1,5−D−アンヒドログルシトールの製造法
【課題】1,5−D−アンヒドログルシトールの製造方法を提供すること。
【解決手段】1,5−D−アンヒドロフルクトースにアラビノースデヒドロゲナーゼを作用させて1,5−D−アンヒドログルシトールを製造する方法。
【解決手段】1,5−D−アンヒドロフルクトースにアラビノースデヒドロゲナーゼを作用させて1,5−D−アンヒドログルシトールを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酵素を用いた1,5−D−アンヒドログルシトールの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,5−D−アンヒドログルシトール(以下1,5−AG)は、グルコースの1位の水酸基が還元された構造をもつポリオールであり、多くの動植物により生合成されることから、食品中にも広く分布している物質である。1,5−AGは動物体内で代謝的に安定であり経口摂取された1,5−AGで48時間までに二酸化炭素として呼気中に排出される量は全体の1%以下であり(非特許文献1参照)、低カロリーあるいはノンカロリー甘味料としての利用も期待できる。また産業上では、研究試薬や臨床検査試薬として利用されている。
1,5−AGの調製法としてはβ−D−グルコピラノースペンタアセテートから化学的に合成する方法(非特許文献2参照)が報告されている。その合成法はβ−D−グルコピラノースペンタアセテートをエーテルに溶解後、臭化水素により臭素化し、水素化アルミニウムリチウムにより脱アセチル化することにより行われる。
【0003】
その他の調製法としてプロテア種の葉から1,5−AGをエタノール、ヘキサン等の有機溶媒で抽出後、精製、晶析して調製する方法も報告されている(非特許文献3参照)。これらの化学合成法や植物からの抽出法は、プロセスが多段的で煩雑であり、さらにエーテルやヘキサン等の有機溶媒を用いるため、得られた1,5−AGを食品とするには、それらを分離、処理する必要がある。更には安全性の点からも疑問が残る。
これらの問題点を解決する手段として、製造プロセスが簡略で、かつエーテル等の有機溶媒を用いない製造法が求められる。
1,5−AGは大腸菌(Escherichia.coli)により生合成されること(非特許文献1参照)が報告されている。しかし、大腸菌(Escherichia.coli)では、1,5−AGはその大腸菌の培養時に培地中に分泌されるが、その生成量は培地1リットルあたりに数マイクログラム程度であり工業生産方法としては応用できるものではない。
【0004】
その他パラディウム触媒存在下で1,5−D−アンヒドロフルクトース(以下1,5−AF)に水素を添加する1,5−AGの調製法が報告されているが(非特許文献4参照)、1,5−AGのみならずその他の反応生成物が生じ、1,5−AGの生成量は反応生成物の20%程度であり効率的に合成できない。
1,5−AGの原料となり得る1,5−AFは澱粉などのα−1、4−グルカンをα−1、4−グルカンリアーゼで分解することによって調製できる糖質であり、近年、その生産技術が提案された(特許文献1参照)。1,5−AFを1,5−AGに効率よく変換する方法の開発が望まれているが、近年、1,5−AGの工業的な生産方法として1,5−AFを微生物に接触させて製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では外因性の1,5−AFが微生物によって1,5−AGに変換される。この変換をし得る微生物として酵母が挙げられている。
【0005】
一方で1,5−AFを酵素反応により還元し1,5−AGを製造する方法も考えられる。
1,5−AFを1,5−AGに還元する酵素としては豚の肝臓(非特許文献5参照)やマウス(非特許文献6参照)由来の1,5−アンヒドロフルクトースデヒドロゲナーゼが報告されている。しかしながらこの酵素については大量調製などの検討はなされておらず、工業的に該酵素を使用することは困難である。
また1,5−AFを還元する酵素としては微生物由来の還元酵素が報告されているが、反応生成物は1,5−アンヒドロマンニトールであり、1,5−AG生産には用いることができない(非特許文献7参照)。
D−アラビノースデヒドロゲナーゼは、D−アラビノースに作用してD−アラビノ−1,5−ラクトンに酸化すると共に、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下NADP+)を還元型ニコチンアミドアデニンヌクレオチドリン酸(以下NADPH)に還元する。この酵素については全アミノ酸配列がすでに報告されている(非特許文献8参照)。
【非特許文献1】生化学、第69巻、第12号、pp1361−1372(1997)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.72,4547−4553(1954)
【非特許文献3】Phytochemistry Vol.22,No9,1959−1960 (1983)
【非特許文献4】Carbohydrate Research 337 (2002) 873−890
【非特許文献5】J.Biochem.123,189−193(1998)
【非特許文献6】Biosci.Biotechnol.Biochem,72(3),872−876,2008
【非特許文献7】Applied and Environmental Microbiology,Feb.2006,p.1248−1257
【非特許文献8】Biochemica et Biophysica Acta 1429 (1998) 29-39
【非特許文献9】Biochim.Biophys.Acta1297,1-8(1996)
【非特許文献10】The Journal of Biological Chemistry Vol.240 No.11,November 1965
【非特許文献11】Eur.J.Biochem.127,391-396 (1982)
【特許文献1】特開2005−168454号公報
【特許文献2】特開2008−54531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は1,5−AFを出発物質とし酵素を用いて1,5−AGを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは1,5−AFを1,5−AGに変換する各種微生物の酵素を探索した結果、D−アラビノースデヒドロゲナーゼがNADPHの存在下で1,5−AFを1,5−AGに変換することを見出し本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1,5−AFを原料としてD−アラビノースデヒドロゲナーゼを作用させることにより、酵素法で、簡便に、効率的に1,5−AGを大量に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
D−アラビノースデヒドロゲナーゼはこれまでにカンディダ属(非特許文献9参照)、シュードモナス属(非特許文献10参照)と酵母由来の酵素が報告されており、酵母由来の酵素のアミノ酸配列は図1の配列1に示すとおりである。
ここで示すアミノ酸は一文字略式を使用しており、略式は表1のとおりである。本発明に用いるD−アラビノースデヒドロゲナーゼは配列1とのアミノ酸配列の相同性が60%以上で且つ1,5−AFを1,5−AGに還元する作用を有するものであれば良いが、好ましくは配列1との相同性が70%以上で且つ1,5−AFを1,5−AGに還元する作用を有するもの、より好ましくは配列1と相同性が80%以上で且つ1,5−AFを1,5−AGに還元する作用を有するものが良い。
【0010】
【表1】
【0011】
以下に酵母由来のアラビノースデヒドロゲナーゼについて述べる。
酵母由来のD−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次のような還元反応を行う。
【0012】
・ 作用
D−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次式に示すように1,5−AFを1,5−AGに還元すると共にNADPHをNADP+に酸化する。
1,5−AF + NADPH + H+ → 1,5−AG + NADP+
【0013】
(2)酵素還元活性
本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの還元活性測定方法及び酵素活性値の表示方法は以下の通りである。
0.5Mビス−トリス緩衝液(pH6.5)、250mMの1,5−AF溶液および5mMのNADPH溶液を0.2mlずつ混合し、蒸留水で1.8mlに定容して基質とする。この基質溶液を30℃の湯浴中で5分間保温した後に0.2mlの酵素溶液を添加して反応を開始する。30℃で20分間反応させた後、分光光度計を用いた光路長1cmのセルにて375nmの吸光度を測定する。1分間当たりに減少した吸光度の値(A)から、消費されたNADPH量を下記の換算式に基づいて求めた。酵素の活性は1分間あたりに1μmolのNADPHを消費する酵素量を1ユニットとした(図2)。
【0014】
【数1】
【0015】
