説明

2−(1−クロロビニル)ピリジン誘導体およびその製造方法

【課題】農薬、医薬、高分子等の原料として有用な2−(1−クロロビニル)ピリジン誘導体を及びその製造方法を提供する。
【解決手段】式(I)
【化1】


(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、C1-6 アルキル基、C1-4 ハロアルキル基又はC1-6 アルコキシ基を表し、nは0又は1〜4の整数を示す。)で表される2−(1−クロロビニル)ピリジン誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、農薬、医薬、高分子等の原料として有用な2−(1−クロロビニル)ピリジン誘導体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】本発明と関連して、2−(1−クロロビニル)ピリジン塩酸塩の製法及び殺線虫剤としての有用性がUSP.3、180182号やGB932,643号公報に記載されている。しかしながら、これらの文献では、遊離塩基の形では単離されておらず、物性値に関する記載もない。また、ピリジン環に置換基が導入された2−(1−クロロビニル)ピリジン類は報告例がない。さらに、前記特許記載を追試すると、2−(1,2−ジクロロエチル)ピリジンを2−(1−クロロビニル)ピリジン塩酸塩に変換する工程において、溶媒のエタノールが反応した生成物である2−(2−クロロ−1−エトキシエチル)ピリジンが大量に副生する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、農薬、医薬、高分子等の原料として有用な2−(1−クロロビニル)ピリジン誘導体およびその製造法を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、一般式〔I〕
【0005】
【化4】


【0006】(式中、Xは水素原子、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等の直鎖若しくは分枝のC1-6 アルキル基、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリクロロメチル、ジクロロメチル、トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル等のC1-6 ハロアルキル基、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ等の直鎖若しくは分枝のC1-6 アルコキシ基を表す。nは0、1、2、3又は4を示す。)
【0007】この2−(1−クロロビニル)ピリジン類としては、例えば、2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−クロロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−クロロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−クロロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−クロロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−フルオロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−フルオロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−フルオロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−フルオロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、 3−ブロモ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−ブロモ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−ブロモ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−ブロモ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−ヨード−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−ヨード−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−ヨード−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−ヨード−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−メチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−メチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−メチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−メチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−エチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−エチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−エチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−エチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−トリフルオロメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−トリフルオロメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−トリフルオロメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−トリフルオロメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−メトキシ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、4−メトキシ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、5−メトキシ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、6−メトキシ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3、5−ジクロロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3、5−ジフルオロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3、5−ジメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3、5−ジメトキシ−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3、5−ビストリフルオロメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン、3−クロロ−5−メチル−(1−クロロビニル)ピリジン等を挙げることができる。
【0008】また、本発明は、式〔II〕
【0009】
【化5】


【0010】(式中、X及びnは前記と同じ意味を表す。)で表される2−(1,2−ジクロロエチル)ピリジン類又はその鉱酸塩を、非プロトン性溶媒中で塩基と作用させることを特徴とする、式〔I〕
【0011】
【化6】


【0012】(式中、X及びnは前記と同じ意味を表す。)で表される2−(1−クロロビニル)ピリジンの製造法である。
【0013】反応において用いることのできる2−(1,2−ジクロロエチル)ピリジン類としては、前述した2−(1−クロロビニル)ピリジンの対応する2−(1,2−ジクロロエチル)体を例示することができる。また、その鉱酸塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等を例示することが出来、特に塩酸塩が好ましい。反応に一般的に使用することができる溶媒としては、アセトニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、モノクロロベンゼン等の非プロトン性極性溶媒を例示することができる。
【0014】また、反応に使用することができる塩基としては、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0] −7−ウンデセン(DBU)等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド等の金属アルコキシド、水素化ナトリウムなどの水素化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩等を挙げることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明化合物は以下に示す方法により、製造することができる。
(製造法1)
【0016】
【化7】


【0017】(式中、X及びnは前記と同じ意味を表す。)
式〔II〕で表される2−(1,2−ジクロロエチル)ピリジン若しくはその塩酸塩を、非プロトン性溶媒中、50〜150℃に加熱し、経時的に無機塩基を添加し、反応により発生する塩酸を中和するものである。この場合、無機塩を反応系中に一度に大量に加えると、反応が停止してしまうので注意を要する。反応に使用することのできる溶媒としては、アセトニトリル、ニトロメタン、DMF、DMSO、酢酸エチル、アセトン等の非プロトン性溶媒が挙げられる。また、使用することのできる塩基として、無機塩基、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等を挙げられる。
【0018】(製造法2)
【0019】
【化8】


【0020】(式中、X及びnは前記と同じ意味を表す。)
反応は、式〔II〕で表される化合物を、非プロトン性溶媒中、0〜150℃で、化合物〔II〕に対して、1〜3当量の塩基と反応させることにより行われる。反応に使用することの出来る塩基としては、DBU、トリエチルアミン等の有機塩基、ナトリウムエチラート等の金属アルコキシド、ナトリウムハイドライド等の水素化金属類、水酸化ナトリウム等の水酸化金属類等を挙げることが出来る。また、用いられる溶媒としては、アセトニトリル、ニトメタン、DMF、DMSO、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン等を例示することができる。
【0021】なお、原料として使用される式〔II〕で表される化合物は、2−ビニルピリジン類を塩素と反応させることにより、得ることができる。
【0022】
【化9】


