説明

2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法

【課題】医薬・農薬等の中間体として有用な2−(置換)フェニルニトロベンゼンの工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】2−クロロニトロベンゼン誘導体と、フェニルホウ酸若しくはその誘導体、又はフェニルホウ酸無水物とを、パラジウム触媒、4級アンモニウム塩、塩基の存在下、水溶媒中で反応させることを特徴とする2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬・農薬等の中間体として、特に農園芸用殺菌剤の製造中間体として有用な2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(置換)フェニルニトロベンゼンは、医薬・農薬等の中間体として、特に農園芸用殺菌剤(例えば、特許文献1を参照。)の中間体として有用である。その製造方法として、o-クロロニトロベンゼンとフェニルホウ酸誘導体とを、パラジウム触媒、ホスフィンリガンド及び塩基の存在下、水と有機溶媒の混合溶媒中で反応させる方法(いわゆる鈴木カップリングと呼ばれる反応であり、例えば、特許文献2を参照。)が知られている。また、リガンドを用いない鈴木カップリングとして、クロルベンゼン誘導体とフェニルホウ酸とを、パラジウム炭素及び塩基の存在下、水と、ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒との混合溶媒中で反応させることにより、ビフェニル誘導体が製造できることが知られている(例えば、非特許文献1及び2を参照。)。更に、クロルベンゼン誘導体とフェニルホウ酸とを、パラジウム炭素、炭酸カリウム及びテトラブチルアンモニウムブロミドの存在下、水中で反応させることによりビフェニル誘導体が製造できることが知られている(例えば、非特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−520680号公報
【特許文献2】米国特許第6087542号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Org.Lett.,2001,Vol.3,No.10,pp.1555−1557.
【非特許文献2】J.Synlett.,2002,No.7,pp.1118−1122.
【非特許文献3】J.Synlett.,2005,No.11,pp.1671−1674.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献2の製造方法では高価なホスフィンリガンドと有害な有機溶媒を使用するため、工業的に生産するにはコスト面、作業者の安全性確保の面からの課題があった。また、非特許文献1及び2の製造方法では有機溶媒を使用するため、作業者の安全性確保の面からの課題が解決されていない。非特許文献3の製造方法では2位にニトロ基を有する原料を用いた反応は開示されておらず、本発明の目的物質である2−(置換)フェニルニトロベンゼンとは置換基の性質が大きく異なる。本発明の課題は、医薬・農薬等の中間体として有用な一般式(I)で表される2−(置換)フェニルニトロベンゼンの工業的に有利な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく本発明者等は鋭意研究を行った結果、一般式(II)で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体とフェニルホウ酸誘導体とを、パラジウム触媒、塩基及び4級アンモニウム塩の存在下、水中で反応させることにより高価なホスフィンリガンドを使用しなくても一般式(I)で表される2−(置換)フェニルニトロベンゼンを効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
[1]下記一般式(II)
【化1】

(式中、Rは同一又は異なっても良く、フッ素原子、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、水酸基、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基、ハロ(C−C)アルコキシ基、(C−C)アルキルチオ基、ハロ(C−C)アルキルチオ基、(C−C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C−C)アルキルスルフィニル基、(C−C)アルキルスルホニル基、ハロ(C−C)アルキルスルホニル基、(C−C)アルキルカルボニル基、ハロ(C−C)アルキルカルボニル基、カルボキシル基、(C−C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C−C)アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ(C−C)アルキルアミノ基及びジ(C−C)アルキルアミノ基からなる群から選択される基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体と、下記一般式(III)
【化2】

(式中、Xは同一又は異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、水酸基、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基、ハロ(C−C)アルコキシ基、(C−C)アルキルチオ基、ハロ(C−C)アルキルチオ基、(C−C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C−C)アルキルスルフィニル基、(C−C)アルキルスルホニル基、ハロ(C−C)アルキルスルホニル基、(C−C)アルキルカルボニル基、ハロ(C−C)アルキルカルボニル基、カルボキシル基、(C−C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C−C)アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ(C−C)アルキルアミノ基及びジ(C−C)アルキルアミノ基からなる群から選択される基を表し、nは0〜4の整数を表し、Yは同一又は異なっても良く、水酸基、(C−C)アルコキシ基、フェノキシ基及びシクロヘキシルオキシ基からなる群から選択される基を表す。また、2つのYで下記一般式a、b又はc
【化3】

