説明

2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法及びイオン液体

【課題】 従来よりも安全な2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法を提供し、且つCF基を持つ2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造を可能とし、2−シアノ−1,3−ジケトネートアニオンを構成成分とする新規なイオン液体を提供する。
【解決手段】 本発明は、2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法であって、アセトニトリル及びカルボン酸エステルとアルカリ金属アルコキシドとを反応させ、α−シアノケトンアルカリ金属塩を製造する第一工程と、α−シアノケトンアルカリ金属塩とカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物とを反応させ、2−シアノ−1,3−ジケトンを製造する第二工程と、2−シアノ−1,3−ジケトンとアルカリ金属塩、アルカリ金属、アンモニア、銀塩のいずれかとを反応させる第三工程とから成ることを特徴とする方法、並びに2−シアノ−1,3−ジケトネートアニオンを構成成分とするイオン液体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法及びこれを用いたイオン液体に関する。
【背景技術】
【0002】
2−シアノ−1,3−ジケトネート塩及びその前駆体である2−シアノ−1,3−ジケトンの製造法としては、非特許文献1にシアノ基の導入試薬としてジシアンを用いる製造方法が開示されている。しかし、ジシアンは毒性が極めて高いという問題があった。より安全な製造法として、非特許文献2には1,3−ジケトンとイソシアン酸クロロスルホニルとの反応により製造する方法が開示されている。しかしながら、イソシアン酸クロロスルホニルはジシアンよりは毒性が低いものの、皮膚、眼、粘膜を強く刺激し、炎症や薬傷を起こすことが知られている。また、吸入すると肺などに障害を及ぼす恐れもあり、さらに安全な製造法が求められている。さらに、非特許文献2の製造法ではCF基を持つ1,3−ジケトンでは反応が進行しないことが開示されている。
【0003】
イオン液体は、一般に、イミダゾリニウムなどのカチオンと、Br、Cl、BF、PF、(CFSOなどのアニオンとの組み合わせで構成され、難燃性、不揮発性、高いイオン伝導性、優れた熱安定性を示すため、電池やキャパシタ用の電解液、環境適合性の高い溶媒(グリーン溶媒)などへの応用が広く研究されている。
【0004】
イオン液体の特徴の1つに多様性が挙げられる。イオン液体の構造が多様であればあるほど、用途に最適なイオン液体の選択が可能となる。新しいイオン液体を開発し、様々なイオン液体を供給することは、イオン液体の用途拡大につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inorganic Chemistry,Vol.30,pp1943−1949,1991
【非特許文献2】Polyhedron,Vol.20,pp3113−3117,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも安全な2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法を提供し、且つCF基を持つ2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造を可能とすることを第一の目的とする。さらに、新規なイオン液体を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、本発明者は、鋭意研究して以下の発明がなされた。
本発明は、下記化学式(1)
【0008】
【化1】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、MはLi、Na、K、NH、Agのいずれかを示す。)
で示される2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法であって、アセトニトリルと下記化学式(2)
【0009】
【化2】

(式中、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、Rは、炭素数が6以下のアルキル基を示す。)
で示されるカルボン酸エステルと、下記化学式(3)
【0010】
【化3】

(式中、Rは、炭素数が6以下のアルキル基を示し、M′はLi、Na、又はKを示す。)
で示されるアルカリ金属アルコキシドとを反応させ、下記化学式(4)
【0011】
【化4】

(式中、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、M′はLi、Na、又はKを示す。)
で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩を製造する第一工程と、上記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩と、下記化学式(5)
【0012】
【化5】

(式中、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、XはRCOO基、塩素原子、又は臭素原子を示す。)
で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物とを反応させ、下記化学式(6)
【0013】
【化6】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。)
で示される2−シアノ−1,3−ジケトンを製造する第二工程と、上記化学式(6)で示される2−シアノ−1,3−ジケトンとアルカリ金属塩、アルカリ金属、アンモニア又は銀塩とを反応させる第三工程とから成ることを特徴とする。
また、本発明は、上記化学式(1)で示される2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法であって、アセトニトリルと上記化学式(2)で示されるカルボン酸エステルと、上記化学式(3)で示されるアルカリ金属アルコキシドとを反応させ、上記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩を製造する第一工程と、上記第二工程および上記第三工程に代えて、第一の塩基の存在下、上記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩と上記化学式(5)で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物とを反応させ下記化学式(7)
【0014】
【化7】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、Bは第一の塩基を示す。)
で示される塩を製造する第四工程と、上記化学式(7)で示される塩と上記第一の塩基よりも共役酸のpKaが大きい第二の塩基又はアルカリ金属とを反応させる第五工程から成ることを特徴とする。ここで、上記第一の塩基としてはトリエチルアミンが好ましい。また、上記第二の塩基としては水素化ナトリウムが好ましい。
【0015】
また、本発明は、上記化学式(1)で示される2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法であって、アセトニトリルと上記化学式(2)で示されるカルボン酸エステルと、上記化学式(3)で示されるアルカリ金属アルコキシドとを反応させ、上記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩を製造する第一工程と、上記第二工程および上記第三工程に代えて、LiH、NaH、KHのいずれかの存在下、上記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩と上記化学式(5)で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物とを反応させる第六工程とを有することを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明は、カチオン成分およびアニオン成分からなるイオン液体であって、上記カチオン成分は有機カチオンであり、上記アニオン成分は下記化学式(8)で示される化学構造を含むイオン液体に関する。但し、式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、RとRとの間で環を形成してもよい。
【0017】
【化8】

