取り込みを必要とする。
【0156】
表4.S.cerevisiaeにおける4−HBへの全基質の変換化学量論であり、A)コハク酸塩、B)スクシニル−CoA、またはC)アルファ−ケトグルタル酸塩生産ルートがS.cerevisiaeにおいて機能的であることを推定する。グルコースおよび酸素の取り込みが開始され、他の全ての分子が生産される。
【0157】
【表4】

(実施例IV)
コハク酸塩およびα−ケトグルタル酸塩からの1,4−ブタンジオールの生合成
本実施例は、微生物から4−HBおよびBDOの構成および生合成生産を例証する。
【0158】
実施例1〜3において前述されるように、図1に示される4−HBからBDOへの生物形質転換工程の熱力学的特徴もグループ寄与によって測定された標準生産ギブス自由エネルギーに基づいて計算された。結果を表5に示す。同様に、いくつかの工程が正のデルタG値を計算したが、これらの計算の標準誤差および濃度勾配は、いずれかの工程が実行可能であることを指示する。
【0159】
表5.標準的な条件下での反応ギブス自由エネルギー(kcal/mole)(pHおよびイオン強度値)。今度は、298Kで一定であった。これらの値の誤差バーは、式2によって計算されるように、8kcal/molのオーダーである。省略形:4−HBald、4−ヒドロキシブチルアルデヒド。
【0160】
【表5】

理論的収量が計算され、図2における全ての経路はE.coliにおいて組み込まれると推定される。Reedら、Genome Biol 4:R54(2003)に記載されるものと同様に、E.coliのゲノム規模の代謝モデルを分析用の基準として用いた。エネルギー中性、並びに無細胞増殖および維持を推定する最大理論収量は、微嫌気的条件下で、1.09mol BDO/molグルコースであった。嫌気的条件下で行ったシミュレーションは、BDO生産に向けられた経路を推進するために利用することができ、共同産物として酢酸塩またはエタノールのいずれかが生産される。これらの条件下で、最大収量は、それぞれ1.04および1.00mol/molであった。1つの選択肢は、電子受容体として、制限量の硝酸塩を添加し、したがって、起こり得る呼吸量を調節することである。この条件下では、最大収量は、1.09mol/molまで戻る。別の選択肢は、PEPカルボキシル化の方向に機能し得る異種または操作されたホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼを用いて、天然のE.coliのホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼを置換することである。この酵素はATPを生産し、PEPカルボキシラーゼは生産しない。この仮定の下で、最大収量は、1.09mol/molまで戻る。
【0161】
さらに、上述される経路において利用可能であるいくつかの代わりの酵素がある。コハク酸塩からスクシニル−CoAへ変換するための天然または内因性の酵素(図2では工程1)は、工程9では同じように機能する、cat1遺伝子C.kluyveri(Sohling,B.およびG.Gottschalk、Eur.J Biochem.212:121−127(1993))によってコードされるものなどのCoA転移酵素によって置換され得る。しかしながら、この酵素による酢酸塩の生産は最適でない場合があり、それは、アセチル−CoAに戻って変換されるというよりはむしろ分泌される場合があるためである。この点において、工程9において酢酸塩形成を排除することも有益となり得る。このCoA転移酵素に対する1つの代替として、酢酸塩からアセチル−CoAへの変換についてのE.coliにおける酢酸キナーゼ/ホスホトランスアセチラーゼ経路と類似して、4−HBが最初にATPによってリン酸化され、次にCoA誘導体に変換される機構が用いられてもよい。このルートの正味のコストは、1つのATPであり、それは、酢酸塩からアセチル−CoAを再生産するために必要とされるのと同じである。酵素であるホスホトランスブチリラーゼ(ptb)および酪酸キナーゼ(bk)は、C.acetobutylicumにおいて酪酸塩生産のための非ヒドロキシル化分子に対してこれらの工程を行うことで知られている(Caryら、Appl Environ Microbiol 56:1576−1583(1990);Valentine,R.C.およびR.S.Wolfe、J Biol Chem.235:1948−1952(1960))。これらの酵素は、可逆的であり、合成を4−HBの方向に進行させることができる。
【0162】
また、BDOは、コハク酸塩の媒介に加えてまたはそれに代えて、α−ケトグルタル酸塩を介して生産することもできる。前述され、さらには下記に例示されるように、生産物生合成を達成するための1つの経路は、内因性酵素を用いたα−ケトグルタル酸塩を介したコハク酸セミアルデヒドの生産を伴うものである(図2、工程4−5)。代わりは、1工程においてこの変換を行うことができるα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素を用いることである(図2、工程8;Tianら、Proc Natl Acad Sci USA 102:10670−10675(2005))。
【0163】
BDOを生産する微生物の異なる菌株の構築について、適用可能な遺伝子のリストが、実証に関して蓄積された。要約すると、4−HBおよび/またはBDO生合成経路内の1以上の遺伝子は、利用可能な文献供給源、NCGI遺伝子データベース、および相同性検索を用いて、図2に示される完全なBDO生産経路の各工程について同定された。この研究においてクローニングされ、評価された遺伝子は、ポリペプチド配列に対する適切な参考文献およびURL引用とともに、下記の表6に示される。さらに下記に検討されるように、いくつかの遺伝子は、コドン最適化のために合成され、他は、天然または野生型の生物のゲノムDNAからPCRを介してクローニングされた。いくつかの遺伝子については、両方のアプローチが用いられ、この場合、天然の遺伝子は、実験に用いられる場合に遺伝子の識別番号に接尾語「n」によって支持される。DNA配列だけが相違し、タンパク質が同じであることに留意されたい。
【0164】
表6.宿主のBDOを生産する微生物において発現する遺伝子
【0165】
【表6−1】

【0166】
【表6−2】

BDO経路のための発現ベクター構築。ベクター骨格およびいくつかの菌株は、Expressys(www.expressys.de/)のDr.Rolf Lutzから得た。ベクターおよび菌株は、Dr.Rolf LutzおよびProf.Hermann Bujard(Lutz,R.およびH.Bujard、Nucleic Acids Res 25:1203−1210 (1997))によって開発されたpZ Expression Systemに基づく。得られたベクターは、pZE131uc、pZA331uc、pZS131ucおよびpZE221ucであり、詰込み断片としてルシフェラーゼ遺伝子を含んでいた。適切な制限酵素部位によって側面に配置されたlacZ−アルファ断片でルシフェラーゼ詰込み断片を置換するために、このルシフェラーゼ詰込み断片を最初にEcoRIおよびXbaIを用いた消化によって各ベクターから取り出した。lacZ−アルファ断片は、下記のプライマー:
lacZアルファ−RI
5’GACGAATTCGCTAGCAAGAGGAGAAGTCGACATGTCCAATTCACTGGCCGTCG TTTTAC3’
lacZアルファ3’BB
5’−GACCCTAGGAAGCTTTCTAGAGTCGACCTATGCGGCATCAGAGCAGA−3’
を用いて、pUC19からPCR増幅した。
【0167】
これは、EcoRI部位の5’末端、NheI部位、リボソーム結合部位、SalI部位および開始コドンを含む断片を生じた。断片の3’末端には、終始コドン、XbaI、HindIII、およびAvrII部位が含まれる。PCR生産物は、EcoRIおよびAvrIIで消化され、EcoRIおよびXbaIで消化された基礎ベクターに連結された(XbaIおよびAvrIIは適合可能末端を有し、部位なしを生じる)。NheIおよびXbaI制限酵素部位は、互いに連結され得る適合可能末端を生じる(しかし、NheI/XbaI部位なしを生じ、いずれかの酵素によって消化されない)ため、ベクターにクローニングされた遺伝子は、互いに「バイオブリック(biobrick)」され得る(http://openwetware.org/wiki/S ynthetic Biology:BioBricks)。要約すると、この方法は、同じ2つの制限部位(この部位が遺伝子の内部に見えない限りにおいて)を用いて、ベクター内に制限されない数の遺伝子を接合することができ、これは、遺伝子間のこの部位が各添加後に破壊されるためである。
【0168】
