説明

2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法

【課題】 高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを、効率よく高い収率で得ることができる2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法を提供する。
【解決手段】 2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法は、特定の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物と、脂肪族炭化水素とを混合し、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の医薬品の製造用中間体等として有用な2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法としては、例えば、ジハロアセトニトリルとシステインアルキルを反応させ、2−(ジハロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得た後に、さらに2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得る製造方法等が知られている。具体的には、下式に示すように、ジクロロアセトニトリルとL−システインメチル塩酸塩とをナトリウムメトキシドの存在下に反応させて、2−(ジクロロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを得て単離した後、さらにナトリウムメトキシドを添加して、反応液からカラムを用いて2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを分離する製造方法等が知られている(特許文献1)。
【0003】
【化1】



【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第09/005998号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、ジクロロアセトニトリルとL−システインメチル塩酸塩とをナトリウムメトキシドの存在下に反応した際に副生するアンモニアが起因すると考えられる副生成物が生成しやすい。したがって、前記副生成物の生成等を避けるために2−(ジクロロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを中間体として単離しているものと考えられる。しかしながら、前記中間体は、分解しやすいこと等により、単離操作を行うとL−システインメチル塩酸塩に対して、得られた2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの収率が低くなる等の不具合があった。
【0006】
さらに、特許文献1の製造方法では、カラムを用いて反応液中から2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを分離しているので、反応液をカラムに通過させるのに時間を要すため、処理能力の面で効率的とはいえない。また、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの収率が低くなるおそれがあり、工業的に有利な方法ではない。
【0007】
本発明の目的は、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを、効率よく高い収率で得ることができる2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示すとおり、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法に関する。
【0009】
項1.式(1);
【0010】
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジハロアセトニトリルと、式(2);
【0011】
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基を示す。)
で表されるシステインアルキルとを反応させる工程を経て得られた式(3);
【0012】
【化4】

(式中、Xは式(1)におけるXと同じ原子を示し、Rは式(2)におけるRと同じ基を示す。)
で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物と、脂肪族炭化水素とを混合し、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する工程を経て得られる2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法。
【0013】
項2.前記脂肪族炭化水素が、炭素数6または7の脂肪族炭化水素である項1に記載の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法。
【0014】
項3.式(3);
【0015】
【化5】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基を示す。)
で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物と、脂肪族炭化水素とを混合し、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する工程を経て得られる2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの精製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルは、脂肪族炭化水素に高い溶解性を示すのに対して、種々の製造方法で得られた粗生成物中に含まれる不純物は、通常、脂肪族炭化水素に不溶である。そのため、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出することで、粗生成物から2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを分離することができ、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得ることができる。また、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する工程では、カラムを用いた2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの分離方法に比べて、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを効率よく高い収率で得ることができる。したがって、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを簡便な方法で、工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法に関する。
【0018】
