説明

2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物

【課題】銅表面の酸化防止剤、エポキシ樹脂の硬化剤あるいは医農薬中間体として有用な2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物の提供。
【解決手段】2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物は、2位ハロゲン化プロピオフェノン化合物および(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジン化合物を脱ハロゲン化水素剤の存在下、反応溶媒中で加熱反応をさせることにより合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明に類似のイミダゾール化合物として、例えば特許文献1に、2−(2,4−ジクロロ−ベンジル)−5−(3,4−ジクロロ−フェニル)−1H−イミダゾールが開示されている。しかしながら、この文献には本発明のイミダゾール化合物の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−500357号公報(第7頁、第51頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、化1の化学式(I)で示される新規な2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物を合成し得ることを認め、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
【化1】

【発明の効果】
【0007】
本発明の2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物は、金属、特に銅(銅合金を含む)の表面の酸化防止剤や、エポキシ樹脂の硬化剤または硬化促進剤として、また医農薬分野の中間原料としても有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物は、化2の化学式(I)で示されるものであり、
2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(4−メチルフェニル)イミダゾール、
4−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチルイミダゾールおよび
2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−(4−メトキシフェニル)−5−メチルイミダゾールである。
【0009】
【化2】

【0010】
本発明の2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物は、公知の方法に準拠して合成することができる。例えば、化3の反応式に示されるように、2位ハロゲン化プロピオフェノン化合物と、(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジンとを脱ハロゲン化水素剤の存在下、反応溶媒中で加熱反応をさせることにより合成することができる。
【0011】
【化3】


(但し、Arは前記と同様であり、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
【0012】
前述の反応において、(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジンの使用量は、2位ハロゲン化プロピオフェノン化合物に対して、0.8〜1.5倍モルが好ましく、より好ましくは0.9〜1.1倍モルの割合とすればよい。脱ハロゲン化水素剤の使用量は、2位ハロゲン化プロピオフェノン化合物に対して、1〜10倍当量の割合が好ましい。
【0013】
前記の2位ハロゲン化プロピオフェノン化合物としては、
2−クロロ−4′−メチルプロピオフェノン、
2−ブロモ−4′−メチルプロピオフェノン、
2−ヨード−4′−メチルプロピオフェノン、
2,3′−ジクロロ−4′−メチルプロピオフェノン、
2−ブロモ−3′−クロロ−4′−メチルプロピオフェノン、
3′−クロロ−2−ヨード−4′−メチルプロピオフェノン、
2−クロロ−4′−メトキシプロピオフェノン、
2−ブロモ−4′−メトキシプロピオフェノンおよび
2−ヨード−4′−メトキシプロピオフェノンが挙げられる。
【0014】
これらの2位ハロゲン化プロピオフェノン化合物は、プロピオフェノン化合物の2位をハロゲン化することにより得られる。ハロゲン化としては、塩素化またはヨウ素化も可能であるが、プロピオフェノン化合物1モルに対し、1モルの臭素を反応させる臭素化反応が最も簡便である。
【0015】
前記のプロピオフェノン化合物としては、4′−メチルプロピオフェノン、3′−クロロ−4′−メチルプロピオフェノンおよび4′−メトキシプロピオフェノンが挙げられる。
4′−メチルプロピオフェノンおよび4′−メトキシプロピオフェノンは、試薬として市販されているものを使用することができる。3′−クロロ−4′−メチルプロピオフェノンは、オルトクロロトルエンおよび塩化プロピオニルから塩化アルミニウムを触媒としたフリーデル・クラフトアシル化反応により合成することができる。
【0016】
前記の(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジンは、(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジン塩酸塩とアルカリ剤とを反応させて塩酸を除くことにより得ることができ、前述のイミダゾール化合物の合成反応においては、(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジンに代えて同塩酸塩や、(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジンと従来知られた無機酸または有機酸との塩も使用可能である。
【0017】
(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジン塩酸塩は、公知の方法に準拠して合成することができる。例えば、化4の反応式に示されるように、2,4−ジクロロベンジルシアニドを塩化水素ガスおよびエタノール等の低級アルコールと反応させ、(2,4−ジクロロフェニル)アセトイミデート・塩酸塩に変換し、更にアンモニアと反応させることによって、(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジンの塩酸塩を合成することができる。
【0018】
【化4】

