説明

11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法

【課題】11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを鳥類卵脱脂卵黄より簡便に高純度かつ収率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】鳥類卵脱脂卵黄から下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法であって、鳥類脱脂卵黄から11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得、次いで、前記混合物からアルコール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び前記糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程、を含む、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
式1:
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法に関する。また、本発明は、脂溶性保護基が導入された11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命分子として、核酸及びタンパク質に加え、糖鎖が注目されている。
膜タンパク質や細胞外などに存在する糖鎖は、細胞間の認識及び相互作用に関わる働きを有すると考えられている。そして、細胞間の認識や相互作用における変化が、癌、慢性疾患、感染症、及び老化などを引き起こす原因であると考えられている。
【0003】
糖鎖の多くは、生体内において糖タンパク質及び糖脂質として存在し、細胞間の認識及び相互作用などにより生理機能を担うと考えられている。
生体内における糖鎖は多様な構造を有するだけでなく、存在量も微量であり、タンパク質などと結合して存在することも多いことから、一般にその精製は数多くの工程を経る必要があることが多く、糖鎖の抽出・精製操作は難しいことが知られている。
【0004】
近年の糖化学分野における研究の進展に伴い、酵母型糖鎖を持つ糖タンパク質の糖鎖をヒト型糖鎖に置換する酵素の研究が加速しており、高い効率で酵母型糖鎖をヒト型糖鎖に置換できるようになってきている。当該方法によれば、動物細胞を用いてヒト型糖鎖を持つ糖タンパク質を製造するのに比べて、ヒト型糖鎖を持つ糖たんぱく質医薬を安価で大量に供給することができる。
例えば、酵母に発現させたエリスロポエチンの酵母型糖鎖をヒト型糖鎖に置換することにより、均一なヒト型糖鎖を持つエリスロポエチンを製造することができる。
斯かる方法により得られる糖たんぱく質医薬は、その糖鎖構造がヒト型でしかも同一であることから、医薬品としての均一性が保持されることになる。上述のように、抗体医薬や生理活性タンパク質を製造する上で、ヒト型糖鎖を供給し、酵母に発現させた糖タンパク質の酵母型糖鎖をヒト型糖鎖に置換する方法は、今後非常に有効な方法になりうると考えられている。
【0005】
しかしながら、大量のヒト型糖鎖を供給する方法は未だ確立されていないので、当該方法の確立が望まれている。
近年、ヒト型糖鎖の供給源として卵黄が注目されている。卵黄には主にヒト型糖鎖と同じ、2本鎖のN結合型複合型糖鎖が含まれているため、当該糖鎖を効率よく大量に抽出することができれば、卵黄を供給源としてヒト型糖鎖を供給することができる。
【0006】
例えば、特許文献1には、鶏卵由来脱脂卵黄(粉末)から11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを調製することが開示されている。また、特許文献1には、鶏卵由来脱脂卵黄に、アーモンド又は杏種子を添加することにより、アミノ酸やペプチドが結合していないシアル酸誘導体が得られることが開示されている。
非特許文献1には、鶏卵の可溶画分より抽出される糖鎖ペプチド(SGP:シアリルグリコペプチド)が得られることが開示されている。このSGPは、ヒト型糖鎖からなる11個の糖残基からなる複合型糖鎖の還元末端に、アミノ酸6残基からなるペプチド鎖のペプチド残基が結合した化合物である。
特許文献2には、シアル酸類含有オリゴ糖を、鳥類卵脱脂卵黄から水又は塩溶液で抽出することにより製造する方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、アミノ基に脂溶性保護基(Fmoc基又はBoc基)を導入して、糖鎖アスパラギン誘導体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第96/02255号パンフレット
【特許文献2】特開平8−99988号公報
【特許文献3】国際公開第2004/070046号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Akira Seko, Mamoru Koketsu, Masakazu Nishizono, Yuko Enoki, Hisham R. Ibrahim, Lekh Raj Juneja, Mujo Kim, Takehiko Yamamoto, Biochimica et Biophysica Acta, 1997, Vol.1335, p.23-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に開示された方法で調製される糖鎖アスパラギン誘導体は、1)脱脂卵黄をタンパク質分解酵素により糖鎖ペプチド混合物を製造する工程、2)糖鎖ペプチド混合物をペプチド分解酵素により糖鎖アスパラギン混合物を製造する工程、3)糖鎖アスパラギン混合物中の糖鎖アスパラギンに脂溶性の保護基を導入し糖鎖アスパラギン誘導体混合物を製造する工程、4)糖鎖アスパラギン誘導体混合物をクロマトグラフィーに供して各糖鎖アスパラギン誘導体を分離する工程などを含む、極めて煩雑な工程を経て得られている。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、鳥類卵脱脂卵黄より簡便に高純度かつ収率よく11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、鳥類卵脱脂卵黄を原料として、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法において、まず、鳥類卵脱脂卵黄から11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得、次いで、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物をアルコール沈殿して得られる沈殿物を脱塩する製造方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
鳥類卵脱脂卵黄から下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法であって、
鳥類脱脂卵黄から11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得、次いで、前記混合物からアルコール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び
前記糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程、を含む、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
式1:
【化1】

[2]
鳥類卵脱脂卵黄から下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法であって、
鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチド抽出液を得る抽出工程、
前記抽出液からアルコール沈殿させて、糖ペプチド沈殿物を得る沈殿工程、
前記沈殿物を脱塩して、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを得る工程、
前記糖ペプチドをペプチド分解酵素により分解して11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得る工程、
前記混合物からアルコール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び
前記糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程、を含む、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
式1:
【化2】