本発明にかかる、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物としては、下記式(1)で表されるジハロアセトニトリルと、下記式(2)で表されるシステインアルキルとを反応させることにより、下記式(3)で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物を得ることができる。なお、前記反応は、下記式(1)で表されるジハロアセトニトリルと、下記式(2)で表されるシステインアルキルとを反応させ中間体として下記式(4)で表される2−(ジハロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得る第1反応工程、および第1反応工程で得られた2−(ジハロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルから2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得る第2反応工程を含む。
【0019】
【化6】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
【0020】
【化7】


(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基を示す。)
【0021】
【化8】

(式中、Xは上記式(1)におけるXと同じ原子を示し、Rは上記式(2)におけるRと同じ基を示す。)
【0022】
【化9】

(式中、Xは上記式(1)におけるXと同じ原子を示し、Rは上記式(2)におけるRと同じ基を示す。)
【0023】
上記式(1)で表されるジハロアセトニトリルにおいて、Xは、ハロゲン原子を示す。具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でも、反応性および経済性の観点等から、塩素原子が好ましい。
【0024】
上記式(1)で表されるジハロアセトニトリルの具体例としては、ジフルオロアセトニトリル、ジクロロアセトニトリル、ジブロモアセトニトリル、およびジヨードアセトニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、反応性および経済性の観点等からジクロロアセトニトリルが好適に用いられる。なお、上記式(1)で表されるジハロアセトニトリルは、市販されたものでもよく、種々の公知の方法により製造されたものでもよい。
【0025】
上記式(2)で表されるシステインアルキルにおいて、Rは、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基を示す。Rで示される炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、およびn−ペンチル基等を挙げることができる。
【0026】
上記式(2)において、Rで示される炭素数3〜6のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基等を挙げることができる。また、上記式(2)において、Rで示される炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基としては、シクロプロピルメチル基およびシクロペンチルメチル基等を挙げることができる。
【0027】
上記式(2)で表されるシステインアルキルは、市販のものを用いてもよいし、種々の公知の方法により製造したものを用いてもよい。なお、システインアルキルとしては、塩酸塩等の塩の形状のものを用いることもできる。具体的には、L−システインメチル、L−システインエチル、L−システインn−プロピル、L−システインメチル塩酸塩、L−システインメチルトルエンスルホン酸塩、L−システインエチル塩酸塩、L−システインn−プロピルトルエンスルホン酸塩、L−システインiso−プロピル塩酸塩、L−システインn−ブチル塩酸塩、L−システインシクロプロピル塩酸塩、L−システインシクロプロピルメチル塩酸塩等を挙げることができる。これらの中でも、入手の容易さの観点等から、L―システインメチル塩酸塩が好適に用いられる。
【0028】
上記式(1)で表されるジハロアセトニトリルと、上記式(2)で表されるシステインアルキルとを反応させる第1反応工程で用いられる、ジハロアセトニトリルの使用割合は、システインアルキル1モルに対して、0.8モル以上1.2モル以下であることが好ましく、0.9モル以上1.1モル以下であることがより好ましい。
【0029】
第1反応工程において、前記ジハロアセトニトリルと前記システインアルキルとを反応させる際は、反応を効率的に進めるという観点等から塩基の存在下に行うことが好ましい。
【0030】
前記塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリブチルアミン等が挙げられる。これらの中でも入手の容易さ、および操作性の観点等からナトリウムメトキシドが好適に用いられる。
【0031】
前記塩基の使用割合は、システインアルキル1モルに対して、0.01モル以上0.5モル未満であることが好ましく、0.05モル以上0.2モル以下であることがより好ましい。塩基の使用割合が、0.01モル未満の場合、反応が完結しないため収率が低下するおそれがあり、0.5モル以上の場合、副生成物が増加し収率が低下するおそれがある。
【0032】
前記ジハロアセトニトリルと前記システインアルキルとの第1反応工程は、好ましくは、溶媒の存在下に行われる。前記溶媒としては、反応に対して不活性であれば特に限定されず、例えば、アルコール類等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、およびtert−ブタノール等が挙げられる。
【0033】
前記溶媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記システインアルキル100質量部に対して、10質量部以上2000質量部以下であることが好ましい。溶媒の使用量が2000質量部を超える場合、容積効率が悪化し、経済的でなくなるおそれがある。
【0034】
前記第1反応工程における反応温度は、−80℃以上50℃以下であることが好ましく、−30℃以上30℃以下であることがより好ましく、−20℃以上10℃以下であることがさらに好ましい。反応温度が−80℃未満の場合、反応速度が遅く反応に長時間を要するおそれがあり、50℃を超える場合、副反応が起こりやすく、目的物の収率および純度が低下するおそれがある。
【0035】
反応時間は、反応温度により異なるが、通常、0.5時間以上10時間以下である。
【0036】
前記第1反応工程により得られる上記式(4)で表される中間体2−(ジハロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルは、単離することなく、引き続き次の第2反応工程を行うことが好ましい。単離しないことで、比較的分解しやすい中間体2−(ジハロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの分解を防ぐことができ、目的物の収率の低下を防ぐことができる。さらに、煩雑な操作を省略でき、工業的に有利に製造できる。
【0037】
第2反応工程では、第1反応工程で得られた中間体2−(ジハロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルに塩基を添加することにより、目的物である2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物を得る。
【0038】
前記塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリブチルアミン等が挙げられる。これらの中でも入手の容易さ、操作性の観点等からナトリウムメトキシドが好適に用いられる。
【0039】
