説明

13C−呼気試験を用いたエネルギー消費の評価または測定方法

【課題】安静時のエネルギー消費のみならず運動時におけるエネルギー消費を、呼気を用いて簡便に非侵襲的にしかも精度良く評価または測定する方法および当該方法に好適に用いる組成物(製剤組成物)を提供する。
【解決手段】エネルギー消費評価用組成物として、生体内で標識COガスに変換されて呼気中に排出される、同位元素C又はOの少なくとも一方で標識されてなるピリミジン化合物を有効成分とする組成物を用いる。当該組成物を被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定する工程、当該呼気内に排出された標識COの量からCO生成速度(VCO2)を算出する工程、および必要であれば、さらに当該CO生成速度(VCO2)から、式「エネルギー消費量(Kcal/day)=CO生成速度(mol/day)×134.25」に従ってエネルギー消費量を算出する工程を経て、被験者のエネルギー消費量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトを始めとする哺乳動物のエネルギー消費量を評価または測定する方法、および当該方法に好適に使用される組成物に関する。具体的には、本発明は、個々の被験者のエネルギー消費量を、13C等の標識C-呼気試験を用いて非侵襲的に評価または測定する方法、および当該方法に好適に使用される組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な人口高齢化の進展に伴い、疾病構造も変化し、疾病全体に占めるがん、虚血性心疾患、脳血管疾患、糖尿病等の生活習慣病の割合が増加し、死亡原因でも生活習慣病が約6割を占めるようになっている。また、医療費に占める生活習慣病の割合も平成15年度で国民医療費の約3割を占める10.2兆円にまで上り、医療保険にかかる国民の負担も増加しているのが実情である。
【0003】
生活習慣病や総死亡率と身体活動に関する科学的研究は、この四半世紀に急速に発展し、運動を始めとする身体活動を促進することによって、冠状動脈疾患ならびに生活習慣病をより有効に予防することができることが科学的に明らかにされている。このため、単に減量という意味だけでなく、生活習慣病を予防し健康維持を図る意味から、また国民の医療費負担を軽減する意味からも、各自が自分の一日の身体活動量(運動量を含む)およびそれに基づくエネルギー消費量を把握することは有用である。
【0004】
一般に身体活動量は、運動や日常生活におけるエネルギー消費量(kcal)として表される。エネルギー消費量(kcal)の測定方法としては、1)直接熱量測定法(direct calorimetry)、および2)間接熱量測定法(indirect calorimetry)として、(i)呼気熱量測定法(respiratory calorimetry)と(ii)二重標識水法(doubley labeled water)がある。直接熱量測定法は、熱放散を測定することによって代謝速度を評価する方法であり(非特許文献1)、また間接熱量測定法のうち、呼気熱量測定法は、呼気を採取して酸素吸入量と二酸化炭素排出量を測定する方法(非特許文献2)、および二重標識水法は、体内水分からの重水素および18Oの排出速度の違いから、3週間の総CO2生成量を測定する方法(非特許文献3)である。このうち、直接熱量測定法と呼気熱量測定法は、二重標識水法に比して短時間(例えば4時間以内)にエネルギー消費量を測定できる方法であるものの、直接熱量測定法は、測定装置が高価であるとともに、測定方法が煩雑で被験者に対する拘束度が強く、また呼気熱量測定法も、試験中にマウスピース、フードまたはフェースマスクなどの装着が必要であり、被験者の負担が大きい。
【0005】
エネルギー消費量(kcal)を評価する他の方法として、心拍数モニターおよび加速度計を用いる方法がある(例えば、非特許文献4および5等)。これらの方法は日常のエネルギー消費量を評価するためには有用であるが、運動によるエネルギー消費量を評価することは殆どできない。このため、運動によるエネルギー消費量を評価できる方法が求められている。
【0006】
最近、運動によるエネルギー消費量を間接的に評価する方法として、13C炭酸水素ナトリウムを静脈内注入または経口投与して、13CO2の排出量からエネルギー消費量を評価する方法が提案されている(非特許文献6および7等)。これは、呼気熱量測定法(respiratory calorimetry)で測定されるCO2排泄速度(rate of carbon dioxide excreted in breath)と、13C炭酸水素塩から求められるCO2の生成速度(rate of carbon dioxide appearance)との間に有意な関連性があることに基づいている。しかし、静脈内注入は侵襲的な方法であるため被験者の負担が大きく、また13C炭酸水素塩の経口投与は、酸の存在および非存在によって(すなわちpHの違いによって)溶解度が異なるため、経口投与後の胃内での溶解や消化が胃酸の影響を受けやすく、その結果、ヒトや投与時期によってバラツキが生じ、正確な結果が得られないという問題がある(非特許文献8)。
【非特許文献1】ULMER, H.V., Human Physiology, 2nd Ed., R. F. Schmidt and G. Thews (Eds.). Berlin: Springer-Verlag, 1989, pp.614-523
【非特許文献2】Fennannini, E., a review. Metabolism 37: 287-301, 1988
【非特許文献3】Schoeller, D. A., J. Nutr.118:1278-1289, 1988
【非特許文献4】Bray, M. S., et al., Med. Sci. Sports Exarc. 26:1524-1530, 1994
【非特許文献5】Davidson, L., et al., Br. J. Nutr. 78:695-708, 1997
【非特許文献6】Melinda Leigh Richards et al., MEDICINE & SCIENCE IN SPORTS & EXERCUSE: 834-838, 2001
【非特許文献7】Stephen B. Shew et al., PEDIATRIC RESEATCH Vol.47, No.6, 2000
【非特許文献8】David J. Bjokman et al., THE AMERICAN JOURNAL OF GASTROENTEROLOGY Vol.86, No.7, 1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒトを始めとする哺乳動物のエネルギー消費量を評価または測定する方法を提供することを目的とする。特に本発明は、安静時のエネルギー消費のみならず、日常生活や運動時におけるエネルギー消費を、呼気を用いて簡便に非侵襲的に、しかも精度良く評価または測定する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、当該方法に好適に使用される組成物(製剤組成物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述するように、呼気中のCO生成速度(Vco2)はエネルギー消費量を反映することから、当該呼気中のCO生成速度(Vco2)からエネルギー消費量を評価する方法が従来より種々検討されている。例えば、呼気中の13CO生成速度は、13C-呼気試験で得られる単位時間あたりの13C排出量(13C-excretion)から、下式により求めることができる(「13C-呼気試験の実際 基礎と実践的応用 第8項:13C-呼気試験データ解析法」、松林恒夫、松山渉、13C医学応用研究会、p.103の式(9)参照)。
【0009】
【数1】