全てのベクターは、pZ記号表示、続く、文字および数字による表示、複製起源、抗生物質耐性マーカー、およびプロモーター/調節ユニットを含む。複製起源は、2番目の文字であり、ColE1系起源についてはE、p15A系起源についてはA、pSC101系起源についてはSによって示される。1番目の数字は、抗生物質耐性マーカーを表す(アンピシリンについては1、カナマイシンについては2、クロラムフェニコールについては3、スペクチノマイシンについては4、テトラサイクリンについては5)。最後の数は、対象とする遺伝子を調節するプロモーターを示す(PLtetO−1については1、PLacO−1については2、PA1lacO−1については3、Plac/ara−1については4)。MCSおよび対象とする遺伝子は、直後に続く。本明細書において検討される作業については、本発明者らは、2つの基本ベクターであるpZA33およびpZE13を用い、上記で検討されるようなバイオブリック挿入物については修飾されている。一度、対象とする遺伝子(単数または複数)がそれらにクローニングされると、得られるプラスミドは、表6に示される4つの数字の遺伝子コード;例えば、pZA33−XXXX−YYYY−を用いて示される。
【0169】
宿主菌株構築。本明細書に記載される全ての研究における親菌株は、E.coli K−12菌株MG1655である。adhE、gabD、およびaldAにおけるマーカーなしの欠失菌株は、redET法(Datsenko,K.A.およびB.L.Wanner、Proc Natl Acad Sci U SA 97:6640−6645(2000))を用いて、第三者による請負契約により構築された。その後の菌株は、バクテリオファージP1を介した形質導入(Miller,J.1973.Experiments in Molecular Genetics.Cold Spring Harbor Laboratories,New York)により構築された。菌株(C600Z1(laci、PN25−tetR、Sp、lacY1、leuB6、mcrB、supE44、thi−1、thr−1、tonA21)は、Expressysから得られ、P1形質導入のためにlacI対立遺伝子の供給源として用いた。バクテリオファージP1 virは、lacIに連結されたスペクチノマイシン耐性遺伝子を有するC600Z1 E.coli菌株上で増殖させた。C600Z1上で増殖させたP1溶解物を用いて、スペクチノマイシン耐性に対する選択を有するMG1655に感染させた。次に、スペクチノマイシン耐性コロニーは、PA1lacO−1プロモーターに連結された遺伝子の発現を抑制する形質導入体の能力を測定することによって、連結されたlacIについてスクリーニングされた。得られた菌株は、MG1655 lacIと指名された。同様の手法を用いて、欠失菌株にlacIを導入した。
【0170】
コハク酸塩から4−HBの生産。コハク酸塩から4−HB生産体の構築に関して、コハク酸塩から4−HBおよび4−HB−CoAへの遺伝子をコード化する工程(図2では1、6、7、および9)は、後述されるpZA33およびpZE13ベクター上に集められた。遺伝子の種々の組み合わせ、並びに対照としての不完全な経路を有する構築体を評価した(表7および8)。次に、プラスミドは、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な発現を可能にするlacIを含む宿主菌株に形質転換された。野生型、並びに天然のコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素(図1では工程2)をコードする遺伝子における欠失を有する宿主の両方を試験した。
【0171】
異種酵素の活性は、最初に、経路遺伝子を含むプラスミド構築物のための宿主として菌株MG1655 lacIを用いて、インビトロアッセイにおいて試験された。各構築物に適切な抗生物質を含むLB培地(Difco)において嫌気的に細胞を増殖させ、光学密度(OD600)がおよそ0.5に達したときに、IPTGを1mMで添加することによって誘導した。6時間後に細胞を回収し、酵素アッセイを下記に検討されるように行った。
【0172】
インビトロ酵素アッセイ。活性アッセイについての粗製抽出物を得るために、4,500rpm(Beckman−Coulter,Allegera X−15R)で10分間遠心分離することによって、細胞を回収した。ペレットは、ベンゾナエートおよびリゾチームを含む0.3mLのBugBuster(Novagen)試薬に再懸濁させ、溶解は、穏やかに振とうしながら15分間、室温で進行させた。細胞を含まない溶解物は、14,000(Eppendorf centrifuge 5402)、30分、4℃で遠心分離によって得られた。試料中の細胞タンパク質は、Bradfordら、Anal.Biochem.72:248−254(1976)の方法を用いて測定され、特定の酵素アッセイは後述されるように行った。活性は、単位/mgタンパク質で記録され、この場合は、活性の単位は、1μmolの基質が1分間、室温で、変換されるのに必要とされる酵素量として定義される。一般に、記録された値は、少なくとも3回繰り返したアッセイの平均である。
【0173】
スクシニル−CoA転移酵素(Cat1)活性は、前述の手法であるSohlingおよびGottschalk、J.Bacteriol.178:871−880(1996)に従って、スクシニル−CoAおよび酢酸塩からアセチル−CoAの形成をモニターすることによって決定された。スクシニル−CoA合成酵素(SucCD)活性は、ATPの存在下でコハク酸塩およびCoAからスクシニル−CoAの形成を追跡することによって決定された。この実験は、ChaおよびParks,J.Biol.Chem.239:1961−1967(1964)によって記載される手法に従った。CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素(SucD)活性は、コハク酸セミアルデヒドおよびCoAの存在下、340nmでNADからNADHの変換を追跡することによって決定された(SohlingおよびGottschalk、Eur.J.Biochem.212:121−127(1993))。4−HB脱水素酵素(4HBd)酵素活性は、コハク酸セミアルデヒドの存在下、340nmでNADHからNADの酸化をモニターすることによって測定された。この実験は、公開された手法であるGerhardtら、Arch.Microbiol.174:189−199(2000)に従った。4−HB CoA転移酵素(Cat2)活性は、ScherfおよびBuckel、Appl.Environ.Microbiol.57:2699−2702(1991)からの修飾された手法を用いて測定された。アセチル−CoAおよび4−HBまたは酪酸塩からの4−HB−CoAの形成またはブチリル−CoA形成は、HPLCを用いて測定された。
【0174】
アルコール(ADH)およびアルデヒド(ALD)脱水素酵素は、いくつかの文献供給源(Durreら、FEMS Microbiol.Rev.17:251−262(1995);PalosaariおよびRogers、J.Bacteriol.170:2971−2976(1988)、並びにWelchら、Arch.Biochem.Biophys.273:309−318(1989))から改変された手法を用いて還元方法にアッセイされた。NADHの酸化は、室温で総合して240秒間、4秒ごとに、340nMで吸光度を読み取ることによって追跡される。還元アッセイは、100mM MOPS(KOHを用いてpHを7.5に調整)、0.4mM NADH、1〜50μlの細胞抽出物において行われた。反応は、下記の試薬:ADHについては100μlの100mMアセトアルデヒドもしくはブチルアルデヒド、またはALDについては100μlの1mMアセチル−CoAもしくはブチリル−CoAを添加することによって開始される。分光光度計は即座にブランクにされ、次に、速度論的読み取りが開始される。1分あたりの340nMでの吸光度における減少の得られた傾き、並びに340nMでのNAD(P)Hのモル吸光係数(6000)、抽出物のタンパク質濃度を用いて、比活性度を測定することができる。
【0175】
PTBの酵素活性は、Caryら、J.Bacteriol.170:4613−4618(1988)に記載されるように、ブチリル−CoAからブチリル−リン酸塩の方向に測定される。それは、変換については無機リン酸塩を与え、試薬である5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)、即ちDTNBを用いて遊離CoAの増加を追跡する。DTNBは、急速にチオール基、例えば遊離CoAと反応し、412nmで吸収する黄色の2−ニトロ−5−メルカプト安息香酸(TNB)を放出し、モル吸光係数は14,140Mcm−1である。このアッセイバッファーは、pH7.4の150mMリン酸カリウム、0.1mM DTNB、および0.2mMブチリル−CoAを含み、反応は、2〜50μLの細胞抽出物の添加によって開始された。BKの酵素活性は、ATPを使って、酪酸塩からブチリル−リン酸形成の方向に測定される。この手法は、Roseら、J.Biol.Chem.211:737−756(1954)に前述される酢酸キナーゼについてのアッセイに類似している。しかしながら、本発明者らは、より有用であり、精度が高い、Sigmaによって提供される別の酢酸キナーゼ酵素アッセイプロトコールを見いだした。このアッセイは、酢酸キナーゼによるATPからADPへの変換を、ピルビン酸キナーゼによるADPとホスホエノールピルビン酸塩(PEP)からATPとピルビン酸塩への連結された変換、その後の乳酸脱水素酵素によるピルビン酸塩とNADHから乳酸塩とNAD+への変換に連結される。酢酸塩の代わりに酪酸塩を用いることは、このアッセイがBK酵素活性を追跡することができる唯一の主な修飾である。アッセイ混合物は、pH7.6で80mMトリエタノールアミンバッファー、200mM酪酸ナトリウム、10mM MgCl2、0.1mM NADH、6.6mM ATP、1.8mMホスホエノールピルビン酸塩を含んでいた。ピルビン酸キナーゼ、乳酸脱水素酵素、およびミオキナーゼが、製造業者の使用説明書に従って添加された。反応は、2〜50μLの細胞抽出物を添加することによって開始され、反応は、NADH酸化を指示する340nmの吸光度に基づいてモニターされた。
