説明

2−ナフトール誘導体の製造方法

【課題】新規なビュウレット構造を有する2−ナフトール誘導体の製造方法を提供すること。
【解決手段】対応する2−ナフトールアミド誘導体と、カルバモイルイソシアナートを反応させることにより、一般式〔1〕で表される化合物とし、これを加水分解して2−ナフトール誘導体が得られる。


〔1〕(式中、R1はアセチル基等、Yは置換フェニル基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビュウレット構造を有する2−ナフトール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−ナフトール誘導体は共役ポリエン系を形成し、電子帯に吸収を有する縮合芳香族化合物の中で最も安価であるため、合成用原料としても利用し易いものであり、例えば、染料・顔料などの色材、液晶性ポリエステルなどの有機高分子材料などの種々の特徴ある化合物の合成原料に用いられている。
【0003】
2−ナフトール誘導体の中では、2−ヒドロキシナフタレンカルボン酸類のカルボキシル基を、酸アミド化またはウレイド化した誘導体がアゾ色素合成用のカップラーとして知られている。
【0004】
かかる2−ナフトール誘導体の製造方法に関し、酸アミド化については、酸ハロゲン化物とアミンの反応など効率的な処方が種々知られており、大規模に工業的に実施されている。一方、ウレイド化については、例えば、カルボン酸クロリドと尿素誘導体の反応による2−ヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸のウレイド化方法などが提案されている(特許文献1および2を参照)。
【0005】
しかし、ビュウレット構造(−NH−CO−NH−CO−NH−)を有する2−ナフトール誘導体の製造方法についてはいまだ知られていない。
【特許文献1】特許第3228516号公報
【特許文献2】特開2005−220049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規なビュウレット構造を有する2−ナフトール誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と、一般式〔3〕で表される化合物とを反応させることを含む、一般式〔1〕で表される2−ナフトール誘導体の製造方法を提供する:
【化1】

〔1〕
[式〔1〕中、
Qは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、およびニトロソ基からなる群から選ばれる基;
nは、0〜6の整数;
は、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、およびベンジル基からなる群から選ばれる基;および、
Yは、置換基を有していてもよい芳香族基、および置換基を有していてもよい共役二重結合を有する複素環基からなる群から選ばれる基;
Yが有していてもよい置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、シアノ基、フェノキシ基、ベンゾイルアミノ基、炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、炭素原子数2〜7のアルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、および炭素原子数1〜6のアルキルアミノスルホニル基からなる群より選択される一個以上の置換基;
Yが有する置換基が芳香族基を含む場合には、その芳香族環上に、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、およびシアノ基からなる群より選択される一個以上の置換基をさらに有していてもよい]
【化2】

