説明

2−アミノメチル−3,4−ジヒドロキシピロリジン型グリコシダーゼ阻害剤

【課題】 本発明の目的は、グリコシダーゼ阻害作用を有し、研究のツールとしても有用である新規なピロリジン化合物、前記ピロリジン化合物を高純度で得るために必要な合成中間体、前記ピロリジン化合物を含む阻害剤組成物を提供することである。
【解決手段】 本発明は、下記一般式(I)を有するピロリジン化合物を提供する。


(I)
式中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)である。上記化合物は各種グリコシダーゼに対し、酵素特異的な阻害活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素阻害活性を有するピロリジン化合物、その製造方法における合成中間体、並びに前記化合物を含む酵素阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖と類似構造を有するヒドロキシピロリジン化合物は、細胞間分子認識など重要な生物活性の制御物質として注目されている糖関連酵素阻害剤の有力候補であり、各種生理活性物質や医薬の合成中間体として、また機能性材料として有用である。これまでに糖類似アルカロイドとして天然から単離された化合物は100種以上にのぼり、非天然型の立体配置や置換基の付与体などの報告も多くされている。糖加水分解酵素(グリコシダーゼ)は生体内において、小腸での糖質消化、細胞内での糖蛋白質糖鎖プロセシング、リソソームでの複合糖質の異化作用など極めて重要な生物学的プロセスに関与している。それらグリコシダーゼの阻害剤は、糖尿病治療薬、抗ウイルス剤、癌転移抑制剤、リソソーム蓄積症の分子治療などの臨床応用が期待されており(参考文献:浅野直樹(北陸大学)、有機合成化学協会誌、666-675(2000)およびWatson, A. A. et al., Phytochemistry, 56, 265-295 (2001) など多数)、種々の医薬開発および臨床応用に向けた研究が活発である。例えば、糖尿病の治療に関連して2-アルキルピロリジン類(特許文献1、2参照)が、また、AIDS治療に関連してピロリジン類(特許文献3参照)が報告されている。
【0003】
その中でも、3,4-ジヒドロキシピロリジン骨格を有する化合物は、糖加水分解酵素における基質遷移状態との類似性から研究開発がさかんであり、糖加水分解酵素をより詳しく研究するためのツールとしての可能性が示されている(非特許文献1、2参照)
また、各種酵素阻害剤は、酵素に関連する疾病の治療薬として、また、生体内に他の治療薬を投与する際に体内の酵素を選択的に阻害して治療薬の薬効を補助する治療薬補助剤として、酵素特異的な酵素阻害剤の開発も望まれている。
【0004】
2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジンについては、8種類ある立体異性体のうち3,4-トランス型の4化合物と3,4-シス型の2化合物が公知である(非特許文献3及び4参照)。(2S,3R,4S)-2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジンに関する文献(非特許文献3参照)は、各種の癌治療に用いられるシスプラチンの誘導体に関するものであり、グリコシダーゼ阻害活性については記載されていない。また、(2R,3R,4S)-2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジンに関する文献(非特許文献4)には、グリコシダーゼ阻害活性を示すことが記載されているが、酵素特異性の面からは十分ではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2000-95686
【特許文献2】特開平9-509947
【特許文献3】欧州特許出願第322395号
【非特許文献1】Saotome C. et al., Chem. Biol. 8, 1061-1070 (2001)
【非特許文献2】Wrodnigg. T. M. et al., Bioorg. Med. Chem., 12, 3485-3495 (2004)
【非特許文献3】Bioorg. Med. Chem. Lett., 1996, 6, 643-646.
【非特許文献4】Bioorg. Med. Chem. Lett., 2001, 11, 2489-2493.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グリコシダーゼ阻害作用を有し、研究のツールとしても有用である新規なピロリジン化合物、前記ピロリジン化合物を高純度で得るために必要な合成中間体、前記ピロリジン化合物を含む酵素特異的な阻害剤組成物を提供することである。
本発明の目的はまた、酵素特異的なグリコシダーゼ阻害作用を有する新規なピロリジン化合物を提供することである。
本発明の目的はまた、グリコシダーゼ阻害作用を有し、研究のツールとしても有用である新規なピロリジン化合物を高純度で得ることができる、簡便な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(I)を有するピロリジン化合物を提供する。

(I)
式中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)である。
なお、各一般式において炭素原子横の*のマークは、その炭素原子が不斉炭素であることを意味する。
【0008】
本発明はまた、一般式(I)で表されるピロリジン化合物(式中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4S)及び(3S,4R)の組み合わせから選択される。ただし、2位炭素の立体配置がRである場合には、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4S)ではない。)を活性化合物として含む、酵素阻害剤を提供する。
【0009】
本発明はまた、下記一般式(II)を有する化合物を提供する。

(II)
式中、RはCH2OSO2CH3であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4S)及び(3S,4R)の組合せから選択され、R1及びR2は、アセトナイド、ベンジリデン、カーボナート、あるいはそれぞれ独立に、水素、tert-ブチルジメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、(トリフェニルメチル)ジメチルシリル、及びtert-ブチルジフェニルシリルからなる群より選択され、R3は水素またはアミノ保護基である。ただし、R1とR2は同じであっても異なっていてもよく、及びR1、R2及びR3は同時に水素を表さない。
【0010】
一般式(II)で表される化合物は、一般式(I)の化合物の製造において有用な合成中間体である。
一般式(II)において、R1及びR2は好ましくはアセトナイドである。また、R3はベンジル基、tert-ブトキシカルボニル基及びベンジルオキシカルボニル基であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、一般式(III)で表される化合物のヒドロキシ保護基及び/又はアミノ保護基を脱保護し、一般式(I)で表されるピロリジン化合物を製造する方法を提供する。
【0012】