【0010】
しかし、13C排出量(13C-excretion)は、投与試薬の体内動態(吸収や代謝)に影響されるため、前述する13C炭酸水素塩のように、投与試薬の種類によっては結果にバラツキが出やすく、安定的に且つ高い精度で得ることは容易ではない。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねていたところ、同位元素C又はOで標識されてなるウラシル、チミンまたはシトシンといったピリミジン化合物が、
(1) 全てまたはその殆どが消化管で吸収され、その後分解または吸収されて、標識CO2ガスとして呼気に排出される、
(2) pHの変動(消化管pH)によって溶解および吸収が影響されにくい、
(3) 吸収率および代謝率が高く、同位体標識COとして呼気排出率(回収率)が高い、
(4) 吸収後の代謝が速やかである、および
(5) 代謝が肝機能による影響を受けにくい
といった特性を備えており、かかる特性を有する標識ピリミジン化合物を呼気試験の投与試薬として用いることによって、結果にバラツキがなく、安定的に且つ高い精度で上記単位時間あたりの13C排出量(13C-excretion)が評価できること、すなわち、それから換算されるCO生成速度から個々の被験者のエネルギー消費量が高い精度で評価でき、またエネルギー消費量を算出することができることを見出した。
【0012】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明は下記の態様を有する:
(I)エネルギー消費評価用組成物
(I-1)生体内で標識COガスに変換されて呼気中に排出される、同位元素C又はOの少なくとも一方で標識されてなるピリミジン化合物を有効成分とする、エネルギー消費評価用組成物。
(I-2)同位元素が13C、14C及び18Oからなる群から選択されるいずれか少なくとも一種である(I-1)記載のエネルギー消費評価用組成物。
(I-3)標識ピリミジン化合物が、ウラシル、チミン、シトシンまたは5−メチルシトシンである(I-1)または(I-2)記載のエネルギー消費評価用組成物。
【0014】
なお、これら(I-1)〜(I-3)に記載されるエネルギー消費評価用組成物は、同様にエネルギー消費量測定用組成物としても有効に用いることができる。
【0015】
(II)エネルギー消費を評価する方法
(II-1)(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の組成物を被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定する工程を有する、当該被験者のエネルギー消費を評価する方法。
(II-2)被験者の安静時のエネルギー消費を評価する方法であって、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の組成物を安静状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定することを特徴とする、(II-1)に記載する方法。
(II-3)被験者の運動負荷時のエネルギー消費を評価する方法であって、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の組成物を運動負荷状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定することを特徴とする、(II-1)に記載する方法。
(II-4)さらに、呼気内に排出された標識COの量からCO生成速度(VCO2)を算出する工程を有する、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載の方法。
【0016】
(III)エネルギー消費量を測定する方法
(III-1)(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の組成物を被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定する工程、当該呼気内に排出された標識COの量からCO生成速度(VCO2)を算出する工程、および当該CO生成速度(VCO2)から、下式:
【0017】
【数2】

【0018】
に従ってエネルギー消費量を算出する工程を有する、被験者のエネルギー消費量を測定する方法。
(III-2)被験者の安静時のエネルギー消費量を測定する方法であって、上記CO生成速度(VCO2)を、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の組成物を安静状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量から算出することを特徴とする、(III-1)に記載する方法。
(III-3)被験者の運動負荷時のエネルギー消費量を測定する方法であって、上記CO生成速度(VCO2)を、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の組成物を運動負荷状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量から測定することを特徴とする、(III-1)に記載する方法。
【0019】
(IV)同位元素C又はOで標識されてなるピリミジン化合物の使用
(IV-1)生体内で標識COガスに変換されて呼気中に排出される同位元素C又はOの少なくとも一方で標識されてなるピリミジン化合物を、被験者のエネルギー消費を評価する製剤またはエネルギー消費量を測定する製剤を製造するために使用する方法。
(IV-2)標識ピリミジン化合物が、ウラシル、チミン、シトシンまたは5−メチルシトシンである(IV-1)記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の組成物および方法によれば、簡単かつ非侵襲的に、しかも高い精度で、ヒトを始めとする哺乳動物のエネルギー消費を評価し、またエネルギー消費量を測定することができる。すなわち、本発明の組成物および方法は、ヒトを始めとする哺乳動物の基礎代謝量、および各種身体活動(日常生活や運動)によって消費したエネルギー量を客観的に且つ精度良く測定するために有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(I)標識C-呼気試験に関連する用語および解析方法の説明
本発明のエネルギー消費の評価または測定方法は、13C-呼気試験などの標識C-呼気試験を用いることを基礎とするものである。よって、本発明の説明に先だって、標識C-呼気試験に関連する用語およびその解析方法について説明する(「13C-呼気試験の実際 基礎と実践的応用 第8項:13C-呼気試験データ解析法」、松林恒夫、松山渉、13C医学応用研究会、pp.102-111)。なお、ここでは本発明で用いる「同位元素C又はOの少なくとも一方」の一例として、13Cを挙げて説明する。
【0022】
(1) δ13C値(‰)
同位体の存在比を表す場合、同一元素の中で最も組成比の高い元素を分母にした同位体比(R)を用いる。従って炭素13(13C)のR値は、炭素12(12C)を分母とした次式で表される。
【0023】
【数3】

【0024】
Rは非常に小さい数値であるため、直接測定することは困難である、より正確に定量するため、質量分析計を用いる場合には、常に標準物質との比較が行われ、測定結果は、次式で定義されるδ値で表される。
【0025】
【数4】

【0026】
なお、標準ガスとして、石灰石由来の炭酸ガス(PDB)を使用する場合、RSTDは、RPDB=0.0112372となる。
【0027】
(2) Δ13C値(‰)
「Δ13C値(‰)」は、下式で示すように、試薬投与前のδ13C値(すなわち天然に存在する13Cのδ値)をback groundとして、試薬投与後のδ13C値から差し引いた値(Δ13C)を意味する。
【0028】
【数5】

