説明

10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物、その製造法及びその重合物。

【課題】高屈折率を有する芳香族多環化合物であり、紫外域の吸収や蛍光の問題が無く透明性にすぐれ、高圧水銀ランプなどを用いた工業的に有利なUV硬化装置で重合可能な化合物及びその化合物を含む重合性組成物を提供。
【解決手段】特定式に示される10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物及び該(メタ)アクリレート化合物を重合してなる重合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物、その製造法、及び該(メタ)アクリレート化合物を重合してなる重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学分野においてガラス代替材料としてプラスチックが盛んに用いられている。例えば、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレート等がよく知られている。これらのプラスチック材料は、軽量性、安全性、意匠性を有している反面、屈折率は無機ガラスより低いため、分厚くなりやすいという欠点がある。そこで、近年、高屈折率を有するプラスチック材料に対する要望が高くなってきている。特に、高屈折率プラスチック材料の光学用物品への進出は著しく、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、TFT用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、ホログラム、光ファイバー、光道波路等への検討が盛んに行われている。
【0003】
プラスチックの屈折率とその原料となるモノマーの屈折率には正の相関関係にあり、高屈折率のプラスチックを得るためにはそのプラスチックを構成するモノマーが高屈折率であることが必要である。
【0004】
モノマーの屈折率を高くする方法としては、分子構造中にハロゲン原子(フッ素を除く)や硫黄原子、さらには芳香環を導入することが既に広く知られている。例えば、ハロゲン原子の有する高い固有屈折率を利用し、ビフェニル環にハロゲン原子を導入した高屈折率重合体が報告されている(特許文献1)。しかし、ハロゲン化することによって、得られた重合体の耐光性が著しく劣化し、また、高比重であるという欠点があった。また、ハロゲン以外に高い固有屈折率を有する硫黄原子を有する単量体組成物も報告されている(特許文献2)。しかし、硫黄原子を有するモノマー組成物は高い屈折率、優れた耐衝撃性を有するものの、同様に得られた重合体の耐光性が著しく劣り、また、硫黄特有の不快臭を発する等の問題があった。さらに、硫黄原子を有するモノマー組成物を用いたプラスチックが廃棄物として処理されるとき、有害なガスや硫黄化合物を生じることが懸念される。
【0005】
一方、モノマーの屈折率を高くする方法として、従来からベンゼン環、ビフェニル環を導入することが知られている。ベンゼン環、ビフェニル環を有するプラスチック材料は、軽量で透明性に優れ、比較的屈折率が高いプラスチック材料が得られる(特許文献3等)。しかし、ベンゼン環を用いた場合、ハロゲン原子や硫黄原子を含まないモノマーでは屈折率が1.54を超えるものを得ることは困難であった。
【0006】
また、モノマーの屈折率を高くする方法として、ナフタレン環を導入したアクリレート化合物について報告がなされている(特許文献4,5)。しかしながら、ナフタレン環を含むアクリレート化合物は350nm近辺にUV吸収を持つため、光硬化させる場合に光源として最も一般的な高圧水銀ランプを用いた場合、高圧水銀ランプの366nm付近の光が吸収される、いわゆる内部フィルタリング効果を有するため、光硬化が遅くなるという欠点があった。また、高圧水銀ランプの短波長成分を吸収し分解着色するという欠点があった。そのため、従来は、400nm付近の波長を含む紫外LEDランプなどにより、イルガキュア819やダロキュアTPO(イルガキュア、ダロキュアはチバスペシャリティケミカルズ社の登録商標)等のホスフィンオキサイド系の光ラジカル重合開始剤を用いて光硬化させている(特許文献5)。
【0007】
しかしながら、紫外LEDランプは、光硬化用の光源としては未だ普及しておらず、工業用の大型の装置を作成し難いという欠点を有している。また、ホスフィンオキサイド系の光ラジカル重合開始剤は、リン化合物を含有しているため、高価であるという欠点を有する。
【0008】
また、さらに高い屈折率を得るため、アントラセン環、フルオレン環を有するモノマーの開発も検討されている(特許文献6,7,8)。さらに、アントラセン環やフルオレン環等をエステル交換によりポリマーに導入する試みもなされている(特許文献9)。
【0009】
しかしながら、アントラセン環やフルオレン環の導入により、高い屈折率のプラスチック材料が得られるが、フルオレン環を導入した場合は、紫外領域に吸収があるため、光照射により着色しやすく、耐光性に問題がある。また、アントラセン環を導入した場合はアントラセン環が蛍光を発するため、光学材料分野での適用は困難である等の問題がある。
【0010】
また、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物はナフタレン環とアントラセン環の中間の構造を持っているが、その類似化合物として1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン環を有するアクリレート化合物については、その合成例が報告されている。しかし、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物とは構造が異なるうえ、当該1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン環を有するアクリレート化合物あるいはその重合物の屈折率に関しては何ら述べられておらず、その示唆もない(特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平05−170702号公報
【特許文献2】特開2002−20433号公報
【特許文献3】特開2003−064296号公報
【特許文献4】特開2001−276587号公報
【特許文献5】特開2008−81682号公報
【特許文献6】特開2004−083855号公報
【特許文献7】特開平06−220131号公報
【特許文献8】特開2007−99637公報
【特許文献9】特開2006−312709号公報
【特許文献10】特開2008−169324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、アントラセン環やフルオレン環にみられるような紫外域の吸収や蛍光の問題が無く、透明性に優れ、かつ、一般的で最も広く用いられている高圧水銀ランプなどの光源で重合可能であり、光ラジカル重合開始剤も特殊な重合開始剤を用いなくとも重合可能なアクリレート化合物の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、多環式芳香族骨格を有するアクリレート化合物の構造と光硬化性に関して鋭意検討した結果、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物が高圧水銀ランプ等の光源で容易に重合すること、さらに、得られた重合物が透明でかつ高い屈折率を有していることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の第1の要旨は、次の一般式(1)で示される10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物に存する。
【化1】

【0015】
(一般式(1)中、R1、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示す。)
【0016】
