説明

18F−標識アミノ酸の固相製造

【課題】18F−標識トレーサーの固相合成法の提供。
【解決手段】
式(I)固体担体−リンカー−SO−O−トレーサー(I)の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)の標識トレーサーを生成させる[18F]−標識トレーサーの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射標識トレーサーの製造、特にポジトロン放出断層撮影法(PET)の放射性トレーサーとしての使用に適した18F−標識アミノ酸の製造のための新規固相法に関する。本発明は、かかる新規方法を用いた放射性医薬品キットも包含する。
【背景技術】
【0002】
PETに好ましい放射性同位元素である18Fは110分という比較的短い半減期を有する。そのため、PET用18F−標識トレーサーはできるだけ迅速に、理想的には臨床使用の1時間以内に合成・精製しなければならない。フッ素−18を導入するための標準的合成法は比較的遅く、しかも反応後に精製(例えば、HPLCによる。)を要するが、このことは、良好な放射化学収率で臨床用18F−標識トレーサーを得るのが難しいことを意味する。放射線被爆からオペレーターを保護するため自動化に対するニーズも存在する。多くの放射性フッ素化は手順が複雑であり、自動化を促進するには手順を単純化する必要がある。
【0003】
本発明は、迅速に高い比活性の18F−標識アミノ酸の新規固相合成法を提供するが、本方法は時間のかかる精製工程を必要とせず、得られる18F−標識トレーサーはPETでの使用に適している。固相法は自動化に適しており、製造が容易で処理能力が大きいという利点を有する。本発明はかかる方法を用いる放射性医薬品キットも包含し、放射性医薬品調剤師又は臨床医に18F−標識アミノ酸の簡便な製造手段を提供する。
【0004】
腫瘍イメージングに有用な18F−標識アミノ酸が、米国特許第5808146号に記載されており、かかるアミノ酸の特に好ましい例は[18F]−1−アミノ−3−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸([18F]−FACBC)である。本願出願人の国際特許出願PCT/GB02/02505号には、固相求核フッ素化法に関して記載されている。
【特許文献1】米国特許第5808146号明細書
【特許文献2】国際公開第03/002157号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一の態様では、本発明は
18F−標識トレーサーの製造方法であって、式(I)
固体担体−リンカー−SO−O−トレーサー (I)
(式中、トレーサーは式(A)のものである。
【0006】
【化1】

【0007】
式中、Pはヒドロキシ又は保護基であり、P及びPは独立に水素又は保護基であり、Rは結合又は−CH=CH−であるか或いはRと共に次式のRを形成するものであり、
【0008】
【化2】

【0009】
は水素であるか或いはRと共にRを形成するものであって、次式を形成し、
【0010】
【化3】

【0011】
xは0又は1であり、yは1又は2であり、zは1、2、3又は4であり、yが2のときはz>yであり、nが1でjが0のときはqは1又は0であり、nは1又は2であるが、mが0のときはnは0であり、mは0又は1であり、jは0又は1である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)
【0012】
【化4】

【0013】
(式中、R、R、y、z、P、P及びPは式(I)の化合物について定義した通りである。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【0014】
好ましくは、上記の式(I)の化合物において、RとRはR基を形成し、xは0であり、yは1であり、zは2であり、qは1であり、mは0であり、jは0である。
【0015】
式(II)の18F−標識トレーサーは固相から溶液中に取り出され、未反応前駆体はすべて樹脂に結合したまま残り、簡単な濾過で分離できるので、HPLCなどによる面倒な精製の必要性がなくなる。式(II)の18F−標識トレーサーは、イオン交換クロマトグラフィーなどによる過剰Fの除去及び/又は蒸発などによる有機溶媒の除去によって純度を高めることができる。保護基を除去することもでき、その他簡単な処理段階、例えばC18精製カラム通過又は蒸発などをおこなってもよい。得られた式(II)の18F−標識トレーサーはさらに臨床用水性処方とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
スキーム1に示す通り、式(I)の化合物は、Merrifield樹脂、NovaSyn(登録商標)TGブロモ樹脂、(ブロモメチル)フェノキシメチルポリスチレン、又はWang樹脂のような市販のスルホン酸官能化樹脂から簡便に製造することができ、これらを、一方の末端がフッ化スルホニル又は塩化スルホニルで官能化され、もう一方の末端がカルボン酸のような反応性官能基で官能化された化合物(リンカー)と反応させればよい。これはアミン官能化樹脂を、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム又はアセトニトリルのような適当な不活性溶媒中、フッ化スルホニル官能基と酸クロライド官能基とを併せもつリンカー化合物で処理し、昇温下で所定時間加熱することによって実施し得る。過剰の試薬は追加量の不活性溶媒で洗浄することによって樹脂から除去し得る。塩化ホスホリル樹脂を次いでトレーサーのアルコール類似体と反応させて、式(I)の樹脂結合前駆体を生じさせる。これは、例えば、水素化ナトリウム又はトリアルキルアミン(トリエチルアミン又はジイソプロピルエチルアミンなど)のような可溶性非求核塩基を含有するクロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル又はテトラヒドロフランのような不活性溶媒中のアルコール溶液で樹脂を処理することによって実施し得る。反応は10〜80℃の温度、最適には室温で約1〜72時間実施し得る。過剰のアルコール及び塩基は、次いで追加量のクロロホルム、ジクロロメタン又はテトラヒドロフランのような不活性溶媒で洗浄することによって固体担体から除去し得る。別法として、リンカーをトレーサーに結合してから固体担体に結合させ、上記と同様の化学的方法で式(I)の化合物を形成してもよい。
【0017】
【化5】

