説明

2’−ニトロベンジル改変型リボヌクレオチド

【課題】新規な可逆的に終止されるリボヌクレオチド、および核酸を配列決定するためにこれらの新規なヌクレオチドを使用するための方法を提供すること。
【解決手段】本開示は、DNA配列決定反応用の試薬として使用され得る、新規な可逆的に終止されるリボヌクレオチドを提供する。本開示のヌクレオチドを用いて核酸を配列決定する方法もまた、提供される。本発明の一局面は、式SM−BASEを有するリボヌクレオシドに関し、ここで、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、そしてこのリボースは、そのリボースの2’位に可逆的な鎖終止部分を含む。BASEは、例えば、アデニン、グアニン、シトシンまたはウラシルであり得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(背景)
インビボで、RNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼは、核酸の重合のために、それぞれ、リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドを利用し、これらのヌクレオチドを高い忠実度で区別する。ポリメラーゼによる改変型ヌクレオチドの取り込みを可能にするために、広範な努力がなされており、その努力としては、塩基の改変、糖の改変、および骨格の改変が挙げられる。RNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼの両方の基質としてこのような改変型ヌクレオチドを使用することは、種々の理由で望ましい。とりわけ、その理由としては、生成物の検出のための蛍光標識の取り込み(非特許文献1)、ヌクレアーゼ作用に対して感受性の低いポリヌクレオチドを生成するためのリボース改変型ヌクレオチド(非特許文献2)、またはDNA配列決定のための終止ジデオキシヌクレオチドの使用(非特許文献3)が挙げられる。
【0002】
改変型ヌクレオチドを使用するための試みは、多くの場合、問題のポリメラーゼの基質特異性によって妨げられる。塩基にさらなる化学部分で改変することは、全体として、良好な成功が得られ、さらなる基が非ワトソン−クリック対残基に結合され、メジャーグルーブに突き出る。他方で、糖の環の改変は、それほど十分に許容的でないと証明されており、おそらくヌクレオチド結合の間の糖と酵素との間の極めて正確な相互作用、および触媒の存在を反映している。それにもかかわらず、糖改変型ヌクレオチドを使用するために改良された能力を有するポリメラーゼを設計するための変異誘発の利用に関する数例の注目すべき成功が存在する。DNA配列決定の場合、ポリメラーゼは、その活性部位におけるアミノ酸置換を操作してそのポリメラーゼをT7 DNAポリメラーゼにより類似させることによって、2’3’−ジデオキシヌクレオチドターミネーターの利用が改善されており、このようなヌクレオチドが十分に許容的であることが実証されている(非特許文献4)。
バクテリアDNAポリメラーゼとバクテリアRNAポリメラーゼとの間、およびファージDNAポリメラーゼとファージRNAポリメラーゼとの間の異なる基質特異性に関する生化学的な原因および構造的な原因に対するさらなる研究が、置換された場合にRNAポリメラーゼがデオキシリボヌクレオチドを利用することを可能にする残基、およびDNAポリメラーゼがリボヌクレオチドを利用することを可能にする他のものの同定をもたらした。特に、「立体的なゲート(steric gate)」と称されるペプチドループは、DNAポリメラーゼがデオキシリボヌクレオチドの2’位に存在する孤立した水素原子よりも嵩高い基を受け入れることを妨げるようである。このループは、ファージがコードするRNAポリメラーゼでは本質的に欠けている。これに基づいて、糖の環の2’位に結合した他の基(その基が比較的小さいという条件で)の存在に対して、RNAポリメラーゼがいくらか寛容性であり得るという根拠が存在する。このことと一致して、PadillaおよびSousaは、T7 RNAポリメラーゼが、1もしくは2つのさらなる可能なアミノ酸置換もまた導入されるという条件で、その2’位がO−メチル基またはアジド(N3)基で改変されたヌクレオチドを利用し得ることを示している(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Raap AK、Mutat.Res.、1998年、400、p.287−298
【非特許文献2】Siouod M,Sorensen DR、Natl.Biotechnol.、1998年、16、p.556−61
【非特許文献3】Sanger F,Nicklen S,Coulson AR、Proc Natl Acad Sci U.S.A.、1977年、74、5463−7
【非特許文献4】Tabor S,Richardson CC、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1995年、92、6339−43
【非特許文献5】Padilla R,Sousa R、Nucleic Acids Res.(2002)、30、p.e138
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、新規な可逆的に終止されるリボヌクレオチド、および核酸を配列決定するためにこれらの新規なヌクレオチドを使用するための方法の発見に基づく。
【0005】
