説明

2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末とその製造方法並びに用途

【課題】 従来、汎用されている医薬部外品級のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末に比べて有意に固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末とその製造方法、並びに用途を提供することを課題とする。
【解決手段】 無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを98.0質量%超99.9質量%未満含有し、粉末X線回折プロフィルに基づき算出される、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、又は、窒素気流下で粉末中の遊離水分を除去した後、温度25℃、相対湿度35質量%で12時間保持したときの動的水分吸着量が0.01質量%以下であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末、及びその製造方法並びに用途を提供することによって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末とその製造方法並びに用途に関し、詳細には、従来品に比べて有意に固結し難い2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末とその製造方法、並びに、その食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
L−アスコルビン酸は、その優れた生理活性や抗酸化作用の故に、従来から飲食品、化粧品などを含め種々の用途に使用されている。反面、L−アスコルビン酸は、直接還元性故に不安定であり、酸化分解を受け易く、生理活性を失い易いという大きな欠点を有している。このL−アスコルビン酸の欠点を解消すべく、本出願人は、特許文献1において、共同出願人の一人として、L−アスコルビン酸の2位の水酸基に1分子のD−グルコースが結合した2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸(以下、本明細書では「アスコルビン酸2−グルコシド」と略称する。)を開示した。このアスコルビン酸2−グルコシドは、直接還元性を示さず、安定であり、かつ、生体内では、生体内にもともと存在する酵素によってL−アスコルビン酸とD−グルコースとに分解されてL−アスコルビン酸本来の生理活性を発揮するという画期的な特性を有している。特許文献1に開示された製造方法によれば、アスコルビン酸2−グルコシドは、L−アスコルビン酸とα−グルコシル糖化合物とを含有する溶液にシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼ(以下、「CGTase」と略称する。)又はα−グルコシダーゼなどの糖転移酵素を作用させることによって生成される。
【0003】
本出願人は、さらに、特許文献2において、アスコルビン酸2−グルコシドの過飽和溶液からアスコルビン酸2−グルコシドを晶析させることに成功し、結晶アスコルビン酸2−グルコシドと、それを含むアスコルビン酸2−グルコシド結晶含有粉末を開示した。なお、アスコルビン酸2−グルコシド結晶としては、現在のところ、無水結晶しか知られていない。因みに、非特許文献1及び2には、アスコルビン酸2−グルコシド結晶について、X線による構造解析の結果が報告されている。
【0004】
本出願人は、さらに、特許文献3及び4において、酵素反応によって生成したアスコルビン酸2−グルコシドを含有する溶液を強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーに供してアスコルビン酸2−グルコシドの高含有画分を採取するアスコルビン酸2−グルコシド高含有物の製造方法を開示した。また、本出願人は、特許文献5において、酵素反応によって生成したアスコルビン酸2−グルコシドを含有する溶液からアニオン交換膜を用いる電気透析によってL−アスコルビン酸や糖類などの夾雑物を除去するアスコルビン酸2−グルコシド高含有物の製造方法を開示し、特許文献6においては、アスコルビン酸2−グルコシドを含有する溶液をアニオンイオン交換樹脂と接触させて、アニオンイオン交換樹脂に吸着された成分を選択的に脱着させてアスコルビン酸2−グルコシドの高含有画分を得るアスコルビン酸2−グルコシド高含有物の製造方法を開示した。
【0005】
さらに、本出願人は、特許文献7において、L−アスコルビン酸とα−グルコシル糖化合物とを含有する溶液にα−イソマルトシルグルコ糖質生成酵素、又は、α−イソマルトシルグルコ糖質生成酵素とCGTaseを作用させてアスコルビン酸2−グルコシドを生成させるアスコルビン酸2−グルコシドの製造方法を開示した。また、本出願人による特許文献8及び9には、それぞれ、α−イソマルトシルグルコ糖質生成酵素及びα−イソマルトシル転移酵素が、L−アスコルビン酸への糖転移を触媒してアスコルビン酸2−グルコシドを生成することが開示されている。
【0006】
また、アスコルビン酸2−グルコシドの用途に関しては、例えば特許文献10乃至29に示すとおり、多数の提案が為されている。アスコルビン酸2−グルコシドは、その優れた特性のために、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、或いは医薬品素材として、従来からのL−アスコルビン酸の用途はもとより、L−アスコルビン酸が不安定であるために従来はL−アスコルビン酸を用いることができなかったその他の用途にも広く使用されるに至っている。
【0007】
上述したとおり、アスコルビン酸2−グルコシドは、現在では、L−アスコルビン酸と澱粉質とを原料にして、種々の糖転移酵素を用いて製造できることが知られている。しかし、本出願人がこれまでに得た知見によれば、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液に糖転移酵素としてCGTaseを作用させる方法が、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率が最も高く、工業的に優れた方法である。この知見に基づき、本出願人は、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseを作用させる方法によってアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を製造し、これを化粧品・医薬部外品素材及び食品素材として、それぞれ、商品名『AA2G』(株式会社林原生物化学研究所販売)及び商品名『アスコフレッシュ』(株式会社林原商事販売)として販売している(以下、これら化粧品・医薬部外品素材及び食品素材として販売されている従来のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を「医薬部外品級の粉末」と略称する。)。
【0008】