【0018】
式(I)及び本発明の以下の具体的態様の化合物において、「固体担体」は、当該プロセスで使用する溶媒には不溶であるが、リンカー及び/又はトレーサーを共有結合させることができる適当な固相担体であればよい。適当な固体担体の具体例としては、ポリスチレン(ポリエチレングリコールなどとのブロックグラフトでもよい)、ポリアクリルアミド又はポリプロピレンのようなポリマー、或いはかかるポリマーで被覆したガラス又はケイ素が挙げられる。固体担体はビーズやピンのような小さな離散粒子の形態でもよいし、或いはカートリッジの内面又はマイクロ加工容器のコーティングでもよい。
【0019】
式(I)及び本発明の以下の具体的態様の化合物において、「リンカー」は、固体担体構造から反応性部位を十分に離隔して反応性を最大限に発揮させるのに適した有機基であればよい。好適には、リンカーは、0〜4個のアリール基(好適にはフェニル)及び/又はC1−16アルキル(好適にはC1−6アルキル)又はC1−16ハロアルキル(好適にはC1−6ハロアルキル)、典型的にはC1−16フルオロアルキル(好適にはC1−6フルオロアルキル)、又はC1−16アルコキシ又はC1−16ハロアルコキシ(好適にはC1−6アルコキシ又はC1−6ハロアルコキシ)、典型的にはC1−16フルオロアルコキシ(好適にはC1−6フルオロアルコキシ)からなり、適宜、アミド又はスルホンアミド基のような1〜4個の官能基を含む。かかるリンカーの具体例は固相化学の当業者には周知であり、以下のものが挙げられる。
【0020】
【化6】

【0021】
各例において、kは0〜3の整数であり、nは1〜16の整数であり、Rは水素又はC1−6アルキルである。
【0022】
当業者には自明であろうが、放射性標識プロセスに際して、不要な反応を避けるためトレーサーの官能基を保護することが必要とされることがある。かかる保護は保護基化学の常法で達成し得る。放射性標識の完了後、保護基は簡単なしかも当技術分野での常法で除去し得る。適当な保護及び脱保護の方法論は、例えばProtecting Group in Organic Syntheses,Theodora W.Greene and Peter G.M.Wuts,published by John Wiley & Sons Inc.に記載されている。カルボン酸保護基Pとしては、C1−6アルキルエステルが挙げられる。好ましいアミン保護基P及びPとしては、ブトキシカルボニル、ホルムアミド、トシレート、フルオレニルメトキシカルボニル、トリフルオロアセトアミド、スクシンイミド及びフタルイミドが挙げられる。
【0023】
18による式(I)の化合物の処理は、Na18F、K18F、Cs18F、フッ化18Fテトラアルキルアンモニウム又はフッ化18Fテトラアルキルホスホニウムのような適当な18源での処理によって実施し得る。フッ化物の反応性を高めるため、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサンのような相間移動触媒を添加して、反応を非プロトン性溶媒中で実施してもよい。こうした条件下で反応性フッ素イオンが得られる。18での処理は、好適には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、N−メチルピロリジノンのような適当な有機溶媒の存在下で適度な温度(例えば15℃〜180℃)、好ましくは昇温下で実施する。反応が完了したら、溶媒中に溶解した式(II)の18F−標識トレーサーを濾過によって簡便に固相から分離する。本発明の以下の具体的態様でも同様のフッ素化法を使用し得る。
【0024】
過剰18はイオン交換クロマトグラフィー又は固相吸着剤などの適当な手段によって18F−トレーサーの溶液から除去し得る。適当なイオン交換樹脂としては、BIO−RAD AG1−X8又はWaters QMAが挙げられ、適当な固相吸着剤としてはアルミナが挙げられる。過剰18は非プロトン性溶媒中でこうした固相を用いて室温で除去し得る。
【0025】
有機溶媒は、昇温真空下での蒸発或いは窒素又はアルゴンのような不活性ガス流を溶液に流すなどの常法によって除去し得る。
【0026】
18F−標識トレーサーの使用前に、無菌等張食塩水に18F−標識トレーサーを溶解した水溶液などに処方するのが適切なこともあり、無菌等張食塩水はエタノールのような10%以下の適当な有機溶媒又はリン酸緩衝液のような適当な緩衝液を含んでいてもよい。その他、放射線分解を低減するためアスコルビン酸のような添加剤を加えてもよい。
【0027】
好ましい態様では、本発明は、[18F]−1−アミノ−3−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸([18F]−FACBC)の製造方法であって、式(Ia)
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、P2a及びP3aは各々独立に水素又は保護基であり、P1aはヒドロキシル又は保護基である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIa)
【0030】
【化8】