本発明の一局面は、式SM−BASEを有するリボヌクレオシドに関し、ここで、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、そしてこのリボースは、そのリボースの2’位に可逆的な鎖終止部分を含む。このようなリボヌクレオシドの例(リボヌクレオチドまたはリボヌクレオシド5’三リン酸)について、図1を参照のこと。BASEは、例えば、アデニン、グアニン、シトシンまたはウラシルであり得る。上記リボヌクレオシドは、PM−SM−BASEの構造を有するリボヌクレオシド5’リン酸、リボヌクレオシド5’二リン酸またはリボヌクレオシド5’三リン酸であり得、ここで、PMはリン酸部分(例えば、一リン酸、二リン酸、または三リン酸)である。
【0006】
本発明のヌクレオチドの1つの利点は、このヌクレオチドが鎖終止ヌクレオチドとしての役割を果たし得ることである。すなわち、伸長する核酸鎖へのこのヌクレオチドの取り込みは、ポリメラーゼによる同じ鎖への任意のさらなるヌクレオチドのその後の取り込みを妨げる。
【0007】
本発明のリボヌクレオシドはまた、リボヌクレオチド(リボヌクレオシドのリン酸エステル)を包含することが理解される。したがって、本発明のリボヌクレオシドは、リボヌクレオチドであり得る。このようなリボヌクレオチドの例としては、アデノシン5’一リン酸(アデニレートもしくはAMP)、アデノシン5’二リン酸(ADP)、アデノシン5’三リン酸(ATP)、グアノシン5’一リン酸(グアニレートもしくはGMP)、グアノシン5’二リン酸(GDP)、グアノシン5’三リン酸(GTP)、ウリジン5’一リン酸(ウリジレートもしくはUMP)、ウリジン5’二リン酸(UDP)、ウリジン5’三リン酸(UTP)、シチジン5’一リン酸(シチジレートもしくはCMP)、シチジン5’二リン酸(CDP)、およびシチジン5’三リン酸(CTP)が挙げられる。
【0008】
上記可逆的な鎖終止部分は、可逆的結合によって本発明のリボヌクレオシドまたはリボヌクレオチドに結合され得る。この可逆的結合は、電磁放射、化学的処理、またはそれらのくみあわせによって切断可能な結合であり得る。例えば、上記処理は、電磁放射(例えば、光(UV光))への曝露であり得る。
【0009】
適切な可逆的な鎖終止部分の例としては、2−ニトロベンジル基、デシル基またはp−ヒドロキシフェナシルケージング基(p−hydroxyphenacyl caging group)が挙げられる(図1を参照のこと)。
【0010】
さらに、本発明のリボヌクレオシドおよびリボヌクレオチドは、検出可能な標識を含み得る。この検出可能な標識は、緑色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−グルコロニダーゼ、ルシフェラーゼ、b−ラクタマーゼ、ジゴキシゲニン、蛍光色素分子、フルオレセイン、cy3、cy5、アルカリホスファターゼおよびホースラディッシュペルオキシダーゼのような検出可能な部分またはこれらの部分の組み合わせであり得る。
【0011】
好ましい実施形態において、上記検出可能な部分は、除去可能である。この検出可能な標識は、光退色によって除去され得る。あるいは、この検出可能な標識は、可逆的結合によってリボヌクレオチドに結合され得る。この可逆的結合は、電磁放射、化学的処理、またはこれらの処理の組み合わせによって切断可能な結合であり得る。
【0012】
本発明の別の実施形態は、可逆的に終止するリボヌクレオシドを生成する方法に関する。このリボヌクレオシドは、リボヌクレオシド5’一リン酸、リボヌクレオシド5’二リン酸、またはリボヌクレオシド5’三リン酸であり得る。この方法は、式SM−BASEを有するリボヌクレオシドを生成する第一工程を包含し、ここで、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンである。第二工程において、可逆的な鎖終止部分が、そのリボースの2’位に結合される。この可逆的な鎖終止部分は、2−ニトロベンジル基、デシル基、またはp−ヒドロキシフェナシルケージング基であり得る。
【0013】
本発明の別の局面は、本発明のリボヌクレオシド/リボヌクレオチドを用いて核酸を配列決定する方法に関する。この方法において、プライマー(DNAまたはRNAであり得る)は、標的核酸と複合体化され(すなわち、塩基対によってハイブリダイズされ)、そしてRNAポリメラーゼおよび式PM−SM−BASEを有する第一の種のリボヌクレオチドの1つ(例えば、ATP、GTP,CTPまたはUTP)を用いて伸長される。ここで、PMはリン酸部分であり、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、そしてこのリボースは、そのリボースの2’位に可逆的結合によって結合される鎖終止部分を含む。上記第二工程において、取り込まれた状態のリボヌクレオチドが検出されて、上記標的核酸の配列が決定される。任意の工程において、取り込まれた状態のリボヌクレオチドの鎖終止部分は、可逆的結合を除去することによって、除去され得る。必要に応じて、これらの工程は、同じ化学構造を有するが塩基が異なる第二の種のリボヌクレオチドのうちの少なくとも1つを用いて繰り返される。
【0014】
プライマー/標的核酸複合体は、2つの核酸鎖をハイブリダイズさせることによって、またはRNAポリメラーゼによる合成によって形成され得る。例えば、T3 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼ、およびSP& RNAポリメラーゼは、適切なRNAプロモーター部位(すなわち、適切なDNA配列)において、新規にRNAプライマーを合成し得る。したがって、プライマー:標的核酸複合体は、T7ポリメラーゼを、NTPとともに、T7プロモーター配列を含むDNA分子と接触させることによって作製され得る。
【0015】
本開示において言及されるRNAポリメラーゼは、任意のRNAポリメラーゼであり得、少なくとも、ファージがコードするRNAポリメラーゼ(例えば、T3 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼまたはSP6 RNAポリメラーゼ)を包含する。
【0016】
