説明

2−クロロメチルベンズアルデヒドの製造方法、2−クロロメチルベンズアルデヒド含有組成物及びその保管方法

【課題】産業上有用な2−クロロメチルベンズアルデヒド含有液組成物を高収率で得る製造方法を提供する。
【手段】1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンと、84.5質量%以上の硫酸とを混合する工程(A);及び工程(A)で得られた混合物と、水とを混合する工程(B)を有する2−クロロメチルベンズアルデヒドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−クロロメチルベンズアルデヒドの製造方法、2−クロロメチルベンズアルデヒド含有組成物及びその保管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2−クロロメチルベンズアルデヒド(以下、2CMADと記すことがある)は、医薬および電子材料の中間体として有用である(特許文献1〜3)。しかし、その具体的製法、物性等についての詳しい開示は行われていない。
【0003】
唯一、特許文献1に1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン(以下、TCOXと記すことがある)の加水分解で2CMADを製造できるという記載があるが、その詳細な加水分解条件は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−335737号公報
【特許文献2】特開平6−016685号公報
【特許文献3】特開昭62−051641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは類似化合物の加水分解条件を参考に詳細に検討した結果、上記特許文献1に記載されたスキームに沿ってTCOXを水と反応させても、それだけでは2CMADが収率良く得られず、対応すべき技術課題があることを確認した。また、そのようにして得られた2CMADは室温での安定性が必ずしも十分満足できるものではなく、それを原料とした反応中における安定性も必ずしも十分満足できるものではないことを知った。特許文献1〜3の実施例にある実験室での小スケール、短時間反応では目的物が中程度の収率で得られたとしても、工業的スケールでの大量合成を想定した場合に収率が低下したり、その目的物が保管中に分解したりすれば工業原料として用いることは困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討し、本発明に至った。即ち本発明は、以下の通りである。
【0007】
〔1〕1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンと、84.5質量%以上の硫酸とを混合する工程(A);及び
工程(A)で得られた混合物と、水とを混合する工程(B)
を有することを特徴とする2−クロロメチルベンズアルデヒドの製造方法。
〔2〕前記工程(B)で得られた混合物の有機相を中和する工程を有する〔1〕記載の製造方法。
〔3〕さらに、得られた2−クロロメチルベンズアルデヒドと、重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種とを混合する工程を有する〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕前記重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(BHT)、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン及びフェノチアジンからなる群より選ばれる少なくとも一種である〔3〕記載の製造方法。
〔5〕工程(A)における84.5質量%以上の硫酸が、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン1モルに対して、0.4モル以上の水を含む〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の製造方法。
〔6〕2−クロロメチルベンズアルデヒドと、重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有することを特徴とする組成物。
〔7〕前記重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(BHT)、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン及びフェノチアジンからなる群より選ばれる少なくとも一種である〔6〕記載の組成物。
〔8〕さらに1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンを含有し、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンのモル量[MTCOX]との関係で定まる2−クロロメチルベンズアルデヒドのモル量[M2CMAD]の含有比率([η2CMAD]=[M2CMAD]/([M2CMAD]+[MTCOX]))が95%以上であることを特徴とする〔6〕又は〔7〕記載の組成物。