前記塩基の使用割合は、第1反応工程で用いたシステインアルキル1モルに対して、0.5モル以上1.5モル以下であることが好ましく、0.8モル以上1.2モル以下であることがより好ましい。塩基の使用割合が、0.5モル未満の場合、反応が完結しないため収率が低下するおそれがあり、1.5モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0040】
第2反応工程は、好ましくは、溶媒の存在下に行われる。前記溶媒としては、反応に対して不活性であれば特に限定されず、例えば、アルコール類等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、およびtert−ブタノール等が挙げられる。なお、工業的に有利に行う観点等から、第1反応工程に用いた溶媒を引き続き用いることが好ましい。
【0041】
前記溶媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、例えば、第1反応工程で用いたシステインアルキル100質量部に対して、10質量部以上2000質量部以下であることが好ましい。溶媒の使用量が2000質量部を超える場合、容積効率が悪化し、経済的でなくなるおそれがある。
【0042】
前記第2反応工程における反応温度は、−80℃以上50℃以下であることが好ましく、−30℃以上30℃以下であることがより好ましく、−10℃以上20℃以下であることがさらに好ましい。反応温度が−80℃未満の場合、反応速度が遅く反応に長時間を要するおそれがあり、50℃を超える場合、副反応が起こりやすく、上記式(3)で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの収率および純度が低下するおそれがある。なお、工業的に有利に行う観点等から、第1反応工程と同じ反応温度で反応させることが好ましい。
【0043】
反応時間は、反応温度により異なるが、通常、0.5時間以上40時間以下である。
【0044】
かくして第2反応工程により得られた前記反応終了後の反応液には、その構造は特定されていないが、第1反応工程で副生するアンモニアに起因する考えられる副生成物、およびその他の反応で副生される副生成物等と考えられる黒色のタール分等が不純物として含まれている。すなわち、反応終了後の反応液は、目的生成物である2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含み、それ以外に不純物を含む粗生成物である。前記不純物等は、通常の晶析等の操作では分離することが出来ず、目的物を分離した際に、得られた2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルが不均一な結晶となるおそれがある。したがって、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得るためには、黒色のタール分等を不純物として含有する粗生成物から2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを分離する必要がある。
【0045】
本発明にかかる下記式(3)で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルは、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物と、脂肪族炭化水素とを混合し、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出することにより得ることができる。
【0046】
【化10】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基を示す。)
【0047】
上記式(3)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。
【0048】
上記式(3)において、Rで示される炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、およびn−ヘキシル基等を挙げることができる。
【0049】
上記式(3)において、Rで示される炭素数3〜6のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基等を挙げることができる。また、上記式(3)において、Rで示される炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基としては、シクロプロピルメチル基およびシクロペンチルメチル基等を挙げることができる。
【0050】
上記式(3)で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの具体例としては、例えば、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチル、2−(ブロモメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチル、2−(ヨードメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチル、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸エチル、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸n−プロピル、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸iso−プロピル、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸n−ブチル、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸tert−ブチル、および2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸シクロプロピルメチル等が挙げられる。
【0051】
式(3)で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを抽出する工程では、反応工程で得られた反応終了後の反応液(粗生成物)に、脂肪族炭化水素を加え、反応液(粗生成物)中の前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する。
【0052】
前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルは、脂肪族炭化水素に高い溶解性を示すのに対して、反応液(粗生成物)中に含まれる黒色タール分等の不純物は、脂肪族炭化水素に不溶である。そのため、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出することで、反応液(粗生成物)から2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを分離することができ、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得ることができる。また、2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する工程では、カラムを用いた2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法に比べて、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを効率よく高い収率で得ることができる。したがって、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを簡便な方法で、工業的に有利に製造することができる。