しかし、医薬部外品級の粉末は、製品規格上のアスコルビン酸2−グルコシドの純度が98.0質量%以上と比較的高純度であり、製造直後は粉末としての良好な流動性を備えているにもかかわらず、高温、高湿の環境下に長期間置くと、自重や吸湿により固結するという欠点を有している。斯かる欠点に鑑み、医薬部外品級の粉末は、その10kgずつをポリエチレン製の袋に詰め、乾燥剤と共に蓋付きスチール缶に入れた商品形態で販売されているが、本発明者らが得たその後の知見によれば、このような商品形態であっても医薬部外品級の粉末は、保存期間が長期に及ぶと、往々にして固結し、粉末としての有用性が損なわれてしまうという問題点を有している。化粧品素材や医薬部外品素材、或いは食品素材として用いられるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が固結すると、本来、原料素材が流動性を有する粉末であることを前提に製造プラントが設計されている場合には、原料素材の輸送や篩い分け、混合などの工程に支障をきたす恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−139288号公報
【特許文献2】特開平3−135992号公報
【特許文献3】特開平3−183492号公報
【特許文献4】特開平5−117290号公報
【特許文献5】特開平5−208991号公報
【特許文献6】特開2002−088095号公報
【特許文献7】特開2004−065098号公報
【特許文献8】国際公開WO02010361号パンフレット
【特許文献9】国際公開WO01090338号パンフレット
【特許文献10】国際公開WO05087182号パンフレット
【特許文献11】特開平4−046112号公報
【特許文献12】特開平4−182412号公報
【特許文献13】特開平4−182413号公報
【特許文献14】特開平4−182419号公報
【特許文献15】特開平4−182415号公報
【特許文献16】特開平4−182414号公報
【特許文献17】特開平8−333260号公報
【特許文献18】特開2005−239653号公報
【特許文献19】国際公開WO06033412号パンフレット
【特許文献20】特開2002−326924号公報
【特許文献21】特開2003−171290号公報
【特許文献22】特開2004−217597号公報
【特許文献23】国際公開WO05034938号パンフレット
【特許文献24】特開2006−225327号公報
【特許文献25】国際公開WO06137129号パンフレット
【特許文献26】国際公開WO06022174号パンフレット
【特許文献27】特開2007−063177号公報
【特許文献28】国際公開WO06132310号パンフレット
【特許文献29】国際公開WO07086327号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】マンダイ・タカヒコら、『カーボハイドレート・リサーチ』(Carbohydrate Research)、第232巻、197〜205頁(1992年)
【非特許文献2】イノウエ・ユタカら、『インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティクス』(International Journal of Pharmaceutics)、第331巻、38〜45頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の欠点を解決するために為されたもので、汎用されている医薬部外品級のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末に比べて有意に固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末とその製造方法、並びに用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決すべく、本発明者らは、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結性について研究を重ね、本出願人が分析用の標準試薬として販売しているアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末(商品名『アスコルビン酸2−グルコシド 999』、コード番号:AG124、株式会社林原生物化学研究所販売。)(以下、「試薬級の粉末」と略称する。)は、医薬部外品級の粉末が固結する条件下でも固結せず、粉末としての性状を保っていることを見出した。この試薬級の粉末は、医薬部外品級の粉末と同じく、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseを作用させる工程を経て、得られるアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を精製、濃縮して、アスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を析出させ、これを採取することによって製造される粉末であるが、通常の工程に加えて、一旦得られた結晶を溶解して再び晶析させる再結晶工程や、再結晶工程で得られた結晶を純水等を用いて繰り返し洗浄する洗浄工程を追加することによって、アスコルビン酸2−グルコシドの純度を99.9質量%以上という極めて高純度のレベルにまで高めている点で、医薬部外品級の粉末とは異なっている。したがって、医薬部外品級の粉末においても、アスコルビン酸2−グルコシドの純度を99.9質量%以上にまで高めれば固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が得られるのではないかと推測される。
【0013】
しかしながら、アスコルビン酸2−グルコシドの純度を99.9質量%以上という高純度にするには、上述したとおり、通常の製造工程に加えて、再結晶工程や、純水等を用いた繰り返しの洗浄工程を追加する必要があり、製造に要する時間と労力が増すばかりでなく、再結晶工程や洗浄工程におけるアスコルビン酸2−グルコシドのロスが避けられず、製品の歩留まりが低下し、製造コストが大幅に上昇するという不都合がある。このため、医薬部外品級の粉末よりも固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得ることを目的として単純にアスコルビン酸2−グルコシドの純度を99.9質量%以上にまで高めるという選択肢は現実的なものではない。
【0014】
そこで、本発明者らはアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結性について更に研究を重ね、種々試行錯誤を繰り返した結果、粉末中のアスコルビン酸2−グルコシドの純度が従来の医薬部外品級の粉末と同レベルであるか、試薬級の純度に満たないレベルであっても、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度を90%以上にするか、或いは、粉末の動的水分吸着量を0.01質量%以下としたアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、医薬部外品級の粉末よりも有意に固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末であることを見出した。
