説明

11C標識アミノ酸類似体の製造方法および核医学画像診断薬

【課題】炭素の放射性同位体で標識された11C標識アミノ酸類似体を簡便に製造することのできる11C標識アミノ酸類似体の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素の放射性同位体で標識された11C標識アミノ酸類似体を製造する11C標識アミノ酸類似体の製造方法であって、ジメチルスルホキシド溶液(DMSO)中で、R1(R2)C=N−CH(CH3)−COOR3と、[11C]H3Xと、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(TBAF)と、を反応させる第1ステップS1と、前記第1ステップS1後、1〜2Mのアルカリ性の水溶液を加えて反応させる第2ステップS2と、前記第2ステップS2後、1〜2Mの酸性の水溶液を加えて反応させ、11C標識アミノ酸類似体を製造する第3ステップS3と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、PETやSPECTなどの核医学画像診断を行う際に使用される核医学画像診断薬に係り、より詳しくは、当該核医学画像診断薬の有効成分として含有できる11C標識アミノ酸類似体の製造方法およびこれによって製造された11C標識アミノ酸類似体を有効成分とする核医学画像診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性同位体で標識されたアミノ酸またはアミノ酸類似体は、PET(Positron Emission Tomography)やSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)などの核医学画像診断を行う際に使用される核医学画像診断薬として注目されている。しかし、多くのものは合成が困難であるため、メチル基の炭素(C)が炭素の放射性同位体である炭素11(11C)で標識された[メチル−11C]メチオニン(MET)以外はほとんど使用されていない。
【0003】
しかし、[メチル−11C]METは、11Cで標識されたメチル基が代謝によって脱メチル化されること、および15〜20分ほどで細胞から排出されてしまうことから、核医学画像診断薬として好適であるとは言えない。
【0004】
これに対し、アミノ酸類似体であるαアミノイソ酪酸(AIB;2-aminoisobutyric acid)は、α,α−ジメチルアミノ酸であり、システムAアミノ酸トランスポーターの基質であるだけでなく、ジメチル構造体であることから代謝的に安定であり、鏡像体も存在せず、タンパク質の合成にも使用されないため、核医学画像診断薬として好適であることが指摘されている。
【0005】
11Cで標識したAIBを製造(合成)する方法が幾つか報告されている。
例えば、非特許文献1には、11Cで標識した[11C]N−(シアン化物イオン)を用いたBucherer-Strecker反応により[1−11C]AIBを合成することが報告されている。
また、非特許文献2には、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジンと、11Cで標識した[11C]H3Iを用いて、[3−11C]AIBを合成することが報告されている。
さらに、非特許文献3には、メチルリチウムと、11Cで標識した[11C]O2を用いて、[2−11C]AIBを合成することが報告されている。
そして、非特許文献4には、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)と、11Cで標識した[11C]H3Iを用いて、[3−11C]AIBを合成することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bernard Schmall et al., Int. J. Nucl. Med. Biol., Vol. 11, No. 3/4, pp. 209-214, 1984
【非特許文献2】Franz Oberdorfer et al., J. Label. Compd. Radiopharm., Vol. 33, No. 4, pp. 345-353, 1993
【非特許文献3】Christian Prenant et al., J. Label. Compd. Radiopharm., Vol. 36, No. 6, pp. 579-586, 1995
【非特許文献4】Bernard Schmall et al., Nucl. Med. Biol., Vol. 23, pp. 263-266, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1には、11C標識媒体である11Cシアン化物イオンは核医学画像診断薬の製造にあたって滅多に使用されない物質であるだけでなく、その低反応性を補うためにシアン化物担体を加える必要がある。このため、非特許文献1に報告された方法で合成された[1−11C]AIBを核医学画像診断薬として使用する場合は、確実な合成プログラムと厳密な品質管理が要求されるという問題があった。