(III) (I)
式(I)中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)である。
式(III)中、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)であり、R1及びR2は、アセトナイド、ベンジリデン、カーボナート、あるいはそれぞれ独立に、水素、tert-ブチルジメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、(トリフェニルメチル)ジメチルシリル、及びtert-ブチルジフェニルシリルからなる群より選択され、R3及びR4はそれぞれ独立に水素またはアミノ保護基である。ただし、R1とR2は同じであっても異なっていてもよく、及びR1、R2及びR3は同時に水素を表さない。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、酵素特異的に酵素阻害作用を示す酵素阻害剤が提供される。また、本発明により、光学純度の高い新規なピロリジン化合物を得ることができる。また、ヒドロキシピロリジン誘導体のアミノ基および/または水酸基が保護された合成中間体により、精製が容易となるため高純度のジヒドロピロリジン化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の酵素阻害作用を示すピロリジン化合物について説明する。本発明の酵素阻害作用を示すピロリジン化合物は一般式(I)で表される。以下、特に断り無く“本発明のピロリジン化合物”という場合には、一般式(I)で表されるいずれかの立体異性体であるピロリジン化合物をいう。
【0015】

(I)
式中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)である。
【0016】
本発明のピロリジン化合物を合成する際に有用な中間体として一般式(II)を有する化合物が挙げられる。






【0017】

(II)
式中、Rは、-CHO、CH2OH、CH2OMs、CH2N3、CH2NHBn、及びCH2NH2からなる群より選択され、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4S)及び(3S,4R)の組合せから選択され、R1及びR2は、アセトナイド、ベンジリデン、カーボナート、あるいはそれぞれ独立に、水素、tert-ブチルジメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、(トリフェニルメチル)ジメチルシリル、及びtert-ブチルジフェニルシリルからなる群より選択され、R3は水素またはアミノ保護基である。ただし、R1とR2は同じであっても異なっていてもよく、及びR1、R2及びR3は同時に水素を表さない。
【0018】
上記式(II)のR1及びR2は、合成方法によっては、上記保護基以外のヒドロキシ保護基を経由する場合もあり得る。この場合のヒドロキシ保護基とは、通常水酸基を保護するために用いられる、エーテル型保護基、エステル型保護基、カーボネート型保護基等、例えば“Protective Groups in Organic Synthesis” T. W. Green, John Wiley & Sons、に記載されるヒドロキシ基の保護基を適宜使用することができる。また、R2はR1と同じ保護基であってもよい。
【0019】
3に関して、アミノ保護基は、2級アミノ基を保護するために通常用いられるいずれの保護基であってもよい。具体的には、tert-ブチルオキシカルボニル基(Boc基)や、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、ベンジル基、若しくは“Protective Groups in Organic Synthesis” T. W. Green, John Wiley & Sons、に記載されるアミノ保護基等を適宜使用することができる。
なお、式(III)におけるR4の定義はR3に準ずる。
【0020】
本発明のピロリジン化合物を製造する方法について以下に説明する。
本発明の酵素阻害剤である2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジンは、合成中間体であるN-保護-2-置換-3,4-ジヒドロキシピロリジン(非特許文献 Chem. Pharm. Bull., 1987, 35, 3995-3999.; 非特許文献 Bioorg. Med. Chem. Lett., 2001, 11, 2489-2493.; 非特許文献 Bioorg. Med. Chem. Lett., 1996, 6, 643-646.)の2位置換基を選択的に変換して合成することができる。各工程においては公知の手法を適用できる。その際、生成物の立体配置は用いる合成中間体に依存する。
【0021】
スキーム1は、本発明のピロリジン化合物を製造する方法の一実施態様について、概略を示したものである。2位にアミノメチル基に変換可能な置換基を有し、3,4位が任意のヒドロキシ保護基で、また、環上の窒素原子を任意のアミノ保護基で保護されたピロリジン化合物(II)に対し、2位の官能基変換反応と全保護基の除去を行ない、本発明のピロリジン化合物(I)を製造することができる。このとき、段階的に化合物(III)を経由しても良いが、一連の行程を続けて行なうこともできる。




【0022】

スキーム1 2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン体の合成(例)
【0023】
より具体的に、特定の保護基を用いて本発明のピロリジン化合物を製造する方法について、スキーム2に従い説明する。スキーム2には、(2R,3S,4R)-2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルートが示されている。
【0024】

スキーム2 (2R,3S,4R)2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルート
【0025】
まず、公知(非特許文献:Chem. Pharm. Bull., 1987, 35, 3996-3999.)の化合物(1)のジヒドロキシエチル側鎖を過よう素酸酸化等の酸化反応によってホルミル基へと変換する。この工程は、過よう素酸ナトリウム以外の市販の類似試薬、例えば過よう素酸カリウム等を用いることができ、適当な反応溶媒中で、上記試薬と原料のジオール体を反応させることにより達成される。過よう素酸ナトリウムは過剰に使用することができるが、単離、精製の簡単のため、使用量としては原料のジオール体(1)1当量に対して1〜10当量が好ましく、さらに好ましくは1.5〜3当量である。また、反応溶媒としては、通常メタノール、エタノールをはじめとするアルコール類、水、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用できる。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0026】
このようにして得られたホルミル体(2)は、アミン存在下での還元反応により相当するアルキルアミノ体に変換される。この反応は、市販のアミン類及び還元剤を利用する方法が適用できる。アミンとしてはモノアルキル保護アミンが、還元剤としてはヒドリド型全般が使用可能であるが、反応性、扱い易さなどの点からベンジルアミンとシアノ水素化ほう素ナトリウムの組み合わせが好ましい。それぞれの使用量は1〜10当量、好ましくは1.5〜3当量である。反応溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンと酢酸、ギ酸、塩酸などの混合溶媒などが使用でき、好ましくは、酢酸と塩化メチレンの混合溶媒である。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0027】
このようにして得られたベンジルアミノメチル体(3)のベンジル基は、パラジウム-活性炭を代表とする不均一系触媒の存在下で加水素分解を受け、相当するアミノメチル体を生成する。パラジウム-活性炭を代表とする不均一系触媒は過剰に使用することができるが、生成物の物理的吸着による損失を回避するために使用量を制限することが望ましく、パラジウム含量の多い水酸化パラジウムなどの使用も有効である。使用量としては、原料1当量に対して1%当量〜200%当量が好ましく、さらに好ましくは10%〜50%当量である。本反応で用いる還元剤は水素または水素を含むガスが好ましく、その供給方法は公知の方法を適用できる。例えば、反応溶液中に水素を含むガスを通気しても良いし、水素ガス雰囲気下において反応液を撹拌、あるいは反応系内においてシクロヘキサジエンなどから水素移動させても良い。反応溶媒としては、通常メタノール、エタノールをはじめとするアルコール類、水、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用できる。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0028】
このようにして得られたN-Bocアミノメチル体(4)のBoc基及びイソプロピリデン基は、トリフルオロ酢酸 (TFA)の作用による除去が可能である。この反応は、TFAを溶媒として用いることができるが、水との混合溶液が好ましい。TFAの使用量は、N-Bocアミド誘導体1 mmolに対して0.1〜10 ml、好ましくは1〜3 mlであり、その半分〜同量の水との混合液とする。反応温度は、通常−10〜80℃程度が好ましく、特に40〜60℃が好ましい。反応時間は、通常2時間〜2日間程度が好ましい。
【0029】
スキーム3には、(2S,3S,4R)2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルートが示されている。