本発明の第2の要旨は、次の一般式(2)で示される1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物をハロゲン化(メタ)アクリロイルと反応させてモノ(メタ)アクリル化することを特徴とする10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の製造方法に存する。
【0017】
【化2】

【0018】
(一般式(2)中、R1、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示す。)
【0019】
本発明の第3の要旨は、第2の要旨に記載の一般式(2)で示される1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物が、1,4−ナフトキノン化合物とシクロペンタジエン化合物とのディールス・アルダー反応により得られる次の一般式(3)で示される1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物を水素化し、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物とした後、さらにエノール化して得られたものである第2の要旨に記載の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の製造方法に存する。
【0020】
【化3】

【0021】
(一般式(3)中、R1、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示す。)
【0022】
本発明の第4の要旨は、少なくとも第1の要旨に記載の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物と、ラジカル重合開始剤とを含有する重合性組成物に存する。
【0023】
本発明の第5の要旨は、第4の要旨に記載の重合性組成物と、さらにラジカル重合性化合物とを含有することを特徴とする重合性組成物に存する。
【0024】
本発明の第6の要旨は、第4の要旨又は第5の要旨のいずれかに記載の重合性組成物を重合してなる重合物に存する。
【0025】
なお、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを表し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを表す。
【0026】
また、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン骨格における置換基の位置番号は、下記のように付する。
【0027】
【化4】

【発明の効果】
【0028】
本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は、新規な化合物であり、かつ、最も一般的な紫外光源である高圧水銀ランプにより容易に重合する。また、重合により得られた重合物は透明であり、高い屈折率を示す、工業的に有用な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
((メタ)アクリレート化合物)
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は、下記一般式(1)に示される構造を有する化合物である。
【化5】

【0030】
一般式(1)中、R1、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示す。
【0031】
一般式(1)中、Xで表されるアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0032】
一般式(1)で示される10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物としては、例えば次のものが挙げられる。すなわち、Xが水素原子の場合は、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート等が挙げられる。
【0033】
Xがアルキル基の場合は、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−メチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−エチル−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート等が挙げられる。
【0034】
Xがハロゲン原子の場合は、6−クロロ−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−クロロ−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−クロロ−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−クロロ−10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、6−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、6−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート、5−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート、5−クロロ10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート等が挙げられる。
【0035】
なお、メチルシクロペンタジエン、又はメチルジシクロペンタジエンを熱分解して得られたメチルシクロペンタジエンを本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の合成原料として用いた時は、一般式(1)におけるRからRのいずれか一つにメチル基が置換した化合物の混合物となることがある。これは、一般的に入手可能なメチルシクロペンタジエン又はメチルジシクロペンタジエンがメチル基の置換位置が異なる異性体の混合物であることが多いためである。しかし、これらの混合物を用いて反応することによって得られた場合でも、特定の位置にメチル基が置換した化合物を単離精製することなく、このRからRのいずれか一つにメチル基が置換した化合物の混合物として用いても、本発明の効果を発現することができる。
【0036】
前記の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物のうち、Xが水素原子であり、RからRのすべてが水素原子又はRからRのいずれか一つがメチル基で他のすべてが水素原子であり、Rが水素原子かメチル基である化合物が、合成が容易であり、かつ、得られる生成物の屈折率が高いことから特に好ましい。
【0037】
((メタ)アクリレート化合物の製造方法)
次に、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の製造方法について説明する。本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は下記反応式に示すように、出発原料として1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物を用い、当該1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物をハロゲン化(メタ)アクリロイルと反応させることにより得られる。
【0038】
【化6】

【0039】
上記反応式中、R1、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示し、Lはハロゲン原子を示す。
【0040】