〔9〕〔6〕〜〔8〕のいずれかの組成物を窒素雰囲気下で保管する組成物の保管方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、2−クロロメチルベンズアルデヒドを、工業的スケールでの実施においても優れた収率で製造することができる。さらに本発明によれば、安定性に優れる2−クロロメチルベンズアルデヒド含有組成物及びその保管方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてその好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
(第1実施態様)
本実施態様における2−クロロメチルベンズアルデヒド(2CMAD)の製造方法は、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン(TCOX)と、84.5質量%以上の硫酸とを混合する工程(A);及び工程(A)で得られた混合物と、水とを混合する工程(B)を有することを特徴とする。工程(A)及び工程(B)を行うことにより、TCOXは高い転化率で2CMADに変換される。以下、TCOXを2CMADに変換する反応を、「加水分解反応」または「加水分解」と記すことがある。
【0010】
工程(A)で用いられる硫酸は、HSOの水溶液であり、その濃度は84.5質量%以上であり、好ましくは96質量%以下である。硫酸濃度はさらに85%質量以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。硫酸の量はTCOX1モルに対して1モル以上であることが好ましく、2モル以上であることがより好ましい。硫酸の量の上限はないが、TCOX1モルに対して4モル以下であることが実際的である。硫酸量が、TCOX1モルに対して1モル以上であると、TCOXと84.5質量%以上の硫酸との反応を完結させるのに時間がかかりすぎず好ましい。
【0011】
工程(A)における反応温度としては、特に限定されるものではないが、15℃以上の温度では反応の速度が十分に維持され好ましい。この反応温度は、生成した2CMADの安定性の点で、25℃以下であることが好ましい。反応時間に特に制約はないが、工業的な生産において現実的な範囲を考慮すれば、15時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、3時間以上であることが実際的である。
【0012】
工程(A)を実施する方法に制限はないが、通常は上記濃度の硫酸中に1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンを滴下する方法により行われる。また、反応初期に誘導期が見られることから、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンの一部を滴下し、TCOXと84.5質量%以上の硫酸との反応が始まるのを確認後、残りの1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンを加える方法を採用することもできる。硫酸濃度が84.5質量%よりも低いと反応が完結しない。原料に用いられる1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンは、例えば、オルトキシレンの光塩素化で製造されたものを蒸留して用いることができる。
【0013】
本実態様においては、工程(A)に用いられる硫酸が、TCOX1モルに対して1モル未満の水を含む場合であっても、後述する工程(B)において、工程(A)で得られた混合物と水とを混合することにより加水分解反応を完結することができる。すなわち、加水分解反応は工程(A)で進むものであっても、工程(B)を経て完結するものであってもよい。工程(A)に用いられる硫酸は、TCOX1モルに対して0.4モル以上の水を含むことが好ましく、0.8モル以上の水を含むことがより好ましく、1モル以上の水を含むことがより一層好ましい。硫酸に含まれる水量の上限は特にないが、TCOX1モルに対して、2モル以下であることが実際的である。
【0014】
工程(A)で得られた混合物は、反応液内で均一に混合した状態で存在しているが、その混合物と水とを混合する工程(B)を行うことにより、2CMADを得ることができ、また、2CMADを含む有機化合物成分を分取して、該有機化合物成分と水及びそこに溶解した成分とを分離することができる。ここで、前記有機化合物成分には、原料化合物である1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン(TCOX)と、生成物である2−クロロメチルベンズアルデヒド(2CMAD)とが共存している場合がある。両有機化合物成分の分離は通常容易ではなく、2CMADが分解しやすい化合物であるため、加熱による精製処理等を行うことは実際的ではない。換言すれば、上記2CMADの生成反応の段階において、高収率で2CMADを取得することがきわめて重要である。
本発明において「水」とは特に断らない限り水および水性媒体(水に可溶な物質を水中に溶解した水溶液)を含む意味に用いる。
【0015】
工程(B)で使用する水の量は硫酸濃度が70質量%以下になるように加えることが、分液を良好に行い、2CMADを単離する点で好ましい。水の使用量の上限はないが、必要以上に用いることは経済性において不利となる。水を加える温度は生成物の安定性を考慮して30℃以下で行うことが好ましいが、水の凝固点を考慮すると5℃以上30℃以下の間でより低い温度がさらに好ましい。硫酸濃度が70質量%以下になり有機層と水層を分液する時の温度は、分液性の点で15℃〜30℃で行うことが好ましい。
