説明

2−フェノキシフェニル酢酸化合物の製造方法、その中間体およびその製造方法

【課題】 工業生産に適した工程によりフェノキシフェニル酢酸類を製造する方法を提供する。
【解決手段】 ハロ安息香酸類とフェノール類を反応させ、得られる化合物のカルボキシル基を還元してヒドロキシメチル基に変換し、該ヒドロキシメチル基をスルホニル化もしくはハロゲン化した後シアノ化し、さらに加水分解することにより、フェノキシフェニル酢酸類を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品(例えば、特許文献1〜3に記載された医薬品等)の合成中間体である2−フェノキシフェニル酢酸の製造方法およびその中間体2−フェノキシベンジル化合物、さらにはその中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(X)で表される構造を有するフェノキシフェニル酢酸類は、例えば、特許文献1〜3に記載された医薬品等の重要な合成中間体であり、これまでに種々の製造方法が報告されている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1〜3)。
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、XおよびXは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基等を示す。)
しかし非特許文献1において、Manskeらはブロモベンゼンとサリチルアルデヒドの銅塩からフェノキシベンズアルデヒドを得た後、馬尿酸と反応させ、さらにアルカリ性過酸化水素で酸化することにより2−フェノキシフェニル酢酸を製造しているが、ブロモベンゼンとサリチルアルデヒドの銅塩からフェノキシ安息香酸を製造する際、反応に200〜210℃という高温を要するのに加え、収率が32%と低いという問題があり、工業生産にはあまり適していない。
【0005】
また、非特許文献2では、フェノキシアセトフェノンをWillgerodt反応させることによりフェノキシフェニル酢酸類を合成しているが、Willgerodt反応による工程は、悪臭が発生するなどその工業化が困難である。
【0006】
さらに、非特許文献3では、出発物質にクロロ安息香酸を用い、フェノキシ安息香酸を経由してフェノキシフェニル酢酸類を合成しているが、フェノキシ安息香酸をフェノキシフェニル酢酸に導く際にArndt-Eistert反応を行なっており、このArndt-Eistert反応による工程は、取り扱いに注意を要するジアゾメタンを使用しなければならず、その工業化が困難である。また、クロロ安息香酸からフェノキシ安息香酸を製造する工程では、フェノールをナトリウムエトキシドに溶解させてできたフェノキシドとクロロ安息香酸を、銅粉末を触媒に用いて反応を行なっているが、反応に190℃という高温を要するのに加え、収率が49%と低いという問題があり、工業生産にはあまり適していない。
【0007】
特許文献4では実施例において、ブロモ安息香酸メチルとトリフルオロメチルフェノールから、フェノキシ安息香酸メチル化合物を製造しているが、工業的にはより安価なクロロ安息香酸類を用いて収率よく反応させることが好ましく、このクロロ安息香酸類を用いた製造例は開示されていない。さらに、ブロモ安息香酸メチルとクロロ安息香酸類とでは置換基が臭素と塩素、カルボン酸エステルとカルボン酸とで異なっており、それら置換基の差による反応性の差を考えれば、クロロ安息香酸類を用いた場合の結果は予想し得ない。
【0008】
従って、フェノキシフェニル酢酸類を工業的に製造する方法としては上記の方法は現実的ではなく、工業生産に適した工程によるフェノキシ酢酸類の製造方法の確立が求められていた。
【特許文献1】米国特許第4145434号明細書
【特許文献2】仏国特許発明第1558916号明細書
【特許文献3】仏国特許発明第1559622号明細書
【特許文献4】英国特許第2238789号明細書
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 72, 4797 (1950)
【非特許文献2】J. Med. Chem., 25, 855 (1982)
【非特許文献3】J. Med. Chem., 26, 1352 (1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、工業生産に適した工程によりフェノキシフェニル酢酸類を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、フェノキシフェニル酢酸類の製造方法に関して、ハロ安息香酸類とフェノール類を反応させ、得られる化合物のカルボキシル基を還元してヒドロキシメチル基に変換し、該ヒドロキシメチル基をスルホニル化もしくはハロゲン化した後シアノ化し、さらに加水分解するという容易な工程によりフェノキシフェニル酢酸類を製造できることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
〔1〕式(A)
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Zはヒドロキシメチル基、ハロゲン化メチル基、−COORで表される基(Rは、炭素数1〜12のアルキル基を示す)、RSOCH−で表される基(Rは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいアルキル基を示す)もしくはシアノメチル基を示し、ベンゼン環周囲の数字は位置番号を示す。]で表される化合物。
〔2〕上記〔1〕記載の式(A)において、Zがヒドロキシメチル基、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
〔3〕上記〔1〕記載の式(A)において、Zがハロゲン化メチル基、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
〔4〕上記〔1〕記載の式(A)において、Zが−COORで表される基(Rは、炭素数1〜12のアルキル基を示す)、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
〔5〕上記〔1〕記載の式(A)において、ZがRSOCH−で表される基(Rは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいアルキル基を示す)、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
〔6〕上記〔1〕記載の式(A)において、Zがシアノメチル基、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
〔7〕式(II)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物を、還元して式(III)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物に変換する工程を含むことを特徴とする式(VI)
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物の製造方法。
〔8〕(i)式(II)
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物を、還元して式(III)
【0022】
【化7】