HPLCによるCoA誘導体の分析。HPLC系アッセイは、補酵素A(CoA)転移に関する酵素反応をモニターするために開発された。開発された方法は、インビトロの反応混合物に存在するCoA、アセチルCoA(AcCoA)、ブチリルCoA(BuCoA)および4−ヒドロキシ酪酸CoA(4−HBCoA)の定量的測定によって酵素活性の特徴付けを可能にした。低いμMに下がった感受性、並びに対象とする全てのCoA誘導体の優れた分解能が達成された。
【0176】
化合物および試料調製物は次のように行った。要約すると、CoA、AcCoA、BuCoAおよび全ての他の化合物は、Sigma−Aldrichから得られた。溶媒であるメタノールおよびアセトニトリルは、HPLC等級であった。標準的な較正曲線は、0.01〜1mg/mLの濃度範囲で優れた直線性を示した。酵素反応混合物は、100mM Tris HClバッファー(pH7)を含み、アリコートは、異なる時間点で採取され、ギ酸(最終濃度0.04%)を用いてクエンチされ、HPLCによって直接分析された。
【0177】
HPLC分析は、Agilent 1100HPLCシステムを用いて行われ、それは、2成分ポンプ、脱気剤、温度自動調節自動サンプラーおよびカラムコンパートメントを備え、ダイオードアレイ検出器(DAD)は分析のために用いられた。逆相カラムであるKromasil 100 5um C18、4.6×150mm(Peeke Scientific)を用いた。25mMのリン酸カリウム(pH7)とメタノールまたはアセトニトリルは、1mL/分の流速で水性および有機溶媒として用いられた。2つの方法が開発された:十分に分離されたCoA、AcCoAおよびBuCoAの分析用にはより速い勾配を用いた短期な方法、近接して溶出するAcCoAと4−HBCoAとの間を区別するためのより長期の方法。短期方法は、アセトニトリル勾配(0分−5%、6分−30%、6.5分−5%、10分−5%)を用い、CoA、AcCoAおよびBuCoAについてそれぞれ保持時間2.7、4.1、5.5分という結果であった。長期方法では、メタノールは、次の直線勾配とともに用いられた:0分−5%、20分−35%、20.5分−5%、25分−5%。CoA、AcCoA、4−HBCoAおよびBuCoAについての保持時間は、それぞれ5.8、8.4、9.2および16.0分であった。注入体積は5μLであり、カラム温度は30℃であり、UV吸収は260nmでモニターで測定された。
【0178】
結果は、各々の4つの経路工程(表6)の活性を示すが、活性は、遺伝子供給源、ベクターにある遺伝子の位置、ともに発現される他の遺伝子の状況に明確に依存している。例えば、遺伝子0035は、0008によってコードされる遺伝子よりも活性なコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードし、0036および0010nは、0009よりも活性な4−HB脱水素酵素遺伝子である。また、同じオペロン上で先行する別の遺伝子がある場合、より良好な4−HB脱水素酵素活性であるように見える。
【0179】
表7.4−HB−CoA経路において遺伝子を発現するプラスミドを含むMG1655lacIからの細胞抽出物におけるインビトロでの酵素活性。活性は、単位/mgタンパク質として報告され、この場合、活性の単位は、1分間、室温において1μmolの基質を変換するのに必要な酵素量として定義される。
【0180】
【表7】

遺伝子は、ColE1起源およびアンピシリン耐性を有する高コピープラスミドであるpZE13上のPlacから発現した。遺伝子の識別番号は、表2に与えられる。
【0181】
遺伝子は、pACYC起源およびクロラムフェニコール耐性を有する中程度コピープラスミドであるpZA33上のPlacから発現した。
【0182】
(c)細胞タンパク質は、mgタンパク質/mL抽出物として与えられた。
【0183】
次に、4−HB経路において遺伝子を含む組換え菌株は、中心的な代謝中間体からインビボにおいて4−HBを生産する能力について評価された。OD600がおよそ0.4になるまでLB培地で嫌気的に細胞を増殖させ、その後、1mM IPTGで誘導した。1時間後、コハク酸ナトリウムを10mMまで添加し、さらに24時間および48時間後に分析用に試料を採取した。培養ブロスの4−HBは、後述されるようにGC−MSによって分析された。結果は、組換え菌株が、対照の菌株において本質的にゼロと比較して、24時間後に2mMを超える4−HBを生産することができることを指示する(表8)。
【0184】
表8.種々の組み合わせの4−HB経路遺伝子を発現するプラスミドを含むE.coli菌株におけるコハク酸塩から4−HBの生産。
【0185】
【表8】

(a)標準化された4−HB濃度、μM/OD600単位 。
【0186】
コハク酸塩からスクシニル−CoAを生産するためのCoA転移酵素(cat1)の使用の代わりは、スクシニル−CoA合成酵素をコードする天然のE.coli sucCD遺伝子を用いることである。この遺伝子クラスターは、pZE13−0038−0035−0036を作るために4−HBまでの残りの工程について候補遺伝子とともにpZE13上にクローニングされた。
【0187】
グルコースからの4−HBの生産。上記実験は、中心的な代謝中間体(コハク酸塩)からの4−HBまでの機能的経路を示すが、産業プロセスは、グルコースまたはスクロースなどの低コストの糖質原料から化合物の生産を必要とする。このようにして、次のセットの実験は、グルコースで増殖中の細胞によって生産される内因性のコハク酸塩が4−HB経路を刺激することができるかどうかを測定することを目的とした。20g/Lグルコース、緩衝能力を改善するための100mM 3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、10μg/mLチアミン、および適した抗生物質を補足したM9最少培地(6.78g/L NaHPO、3.0g/L KHPO、0.5g/L NaCl、1.0g/L NHCl、1mM MgSO、0.1mM CaCl)において嫌気的に細胞を増殖させた。0.25mM IPTGは、OD600がおよそ0.2に到達したときに添加され、誘導の24時間後ごとに4−HB分析用に試料を採取した。全ての場合において、4−HBは24時間後にプラトーになり、最良の菌株では最大約1mMとなり(図11a)、コハク酸塩濃度上昇し続けた(図11b)。これは、この経路へのコハク酸塩の供給が制限されそうになく、障害が酵素自体の活性またはNADH利用性において存在する可能性があることを指示する。0035および0036は、明らかに、それぞれ、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素および4−HB脱水素酵素について最良の遺伝子候補である。知られている(gabD)または推定の(aldA)の天然のコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードする遺伝子の1つまたはその両方の排除は、性能においてそれほど効果がない。最後に、細胞は、対照よりも、4−HBを生産する菌株において非常に低いODまで増殖したことを留意しなければならない(図11c)。
【0188】
グルコースからの4−HBの生産のための代替の経路は、a−ケトグルタル酸塩を介するものである。本発明者らは、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素から直接コハク酸セミアルデヒドを生産するためのMycobacterium tuberculosis Tianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:10670−10675(2005)からのα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素の使用を調べた(図2では工程8)。この遺伝子(0032)がインビボにおいて機能的であることを示すために、本発明者らは、pZA33における4−HB脱水素酵素(遺伝子0036)と同じ宿主におけるpZE13においてそれを発現させた。この菌株は、1mM IPTGを用いた誘導後、24時間以内に1.0mMを超える4−HBを生産することができた(図12)。この菌株は、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素を発現しないので、スクシニル−CoAを介したコハク酸セミアルデヒド生産の可能性は排除される。また、コハク酸セミアルデヒドの生産をもたらす天然の遺伝子がこの経路において機能することができたという可能性がある(図2では工程4および5);しかしながら、pZE13−0032プラスミドが宿主から取り残された場合に生産された4−HBの量は無視できる。
【0189】
