説明

14−3−3蛋白γアイソフォーム特異的ELISA

【課題】生体試料中の14−3−3蛋白γアイソフォーム(14−3−3γ)の測定方法及びその為のキットの提供、並びに、当該測定方法及びキットを用いた、より高感度な、プリオン病(なかでもクロイツフェルト・ヤコブ病)の診断方法の提供。
【解決手段】2種の14−3−3蛋白γアイソフォーム特異抗体を用いたサンドイッチ法(好ましくはELISA)によって実施される、生体試料中の14−3−3蛋白γアイソフォームの測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、14−3−3蛋白γアイソフォームの測定方法及びその為のキットに関する。より詳細には、本発明は、14−3−3蛋白γアイソフォーム特異抗体を用いたγアイソフォーム特異的なサンドイッチ法、特にELISAによって実施され得る14−3−3蛋白γアイソフォームの測定方法及びその為のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
プリオン病の確定診断には、脳からプリオン蛋白の検出が必要であり、これには脳組織を検体として、プリオン蛋白の免疫染色又はウエスタンブロットを行う必要があるため、基本的に死後しかできない。よって現実的な診断としては、患者の生活歴、脳画像所見、病状、脳波による意識レベルなどを総合的に判断して診断を行う慣習となっている。
【0003】
プリオン病の診断のための生化学マーカーとして、14−3−3蛋白を用いることができることが知られている(非特許文献1)。14−3−3蛋白は、細胞内に豊富に存在する分子量約28kDaの二量体で、生物種を超えてその配列が高度に保存された多機能蛋白のファミリーであり、神経細胞において高レベルで発現している。14−3−3蛋白は7つの異なるアイソフォーム(β型、γ型、η型、ε型、ζ型、τ型及びб型)を有するが、このうちプリオン病ではγアイソフォームが重要なマーカーとされている。従って、14−3−3蛋白、特にγアイソフォームを特異的に検出し得る測定方法が望まれている。
14−3−3蛋白は、急激な神経破壊を首尾よく検出できるマーカーであり、幾つかの進行性の神経障害において髄液(CSF)中に検出されることが知られている。例えば、ヒトのプリオン病であるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)のWHOによる診断基準には、「脳波記録(electroencephalographic (EEG) recording)でperiodic sharp wave complexが観測されること」および「髄液中に14−3−3蛋白が存在すること」が含まれる(非特許文献2)。
【0004】
従来、14−3−3蛋白の検出は、γアイソフォームも含め、ウエスタンブロット法(WB)により行っていた。しかしながらWBによる検出では、感度がさほどではなく、国ごと、あるいは研究者ごとにプロトコールが異なる上、多数の工程が必要で費用がかさむ。さらに疑いのあるバンドに対して、複数の研究者が判別を行う必要があるため、一度に多検体を検出することは困難であった(非特許文献3)。すなわち14−3−3蛋白測定のスタンダード、及び定量的評価の適切な基準が極めて重要となる。
【0005】
14−3−3蛋白は、WBあるいは酵素結合免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay :ELISA)によって、CJD患者のCSF中に特異的に検出されるバイオマーカーであるが、14−3−3蛋白のγアイソフォーム(14−3−3γ)に対するWBは、十分な感度を提供することができず、その報告によって異なったデータが得られるのが現状である。
【0006】
以前の研究では、CSF中の14−3−3蛋白を検出するためにはELISAが利用されていた(非特許文献4、5)。しかしながら、それには以下の大きな問題点があった:1)50未満とCJD患者の症例数が少なく、2)CJD群及び対照群の内訳が明らかでなく、3)ELISAキットにおけるカットオフ値の検討についても全く明らかにされておらず、更に4)特異性に欠けるものであった。
そこで、CSF中の14−3−3蛋白をELISAにより検出する試みがおこなわれている。上記のように、WBでは、一度に限られた数のサンプルしか分析できないため、緊急の治療を要する患者に対する方法としては適切ではないが、ELISA解析ができれば、同時に多数のサンプルを処理でき、臨床試験の方法として極めて有利である。
【0007】
また最近の取り組みとして、CJD患者のCSF中のわずかな異常プリオン蛋白を検出する方法として、リアルタイムQUIC(RT−QUIC)を用いた新たな診断方法が報告されている(非特許文献6)。QUIC法は異常プリオン蛋白を増幅して検出する方法であり、この方法を用いれば、髄液中にごくわずかに存在する異常型プリオン蛋白であっても、増幅して、定量・検出する事が可能である。しかしながら、依然として十分な感度を有する方法とはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hsich G et al., New England Journal of Medicine. 1996; 335: 924-930
【非特許文献2】Brandel JP et al., Neurology. 2000; 54: 1095-1099
【非特許文献3】Satoh K et al., Laboratory and Investigation. 2010; 90: 1637-44
【非特許文献4】Kenney K et al., Annals of Neurology. 2000; 48: 395-398