【0023】
(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物を得る工程
(ii)式(III)で表される化合物をハロゲン化またはスルホニル化して式(IV)
【0024】
【化8】

【0025】
(式中、Lはハロゲン原子または、RSOCH−で表される基(Rは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示す。)
で表される化合物を得る工程
(iii)式(IV)で表される化合物をシアノ化して式(V)
【0026】
【化9】

【0027】
(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物を得る工程
(iv)式(V)で表される化合物を加水分解する工程
から選ばれる工程を少なくとも一つ含む式(VI)
【0028】
【化10】

【0029】
(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物の製造方法。
〔9〕(i)〜(iv)の工程のすべてを含む上記〔8〕記載の製造方法。
〔10〕式(I)
【0030】
【化11】

【0031】
(式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物を式(VII)
【0032】
【化12】

【0033】
(式中、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物と反応させることを特徴とする式(II)
【0034】
【化13】

【0035】
(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物の製造方法。
〔11〕式(II)で表される化合物が、上記〔10〕記載の方法により製造されている上記〔7〕〜〔9〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、医薬品の製造において有用である2−フェノキシフェニル酢酸類を工業生産に適した工程により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法について、スキームIに示す。
【0038】
【化14】

【0039】
(式中、各記号は前記と同義である。)
【0040】
本発明で用いられている記号および用語の定義を以下に説明する。
X、YおよびRで示される炭素数1〜12のアルキル基は、分岐状であっても直鎖状であってもよく、例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0041】
XおよびYで示される炭素数1〜12のアルコキシル基は、分岐状であっても直鎖状であってもよく、例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1〜6のアルコキシル基が好ましい。
【0042】
XおよびYで示されるアリール基は、好ましくは炭素数6〜10のアリール基であり、例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。これらのうち、フェニル基が特に好ましい。
【0043】
XおよびYで示されるヘテロアリール基は、好ましくは環を構成する原子として炭素原子以外に窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を1〜3個含有する5〜6員の芳香性を有する複素環基およびその縮合へテロ環基であり、例えばチエニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、キノリル基等が挙げられ、特に好ましくはチエニル基である。
【0044】
X、YおよびLで示されるハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
Zで示されるハロゲン化メチル基のハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0045】
で示されるアルキル基は、好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、分岐状であっても直鎖状であってもよく、例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等を挙げることができる。当該アルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としてはハロゲン原子(例、フッ素原子等)等が挙げられる。置換基の数は特に限定されないが、1〜10が好ましく、2以上の場合は、同一の置換基でも異なる置換基であってもよい。
【0046】
で示されるアリール基は、好ましくは炭素数6〜14、より好ましくは炭素数6〜10のアリール基であり、例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。当該アリール基は置換基を有していてもよく、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基(例、メチル基等)、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、ニトロ基等が挙げられる。置換基の数は特に限定されないが、1〜4が好ましく、2以上の場合は、同一の置換基でも異なる置換基であってもよい。
【0047】
次にスキームIの各工程について詳細に説明する。
工程I
本工程は、通常アルカリ及び銅化合物の存在下、化合物(I)と化合物(VII)とを、通常溶媒中で加熱することにより化合物(II)を得る工程である。
本工程は、例えば、化合物(I)と化合物(VII)の混合溶液にアルカリを混合して化合物(VII)をフェノキシドとし、その後銅化合物を添加し加熱下で反応させることにより実施することができる。
【0048】
原料として用いる化合物(I)および化合物(VII)は既知の化合物であり、公知の方法により製造したものを使用することができ、市販の化合物を使用することもできる。
化合物(VII)の使用量は化合物(I)1モルに対して、通常0.5〜2モル、好ましくは0.8モル〜1.5モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が2モルより多いと未反応で残る化合物(VII)の量が必要以上に多くなり、経済的に不利となりやすく、0.5モルより少ないと化合物(I)が未反応のまま残ることになり、経済的に不利となりやすい。
【0049】