スキーム3 (2S,3S,4R)2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルート
【0030】
まず、公知(非特許文献:Chem. Pharm. Bull., 1987, 35, 3996-3999.)の化合物(6)のヒドロキメチル側鎖を塩化メタンスルフォニルによってO-メシル基へと変換する。この工程は、塩化メタンスルフォニル以外の市販の類似試薬、例えば塩化パラトルエンスルフォニル等を用いることができ、適当な反応溶媒中で、上記試薬と原料を反応させることにより水酸基の変換が達成される。塩化メタンスルフォニルは過剰に使用することができるが、単離、精製の簡単のため、使用量としては原料のジオール体(1)1当量に対して1〜10当量が好ましく、さらに好ましくは1.5〜3当量である。また、反応溶媒としては、通常ピリジン、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用できる。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0031】
このようにして得られたメシル体(7)は、ナトリウムアジド存在下での置換反応により相当するアジド体に変換される。この反応は、市販アジド化試薬全般が使用可能であるが、反応性、扱い易さなどの点からナトリウムアジドが好ましい。その使用量は1〜10当量、好ましくは1.5〜3当量である。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用でき、好ましくはDMSOである。反応温度は、通常20〜100℃程度が好ましく、特に50〜80℃が好ましい。反応時間は、通常2時間〜2日間が好ましい。
【0032】
このようにして得られたアジド体(8)のアジド基及びベンジルオキシカルボニル基は、パラジウムを代表とする不均一系触媒の存在下で加水素分解を受け、その結果として相当するアミノメチル体を生成する。ここで、不均一系触媒は過剰に使用することができるが、生成物の物理的吸着による損失を回避するために使用量を制限することが望ましく、特に、パラジウム担体として用いられる活性炭を他の不溶性塩で置き換えたもの、例えば炭酸カルシウム担体として市販されているLindlar 触媒などの使用も有効である。使用量としては、原料1当量に対して1%当量〜200%当量が好ましく、さらに好ましくは10%〜50%当量である。本反応で用いる還元剤は水素または水素を含むガスが好ましく、その供給方法は公知の方法を適用できる。例えば、反応溶液中に水素を含むガスを通気しても良いし、水素ガス雰囲気下において反応液を撹拌させても良い。反応溶媒としては、通常メタノール、エタノールをはじめとするアルコール類、水、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用できる。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0033】
このようにして得られたO-保護アミノメチル体(9)のイソプロピリデン基は、トリフルオロ酢酸(TFA)の作用による除去が可能である。この反応は、TFAを溶媒として用いることができるが、水との混合溶液が好ましい。TFAの使用量は、N-Bocアミド誘導体1 mmolに対して0.1〜10 ml、好ましくは1〜3 mlであり、その半分〜同量の水との混合液とする。反応温度は、通常−10〜80℃程度が好ましく、特に40〜60℃が好ましい。反応時間は、通常2時間〜2日間程度が好ましい。
【0034】
スキーム4には、(2R,3R,4S)2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルートが示されている。
【0035】

スキーム4 (2R,3R,4S)2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルート
【0036】
まず、公知(非特許文献:Bioorg. Med. Chem. Lett., 2001, 11, 2489-2493.)の化合物(11)のベンジル基は、パラジウム-活性炭を代表とする不均一系触媒の存在下で加水素分解を受け、相当するアミノメチル体を生成する。パラジウム-活性炭を代表とする不均一系触媒は過剰に使用することができるが、生成物の物理的吸着による損失を回避するために使用量を制限することが望ましく、パラジウム含量の多い水酸化パラジウムなどの使用も有効である。使用量としては、原料1当量に対して1%当量〜200%当量が好ましく、さらに好ましくは10%〜50%当量である。本反応で用いる還元剤は水素または水素を含むガスが好ましく、その供給方法は公知の方法を適用できる。例えば、反応溶液中に水素を含むガスを通気しても良いし、水素ガス雰囲気下において反応液を撹拌、あるいは反応系内においてシクロヘキサジエンなどから水素移動させても良い。反応溶媒としては、通常メタノール、エタノールをはじめとするアルコール類、水、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用できる。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0037】
このようにして得られたN-Bocアミノメチル体(12)のBoc基及びイソプロピリデン基は、トリフルオロ酢酸(TFA)の作用による除去が可能である。この反応は、TFAを溶媒として用いることができるが、水との混合溶液が好ましい。TFAの使用量は、N-Bocアミド誘導体1 mmolに対して0.1〜10 ml、好ましくは1〜3 mlであり、その半分〜同量の水との混合液とする。反応温度は、通常-10〜80℃程度が好ましく、特に40〜60℃が好ましい。反応時間は、通常2時間〜2日間程度が好ましい。
【0038】
スキーム5には、(2S,3R,4S)2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルートが示されている。