〔2〕
[式〔2〕中、Q、nおよびRは、式〔1〕において定義したとおり]
【化3】

〔3〕
[式〔3〕中、Yは、式〔1〕において定義したとおり]。
【0008】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「芳香族基」は6員の単環または縮合環であって、縮合環の環数4までの芳香族基を示す。
本明細書および特許請求の範囲において、「共役二重結合を有する複素環基」は1以上のN、S、Oを含み、共役二重結合を有する5員乃至6員の単環または縮合環である複素環基を示す。縮合環を形成する場合は、環数6までのものとする。
【0009】
本発明の方法において原料として用いる一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体の調製方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0010】
例えば、無置換、または1〜6個の置換基Q(Qは、一般式〔1〕において定義したとおり)がナフタレン環上に導入された6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の水酸基を、所望により炭素原子数1〜6のハロゲン化アルカンなどのアルキル化剤、炭素原子数2〜6の脂肪酸の酸ハロゲン化物や酸無水物などのアシル化剤、またはハロゲン化ベンジルなどのベンジル化剤などを用いて、アルキル化、アシル化あるいはベンジル化した後に、カルボキシル基を、塩化チオニルなどにより酸ハロゲン化した後にアンモニアと反応させるなどの常法によってアミド化することにより調製することができる。
【0011】
また、ナフタレン環上に1〜6個の置換基Qを有する一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体は、前述の方法に従い、無置換の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を原料に用いて、nが0である一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体を調製した後に、常法に従い、ナフタレン環上に置換基Qを導入することによっても調製することができる。
【0012】
一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体において、Rは、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、およびベンジル基からなる群から選ばれる基である。
【0013】
これらRの中では、後述する一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と一般式〔3〕で表される化合物との反応において、水酸基の保護基として働き副反応を抑えることができることから、Rは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、またはベンジル基であるのが好ましい。
【0014】
また、これらの中では、調製が容易であることなどから、Rが炭素原子数2〜6のアシル基であるのがより好ましい。
【0015】
が炭素原子数1〜6のアルキル基である場合のRの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基などが挙げられ、炭素原子数2〜6のアシル基である場合のRの具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、カプロイル基などが挙げられる。
【0016】
が炭素原子数2〜6のアシル基である場合には、アセチル基またはプロピオニル基であるのが好ましく、アセチル基であるのがより好ましい。
【0017】
一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体において、Qは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、およびニトロソ基からなる群から選ばれる基である。
【0018】
Qが炭素原子数1〜6のアルキル基である場合のQの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基などが挙げられる。Qが炭素原子数1〜6のアルコキシ基である場合のQの具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基などが挙げられる。Qがハロゲン原子である場合のQの具体例としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素などが挙げられる。
【0019】
一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体において、nは0〜6の整数であり、nは0〜3であるのが好ましい。nが2〜6である場合にはQは同じであっても異なっていてもよい。
【0020】
本発明の方法において、一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と反応させる一般式〔3〕で表される化合物の調製方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、一般式〔3〕で表される化合物は、酢酸エチルなどの溶媒中で、一般式〔I〕で表される尿素化合物に、ホスゲン、トリホスゲンなどから選択されるホスゲン化剤を作用させることにより得ることが出来る:
【化4】

〔I〕

[一般式〔I〕において、Yは一般式〔1〕において定義した通り]。
【0021】
一般式〔3〕で表される化合物において、基Yは、置換基を有していてもよい芳香族基、または置換基を有していてもよい共役二重結合を有する複素環基である。
【0022】
一般式〔3〕で表される化合物における基Yの具体例としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、キノリニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズイミダゾロニル基などが挙げられる。
【0023】
基Yが有していてもよい置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、シアノ基、フェノキシ基、ベンゾイルアミノ基、炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、炭素原子数2〜7のアルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、および炭素原子数1〜6のアルキルアミノスルホニル基からなる群より選択される基である。
【0024】
基Yが有していてもよい置換基の具体例は、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素などのハロゲン原子;トリフルオロメチル基などの炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基;ニトロ基;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基などの炭素原子数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基などの炭素原子数1〜6のアルコキシ基;シアノ基;フェノキシ基;ベンゾイルアミノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、tert−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、ネオペンチルオキシカルボニル基、tert−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、イソヘキシルオキシカルボニル基などの炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基;メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、n−プロピルアミノカルボニル基、イソプロピルアミノカルボニル基、n−ブチルアミノカルボニル基、イソブチルアミノカルボニル基、sec−ブチルアミノカルボニル基、tert−ブチルアミノカルボニル基、n−ペンチルアミノカルボニル基、イソペンチルアミノアカルボニル基、ネオペンチルアミノカルボニル基、tert−ペンチルアミノカルボニル基、n−ヘキシルアミノカルボニル基、イソヘキシルアミノカルボニル基などの炭素原子2〜7のアルキルアミノカルボニル基;フェニルアミノカルボニル基;メチルアミノスルホニル基、エチルアミノスルホニル基、n−プロピルアミノスルホニル基、イソプロピルアミノスルホニル基、n−ブチルアミノスルホニル基、イソブチルアミノスルホニル基、sec−ブチルアミノスルホニル基、tert−ブチルアミノスルホニル基、n−ペンチルアミノスルホニル基、イソペンチルアミノスルホニル基、ネオペンチルアミノスルホニル基、tert−ペンチルアミノスルホニル基、n−ヘキシルアミノスルホニル基、イソヘキシルアミノスルホニル基などの炭素原子数1〜6のアルキルアミノスルホニル基などが挙げられる。
【0025】
基Yが有する置換基が芳香族基を含む場合には、その芳香族環上に、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、およびシアノ基からなる群より選択される一個以上の置換基をさらに有していてもよい。
【0026】
本発明の方法において、一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と一般式〔3〕で表される化合物との反応は、90〜200℃、好ましくは100〜180℃、より好ましくは120〜150℃で行われる。反応温度が90℃より低ければ、2−ナフトール誘導体の有機溶媒への溶解度が低下することにより反応速度が極端に低下する。反応温度が200℃より高ければ、加熱に多大なエネルギーを要するとともに一般式〔3〕で表される化合物の種類によっては副反応が激しくなる場合があり好ましくない。
【0027】
一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と一般式〔3〕で表される化合物との反応において用いられる溶媒は、一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と一般式〔3〕で表される化合物との反応を阻害しないものであれば特に制限されない。
【0028】
本発明において好適に使用される溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、メシチレン、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、スルホラン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどから選択される1種以上の有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、キシレン、トルエン、メシチレン、ニトロベンゼン、クロルベンゼンから選ばれる有機溶媒を単独で用いるのが、沸点が高いことや、溶媒を回収後に精製し再利用しやすい点などで特に好ましい。
【0029】
反応が良好に進行する限り特に限定されないが、一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と一般式〔3〕で表される化合物の反応は、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下に行うのが好ましい。
一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と一般式〔3〕で表される化合物の反応時の圧力条件は、大気圧下、加圧下、減圧下の何れの条件で行ってもよいが、通常、加圧条件や減圧条件に対応できる反応装置を必要としない点で、大気圧下で行うのがよい。
【0030】
このように、一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と一般式〔3〕で表される化合物を反応させることにより合成された、一般式〔1〕で表される2−ナフトール誘導体は、濃縮晶析、冷却晶析、加水晶析、抽出などの常法によって反応液から回収され、所望により再結晶、有機溶媒洗浄、水洗浄などにより精製される。
【0031】
このようにして得られる、一般式〔1〕で表される2−ナフトール誘導体のなかでも、有機色素や有機高分子材料の原料に用いる場合の反応性などから、Rが水素原子であるもの、すなわち一般式〔4〕で表されるものが特に好ましい:
【化5】