【0029】
(3) 呼気中の13C濃度(%13C)
呼気中の13C濃度(%13C)は下式で定義される。
【0030】
【数6】

【0031】
(1)で定義した相対値δ13C値を、一般的な濃度の概念である総炭素中の13C含量(%)の形に変換するには、下記の方法を用いることができる。
【0032】
まず、上記式の右辺の分母子を12Cで割り、(式1)に基づいてRに変換すると、
【0033】
【数7】

【0034】
このRに、(式2)で求めたRSAMを代入して整理すると次式となり、δ13C値を用いて13C濃度(%13C)を表すことができる。
【0035】
【数8】

【0036】
(4) 13C濃度の変化量(Δ%13C)
呼気中の13C濃度(%13C)の変化量(Δ%13C)は、次式で定義されるように、投与t時間後の13C濃度〔(%13C)t〕から投与前0時間の13C濃度〔(%13C)0〕を差し引いて求められる。
【0037】
【数9】

【0038】
(5) Δ13C値(‰)と13C濃度変化量(Δ%13C)との関係
13Cの天然存在比(R)は約0.011であり、標識試薬を投与した場合でも呼気中への増加量はわずかに+0.001〜0.002程度である。そこで、天然存在比R→0とみなすことができ、%13CをRで表した(式4)は、次式で近似することができる。
【0039】
【数10】

【0040】
この近似式を用いて、まずδ13Cの定義である(式2)よりRSAMを求めて上記式のRに代入して整理すると、13C濃度を求める近似(式7)が得られる。
【0041】
【数11】

【0042】
これを(式6)に代入すると、下式(式8)に示すように、Δ13CからΔ%13Cを算出することができる。
【0043】
【数12】

【0044】
(6) 13C投与量(13C-administration)
13Cの投与量(13C-ad)は、試薬が単一物質の場合、試薬の投与量(A)、分子量(MW)、標識炭素数(♯)および13C-enrichment(APE)を用いて、次式で求めることができる。
【0045】
【数13】

【0046】
(7) 13C排出量(13C-excretion)および13C生成速度(Vco2
単位時間あたりの13C排出量(13C-ex)と呼気中の13C生成速度(Vco2)には、下式の関係がある。
【0047】
【数14】