【0016】
上述したように、高収率で得た2CMADは、原料化合物であるTCOXが少ないことを意味する。本実施形態によれば2CMADの収率が高いため、引き続く所望の化学製品の合成に、高い濃度の2CMADを提供することができる。本実施形態においては、この2CMAD濃度[η2CMAD]、つまりTCOXのモル量[MTCOX]と2CMADのモル量[M2CMAD]との総量に対する2CMADのモル量[M2CMAD]の比率[η2CMAD]=[M2CMAD]/([M2CMAD]+[MTCOX])を高くすることが好ましい。2CMAD濃度[η2CMAD]を、95%以上とすることが好ましく、98%以上とすることがより好ましい。上限は特にないが、例えば反応時間を延長することを考慮すれば、100%以下として規定することも可能である。このように高い濃度の2CMADを得ることにより、TCOXを少量に抑えた良質の原料とすることができ、後述する安定化によりその利点がより一層発揮される。2CMADの濃度は95%以上であることが好ましく、95〜99%の範囲で安定化されていることがより好ましい。
【0017】
(第2実施態様)
上述のように上記第1実施態様において工程(A)及び工程(B)を行うことで有機相と水相との二層に分離することが好ましい。このとき分液操作を行い、分取した有機相を通常水洗するが、その溶液(有機相)のpHは強酸性を示し長期の保存に耐えないことがある。なぜなら、2−クロロメチルベンズアルデヒドは非常に酸化を受けやすく、酸性条件下ではフタリドに変化しやすいためである。このことが、2−クロロメチルベンズアルデヒドを工業的に大量に扱うことを難しくしていた。本発明者らは、2−クロロメチルベンズアルデヒドと、重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、安定剤と記すことがある)とを混合する工程を行うことにより、2−クロロメチルベンズアルデヒドの安定性を向上させることを見出した。このことにより、通常の製造日程(例えば2日程度)での2−クロロメチルベンズアルデヒドの保管が可能となり、大量に次工程の原料として用いることができるようになった。安定剤の効果は不明である。安定剤としては、たとえば、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(以下、BHTと記すことがある)、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン、フェノチアジン、メタノール、キノパワー(登録商標)、MnCl、CuCl、TEMPOなどを挙げることができるが、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(BHT)、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン及びフェノチアジンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、フェノチアジン、BHTがより好ましく、BHTがさらに好ましい。安定剤の使用量は、2CMADに対して質量基準で50〜500ppm(安定剤/2CMAD)が好ましく、より好ましくは100〜200ppm用いられる。その使用量が50ppmより少ない場合や500ppmよりも多い場合は、2−クロロメチルベンズアルデヒドの安定性が、安定剤と混合していない2CMADの安定性と比べて向上しないことがある。とくに過度に多くの添加はかえって不純物の増加を引き起こすため、その量にならないようにすることが好ましい。
【0018】
2CMADの自己分解反応は空気中の酸素による酸化でフタリドが生成することが観測されている。したがって、窒素雰囲気下で保管、反応することが好ましい。
【0019】
(第3実施態様)
本発明の第3の実施態様である、2CMADを含む混合液を中和して安定化する処理について説明する。具体的には、工程(A)及び工程(B)を経て得られた2CMADを含む混合液と、アルカリ性の水溶液(好ましくはアルカリ緩衝剤を含む水溶液)とを混合することにより中和する操作が挙げられる。このとき、2CMADを含む有機相および水相の混合液のpHを測定しpH6〜8に調整することが好ましい。
このとき水に添加するアルカリの種類に制限はないが、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。リン酸水素二ナトリウムはバッファー効果を持ち、使用量が多少変化してもpHを保つことができる。水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを用いると、2CMADとの混合によりその液をpH6〜8に厳密に管理するには相当な労力を要することがあり、上記のようなバッファー効果のある調整剤を用いることが好ましい。さらには、上記で示した安定剤を加えることで、さらに長期保存性を高めることができる。なお、本発明においてpHとは特に断らない限り実施例で示した方法で測定した値を言う。
【0020】