【0053】
前記脂肪族炭化水素としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン、イソデカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、およびメチルシクロヘキサン等の直鎖状、分枝状または環状の脂肪族炭化水素が挙げられ、これらは単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも炭素数6または7の脂肪族炭化水素が好ましく、抽出効率、および入手容易性の観点等からシクロヘキサンがより好ましい。
【0054】
前記脂肪族炭化水素の使用量は、特に限定されないが、ジハロアセトニトリルとシステインアルキルとを反応させる工程を含む反応で得られた2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物の場合には、反応工程で用いた前記システインアルキル100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下であることが好ましい。脂肪族炭化水素の使用量が2000質量部を超える場合、容積効率が悪化し、経済的でなくなるおそれがある。
【0055】
なお、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの収率を上げる観点から、脂肪族炭化水素に水を加えて用いてもよい。水の使用量としては、特に限定されるものではないが、ジハロアセトニトリルとシステインアルキルとを反応させて得られた2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物の場合には、反応工程で用いた前記システインアルキル100質量部に対して、100質量部以上3000質量部以下であることが好ましい。水の使用量が3000質量部を超える場合、容積効率が悪化し、経済的でなくなるおそれがある。
【0056】
さらに、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの収率を上げる観点から、分液した水相に再度脂肪族炭化水素を加えて再抽出してもよい。再抽出する際の脂肪族炭化水素の使用量としては、特に限定されるものではないが、ジハロアセトニトリルとシステインアルキルとを反応させて得られた2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物の場合には、反応工程で用いた前記システインアルキル100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下であることが好ましい。脂肪族炭化水素の使用量が2000質量部を超える場合、容積効率が悪化し、経済的でなくなるおそれがある。
【0057】
また、さらに高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを得るために、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物と脂肪族炭化水素とを混合し、抽出した脂肪族炭化水素相を活性炭等により吸着処理することが好ましい。活性炭の使用量としては、ジハロアセトニトリルとシステインアルキルとを反応させて得られた2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物の場合には、反応工程で用いた前記システインアルキル100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましい。活性炭の使用量が15質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的に有利ではない。活性炭の種類には特に制限はない。このような吸着処理は、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを抽出した脂肪族炭化水素相を水等で洗浄した後に行うことが好ましい。
【0058】
かくして得られた前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む脂肪族炭化水素相から前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを単離する方法は、特に限定されないが、脂肪族炭化水素相から脂肪族炭化水素を蒸留除去する方法、または脂肪族炭化水素相から前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルをそのまま晶析する方法等を挙げることができる。なお、晶析する際には収率を上げる観点から、必要に応じ、脂肪族炭化水素の一部を蒸留除去した後に晶析することが好ましい。また、用いる脂肪族炭化水素の凝固点が高い場合には、凝固点を低下させるために2種以上の脂肪族炭化水素を混合して晶析してもよい。
【0059】
本実施形態における、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出することで粗生成物から前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを分離する工程を含む製造方法は、前述した以外の公知の反応によって得られる2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む反応液からなる粗生成物、または公知の反応によって得られた反応液の濃縮乾固物からなる粗生成物より前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを分離することで、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを製造する際に適用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
攪拌機および温度計を備えた2L(リットル)容の4つ口フラスコに、L−システインメチル塩酸塩85.8g(0.5モル)、およびメタノール175gを仕込み、0℃にて攪拌しながら20質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液13.5g(0.05モル)を添加した。次いで、ジクロロアセトニトリル55.0g(0.5モル)を添加し、同温度にて1時間攪拌させて2−(ジクロロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを含む反応液を得た。引き続き、同温度にて20質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液135.1g(0.5モル)を添加した後、0℃にて20時間攪拌させた。反応終了後、反応液にシクロヘキサン500gと水1000gとを添加し、30℃に昇温後、同温度にて2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルをシクロヘキサン相に抽出した。分液後、水層にシクロヘキサン500gを添加して、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルをシクロヘキサン相に再抽出した。2回の抽出で得られたシクロヘキサン相を混合し、水200gにて洗浄した。その後、シクロヘキサン相に活性炭5gを添加して、30℃で1時間攪拌した後、ろ過により活性炭を除去した。
【0062】