【非特許文献5】Gmitterova K et al., Neurobiology of Aging. 2009; 30(11): 1842-50
【非特許文献6】Atarashi R et al., Nature Medicine. 2011; 17: 175-178
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、生体試料中の14−3−3蛋白γアイソフォーム(14−3−3γ)の測定方法及びその為のキットの提供を目的とする。さらに、当該測定方法及びキットを用いた、より高感度な、プリオン病(なかでもクロイツフェルト・ヤコブ病)の診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、14−3−3蛋白のγアイソフォーム特異的な抗体を用いた、14−3−3γ検出のための感度・特異性ともに良好なサンドイッチELISA法の開発に成功した。
更に本発明者らは、本願発明の14−3−3γ特異的なELISAキットを用いてヒトプリオン病および非プリオン病患者の診断を行い、これらの疾患の新規な診断方法を確立した。
【0011】
即ち、本発明は、
[1]2種の14−3−3蛋白γアイソフォーム(14−3−3γ)特異抗体を用いたサンドイッチ法によって実施される、生体試料中の14−3−3γの測定方法、
[2]該2種の抗体が、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体である、上記[1]記載の方法、
[3]ELISAである、上記[1]又は[2]記載の方法、
[4]モノクローナル抗体が、培養細胞から精製した14−3−3γを免疫原として作製されたものである、上記[2]記載の方法、
[5]ポリクローナル抗体が固相に固定化されてなる、上記[3]記載の方法、
[6]更にRT−QUIC法と組み合わせることを特徴とする、上記[5]記載の方法、
[7]生体試料が髄液である、上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の方法、
[8]髄液中の14−3−3γの異常高値を検出するための、上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の方法、
[9]14−3−3γの異常高値が、プリオン病によるものである、上記[8]記載の方法、
[10]プリオン病がクロイツフェルト・ヤコブ病である、上記[9]記載の方法、
[11]クロイツフェルト・ヤコブ病が初期クロイツフェルト・ヤコブ病である、上記[10]記載の方法、
[12]2種の14−3−3γ特異抗体を含む、生体試料中の14−3−3γのELISA測定用キット、
[13]該ELISAがサンドイッチ法によって実施される、上記[12]記載のキット、
[14]該2種の抗体が、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体である、上記[12]記載のキット、
[15]モノクローナル抗体が、培養細胞から精製した14−3−3γを免疫原として作製されたものである、上記[14]記載のキット、
[16]生体試料が髄液である、上記[12]〜[15]のいずれか1項に記載のキット、
[17]プリオン病の診断用である、上記[12]〜[16]のいずれか1項に記載のキット、
[18]プリオン病がクロイツフェルト・ヤコブ病である、上記[17]記載のキット、
[19]クロイツフェルト・ヤコブ病が初期クロイツフェルト・ヤコブ病である、上記[18]記載のキット、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の14−3−3γの測定方法及び14−3−3γのELISA測定用キットは、プリオン病とりわけCJD病の診断のために有効である。本願発明の方法は、髄液などの比較的低侵襲で得られる検体を用いることができるため、臨床的にも大変優れている。
また本願発明により可能となるヒトプリオン病の診断方法は、髄液中の14−3−3γの明確なカットオフ値を提供することができる。当業者であれば、このカットオフ値を元に、患者がヒトプリオン病(特にクロイツフェルト・ヤコブ病)を発症しているか否かの判定を容易に行うことができ、初期のCJD患者に対しても有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】CJD患者及び他の神経疾患患者から採集したCSF中の14−3−3γのELISA解析の結果を表すグラフである。CSF中の14−3−3γのELISAにおいて、カットオフポイントを種々に設定して得られるROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を示す。
【図1B】CJD及び他の神経疾患を有する患者から採集したCSF中の14−3−3γのELISA解析の結果を表すグラフである。CJD:クロイツフェルト・ヤコブ病;DAT:アルツハイマー型認知症;CVD:脳血管障害;PD:パーキンソン病;PSP:進行性核上麻痺;FTLD:前頭側頭葉変性症;HD:ハンチントン病;CBD:大脳皮質基底核変性症;PCD/LEMS:傍腫瘍性小脳変性症/Lambert−Eaton筋無力症候群;MELAS:Mitochondrial myopathy, Encephalopathy, Lactic Acidosis, Stroke-like episodes;MCI:軽度認識障害。