また、上記化学式(8)中、R、Rは、CH、CHCH、CHCHCH、C(CH、CF、CFCF、CFCFCFのいずれかであることが好ましい。
【0018】
さらに、上記アニオン成分は、下記化学式(9)で示される3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートアニオンであることが好ましい。
【0019】
【化9】

また、上記アニオン成分は、下記化学式(10)で示される3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートアニオンが好ましい。
【0020】
【化10】

さらに、上記カチオン成分は、下記化学式(11)で示される群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。但し、式中、R〜Rは、水素原子、炭素数が20以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示し、R´〜R´10は水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示す。
【0021】
【化11】

また、本発明のイオン液体は、下記化学式(12)で示される構造を有することが好ましい。
【0022】
【化12】

さらに、本発明のイオン液体は、下記化学式(13)で示される構造を有することが好ましい。
【0023】
【化13】

また、本発明のイオン液体は、下記化学式(14)で示される構造を有することが好ましい。
【0024】
【化14】

さらに、本発明のイオン液体は、下記化学式(15)で示される構造を有することが好ましい。
【0025】
【化15】

【発明の効果】
【0026】
本発明の2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法は、シアノ基の導入試薬として毒性の低いアセトニトリルを用いるため、従来よりも安全に製造することができる。また、従来の合成法では困難であったCF基を持つ2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造が可能である。さらに、2−シアノ−1,3−ジケトネート塩を原料として、新規なイオン液体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について更に詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態及び実施例に限定されない。
2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造
本発明の2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法は、中間体となる2−シアノ−1,3−ジケトン(化学式(6))が安定な場合及び不安定な場合と、2−シアノ−1,3−ジケトネートアルカリ金属塩を製造する場合の3つの製造法に分類される。
<製造法1:2−シアノ−1,3−ジケトンが安定な場合>
製造法1は3つの工程から成る。第一工程は下記反応式(1)で示される。
【0028】
【化16】