出発原料として使用する1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物は、次のように合成することができる。すなわち、対応する1,4−ナフトキノン化合物とシクロペンタジエン化合物とをディールス・アルダー反応させることにより、まず1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物を得る。そして、当該1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物を水素化することにより、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物とし、そして、当該1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物をさらにエノール化することにより、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物を得ることができる。
【0041】
1,4−ナフトキノン化合物と、シクロペンタジエン化合物とのディールス・アルダー反応は従来公知の方法で行うことができる。例えば、特開平6-312950号公報の工程1に記載の方法により合成できる。
【0042】
シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン等を挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することもできる。また、シクロペンタジエン化合物は、対応するジシクロペンタジエン化合物を加熱し、シクロペンタジエン化合物に分解して用いてもよい。
【0043】
例えば、ジシクロペンタジエンを150度以上に加熱すると熱分解して、シクロペンタジエンとなる。これを冷却することにより、シクロペンタジエンを単離することができる。メチルシクロペンタジエンも同様にして、メチルジシクロペンタジエンを熱分解して得ることができる。このようにして得たシクロペンタジエンあるいはメチルシクロペンタジエンは、室温で徐々に再び二量化するため、すぐに次の反応に用いることが好ましい。シクロペンタジエンあるいはメチルシクロペンタジエンをナフトキノン化合物と混合すると発熱を伴って、ディールス・アルダー反応を起こし、環状付加物を生成する。メチルシクロペンタジエンがメチル基の置換位置の異なる異性体の混合物となっているものの場合は、ディールス・アルダー反応物がシクロペンタジエンを用いた時に比べ、低融点物となる場合が多いが、以下の水素化反応、エノール化反応、(メタ)アクリル化反応において、ほぼ同様の反応で10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物を合成することができる。
【0044】
次に、接触水素化について説明する。1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物は、水素化触媒の存在下、容易に2、3位の二重結合を接触水素化することができる。触媒としては炭素−炭素二重結合の水素添加反応に一般的に使用される触媒が使用可能であり、例えば、パラジウム担持活性炭、ラネーニッケル、ラネーコバルト、酸化白金、白金担持活性炭、ニッケル珪藻土、銅クロマイトなどの不均一系触媒;またはクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、白金−スズ錯体、第三級ホスフィン−コバルトカルボニル錯体などの均一系触媒を挙げることができる。当該接触水素化反応は水素ガスの存在下に行う。使用する触媒の種類によっては常圧で行うことも可能であるが、加圧下で行うことが反応速度が大である場合が多いため望ましい。加圧下で行う場合には、30MPa以下、好ましくは20MPa以下、更に好ましくは10MPa以下であるのが、反応装置、操作性等の面で工業的に有利である。
【0045】
接触水素化により得られた1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物のエノール化は酸触媒又はアルカリ存在下の2種類の方法で行うことができる。
【0046】
酸触媒を用いるエノール化の方法について述べる。1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物のエノール化は、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物と酸触媒とを溶媒中で加熱することにより行う。用いることができる酸触媒としては、硫酸、塩化水素、硝酸、p−トルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸、燐酸等が挙げられる。
【0047】
酸触媒を用いるエノール化において、用いることができる溶媒としては、特に種類を選ばないが、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸,プロピオン酸等の有機酸等が好適に用いられる。特に芳香族系溶媒を使用した場合は、反応終了後、反応液を冷却すると1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物が析出してくるので、特に望ましい。
【0048】
酸触媒を用いるエノール化の温度は、50℃以上、150℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上、120℃以下である。50℃以下では反応時間がかかりすぎ、150℃以上では生成物の純度が低下するので、共に望ましくない。エノール化の反応時間は反応温度によるが、通常、30分から3時間程度である。反応終了後、反応液を冷却するか又は、n−ヘキサン等の貧溶媒に投入することにより、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物が析出する。
【0049】
次にアルカリを用いたエノール化の方法について述べる。1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物を水又は水溶性溶媒若しくは水と水溶性溶媒の混合液中に分散させ、次いで1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物の2倍モル以上のアルカリを添加し、加熱して、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物のアルカリ塩溶液とする。次いで、該アルカリ塩溶液に酸を加えて中和することにより、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物が得られる。
【0050】
アルカリを用いたエノール化において、用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0051】
水溶性溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド,N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒が使用される。中でも、反応収率の高さから、ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0052】
反応温度としては、20℃以上、100℃以下が好ましい。より好ましくは50℃以上、80℃以下である。20℃以下では反応時間がかかりすぎ、100℃以上では、生成物の純度が低下し、共に好ましくない。
【0053】
反応時間としては、反応温度にもよるが、通常30分以上、2時間以下である。アルカリを添加すると、水溶液の色が赤くなり、該水溶液を加熱するにつれて次第に1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物の結晶が溶けて、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物のアルカリ塩が生成して赤い水溶液となる。該アルカリ塩水溶液に硫酸、塩化水素、硝酸、p−トルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸、燐酸等の酸を加えて、水溶液のpHを弱酸性にすると、水溶液の赤色が消えて、灰白色の1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物のスラリーが大量に析出する。これを濾過等により、分離することにより、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物を得ることができる。