(式中、qは1〜4の整数を表し、r及びtは2〜5の整数を表す。)で表される基を示すこともできる。)
で表されるフェニルホウ酸若しくはその誘導体、又は下記一般式(III’)
【化4】

(式中、X及びnは前記に同じ)
で表されるフェニルホウ酸無水物とを、パラジウム触媒、4級アンモニウム塩及び塩基の存在下、水溶媒中で反応させることを特徴とする下記一般式(I)
【化5】

(式中、R、X、n及びmは前記に同じ。)
で表される2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法、
[2]前記パラジウム触媒が、パラジウム炭素であることを特徴とする前記[1]に記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法、
[3]前記4級アンモニウム塩が、テトラブチルアンモニウムブロミド又はテトラブチルアンモニウムクロリドであることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法、
[4]前記塩基が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸水素カリウムであることを特徴とする前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法、
[5]前記塩基が、炭酸水素ナトリウムであることを特徴とする前記[1]乃至[4]のいずれかに記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工業的に入手容易な試薬を用い、短時間で、目的化合物を効率的且つ経済的に工業的規模で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、例えば以下のように図示される。
【化6】

(式中、R、X、Y、m及びnは前記に同じ。)
即ち、本願発明は、一般式(II)で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体と一般式(III)又は(III’)で表されるフェニルホウ酸誘導体とを、パラジウム触媒、塩基及び4級アンモニウム塩の存在下、水中で反応させることにより一般式(I)で表される2−(置換)フェニルニトロベンゼンを製造するものである。
【0009】
本発明の一般式(I)〜(III)及び(III’)で表される化合物の置換基において、R、X及びYは本反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、Rとしては、例えば、フッ素原子、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、水酸基、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基、ハロ(C−C)アルコキシ基、(C−C)アルキルチオ基、ハロ(C−C)アルキルチオ基、(C−C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C−C)アルキルスルフィニル基、(C−C)アルキルスルホニル基、ハロ(C−C)アルキルスルホニル基、(C−C)アルキルカルボニル基、ハロ(C−C)アルキルカルボニル基、カルボキシル基、(C−C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C−C)アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ(C−C)アルキルアミノ基及びジ(C−C)アルキルアミノ基等が好ましく挙げられ、安定性及び得られる目的化合物の有用性の点から、フッ素原子、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基及びハロ(C−C)アルコキシ基等が特に好ましく挙げられる。また、前記一般式(I)、(II)において、mは0〜4の整数であれば特に限定されないが、反応性の点から0〜2が好ましい。
【0010】
Xとしては、例えば、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、水酸基、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基、ハロ(C−C)アルコキシ基、(C−C)アルキルチオ基、ハロ(C−C)アルキルチオ基、(C−C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C−C)アルキルスルフィニル基、(C−C)アルキルスルホニル基、ハロ(C−C)アルキルスルホニル基、(C−C)アルキルカルボニル基、ハロ(C−C)アルキルカルボニル基、カルボキシル基、(C−C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C−C)アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ(C−C)アルキルアミノ基及びジ(C−C)アルキルアミノ基等が好ましく挙げられ、安定性及び得られる目的化合物の有用性の点から、特に好ましくは水素原子、フッ素原子、塩素原子、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基及びハロ(C−C)アルコキシ基等が特に好ましく挙げられる。また、前記一般式(I)、(III)及び(III’)において、nは0〜4の整数であれば特に限定されないが、反応性及び得られる目的化合物の有用性の点から1又は2が好ましい。
【0011】
Yとしては、例えば、水酸基、(C−C)アルコキシ基、フェノキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が好ましく挙げられ、安定性及び反応の容易性の点から、水酸基が特に好ましく挙げられる。また、2つのYが環を形成していてもよく、該環としては、例えば、下記一般式a、b又はcで表されるものが好ましく挙げられる。
【化7】