スキーム5 (2S,3R,4S)2-アミノメチルピロリジン化合物の合成のルート
【0039】
まず、公知(非特許文献:Bioorg. Med. Chem. Lett., 1996, 6, 643-646.)の化合物(14)のアジド基は、還元反応により相当するアミノ体に変換される。この反応においては、市販の還元剤を利用する方法が適用でき、還元剤としてはヒドリド型全般が使用可能であるが、反応性などの点から水素化リチウムアルミニウムが好ましい。その使用量は1〜10当量、好ましくは2〜5当量である。反応溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン及びそれらの混合溶媒などが使用でき、好ましくは、テトラヒドロフランである。反応温度は、通常0〜90℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常2時間〜2日間が好ましい。
【0040】
上記の反応で生成したアミノ体(15)のアミノ基へのtert-ブチルオキシカルボニル基の導入においては、市販のものあるいは調製した保護基導入試薬を利用することができる。Boc2Oは過剰に使用することができるが、単離、精製の簡単のため、使用量としてはアミノ体1当量に対して1〜10当量が好ましく、さらに好ましくは1.5〜3当量である。また、共存させる塩基としては、トリエチルアミンに代表される3級アミンやピリジンなどの有機塩基および炭酸カリウムに代表される無機塩基が使用できるが、水素化リチウムアルミニウムの分解物である水酸化リチウム含有の塩基性溶液でも良い。反応溶媒としては、通常メタノール、エタノールをはじめとするアルコール類、水、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶液などが使用できるが、前述した水素化リチウムアルミニウムを用いた還元反応終了後に水を少量加えて生成した溶液でも構わない。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間程度が好ましい。
【0041】
Boc体(16)のベンジル基は、パラジウム-活性炭を代表とする不均一系触媒の存在下で加水素分解を受け、相当するアミノメチル体を生成する。パラジウム-活性炭を代表とする不均一系触媒は過剰に使用することができるが、生成物の物理的吸着による損失を回避するために使用量を制限することが望ましく、パラジウム含量の多い水酸化パラジウムなどの使用も有効である。使用量としては、原料1当量に対して1%当量〜200%当量が好ましく、さらに好ましくは10%〜50%当量である。本反応で用いる還元剤は水素または水素を含むガスが好ましく、その供給方法は公知の方法を適用できる。例えば、反応溶液中に水素を含むガスを通気しても良いし、水素ガス雰囲気下において反応液を撹拌、あるいは反応系内においてシクロヘキサジエンなどから水素移動させても良い。反応溶媒としては、通常メタノール、エタノールをはじめとするアルコール類、水、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合溶媒などが使用できる。反応温度は、通常0〜50℃程度が好ましく、特に0〜20℃が好ましい。反応時間は、通常5分間〜2日間が好ましい。
【0042】
このようにして得られたN-Bocアミノメチル体(17)のBoc基及びイソプロピリデン基は、トリフルオロ酢酸(TFA)の作用による除去が可能である。この反応は、TFAを溶媒として用いることができるが、水との混合溶液が好ましい。TFAの使用量は、N-Bocアミド誘導体1 mmolに対して0.1〜10 ml、好ましくは1〜3 mlであり、その半分〜同量の水との混合液とする。反応温度は、通常−10〜80℃程度が好ましく、特に40〜60℃が好ましい。反応時間は、通常2時間〜2日間程度が好ましい。
【0043】
ここで、化合物(14)に対する加水素分解とそれに引き続く酸加水分解によっても化合物(18)へと変換が可能である。しかし、化合物(14)の加水素分解によって生じるジアミノ体が活性炭に吸着され易く収率が低下すること、及び極性化合物ゆえに精製が困難であるとの理由から、上記の段階的製法がより好ましい。
【0044】
上述したスキーム2〜5において、最終的に生成する2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジンのジアステレオマー過剰率は出発物質のそれに準じたものであるが、それぞれに記述した各工程での精製が可能である。したがって、容易に高純度の2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジンが得られる。
【0045】
2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジンは、イオン交換樹脂を用いた精製が可能である。樹脂としてはDOWEX50WX-8(ダウケミカル社製)をはじめとする酸性樹脂が使用できる。
【0046】
本発明のピロリジン化合物は、酵素阻害作用を示す。酵素阻害剤とは、酵素の触媒作用によっておこなわれる反応に対して酵素-基質複合体の形成を阻害し、反応を抑制する物質群の総称であり、酵素阻害作用とは、可逆的あるいは不可逆的に酵素に結合して酵素-基質複合体の生成を妨げるものに大別される。
【0047】
糖転移酵素や糖加水分解酵素(グリコシダーゼ)は糖鎖を合成、分解する重要な酵素であり、それらの阻害剤は、ウイルスなどに見られる糖タンパク質糖鎖の生合成阻害に利用できることが知られている。本発明のピロリジン化合物は特に、グリコシダーゼ阻害作用が顕著であり、類似の3,4-トランス体とは異なる酵素を強力に阻害するという特徴を有する。
【0048】
同型のピロリジン化合物である3,4-トランス体のグリコシダーゼ阻害作用は、α-グルコシダーゼとβ-グルコシダーゼに対しての選択性が殆ど見られない。また、3,4−シス体である(2R,3R,4S)2−アミノメチルピロリジン化合物についても同様にα-グルコシダーゼとβ-グルコシダーゼに対しての選択性が見られない(表1参照)。これに対し、本発明のピロリジン化合物(2R,3S,4R)体、(2S,3S,4R)体、及び(2S,3R,4S)体は、α-グルコシダーゼに対する阻害作用は全く示さないがβ-グルコシダーゼに対して強い阻害活性を示す(表1参照)。このような酵素選択的阻害作用を有する化合物は、生薬等の経口医薬の補助剤として極めて有効であると考えられる。すなわち、生薬等に多く含まれるβ−グルコシド結合を切断するβ−グルコシダーゼを阻害するため、生体内でも生薬の薬効が阻害されないと考えられる。一方、唾液等の口内に多量に存在するα−グルコシダーゼに対しては阻害作用を示さないことから、経口投与に適切であると考えられる。従ってα-グルコシダーゼに対する阻害作用は全く示さないがβ-グルコシダーゼに対して強い阻害活性を示すピロリジン化合物を含む酵素阻害剤は、経口投与される医薬の補助剤として投与可能である。
また、このような酵素選択的阻害作用を有する酵素阻害剤は、酵素の研究用ツールとしても非常に有用である。
また、本発明のピロリジン化合物は、α-マンノシダーゼとβ-グルコシダーゼに対して特に顕著な阻害作用を発揮する。この事実は、α-マンノシダーゼ阻害をもって癌細胞における糖タンパク質糖鎖プロセッシングの抑制に、また、β-グルコシダーゼ阻害をもってリソソーム蓄積症における異常基質の蓄積抑制に役立つ可能性を示唆するものである。