また、非特許文献2〜4には、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、メチルリチウム、LDAといった禁水性の有機リチウム化合物を使用するため、高希釈条件での反応において慎重な取扱いを要するという問題があった。また、有機リチウムの使用には、厳しい化学量論要件があるため、11Cで標識したAIBを核医学画像診断薬として製造することが困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、炭素の放射性同位体で標識された11C標識アミノ酸類似体を簡便に製造することのできる11C標識アミノ酸類似体の製造方法および核医学画像診断薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため本発明は以下のような手段とした。
〔1〕本発明は、炭素の放射性同位体で標識された11C標識アミノ酸類似体を製造する11C標識アミノ酸類似体の製造方法であって、ジメチルスルホキシド溶液中で、R1(R2)C=N−CH(CH3)−COOR3と、[11C]H3Xと、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウムと、を反応させる第1ステップと、前記第1ステップ後、1〜2Mのアルカリ性の水溶液を加えて反応させる第2ステップと、前記第2ステップ後、1〜2Mの酸性の水溶液を加えて反応させ、11C標識アミノ酸類似体を製造する第3ステップと、を含むことを特徴としている(但し、R1、R2はアリール基を表し、R3はアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)。
〔2〕本発明においては、前記第3ステップ後、製造された前記11C標識アミノ酸類似体を精製する第4ステップを含むのが好ましい。
〔3〕本発明においては、前記アルカリ性の水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液であるのが好ましい。
〔4〕本発明においては、前記酸性の水溶液が、塩酸水溶液であるのが好ましい。
〔5〕本発明においては、前記11C標識アミノ酸類似体が、2−アミノ−[3−11C]イソ酪酸であるのが好ましい。
〔6〕本発明は、前記〔1〕から〔5〕のうちのいずれか1つに記載の11C標識アミノ酸類似体の製造方法によって製造された11C標識アミノ酸類似体を有効成分とする核医学画像診断薬である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭素の放射性同位体で標識された11C標識アミノ酸類似体を簡便に製造することのできる11C標識アミノ酸類似体の製造方法およびこれによって製造された11C標識アミノ酸類似体を有効成分とする核医学画像診断薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る11C標識アミノ酸類似体の製造方法の合成スキームを示す図である。
【図2】実施例に係る11C標識アミノ酸類似体の製造方法の合成スキームを示す図である。
【図3】核医学画像診断薬を投与したSY癌マウスをPETにて撮像した核医学診断画像であって、(a)は本発明の一実施例である[3−11C]AIBを投与して撮像されたSY癌マウスの縦断画像であり、(b)はその横断画像であり、(c)は[メチル−11C]METを投与して撮像されたSY癌マウスの縦断画像であり、(d)はその横断画像であり、(e)は[18F]FDGを投与して撮像されたSY癌マウスの縦断画像であり、(f)はその横断画像である。(a)〜(f)の“▽”は腫瘍を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る11C標識アミノ酸類似体の製造方法および核医学画像診断薬を実施するための一実施形態について詳細に説明する。
【0013】
11C標識アミノ酸類似体の製造方法]
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る11C標識アミノ酸類似体の製造方法について説明する。
一実施形態に係る11C標識アミノ酸類似体の製造方法は、炭素の放射性同位体で標識された11C標識アミノ酸類似体を製造する11C標識アミノ酸類似体の製造方法であって、図1の合成スキームに示すように、第1ステップS1〜第3ステップS3を含み、これらのステップをこれらの順序で行うものである。
【0014】
(第1ステップ)
図1に示すように、第1ステップS1は、ジメチルスルホキシド溶液中(DMSO)で、前駆物質1として示されるR1(R2)C=N−CH(CH3)−COOR3と、[11C]H3Xと、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(TBAF)と、を反応させるステップである。かかるステップにより、前駆物質1のα炭素に11Cを導入し、中間体2を生成する。
ここで、R1、R2はアリール基を表し、R3はアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。
【0015】