(式中、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、R、Rは、炭素数が6以下のアルキル基を示す。また、M′はLi、Na、又はKを示す。)
としては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、2−フラニル基、2−チエニル基が好ましい。RとRは同一でも異なっていてもよく、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0029】
前記化学式(3)で示されるアルカリ金属アルコキシド1モルに対し、アセトニトリルは1〜10モル、前記化学式(2)で示されるカルボン酸エステルは1〜2モル用いることが好ましい。
【0030】
第一工程に使用される溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、THF等のエーテル類を用いることができる。また、アセトニトリルを過剰に用いることによって、原料と溶媒とを兼ねることもできる。溶媒は、前記化学式(3)で示されるアルカリ金属アルコキシド1gに対し、1〜10mL用いることが好ましい。
【0031】
第一工程の反応温度としては0℃〜100℃が好ましい。反応時間としては30分〜24時間が好ましい。
【0032】
反応混合物を濃縮し、析出した固体を濾過分離することにより前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩を得る。さらに、再結晶又はカラムクロマトグラフィーにより精製することもできる。
【0033】
第二工程は下記反応式(2)で示される。
【0034】
【化17】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、M′はLi、Na、又はKを示し、XはRCOO基、塩素原子、又は臭素原子を示す。)
としては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、2−フラニル基、2−チエニル基が好ましく、RとRは同一でも異なっていてもよい。
【0035】
前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩1モルに対し、前記化学式(5)で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物は0.8〜1.2モル用いることが好ましい。
【0036】
第二工程に使用される溶媒としては、ジエチルエーテル、THF等のエーテル類を用いることができる。溶媒は、前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩1gに対し、1〜10mL用いることが好ましい。
【0037】
第二工程の反応温度としては−20℃〜100℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。
【0038】
蒸留及び/又はカラムクロマトグラフィーにより前記化学式(6)で示される2−シアノ−1,3−ジケトンを単離することができる。
【0039】
第三工程は下記反応式(3)で示される。
【0040】
【化18】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、MはLi、Na、K、NH、Agのいずれかであり、MAはLiOH、NaOH、KOH、LiH、NaH、KH、Li、Na、K、LiNH、NaNH、KNH、リチウムジイソプロピルアミド、NH、硝酸銀、又は酢酸銀のいずれかを示す。)
前記化学式(6)で示される2−シアノ−1,3−ジケトン1モルに対し、前記反応式(3)中のMAは0.8〜1.2モル用いることが好ましい。
第三工程に使用される溶媒としては、ジエチルエーテル、THF等のエーテル類を用いることができる。溶媒は、前記化学式(6)で示される2−シアノ−1,3−ジケトン1gに対し、1〜10mL用いることが好ましい。
【0041】
第三工程の反応温度としては−20℃〜100℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。
【0042】
再結晶及び/又はカラムクロマトグラフィーにより前記化学式(1)で示される2−シアノ−1,3−ジケトネート塩を単離することができる。
【0043】
<製造法2:2−シアノ−1,3−ジケトンが不安定な場合>
前記化学式(6)で示される2−シアノ−1,3−ジケトンはR又はRがトリフルオロメチル基の場合のように、置換基によっては不安定であり製造中に分解してしまう。この様な場合は製造法2が適している。尚、製造法2は2−シアノ−1,3−ジケトンが安定な場合にも適用することができる。
【0044】
製造法2は3つの工程から成り、第一工程は、製造法1と同様に前記反応式(1)で示される。Rとしては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−tert−ブチル基、フェニル基、2−フラニル基、2−チエニル基が好ましいこと以外は、製造法1の第一工程と同じく実施することができる。
第二工程は下記反応式(4)で示される。
【0045】
【化19】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、M′はLi、Na、又はKを示し、XはRCOO基、塩素原子、又は臭素原子を示し、Bは塩基を示す。)
、Rとしては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−tert−ブチル基、フェニル基、2−フラニル基、2−チエニル基が好ましく、RとRは同一でも異なっていてもよい。Bとしては共役酸のpKaが5以上である塩基が好ましく9以上である塩基が特に好ましい。具体的には脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、ピリジン、N−アルキルイミダゾール、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンが好ましく用いられるが、経済性、取り扱いの容易さ、次の工程後の分離のしやすさを考慮するとトリエチルアミンが特に好ましい。塩基Bの共役酸のpKaとはBHの酸解離定数Kaの負の常用対数のことであり、下記〔式1〕で示される。
[式1]

(式中、[B]、[H]、[BH]はそれぞれB、H、BHのモル濃度を示す。pKaは25℃に於ける水中での値を使用する。)
前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩1モルに対し、前記化学式(5)で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物及び塩基Bはそれぞれ0.8〜1.2モル用いることが好ましい。
【0046】
第二工程に使用される溶媒としては、ジエチルエーテル、THF等のエーテル類を用いることができる。溶媒は、前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩1gに対し、1〜10mL用いることが好ましい。
【0047】
第二工程の反応温度としては−20℃〜100℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。
【0048】
反応混合物を濃縮することにより前記化学式(7)で示される塩を固体又は液体として得る。再結晶又はカラムクロマトグラフィーにより精製することができるが、通常は精製せずに第三工程に用いる。
【0049】
第三工程は下記反応式(5)で示される。
【0050】
【化20】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、MB′はBよりも共役酸のpKaが大きい塩基を示し、MはLi、Na、又はKを示す。)
MB′はBよりも共役酸のpKaが大きい塩基であるが、これはBよりも強い塩基と同義である。MB′はBよりも共役酸のpKaが2以上大きいことが好ましい。MB′として具体的には、LiOH、NaOH、KOH、LiH、NaH、KH、LiNH、NaNH、KNH、リチウムジイソプロピルアミドが好ましく用いられる。
【0051】
前記化学式(7)で示される塩1モルに対し、塩基MB′及びアルカリ金属Mは0.8〜1.2モル用いることが好ましい。
【0052】
第三工程に使用される溶媒としては、ジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、水を用いることができる。溶媒は、前記化学式(7)で示される塩1gに対し、1〜10mL用いることが好ましい。
【0053】
第3工程の反応温度としては−20℃〜100℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。
【0054】
再結晶及び/又はカラムクロマトグラフィーにより前記化学式(1)で示される2−シアノ−1,3−ジケトネート塩を単離することができる。
<製造法3:2−シアノ−1,3−ジケトネートアルカリ金属塩を製造する場合>
2−シアノ−1,3−ジケトネートアルカリ金属塩を製造する場合は、前記化学式(6)で示される2−シアノ−1,3−ジケトンの安定性に関わらず、2段階に工程を短縮して製造することができる。
第一工程は、製造法1と同様に前記反応式(1)で示される。Rとしては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−tert−ブチル基、フェニル基、2−フラニル基、2−チエニル基が好ましいこと以外は、製造法1の第一工程と同じく実施することができる。
第二工程は下記反応式(6)で示される。
【0055】
【化21】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、M及びM′はLi、Na、又はKを示し、XはRCOO基、塩素原子、又は臭素原子を示す。)
、Rとしては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−tert−ブチル基、フェニル基、2−フラニル基、2−チエニル基が好ましく、RとRは同一でも異なっていてもよい。MとM′は同一でも異なっていてもよい。
前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩1モルに対し、前記化学式(5)で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物及びアルカリ金属水素化物MHはそれぞれ0.8〜1.2モル用いることが好ましい。
【0056】
第二工程に使用される溶媒としては、ジエチルエーテル、THF等のエーテル類を用いることができる。溶媒は、前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩1gに対し、1〜10mL用いることが好ましい。
【0057】
第二工程の反応温度としては−20℃〜100℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。
【0058】
再結晶及び/又はカラムクロマトグラフィーにより前記化学式(1)で示される2−シアノ−1,3−ジケトネート塩を単離することができる。
【0059】
イオン液体
イオン液体に関しては幾つかの定義が提唱されている(イオン液体II―驚異的な進歩と多彩な近未来―,シーエムシー出版,pp4−15,2006)。本発明において、イオン液体とは、少なくとも一方が有機イオンであるカチオンとアニオンのみから成り、融点が100℃以下である物質を示す。また、本発明のイオン液体は、少なくとも常温で液体であることが好ましい。
【0060】
アニオン成分
本発明のイオン液体を構成するアニオン成分には下記化学式(8)で示されるアニオンが用いられる。但し、式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、RとRとの間で環を形成してもよい。
【0061】
【化22】

