説明

2−アミノトロポン類の製造方法

【課題】電子材料や医薬品の中間体等として有用な2−アミノトロポン類を効率よく製造できる方法を提供すること。
【解決手段】トロポロン誘導体とアミン類とから、下記式(1)で表される2−アミノトロポン類を製造する方法であって、下記式(2)で表されるトロポロン誘導体とアミン類とを反応させた後、水素イオン濃度0.5〜10mol/Lである酸を用いて2−アミノトロポン類を抽出する、2−アミノトロポン類の製造方法とすること。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−アミノトロポン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アミノトロポン類は、電子材料や医薬品の中間体等として有用である。例えば、特許文献1には、電子材料用途等に好適な光塩基発生剤として利用し得ることが記載されている。当該公報には、活性トロポノイドとしてトロポロン類のトシラートを用い、これとメチルアミンとを反応させて2−アミノトロポン類を合成する例が記載されている。メチルアミンは極めて低沸点である。そこで、活性トロポノイドに対し大過剰のメチルアミンを加えて反応させて、活性トロポノイドを2−アミノトロポン類に完全に転化させた後、過剰のメチルアミンを留去することで2−アミノトロポン類が得られる。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/072651号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高沸点のアミン類とトロポロン誘導体から2−アミノトロポン類を工業的規模で効率よく製造する方法はいまだ知られていないのが実情である。
例えば、高沸点のアミン類を用いる場合に、アミン類を過剰に用いると、反応終了後に2−アミノトロポン類との分離が困難となる。そこで、アミン類に対し、過剰のトロポロン誘導体を作用させ、アミン類を完全に転化する方法が考えられる。その場合には、過剰に用いたトロポロン誘導体と、2−アミノトロポン類を分離する必要がある。しかし、両者ともに高沸点であるため、蒸留による分離は困難である。
一方、カラムクロマトによる分離は可能であるが、経済性の観点より、工業的規模での実施は困難である。
【0005】
かかる背景のもと、本発明は、電子材料や医薬品の中間体等として有用な2−アミノトロポン類を工業的規模でも効率よく製造し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、トロポロン誘導体とアミン類とから2−アミノトロポン類を製造するに際して、特定の構造のトロポロン誘導体を用いて反応を行い、かつ特定の水素イオン濃度の酸を抽出溶媒として用いることにより、2−アミノトロポン類を効率よく製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下のものを提供する。
[1]トロポロン誘導体とアミン類とから、下記式(1)で表される2−アミノトロポン類を製造する方法であって、下記式(2)で表されるトロポロン誘導体とアミン類とを反応させた後、水素イオン濃度0.5〜10mol/Lである酸を用いて2−アミノトロポン類を抽出する、2−アミノトロポン類の製造方法。
【化3】


(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上の置換基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R〜Rは、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に式(1)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。)
【化4】


(式中、Rは、炭素数2〜12の置換基を表し、R〜R13は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R〜R13は、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。R〜R13は、R〜Rと同じでもよい。)
[2]上記酸は水溶液である、[1]に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
[3]上記アミン類は、分子内に1個又は2個のアミノ基を有する化合物である、[1]又は[2]に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
[4]上記アミン類は、1,2−ジアミン、1,3−ジアミン及びn−ヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
[5]上記酸を用いて上記2−アミノトロポン類を抽出した後に、該2−アミノトロポン類を含む抽出物に塩基を加えることを更に行う、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
[6]上記R〜R13が、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
[7]上記R及び/又は上記Rが水素原子を表す、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
[8]上記R〜R及び上記R〜R13が、それぞれ独立に、水素原子又はイソプロピル基を表す、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る製造方法によれば、電子材料や医薬品の中間体等として有用な2−アミノトロポン類を効率よく製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0010】
