説明

2−アダマンタノンの製造方法

【課題】工業的に実施可能な程度に簡便で、反応を短時間で完結でき、且つ高い生産性を有する2−アダマンタノンの製造方法を提供する。
【解決手段】2つの一級炭素のそれぞれに少なくとも1つのハロゲン原子が結合している炭素数2〜5のハロゲン化アルカンの存在下で、濃度が90〜95重量%である硫酸を用いて、アダマンタンを70〜90℃で酸化する2−アダマンタノンの製造方法であって、酸化中に三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を逐次添加して、反応系内の全硫酸量(使用した硫酸、三酸化硫黄及び発煙硫酸のそれぞれの重量を100%硫酸に換算した重量の合計)と前記アダマンタンの重量との比(硫酸/アダマンタン)を6〜12とし、硫酸濃度を90〜95重量%に維持する2−アダマンタノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−アダマンタノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタンは、ダイヤモンド構造単位と同じ構造を有する対称性の高いカゴ型化合物として知られ、(1)分子の歪みエネルギーが少なく、熱安定性に優れ、(2)炭素密度が大きいため脂溶性が大きく、(3)昇華性があるにもかかわらず、臭いが少ない等の特徴を有する。
アダマンタンは、1980年代からは医薬品分野においてパーキンソン氏病治療薬、インフルエンザ治療薬原料として注目されていたが、近年アダマンタン誘導体の有する耐熱性や透明性等の特性が、半導体製造用フォトレジスト、磁気記録媒体、光ファイバー、光学レンズ、光ディスク基板原料等の光学材料;耐熱性プラスティック、塗料、接着剤等の機能性材料;化粧品等の分野で注目され、その用途が増大しつつある。また、医薬分野においても抗癌剤、脳機能改善、神経性疾患、抗ウイルス剤原料としての需要が増大してきている。
【0003】
炭化水素化合物を酸化してアルコールやケトンに変換する技術は炭素資源の有効活用の観点から、工業的にも非常に重要な技術である。
2−アダマンタノンを選択的に製造する技術としては濃硫酸中で製造する方法が公知である。例えばSchlatmannは1−アダマンタノールを濃硫酸中、30℃で12時間加熱保持することにより、72%の収率で2−アダマンタノンが得られることを報告している(非特許文献1)。また、アダマンタンを濃硫酸により酸化した後、水蒸気蒸留により精製することで47〜48%の収率でアダマンタノンが得られることも知られている(非特許文献2)。
【0004】
上記技術の改良法として、反応を2段階又は3段階で昇温して実施する方法が提案されている(特許文献1及び2)。しかし、これらの方法はアダマンタノンの収率は向上する(最高で収率90%)ものの、反応速度が遅く、その収率を得るためには非常に長時間(30h以上)反応させる必要があるという問題点があった。
また、硫酸ナトリウム等の無機塩(特許文献3)、五酸化リン等の乾燥剤(特許文献4)、ヨウ素等ハロゲン単体あるいはヨウ化カリウム等のハロゲン化金属(特許文献5)を反応系に添加する方法も提案されている。しかし、これらの方法はアダマンタノン収率は向上する(特許文献4で最高収率93%)ものの、特許文献3では反応速度が遅く、非常に長時間(30h以上)反応させる必要がある。また特許文献4及び5では添加物を含んだ廃硫酸の処理が困難であり、工業的な利用は難しかった。
上記の他、酸素存在下で超音波を利用する方法も提案されているが(特許文献6)、設備に多大な費用を必要とし、工業的な実施は困難であった。
【0005】
2−アダマンタノンの選択的製造において、硫酸は酸化剤かつ触媒として機能し、反応速度及び選択率は、硫酸濃度が大きく影響する。反応に伴い硫酸が消費されて希薄化することで反応速度が低下するが、この点を補うため反応中に三酸化硫黄又は発煙硫酸を添加し、硫酸濃度の低下を抑制する方法が提案されている(特許文献7、8及び9)。これら方法により反応速度は向上するが、選択性及び収率は工業的に充分といえなかった。
また、特許文献1−9は、全て硫酸濃度を95%以上としており、硫酸濃度が95%未満の希薄な濃度では反応速度が低下し、短時間で高収率に反応を完結させることは困難であった。このような硫酸希薄濃度での反応を行うには、原料として1−アダマンタノールを用いる必要があり、アダマンタンには適さないことが知られている(特許文献10)。
2−アダマンタノンの選択的製造を1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン溶媒を添加して行った場合には、原料アダマンタンの昇華が抑制されるだけでなく反応速度が促進され、2−アダマンタノンの収率が顕著に増加することが知られている(特許文献11)。この方法では95〜98%の高濃度の硫酸を用い、60℃、8hで最高収率68mol%が得られており、反応時間は充分に短縮されたが、工業的に実施するには更なる反応収率の改良が望まれていた。
【0006】
上述したように硫酸を用いた2−アダマンタノンの選択的製造では、反応速度は短いが重質分が副生して収率が低い、又は収率は高いが反応時間が非常に長く生産性が低い、のどちらであった。従って、例えば反応が24h以内に完結できる迅速さを有し、例えば80〜90mol%の高収率であって、反応液を加水分解して溶媒で抽出する通常の後処理で2−アダマンタノンを回収できる製造方法が求められていた。また、製品又は廃硫酸に混入する可能性のある添加物が不要で、環境負荷が低く、廃硫酸等の廃棄物を最小限とできる高い生産性を有する2−アダマンタノンの選択的製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−267906号公報
【特許文献2】特開平11−189564号公報
【特許文献3】特開2005−82582号公報
【特許文献4】特開2005−89343号公報
【特許文献5】特開2005−89368号公報