アルカリとしては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラートなどをあげることができ、安全性、経済性の観点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
アルカリの添加量としては化合物(I)と化合物(VII)の合計モル数に対して通常0.8〜1.5倍モルであり、好ましくは0.9〜1.1倍モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が1.5倍モルより多いと過剰のアルカリにより副反応が起こりやすくなり、0.8倍モルより少ないと、化合物(I)および化合物(VII)が未反応のまま残ることになり、経済的に不利となりやすい。
【0050】
銅化合物としては塩化銅、ヨウ化銅、臭化銅などのハロゲン化銅に加え酸化銅、炭酸銅などが挙げられ、触媒としての活性、化合物の安定性の観点から塩化銅、臭化銅、酸化銅が好ましい。
銅化合物の添加量としては化合物(VII)1モルに対して通常0.01〜1モルであり、好ましくは0.04〜1モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が1モルより多いと反応後の生成物取り出しの際に銅塩の除去が困難となり、0.01モルより少ないと、触媒としての活性が不十分となり、反応が完結しないなどの理由で不利となりやすい。
【0051】
反応はキシレン、トルエン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類及びこれらの混合溶媒を使用して行われ、収率及び反応後の生成物の取り出しやすさを考慮するとキシレンもしくはクロロベンゼンが好ましい。
溶媒の使用量としては化合物(I)1kgに対して通常5〜50Lであり、好ましくは5〜15Lである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が50Lより多いと反応速度の低下を招き、また不必要に多量の溶媒を使うことになり、経済的に不利になりやすく、5Lより少ないと、反応混合物中のスラリー濃度が高すぎ、円滑な撹拌が不可能となるおそれがある。
【0052】
反応は通常80℃〜250℃で行われ、好ましくは100℃〜200℃で行われる。反応時間としては、通常0.5〜100時間、好ましくは1〜10時間である。
【0053】
上記反応により得られる化合物(II)は、常法に従い反応混合物より単離することができる。たとえば、まず反応液を酸性にした後、トルエン、キシレン、イソプロピルエーテル等の溶媒で抽出後、溶媒を留去することによって単離できる。必要に応じて再結晶などの精製を行ってもよい。
【0054】
工程II
本工程は、化合物(II)を還元して化合物(III)を得る工程である。
本工程は、例えば、溶媒中で還元剤と化合物(II)とを接触させて反応させることにより実施することができる。
【0055】
還元剤としては水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化アルミニウム等の水素化アルミニウム化合物、ジボラン、あるいは水素化ホウ素ナトリウム−硫酸、水素化ホウ素ナトリウム−BF・エーテル錯体、水素化ホウ素ナトリウム−BF・テトラヒドロフラン(THF)錯体、水素化ホウ素ナトリウム−塩化アルミニウムの組み合わせで代表される、水素化ホウ素ナトリウムと酸から得られる水素化ホウ素化合物が使用できるが、経済性、反応の容易さ、安全性の観点から水素化ホウ素ナトリウムと硫酸、BF・エーテル錯体またはBF・THF錯体との組み合わせが好ましい。
【0056】
還元剤として水素化アルミニウム化合物を使用する場合の使用量は化合物(II)1モルに対して、通常0.7〜5モル、好ましくは0.7〜3モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が5モルより多いと必要以上の還元剤を使用することになり経済的に不利となりやすく、0.7モルより少ないと反応が完結しないおそれがある。
還元剤としてジボランを使用する場合の使用量は化合物(II)1モルに対して、通常0.7〜5モル、好ましくは0.7〜3モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が5モルより多いと必要以上の還元剤を使用することになり経済的に不利となりやすく、0.7モルより少ないと反応が完結しないおそれがある。
【0057】
還元剤として水素化ホウ素ナトリウムと酸の組み合わせを使用する場合の酸の使用量は水素化ホウ素ナトリウム1モルに対して、通常0.5〜5モル、好ましくは0.5〜2モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が5モルより多いと過剰の酸が副反応の原因となり不利となりやすく、0.5モルより少ないと水素化ホウ素ナトリウムの活性化が不十分で反応が未達となりやすい。
還元剤として水素化ホウ素ナトリウムと酸の組み合わせを使用する場合の水素化ホウ素ナトリウムの使用量は化合物(II)1モルに対して、通常0.3〜5モル、好ましくは0.5〜4モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が5モルより多いと還元剤を必要以上に使用することになり経済的に不利となりやすく、0.3モルより少ないと反応が完結せず、未反応の化合物(II)が残りやすい。
【0058】
溶媒としてはジエチルエーテル、THF、ジオキサン、ジメトキシエタン、t-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、あるいはこれらエーテル類とトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素との混合溶媒が使用できるが、安全性を考慮するとTHFもしくはシクロペンチルメチルエーテルの使用が好ましい。溶媒の使用量としては化合物(II)1kgに対して通常2〜50Lであり、好ましくは2〜10Lである。
【0059】
反応は通常0℃〜80℃で行われ、好ましくは5℃〜70℃で行われる。反応時間としては、通常0.5〜100時間、好ましくは0.5〜24時間である。
【0060】
上記反応により得られる化合物(III)は、常法に従い反応混合物より単離することができる。例えば、反応混合物に酸もしくはアルカリの水溶液、または水を加え、トルエン、キシレン、イソプロピルエーテル等の溶媒で抽出した後、溶媒を留去することによって化合物(III)を単離することができる。必要に応じて再結晶、カラムクロマトグラフィーによる精製を行ってもよいが、精製することなく濃縮残渣として、もしくは濃縮することなく抽出溶媒の溶液として次工程に使用してもよい。
【0061】