上述のとおり本発明の好ましい実施態様によれば、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン(TCOX)が室温下で加水分解され、2−クロロメチルベンズアルデヒド(2CMAD)に収率、純度ともに良好に変換される(第1実施態様)。このときに生成する2−クロロメチルベンズアルデヒドの濃度[η2CMAD]の好ましい範囲は先に述べた。さらに上記第2実施態様及び第3実施態様によれば、2−クロロメチルベンズアルデヒドは通常の生産日程(例えば2日程度)での保存中においても分解することなく、次工程の反応に供与することができる。
【0021】
上記の反応において2CMADが高収率で得られない場合、未反応で残るTCOXを分離することは煩雑であり、直接高濃度の2CMADが得られることの工業上の利点は大きい。上述のとおり2CMADは分解性である。そのため、水の添加及び分離という非加熱の穏和な条件による操作を介して、安定化の処理を行う実施態様とすることができる意義は大きい。2CMADを含有する高品質原料組成物の大量生産を実現し、さらには消費エネルギーの低減に資するものである。
【0022】
具体的には、上記第2実施態様及び第3実施態様で示した処理を行わない2−クロロメチルベンズアルデヒドは、高濃度の2CMADを第1実施態様により得たとしても、室温での保存において48時間以内に自己酸化反応で20%程度純度が低下する。このことは、2−クロロメチルベンズアルデヒドを中間原料とする次工程の反応は、時間差なく直ちに実施しなければならないことを意味し、工業生産においてはなはだ不都合なことである。反応現場においての時間調整、トラブルによる中間体の保存を余儀なくされた場合には、さらに純分低下が起こることを示している。その対応として窒素雰囲気下において自己酸化反応を阻止する方法が有効である。しかしながら、工業的スケールで完全に空気を遮断し窒素雰囲気下に保管することは特別な設備対応が必要となり、空気が入る危険性を考慮すべきである。そのように不可避的に空気との接触がある場合にも、上記第2実施態様及び第3実施態様が有効である。本実施態様によれば、2−クロロメチルベンズアルデヒドは室温以下の長期間の保存中においても分解することなく、次工程の反応に供与することができる。
【0023】
上記のようにして得た2−クロロメチルベンズアルデヒド含有組成物は、農薬、医薬、ポルフィリン等の工業材料などの原料として用いることができ、本組成物を用いることで従来法より短工程の製造ルートを実現できる場合がある。本発明によれば上述のように上記液組成物における2CMADを高濃度かつ好ましくは安定化して得ることができるため、上記化学製品を高品質かつ安価に製造することを可能とする。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
<実施例1>
硫酸濃度が1−ジクロロメチル−2―クロロメチルベンゼンの加水分解に及ぼす影響
96質量%硫酸を場合により水で希釈し、下表1に記載の濃度の硫酸を調製した。その中に、1−ジクロロメチル−2―クロロメチルベンゼンを加え15−25℃の温度を保ちながら所定時間攪拌した。その後、0.5質量倍(体積で約0.4倍量)(対TCOX)の水で希釈した。希釈混合液は有機相と水相とに分離しており、この有機相を分取して目的の液組成物を得た。この有機相をなす液組成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果を以下に示す。下表1において、得られる液組成物中の2CMADの含有比率[η2CMAD]は、2CMADの生成量%[%2CMAD]を原料TCOXの残存率%[%TCOX]と2CMADの生成量%[%2CMAD]との和で除した比率([%2CMAD]/([%2CMAD]+[%2CMAD]))として評価することができる。
【0025】
【表1】

TCOX:1−ジクロロメチル−2―クロロメチルベンゼン
2CMAD:2−クロロメチルベンズアルデヒド
【0026】
以上の結果から、本発明によればTCOXを原料として高収率で2CMADを得ることがき、高濃度の2CMAD含有液組成物を得ることができることが分かる(実施例1−1〜1−5参照)。なお、TCOXに対する水の絶対量が加水分解するのに不足していても、硫酸濃度が高い場合には所定の反応時間後に水で希釈した時に直ちに加水分解が進行することを示している(実施例1−1参照)。逆に、水の絶対量が十分であっても硫酸濃度が少なすぎる場合は反応時および後処理時のいずれにおいてもTCOXが加水分解されずに残ってしまうことが分かる(比較例1−1、1−2参照)。
【0027】
<実施例2>2−クロロメチルベンズアルデヒドの合成工程
500mLフラスコに、96%硫酸146.1g(1.43mol)と水9.9g(0.55mol)を仕込み、温度を25℃まで冷却した後、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン115.2g(0.55mol)を加え25℃で5時間撹拌した。得られた混合物に水48.3gを該フラスコ内容物の内温が30℃以下に保たれるよう滴下し、分液処理した。得られた油層を水85.0gで洗浄し分液処理を行うことで、2−クロロメチルベンズアルデヒドの粗製物を83.7g得た。そのpHは約1を示した。該粗製物を高速液体クロマトグラフィー絶対検量線法にて分析したところ、2−クロロメチルベンズアルデヒドの含量は88.7%であった(2CMADの含有比率[η2CMAD]は99%を超えていた。)。このサンプルをAとする。なお、実施例2は2CMADの調製について実施例1−3に相当し、上記はその内容を説明しなおしたものである。