[3]
前記糖ペプチド沈殿物又は糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程が、前記沈殿物を樹脂へ保持し、次いで、水により洗浄する工程である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記樹脂が、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂である、[3]に記載の製造方法。
[5]
前記逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂が、化学結合型シリカゲル樹脂である、[4]に記載の製造方法。
[6]
前記脱塩が、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含有する有機溶媒水溶液により溶出する工程を含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記有機溶媒水溶液の濃度が0.1〜10%(v/v)である、[6]に記載の製造方法。
[8]
鳥類卵脱脂卵黄から下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法であって、
鳥類卵脱脂卵黄を水で抽出して糖ペプチド抽出液を得る抽出工程、
前記抽出液からエタノール沈殿して、糖ペプチド沈殿物を得る沈殿工程、
前記沈殿物をODS樹脂で脱塩して11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを得る工程、
前記糖ペプチドをペプチド分解酵素により分解して11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得る工程、
前記混合物からエタノール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び
糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程、を含む、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
式1:
【化3】

[9]
前記11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンが下記式2で表される構造である、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
式2:
【化4】

[10]
[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法によって得られる11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンのアスパラギンに由来するアミノ基に対し、脂溶性保護基を導入する工程、及び
アルコール沈殿工程、を含む、脂溶性保護基が導入された11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
[11]
前記脂溶性保護基が、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、トリチル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、アセチル基、フタロイル基、p−トルエンスルホニル基、及び2−ニトロベンゼンスルホニル基からなる群より選択される、[10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便に高純度かつ収率よく11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図2】実施例1において製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの1H−NMRチャートを示す。
【図3】実施例1においてODS樹脂を用いた溶出を再度行って製造された11糖シアリルオリゴ糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図4】実施例1において製造された11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンのHPLCチャートを示す。
【図5】実施例2において製造された11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンのHPLCチャートを示す。
【図6】実施例3において製造されたFmoc11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンのHPLCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本実施の形態の11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン(以下、単に、「糖鎖アスパラギン」と記載する場合がある。)の製造方法は、鳥類卵脱脂卵黄から11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得、次いで、前記混合物からアルコール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び、前記糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程を含む。
【0018】
本実施の形態において、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンとは、11個の糖残基からなる複合型糖鎖の還元末端にアスパラギンが結合している、下記式1で表される化合物を意味する。
式1:
【化5】

【0019】
本実施の形態の製造方法により、鳥類卵脱脂卵黄より工業的規模においても、簡便に、また、好ましくは安価に、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造することができる。
また、本実施の形態の好ましい態様において、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを、工業的規模で簡便な工程により、90%以上、好ましくは93%、より好ましく95%以上の高純度で、かつ収率よく製造することができる。
【0020】
本実施の形態において、鳥類卵脱脂卵黄から11糖シアリルオリゴ糖ペプチド混合物を得、さらに以下のような工程を行うことにより、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得ることができる(以下、単に、「11糖シアリルオリゴ糖ペプチド」を「糖ペプチド」と記載する場合がある。)。
斯かる工程として、鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチド抽出液を得る抽出工程、前記抽出液からアルコール沈殿させて、糖ペプチド沈殿物を得る沈殿工程、前記沈殿物を脱塩して、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを得る工程、及び前記糖ペプチドをペプチド分解酵素により分解して11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得る工程を含む。
【0021】
鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチド抽出液を得る抽出工程とは、鳥類卵脱脂卵黄を、水又は塩溶液に懸濁し、糖ペプチドの混合物などを抽出して、糖ペプチドの粗精製物である糖ペプチド抽出液を得る工程である。
糖ペプチド抽出液に含まれる糖ペプチドとしては、下記式3で表される化合物が挙げられる。
式3:
【化6】