工程IIの代わりに工程II’-1および工程II’-2を実施することにより、化合物(II)から化合物(III)を製造することもできる。
工程II’-1
本工程は、化合物(II)をエステル化して式(VIII)で表される化合物(以下、化合物(VIII)という。)を得る工程である。
本工程は、公知のエステル化法により実施することができる。
【0062】
例えば、塩基の存在下で化合物(II)とR-Halで表される化合物(Rは前記と同義であり、Halは、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を示す。)と反応させることにより行なうことができる。
あるいは、酸の存在下で化合物(II)とR-OHで表される化合物(Rは前記と同義である。)と反応させることにより行なうことができる。エステル化にあたり、化合物(II)を酸ハライド化してもよい。
【0063】
工程II’-2
本工程は工程II’-1で得た化合物(VIII)を還元して化合物(III)を得る工程である。
本工程は、工程IIと同様の工程により実施することができるが、反応がより容易に進行することから、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化アルミニウム等の水素化アルミニウム化合物、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素ナトリウムと塩化カルシウムもしくは塩化リチウムから調製される水素化ホウ素化合物を用いるのが好ましい。
【0064】
工程III
本工程は、化合物(III)をハロゲン化して式(IV)で表されるフェノキシベンジルハライド(L=ハロゲン原子)を、またはスルホニル化して式(IV)で表されるフェノキシベンジルスルホネート(L=RSOCH−で表される基)を得る工程である。(式(IV)で表されるフェノキシベンジルハライドと式(IV)で表されるフェノキシベンジルスルホネートを、以下総して化合物(IV)という。)
本工程は、例えば、化合物(III)を溶媒中でハロゲン化剤またはスルホニル化剤と反応させることにより実施することができる。
【0065】
ハロゲン化剤としては塩化チオニル、臭化チオニル、オキシ塩化リン、五塩化リン、三臭化リン等を用いることができるが、経済性、副生する廃棄物の観点から塩化チオニルが好ましい。
ハロゲン化剤として塩化チオニルを使用する場合の使用量は化合物(III)1モルに対して、通常1〜3モル、好ましくは1〜2モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が3モルより多いと過剰のハロゲン化剤が反応液中に残り反応後の処理が面倒になるとともに経済的に不利であり、1モルより少ないと反応が未達で終わり、未反応の化合物(III)が残りやすい。
【0066】
ハロゲン化反応は通常0℃〜100℃で、好ましくは10℃〜90℃で行われる。反応時間としては、通常1〜100時間、好ましくは1〜24時間である。
【0067】
スルホニル化剤としては、トルエンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド、無水メタンスルホニル、無水ベンゼンスルホニル等を用いることができるが、反応の容易さからメタンスルホニルクロリドが好ましい。
スルホニル化剤を使用する場合の使用量は化合物(III)1モルに対して、通常1〜5モル、好ましくは1〜2モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が5モルより多いと過剰のスルホニル化剤が反応液中に残り、反応後の処理が面倒になるとともに、経済的にも不利であり、1モルより少ないと反応が未達で終わり、未反応の化合物(III)が残りやすい。
【0068】
スルホニル化反応は通常−10℃〜100℃で、好ましくは0℃〜60℃で行わる。反応時間としては、通常0.5〜100時間、好ましくは1〜24時間である。
【0069】
上記ハロゲン化、スルホニル化の際に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等の有機塩基を添加してもよい。
【0070】
上記ハロゲン化、スルホニル化の際に使用される溶媒としてはヘプタン、ヘキサン、オクタン等の炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、THF、ジオキサン等のエーテル類が使用可能であり、経済性、反応後の副生成物の除去の容易さの観点からトルエンが好ましい。水と混和しない溶媒を使用する場合には水を添加して水、有機溶媒の二層反応として実施することもできる。クロロホルム等の低沸点のハロゲン化溶媒は、環境面・安全面から好ましくない。
溶媒の使用量としては化合物(III)1kgに対して通常1〜10Lであり、好ましくは1〜8Lである。
また、水を添加する場合の添加量としては化合物(III)1kgに対して通常0.1〜10Lであり、好ましくは0.2〜1Lである。
【0071】
上記反応により得られる化合物(IV)は、常法に従い反応混合物より単離することができる。例えば、反応混合物に酸もしくはアルカリの水溶液、または水を加え、トルエン、キシレン、イソプロピルエーテル等の溶媒で抽出した後、溶媒を留去することによって単離できる。必要に応じて再結晶、カラムクロマトグラフィーによる精製を行ってもよいが、精製することなく濃縮残渣として、もしくは濃縮することなく抽出溶媒の溶液として次工程に使用してもよい。
【0072】
工程IV
本工程は、化合物(IV)をシアノ化することにより化合物(V)に導く工程である。
本工程は、例えば、溶液中、化合物(IV)とシアノ化剤を反応させることにより、実施することができる。
【0073】
シアノ化剤としてはシアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化銅などが使用できるが、経済性、取り扱いの容易さを考慮するとシアン化ナトリウムが好ましい。
シアノ化剤の使用量は化合物(IV)1モルに対して、通常0.9〜5モル、好ましくは1〜2モルである。かかる範囲外であっても実施は可能であるが、使用量が5モルより多いと反応に関与しないシアノ化剤を使用することになり、経済的に不利であり、0.9モルより少ないと未反応で残る化合物(IV)が多量に残りやはり経済的に不利となりやすい。
【0074】