【0028】
収率:87.3%(1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン基準)
GC−MS: m/z118(ベースピーク)、118、154(M),156(M+2)
【0029】
上記サンプルAの調製と同様の方法で2−クロロメチルベンズアルデヒドを合成し、そこに2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(BHTと略す)を100ppm添加した。そのpHは約1であった。このサンプルをBとする。
【0030】
前記サンプルAの調製工程を繰り返し2−クロロメチルベンズアルデヒドを合成し、10%リン酸水素二ナトリウム水溶液83.7gでpH=6〜8に調整し分液処理した後、BHT0.008g(2−クロロメチルベンズアルデヒドの粗製物に対して100ppm)を添加した。このサンプルをCとする。
【0031】
[2−クロロメチルベンズアルデヒドの安定性試験]
サンプルA,B,Cのそれぞれを、酸素の有無,安定剤の有無を変えて20℃で時間経過を観察した。
【0032】
【表2】

2CMAD: 2−クロロメチルベンズアルデヒド
分析値はHPLC全面積%
尚、空気中でBHTを500ppmとしたサンプルの安定性結果は100ppmと変わらなかった。
【0033】
表2の結果より特定の安定剤を用いたもの(サンプルB)は空気保存下でも高い安定性を示し、工業上有用な高純度液組成物であることが分かる。
【0034】
pHの影響を確認するために、BHT100ppmを添加した試料を、窒素雰囲気下保存した。結果を下記表3に示す。
【0035】
【表3】

*含量は2CMADの絶対検量線法で算出
【0036】
上記表3の結果より、pHを中性領域に調製した液組成物は一層その保存安定性が高められていることが分かる。なお、pHは、ニッコー・ハンセン株式会社製pH計EcoScan pH 5を用い室温(約25℃)で測定したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンと、84.5質量%以上の硫酸とを混合する工程(A);及び
工程(A)で得られた混合物と、水とを混合する工程(B)
を有することを特徴とする2−クロロメチルベンズアルデヒドの製造方法。
【請求項2】
前記工程(B)で得られた混合物の有機相を中和する工程を有する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、得られた2−クロロメチルベンズアルデヒドと、重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種とを混合する工程を有する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(BHT)、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン及びフェノチアジンからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
工程(A)における84.5質量%以上の硫酸が、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼン1モルに対して、0.4モル以上の水を含む請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
2−クロロメチルベンズアルデヒドと、重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有することを特徴とする組成物。
【請求項7】
前記重合禁止剤及び酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(BHT)、ハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン及びフェノチアジンからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項6記載の組成物。
【請求項8】
さらに1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンを含有し、1−ジクロロメチル−2−クロロメチルベンゼンのモル量[MTCOX]との関係で定まる2−クロロメチルベンズアルデヒドのモル量[M2CMAD]の含有比率([η2CMAD]=[M2CMAD]/([M2CMAD]+[MTCOX]))が95%以上であることを特徴とする請求項6又は7記載の組成物。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかの組成物を窒素雰囲気下で保管する組成物の保管方法。

【公開番号】特開2013−6807(P2013−6807A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141552(P2011−141552)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(393021967)イハラニッケイ化学工業株式会社 (13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】