説明

1,4−ベンゾチアゼピン−S−オキシド誘導体、およびそれを用いた医薬組成物ならびにその用途

【課題】左室拡張期最小圧を低下させ、心筋弛緩障害を改善する医薬組成物の提供。
【解決手段】次の一般式[1]


(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基などを表し、nは、0、1又は2を表し;Rは及びRは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基などを表し;Yは、−CO−、−CH−などを表し;mは0、1、2、3を表し;Rは、炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい含窒素複素環基などを表す。)で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4−ベンゾチアゼピン−S−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩、及びそれを用いた心筋弛緩、拡張を改善するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで心筋弛緩を改善するための薬剤は殆ど見当たらない。
心臓は、心筋の収縮、弛緩を周期的に繰り返し、全身の組織、臓器に血液を送り、また全身の組織、臓器から心臓に血液を戻すポンプとして働いている。
心臓の収縮、弛緩は規則的に周期性を持って行われている。この心周期は収縮期、拡張期(広義)の2つに分けられる。収縮期とは僧帽弁の閉鎖から大動脈弁閉鎖までであり、拡張期とは大動脈弁の閉鎖から、僧帽弁の閉鎖までである。更に、拡張期(広義)は、等容弛緩期、急速流入期、緩徐流入期、心房収縮期の4期からなる。心房収縮期では心室筋がさらに生理的に拡張し、心房から心室に流入してくる血液を受け入れる。
心臓が正常な収縮、弛緩、拡張が出来ない場合、結果として心臓のポンプ作用が損なわれ、全身の臓器、組織にうっ血がおこり、心不全を惹起させる。
【0003】
また、高齢者や高血圧患者、左心室心筋肥大の患者などでは、まだ心不全を起こしていなくても、左室弛緩・拡張障害が見られる。左室弛緩・拡張障害は心臓超音波ドプラー法で容易に診断ができる。左室弛緩・拡張障害あると、易疲労感、息切れ、胸部不快感、胸痛などの症状を訴えることも少なくない。左室弛緩・拡張障害が長期にわたると心筋細胞の障害や線維化が起こり、将来、心不全を起こしやすくなる。
【0004】
心不全には大きく分けて収縮不全と拡張不全がある。通常、心臓超音波検査で正常においては左室駆出率が55%以上であるが、収縮不全は心筋の収縮力の低下を認め、左室駆出率は40%以下となる。一方、拡張不全は左室駆出率が正常あるいは軽度障害にもかかわらず、弛緩・拡張機能が障害され心不全を起こす病態で、左室駆出率は45−60%前後である。全心不全患者の約半数が拡張不全であり、今日、有効な治療薬は見当たらない。
【0005】
心臓の機能を評価する方法として、収縮機能については左室の等容収縮期における左室圧の1次微分の最大+dP/dtが指標となる。弛緩・拡張機能については、左室拡張期最小圧、左室拡張期末期圧、左室圧の1次微分の最大−dP/dt、左室圧圧降下の時定数(タウ:τ)が指標となる。収縮不全では心筋の収縮機能が低下しており+dP/dtが低下する。一方、弛緩・拡張障害では左室拡張期最小圧、左室拡張期末期圧が上昇し、−dP/dtの絶対値が低下し、左室圧圧降下の時定数(タウ:τ)が延長する。心筋の弛緩・拡張機能は心臓超音波ドプラー法で、左室心筋壁モーションを測定することでも計測でき、また左室圧を圧トランスジューサー付きカテーテルで測定することでも診断できる。
【0006】
心不全においては、心筋収縮障害、心筋弛緩・拡張障害の各々が複合的に組み合わさって惹起されることも少なくない。また、心筋弛緩障害と心筋拡張障害が組み合わさって広義の拡張不全を形成することもある。一般に広義の拡張不全では、弛緩機能と拡張障害が不良となり、左室拡張期最小圧、左室拡張末期圧が上昇する。心筋弛緩障害が高度になると、心筋は弛緩できず、強直(Rigor)を起こす。
【0007】
現在のところ左室拡張期最小圧を低下させる薬剤は殆ど見当たらない。左室拡張期最小圧を低下させ、心筋弛緩を容易にするための薬剤は心不全の治療薬や予防薬になるのみならず、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心房細動、心室性不整脈などの頻脈型不整脈、高血圧の治療薬や予防薬になる。また、心筋のみならず骨格筋の弛緩機能の改善は筋硬直症や肩こりなどの治療薬や予防薬になる。また、平滑筋の弛緩機能の改善は流産の治療薬や予防薬となる。さらにまた、血圧を低下させる薬剤は高血圧の予防薬、治療薬となる。
【0008】
1,4−ベンゾチアゼピン誘導体の一種である4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン及びその誘導体は、心抑制作用を伴うことなく心筋のKD(Kinetic cell death)抑制作用を有する心筋壊死や急性心筋梗塞に有効な物質として報告されている(特許文献1及び2参照)。この物質に関しては多くの報告がなされてきており、例えば、心房細動の治療薬として有用であること(特許文献3参照)、制ガン剤に対する効果増強作用を有すること(特許文献4参照)、リアノジン受容体機能の改善及び/又は安定化により、筋小胞体からのCa2+リークを抑制する作用を有すること(特許文献5参照)、筋弛緩促進薬、左室拡張障害の治療薬、狭心症の治療薬、急性肺気腫の治療薬、微小循環系の血流改善薬、高血圧の治療薬、心室性頻拍の治療薬、トルサドポアンの治療薬などとして有用であること(特許文献6参照)などが報告されてきている。
【0009】
特許文献7には、1,4−ベンゾチアゼピン化合物やそのS−オキシド誘導体及びスルホン誘導体がカルシウムチャネル調整機能を有するRyR受容体を調節する作用を有しており、心疾患などに有用であることが記載されている。特許文献7では、このような作用は1,4−ベンゾチアゼピン誘導体のみならず、そのS−オキシドやスルホン誘導体についても同様である旨記載されているが、具体的な薬理データが図示されているのは4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン(JTV−519)[特許文献7の図1及び2など]及び4−(カルボキシカルボニル)−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン(S36)[特許文献7の図3及び4など]のみであり、そのS−オキシド誘導体及びスルホン誘導体につての薬理データは記載されていない。
また、本発明者らは、4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンのS−オキシド誘導体が、心筋弛緩機能、ならびに心機能を改善する作用があることを見出してきた(特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−230681号公報
【特許文献2】WO1992/12148号公報
【特許文献3】特開2000−247889号公報
【特許文献4】特開2001−31571号公報
【特許文献5】特開2003−95977号公報
【特許文献6】WO2005/105793号公報
【特許文献7】米国特許公開2006−0194767号公報
【特許文献8】特願2009−222610号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、左室拡張期最小圧を低下させ、心筋弛緩機能を高め、心筋弛緩障害を改善させる薬剤として提供するものであるが、また血管平滑筋を拡張し、血圧を低下させ、高血圧の治療薬となる。さらに、骨格筋、子宮平滑筋の筋弛緩を促進し、筋緊張症や流産の治療薬又は予防薬を提供するものである。
また、本発明は、血圧を低下させ、高血圧症を改善するという有用な薬理作用などを有する新規な化合物、並びにそれを用いた医薬組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン及びその誘導体について各種の薬理作用について検討してきた。これらの化合物が極めて有用な薬理作用を有していることは、前記してきた文献に報告されてきている。本発明者はさらに検討を進めてきたところ、そのS−オキシド誘導体が、母体化合物やそのスルホン体誘導体には見られない心筋の弛緩機能や拡張機能を改善する作用を有することを見出してきた(特許文献8参照)。
本発明者らは、さらに検討してきたところ、1,4−ベンゾチアゼピン−S−オキシド誘導体が心筋の左室拡張期最小圧を低下させ、さらに血圧を低下させる作用が共通する作用であることを見出し、本発明に至った。
【0013】
即ち、本発明は、2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン誘導体のS−オキシド誘導体、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる心筋の左室拡張期最小圧を低下させ、弛緩機能を改善するための、より詳細には心拍を変化させずに心筋の弛緩機能や拡張機能を改善するための医薬組成物に関する。
また、本発明は、2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン誘導体のS−オキシド誘導体、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる、血圧を低下させるための、より詳細には高血圧時における血圧を低下させるための医薬組成物に関する。
さらに、本発明は、次の一般式[1]
【0014】
【化1】