また、前記化学式(8)は下記化学式(16)で示される共鳴混成体を代表して示したものであり、前記化学式(8)には下記化学式(16)中のすべての共鳴構造が含まれる。
【0062】
【化23】

、Rとしては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−tert−ブチル基、フェニル基、2−フラニル基、2−チエニル基が好ましく、トリフルオロメチル基が特に好ましい。RとRは同一でも異なっていても良い。
【0063】
化学式(8)で示されるアニオンの好ましい具体例としては下記化学式(9)で示される3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートアニオン、下記化学式(10)で示される3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートアニオン、下記化学式(17)で示される3−シアノ−アセチルアセトネートアニオン、下記化学式(18)で示される4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネートアニオンが挙げられる。中でも3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートアニオンの場合に、特に好ましい。
【0064】
【化24】

【0065】
【化25】

【0066】
【化26】

【0067】
【化27】

カチオン成分
本発明において用いられるカチオン成分は特に制限されない。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンやヘキサフルオロボレートアニオン等とイオン液体を形成するカチオンを本発明に於いても用いることができる。好ましいカチオンとしては下記化学式(11)で示されるカチオンが挙げられる。但し、式中、R〜Rは、水素原子、炭素数が20以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示し、R´〜R´10は水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示す。
【0068】
【化28】

〜Rとしては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−メトキシエチル基、トリメチルシリルメチル基、アリル基が好ましい。R´〜R´10としては水素原子、メチル基が好ましい。好ましいカチオンとしてより具体的には、下記化学式(19)で示されるカチオンがあげられる。但し、式中、nは1〜10の整数を示す。
【0069】
【化29】

イオン液体の合成方法
本発明のイオン液体は公知のイオン液体の合成法により合成することができる。例えば、下記反応式(7)〜(9)に示される合成法が挙げられる。式中、Cは本発明のイオン液体を構成するカチオン、XはCl、Br、Iのいずれかのアニオン、MはLi、Na、K、NH、Agのいずれかのカチオンを示す。
【0070】
【化30】