1、R2で表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基またはこれらの置換体などが挙げられる。R1、R2は、これらの選択肢から同一または異なったものを適宜選択することができる。R1、R2は、これらの中でもフェニル基であるのが好ましい。フェニル基を備えた前駆物質1はベンゾフェノンイミン類似体であり、シッフ塩基前駆体として働く。
【0016】
3で表されるアルキル基としては、第一級のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基またはこれらの置換体が挙げられる。R3は、これらの中でもメチル基であるのが好ましい。第三級のアルキル基では、第2ステップS2で脱保護反応を行う際の条件を厳しくする必要があり、好ましくない。
【0017】
Xで表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子などが挙げられる。Xは、これらの中でもヨウ素原子であるのが好ましい。
【0018】
[11C]H3Xの放射能は、例えば、37〜370MBqとすることができるが、これに限定されるものではなく、適宜に決定することができる。
【0019】
TBAFの添加量は、前駆物質1の物質量に対して0.5〜3等量で使用するのが好ましい。添加量が不足では反応速度の低下、過剰では加水分解の影響がでてくるため、いずれの場合においても最終生成物の収量の低下が予想される。
【0020】
第1ステップS1は、例えば、15〜50℃の範囲で1〜3分間反応させるとよい。反応温度がこれよりも低かったり、反応時間がこれよりも少なかったりすると、いずれの場合もα炭素への11Cの導入が十分行われず、中間体2の生成量が減るおそれがある。また、反応温度が低い場合には、溶媒のDMSOが凝固するおそれもある。結果的に、後記する最終生成物4の収率が減るおそれがある。また、反応温度がこれよりも高かったり、反応時間がこれよりも多かったりすると、意図しない反応物の生成、あるいは11Cの減衰の影響により、いずれの場合も収率が減るおそれがある。第1ステップS1は、具体的には、室温(約25℃)程度で90秒程度などとすることができる。
【0021】
なお、第1ステップS1において、R1、R2としていずれもフェニル基を用い、R3としてメチル基を用い、XとしてIを用い、第1ステップS1の反応条件を室温で90秒とした場合における、前駆物質1のα炭素への11Cの導入率(放射化学的変換率(radiochemical conversion))は、減衰補正した値で79.2±6.2%程度となる。なお、放射化学的変換率は、減衰補正機能付きの分析用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して、ラジオクロマトグラムから算出することができる。
【0022】
(第2ステップ)
図1に示すように、第2ステップS2は、前記した第1ステップS1後、1〜2Mのアルカリ性の水溶液を加えて反応させるステップである。かかるステップにより、−COOR3を脱保護し、中間体3を生成する。
【0023】
アルカリ性の水溶液の濃度を前記数値範囲とすれば、他の官能基と反応することなく、−COOR3を好適に脱保護することができる。アルカリ性の水溶液が1M未満であると−COOR3の脱保護反応が十分に進行せず、2Mを超えると他の官能基と反応してしまい、意図しない反応物が生成するおそれがある。
ここで用いられるアルカリ性の水溶液としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液などが挙げられる。アルカリ性の水溶液は、これらの中でも水酸化ナトリウム水溶液であるのが好ましい。
【0024】
第2ステップS2は、例えば、80〜150℃の範囲で1〜3分間反応させるとよい。反応温度がこれよりも低かったり、反応時間がこれよりも少なかったりすると、いずれの場合も反応が十分に行われず、中間体3の生成量が減るおそれがある。また、反応温度がこれよりも高かったり、反応時間がこれよりも多かったりすると、11Cの減衰の影響、あるいは意図しない反応物の生成により、いずれの場合も収率が減るおそれがある。第2ステップS2は、具体的には、100℃程度で90秒程度などとすることができる。
【0025】
(第3ステップ)
図1に示すように、第3ステップS3は、前記した第2ステップS2後、1〜2Mの酸性の水溶液を加えて反応させ、11C標識アミノ酸類似体を製造するステップである。かかるステップにより、R1(R2)C=N−を脱保護し、最終生成物4を製造する。
【0026】
酸性の水溶液の濃度を前記数値範囲とすれば、他の官能基と反応することなく、R1(R2)C=N−を好適に脱保護することができる。酸性の水溶液が1M未満であるとR1(R2)C=N−の脱保護反応が十分に進行せず、2Mを超えると他の官能基と反応してしまい、意図しない反応物が生成するおそれがある。また、HPLCカラムの著しい劣化を防ぐため、溶液を中和する中和ステップが必要となり、好ましくない。
ここで用いられる酸性の水溶液としては、例えば、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液、燐酸水溶液などが挙げられる。酸性の水溶液は、これらの中でも塩酸水溶液であるのが好ましい。
【0027】
