説明

2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンの合成

3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンの製造方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンの合成方法に関する。2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンは、多種の神経疾患の治療が可能なCRFレセプターモジュレータとして有用な置換アリールピラジ ンの合成における中間体である。
【背景技術】
【0002】
WO01/60806には、2−アルキルグリシンから出発する文献記載の知られた方法による2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンの合成が開示されている(Chemical and Pharmaceutical Bulletin of Japan 1979, 27, 2027)。この方法ではPOCl3およびPCl5の混合物を使用し、密閉管中140℃で加熱して38%の収率が得られる。し
たがって、2−ハロ−3,6−ジアルキルピラジンを高収率で合成することが必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明によれば、2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンが後述のスキームIによる方法で高収率に合成され得ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1工程においてアミノ酸またはアミノ酸エステルを縮合して下記の式I
【化1】

で表わされる3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンを得る。次いで、この3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンをオキシ塩化リンと反応させて式II
【化2】

で表わされる2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンを得る。
【0005】
意外なことに、第1工程の後に、エチレングリコールの初期量に3〜8容量%の水を加えると3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンの結晶化が改善され、その生成物の回収が高められることが見出された。さらに、塩素化工程において、3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンのモル当り1〜2モルのMe4NClを加えると、望まし
くない不純物として製造される2,5−ジクロロ−3,6−ジアルキルピラジンの量が低下することも見出された。さらに、塩素化工程の温度を下げると溶媒の塩素化生成物のレベルを低下させることが発見された。この方法はスキームIに説明されるとおりである。
【0006】
【化3】