【図1C】CJD患者及び他の神経疾患患者から採集したCSF中の14−3−3γのELISA解析の結果を表すグラフである。CJD患者と非プリオン患者とを対比した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、サンドイッチELISA(#1と#6)により得られた標準曲線を示す。標準曲線の作成には組換え14−3−3γを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本願発明を実施するための形態について、詳細に記載する。本明細書内で用いられる全ての技術的及び科学的用語は、別の記載がない限り、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同様の意味を有する。
【0015】
本願発明は、2種の14−3−3蛋白γアイソフォーム(14−3−3γ)特異抗体を用いたサンドイッチ法、特にELISAによって実施される、生体試料中の14−3−3γの測定方法を提供する。
【0016】
14−3−3蛋白は、細胞内に豊富に存在する分子量約28kDaの二量体で、生物種を超えてその配列が高度に保存されている多機能蛋白のファミリーであり、β型、γ型、η型、ε型、ζ型、τ型及びб型の、合計7つの異なるアイソフォームを有する。14−3−3蛋白は正常髄液では検出されないが、異常プリオン蛋白によって発症するクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の髄液(CSF)において高率に検出される。CSF中に検出される14−3−3蛋白のアイソフォームは疾患によって特異性があることが知られている。プリオン病においては、γアイソフォームが重要なマーカーとされている。本願発明において、測定対象となるのはγアイソフォームである。
【0017】
従来技術では、サンドイッチ法によってその値が特異的に測定しえるのは14−3−3総アイソフォームや総タウ蛋白に限られ、14−3−3γを特異的に検出することはできなかった。14−3−3総アイソフォームや総タウ蛋白は、神経損傷を伴う疾患でも高値になる傾向があるため、プリオン病に特異的なマーカーとしては十分ではなかった。
本願発明の測定方法は、生体試料中の14−3−3γを特異的に検出して、その存在量を測定する方法である。感度が高い為、初期のプリオン病患者に対しても効果的である。
【0018】
本願発明の測定方法は、2種の14−3−3γ特異抗体を用いたサンドイッチ法によって実施されることを特徴とする。免疫学的測定において、サンドイッチ法とは、標的物質を認識する抗体(1次抗体)と、1次抗体に結合した標的物質に対してさらに該標的物質を認識する抗体(2次抗体)を結合させる、2種類の抗体を用いる手法である。本願発明では、2種の14−3−3γ特異抗体を用いる。2種類の14−3−3γ特異抗体は、14−3−3γを特異的に認識するものの、その認識部位は異なっていることが必要である。
【0019】
該抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体の結合性フラグメント(例えば、Fab、F(ab’))、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。本願発明で用いる2種の14−3−3γ特異抗体は、好ましくは一方がポリクローナル抗体で、他方がモノクローナル抗体である。
【0020】
例えば、ポリクローナル抗体は、14−3−3γ、14−3−3蛋白あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスター等の哺乳動物が挙げられる。
【0021】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2−14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに14−3−3γ、14−3−3蛋白あるいはそのフラグメントを市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS−1,P3X63Ag8等)を細胞融合して14−3−3γを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。
細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods,81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清又は動物の腹水から取得できる。
【0022】
例えば、免疫原として14−3−3蛋白あるいは14−3−3γそのものを用いる場合、これらのタンパク質を、それが天然に含まれる組織[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例:褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋等])や、培養細胞[例:肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞等]等から抽出することにより、あるいは既知の配列から大腸菌発酵やペプチド合成機などの公知技術により人工的に産生されたものであってもよい。
【0023】
免疫原は、酸又は塩基との塩であってもよい。例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などを用いることができる。
【0024】
抗体のアイソタイプは、特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。
【0025】
本願発明で用いる抗体は、より好ましくは、実施例で詳述される各抗体である。
【0026】
好ましい一態様において、本発明のサンドイッチ法は、ELISA法によって実施される。