【0019】
前記の脱ハロゲン化水素剤は公知のものを制限なく使用できる。このような脱ハロゲン化水素剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムのような無機アルカリ類、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)のような有機塩基類、ナトリウムメトキシド、カリウムtert−ブトキシドのような金属アルコキシド化合物などが挙げられる。
【0020】
前記の反応溶媒は、2位ハロゲン化プロピオフェノン化合物と(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジンまたは其の塩を溶解することができ、かつ反応に関与しないものであれば公知のものを制限なく使用できる。このような溶媒として、例えば、イソプロピルアルコール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素類、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)などのアミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられ、これらの溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
反応温度は室温〜還流温度が好ましく、反応時間は1〜10時間が好ましい。反応は、通常大気圧下で行えばよい。
【0022】
以上の反応条件下で生成した2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物は、通常の後処理によって単離することができる。
例えば、反応終了後の反応混合物を水層と有機溶媒層に分配し、有機溶媒層を水洗浄後、当該イミダゾール化合物のシュウ酸塩等として有機溶媒から析出させ、必要に応じて再結晶操作等により精製し、該シュウ酸塩等をアルカリ条件下でフリー化して当該イミダゾール化合物を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジン塩酸塩および2−ブロモ−4′−メチルプロピオフェノンの合成例を、各々参考例1と参考例2に示す。
【0024】
〔参考例1〕
<(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジン塩酸塩の合成>
(2,4−ジクロロフェニル)アセトニトリル130.2g(0.70mol)、クロロホルム262g及び脱水エタノール35.0g(0.76mol)からなる溶液へ、冷却下、5〜10℃にて、塩化水素ガス27.3g(0.748mol)を80分間かけて吹き込み、5〜10℃にて10時間、さらに室温に戻して2日間放置して結晶を析出させた。
次いで、減圧下に溶媒を留去することにより、白色固体として(2,4−ジクロロフェニル)アセトイミド酸エチル塩酸塩が得られた。該固体を砕き、氷冷下に振とうしながら、アンモニア17.4g(1.006mol)及び脱水エタノール122gからなる溶液を少しずつ加えた。加え終わった後、氷冷下にて2時間、さらに室温に戻して一晩撹拌した後の懸濁液を、200gまで減圧濃縮し、冷却後、結晶をろ取し、クロロホルムで洗浄して乾燥し、白色粉末状の(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジン塩酸塩131g(0.547mol、収率78.1%)を得た。
【0025】
〔参考例2〕
<2−ブロモ−4′−メチルプロピオフェノンの合成>
4′−メチルプロピオフェノン52.0g(0.351mol)及びメタノール102gからなる溶液に、53〜55℃にて、臭素56.2g(0.352mol)を45分かけて滴下した。反応液を減圧下濃縮し、残留した固体96gを、トルエン135gおよび水160gに分配し、トルエン層をさらに水洗、硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下にトルエンを留去し、淡黄色固体状の2−ブロモ−4′−メチルプロピオフェノン78.4g(0.345mol、収率98.3%)を得た。
【0026】
〔実施例1〕
<2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(4−メチルフェニル)イミダゾールの合成>
(2,4−ジクロロフェニル)アセトアミジン塩酸塩41.9g(0.175mol)、炭酸カリウム62.0g(0.449mol)及びN,N−ジメチルホルムアミド140mlからなる反応懸濁液を50℃にて30分撹拌後、50〜55℃にて、2−ブロモ−4′−メチルプロピオフェノン39.7g(0.175mol)を少しずつ加え、さらに60〜65℃で2時間30分撹拌した。次いで、反応懸濁液を冷却後、水500mlおよびクロロホルム300mlに分配し、クロロホルム層を水で洗浄した後、減圧下にクロロホルムを留去し、アメ状の濃縮物57.5gを得た。該濃縮物をアセトン250mlに溶解し、シュウ酸を系が弱酸性になるまで加え、析出した結晶をろ取、アセトンで洗浄した後、乾燥して、薄いベージュ色の結晶を得た。このものをメタノールに加温下懸濁し、28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液を充分アルカリになるまで加えたのち、メタノールを減圧留去し、アメ状の濃縮物を熱水で洗浄、減圧下に乾燥して、黄褐色ガラス状の固体40.8g(0.123mol、収率70.3%)を得た。
【0027】
得られた固体の融点、薄層クロマトグラフィーのRf値、H−NMR及びマススペクトルデータは、以下のとおりであった。
・mp.160℃(シュウ酸塩、分解)
・TLC (シリカゲル,アセトン) : Rf = 0.62
1H-NMR (d6-DMSO) δ: 2.28(s,
6H), 4.04(s, 2H), 7.15−7.58(m, 7H)
・MS m/z(%) : 332(M+2, 35), 330(M+, 54), 297(34),
295(100),260(25), 245(3), 185(3), 165(4), 144(5), 130(9), 117(9), 102(3),
91(5), 77(2).
これらのスペクトルデータから、得られた固体は、化5の化学式で示される2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(4−メチルフェニル)イミダゾールであるものと同定した。
【0028】
【化5】