【0007】
スキームIにおいてR1はC1−C6アルキル基であり、R2はH、またはC1−C6アルキル基であり、そしてMeはメチル基である。
【0008】
第1工程の反応、すなわち、アミノ酸またはアミノ酸エステルを縮合して3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンを得る反応は、大気圧で、エチレングリコールの還流温度(約198℃)において実施される。この第1工程の反応中、アミノ酸またはアミノ酸エステルのいずれかが縮合されることにより水またはアルコールが生成される。製造される水またはアルコールは反応混合物中に保持される。該反応はこれらの条件下で十分進行するが、3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンが、ろ過の困難なスラリーを形成する傾向がある。したがって、反応の完了後、その反応混合物を120℃〜140℃の温度に冷却させるのが好ましい。その温度でエチレングリコールの量を基準にして3〜8容量%の水を加える。反応混合物を130℃〜135℃の温度にすると良好な結果が得られる。また、エチレングリコールの量を基準にして5容量%の水のレベルで水を加えると、良好な結果が得られる。次いでこの反応混合物を室温(18〜25℃)に冷却させる。この水の添加によって、より容易にろ過され得るスラリーが形成されることになる。
【0009】
前記3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンは、適当な溶媒中でテトラメチルアンモニウムクロリド(Me4NCl)の存在下においてPOCl3とさらに反応させることができる。3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンのモル当り1〜2モルのテトラメチルアンモニウムクロリドを使用する。このMe4NClは、前記のジクロロ−ピ
ラジン不純物の生成を非常に減少させるという点において該反応で重要な役割を有する。このテトラメチルアンモニウムクロリドの存在は、製造される2,5−ジクロロピラジンの量を最終生成物の5%未満に減少させる。
【0010】
第2工程の溶媒は、約75℃〜115℃で沸騰する不活性有機溶媒からなる群より選択することができる。これらの不活性溶媒には炭化水素、塩素化炭化水素およびエーテル類がある。このような溶媒の例としてはへプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、ジクロロプロパン異性体類、プロピルエーテルおよびジオキサンを挙げることができる。
【0011】
上記ジオキサンのような幾分か不活性の溶媒でさえ、いくらかの塩素化を受ける。ジオキサンを溶媒として選択する場合には、この副反応がジクロロエチルエーテル(DCEE)を製造する傾向がある。炭化水素または塩素化炭化水素の溶媒を選択する場合には、この副反応は起こりにくい。
【0012】
3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンの2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンへの変換が完了した後に、2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンの高収率を確保するためにその反応混合物を適当にクエンチすることが重要である。生成物の2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンは酸性条件の下では幾分か不安定である。
【0013】
該反応混合物を水中でクエンチするならば、過剰のPOCl3の加水分解が熱、並びに両方とも強酸であるHClおよびH3PO4を生成する。この熱酸溶液は2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンの加水分解を引き起こすことができ、そしてそれにより収率の損失が生じることになる。したがって、この反応混合物を塩基性水溶液中でクエンチすることが好ましい。クエンチのための塩基性水溶液に適当な塩基の例としてはLiOH、LiHCO3、Li2CO3、Li3PO4、NaOH、NaHCO3、Na2CO3、Na3PO4、KOH、KHCO3、K2CO3、K3PO4、Na+、K+、Mg(OH)2、Mg(HCO32、MgCO3、Mg3(PO42、Ca(OH)2、Ca(HCO32、CaCO3およびCa3(PO42を挙げることができる。クエンチ用のより好ましい塩基性水溶液は10〜15%NaOHである。
【実施例1】
【0014】
窒素下、電気加熱マントル、オーバーヘッド攪拌機、2個のフリードリッヒ型還流冷却器を具備した22Lの5口丸底フラスコに2−アミノ酪酸1.5kg、次いでエチレング
リコール8Lを仕込んだ。オーバーヘッド攪拌機を使用するために、混合物を十分懸濁させるまで手で振とうした。この懸濁液に2−アミノ酪酸1.0kg、次いでエチレングリ
コール2Lを加えた(より強力な攪拌機では1回の添加が可能である)。混合物を170〜180℃に加熱し、そして6時間攪拌した。反応混合物を130〜135℃に冷却し、水500mLを15分かけて加え、そして得られた混合物を12時間かけて20〜30℃に冷却した。3,6−ジエチル−2,5−ピペラジンジオンスラリーをろ過し、そして反応容器を冷エタノール500mLですすいだ。生成物ケーキを1×2L、1×3Lの冷水、および1×3Lの冷エタノールですすいだ。その物質を、130℃の真空オーブン中で約4.5時間乾燥して恒量にした。
【0015】
収量は、白色の結晶性固形物としての3,6−ジエチル−2,5−ピペラジンジオン2.1kgであった。これは、理論収率の104%であり、その物質が不純物約4%を含有したことを示している。
1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ0.8329(q,J=7Hz,6H),1.6941(h,J=7Hz,4H),3.7866(d,J=6Hz,2H),8.0687(br s,2H);
【実施例2】
【0016】
電気加熱マントル、オーバーヘッド攪拌機、2個の実験室用ガス洗浄器を具備した22Lの5口丸底フラスコに3,6−ジエチル−2,5−ピペラジンジオン900.00G、次いでMe4NCl、753.42g、ジオキサン4.5L、およびPOCl32.4Lを仕
込んだ。反応混合物を窒素下におおった。この反応混合物を65℃に加温した。1時間かけて、この反応混合物を5℃ずつ上昇させながら75℃に加熱した。反応混合物を4時間攪拌し、そして完了の程度を測定するために気液クロマトグラフィー(GLC)によりモニターした。4時間後に中間体5%未満が残留し、その点で反応は完了したとみなした。
【0017】
反応混合物を一夜20℃〜25℃に冷却させた。その反応混合物をそれぞれ約4.3リ
ットルずつの2つのアリコートに分けてクエンチした。各アリコートを、0〜5℃に冷却した12%NaOH7.3L中で2時間かけてクエンチした。温度は60℃未満で維持し
た。反応混合物の12%NaOH水溶液への添加が終了した後に、その溶液を1時間攪拌した。得られたスラリーをセライトのパッドを介してろ過し、2:1のEtOAc:Hex(酢酸エチル:ヘキサン)の4.5Lですすいだ。ろ液は有機相および水性相を有した
。これらの相を分離した。有機相を1NHCl2.5Lで3回洗浄した。この酸洗浄の後
に有機相を1NNaOH2.5Lで2回洗浄した。
【0018】
各アルコートの有機相を回転蒸発器を用いて減圧下で蒸発させて油状物を製造した。これら2つのアリコートからの油状物を合一しそしてシリカゲルのパッド2kg上に直接注いだ。このパッドを10:90のEtOAc(酢酸エチル):混合オクタン類、すなわちオクタン異性体の混合物の4.4Lですすぎ、そしてその有機溶液を回転蒸発器を用いて
減圧下で蒸発させて油状物を製造した。この収量は黄色油状物808gであり、収率88%であった。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ1.300(t,J=6Hz,6H),2.791(q,J=8Hz,2H),2.926(q,J=7Hz,2H),8.297(s,1H)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコール中に下記の式I
【化1】