本開示のポリメラーゼは、立体的なゲート領域の欠失もしくは置換、またはヌクレオチド結合領域および触媒ポケット領域の欠失もしくは置換を含み得る。
【0017】
本発明の別の局面は、標的核酸を配列決定する方法に関し、この方法は、(1)標的核酸と複合体化しているプライマーを、RNAポリメラーゼならびにリボヌクレオチドであるATP、GTP、UTPおよびCTPを用いて伸長して、取り込まれた状態のヌクレオチドを形成する工程であって、このリボヌクレオチドは、式PM−SM−BASEを有し、ここで、PMはリン酸部分であり、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、このリボースは、そのリボースの2’位に可逆的結合によって結合される鎖終止部分を含み、このリボヌクレオチドの各々は、検出可能な標識で可逆的に標識される、工程;ならびに(2)上記検出可能な標識を検出することによって上記取り込まれた状態のヌクレオチドを検出して、上記標的核酸の配列を決定する工程、を包含する。この方法はさらに、上記取り込まれた状態のリボヌクレオチドから鎖終止部分および上記検出可能な標識を除去する任意の工程を包含し得る。これらの工程は、所望の量の核酸配列が決定されるまで繰り返され得る。
用語「2’改変型リボヌクレオチド」は、本開示において使用される場合、本開示で記載されるような新規な2’改変型リボヌクレオチドを指すことが理解される。他に示されない限り、2’改変型リボヌクレオチドは、可逆的な2’改変を含むリボヌクレオチドを包含する。この可逆的な改変は、例えば、その2’改変型ヌクレオチドを電磁放射(紫外線が挙げられる)に曝露することによって除去され得る。2’改変型リボヌクレオチドの一実施形態は、図1に示される。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
式SM−BASEを有するリボヌクレオシドであって、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、そして該リボースは、該リボースの2’位に可逆的な鎖終止部分を含む、リボヌクレオシド。
(項目2)
前記塩基が、アデニン、グアニン、シトシンおよびウラシルからなる群より選択される、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目3)
リボヌクレオシド5’リン酸、リボヌクレオシド5’二リン酸またはリボヌクレオシド5’三リン酸からなる群より選択されるリボヌクレオチドである、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目4)
アデノシン5’一リン酸、アデノシン5’二リン酸、アデノシン5’三リン酸、グアノシン5’一リン酸、グアノシン5’二リン酸、グアノシン5’三リン酸、ウリジン5’一リン酸、ウリジン5’二リン酸、ウリジン5’三リン酸、シチジン5’一リン酸、シチジン5’二リン酸、およびシチジン5’三リン酸からなる群より選択されるリボヌクレオチドである、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目5)
前記可逆的な鎖終止部分が、可逆的結合によって前記リボースに結合している、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目6)
前記可逆的結合が、電磁放射、化学的処理、またはそれらの組み合わせによって切断可能な結合である、項目5に記載のリボヌクレオシド。
(項目7)
前記電磁放射が光である、項目6に記載のリボヌクレオシド。
(項目8)
前記可逆的な鎖終止部位が2−ニトロベンジル基である、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目9)
前記可逆的な鎖終止部位がデシル基である、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目10)
前記可逆的な鎖終止部位がp−ヒドロキシフェナシルケージング基である、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目11)
前記リボヌクレオチドが、検出可能な標識で標識されている、項目1に記載のリボヌクレオシド。
(項目12)
前記検出可能な標識が、緑色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−グルコロニダーゼ、ルシフェラーゼ、b−ラクタマーゼ、ジゴキシゲニン、蛍光色素分子、フルオレセイン、cy3、cy5、アルカリホスファターゼおよびホースラディッシュペルオキシダーゼからなる群より選択される、項目11に記載のリボヌクレオシド。
(項目13)
前記検出可能な標識が、光退色によって除去され得る、項目11に記載のリボヌクレオシド。
(項目14)
前記検出可能な標識が、可逆的結合によって前記リボヌクレオチドに結合されている、項目11に記載のリボヌクレオシド。
(項目15)
前記可逆的結合が、電磁放射、化学的処理、またはそれらの組み合わせによって切断可能な結合である、項目14に記載のリボヌクレオシド。
(項目16)
可逆的に終止するリボヌクレオシドを生成する方法であって、該方法は、
(a)式SM−BASEを有するリボヌクレオシドを提供する工程であって、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンである、工程;
(b)該リボースの2’位に可逆的な鎖終止部分を結合させる工程
を包含する、方法。
(項目17)
工程(b)の前または後に、前記リボヌクレオシドに検出可能な部分を結合させる工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記可逆的な鎖終止部分が、2−ニトロベンジル基、デシル基およびp−ヒドロキシフェナシルケージング基からなる群より選択される、項目16に記載の方法。