溶媒としては水、エタノール、メタノール、2−プロパノール、1−プロパノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、DMF、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、アセトン、2−ブタノン等の非プロトン性極性溶媒、もしくは上記溶媒とトルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類との混合溶媒中で実施できるが、安全性、経済性、取り扱いの容易さからエタノールもしくはメタノールと水の混合溶媒が好ましい。溶媒の使用量としては化合物(IV)1kgに対して通常1〜20Lであり、好ましくは2〜10Lである。
【0075】
反応は通常10℃〜150℃で、好ましくは50℃〜120℃で行わる。反応時間としては、通常1〜100時間、好ましくは1〜24時間である。
【0076】
上記反応により得られる化合物(V)は、常法に従い反応混合物より単離することができる。例えば、反応混合物に酸もしくはアルカリの水溶液、または水を加え、トルエン、キシレン、イソプロピルエーテル等の溶媒で抽出した後、溶媒を留去することによって単離できる。必要に応じて再結晶、カラムクロマトグラフィーによる精製を行ってもよいが、精製することなく濃縮残渣として、もしくは濃縮することなく抽出溶媒の溶液として次工程に使用してもよい。
【0077】
工程V
本工程は、化合物(V)を加水分解することで化合物(VI)を得る工程である。
本工程は、例えば、水を含んだ溶媒中、化合物(V)を塩基または酸で処理することにより実施することができる。
【0078】
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリが、酸としては、硫酸、塩酸等の無機酸が使用でき、反応の容易さ、後処理の容易さから水酸化ナトリウムの使用が好ましい。
【0079】
水酸化アルカリを使用する場合、その使用量は化合物(V)1モルに対して、通常1〜10モル、好ましくは1モル〜5モルである。使用量が10モルより多くても反応は進行するが、必要以上に過剰のアルカリを使用することになり経済的に不利であり、1モルより少ないと反応が完結せず、生成物の収率は低収率となりやすい。
【0080】
酸を使用する場合、その使用量は化合物(V)1モルに対して、通常1〜10モル、好ましくは1〜5モルである。使用量が10モルより多くても反応は進行するが、必要以上に過剰の酸を使用することになり経済的に不利であり、1モルより少ないと反応が完結せず生成物の収率は低収率となりやすい。
【0081】
溶媒としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、または、これらアルコール類と水との混合溶媒もしくは水のみ、あるいはこれら水を含む溶媒とトルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素の二層に分離してもよい混合溶媒等が使用でき、反応後の生成物の単離・精製の容易さの観点から、エチレングリコールと水との混合溶媒が好ましい。
溶媒の使用量としては化合物(V)1kgに対して通常1〜10Lであり、好ましくは1〜5Lである。
【0082】
反応は通常50℃〜200℃で、好ましくは80℃〜160℃で行われる。反応時間としては、通常1〜100時間、好ましくは2〜24時間である。
【0083】
得られた化合物(VI)は反応液を酸性とすることにより析出した結晶をそのままろ過することにより単離してもよいが、トルエン、キシレン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル等の溶媒で抽出後、濃縮、晶析することにより単離することもできる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
実施例1
5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の製造 (1,3-ジメチル-2-イミダゾリジオン(DMI)-キシレン中の反応。触媒臭化銅)
60%水素化ナトリウム(油性)(10.97g、275mmole)をDMI(100mL)に懸濁させ、2,5-ジクロロ安息香酸(25.0g、131mmole)、フェノール(14.8g、157mmole)、キシレン(125mL)、DMI(25mL)の溶液を0-25℃で滴下した。さらに臭化第一銅(0.94g、6.54mmole)を加えた後、反応液を130-135℃で3時間撹拌した。反応液を室温に冷却後、水(125mL)に注ぎ、濃硫酸(12.8g)を加えてpHを1.5に調整した。有機層を分液した後、水層をキシレン(25mL)で抽出し、得られた有機層を合した。有機層を水(50mL)で4回洗浄後、有機層に20%水酸化ナトリウム水溶液(28.55g)と水(50mL)を加え、水層(125.6g)を分液して得た。この水層50.3gをとり、10%塩酸(25.3g)に滴下した後、ヘプタン−イソプロピルエーテル(IPE)(2:1、27mL)を加えた。0℃に冷却後、生じた結晶をろ過し、さらにヘプタン−IPEで洗浄して、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸を淡褐色固体(9.00g、84.6%)として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : d 8.13(d, 1H, J = 2.8(Hz)), 7.44-7.06(m, 6H), 6.84(d, 1H, J = 8.8).
【0086】
実施例2
5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の製造 (キシレン中の反応。触媒臭化銅)
2,5-ジクロロ安息香酸(3.00g、15.8mmole)、フェノール(1.77g、18.9mmole)のキシレン(30mL)溶液を65-70℃に加熱し、水酸化カリウム(1.85g、33.0mmole)をゆっくり添加した。さらに内温を138℃に昇温し、キシレンを留去した。新たにキシレンを、留出したキシレンと同容量補充しながら留去を行い、最終的にキシレン40mLを留去した。反応液に臭化銅(0.11g、0.77mmole)を加え、140℃で1時間加熱還流した。反応液に水を加えた後、硫酸でpHを1とした。分液し、有機層に活性炭(100mg)を加えた後、ろ過した。濾液を濃縮し、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸を淡赤色固体(3.8g、97%)として得た。
【0087】
実施例3
5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の製造 (N-メチルピロリドン中の反応。触媒臭化銅)