(3)基質特異性
D−アラビノースデヒドロゲナーゼの基質特異性を調べるために、基質濃度25mMの単糖類に対するD−アラビノースデヒドロゲナーゼの還元活性を求めた。その結果を、1,5−AFに対する還元作用を100とした相対活性として表2に示す。この結果からも明らかなように本酵素は1,5−AF以外の単糖類には、殆ど還元活性を示さなかった。
【0016】
【表2】
【0017】
また、本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼは補酵素としてNADPHを要求し、NADHには殆ど作用を示さなかった。
(4)Km値
ラインウイバー・バーク(LINEWEAVER・Burk)プロットにより、本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFに対する還元反応のKm値を求めたところ1.17mMであった(図3)。
【0018】
(5)還元作用の至適pHは、6.5〜7.5付近であった(図4)。
【0019】
(6)至適温度は、35〜40度付近であった(図5)。
次に本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次のような酸化反応を触媒する。
【0020】
(1)作用
D−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次式に示すようにD−アラビノースをD−アラビノ−1,5−ラクトンに酸化すると共にNADP+をNADPHに還元する。
【0021】
D−アラビノース+NADP+→D−アラビノ−1,5−ラクトン+NADPH+H+
(2)本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化活性測定方法及び酵素活性値の表示方法は以下の通りである。
0.2mlの0.5Mトリス緩衝液(pH9.0)、0.2mlの1MのD−アラビノース溶液および0.2mlの5mMのNADP+溶液を混合し、蒸留水で1.8mlに定容して基質とする。この基質溶液を30℃の湯浴で5分間保温した後に、0.2mlの酵素液を加えて混合して反応を開始する。30℃で20分間反応させた後、分光光度計を用いた光路長1cmのセルにて340nmの吸光度を測定する。1分間当たりに増加した吸光度の値(A)から、生成するNADPH量を下記の換算式に基づいて求めた。酵素の活性は、1分間あたりに1μmolのNADPHが生成する酵素量を1ユニットとした(図6)。
【0022】
【数2】
【0023】
(3)基質特異性
D−アラビノースデヒドロゲナーゼの基質特異性を調べるために、基質濃度100mMにおける各単糖類に対するD−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化作用を求めた。最も活性の高かったL−キシロースに対する酸化作用を100とした相対活性で表すと表3になる。D−アラビノース以外にもL−キシロース、L−ガラクトースおよびL−フコースに高い活性を示めす。
また、該酵素のKm値が先の報告で求められているが、(非特許文献8参照)D−アラビノース:161mM、L−キシロース:24mM、L−フコース:98mM、L−ガラクトース:180mMと同様な結果である。
【0024】
【表3】
【0025】
(4)還元作用の至適pHは8.0〜9.0付近にある(図7)。
【0026】
(5)1,5−AGから1,5−AFへの酸化反応
表3に示すように該酵素は1,5−AGから1,5−AFへの酸化反応を触媒しない。
【0027】
これまで報告されている1,5−アンヒドロフルクトースレダクターゼによる(非特許文献5参照)1,5−AFから1,5−AGへの変換は、水素供与体であるNADPHから水素が受け渡され、NADP+となる。1,5−AG製造量は、NADPHの供給量に依存することから、1,5−AGと等モル量以上のNADPHを必要とした。NADPHは非常に高価であるため、1,5−AG生産においてはこのNADPHの供給が問題となる。
この問題点を解消するひとつの手段として反応系内に蓄積したNADP+をNADPHへ再生することが考えられる。NADPHの再生方法としては、NADP+要求性の他の酸化酵素を共役させた反応系で行うのが一般的である。
【0028】
しかし、本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼは1,5−AFの還元と上記したL−キシロースなどの還元糖の酸化の二つの反応を同時に触媒する。したがって該酵素を用いて、酸化還元の両反応を組み合わせることで図8に示す反応を行うことができる。
また、D−アラビノースを用いた場合、D−アラビノ−1,5−ラクトンは、酸化酵素(D−アラビノラクトンオキシダーゼ)の作用により、エリスロアスコルビン酸に(非特許文献8参照)、L−ガラクトースを用いた場合には、酸化酵素(L−ガラクトノラクトンオキシダーゼ)の作用でアスコルビン酸に(非特許文献11参照)変換することができる。
従って、D−アラビノースデヒドロゲナーゼのみを用いた共役反応系を用いて1,5−AGの製造量を上げつつ、更にアスコルビン酸などの有用物質の製造を行うこともできる。
【0029】
次に本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの製造法について説明する。
サッカロマイセス・セレビジエ(酵母) 培養のための1,5−AFを含む培養液は、通常の炭素源、窒素源、無機イオン、更に必要に応じて有機栄養源を含む培地を用いることができる。炭素源としては、グルコース等の炭水化物、グリセロール等のアルコール類、有機酸、その他が適宜使用される。有機栄養源としては、ビタミン、アミノ酸等を含有する酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、カゼイン分解物などが適宜使用される。無機イオンの供給には、マグネシウム塩、リン酸塩、カルシウム塩などが適宜使用される。その培地に、別にフィルター滅菌した1,5−AF水溶液を添加して培養液とした。
培養条件は特別な制限もないが、例えば好気条件下でpH3〜7及び温度20〜40℃の範囲で行い、適当なpHと温度を保ちながら2〜7日程度培養を行う。
【0030】
D−アラビノースデヒドロゲナーゼの分離精製は、次のようにして行うことができる。本酵素は菌体内に存在するので、培養液を遠心分離、あるいはろ過などの方法で菌体だけを回収することが好ましい。該酵素を菌体から抽出する方法としては、ザイモリエイス等の酵素による細胞壁破砕、界面活性剤を用いた菌体膜の化学的溶解、ガラスビーズや超音波を用いた物理的破砕などの方法があげられる。これらの中から適当な方法を選択、あるいは適宜組み合わせて菌体から酵素を抽出できる。
これらの方法で抽出された粗酵素液からD−アラビノースデヒドロゲナーゼを更に精製する必要がある場合には、通常実施されている一般的な酵素の精製手段である硫酸アンモニウム沈殿法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過法、疎水結合クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせるか、あるいは繰り返すことによって精製を行うことができる。
【0031】
本発明で用いた酵素源となる微生物の代わりに、例えば紫外線照射、N−メチル−N−ニトロソグアニジン(NTG)処理、エチルメタンスルホネート(EMS)処理、亜硝酸処理、アクリジン処理等により創生した変異株、細胞融合もしくは遺伝子組み換え法などの遺伝学的手法により誘導される遺伝子組み換え株など、または他の細菌を形質転換したもので1,5−AFを1,5−AGに変換し得るD−アラビノースデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物を利用することができる。また、遺伝子操作技術により配列1に示すアラビノースデヒドロゲナーゼのアミノ酸の10%までを置換、欠損、付加した酵素も利用できる。さらにこれらの酵素を他のホスト生物、例えばカビ、酵母、大腸菌などで酵素を産生させた酵素も含む。
【0032】
D−アラビノースデヒドロゲナーゼを用いた1,5−AGの製法について説明する。
試料中の1,5−AFは、NADPH存在下、D−アラビノースデヒドロゲナーゼの作用により、1,5−AGとNADP+が生成する。酵素添加量は、1,5−AF濃度にもよるが、好ましくは1mlあたり0.01〜0.5ユニットで反応を行う。反応のpHは、好ましくは4.0〜10.0、より好ましくは5.0〜9.0、さらに好ましくは6.0〜8.0である。反応温度は、好ましくは20〜50℃、より好ましくは25〜45℃、さらに好ましくは30〜40℃である。1,5−AG生成量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)あるいは高性能陰イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリ検出器(HPAE−PAD)で測定することができる。HPLC測定及びHPAE−PAD測定の詳細条件は以下に示す。
【0033】