【0048】
(II)エネルギー消費評価用組成物
本発明のエネルギー消費評価用組成物は、生体内で標識COガスに変換して呼気中に排出される、同位元素C又はOの少なくとも一種で標識されてなるピリミジン化合物を有効成分とするものである。
【0049】
当該組成物において用いられるピリミジン化合物は、ピリミジン骨格を有する化合物であり、経口投与後、生体内で標識COガスに変換して呼気中に排出されるように、同位元素C又はOの少なくとも一種で標識されたものである。具体的には、ウラシル、チミン、シトシンおよび5-メチルシトシンなどのピリミジン塩基を挙げることができる。好ましくは、(1)全て若しくはその殆どが消化管で吸収され、その後分解又は代謝されて、標識COガスとして呼気に排出されるものである。また、(2)消化管内のpHの変動により吸収が影響されにくいものが好ましい。さらに好ましくは、(3)吸収率および代謝率が高く、呼気中への標識COガスとしての排出率(回収率)が高いもの、(4)吸収後の代謝が速やかなもの、さらに(5)代謝が肝機能による影響を受けにくいものである。かかる特性を備えるピリミジン化合物として、好適にはウラシルおよびチミンを挙げることができる。
【0050】
ピリミジン化合物中の炭素原子または酸素原子の標識に用いられる同位体としては、特に制限はされないが、具体的には13C、14C並びに18Oを挙げることができる。かかる同位体は放射性及び非放射性の別を問わないが、安全性の観点から好ましく非放射性同位元素である。かかる同位元素としては好適に13Cを挙げることができる。
【0051】
具体的には、本発明で用いられるピリミジン化合物は、ピリミジン代謝経路を経て生成されるCOの少なくとも一部が同位体標識されてなるように、同位体標識されてなるものである。例えば、このようなピリミジン化合物としては、ピリミジン骨格の2位の炭素原子が同位体で標識されてなる化合物を挙げることができる。具体的には、2-13C標識ウラシル、2-13C標識チミン、および2-13C標識シトシンなどを例示することができる。
【0052】
ピリミジン化合物をこれらの同位体で標識する方法は、特に制限されず、通常使用される方法が広く採用される(佐々木、「5.1安定同位体の臨床診断への応用」:化学の領域107「安定同位体の医・薬学、生物学への応用」pp.149-163(1975)南江堂;梶原、RADIOISOTOPES,41,45-48(1992)等)。これらの同位体標識ピリミジン化合物、特に2-13C標識ウラシルは商業的に入手することができ、簡便にはかかる市販品を使用することもできる。
【0053】
本発明の組成物は、基本的には、投与後、ピリミジン化合物が吸収されまた代謝された後に、標識COガスとして呼気に排出されるのであるものであればよく、それを満たすものである限り、その形態、同位体標識ピリミジン化合物以外の成分、各成分の配合割合、組成物の調製方法等を特に制限するものではない。
【0054】
例えば形態としては、経口投与形態を有するものであってもよく、この場合、液剤(シロップ剤を含む)、懸濁剤および乳剤などの液状形態;錠剤(裸剤、被覆剤を含む)、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤(粉末剤)、細粒剤および顆粒剤などの固形形態など、任意の経口投与形態を採用することができる。また、静脈投与形態を有するものであってもよく、この場合、例えば注射剤や点滴剤の投与形態を採用することができる。
【0055】
また本発明の組成物は、製剤形態を有するものに限らず、上記標識ピリミジン化合物を含み、本発明の作用効果を妨げないものであればよく、上記標識ピリミジン化合物を任意の食品素材と組み合わせて、固形食、流動食または液状食の形態を有するものであってもよい。
【0056】
本発明の組成物は、実質上、有効成分である上記同位体標識ピリミジン化合物だけからなるものであってもよいが、本発明の作用及び効果を損なわない限り、他の成分として、各製剤形態(投与形態)に応じて、通常当業界において用いられる薬学上許容される任意の担体及び添加物を配合した形態であってもよい。
【0057】
この場合、有効成分として配合する同位体標識ピリミジン化合物の量としては、特に制限されることなく、組成物100重量%中1〜95重量%を挙げることができ、かかる範囲で適宜調整することができる。
【0058】
本発明の組成物を、例えば錠剤、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤(粉末剤)、細粒剤、および顆粒剤などの固形形態に成形するに際しては、各種形態に応じて各種の担体または添加剤を用いることができる。
【0059】
担体または添加剤として、例えば乳糖、白糖、デキストリン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、リン酸二水素カルシウム、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、プルラン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポピドン等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;ポリソルベート80、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール、コロイド状ケイ酸、ショ糖脂肪酸類、硬化油等の滑沢剤;クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のpH調整剤;酸化鉄、βカロテン、酸化チタン、食用色素、銅クロロフィル、リボフラビン等の着色剤;およびアスコルビン酸、塩化ナトリウム、各種甘味料等の矯味剤等を使用できる。
【0060】
錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。またカプセル剤は常法に従い、有効成分である同位体標識ピリミジン化合物を上記で例示した各種の担体と混合して硬化ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0061】
なお、本発明の組成物において、特に、被験者の個体差によるばらつきが少なく高い精度でエネルギー消費を評価し、またエネルギー消費量を測定するための好適な組成物として、(a)同位体標識ピリミジン化合物と(b)糖及び/又は糖アルコールとを混合粉砕し、これにより得られる粉末原料を用いて製剤化してなる組成物であって、当該組成物を構成するピリミジン化合物が、好適にはウラシルまたはチミンであるものを挙げることができる。
【0062】
ここで使用される糖および糖アルコールは、薬学的に許容される限り特に制限されるものではない。例えば、糖に関しては、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、アラビノース、マンノース等の単糖類;麦芽糖、イソマルトース、セロビオース、乳糖、ショ糖、トレハロース等の二糖類等が挙げられる。好ましくはグルコース及びショ糖である。また、糖アルコールに関しては、例えば、エリスリトール、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、還元パラチノース、ラクチトール等が挙げられる。好ましくはマンニトール、キシリトール、エリスリトール、更に好ましくはマンニトールである。(b)成分として、好ましくは糖アルコールである。
【0063】
また組成物中の(a)成分の配合割合として、好適には、組成物の総重量に対して、5〜20重量%、好ましくは6〜18重量%、より好ましくは8〜15重量%を挙げることができる。また(b)成分の配合割合は、組成物の総重量に対して、通常80〜95重量%、好ましくは82〜94重量%、より好ましくは85〜92重量%を挙げることができる。
【0064】
(a)成分に対する(b)成分の配合比率としては、制限はされないが、例えば、(a)成分100重量部に対して、上記(b)成分が400〜1900重量部、好ましくは450〜1550重量部、更に好ましくは550〜1150重量部の割合を例示することができる。
【0065】
かかる組成物は、好適には(a)成分と(b)成分を含む粉末原料を用いて製剤化することにより製造される。上記粉末原料は、好ましくは(a)成分と(b)成分を上記比率で混合し、粉砕処理することによって調製することができる。粉末原料の粒子径は特に制限されないが、被験者間のバラツキを抑制し、測定の精度を高めるという観点から、50%粒子径が40μm以下、好ましくは、50%粒子径が30μm以下、更に好ましくは50%粒子径が5〜20μmであることが望ましい。また、その粒度分布として、好ましくは50%粒子径が40μm以下であり、且つ90%粒子径が200μm以下であるもの;更に好ましくは50%粒子径が30μm以下であり、且つ90%粒子径が100μm以下であるもの;特に好ましくは50%粒子径が5〜20μmであり、且つ90%粒子径が10〜70μmであるものが例示される。かかる粒度分布は、乾式レーザー法(測定条件;焦点距離:100mm、平均化回数:10回、平均化間隔:5ミリ秒、エアー圧力:0.4MPa)にて測定される。
【0066】
なお、上記粉末原料の調製に採用される粉砕処理としては、制限されないが、乾式粉砕機を用いた粉砕処理が好ましい。当該乾式粉砕機として、具体的にはハンマーミル粉砕機、ピンミル粉砕機、ジェットミル粉砕機等を例示することができる。
【0067】
当該組成物は、上記(a)成分と(b)成分からなるものであってもよいし、またこれらの成分が上記配合比率で含まれるものであれば他の成分を添加して製剤化されてもよい。この場合の他の成分としては、前述する任意の薬学的に許容される担体または添加剤(例えば賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等)であって、(a)および(b)成分と同様に、粉砕処理されたものであることが好ましい。製剤の形態は、固形の経口投与形態であれば、特に制限されず、細粒剤、顆粒剤、散剤(粉末剤)、錠剤(裸剤、被覆剤を含む)、カプセル剤、丸剤等の形態を任意に採用することができる。中でも、細粒剤や顆粒剤等の粒状製剤、特に押出造粒により製された粒状製剤が好適である。
【0068】
粒状形態に調製する場合、当該製剤の平均粒子径としては、通常、1400μm以下、好ましくは50〜1200μm、更に好ましくは100〜1000μmが例示される。このような粒子径の粒状製剤にすることにより、より高い精度で被験者のエネルギー消費量を評価し測定することが可能になる。上記製剤粒子径は、振動篩い法[具体的には、測定装置:ロボットシフターRPS−95(セイシン企業)、振動レベル:5、シフトタイム:5分、パルス間隔:1秒]により測定できる。
【0069】
本発明の組成物の単位投与形態中に配合される同位体標識ピリミジン化合物(有効成分)の量は、測定試料及び配合する有効成分の種類などによって異なるため、一概に定めることができずケースに応じて適宜調節設定することができる。例えば、有効成分の同位体標識ピリミジン化合物として2-13C標識ウラシル等の同位体標識ウラシルを用いる場合、単位投与あたりの組成物中に同位体標識ウラシルを1〜1000mg/body、好ましくは10〜100mg/bodyの範囲で含むことが好ましく、他の同位体標識ピリミジン化合物を有効成分とする場合も、これに準じて適宜調整することができる。
【0070】
本発明の組成物によれば、これを投与後、好ましくは経口投与後に、呼気中に排出される標識COガスの量を測定することによって、当該被験者のエネルギー消費量を評価することができる。その詳細は、下記(III)にて説明する。
【0071】
(III)エネルギー消費量の評価および測定方法
前述の本発明の組成物を用いることによって、被験者のエネルギー消費量を評価することができる。当該エネルギー消費量の評価は、基本的には、同位体標識ピリミジン化合物を有効成分とする上記本発明の組成物を、ヒトを始めとする哺乳動物(被験者)に投与し、呼気を採取し、当該呼気に排出された標識COガスの量を調べることによって行うことができる。なお、ここで同位体標識ピリミジン化合物を有効成分とする本発明の組成物の投与方法は、特に制限されないが、好ましくは経口投与である。
【0072】
例えば、呼気に排出された標識COガスの量から被験者のエネルギー消費量を評価する方法を、投与するエネルギー消費評価用組成物(またはエネルギー消費量測定用組成物)として2-13C-ウラシルを有効成分とする組成物を用いる場合(即ち、測定する標識CO2ガスが13CO2の場合)を例として説明すれば、下記の通りである。
【0073】
(1) 常法の13C-呼気試験法に従って、本発明の組成物を被験者に経口投与後、経時的に呼気を採取して呼気中に排出される13CO2量を測定する。
【0074】
(2) 呼気への13CO2排出量から、試薬投与後t時間におけるδ13C値(‰)〔(δ13C)t〕と試薬投与前0時間のδ13C値(‰)〔(δ13C)0〕との差〔Δ13C(‰)=(δ13C)t−(δ13C)0〕を求める。なお、Δ13C(‰)は、「δ13C値変化量(‰)」または「DOB(‰)」とも称される。
【0075】
(3) 次いで、Δ13C(‰)を、下記の近似式(「13C-呼気試験の実際 基礎と実践的応用 第8項:13C-呼気試験データ解析法」、松林恒夫、松山渉、13C医学応用研究会、pp.102-111)(上記(式8)参照)にあてはめて、13C濃度変化量(Δ%13C)(atom%)を算出する。
【0076】
【数15】