(式中、qは1〜4の整数を表し、r及びtは2〜5の整数を表す。)
【0012】
本発明において(C−C)アルキル基とは、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。
【0013】
本発明においてハロ(C−C)アルキル基とは、置換可能な任意の位置が1又は2以上の同一又は異なるハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)で置換された前記(C−C)アルキル基を意味し、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、1,2−ジフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、1,2−ジクロロエチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基等が挙げられる。
【0014】
本発明において(C−C)アルコキシ基とは、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0015】
本発明においてハロ(C−C)アルコキシ基とは、置換可能な任意の位置が1又は2以上の同一又は異なる前記ハロゲン原子で置換された前記(C−C)アルコキシ基を意味し、例えば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2−フルオロエトキシ基、1,2−ジフルオロエトキシ基、クロロメトキシ基、2−クロロエトキシ基、1,2−ジクロロエトキシ基、ブロモメトキシ基、ヨードメトキシ基等が挙げられる。
【0016】
本発明において(C−C)アルキルチオ基とは、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキルチオ基を意味し、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、イソブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、イソペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、イソヘキシルチオ基等が挙げられる。
【0017】
本発明においてハロ(C−C)アルキルチオ基とは、置換可能な任意の位置が1又は2以上の同一又は異なる前記ハロゲン原子で置換された前記(C−C)アルキルチオ基を意味し、例えば、ジフルオロメチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基、ブロモジフルオロメチルチオ基、2−フルオロエチルチオ基、2,2,2−トリフルオロエチルチオ基、3,3,3−トリフルオロプロピルチオ基等が挙げられる。
【0018】
本発明において(C−C)アルキルスルフィニル基とは、前記(C−C)アルキル基を有するスルフィニル基を意味し、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、n−プロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基等が挙げられる。
【0019】
本発明においてハロ(C−C)アルキルスルフィニル基とは、前記ハロ(C−C)アルキル基を有するスルフィニル基を意味し、例えば、トリフルオロメチルスルフィニル基、2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル基、パーフルオロエチルスルフィニル基等が挙げられる。
【0020】
本発明において(C−C)アルキルスルホニル基とは、前記(C−C)アルキル基を有するスルホニル基を意味し、例えば、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基等が挙げられる。
【0021】
本発明においてハロ(C−C)アルキルスルホニル基とは、前記ハロ(C−C)アルキル基を有するスルホニル基を意味し、例えば、トリフルオロメチルスルホニル基、2,2,2−トリフルオロエチルスルホニル基、パーフルオロエチルスルホニル基等が挙げられる。
【0022】
本発明において(C−C)アルキルカルボニル基とは、前記(C−C)アルキル基を有するアルキルカルボニル基、すなわち、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基を意味し、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、2−メチルプロパノイル基、ペンタノイル基、2−メチルブタノイル基、3−メチルブタノイル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、シクロプロピルカルボニル基等が挙げられる。
【0023】
本発明においてハロ(C−C)アルキルカルボニル基とは、前記ハロ(C−C)アルキル基を有するハロアルキルカルボニル基、すなわち、炭素数2〜7のハロアルキルカルボニル基を意味し、例えば、クロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロプロピオニル基等が挙げられる。
【0024】
本発明において(C−C)アルコキシカルボニル基とは、前記(C−C)アルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、すなわち、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基を意味し、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0025】
本発明においてハロ(C−C)アルコキシカルボニル基とは、前記ハロ(C−C)アルコキシ基を有するハロアルコキシカルボニル基、すなわち、炭素数2〜7のハロアルコキシカルボニル基を意味し、例えば、クロロメトキシカルボニル基、トリフルオロメトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0026】
本発明においてモノ(C−C)アルキルアミノ基とは、前記(C−C)アルキル基でモノ置換されたアミノ基を意味し、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等が挙げられる。
【0027】
本発明においてジ(C−C)アルキルアミノ基とは、同一又は異なる前記(C−C)アルキル基でジ置換されたアミノ基を意味し、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等が挙げられる。
【0028】