【0031】
(式中、P1a、P2a及びP3aは各々式(Ia)で定義した通りである。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIa)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【0032】
式(Ia)の化合物において、リンカーは好ましくは以下のいずれかであり、固体担体は好適にはポリスチレン樹脂である。
【0033】
【化9】

【0034】
式中、Rは水素又はC1−6アルキルであり、nは1〜6、またkは0〜3である。
【0035】
式(IIa)の化合物からの保護基の除去は、上記の常法によって実施し得る。本発明のこの態様の好ましい実施形態では、カルボン酸基はエステル、好適にはC1−6アルカン酸エステル、好ましくは酢酸エステルとして保護し、アミノ基はC1−6アルコキシカルボニル、好ましくはt−ブトキシカルボニル基で保護し得る。かかる保護基は、例えば、酸又は塩基の存在下での加水分解によって簡便に除去し得る。かかる脱保護は固体に担持した酸又は塩基触媒を用いて実施でき、脱保護後の中和は不要である。
【0036】
式(I)及び(Ia)の化合物は新規であり、本発明の別の態様をなす。
【0037】
上述の通り、18F−標識トレーサーの固相合成法の利点としては、プロセスが比較的迅速であること、精製法が簡単であること、自動化が容易であることが挙げられ、これらはすべて本プロセスがPET用18F−標識トレーサーの製造に適していることを意味する。従って、本発明は式(II)又は(IIa)のPET用18F−標識トレーサーの製造法を提供する。
【0038】
簡便には、式(I)又は(Ia)の固体担体前駆体は、放射線医薬品調剤室向けのキットの一部として提供できる。キットは適当な自動化合成機に装着できるカートリッジを含んでいてもよい。カートリッジは、固体担体結合前駆体とは別に、不要フッ素イオンを除去するためのカラム、反応混合物を蒸発させて生成物を必要に応じて処方することができるように連結された適当な容器を含んでいてもよい。試薬、溶媒その他合成に必要な消耗品を、放射能濃度、体積、送達時間などに関する顧客条件に合致するように合成機を操作できるようにするソフトウエアを記録したコンパクトディスクと共に含んでいてもよい。
【0039】
簡便には、キットの部品はすべて作業間の汚染のおそれを最小限とし、無菌及び品質を保証するため使い捨てとする。
【0040】
本発明はさらにPET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)式(I)又は(Ia)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
(iii)過剰18を除去するためのイオン交換カートリッジ、及び適宜
(iv)式(II)又は(IIa)の生成物の固相脱保護用カートリッジ、
を備えるキットを提供する。
【0041】
本発明はさらにPET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットのためのカートリッジであって、
(i)式(I)又は(Ia)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジを提供する。
【0042】
本発明の別の態様では、診断用PET画像を得る方法であって、上記の放射性医薬品キット又は放射性医薬品キット用カートリッジを使用するステップを含んでなる方法を提供する。
【実施例】
【0043】
以下の実施例で本発明を例示する。実施例を通して用いた略号は以下の通りである。
DCM:ジクロロメタン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DIPEA:ジイソプロピルエチルアミン
DPPCl:ジフェニルホスホロクロリデート
w/v:重量/体積
h:時間
tic:薄層クロマトグラフィー
THF:テトラヒドロフラン
eq.:当量。
【0044】
実施例1 syn−及びanti−1−アミノ−3−[18F]−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸(FACBC)の合成
中間体1. 1−t−ブチルカルバメート−3−ヒドロキシ−1−シクロブタン−1−カルボン酸メチルエステル
【0045】
【化10】