4−HBからのBDOの生産。4−HBからのBDOの生産には2つの還元工程を必要とし、脱水素酵素によって触媒される。アルコールおよびアルデヒド脱水素酵素(それぞれADHおよびALD)は、ともに1分子上のカルボン酸基をアルコール基に還元することができ、または逆に、カルボン酸へのアルコールの酸化を行うことができる。この生体内変化は、野生型のClostridium acetobutylicumに示されているが(Jewellら、Current Microbiology,13:215−19(1986))、しかし、原因となる酵素も原因となる遺伝子も同定されなかった。さらに、4−HB−CoAの活性化が、最初に要求される(図2では工程9)かどうか、またはアルデヒド脱水素酵素(工程12)は4−HBに直接作用するかどうかは知られていない。本発明者らは、C.acetobutylicumおよび関連する生物から候補酵素のリストを、4−HBに対するヒドロキシル化されていない類似体および経路の中間体を用いた既知の活性に基づいて、またはこれらの特徴付けられた遺伝子に対する類似性によって作成した(表6)。候補のいくつかは、多機能性脱水素酵素であるため、それらは、アルデヒドへの酸(またはCoA依存性)、並びにアルコールへのアルデヒドのNAD(P)H依存性還元の両方を潜在的に触媒することができた。E.coliにおけるこれらの遺伝子を用いた開始の作業前に、本発明者らは、最初に、C.acetobutylicum ATCC824を用いて、上記に参照される結果を確認した。10%CO、10%H、および80%Nの嫌気性雰囲気下、30℃で、10mM 4−HBを添加したSchaedlerブロス(Accumedia,Lansing,MI)において細胞を増殖させた。培養試料を周期的に採取し、遠心分離し、後述されるGC−MSによってBDOについてブロスを分析した。0.1mM、0.9mM、および1.5mMのBDO濃度をそれぞれ1日、2日、および7日のインキュベーション後に検出した。4−HBが添加されていないで増殖させた培養においてBDOなしを検出した。生産したBDOがグルコースから誘導されたことを示すために、本発明者らは、最良のBDOを生産する菌株MG1655 lacI pZE13−0004−0035−0002pZA33−0034−0036を、4g/Lの均一に標識された13C−グルコースを補足されたM9最少培地中で増殖させた。1mM IPTGを用いて、OD0.67に細胞を誘導し、24時間後に試料を採取した。培養上清の分析は、質量分析計により行った。
【0190】
次に、4−HBからBDO変換経路に対する遺伝子候補は、E.coliの宿主MG1655 lacIにおいて発現したときに、活性について試験された。pZA33において発現された各遺伝子候補を含む組換え菌株は、4時間、37℃で0.25mM IPTGの存在下で増殖させ、酵素の発現を完全に誘導した。インキュベーション後の4時間、細胞を回収し、上述されるようにADHおよびALD活性についてアッセイした。4−HB−CoAおよび4−ヒドロキシブチルアルデヒドが市販されていないので、ヒドロキシル化されていない基質を用いてアッセイを行った(表9)。C.acetobutylicum adhE2(0002)およびE.coli adhE(0011)に対する4−炭素基質と2−炭素基質との間の活性の比は、文献Atsumiら、Biochim.Biophys.Acta.1207:1−11(1994)において以前に報告されたものと類似していた。
【0191】
表9.アルデヒドおよびアルコール脱水素酵素に対する遺伝子候補を発現しているpZA33を含むMG1655 lacIからの細胞抽出物におけるインビトロの酵素活性。活性は、μmol分−1mg細胞タンパク質−1で表される。N.D.は測定されていない。
【0192】
【表9】

BDO生産実験については、Porphyromonas gingivalis W83(遺伝子0034)由来のcat2は、4−HB−CoAへの4−HBの変換のためのpZA33上に含まれ、候補脱水素酵素遺伝子は、pZE13上で発現した。宿主菌株は、MG1655 lacIであった。また、アルコールおよびアルデヒド脱水素酵素候補とともに、本発明者らは、基質の類似性に起因して、この工程で機能するCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素(sucD)の能力を試験した。10mM 4−HBで補足されたLB培地中でODが約0.5になるまで細胞を増殖させ、1mM IPTGを用いて誘導し、24時間後に培養ブロス試料を採取し、後述されるようにBDOについて分析した。最良のBDO生産は、C.acetobutylicumのadhE2、C.kluyveriのsucD、またはP.gingivalisのsucDを用いて生じた(図13)。興味深いことに、生産されたBDOの絶対量は、嫌気的条件下でより高かった;しかしながら、これは、嫌気的培養において達成されたより低い細胞密度に主に起因している。細胞ODに標準化した場合、単位バイオマスあたりのBDO生産は、嫌気的条件においてより高い(表10)。
【0193】
表10.C.acetobutylicumのadhE2、C.kluyveriのsucD、またはP.gingivalisのsucDを発現している細胞の培養物(図11の実験2、9、および10のデータ)、並びに負の対照からの絶対および標準化されたBDO濃度(実験1)。
【0194】
【表10】

第2節において検討したように、副産物として酢酸塩を生じない4−HBを4−HB−CoAに変換するルートを用いることは好都合な場合がある。この目的で、本発明者らは、図2における工程10および11を介したこの変換を行うために、C.acetobutylicumのホスホトランスブチリラーゼ(ptb)および酪酸キナーゼ(bk)の使用を試験した。C.acetobutylicumからの天然のptb/bkオペロン(遺伝子0020および0021)をクローニングし、pZA33において発現させた。得られた構築物を含む細胞からの抽出物を採取し、本明細書に記載されるように2つの酵素活性についてアッセイした。BKの比活性度は、約65U/mgであり、PTBの比活性度は、約5U/mgであった。活性の1単位(U)は、1分間、室温で1μMの基質の変換として定義される。最後に、この構築物は、BDOへの4−HBの変換おける関与について試験された。宿主菌株は、記載されたpZA33−0020−0021構築物、およびpZE13−0002を用いて形質転換され、図13において上記で用いられた嫌気的手法を用いてBDO生産におけるcat2の使用と比較した。BK/PTB菌株は1mM BDOを生産し、cat2を用いた場合の2mMと比較した(表11)。興味深いことに、結果は、宿主菌株が天然のadhE遺伝子における欠失を含むかどうかに依存していた。
【0195】
表11.pZW13上のC.acetobutylicumのadhE2、並びにpZA33上のP.gingivalisのcat2(0034)またはC.acetobutylicumのPTB/BK遺伝子のいずれかを発現している細胞の培養物からの絶対および標準化されたBDO濃度。宿主菌株は、MG1655 lacIまたはMG1655 ΔadhE lacIのいずれかであった。
【0196】
【表11】

グルコースからのBDOの生産。経路確認の最終工程は、E.coliにおいて経路の4−HBおよびBDO断片の両方を発現させ、グルコース最少培地におけるBDOの生産を示すことである。全ての必要とされる遺伝子が2つのプラスミドに適合するように新しいプラスミドを構築した。一般に、cat1、adhE、およびsucD遺伝子は、pZE13から発現させ、cat2および4−HBdは、pZA33から発現させた。遺伝子供給源および遺伝子順序の種々の組み合わせは、MG1655 lacIバックグラウンドにおいて試験された。20g/Lグルコース、緩衝能力を改善するための100mM 3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、10μg/mLチアミン、および適した抗生物質を補足したM9最少培地(6.78g/L NaHPO、3.0g/L KHPO、0.5g/L NaCl、1.0g/L NHCl、1mM MgSO、0.1mM CaCl)において嫌気的に細胞を増殖させた。0.25mM IPTGは、植菌後の約15時間添加され、培養上清試料は、インキュベーションの24および48時間後、BDO、4−HB、およびコハク酸分析のために採取された。BDOの生産は、遺伝子の順番への依存性を示しているように見えた(表12)。0.5mMを超える最大のBDO生産が得られ、最初に発現したcat2に続いてpZA33上の4−HBdであり、cat1に続いてpZE13上のP.gingivalis sucDであった。pZE13上の最終位置におけるC.acetobutylicum adhE2の添加は、僅かな改善をもたらした。また、4−HBおよびコハク酸塩は、より高い濃度で生産された
表12.20g/Lグルコースを補足した最少培地において増殖させた、BDO経路遺伝子の組み合わせを発現している組換えE.coli菌株におけるBDO、4−HB、およびコハク酸塩の生産。濃度は、mMで与えられる。
【0197】
【表12】