〔4〕
[式〔4〕中、
Qは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、およびニトロソ基からなる群から選ばれる基;
nは、0〜6の整数;および、
Yは、置換基を有していてもよい芳香族基、および置換基を有していてもよい共役二重結合を有する複素環基からなる群から選ばれる基;
Yが有していてもよい置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、シアノ基、フェノキシ基、ベンゾイルアミノ基、炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、炭素原子数2〜7のアルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、および炭素原子数1〜6のアルキルアミノスルホニル基からなる群より選択される一個以上の置換基;
Yが有する置換基が芳香族基を含む場合には、その芳香族環上に、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、およびシアノ基からなる群より選択される一個以上の置換基をさらに有していてもよい]。
【0032】
一般式〔4〕で表される2−ナフトール誘導体は、上記のように、Rが水素原子である一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と、一般式〔3〕で表される化合物とを反応させることによって調製することが可能である。しかし、Rが炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、またはベンジル基である一般式〔2〕で表される化合物、すなわち下記一般式〔5〕で表される2−ナフトール誘導体を、一般式〔3〕で表される化合物と反応させて、下記一般式〔6〕で表される2−ナフトール誘導体を調製し、次いで、一般式〔6〕で表される化合物における基−ORを脱保護して水酸基に変換し、一般式〔4〕で表される2−ナフトール誘導体を製造するのが、副反応が生じ難いことなどから好ましい:
【化6】

〔5〕
[式〔5〕中、Q、およびnは、一般式〔4〕において定義したとおり;
は、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、およびベンジル基からなる群から選ばれる基]
【化7】

