説明

2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の製造方法

【課題】 医薬品として有用な2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸を高収率、高純度に精製する方法を提供する。
【解決手段】 2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体を、少なくともケトン系溶媒を50容量%以上含有する溶媒を用いて晶析する。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体は、2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸をポリリン酸を用いるフリーデル・クラフツ反応型の分子内環化反応等により製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、晶析溶媒としてケトン系溶媒を用いて2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸を精製する、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド性鎮痛・抗炎症剤として有用な医薬品である2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸は、下記式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と略記することがある。)であり、一般名ザルトプロフェンと呼ばれている(特許文献1)。
【0003】
【化1】

上記2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の製造方法としては、下記式(2)
【0004】
【化2】

で表されるジカルボン酸化合物である2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸を、有機溶媒の非存在下で、ポリリン酸と加熱して2個のカルボン酸基の一方のみをフリーデル・クラフツ反応型反応により分子内環化させて合成する方法が挙げられる(特許文献2)。
【0005】
前記方法で製造する2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)には少量の不純物が含まれている。この化合物(1)を医薬品として用いるには、更に精製して高純度品とすることが要求される。このため、カラムクロマトグラフィーで精製したり、塩化メチレン−ヘキサン等の溶媒を用いて再結晶を繰り返して2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の純度を向上させることが行われている。
【0006】
例えば、特許文献3には以下に記載する精製方法が提案されている。この方法においては、先ず2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)と有機アミンとを接触させて有機アミンの結晶性塩を得、次いでこの結晶性塩を有機溶媒により再結晶するか、あるいは有機溶媒と加熱してある程度精製された結晶性塩を得る。その後、この結晶性塩を酸を用いて中和し、次いで有機溶媒で2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)を抽出し、さらに水溶性有機溶媒の溶液に置換えた後、2.5倍量の水を加えて再沈殿させて精製している。
【0007】
一方、カラムクロマトグラフィーや再結晶等に使用する有機溶媒の種類によっては、精製して最終的に得られる2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)に前記溶媒が残留することがあり、この溶媒は乾燥工程によって除去する事が困難な場合がある。
【0008】
特許文献4には、精製工程の最後に水溶性有機溶媒で結晶化する際に、残留溶媒として残存し難いアセトン−水を再結晶溶媒として用いる2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の精製方法が記載されている。この特許文献4に記載の方法は、基本的には精製により高純度化された目的物中に残留する溶媒の量を低減させることを目的としており、晶析溶媒としては、アセトンに対して1.4〜2.0倍量の水を含むアセトン−水混合液が使用されている。
【特許文献1】特開昭55−53282号公報(発明の詳細な説明)
【特許文献2】特公平01−29793号公報(請求項1)
【特許文献3】特公平6−51697号公報(請求項1)
【特許文献4】特公平7−103115号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献3に記載されている方法によれば、高純度の2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)が得られている。しかし、この方法は中和操作2回、抽出操作1回、結晶分散洗浄操作1回、結晶化操作2回を行うもので、極めて精製操作が煩雑である。従って、工業的方法として実施する場合は、製造コスト的に問題がある。また、精製収率は75%程度であり、比較的良い収率であるが、今一歩不十分である。
【0010】
更に、少量の不純物として、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の2量体の存在がある。この2量体は分離困難で、ほとんどの方法で除去し難い。
【0011】
本発明は、ポリリン酸を用いて2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸をフリーデル・クラフツ反応型の分子内環化反応させる等の方法により製造される2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)を、ケトン系溶媒を用いて晶析し、高純度の2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸を高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。その結果、少なくともケトン系溶媒を50容量%以上含有する溶媒を用いて晶析すると、高純度の2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)が高収率で得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。さらに、ケトン系の溶媒を用いて晶析を行うと、特定のX線回折パターンを示す2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)が得られること、及び他の溶媒から晶析した場合はこの特定のX線回折パターンを示さないことを知得した。本発明は上記知見に基づき完成するに至ったものである。