生体試料と、担体上に固相化した抗体(1次抗体)及び遊離の抗体(2次抗体)とを、同時に又は連続的に反応させ、1次抗体−「14−3−3γ」−2次抗体からなる複合体を担体上に形成させて、当該複合体の量を測定することにより実施される。本願発明では、好ましくは、1次抗体はポリクローナル抗体であり、2次抗体がモノクローナル抗体である。
【0027】
本方法によれば、1次抗体が固定化された固相抗体に生体試料を反応させ(1次反応)、さらに標識化した2次抗体を反応させた後(2次反応)、固相と液相を分離(B/F分離)して未反応の標識化2次抗体等を除去し、不溶化担体上の標識量を測定することにより、生体試料中の14−3−3γを測定することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行なってもよく、また、同時に行なっても、時間をずらして行なってもよい。
【0028】
1次抗体の固相化は、物理吸着によってもよく、化学結合によってもよい。化学結合による場合、通常、蛋白質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。
担体としては、例えば、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が用いられる。多くの検体を一度に簡便に測定できるというELISAの利点を鑑みれば、多穴プレート(24ウェルや96ウェルのプラスチック製プレート)を用いることが好ましい。
【0029】
本方法では、2次抗体を標識することが好ましいが、標識剤としては、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが挙げられる。
放射性同位元素としては、例えば、[I125]、[I131]、[H]、[C14]などが用いられる。
酵素を用いる場合、当該酵素は、安定で比活性の大きなものであれば特に限定されないが、例として、西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ(ALP)、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。
蛍光物質を用いる場合、当該蛍光物質は、本発明の測定方法を可能にするものであれば特に限定されないが、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。
発光物質を用いる場合も、当該発光物質は、本発明の測定方法を可能にするものであれば特に限定されないが、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。
また2次抗体と標識剤との結合には、ビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0030】
一態様において、本願発明の測定方法は、Real−time QUIC法(real-time quaking-induced conversion: RT-QUIC)と組み合わせて用いることができる。
RT−QUIC法は、異常型プリオン蛋白の増幅法の一種で、脳組織或いは脳脊髄液などの検体中に含まれる超微細量の異常プリオン蛋白(PrPSc)を増幅し、チオフラビンT(ThT)などの蛍光強度の測定により、簡便に且つリアルタイムで、PrPScを検出することができる方法である(Nat Methods. 2008 Mar; 5(3): 211-2; Nature Med. doi:10.1038/nm. 2294 (2011).)。
【0031】
好ましい一態様において、本願発明の測定方法は、RT−QUIC法と組み合わせて実施することができる。RT−QUIC法は、ごく少量の異常型プリオン蛋白を、大腸菌に発現させ精製したリコンビナントプリオン蛋白と相互作用させ,そのリコンビナントプリオン蛋白に異常型プリオン蛋白依存的な凝集反応を起こさせることにより、生体試料中の異常型プリオン蛋白の有無を判定するという方法である(非特許文献6)。
【0032】
本願発明の測定方法に使用する生体試料としては、例えば、プリオン病等の発症時に14−3−3γの異常高値が観察され得る試料であれば特に限定されないが、例えば、検査対象である(ヒトを含む)動物由来の組織、血液、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液(CSF)、関節液、精液、尿、生検サンプル等が挙げられ、好ましくはCSFである。
【0033】
本願発明の生体試料中の14−3−3γの測定方法は、生体試料(好ましくは髄液)中の14−3−3γの異常高値を検出することができ、従って、プリオン病、急性脳症、急速進行性認知症、HIV脳症、癌性髄膜炎等の一部の癌等、特にプリオン病を診断するのに好適に用いることができる。
【0034】
プリオン病とは、プリオン蛋白の異常によって引き起こされる疾患の総称であり、正常型プリオンタンパク質が構造変換して生成される感染型プリオンタンパク質により引き起こされる疾患である。非ヒト動物のプリオン病として、羊や山羊のスクレイピー、別名狂牛病として知られるウシ海綿状脳症などが有名であり、またヒトのプリオン病としては、ニューギニアの高地民族に見られたクールー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)、変異型ヤコブ病などが代表的なものである。
【0035】
プリオン病は、その病因によって、1:原因不明の散発性プリオン病、2:プリオン蛋白遺伝子の変異によって起こる家族性プリオン病、3:ヒトまたは動物などのプリオン病から感染したと考えられる感染性プリオン病、の3つに大きく分類される。
【0036】
