説明

2−アラキドノイルグリセロールの定量方法

【目的】生体試料中の2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)を実質的に1-AGに変化させることなく2-AGを測定して定量する方法を提供すること。
【解決手段】生体試料中の2-AGを、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンまたはアクリロニトリルなどの非プロトン性溶媒で精製することによって、2-AGを実質的に1-AGに変化させることなく2-AGを直接定量することができる。生体試料中の2-AGを直接定量することができることから、高脂肪食摂取によって段階的に上昇する脳内2-AG量を測定することにより、早期に脂肪嗜好性を発見できる。これにより、肥満を予防する薬や食品の開発に繋げることができると期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体試料中の2-アラキドノイルグリセロールの定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2-アラキドノイルグリセロール(以下、「2-AG」ともいう)は、カンナビノイド受容体の内在性リガンドであって(非特許文献1)、神経伝達や神経炎症を含む基本的生理過程を調整する脂質メディエーターである(非特許文献2)。また、2-AGは、高脂肪食嗜好性に重要な生体内物質であり、肥満などの生活習慣病の発生や拒食症などへの関わりが注目されている。
生体試料中の2-AGを測定する従来の方法は、その2−AGを、メタノールを用いて精製する方法が報告されている(非特許文献2)。しかしながら、この文献記載の精製条件では、2-AGのほとんどが1-AG(1-アラキドノイルグリセロール)に変化してしまっていることから、1-AGと2-AGとを含んだ測定値から、生体試料中に含まれる2−AG含量を算出する必要があり、2-AGを直接定量することができなかった。また、従来の方法では、ほとんどの2−AGが1−AGに変化してしまうことから、生体試料中に残存する未変化体の2−AGの量が極めて少なく、ガスクロマトグラフィーなどで直接定量することができなかった。
【0003】
さらに、少量の血漿試料中の2-AGの薬物動態評価のためのLS-MS法が開発された(非特許文献3)。この方法は、血漿試料を0.2% 酢酸含有アセトニトリルによって溶媒抽出し、遠心分離した上澄液から溶媒を除去して得られた残渣にアセトニトリルを添加した試料を用いてLS−MSを行なうことからなっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】杉浦隆行、生化学 第79巻第7号pp. 655-668, 2007
【非特許文献2】Muccioli, G. G., etc., Anal. Biochem., 373 (2008) 220-228
【非特許文献3】Paudel, K. S., etc., Chromatographia, 71 (2010) 65-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記に記載した背景技術に鑑み、2-AGを直接定量できる測定方法について鋭意研究した結果、生体試料をアセトンで精製することにより2-AGを直接定量できることを見出して、この発明を完成した。
【0006】
そこで、この発明の目的は、生体試料中の2−AGを、沸点が一般には80℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下の非プロトン溶媒で処理することにより2−AGを測定することからなる2−AGの定量方法を提供することである。
【0007】
この発明の目的の好ましい態様は、該非プロトン溶媒がアセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンまたはアクリロニトリルであることからなる2−AGの定量方法を提供することである。
【0008】
この発明の目的のまた別の好ましい態様は、該測定がGC-MS法で行われることからなる2−AGの定量方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明は、生体試料中の2−AGを、沸点が一般には80℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下の非プロトン溶媒で処理することにより2−AGを直接定量することからなる2−AGの定量方法を提供する。
【0010】
この発明は、その好ましい態様として、該非プロトン溶媒がアセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンまたはアクリロニトリルあることからなる2−AGの定量方法を提供する。
【0011】
この発明は、その好ましい態様として、該測定がGC-MS法で行われることからなる2−AGの定量方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る2-AGの定量方法は、2-AGを直接定量できるという大きな効果がある。従来の測定方法では、生体試料中の2-AGをメタノールで処理していたので、2-AGのほとんどが1-AGに変化してしまっていたことから、2-AGを直接測定することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】生体試料を用いた2-AGの定量を示すGC-MS図(実施例1)。