【0015】
{式中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜15のアルケニルオキシ基、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキルスルホニルオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールチオ基、置換基を有してもよいヘテロアリール基、炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数7〜15のアラルキル基で置換されていてもよいアミノ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、又はアジド基、を表し、
nは、0、1又は2を表し、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、又は置換基を有してもよいヘテロアリール基、を表し、
Yは、−CO−、−CH−、−CH−CH(OH)−、又は−SO−を表し、
mは0、1、2、3を表し、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数2〜15のアルケニル基;炭素数1〜10のアルコキシ基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基;炭素数1〜15のアシル基で置換されていてもよい1個〜4個の窒素原子、酸素原子、若しくは硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基、
−NR1112(式中、R11及びR12はそれぞれ独立して、水素原子;水酸基;1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;又は1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表す。)、
−COOR13(式中、R13は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。)、
−CONR1415(式中、R14及びR15はそれぞれ独立して、水素原子;1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;又は1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表す。)、
又は、次の一般式[2]
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、kは0、1、2、又は3を表し、lは0、1、又は2を表し、
16は、1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール環基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、及び炭素数7〜40のアラルキル基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表し、
は、−NR17−、又は−C(R18)R19−(式中、R17は、水素原子;1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;又は、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基を表し、
18は、水素原子;ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;又は、1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表し、
19は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表す。)
で表される基を表す。}
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関する。
さらに、本発明は、前記式[1]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩、及び製薬学的の許容される担体を含有してなる医薬組成物に関する。
【0018】
本発明を、より詳細に説明する。
(1)前記した一般式[1]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(2)前記一般式[1]のYが、−CO−又は−CH−CH(OH)−である前記(1)に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(3)前記一般式[1]のRが、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、である前記(1)又は(2)に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(4)前記一般式[1]のnが1であり、その置換位置が7位である前記(1)から(3)のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(5)前記一般式[1]のRが、水素原子、又は炭素数1〜10のアルコキシ基である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(6)前記一般式[1]のRが、水素原子である、前記(1)から(5)のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(7)前記一般式[1]のRが、前記した一般式[2]で表される基である前記(1)から(6)のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(8)前記一般式[2]のkが1であり、Aが、−C(R18)R19−(式中、R18及びR19は前記したものと同じである。)である前記(7)に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(9)R19が、水素原子、又は水酸基である、前記(8)に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
(10)R18が、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基、又は水酸基若しくはアルキレンジオキシ基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基である前記(8)又は(9)に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【0019】
(11)前記一般式[1]で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体が、
4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[6]で表される化合物);
4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]−2−ヒドロキシプロピル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[7]で表される化合物);
4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[8]で表される化合物);
4−[3−{4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル}プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[9]で表される化合物);
4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−2−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[10]で表される化合物);
4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−アセチル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[11]で表される化合物);
4−[3−(4−フェニルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[12]で表される化合物);
4−[3−(ピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[13]で表される化合物);又は、
4−[3−(4−メチルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(式[14]で表される化合物);
である前記(1)から(10)のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩。
(12)2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の薬学的に許容される塩が、シュウ酸塩である前記(1)から(11)のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩。
【0020】
(13)前記(1)から(12)のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物。
(14)医薬組成物が、心疾患又は高血圧症の治療薬又は予防薬である前記(13)に記載の医薬組成物。
(15)心疾患が、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である前記(14)に記載の医薬組成物。
(16)心不全が、左室拡張障害又は心筋弛緩障害によるものである前記(15)に記載の医薬組成物。
(17)高血圧症が、高血圧時における血圧低下作用によるものである前記(14)に記載の医薬組成物。
(18)医薬組成物が、心拍を変化させずに心筋弛緩機能を改善させるためのものである前記(13)から(16)のいずれかに記載の医薬組成物。
(19)心筋弛緩機能の改善が、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、心不全、心房細動、心室性不整脈に合併した心筋弛緩障害を改善させるためのものである、前記(18)に記載の医薬組成物。
(20)有効成分の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩が、その母体化合物である次の一般式[3]