HPLC測定:分離カラム:ShodexSP810−MCIGELCK08S連結 (昭和電工(株)製、三菱化学(株)製)、移動相:蒸留水、流速:1.0mL/分、カラム温度:40℃、検出器:示差屈折率検出器、サンプル供与量:20μLの条件で測定を実施した。
HPAE−PAD測定:分離カラム:Carbopack MA1 (Dionex社製)、移動相:0.5M NaOH、流速:0.4ml/分、カラム温度:35℃、検出器:パルスドアンペロメトリ検出器(Dionex社製)、サンプル供与量:25μLの条件で測定した。
生成した1,5−AGを含む反応溶液を通常実施される手段で反応液より分離、精製する。具体的には、活性炭で脱色、イオン交換樹脂で脱塩し、シロップ状とする。次いでイオン交換や吸着、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分離などの操作を適宜組み合わせて1,5−AGを分離し、濃縮後、結晶化することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以後の説明中に用いる%は、特に断りがない限り容量(w/v)%である。
【0035】
実施例1
<酵母培養・菌体破砕>
グルコース2.0%、ポリペプトン1.0%、酵母エキス2.0%、pH6.0の培地を坂口フラスコに100mLずつ分注し、120℃、20分間加熱滅菌した。
上記培地に、斜面培地(グルコース2.0%、ポリペプトン1.0%、酵母エキス2.0%、寒天粉末1.5%、pH6.0)で培養したサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210を1白金耳採取し、30℃、3日間振とう培養した。これを種培養液とした。上記と同じ組成を有する液体培地5Lを容量10Lのミニジャーファーメンターに入れ、孔径0.45μMのフィルターを通し除菌した1,5−AF水溶液を最終濃度1.0%となるように添加した。その1,5−AFを含む培地に、前記種培養液50mLを加え、攪拌速度250rpm、通気量4L/分、30℃で48時間培養した。
培養液を遠心分離(4,000×g、10分)して菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水に懸濁して再度遠心分離後(4,000×g、10分)洗浄し、湿重量100gの菌体を得た。
【0036】
20mMビストリス緩衝液(pH7.0)1Lに先に得た菌体を懸濁し、最終濃度10mMになるようにジチオスレイトールを加えて30℃、20分間、振とう器(150rpm)で振とうし還元処理した。その後、遠心分離(4,000×g、10分)で集菌した。20mMビストリス緩衝液(pH7.0)250mlに懸濁してY−PER−Plus(登録商標)試薬250ml、最終濃度10mMになるようにフェニルメチルスルフォニルオライド(PMSF)を加えた。30℃、20分間、振とう器(150rpm)で振とうして菌体から酵素を抽出した。遠心分離(24,000×g、15分)で分離した上澄み液を20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で一晩透析しY−PER−Plus(登録商標)試薬を除去した。この溶液を粗抽出液とした。この際、1,5−AF還元酵素の総活性は294.0ユニットであり、比活性は0.08ユニット/mg−タンパクであった。
【0037】
<硫安分画>
粗抽出液に、硫酸アンモニウムを30%となるように添加して、4℃、1時間冷却し、遠心分離(24,000×g、15分)で分離した上澄み液を回収した。次にその上澄み液に硫酸アンモニウムを80%となるように添加し4℃、1時間冷却し、遠心分離(24,000×g、15分)して沈殿物を回収した。その沈殿画分を20mMビストリス緩衝液(pH7.0)100mlに懸濁して透析膜に入れ、20mMビストリス緩衝液(pH7.0)中で透析し硫酸アンモニウムを除去した。遠心分離(24,000×g、15分)し、上澄み液を回収した。その時の1,5−AF還元酵素の総活性は224.0ユニットであり、比活性は0.13ユニット/mg−タンパクであった。
【0038】
<弱塩基性陰イオン交換−クロマトグラフィー>
この上澄み液をあらかじめ20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したトヨパールDEAE−650M(TOSOH社製)を充填したカラム(φ2.2×30cm)に通した。同緩衝液で非吸着タンパク質を洗浄後、0.5M 塩化ナトリウムを含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ、1,5−AF還元活性画分を回収した。活性画分の総活性は79.9ユニットであり、比活性は0.8ユニット/mg−タンパクであった。
【0039】
<アフィニティークロマトグラフィー>
この活性画分を一晩20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で透析し塩化ナトリウムを除去し、あらかじめ20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したトヨパール−AF−red−650M(TOSOH社製)を充填したカラム(φ3.0×10cm)に通した。同緩衝液で非吸着タンパク質を洗浄後1.5M 塩化ナトリウムを含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ活性画分を回収した。活性画分の総活性は69.7ユニットであり、比活性は16.3ユニット/mg−タンパクであった。
【0040】
<疎水性クロマトグラフィー>
この活性画分に硫酸アンモニウムを30%となるように添加したサンプルをあらかじめ硫酸アンモニウム30%を含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したTsk−GEL PHENYL−5PW (TOSOH社製 7.5mm I.D.×7.5cm)に通した。硫酸アンモニウム30%を含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で非吸着タンパク質を洗浄後、硫酸アンモニウム濃度が30%から0%となるように直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ活性画分を回収した。活性画分の総活性は7.8ユニットであり、比活性は17.7ユニット/mg−タンパクであった。
【0041】
<強塩基性陰イオン交換クロマトグラフィー>
この活性画分を限外ろ過膜で脱塩・濃縮後、20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したMono−Q(4.6mm×10cm)に通した。硫酸アンモニウム30%を含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で非吸着タンパク質を溶出後、硫酸アンモニウム濃度が30%から0%となるように直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ活性画分を回収し精製酵素を得た。精製酵素の総活性は3.8ユニットであり、比活性は24.4ユニット/mg−タンパクであった。
【0042】
<物性評価、ゲルろ過クロマトグラフィー>
精製酵素を、0.3Mの塩化ナトリウムを含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したTsk−gel G2000SW(7.5mmI.D.×30cm)に供試したところ、単一ピークとして検出され高純度に精製されたことがわかった。標準蛋白質として分子量13,700:リボヌクレアーゼA、分子量25,000:キモトリプシノーゲンA、分子量43,000:オブアルブミン、分子量68,000:アルブミン、分子量158,000:アルドラーゼを用い、それらの移動度から本酵素の分子量を推測した結果、およそ75,000〜80,000程度であった(図9)。
【0043】
<物性評価、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動>
精製酵素の分子量をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって調べた結果、分子量38,000と分子量37,000の2つのバンドが確認された。このことから、この酵素が2量体であることがわかった(図10)。
【0044】
<内部部分アミノ酸配列解析、逆相クロマトグラフィー>
精製酵素を、0.1%トリフルオロ酢酸溶媒で平衡化したYMC−Pack PROTEIN−RP(YMC社 2.0mmI.D.×15cm)に供試し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル溶媒の直線濃度勾配で溶出させ2量体を分離し、分子量38,000のサブユニット画分を得た。回収した画分を減圧乾燥器でアセトニトリル溶媒を除きアミノ酸配列決定用の試料とした。
【0045】
1.TCA沈殿
先の分取サンプル(タンパク量50ug相当)にトリクロロ酢酸を最終濃度10%となるように添加し、4℃で10分間冷却した。遠心分離(18,000×g、15分)して沈殿を回収した。それにアセトンを加えて超音波洗浄器上で沈殿物を分散させ、トリクロロ酢酸を除去した。それを遠心分離(18,000×g、15分)し上澄みを除き沈殿を減圧乾燥器で乾燥させた。