散発性プリオン病は、現在報告されているプリオン病の大部分を占めるものである。ヒトの散発性プリオン病は、プリオン蛋白のアミノ酸配列において、コドン129がメチオニン型(129Met)とバリン型(129Val)に分類される。また、プロテインキナーゼK処理後の異常プリオン蛋白の分子量が異なることを利用して、糖鎖のないプリオン蛋白が21KDであるタイプI型と、19KDであるタイプII型に分類される。異常プリオン蛋白は、上記2つの分類方法を組み合わせて、MM1、MV1、VV1、MM2、MV2、VV2と分類される。更には、異常プリオン蛋白の中に見出される小さなフラグメント化されたプリオン蛋白(fragmented PrP)の存在の有無(陽性・陰性)によってさらに分類される。
【0037】
「家族性プリオン病」とは、プリオン蛋白遺伝子の変異型遺伝子を有する家族において、遺伝によって伝播されるプリオン病で、遺伝子変異の位置によって分類される。
【0038】
「感染性プリオン病」とは、プリオン病に感染し異常プリオンを有するヒト又は非ヒト動物と接触したことによって起こるプリオン病である。
【0039】
本願発明において、好適な診断対象となるプリオン病はクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である。当該クロイツフェルト・ヤコブ病には、初期クロイツフェルト・ヤコブ病も含まれる。
【0040】
前述したように、プリオン病に起因して異常高値となった、生体試料中の14−3−3γを測定する場合において、RT−QUIC法(非特許文献6)と組み合わせることにより、より効果的なプリオン病の診断が可能となる。
さらに、頭部MRI拡散強調画像(DWI)等の画像診断と組み合わせることによって、より正確な診断が可能となる。
【0041】
本願発明は、上記した、生体試料中の14−3−3γの測定方法に好適に使用することができるキットを提供する。即ち、本願発明は、2種の14−3−3γ特異抗体を含む、生体試料中の14−3−3γのELISA測定用キットを提供する。
【0042】
本願発明のキットは、ELISA測定が可能であり、且つ14−3−3γ特異抗体を2種含んでいれば、それ以外の構成要素は特に限定されない。当該ELISA測定用キットにより実施するELISAは直接法、間接法、サンドイッチ法のいずれによって実施されてもよい。2種の14−3−3γ特異抗体は上述のものと同様のものが挙げられる。
本願発明において、サンドイッチ法によるELISAが実施される場合、用いる抗体は、好ましくは実施例にて後述するポリクローナル抗体#1とモノクローナル抗体#6である。
これら抗体以外に、反応容器や反応液、標識剤等、14−3−3γのELISA測定に都合よいものであれば、本キットにあらかじめ含めておくことができる。
【0043】
好ましい1つの実施態様において、上記キットは、説明書を更に含んでいてもよい。該説明書は、当該キットの使用の対象となる生体試料の種類、保存情報、使用上の注意などに関する指示が表示されていてよい。
該キットはまた、包装材料を更に含む製品の形で提供されてもよい。該包装材料は、当該キットを収容するための容器を含んでいてもよい。該容器は、キットの使用の対象となる生体試料の種類、保存情報、使用上の注意などに関する指示を表示するラベルを含んでもよい。
上記実施態様及び変形に関して、製品は、複数回投与形態で化合物又は組成物を含んでいてもよい。
【0044】
14−3−3γのELISA測定用キットを用いる対象となる生体試料については、上記で定義したとおりである。好ましくは髄液である。
【0045】
本願発明の測定方法及び/又はキットを用いることにより、プリオン病等で観察される14−3−3γの異常高値を高感度で且つ特異的に検出することができる。
感度とは陽性と判断されるべき患者を正しく陽性と判断できる割合を意味し、特異度とは陰性と判断されるべき患者を正しく陰性と判断できる割合を意味する。特異度を上げると感度が悪くなり、感度を上げると特異度が下がる。最適な感度と特異度を見つけ、陽性と陰性を区切る境界点の値をカットオフ値と称し、通常、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成して算出している。
本願発明においても、生体試料中の14−3−3γの測定をELISAで行うことが可能となったので、より簡便にROC曲線を作成してカットオフ値を算出することが可能となるので、一度に大量の検体を測定する場合等、客観的な統計処理が可能となる。
【0046】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0048】
[材料と方法]
(1.患者)
CSFの生化学アッセイのため、日本全国の病院からCJDの疑いのある患者を集めた。300を超える申し出があり、うち124人のCJD患者に対し追跡研究を行った。症例は、散発性CJD(n=114)、家族性CJD(n=7;うち4例は、プリオン蛋白遺伝子のV180I変異、2例はM232R変異、1例はE200K変異)又は、医原性(硬膜移植に伴うCJD;n=3)であった。全例とも、臨床所見、臨床的な時間経過、神経画像検査(FLAIR (fluid attenuated inversion recovery)法、及びMR画像における拡散強調画像(DWI))、およびEEG(electroencephalogram)における検査所見では、典型的なCJDであった。