【0046】
Shoup,T.M.&Goodman,M.M.Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals(1999),42,215に従って、上記ヒドロキシ中間体を合成する。
【0047】
実施例1(i) ペルフルオロアルキルスルホニルリンカー(D)の合成
【0048】
【化11】

【0049】
Yijun Pan and Christopher Holmes. “A traceless Perfluoroalkylsulphonyl linker for the deoxygenation of phenols, Organic letters, July 2001, p83−86”及び添付の補足情報に従う。
【0050】
エチルビニルエーテル(600mg、8.3mmol)、NaHCO(680mg、8.0mmol)及びフッ化テトラフルオロ−2−テトラフルオロ−2−ヨードエトキシ)エタンスルホニル(A)(3.5g、8.0mmol)のCHCN(8ml)及びHO(7ml)の溶液に、0℃で攪拌しながらNa(1.64g、8.0mmol)をゆっくりと加えた。混合物を5℃で50分間撹拌した。3N−HCl水の添加によって反応混合物のpHを6.2〜7.0に調整し、25℃でさらに20分間撹拌した。これをCHClで抽出し、水洗し、減圧下で濃縮した。油状残渣をアセトン(38ml)に溶解し、溶液を、2−メチル−2−ブテン(36ml)、NaHPO(4.0g、30mmol)、NaClO(5.0g、55mmol)及び水(40ml)からなる撹拌混合物に0〜5℃で加えた。反応混合物を10〜15℃で2時間撹拌した。これを減圧下で濃縮し、エーテルで抽出し、食塩水で洗浄し、乾燥(NaSO)し、クロマトグラフィー(CHCl/MeOH、100:2)用に濃縮し、化合物(D)(866mg、30%)を得た。
F−19NMR;C−13NMR。
【0051】
実施例1(ii) 塩化アシルリンカー(E)の合成
【0052】
【化12】

【0053】
対応する酸(0.79g、2.2mmol)と塩化オキサリル(0.38mL、4.4mmol、Aldrich社製)の乾燥DCM溶液(4mL;Aldrich社製)に、2滴の乾燥DMF(Aldrich社製)を加えて塩化アシル(E)を合成した。ガスを10分間放出させ、混合物を室温で1時間撹拌した。得られた溶液を減圧下で蒸発させ、残渣を2mLの乾燥DCMに溶解した。
【0054】
実施例1(iii) PS−樹脂リンカーの合成
【0055】
【化13】