【0046】
2.還元アルキル化
TCAで濃縮した試料を、6M塩酸グアニジンを含むトリス塩酸緩衝液(pH9.0)で溶解し、タンパク質のジスルフィド結合を切断するため、還元剤であるジチオスレイトールを添加し、窒素置換を行い30分間常温で保持した。システイン残基の再結合を抑えるため、ヨードアセトアミドを添加し、暗所で1時間保持して還元化された試料を得た。
【0047】
3.メタノール・クロロホルムによる試料の濃縮及び脱塩
還元した試料をメタノール:クロロホルム:蒸留水=4:1:3混合液で攪拌して10,000×gで3分間遠心分離した。水相と有機溶媒相の間にタンパク質が得られ、水相を吸引器で除去した。その後、メタノールを添加して、18,000×gで15分間遠心分離して上澄みを除き、沈殿を回収した。減圧乾燥を行い、プロテアーゼ消化用試料とした。
【0048】
4.リジルエンドペプチダーゼ消化
先の脱塩・濃縮サンプルを6M尿素でよく溶解させ、0.1Mのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を加えて攪拌した。サンプルタンパク重量の1/50(W/W)となるようにリジルエンドペプチダーゼを添加した。37℃で16時間反応させ、ギ酸を添加し酵素反応を止めた。
【0049】
5.逆相HPLCによるペプチドマッピング
先のリジルエンドペプチダーゼで消化した試料を、0.1%トリフルオロ酢酸溶媒で平衡化したHydrosphereC18カラム(YMC社 2.0mmI.D.×15cm)に供試し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル溶媒の直線濃度勾配で吸ペプチド断片を溶出した。紫外部吸収検出器の波長215nmで検出した結果、およそ20個のペプチド断片を得た。
【0050】
6.アミノ酸配列解析
先に得たペプチド断片を、自動アミノ酸配列決定装置(Applied Biosystem社製 Procise 49X−HT Protein−Sequencer )で解析し5つの断片のアミノ酸配列情報を得た(図11)。
この部分アミノ酸配列情報をもとに、FASTAによるデータベース比較を行った結果、このペプチド断片は、D−アラビノースデヒドロゲナーゼの内部アミノ酸配列と完全に一致した。先のゲルろ過による分子量とSDS−ポリアクリルアミド電気泳動、部分アミノ酸配列情報から、1,5−AFを1,5−AGへ変換する酵素が、D−アラビノースデヒドロゲナーゼであると同定した(図11)。また、このアラビノースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列をこれまで報告されている2種の1,5−AFに作用する還元酵素のそれと比較した。その結果、豚肝臓由来の1,5−AF還元酵素(非特許文献5)との相同性は30.8%、微生物由来の1,5−AF還元酵素(非特許文献7)との相同性は10.8%であった。
【0051】
至適pH(還元活性)
0.5Mの各種緩衝液(pH4.0〜5.5:酢酸緩衝液、pH5.5〜7.5:ビス−トリス緩衝液、pH7.5〜9.0:トリス緩衝液、pH9.0〜pH10.0:グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液)を0.2ml、250mMの1,5−AF溶液を0.2ml、5mMのNADPH溶液を0.2ml、蒸留水で1.8mlとする。30℃で5分間保った後に、適当に希釈した酵素液を0.2ml加えて混合して反応を開始する。30℃で20分間保温後、375nmの波長を測定する。吸光度の減少量から、還元酵素活性を求めた。最高の酵素活性を100(%)とした。
【0052】
至適pH(酸化活性)
0.5Mの各種緩衝液(pH4.0〜5.5:酢酸緩衝液、pH5.5〜7.5:ビス−トリス緩衝液、pH7.5〜9.0:トリス緩衝液、pH9.0〜pH10.0:グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液)を0.2ml、1MのD−アラビノース溶液を0.2ml、5mMのNADP+溶液を0.2ml、蒸留水で1.8mlとする。30℃で5分間保った後に、適当に希釈した酵素液を0.2ml加えて混合して反応を開始する。30℃で20分間保温後、340nmの波長を測定する。吸光度の増加量から、酸化酵素活性を求めた。最高の酵素活性を100(%)とした相対活性を算出した。
【0053】
至適温度
0.5Mビス−トリス緩衝液(pH6.5)を0.2ml、250mMの1,5−AF溶液を0.2ml、5mMのNADPH溶液を0.2ml、蒸留水で1,800mlとする。20、25、30、35、40、45、50、55℃で5分間保った後に、適当に希釈した酵素液を0.2ml加えて混合して反応を開始する。20、25、30、35、40、45、50、55℃で20分間保温後、375nmの波長を測定する。吸光度の減少量から、還元酵素活性を求めた。最高の酵素活性を100(%)とした。
【0054】
実施例2
1,5−AFから1,5−AGへの変換を以下の条件で行った。
最終濃度50mMのビス−トリス緩衝液(pH6.5)、100mMの1,5−AF、200mMのNADPH、1mlあたり0.1ユニットのD−アラビノースデヒドロゲナーゼとなるように各試料を混合し30℃で保温した。0から24時間までの8時間毎の経時変化のHPLC測定結果クロマトグラムを示す。1,5−AFから1,5−AGへ変換され、1,5−AG以外の反応生成物を含まない反応溶液を得た(図12)。
【0055】
実施例3
最終濃度50mMのビス−トリス緩衝液(pH7.0)、100mMの1,5−AF、200mMのNADPH、1mlあたり0.2ユニットのD−アラビノースデヒドロゲナーゼとなるように各試料を混合し30℃で保温した。0から24時間までの8時間毎の経時変化のHPLC測定結果クロマトグラムを示す。1,5−AFから1,5−AGへ変換され、1,5−AG以外の反応生成物並びに1,5−AFも含まない反応溶液を得た。また、24時間反応での1,5−AG含量は、9.7(g/L)であった(図13)。
【0056】
実施例4
最終濃度50mMのビス−トリス緩衝液(pH7.5)、25mMの1,5−AF、2.0mMのNADPH、1mlあたり0.01ユニットのD−アラビノースデヒドロゲナーゼとなるように各試料を混合したものをコントロールとした。次に上記溶液に、最終濃度100mMとなるように、D−アラビノース、L−キシロース、L−フコースまたはL−ガラクトースを添加して24時間毎の1,5−AG生成量をHPAE−PADにて測定した。その経時変化のグラフを示す。D−アラビノース、L−キシロース、L−フコース、L−ガラクトースの添加群すべてにおいて、1,5−AG生成量が1.5〜2.5倍以上増加した(図14)。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】D−アラビノースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列(配列1)
【図2】酵素活性計算式(還元反応)
【図3】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFへの還元反応酵素反応速度論からの解析:ラインウェーバーバーグプロット
【図4】還元反応の至適pH
【図5】至適温度
【図6】酵素活性計算式(酸化反応)
【図7】酸化反応の至適pH
【図8】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化還元反応を用いたカップリング反応
【図9】ゲル濾過クロマトグラフィーによる推定分子量
【図10】SDS−ポリアクリルアミド電気泳動
【図11】D−アラビノースデヒドロゲナーゼのペプチド断片の部分アミノ酸配列
【図12】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFへの還元反応による1,5−AGの生成 高速液体クロマトグラフィーを用いた経時変化のクロマトグラム酵素反応条件 : pH6.5、0.1U / ml
【図13】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFへの還元反応による1,5−AGの生成 高速液体クロマトグラフィーを用いた経時変化のクロマトグラム酵素反応条件 : pH7.0、0.2U/ml
【図14】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化還元反応を用いたカップリング反応による1,5−AGの生成比較 高性能陰イオン交換クロマトグラフィーとパルスアンペロメトリ検出器による測定
【技術分野】
【0001】
本発明は酵素を用いた1,5−D−アンヒドログルシトールの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,5−D−アンヒドログルシトール(以下1,5−AG)は、グルコースの1位の水酸基が還元された構造をもつポリオールであり、多くの動植物により生合成されることから、食品中にも広く分布している物質である。1,5−AGは動物体内で代謝的に安定であり経口摂取された1,5−AGで48時間までに二酸化炭素として呼気中に排出される量は全体の1%以下であり(非特許文献1参照)、低カロリーあるいはノンカロリー甘味料としての利用も期待できる。また産業上では、研究試薬や臨床検査試薬として利用されている。