(項目19)
標的核酸を配列決定する方法であって、該方法は、
(a)標的核酸と複合体化するプライマーを、RNAポリメラーゼおよび式PM−SM−BASEを有する第一の種のリボヌクレオチドのうちの少なくとも1つを用いて伸長させて、取り込まれた状態のリボヌクレオチドを形成する工程であって、PMはリン酸部分であり、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、該リボースは、該リボースの2’位に可逆的結合によって結合される鎖終止部分を含む、工程;
(b)該取り込まれた状態のリボヌクレオチドを検出して、該標的核酸の配列を決定する工程
を包含する、方法。
(項目20)
項目19に記載の方法であって、
(c)前記可逆的結合を切断することによって、前記取り込まれた状態のリボヌクレオチドの前記鎖終止部分を除去する工程;
(d)式PM−SM−BASEを有する第二の種のリボヌクレオチドのうちの少なくとも1つを用いて工程(a)、(b)および(c)を繰り返す工程であって、PMはリン酸部分であり、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、該リボースは、該リボースの2’位に可逆的結合によって結合される鎖終止部分を含む、工程
をさらに包含する、方法。
(項目21)
前記プライマーと前記標的核酸との間の複合体が、ハイブリダイゼーションまたはRNAポリメラーゼによる合成によって形成される、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記RNAポリメラーゼが、T3 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼおよびSP6 RNAポリメラーゼからなる群より選択されるファージがコードするRNAポリメラーゼである、項目19に記載の方法。
(項目23)
標的核酸を配列決定する方法であって、該方法は、
(a)標的核酸と複合体化するプライマーを、RNAポリメラーゼならびにリボヌクレオチドであるATP、GTP、UTPおよびCTPを用いて伸長させて、取り込まれた状態のヌクレオチドを形成する工程であって、該リボヌクレオチドは、式PM−SM−BASEを有し、PMはリン酸部分であり、SMはリボースであり、BASEはピリミジンまたはプリンであり、該リボースは、該リボースの2’位に可逆的結合によって結合される鎖終止部分を含み、そして該リボヌクレオチドの各々は、検出可能な標識で可逆的に標識される、工程;
(b)該検出可能な標識を検出することによって該取り込まれた状態のヌクレオチドを検出して、該標的核酸の配列を決定する工程
を包含する、方法。
(項目24)
項目23に記載の方法であって、
(c)前記鎖終止部分および前記検出可能な標識を前記取り込まれた状態のリボヌクレオチドから除去する工程;
(d)所望の量の核酸配列が決定されるまで工程(a)、(b)および(c)を繰り返す工程
をさらに包含する、方法。
(項目25)
前記プライマーと前記標的核酸との間の前記複合体が、ハイブリダイゼーションまたはRNAポリメラーゼによる合成によって形成される、項目23に記載の方法。
(項目26)
前記RNAポリメラーゼが、T3 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼおよびSP6 RNAポリメラーゼからなる群より選択されるファージがコードするRNAポリメラーゼである、項目23または24に記載の方法。
(項目27)
前記RNAポリメラーゼが、2’改変型リボヌクレオチドを伸長する核酸に取り込み得る立体的なゲートの欠失を含む、項目23に記載の方法。
(項目28)
前記RNAポリメラーゼが、2’改変型リボヌクレオチドを伸長する核酸に取り込み得るヌクレオチド結合中のさらなるアミノ酸置換および触媒ポケットを含む、項目23に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、2’−2−ニトロベンジル−ATP、2’−デシル−ATPおよび2’−p−ヒドロキシフェナシル−ATPの化学構造を示す。アデノシン塩基は、任意の他の塩基(例えば、グアノシン、ウリジン、またはシチジン)で置換され得る。この化学構造は、PM−SM−BASEであり、ここで、PMはリン酸基またはリン酸部分であり、SMは糖基または糖部分であり、そしてBASEはピリミジンまたはプリンである。
【図2】図2(A)は、RNAオリゴマーと5’オーバーハングを有する一本鎖DNAテンプレートとの複合体を示す。上側の鎖は、配列番号1として配列表に示され、下側の鎖は、配列番号2として配列表に示される。図2(B)は、図2(A)に示されるようなテンプレートに基づく転写産物を示す。
【図3】図3は、本発明のヌクレオチドを用いる転写実験を示す。
【図4】図4は、T7ポリメラーゼの触媒部位を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、以前に、単一のDNA分子の直接配列決定を実施するためのストラテジーを発明した(WO 00/53805)。この方法は、可逆的なターミネーターとして機能するヌクレオチドの使用に依存しており、光または化学的環境によって可逆的である糖の環を改変することによって最も実施可能になる可能性が高い(他の構成もまた可能であり得る)。さらに、理想的には、研究中のテンプレートの放出が、配列決定反応が起こる物理的位置からそのテンプレートを放出させるような前進型のポリメラーゼ酵素の使用が必要である。したがって、本発明者らは、その役割に合った前進型であることが公知のポリメラーゼを利用する研究を開始し、T7 RNAポリメラーゼ(および他のフェーズではその関連物(例えば、T3およびSP6))が本発明者らの目的に最適であると同定した。これらのポリメラーゼは、糖改変型ヌクレオチドの使用に対して、高い前進性(processivity)とより大きなフレキシビリティーの可能性とを兼ね備える。さらに、これらのポリメラーゼが二重鎖DNAで機能するように(天然にはヘリックスを解き(unzip)、次いでそのポリメラーゼの後のヘリックスを再び締める(re−zip))、これらのポリメラーゼは、前進型のDNAポリメラーゼを構築する際に直面するいくつかの困難、ならびにこのようなDNAポリメラーゼはめったに鎖を置換しないこと、および/または一本鎖テンプレートの調製において困難が生じ得るという事実を未然に防ぐ。