【0029】
〔実施例2〕
<4−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチルイミダゾールの合成>
まず、参考例2の4′−メチルプロピオフェノンを3′−クロロ−4′−メチルプロピオフェノンに代えて、参考例2の方法に準拠して2−ブロモ−3′−クロロ−4′−メチルプロピオフェノンを合成した。
次いで、実施例1の2−ブロモ−4′−メチルプロピオフェノンを2−ブロモ−3′−クロロ−4′−メチルプロピオフェノンに代えて、実施例1の方法に準拠して合成試験を実施し、赤褐色ガラス状固体を得た。
【0030】
得られた固体の融点、薄層クロマトグラフィーのRf値、H−NMR及びマススペクトルデータは、以下のとおりであった。
・mp.217℃(シュウ酸塩、分解)
・TLC (シリカゲル,アセトン) : Rf = 0.65
1H-NMR (CDCl3) δ: 2.28(s,
3H), 2.33(s, 3H), 3.98(s, 2H), 7.00−7.47(m, 6H)
・MS m/z(%) : 368(M+4, 13), 366(M+2, 43), 364(M+, 46),
331(64), 329(100), 294(24), 279(3),259(2), 243(1), 219(2), 183(4), 171(3),
159(6), 147(6), 129(8), 115(10), 101(4), 89(5), 75(2).
これらのスペクトルデータから、得られた固体は、化6の化学式で示される4−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチルイミダゾールであるものと同定した。
【0031】
【化6】

【0032】
〔実施例3〕
<2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−(4−メトキシフェニル)−5−メチルイミダゾールの合成>
まず、参考例2の4′−メチルプロピオフェノンを4′−メトキシプロピオフェノンに代えて、参考例2の方法に準拠して2−ブロモ−4′−メトキシプロピオフェノンを合成した。
次いで、実施例1の2−ブロモ−4′−メチルプロピオフェノンを2−ブロモ−4′−メトキシプロピオフェノンに代えて、実施例1の方法に準拠して合成試験を実施し、黄褐色ガラス状固体を得た。
【0033】
得られた固体の融点、薄層クロマトグラフィーのRf値、H−NMR及びマススペクトルデータは、以下のとおりであった。
・mp.187℃(シュウ酸塩、分解)
・TLC (シリカゲル,アセトン) : Rf = 0.55
1H-NMR (CDCl3) δ: 2.26(s,
3H), 3.79(s, 3H), 3.95(s, 2H), 6.85−7.40(m, 7H)
・MS m/z(%) : 348(M+2, 62), 346(M+, 95), 331(16), 313(34),
311(100), 296(5), 276(15),232(3), 201(3), 173(5), 159(10), 138(16), 116(7),
103(4), 91(8), 77(4).
これらのスペクトルデータから、得られた固体は、化7の化学式で示される2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−(4−メトキシフェニル)−5−メチルイミダゾールであるものと同定した。
【0034】
【化7】

【0035】
〔実施例4〕
実施例1〜3において合成したイミダゾール化合物と、これらとは別に2−フェニルイミダゾールを有効成分とする表面処理液を各々調製し、該処理液に銅を接触させることにより銅の表面に化成皮膜を形成させ、銅に対する溶融半田の濡れ時間を測定して、イミダゾール化合物が作用する銅表面への酸化防止性能を評価した。この場合、濡れ時間が短い程、イミダゾール化合物の酸化防止性能が優れているものと判定される。
評価試験の詳細は、次のとおりである。
(1)表面処理液の調製
イミダゾール化合物、酸、金属塩およびハロゲン化合物を、表1記載の組成となるようにイオン交換水に溶解させた後、アンモニア水でpHを調整して表面処理液を調製した。
(2)表面処理方法
材質が金属銅の試験片(5mm×50mm×0.3mmの銅板)を脱脂し、次いでソフトエッチングを行い、所定温度の表面処理液に所定時間浸漬して、銅の表面に化成皮膜を形成させた後、水洗して乾燥した。
(3)濡れ時間の測定
表面処理を行った試験片を、ポストフラックス〔商品名「JS−64MSS」(株)弘輝製〕に浸漬して、半田濡れ性試験器(SAT−2000、(株)レスカ製)を使用して半田濡れ時間(秒)を測定した。使用した半田は錫−鉛系共晶半田(商品名:H63A、千住金属工業製)であり、測定条件は半田温度240℃,浸漬深さ2mm,浸漬スピード16mm/秒とした。
なお、半田濡れ時間を測定した試験片は、(A)表面処理直後のものと、(B)温度40℃、湿度90%RHの恒温恒湿器に入れて96時間放置したものと、(C)さらに200℃で10分間加熱したものである。
得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示した試験結果によれば、本願発明の2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物を有効成分として含有する表面処理液は、銅の表面に耐湿性および耐熱性に優れた化成皮膜を形成させることができるので、銅表面の酸化防止に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、金属、特に銅(銅合金を含む)の表面の酸化防止剤や、エポキシ樹脂
の硬化剤または硬化促進剤として、また医農薬分野の中間原料としても有用な2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1の化学式(I)で示される2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−アリール−5−メチルイミダゾール化合物。
【化1】


【公開番号】特開2011−84488(P2011−84488A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236772(P2009−236772)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)