【0022】
式3で表わされる糖ペプチドの糖鎖の還元末端には、アミノ酸6残基(Lys−Val−Ala−Asn−Lys−Thr)からなるペプチド鎖が結合している(配列番号1)。
【0023】
鳥類卵脱脂卵黄としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の脱脂卵黄や、鳥類卵から調製した脱脂卵黄が挙げられる。
鳥類卵としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル、カモ、ダチョウ、及びハトなどの卵が挙げられ、卵黄内に含まれる糖ペプチドの量が多いので、ニワトリの卵である鶏卵などが好ましい。
鳥類卵脱脂卵黄は、鳥類卵の全卵又は卵黄を、有機溶媒により脱脂処理することにより得ることができる。
鳥類卵としては、生の卵であってもよく、乾燥して得られる卵の乾燥粉末であってもよく、鶏卵卵黄及び鶏卵卵黄粉末などを用いることが好ましい。
【0024】
脱脂処理する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、鳥類卵に有機溶媒を添加して、沈殿物と有機溶媒層を分離する方法などが挙げられる。
脱脂処理に用いられる有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、及び2−プロパノールなどが挙げられ、有機溶媒として、1種の溶媒を用いてもよく、2種の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
脱脂処理において、鳥類卵に添加する有機溶媒の量として、特に限定されるものではないが、鳥類卵に対して、質量で、1〜5倍の有機溶媒を用いることにより脱脂処理を行うことができる。
脱脂処理は、特に限定されるものではないが、0〜25℃の温度で行うことができる。
【0025】
鳥類卵に有機溶媒を添加した後、有機溶媒と鳥類卵とをよく撹拌することにより、有機溶媒により鳥類卵に含まれる脂分を除去することができる。
有機溶媒と沈殿物とを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよい。
有機溶媒を用いた脱脂処理は、特に限定されるものではないが、2〜6回行うことが好ましい。
【0026】
鳥類卵脱脂卵黄に水又は塩溶液を添加して、鳥類卵脱脂卵黄から糖ペプチドを抽出する方法は、特に限定されるものではない。抽出工程において用いられる塩溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩化ナトリウム水溶液及びリン酸緩衝液などが挙げられ、塩溶液として、1種の塩溶液を用いてもよく、2種以上の塩溶液の混合塩溶液を用いてもよい。
塩溶液の濃度としては、特に限定されるものではないが、0.0001〜2.0%(w/v)である。鳥類卵脱脂卵黄に添加する水又は塩溶液の量として、特に限定されるものではないが、鳥類卵脱脂卵黄に対して、質量で、0.1〜50倍の水又は塩溶液を用いることにより糖ペプチドの抽出を行うことができる。
糖ペプチドの抽出は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
【0027】
鳥類卵脱脂卵黄に水又は塩溶液を添加した後、鳥類卵脱脂卵黄と水又は塩溶液とをよく撹拌することにより、水又は塩溶液により鳥類卵脱脂卵黄に含まれる糖ペプチドを抽出することができる。
水又は塩溶液で抽出した糖ペプチドを含有する抽出液(糖ペプチド抽出液)と、鳥類卵脱脂卵黄とを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよい。
水又は塩溶液を用いた抽出処理は、特に限定されるものではないが、2〜6回行うことが好ましく、2〜4回行うことがより好ましい。
抽出工程は、水を用いて行うことが好ましい。
【0028】
糖ペプチド抽出液からアルコール沈殿させて、糖ペプチド沈殿物を得る沈殿工程とは、抽出工程で得られた、糖ペプチドを含有する抽出液をアルコールに添加することにより、糖ペプチドの抽出液を濃縮するだけでなく精製度の向上した糖ペプチドを沈殿物(糖ペプチド沈殿物)として得る工程である。沈殿工程においては、抽出液にアルコールを添加することで、粗精製物として、糖ペプチド沈殿物を沈殿させてもよい。
本実施の形態において、アルコールとは、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコールからなる群から選択される溶媒が挙げられる。また1種の溶媒を用いてもよく、2種以上の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。特に、炭素数1〜5からなるアルコールであることが好ましく、沈殿工程において、水溶性有機溶媒がアルコールである場合、該沈殿工程は、糖ペプチド抽出液をアルコールに添加して糖ペプチドを沈殿させて、糖ペプチド沈殿物を得る工程(以下、「アルコール沈殿工程」と記載する場合がある。)であり、抽出工程で得られた、糖ペプチド抽出液をアルコールに添加することにより、糖ペプチドの抽出液を濃縮するだけでなく精製度の向上した糖ペプチドを沈殿物として得るアルコール沈殿工程である。
【0029】
アルコール沈殿工程に用いられるアルコールの量として、特に限定されるものではないが、抽出液に対して、質量で、2〜20倍のアルコールを用いることにより糖ペプチドの抽出を行うことができる。またアルコール沈殿工程に用いられるアルコールとしては、炭素数1〜5個のアルコールが好ましく、炭素数1〜3個のアルコールがより好ましい。炭素数1〜3個のアルコールとしては具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール(イソプロパノール)を挙げることができ、メタノール及びエタノールが好ましく、中でもエタノールが好ましい。医療用用途あるいは医薬用用途として糖ペプチドを用いる場合には、アルコール沈殿工程に用いられるアルコールはエタノールを用いることが好ましい。
本実施の形態において、アルコール沈殿工程において用いるアルコールとしては、1種のアルコールを用いてもよく、2種以上のアルコールの混合溶媒を用いてもよく、アルコールと他の溶媒との混合溶媒を用いてもよい。
アルコール溶媒が混合物である場合、例えば、メタノール又は2−プロパノールをエタノールに対し0.01〜50%添加した混合溶媒を用いてもよい。また、エタノールに対しアセトン、アセトニトリル又はジエチルエーテルを0.01〜50%添加した混合溶媒を用いてもよい。
【0030】
糖ペプチドの抽出は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
【0031】
アルコール沈殿工程で用いる、先の抽出工程により得られた糖ペプチド抽出液は、沈殿工程の前に、抽出液をろ過することで、清澄な抽出液とすることもでき、また、減圧濃縮などにより濃縮して得られる抽出液の濃縮液を用いてもよい。
【0032】
アルコール沈殿工程において、糖ペプチドを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよく、4〜25℃で静置することで分離してもよい。