本実施形態の製造方法は、トロポロン誘導体とアミン類とから、下記式(1)で表される2−アミノトロポン類を製造する方法であって、下記式(2)で表されるトロポロン誘導体とアミン類とを反応させた後、少なくとも酸を用いて2−アミノトロポン類を抽出するものである。
【0011】
【化5】

【0012】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上の置換基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R〜Rは、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に式(1)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。
【0013】
【化6】

【0014】
式(2)中、Rは、炭素数2〜12の置換基を表し、R〜R13は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R〜R13は、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。R〜R13は、R〜Rと同じでもよい。
【0015】
本実施形態の製造方法の出発化合物は、式(2)で表されるトロポロン誘導体である。トロポロン誘導体のなかでトロポン核の2位にエーテル結合、ハロゲン原子又はトシルオキシ基等を有する化合物は活性トロポノイドと呼ばれている。
活性トロポロノイドについては、例えば、大有機化学、第13巻、非ベンゼン系芳香族環化合物、小竹無二雄監修、朝倉書店(株)発行、1957年、p.178に記載されている。活性トロポノイドは共鳴構造の寄与があるため求核試薬等との反応性が高いという特徴を有すること等から好適である。
【0016】
【化7】

【0017】
式(2)において、Rは、炭素数2〜12の置換基を表す。Rの炭素数が2未満の場合にはトロポロン誘導体の水溶性が高くなり、反応終了後2−アミノトロポン類を酸性水溶液で抽出する場合にそこへの同伴が著しく、2−アミノトロポン類のみを抽出しようとしても、トロポロン誘導体が混入してしまう。その結果、高純度の2−アミノトロポン類を得ることが困難となる。Rの炭素数が12を越える場合には、反応に伴い副生するアルコールや酸の分離が困難になる。
【0018】
の炭素数は、2〜12であればよく、好ましくは3〜12であり、より好ましくは4〜10である。かかる炭素数の置換基とすることで、反応により生成する2−アミノトロポン類を更に効率よく抽出できる。
【0019】
の置換基の種類は特に限定されず、例えば、炭素数2〜12のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アラルキル基が挙げられ、具体的には、エチル基、n−プロピル基、アリル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。これらの中で、反応性の高さや2−アミノトロポン類との分離の容易性の観点からn−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基が好ましい。
【0020】
式(2)において、R〜R13は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ヒドロキシエトキシカルボニル基が挙げられる。これらの中では、製造の容易さの観点から、メトキシカルボニル基が好ましい。
アシル基としては、製造の容易さの観点から、アセチル基が好ましい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。これらの中では、原料入手の容易性や性能の観点から、イソプロピル基が好ましい。
アルケニル基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基が挙げられる。
アルキルスルファニル基としては、例えば、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、1−メチルスルフィド−メチル基、2−メチルスルフィド−エチル基、3−メチルスルフィド−プロピル基等が挙げられる。
アリール基としては、製造の容易性の観点から、フェニル基が好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。それらの中では、製造の容易さの観点から、メトキシ基が好ましい。
ハロゲン原子としては、製造の容易さの観点から、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
アミノ基は置換していなくても置換していてもよい。モノ置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェニルアミノ基が挙げられる。これらの中では、原料入手の容易性の観点から、メチルアミノ基が好ましい。ジ置換アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基が挙げられる。これらの中では、原料入手の容易性の観点から、ジメチルアミノ基が好ましい。
【0021】
式(2)において、R〜R13のうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよい。そのような飽和環や不飽和環としては、例えば、ピラゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環等のアゾール環が挙げられる。
【0022】
式(2)において、R〜R13は上記のもののいかなる組合せであってもよい。R〜R13は、それぞれ独立に、式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。即ち、本実施形態では、式(2)で表される化合物1分子中に2以上の2−アミノトロポン構造を有していてもよい。