上記反応式(7)に示したアニオン交換法によるイオン液体の合成方法について説明する。
【0071】
<アニオン原料>
アニオン原料には、本発明の方法により合成したLi、Na、K、NH、Ag等の2−シアノ−1,3−ジケトネート塩を用いる。アニオン原料は、純度99%以上に精製して用いることが望ましい。
【0072】
<カチオン原料>
カチオン原料は市販品を用いることができる他、公知の方法により合成することができる。カチオン原料には目的カチオンのハロゲン化物塩が用いられる。カチオン原料は、純度99%以上に精製して用いることが望ましい。
【0073】
<イオン液体の合成>
本発明のイオン液体は、カチオンの電荷とアニオンの電荷が等しくなるように反応させることにより合成することができる。例えば、1価のカチオン原料と1価のアニオン原料の場合は1:1のモル比で反応させ、2価のカチオン原料と1価のアニオン原料の場合は1:2のモル比で反応させる。反応溶媒としては水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンが好ましい。カチオン原料とアニオン原料それぞれの溶液を調整し、一方の溶液に他方の溶液を添加することにより反応を行う。反応は空気中、常温で実施することができる。ハロゲン化物塩が副生するが、濾過あるいはイオン液体が疎水性の場合には、水で洗浄することによりハロゲン化物塩を除去することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
合成した化合物の純度確認は元素分析又はNMRにより行う。NMR測定装置は日本電子(株)製JNM−ECA400を使用し、元素分析装置はヤナコ分析工業(株)製CHNコーダーMT−6を使用する。フッ素が水素に比べて当量以上の化合物の元素分析では、試料の分解時にテトラフルオロメタンやテトラフルオロエチレンが発生して炭素分析値にマイナス誤差が生じ、またそれらのガスは窒素検出器で窒素と同時に検出されるので、窒素分析値がプラスに偏る。これを防ぐために試料に過剰の塩化バリウム2水和物を添加して分析する。塩化バリウム2水和物はキシダ化学製の元素分析用を使用する。
〔実施例1〕ナトリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネート(化学式(20))の合成
【0075】
【化31】

<3,3,3−トリフルオロ−1−シアノアセトン/ナトリウム塩の合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。滴下ロートとジムロート冷却管を備えた500mLの3つ口フラスコに、ナトリウムエトキシド51.04g(750.0mmol)とアセトニトリル107.45g(2618mmol)とを入れる。フラスコ内を攪拌しながら、トリフルオロ酢酸エチル124.41g(875.6mmol)を室温で60分間かけて滴下する。反応を完了させるために、滴下終了後60分間攪拌を続け、さらに70〜80℃で60分間還流する。溶媒を減圧留去し、残渣をアセトニトリル−シクロペンチルメチルエーテルより再結晶する。析出した結晶を濾過し、シクロペンチルメチルエーテルで洗浄、減圧乾燥する。その結果、淡黄色の固体として、3,3,3−トリフルオロ−1−シアノアセトン ナトリウム塩が92.07g(収率77%)得られる。
<トリエチルアンモニウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートの合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、トリエチルアミンは予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートを備えた1Lの3つ口フラスコに、3,3,3−トリフルオロ−1−シアノアセトン/ナトリウム塩64.62g(406.3mmol)とジエチルエーテル300mLとトリエチルアミン41.11g(406.3mmol)とを入れる。フラスコ内を攪拌し、5〜10℃に冷却しながら、トリフルオロ酢酸無水物85.34g(406.3mmol)を120分間かけて滴下する。反応を完了させるために、添加終了後、室温で24時間攪拌を続ける。反応液にジクロロメタン1.9Lを加えると沈殿が析出する。沈殿を濾過して除去し、濾液から溶媒を減圧留去すると赤色の液体として、トリエチルアンモニウム 3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートが104.10g(収率77%)得られる。
<ナトリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートの合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。滴下ロートを備えた1Lの3つ口フラスコに、水素化ナトリウム(純度60%、40%オイル含有)13.68g(342.0mmol)とテトラヒドロフラン228mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、10〜15℃に冷却しながら、トリエチルアンモニウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネート103.94g(311.0mmol)をテトラヒドロフラン228mLに溶かした溶液を90分間かけて滴下する。反応を完了させるために、添加終了後、室温で90分間攪拌を続ける。溶媒を減圧留去し、残渣をジクロロメタンで洗浄、濾過、減圧乾燥する。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに酢酸エチル−ジクロロメタンより再結晶する。析出した結晶を濾過し、ジクロロメタンで洗浄、減圧乾燥する。その結果、白色固体としてナトリウム 3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートが27.07g(収率34%)得られる。合成した化合物1.922mgに塩化バリウム2水和物8.083mgを添加したものを元素分析する。結果を下記に示す。
〔元素分析値〕
理論値:C5.43/H1.33/N1.05
分析値:C5.54/H1.31/N0.93
〔実施例2〕ナトリウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネート(化学式(21))の合成
【0076】
【化32】