【0020】
本発明者らの研究目的のために、本発明者らは、T7 RNAポリメラーゼおよび本発明者らが操作した改変体によってヌクレオチドを利用するために、数種の異なるアッセイを使用した。T7 RNAポリメラーゼは、少なくとも2つの異なる合成様式において、リボヌクレオチドを伸びている鎖に取り込み得る。そのポリメラーゼが正規のプロモーター配列を認識すると、ポリメラーゼは、分配的な様式(distributive mode)ではあるがテンプレート依存性の様式で、短期間のRNA合成を開始する。そのポリメラーゼは、前後に滑って短いRNAフラグメントを放出し得るが、最終的には、伸長様式として公知の新しく安定な様式でテンプレートに固定される。さらにT7 RNAポリメラーゼは、そのポリメラーゼが非テンプレート指向性様式でテンプレートの最末端に到達した場合に、ヌクレオチドを付加して転写することが報告されている。最後に、T7
RNAPは通常は記載されるようにテンプレートでコードされるプロモーターエレメントと関連して働くが、モデル系がTemiakovら(Temiakov)によって発明されており、その系において、RNAポリメラーゼはRNA−DNAハイブリッドのRNA鎖を伸長させる。この実験的状況では、RNAオリゴマーはプライマーとしての役割を果たす。テンプレートおよびポリメラーゼと一緒に、そのオリゴマーは、転写の伸長様式を模倣していると記載された構造を形成するが、ポリメラーゼ酵素の特性のいくつかは、これらの条件下で若干異なり得る。
【0021】
ここで、本発明者らは、Temiakovらに従って構築された複合体による、伸びているRNA鎖への、rATPアナログである2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの取り込みを報告する。この取り込みは、RNAの3’末端に対するヌクレオチドの非テンプレート依存性の付加として生じ、本発明者らは、この活性が伸長様式で二重鎖DNA基質において複合体化することを観察していない。本発明者らは、この活性はいわゆる「N+1」効果(T7 RNAポリメラーゼについて以前に報告された現象)と似ていると推測する。
【0022】
さらに、本発明者らは、2’−(2−ニトロベンジル)−ATPがT7 RNAポリメラーゼによるRNA鎖のさらなる伸長のためのターミネーターとしての役割を果たすことの証拠を提供する。本発明者らは、UV照射を使用して、その末端のヌクレオチドのリボース環における標準の2’−OH基を残して2−ニトロベンジル部分を除去した。転写は、その後に再開され得るようであり、それによって、末端効果が、本発明者らが示唆したような配列決定の方法論で使用するのに望ましいように逆転する。
【0023】
2’位に2−ニトロベンジル部分を有するヌクレオチドが、異常な条件下でさえも、T7 RNAポリメラーゼ転写複合体によってRNAに取り込まれ得るという観察は、これらのヌクレオチドアナログと酵素の触媒部位との間の適合性に関する一般的な制限の程度が、必ずしも他の試薬と同様ではないことを示唆する。実際に、本発明者らは、3’のリボース位が代わりに改変されている類似の化合物を用いて、そのような効果を模倣することはできなかった。Bst DNAポリメラーゼおよびT7 RNAポリメラーゼの両方の結晶ソーキング(crystal soaking)研究(Bst DNAポリメラーゼについてJohsonら、そしてT7 RNAポリメラーゼについてYinおよびSteitz)は、触媒作用中のタンパク質/ヌクレオチドの動きを明らかにし、そしてこの観察について可能性のある原因に関する見識を提供する。最も特別には、これらの研究は、ヌクレオチドの触媒作用前の結合に好都合な相互作用に加えて、その触媒プロセスもまた、タンパク質チャネル内のより深くに位置付けられるまでそのヌクレオチドが「徐々に」上げられる間の、タンパク質および基質の実質的な動きに関連することを明らかにする。この複合体の動きの間、基質のヌクレオチドは多くの側鎖を越えて移動しなければならず、特に、3’−ヒドロキシルは通過の間に種々の残基を越えて接近して移動し、触媒作用後の位置の電子密度の壁に対してぴったりと密接におさまるようである。このことは、3’位に嵩高い基を置くことが触媒作用の種々の段階中に重大な立体障害を生じるようであること、および嵩高い3’基を取り込む触媒活性の(野生型または改変型)酵素がそのような立体障害を生じることは考えにくいことが確認されることを示唆する。逆に、2’改変型ATPでの本発明者らの触媒作用のデータは、この位置が触媒作用中に活性部位の複数のアミノ酸と接触することとそれほど明らかに関係せず、特に、触媒作用後にフリーのチャネルの「突出部(poking out)」に位置付けられるようであるという観察を支持する。これは、構造を有意に乱すことなく座るような嵩高い改変のための空間を提供するが、次に入ってくるヌクレオチドの結合および/または触媒作用を妨げる可能性が高く、これは、観察された鎖終止挙動と一致する。明らかに、2’改変型ヌクレオチドが阻害特性を有さないということではないが、公知の生化学的証拠、結晶構造および本発明者ら自身のデータを組み合わせることで、変異体の生化学的または遺伝的スクリーニングを行って、テンプレート依存性の転写の前進型の様式でも2’−(2−ニトロベンジル)リボヌクレオチドを取り込み得るT7 RNAP改変体を発見する一連の研究への道が開かれる。