【0023】
式(2)において、R〜R13が、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表すと好ましい。このような化合物は、酸を用いた際の抽出が更に容易となるため好ましい。
同様の観点から、R〜R13が、それぞれ独立に、水素原子又はイソプロピル基を表すと更に好ましい。
【0024】
本実施形態で用いることができるトロポロン誘導体としては、好ましくは、トロポロン、4−イソプロピルトロポロンのn−ブチルエーテル、t−ブチルエーテル、n−ペンチルエーテル、t−ペンチルエーテル、n−ヘキシルエーテル又はn−ヘキシルエーテルであり、より好ましくは、4−イソプロピルトロポンのn−ブチルエーテルである。これらを用いることで、アミン類との高い反応性を確保しつつ、トロポロン誘導体と2−アミノトロポン類との分離を容易にすることができる。
【0025】
なお、式(2)で表されるトロポロン誘導体は化学合成品であってもよいし、天然物抽出品であってもよい。
【0026】
式(2)で表されるトロポロン誘導体は公知の方法を応用して合成できる。例えば、大有機化学、第13巻、非ベンゼン系芳香族環化合物、小竹無二監修1957年、朝倉書店(株)発行に記載の方法に準じれば、様々な構造のトロポロン誘導体を合成できる。
また、シクロペンタジエンとジクロロケテンの付加反応で生成する付加体をアルカリ加水分解する方法等によってもトロポロン誘導体を合成できる。
【0027】
また、天然物から抽出できる天然物抽出品としては、例えば、天然物から単離されるトロポロン誘導体として、ニオイヒバ(Thuja plicata D. Don)から単離されるツヤプリシンや、台湾ヒノキから単離されるヒノキチオール等が挙げられる。
【0028】
本実施形態において用いるアミン類は、その種類は特に限定されず、アミノ基を有する化合物であればよい。好ましくは、同一分子中に1個又は2個のアミノ基を有するアミン類である。これらのアミン類は直鎖状でもよいし、分岐状でもよい。かかるアミン類としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類等が挙げられる。
【0029】
同一分子中に1個のアミノ基を有するアミン類としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族アミン類;アミノシクロヘキシサン、アミノメチルシクロヘキサン等の脂環式アミン類;アニリン、ベンジルアミン等の芳香族アミン類等が挙げられる。
【0030】
同一分子中に2個のアミノ基を有するアミン類としては、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン等の脂肪族アミン類;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環式アミン類;1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、1,2−ジ(アミノメチル)ベンゼン、1,3−ジ(アミノメチル)ベンゼン、1,4−ジ(アミノメチル)ベンゼン、1,8−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノビフェニル等の芳香族アミン類等が挙げられる。
【0031】
本実施形態において、トロポロン誘導体とアミン類の反応温度は制限されず、30〜200℃が好ましい。30℃以上とすることで反応を効率よく促進させることができる。200℃以下とすることで、トロポロン誘導体や2−アミノトロポン類の分解を防止できる。
【0032】
本実施形態において、トロポロン誘導体とアミン類の反応に用いる溶媒は限定されず、公知の溶媒を用いることができる。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン等のピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の鎖状又は環状飽和炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;その他の有機極性溶媒類、有機非極性溶媒類等が挙げられる。
【0033】
これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくはアルコール類であり、より好ましくはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコールである。
【0034】
本実施形態におけるトロポロン誘導体とアミン類の反応において、アミン類に対するトロポロン誘導体の量に制限はないが、好ましくは1〜20倍モルである。より好ましくは1.5〜15倍モルであり、更に好ましくは2〜10倍モルである。
【0035】
本実施形態におけるトロポロン誘導体とアミン類の反応において、反応溶液中のトロポロン誘導体の濃度に制限はないが、好ましくは0.1〜10mol/Lである。0.1mol/L以上とすることで、トロポロン誘導体とアミン類との接触効率が向上し、効率的に反応させることができる。10mol/L以下とすることで、反応物の粘性を撹拌容易な粘性に保つことができる。より好ましくは0.2〜8mol/Lであり、更に好ましくは、0.5〜5mol/Lである。
【0036】
なお、本実施形態のトロポロン誘導体とアミン類の反応において、必要に応じて触媒や消泡剤等を加えてもよい。
【0037】
本実施形態において用いることができる触媒としては、特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。
本実施形態において用いることができる消泡剤としては、特に限定されず、例えば、ミネラルオイル系消泡剤、シリコン系消泡剤、ポリマー系消泡剤等が挙げられる。