対照サンプルとしては、アルツハイマー型認知症(DAT)(n=54、男性=33、女性=21);脳血管性認知症(n=7、男性=5、女性=2);パーキンソン病(n=5;男性=4、女性=1);進行性核上麻痺(PSP)(n=3、男性=2、女性=1);前頭側頭葉変性症(n=2、男性=1、女性=1);ハンチントン病(n=1、男性=1);大脳皮質基底核変性症(n=2、女性=2);筋萎縮性側索硬化症(n=3、男性=1、女性=2);辺縁系脳炎(n=2、男性=1、女性=1);MELAS(Mitochondrial myopathy, Encephalopathy, Lactic Acidosis, Stroke-like episodes)(n=4;男性=2、女性=2);傍腫瘍性小脳変性症/Lambert−Eaton筋無力症候群(PCD/LEMS)(n=2、男性=1、女性=1);側頭葉てんかん(n=4;男性=1、女性=3);軽度認識障害(n=3、男性=1、女性=2)又は原因不明の認知症(n=3、男性=1、女性=2);のいずれかの疾患を患う99人の患者からCSFを採集した。更に、4人の健常者ボランティア(n=4;男性=2、女性=2)からもCSFを採取した。
【0049】
本発明者らは、既に、発症から6週間追跡しCJDと判定された21人の初期CJD患者について報告している(Satoh et al., Dementia and Geriatric Cognitive Disorders 2007; 24: 207-212)。これらの21人のCJD患者からCSFサンプルと臨床所見を得た。
本研究は、長崎大学医学部の医学部倫理委員会(06012755)(UMIN000003301)に承認され、また検査に参加した患者からは書面のインフォームドコンセントを得ている。
【0050】
(2.CSFサンプル中の14−3−3蛋白のウエスタンブロット(WB)解析)
CSFサンプルは、採集後、1回分に等分し、使用するまで−80℃にて保存した。冷凍・解凍の繰り返しを避けるため、全てのサンプルについて、同時にアッセイを行った。CSFの14−3−3蛋白のイムノアッセイは、非特許文献3に記載の通りにおこなった。
14−3−3γに特異的なポリクローナル抗体は、Immuno-Biological Laboratories (IBL) (18647; Gunma, Japan)から入手し、1:500に希釈して使用した。感度を揃えるために、同一の抗体を使用して全サンプルを解析した。
蛋白の検出は、ECL検出キット(Amersham Buchler Company)により行った。CSFサンプル中の14−3−3蛋白の検出は、非特許文献3記載の通りに行った。全アッセイは、2人の研究者により行った。
【0051】
(3.CSFサンプル中のt−tau蛋白の解析)
CSF中のt−tau蛋白の検出は非特許文献3に記載の通りにおこなった。
【0052】
(4.CSFサンプル中の14−3−3蛋白のELISAアッセイ)
培養細胞から精製して得られた14−3−3γ由来の3つのペプチドで、ラビット及びマウスを免疫した。常法に従って3つのポリクローナル抗体(#1〜#3)及び3つのモノクローナル抗体(#4〜#6)を得た。
得られた総計6つの抗体を用いて、14−3−3蛋白の各アイソフォームとの反応性を調べた。各アイソフォーム蛋白は以下のようにして調製した。
cDNAライブラリーから14−3−3蛋白の各アイソフォームをコードする全長の遺伝子を得た。Hisタグに加えてヒト14−3−3蛋白をコードする全長の構築物をpcDNA6/Hisベクターにクローニングし、その後、該構築物をマウス293T細胞にトランスフェクトして各アイソフォーム蛋白を過剰発現させた。いずれの型の蛋白もアフィニティクロマトグラフィーカラムを用いて3回精製して回収した。
2つのポリクローナル抗体(♯1及び♯2)及び1つのモノクローナル抗体(♯6)のみがγ型に特異的であった。1つのポリクローナル抗体(♯3)及び2つのモノクローナル抗体(♯4及び♯5)はγ型に加え、他の型にも反応性を示した。得られた総計6つの抗体の各々の特徴を表1に示す。サンドイッチELISAを行うための最善の組み合わせは、#1と#6の組み合わせであることがわかった。
当該組み合わせを用いたELISA法により、124人のCJD患者、および他の疾患を有する99人の患者から得られたCSFサンプルを解析した。
【0053】
【表1】

【0054】
(5.統計学的解析)
統計学的解析には、全てSPSS version 11.0ソフトウェアを用いて行った。診断テストの有効性を判定するため、基準値を測定し、得られた結果につき、真陽性、真陰性、偽陽性、偽陰性のいずれかを決定した。124人のCJD患者及び他の疾患を患う残りの99人の患者につき、14−3−3γのレベルを計算した(ROC解析)。
【0055】
(6.MRIプロトコール及び脳波図におけるPSWC)
MRIプロトコール及び脳波図におけるPSWC(periodic sharp-wave complexes)については既報(Satoh K. et al., Dementia and Geriatric Cognitive Disorders 2007; 24: 207-212)に記載の方法を用いた。
【0056】
(7.リアルタイムQUIC(RT−QUIC))