GCMSによるBDO、4−HBおよびコハク酸塩の分析。発酵および細胞培養試料におけるBDO、4−HBおよびコハク酸塩は、シリル化によって誘導され、文献報告((Simonovら、J.Anal Chem.59:965−971(2004))から改変された方法を用いてGCMSによって分析した。開発された方法は、1μMまで下げる良好な感度、少なくとも25mMまでの直線性、並びに優れた選択性および再現性を示した。
【0198】
試料調製は、下記のとおり行った:100μLの濾過した(0.2μmまたは0.45μmのシリンジフィルター)試料、例えば、発酵ブロス、細胞培養物または標準的な溶液は、約1時間、周囲温度でSpeed Vac Concentrator(Savant SVC−100H)において乾燥させ、次に、ジメチルホルムアミドに含まれる、内部標準として20μLの10mMシクロヘキサノール溶液を添加した。混合物をボルテックスし、水浴(Branson 3510)中で15分間超音波処理し、均質性を確保した。1%トリメチルクロロシランを含む100μLのシリル化誘導試薬であるN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロ−アセトイミド(BSTFA)を添加し、混合物を70℃で30分間インキュベートした。誘導化された試料を5分間、遠心分離し、透明な溶液をGCMSに直接注入した。J.T.Bakerから購入したBDOを除いては、全ての化合物および試薬はSigma−Aldrichから得た。
【0199】
GCMSは、分析用に用いられた電子衝突イオン化(EI)モードで操作される質量選択検出器(MSD)5973Nに接続されたAgilentガスクロマトグラフ6890Nにおいて行った。DB−5MSキャピラリーカラム(J&W Scientific,Agilent Technologies)、30m×0.25mm i.d.×0.25μmフィルム厚を用いた。GCは、20:1のスプリット比の1μLの試料を導入するスプリット注入モードにおいて操作された。注入ポート温度は250℃であった。担体ガスとしてヘリウムを用い、流速は、1.0mL/分に維持された。温度勾配プログラムは、対象とする分析物の良好な解像度、最少のマトリックス緩衝を確実にするために最適化された。オーブンは、初期には80℃で1分間保持され、次に、2℃/分で120℃まで上昇させ、その後、100℃/分で320℃まで急速に上昇させ、最後に、320℃で6分間保持された。MS界面移動ラインが280℃で維持された。データは、「低質量」MSチューンセッティングおよび30〜400m/z質量範囲スキャンを用いて獲得された。全体の分析時間は、3分の溶媒遅延を含めて29分であった。保持時間は、BSTFA誘導のシクロヘキサノール、BDO、4−HBおよびコハク酸塩について、それぞれ5.2、10.5、14.0および18.2分に対応した。定量的分析については、下記の特定の質量断片が選択された(抽出されたイオンクロマトグラム):内部標準のシクロヘキサノールについてはm/z157、BDOについては116、4−HBとコハク酸塩の両方については147であった。標準の較正曲線は、できるだけ密接に試料マトリックスを適合させるために、対応する細胞培養物または発酵培地において分析物溶液を用いて構築された。GCMSデータは、Environmental Data Analysis ChemStationソフトウェア(Agilent Technologies)を用いて処理された。
【0200】
結果は、生産された大部分の4−HBおよびBDOが13Cを用いて標識されたことを示した(図14、右側)。標識されていないグルコースにおいて増殖させて並行な培養からの質量スペクトルは、比較のために示される(図14、左側)。観察されたピークは、代謝物からの異なる数の炭素原子を含む誘導された分子の断片についてであることに留意されたい。また、誘導試薬は、天然に存在している標識分布であるいくつかの炭素および珪素原子を提供し、そのため、結果は厳密には定量的ではない。
【0201】
代替の経路を用いた4−HBからのBDOの生産。また、種々の代替経路は、BDO生産のために試験された。これは、コハク酸塩をスクシニル−CoAに変換する天然のE.coli SucCD酵素の使用(表13、列2〜3)、α−ケトグルタル酸塩経路におけるα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素の使用(表13、列4)、4−HBのCoA誘導体を生じさせる代替手段としてのPTB/BKの使用(表13、列1)を含む。これらの変異体を含む、表13に示された遺伝子を発現するプラスミドを含む菌株が構築された。結果は、全ての場合において、4−HBおよびBDOの生産が生じることを示す(表13)。
【0202】
表13.異なるBDO経路変異体についての組換えE.coli菌株遺伝子におけるBDO、4−HB、およびコハク酸塩の生産。前記菌株は、20g/Lグルコースで補足された最少培地において嫌気的に増殖され、0.1mM IPTGによる誘導の24時間後に回収された。濃度は、mMで与えられる。
【0203】
【表13】

(実施例V)
4−ヒドロキシブタン酸、γ−ブチロラクトンおよび1,4−ブタンジオールの生合成
この実施例は、発酵および他のバイオプロセスを用いた4−ヒドロキシブタン酸、γ−ブチロラクトンおよび1,4−ブタンジオールの生合成生産を記載する。
【0204】
生産されたGBL、1,4−ブタンジオール(BDO)およびテトラヒドロフラン(THF)の生産のための完全なプロセスに4−HB発酵工程を統合するための方法を下記に説明する。4−HBとGBLとは平衡にあるため、発酵ブロスは、両方の化合物を含む。低pHでは、この平衡は、GBLに有利になるようにシフトされる。したがって、発酵は、pHが7.5以下、一般にはpHが5.5以下で操作することができる。バイオマスの除去後、生産の流れは、分離工程に入り、そこでは、GBLが取り除かれ、4−HBに富んだ残りの流れはリサイクルされる。最後に、GBLは、いずれかの不純物を取り除くために蒸留される。このプロセスは、3つの方法の1つにおいて操作する:1)供給されたバッチの発酵およびバッチ分離;2)供給されたバッチの発酵および連続分離;3)連続発酵および連続分離。これらのモードの最初の2つは、図15において図式的に示される。また、後述される統合された発酵手法は、BDOおよびその後のBDOファミリー産物の生合成についての本発明のBDOを生産する細胞のために用いられる。
【0205】
4−HB/GBL(バッチ)を生産するための発酵プロトコール。5g/Lリン酸カリウム、2.5g/Lの塩化アンモニウム、0.5g/Lの硫酸マグネシウム、30g/Lのトウモロコシ浸出液を含む5Lのブロスを用いて、N/CO混合物を散布された10Lのバイオリアクターにおいて生産生物を増殖させ、初期のグルコース濃度は20g/Lである。細胞が増殖し、グルコースを利用するので、追加の70%グルコースが、およそグルコース消費を平衡にする速度でバイオリアクターに供給される。バイオリアクターの温度は、30℃で維持される。4−HBが20〜200g/Lの濃度に到達するまで、増殖はおよそ24時間継続され、細胞密度は5〜10g/Lである。pHは調節されず、典型的には、稼働の終わりまでにpH3〜6まで減少する。培養時間の完了により、細胞分離ユニット(例えば、遠心分離機)に発酵内容物を通過させ、細胞および細胞残屑を取り除き、発酵ブロスは、生産物分離ユニットに移される。4−HBおよび/またはGBLの単離は、希釈水溶液から有機産物を分離するための、当該技術分野において用いられる標準的な分離手法、例えば、4−HB/GBLの有機溶液を提供するための水に混合しない有機溶媒(例えば、トルエン)を用いて液体−液体抽出によって行われる。次に、得られる溶液は、有機溶媒を取り除き、リサイクルするための、並びに精製された液体として単離されるGBL(沸点204〜205℃)を提供するために、標準的な蒸留法に供される。
【0206】
4−HB/GBLを生産するための発酵プロトコール(完全に連続的):生産微生物は、最初に、初期のグルコース濃度が30〜50g/Lであることを除いて、上述される装置および培地組成を用いてバッチモードで増殖される。グルコースが使い尽くされたとき、同じ組成の供給培地が、0.5L/時と1L/時との間の速度で連続的に供給され、液体は同じ速度で引き出される。バイオリアクター内の4−HB濃度は、30〜40g/Lで一定のままであり、細胞密度は、3〜5g/Lで一定のままである。温度は、30℃で維持され、pHは、必要に応じて、濃縮されたNaOHおよびHClを用いて4.5に維持される。バイオリアクターは、1カ月間連続して操作され、試料は、4−HB濃度の一貫性を確保するために毎日採取される。連続モードでは、発酵内容物は、新しい供給培地が供給されるので、一定に取り除かれる。次に、細胞、培地、産物である4−HBおよび/またはGBLを含む既存の流れは、細胞および細胞残屑の除去の有無に関わらず、連続的な生産物分離手法に供され、希釈水溶液から有機産物を分離するための、当該技術分野において用いられる標準的な連続分離手法、例えば、4−HB/GBLの有機溶液を提供するための水に混合しない有機溶媒(例えば、トルエン)を用いて連続液体−液体抽出によって行われる。その後、得られる溶液は、有機溶媒を取り除き、リサイクルするための、並びに精製された液体として単離されるGBL(沸点204〜205℃)を提供するために、標準的な連続蒸留法に供される。
【0207】