【特許文献6】特開2005−306772号公報
【特許文献7】特開2003−212810号公報
【特許文献8】特開2005−89329号公報
【特許文献9】特開2005−89330号公報
【特許文献10】特開2005−97201号公報
【特許文献11】特開2008−280315号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tetrahedron 24,5361,(1968)
【非特許文献2】Organic Synthesis 53,8(1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、工業的に実施可能な程度に簡便で、反応を短時間で完結でき、且つ高い生産性を有する2−アダマンタノンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
2−アダマンタノンの硫酸酸化反応は、従来、96%以上の高い硫酸濃度かつ60℃以下の比較的低い反応温度で検討されてきたが、本発明者らは鋭意研究した結果、2つの一級炭素のそれぞれに少なくとも1つのハロゲン原子が結合している炭素数2〜5のハロゲン化アルカン(例えば1,2−ジクロロエタン又は1,1,2,2−テトラクロロエタン)を溶媒として添加した場合には、アダマンタンの硫酸酸化を行うには不適当と考えられてきた希薄な硫酸濃度(90〜95重量%)において、反応温度70〜90℃の領域で特異的に高い収率が得られることを見出した。本条件で反応中に発煙硫酸及び/又は硫酸を滴下して反応開始時の硫酸濃度を超過することなく維持することにより、短時間で反応を完結させることができ、且つ高収率で2−アダマンタノンを得ることができる。
【0011】
本発明によれば、以下の2−アダマンタノンの製造方法が提供される。
1.2つの一級炭素のそれぞれに少なくとも1つのハロゲン原子が結合している炭素数2〜5のハロゲン化アルカンの存在下で、濃度が90〜95重量%である硫酸を用いて、アダマンタンを70〜90℃で酸化する2−アダマンタノンの製造方法であって、
酸化中に三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を逐次添加して、反応系内の全硫酸量(使用した硫酸、三酸化硫黄及び発煙硫酸のそれぞれの重量を100%硫酸に換算した重量の合計)と前記アダマンタンの重量との比(硫酸/アダマンタン)を6〜12とし、硫酸濃度を90〜95重量%に維持する2−アダマンタノンの製造方法。
2.硫酸濃度が91〜94重量%である1に記載の2−アダマンタノンの製造方法。
3.ハロゲン化アルカンが1,2−ジクロロエタン又は1,1,2,2−テトラクロロエタンである1又は2に記載の2−アダマンタノンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工業的に実施可能な程度に簡便で、反応を短時間で完結でき、且つ高い生産性を有する2−アダマンタノンの製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の2−アダマンタノンの製造方法は、2つの一級炭素のそれぞれに少なくとも1つのハロゲン原子が結合している炭素数2〜5のハロゲン化アルカンの存在下で、濃度が90〜95重量%である硫酸を用いて、アダマンタンを70〜90℃で酸化する2−アダマンタノンの製造方法であって、酸化中に三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を逐次添加して、反応系内の全硫酸量(使用した硫酸、三酸化硫黄及び発煙硫酸のそれぞれの重量を100%硫酸に換算した重量の合計)と前記アダマンタンの重量との比(硫酸/アダマンタン)を6〜12とし、硫酸濃度を90〜95重量%に維持する。
本発明の製造方法では、特に反応温度を70〜90℃とし、酸化中に三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を逐次添加することで、反応を短時間で完結でき、且つ高収率で2−アダマンタノンを製造することができる。
【0014】
2つの一級炭素のそれぞれに少なくとも1つのハロゲン原子が結合している炭素数2〜5のハロゲン化アルカン(以下、単にハロゲン化アルカンという場合がある)は溶媒として機能する。ハロゲン化アルカンを使用しない場合、反応速度の低下、原料アダマンタンの昇華、重質物の増加による収率の低下が生じるおそれがある。
2つの一級炭素のそれぞれに少なくとも1つのハロゲン原子が結合している炭素数2〜5のハロゲン化アルカンは、好ましくは炭素数2〜3のハロゲン化アルカンであり、より好ましくは炭素数2〜3の塩素化アルカンである。
【0015】
上記ハロゲン化アルカンの具体例としては、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,3−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、1,2−ジブロモエタン、1,1,2,2−テトラブロモエタン、2−ブロモ−1−クロロエタン等が挙げられ、好ましくは1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,3−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパンであり、より好ましくは1,2−ジクロロエタン及び1,1,2,2−テトラクロロエタンである。
上記ハロゲン化アルカンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
ハロゲン化アルカンの使用量は、アダマンタン1重量部に対し、例えば0.5〜100重量部であり、好ましくは0.5〜10重量部であり、より好ましくは1.0〜10重量部である。
ハロゲン化アルカンの使用量が、アダマンタン1重量部に対して0.5重量部未満の場合、2−アダマンタノンの収率が低下するおそれがある。一方、ハロゲン化アルカンの使用量が、アダマンタン1重量部に対して100重量部超の場合、反応器への仕込み量が増大するために生産効率が悪化するおそれがある。