96穴 optical black bottom plate (Nunc 265301)を用い、100μlの反応系を用意した。コンタミネーションを避けるために、プリオンフリーの研究室において、生物学的安全キャビネット(BSC)中で非感染の材料を調製し、またエアロゾル耐性チップを使用した。他の記載がない限り、反応バッファー成分の最終濃度は、500mM NaCl、50mM PIPES(pH7.0)、1mM EDTA及び10μMチオフラビンT(ThT)である。リコンビナントヒトプリオン蛋白(rHuPrP−sen)は、新しく解凍したもののみを用いた。rHuPrP−senの最適濃度を調べるため、プレパラートを0.06〜0.1mg/mlの種々の濃度に調整して調べたが、最終的な感度は、濃度によらずほぼ同様であった。希釈したBH(脳ホモジネート)及びCSF(5μl/ウェル)を、RT−QUIC反応のシードとして用いた。ネガティブコントロールとして、人工CSF(125mM NaCl,2.5mM KCl,1mM MgCl,2mM CaCl,25 mM HEPES[pH7.3],50mg/dl glucose,20mg/dl BSA)を加え、これをシードなしのコントロールとした。反応開始の直前に、人工CSF中にてこれらのシードBHを希釈した。96ウェルをシーリングテープ(Nunc236366)で覆い、プレートリーダー(Infinite M200 fluorescence plate readers; TECAN)の中においた。該ウェルを、蛍光測定の間を除いて、最高速で回転振とう(round shaking)30秒、及び振とう(shaking)なし30秒で断続的に振とうして、37℃でインキュベートした。モノクロメーターを用いて、440nmと485nmの発光波長において、10分ごとに基底の蛍光強度を読むことにより、線維形成のカイネティクスをモニターした。RT−QUIC反応は、通常、全か無かの悉無律型反応を示すが、BHの希釈度が非常に高い状態では(10−9以上)、蛍光の上昇は比較的ゆるやかであり、低くなる場合もあった。そのような場合には、予め行なっておいたRT−QUICの基礎実験に従って、バッファーのみのコントロールにおける基準蛍光の200%を超える上昇が6つの連続する測定値に渡って見られたときに、そのマイクロプレートのウェルの反応を正反応とみなした。
【0057】
[結果]
(1.CSFサンプル中の14−3−3のウエスタンブロット解析)
CJD患者群では、全症例124例中108症例で14−3−3γが陽性であった(表2)。対照的に、DATを罹患している非CJD患者で2例、CVD患者で1例、ウェルニッケ脳症患者で2例、辺縁系脳炎患者で3例に14−3−3蛋白が検出された。さらにCJD患者における14−3−3γ蛋白について、ウエスタンブロット解析での感度及び特異性は、それぞれ87.1%と84.8%であった。CJD患者における14−3−3蛋白の全アイソフォームについて、ウエスタンブロット解析での感度及び特異性は、それぞれ91.4%と78.8%であった。
【0058】
【表2】

【0059】
(2.CSFサンプル中のT−tau蛋白の解析)
223症例について、CSFサンプル中のt−tau蛋白の解析を行った。結果、個々の症例で有意差が確認された。t−tau蛋白はCJD患者群で最も高いレベル(1,048 pg/mlから146,087 pg/ml)(平均値±SD=7,174±6,558 pg/ml)で観察された。CJD患者は他の神経疾患を伴う患者に比べてより高いt−tau蛋白発現レベルを示した(p<0.01)。
【0060】
(3.CSFサンプル中の14−3−3γのELISAアッセイ)
223症例におけるCSF中の14−3−3γのレベルを測定した(表2)。個々の症例で有意差が確認された。
14−3−3γのレベルは、CJD患者群で最も高く、135 AU/ml〜75,373 AU/mlの範囲であった(平均値±SD= 263,549 ± 21,525 AU/ml)。DAT患者群においては、14−3−3γのレベルは0 AU/ml〜2,410 AU/ml(平均値±SD=1,537 ± 751.2 AU/ml)。CVD患者群は、DAT患者群に似た値を示し、521 AU/ml〜1,512 AU/mlであった(平均値±SD=975.9 ± 332.4 AU/ml)。このように、CJD患者の14−3−3γのレベルは、CVD患者群及びDAT患者群などの他の神経疾患を患う患者の14−3−3γのレベルよりも高かった(p<0.01)。
受信者動作特性曲線(ROC曲線)を用いて、カットオフ値(1,683 AU/ml)を決定した(図1)。CJD患者における14−3−3γについて、ELISA解析での感度及び特異性は、それぞれ95.2%と72.7%であった。これらの結果は再現性の良いものであった。
【0061】
(4.初期のCJD患者21症例における生化学マーカーの解析)
発症して6週間以内の患者を初期のCJD患者とした(Satoh K. et al., Dementia and Geriatric Cognitive Disorders 2007; 24: 207-212)。初期のCJD患者21症例についてCSF中の14−3−3γ及びt−tau蛋白の検出感度を解析した。
14−3−3γ及びt−tau蛋白の検出感度はそれぞれ95.2%及び76.2%であった。
14−3−3γのELISA解析の結果、初期のCJD患者21症例のいずれにおいても、カットオフ値を超えた(>1,683 AU/ml)(表3)。さらに、殆どの患者でMRIにより拡散強調画像(DWI)による観察で陽性を示した。
以上の結果より、14−3−3γのELISA測定にDWIを組み合わせることによってより診断がより確実なものとなることが示された。
【0062】
【表3】

【0063】
(5.14−3−3γ検出のためのELISAの検討)
γアイソフォーム特異的な抗体(#1、#2及び#6)を用いて、サンドイッチELISAキットの構築を試みた。#1と#6を組み合わせて行ったELISAでのみドーズ依存的な反応が見られた(図2)。
【0064】
(6.14−3−3γ検出におけるELISA及びWBの比較)
124症例のCJD患者のうち、7例が、14−3−3γのウエスタンブロット解析では陰性であるものの14−3−3γのELISA解析ではカットオフ値を上回った(表4)。7例が、14−3−3γのウエスタンブロット解析で陰性であり、且つ14−3−3γのELISA解析でもカットオフ値を下回った(表5)。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