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、n、m、R、R、R、Y、及びRは前記したものと同じものを表す。)
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩を投与することにより生体内で生成されるものである前記(13)から(19)のいずれかに記載の医薬組成物。
(21)次の一般式[3]、
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、n、m、R、R、R、Y、及びRは前記したものと同じものを表す。)
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン誘導体を酸化して、次の一般式[1]
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、n、m、R、R、R、Y、及びRは、前記したものと同じものを表す。)
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩を製造する方法。
(22)酸化が過酸によるものである前記(21)に記載の方法。
【0027】
(23)心疾患又は高血圧症の治療薬又は予防薬を製造するための前記(1)から(12)のいずれかに記載の一般式[1]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩の使用。
(24)心疾患が、心筋弛緩障害による心不全である前記(23)に記載の使用。
(25)前記一般式[1]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩が、その母体化合物である前記一般式[3]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩を投与することにより生体内で生成されるものである前記(23)又は(24)に記載の使用。
(26)心疾患又は高血圧症の治療薬又は予防薬として使用するための、前記(1)から(12)のいずれかに記載の一般式[1]で表される心筋弛緩障害による1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩。
(27)心疾患が、心筋弛緩障害による心不全である、前記(26)に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩。
(28)心疾患又は高血圧症の患者に、有効量の前記(1)から(12)のいずれかに記載の一般式[1]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物を投与することからなる心疾患又は高血圧症を治療する方法。
(29)心疾患が、心筋弛緩障害による心不全である前記(28)に記載の方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の化合物は、それ自体が、心筋の左室拡張期最小圧を低下させる作用、緩やかに冠動脈を拡張させる作用、及び緩やかに心拍数を低下させる性質を有し、また、心筋への酸素供給量を増加させると共に心筋の酸素消費量を減らす性質を合わせ持っている。したがって、本発明は、従来、治療や予防が難しいとされていた、高齢者や高血圧、左室心肥大の左室弛緩・拡張障害を有する患者や、心不全及び拡張不全による心不全の患者、また、狭心症又は心筋梗塞の患者に対して、安全で望ましい治療薬又は予防薬として有用な化合物、及びそれを含有してなる新たな医薬組成物を提供するものである。
さらに加えて、本発明の化合物は、心筋弛緩を増強させる作用を有し、心筋弛緩障害に有効である。また、本発明の化合物は高血圧に有効な作用を有し、高血圧症の治療薬又は予防薬として有用である。さらに、本発明の化合物は、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、心不全、心房細動、心室性不整脈に合併した心筋弛緩障害を改善する治療薬又は予防薬として有用である。
本発明の化合物を含有してなる医薬組成物は、経口、舌下、貼付、静脈内投与ができるが、冠動脈内に注入し、診断的に冠動脈攣縮を誘発した後の攣縮の解除、検査中の冠攣縮の予防及び治療に用いることができる。
さらにまた、狭心症、特に、狭心症における心筋虚血を治療又は予防するために、又は、心不全、特に拡張不全による心不全に対して、安全で望ましい治療又は予防をするために、本発明の医薬組成物をβ遮断薬やCa2+拮抗薬と併用することにより、β遮断薬やCa2+拮抗薬の使用量を減じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の式[6]で表される化合物の投与による、投与前及び投与後における心拍数(図1a)、血圧(図1b)、及び左室拡張期最小圧(図1c)のそれぞれの変化を示したものである。
【図2】図2は、本発明の式[7]で表される化合物の投与による、投与前及び投与後における心拍数(図2a)、血圧(図2b)、及び左室拡張期最小圧(図2c)のそれぞれの変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明における「炭素数1〜10のアルキル基」としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、などが挙げられる。
本発明における「炭素数2〜15のアルケニル基」としては、炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10の直鎖状又は分枝状のアルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の例としては、ビニル基、1−メチル−ビニル基、2−メチル−ビニル基、n−2−プロペニル基、1,2−ジメチル−ビニル基、1−メチル−プロペニル基、2−メチル−プロペニル基、n−1−ブテニル基、n−2−ブテニル基、n−3−ブテニル基などが挙げられる。
【0031】
本発明における「炭素数1〜10のアルコキシ基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基に酸素原子結合した基が挙げられる。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基などが挙げられる。
本発明における「炭素数2〜15のアルケニルオキシ基」としては、前記した炭素数1〜15のアルケニル基に酸素原子結合した基が挙げられる。このようなアルコキシ基としては、例えば、ビニルオキシ基、1−メチル−ビニルオキシ基、2−メチル−ビニルオキシ基、n−2−プロペニルオキシ基、1,2−ジメチル−ビニルオキシ基、1−メチル−プロペニルオキシ基、2−メチル−プロペニルオキシ基、n−1−ブテニルオキシ基、n−2−ブテニルオキシ基、n−3−ブテニルオキシ基などが挙げられる。
本発明における「炭素数1〜10のアルキルカルボニル基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基にカルボニル基(−CO−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数1〜10のアルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基などが挙げられる。
本発明における「炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基にカルボニルオキシ基(−CO−O−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、メチルカルボニルオキシ基(アセトキシ基)、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、tert−ブチルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
【0032】
本発明における「ハロゲン原子」としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
本発明における「炭素数1〜10のアルキルスルホニルオキシ基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基にスルホニルオキシ基(−SO−O−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数1〜10のアルキルスルホニルオキシ基としては、例えば、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基、n−プロピルスルホニルオキシ基、イソプロピルスルホニルオキシ基、tert−ブチルスルホニルオキシ基などが挙げられる。
【0033】
本発明における「炭素数6〜20のアリール基」としては、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられる。このような炭素環式芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、などが挙げられる。
本発明における「炭素数6〜20のアリールオキシ基」としては、前記した炭素数6〜20のアリール基にオキシ基(−O−)が結合したものが挙げられる。このような炭素数6〜20のアリールチオ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、ビフェニルオキシ基、フェナントリルオキシ基、アントリルオキシ基、などが挙げられる。
本発明における「炭素数6〜20のアリールチオ基」としては、前記した炭素数6〜20のアリール基にチオ基(−S−)が結合したものが挙げられる。このような炭素数6〜20のアリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ビフェニルチオ基、フェナントリルチオ基、アントリルチオ基、などが挙げられる。
本発明における「炭素数7〜15のアラルキル基」としては、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基に、前記した炭素数1〜10のアルキル基が結合した、炭素数7〜15のアラルキル基が挙げられる。このようなアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、α−ナフチル−メチル基などが挙げられる。
本発明における「ヘテロアリール基」としては、1個〜4個、好ましくは1〜3個又は1〜2個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員、好ましくは5〜8員の環を有する単環式、多環式、又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられる。このようなヘテロアリール基としては、例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサジアゾリル基、ピリジル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基などが挙げられる。