【0013】
即ち、本発明は、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体を、少なくともケトン系溶媒を50容量%以上含有する溶媒で晶析して精製することを特徴とする2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の製造方法である。
【0014】
さらに、前記2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体が、2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸の分子内環化反応により製造されるものであることを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)を高収率かつ高純度で得ることができる。特に、製造工程中に副生する2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体を効率よく分離して精製することができる。
【0016】
また本発明の製造方法によれば、特定のX線回折パターンを示す2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体を晶析することにより精製する、同化合物の製造方法に関する。
【0018】
本発明製造方法で精製する、不純物を含む出発原料である2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体は、何れの製造方法により製造したものでも良い。しかしながら、本発明の効果が顕著であるという観点から、高速液体クロマトグラフを用いて測定したチャートのピーク面積を基準にして求めた純度が98%以下で、且つ不純物として0.3%以上の2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体を含むもの、特に上記純度が97%以下で且つ上記2量体を0.5%以上含むものであることが好ましい。このような粗体を得る方法としては、例えば、ポリリン酸を用いて2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸(2)を分子内環化させる方法がある。以下、この方法について説明する。
【0019】
この方法は、例えば特開昭55−53282号公報、特公平01−29793号公報に記載されている。更に、リン酸と無水リン酸(五酸化ニリン)とを混合して調製したポリリン酸を使用して上記反応を行う事もできる。リン酸と無水リン酸とを混合する場合には、リン酸(正リン酸)に所定のリン酸濃度となるように無水リン酸(五酸化ニリン)を添加するか、或いは無水リン酸(五酸化ニリン)にリン酸を滴下する等の方法で両者を混合し、必要に応じて攪拌することによりポリリン酸を調製できる。
【0020】
なお、リン酸と無水リン酸(五酸化ニリン)とを混合する際には、リン酸中の水分と無水リン酸(五酸化ニリン)とが反応して発熱するため、冷却下にこれらを混合することが望ましい。混合終了後は、無水リン酸(五酸化ニリン)を完全に溶解させるために該混合物を加熱することが好ましい。
【0021】
使用するリン酸および無水リン酸(五酸化ニリン)は試薬或いは工業的に入手容易なものが何ら制限なく使用できる。
【0022】
環化反応においては、2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸(2)1質量部に、ポリリン酸1〜20質量部を作用させることが好ましい。ポリリン酸の使用量が上記基準で1質量部未満の場合には、反応が十分に進行しない。また、ポリリン酸の使用量が20質量部を超える場合には、反応性に影響はないが、原料コストおよび廃液処理の手間やコストが増加する。このような観点から、ポリリン酸の使用量は上記基準で2〜18質量部が好ましく、特に4〜16質量部が望ましい。
【0023】
原料の2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸(2)にポリリン酸を作用させる反応方法は、特に限定されず、例えば両者を接触させることにより好適に行なうことができる。
【0024】
この反応は有機溶媒の存在下又は非存在下で行なうことができる。
【0025】
しかし、有機溶媒の不存在下で反応を行うことが好ましい。即ち、効率性およびコストの観点から、具体的には有機溶媒の使用に要する原材料費を削減でき、製造工程における有機溶媒の除去や廃液となる有機溶媒の処理操作が(更には、これら操作に伴う費用が)不要になり、また更には反応釜(反応器)に仕込める原料の量を多くでき、その結果釜収率を高くすることができる(1バッチあたりの製造量を多くすることができる)という理由から、分子内環化反応は有機溶媒の非存在下で行なうことが好ましい。
【0026】
分子内環化反応において、有機溶媒を使用する場合、有機溶媒としては水と相溶せず、かつ反応を阻害しない有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒を具体的に例示すると、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ニトロベンゼン等のニトロ化芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;ジメチルカーボネート等のカーボネート類等を挙げる事ができる。 これらの中でも、特に高い収率が期待できる、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類が好ましい。これら有機溶媒の使用量は特に制限が無いが、前述のようにあまり量が多いと、一バッチあたりの収量が小さくなるため経済的ではない。通常、有機溶媒の使用量は質量基準で、使用する原料の2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸(2)の0.1〜60倍量、好ましくは1〜50倍量が好ましい。
【0027】