【0056】
オーブン乾燥したRadleys反応管に、1gのポリスチレン樹脂(1g、1.30mmol/g、Novabiochem 01−64−0143、100〜200メッシュ)及び16mLの乾燥DCM(Aldrich社製)を入れた。反応管に窒素を流し、−40℃に冷却する。塩化アセチル(D)(2mL;4.4mmol;3.4当量)のDCM(乾燥、Aldrich社製)溶液を加え、次いで乾燥DIPEA(2.2mmol;5当量)を加えた。黄色反応混合物をゆっくり室温に加温するとオレンジ色となった。5時間後に樹脂を濾別し、DCMとメタノールで十分に洗浄した。オレンジ色固体を減圧下で蒸発させた。
19F−NMR,δ(ppm、CDCl、基準CFCl、282.65MHz)45.1(SOF)、−82.6(OCF)、−87.9(OCF)、−112.6(CFSOF)、−115.7(CFCH)ppm。
【0057】
実施例1(iv) 固体担持1−t−ブチルカルバメート−1−シクロブタン−1−カルボン酸メチルエステルの合成
上記実施例1(iii)の方法で製造した樹脂の一部をジクロロメタン(2ml)で膨潤させる。樹脂に、t−ブチルカルバメート−3−ヒドロキシ−1−シクロブタン−1−カルボン酸メチルエステル(中間体1)(予め水素化ナトリウムで処理してナトリウム塩としたもの)のジオキサン溶液を加える。懸濁液を80℃で40時間撹拌する。次いで、懸濁液を濾過し、樹脂をTHFで洗浄する。
【0058】
実施例1(v) 放射性フッ素化による[18F]−FACBCの製造
カートリッジに収容した樹脂(実施例1(vii)に記載の通り製造)の一部に、クリプトフィックス、炭酸カリウム及び[18F]−フッ素の乾燥アセトニトリル溶液を加える。懸濁液を85℃で10分間加熱し、溶液を濾過する。次いで、溶液をC18固相抽出カートリッジに流し、水洗してアセトニトリル、クリプトフィックス及び炭酸カリウムを除去する。さらにアセトニトリルを加えてカートリッジの放射性フッ素化生成物を洗浄し、6M−HCl溶液に回収する。この溶液を130℃で5分間加熱してから、中和し、分析する。
【0059】
実施例2 syn−及びanti−1−アミノ−3−[18F]−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸(FACBC)の合成
2.(i) 1−t−ブチルカルバメート−3−ヒドロキシ−1−シクロブタン−1−カルボン酸メチルエステルの製造
本ステップは上記(中間体1)同様に実施した。
【0060】
実施例2(ii) 1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[1,1,2,2−テトラフルオロ−2−(1,1,2,2−テトラフルオロ−2−ヨードエトキシ)エタンスルホニルオキシ]−シクロブタンカルボン酸メチルエステルの合成
【0061】
【化14】

【0062】
1−t−ブチルカルバメート−3−ヒドロキシ−1−シクロブタン−1−カルボン酸メチルエステルとTHFの溶液に、0℃で1.1当量のナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドを加えた。0℃で30分後に、1.1当量のフッ化テトラフルオロ−2−テトラフルオロ−2−ヨードエトキシ)エタンスルホニルを加えた。30分後に、氷浴を取り除き、混合物を室温に戻した。減圧下で室温で溶媒を除いた。粗混合物を、酢酸エチル/石油エーテル(3:7)で溶出するシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、所望の生成物を油として得た。
NMR(CDCl)、δH:1.44(9H、s、Boc)、2.70−3.21(4H、m、vbr、シクロブタン)、3.77(3H、s、OMe)、5.41(1H、p、J=7.2Hz、3C−H)、δF:118.3、115.5、82.6、65.6。
【0063】
実施例2(iii) 1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[2−(12−カルボキシ−1,1,2,2−テトラフルオロ−4−ヨードドデシルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホニルオキシ]−シクロブタンカルボン酸メチルエステルの合成
【0064】
【化15】

【0065】
1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[1,1,2,2−テトラフルオロ−2−(1,1,2,2−テトラフルオロ−2−ヨードエトキシ)エタンスルホニルオキシ]−シクロブタンカルボン酸メチルエステルと水/アセトニトリル(1:2)の溶液を氷水浴で冷却し、これに1.2当量の重炭酸ナトリウム、1.2当量の亜ジチオン酸ナトリウム及び1当量のウンデシレン酸を連続的に加えた。混合物を1時間撹拌し、室温に戻した。減圧下で室温で溶媒を除去した。水層を酢酸エチルで3回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、溶媒を減圧下で除去した。粗混合物を、酢酸エチル/石油エーテルで(0%〜90%酢酸エチルで段階的に)溶出するシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。NMR(CDCl)、δH:1.32(10H、s、vbr)、1.44(9H、s、vbr、BOC)、1.55−1.85(4H、m、vbr)、2.35(2H、t、7.2Hz)、2.41−3.25(5H、m、vbr)、3.81(3H、s、OMe)、4.30(1H、s、br、NH)、5.41(1H、p、br、3−CH)。
【0066】
実施例2(iv) 1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[2−(12−カルボキシ−1,1,2,2−テトラフルオロドデシルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホニルオキシ]−シクロブタンカルボン酸メチルエステルの合成
【0067】
【化16】

【0068】
1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[2−(12−カルボキシ−1,1,2,2−テトラフルオロ−4−ヨードドデシルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホニルオキシ]−シクロブタンカルボン酸メチルエステルとジエチルエーテルの溶液に、過剰金属亜鉛、次いで酢酸を加えた。混合物を1時間加熱還流した。混合物を冷却し、反応容器から金属亜鉛を落とさないように注意しながら、溶媒をデカントした。溶媒を減圧下で外気圧で除去した。
【0069】
実施例2(v) 1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[2−(12−カルボキシ−1,1,2,2−テトラフルオロドデシルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホニルオキシ]−シクロブタンカルボン酸メチルエステルの固体担体合成
【0070】
【化17】