〔6〕
[式〔6〕中、Q、Yおよびnは、一般式〔4〕において定義したとおり;
は、一般式〔5〕において定義したとおり]。
【0033】
一般式〔6〕で表される2−ナフトール誘導体の基−ORを脱保護する方法は、特に限定されず、従来公知の脱保護方法を用いることが出来る。例えば、保護基Rの種類に応じて、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基、硫酸や塩酸などの酸、または塩化アルミニウムや臭化水素酸などと反応させる方法、あるいはパラジウムカーボン触媒の存在下に水素により還元する方法などから適宜選択すればよい。
【0034】
基Rが炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数2〜6のアシル基である場合のRの具体例は、一般式〔1〕で表される2−ナフトール誘導体において、基Rが炭素原子数1〜6のアルキル基または炭素原子数2〜6のアシル基である場合の具体例と同様である。
【0035】
上記方法において、式〔5〕で表される2−ナフトール誘導体、および式〔6〕で表される2−ナフトール誘導体について、水酸基の保護基Rは、水酸基の保護および脱保護が容易であることから、炭素原子数2〜6のアシル基であるのが好ましく、炭素原子数2〜6のアシル基の中ではアセチル基であるのが特に好ましい。
【0036】
一般式〔6〕で表される2−ナフトール誘導体において、Rが炭素原子数2〜6のアシル基である場合には、基−ORの脱保護は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒中で、塩基性化合物と反応させた後に、中和することにより行うことができる。
【0037】
がアシル基である場合の基−ORの加水分解に用いる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが好適に使用される。
【0038】
本発明の方法により製造される2−ナフトール誘導体は、例えばアゾ色素などの染料・顔料、有機高分子材料などの合成原料として好適に利用される。特に染料・顔料などの色材の合成原料用途においては、多様な色相の色材を合成可能にする点で有用なものである。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
〔化合物1合成例〕
【化8】

【0040】
トリホスゲン6.0g(20mmol)および酢酸エチル17.1gからなる溶液に、1−(2−クロロフェニル)尿素1.71g(10mmol)、酢酸エチル17.1gからなる溶液を加えた後、攪拌下に40℃で2時間反応させた。
反応終了後、ロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを留去し、次いで残渣にキシレン34gを加え、化合物1のキシレン溶液を得た。
【0041】
〔化合物2合成例〕
【化9】

【0042】
化合物1合成例で調製した、化合物1のキシレン溶液に対して、2−アセトキシ−6−アミノカルボニルナフタレン3.4gとキシレン 34gの混合液を加え、120℃まで昇温し1時間反応を行った。
反応終了後、室温まで冷却した後、析出物を吸引ろ過し、得られた析出物をメタノールで洗浄した後に乾燥し、化合物2を2.1g得た。
化合物2の質量スペクトルを測定したところ、m/z 424(MW425.8)であった。
【0043】
〔化合物3合成例〕
【化10】

【0044】
化合物2の1.7gをN,N−ジメチルホルムアミド17gに懸濁させた後、5%水酸化ナトリウム水溶液10.5gを加え、室温にて15分攪拌した。次いで、反応液に10%塩酸水溶液を加えpH3に調整し、析出物を吸引ろ過し、得られた析出物をメタノールで洗浄した後に乾燥し、化合物3の粗生成物1.4gを得た。
化合物3の粗生成物1.4gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)7gに室温にて溶解し、攪拌下に、75%メタノール水溶液を滴下し、化合物3の再結晶を行った。
析出物を吸引ろ過により回収し、水洗した後に乾燥し、化合物3を1.2g得た。
化合物3の質量スペクトルを測定したところ、m/z 382(MW383.8)であった。
化合物3の赤外吸収スペクトル(KBr法)を図1に示す。
【実施例2】
【0045】
〔化合物4合成例〕
【化11】

【0046】
トリホスゲン284.9g(960mmol)、ピリジン19.2g(240mmol)、および酢酸エチル615gからなる溶液に、1−(3−クロロフェニル)尿素41g(240mmol)、酢酸エチル615gからなる溶液を加えた後、攪拌下に、5〜10℃で1.5時間反応し、次いで40℃で30分反応させた。
反応終了後、ロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを留去し、次いで残渣にキシレン825gを加え、化合物4のキシレン溶液を得た。
【0047】
〔化合物5合成例〕
【化12】

【0048】
化合物4合成例で調製した、化合物4のキシレン溶液に対して、2−アセトキシ−6−アミノカルボニルナフタレン82.5gを加え、120℃まで昇温し1.5時間反応を行った。
反応終了後、室温まで冷却した後、析出物を吸引ろ過し、得られた析出物をメタノールで洗浄した後に乾燥し、化合物5を78.7g得た。
化合物5の質量スペクトルを測定したところ、m/z 424(MW425.8)であった。
【0049】
〔化合物6合成例〕
【化13】