分子内環化反応における一般的な反応条件は、次に記載する通りである。即ち、反応温度があまり低いと反応速度が低下し、あまり高いと不純物の生成量が増加する。このため、反応温度は20℃〜110℃が好ましく、30℃〜100℃がより好ましい。反応圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれの圧力でも良い。反応は攪拌下で行うことが好ましい。
【0028】
反応終了後、常法に従って反応液から2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)を単離する。例えば、反応後得られた反応液を氷中に投入し、析出する結晶をろ過や遠心分離することにより目的物を単離してもよい。また、反応液から目的物を溶媒により抽出し、抽出液を洗浄後、溶媒を留去し、更に乾燥を行なってもよい。
【0029】
このようにして得られる、不純物を含む2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体を出発原料として、本発明においては、この出発原料(粗体)を、ケトン系溶媒、又は前記ケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒であって少なくともケトン系溶媒を50容量%以上含有する混合溶媒を用いて晶析して精製する。
【0030】
本発明において、晶析操作に使用するケトン系溶媒は、試薬として或いは工業的に入手容易なものが何ら制限なく使用できる。これらの溶媒を具体的に例示すると、アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、3−オクタノン、2−ノナノン、3−ノナノン、5−ノナノン、2−デカノン、3−デカノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノンなどの炭素数が3〜12のケトンが挙げられる。 これらの中でも、高純度、高収率で化合物(1)が得られ、更に残留する可能性のある溶媒の毒性が少ない点で、アセトン、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノンが好ましい。
【0031】
上記ケトン系溶媒と混合して晶析用の混合溶媒として使用できるその他の溶媒としては、水;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭素数5〜10の脂肪族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜8のアルコール類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の炭素数1〜2のハロゲン化脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭素数6〜8の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数3〜8のエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエ−テル、テトラヒドロフラン等の炭素数2〜8のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等の炭素数2〜8のニトリル類が挙げられる。
【0032】
これらのその他の溶媒の中でも、収率が高く、純度の高いものが得られる点で水、脂肪族炭化水素類、ニトリル類等が好ましい。
【0033】
好ましい混合溶媒としてはアセトン−水、2−ブタノン−水、4−メチル−2−ペンタノン−水系溶媒が挙げられる。
【0034】
上記ケトン系溶媒と、その他の溶媒との混合溶媒中のケトン系溶媒の含有率は50容量%以上であり、80容量%以上がより好ましく、90容量%以上が更に好ましい。特に好ましい晶析溶媒としては、前記ケトン系溶媒のみを使用する場合である。ケトン系溶媒の含有量が高いほど、晶析により得られる2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の純度は高まる傾向にある。
【0035】
晶析をする際に用いる上記ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒の使用量は、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体1質量部に対して0.5質量部〜50質量部が好ましい。
【0036】
ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒の使用量があまり少ないと不純物が効果的に除去できない。使用量があまり多いと収率が低下する。このため、上記範囲内の使用量が好ましい。
【0037】
晶析方法は特に限定はされないが、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体を所定量のケトン系溶媒、又はケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒に分散させ、次いで温度を上昇させ溶解させ、その後該溶液を冷却させて再結晶化させる方法がある。または、ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒に2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体を溶解後、溶媒を留去することによりケトン系溶媒量を減らして溶液濃度を高めることにより、結晶化させる方法も例示できる。
【0038】
晶析は静置状態で行うと、より純度の高い結晶が得られるが、攪拌下で行っても良い。
【0039】
晶析温度は使用する溶媒により異なるが、概ね−30℃〜溶媒の還流温度が好ましい。圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれの状態でも良く、不活性ガス存在下でも良い。また、種晶を添加することにより結晶化を行う方法もある。
【0040】
上記ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒を用いて晶析すると、得られる2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の結晶の粉末X線回折角は、特徴的で、他の溶媒を用いて晶析して得られる結晶の粉末X線回折角とは異なる回折角を有する。
【0041】