【0038】
本実施形態では、トロポロン誘導体とアミン類との反応の後に、水素イオン濃度0.5〜10mol/Lの酸を用いて2−アミノトロポン類を抽出する工程を行う。2−アミノトロポン類の抽出溶媒として酸を用いる。
水素イオン濃度が0.5mol/L以上の酸を抽出溶媒として用いることで、2−アミノトロポン類を効果的に抽出できる。水素イオン濃度を10mol/L以下とすることで、2−アミノトロポン類の分解反応を防止できる。
【0039】
本実施形態において、2−アミノトロポン類はアミン由来の孤立電子対がトロポン環と共役し、塩基性が実質的に失われていると考えられるが、意外にも、上記水素イオン濃度の酸を抽出溶媒として用いることで、2−アミノトロポン類を効果的に抽出できる。
【0040】
酸の水素イオン濃度は0.5〜10mol/Lであり、好ましくは水素イオン濃度0.8〜8mol/Lであり、より好ましくは水素イオン濃度1.0〜5mol/Lである。
【0041】
本実施形態では、水素イオン濃度は水酸化ナトリウムによる中和滴定によって測定できる。中和滴定は25℃で実施し、中和点の決定には、フェノールフタレイン等の汎用の指示薬を用いることができ、電位差自動滴定装置(例えば、京都電子工業(株)製、AT−610)を用いれば、自動的に中和点を決定することができる。
【0042】
酸の水素イオン量は制限されないが、2−アミノトロポン類に対し、好ましくは1〜100倍モルである。より好ましくは2〜90倍モルであり、更に好ましくは5〜80倍モルである。かかる水素イオン量とすることで、2−アミノトロポン類をより確実に抽出できる。
【0043】
酸の種類は限定されず、2−アミノトロポン類とオニウム塩を形成するものであればよく、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、アジピン酸等のカルボン酸、塩化アルミニウム、塩化チタン等の金属塩等が挙げられる。これらの中では、経済性や取扱い性の観点から、無機酸が好ましい。
【0044】
酸は、2−アミノトロポン類の抽出の容易性の観点から、水溶液であることがより好ましい。抽出溶媒として酸水溶液を反応系に加えると同時に、水−油相を簡便に形成することができ、効率よく2相分離を行うことも可能となる。なお、本実施形態では、必要に応じて、水や有機溶媒等を適宜に反応物に加えて抽出操作を行ってもよいことは勿論である。
【0045】
酸を用いて2−アミノトロポン類を抽出する際の抽出温度は制限されないが、好ましくは10〜50℃である。10℃以上とすることで抽出効率がより向上し、50℃以下とすることで2−アミノトロポン類の分解を防止できる。より好ましい抽出温度は15〜50℃であり、更に好ましくは20〜40℃である。
【0046】
酸を用いて2−アミノトロポン類を選択的に抽出した後、2−アミノトロポン類が含まれる抽出物を塩基で中和することが好ましい。これにより、2−アミノトロポン類が析出するので、それを適当な抽出溶剤で更に抽出すれば、高純度の2−アミノトロポン類を得ることができる。本実施形態において、定かではないが、酸を用いて抽出する際の水−油相の水相には、水溶性の2−アミノトロポン類のアミン塩が存在しており、この水相を取り出して塩基を加えることで親油性の2−アミノトロポン類を析出させることができるものと考えられる。
【0047】
塩基として用いることができる種類は特に限定されず、例えば、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属アルコキシド等が挙げられる。
【0048】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。
金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、カリウムトリフェニルメトキシド等が挙げられる。
これらの中でも、取扱い容易性の観点から、金属水酸化物が好ましい。その中でも、経済性の観点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムがより好ましい。
【0049】
塩基の添加量は、抽出に用いた酸の水素イオン濃度以上であれば制限されず、好ましくは抽出に用いた酸の水素イオン濃度の1〜10モル倍であり、より好ましくは1.1〜8モル倍である。
【0050】
抽出溶剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル等の酢酸エステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0051】
本実施形態の製造方法の目的化合物は、式(1)で表される2−アミノトロポン類である。
【0052】
【化8】

【0053】
式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上の置換基を表す。
炭素数1以上の置換基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1以上のアルキル基の他、式(1)で表される化合物のR又はRから1つの水素原子が脱離した1価の基などが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。これらの中で経済性の観点からメチル基、エチル基、n−プロピル基のいずれかが好ましい。
【0054】
〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ヒドロキシエトキシカルボニル基が挙げられる。それらの中では、製造の容易さの観点から、メトキシカルボニル基が好ましい。
アシル基としては、製造の容易さの観点から、アセチル基が好ましい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。それらの中では、原料入手の容易性や性能の観点から、イソプロピル基が好ましい。