【0054】
次に、得られた1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物と(メタ)アクリル化剤とをアルカリの存在下で反応させることにより10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物を得ることができる。
【0055】
用いる1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。すなわち、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−エメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−11−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−エメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−エメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、6−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール、5−クロロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−メチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール等が挙げられる。
【0056】
(メタ)アクリル化剤としては、ハロゲン化(メタ)アクリロイルを用いることができる。ハロゲン化(メタ)アクリロイルとしては、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、臭化アクリロイル、臭化メタクリロイル等が挙げられる。その中でも特に塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルが収率よく目的物が得られるため、好ましい。
【0057】
たとえば、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物に塩化アクリロイルを反応させると、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート化合物が得られる。一方、塩化メタクリロイルを反応させると、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレート化合物が得られる。
【0058】
用いるハロゲン化(メタ)アクリロイルの添加量は1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物1モルに対して、通常0.5モル倍以上2.0モル倍未満、好ましくは0.8モル倍以上1.5モル倍未満である。0.5モル倍より少なすぎる場合は、原料の1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物が未反応のまま残ってしまい、一方、2.0モル倍以上になると、ハロゲン化(メタ)アクリロイルが一部重合し、得られた10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の純度が低下してしまい、いずれも好ましくない。
【0059】
用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基が挙げられる。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0060】
用いるアルカリの添加量は、ハロゲン化(メタ)アクリロイル1モルに対して、通常1.0モル倍以上1.5モル倍未満である。塩基の使用量が少なすぎると、ハロゲン化(メタ)アクリロイルの滴下中に水層のpHが酸性になり、選択率が低下する場合がある。一方、塩基の使用量が多すぎると、ハロゲン化(メタ)アクリロイルが分解する場合などがあり好ましくない。
【0061】
1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物とハロゲン化(メタ)アクリロイルとの反応は、通常は溶媒の存在下で行なう。溶媒の種類は特に制限されないが、水相及び有機相からなる二相系で反応を行なうことが好ましい。
【0062】
水相及び有機相からなる二相系で(メタ)アクリル化する場合、通常は溶媒として、水と、有機相を形成する一又は二以上の有機溶媒とを併用することが好ましい。有機相を形成する有機溶媒の種類は特に制限されないが、比較的低い極性を示し、水に対して混和性を示さない有機溶媒を用いることが好ましい。このような有機溶媒の例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。単独で用いる場合は、トルエンが好ましく、二種以上を組み合わせて用いる場合の有機溶媒の組み合わせとしては、トルエンとキシレン又はトルエンとヘプタンの組み合わせが好ましい。
【0063】
水相と有機相との混合比率は、特に制限されるものではないが、水相及び有機相の合計容積に対して、水相の容積比率が、通常50vol%以上、95vol%以下の範囲であることが好ましい。水相の容積比率が50vol%より少なすぎ、又は95vol%より多すぎると、得られる10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の選択率が低下するため、いずれも好ましくない。
【0064】
水相及び有機相の合計に対する1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物の濃度は、通常0.005g/ml以上0.5g/ml未満、特に0.03g/ml以上0.3g/ml未満、の範囲とすることが好ましい。1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物の濃度が低すぎると、得られる10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の収率が低下する。一方、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物の濃度が高すぎると、得られる10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の選択率が低下する場合がある。また、析出した1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物により、スラリー溶液の攪拌が困難になる場合があり、好ましくない。
【0065】
1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物とハロゲン化(メタ)アクリロイルとの反応において、反応温度の制御及び選択率向上の観点から、原料であるハロゲン化(メタ)アクリロイルを1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物と有機溶媒等との溶液中に攪拌しながら滴下する方法が好ましい。
【0066】
また、(メタ)アクリル化反応は冷却しながら行なうことが好ましい。具体的には、反応温度を通常10℃以下、特に5℃以下で、水相が凝固しない温度以上とすることが好ましい。発熱により反応温度が上昇しすぎると、得られる10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の選択率が低下し、また、得られる10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物が加水分解してしまう場合があり、いずれも好ましくない。
【0067】