2,5-ジクロロ安息香酸(500mg、2.62mmole)、フェノール(260mg、2.75mmole)のN-メチルピロリドン(5mL)溶液に0℃で60%水素化ナトリウム(油性)(215mg、5.37mmole)を添加した。さらに臭化第一銅(150mg、1.04mmole)を加えた後、反応液を160℃で2.5時間加熱撹拌した。HPLC分析(UV検出器。検出波長210nm)の結果、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の溶出ピークの面積百分率は76%であった。
【0088】
実施例4
5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の製造 (クロロベンゼン中の反応。触媒臭化銅)
2,5-ジクロロ安息香酸(20.3g、106.3mmole)、フェノール(12.0g、127.5mmole)のクロロベンゼン(203mL)溶液に、50%水酸化カリウム水溶液(25.0g、223.2mmole)を加えた。クロロベンゼン(50mL)を追加しながら内温120-130℃で溶媒を130mL留去した後、臭化銅(760mg、5.31mmole)を加え、内温125℃で5時間撹拌した。反応液を、硫酸(10.47g)と水(100mL)から調製した希硫酸にあけた後、反応容器を水(20mL)、クロロベンゼン(10mL)で洗浄し、先の混合物と合した。得られた混合液に活性炭(1.0g)、セライト(1.0g)を加え60℃で30分撹拌後ろ過した。濾液を分液して得られた有機層を減圧下濃縮し、クロロベンゼンを140mL留去した。濃縮液にヘプタン(40mL)を加え、冷却後生じた結晶を濾過した後、ヘプタン(30mL)で洗浄して5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸を淡褐色固体(19.95g、75.1%)として得た。
【0089】
実施例5
5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の製造 (DMF中の反応。触媒臭化銅)
2,5-ジクロロ安息香酸(500mg、2.62mmole)、フェノール(260mg、2.75mmole)のDMF(5mL)溶液に0℃で60%水素化ナトリウム(油性)(215mg、5.37mmole)を添加した。さらに臭化第一銅(75mg、0.52mmole)を加えた後、反応液を155℃で2.5時間加熱撹拌した。HPLC分析(UV検出器。検出波長210nm)の結果、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の溶出ピークの面積百分率は83%であった。
【0090】
実施例6
5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の製造 (DMF中の反応。触媒酸化第一銅)
臭化銅の変わりに酸化第一銅(150mg、1.0mmole)を用い、実施例5と同様に反応を行った。HPLC分析(UV検出器。検出波長210nm)の結果、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の溶出ピークの面積百分率は89%であった。
【0091】
実施例7
5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の製造 (DMF中の反応。触媒塩化第一銅)
臭化銅の変わりに塩化第一銅(103mg、1.0mmole)を用い、実施例5と同様に反応を行った。HPLC分析(UV検出器。検出波長210nm)の結果、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の溶出ピークの面積百分率は80%であった。
【0092】
実施例8
5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールの製造
水素化ホウ素ナトリウム(5.71g、151mmole)をTHF(50mL)に懸濁し、−15〜−10℃で3弗化ホウ素エーテル錯体(20.1mL、201mmole)を滴下した。生じた懸濁液を5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸(22.0g、88.5mmole)のTHF溶液に0℃以下で滴下し、室温で1晩撹拌した。水を加えて反応を停止した後、溶液を濃縮した。残渣をトルエンに溶かし、20%NaOH水溶液で洗浄後、分液し、有機層を濃縮して5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールを無色油状物(15.52g。粗収率74.7%)として得た。
さらに水層から5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸(7.0g、31.8%)を回収した。
無色油状物として得られた5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールをカラムクロマトグラフィーで精製後、トルエン−ヘプタンで再結晶すると純粋な表題化合物が得られた。
融点 53.3-53.9℃
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : d 7.47(d, 1H, J = 2.4), 7.34(t, 2H, J = 7.2), 7.19-7.10(m, 2H), 6.96(d, 2H, J = 8.0), 6.79(d, 2H, J = 8.4), 4.76(s, 2H).
【0093】
実施例9
5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールの製造
THF(13.2mL)に水素化ホウ素ナトリウム(4.88g、129mmole)を懸濁させ、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸(10.7g、43.0mmole)のTHF(23mL)溶液を滴下した。反応液を50℃に昇温後、濃硫酸(6.33g、64.6mole)のTHF(24mL)溶液を50℃で1時間かけて滴下した。反応液を室温に冷却し、水(30g)を加えて反応を停止した後、35%塩酸を加えてpH1とした。水(100mL)を加えた後、トルエンで抽出(100mLx2)した。合した有機層を水洗後、濃縮して粗製の5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールを無色油状物(11.7g)として得た。HPLC分析(UV検出器。検出波長210nm)の結果、5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールの溶出ピークの面積百分率は94.6%であった。
【0094】
実施例10