GBL還元プロトコール:一度、GBLが上述されるように単離および精製されると、次に、1,4−ブタンジオールまたはテトラヒドロフラン(THF)またはそれらの混合物を生産するための、当該技術分野において周知であるプロトコールなどの還元プロトコールに供される。水素圧下でGBLと組み合わせた異種または同種の水素化触媒は、生産物である1,4−ブタンジオールまたはテトラヒドロフラン(THF)またはそれらの混合物を提供することで周知である。上述されるように、発酵ブロスから分離される4−HB/GBL生産混合物は、GBL単離および精製前に、直接的に、生産物である1,4−ブタンジオールもしくはテトラヒドロフランまたはそれらの混合物を提供するためのこれらの同じ還元プロトコールに要されてもよいことに留意することは重要である。次に、得られる生産物は、1,4−ブタンジオールおよびTHFは、当該技術分野において周知である手法によって単離および精製される。
BDOまたはTHFを直接生産するための発酵および水素化プロトコール(バッチ):
5g/Lリン酸カリウム、2.5g/Lの塩化アンモニウム、0.5g/Lの硫酸マグネシウム、30g/Lのトウモロコシ浸出液を含む5Lのブロスを用いて、N/CO混合物を散布された10Lのバイオリアクターにおいて細胞を増殖させ、初期のグルコース濃度は20g/Lである。細胞が増殖し、グルコースを利用するので、追加の70%グルコースが、およそグルコース消費を平衡にする速度でバイオリアクターに供給される。バイオリアクターの温度は、30℃で維持される。4−HBが20〜200g/Lの濃度に到達するまで、増殖はおよそ24時間継続され、細胞密度は5〜10g/Lである。pHは調節されず、典型的には、稼働の終わりまでにpH3〜6まで減少する。培養時間の完了により、細胞分離ユニット(例えば、遠心分離機)に発酵内容物を通過させ、細胞および細胞残屑を取り除き、発酵ブロスは、還元ユニット(例えば、水素化容器)に移され、この場合、混合物4−HB/GBLは、直接的に、1,4−ブタンジオールもしくはTHFまたはそれらの混合物のいずれかに還元される。還元手法の完了後、リアクター内容物は、生産物分離ユニットに移される。1,4−ブタンジオールおよび/またはTHFの単離は、希釈水溶液から有機産物を分離するための、当該技術分野において用いられる標準的な分離手法、例えば、1,4−ブタンジオールおよび/またはTHFの有機溶液を提供するための水に混合しない有機溶媒(例えば、トルエン)を用いて液体−液体抽出によって行われる。次に、得られる溶液は、有機溶媒を取り除き、リサイクルするための、並びに精製された液体として単離される1,4−ブタンジオールおよび/またはTHFを提供するために、標準的な蒸留法に供される。
【0208】
BDOまたはTHFを直接的に生産するための発酵および水素化プロトコール(完全に連続的):細胞は、最初に、初期のグルコース濃度が30〜50g/Lであることを除いて、上述される装置および培地組成を用いてバッチモードで増殖される。グルコースが使い尽くされたとき、同じ組成の供給培地が、0.5L/時と1L/時との間の速度で連続的に供給され、液体は同じ速度で引き出される。バイオリアクター内の4−HB濃度は、30〜40g/Lで一定のままであり、細胞密度は、3〜5g/Lで一定のままである。温度は、30℃で維持され、pHは、必要に応じて、濃縮されたNaOHおよびHClを用いて4.5に維持される。バイオリアクターは、1カ月間連続して操作され、試料は、4−HB濃度の一貫性を確保するために毎日採取される。連続モードでは、発酵内容物は、新しい供給培地が供給されるので、一定に取り除かれる。次に、細胞、培地、産物である4−HBおよび/またはGBLを含む既存の流れは、細胞および細胞残屑を取り除くために細胞分離ユニット(例えば、遠心分離機)を通過させ、発酵ブロスは、連続的な還元ユニット(例えば、水素化容器)に移され、この場合、混合物4−HB/GBLは、直接的に、1,4−ブタンジオールもしくはTHFまたはそれらの混合物のいずれかに還元される。還元手法の完了後、リアクター内容物は、連続的な生産物分離ユニットに移される。1,4−ブタンジオールおよび/またはTHFの単離は、希釈水溶液から有機産物を分離するための、当該技術分野において用いられる標準的な連続分離手法、例えば、1,4−ブタンジオールおよび/またはTHFの有機溶液を提供するための水に混合しない有機溶媒(例えば、トルエン)を用いて液体−液体抽出によって行われる。次に、得られる溶液は、有機溶媒を取り除き、リサイクルするための、並びに精製された液体として単離される1,4−ブタンジオールおよび/またはTHFを提供するために、標準的な連続蒸留法に供される。
【0209】
BDOを直接生産するための発酵プロトコール(バッチ):5g/Lリン酸カリウム、2.5g/Lの塩化アンモニウム、0.5g/Lの硫酸マグネシウム、30g/Lのトウモロコシ浸出液を含む5Lのブロスを用いて、N/CO混合物を散布された10Lのバイオリアクターにおいて生産生物を増殖させ、初期のグルコース濃度は20g/Lである。細胞が増殖し、グルコースを利用するので、追加の70%グルコースが、およそグルコース消費を平衡にする速度でバイオリアクターに供給される。バイオリアクターの温度は、30℃で維持される。BDOが20〜200g/Lの濃度に到達するまで、増殖はおよそ24時間継続され、細胞密度は5〜10g/Lである。培養時間の完了により、細胞分離ユニット(例えば、遠心分離機)に発酵内容物を通過させ、細胞および細胞残屑を取り除き、発酵ブロスは、生産物分離ユニットに移される。BDOの単離は、希釈水溶液から有機産物を分離するための、当該技術分野において用いられる標準的な分離手法、例えば、BSOの有機溶液を提供するための水に混合しない有機溶媒(例えば、トルエン)を用いて液体−液体抽出によって行われる。次に、得られる溶液は、有機溶媒を取り除き、リサイクルするための、並びに精製された液体として単離されるBDO(沸点228〜229℃)を提供するために、標準的な蒸留法に供される。
【0210】
BDOを直接生産するための発酵プロトコール(完全に連続的):生産微生物は、最初に、初期のグルコース濃度が30〜50g/Lであることを除いて、上述される装置および培地組成を用いてバッチモードで増殖される。グルコースが使い尽くされたとき、同じ組成の供給培地が、0.5L/時と1L/時との間の速度で連続的に供給され、液体は同じ速度で引き出される。バイオリアクター内のBDO濃度は、30〜40g/Lで一定のままであり、細胞密度は、3〜5g/Lで一定のままである。温度は、30℃で維持され、pHは、必要に応じて、濃縮されたNaOHおよびHClを用いて4.5に維持される。バイオリアクターは、1カ月間連続して操作され、試料は、BDO濃度の一貫性を確保するために毎日採取される。連続モードでは、発酵内容物は、新しい供給培地が供給されるので、一定に取り除かれる。次に、細胞、培地、産物であるBDOを含む既存の流れは、細胞および細胞残屑の除去の有無に関わらず、連続的な生産物分離手法に供され、希釈水溶液から有機産物を分離するための、当該技術分野において用いられる標準的な連続分離手法、例えば、BDOの有機溶液を提供するための水に混合しない有機溶媒(例えば、トルエン)を用いて連続液体−液体抽出によって行われる。その後、得られる溶液は、有機溶媒を取り除き、リサイクルするための、並びに精製された液体(mpt20℃)として単離されるBDO(沸点228〜229℃)を提供するために、標準的な連続蒸留法に供される。
【0211】
本出願の全体で、種々の刊行物は、括弧内に参照されている。これらの刊行物の全体の開示は、本発明が関連する当該技術の状況をより十分に記載するために、本出願において参照により援用される。
【0212】
本発明は、開示された態様に関連して記載されているが、当業者は、上記で詳述される具体的な実施例および研究が、本発明の単なる例示であることを容易に承認する。種々の修飾が、本発明の精神から逸脱することなしになされ得ることは理解されなければならない。したがって、本発明は、下記の特許請求の範囲にのみ制限される。
【図6A】

【図6B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然に存在しない微生物生体触媒であって、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する微生物を含み、該外因性核酸が、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を分泌するのに十分な量で発現される、天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項2】
前記4−HB生合成経路が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびスクシニル−CoA合成酵素およびCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素を含む、請求項1に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項3】
前記外因性核酸が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素をコードする、請求項1に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項4】