アルケニル基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基が挙げられる。
アルキルスルファニルとしては、例えば、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、1−メチルスルフィド−メチル基、2−メチルスルフィド−エチル基、3−メチルスルフィド−プロピル基等が挙げられる。
アリール基としては、製造の容易性の観点から、フェニル基が好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。それらの中では、製造の容易さの観点から、メトキシ基が好ましい。
ハロゲン原子としては、製造の容易さの観点から、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
アミノ基は置換していなくても置換していてもよい。モノ置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェニルアミノ基が挙げられる。それらの中では、原料入手の容易性の観点から、メチルアミノ基が好ましい。ジ置換アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基が挙げられる。それらの中では、原料入手の容易性の観点から、ジメチルアミノ基が好ましい。
【0055】
式(1)において、R〜Rのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよい。そのような飽和環や不飽和環としては、例えば、ピラゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環のようなアゾール環が挙げられる。
【0056】
式(1)において、R〜Rは上記のもののいかなる組合せであってもよい。本実施形態では、R〜Rは、それぞれ独立に、式(1)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。即ち、本実施形態では、式(1)で表される化合物1分子中に2以上の2−アミノトロポン構造を有していてもよい。
【0057】
式(1)において、R〜Rが、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表すと好ましい。このような化合物は、酸による抽出を更に容易に行うことができるため好ましい。
これらの中でも、R及び/又はRが水素原子を表すとより好ましく、R〜Rがそれぞれ独立に水素原子又はイソプロピル基を表すと更に好ましい。これにより酸で容易に抽出できる。
【0058】
式(1)のR〜Rは、式(2)のR〜R13と同じでもよい。例えば、Rに対応するR、Rに対応するR10といったように、対応する置換基が同じ構造であってもよい。あるいは、式(1)のR〜Rが、対応する式(2)のR〜R13の一部又は全部と異なる構造であってもよい。
【0059】
通常、式(1)のR〜Rは、式(2)のR〜R13と同じ構造であるが、本実施形態における反応前、反応中又は反応後に、転移反応やその他反応によって構造が変化するものであってもよい。
これらの置換基で起こりうる転移反応としては、例えば、熱、酸、アルカリ等の何らかの影響で分子内の原子の並びが変化するものが挙げられ、分子内転移、分子間転移を問わない。従って、式(2)のR〜R13のいずれかが転移反応等を起こした場合には、対応する式(1)のR〜Rの構造は、式(2)のR〜R13と異なる構造となりうる。
【0060】
なお、式(1)においてRが水素原子となる場合には、式(3)で表される互変異体を取りうる。この場合、式(1)は式(3)と等価である。従って、本実施形態の製造方法において、目的化合物として式(3)で表される互変異体が混在していてもよい。
【0061】
【化9】

【0062】
本実施形態の製造方法では、より高純度の目的化合物を得る目的等から、必要に応じて、他の分離工程や精製工程を行うこともできる。本実施形態の製造方法では、効率よく2−アミノトロポン類を分離できるため、その他の分離工程や精製工程での時間、労力及びコスト等を軽減できる。例えば、精製工程としてカラムクロマトグラフィーや再結晶操作を行うこともできるが、本実施形態では純度の高い目的化合物を効率よく得ることもできるので、精製工程における負担を軽減できる。
【0063】
本実施形態の製造方法により得られる2−アミノトロポン類の用法や用途は制限されず、幅広い分野に用いることができる。例えば、電子材料や医薬品の中間体等として有用である。例えば、アニオン硬化性樹脂などに配合できる光塩基発生剤又はその合成中間体として用いることもできる。
また、2−アミノトロポン類に紫外線を照射すると分子内環化反応を起こすことができ、これにより得られうる構造骨格の化合物は消炎作用を有する医薬として有用である。
【0064】
本実施形態の製造方法は、2−アミノトロポン類を工業的規模で効率よく製造しうる技術として用いることができる。特に、特定の水素イオン濃度である水溶液を用いて抽出操作を行うので、生成した2−アミノトロポン類を効率よく抽出できる。その結果、高純度の生成物を容易に得ることもできる。そして、本実施形態の製造方法は、簡便な後処理であるので工業的規模でも効率よく製造し得ることが示された。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
表1に示すトロポロン誘導体とアミン類を用いて、表1に示す2−アミノトロポン類をそれぞれ合成した。なお、各実施例において抽出に用いた塩酸水溶液の水素イオン濃度の測定は、水酸化ナトリウム水溶液による中和滴定によって行った。中和滴定は、フェノールフタレインを指示薬に用い、25℃で実施した。
【0067】
[実施例1]