5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールの製造 (NaBH4とBF3・THFによる還元)
THF(6.0mL)に水素化ホウ素ナトリウム(0.342g、9.05mmole)を懸濁させ50℃に昇温後、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸(2.0g、8.04mmole)のTHF(4mL)溶液を滴下した。50℃で30分撹拌後、BF3・THF錯体(BF3として45%含有。1.45g、9.60mmole)を50℃で20分かけて滴下した。滴下終了後50℃で1時間撹拌し、反応液をHPLCで分析(UV検出器。検出波長210nm)したところ、5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコールと5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸の比は99.9:0.1(HPLCピーク面積比)であった。
【0095】
実施例11
5-クロロ-2-フェノキシ安息香酸エチルの製造
5-クロロ-2-フェノキシ安息香酸(1.0g, 3.82mmole)をDMF(9mL)に溶解し、ジイソプロピルエチルアミン(1.0mL, 5.7mmole)、臭化エチル(0.43mL, 5.7mmole)を加えて、50℃で3時間撹拌した。反応液に10%塩酸を加え、トルエンで抽出した。有機層を5%重曹水で洗浄し、有機層を濃縮乾固したところ、粗製の5-クロロ-2-フェノキシ安息香酸エチルが(0.84g)得られた(76.4%)。
カラムクロマトグラフィーにより精製し、5-クロロ-2-フェノキシ安息香酸エチルを無色固体(0.76g、68.3%)として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : d 7.88(d, 1H, J = 2.4), 7.41(dd, 1H, J = 12, 3.2), 7.32(m, 2H), 7.08(t, 1H, J = 7.2), 6.94(m, 3H4), 4.26(q, 2H, J = 6.8), 1.23(t, 3H, J = 7.2).
【0096】
実施例12
5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルクロリドの製造
実施例8で得た5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルアルコール(12.8g、54.5mmole)をトルエン(90mL)に溶かし、室温で塩化チオニル(10.2g、81.8mmole)を滴下した。室温で1晩撹拌後、水(70mL)、トルエン(100mL)を加え分液した。有機層を水洗後、濃縮して粗製の5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルクロリド(13.2g)を得た。HPLC分析(UV検出器。検出波長210nm)の結果、5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルクロリドの溶出ピークの面積百分率は84.0%であった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : d 7.47(d, 1H, J = 2.8), 7.37-6.98(m, 6H), 6.79(d, 1H, J = 8.4), 4.64(s, 2H).
【0097】
実施例13
5-クロロ-2-(フェノキシ)フェニルアセトニトリルの製造
実施例9で得た5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルクロリド(13.0g、51.4mmole)をエタノール(80mL)に溶かし、シアン化ナトリウム(3.02g、61.6mmole)の水(6.5mL)溶液を加えた後、80℃で3時間撹拌した。室温に冷却後、水(100mL)を加え、トルエン抽出(120mLx3)した。合した有機層を濃縮し、粗製の5-クロロ-2-(フェノキシ)フェニルアセトニトリル(14.5g)を得た。HPLC分析(UV検出器。検出波長210nm)の結果、5-クロロ-2-(フェノキシ)ベンジルシアニドの溶出ピークの面積百分率は66.1%であった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : d 7.49(d, 1H, J = 2.4), 7.37(t, 2H, J = 7.6), 7.23-7.15(m, 2H), 6.98(dd, 2H, J = 9.6, 0.8), 6.79(d, 2H, J = 8.8), 3.77(s,2H).
【0098】
実施例14
5-クロロ-2-(フェノキシ)フェニル酢酸の製造
5-クロロ-2-(フェノキシ)フェニルアセトニトリル(14.5g、51.4mmole)のエチレングリコール(40mL)溶液に水(40mL)、水酸化ナトリウム(6.57g、164.3mmole)、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(1.05g、04.6mmole)を加え、120℃で3.5時間撹拌した。反応液を50℃に冷却後、水(50mL)を加え、トルエンで洗浄した(100mLx1、25mLx1)。得られた水層を35%塩酸でpH1.2とした後、トルエン(100mL)で抽出し、さらにトルエン(20mL)で2回抽出した。
合した有機層を水(70mL)で洗浄した後、減圧下で濃縮し、残渣をトルエン−ヘプタンで晶析して、5-クロロ-2-(フェノキシ)フェニル酢酸を無色固体(8.74g、5-クロロ-2-(フェノキシ)安息香酸から59.1%)として得た。
融点 125.0-125.4℃
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : d 7.49(d, 1H, J = 2.4), 7.37(t, 2H, J = 7.6), 7.23-7.15(m, 2H), 6.98(dd, 2H, J = 9.6, 0.8), 6.79(d, 2H, J = 8.8), 3.77(s,2H).
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、2−フェノキシフェニル酢酸類の製造方法に関し、更には2−フェノキシフェニル酢酸類の製造に有用な中間体化合物およびその製造方法に関しており、工業的生産に適した2−フェノキシフェニル酢酸類の製造方法、その中間体およびその製造方法を提供することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)
【化1】