【0034】
前記したアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アラルキル基、及びヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、このような置換基としては、前記してきたアルキル基、前記してきたアルケニル基、前記してきたアルコキシ基、前記してきたハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、及びアジド基(−N)からなる群から選ばれる置換基が挙げられる。
【0035】
本発明における「炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数7〜15のアラルキル基で置換されていてもよいアミノ基」としては、アミノ基又はアミノ基の1個又は2個の水素原子が、前記してきた炭素数1〜10のアルキル基、又は前記してきた炭素数7〜15のアラルキル基で置換されたアミノ基が挙げられる。このような置換されていてもよいアミノ基としては、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェネチルアミノ基などが挙げられる。アミノ基の置換基であるアラルキル基は、さらに前記してきた置換基で置換されていてもよい。
本発明における「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基」としては、前記してきた炭素数1〜10のアルキル基又は当該アルキル基の1個又はそれ以上の水素原子が前記してきたハロゲン原子で置換されたアルキル基であり、例えば、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ヨウ化エチル基、2−フルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基などが挙げられる。
【0036】
本発明における「炭素数1〜15のアシル基」としては、炭素数1〜15のの直鎖状又は分枝状のアルキルにカルボニル基(−CO−)が結合した基、及び炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式のシクロアルキル基にカルボニル基(−CO−)が結合した基が挙げられる。例えば、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、シクロプロピルカルボニル基、シクロペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、シクロオクチルカルボニル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチルカルボニル基、ビシクロ[3.2.1]オクチルカルボニル基、ビシクロ[2.2.2.]オクチルカルボニル基、アダマンチルカルボニル基(トリシクロ[3.3.1.1]デカニルカルボニル基)、ビシクロ[5.4.0]ウンデカニルカルボニル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカニルカルボニル基などが挙げられる。これらのアルキル基やシクロアルキル基はさらに置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、前記してきたアルキル基、前記してきたアルケニル基、前記してきたアルコキシ基、前記してきたハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、及びアジド基(−N)からなる群から選ばれる置換基が挙げられる。
【0037】
本発明における「1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基」としては、前記してきた炭素数1〜10のアルキル基又は当該アルキル基の1個又はそれ以上の水素原子が前記してきたヘテロアリール基で置換されたアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、フリルメチル基、フリルエチル基、チエニルメチル基、チエニルエチル基、ピロリルメチル基、ピロリルエチル基、イミダゾリルメチル基、イミダゾリルエチル基、オキサジアゾリルメチル基、オキサジアゾリルエチル基、ピリジルメチル基、ピリジルエチル基、インドリルメチル基、インドリルエチル基、ベンゾイミダゾリルメチル基、ベンゾイミダゾリルエチル基などが挙げられる。
【0038】
本発明における「1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基」としては、ベンゼン環又はナフタレン環のオルト位又はペリ位において炭素数3〜5のアルキレン鎖が結合したものであり、このようなアルキレン基としては、n−プロピレン基、n−ブチレン基などが挙げられる。このような炭素数3〜5のアルキレン基の中の1個若しくは2個の炭素原子は酸素原子に置換されていてよく、例えば、1個の炭素原子が酸素原子に置換されたエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基や、2個の炭素原子が酸素原子に置換されたメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基などが挙げられる。
本発明における「1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基」としては、前記してきた炭素数7〜40のアラルキル基、又は当該アラルキル基のアリール基部分が前記してきた「1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基」で置換された基が挙げられる。このような基としては、例えば、ベンジル基、3,4−メチレンジオキシベンジル基、3,4−エチレンモノオキシベンジル基などが挙げられる。
【0039】
本発明の一般式[1]におけるRは、2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン環におけるベンゼン環の置換基を表している。nはその置換基の数を示しており、nが0の場合は無置換であることを示している。nが1又は2の場合は、ベンゼン環の4個の水素原子のうちの任意の1個又は2個の水素原子がR基で置換されていることを示している。好ましい置換位置としては、7位及び/又は8位が挙げられ、7位がより好ましい。
nが1又は2の場合の好ましいR基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は炭素数1〜10のアルキルカルボニル基が挙げられる。さらに好ましいR基としては、メトキシ基、アセチル基が挙げられる。
また、本発明の一般式[1]においては、nが0のもの、即ちベンゼン環が無置換のものも好ましい例のひとつである。
【0040】
本発明の一般式[1]におけるR及びRは、2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン環における2,3,4,5−テトラヒドロ−チアゼピン環の2位及び3位の置換基をそれぞれ表している。
本発明の一般式[1]における好ましいR基としては、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は炭素数1〜10のアルキルカルボニル基が挙げられ、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、
エトキシ基、アセチル基などが挙げられる。より好ましいR基としては、水素原子、又は炭素数1〜10のアルコキシ基が挙げられ、例えば、水素原子、メトキシ基などが挙げられる。
本発明の一般式[1]における好ましいR基としては、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基が挙げられ、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。より好ましいR基としては、水素原子、炭素数1〜10のアルコキシ基が挙げられ、例えば、水素原子、メトキシ基などが挙げられる。さらに好ましいR基としては、水素原子が挙げられる。
【0041】
本発明の一般式[1]における−Y−(CH−Rは、2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン環における2,3,4,5−テトラヒドロ−チアゼピン環の4位、即ち窒素原子の置換基を表している。
本発明の一般式[1]における好ましいY基としては、−CO−、−CH−CH(OH)−、又は−SO−が挙げられる。Y基が−CO−の場合の好ましいmの値は、1又は2が挙げられ、より好ましくは2が挙げられる。Y基が−CH−CH(OH)−の場合の好ましいmの値は、1又は2が挙げられ、より好ましくは1が挙げられる。Y基が−SO−の場合の好ましいmの値は、0、1又は2が挙げられ、より好ましくは0又は1が挙げられる。
より好ましいY基としては、−CO−、又は−CH−CH(OH)−が挙げられる。さらに好ましいY基としては、−CO−が挙げられる。
本発明の一般式[1]における好ましいRとしては、一般式[2]で表される基が挙げられる。一般式[2]で表される基における好ましいkは、1又は2であり、より好ましくは1が挙げられる。lは窒素原子を含む環における置換基の数を示しており、好ましいlは、0又は1である。lが1における好ましい置換位置としては、窒素原子に隣接する炭素原子の位置が挙げられる。より好ましいlの値は0、即ち無置換の場合が挙げられる。
【0042】
本発明の一般式[2]で表される基におけるAは、−NR17−、又は−C(R18)R19−である。kが1でAが−NR17−である場合は、一般式[2]で表される基はピペラジン環であることを表しており、−R17は当該ピペラジン環の4位の窒素原子における置換基であることを表している。また、kが1でAが−C(R18)R19−である場合は、一般式[2]で表される基はピペリジン環であることを表しており、−R18及び−R19は当該ピペリジン環の4位の炭素原子における2個の置換基であることを表している。
本発明の一般式[2]で表される基における好ましいA基としては、−C(R18)R19−が挙げられる。
本発明の好ましい一般式[1]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩としては、次の一般式[4]
【0043】
【化6】