イソプロピルトロポロンのブチルエーテル(2−ブトキシ−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−ブトキシ−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)15mmolと、n−ヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製)(アミノ基7.6mmol)をn−ブタノール(和光純薬工業(株)製)10mLに溶解し、還流温度で7時間加熱撹拌した。その後、n−ブタノールを減圧下に留去した後、水素イオン濃度1.5mol/Lである塩酸水溶液100mLを加え、更にトルエン100mLを加え10分間振とうした。10分間静置した後、塩酸層を分取し、8mol/Lの水酸化カリウム水溶液で中和した後、トルエン100mLを加え10分間振とうした。10分間静置した後、トルエン層を分取した。トルエン層のトルエンを減圧下に留去して、表1に示す2−アミノトロポン類(2−(ヘキシルアミノ)−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−(ヘキシルアミノ)−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)1.86gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は99%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0068】
[実施例2]
アミン類としてn−ヘキシルアミンの代わりにジアミンである1,3−プロパンジアミン(和光純薬工業(株)製)(アミノ基7.6mmol)を用いた点と、水素イオン濃度が2.0mol/Lの塩酸水溶液を用いた点以外は実施例1と同様に行った。その結果、表1に示す2−アミノトロポン類(1,3−ビス(2−オキソ−3(6)−イソプロピル−1,3,5−シクロヘプタトリエニルアミノ)プロパン)1.38gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は99%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0069】
[実施例3]
アミン類としてn−ヘキシルアミンの代わりにジアミンである1,2−プロパンジアミン(和光純薬工業(株)製)(アミノ基7.6mmol)を用いた点と、水素イオン濃度が2.8mol/Lの塩酸水溶液を用いた点以外は実施例1と同様に行った。その結果、表1に示す2−アミノトロポン類(1,2−ビス(2−オキソ−3(6)−イソプロピル−1,3,5−シクロヘプタトリエニルアミノ)プロパン)1.36gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は98%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0070】
[実施例4]
水素イオン濃度が0.5mol/Lの塩酸水溶液を用いた点以外は実施例1と同様に行った。その結果、表1に示す2−アミノトロポン類(2−(ヘキシルアミノ)−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−(ヘキシルアミノ)−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)1.54gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は82%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0071】
[実施例5]
水素イオン濃度が10mol/Lの塩酸水溶液を用いた点以外は実施例1と同様に行った。その結果、表1に示す2−アミノトロポン類(2−(ヘキシルアミノ)−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−(ヘキシルアミノ)−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)1.65gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は88%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0072】
[比較例1]
水素イオン濃度が0.2mol/Lの塩酸水溶液を用いた点以外は実施例1と同様に行った。その結果、表1に示す2−アミノトロポン類(2−(ヘキシルアミノ)−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−(ヘキシルアミノ)−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)0.84gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は45%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0073】
[比較例2]