図1は、アルコール系溶媒を用いて晶析した結晶の粉末X線回折図を示す。図2は、ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒を用いて晶析した結晶の粉末X線回折図を示す。ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒とその他の溶媒との混合溶媒を用いて晶析した結晶の粉末X線回折図は、回折角2θ=13°、20°に特徴的なピークが認められる。
【0042】
医薬品研究 22(5) 836〜844(1991)には、エタノール、エタノール/水、アセトン/水、ジクロロメタン/ヘキサン、イソプロピルアルコール/エーテルで晶析を行うと、図1の粉末X線回折図が得られると記載されている。しかし、本発明者が検討した結果によれば、ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒と水との混合溶媒で晶析すると図2に示す特異的な粉末X線回折図を与える。
【0043】
なお、図1は、後述する比較例2で得られた結晶の粉末X線回折図で、結晶はエチルアルコール−水(1/1=v/v)の混合溶媒で晶析したものである。図2は実施例1で得られた結晶を2−ブタノンで晶析して得られた結晶の粉末X線回折図である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
【0045】
実施例1
塩化カルシウム管、攪拌羽、温度計を備えた2000mlの4つ口フラスコに85%リン酸300gを入れ、冷却下、五酸化ニリン250gを加えてポリリン酸を調製した。その後、70℃に加熱し、五酸化ニリンを溶解させた。次いで、フラスコに2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸(2)100g(0.316mol)を投入し、70℃で5時間反応させた。
【0046】
反応終了後、冷却下、フラスコに水400gを添加し、ポリリン酸を分解した後、塩化メチレン360mlで2回抽出した。塩化メチレン相を水230mlで三回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。塩化メチレンを留去して黄色の2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体92.89g(収率98.5%)を得た。
【0047】
高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと称す)を用いて測定した純度は96.12%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.57%であった。
【0048】
得られた2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gを2−ブタノン100mlに溶解した。その後、2−ブタノンを留去し20mlに濃縮した。溶液を室温に戻して攪拌しながら種晶を少量添加し、結晶化させた。さらに5℃まで冷却しながら12時間攪拌し、ついで−30℃まで冷却しながら1時間攪拌した。その後、結晶をろ別し、0℃に冷却した2−ブタノン5mlで結晶を洗浄した後、結晶を減圧乾燥した。これにより、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の白色結晶8.90gを得た(精製収率89.0%)。
【0049】
この結晶の純度をHPLCで測定したところ、99.80%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.01%であった。
【0050】
得られた結晶の粉末X線回折図を図2に示した。
【0051】
実施例2
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gをアセトン70mlに溶解して晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0052】
その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の白色結晶8.02g(精製収率80.2%)を得た。
【0053】
HPLCで純度を測定したところ、99.83%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.01%であった。
【0054】
得られた結晶の粉末X線回折図は図2と同様であった。
【0055】
実施例3
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gを4−メチル−2−ペンタノン150mlに溶解して晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の白色結晶9.01g(精製収率90.1%)を得た。
【0056】
HPLCで純度を測定したところ99.23%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.09%であった。
【0057】
得られた結晶の粉末X線回折図は図2と同様であった。
【0058】
実施例4
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gをアセトン−水(1.5/1=v/v)50mlに溶解して晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の黄色結晶8.92g(精製収率89.2%)を得た。
【0059】
HPLCで純度を測定したところ98.92%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.12%であった。
【0060】
なお、得られた結晶の粉末X線回折図は、図2と同様であった。
【0061】
比較例1
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gをアセトン−水(1/2=v/v)50mlで晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の黄色結晶9.90g(精製収率99.0%)を得た。
【0062】
HPLCで結晶の純度を測定したところ96.12%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.57%であった。
【0063】
比較例2
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gをエチルアルコール−水(1/1=v/v)50mlで晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)9.40g(精製収率94.0%)を得た。
【0064】