1,5−AGの調製法としてはβ−D−グルコピラノースペンタアセテートから化学的に合成する方法(非特許文献2参照)が報告されている。その合成法はβ−D−グルコピラノースペンタアセテートをエーテルに溶解後、臭化水素により臭素化し、水素化アルミニウムリチウムにより脱アセチル化することにより行われる。
【0003】
その他の調製法としてプロテア種の葉から1,5−AGをエタノール、ヘキサン等の有機溶媒で抽出後、精製、晶析して調製する方法も報告されている(非特許文献3参照)。これらの化学合成法や植物からの抽出法は、プロセスが多段的で煩雑であり、さらにエーテルやヘキサン等の有機溶媒を用いるため、得られた1,5−AGを食品とするには、それらを分離、処理する必要がある。更には安全性の点からも疑問が残る。
これらの問題点を解決する手段として、製造プロセスが簡略で、かつエーテル等の有機溶媒を用いない製造法が求められる。
1,5−AGは大腸菌(Escherichia.coli)により生合成されること(非特許文献1参照)が報告されている。しかし、大腸菌(Escherichia.coli)では、1,5−AGはその大腸菌の培養時に培地中に分泌されるが、その生成量は培地1リットルあたりに数マイクログラム程度であり工業生産方法としては応用できるものではない。
【0004】
その他パラディウム触媒存在下で1,5−D−アンヒドロフルクトース(以下1,5−AF)に水素を添加する1,5−AGの調製法が報告されているが(非特許文献4参照)、1,5−AGのみならずその他の反応生成物が生じ、1,5−AGの生成量は反応生成物の20%程度であり効率的に合成できない。
1,5−AGの原料となり得る1,5−AFは澱粉などのα−1、4−グルカンをα−1、4−グルカンリアーゼで分解することによって調製できる糖質であり、近年、その生産技術が提案された(特許文献1参照)。1,5−AFを1,5−AGに効率よく変換する方法の開発が望まれているが、近年、1,5−AGの工業的な生産方法として1,5−AFを微生物に接触させて製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では外因性の1,5−AFが微生物によって1,5−AGに変換される。この変換をし得る微生物として酵母が挙げられている。
【0005】
一方で1,5−AFを酵素反応により還元し1,5−AGを製造する方法も考えられる。
1,5−AFを1,5−AGに還元する酵素としては豚の肝臓(非特許文献5参照)やマウス(非特許文献6参照)由来の1,5−アンヒドロフルクトースデヒドロゲナーゼが報告されている。しかしながらこの酵素については大量調製などの検討はなされておらず、工業的に該酵素を使用することは困難である。
また1,5−AFを還元する酵素としては微生物由来の還元酵素が報告されているが、反応生成物は1,5−アンヒドロマンニトールであり、1,5−AG生産には用いることができない(非特許文献7参照)。
D−アラビノースデヒドロゲナーゼは、D−アラビノースに作用してD−アラビノ−1,5−ラクトンに酸化すると共に、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下NADP+)を還元型ニコチンアミドアデニンヌクレオチドリン酸(以下NADPH)に還元する。この酵素については全アミノ酸配列がすでに報告されている(非特許文献8参照)。
【非特許文献1】生化学、第69巻、第12号、pp1361−1372(1997)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.72,4547−4553(1954)
【非特許文献3】Phytochemistry Vol.22,No9,1959−1960 (1983)
【非特許文献4】Carbohydrate Research 337 (2002) 873−890
【非特許文献5】J.Biochem.123,189−193(1998)
【非特許文献6】Biosci.Biotechnol.Biochem,72(3),872−876,2008
【非特許文献7】Applied and Environmental Microbiology,Feb.2006,p.1248−1257
【非特許文献8】Biochemica et Biophysica Acta 1429 (1998) 29-39
【非特許文献9】Biochim.Biophys.Acta1297,1-8(1996)
【非特許文献10】The Journal of Biological Chemistry Vol.240 No.11,November 1965
【非特許文献11】Eur.J.Biochem.127,391-396 (1982)
【特許文献1】特開2005−168454号公報
【特許文献2】特開2008−54531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は1,5−AFを出発物質とし酵素を用いて1,5−AGを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは1,5−AFを1,5−AGに変換する各種微生物の酵素を探索した結果、D−アラビノースデヒドロゲナーゼがNADPHの存在下で1,5−AFを1,5−AGに変換することを見出し本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1,5−AFを原料としてD−アラビノースデヒドロゲナーゼを作用させることにより、酵素法で、簡便に、効率的に1,5−AGを大量に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
D−アラビノースデヒドロゲナーゼはこれまでにカンディダ属(非特許文献9参照)、シュードモナス属(非特許文献10参照)と酵母由来の酵素が報告されており、酵母由来の酵素のアミノ酸配列は図1の配列1に示すとおりである。
ここで示すアミノ酸は一文字略式を使用しており、略式は表1のとおりである。本発明に用いるD−アラビノースデヒドロゲナーゼは配列1とのアミノ酸配列の相同性が60%以上で且つ1,5−AFを1,5−AGに還元する作用を有するものであれば良いが、好ましくは配列1との相同性が70%以上で且つ1,5−AFを1,5−AGに還元する作用を有するもの、より好ましくは配列1と相同性が80%以上で且つ1,5−AFを1,5−AGに還元する作用を有するものが良い。
【0010】
【表1】
【0011】
以下に酵母由来のアラビノースデヒドロゲナーゼについて述べる。
酵母由来のD−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次のような還元反応を行う。
【0012】
・ 作用
D−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次式に示すように1,5−AFを1,5−AGに還元すると共にNADPHをNADP+に酸化する。
1,5−AF + NADPH + H+ → 1,5−AG + NADP+
【0013】
(2)酵素還元活性
本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの還元活性測定方法及び酵素活性値の表示方法は以下の通りである。
0.5Mビス−トリス緩衝液(pH6.5)、250mMの1,5−AF溶液および5mMのNADPH溶液を0.2mlずつ混合し、蒸留水で1.8mlに定容して基質とする。この基質溶液を30℃の湯浴中で5分間保温した後に0.2mlの酵素溶液を添加して反応を開始する。30℃で20分間反応させた後、分光光度計を用いた光路長1cmのセルにて375nmの吸光度を測定する。1分間当たりに減少した吸光度の値(A)から、消費されたNADPH量を下記の換算式に基づいて求めた。酵素の活性は1分間あたりに1μmolのNADPHを消費する酵素量を1ユニットとした(図2)。
【0014】
【数1】
【0015】
(3)基質特異性
D−アラビノースデヒドロゲナーゼの基質特異性を調べるために、基質濃度25mMの単糖類に対するD−アラビノースデヒドロゲナーゼの還元活性を求めた。その結果を、1,5−AFに対する還元作用を100とした相対活性として表2に示す。この結果からも明らかなように本酵素は1,5−AF以外の単糖類には、殆ど還元活性を示さなかった。
【0016】
【表2】
【0017】
また、本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼは補酵素としてNADPHを要求し、NADHには殆ど作用を示さなかった。
(4)Km値
ラインウイバー・バーク(LINEWEAVER・Burk)プロットにより、本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFに対する還元反応のKm値を求めたところ1.17mMであった(図3)。