本発明で使用できるパラジウム触媒としては、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)等の0価のパラジウム化合物や、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロリド、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)ジクロリド、アリルパラジウム(II)クロリド2量体、シクロペンタジエニルアリルパラジウム(II)、水酸化パラジウム等の2価のパラジウム化合物、金属パラジウムが担体に担持されたもの等公知のパラジウム触媒を挙げることができる。また、必要に応じてそれらのうち2種以上を用いることもできる。尚、本反応は不均一系の反応となるため、担体に担持されたパラジウム触媒が好ましく、金属パラジウムが担持される担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、珪藻土、活性白土、活性炭、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらの担体のなかでも、反応を容易にする点から、活性炭及びアルミナが好ましい。Pd/炭素は活性炭に金属パラジウムが担持されたものであり、パラジウム金属を約1〜10重量%含有するものが好ましい。Pd/アルミナはアルミナに金属パラジウムが担持されたものであり、パラジウム金属を約1〜10重量%含有するものが好ましい。特に好ましくはPd/炭素である。更に、担持されるパラジウムは2価であってもよい。本発明におけるパラジウム触媒の使用量は、一般式(II)で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体に対して通常約0.00001倍モル〜0.1倍モルの範囲で適宜選択すればよいが、反応効率が高い点から、好ましくは0.0001倍モル〜0.01倍モルの範囲である。
【0029】
本発明で使用できる塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸塩、ピリジン、ピコリン、ルチジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基等が挙げられ、好ましくは炭酸塩であり、特に好ましくは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸水素カリウムであり、更に好ましくは、前記2−(置換)フェニルニトロベンゼンの収率が良い点から、炭酸水素ナトリウムである。塩基の使用量としては、一般式(II)で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体に対して0.5倍モル〜5.0倍モルの範囲から適宜選択するのが好ましく、特に好ましくは前記2−(置換)フェニルニトロベンゼンの収率が良い点から、1.0倍モル〜3.0倍モルの範囲である。
【0030】
本発明で使用できる4級アンモニウム塩としては、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド及びトリオクチルメチルアンモニウムブロミド等が挙げられ、前記2−(置換)フェニルニトロベンゼンの収率が良い点から、好ましくはテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド及びテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミドであり、特に好ましくはテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミドである。4級アンモニウム塩の使用量としては、一般式(II)で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体に対して0.01倍モル〜1.0倍モルの範囲から適宜選択するのが好ましく、特に好ましくは0.1倍モル〜0.6倍モルの範囲である。
【0031】
本発明の製造方法における反応は、水を溶媒とすることが特徴であり、使用する水は本発明の効果を阻害しない限り特に限定されないが、通常の蒸留水、水道水、工業用水等が使用でき、硬水、軟水どちらでも使用することができる。本反応は、水を溶媒として使用できることでコストが大幅に削減でき、工業的に有利である。溶媒量としては、反応系が均等に分散できれば特に制限されないが、通常は一般式(II)で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体1gあたり2ml〜20mlの範囲から適宜選択するのが好ましく、特に好ましくは5ml〜10mlの範囲である。
【0032】
本発明の製造方法におけるは、等モル反応であるため、一般式(II)で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体と一般式(III)又は(III’)で表されるフェニルホウ酸誘導体とを略等モル使用すればよいが、どちらかを過剰に用いることもできる。
【0033】
反応温度は、10℃〜150℃の範囲内で適宜選択することができるが、反応時間及び収率等の点から、好ましくは50℃〜120℃の範囲である。水の沸点(100℃)を超える反応温度で反応させる場合はオートクレーブ等の耐圧性反応容器を使用すればよい。反応時間は反応スケール等により一定ではないが、数分〜100時間の範囲で適宜選択すればよい。本反応は、空気中の酸素などの存在下でも進行するが、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気で反応させてもよい。
【0034】
反応終了後、目的物は該目的物を含む反応系から常法により単離すれば良く、必要に応じて再結晶、カラムクロマトグラフィー、蒸留等で精製することにより目的物を製造することができる。本願発明の製造方法により得られる一般式(I)で表される2−(置換)フェニルニトロベンゼンは、周知の還元方法によりニトロ基をアミノ基に還元して特許文献1に示した殺菌剤の中間体として利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の代表的な実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例1) 2−(3,4−ジフルオロフェニル)ニトロベンゼンの製造
2−クロロニトロベンゼン0.63g(4.0mmol)、3,4−ジフルオロフェニルボロン酸0.73g(4.6mmol)、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.64g(2.0mmol)及び炭酸水素ナトリウム0.84g(10.0mmol)の水(6ml)溶液に、アルゴン気流下、5%パラジウム炭素(水分62%)55.4mg(0.01mmol)を加え、バス温145℃にて3時間、加熱撹拌した。冷却後、酢酸エチル(10ml)を加え、パラジウム炭素をろ過操作により除いた。酢酸エチル層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=9:1)を用いて精製し、2-(3,4−ジフルオロフェニル)ニトロベンゼンを得た。
収量:931mg(収率99%)
物性:H-NMR[400MHz,CDCl,δ値(ppm)]
7.89(dd、1H)、7.63(ddd、1H)、7.52(ddd、1H
)、
7.40(dd、1H)、7.22−7.13(m、2H)
7.05−7.00(m、1H)
【0037】
参考例1) 2−(3,4−ジフルオロフェニル)ニトロベンゼンの製造
2−クロロニトロベンゼン0.63g(4.0mmol)、3,4−ジフルオロフェニルボロン酸0.73g(4.6mmol)、及び炭酸水素ナトリウム0.84g(10.0mmol)の水(6ml)溶液に、アルゴン気流下、5%パラジウム炭素(水分62%)55.4mg(0.01mmol)を加え、バス温145℃にて3時間、加熱撹拌した。冷却後、酢酸エチル(10ml)を加え、パラジウム炭素をろ過操作により除いた。酢酸エチル層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=9:1)を用いて精製し、2−(3,4−ジフルオロフェニル)ニトロベンゼンを得た。
収量 282mg(収率30%)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II)
【化1】