【0071】
オーブン乾燥したRadleys反応管に、1gのポリスチレン樹脂(1g、1.30mmol/g、Novabiochem 01−64−0143、100〜200メッシュ)及び16mLの乾燥DCM(Aldrich社製)を入れる。次いでこれに1−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−[2−(12−カルボキシ−1,1,2,2−テトラフルオロドデシルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホニルオキシ]−シクロブタンカルボン酸メチルエステル(1.1当量)、ヒューニッヒ(Hunigs)塩基(2.0当量)及びDPPCl(1.1当量)を加える。5時間後に樹脂を濾別し、DCMとメタノールで十分に洗浄する。固体を減圧下で乾燥する。
【0072】
実施例2(vi) 放射性フッ素化による[18F]−FACBC製造
カートリッジに収容した樹脂(実施例2(v)に記載の通り製造)の一部にクリプトフィックス、炭酸カリウム及び[18F]−フッ化物の乾燥アセトニトリル溶液を加える。懸濁液を85℃で10分間加熱し、次いで溶液を濾過する。次いで溶液をC18固相抽出カートリッジに通し、水洗してアセトニトリル、クリプトフィックス及び炭酸カリウムを除去する。さらにアセトニトリルを加え、カートリッジの放射フッ素化生成物を洗浄し6M−HCl溶液に回収する。溶液を130℃で5分間加熱してから、中和して分析する。
【0073】
実施例3 syn−及びanti−1−アミノ−3−[18F]−フルオロメチル−シクロブタン−1−カルボン酸(FMACBC)の合成
中間体1. 1−[N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ]−3−ヒドロキシメチル−1−シクロブタン−1−カルボン酸t−ブチルエステルの製造
【0074】
【化18】

【0075】
Martarello,L.,McConathyl,J.,Camp,V.M.,Malveaux,E.J.,Simpson,N.E.,Simpson,C.P.,Olson,J.J.,Bowers,G.D.and Goodman,M.M.Journal of Medicinal Chemistry 2002,45,2250に従って、上記ヒドロキシメチル中間体を合成する。
【0076】
実施例3(i) 固体担持1−[N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ]−3−ヒドロキシメチル−1−シクロブタン−1−カルボン酸t−ブチルエステルの合成
【0077】
【化19】

【0078】
樹脂をピリジン/DCM(1:1)で膨潤させ、これに1−[N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ]−3−ヒドロキシメチル−1−シクロブタン−1−カルボン酸t−ブチルエステルを加える。反応を塩化スルホニルが完全に消費されたことの試験によってモニターし、数個のビーズを5%エチレンジアミン/DMF溶液に5分間入れる。次いで、ビーズを十分に洗浄し(DMF×3、DCM×3、THF×3)、次いで、1%ブロモフェノールブルー/ジメチルアセトアミン溶液で処理する。次いで、ビーズをDMFで5回洗浄する。ビーズが青色であると樹脂に塩化スルホニル基が存在することを示し、ビーズが白色(又は灰白色)であると反応が完了したことを示す。
【0079】
実施例3(ii) 19F]FMeACBCの製造
【0080】
【化20】

【0081】
アセトニトリル中、固体担持1−[N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ]−3−ヒドロキシメチル−1−シクロブタン−1−カルボン酸t−ブチルエステルに、フッ化カリウム、クリプトフィックス[2,2,2]及び炭酸カリウムを添加する。溶液を45分間加熱還流する。反応混合物を室温に放冷し、濾過し、アセトニトリルで洗浄する。有機層を回収する。減圧下で溶媒を除去し、[19F]FMeACBCを得る。
NMR(CDCl)、δH:1.37(9H、s、(CHC)、1.43(9H、s、(CHC)、2.16−2.34(2H、s、br、CH)、2.45−2.57(2H,m,br,CH)、4.34(2H、d、J=7Hz、CHF)、5.17(1H、s、NH)、δC:28.0(CH)、28.5(CH)、33.3(CH)、55.1(C(NH)(C=O))、79.7(C(CH)、81.7(C(CH)、85.2、87.4(CHF)、154.7(C=O)、173.2(C=O)。
【0082】
18F]FMeACBCは実施例3(i)の中間体から[18F]フッ化カリウムを用いて同様の化学的手段で製造し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
18F−標識トレーサーの製造方法であって、式(I)
固体担体−リンカー−SO−O−トレーサー (I)
(式中、トレーサーは式(A)のものである。
【化1】