【0018】
(5)還元作用の至適pHは、6.5〜7.5付近であった(図4)。
【0019】
(6)至適温度は、35〜40度付近であった(図5)。
次に本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次のような酸化反応を触媒する。
【0020】
(1)作用
D−アラビノースデヒドロゲナーゼは、次式に示すようにD−アラビノースをD−アラビノ−1,5−ラクトンに酸化すると共にNADP+をNADPHに還元する。
【0021】
D−アラビノース+NADP+→D−アラビノ−1,5−ラクトン+NADPH+H+
(2)本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化活性測定方法及び酵素活性値の表示方法は以下の通りである。
0.2mlの0.5Mトリス緩衝液(pH9.0)、0.2mlの1MのD−アラビノース溶液および0.2mlの5mMのNADP+溶液を混合し、蒸留水で1.8mlに定容して基質とする。この基質溶液を30℃の湯浴で5分間保温した後に、0.2mlの酵素液を加えて混合して反応を開始する。30℃で20分間反応させた後、分光光度計を用いた光路長1cmのセルにて340nmの吸光度を測定する。1分間当たりに増加した吸光度の値(A)から、生成するNADPH量を下記の換算式に基づいて求めた。酵素の活性は、1分間あたりに1μmolのNADPHが生成する酵素量を1ユニットとした(図6)。
【0022】
【数2】
【0023】
(3)基質特異性
D−アラビノースデヒドロゲナーゼの基質特異性を調べるために、基質濃度100mMにおける各単糖類に対するD−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化作用を求めた。最も活性の高かったL−キシロースに対する酸化作用を100とした相対活性で表すと表3になる。D−アラビノース以外にもL−キシロース、L−ガラクトースおよびL−フコースに高い活性を示めす。
また、該酵素のKm値が先の報告で求められているが、(非特許文献8参照)D−アラビノース:161mM、L−キシロース:24mM、L−フコース:98mM、L−ガラクトース:180mMと同様な結果である。
【0024】
【表3】
【0025】
(4)還元作用の至適pHは8.0〜9.0付近にある(図7)。
【0026】
(5)1,5−AGから1,5−AFへの酸化反応
表3に示すように該酵素は1,5−AGから1,5−AFへの酸化反応を触媒しない。
【0027】
これまで報告されている1,5−アンヒドロフルクトースレダクターゼによる(非特許文献5参照)1,5−AFから1,5−AGへの変換は、水素供与体であるNADPHから水素が受け渡され、NADP+となる。1,5−AG製造量は、NADPHの供給量に依存することから、1,5−AGと等モル量以上のNADPHを必要とした。NADPHは非常に高価であるため、1,5−AG生産においてはこのNADPHの供給が問題となる。
この問題点を解消するひとつの手段として反応系内に蓄積したNADP+をNADPHへ再生することが考えられる。NADPHの再生方法としては、NADP+要求性の他の酸化酵素を共役させた反応系で行うのが一般的である。
【0028】
しかし、本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼは1,5−AFの還元と上記したL−キシロースなどの還元糖の酸化の二つの反応を同時に触媒する。したがって該酵素を用いて、酸化還元の両反応を組み合わせることで図8に示す反応を行うことができる。
また、D−アラビノースを用いた場合、D−アラビノ−1,5−ラクトンは、酸化酵素(D−アラビノラクトンオキシダーゼ)の作用により、エリスロアスコルビン酸に(非特許文献8参照)、L−ガラクトースを用いた場合には、酸化酵素(L−ガラクトノラクトンオキシダーゼ)の作用でアスコルビン酸に(非特許文献11参照)変換することができる。
従って、D−アラビノースデヒドロゲナーゼのみを用いた共役反応系を用いて1,5−AGの製造量を上げつつ、更にアスコルビン酸などの有用物質の製造を行うこともできる。
【0029】
次に本発明で用いたD−アラビノースデヒドロゲナーゼの製造法について説明する。
サッカロマイセス・セレビジエ(酵母) 培養のための1,5−AFを含む培養液は、通常の炭素源、窒素源、無機イオン、更に必要に応じて有機栄養源を含む培地を用いることができる。炭素源としては、グルコース等の炭水化物、グリセロール等のアルコール類、有機酸、その他が適宜使用される。有機栄養源としては、ビタミン、アミノ酸等を含有する酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、カゼイン分解物などが適宜使用される。無機イオンの供給には、マグネシウム塩、リン酸塩、カルシウム塩などが適宜使用される。その培地に、別にフィルター滅菌した1,5−AF水溶液を添加して培養液とした。
培養条件は特別な制限もないが、例えば好気条件下でpH3〜7及び温度20〜40℃の範囲で行い、適当なpHと温度を保ちながら2〜7日程度培養を行う。
【0030】
D−アラビノースデヒドロゲナーゼの分離精製は、次のようにして行うことができる。本酵素は菌体内に存在するので、培養液を遠心分離、あるいはろ過などの方法で菌体だけを回収することが好ましい。該酵素を菌体から抽出する方法としては、ザイモリエイス等の酵素による細胞壁破砕、界面活性剤を用いた菌体膜の化学的溶解、ガラスビーズや超音波を用いた物理的破砕などの方法があげられる。これらの中から適当な方法を選択、あるいは適宜組み合わせて菌体から酵素を抽出できる。
これらの方法で抽出された粗酵素液からD−アラビノースデヒドロゲナーゼを更に精製する必要がある場合には、通常実施されている一般的な酵素の精製手段である硫酸アンモニウム沈殿法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過法、疎水結合クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせるか、あるいは繰り返すことによって精製を行うことができる。
【0031】
本発明で用いた酵素源となる微生物の代わりに、例えば紫外線照射、N−メチル−N−ニトロソグアニジン(NTG)処理、エチルメタンスルホネート(EMS)処理、亜硝酸処理、アクリジン処理等により創生した変異株、細胞融合もしくは遺伝子組み換え法などの遺伝学的手法により誘導される遺伝子組み換え株など、または他の細菌を形質転換したもので1,5−AFを1,5−AGに変換し得るD−アラビノースデヒドロゲナーゼ活性を有する微生物を利用することができる。また、遺伝子操作技術により配列1に示すアラビノースデヒドロゲナーゼのアミノ酸の10%までを置換、欠損、付加した酵素も利用できる。さらにこれらの酵素を他のホスト生物、例えばカビ、酵母、大腸菌などで酵素を産生させた酵素も含む。
【0032】
D−アラビノースデヒドロゲナーゼを用いた1,5−AGの製法について説明する。
試料中の1,5−AFは、NADPH存在下、D−アラビノースデヒドロゲナーゼの作用により、1,5−AGとNADP+が生成する。酵素添加量は、1,5−AF濃度にもよるが、好ましくは1mlあたり0.01〜0.5ユニットで反応を行う。反応のpHは、好ましくは4.0〜10.0、より好ましくは5.0〜9.0、さらに好ましくは6.0〜8.0である。反応温度は、好ましくは20〜50℃、より好ましくは25〜45℃、さらに好ましくは30〜40℃である。1,5−AG生成量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)あるいは高性能陰イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリ検出器(HPAE−PAD)で測定することができる。HPLC測定及びHPAE−PAD測定の詳細条件は以下に示す。
【0033】
HPLC測定:分離カラム:ShodexSP810−MCIGELCK08S連結 (昭和電工(株)製、三菱化学(株)製)、移動相:蒸留水、流速:1.0mL/分、カラム温度:40℃、検出器:示差屈折率検出器、サンプル供与量:20μLの条件で測定を実施した。
HPAE−PAD測定:分離カラム:Carbopack MA1 (Dionex社製)、移動相:0.5M NaOH、流速:0.4ml/分、カラム温度:35℃、検出器:パルスドアンペロメトリ検出器(Dionex社製)、サンプル供与量:25μLの条件で測定した。
生成した1,5−AGを含む反応溶液を通常実施される手段で反応液より分離、精製する。具体的には、活性炭で脱色、イオン交換樹脂で脱塩し、シロップ状とする。次いでイオン交換や吸着、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分離などの操作を適宜組み合わせて1,5−AGを分離し、濃縮後、結晶化することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以後の説明中に用いる%は、特に断りがない限り容量(w/v)%である。
【0035】
実施例1
<酵母培養・菌体破砕>