CSFサンプル中、ELISAで測定した場合には、14−3−3γのカットオフ値(1,683AU/ml)を超えて検出されるものの、WBでは14−3−3γが検出されなかったCJD患者は、124例中7例であった(表4)。
これら7例は、(i)t−tau蛋白の発現が陽性(>1,300pg/ml)のもの、と(ii)t−tau蛋白の発現が陰性(<1,300pg/ml)のもの、の2つのカテゴリーに分けられた。
t−tau蛋白の発現は陽性であるが14−3−3γの発現をWBで調べた場合に陰性であったケースが4例あったので、全てのCJD患者について14−3−3γをWBで測定しt−tau蛋白をELISAで測定した。これらの4例の患者について14−3−3γをELISAで測定したところ、いずれもカットオフ値を超えていた。
これらの結果より、14−3−3γを本発明のELISAキットで測定した場合には、t−tau蛋白とのダブルチェックは必要ない可能性が示唆された。
【0068】
ヒトプリオン病以外の疾患の患者であって、14−3−3γのELISA解析が陽性(カットオフ値を上回る)の症例について、更に解析した(表6)。非CJD患者99名のうち23名がカットオフ値を上回った。
【表6】

【0069】
WBでは14−3−3γが検出されなかった症例に対しても、本願発明の14−3−3γ特異的ELISAで測定した場合には、カットオフ値(1,683 AU/ml)を超えて検出される症例があった。
これらの結果より、本願発明のELISAが、14−3−3γに対して高感度であることが示された。本願発明のELISAは、プリオン病等の、14−3−3γアイソフォームの異常高値を示す疾患を診断する為の1次スクリーニングに有用である。
また、2次スクリーニングとしてはRT−QUICが好適に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本願発明の14−3−3γの測定方法及び14−3−3γのELISA測定用キットは、プリオン病とりわけCJD病の診断のために有効である。本願発明の方法は、髄液などの比較的低侵襲で得られる検体を用いることができるため、臨床的にも大変優れている。
また本願発明により可能となるヒトプリオン病の診断方法は、髄液中の14−3−3γの明確なカットオフ値を提供することができる。当業者であれば、このカットオフ値を元に、患者がヒトプリオン病(特にクロイツフェルト・ヤコブ病)を発症しているか否かの判定を容易に行うことができ、初期のCJD患者に対しても有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の14−3−3蛋白γアイソフォーム特異抗体を用いたサンドイッチ法によって実施される、生体試料中の14−3−3蛋白γアイソフォームの測定方法。
【請求項2】
該2種の抗体が、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ELISAである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
モノクローナル抗体が、培養細胞から精製した14−3−3蛋白γアイソフォームを免疫原として作製されたものである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
ポリクローナル抗体が固相に固定化されてなる、請求項3記載の方法。
【請求項6】
更にRT−QUIC法と組み合わせることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
生体試料が髄液である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
髄液中の14−3−3蛋白γアイソフォームの異常高値を検出するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
14−3−3蛋白γアイソフォームの異常高値が、プリオン病によるものである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
プリオン病がクロイツフェルト・ヤコブ病である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
クロイツフェルト・ヤコブ病が初期クロイツフェルト・ヤコブ病である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
2種の14−3−3蛋白γアイソフォーム特異抗体を含む、生体試料中の14−3−3蛋白γアイソフォームのELISA測定用キット。
【請求項13】
該ELISAがサンドイッチ法によって実施される、請求項12記載のキット。
【請求項14】
該2種の抗体が、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体である、請求項12記載のキット。
【請求項15】
モノクローナル抗体が、培養細胞から精製した14−3−3蛋白γアイソフォームを免疫原として作製されたものである、請求項14記載のキット。
【請求項16】
生体試料が髄液である、請求項12〜15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
プリオン病の診断用である、請求項12〜16のいずれか1項に記載のキット。
【請求項18】
プリオン病がクロイツフェルト・ヤコブ病である、請求項17記載のキット。
【請求項19】
クロイツフェルト・ヤコブ病が初期クロイツフェルト・ヤコブ病である、請求項18記載のキット。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate