説明

2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法

【課題】 種々の機能性高分子の製造用中間体等として有用な2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を、収率良く工業的に有利な方法で製造する方法を提供する。
【解決手段】2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法は、サリチル酸とp−トルエンスルホニルクロライドとを塩基存在下で反応させる工程と、前記反応工程で得られた反応液より、酸性条件下で、疎水性有機溶媒を用いて2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を抽出する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の機能性高分子の製造用中間体等として有用な2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の機能性高分子の製造用中間体等として有用な2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法としては、例えば、サリチル酸とp−トルエンスルホニルクロライドとを水酸化ナトリウム水溶液存在下に反応させて2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を得る方法(非特許文献1)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry,Vol.55,No.12,p.3808−3812(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載されている方法によると、単離する際に、ろ過して得られた固体を水酸化ナトリウム水溶液に再度溶解させた後、酸によって析出させる等の煩雑な操作を行っているため工業的に有利な方法ではない。また、原料のサリチル酸が目的物と類似した物性を有するため分離しにくいこと、原料のp−トルエンスルホニルクロライドが水酸化ナトリウムと反応して分解しやすいこと等の理由により、収率が低く(27%)実用的な方法ではない。したがって、収率良く2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を得る、工業的に有利な製造方法の提案が望まれている。
【0005】
本発明は、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を、収率良く工業的に有利な方法で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示すとおりの、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法に関する。
【0007】
項1.サリチル酸とp−トルエンスルホニルクロライドとを塩基存在下で反応させる工程と、前記反応工程で得られた反応液より、酸性条件下で、疎水性有機溶媒を用いて2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を抽出する工程を含む、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法。
【0008】
項2.疎水性有機溶媒が、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、およびエステル系溶媒から選ばれる少なくとも1種である項1に記載の2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、種々の機能性高分子の製造用中間体等として有用な2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を、収率良く工業的に有利な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法に関する。以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明にかかる2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸は、サリチル酸とp−トルエンスルホニルクロライドとを、塩基存在下で反応させ、次いで、反応液より酸性条件下で、疎水性有機溶媒を用いて2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を抽出することにより得ることができる。
【0012】
本発明にかかる製造方法において、用いられるサリチル酸およびp−トルエンスルホニルクロライドは、市販されたものでもよく、種々の公知の方法により製造されたものでもよい。
【0013】
本発明に用いられるp−トルエンスルホニルクロライドの使用割合は、サリチル酸1モルに対して、1〜5モルであることが好ましく、2〜3モルであることがより好ましい。サリチル酸の使用割合が1モル未満である場合、反応が完結しにくくなり収率が低下するおそれがあり、5モルを超える場合、副生成物が多く生成され収率が低下するおそれがある。
【0014】
本発明に用いられる塩基としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸アルカリ金属等が挙げられる。中でも、反応速度や取り扱いの容易さ等の観点から、水酸化アルカリ金属が好適に用いられ、中でも水酸化ナトリウムが好適に用いられる。なお、これら塩基は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。また、塩基として水酸化アルカリ金属、または炭酸アルカリ金属等を用いる場合は、水を混合して水溶液として用いてもよい。
【0015】
前記反応に用いられる塩基の使用割合は、反応系内がpH10以上を維持する量であれば特に限定されるものではないが、サリチル酸1モルに対して1〜10モルであることが好ましく、2〜5モルであることがより好ましい。塩基の使用割合が1モル未満である場合、pH10以上を維持できず反応が完結しにくくなり収率が低下するおそれがあり、10モルを超える場合、原料のp−トルエンスルホニルクロライドが塩基と反応して分解し、収率が低下するおそれがある。
【0016】
前記反応に際し、必ずしも溶媒を用いる必要がないが、必要に応じて溶媒を用いることができる。用いる溶媒としては、特に限定されるものではないが、水、アセトン等が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点等から水が好ましい。なお、前記水は、前記塩基と混合する水であってもよい。溶媒を使用する場合の使用量は、サリチル酸100質量部に対して、1000〜5000質量部であることが好ましく、1000〜3000質量部であることがより好ましい。
【0017】
本発明にかかる製造方法において、サリチル酸と、p−トルエンスルホニルクロライドとを塩基存在下に反応させる順序としては、目的物の収率を高めるために、反応容器中にサリチル酸と塩基とを混合させたのち、p−トルエンスルホニルクロライドを添加する方法が好ましい。サリチル酸と塩基とを混合させたのちに、p−トルエンスルホニルクロライドを添加することにより、塩基によるp−トルエンスルホニルクロライドの分解が抑制され、目的物の収率を高めることができる。
【0018】
また、p−トルエンスルホニルクロライドの添加方法は、p−トルエンスルホニルクロライドが過剰の塩基と長時間接触して分解すること避ける観点等から分割添加であることが好ましい。前記p−トルエンスルホニルクロライドの分割添加は、少なくとも5分割以上とすることが好ましく、10分割以上とすることがより好ましい。前記p−トルエンスルホニルクロライドの添加時間は、例えば3〜10時間程度である。なお、前記p−トルエンスルホニルクロライドを分割添加する際に、反応系がpH10以上を維持できるように、塩基を添加しながら反応させることが好ましい。
【0019】