(式中、R1はC1−C6アルキル基である)
で表わされる3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンを含有する反応混合物を精製する方法であって、以下の工程:
反応混合物を120℃〜140℃の温度にし;
その反応混合物に、エチレングリコールの量を基準にして3〜8容量%の水を加えて、添加された水を含有する反応混合物を得;
その添加された水を含有する反応混合物を18℃〜25℃の温度に冷却し;そして
その添加された水を含有する反応混合物をろ過して3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンの沈殿を集める、
からなる上記の精製方法。
【請求項2】
反応混合物を130℃〜135℃の温度にする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エチレングリコールの量を基準にして5容量%の水のレベルで、水を反応混合物に加える請求項1に記載の方法。
【請求項4】
下記の式
【化2】

(R1はC1−C6アルキル基であり、R2はH、またはC1−C6アルキル基である)で表わされるアミノ酸をエチレングリコール中に入れ、そしてその反応が終了するまでエチレングリコールを還流させることにより該アミノ酸を縮合するさらに別の工程を含み、それによりエチレングリコール中に3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンを含有する反応混合物を得る請求項1に記載の方法。
【請求項5】
以下の工程:
請求項1に記載の式Iで表わされる3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンを適当な溶媒中、3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンのモル当り1〜2モルのMe4NClの存在下でPOCl3と反応させ;次いで
反応混合物を塩基性水溶液中でクエンチする、
からなる2−クロロ−3,6−ジアルキルピラジンの製造方法。
【請求項6】
塩基性水溶液が、水に溶解した10〜15%NaOHの溶液からなる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程:
式Iで表わされる3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンを適当な溶媒中、3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンのモル当り1〜2モルのMe4NClの存在下でPOCl3と反応させ;次いで
反応混合物を塩基性水溶液中でクエンチしてスラリーを製造する、
からなるさらに別の工程を含む請求項4に記載の方法。
【請求項8】
さらに、以下の工程:
請求項7に記載のスラリーをセライトのパッドを介してろ過し;
セライトパッド上に保持された物質を、2:1の酢酸エチル:ヘキサンの4.5Lですすぎ;
ろ液の有機相を1NHCl2.5Lで3回洗浄し;
その有機相を1NNaOH2.5Lで2回洗浄し;
各アリコートの有機相を減圧下で蒸発させて油状物を製造し;
2つのアリコートからの油状物をシリカゲルのパッド2kg上に注ぎ;
そのパッドを10:90の酢酸エチル:混合オクタンの4.4Lですすぎ;次いで
その有機溶液を減圧下で蒸発させて、式Iの3,6−ジアルキル−2,5−ピペラジンジオンを含有する油状物を製造する、
を含む請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2007−511598(P2007−511598A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540644(P2006−540644)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003702
【国際公開番号】WO2005/049583
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)