得られた糖ペプチドを、水又は塩溶液に溶解し、再度アルコール沈殿工程を行うことにより、より精製された糖ペプチドを得ることができる。アルコールに対し糖ペプチドは溶解しないので、アルコール沈殿工程は不純物除去のために必要に応じて繰り返すことができる。アルコール沈殿工程を繰り返し行うことにより、より精製された糖ペプチドを得ることができ、糖ペプチドの沈殿は、特に限定されるものではないが、2〜6回行うことが好ましく、2〜4回行うことがより好ましい。
【0033】
糖ペプチド沈殿物を脱塩する脱塩工程とは、沈殿工程で得られた糖ペプチドを含有する粗精製物としての沈殿物(糖ペプチド沈殿物)から塩を除去する工程である。
脱塩工程としては、脱塩方法として知られた種々の公知の方法で行うことができ特に限定されるものではない。脱塩工程は、特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、イオン交換膜、ゲルろ過、透析膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜などを用いて脱塩することが可能である。脱塩工程としては、例えば、沈殿工程で得られた沈殿物を樹脂へ保持させ、次いで、水により洗浄することにより脱塩することもできる。
また、本実施の形態においては、上述した抽出工程と沈殿工程を行うことにより得られる沈殿物を脱塩することにより、工業的規模で簡便に11糖シアリルオリゴ糖ぺプチドを製造することができる。
特許文献1に記載されるような従来の方法においては、鶏卵由来脱脂卵黄(粉末)から水で抽出、逆浸透膜により濃縮、陰イオン交換樹脂に吸着させた後、脱塩してNaCl水溶液による溶出を行い、濃縮し、再度、脱塩工程を行う必要があり、工業的規模で行うには簡便な方法であるとは言えない。
【0034】
沈殿物の樹脂への保持は、吸着、担持など公知の結合様式を利用した保持方法により、沈殿物を樹脂へ保持させることができる。また、沈殿物は、水で洗浄する際に、沈殿物が洗浄液と共に流出しない程度に、保持されていればよい。
樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂などが挙げられ、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂とは、シリカゲル系、ポリマー系を代表とする樹脂を意味し、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ(スチレン/ジビニルベンゼン)ポリマーゲル樹脂、ポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂、ポリヒドロキシメタクリレート樹脂、スチレンビニルベンゼン共重合体樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、化学結合型シリカゲル樹脂などが挙げられる。
化学結合型シリカゲル樹脂とは、特に限定されるものではないが、例えば、多孔性シリカゲルにジメチルオクタデシルクロロシランの様なシランカップリング剤を反応させて製造する樹脂などが挙げられ、シリカゲルに対し、同様の手法で異なるシリル化剤を用いることで、ジメチルオクタデシル、オクタデシル(C18)、トリメチルオクタデシル、ジメチルオクチル、オクチル(C8)、ブチル、エチル、メチル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル基からなる群から選択される基を化学結合することで得られる樹脂などが挙げられる。あるいは炭素数22のドコシル(C20)基及び炭素数30のトリアコンチル(C30)基を結合して得られる樹脂であってもよい。
本実施の形態において、好ましい化学結合型シリカゲル樹脂として、シリカゲルを基材として、オクタデシル基が担持された、オクタデシル基結合シリカゲル樹脂(ODS樹脂)が挙げられる。
【0035】
脱塩工程は、脱塩した後に樹脂に保持されている糖ペプチド(11糖シアリルオリゴ糖ペプチド)を、有機溶媒水溶液により溶出する工程を含むことが好ましく、脱塩工程において脱塩した後に、有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する溶出工程を行うことにより11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの純度を向上させることができる。より好ましい態様においては、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの純度を90%以上、好ましくは93%、より好ましく95%以上とすることができる。例えば、再度、脱塩工程(溶出工程)を繰り返すことで糖ペプチドの純度をさらに向上させることができる。糖ペプチドの純度を向上させることは、例えばEndo−Mの様な糖転移酵素を用いて、本実施の形態において得られた糖ペプチドの糖鎖部分を他の糖鎖あるいは糖鎖誘導体へ転移反応を行う場合(ペプチド鎖中の糖鎖へ転移する場合も含む)には、不純物による妨害反応が減少し、目的の転移反応の反応効率が向上するのでより好ましい。
溶出工程に用いる有機溶媒は、例えば、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含有し、有機溶媒水溶液の濃度が、有機溶媒の水溶液中での濃度として、0.1〜20%(v/v)であることが好ましく、0.1〜10%(v/v)であることがより好ましい。
【0036】
脱塩工程又は溶出工程は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
【0037】
脱塩工程としては、樹脂を用いた脱塩工程以外にも、分離膜を用いることにより沈殿工程で得られた沈殿物から脱塩することが可能である。
斯かる脱塩工程としては、例えば、限外ろ過膜又は逆浸透膜を用いることで沈殿物の脱塩を行うことができる。
脱塩工程に用いる膜としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、芳香族ポリアミド、酢酸セルロース、ポリビニルアルコールを構成基材とする平膜又は中空糸膜、スパイラル膜又はチューブラー膜などが挙げられる。該膜として、さらにはイオン交換樹脂、イオン交換膜、ゲルろ過、透析膜、限外ろ過膜あるいは逆浸透膜で脱塩することも可能である。
【0038】
本実施の形態において、糖ペプチドを精製する方法としては、公知のペプチド、糖質、又は糖ペプチドなどの精製方法を用いることができるが、特に限定されるものではない。例えば、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー又はサイズ排除クロマトグラフィーなどが挙げられる。逆相クロマトグラフィーに用いられる担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカを基材としてオクタデシル、オクチル、フェニル、シアノプロピル、メチルなどを充填剤表面に固定化したものが挙げられ、その中でODS樹脂などが挙げられる。
【0039】