グルコース2.0%、ポリペプトン1.0%、酵母エキス2.0%、pH6.0の培地を坂口フラスコに100mLずつ分注し、120℃、20分間加熱滅菌した。
上記培地に、斜面培地(グルコース2.0%、ポリペプトン1.0%、酵母エキス2.0%、寒天粉末1.5%、pH6.0)で培養したサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210を1白金耳採取し、30℃、3日間振とう培養した。これを種培養液とした。上記と同じ組成を有する液体培地5Lを容量10Lのミニジャーファーメンターに入れ、孔径0.45μMのフィルターを通し除菌した1,5−AF水溶液を最終濃度1.0%となるように添加した。その1,5−AFを含む培地に、前記種培養液50mLを加え、攪拌速度250rpm、通気量4L/分、30℃で48時間培養した。
培養液を遠心分離(4,000×g、10分)して菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水に懸濁して再度遠心分離後(4,000×g、10分)洗浄し、湿重量100gの菌体を得た。
【0036】
20mMビストリス緩衝液(pH7.0)1Lに先に得た菌体を懸濁し、最終濃度10mMになるようにジチオスレイトールを加えて30℃、20分間、振とう器(150rpm)で振とうし還元処理した。その後、遠心分離(4,000×g、10分)で集菌した。20mMビストリス緩衝液(pH7.0)250mlに懸濁してY−PER−Plus(登録商標)試薬250ml、最終濃度10mMになるようにフェニルメチルスルフォニルオライド(PMSF)を加えた。30℃、20分間、振とう器(150rpm)で振とうして菌体から酵素を抽出した。遠心分離(24,000×g、15分)で分離した上澄み液を20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で一晩透析しY−PER−Plus(登録商標)試薬を除去した。この溶液を粗抽出液とした。この際、1,5−AF還元酵素の総活性は294.0ユニットであり、比活性は0.08ユニット/mg−タンパクであった。
【0037】
<硫安分画>
粗抽出液に、硫酸アンモニウムを30%となるように添加して、4℃、1時間冷却し、遠心分離(24,000×g、15分)で分離した上澄み液を回収した。次にその上澄み液に硫酸アンモニウムを80%となるように添加し4℃、1時間冷却し、遠心分離(24,000×g、15分)して沈殿物を回収した。その沈殿画分を20mMビストリス緩衝液(pH7.0)100mlに懸濁して透析膜に入れ、20mMビストリス緩衝液(pH7.0)中で透析し硫酸アンモニウムを除去した。遠心分離(24,000×g、15分)し、上澄み液を回収した。その時の1,5−AF還元酵素の総活性は224.0ユニットであり、比活性は0.13ユニット/mg−タンパクであった。
【0038】
<弱塩基性陰イオン交換−クロマトグラフィー>
この上澄み液をあらかじめ20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したトヨパールDEAE−650M(TOSOH社製)を充填したカラム(φ2.2×30cm)に通した。同緩衝液で非吸着タンパク質を洗浄後、0.5M 塩化ナトリウムを含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ、1,5−AF還元活性画分を回収した。活性画分の総活性は79.9ユニットであり、比活性は0.8ユニット/mg−タンパクであった。
【0039】
<アフィニティークロマトグラフィー>
この活性画分を一晩20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で透析し塩化ナトリウムを除去し、あらかじめ20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したトヨパール−AF−red−650M(TOSOH社製)を充填したカラム(φ3.0×10cm)に通した。同緩衝液で非吸着タンパク質を洗浄後1.5M 塩化ナトリウムを含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ活性画分を回収した。活性画分の総活性は69.7ユニットであり、比活性は16.3ユニット/mg−タンパクであった。
【0040】
<疎水性クロマトグラフィー>
この活性画分に硫酸アンモニウムを30%となるように添加したサンプルをあらかじめ硫酸アンモニウム30%を含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したTsk−GEL PHENYL−5PW (TOSOH社製 7.5mm I.D.×7.5cm)に通した。硫酸アンモニウム30%を含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で非吸着タンパク質を洗浄後、硫酸アンモニウム濃度が30%から0%となるように直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ活性画分を回収した。活性画分の総活性は7.8ユニットであり、比活性は17.7ユニット/mg−タンパクであった。
【0041】
<強塩基性陰イオン交換クロマトグラフィー>
この活性画分を限外ろ過膜で脱塩・濃縮後、20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したMono−Q(4.6mm×10cm)に通した。硫酸アンモニウム30%を含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で非吸着タンパク質を溶出後、硫酸アンモニウム濃度が30%から0%となるように直線濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させ活性画分を回収し精製酵素を得た。精製酵素の総活性は3.8ユニットであり、比活性は24.4ユニット/mg−タンパクであった。
【0042】
<物性評価、ゲルろ過クロマトグラフィー>
精製酵素を、0.3Mの塩化ナトリウムを含む20mMビストリス緩衝液(pH7.0)で平衡化したTsk−gel G2000SW(7.5mmI.D.×30cm)に供試したところ、単一ピークとして検出され高純度に精製されたことがわかった。標準蛋白質として分子量13,700:リボヌクレアーゼA、分子量25,000:キモトリプシノーゲンA、分子量43,000:オブアルブミン、分子量68,000:アルブミン、分子量158,000:アルドラーゼを用い、それらの移動度から本酵素の分子量を推測した結果、およそ75,000〜80,000程度であった(図9)。
【0043】
<物性評価、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動>
精製酵素の分子量をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって調べた結果、分子量38,000と分子量37,000の2つのバンドが確認された。このことから、この酵素が2量体であることがわかった(図10)。
【0044】
<内部部分アミノ酸配列解析、逆相クロマトグラフィー>
精製酵素を、0.1%トリフルオロ酢酸溶媒で平衡化したYMC−Pack PROTEIN−RP(YMC社 2.0mmI.D.×15cm)に供試し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル溶媒の直線濃度勾配で溶出させ2量体を分離し、分子量38,000のサブユニット画分を得た。回収した画分を減圧乾燥器でアセトニトリル溶媒を除きアミノ酸配列決定用の試料とした。
【0045】
1.TCA沈殿
先の分取サンプル(タンパク量50ug相当)にトリクロロ酢酸を最終濃度10%となるように添加し、4℃で10分間冷却した。遠心分離(18,000×g、15分)して沈殿を回収した。それにアセトンを加えて超音波洗浄器上で沈殿物を分散させ、トリクロロ酢酸を除去した。それを遠心分離(18,000×g、15分)し上澄みを除き沈殿を減圧乾燥器で乾燥させた。
【0046】
2.還元アルキル化
TCAで濃縮した試料を、6M塩酸グアニジンを含むトリス塩酸緩衝液(pH9.0)で溶解し、タンパク質のジスルフィド結合を切断するため、還元剤であるジチオスレイトールを添加し、窒素置換を行い30分間常温で保持した。システイン残基の再結合を抑えるため、ヨードアセトアミドを添加し、暗所で1時間保持して還元化された試料を得た。
【0047】
3.メタノール・クロロホルムによる試料の濃縮及び脱塩
還元した試料をメタノール:クロロホルム:蒸留水=4:1:3混合液で攪拌して10,000×gで3分間遠心分離した。水相と有機溶媒相の間にタンパク質が得られ、水相を吸引器で除去した。その後、メタノールを添加して、18,000×gで15分間遠心分離して上澄みを除き、沈殿を回収した。減圧乾燥を行い、プロテアーゼ消化用試料とした。
【0048】
4.リジルエンドペプチダーゼ消化