【0049】
したがって、本発明のピロリジン化合物を含む組成物は酵素阻害剤として使用することができ、経口医薬と共に添加する補助剤、上記酵素に関連した疾患に対する治療剤、医学的実験ツール等として様々な利用法がある。
次に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0050】
(2R,3S,4R)-2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン二塩酸塩 (5) の合成
公知(非特許文献:Chem. Pharm. Bull., 1987, 35, 3996-3999.)の方法により得られる化合物(1)(210 mg, 0.692 mmol)を塩化メチレン(2 mL)に溶かし、これに過よう素酸ナトリウム(178 mg, 0.83 mmol)を水(2 mL)に溶かしたものを加え、室温にて1時間撹拌した。反応終了後、溶液を水(ca. 30 ml)で希釈し、塩化メチレンで抽出した。有機層を乾燥、濃縮すると相当するホルミル体(2)が収率94%で得られた。このホルミル体(2)(324 mg, 1.19 mmol)を塩化メチレン(3 mL)に溶かし、ベンジルアミン(384 mg, 3.57 mmol)とシアノ水素化ホウ素ナトリウム(225 mg, 3.57 mmol)と酢酸(1 mL)を加え、室温にて2時間撹拌した。反応終了後、溶液を1M水酸化ナトリウム溶液(ca. 80 ml)にあけ塩化メチレンで抽出した。有機層を乾燥、濃縮すると相当するベンジルアミノメチル体(3)が含まれたシラップ状物質が得られるので、これをシリカゲルカラム(ジエチルエーテル:n-ヘキサン=1:1〜ジエチルエーテル〜酢酸エチルにて溶出)で精製して、収率76%で純粋なベンジルアミノメチル体(3)を得た。純粋なベンジルアミノメチル体(3)(206 mg, 0.568 mmol)をエタノール(2 mL)に溶かし、これに水酸化パラジウム(20% on 活性炭)(ca. 20 mg, 10 w/w%)を加え、水素ガス雰囲気下室温で14時間撹拌した。反応終了を確認し、反応液をセライトろ過ののち濃縮すると、N-Bocアミノメチル体(4)が定量的に得られた。N-Bocアミノメチル体(4)(155 mg, 0.568 mmol)にTFA(4 mL)と水(2 mL)を加え、50℃で5時間撹拌した。反応終了後、溶液を濃縮すると相当するアミノメチル体(5)のTFA塩が得られるので、これをDOWEX50WX-8(ダウケミカル社製)にてイオン交換カラム(1.3N アンモニア水で溶出)することで塩フリーとし、さらに濃縮乾固したのちに1M塩酸を加えて濃縮すると塩酸塩が定量的に単離される。
【0051】
実施例2;
(2S,3S,4R)-2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン二塩酸塩(10)の合成
公知(非特許文献:Chem. Pharm. Bull., 1987, 35, 3996-3999.)の方法により得られる化合物(6)(1.7g, 5.53 mmol)を塩化メチレン(30 mL)に溶かし、これに0℃にてピリジン(5 mL)と塩化メタンスルフォニル(0.86 mL, 11.1 mmol)を加え、その後室温にて10時間撹拌した。反応終了後、溶液を飽和重曹水にあけ、塩化メチレンで抽出した。有機層を乾燥、濃縮すると相当するメシル体(7)が得られた。このメシル体(7)は精製することなく次のアジド化に用いた。粗メシル体(7)(5.53 mmol相当)をDMSO(20 mL)に溶かし、これにナトリウムアジド(1.1 g, 16.6 mmol)を加え、50℃〜60℃にて5時間撹拌した。反応終了後、溶液を飽和塩化ナトリウム溶液 (ca. 400 ml)にあけ酢酸エチルで抽出した。有機層を乾燥、濃縮すると相当するアジド体(7)が含まれたシラップ状物質が得られるので、これをシリカゲルカラム(n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1〜3:1にて溶出)で精製して、収率84%で純粋なアジド体(7)を得た。純粋なアジド体(7)(1.68 g, 5.1 mmol)をエタノール(20 mL)に溶かし、これにLindlar触媒(5% on 炭酸カルシウム)(ca. 1.35 g, 25 w/w%)を加え、水素ガス雰囲気下室温で31時間撹拌した。反応終了を確認し、反応液をセライトろ過ののち濃縮すると、アミノメチル体(9)が収率96%で得られた。アミノメチル体(9)(100 mg, 0.581 mmol)にTFA(4 mL)と水(2 mL)を加え、50℃で5時間撹拌した。反応終了後、溶液を濃縮すると相当するアミノメチル体(5)のTFA塩が得られるので、これをDOWEX50WX-8(ダウケミカル社製)にてイオン交換カラム(1.3N アンモニア水で溶出)することで塩フリーとし、さらに濃縮乾固したのちに1M塩酸を加えて濃縮すると塩酸塩が定量的に単離される。
【0052】
実施例3;
(2R,3R,4S)-2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン二塩酸塩(13)の合成
公知(非特許文献:Bioorg. Med. Chem. Lett., 2001, 11, 2489-2493.)の方法により得られる化合物(11)(407 mg, 1.37 mmol)をエタノール(8 mL)に溶かし、これに水酸化パラジウム(20% on 活性炭)(ca. 100 mg, 5 w/w%)を加え、水素ガス雰囲気下室温で3時間撹拌した。反応終了を確認し、反応液をセライトろ過ののち濃縮すると、N-Bocアミノメチル体(12)が定量的に得られた。N-Bocアミノメチル体(12)(375 mg, 1.37 mmol)にTFA(4.5 mL)と水(1.5 mL)を加え、50℃で18時間撹拌した。反応終了後、溶液を濃縮すると相当するアミノメチル体(13)のTFA塩が得られるので、これをDOWEX50WX-8(ダウケミカル社製)にてイオン交換カラム(1.3N アンモニア水で溶出)することで塩フリーとし、さらに濃縮乾固したのちに1M塩酸を加えて濃縮すると塩酸塩が定量的に単離される。
【0053】
実施例4;
(2S,3R,4S)-2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン二塩酸塩(18) の合成