ODS樹脂などのシリカゲル樹脂充填剤を用いたカラムクロマトグラフィーによる精製方法においては、沈殿により得られた糖ペプチド中に含まれる塩を脱塩する工程を含んでいてもよく、有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する工程を含んでいてもよい。
糖ペプチドを添加して保持させたシリカゲル樹脂に対し、質量で、1〜50倍の水を用いて樹脂を洗浄することにより糖ペプチドの脱塩を行うことができる。脱塩工程が、糖ペプチド沈殿物を樹脂に、好ましくは、ODS樹脂に保持し、水でより洗浄し、次いで有機溶媒水溶液により11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを溶出する工程を含んでいてもよい。
【0040】
脱塩を行った後に、有機溶媒水溶液により溶出することにより糖ペプチドを得ることができる。より好ましい態様においては、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドの純度を90%以上、好ましくは93%、より好ましく95%以上、更に好ましくは99%以上とすることができる。
糖ペプチドを添加することで糖ペプチドを保持させたODS樹脂などのシリカゲル樹脂に対し、質量で、樹脂の1〜50倍の有機溶媒水溶液を用いて樹脂から溶出させることにより糖ペプチドを得ることができる。
【0041】
有機溶媒水溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒の水溶液などが挙げられる。
有機溶媒水溶液としてはアセトニトリルが好ましく、特にアセトニトリル水溶液で溶出工程を実施することで、不純物の1つである末端シアル酸が部分的に切断された糖ペプチドと、所望の糖ペプチドとの溶出工程における分離の純度向上が著しく、95%以上の純度で糖ペプチドを得ることができる。
有機溶媒水溶液の濃度は0.1〜20%(v/v)であることが好ましく、より好ましくは0.5〜20%(v/v)であり、さらに好ましくは10%(v/v)以下、よりさらに好ましくは5%(v/v)以下である。有機溶媒水溶液の濃度は、0.5〜3%(v/v)が好ましい。
【0042】
特許文献1に記載されるような従来の方法においては、樹脂からの溶出操作において、例えば、陰イオン交換樹脂などを用いた場合には樹脂に吸着させた後、塩溶液又は酸性溶液による溶出操作が必要となる。ところが、酸性溶液で溶出する場合、末端シアル酸が糖ペプチドから脱離することも考えられることから好ましくない。また、塩溶液での溶出の場合は溶出液からの脱塩処理を再度行う必要が生じ、大量製造においては工程数の増加となる。本実施の形態においては、溶出工程において好ましくは有機溶媒水溶液にて溶出することにより、溶出液の脱塩操作を必要としないため工程数を減少させることができるので大量製造に適する。また、本実施の形態における方法では、溶出液の濃縮時のpH変化も起こらず糖ペプチドの糖鎖部分の分解もこれまで開示された方法に比べて少ない点で有利である。
有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する工程においては、水から徐々に、溶出液としての有機溶媒水溶液にグラジエントをかけて溶出を行ってもよい。
【0043】
溶出された糖ペプチドは、有機溶媒水溶液の減圧濃縮及び乾燥などにより粉末状の糖ペプチドとして得ることができる。
本実施の形態において、得られた糖ペプチドは、再度アルコール沈殿工程を行ってさらに精製してもよい。また、ODS樹脂などのシリカゲル樹脂に対し、再度糖ペプチドを吸着させ、質量で、樹脂の1〜50倍の有機溶媒水溶液を用いて再度樹脂から溶出させることにより、より高純度(99%以上)の糖ペプチドを得ることができる。
【0044】
11糖シアリルオリゴ糖ペプチドをペプチド分解酵素により分解して11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得る工程は、糖ペプチドのペプチド部分を選択的に加水分解することで、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを含む酵素分解物の混合物(11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物)を得る工程である。通常、アスパラギン混合物は、糖鎖アスパラギンを含む酵素反応液として得ることができる。
該工程においては、上記式4で表される11糖シアリルオリゴ糖ペプチドが、ペプチド分解酵素により酵素分解されて、上記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンへと変換される。一般的には、糖鎖アスパラギンの立体化学は、糖ペプチドの立体化学が保持される形式で、酵素分解が行われる。
【0045】
ペプチド分解酵素としては、例えば、プロナーゼ(和光純薬社製)、アクチナーゼ-E(科研製薬社製)、オリエンターゼなど、一般のカルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼなどのプロテアーゼを使用することができる。
プロテアーゼとしては、至適pHを7〜8に有するエンド型プロテアーゼが挙げられ、例えば、Aspergillus属、Bacillus属などの産生するプロテアーゼなどが考えられる。
具体的には、オリエンターゼONS、90N(阪急バイオ社製)、プロテアーゼN(天野製薬社製)、AOプロテアーゼ(盛進製薬社製)などの食品添加物用プロテアーゼなどがあり、また他の起源であるアクチナーゼE、キモトリプシン、トリプシンなどの酵素などが挙げられる。
酵素分解反応は、各プロテアーゼの至適pH・温度・イオン強度において行うことで11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンへ進行させることができる。
分解反応条件として、pH7〜8、温度30〜50℃、イオン強度0.1〜1.0で酵素分解反応を行うことが好適である。
また、酵素分解反応におけるペプチド分解酵素の酵素量は、脱脂卵黄に対し0.03〜20%(w/w)加えることにより効率良く11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンへと酵素分解反応を行うことができる。
【0046】
次いで、アルコールを用いた糖鎖アスパラギンの沈殿工程において糖鎖アスパラギン混合物を分離する。
11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物からアルコール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る工程は、酵素反応工程で得られた糖鎖アスパラギンを含有する混合物(糖鎖アスパラギン混合物)をアルコールに添加することにより、糖鎖アスパラギンの混合物を濃縮するだけでなく精製度の向上した糖鎖アスパラギンを沈殿物(糖鎖アスパラギン沈殿物)として得る工程である。
本沈殿工程においては、混合物にアルコールを添加することで、粗精製物として、糖鎖アスパラギンを沈殿させてもよい。この工程において糖鎖アスパラギンと酵素が主に沈殿生成物として得られる。
【0047】