先の脱塩・濃縮サンプルを6M尿素でよく溶解させ、0.1Mのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を加えて攪拌した。サンプルタンパク重量の1/50(W/W)となるようにリジルエンドペプチダーゼを添加した。37℃で16時間反応させ、ギ酸を添加し酵素反応を止めた。
【0049】
5.逆相HPLCによるペプチドマッピング
先のリジルエンドペプチダーゼで消化した試料を、0.1%トリフルオロ酢酸溶媒で平衡化したHydrosphereC18カラム(YMC社 2.0mmI.D.×15cm)に供試し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル溶媒の直線濃度勾配で吸ペプチド断片を溶出した。紫外部吸収検出器の波長215nmで検出した結果、およそ20個のペプチド断片を得た。
【0050】
6.アミノ酸配列解析
先に得たペプチド断片を、自動アミノ酸配列決定装置(Applied Biosystem社製 Procise 49X−HT Protein−Sequencer )で解析し5つの断片のアミノ酸配列情報を得た(図11)。
この部分アミノ酸配列情報をもとに、FASTAによるデータベース比較を行った結果、このペプチド断片は、D−アラビノースデヒドロゲナーゼの内部アミノ酸配列と完全に一致した。先のゲルろ過による分子量とSDS−ポリアクリルアミド電気泳動、部分アミノ酸配列情報から、1,5−AFを1,5−AGへ変換する酵素が、D−アラビノースデヒドロゲナーゼであると同定した(図11)。また、このアラビノースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列をこれまで報告されている2種の1,5−AFに作用する還元酵素のそれと比較した。その結果、豚肝臓由来の1,5−AF還元酵素(非特許文献5)との相同性は30.8%、微生物由来の1,5−AF還元酵素(非特許文献7)との相同性は10.8%であった。
【0051】
至適pH(還元活性)
0.5Mの各種緩衝液(pH4.0〜5.5:酢酸緩衝液、pH5.5〜7.5:ビス−トリス緩衝液、pH7.5〜9.0:トリス緩衝液、pH9.0〜pH10.0:グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液)を0.2ml、250mMの1,5−AF溶液を0.2ml、5mMのNADPH溶液を0.2ml、蒸留水で1.8mlとする。30℃で5分間保った後に、適当に希釈した酵素液を0.2ml加えて混合して反応を開始する。30℃で20分間保温後、375nmの波長を測定する。吸光度の減少量から、還元酵素活性を求めた。最高の酵素活性を100(%)とした。
【0052】
至適pH(酸化活性)
0.5Mの各種緩衝液(pH4.0〜5.5:酢酸緩衝液、pH5.5〜7.5:ビス−トリス緩衝液、pH7.5〜9.0:トリス緩衝液、pH9.0〜pH10.0:グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液)を0.2ml、1MのD−アラビノース溶液を0.2ml、5mMのNADP+溶液を0.2ml、蒸留水で1.8mlとする。30℃で5分間保った後に、適当に希釈した酵素液を0.2ml加えて混合して反応を開始する。30℃で20分間保温後、340nmの波長を測定する。吸光度の増加量から、酸化酵素活性を求めた。最高の酵素活性を100(%)とした相対活性を算出した。
【0053】
至適温度
0.5Mビス−トリス緩衝液(pH6.5)を0.2ml、250mMの1,5−AF溶液を0.2ml、5mMのNADPH溶液を0.2ml、蒸留水で1,800mlとする。20、25、30、35、40、45、50、55℃で5分間保った後に、適当に希釈した酵素液を0.2ml加えて混合して反応を開始する。20、25、30、35、40、45、50、55℃で20分間保温後、375nmの波長を測定する。吸光度の減少量から、還元酵素活性を求めた。最高の酵素活性を100(%)とした。
【0054】
実施例2
1,5−AFから1,5−AGへの変換を以下の条件で行った。
最終濃度50mMのビス−トリス緩衝液(pH6.5)、100mMの1,5−AF、200mMのNADPH、1mlあたり0.1ユニットのD−アラビノースデヒドロゲナーゼとなるように各試料を混合し30℃で保温した。0から24時間までの8時間毎の経時変化のHPLC測定結果クロマトグラムを示す。1,5−AFから1,5−AGへ変換され、1,5−AG以外の反応生成物を含まない反応溶液を得た(図12)。
【0055】
実施例3
最終濃度50mMのビス−トリス緩衝液(pH7.0)、100mMの1,5−AF、200mMのNADPH、1mlあたり0.2ユニットのD−アラビノースデヒドロゲナーゼとなるように各試料を混合し30℃で保温した。0から24時間までの8時間毎の経時変化のHPLC測定結果クロマトグラムを示す。1,5−AFから1,5−AGへ変換され、1,5−AG以外の反応生成物並びに1,5−AFも含まない反応溶液を得た。また、24時間反応での1,5−AG含量は、9.7(g/L)であった(図13)。
【0056】
実施例4
最終濃度50mMのビス−トリス緩衝液(pH7.5)、25mMの1,5−AF、2.0mMのNADPH、1mlあたり0.01ユニットのD−アラビノースデヒドロゲナーゼとなるように各試料を混合したものをコントロールとした。次に上記溶液に、最終濃度100mMとなるように、D−アラビノース、L−キシロース、L−フコースまたはL−ガラクトースを添加して24時間毎の1,5−AG生成量をHPAE−PADにて測定した。その経時変化のグラフを示す。D−アラビノース、L−キシロース、L−フコース、L−ガラクトースの添加群すべてにおいて、1,5−AG生成量が1.5〜2.5倍以上増加した(図14)。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】D−アラビノースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列(配列1)
【図2】酵素活性計算式(還元反応)
【図3】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFへの還元反応酵素反応速度論からの解析:ラインウェーバーバーグプロット
【図4】還元反応の至適pH
【図5】至適温度
【図6】酵素活性計算式(酸化反応)
【図7】酸化反応の至適pH
【図8】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化還元反応を用いたカップリング反応
【図9】ゲル濾過クロマトグラフィーによる推定分子量
【図10】SDS−ポリアクリルアミド電気泳動
【図11】D−アラビノースデヒドロゲナーゼのペプチド断片の部分アミノ酸配列
【図12】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFへの還元反応による1,5−AGの生成 高速液体クロマトグラフィーを用いた経時変化のクロマトグラム酵素反応条件 : pH6.5、0.1U / ml
【図13】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの1,5−AFへの還元反応による1,5−AGの生成 高速液体クロマトグラフィーを用いた経時変化のクロマトグラム酵素反応条件 : pH7.0、0.2U/ml
【図14】D−アラビノースデヒドロゲナーゼの酸化還元反応を用いたカップリング反応による1,5−AGの生成比較 高性能陰イオン交換クロマトグラフィーとパルスアンペロメトリ検出器による測定
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5−D−アンヒドロフルクトースにアラビノースデヒドロゲナーゼを作用させることを特徴とする1,5−D−アンヒドログルシトールの製造方法。
【請求項2】
上記作用を、L−キシロース、L−ガラクトース、D−アラビノースおよびL−フコースよりなる群より選ばれる糖の存在下に行う請求項1の方法。
【請求項1】
1,5−D−アンヒドロフルクトースにアラビノースデヒドロゲナーゼを作用させることを特徴とする1,5−D−アンヒドログルシトールの製造方法。
【請求項2】
上記作用を、L−キシロース、L−ガラクトース、D−アラビノースおよびL−フコースよりなる群より選ばれる糖の存在下に行う請求項1の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【公開番号】特開2010−104239(P2010−104239A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276503(P2008−276503)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(390015004)日本澱粉工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(390015004)日本澱粉工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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