式中、Pはヒドロキシ又は保護基であり、P及びPは独立に水素又は保護基であり、Rは結合又は−CH=CH−であるか或いはRと共に次式のRを形成するものであり、
【化2】

は水素であるか或いはRと共にRを形成するものであって、次式を形成し、
【化3】

xは0又は1であり、yは1又は2であり、zは1、2、3又は4であり、yが2のときはz>yであり、nが1でjが0のときはqは1又は0であり、nは1又は2であるが、mが0のときはnは0であり、mは0又は1であり、jは0又は1である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)
【化4】

(式中、R、R、y、z、P、P及びPは式(I)の化合物について定義した通りである。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項2】
とRがR基を形成する、請求項1記載の18F−標識トレーサーの製造方法。
【請求項3】
とRがRを形成し、xが0であり、yが1であり、zが2であり、qが1であり、mが0であり、jが0である、請求項1又は請求項2記載の18F−標識トレーサーの製造方法。
【請求項4】
18F]−1−アミノ−3−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸([18F]−FACBC)の製造のための請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法であって、式(Ia)
【化5】

(式中、P2a及びP3aは各々独立に水素又は保護基であり、P1aはヒドロキシル又はカルボン酸保護基である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIa)
【化6】

(式中、P1a、P2a及びP3aは各々式(Ia)で定義した通りである。)
の標識トレーサーを生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIa)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項5】
式(Ia)の化合物におけるリンカーが次式の基である、請求項4記載の方法。
【化7】

式中、kは0〜3の整数であり、nが1〜16の整数であり、Rは水素又はC1−6アルキルである。
【請求項6】
1aがC1−6アルコキシであり、P2aが水素又はC1−6アルコキシカルボニルであり、P3aがC1−6アルコキシカルボニルである、請求項4又は請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の式(II)又は(IIa)のPET用18F−標識トレーサーの製造方法。
【請求項8】
次の式(I)の化合物。
固体担体−リンカー−SO−O−トレーサー (I)
式中、トレーサーは式(A)のものである。
【化8】

式中、Pはヒドロキシ又は保護基であり、P及びPは独立に水素又は保護基であり、Rは結合又は−CH=CH−であるか或いはRと共に次式のRを形成するものであり、
【化9】

は水素であるか或いはRと共にRを形成するものであって、次式を形成し、
【化10】

xは0又は1であり、yは1又は2であり、zは1、2、3又は4であり、yが2のときはz>yであり、nが1でjが0のときはqは1又は0であり、nは1又は2であるが、mが0のときはnは0であり、mは0又は1であり、jは0又は1である。
【請求項9】
次の式(Ia)の化合物。
【化11】

式中、P2a及びP3aは各々独立に水素又は保護基であり、P1aはヒドロキシル又は保護基である。
【請求項10】
前記リンカーが次式の基である、請求項8又は請求項9記載の化合物。
【化12】

式中、kは0〜3の整数であり、nが1〜16の整数であり、Rは水素又はC1−6アルキルである。
【請求項11】
1aがC1−6アルコキシであり、P2aが水素又はC1−6アルコキシカルボニルであり、P3aがC1−6アルコキシカルボニルである、請求項8乃至10のいずれか1項記載の化合物。
【請求項12】
PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)請求項1乃至6のいずれか1項記載の式(I)又は(Ia)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
(iii)過剰18を除去するためのイオン交換カートリッジ、及び適宜
(iv)請求項1乃至6のいずれか1項記載の式(II)又は(IIa)の生成物の固相脱保護用カートリッジ、
を備えるキット。
【請求項13】
PET用18F−標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットのためのカートリッジであって、
(i)請求項1乃至6のいずれか1項記載の式(I)又は(Ia)の化合物を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジ。
【請求項14】
診断用PET画像を得る方法であって、請求項12記載の放射性医薬品キット又は請求項13記載の放射性医薬品キット用カートリッジを使用するステップを含んでなる方法。

【公表番号】特表2006−510706(P2006−510706A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561654(P2004−561654)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005576
【国際公開番号】WO2004/056725
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】