【0044】
(式中、n、m、k、R、R、R、Y、R18、及びR19は前記してきたものと同じものを表す。)
で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が挙げられる。
さらに、本発明のより好ましい一般式[1]で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩としては、次の一般式[5]
【0045】
【化7】

【0046】
(式中、R20は水素原子又は炭素数1〜10のアルコキシ基、又は炭素数1〜10のアルキルカルボニル基を表し、R21は水素原子、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、Yは−CO−又は−CH−CH(OH)−を表し、mは1、2、又は3を表し、R22は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基、又は水酸基若しくはアルキレンジオキシ基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基を表し、R23は水素原子、又は水酸基を表す。)
で表される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が挙げられる。
本発明の一般式[1]で表される化合物の例としては、次の式[6]から式[14]で表される化合物を例示することができるが、本発明の一般式[1]で表される化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0047】
【化8】

【0048】
で表される4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容される塩。
【0049】
【化9】

【0050】
で表される4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]−2−ヒドロキシプロピル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容される塩。
【0051】
【化10】

【0052】
で表される4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容される塩。
【0053】
【化11】

【0054】
で表される4−[3−{4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル}プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容しうる塩。
【0055】
【化12】

【0056】
で表される4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−2−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容しうる塩。
【0057】
【化13】

【0058】
で表される4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−アセチル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容しうる塩。
【0059】
【化14】

【0060】
で表される4−[3−(4−フェニルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容しうる塩。
【0061】
【化15】

【0062】
で表される4−[3−(ピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容しうる塩。
【0063】
【化16】

【0064】
で表される4−[3−(4−メチルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容しうる塩。
【0065】
本発明の化合物は、塩基性の窒素原子を有しているので、この位置において、酸付加塩を形成させることができる。この酸付加塩を形成させるための酸としては、薬学的に許容されるものであれば特に制限はない。本発明の好ましい酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩又は硝酸塩等の無機酸付加塩;シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩又はアスコルビン酸塩等の有機酸付加塩;アスパラギン酸塩又はグルタミン酸塩等のアミノ酸付加塩などが挙げられる。本発明の化合物における好ましい塩としてはシュウ酸塩が挙げられるがこれに限定されるものではない。
また、本発明の化合物又はその酸付加塩は、水和物のような溶媒和物であってもよい。
【0066】
本発明の一般式[1]で表される化合物は、一般式[3]で表される母体化合物を適当な酸化剤で常法にしたがって2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン環の硫黄原子を酸化することにより製造することができる。酸化剤としては、過酸、好ましくは、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)などの有機過酸化物を使用することができる。溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などを適宜使用することができる。反応温度はスルホンまでの酸化を防止するために低温、例えば、0℃から5℃程度が好ましい。反応混合物から、抽出操作やクロマトグラフィーや蒸留などの分離精製手段により、目的物を分離精製することができる。
【0067】
本発明の母体化合物である一般式[3]で表される化合物は、公知の方法により製造することができる。例えば、7−置換又は無置換の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンの4位の窒素原子を、酸ハロゲン化物などのアシル化剤により直接アシル化して製造することができるし、また、アルケニル酸ハロゲン化物又はハロゲン置換アルカン酸ハロゲン化物でアシル化して、N−アシル体とし、次いで得られたN−アシル化物又はN−スルホニル化物に、R−Z(式中、Zは水素原子、又は脱離基を示す。)を反応させることにより製造することができる。
一般式[1]のYが−SO−の化合物は、前記した酸ハロゲン化物に代えてスルホニルハライドを用いて同様に製造することができる。
一般式[1]のYが−CH−の化合物は、前記の方法で得られたアシル化物を還元して製造することもできる。さらに、一般式[1]のYが−CH−CH(OH)−の化合物は、エピハロヒドリンを用いてN−エポキシ化し、次いでエポキシ基を開環させて製造することができる。
【0068】
例えば、本発明の式[6]で表される化合物である4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド
又はその薬学的に許容される塩は、次の反応経路にしたがって、
【0069】
【化17】

【0070】
7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン[15]とアクリロイルクロリドとを炭酸ナトリウムなどの塩基の存在下で、トルエンなどの不活性溶媒中で反応させてアシル化し、次いで、4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン(必要により水酸基を適当な保護基で保護しておいてもよい。)を反応させることにより、化合物[16]の母体化合物を製造することができる。これをメタクロロ過安息香酸(mCPBA)などの有機過酸化物により酸化し、本発明の化合物[6]を製造することができる。
この方法で製造された本発明の前記式[6]で示される化合物は、アモルファスであり、室温での酸素及び湿度並びに酸及びアルカリに安定であり、エタノール及びジメチルスルホキシド(DMSO)に易溶である。
【0071】
また、本発明の式[7]で表される化合物である4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]−2−ヒドロキシプロピル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドは、次の反応経路にしたがって、
【0072】
【化18】

【0073】
7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン[15]とエピブロモヒドリンと反応させ、次いで、4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン(必要により水酸基を適当な保護基で保護しておいてもよい。)を反応させることにより、化合物[17]の母体化合物を製造することができる。これをメタクロロ過安息香酸(mCPBA)などの有機過酸化物により酸化し、本発明の化合物[7]が得られる。
この方法で製造された本発明の前記式[7]で示される化合物は、アモルファスであり、室温での酸素及び湿度並びに酸及びアルカリに安定であり、エタノール及びジメチルスルホキシド(DMSO)に易溶である。
【0074】
また、本発明の式[8]で表される化合物である4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドは、次の反応経路にしたがって、
【0075】
【化19】

【0076】
2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン[18]をトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の塩基の存在下で、塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)等の非プロトン性の溶媒中で、好ましくは0℃〜室温にてアクリロイルクロリドと反応させてN−アシル化し、N−アシル体[19]を製造する。これを塩化メチレン、クロロホルム、メタノール、エタノール、THF等の溶媒中で室温にて4−ベンジルピペリジンと反応させることにより母体化合物[20]が得られる。これをメタクロロ過安息香酸(mCPBA)などの有機過酸化物により酸化し、本発明の化合物[8]が得られる。
また、本発明の式[9]で表される化合物である4−[3−{4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル}プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドは、次の反応経路にしたがって、
【0077】
【化20】

【0078】
2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン[18]をトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の塩基の存在下で、塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)等の非プロトン性の溶媒中で、好ましくは0℃〜室温にてアクリロイルクロリドと反応させ、これを塩化メチレン、クロロホルム、メタノール、エタノール、THF等の溶媒中で室温にて4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン(必要により水酸基を適当な保護基で保護しておいてもよい。)と反応させることにより母体化合物[21]を製造することができる。これをメタクロロ過安息香酸(mCPBA)などの有機過酸化物により酸化し、本発明の化合物[9]が得られる。
【0079】
前記した一般式[1]で表される本発明の化合物又はその塩は、それ自体、心筋弛緩障害、拡張障害を改善させ、有用な薬理作用を有している。本発明の一般式[1]で表される化合物は、その母体化合物である一般式[3]で表される化合物又はその塩の生体内での代謝産物と考えられるものである。しかし、本発明者らが一般式[1]で表される化合物又はその塩を製造し、その性質を詳細に検討したところ、当該一般式[1]で表される化合物又はその塩は、一般式[3]で表される母体化合物の単なる代謝産物ではなく、それ自体が母体化合物とは異なる薬理作用を有する物質であることを初めて見出したのである。さらに、本発明の一般式[1]で表されるS−オキシド体は、その代謝産物と考えられるスルホン体(−SO−体)とも異なる薬理作用を有する物質であることが確認されている。
【0080】
また、本発明の一般式[1]で表される化合物又はその塩は、心筋拡張機能を増強させる作用に、冠動脈を拡張させる作用、心拍数を減少させ、心筋収縮力を低下させる作用が、何れも母体化合物に比べて極めて穏やかであるばかりでなく、母体化合物とは異なる左室の拡張機能を増強させる有効な作用を有し、且つノルエピネフリン誘発性の左室拡張障害に対する抑制作用を有する。
したがって、本発明のS−オキシド化合物は、左室拡張機能を改善し、また、心不全及び拡張不全の際に認められる左室拡張期最小圧と左室拡張末期圧の増加を抑制し、心不全及び拡張不全を改善する薬剤として有用である。
また、本発明のS−オキシド化合物は、高齢者や高血圧、心肥大に認められる左室拡張障害の患者に投与し左室拡張障害を改善させる治療又は予防する薬剤として有用であり、さらに、本発明のS−オキシド化合物は、冠動脈に有意の狭窄がある、狭心症や心筋梗塞患者に対して安全な望ましい治療薬又は予防薬として有用である。さらに、本発明のS−オキシド化合物は、心拍数を変化させずに心筋弛緩機能を促進させ、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、心不全、心房細動、心室性不整脈に合併した心筋弛緩障害を改善させる治療薬又は予防薬として有用である。
即ち、本発明の一般式[1]で表される化合物又はその塩は、左室弛緩、拡張機能を増強する作用があり、血管を拡張させ、心筋収縮力を調節し、心不全、拡張不全による心不全、左室拡張障害、狭心症又は心筋梗塞の薬剤として極めて有用である。さらに、本発明のS−オキシド化合物は、心拍数を変化させずに心筋弛緩機能を促進させ、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、心不全、心房細動、心室性不整脈に合併した心筋弛緩障害を改善させる薬剤として有用である。
【0081】
したがって、本発明は、これらの本発明の一般式[1]で表される化合物の1種以上を有効成分として含有してなる医薬組成物を提供するものである。
また、本発明の一般式[1]で表される化合物又はその塩は、その母体化合物である一般式[3]で表される化合物又はその塩の生体内での代謝産物と考えられることから、本発明の医薬組成物は、本発明の一般式[1]で表される化合物又はその塩に代えて、その母体化合物である一般式[3]で表される母体化合物又はその塩をプロドラッグとして用いることができる。
【0082】
本発明の医薬組成物における有効成分としては、本発明の一般式[1]で表せる化合物又はその塩に代えて、プロドラッグとしてその母体化合物である一般式[3]で表される化合物又はその塩を使用することもできる。本発明の一般式[1]で表される化合物は、生体内において、その母体化合物である一般式[3]で表される化合物の代謝産物として得られることから、一般式[3]で表される化合物又はその塩を本発明の化合物又はその塩のプロドラッグとして使用することができる。
【0083】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口により患者に投与することができる。
本発明の医薬組成物を経口投与のための製剤とする場合には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤等の剤形が可能である。このような剤形においては、一つ又はそれ以上の活性物質(有効成分)が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、分散剤又は吸着剤等、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微晶性セルロース、澱粉、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は無水ケイ酸末等と混合され、常法にしたがって製剤化することができる。
錠剤又は丸剤に調製する場合は、必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシメチルセルロースフタレート等の胃溶性あるいは腸溶性物質のフィルムで皮膜してもよいし、二以上の層で皮膜してもよい。さらに、ゼラチン又はエチルセルロースのような物質のカプセルにしてもよい。
経口投与のための液体組成物にする場合は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶解剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等の剤形が可能である。用いる希釈剤としては、例えば精製水、エタノール、植物油又は乳化剤等がある。また、この組成物は希釈剤以外に浸潤剤、懸濁剤、甘味剤、風味剤、芳香剤又は防腐剤等のような補助剤を混合させてもよい。
【0084】
非経口のための注射剤に調製する場合は、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、可溶化剤、懸濁剤又は乳化剤を用いる。水性の溶液剤、可溶化剤、懸濁剤としては、例えば注射用水、注射用蒸留水、生理食塩水、シクロデキストリン及びその誘導体、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリエチルアミン等の有機アミン類あるいは無機アルカリ溶液等がある。
水溶性の溶液剤にする場合、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールあるいはオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類等を用いてもよい。 また、可溶化剤として、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、蔗糖脂肪酸エステル等の界面活性剤(混合ミセル形成)、又はレシチンあるいは水添レシチン(リポソーム形成)等も用いられる。また、植物油等の非水溶性の溶解剤と、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等からなるエマルジョン製剤にすることもできる。
【0085】
本発明の一般式[1]で表される化合物若しくはその塩、又はそのプロドラッグである一般式[3]で表される化合物若しくはその塩は、遊離の化合物として、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常成人一人当たり0.01mg乃至1g/kgの範囲で、一日一回から数回に分けて経口あるいは非経口投与することができる。
【0086】
心筋収縮力を減少させ、且つ心拍数を減少させる薬剤であるβ遮断薬の使用は、循環器専門医でも投与量の加減が難しく、一般には低用量から使用することが勧められており、高用量の投与は危険とされている。また、冠動脈を拡張させるCa2+拮抗薬は血管拡張作用のため急激に血圧が低下し、一般には低用量から使用することが勧められており、高用量の投与は危険とされている。
狭心症、特に、狭心症における心筋虚血を治療又は予防するために、又は、心不全、特に拡張不全による心不全に対して、安全で望ましい治療又は予防をするために、本発明の化合物をβ遮断薬やCa2+拮抗薬と併用することにより、β遮断薬やCa2+拮抗薬の使用量を減じることができる。
【実施例】
【0087】
以下に、本発明の一実施例をあげて、本発明について更に具体的に説明するが、ここでの例示及び説明により、何ら限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
本発明の式[6]で示される化合物の4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドの製造
反応容器に、30.0gの前記式[16]で示される化合物の4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンを入れ、これに溶媒のクロロホルム(CHCl)800mLを加えて、室温下に攪拌して、溶解させる。次いで、反応容器を氷水浴に浸して、容器内温度が0〜1℃になるまで冷却した。これに、14.0gのメタクロロ過安息香酸(mCPBA)のクロロホルム(CHCl)600mL溶液を、反応温度が上昇しないように留意しながらゆっくりと時間をかけて滴下した。滴下終了後、0〜1℃で約20分間攪拌した。
次いで、4.14gのNaSOの200mL水溶液を0〜5℃で加えた後、0〜5℃で10分間攪拌した。次いで、0〜5℃に保冷しながら、1規定のNaOH水溶液で反応混合物を中和した。その後、0〜5℃で15〜20分間攪拌した。有機層を分液後、水層を600mLのCHClで洗浄し、有機層を合わせて、200mLのHOで1回、200mlの飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥した後、減圧で溶媒を留去した。
残渣をシリカゲルクロマトグラフィにより、エタノールで流出させて精製した。目的の化合物は、アモルファス乃至粘性オイル状で13gが得られた。
IR(cm−1) :3417.7, 2943.2, 1639.9, 1067
H−NMR(CDCl):δ1.2(1H), δ1.6(3H), δ2.0(3H), δ2.7(5H),δ3.8(3H), δ7.4(3H)
MS(FD−MS): 計算値 476.15
実測値 476
【0089】
[試験例1]
本発明の式[6]で表される化合物の正常ラットの心拍数、血圧、左室拡張期最小圧に及ぼす影響について
(1)ウィスター(Wistar)系雄性ラット3匹を用いた。
1週間飼育後、3%イソフルランで吸入麻酔し、気管内挿管後、人工呼吸器を装着した。1.7%イソフルランの吸入麻酔下で、呼吸管理を行った。右総頚動脈から圧測定チップ付カテーテル(2Fミラー社)を左室内に挿入し、また、右大腿静脈から本発明の化合物又は生理食塩水注入用ポリエチレンチューブ(SP10)を挿入した。10分間の血行動態の安定化を図った後に、連続的に1分毎に、心拍数、血圧、左室拡張期最小圧を測定し、本発明の式[6]で表される化合物を0.1mg/kg/分で12分間投与した。対照例では生理食塩水を投与し、各溶液の注入速度は1分間あたり、16.6μlとした。
投与前及び投与後における心拍数、血圧、左室拡張期最小圧を20心拍測定したところ、これらの物質は血圧及び左室拡張期最小圧を下げ、その弛緩機能を改善する。また、低Mg下でのテオフィリンによる拡張障害を改善する。
投与前及び投与後における心拍数、血圧、左室拡張期最小圧の変化を各々図1a、図1b、図1cに示す。心拍数は投与前に比べ投与後わずかに低下したが有意差を認めなかった。しかし、血圧、左室拡張期最小圧は投与前に比べ、投与後有意に低下した。
【0090】
[試験例2]
本発明の式[7]で表される化合物の正常ラットの心拍数、血圧、左室拡張期最小圧に及ぼす影響について
(1)ウィスター(Wistar)系雄性ラット3匹を用いた。
1週間飼育後、3%イソフルランで吸入麻酔し、気管内挿管後、人工呼吸器を装着した。1.7%イソフルランの吸入麻酔下で、呼吸管理を行った。右総頚動脈から圧測定チップ付カテーテル(2Fミラー社)を左室内に挿入し、また、右大腿静脈から本発明の化合物又は生理食塩水注入用ポリエチレンチューブ(SP10)を挿入した。10分間の血行動態の安定化を図った後に、連続的に1分毎に、心拍数、血圧、左室拡張期最小圧を測定し、本発明の式[7]で表される化合物を0.1mg/kg/分で12分間投与した。対照例では生理食塩水を投与し、各溶液の注入速度は1分間あたり、16.6μlとした。
投与前及び投与後における心拍数、血圧、左室拡張期最小圧を20心拍測定したところ、これらの物質は血圧及び左室拡張期最小圧を下げ、その弛緩機能を改善する。また、低Mg下でのテオフィリンによる拡張障害を改善する。
投与前及び投与後における心拍数、血圧、左室拡張期最小圧の変化を各々図2a、図2b、図2cに示す。心拍数は投与前に比べ投与後わずかに低下したが有意差を認めなかった。しかし、血圧、左室拡張期最小圧は投与前に比べ、投与後有意に低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式[1]
【化21】