【0023】また、2−ビニルピリジン〔III〕は、次に示すいずれかの方法により製造することができる。
【0024】
【化10】


【0025】いずれの製造法においても、通常の合成化学的手法による後操作によって目的物を得ることができる。化合物の同定は、1 H−NMR,IR,MASS等の各種スペクトルの測定により行った。
【0026】
【実施例】次に実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)2−(1−クロロビニル)ピリジンの製造
【0027】
【化11】


【0028】2−(1,2−ジクロロエチル)ピリジン塩酸塩の404.7g(1.904mol)をアセトニトリル2.0リットルに溶解し、10時間加熱還流した。この間、炭酸水素ナトリウム10gを30分間隔で4回、次いで20gを30分間隔で9回、さらに30gを30分間隔で2回、最後に40gを30分間隔で1回反応液に加えた。反応終了後、反応液を冷却、ろ過し、ろ液を水酸化ナトリウム80gの水7.5リットル溶液に注加した。エーテル2.5リットルで2回抽出し、飽和食塩水でエーテル層を戦場したのち、無水硫酸マグネシウムで脱水、溶媒を減圧留去して得られた残留を蒸留により精製して、目的物203.2gを得た。収率76.5%。bp.(8mmHg)65℃
【0029】(実施例2)2−(1−クロロビニル)−3−メチルピリジンの製造
【0030】
【化12】


【0031】2−ビニル−3−メチルピリジン0.70gのクロロホルム20ml溶液中に、塩化水素ガスを発熱がおさまるまで吹き込んだ(5〜10分間)。窒素ガスにより過剰の塩化水素ガスを除去したのち、塩素ガスを室温で約20分間吹き込んだ。過剰の塩素ガスを除去したのち、反応混合物を炭酸水素ナトリウム水溶液中に注ぎ、クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、クロロホルムを減圧留去して、粗生成物の中間体Aを得た。このものを20mlのアセトニトリルに溶解し、DBU0.93gを加え、17時間加熱還流した。反応液を室温まで放冷したのち、水にあけ、酢酸エチルで2回抽出した。有機層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムロマトグラフィーにて精製し、目的物0.53gを得た。収率56%1 H−NMR(δ ppm,CDCl3):2.42(s,3H),5.55(d,1H),5.82(d,1H),7.20(dd,1H),7.55(d,1H),8.47(d,1H)
【0032】中間体Aの1 H−NMR(δ ppm,CDCl3):2.45(s,3H),4.12(dd,1H),4.52(dd,1H),5.28(dd,1H),7.21(dd,1H),7.53(d,1H),8.51(d,1H)
【0033】上記実施例を含め、本発明化合物の代表例を表1に示す。
【0034】
【表1】


【0035】次に、参考例として3−ビニルピリジンの合成について示す。
(参考例1)3−クロロ−2−ビニルピリジンの製造
【0036】
【化13】


【0037】2,3−ジクロロピリジン10.03g、トリブチルビニルスズ23g、及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム1.56gの混合物を、ジオキサン100ml中で16時間加熱還流した。室温まで放冷したのち、反応液にフッ化カリウム6.6gの水溶液を加え、15分間攪拌し、析出したフッ化スズ化合物をセライトろ過により除去し、ろ液をエーテルにて抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、油状の目的物6.30g(収率66%)を得た。
【0038】(参考例2)4−メチル−2−ビニルピリジンの製造
【0039】
【化14】


【0040】γ−ピコリン−N−オキシド10.9gのテトラヒドロフラン150ml溶液中に、氷冷下にクロロギ酸エチル11.1gを滴下した。反応混合物をさらに3時間攪拌後、ドライアイス浴中で冷却し、1Nのビニル臭化マグネシウムTHF溶液100mlを滴下した。滴下終了後、室温まで昇温し、そのまま一夜攪拌した。反応混合物を水にあけ、酢酸エチルで抽出し、有機層を分取、有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濃縮、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、油状の目的物1.24g(収率10%)を得た。
【0041】このようにして合成された2−ビニルピリジン類の代表例、及び 1H−NMRデータを第2表に示す。
【0042】
【表2】


【0043】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、農薬、医薬、高分子等の原料として有用な2−(1−クロロビニル)ピリジン誘導体である。特に、本発明化合物は、PCT/JP95/02479号に記載のピリジルピロール誘導体系農園芸用殺菌剤の製造中間体として用いることができる。また、本発明の製造方法によれば、これを工業的に有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】式〔I〕
【化1】


(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、C1-6 アルキル基、C1-6 ハロアルキル基又はC1-6 アルコキシ基を表し、nは0、1、2、3又は4を示す。)で表される化合物。
【請求項2】2−(1−クロロビニル)ピリジン
【請求項3】3−クロロ−2−(1−クロロビニル)ピリジン
【請求項4】3−メチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン
【請求項5】4−メチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン
【請求項6】6−メトキシ−2−(1−クロロビニル)ピリジン
【請求項7】5−トリフルオロメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン
【請求項8】3−トリフルオロメチル−2−(1−クロロビニル)ピリジン
【請求項9】式〔II〕
【化2】


(式中、X、nは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物又はその鉱酸塩を、非プロトン性溶媒中、塩基と作用させることを特徴とする式〔I〕
【化3】


(式中、X、nは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物の製造法。

【公開番号】特開平10−77270
【公開日】平成10年(1998)3月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−252290
【出願日】平成8年(1996)9月3日
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)