【0077】
(4) 上記換算して得られた13C濃度変化量(Δ%13C)を縦軸に、試薬投与後の時間を横軸として描かれる13C濃度変化曲線を時間で積分して、曲線下面積(Area under curve:AUC)を求める。なお、時間を無限大とした場合の曲線下面積をAUCとする。
【0078】
(5) 上記で得られたAUC(Δ%13C-時間曲線下面積)を、下式にあてはめてCO2生成速度(Vco2)(mmol/hr)を求める。
【0079】
【数16】

【0080】
斯くして得られるCO2生成速度(VCO2)(mmol/hr)は、被験者のエネルギー消費量を反映することから、当該CO2生成速度(VCO2)から被験者のエネルギー消費量を評価することができる。
【0081】
(6) さらに、上記式から得られたCO2生成速度(VCO2)を、下式で示すKleinらの計算式(J Pediatr Gastroenterol Nutr. 1999 Sep;29(3):297-301)に当てはめることによってエネルギー消費量を求めることができる。
【0082】
【数17】

【0083】
(式A)の導き方
本発明の組成物において有効成分として使用するピリミジン化合物が被験者の体内動態(吸収および代謝)に殆ど影響されず、その投与量の殆どが安定して呼気中にCO2ガスとして排出されることから、式11が成立する。
【0084】
【数18】

【0085】
ここで13C-adは、13Cの投与量(mmol)で前述する(式9)で表すことができる。尚, Rは13Cの呼気回収率である。
【0086】
【数19】

【0087】
また、13Cの総排出量(mmol)は、前述する(式10)で示す単位時間あたりの13C排出量(13C-ex)(mmol/hr)を、無限時間まで積分することによって求めることができる。
【0088】
【数20】

【0089】
上記式の両辺を無限時間まで積分すると、下記の(式12)に示すように、左辺は前述するように13Cの総排出量(mmol)となり、またこれに対応する右辺〔(Δ%13C/100)×Vco2〕は、前述の(4)から、〔(AUC/100)×Vco2〕となる。
【0090】
【数21】