外因性のα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項3に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項5】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、2以上の外因性核酸をさらに含む、請求項1に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項6】
外因性のスクシニル−CoA合成酵素、外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素または外因性のスクシニル−CoA合成酵素および外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項3に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項7】
前記微生物が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、およびα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素から選択される内因性の4HB生合成活性を欠如している、請求項1に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項8】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、異種のコード化する核酸をさらに含む、請求項1に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項9】
前記単量体4−HBが、少なくとも約5mMの細胞内濃度で発現される、請求項1に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項10】
約10mM以上の細胞内濃度の前記単量体4−HBをさらに含む、請求項9に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項11】
実質的に嫌気性の培地をさらに含む、請求項1に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項12】
4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む天然に存在しない微生物生体触媒であって、該経路が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素、4−酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱水素酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含み、該外因性核酸が1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するのに十分な量で発現される、天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項13】
前記4−HB生合成経路が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびスクシニル−CoA合成酵素およびCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素を含む、請求項12に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項14】
前記外因性核酸が4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素をコードする、請求項12に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項15】
外因性のα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項14に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項16】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、2以上の外因性核酸をさらに含む、請求項12の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項17】
外因性のスクシニル−CoA合成酵素、外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素または外因性のスクシニル−CoA合成酵素および外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項14に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項18】
前記微生物が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素およびα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素から選択される外因性の4−HB生合成活性を欠如している、請求項12に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項19】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、異種のコード化する核酸をさらに含む、請求項12に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項20】
前記外因性核酸が、単量体4−ヒドロキシブタン酸を生産するのに十分な量で発現される、請求項14、15または17に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項21】
前記BDO生合成経路が、アルデヒド脱水素酵素、およびアルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱水素酵素を含む、請求項12に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項22】
前記BDO生合成経路が、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素または4−酪酸キナーゼおよびホスホトランスブチリラーゼをさらに含む、請求項21に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項23】
前記外因性核酸が、アルデヒド/アルコール脱水素酵素をコードする、請求項21に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項24】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、2以上の外因性核酸をさらに含む、請求項21に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項25】
前記微生物が、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素、4−酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素およびアルデヒド/アルコール脱水素酵素から選択される内因性のBDO生合成活性を欠如している、請求項21または22に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項26】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、異種のコード化する核酸をさらに含む、請求項21に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項27】
実質的に嫌気性の培地をさらに含む、請求項12に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項28】
前記単量体BDOが、少なくとも約5mMの細胞内濃度で発現される、請求項25に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項29】
約10mM以上の細胞内濃度の前記単量体BDOをさらに含む、請求項28に記載の天然に存在しない微生物生体触媒。
【請求項30】
4−HBを生産する方法であって、実質的に嫌気的条件下で、単量体4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)を生産するのに十分な期間、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)生合成経路を有する天然に存在しない微生物を培養することを含む、方法。
【請求項31】