【図2】標準品を用いた2-AGの定量を示すGC-MS図(A:比較例1、B:実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)の定量方法は、生体試料中の2−AGを一定の沸点を持つ非ブロトン性溶媒で処理して、ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC-MS)法で測定することによって、生体試料中の2−AGを直接定量することからなる。
【0015】
この発明で使用される生体試料としては、特に限定されるものではなく、例えば、脳、心臓、肺、脾臓等の臓器などの組織、血液などが挙げられる。
【0016】
この発明において使用できる非プロトン性溶媒としては、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンまたはアクリロニトリルなどが挙げられるが、アセトンがより好ましい。
【0017】
この発明においては、まず、生体試料は、例えば、窒素存在下で乾固した後、非プロトン性溶媒で溶解し、固相に吸着させた後、2-AGを非プロトン性溶媒で固相抽出する。このようにして固相抽出された、2-AGはGC-MS法などの常法による測定手法で測定することにより定量することができる。
【0018】
[精製方法]
本発明は、生体試料を、沸点が80℃以下の非プロトン性溶媒で処理して2-アラキドノイルグリセロールを抽出することを特徴とする、2-アラキドノイルグリセロールの精製方法を提供する。
【0019】
本発明の方法において、2-アラキドノイルグリセロールは、生体試料を非プロトン性溶媒で処理して得られる処理物から非プロトン性溶媒を除去することにより抽出することができる。前記生体試料は、非プロトン性溶媒で処理する前に、窒素等の適切な気体の存在下で乾固しておいてもよい。あるいは、得られた処理物を固相に吸着させ、当該固相から2-AGを非プロトン性溶媒で固相溶出させることにより、2-AGを抽出することができる。固相の例としては、市販の固相抽出カートリッジ(Sea Pack社製)等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
マウス脳を摘出した後、クロロホルム/メタノール/50 mMトリスバッファー(pH = 8.0)を用いて、脂質を抽出し、1,500 rpm で5分間遠心分離した。下層(クロロホルム層)を集めて、窒素存在下で乾固し、アセトンに溶解した。これに精製水を添加した後、固相抽出カートリッジ(Sep Pack)に吸着させた。その後、20% アセトン水溶液で溶出し、ジエチルエーテルで洗い流すことで生体試料中から2-AGを精製した。この精製した2-AGにメチルヘネイコサノエート(IS)を添加して、得られた溶液を窒素存在下で乾固し、TMS化試薬を添加し、窒素存在下で再度乾固した。これをアセトニトリルに溶解して得られた溶液をGC-MSで測定した。その結果を図1に示す。この結果から、生体試料中の2-AGが1-AGに変化されることなく測定されたことが確認された。
【0021】
[比較例1]
標準品を用いて、文献記載の方法に従ってメタノール精製を行ってGC-MSで測定した結果を図2Aに示す。
【0022】
[実施例2]
比較例1で用いた標準品を用いて、実施例1と同様にして、アセトン精製を行ってGC-MSで測定した結果を図2Bに示す。
【0023】
比較例1と実施例2の結果から、文献記載の方法に従ってメタノール精製を行ったところ、2-AGが1-AGに変化していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明に係る2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の定量方法は、生体試料中の2-AGを直接定量することができることから、高脂肪食摂取によって段階的に上昇する脳内2-AG量を測定することにより、早期に脂肪嗜好性を発見できる。これにより、肥満を予防する薬や食品の開発に繋げることができると期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の2−アラキドノイルグリセロールを、沸点が一般には80℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下の非プロトン性溶媒で処理することにより2-アラキドノイルグリセロールを測定することにより、2-アラキドノイルグリセロールを定量することを特徴とする2-アラキドノイルグリセロールの定量方法。
【請求項2】
請求項1に記載の2-アラキドノイルグリセロールの定量方法であって、該非プロトン性溶媒がアセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンまたはアクリロニトリルであることを特徴とする2-アラキドノイルグリセロールの定量方法
【請求項3】
請求項1または2に記載の2-アラキドノイルグリセロールの定量方法であって、該測定がGC-MS法で行わせることを特徴とする2-アラキドノイルグリセロールの定量方法。
【請求項4】
生体試料を、沸点が80℃以下の非プロトン性溶媒で処理して2-アラキドノイルグリセロールを抽出することを特徴とする、2-アラキドノイルグリセロールの精製方法。
【請求項5】
請求項4に記載の2-アラキドノイルグリセロールの精製方法であって、前記非プロトン性溶媒がアセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンまたはアクリロニトリルであることを特徴とする、2-アラキドノイルグリセロールの精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−88146(P2012−88146A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234486(P2010−234486)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】