本発明者らはすでに、個々にまたは組み合わせてランダムな改変体に対して最初に変異される候補アミノ酸残基を同定し得る。これらは、リジン631、メチオニン635、チロシン639、およびフェニルアラニン644であり、これらすべては、触媒作用中に最も大きな移動を示すOヘリックスのヌクレオチド結合表面に位置される(チロシン639はすでに、T7 RNAポリメラーゼの2’選択に関与している(BriebaおよびSousa)。図4も参照のこと)。結合ポケットの残基の「後壁」において、ヒスチジン784およびアスパラギン酸787が、ランダムな変異誘発のための明らかな候補である(ヒスチジン784もまたすでに、2’選択に関与している(BriebaおよびSousa))。さらに、本発明者らは、グリシン542の置換(リボースの取り込みを阻害するDNAポリメラーゼ中の「立体的なゲート(steric gate)」と等価である(Gaoら))、さらにこの領域の欠失を検討する。最後に、本発明者らは、結合部位の後部ポケットの嵩を小さくすること、例えば、残基782、783、785、786をグリシンまたはアラニンに変異させることを検討し得る。テンプレート依存性の転写の前進型の様式で2’−(2−ニトロベンジル)リボヌクレオチドを取り込む任意の変異体は、本発明者らの以前の開示(Armes/Stemple特許出願WO 00/53805)で提案されるような新規な単一分子配列決定技術を実施するのに非常に有用である。立体的なゲートを除去することによってリボースおよびその可能な誘導体のアクセスを一般的に許容するために同様の努力がまずなされるという条件で、類似のアプローチが、DNAポリメラーゼを用いて行われ得る(このことは、T7 RNAポリメラーゼのグリシン542と構造的に等価な領域(例えば、E.coliのクレノウフラグメントのE710A)を変異させることと関係する。Astatkeら)。立体的なゲートを欠失するポリメラーゼは、上に列挙した残基のうちの任意の1つ以上を含むアミノ酸配列の欠失を含み得る。同様に、ヌクレオチド結合ポケットおよび触媒ポケットにアミノ酸置換を有するポリメラーゼは、上に列挙した残基のうちの任意の1つ以上を含むアミノ酸置換を含み得る。
【0024】
本発明のヌクレオチドは、単一の核酸テンプレートが関与する配列決定方法(例えば、係属中のPCT出願WO 00/53805に記載される方法)に使用され得る。例えば、本発明のヌクレオチドは、例えば、ピロホスフェートベースの配列決定方法のような、複数の核酸テンプレートが関与する配列決定方法に使用され得る。さらに、本発明のヌクレオチドは、終止ヌクレオチドが使用される任意の反応で置き換えられ得る。例えば、本発明のヌクレオチドは、Sanger法による配列決定において、ddNTPの代わりになり得る。
【実施例】
【0025】
(実施例1:使用したオリゴマーおよび骨格(scaffold)形成)
核酸骨格を、1nmolのRNA−1(5’−ビオチン−AACUGCGGCGAU−3’(配列番号1))および1nmolのDNA−1(5’−CGGTCCTGTCTGAAATACCTATCGCCGC−3’(配列番号2))を100μl転写緩衝液(200mM Tris−HCl(25℃においてpH7.9)、30mM MgCl、50mM DTT、50mM NaCl、10mMスペルミジン)中で70℃にて10分間インキュベートすることによって、形成した。その温度を25℃までゆっくり低下させることによって、アニーリングが生じた。ハイブリッドの濃度は、10μMであると想定された。
【0026】
(実施例2:プライマー伸長反応)
プライマー伸長反応のために、2pmolの骨格を、9μlの転写緩衝液中で10ユニットのT7 RNAポリメラーゼ(Fermentas)と混合して、転写複合体を形成させた。反応を、1μlの1mMヌクレオチド溶液の添加によって開始し、37℃において20分間インキュベートした。反応を、2μlの500mM EDTAの添加によって停止し、氷上で冷却した。UV照射を、UVランプにて10分間行った。
【0027】
サンプルを沈殿させ、ホルムアミドローディング緩衝液中に溶解し、そして変性16%ポリアクリルアミドゲル(8M尿素)上で分離させた。ゲルを、ブロッティング緩衝液(0.5×TBE)中でナイロン膜(Osmonics,USA)上にエレクトロブロッティングした。ブロットを、ブロッキング緩衝液(1×TBSTw/1%ブロッキング試薬(Roche))中において室温で1時間インキュベートして非特異的ノイズを回避し、ブロッキング緩衝液中で0.5μg/mlストレプトアビジン−HRP(Sigma)とともに1時間インキュベートし、そして0.1% Tween−20含有Tris緩衝化生理食塩水中で徹底洗浄した。検出を、製造業者(Pierce)の指示に従って化学発光基質を使用して実施した。
【0028】
(実施例3:可逆的終止反応)
可逆的終結実験のために、5pmolの骨格を、6.5pmolのT7 RNAポリメラーゼ(精製において使用されたN末端ヒスチジンをプロセシングする)とともに180μl転写緩衝液中で混合して、活性転写複合体を形成させた。この反応を、20μlの10mM 2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの添加によって開始し、37℃において2時間インキュベートした。その後、その反応を、4つのサンプルへと分割し、脱保護に供した。2つのサンプルを、上記のようなUV照射に対して曝露し、2つの未処理サンプルを、同じ時間だけ周囲温度にてインキュベートした。脱保護の後に、転写緩衝液中に250μlのrNTPを含む伸長混合物を1容量添加したか、または転写緩衝液のみを添加した。その後、サンプルを、37℃においてさらに1時間インキュベートした。
【0029】