引き続き、前記シクロヘキサン相からシクロヘキサンを600g留去した後、n−ヘプタン100gを添加して、攪拌しながら30℃から0℃まで冷却して2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを晶析させた。析出した結晶をろ過し、得られた結晶をシクロヘキサンとn−ヘプタンの混合液で洗浄後、乾燥して2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチル72.0gを得た。得られた2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、面積百分率により、99.6%であった。また、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの収率は、L−システインメチル塩酸塩に対して70.0%であった。
【0063】
(実施例2)
攪拌機および温度計を備えた2L(リットル)容の4つ口フラスコに、L−システインメチル塩酸塩85.8g(0.5モル)、およびメタノール175gを仕込み、0℃にて攪拌しながら20質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液13.5g(0.05モル)を添加した。次いで、ジブロモアセトニトリル99.4g(0.5モル)を添加し、同温度にて1時間攪拌させて2−(ジブロモメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを含む反応液を得た。引き続き、同温度にて20%質量ナトリウムメトキシドメタノール溶液135.1g(0.5モル)を添加した後、0℃にて20時間攪拌させた。反応終了後、反応液にシクロヘキサン500gと水1000gとを添加し、30℃に昇温後、同温度にて2−(ブロモメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルをシクロヘキサン相に抽出した。分液後、水層にシクロヘキサン500gを添加して、2−(ブロモメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルをシクロヘキサン相に再抽出した。2回の抽出で得られたシクロヘキサン相を混合し、水200gにて洗浄した。その後、シクロヘキサン相に活性炭5gを添加して、30℃で1時間攪拌した後、ろ過により活性炭を除去した。
【0064】
引き続き、前記シクロヘキサン相からシクロヘキサンを600g留去した後、n−ヘプタン100gを添加して、攪拌しながら30℃から0℃まで冷却して2−(ブロモメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを晶析させた。析出した結晶をろ過し、得られた結晶をシクロヘキサンとn−ヘプタンの混合液で洗浄後、乾燥して2−(ブロモメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチル80.9gを得た。得られた2−(ブロモメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、面積百分率により、99.3%であった。また、2−(ブロモメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの収率は、L−システインメチル塩酸塩に対して68.5%であった。
【0065】
(比較例1)
攪拌機および温度計を備えた1L(リットル)容の4つ口フラスコに、L−システインメチル塩酸塩34.3g(0.2モル)、およびメタノール70gを仕込み、0℃にて攪拌しながら20質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液5.4g(0.02モル)を添加した。次いで、ジクロロアセトニトリル22.0g(0.2モル)を添加し、同温度にて1時間攪拌させて2−(ジクロロメチル)−4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを含む反応液を得た。引き続き、同温度にて20質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液54.0g(0.2モル)を添加した後、0℃にて20時間攪拌させた。反応終了後、反応液にトルエン200gと水400gとを添加し、30℃に昇温後、同温度にて2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルをトルエン相に抽出した。分液後、水層にトルエン200gを添加して、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルをトルエン相に再抽出した。2回の抽出で得られたトルエン相を混合し、水80gにて洗浄した。その後、トルエン相に活性炭3gを添加して、30℃で1時間攪拌した後、ろ過により活性炭を除去した。
【0066】
引き続き、前記トルエン相からトルエンを240g留去した後、n−ヘプタン40gを添加して、攪拌しながら30℃から0℃まで冷却して2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルを晶析させた。析出した結晶をろ過し、得られた結晶をトルエンとn−ヘプタンの混合液で洗浄後、乾燥して2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチル13.2gを得た。得られた2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、面積百分率により、98.3%であった。また、2−(クロロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸メチルの収率は、L−システインメチル塩酸塩に対して32.1%であった。
【0067】
以上のように、実施例1および2では、高純度の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを、効率よく高い収率で得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジハロアセトニトリルと、式(2);
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基を示す。)
で表されるシステインアルキルとを反応させる工程を経て得られた式(3);
【化3】

(式中、Xは式(1)におけるXと同じ原子を示し、Rは式(2)におけるRと同じ基を示す。)
で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物と、脂肪族炭化水素とを混合し、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する工程を経て得られる2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族炭化水素が、炭素数6または7の脂肪族炭化水素である請求項1に記載の2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの製造方法。
【請求項3】
式(3);
【化4】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基または炭素数4〜6のシクロアルキルアルキル基を示す。)
で表される2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを含む粗生成物と、脂肪族炭化水素とを混合し、前記2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルを脂肪族炭化水素に抽出する工程を経て得られる2−(ハロメチル)−1,3−チアゾール−4−カルボン酸アルキルの精製方法。