本実施の形態において、本沈殿工程は、糖ペプチド抽出液からアルコール沈殿させて、糖ペプチド沈殿物を得る上記沈殿工程として記載する方法と同様にして行うことができる。また、本沈殿工程を上記アルコール沈殿工程として行ってもよい。
本実施の形態における、アルコールとは、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコールからなる群から選択される溶媒が挙げられる。また1種の溶媒を用いてもよく、2種以上の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。特に、炭素数1〜5からなるアルコールであることが好ましく、沈殿工程において、水溶性有機溶媒がアルコールである場合、該沈殿工程は、糖鎖アスパラギンの抽出液をアルコールに添加して糖鎖アスパラギンを沈殿させる工程(以下、「アルコール沈殿工程」と記載する場合がある。)であり、抽出工程で得られた、糖鎖アスパラギンを含有する抽出液をアルコールに添加することにより、糖鎖アスパラギンの混合液を濃縮するだけでなく精製度の向上した糖鎖アスパラギンを沈殿物として得るアルコール沈殿工程である。
【0048】
アルコール沈殿工程に用いられるアルコールの量として、特に限定されるものではないが、酵素反応液に対して、質量で、2〜20倍のアルコールを用いることにより糖鎖アスパラギンの抽出を行うことができる。またアルコール沈殿工程に用いられるアルコールとしては、炭素数1〜5個のアルコールが好ましく、炭素数1〜3個のアルコールがより好ましい。炭素数1〜3個のアルコールとしては具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール(イソプロパノール)を挙げることができ、メタノール及びエタノールが好ましく、中でもエタノールが好ましい。医療用用途あるいは医薬用用途として糖鎖アスパラギンを用いる場合には、アルコール沈殿工程に用いられるアルコールはエタノールを用いることが好ましい。アルコール溶媒が混合物である場合、例えば、メタノール又は2−プロパノールをエタノールに対し0.01〜50%添加した混合溶媒を用いてもよい。また、エタノールに対しアセトン、アセトニトリル又はジエチルエーテルを0.01〜50%添加した混合溶媒を用いてもよい。
【0049】
糖鎖アスパラギンの抽出は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
【0050】
アルコール沈殿工程において、糖鎖アスパラギンを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよく、4〜25℃で静置することで分離してもよい。
得られた糖鎖アスパラギンを、水又は塩溶液に溶解し、再度アルコール沈殿工程を行うことにより、より精製された糖鎖アスパラギンを得ることができる。アルコールに対し糖鎖アスパラギンは溶解しないので、アルコール沈殿工程は不純物除去のために必要に応じて繰り返すことができる。アルコール沈殿工程を繰り返し行うことにより、より精製された糖鎖アスパラギンを得ることができ、糖鎖アスパラギンの沈殿は、特に限定されるものではないが、2〜6回行うことが好ましく、2〜4回行うことがより好ましい。
【0051】
次いで、糖鎖アスパラギン及び混合物の脱塩工程において糖鎖アスパラギンを分離する。
糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程とは、沈殿工程で得られた糖鎖アスパラギンを含有する粗精製物としての沈殿物(糖鎖アスパラギン沈殿物)から塩、ペプチド及びアミノ酸などの低分子量化合物あるいは酵素等を除去する工程である。
本脱塩工程は、糖ペプチド沈殿物を脱塩する上記脱塩工程として記載する方法と同様にして行うことができる。
脱塩工程としては、脱塩方法として知られた種々の公知の方法で行うことができ特に限定されるものではない。脱塩工程は、特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、イオン交換膜、ゲルろ過、透析膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜などを用いて脱塩することが可能である。脱塩工程としては、例えば、アルコール沈殿工程で得られた沈殿物を樹脂へ保持させ、次いで、水により洗浄することにより脱塩することもできる。
具体的には、公知のクロマトグラフィー、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、ODS樹脂などのシリカゲル樹脂充填剤を用いたカラムクロマトグラフィーにより得られた糖鎖アスパラギン中に含まれる塩を脱塩する工程を含んでいてもよい。この脱塩工程において糖鎖アスパラギンに分離する。
【0052】
糖鎖アスパラギンの脱塩工程は、特に限定されるものではないが、4〜25℃の温度で行うことができる。
脱塩を行った後に、有機溶媒水溶液により溶出することにより糖鎖アスパラギンを得ることができる。より好ましい態様においては、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの純度を90%以上、好ましくは93%、より好ましく95%以上とすることができる。
【0053】
本実施の形態において、糖鎖アスパラギンを精製する方法としては、上述の糖ペプチドを精製する方法と同様にして、公知のペプチド、糖質、又は糖ペプチドなどの精製方法を用いることができるが、特に限定されるものではない。例えば、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー又はサイズ排除クロマトグラフィーなどが挙げられる。逆相クロマトグラフィーに用いられる担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカを基材としてオクタデシル、オクチル、フェニル、シアノプロピル、メチルなどを充填剤表面に固定化したものが挙げられ、その中でODS樹脂などが挙げられる。
【0054】
ODS樹脂などのシリカゲル樹脂充填剤を用いたカラムクロマトグラフィーによる精製方法においては、沈殿により得られた糖鎖アスパラギン中に含まれる塩を脱塩する工程を含んでいてもよく、有機溶媒水溶液により糖鎖アスパラギンを溶出する工程を含んでいてもよい。
糖鎖アスパラギンを添加して保持させたシリカゲル樹脂に対し、質量で、1〜50倍の水を用いて樹脂を洗浄することにより糖鎖アスパラギンの脱塩を行うことができる。脱塩工程が、糖鎖アスパラギン沈殿物を樹脂に、好ましくは、ODS樹脂に保持し、水でより洗浄し、次いで有機溶媒水溶液により11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを溶出する工程を含んでいてもよい。
【0055】
本実施の形態における製造方法により得られる11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンは、下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンである。
式1:
【化7】