生成物のプロセシング、分離および検出を、上記の通り行った。
【0030】
(実施例4:骨格アッセイにおけるプライマーとしての役割を果たすRNA−DNAハイブリッドのRNAオリゴマーの使用)
Temiakovら(Temiakov)は、テンプレートとしての役割を果たす一本鎖DNAにハイブリダイズした場合に、短いRNAオリゴマーがT7 RNAポリメラーゼ触媒性転写のためのプライマーとしての役割を果たし得ることを、示した。その後、このポリメラーゼは、同族(cognate)ヌクレオチドの段階的添加によって、そのコードテンプレートに沿って「ウォーキングされ(walked)」得る。本発明者らは、これらの結果を確認したが、ここで使用した条件下では、さらなるヌクレオチドが非テンプレート依存性の様式で取り込まれることを観察する。
【0031】
RNAオリゴマーおよび一本鎖DNAテンプレート(例えば、図2Aにおいて示されるもの)は、転写複合体においてT7 RNAPと相互作用する核酸骨格を形成し得る。同族(cognate)ヌクレオチド(ここでは、rATP)とともに提示された場合、このRNAプライマーは、1塩基分または2塩基分、伸長される(図2B、レーン3)。骨格は、上記DNAによりコードされる次の2つのヌクレオチド(ここでは、rATPおよびrGTP)を提供された場合には、3塩基分以上、伸長される(図2Bレーン4)。一方、次の1つのヌクレオチドが同族でない(non−cognate)場合(ここでは、rCTP)、その伸長は、1塩基分に限定される(図2Bレーン5)。コードされる塩基に加えて1ヌクレオチド以上の取込みは、明らかに、温度依存性の事象ではない。この効果は、いわゆるN+1効果(Milligan)を示す。
【0032】
RNA/DNA骨格とT7 RNAポリメラーゼとによる安定な転写複合体の形成は、ヌクレオチドアナログが伸びているRNA鎖に取り込まれる可能性を試験するためのサンプル系を提供する。
【0033】
(実施例5:2’−(2−ニトロベンジル)−ATPが、T7 RNAポリメラーゼによりRNA鎖中に取り込まれる)
本研究において、本発明者らは、2’−(2−ニトロベンジル)−ATPを、T7 RNAポリメラーゼのための基質として使用した。この2−ニトロベンジル改変は、上記ヌクレオチドアナログの分子量と、後者のヌクレオチドアナログが取り込まれるあらゆる核酸の分子量とを増加させる。結果的に、NB部分を含むRNAの電気泳動移動度は、それに応じて変化し、これによって、改変型転写物が同定されるのを可能にする。その調製の性質に起因して、本実験において使用する2’−(2−ニトロベンジル)−ATPは、推定5%だけrATPが混入している(材料および方法を参照のこと)。
【0034】
図2Bのレーン6において示されるように、主に2’−(2−ニトロベンジル)−ATPを含む反応主要生成物の移動度は、10ヌクレオチドの非改変型RNAと11ヌクレオチドの非改変型RNAとの間の位置で移動するようである(レーン3およびレーン4と比較)。この中間分子量生成物は、少なくとも1つの2−ニトロベンジル改変型ヌクレオチドの取込みを示唆する。
【0035】
1分子当たりどれぐらいの数の2’−(2−ニトロベンジル)−ATPヌクレオチドが取り込まれたか? 9ヌクレオチド位置における弱いバンド(レーン6およびレーン7を比較)は、混入している非改変型rATPもまた利用されたことを示す(rATPの濃度は、約5μMであり、この低濃度においてさえ、このrATPは、T7 RNAPによって容易に使用され得る(Song)ことに留意されたい)。10ヌクレオチド長生成物が全く存在しないことは、(高rATP濃度の場合(レーン6を参照のこと)と同様に)何らかの非改変型rATPがN+1型活性中に取り込まれた可能性を、排除する。この主要生成物は、1つの2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの取り込みの結果、2つの2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの取り込みの結果(これらのうちの2番目のものは、非テンプレート依存性(すなわち、N+1型)である)、または標準的(canonically)に取り込まれたrATPに付加された1つの2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの取り込みの結果であり得る。高濃度の2つの2’−(2−ニトロベンジル)−ATP存在下における転写の主要生成物の正体についてのさらなる証拠は、脱保護実験によってもたらされる。
【0036】
(実施例6:UV光による2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの脱保護)
2−ニトロベンジル部分は、光エネルギーを吸収して、2−ニトロベンジルと「保護された」分子(所定の)との間の共有結合を切断する能力のために、多くの適用において使用されている感光性(photolabile)基である。2’−(2−ニトロベンジル)改変型ヌクレオチドの場合、この結合の切断は、リボース環上にフリーの2’−OH基を作り出す。この光脱保護の生成物は、その結果として、非改変型rATPの取り込みによって伸長されるRNAオリゴマーと同じ位置で生じ得る。
【0037】
図2B、レーン7に示されるように、2’−(2−ニトロベンジル)−ATP取り込みの主要生成物のUV処理は、その電気泳動移動度の増加をもたらす。ここでこの主要なバンドは、長さ10ntのRNAと同じ位置に流れる(レーン3とレーン7とを比較のこと)。この観察によって、T7 RNAPにより発生しようとしているRNA鎖への2’−(2−ニトロベンジル)−ATP取り込みの記録が確認される(非改変型RNAオリゴマーは、UV処理に応答してそれらの電気泳動移動度を変化させない;データは示さず)。このことは、本発明者らが、2’−(2−ニトロベンジル)−ATP取り込みの主要生成物の組成に関して上記の代替のうちの1つを排除することを可能にする。