公知(非特許文献:Bioorg. Med. Chem. Lett., 1996, 6, 643-646.)の方法により得られる化合物(14)(538 mg, 1.87 mmol)をテトラヒドロフラン(10 mL)に溶かし、0℃にて水素化リチウムアルミニウム(212 mg, 5.61 mmol)を加え2時間撹拌した。原料消失を確認後、少量の水を加えて反応を停止した。この溶液に、室温にてBoc2O(0.82 g, 3.74 mmol)を加え30分間撹拌した。反応の終了を確認後、不溶物をセライトろ過し、エバポレーターにて大部分のTHFを留去した。残渣を1M水酸化ナトリウム溶液にあけ、塩化メチレンで抽出した。有機層を乾燥、濃縮すると相当するN-Boc体(16)が含まれたシラップ状物質が得られるので、これをシリカゲルカラム(n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1〜3:1にて溶出)で精製して、収率79%で純粋なN-Boc体(16)を得た。N-Boc体(16)(300 mg, 0.828 mmol)をエタノール(6 mL)に溶かし、これに水酸化パラジウム(20% on 活性炭)(ca. 50 mg, 10 w/w %)を加え、水素ガス雰囲気下室温で18時間撹拌した。反応終了を確認し、反応液をセライトろ過ののち濃縮すると、N-Bocアミノメチル体(17)が定量的に得られた。N-Bocアミノメチル体(17)(267 mg, 0.980 mmol)にTFA(2 mL) と水(1 mL)を加え、50℃で3時間撹拌した。反応終了後、溶液を濃縮すると相当するアミノメチル体(13)のTFA塩が得られるので、これをDOWEX50WX-8(ダウケミカル社製)にてイオン交換カラム(1.3N アンモニア水で溶出)することで塩フリーとし、さらに濃縮乾固したのちに1M塩酸を加えて濃縮すると塩酸塩が定量的に単離される。
【0054】
化合物(2)の物性値
分子式:C13H21NO5
分子量:271.31
1H NMR (CDCl3) δ 9.50-9.40 (m,1H, H-2'), 4.99 (t, 1H, H-3 or 4, J = 6.2 Hz), 4.83 (t, 1H, H-3 or 4, J = 5.0 Hz), 4.15-4.01 (m, 1H, H-2 or 5), 3.85-3.52 (m, 2H, H-2 or 5), 1.52, 1.48, 1.46, 1.30 (each s, 15H, Boc and acetonide).(構造中のBoc基に起因するロータマー混合物として観測された)
【0055】
化合物(3)の物性値
分子式:C20H30N2O4
分子量:362.46
1H NMR (CDCl3) δ 7.36-7.22 (m,5H, Ph), 4.79 (t, 1H, H-3, J = 6.6 Hz), 4.71 (dt, 1H, H-4, J = 4.0, 6.6 Hz), 4.06 (dt, 1H, H-2, J = 6.6, 7.0 Hz), 3.83 (s, 2H, benzyl), 3.82-3.72 (m, 1H, H-5a), 3.33 (dd, 1H, H-5b, J = 3.7, 12.5 Hz), 2.97-2.87 (m, 2H, H-2'), 2.62 (br s, 1H, NH), 1.45, 1.41, 1.33 (each s, 15H, Boc and acetonide).(構造中のBoc基に起因するロータマー混合物として観測された)
13C NMR (CDCl3) δ 154.24, 140.45, 128.23, 127.95, 126.70, 112.63, 80.07, 79.87, 77.82, 59.21, 53.86, 50.55, 48.79, 28.27, 26.23, 24.92.(構造中のBoc基に起因するロータマー混合物として観測された)
【0056】
化合物(4)の物性値
分子式:C13H24N2O4
分子量:272.34
1H NMR (CDCl3) δ 4.82 (t,1H, H-3, J = 6.6 Hz ), 4.72 (dt, 1H, H-4, J = 4.0, 6.6 Hz), 3.84-3.70 (m, 1H, H-5a), 3.83 (dt, 1H, H-2, J = 5.9, 6.6 Hz), 3.36 (dd, 1H, H-5b, J = 3.7, 12.5 Hz), 3.13-3.02 (m, 1H, H-2'a), 2.99 (dd, 1H, H-2'b, J = 8.1, 12.8 Hz), 1.86 (br s, 2H, NH2), 1.53, 1.45, 1.35 (each s, 15H, Boc and acetonide).(構造中のBoc基に起因するロータマー混合物として観測された)
【0057】
(2R,3S,4R)2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン(5)の物性値
分子式:C5H14Cl2N2O2
分子量:205.08
1H NMR (D2O, 1,4-dioxane = 3.55 ppm) δ 4.35 (ddd,1H, H-4, J = 4.0, 6.2, 5.1 Hz), 4.32 (dd, 1H, H-3, J = 4.0, 6.2 Hz), 3.86 (dt, 1H, H-2, J = 6.6, 6.2 Hz), 3.44 (dd, 1H, H-2'a, J = 6.6, 13.9 Hz), 3.39 (dd, 1H, H-5a, J = 6.2, 11.9 Hz), 3.29 (dd, 1H, H-2'b, J = 6.2, 13.9 Hz), 3.13( dd, 1H, H-5b, J = 5.1, 11.9 Hz).
13C NMR (D2O, 1,4-dioxane = 66.5 ppm) δ 70.13, 69.84, 57.44, 48.44, 36.85.
【0058】
化合物(7)の物性値
分子式:C17H23NO7S
分子量:385.43
1H NMR (CDCl3) δ 7.36-7.26 (m, 5H, Ph), 5.24-5.11 (m, 2H, benzyl), 4.79 (br t,1H, H-3 or 4, J = 5.5 Hz ), 4.71 (t, 1H, H-3 or 4, J = 6.2 Hz), 4.51 (dd, 0.5H, J = 3.7, 9.9 Hz), 4.34-4.20 (m, 2.5H), 3.93 (d, 0.5H, H-5a, J = 12.8 Hz), 3.84 (d, 0.5H, H-5a, J = 12.5 Hz), 3.59 (dd, 0.5H, H-5b, J = 5.5, 12.5 Hz), 3.54 (dd, 0.5H, H-5b, J = 5.5, 12.8 Hz), 2.91, 2.86 (each s, 3H, OMs), 1.45, 1.44, 1.32 (each s, 6H, acetonide).(構造中のCbz基に起因するロータマー混合物として観測された)
【0059】
化合物(8)の物性値
分子式:C16H20N4O4
分子量:332.35
1H NMR (CDCl3) δ 7.38-7.28 (m, 5H, Ph), 5.21, 5.14 (each d, 1H, benzyl, J = 12.5 Hz ), 5.16 (s, 1H, benzyl), 4.77 (t,1H, H-3 or 4, J = 5.5 Hz), 4.58 (t, 1H, H-3 or 4, J = 5.9 Hz), 4.20, 4.14 (each br s, 1H, H-2), 3.92, 3.82 (each d, 1H, H-2' or 5, J = 12.9 Hz), 3.78 (dd, 0.5H, H-2' or 5, J = 4.4, 12.9 Hz), 3.62, 3.58 (each dd, 1H, H-2' or 5, J = 5.1, 12.9 Hz), 3.52-3.41 (m, 1.5H, H-2' or 5), 1.44, 1.43, 1.31 (each s, 6H, acetonide).(構造中のCbz基に起因するロータマー混合物として観測された)