(メタ)アクリル化反応に要する時間は、特に限定されないが、通常0.1時間以上2時間未満、特に0.2時間以上0.5時間未満の範囲が好ましい。反応終了後は、できるだけ早く反応をクエンチ(停止)することが好ましい。
【0068】
反応のクエンチの方法は、例えば、反応系(水相)に希塩酸(濃度が1〜3モル/L)、希硫酸(濃度0.5〜1.5モル/L)等の酸を加えて酸性にすることにより行なう。反応終了後、必要に応じて、粗精製、再結晶精製等の後処理を行なってもよい。
【0069】
得られた化合物の同定は、H−NMRスペクトル、IRスペクトルを用いて行い、相当する10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物であることを確認した。
【0070】
なお、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の製造方法では、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物の(メタ)アクリル化において、無機塩基を用いることにより、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物のモノ(メタ)アクリル化物が溶媒にほとんど溶けなくなる。そのため逐次反応が抑えられ、10位にも(メタ)アクリロイル基で置換されたジ(メタ)アクリル化物の生成を抑えることができ、効率よく本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物を合成することができる。
【0071】
一般式(1)におけるRの置換基で言うと、水素原子であるよりは、メチル基である方が、(メタ)アクリル化収率が高い傾向にある。また、メチルシクロペンタジエンとナフトキノン化合物の反応物を原料として合成される、R1、R、R、R又はRのいずれか一つにメチル基が置換している1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物の混合物を用いて合成した10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は、その融点が低くなり扱いやすい傾向にある。特に11位にメチル基が置換した化合物は、融点が低く、溶媒に対する溶解度が高くなる傾向にあり、好ましい。
【0072】
(重合性組成物)
本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は、ラジカル重合により、重合物とすることができる。本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物のラジカル重合を促進するためには、ラジカル重合開始剤を添加することが好ましい。そして、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物と、ラジカル重合開始剤を混合することにより重合性組成物とすることができる。
【0073】
ラジカル重合開始剤には、光ラジカル重合開始剤と熱ラジカル重合開始剤とがある。紫外線や可視光線等の活性エネルギー線による光ラジカル重合は、硬化が速く、効率よく透明性の高い重合物を得ることができるため、特に本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物を光学用途に用いる場合は、光ラジカル重合によることが好ましい。
【0074】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2−イソプロピルチオキサントン、2−t−ブチルアントラキノン等が挙げられる。実際の工業製品としてはチバスペシャリティケミカルズ社製のイルガキュア651、イルガキュア184、ダロキュア1173、イルガキュア907、イルガキュア369、ダロキュアTPO、イルガキュア819が挙げられる(イルガキュア、ダロキュアはチバスペシャリティケミカルズ社の登録商標)。
【0075】
本発明の重合性組成物において、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物を単独で重合して、重合物とすることもできるが、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物以外の通常のラジカル重合性化合物を加えて共重合性の重合性組成物とすることもできる。
【0076】
共重合させるラジカル重合性化合物として、例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリオールアクリレート、ポリエーテルアクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、イミドアクリレートさらには、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、p−トリルアクリレート、p−トリルメタクリレート、m−トリルアクリレート、m−トリルメタクリレート、o−トリルアクリレート、o−トリルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、ビフェニル−4−イル−アクリレート、ビフェニル−4−イル−メタクリレート、4−フェノキシフェニルアクリレート、4−フェノキシフェニルメタクリレート、2−フェノキシフェニルアクリレート、2−フェノキシフェニルメタクリレート、2−(ビフェニル−2−イルオキシ)エチルアクリレート、2−(ビフェニル−2−イルオキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0077】
これらのラジカル重合性化合物と本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物とを共重合することにより、当該10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物以外のラジカル重合性化合物単独での重合に比べ、得られる重合物の屈折率向上のほか、耐溶剤性、硬度、あるいは酸素非透過性などを高めることができる。
【0078】
また、2−(ビフェニル−4−イルオキシ)エチルアクリレート、2−(ビフェニル−4−イルオキシ)エチルメタクリレート等のビフェニル系アクリレート、9,9−ビス[4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ)プロポキシフェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アクリロイルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス{4−[2−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ−プロポキシ)−エトキシ]フェニル}フルオレン、9,9−ビス[4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ)プロポキシ−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのグリシジルエーテルのアクリル酸付加物等のフルオレン系アクリレート化合物等の屈折率の高いラジカル重合性化合物と共重合させることもできる。
【0079】
光ラジカル重合開始剤の添加濃度は、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物及び必要に応じて併用されるラジカル重合性化合物の合計重量に対して0.1〜5重量%の範囲から選ばれ、好ましくは0.5〜2重量%である。0.1重量%より少ないと重合速度が遅く、5重量%より多いと重合物の物性が悪化するので好ましくない。
【0080】
また、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は熱ラジカル重合開始剤を用いて重合物となす事もできる。
【0081】