【0091】
そこで(式11)と(式12)から、
【0092】
【数22】

【0093】
となり、この式を整理すると、下記に示すように上記(式A)を導くことができる。
【0094】
【数23】

【0095】
本発明の方法は、投与試薬として、同位体標識ピリミジン化合物を有効成分とするエネルギー消費評価用組成物(またはエネルギー消費量測定用組成物)を用いることを特徴とする。当該ピリミジン化合物は、被験者に経口投与された後、消化管内でそのpHに影響されることなく速やかに吸収され、且つ肝機能に影響されることなく安定的に高代謝率にて代謝される。このため、呼気中に高い割合で標識COガスとして排出される特性を有する。後述する実験例3に示すように、標識ピリミジン化合物を用いた場合(特に標識ウラシル)、投与量の少なくとも90%が安定して呼気に標識COガスとして排出される。これが、上記(式A)において、Rを0.9と規定できる所以である。
【0096】
前述するように当該組成物を投与した後に呼気中に排出される標識COガス量から算出される標識CO生成速度(mmol/hr)は、被験者のエネルギー消費量を反映しており、当該組成物を用いた本発明の方法によれば、当該被験者のエネルギー消費量を精度良く評価および測定することができる。
【0097】
また本発明の組成物を、同位体標識ピリミジン化合物と糖及び/又は糖アルコールとの粉末原料から調製した場合には、被験者間でのバラツキを抑制してより精度よくエネルギー消費量を評価および測定することができる。
【0098】
エネルギー消費量の評価および測定は、本発明の方法を1回のみならず数回繰り返して行うことにより、また絶食条件下や摂食条件下などの種々異なる条件下で複数回行うことにより、より一層高い精度で正確に行うことができる。呼気試料中に含まれる標識COの測定・分析は、使用する同位元素が放射性か非放射性かによって異なるが、液体シンチレーションカウンター法、質量分析法、赤外分光分析法、発光分析法、磁気共鳴スペクトル法等といった一般に使用される分析手法を用いて行うことができる。好ましくは測定精度の点から赤外分光分析法及び質量分析法である。
【0099】
本発明の組成物の投与方法は、前述する通りであるが、特に制限されない。
【0100】
本発明の組成物の投与単位形態中に配合される同位体標識ピリミジン化合物の量は、用いる標識化合物の種類等によって異なるため一概に定めることができず、ケースに応じて適宜調節設定することができる。例えば標識ピリミジン化合物として、2-13Cウラシルを用いて呼気試験によって測定する場合、単位投与あたりの製剤には2-13Cウラシルを1〜2000mg、好ましくは10〜300mgの範囲で含むことが望ましい。
【0101】
当該エネルギー消費量の評価および測定方法を利用することによって、被験者の安静時のエネルギー消費量ならびに身体活動(日常生活における作業、および運動)によるエネルギー消費量を評価および測定することが可能である。具体的には、安静時のエネルギー消費量の評価および測定は、座位または横臥などの安静状態にある被験者に、上記(1)〜(5)に記載する方法に従って、本発明の組成物を投与し、呼気中に経時的に排出される標識COガスの量を測定することによって行うことができる。具体的には、呼気中に経時的に排出される標識COガスの量から炭酸ガスΔ(‰)(DOB(‰))(例えば、組成物投与後のδ13C値と組成物投与前のδ13C値との差)を求め、それから求められる標識-C濃度変化量(例えば、Δ%13C(atom%))およびこれを無限時間で積分した時間曲線下面積(AUC)から、(式A)に基づいて、被験者のエネルギー消費を反映する標識CO生成速度(mmol/hr)を求める。さらに、被験者の安静時のエネルギー消費量は、上記で得られた標識CO生成速度(mmol/hr)を上記(式B)に当てはめることによって算出することができる。
【0102】
また、身体活動によって消費したエネルギー量の評価および測定は、身体活動状態にある被験者に、上記(1)〜(5)に記載する方法に従って、本発明の組成物を投与し、呼気中に経時的に排出される標識COガスの量を測定することによって行うことができる。具体的には、呼気中に経時的に排出される標識COガスの量から炭酸ガスΔ(‰)(DOB(‰))(例えば、組成物投与後のδ13C値と組成物投与前のδ13C値との差)を求め、それから求められる標識-C濃度変化量(例えば、Δ%13C(atom%))およびこれを無限時間で積分した時間曲線下面積(AUC)から、(式A)に基づいて被験者のエネルギー消費を反映する標識CO生成速度(mmol/hr)を求める。ここで求められる標識CO生成速度(mmol/hr)から、当該被験者について安静状態で測定される標識CO生成速度(mmol/hr)を差し引くことによって得られる両者の差が、身体活動(運動負荷)によるエネルギー消費量を反映する。さらに、当該被験者の身体活動(運動負荷)によるエネルギー消費量は、上記で得られた標識CO生成速度(mmol/hr)(安静時の標識CO生成速度を差し引いた差)を上記(式B)に当てはめることによって算出することができる。
【実施例】
【0103】
以下に実施例並びに実験例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。ただし、本発明はこれらの実施例等によって何ら制限されるものではない。
【0104】
実施例1 液剤
2-13Cウラシル(分子量113.08:Cambridge Isotope Laboratory製)100mgを、0.1N−NaOH/saline溶液(調整)50mlに溶解し、水溶液の形態をした組成物を調製した(20μmol/mlの割合で2-13Cウラシルを含む)。
【0105】
実施例2 顆粒剤
(1)顆粒剤の調製
2-13Cウラシル(Cambridge Isotope Laboratory製)20gとD−マンニトール(マンニット、協和発酵製)380gを混合後、サンプルミル(KIIWG-1F、不二パウダル製)に導入し混合粉砕(粉砕条件;粉砕ローター回転数:12800rpm、サンプル供給モーター回転数:約10rpm、スクリーン:1mmパンチスクリーン)し、粉末原料を調製した。得られた粉末原料200gを量り取り、スピードニーダー(NSK-150、岡田精工製)に入れ、精製水20gを加えて練合した。次いで、得られた湿粉体をφ1mm穴のドームダイを装着した押し出し造粒機(ドームグランDG-1L、不二パウダル製)で押し出し、60℃に設定した送風乾燥機(SPHH-200、エスペック製)で乾燥させた。乾燥後の製剤のうち、目開き1400μmの篩いを通過し、且つ目開き355μmの篩いを通過しなかったものを2−13Cウラシル5重量%含有顆粒剤として得た。
【0106】
斯くして得られた2−13Cウラシル5重量%含有顆粒剤の粒径を、振動篩い法[具体的には、測定装置:ロボットシフターRPS-95(セイシン企業)、振動レベル:5、シフトタイム:5分、パルス間隔:1秒]により測定したところ、表1に示す結果が得られた。
【0107】
【表1】

【0108】
(2)溶解性の評価
室温下で、200mL容量のビーカーに水道水100mLを入れ、マグネチックスターラー(RCN-7D、EYELA製)を用いて200rpmで攪拌しながら、上記顆粒剤2000mgを投入し目視で製剤の溶解までの時間を測定した。また、顆粒剤を投入して3分経過した際に、該製剤の溶け残りについても目視評価した。その結果、溶解までに要した時間は1分10秒と短く、3分経過後の溶け残りは極めて少量であった。
【0109】
実施例3 顆粒剤
2-13Cウラシル(Cambridge Isotope Laboratory製)20gとD−マンニトール(マンニット、協和発酵製)180gを混合後、サンプルミル(KIIWG-1F、不二パウダル製)へ導入し混合粉砕(粉砕ローター回転数:12800rpm、サンプル供給モーター回転数:約10rpm、スクリーン:1mmパンチスクリーン)し、粉末原料を調製した。得られた粉末原料144gを量り取り、スピードニーダー(NSK-150、岡田精工製)に入れ、精製水14.4gを加えて練合した。次いで得られた湿粉体をφ1mm穴のドームダイを装着した押し出し造粒機(ドームグランDG-1L、不二パウダル製)で押し出し、60℃に設定した送風乾燥機(SPHH-201、エスペック製)で乾燥させた。乾燥後の製剤の内、目開き1400μmの篩いを通過し、且つ目開き355μmの篩いを通過しなかったものを2−13Cウラシル10重量%含有粒状製剤として得た。
【0110】
実施例4 錠剤
2-13Cウラシル(Cambridge Isotope Laboratory製)100g、乳糖(H.M.S社製)60g、トウモロコシデンプン(コーンスターチ、日本食品化工製)25g、結晶セルロース(セオラスPH301、旭化成製)10g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L微粉、日本曹達製)4gをスピードニーダー(NSK-150、岡田精工製)に入れ混合後、精製水40gを加えて練合した。次いで、得られた練合粉体を3mmパンチスクリーンを装着したスピードミル(ND-02、岡田精工製)により造粒した後、70℃に設定した送風乾燥機(SPHH-200、エスペック製)で乾燥させた。乾燥後得られた粒状体を16号篩いに通過させて整粒し、整粒後の粒状体199gにステアリン酸マグネシウム(太平化学産業製)1gを添加して打錠用顆粒とした。この打錠用顆粒をφ8mmスミ角Rの杵臼を装着した単発打錠機(No.2B、菊水製作所製)を用いて1錠が200mgとなるように打錠して錠剤を得た。
【0111】
実施例5 粉末製剤
(1)製剤の調製
2-13Cウラシル(Cambridge Isotope Laboratory製)20g及びD−マンニトール(マンニット、協和発酵製)180gを良く混合した後、サンプルミル(SAM、奈良機械社製)に投入して混合粉砕処理(粉砕羽根形状:ピンタイプ、ローター回転数:4000rpm、スクリーン:3mmパンチスクリーン)し、粉末製剤を調製した。
【0112】
(2)粒度分布測定
上記粉末製剤について、乾式粒度分布測定装置(LDSA-1500A、東日コンピュータ社製)を用いて、焦点距離:100mm、平均化回数:10回、平均化間隔:5ミリ秒、及びエアー圧力:0.4MPaAの条件下で粒度分布を測定した。測定した粒度分布から、10%粒子径(10%D[μm])、50%粒子径(50%D[μm])、及び90%粒子径(90%D[μm])を算出した結果を表2に示す。
【0113】
【表2】