第3ステップS3は、例えば、20〜100℃の範囲で30〜90秒間反応させるとよい。反応温度がこれよりも低かったり、反応時間がこれよりも少なかったりすると、いずれの場合も反応が十分に行われず、最終生成物4の生成量が減るおそれがある。また、反応温度がこれよりも高かったり、反応時間がこれよりも多かったりすると、意図しない反応物の生成、あるいは11Cの減衰の影響により、いずれの場合も収率が減るおそれがある。第3ステップS3は、具体的には、室温程度で90秒程度などとすることができる。
【0028】
以上の第1ステップS1〜第3ステップS3を経て製造された最終生成物4は、11C標識アミノ酸類似体であり、より詳しくは、2−アミノ−[3−11C]イソ酪酸([3−11C]AIB)である。本発明の製造方法で製造された[3−11C]AIBは、分子内の3位に11Cが導入されて標識されているので、PETやSPECTなどで核医学画像診を行う際の核医学画像診断薬として好適に用いることができる。
【0029】
なお、第2ステップS2で用いるアルカリ性の水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用い、同ステップの反応条件を100℃で90秒とし、第3ステップS3で用いる酸性の水溶液として塩酸水溶液を用い、同ステップの反応条件を室温で90秒として、第2ステップS2と第3ステップS3を行った場合における、最終生成物4のα炭素への11Cの導入率(放射化学的変換率(radiochemical conversion))は、減衰補正した値で72.1±2.2%程度となる。
【0030】
以上の第1ステップS1〜第3ステップS3は全て1つの容器内で行うことができ、また、そのようにするのが好ましい。このため、当該容器には、用いられる全ての試薬について、個別に投入するためのチューブが接続されているのが好ましく、製造(合成)した11C標識アミノ酸類似体を容器から取り出すためのチューブが接続されているのがより好ましい。さらに、この容器には近接してヒーターが設けられ、第1ステップS1〜第3ステップS3を通じて11C標識アミノ酸類似体を合成するのに必要な適宜の温度に調節できるようにするのが好ましい。これらに加え、容器内への各試薬の投入、製造した11C標識アミノ酸類似体の取り出し、および適宜の温度の調節を遠隔操作で行えるようにするのが好ましい。このような態様は、核医学画像診断薬や放射性薬品を製造するために特別に造られた装置や市販の装置を用いることにより具現できる。このような特別に造られた装置としては、例えば、特許第3513573号公報や特開2006−56792号公報に記載の装置が挙げられる。
【0031】
(第4ステップ)
第1ステップS1〜第3ステップS3を経て製造された11C標識アミノ酸類似体は、核医学画像診断薬として被投与体に投与するにあたって、投与前に精製する必要がある。
本発明においては、図1には図示しない第4ステップで、前記した第3ステップS3で製造した11C標識アミノ酸類似体を精製する。
【0032】
11C標識アミノ酸類似体の精製は、例えば、HPLCにより行うことができる。より詳しくは、例えば、トリアゾール誘導体でコートされたシリカを固定相に持つカラムを使用する親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC;Hydrophilic Interaction Chromatography)モードのHPLCで行うのが好ましい。この場合の移動相としては、例えば、アセトニトリルと酢酸アンモニウムの混合緩衝液を用いるのが好ましいがこれに限定されるものではなく、HPLCに添付の資料に基づいて適宜決定することができる。
【0033】
なお、第1ステップS1〜第3ステップS3を経て製造された11C標識アミノ酸類似体は、これを含む溶媒の液性が直接HPLCカラムにインジェクションできる程度の酸性であるなど、穏やかな条件であるため、中和を行うことなく、HPLCに直接インジェクションすることができる。そのため、純度の高い11C標識アミノ酸類似体を簡便且つ迅速に得ることができる。また、溶媒の条件が穏やかであるため、HPLC本体および装填するカラムに対する負担が少なく長持ちさせることができ、コスト的に有利である。
【0034】
第4ステップでHILICモードのHPLCにて11C標識アミノ酸類似体の精製を行う場合、第1ステップS1の製造開始から30〜35分ほどで第4ステップの精製を終えることができる。この場合の最終的な放射化学的収率は、[11C]二酸化炭素参照値で8〜11%(減衰補正せず)程度となる。なお、放射化学的収率は、プロトンの照射エネルギーおよび照射時間から算出される[11C]二酸化炭素の放射能に対する[3−11C]AIBの放射能から算出することができる。
【0035】
[核医学画像診断薬]
第1ステップS1〜第3ステップS3までを経て製造され、または第1ステップS1〜第4ステップまでを経て精製された最終生成物4である11C標識アミノ酸類似体は、核医学画像診断薬の有効成分とすることができる。核医学画像診断薬は、製造した11C標識アミノ酸類似体を生理食塩水に溶解したり、常用の増量剤、結合剤、崩壊剤、pH調節剤、溶解剤などを添加したりすることができる。また、かかる核医学画像診断薬は、常用の製剤技術によって錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、液剤、乳剤、懸濁剤、注射剤などに調製することもできる。