<シアノアセトン/ナトリウム塩の合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。ジムロート冷却管を備えた1Lの3つ口フラスコに、ナトリウムメトキシド81.05g(1.500mol)とアセトニトリル402.30g(9.800mol)と酢酸エチル158.58g(1.800mol)とを入れる。フラスコ内を攪拌しながら、75℃で270分間還流する。室温まで冷却した後、ロータリーエバポレーターで濃縮する。析出した結晶を濾過し、アセトニトリルで洗浄、減圧乾燥する。その結果、白色固体として、シアノアセトン ナトリウム塩が99.61g(収率63%)得られる。
<ナトリウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートの合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。滴下ロートを備えた100mLの3つ口フラスコに、水素化ナトリウム1.25g(52.1mmol)とシアノアセトン/ナトリウム塩5.00g(47.6mmol)とジエチルエーテル50mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、0℃に冷却しながら、トリフルオロ酢酸無水物10.49g(50.0mmol)をジエチルエーテル20mLに溶かした溶液を60分間かけて滴下する。反応を完了させるために、添加終了後、0℃で18時間攪拌を続ける。反応混合物を濾過し、濾渣をテトラヒドロフラン150mLに懸濁する。不溶物を濾別し、濾液を乾固する。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに酢酸エチル−ジクロロメタンより再結晶する。析出した結晶を濾過し、ジクロロメタンで洗浄、減圧乾燥する。その結果、白色固体として、ナトリウム 3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートが1.39g(収率15%)得られる。合成した化合物2.127mgに塩化バリウム2水和物8.080mgを添加したものを元素分析する。結果を下記に示す。
〔元素分析値〕
理論値:C7.47/H1.61/N1.45
分析値:C7.80/H1.67/N1.33
〔実施例3〕1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネート(化学式(12))の合成
【0077】
【化33】

<1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/クロライドの合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、1−メチルイミダゾールは予め蒸留精製したものを使用する。ジムロート冷却管を備えた500mLの3つ口フラスコに、1−メチルイミダゾール70.10g(853.8mmol)と1−クロロブタン158.00g(1707mmol)とを入れる。90℃で30時間攪拌し、室温まで冷却する。生成した固体をジエチルエーテルで洗浄し、濾過、減圧乾燥する。その結果、白色固体として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム クロライドが146.75g(収率98%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値〕
理論値:C55.01/H8.66/N16.04
分析値:C55.50/H8.39/N16.72
<1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートの合成>
実施例1で合成したナトリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネート0.5355g(2.100mmol)と1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/クロライド0.3667g(2.099mmol)とを窒素雰囲気下で別々の50mLナス型フラスコに秤量する。それぞれのフラスコにアセトニトリル1mLを加え溶液とする。室温で攪拌しながら1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/クロライドの溶液にナトリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートの溶液を添加する。フラスコに残った溶液はアセトニトリル0.5mLで洗い流し、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/クロライドの溶液に残さず加える。添加と同時に白色の沈殿が生成する。反応を完了させるために、添加終了後、さらに20時間攪拌を続ける。アセトニトリルを減圧留去し、水10mLとジクロロメタン10mLを加えると透明な2層の溶液となる。有機層(下層)を分離し、水10mlで2回洗浄する。ジクロロメタンを減圧留去した後、66Pa、60℃で1時間乾燥する。その結果、黄色液体として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム 3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートが0.65g(収率83%)得られる。合成したイオン液体の構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0078】
〔NMRスペクトルデータ〕
H−NMR(400MHz,CDCl
δ(ppm)9.38(1H,s),7.36(1H,d,J=1.8Hz),7.34(1H,s),4.22(2H,t,J=7.3Hz),3.98(3H,s),1.85(2H,quint,J=7.6Hz),1.36(2H,sext,J=7.6Hz),0.95(3H,t,J=7.3Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl
δ(ppm)175.00(q,JCF=33Hz),137.51,123.97,122.67,119.52,117.87(q,JCF=292Hz),76.58,50.33,36.71,32.49,19.76,13.42
〔実施例4〕1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネート(化学式(13))の合成
【0079】
【化34】