糖鎖アスパラギンとしては、下記式2で表される構造であってもよい。
式2:
【化8】

【0056】
本実施の形態において、上記のようにして得られる糖鎖アスパラギンのアスパラギンに由来するアミノ基に対し、脂溶性保護基を導入する工程、及びアルコール沈殿工程、を含む、脂溶性保護基が導入された11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法をも提供する(以下、単に、「脂溶性保護基が導入された11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン」を「糖鎖アスパラギン誘導体」と記載する場合がある。)。
【0057】
本実施の形態において、「脂溶性保護基が導入された」とは、糖鎖アスパラギンのアスパラギンに由来するアミノ基に、脂溶性保護基が結合していることを意味する。
【0058】
脂溶性保護基としては、カーバメート系、アシル系、イミド系、アルキル系、スルホンアミド系から選択される脂溶性保護基が挙げられる。カーバメート系保護基としては、tert−ブトキシカルボニル(Boc)基、ベンジルオキシカルボニル(Z又はCbz)基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル(Troc)基、アリルオキシカルボニル基(Alloc)基等が挙げられ、アシル系保護基としては、アセチル(Ac)基等が挙げられ、イミド系保護基としては、フタロイル(Pht)基等が挙げられ、アルキル系保護基としては、トリチル(Trt)基等が挙げられ、スルホンアミド系保護基としては、p−トルエンスルホニル基(Ts又はTos)基、2−ニトロベンゼンスルホニル(Ns)基等が挙げられる。なお、上記記載した略号は例示であり、また、例えば、p−トルエンスルホニル基は、トシル基と別名で記載される場合もあるように、本実施の形態において上記例示する脂溶性保護基としては、上記している基が示す構造を有している基であればよい。
【0059】
脂溶性保護基をアスパラギンのアミノ基に導入する方法は、特に限定されないが、通常のペプチド合成に用いる縮合方法を用いることができる。
例えば、Protective Groups in Organic Synthesis,Theodora W. Greene and Peter G. M. Wuts,JOHN WILLY & SONS, INC.に記載された方法を適宜用いることができる。
例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノールなどの活性エステルによりカルボキシル基が活性化されたアミノ基脂溶性保護試薬を、必要に応じて、試薬を溶解できるアセトン、アセトニトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒と水との混合溶媒中で、有機アミンなどの有機塩基、炭酸水素ナトリウム、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液等の無機塩基の存在下、氷冷下又は室温下で15分〜180分反応させる方法が挙げられる。
アミノ基脂溶性保護試薬は、アスパラギンのアミノ基に対して過剰量、例えばアミノ基の1モルに対して1.1モルから3モルのアミノ基脂溶性保護試薬を添加することで、アスパラギンのアミノ基に脂溶性保護基を導入することができる。
【0060】
本実施の形態の糖鎖アスパラギン誘導体の製造方法においては、アルコール沈殿工程を介して糖鎖アスパラギン誘導体が得られるが、必要に応じてアセトン、アセトニトリル又はジエチルエーテル等を添加したアルコール沈殿工程のみで、純度95%程度の糖鎖アスパラギン誘導体を得ることができる。更に高純度の糖鎖アスパラギン誘導体を得るためには、必要に応じて脱塩工程を組み合わせることで達成される。すなわち、ODS樹脂などのシリカゲル樹脂に添加し水で溶出し脱塩を行った後に、有機溶媒水溶液により溶出することにより糖鎖アスパラギン誘導体を得ることができる。すなわち糖鎖アスパラギン誘導体を添加して、糖鎖アスパラギン誘導体を保持させたODS樹脂などのシリカゲル樹脂に対し、質量で、1〜50倍の有機溶媒水溶液を用いて樹脂から溶出させることで、より高純度の糖鎖アスパラギン誘導体を得ることができる。
【0061】
有機溶媒水溶液としては、例えば、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒の水溶液などが挙げられ、有機溶媒水溶液の濃度は0.1〜70%(v/v)であり、好ましくは1〜50%(v/v)である。有機溶媒水溶液により糖鎖アスパラギン誘導体を溶出する工程においては、水から徐々に濃度を上げていき溶出を行えばよく、又は有機溶媒水溶液である溶出液にグラジエントをかけて溶出を行ってもよい。
【0062】
溶出された糖鎖アスパラギン誘導体は、有機溶媒水溶液の減圧濃縮及び乾燥などにより粉末状の糖鎖アスパラギン誘導体として得ることができる。本実施の形態において、得られた糖鎖アスパラギン誘導体は、再度アルコール沈殿工程あるいは脱塩工程を行ってさらに精製してもよい。
【0063】
また、トリフェニルメチルクロライドをDMF、DMSO等の有機溶媒と水との混合溶媒中で、有機アミンなどの有機塩基存在下、室温下で4時間〜2日反応させる方法によりアスパラギンのアミノ基にトリチル基を導入することができる。糖鎖アスパラギン誘導体の精製は、必要に応じてアセトン、アセトニトリル又はジエチルエーテル等を添加したアルコール沈殿工程のみで、高純度の糖鎖アスパラギン誘導体を得ることができる。
以上、本実施の形態において、脂溶性保護基が導入された糖鎖アスパラギンの精製においてはアルコール沈殿工程が重要であり、クロマトグラフィーに供さずに、この工程のみでも高純度の生成物を得ることができる。
【0064】
糖鎖アスパラギン誘導体の製造方法における、アルコール沈殿工程や脱塩工程などの工程については、上記した方法と同様に、また、参考にして実施することができる。
【実施例】
【0065】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0066】
[HPLC分析]糖ペプチド
カラム(Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm))を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。
測定条件:
グラジエント;2%→17%(15min)、CH3CN in 0.1%TFA solution
流速;0.3mL/min
UV;214nm
【0067】
1H−NMR測定]糖ペプチド
2O 0.4mLに試料 2mgを溶解して、JEOL製JNM−600(600MHz)で1H−NMRを測定した。
【0068】
[HPLC分析]糖鎖アスパラギン(実施例1)
カラム(Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm))を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。
測定条件:
グラジエント;0%→15%(30min)、CH3CN in 0.1%TFA solution
流速;0.3mL/min
UV;214nm
[HPLC分析]糖鎖アスパラギン(実施例2)
カラム(Mightysil RP−18 GP Aqua(関東化学、150×2mm))を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。
測定条件:
グラジエント;0%→10%(15min)、CH3CN in 0.1%TFA solution
流速;0.2mL/min
UV;214nm
[HPLC分析]Fmoc糖鎖アスパラギン(実施例3)
カラム(Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm))を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。
測定条件:
グラジエント;20%→100%(15min)、CH3CN in 0.1%TFA solution
流速;0.2mL/min
UV;214nm
【0069】
以下の測定条件でLC/MS測定を行った。用いたLC及びMSのシステムは以下のとおりである。
[LC/MS測定]糖鎖アスパラギン(実施例1)
LC:アジレント製1100シリーズ
カラム:Imtakt,Scherzo−C18 (150×2mmI.D.)
カラム温度:40℃
流速;0.2mL/min
UV:214nm
グラジエント;A=水(0.05% HCOOH)
B=0.1M HCOONH4/CH3CN(1/1)
B%:2%→100%(20min)
MS:サーモエレクトロン(ThermoElectron)製LCQ
イオン化:ESI
モード:Positive,Negative
[LC/MS測定]Fmoc糖鎖アスパラギン(実施例3)
LC:アジレント製1100シリーズ
カラム:Imtakt,Cadenza CD−C18 (150×2mmI.D.)
カラム温度:40℃
流速;0.2mL/min
UV:214nm
グラジエント;A=水(0.1% TFA)
B=CH3CN(0.1% TFA)
B%:20%→100%(20min)
MS:サーモエレクトロン(ThermoElectron)製LCQ
イオン化:ESI
モード:Positive,Negative
【0070】
[実施例1]
鶏卵卵黄20個にエタノール500mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール500mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄270gを得た。
得られた上記脱脂卵黄270gに水500mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、350mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール1500mLに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、再度エタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド2.58gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)40gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド2.5gを水20mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水200mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで212mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLC及び1H−NMRによる測定結果をそれぞれ図1及び2に示す。HPLCによる純度では95%であった。得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により下記式4で表される構造であることが分かった(配列番号2)。
式4:
【化9】