【0050】
化合物5合成例で得られた化合物5のうちの70gをN,N−ジメチルホルムアミド100gに懸濁させた後、3%水酸化ナトリウム水溶液480gを加え、室温にて1.5時間攪拌した。次いで、反応液に10%塩酸水溶液を加えpH3に調整し、析出物を吸引ろ過し、得られた析出物をメタノールで洗浄した後に乾燥し、化合物6を43.8g得た。
化合物6の質量スペクトルを測定したところ、m/z 382(MW383.8)であった。
化合物6の赤外吸収スペクトル(KBr法)を図2に示す。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、実施例1において得られた化合物3の赤外吸収スペクトル(KBr法)である。
【図2】図2は、実施例2において得られた化合物6の赤外吸収スペクトル(KBr法)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式〔2〕で表される2−ナフトール誘導体と、一般式〔3〕で表される化合物とを反応させることを含む、一般式〔1〕で表される2−ナフトール誘導体の製造方法:
【化1】

〔1〕
[式〔1〕中、
Qは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、およびニトロソ基からなる群から選ばれる基;
nは、0〜6の整数;
は、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、およびベンジル基からなる群から選ばれる基;および、
Yは、置換基を有していてもよい芳香族基、および置換基を有していてもよい共役二重結合を有する複素環基からなる群から選ばれる基;
Yが有していてもよい置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、シアノ基、フェノキシ基、ベンゾイルアミノ基、炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、炭素原子数2〜7のアルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、および炭素原子数1〜6のアルキルアミノスルホニル基からなる群より選択される一個以上の置換基;
Yが有する置換基が芳香族基を含む場合には、その芳香族環上に、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、およびシアノ基からなる群より選択される一個以上の置換基をさらに有していてもよい]
【化2】

〔2〕
[式〔2〕中、Q、nおよびRは、式〔1〕において定義したとおり]
【化3】

〔3〕
[式〔3〕中、Yは、式〔1〕において定義したとおり]。
【請求項2】
一般式〔5〕で表される2−ナフトール誘導体と、一般式〔3〕で表される化合物とを反応させ、一般式〔6〕で表される2−ナフトール誘導体を調製する工程、および、一般式〔6〕で表される2−ナフトール誘導体中の基−ORを脱保護し水酸基に変換する工程を含む、一般式〔4〕で表される2−ナフトール誘導体の製造方法:
【化4】

〔4〕
[式〔4〕中、
Qは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、およびニトロソ基からなる群から選ばれる基;
nは、0〜6の整数;および、
Yは、置換基を有していてもよい芳香族基、および置換基を有していてもよい共役二重結合を有する複素環基からなる群から選ばれる基;
Yが有していてもよい置換基は、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、シアノ基、フェノキシ基、ベンゾイルアミノ基、炭素原子数2〜7のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、炭素原子数2〜7のアルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、および炭素原子数1〜6のアルキルアミノスルホニル基からなる群より選択される一個以上の置換基;
Yが有する置換基が芳香族基を含む場合には、その芳香族環上に、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、およびシアノ基からなる群より選択される一個以上の置換基をさらに有していてもよい]
【化5】

〔5〕
[式〔5〕中、
Q、およびnは、式〔4〕において定義したとおり;
は、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアシル基、およびベンジル基からなる群から選ばれる基]
【化6】

〔3〕
[式〔3〕中、Yは、式〔4〕において定義したとおり]
【化7】

〔6〕
[式〔6〕中、
Q、Y、およびnは、式〔4〕において定義したとおり;
は、式〔5〕において定義したとおり]。
【請求項3】
一般式〔5〕および一般式〔6〕において、Rが炭素原子数2〜6のアシル基である、請求項2に記載の一般式〔4〕で表される2−ナフトール誘導体の製造方法。
【請求項4】
がアセチル基である、請求項3に記載の一般式〔4〕で表される2−ナフトール誘導体の製造方法。
【請求項5】
一般式〔6〕で表される2−ナフトール誘導体中の基−ORの脱保護を、一般式〔6〕で表される化合物と塩基性化合物とを反応させることにより行う、請求項3または4に記載の一般式〔4〕で表される2−ナフトール誘導体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−247799(P2008−247799A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90611(P2007−90611)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】