本発明に係る核医学画像診断薬は、成人の患者に対して3.7〜740MBq/回を1日1回または数回に分けて、経口または非経口で投与することができる。この投与量は疾患の種類、患者の年齢、体重、症状により適宜増減することができる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例により本発明に係る11C標識アミノ酸類似体の製造方法および核医学画像診断薬についてより具体的に説明する。
【0037】
まず、図2の合成スキームに示すように、300μLのDMSOに、5μmolのPh2C=N−CH(CH3)−COOMe(前駆物質1’)と、370MBqの[11C]H3Iと、10μmolのTBAFと、を加え、室温で90秒間反応させてPh2C=N−CH(CH3)−COOMeのα炭素に11Cを導入し、中間体2’を生成した。
ここで、減衰補正機能付きの分析用HPLCを使用して、ラジオクロマトグラムから中間体2’の放射化学的変換率を算出したところ、その変換率は79.2±6.2%であった。
【0038】
その後、中間体2’を含む溶液に100μLの1M水酸化ナトリウム水溶液を添加し、100℃で90秒間反応させて中間体2’の脱保護を行い、中間体3’を生成した。
そして、これに引き続き、中間体3’を含む溶液を冷やして室温程度とした後、150μLの2M塩酸水溶液を添加し、室温で90秒間反応させて中間体3’の脱保護を行い、最終生成物4’である11C標識アミノ酸類似体、具体的には2−アミノ−[3−11C]イソ酪酸([3−11C]AIB)を製造した。なお、ここまでの操作は遠隔操作により、1つの容器内で行った。
前記と同様にして放射化学的変換率を算出したところ、その変換率は72.1±2.2%であった。
【0039】
以上を踏まえ、サイクロトロンで11.1〜22.2GBqの放射能として生産された[11C]二酸化炭素(計算値)から調整された[11C]H3Iを用いて、自動合成装置により、前記と同様の手順で再度[3−11C]AIBを製造した。そして、製造した当該[3−11C]AIBを含む溶液をHPLCに直接インジェクションして精製した。HPLCによる精製は、HILICモードのHPLCで行った。移動相はアセトニトリルと酢酸アンモニウムの混合緩衝液を用いた。製造開始から精製を終えるまで30〜35分しか要しなかった。当該[3−11C]AIBの最終的な放射化学的収率は、[11C]二酸化炭素参照値で8〜11%(減衰補正せず)となった。なお、放射化学的収率は、プロトンの照射エネルギーおよび照射時間から算出される[11C]二酸化炭素の放射能に対する[3−11C]AIBの放射能から算出した。
【0040】
次に、製造し、精製した[3−11C]AIBの有用性を確認するため、PETによる核医学診断を行った。
PETによる核医学診断は、同一のマウスに対して、同日に行った。マウスは小細胞肺癌細胞株を移植したSY癌マウスを使用した。
用いた核医学画像診断薬は、実施例である[3−11C]AIBと、比較例である[メチル−11C]METおよび[18F]フルオロデオキシグルコース(FDG)である。なお、[メチル−11C]METは、「PET用放射性薬剤の製造及び品質検査−合成と臨床使用へのてびき(PET化学ワークショップ編)−第4版 (平成23年改定版)」(石渡喜一ら編著)に記載の方法にて独立行政法人放射線医学総合研究所で合成した。[18F]FDGは日本メジフィジックス社から購入した。
そして、マウスに対して[3−11C]AIBは20MBq、[メチル−11C]METは20MBq、[18F]FDGは2MBqの投与量で投与した。
【0041】
これらの核医学画像診断薬を投与してから60分の間PETスキャンを行った。その結果、3つとも腫瘍への取り込みが確認された。核医学画像診断薬として機能する最適な時間は、[3−11C]AIBと[18F]FDGについては50〜60分の間であり、[メチル−11C]METについては15〜25分の間であった。それぞれの最適な時間で撮像した核医学診断画像を図3(a)〜(f)に示す。同図(a)は実施例である[3−11C]AIBを投与して撮像されたSY癌マウスの縦断画像であり、(b)はその横断画像である。同図(c)は[メチル−11C]METを投与して撮像されたSY癌マウスの縦断画像であり、(d)はその横断画像である。同図(e)は[18F]FDGを投与して撮像されたSY癌マウスの縦断画像であり、(f)はその横断画像である。なお、(a)〜(f)の“▽”は腫瘍を示している。
各核医学画像診断薬の標準化最大集積値(SUV max)は、実施例である[3−11C]AIBが2.84、比較例である[メチル−11C]METが1.43、比較例である[18F]FDGが2.02であった。
【0042】
図3に示すとおり、実施例に係る[3−11C]AIBは腫瘍への取り込みが好適に行われ、良好な核医学診断画像を撮像することができた。また、[メチル−11C]METのように早期に代謝されないことが分かった。さらに、SUV maxも高く、PETのトレーサー(核医学画像診断薬)として優れていることが分かった。