【0017】
アダマンタンの酸化に用いる硫酸(水溶液)は濃度が90〜95重量%であり、好ましくは91〜94重量%である。
硫酸濃度が、それぞれ90重量%未満又は95重量%超である場合、副生する重質分が増加して選択率が下がり、収率が低下するおそれがある。
【0018】
アダマンタンを硫酸で酸化する際の反応温度は70〜90℃である。
反応温度が70℃未満の場合、反応速度が下がって生産効率が低下するおそれがある。一方、反応温度が90℃超の場合、副生する重質分が増加し、且つ選択率が下がるおそれがある。
また、酸化反応の反応時間は、用いる硫酸の濃度及び反応温度によって異なるが、通常12〜48時間である。
【0019】
本発明の2−アダマンタノンの製造方法では、硫酸によるアダマンタンの酸化中、三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を逐次添加して、反応液中の硫酸濃度を、反応開始時にアダマンタンの酸化に用いた硫酸(水溶液)の濃度に維持する。即ち、反応液中の硫酸濃度を、90〜95重量%、好ましくは91〜94重量%に維持する。
逐次添加する三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸の三酸化硫黄濃度は特に限定されず、発煙硫酸については工業的に用いられる10〜65重量%の発煙硫酸が使用でき、三酸化硫黄ガスについては100%ガス又は窒素等で適宜希釈したガスを使用できる。
尚、発煙硫酸の濃度は、三酸化硫黄と硫酸の混合物中の三酸化硫黄の重量%を意味する。
【0020】
逐次添加する三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸の添加量は、反応が100%進行した場合に、反応終了時の反応液中の硫酸濃度が、反応開始時の反応液中の硫酸濃度と同じになるように計算して求めた量にすればよい。反応系内の全硫酸量とアダマンタンの重量との比(硫酸/アダマンタン)が6〜12になるようにし、後処理時の釜効率の向上を考慮して、好ましくは6〜8になるようにする。
上記全硫酸量とは、アダマンタンの酸化に使用する硫酸、並びに反応中に添加する三酸化硫黄ガス及び発煙硫酸のそれぞれの重量を100%硫酸に換算した重量の合計を意味する。
例えばアダマンタン100gと93%硫酸440gを仕込み、25%発煙硫酸370gを逐次添加した場合、反応系内の全硫酸量(反応に用いた硫酸量)=0.93×440+0.25×370×98/80+0.75×370=800gであり、反応系内の全硫酸量とアダマンタンの重量比(硫酸/アダマンタン)=800/100=8となる。
全硫酸量が上記より多い場合(反応系内の全硫酸量とアダマンタンの重量比が12より大きい場合)であっても反応性に変化はなく、全硫酸量が上記より少ない場合(反応系内の全硫酸量とアダマンタンの重量比が6より小さい場合)は反応速度が低下するおそれがある。
【0021】
三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸は、例えば、反応終了時に上記添加量を添加し切るように逐次添加する。三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を一括で添加した場合、硫酸濃度が一時的に高くなり過ぎてしまい、収率が逆に低下するおそれがある。
【0022】
本発明の製造方法においては、酸化反応中に亜硫酸ガスが発生するため、通常、反応は常圧で行われるが、減圧、加圧のいずれの状態でも反応を実施することができる。
本発明の製造方法に使用可能な反応装置としては、十分な撹拌が可能で、発煙硫酸の滴下又はSOガスの吹込みが可能で、且つ硫酸、ハロゲン化アルカン等に耐える材質を使用した装置であれば何ら制限はないが、通常、ガラスライニングされた装置が用いられる。
【0023】
本発明の製造方法は、通常、反応容器に所定量のアダマンタン、所定量の所定の濃度に調製した硫酸、所定量のハロゲン化アルカンを仕込み、反応条件を設定して、三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を逐次添加して反応を行う。
反応終了後の反応液からの2−アダマンタノンの単離方法としては、特に制限はないが、例えば、反応液を氷中に投入し、中和後、析出した結晶を溶媒により抽出し、次いで洗浄、溶媒留去及び乾燥を行う方法;反応液を氷中に投入し、中和後、析出した結晶を溶媒により抽出し、次いで水蒸気蒸留等により精製する方法;反応液を氷中に投入し、中和後、析出した結晶をろ過及び遠心分離する方法等が挙げられる。
【0024】
上記抽出溶媒としては、反応に使用するハロゲン化アルカンと同一のハロゲン化アルカンを使用することができ、具体例としては、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,3−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、1,2−ジブロモエタン、1,1,2,2−テトラブロモエタン、2−ブロモ−1−クロロエタン等が挙げられる。
このようにして得られた2−アダマンタノンは、必要により、クロマトグラフィ、再結晶、減圧蒸留、水蒸気蒸留又は昇華精製等の方法で精製してもよい。
【実施例】
【0025】
実施例1
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、93重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸555gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を93重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液1020gを加え、仕込んだ硫酸及び発煙硫酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0026】