【0071】
さらにODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)40gをガラスカラムに充填し、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。上記で得られた糖ペプチド100mgを水5mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを再度溶出した。溶出液を凍結乾燥することで70mgの糖ペプチドを得た。得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図3に示す。HPLCによる純度は99%であった。
【0072】
上記糖ペプチド10mgを0.5mLのトリス−塩酸・塩化カルシウム緩衝溶液(50nmM TrisHCl、10mM塩化カルシウム、10mM NaN3 pH7.5)に溶解し0.1mLの同緩衝液に溶解した1mg科研製薬製AcitnaseEを加え37℃で3日間攪拌した。その後反応液を5mLエタノールに注加し8,000rpmで5分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を水0.5mLに溶解し、5mLエタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。最終沈殿物を水0.5mLに溶解しゲルろ過カラムクロマトグラフィー(PD−10カラム、Sephadex G−25樹脂、8mL)により水溶離液による脱塩を行い、その後凍結乾燥することで目的とする11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン4.5mg(収率55.2%)を得た。
【0073】
得られた糖鎖アスパラギンのHPLCによる測定結果を図4に示す。HPLCによる純度は95%であった。得られた糖鎖アスパラギンはLC/MS測定により1169.5([M+2H]2+)及び1167.7([M−2H]2-)であり上記式1で表される化合物の分子量2337と一致することが分かった。
【0074】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた、糖ペプチド100mgを5mLのトリス−塩酸・塩化カルシウム緩衝溶液(50nmM TrisHCl、10mM塩化カルシウム、10mM NaN3 pH7.5)に溶解し1mLの同緩衝液に溶解した50mg科研製薬製AcitnaseEを加え37℃で7日間攪拌した。その後反応液を20mLエタノールに注加し8,000rpmで5分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を水1mLに溶解し10,000rpmで分遠心分離したが沈殿は見られなかった。またデカンテーションによるEtOH層には糖鎖アスパラギンが検出されなかった。次いで水溶液を10mLエタノールに注加し、10,000rpmで3分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を回収した。この操作を3回繰り返した。最終沈殿物を水0.5mLに溶解しゲルろ過カラムクロマトグラフィー(PD−10カラム、Sephadex G−25樹脂、8mL)に添加し水で溶出することで脱塩を行い、その後凍結乾燥することで粗精製11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン66.4mgを得た。次いでODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)を用いて水で溶出するカラムクロマトグラフィーを行い目的とする11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン50mg(収率61%)を得た。
得られた糖鎖アスパラギンのHPLCによる測定結果を図5に示す。糖鎖アスパラギンはLC/MS測定によれば1167.7([M−2H]2-)であり上記式1で表される糖鎖アスパラギンと一致することが分かった。
【0075】
[実施例3]
実施例2で得られた糖鎖アスパラギン5mgを1mLの水に溶解し、DMF0.5mLを加えた、次いでFmoc−OSu(N−(9−Fluorenylmethoxycarnonyloxy)succinimide)6mgを1.5mLのDMFに溶解したものを加えた。次いで1M NaHCO3 0.1mLを加え室温下6時間反応を行った。
その後反応液を10mLエタノールに注加し9,000rpmで3分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を水0.5mLに溶解し10mLエタノールに注加し、9,000rpmで3分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を回収した。この操作を3回繰り返した。沈殿物を0.5mLの水に溶解し凍結乾燥することで目的とする糖鎖アスパラギンのアスパラギンに由来するアミノ基がFmoc化されたFmoc糖鎖アスパラギン5mgを得た。
得られたFmoc糖鎖アスパラギンのHPLCによる測定結果を図6に示す。HPLCによる純度は95%であった。得られたFmoc糖鎖アスパラギンはLC/MSにより1280.7([M+2H]2+)及び1278.8([M−2H]2-)であることから、分子量2558.89である下記式5で表される構造であることが示唆された。
式5:
【化10】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを鳥類卵脱脂卵黄より工業的規模で簡便に高純度かつ収率よく製造する方法を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0077】
配列番号1は、式3で表わされる化合物における、Asn残基を介して糖鎖の還元末端と結合するアミノ酸配列である。
配列番号2は、式4で表わされる化合物における、Asn残基を介して糖鎖の還元末端と結合するアミノ酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類卵脱脂卵黄から下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法であって、
鳥類脱脂卵黄から11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得、次いで、前記混合物からアルコール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び
前記糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程、を含む、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
式1:
【化1】

【請求項2】
鳥類卵脱脂卵黄から下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法であって、
鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して糖ペプチド抽出液を得る抽出工程、
前記抽出液からアルコール沈殿させて、糖ペプチド沈殿物を得る沈殿工程、
前記沈殿物を脱塩して、11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを得る工程、
前記糖ペプチドをペプチド分解酵素により分解して11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得る工程、
前記混合物からアルコール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び
前記糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程、を含む、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
式1:
【化2】

【請求項3】
前記糖ペプチド沈殿物又は糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程が、前記沈殿物を樹脂へ保持し、次いで、水により洗浄する工程である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂が、逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記逆相分配クロマトグラフィー充填用樹脂が、化学結合型シリカゲル樹脂である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記脱塩が、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含有する有機溶媒水溶液により溶出する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒水溶液の濃度が0.1〜10%(v/v)である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
鳥類卵脱脂卵黄から下記式1で表される11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンを製造する方法であって、
鳥類卵脱脂卵黄を水で抽出して糖ペプチド抽出液を得る抽出工程、
前記抽出液からエタノール沈殿して、糖ペプチド沈殿物を得る沈殿工程、
前記沈殿物をODS樹脂で脱塩して11糖シアリルオリゴ糖ペプチドを得る工程、
前記糖ペプチドをペプチド分解酵素により分解して11糖シアリルオリゴ糖アスパラギン混合物を得る工程、
前記混合物からエタノール沈殿して、糖鎖アスパラギン沈殿物を得る沈殿工程、及び
糖鎖アスパラギン沈殿物を脱塩する脱塩工程、を含む、11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
式1:
【化3】

【請求項9】
前記11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンが下記式2で表される構造である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
式2:
【化4】

【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンのアスパラギンに由来するアミノ基に対し、脂溶性保護基を導入する工程、及び
アルコール沈殿工程、を含む、脂溶性保護基が導入された11糖シアリルオリゴ糖アスパラギンの製造方法。
【請求項11】
前記脂溶性保護基が、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、トリチル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、アセチル基、フタロイル基、p−トルエンスルホニル基、及び2−ニトロベンゼンスルホニル基からなる群より選択される、請求項10に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−191932(P2012−191932A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45417(P2012−45417)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】