【0060】
(2S,3S,4R)2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン(10)の物性値
分子式:C5H14Cl2N2O2
分子量:205.08
1H NMR (D2O, 1,4-dioxane = 3.55 ppm) δ 4.21 (dt,1H, H-4, J = 4.0, 1.1 Hz), 4.07 (dd, 1H, H-3, J = 4.0, 9.5 Hz), 3.62 (ddd, 1H, H-2, J = 5.9, 7.3, 9.5 Hz), 3.45 (dd, 1H, H-5a, J = 4.0, 13.2 Hz), 3.39 (dd, 1H, H-2'a, J = 7.3, 13.9 Hz), 3.34 (dd, 1H, H-2'b, J = 5.9, 13.9 Hz), 3.26( dd, 1H, H-5b, J = 1.1, 13.2 Hz).
13C NMR (D2O, 1,4-dioxane = 66.5 ppm) δ 73.70, 68.51, 56.83, 50.49, 38.80.
【0061】
化合物(12)の物性値
分子式:C13H24N2O4
分子量:272.34
1H NMR (CDCl3) δ 4.72 (br s,1H, H-3 or 4), 4.56 (d, 1H, H-3 or 4, J = 5.9 Hz), 4.07, 3.94 (each br s, 1H, H-2), 3.93, 3.81 (each br d, 1H, H-2' or 5, J = 12.8 Hz), 3.38 (dd, 1H, H-2' or 5, J = 5.2, 12.8 Hz), 2.85-2.64 (m, 2H, H-2' or 5), 1.47, 1.45, 1.32 (each s, 6H, Boc and acetonide).(構造中のBoc基に起因するロータマー混合物として観測された)
【0062】
(2R,3R,4S)2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン(13)の物性値
分子式:C5H14Cl2N2O2
分子量:205.08
1H NMR (D2O, 1,4-dioxane = 3.55 ppm) δ 4.21 (dt,1H, H-4, J = 4.0, 1.1 Hz), 4.07 (dd, 1H, H-3, J = 4.0, 9.5 Hz), 3.62 (ddd, 1H, H-2, J = 5.9, 7.3, 9.5 Hz), 3.45 (dd, 1H, H-5a, J = 4.0, 13.2 Hz), 3.39 (dd, 1H, H-2'a, J = 7.3, 13.9 Hz), 3.34 (dd, 1H, H-2'b, J = 5.9, 13.9 Hz), 3.26(dd, 1H, H-5b, J = 1.1, 13.2 Hz). (化合物(10)と一致)
13C NMR (D2O, 1,4-dioxane = 66.5 ppm) δ 73.70, 68.51, 56.83, 50.49, 38.80. (化合物(10)と一致)
【0063】
化合物(16)の物性値
分子式:C20H30N2O4
分子量:362.46
1H NMR (CDCl3) δ 7.36-7.22 (m, 5H, Ph), 5.21 (br s, 1H, NH), 4.62 (dd, 1H, H-3, J = 4.6, 6.6 Hz), 4.57 (dd,1H, H-4, J = 4.6, 6.2 Hz), 4.09, 3.14 (each d, 2H, benzyl, J = 13.6 Hz), 3.60 (ddd, 1H, H-2'a, J = 3.3, 5.9, 13.9 Hz), 3.43 (ddd, 1H, H-2'b, J = 6.2, 7.7, 13.9 Hz), 3.05 (d, 1H, H-5a, J = 11.2 Hz), 2.39 (m, 1H, H-2), 2.06 (dd, 1H, H-5b, J = 4.6, 11.2 Hz), 1.53, 1.31 (each s, 6H, acetonide), 1.41 (s, 9H, Boc).
13C NMR (CDCl3) δ 156.16, 138.20, 128.64, 128.14, 126.83, 111.32, 81.40, 78.90, 77.86, 65.74, 58.92, 56.68, 38.29, 28.41, 26.08, 25.24.
【0064】
化合物(17)の物性値
分子式:C13H24N2O4
分子量:272.34
1H NMR (CDCl3) δ 5.50 (br s, 1H, NH), 4.67 (t, 1H, H-4, J = 4.0 Hz), 4.55 (t,1H, H-3, J = 4.6 Hz), 3.47-3.29 (m, 2H, H-2'), 3.09 (d, 1H, H-5a, J = 13.2 Hz), 2.83 (br s, 1H, H-2), 2.63 (dd, 1H, H-5b, J = 3.3, 13.2 Hz), 1.45, 1.30 (each s, 6H, acetonide), 1.44 (s, 9H, Boc).
13C NMR (CDCl3) δ 155.86, 110.49, 81.63, 81.18, 78.76, 62.69, 52.55, 39.43, 28.14, 25.47, 23.59.
【0065】
(2S,3R,4S)2-アミノメチル-3,4-ジヒドロキシピロリジン(18)の物性値
分子式:C5H14Cl2N2O2
分子量:205.08
1H NMR (D2O, 1,4-dioxane = 3.55 ppm) δ 4.35 (ddd,1H, H-4, J = 4.0, 6.2, 5.1 Hz), 4.32 (dd, 1H, H-3, J = 4.0, 6.2 Hz), 3.86 (dt, 1H, H-2, J = 6.6, 6.2 Hz), 3.44 (dd, 1H, H-2'a, J = 6.6, 13.9 Hz), 3.39 (dd, 1H, H-5a, J = 6.2, 11.9 Hz), 3.29 (dd, 1H, H-2'b, J = 6.2, 13.9 Hz), 3.13( dd, 1H, H-5b, J = 5.1, 11.9 Hz). (化合物(5)と一致)
13C NMR (D2O, 1,4-dioxane = 66.5 ppm) δ 70.13, 69.84, 57.44, 48.44, 36.85. (化合物(5)と一致)
【0066】
4種のアミノメチル体とグリコシダーゼ阻害活性;
市販されている一般的なグリコシダーゼに対する阻害実験を以下のように行なった。合成した各種ピロリジン化合物及び基質(下記表1参照)それぞれ約5mMに調整した溶液に、各酵素(濃度については下記表1参照)を添加して、生成するp-ニトロフェノールを400nmにおける吸光度から定量することにより基質の分解率を求め、各化合物の酵素反応阻害率を決定した。結果を表2に示す。
【0067】
表1