{式中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜15のアルケニルオキシ基、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキルスルホニルオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールチオ基、置換基を有してもよいヘテロアリール基、炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数7〜15のアラルキル基で置換されていてもよいアミノ基、ハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、又はアジド基、を表し、
nは、0、1又は2を表し、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、又は置換基を有してもよいヘテロアリール基、を表し、
Yは、−CO−、−CH−、−CH−CH(OH)−、又は−SO−を表し、
mは0、1、2、3を表し、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数2〜15のアルケニル基;炭素数1〜10のアルコキシ基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基;炭素数1〜15のアシル基で置換されていてもよい1個〜4個の窒素原子、酸素原子、若しくは硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基、
−NR1112(式中、R11及びR12はそれぞれ独立して、水素原子;水酸基;1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;又は1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表す。)、
−COOR13(式中、R13は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。)、
−CONR1415(式中、R14及びR15はそれぞれ独立して、水素原子;1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;又は1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表す。)、
又は、次の一般式[2]
【化22】

(式中、kは0、1、2、又は3を表し、lは0、1、又は2を表し、
16は、1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール環基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、及び炭素数7〜40のアラルキル基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表し、
は、−NR17−、又は−C(R18)R19−(式中、R17は、水素原子;1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;又は、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基を表し、
18は、水素原子;ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アジド基、及びニトロ基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基;水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び1個若しくは2個の炭素原子が酸素原子に置換されていてよい炭素数3〜5のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基;又は、1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有するヘテロアリール基を表し、
19は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表す。)
で表される基を表す。}
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関する。
【請求項2】
一般式[1]のYが、−CO−又は−CH−CH(OH)−である請求項1に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項3】
一般式[1]のRが、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、である請求項1又は2に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項4】
一般式[1]のnが1であり、その置換位置が7位である請求項1から3のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項5】
一般式[1]のRが、水素原子、又は炭素数1〜10のアルコキシ基である、請求項1から4のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項6】
一般式[1]のRが、水素原子である、請求項1から5のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項7】
一般式[1]のRが、一般式[2]で表される基である請求項1から6のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項8】
一般式[2]のkが1であり、Aが、−C(R18)R19−(式中、R18及びR19は前記したものと同じである。)である請求項7に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項9】
一般式[2]のR19が、水素原子、又は水酸基である、請求項8に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項10】
一般式[2]のR18が、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基、又は水酸基若しくはアルキレンジオキシ基で置換されていてもよい炭素数7〜40のアラルキル基である請求項8又は9に記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項11】
一般式[1]で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体が、
4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
4−{3−[4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル]−2−ヒドロキシプロピル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
4−[3−{4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル}プロピオニル]−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−2−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−アセチル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
4−[3−(4−フェニルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
4−[3−(ピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;又は、
4−[3−(4−メチルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド;
である請求項1から10のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項12】
2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の薬学的に許容される塩が、シュウ酸塩である請求項1から11のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物。
【請求項14】
医薬組成物が、心疾患又は高血圧症の治療薬又は予防薬である請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
心疾患が、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
心不全が、左室拡張障害又は心筋弛緩障害によるものである請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
高血圧症が、高血圧時における血圧低下作用によるものである請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
医薬組成物が、心拍を変化させずに心筋弛緩機能を改善させるためのものである請求項13から16のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項19】
心筋弛緩機能の改善が、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、心不全、心房細動、心室性不整脈に合併した心筋弛緩障害を改善させるためのものである、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
有効成分の2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩が、その母体化合物である次の一般式[3]
【化23】

(式中、n、m、R、R、R、Y、及びRは前記したものと同じものを表す。)
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩を投与することにより生体内で生成されるものである請求項13から19のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項21】
次の一般式[3]、
【化24】

(式中、n、m、R、R、R、Y、及びRは前記したものと同じものを表す。)
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン誘導体を酸化して、次の一般式[1]
【化25】

(式中、n、m、R、R、R、Y、及びRは、前記したものと同じものを表す。)
で示される2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体又はその薬学的に許容される塩を製造する方法。
【請求項22】
酸化が過酸によるものである請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46430(P2012−46430A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187655(P2010−187655)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(599138320)
【Fターム(参考)】