イソプロピルトロポロンのメチルエーテル(2−メトキシ−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−メトキシ−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)15mmolと、n−ヘキシルアミン(アミノ基7.6mmol)をn−ブタノール10mLに溶解し、還流温度で7時間加熱撹拌した。その後、n−ブタノールを減圧下に留去した後、水素イオン濃度2.8mol/Lである塩酸水溶液100mLを加え、更にトルエン100mLを加え10分間振とうした。10分間静置した後、塩酸層を分析したところ、目的物である2−アミノトロポン類とともにイソプロピルトロポロンのメチルエーテルが多量に検出されたため、塩酸層に対しトルエン100mLでの抽出操作を更に3回行った。塩酸層を分取し、8mol/Lの水酸化カリウム水溶液で中和した後、トルエン100mLを加え10分間振とうした。10分間静置した後、トルエン層を分取した。トルエン層のトルエンを減圧下に留去して、表1に示す2−アミノトロポン類(2−(ヘキシルアミノ)−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−(ヘキシルアミノ)−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)0.98gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は52%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0074】
[比較例3]
水素イオン濃度が11mol/Lの塩酸水溶液を用いた点以外は実施例1と同様に行った。その結果、表1に示す2−アミノトロポン類(2−(ヘキシルアミノ)−4−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンと、2−(ヘキシルアミノ)−6−イソプロピル−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オンの混合物)1.46gを得た。得られた2−アミノトロポン類の収率は82%であった。2−アミノトロポン類の確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1〜5は、いずれも水素イオン濃度が0.5〜10mol/Lの酸で抽出しており、2−アミノトロポン類の収率はいずれも82%以上であった。特に、実施例1〜3の収率は98〜99%であった。
一方、水素イオン濃度が0.2mol/Lの酸を用いた比較例1の収率は45%であった。原料であるトロポロン誘導体がメトキシ基を有する比較例2の収率は52%であった。水素イオン濃度が11.0mol/Lの酸を用いた比較例3の収率は78%であった。
以上より、本実施例によれば、特定の構造のトロポロン誘導体を用いて反応を行い、かつ特定の水素イオン濃度である酸を抽出溶媒として用いることにより、2−アミノトロポン類を効率よくかつ高純度に製造できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る製造方法により得られる2−アミノトロポン類は、電子材料や医薬品等の中間体等として幅広い分野に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロポロン誘導体とアミン類とから、下記式(1)で表される2−アミノトロポン類を製造する方法であって、
下記式(2)で表されるトロポロン誘導体とアミン類とを反応させた後、水素イオン濃度0.5〜10mol/Lである酸を用いて2−アミノトロポン類を抽出する、2−アミノトロポン類の製造方法。
【化1】


(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上の置換基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R〜Rは、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に式(1)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。)
【化2】


(式中、Rは、炭素数2〜12の置換基を表し、R〜R13は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R〜R13は、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。R〜R13は、R〜Rと同じでもよい。)
【請求項2】
前記酸は水溶液である、請求項1に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
【請求項3】
前記アミン類は、分子内に1個又は2個のアミノ基を有する化合物である、請求項1又は2に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
【請求項4】
前記アミン類は、1,2−ジアミン、1,3−ジアミン及びn−ヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
【請求項5】
前記酸を用いて前記2−アミノトロポン類を抽出した後に、該2−アミノトロポン類を含む抽出物に塩基を加えることを更に行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
【請求項6】
前記R〜R13が、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
【請求項7】
前記R及び/又は前記Rが水素原子を表す、請求項1〜6のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。
【請求項8】
前記R〜R及び前記R〜R13が、それぞれ独立に、水素原子又はイソプロピル基を表す、請求項1〜7のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン類の製造方法。

【公開番号】特開2010−116370(P2010−116370A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292035(P2008−292035)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】