【0038】
単一の2’−(2−ニトロベンジル)−ATP取り込みは、9ヌクレオチドより大きい全てのバンドの喪失およびUV処理に対する応答として9ヌクレオチドのバンドの強度の増大をもたらすはずである。そのどちらでもないので、この可能性は否定され得る。
【0039】
主要生成物は、T7 RNAP活性のN+1様式において取り込まれた1個の2’−(2−ニトロベンジル)−ATP、または2個の2’−(2−ニトロベンジル)−ATPを含むのか? これまでに提示された実験結果は、これらの2つの可能性を形式的に区別できないが、2個の2’−(2−ニトロベンジル)−ATPは、かなり可能性の低い2つの仮定を想定することを要する。
【0040】
最初に、2’−(2−ニトロベンジル)−ATP取り込みは、rATPよりもはるかに効率的でなければならない。すなわち、改変型ヌクレオチドは、よりよい基質でなければならない。2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの提供は、どのようなオリゴマーの形成においても生じず、ただ1つの改変型ATPが取り込まれる(このことは、長さ9ヌクレオチドと10ヌクレオチドとの間の位置で生じなければならない;1B、レーン6)。このことは、1つの2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの任意の取り込みの次に、必然的に、第2の(N+1型活性)改変型ヌクレオチドの付加が続くことを示唆する。他方で、転写複合体が非改変型rATPのみを伴って存在する場合、その反応生成物は、1つまたは2つのヌクレオチドだけ伸長したRNAオリゴマーの混合物である(図2B、レーン4)。
【0041】
第2に、発生しつつあるRNA鎖における末端2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの3’−OH基は、それでもなお、T7 RNAポリメラーゼ依存性伸長のための標的でなければならない(すなわち、2’−(2−ニトロベンジル)−ATPは、非ターミネーターでなくてはならない)。非ターミネーターでなければならないという要件は、さらなる実験において扱われる。
【0042】
(実施例7:2’−(2−ニトロベンジル)−ATPは、転写の可逆的ターミネーターとして作用する)
ポリメラーゼによるNB改変型ヌクレオチドの取り込みについての潜在的な適用は、新規な配列決定技術(WO 00/53805)において可逆的ターミネーターとしてのその使用である。従って、本発明者らは、2’−(2−ニトロベンジル)−ATPが転写のターミネーターとして作用する能力を試験した。
【0043】
図3に示される実験において、骨格を、T7 RNAPおよび2’−(2−ニトロベンジル)−ATPとともにインキュベートした。先に記載される実験のように、このような反応の生成物は、10ヌクレオチドオリゴマーの電気泳動移動度と11ヌクレオチドオリゴマー電気泳動移動度との間にある、見かけ上の電気泳動移動度を有する(図3、レーン1)。UV照射に供されると、このRNAに取り込まれたNB部分が除去され、この生成物の移動度は、10ヌクレオチドオリゴマーの移動度へと増大する(図3、レーン2)。転写は、非改変型rNTPの付加の際に再び始まり得る。末端塩基ヌクレオチドの2−ニトロベンジル部分が光脱保護によって除去されると、主要バンドのシグナル強度の減少がもたらされる。これは、おそらく、その生成物が伸長していることが原因である(図3、レーン4)。対照的に、ニトロベンジル基をなお有しているRNA鎖は、転写複合体によって伸長され得ないので、生成物の量は、事実上変化しないままである(図3、レーン3)。本発明者らは、脱保護された物質が完全に利用されなかったことに注目する。これは、種々の理由(ポリメラーゼが、必然的に、これらの「追跡」実験においてミスマッチから伸長しなければならないという事実が挙げられる)のために、まさにその場合であり得る。にもかかわらず、2’−(2−ニトロベンジル)−ATPがターミネーターとして機能した(これは、脱保護の際に逆になり得る)という示唆により、そのデータは、もっともよく説明されると考えられる。
【0044】
結論として、本発明者らは、2’−(2−ニトロベンジル)−ATPが転写の正真正銘のターミネーターとしての役割を果たすことを示した。転写物の伸長は、保護している2−ニトロベンジル基をUV照射によって除去すると、再開し得る。2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの性質はまた、高濃度の2’−(2−ニトロベンジル)−ATPの存在下での転写の主要生成物が、1つではなく2つの改変型ヌクレオチドだけ伸長したRNAプライマーであり得るという、上記の可能性を排除する。
【0045】
本明細書で引用されるすべての特許、特許出願、および参考文献は、参考として本明細書に援用される。
【0046】
(参考文献)
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−157369(P2012−157369A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−119854(P2012−119854)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【分割の表示】特願2012−13260(P2012−13260)の分割
【原出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(512051941)アリーア サン ディエゴ, インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】