(式中、Rは同一又は異なっても良く、フッ素原子、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、水酸基、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基、ハロ(C−C)アルコキシ基、(C−C)アルキルチオ基、ハロ(C−C)アルキルチオ基、(C−C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C−C)アルキルスルフィニル基、(C−C)アルキルスルホニル基、ハロ(C−C)アルキルスルホニル基、(C−C)アルキルカルボニル基、ハロ(C−C)アルキルカルボニル基、カルボキシル基、(C−C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C−C)アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ(C−C)アルキルアミノ基及びジ(C−C)アルキルアミノ基からなる群から選択される基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で表される2−クロロニトロベンゼン誘導体と、下記一般式(III)
【化2】

(式中、Xは同一又は異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、水酸基、(C−C)アルキル基、ハロ(C−C)アルキル基、(C−C)アルコキシ基、ハロ(C−C)アルコキシ基、(C−C)アルキルチオ基、ハロ(C−C)アルキルチオ基、(C−C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C−C)アルキルスルフィニル基、(C−C)アルキルスルホニル基、ハロ(C−C)アルキルスルホニル基、(C−C)アルキルカルボニル基、ハロ(C−C)アルキルカルボニル基、カルボキシル基、(C−C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C−C)アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ(C−C)アルキルアミノ基及びジ(C−C)アルキルアミノ基からなる群から選択される基を表し、nは0〜4の整数を表し、Yは同一又は異なっても良く、水酸基、(C−C)アルコキシ基、フェノキシ基及びシクロヘキシルオキシ基からなる群から選択される基を表す。また、2つのYで下記一般式a、b又はc
【化3】

(式中、qは1〜4の整数を表し、r及びtは2〜5の整数を表す。)で表される基を示すこともできる。)
で表されるフェニルホウ酸若しくはその誘導体、又は下記一般式(III’)
【化4】

(式中、X及びnは前記に同じ)
で表されるフェニルホウ酸無水物とを、パラジウム触媒、4級アンモニウム塩及び塩基の存在下、水溶媒中で反応させることを特徴とする下記一般式(I)
【化5】

(式中、R、X、n及びmは前記に同じ。)
で表される2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法。
【請求項2】
前記パラジウム触媒が、パラジウム炭素であることを特徴とする請求項1に記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法。
【請求項3】
前記4級アンモニウム塩が、テトラブチルアンモニウムブロミド又はテトラブチルアンモニウムクロリドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法。
【請求項4】
前記塩基が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸水素カリウムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法。
【請求項5】
前記塩基が、炭酸水素ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の2−(置換)フェニルニトロベンゼンの製造方法。

【公開番号】特開2012−171903(P2012−171903A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34355(P2011−34355)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】