【0114】
表2に示すように、粒子が小さくなっており、十分な粉砕効果が得られていることが確認された。
【0115】
実験例1
2-13Cウラシル(Cambridge Isotope Laboratory製)をそのまま各種pHのBritton-Robinson緩衝液(pH2、4、6および8)に溶解して飽和溶液を調製した。各溶液を高速液体クロマトグラフィーにかけて、溶液中に溶解している2-13Cウラシル量を測定し、溶解度(w/v%)を算出した。結果を表3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
この結果から、ウラシルの溶解度は、溶液のpH、すなわち消化管pHによって殆ど変動しないことがわかる。
【0118】
実験例2 2-14C-ウラシルの呼気排出率
雄性ラット(Wistar, n=3)或いは雄性イヌ(Beagle, n=3)に2-14C-ウラシルを2.28 mg/kgの用量で絶食下単回経口投与後の呼気,尿及び糞中への放射能の累積排泄率を図1に示した。ラットでは、投与2時間後に呼気中に、投与した放射能の78.0%、24時間後には91.2%が排泄された。投与後168時間には呼気中に92.3%、尿中に6.3%、糞中に0.5%の放射能が排泄され、総排泄率は99.1%であった。
【0119】
イヌに於いては 投与2時間後に呼気中に、投与した放射能の52.1%、24時間後には89.3%が排泄された。投与後168時間には呼気中に90.6%、尿中に5.6%、糞中に0.7%の放射能が排泄され,総排泄率は96.8%であった。
【0120】
この結果から、何れの動物に於いても投与した2-14C-ウラシルの量の90%以上が炭酸ガス(14CO2)として呼気に排出されることが確認された。
【0121】
実験例3 呼気反応に対する肝代謝機能の影響
2-13C-ウラシルの薬物動態を検討する目的で、雄性イヌ(3頭)に10,20,40 及び80 μmol/kgの投与量で2-13C-ウラシルを単回経口投与し、呼気中13CO2濃度の変化量(D13C)及び血漿中13C-ウラシル濃度を測定した(Inada M, Hirao Y, Koga T, Itose M, Kunizaki J, Shimizu T, Sato H. Relationships among plasma [2-13C]uracil concentrations, breath 13CO2expiration, and dihydropyrimidine dehydrogenase (DPD) activity in the liver in normal and DPD-deficient dogs. Drug Metab Dispos 2005, 33, 381-387参照)。
【0122】
血漿中13C-ウラシル濃度及び呼気中13CO2濃度の変化量(D13C)を記述するために、図2に示す生理学的薬物速度論モデル(Physiologically-based PK model:PBPKモデル)を構築した。
【0123】
PBPKモデルを記述するための微分方程式を以下に示す。
【0124】
【数24】

【0125】
非線形最小二乗法プログラムSAAM II (SAAM Institute Inc.) を用い、これらの式に各データをあてはめ、各パラメータを推定した。その結果、Kmは0.416μg/mL,Vmaxは9030 μg/min、センターコンパートメントの分布容積は2.22Lであった。
【0126】
構築された生理学的モデルを用い,肝代謝機能の処理能力を示すVmaxを100%から0%まで10%間隔で変化させ,イヌに 2-13C-ウラシルを20μmol/kgの割合で経口投与した時の呼気中13CO2濃度の変化量(D13C)をシミュレーションした。結果を図3に示す。
【0127】
図3に示すように, D13Cの最高到達濃度(Cmax)はVmaxの低下に伴い低値を示した。しかし、D13CのD13C -時間曲線下面積(AUC)はほとんど変化せず、Vmaxを20%または10%に低下させた状態に於いてもAUCはコントロール(Vmax = 100%の時)に対して、それぞれ98.1%または94.1%残存していた。
【0128】
このことから,2-13C-ウラシル経口投与後のD13CのD13C -時間曲線下面積(AUC)は,被験者の肝代謝機能にほとんど影響されないことが示唆された。
【0129】
実験例4
早朝空腹の条件下、女性(体重35kg,身長149cm)並びに男性(体重98kg,身長169cm)に安静時、コンソメスープ 100 mLを摂取させた後、2-13C-ウラシル 100 mg(顆粒剤)を水100 mLと共に服用させ、呼気を経時的に採取した。呼気中のδ13C値変化量(Δ13C(‰)、DOB(‰))は赤外分光分析装置(POC one:大塚電子製造)を用いて測定した。図4に測定結果を示す。得られたDOB(‰)を下記の近似式(「13C-呼気試験の実際 基礎と実践的応用 第8項:13C-呼気試験データ解析法」13C医学応用研究会):
【0130】
【数25】