【符号の説明】
【0043】
S1 第1ステップ
S2 第2ステップ
S3 第3ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
11Cで標識された11C標識アミノ酸類似体を製造する11C標識アミノ酸類似体の製造方法であって、
ジメチルスルホキシド溶液中で、
1(R2)C=N−CH(CH3)−COOR3と、
11C]H3Xと、
フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウムと、を反応させる第1ステップと、
前記第1ステップ後、1〜2Mのアルカリ性の水溶液を加えて反応させる第2ステップと、
前記第2ステップ後、1〜2Mの酸性の水溶液を加えて反応させ、11C標識アミノ酸類似体を製造する第3ステップと、
を含むことを特徴とする11C標識アミノ酸類似体の製造方法。
(但し、R1、R2はアリール基を表し、R3はアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
前記第3ステップ後、製造された前記11C標識アミノ酸類似体を精製する第4ステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の11C標識アミノ酸類似体の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ性の水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の11C標識アミノ酸類似体の製造方法。
【請求項4】
前記酸性の水溶液が、塩酸水溶液であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の11C標識アミノ酸類似体の製造方法。
【請求項5】
前記11C標識アミノ酸類似体が、2−アミノ−[3−11C]イソ酪酸であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の11C標識アミノ酸類似体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の11C標識アミノ酸類似体の製造方法によって製造された11C標識アミノ酸類似体を有効成分とする核医学画像診断薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246255(P2012−246255A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119785(P2011−119785)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔1〕平成23年(2011年)2月18日に、出版社のウェブページ1(URL:http://www.sciencedirect.com/science?_ob=PublicationURL&_tockey=%23TOC%235221%232011%23999789991%233064734%23FLA%23&_cdi=5221&_pubType=J&view=c&_auth=y&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=f64c5133ee953c04124c890241593e80)と、当該ウェブページ1の「57」のリンク先であるウェブページ2(URL:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960894X11002496)と、当該ウェブページ2のリンク先においてダウンロード可能なPDF形式の論文とにおいて、「An efficient and expedient method for the synthesis of ▲11▼C−labeled α−aminoisobutyric acid:A tumor imaging agent potentially useful for cancer diagnosis」のタイトルで電気通信回線を通じて先行発表(平成23年(2011年)4月15日に、刊行物に発表) 〔2〕平成23年(2011年)4月12日に、Brain2011(25th International Symposium on Cerebral Blood Flow,Metabolism,and Function & 5th International Conference on Quantification of Brain Function with PET)(URL:http://www.abstractserver.com/brain2011/planner/index.php?go=abstract&action=abstract_iplanner&absno=455&BRAIN2011=m6sm7bn Oibqq11eau3qk6apuc6&BRAIN2011=m6sm7bnOibqq11eau3qk6apuc6)にお
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】