[式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Zはヒドロキシメチル基、ハロゲン化メチル基、−COORで表される基(Rは、炭素数1〜12のアルキル基を示す)、RSOCH−で表される基(Rは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいアルキル基を示す)もしくはシアノメチル基を示し、ベンゼン環周囲の数字は位置番号を示す。]で表される化合物。
【請求項2】
請求項1記載の式(A)において、Zがヒドロキシメチル基、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
【請求項3】
請求項1記載の式(A)において、Zがハロゲン化メチル基、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
【請求項4】
請求項1記載の式(A)において、Zが−COORで表される基(Rは、炭素数1〜12のアルキル基を示す)、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
【請求項5】
請求項1記載の式(A)において、ZがRSOCH−で表される基(Rは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいアルキル基を示す)、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
【請求項6】
請求項1記載の式(A)において、Zがシアノメチル基、Xが5位の塩素原子、Yが水素原子である化合物。
【請求項7】
式(II)
【化2】


(式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物を、還元して式(III)
【化3】


(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物に変換する工程を含むことを特徴とする式(VI)
【化4】


(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物の製造方法。
【請求項8】
(i)式(II)
【化5】


(式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物を、還元して式(III)
【化6】


(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物を得る工程
(ii)式(III)で表される化合物をハロゲン化またはスルホニル化して式(IV)
【化7】


(式中、Lはハロゲン原子または、RSOCH−で表される基(Rは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示す。)
で表される化合物を得る工程
(iii)式(IV)で表される化合物をシアノ化して式(V)
【化8】


(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物を得る工程
(iv)式(V)で表される化合物を加水分解する工程
から選ばれる工程を少なくとも一つ含む式(VI)
【化9】


(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物の製造方法。
【請求項9】
(i)〜(iv)の工程のすべてを含む請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
式(I)
【化10】


(式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物を式(VII)
【化11】


(式中、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。)
で表される化合物と反応させることを特徴とする式(II)
【化12】


(式中、各記号は前記と同義である。)
で表される化合物の製造方法。
【請求項11】
式(II)で表される化合物が、請求項10記載の方法により製造されている請求項7〜9記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−69953(P2006−69953A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254934(P2004−254934)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】