HPLCで結晶の純度を測定したところ96.51%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.56%であった。
【0065】
得られた結晶の粉末X線回折図を図1に示した。
【0066】
比較例3
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体10gをメタノール50mlで晶析した以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の淡黄色結晶8.58g(精製収率85.8%)を得た。
【0067】
HPLCで結晶の純度を測定したところ98.35%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.56%であった。
【0068】
得られた結晶の粉末X線回折図は図1と同様であった。
【0069】
比較例4
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体10gを塩化メチレン−ヘキサン(3/2=v/v)50mlを用いて晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の淡黄色結晶9.05g(収率90.5%)を得た。
【0070】
HPLCで純度を測定したところ97.25%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.45%であった。
【0071】
得られた結晶の粉末X線回折図は図1と同様であった。
【0072】
比較例5
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gをテトラヒドロフラン−ヘキサン(1/3=v/v)50mlで晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の淡黄色結晶7.72g(精製収率77.2%)を得た。
【0073】
HPLCで結晶の純度を測定したところ98.56%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.35%であった。
【0074】
比較例6
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gを酢酸エチル50mlで晶析した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の淡黄色結晶6.01g(精製収率60.1%)を得た。
【0075】
HPLCで結晶の純度を測定したところ98.06%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の2量体の含有率は0.51%であった。
【0076】
比較例7
実施例1で製造した2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体を用いて以下の操作を行った。
【0077】
2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸(1)の粗体10gをアセトン50mlに懸濁させ、これにジエチルアミン2.45gをアセトン2mlと共に加えた。これに2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸・ジエチルアミン塩の種晶を加え室温で1時間攪拌した。
【0078】
析出した結晶をろ取し、この結晶を少量のアセトン、ヘキサンで洗浄し、乾燥することにより2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸・ジエチルアミン塩の結晶11g得た。この結晶をアセトン45mlに懸濁させ、攪拌しながら懸濁液を2時間加熱還流させた。懸濁液を室温まで冷却し、室温でさらに1時間攪拌を続けた。結晶をろ取し、アセトン、ヘキサンで洗浄後、乾燥して2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸・ジエチルアミン塩の微黄色結晶9.7gを得た。
【0079】
この結晶を冷水55mlに溶解し、攪拌下氷冷した2N−HCl39ml加え30分間攪拌した。その後、固形物をろ取し、この固形物を水洗することにより、微黄色固体を得た。微黄色固体をアセトン23.5mlに溶解させ、不溶物をろ過して除去した後、この溶液に水11.8ml、及び2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の種晶を加えた。次いで、激しく攪拌しながら水44.8mlを滴下し、析出した結晶をろ取した。アセトン−水で結晶を洗浄し、減圧乾燥した。その結果、2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の白色〜微黄色結晶7.53g(精製収率75.3%)を得た。
【0080】
HPLCでこの結晶の純度を測定したところ99.71%であった。2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の2量体の含有率は0.41%であった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】アルコールで晶析した結晶の粉末X線回折図である。
【図2】ケトン系溶媒、又はケトン系溶媒−水の混合溶媒で晶析した結晶の粉末X線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体を、少なくともケトン系溶媒を50容量%以上含有する溶媒で晶析して精製することを特徴とする2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の製造方法。
【請求項2】
2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の粗体が、2−(3−カルボキシメチル−4−フェニルチオフェニル)プロピオン酸の分子内環化反応により製造される請求項1に記載の2−(10、11−ジヒドロ−10−オキシジベンゾ〔b、f〕チエピン−2−イル)プロピオン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−290753(P2006−290753A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110383(P2005−110383)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】