【0068】
表2 4種のアミノメチルピロリジン化合物の阻害活性

NI=阻害活性なし
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のピロリジン化合物を含む組成物は酵素阻害剤として使用することができ、酵素に関連した疾患に対する治療剤、医学的実験ツール等として様々な利用法がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)を有するピロリジン化合物。

(I)
式中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)である。
【請求項2】
下記一般式(I)を有するピロリジン化合物を活性化合物として含む、酵素阻害剤。

(I)
式中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4S)及び(3S,4R)の組み合わせから選択される。ただし、2位炭素の立体配置がRである場合には、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4S)ではない。
【請求項3】
下記一般式(II)を有する化合物。


(II)
式中、RはCH2OSO2CH3であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3R,4S)及び(3S,4R)の組合せから選択され、R1及びR2は、アセトナイド、ベンジリデン、カーボナート、あるいはそれぞれ独立に、水素、tert-ブチルジメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、(トリフェニルメチル)ジメチルシリル、及びtert-ブチルジフェニルシリルからなる群より選択され、R3は水素またはアミノ保護基である。ただし、R1とR2は同じであっても異なっていてもよく、及びR1、R2及びR3は同時に水素を表さない。
【請求項4】
一般式(III)で表される化合物のヒドロキシ保護基及び/又はアミノ保護基を脱保護し、一般式(I)で表されるピロリジン化合物を製造する方法。

(III) (I)
式(I)中、2位炭素の立体配置はS体またはR体であり、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)である。
式(III)中、3位炭素及び4位炭素の立体配置は(3S,4R)であり、R1及びR2は、アセトナイド、ベンジリデン、カーボナート、あるいはそれぞれ独立に、水素、tert-ブチルジメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、(トリフェニルメチル)ジメチルシリル、及びtert-ブチルジフェニルシリルからなる群より選択され、R3及びR4はそれぞれ独立に水素またはアミノ保護基である。ただし、R1とR2は同じであっても異なっていてもよく、及びR1、R2及びR3は同時に水素を表さない。

【公開番号】特開2006−225343(P2006−225343A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42535(P2005−42535)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:第48回有機合成化学協会関東支部シンポジウム(新潟シンポジウム)実行委員会 刊行物名:第48回有機合成化学協会関東支部シンポジウム(新潟シンポジウム)講演要旨集 発行年月日:平成16年11月20日
【出願人】(504448645)
【出願人】(504448656)
【出願人】(500433203)株式会社浮間化学研究所 (3)
【Fターム(参考)】