<1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム/ブロマイドの合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、1−メチルピロリジンは予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートとジムロート冷却管を備えた500mLの3つ口フラスコに、1−メチルピロリジン22.93g(269.3mmol)とシクロペンチルメチルエーテル150mLとを入れる。90℃で攪拌しながら1−ブロモペンタン81.61g(540.3mmol)を4時間かけて滴下する。そのまま90℃で14時間攪拌した後室温へ冷却する。生成した沈殿をシクロペンチルメチルエーテルで洗浄し、濾過、減圧乾燥する。その結果、白色固体として、1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム ブロマイドが61.87g(収率97%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値〕
理論値:C50.85/H9.39/N5.93
分析値:C51.68/H10.16/N5.72
<1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートの合成>
実施例1で合成したナトリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネート1.085g(4.254mmol)と1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム/ブロマイド1.005g(4.255mmol)とを窒素雰囲気下で別々の50mLナス型フラスコに秤量する。それぞれのフラスコにアセトニトリル2mLを加え溶液とする。室温で攪拌しながら1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム・ブロマイドの溶液にナトリウム/3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートの溶液を添加する。フラスコに残った溶液はアセトニトリル1mLで洗い流し、1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム/ブロマイドの溶液に残さず加える。添加と同時に白色の沈殿が生成する。反応を完了させるために、添加終了後、さらに20時間攪拌を続ける。アセトニトリルを減圧留去し、水10mLとジクロロメタン10mLを加えると透明な2層の溶液となる。有機層(下層)を分離し、水10mLで2回洗浄する。ジクロロメタンを減圧留去した後、66Pa、60℃で1時間乾燥する。その結果、淡黄色液体として、1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム 3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートが1.41g(収率85%)得られる。合成したイオン液体の構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0080】
〔NMRスペクトルデータ〕
H−NMR(400MHz,CDCl
δ(ppm)3.59(4H,m),3.37(2H,m),3.11(3H,s),2.28(4H,m),1.78(2H,m),1.36(4H,m),0.91(3H,t,J=6.9Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl
δ(ppm)174.64(q,JCF=33Hz),119.66,117.43(q,JCF=292Hz),76.72,64.81,64.56,48.43,28.22,23.53,22.05,21.61,13.62
〔実施例5〕1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネート(化学式(14))の合成
【0081】
【化35】

<1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートの合成>
実施例2で合成したナトリウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネート0.6111g(3.039mmol)と実施例3で合成した1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/クロライド0.5304g(3.037mmol)とを窒素雰囲気下で別々の50mLナス型フラスコに秤量する。それぞれのフラスコにメタノール1mLを加え溶液とする。室温で攪拌しながら1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/クロライドの溶液にナトリウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートの溶液を添加する。フラスコに残った溶液はメタノール0.5mLで洗い流し、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム/クロライドの溶液に残さず加える。添加と同時に白色の沈殿が生成する。反応を完了させるために、添加終了後、さらに16時間攪拌を続ける。メタノールを減圧留去し、ジクロロメタン10mLを加え不溶物を濾別する。ジクロロメタンを減圧留去し、再びジクロロメタン10mLを加え不溶物を濾別する。ジクロロメタンを減圧留去した後、66Pa、60℃で1時間乾燥する。その結果、淡黄色液体として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム 3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートが0.68g(収率71%)得られる。合成したイオン液体の構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0082】
〔NMRスペクトルデータ〕
H−NMR(400MHz,CDCl
δ(ppm)9.82(1H,s),7.51(1H,d,J=1.4Hz),7.45(1H,s),4.26(2H,t,J=7.6Hz),4.03(3H,s),2.27(3H,s),1.87(2H,quint,J=7.6Hz),1.36(2H,sext,J=7.4Hz),0.95(3H,t,J=7.3Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl
δ(ppm)195.79,173.26(q,JCF=31Hz),137.30,123.71,122.19,121.95,118.30(q,JCF=291Hz),82.71,49.78,36.35,32.06,29.40,19.37,13.30
〔実施例6〕1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネート(化学式(15))の合成
【0083】
【化36】

<1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム/ブロマイドの合成>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、1−メチルピペリジンは予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートとジムロート冷却管を備えた500mLの3つ口フラスコに、1−メチルピペリジン19.58g(197.5mmol)とシクロペンチルメチルエーテル100mLとを入れる。110℃で攪拌しながら1−ブロモヘキサン65.86g(399.0mmol)を4時間かけて滴下する。そのまま110℃で16時間攪拌した後室温へ冷却する。生成した沈殿をシクロペンチルメチルエーテルで洗浄し、濾過、減圧乾燥する。その結果、白色固体として、1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム ブロマイドが51.12g(収率98%)得られる。元素分析の結果を下に示す。
〔元素分析値〕
理論値:C54.54/H9.92/N5.30
分析値:C54.90/H10.42/N6.07
<1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートの合成>
実施例2で合成したナトリウム/3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネート0.6021g(2.994mmol)と1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム/ブロマイド0.7910g(2.993mmol)とを窒素雰囲気下で別々の50mLナス型フラスコに秤量する。それぞれのフラスコにメタノール1mLを加え溶液とする。室温で攪拌しながら1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム/ブロマイドの溶液にナトリウム・3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートの溶液を添加する。フラスコに残った溶液はメタノール0.5mLで洗い流し、1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム/ブロマイドの溶液に残さず加える。添加と同時に白色の沈殿が生成する。反応を完了させるために、添加終了後、さらに16時間攪拌を続ける。メタノールを減圧留去し、水10mLとジクロロメタン10mLを加えると透明な2層の溶液となる。有機層(下層)を分離し、水10mLで2回洗浄する。ジクロロメタンを減圧留去した後、66Pa、60℃で1時間乾燥する。その結果、淡黄色液体として、1−ヘキシル−1−メチルピペリジニウム 3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートが0.98g(収率93%)得られる。合成したイオン液体の構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0084】
〔NMRスペクトルデータ〕
H−NMR(400MHz,CDCl
δ(ppm)3.45(4H,m),3.38(2H,m),3.14(3H,s),2.36(3H,s),1.91(4H,m),1.74(4H,m),1.33(6H,m),0.88(3H,t,J=7.1Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl
δ(ppm)195.90,173.25(q,JCF=30Hz),122.42,118.82(q,JCF=293Hz),82.79,64.15,61.25,47.81,31.12,30.41,25.92,22.33,21.79,20.79,20.03,13.83
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造方法に関する。シアノ基の導入試薬として比較的毒性の低いアセトニトリルを用い、CF基を持つ2−シアノ−1,3−ジケトネート塩を製造することが可能である。さらに、2−シアノ−1,3−ジケトネート塩を原料として新規なイオン液体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、MはLi、Na、K、NH、Agのいずれかを示す。)
で示される2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法であって、
アセトニトリルと、下記化学式(2)
【化2】