【0131】
を用いて、13C濃度変化量(Δ%13C)(atom%)に変換した後、薬物動態解析ソフトWinNonlin (ver4.1, Pharsight社)を用いて、時間-atom%曲線下面積(AUC)を求めた。CO2生成速度(VCO2)は次式によって計算した。
【0132】
【数26】

【0133】
この結果、女性のCO2生成速度(VCO2)は8.6 mmol/mimと算出され,男性のCO2生成速度(VCO2)は13.5mmol/mimと算出された。さらに更に,下式で示すKleinらの計算式(J Pediatr Gastroenterol Nutr. 1999 Sep;29(3):297-301)から、女性のEnergy Expenditure (EE)は1660 kcal/dayと算出され,男性のEE は3750 kcal/dayと算出された。
【0134】
【数27】

【0135】
実験例5
投与前日14時より絶食させた雄性イヌ(Beagle, 体重12.8kg)を用い,安静時或いは30分間の運動負荷時(自転車を用い時速約10km/hrで散歩)の呼気中のδ13C値変化量(Δ13C(‰)、DOB(‰))の推移を赤外分光分析装置(POC one:大塚電子製造)を用いて測定した。投与量は2-13C-ウラシル 2.28 mg/kgとしCMC-Naのけん濁液として強制経口投与した。投与後直後から運動負荷開始し,経時的に呼気を採取した。図5に測定結果を示す。
【0136】
DOB(‰)を上記の式を用い13C濃度変化量(atom%)に変換した後,実験例4と同様にして時間- atom%曲線下面積(AUC)を求め、CO2生成速度(VCO2)を算出した。その結果、安静時のVCO2は0.316 mmol/mim/kgと算出され、運動負荷時のVCO2 は0.471 mmol/mim/kgと算出された。両者の差が、運動負荷によるエネルギー消費を反映するものと考えられる。
【0137】
実験例6 診断精度の評価
実施例2の顆粒剤各々1gを3名の健常者(被験者A、B及びC)に経口投与し、経時的に呼気を採取して呼気中13CO濃度をGC-MS分析装置(ABCA-G、Europa Scientific社製)を用いて測定した。
【0138】
製剤投与後の呼気中13CO濃度推移を図6に示す。図6中、縦軸は、顆粒剤投与前に採取した呼気のδ13C値(‰)(呼気中13CO12CO濃度比)と顆粒剤投与後に採取した各時それぞれの呼気のδ13C値(‰)との差である△13C値(‰)を示す。また横軸は、顆粒剤投与後、呼気を採取した時間(分)を示す。図6からわかるように、呼気試験において、実施例2で調製したような2-13Cウラシル等の同位体標識ピリミジン化合物と糖及び/又は糖アルコールとを混合粉砕して調製した粉末原料を用いて製剤化した顆粒剤を用いると、被験者間の呼気中13CO濃度推移が類似しており、個人差によるばらつきが少なかった。この結果から、好適には上記の製剤を使用して呼気中13CO濃度を測定することにより、個人差によるばらつきが少なく、迅速且つ高い精度で各被験者のエネルギー消費量を診断できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】ラット(左図)とイヌ(右図)に2-14C-ウラシルを投与した後の、呼気、尿および分中への放射能の累積排泄率を示す結果である(実験例2)。
【図2】ウラシルを投与した場合の生理学的薬物速度論モデルを示す模式図である。
【図3】肝代謝機能を示すVmaxを100%から0%まで10%間隔で変化させて、イヌに2-13C-ウラシルを経口投与した時の呼気中に排出された13CO濃度の変化量(Δ13C)をシミュレーションした結果を示す(実験例3)
【図4】女性(体重35kg,身長149cm:−●−)および男性(体重98kg,身長169cm:−▲−)について、安静時に行った13C-呼気試験から得られた時間-13C濃度変化量(atom%)曲線を示す(実験例4)。
【図5】安静時(−○−)と運動時(−■−)に行った13C-呼気試験から得られた時間-DOB(‰)曲線を示す(実験例5)。
【図6】実施例2の顆粒剤を3名の健常者(被験者A,BおよびC)に投与した場合に、呼気に排出された13CO2の挙動を経時的に示した結果である(実験例6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内で標識COガスに変換されて呼気中に排出される、同位元素C又はOの少なくとも一方で標識されてなるピリミジン化合物を有効成分とする、エネルギー消費評価用組成物。
【請求項2】
同位元素が13C、14C及び18Oからなる群から選択されるいずれか少なくとも一種である請求項1記載のエネルギー消費評価用組成物。
【請求項3】
標識ピリミジン化合物が、ウラシル、チミン、シトシンまたは5−メチルシトシンである請求項1または2記載のエネルギー消費評価用組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物を被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定する工程を有する、当該被験者のエネルギー消費を評価する方法。
【請求項5】
被験者の安静時のエネルギー消費を評価する方法であって、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物を安静状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定することを特徴とする、請求項4に記載する方法。
【請求項6】
被験者の運動負荷時のエネルギー消費を評価する方法であって、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物を運動負荷状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定することを特徴とする、請求項4に記載する方法。
【請求項7】
さらに呼気内に排出された標識COの量からCO生成速度(VCO2)を算出する工程を有する、請求項4乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物を被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量を測定する工程、当該呼気内に排出された標識COの量からCO生成速度(VCO2)を算出する工程、および当該CO生成速度(VCO2)から、下式:
【数1】

に従ってエネルギー消費量を算出する工程を有する、被験者のエネルギー消費量を測定する方法。
【請求項9】
被験者の安静時のエネルギー消費量を測定する方法であって、CO生成速度(VCO2)を、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物を安静状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量から測定することを特徴とする、請求項8に記載する方法。
【請求項10】
被験者の運動負荷時のエネルギー消費量を測定する方法であって、CO生成速度(VCO2)を、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物を運動負荷状態にある被験者に経口投与し、呼気内に排出される標識COの量から測定することを特徴とする、請求項8に記載する方法。
【請求項11】
生体内で標識COガスに変換されて呼気中に排出される、同位元素C又はOの少なくとも一方で標識されてなるピリミジン化合物を、被験者のエネルギー消費を評価する製剤、またはエネルギー消費量を測定する製剤を製造するために使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−44889(P2008−44889A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222089(P2006−222089)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】