用いることができる熱ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ系化合物等のどちらでも使用可能である。有機過酸化物としては、例えばt− ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t− ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,6−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート類等のパーオキシ エステル類、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ) −3,3,6− トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類、 ラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド 類等を挙げることができる。またアゾ系化合物の開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリルや、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビ (シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾニトリル類を挙げることができる。これらは単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
本発明の重合性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、希釈剤、着色剤、有機又は無機の充填剤、レベリング剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、可塑剤等の各種樹脂添加剤を配合してもよい。
【0083】
(重合方法)
本発明の重合性組成物は、フィルム状で重合させることもできるし、塊状で重合して硬化させることもできる。フィルム状に重合させる場合は、液状の重合性組成物を例えばポリエステルフィルムなどの基材に、例えばバーコーターなどを用いて膜厚5〜300μmになるように塗布する。本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は、このような薄膜だけでなく、500μmのような厚膜においても容易に重合させることができる。
【0084】
このようにして調製した塗布膜に活性エネルギー線を照射することにより重合させることができる。用いることができる光源としては、光ラジカル重合開始剤によって異なるが、250〜500nmの波長の活性エネルギー線が用いられる。この波長範囲の活性エネルギー線を照射できる光源としては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、UV−LEDランプ、青色LEDランプ、白色LEDランプ等の光源が挙げられる。また、太陽光線を使用することもできる。特に、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物を含有する重合性組成物は、最も広く用いられている光源である高圧水銀ランプ(波長366nm)を用いて重合させることができることから、工業的に非常に有用な化合物である。
【0085】
本発明の重合性組成物の光ラジカル重合の判定は、タック・フリーテスト(指触テスト)に基づいて行う。すなわち、光照射によりフィルム表面の光ラジカル重合性組成物のタック(べたつき)が取れるまでの時間を硬化時間として測定するのが一般的である。
【0086】
本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物を重合させて得られるフィルム、シートもしくは塊状物は、高い屈折率を示し、またその構造から、紫外線吸収性、高い耐熱性、高硬度、高光沢性等が期待できる工業的に有用なものである。
【0087】
下記の実施例により本発明を例示するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。特記しない限り、すべての部および百分率は重量基準である。
【実施例】
【0088】
生成物の確認は下記の機器による測定により行った。
(1)融点:ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式MFB−595(JIS K0064に準拠)
(2)屈折率:アッベ屈折率計:エルマー社製、形式ER−7MW−H
(3)赤外線(IR)分光光度計:日本分光社製、型式IR−810
(4)核磁気共鳴装置(NMR):日本電子社製、型式GSX FT NMR Spectorometer
【0089】
(合成例1)1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンの合成
ジシクロペンタジエン120g(和光純薬製)を、容積が300mlのナス型フラスコとフリードリッヒ冷却管を備えた蒸留装置に仕込み、185℃のオイルバス中で加熱することにより熱分解して溜出してくるシクロペンタジエン(溜出温度40℃)を塩化メチレン60g(和光純薬製)の入った容積が200mlのナスフラスコで捕集した。捕集するナスフラスコはドライアイス・アセトンで冷却しながら行った。上記の方法で捕集したシクロペンタジエン64gの塩化メチレン溶液を容積が500mlの四口フラスコに移し入れ、ドライアイス・アセトンで−60℃に冷却した。別容器で1,4−ナフトキノン128g(川崎化成工業製)と塩化メチレン200g(和光純薬製)のスラリーを調製し、当該スラリーを15分掛けてシクロペンタジエン64gの塩化メチレン溶液に攪拌しながら添加した。添加終了後、ドライアイス・アセトンの冷却を止めると、発熱反応により内温が45℃まで上昇した。内温が下降するまで撹拌を続け、内温が下がり始めたらバス温度を35℃に調整し、30分間さらに攪拌した。その後、反応液を容積が1Lのナス型フラスコに移し、これにメタノール300ml(和光純薬製)を加えた後、反応液中の塩化メチレン250gを50℃に加熱して溜去し、結晶を晶析させた。析出した結晶を吸引濾過し、得られた結晶をメタノール50mlで三回洗浄した。得られた結晶は白色結晶170gであった。この結晶を同定したところ、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンであった。原料1,4−ナフトキノンに対する収率は94モル%であった。
【0090】
(合成例2)1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンの合成
合成例1と同様にして得られた1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン70gを容積が300mlのガラス製オートクレーブに量り取り、溶媒としてオルソキシレン150g(和光純薬製)、水添触媒としてパラジウムカーボン(Pd/C)1gを加え、0.2MpaGの条件下で水素を供給し、水素化反応させた。反応終了後、Pd/Cを濾過し、反応液を減圧濃縮し、オルソキシレン130gを溜去させ、メタノール50gを加え晶析させた。析出した結晶を吸引濾過し、メタノール50mlで洗浄・乾燥し、白色結晶60gを得た。この結晶を同定したところ、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンであった。1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンに対する収率は85モル%であった。
【0091】
(1)融点:116−117℃
(2)IR(KBr,cm−1):2980,2960,2880,1670,1590,14 78,1452,1322,1302,1262,1168,1050,998,900,820,757,730,540
(3)H−NMR(CDCl,400MHz):δ=1.11−1.21(2H,m),1.41−1.46(1H,m),1.46−1.54(2H,m),1.58−1.65(1H,m),3.03(2H,s),3.20(2H,s),7.72−7.80(2H,m),8.08−8.16(2H,m).