(式中、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、Rは、炭素数が6以下のアルキル基を示す。)
で示されるカルボン酸エステルと、下記化学式(3)
【化3】

(式中、Rは、炭素数が6以下のアルキル基を示し、M′はLi、Na、又はKを示す。)
で示されるアルカリ金属アルコキシドと、を反応させ、下記化学式(4)
【化4】

(式中、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、M′はLi、Na、又はKを示す。)
で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩を製造する第一工程と、
前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩と、下記化学式(5)
【化5】

(式中、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、XはRCOO基、塩素原子、又は臭素原子を示す。)
で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物と、を反応させ、下記化学式(6)
【化6】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。)
で示される2−シアノ−1,3−ジケトンを製造する第二工程と、
前記化学式(6)で示される2−シアノ−1,3−ジケトンとアルカリ金属塩、アルカリ金属、アンモニア又は銀塩とを反応させる第三工程と、を有することを特徴とする2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法。
【請求項2】
前記第二工程及び前記第三工程に代えて、
第一の塩基の存在下、前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩と前記化学式(5)で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物とを反応させ下記化学式(7)
【化7】

(式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示し、Bは第一の塩基を示す。)
で示される塩を製造する第四工程と、
前記化学式(7)で示される塩と第一の塩基よりも共役酸のpKaが大きい第二の塩基又はアルカリ金属とを反応させる第五工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載の2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法。
【請求項3】
前記第一の塩基がトリエチルアミンであることを特徴とする請求項2に記載の2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法。
【請求項4】
前記第二工程及び前記第三工程に代えて、
LiH、NaH、KHのいずれかの存在下、前記化学式(4)で示されるα−シアノケトンアルカリ金属塩と前記化学式(5)で示されるカルボン酸無水物又はカルボン酸ハロゲン化物とを反応させる第六工程を有することを特徴とする請求項1に記載の2−シアノ−1,3−ジケトネート塩の製造法。
【請求項5】
カチオン成分およびアニオン成分からなるイオン液体であって、
前記カチオン成分は有機カチオンであり、前記アニオン成分は下記化学式(8)で示される化学構造を含むことを特徴とするイオン液体。
但し、式中、R、Rは、水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、RとRとの間で環を形成してもよい。
【化8】

【請求項6】
前記化学式(8)中、R、Rは、CH、CHCH、CHCHCH、C(CH、CF、CFCF、CFCFCFのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載のイオン液体。
【請求項7】
前記アニオン成分は下記化学式(9)で示される3−シアノ−1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトネートアニオンであることを特徴とする請求項5または6に記載のイオン液体。
【化9】

【請求項8】
前記アニオン成分は下記化学式(10)で示される3−シアノ−1,1,1−トリフルオロアセチルアセトネートアニオンであることを特徴とする請求項5または6に記載のイオン液体。
【化10】

【請求項9】
前記カチオン成分は下記化学式(11)で示される群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のイオン液体。
但し、式中、R〜Rは、水素原子、炭素数が20以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示し、R´〜R´10は水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示す。
【化11】

【請求項10】
下記化学式(12)で示される構造を有する請求項5に記載のイオン液体。
【化12】

【請求項11】
下記化学式(13)で示される構造を有する請求項5に記載のイオン液体。
【化13】

【請求項12】
下記化学式(14)で示される構造を有する請求項5に記載のイオン液体。
【化14】

【請求項13】
下記化学式(15)で示される構造を有する請求項5に記載のイオン液体。
【化15】


【公開番号】特開2011−148711(P2011−148711A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9089(P2010−9089)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】