本発明にかかる製造方法において、反応温度は、10〜50℃であることが好ましく、より好ましくは30〜40℃である。また、反応時間は反応温度により異なるが、通常、サリチル酸、p−トルエンスルホニルクロライド、および塩基を添加終了後、0.5〜24時間である。
【0020】
本発明にかかる製造方法において、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸は、前記反応後の反応液より、酸性条件下で、疎水性有機溶媒を用いて抽出する。
【0021】
本発明にかかる反応液はアルカリ性であり、目的物がアルカリ金属塩になっていることから、酸性条件下で抽出することにより、工業的に有利に収率良く製造することができる。なお、前記酸性条件下とは、反応液のpHが中性より酸性側に偏った条件を言い、通常は酸を添加することによってかかる条件にすることができる。
【0022】
前記酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、硫酸、燐酸および硝酸等の鉱酸、ならびに、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点等から、塩酸が好ましく用いられる。なお、これらの酸は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
酸性条件下のpHは7以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。前記酸の使用割合は、前記反応液が酸性条件になれば特に限定されるものではなく、例えば、反応に用いたサリチル酸1モルに対して、0.1〜10モルであることが好ましく、0.1〜5モルであることがより好ましい。
【0024】
前記反応後の反応液から、酸性条件下で2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を抽出する際の疎水性有機溶媒としては、例えば、イソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジクロロメタンおよびモノクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒ならびに、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、溶解度等の観点から、エーテル系溶媒が好ましく用いられ、中でも、tert−ブチルメチルエーテルが好ましく用いられる。疎水性有機溶媒を用いて抽出することによって、引き続き行われる晶析工程後に濾過した際、目的物と比較して疎水性有機溶媒により高い溶解性を示す原料のサリチル酸は濾液中に除去することができ、容易に分離することができる。
【0025】
前記疎水性有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、反応に用いたサリチル酸100質量部に対して1000〜5000質量部であることが好ましく、1000〜2000質量部であることがより好ましい。
【0026】
疎水性有機溶媒を用いて2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を抽出する順序としては、特に限定されないが、例えば、前記反応後の反応液に、疎水性有機溶媒を添加後、酸を添加し酸性条件下にし、抽出、分液する方法等が挙げられる。なお、抽出する際の温度は、通常、5〜50℃であることが好ましく、より好ましくは30〜40℃である。
【0027】
かくして得られた有機相から目的物を単離する方法は、そのまま冷却して晶析する方法、また貧溶媒を添加して晶析する方法等が挙げられる。なお、晶析する際には収率を上げる観点から、必要に応じ有機相から疎水性有機溶媒の一部を蒸留除去した後に晶析することが好ましい。
【0028】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0029】
実施例1
攪拌機、温度計、冷却管、および滴下ロートを備えた500mL容の四つ口フラスコに、サリチル酸13.8g(0.1モル)、水酸化ナトリウム8.0g(0.2モル)、および水180gを仕込んだ。40℃に昇温した後、p−トルエンスルホニルクロライド19.0g(0.1モル)を5分割して30分おきに添加した。
次に、反応液内がpH10以上を維持するよう水酸化ナトリウム4.0g(0.1モル)を添加した後に、p−トルエンスルホニルクロライド11.4g(0.06モル)を3分割して30分おきに添加した。さらに、水酸化ナトリウム4.0g(0.1モル)を添加した後に、p−トルエンスルホニルクロライド7.6g(0.04モル)を2分割して30分おきに添加し、30〜40℃に維持しながら3時間攪拌した。
【0030】
反応終了後、tert−ブチルメチルエーテル222gを添加し、35質量%塩酸水溶液5.2g(0.05モル)を添加することによりpH2〜3とし、目的物の抽出を行った。分液後、有機相に水30gを添加して洗浄し、分液した有機相より、tert−ブチルメチルエーテル163gを留去した。その後、攪拌しながらヘプタン50gを滴下し、5℃に冷却して、析出した固体を濾過した。得られた固体をヘプタン30gにて洗浄後、乾燥して、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸14.7g(0.05モル)を得た。得られた2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、面積百分率により99.2%であった。また、得られた2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の収率は、サリチル酸に対して50.3%であった。
【0031】
比較例1
非特許文献1の記載に従って、攪拌子入りのフラスコに、サリチル酸5.0g(0.0362モル)、水酸化ナトリウム2.9g(0.0725モル)、および水25gを仕込んだ。15分攪拌した後にp−トルエンスルホニルクロライド6.9g(0.0362モル)を室温で添加した。一晩攪拌することで白色の懸濁液となり、反応液を濾過することにより固体が得られた。得られた固体を30質量%水酸化ナトリウム水溶液100g、および水70gの混合液に溶解させた。次いで、濃塩酸72.2gを加えることでpHを2〜3にし、析出した固体を濾過した。得られた固体を70℃の水20gで洗浄後、乾燥して、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸1.7g(0.005モル)を得た。得られた2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、面積百分率により95.4%であった。また、得られた2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の収率は、サリチル酸に対して13.9%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸とp−トルエンスルホニルクロライドとを塩基存在下で反応させる工程と、
前記反応工程で得られた反応液より、酸性条件下で、疎水性有機溶媒を用いて2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸を抽出する工程を含む、2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法。
【請求項2】
疎水性有機溶媒が、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、およびエステル系溶媒から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の2−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ安息香酸の製造方法。

【公開番号】特開2013−75872(P2013−75872A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217698(P2011−217698)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】