【0092】
(合成例3)アルカリ性条件下での1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオールの合成
温度計、攪拌機付きの容積が300mlの三口フラスコ中で、合成例2で得られた1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン11.3g(50ミリモル)を脱気した水100g中で十分にスラリー化した。該スラリーに水酸化ナトリウム6.0g(150ミリモル)を脱気水20gに溶解した溶液を加えた。水酸化ナトリウム水溶液の添加により薄赤くなったスラリーを60℃で30分加熱すると、真っ赤な溶液となった。該溶液を氷水で冷やした後、1000mlの酸性水溶液に添加し、反応液のpHを酸性にした。すると、白い沈殿が多量に生成するので、この沈殿を吸引濾過によりろ別し、得られた結晶を乾燥し、白い粉末を10.6g得た。この粉末を同定したところ、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオールであることがわかった。原料である1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンに対する収率は94モル%であった。
【0093】
(1)融点:157−159℃
(2)IR(KBr,cm−1):3260,2970,2880,1612,1450,1390,1320,1296,1272,1224,1172,1158,1083,1040,972,928,878,772,758,645.
(3)H−NMR(CDCl,400MHz):δ=1.30−1.37(1H,m),1.60−1.71(2H,m),1.78−1.85(1H,m),1.92−2.03(2H,m),3.62(2H,s),4.72(2H,s),7.39−7.48(2H,m),8.01−8.09(2H,m).
【0094】
(合成例4)酸性条件下での1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオールの合成
温度計、攪拌機付きの容積が100mlの三口フラスコに合成例2で得られた1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン5.65g(25ミリモル)と、トルエン20g、メタンスルホン酸50mgを加え、窒素雰囲気下 105℃で1時間加熱して反応した。この反応液を冷却した後、n−ヘキサン200mlに投入し、白い沈殿を得た。この白い沈殿を吸引濾過によりろ別し、得られた結晶を乾燥し、1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオールの白い粉末を4.09g得た。原料である1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンに対する収率は72モル%であった。
【0095】
(実施例1)10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレートの合成
温度計、攪拌機付きの容積が300mlの三口フラスコに、窒素雰囲気下、合成例3で得られた1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール4.52g(20ミリモル)を水40gでスラリー化したものを加えた。そこへ、水酸化ナトリウム1.0g(25ミリモル)を水6gで溶解した溶液を加えた。水酸化ナトリウム水溶液の添加により、赤色の溶液となるので、該溶液を氷水で冷やし、そこへ塩化アクリロイル2.75g(30ミリモル)とトルエン8gとヘキサン4gを混合した溶液を加え、良く攪拌した。すると、直ちに溶液の色が消えて無色となった。その後、水層を捨て、残りの有機層を水15mlで良く洗った。ついで、残りのスラリーを吸引濾過し、ろ別した固形分を最初に水洗い、次にトルエン洗いした。トルエン洗いと同時に固形分の色は黄色から白色になった。この固形分を乾燥して、白色の粉末1.78gを得た。この白色の粉末を同定したところ、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレートであることがわかった。原料である1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオールに対する収率は32モル%であった。
【0096】
(1)融点:140−142℃
(2)屈折率:n=1.651
(3)IR(KBr,cm−1):3480,2980,2950,2874,1720,1660,1620,1590,1403,1378,1312,1262,1250,1217,1170,1080,1040,974,802,762,752,570.
(4)H−NMR(CDCl,400MHz):δ=1.31−1.48(2H,m),1.60−1.68(1H,m),1.79−1.88(1H,m),1.88−2.00(2H,m),3.47(1H,s),3.60(1H,s),5.04(1H,s),6.10(1H,d,J=9H),6.49(1H,dd,J=17Hz,J=9Hz),6.74(1H,d,J=17Hz),7.40−7.48(2H,m),7.67−7.76(1H,m),8.02−8.12(1H,m).
【0097】
(実施例2)10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレートの合成
温度計、攪拌機付きの容積が300mlの三口フラスコに、窒素雰囲気下、合成例3と同様にして得られた1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール4.52g(20ミリモル)を水40gでスラリー化したものを加えた。そこへ水酸化ナトリウム1.0g(25ミリモル)を水6gに溶解した溶液を加えた。水酸化ナトリウム水溶液の添加により、赤色の溶液となるので、該溶液を氷水で冷やし、そこへ塩化メタクリロイル3.12g(30ミリモル)とトルエン8gとヘキサン4gを混合した溶液を加え、良く攪拌した。攪拌5分後、溶液の色が消えて無色となった。水層を捨て、残りの有機層のスラリーを水15mlで良く洗った。ついで、残りの有機層のスラリーを吸引濾過し、固形分を最初に水洗い、次にトルエン洗いした。トルエン洗いと同時に固形分の色は黄色から白色になった。この固形分を乾燥して、白色の粉3.51gを得た。この白色の粉を同定したところ、10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレートであることがわかった。原料である1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオールに対する収率は59モル%であった。
【0098】
(1)融点:142−143℃
(2)屈折率:n=1.635
(3)IR(KBr,cm−1):3490,3070,2980,2950,2850,1720,1640,1590,1438,1380,1302,1288,1268,1217,1160,1145,1120,1095,955,957,760,550.