比較例1
1,2−ジクロロエタンを添加しなかった他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0027】
比較例2
25重量%発煙硫酸を添加しなかった他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0028】
比較例3
2Lの四口フラスコに93重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、さらに25%発煙硫酸555gを一括で添加し、その後にアダマンタン150gを添加した。ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付け、攪拌しながら80℃まで昇温して24時間反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液1020gを加え、仕込んだ酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例2
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、92重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸525gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を92重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液988gを加え、仕込んだ酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0030】
実施例3
反応時間(発煙硫酸滴下時間)を36hとした他は実施例2と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例4
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、91重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸503gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を91重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液962gを加え、仕込んだ酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例5
反応時間(発煙硫酸滴下時間)を48hとした他は実施例4と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例6
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、94重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸593gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を94重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液1060gを加え、仕込んだ酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0034】
実施例7
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、95重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸630gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を95重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液1099gを加え、仕込んだ硫酸及び発煙硫酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例4
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、96重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸825gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を96重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液1280gを加え、仕込んだ硫酸及び発煙硫酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0036】
比較例5
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、98重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸825gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を98重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液1291gを加え、仕込んだ硫酸及び発煙硫酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0037】
比較例6
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、85重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、25重量%発煙硫酸401gを24hかけて滴下することで硫酸濃度を85重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液837gを加え、仕込んだ硫酸及び発煙硫酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例8
2Lの四口フラスコにアダマンタン150g、93重量%硫酸660g及び1,2−ジクロロエタン225gを仕込み、ジムロート冷却管及び熱電対鞘管、滴下ロート、攪拌翼を取り付けた。攪拌しながら80℃まで昇温し、SOガス217gを窒素で50%に希釈した混合ガスを24hかけて反応液中に吹き込み、硫酸濃度を93重量%に維持した状態で反応を行った。
反応終了後、氷水650gに反応液をあけ、トルエン600gを加えた後、冷却しながら48重量%NaOH水溶液748gを加え、仕込んだ硫酸及び発煙硫酸の半量を中和した。トルエン抽出液をガスクロマトグラフィで分析し、2−アダマンタノンの収量等を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例9
反応温度を70℃とした他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0040】
実施例10
反応時間(発煙硫酸滴下時間)を48hとした以外は実施例9と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例11
1,2−ジクロロエタンの代わりに1,1,2,2−テトラクロロエタン225gを仕込んだ他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0042】
実施例12
反応温度を90℃とし、反応時間(発煙硫酸滴下時間)を12hとした他は実施例11と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0043】
比較例7
反応温度を100℃とし、反応時間(発煙硫酸滴下時間)を4hとした他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0044】
比較例8
反応温度を60℃とした他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0045】
実施例13
93重量%硫酸の仕込み量を1200gとし、48%NaOH水溶液の添加量を1450gとした他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0046】
実施例14
93重量%硫酸の仕込み量を400gとし、48%NaOH水溶液の添加量を815gとした他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0047】
比較例9
93重量%硫酸の仕込み量を210gとし、48%NaOH水溶液の添加量を660gとした他は実施例1と同様にして2−アダマンタノンを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0048】
比較例10
200mlのフラスコにアダマンタンを17g、96重量%硫酸を184g(100ml)入れ、65℃で12時間加熱攪拌した。加熱撹拌の間、反応開始後2時間から10時間まで25%発煙硫酸を添加速度9.625g/h(30mmol−SO/h)で77g(SOとして240mmol)滴下した。放冷後、200mlの氷に反応混合物をあけ、エーテル200mlで2回抽出した。エーテル層を飽和食塩水200mlで2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、エーテルを減圧下留去して2−アダマンタノンを製造した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1において、ADMはアダマンタンを意味し、ADOとは2−アダマンタノンを意味する。また、硫酸量及び全硫酸量は、いずれも100%HSO換算重量である。硫酸量は、アダマンタンの酸化に使用する硫酸の量である。
「硫酸濃度」とは、「反応液全体に含まれる硫酸重量」/「反応液全体に含まれる硫酸重量+反応液全体に含まれる水の重量」×100=「硫酸濃度」として計算される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の製造方法により得られる2−アダマンタノンは、医農薬原料、産業用原料の重要な中間体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの一級炭素のそれぞれに少なくとも1つのハロゲン原子が結合している炭素数2〜5のハロゲン化アルカンの存在下で、濃度が90〜95重量%である硫酸を用いて、アダマンタンを70〜90℃で酸化する2−アダマンタノンの製造方法であって、
酸化中に三酸化硫黄ガス及び/又は発煙硫酸を逐次添加して、反応系内の全硫酸量(使用した硫酸、三酸化硫黄及び発煙硫酸のそれぞれの重量を100%硫酸に換算した重量の合計)と前記アダマンタンの重量との比(硫酸/アダマンタン)を6〜12とし、硫酸濃度を90〜95重量%で維持する2−アダマンタノンの製造方法。
【請求項2】
硫酸濃度が91〜94重量%である請求項1に記載の2−アダマンタノンの製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化アルカンが1,2−ジクロロエタン又は1,1,2,2−テトラクロロエタンである請求項1又は2に記載の2−アダマンタノンの製造方法。

【公開番号】特開2013−32344(P2013−32344A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−146243(P2012−146243)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】