前記4−HB生合成経路が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびスクシニル−CoA合成酵素およびCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記外因性核酸が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素をコードする、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記天然に存在しない微生物が、外因性のα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、2以上の外因性核酸をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
外因性のスクシニル−CoA合成酵素、外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素または外因性のスクシニル−CoA合成酵素および外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記天然に存在しない微生物が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素およびα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素から選択される内因性の4−HB生合成活性を欠如している、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、異種のコード化する核酸をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項38】
前記単量体4−HBが、少なくとも約5mMの細胞内濃度で発現される、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
約10mM以上の細胞内濃度の前記単量体4−HBをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
4−HBを単離することをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項41】
pHが約7.5以下である培地をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項42】
γ−ブチロラクトン(GBL)を単離することをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記GBLの単離が、GBLの分離を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
実質的に純粋なGBLを生産するために蒸留をさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
1−4ブタンジオール(BDO)を生産するために、4−HB、GBLまたはそれらの混合物の化学的水素化をさらに含む、請求項30または44に記載の方法。
【請求項46】
テトラヒドロフラン(THF)を生産するために、4−HB、GBLまたはそれらの混合物の化学的水素化をさらに含む、請求項30または44に記載の方法。
【請求項47】
BDOを生産するための方法であって、該方法は、1,4−ブタンジオール(BDO)を生産するのに十分な時間、4−ヒドロキシブタン酸(4−HB)および1,4−ブタンジオール(BDO)生合成経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物生体触媒を培養することを含み、該経路は、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素、4−酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、α−ケトグルタル酸脱炭酸酵素、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱水素酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む、方法。
【請求項48】
前記4−HB生合成経路が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素およびスクシニル−CoA合成酵素およびCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素またはα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記外因性核酸が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素をコードする、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
外因性のα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、2以上の外因性核酸をさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
外因性のスクシニル−CoA合成酵素、外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素または外因性のスクシニル−CoA合成酵素および外因性のCoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードする核酸をさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記微生物が、4−ヒドロキシブタン酸脱水素酵素、スクシニル−CoA合成酵素、CoA依存性コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素およびα−ケトグルタル酸脱炭酸酵素から選択される内因性の4−HB生合成活性を欠如している、請求項47に記載の方法。
【請求項54】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、異種のコード化する核酸をさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項55】
前記外因性核酸が、単量体4−ヒドロキシブタン酸を生産するのに十分な量で発現される、請求項49、50、または52に記載の方法。
【請求項56】
前記BDO生合成経路が、アルデヒド脱水素酵素およびアルコール脱水素酵素またはアルデヒド/アルコール脱水素酵素を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項57】
前記BDO生合成経路が、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素または4−酪酸キナーゼおよびホスホトランスブチリラーゼをさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、2以上の外因性核酸をさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記微生物が、4−ヒドロキシ酪酸塩:CoA転移酵素、4−酪酸キナーゼ、ホスホトランスブチリラーゼ、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素およびアルデヒド/アルコール脱水素酵素から選択される内因性のBDO生合成活性を欠如している、請求項56または57に記載の方法。
【請求項60】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、異種のコード化する核酸をさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項61】
実質的に嫌気性の培地をさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項62】
前記単量体BDOが、少なくとも約5mMの細胞内濃度で発現される、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
約10mM以上の細胞内濃度の前記単量体BDOをさらに含む、請求項62に記載の方法。

【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−521182(P2010−521182A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553836(P2009−553836)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/057168
【国際公開番号】WO2008/115840
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(504356052)ジェノマティカ・インコーポレイテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】Genomatica, Inc.
【Fターム(参考)】