(4)H−NMR(CDCl,400MHz):δ=1.32−1.48(2H,m),1.60−1.67(1H,m),1.80−1.88(1H,m),1.88−2.00(2H,m),2.16(3H,s),3.43(1H,s),3.58(1H,s),4.96(1H,s),5.83(1H,s),6.51(1H,s),7.38−7.47(2H,m),7.68−7.74(1H,m),8.04−8.12(1H,m).
【0099】
(実施例3)10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレートとの光ラジカル重合物の合成
実施例1と同様にして得られた10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート10部、ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート90部、及び光ラジカル重合開始剤として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(チバスペシャリティケミカルズ社製イルガキュア369)0.5部を混合し、当該混合物を入れたフラスコを70℃のオイルバス中に浸漬して溶融した。得られた重合性組成物の融液をガラスプレパラートの上に膜厚が500μmになるように塗布した。その後、窒素雰囲気下、70℃に保温した状態で、表面に高圧水銀ランプ(波長366nmにおける照射強度が1mW/cm)を10分間照射した。溶融物のべたつきを触手により確認したところ、べたつきはなくなっていた。よって、当該溶融物が光重合により重合物が生成したことがわかった。重合の進行とともにうす黄色に着色することがよくあるが、当該溶融物の重合においては、まったく着色することなく、この得られた重合物は、無色透明であり、蛍光もなく、UV吸収も330nm以上には認められなかった。また、屈折率nを測定したところ1.533であった。
【0100】
(比較例1)トリメチロールプロパントリアクリレートの重合物の屈折率
10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレートをまったく使用しない以外は、実施例3と同様に重合性組成物の調製と光ラジカル重合を行った。この重合物の屈折率nを測定したところ1.516であった。
【0101】
(比較例2)4−ヒドロキシ−1−ナフチルアクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレートとの共重合物の屈折率
10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレートの代わりに4−ヒドロキシ−1−ナフチルアクリレートを使用した以外は、実施例3と同様に重合物を得た。この重合物の屈折率nを測定したところ1.526であった。
【0102】
実施例1及び2で得られた10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート及び10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−メタクリレートの屈折率(n)が1.651と1.635といずれも非常に高い値を示していることが分かる。すなわち、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は高屈折率を有する化合物であり、高屈折率を有するポリマーの原料モノマーとして有用であることが分かる。
【0103】
また、実施例3で次のことが明らかである。ラジカル重合性化合物としてトリメチロールプロパントリアクリレート90部と本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレート10部の混合物を重合した結果、重合物の屈折率(n)は1.533であり、トリメチロールプロパントリアクリレートの単独重合した時に得られる重合物の屈折率(n)1.516より、0.017高くなっていることから、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレートは、高圧水銀ランプでも重合可能であること、そして、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−アクリレートは、トリメチロールプロパントリアクリレートのような既存のラジカル重合性化合物と共重合させることができ、得られる重合物の屈折率を高める効果があることが分かる。よって、本発明の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物は、高屈折重合体を合成するうえで、工業的に有用な化合物であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)で示される10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物。
【化1】


(一般式(1)中、R1、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示す。)
化合物。
【請求項2】
次の一般式(2)で示される1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物をハロゲン化(メタ)アクリロイルと反応させてモノ(メタ)アクリル化することを特徴とする10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【化2】


(一般式(2)中、R1、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示す。)
【請求項3】
上記一般式(2)で示される1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオール化合物が、1,4−ナフトキノン化合物とシクロペンタジエン化合物とのディールス・アルダー反応により得られる次の一般式(3)で示される1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物を水素化しさらにエノール化して得られたものである請求項2に記載の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【化3】


(一般式(3)中、R1、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基のいずれかを示す。)
【請求項4】
少なくとも請求項1に記載の10−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9−イル−(メタ)アクリレート化合物と、ラジカル重合開始剤とを含有する重合性組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の重合性組成物と、さらにラジカル重合性化合物とを含有することを特徴とする重合性組成物。
【請求項6】
請求項4又は5のいずれかに記載の重合性組成物を重合してなる重合物。



【公開番号】特開2012−224690(P2012−224690A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91605(P2011−91605)
【出願日】平成23年4月16日(2011.4.16)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】