【0015】
本発明者らは、さらに、結晶化度や動的水分吸着量が上記したレベルにあるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を工業的規模で製造する方法について研究を重ね、その結果、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseとグルコアミラーゼをこの順で作用させて、溶液中にアスコルビン酸2−グルコシドを生成率35質量%以上の高率で生成させるとともに、当該溶液を精製して、溶液中のアスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86質量%超にまで高めることによって、当該溶液から晶析したアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶を含む粉末は、比較的容易に、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度を90%以上とすることができるとともに、粉末の動的水分吸着量を0.01質量%以下とすることができることを見出した。
【0016】
また、本発明者らは、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、動的水分吸着量が0.01質量%以下であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、従来の医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難いので、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材として取り扱いが容易であり、多大な意義と価値があることを見出して本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを98.0質量%を超え99.9質量%未満含有し、粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であることを特徴とするアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0018】
本発明は、また、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを98.0質量%を超え99.9質量%未満含有し、窒素気流下で粉末中の水分を除去した後、温度25℃、相対湿度35%で12時間保持したときの動的水分吸着量が0.01質量%以下であることを特徴とするアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0019】
好ましい一態様において、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、粒径150μm未満の粒子を粉末全体の70質量%以上、粒径53μm以上150μm未満の粒子を粉末全体の40乃至60質量%含有している。また、好ましい一態様において、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを含有し、かつ、粉末全体の還元力が1質量%未満である。また、より好ましい他の一態様において、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、L−アスコルビン酸量が無水物換算で0.1質量%以下である。
【0020】
上記のような本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、典型的には、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseを作用させる工程を経て得られるアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液から製造される粉末である。
【0021】
本発明は、さらに、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含む溶液にCGTaseとグルコアミラーゼをこの順で作用させて、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率が35質量%以上であるアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を得る工程;得られたアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を精製して、アスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86質量%超とする工程;アスコルビン酸2−グルコシドを無水物換算で86質量%超含有する溶液からアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を析出させる工程;析出したアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を採取する工程;採取されたアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を熟成、乾燥し、必要に応じて粉砕する工程を含むことを特徴とするアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造方法を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0022】
本発明の製造方法において、用いるCGTaseとしては、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseとグルコアミラーゼとをこの順で作用させたときに、アスコルビン酸2−グルコシドを生成率35質量%以上の高率で生成させることができる限り、その起源や由来に特段の制限はなく、天然の酵素であっても、遺伝子組換えによって得られる酵素であっても良い。ただし、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率という観点からは、後述するジオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)Tc−62株由来のCGTase、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−27株由来のCGTase、又はジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−91株由来のCGTaseを遺伝子組み換え技術によって変異させた変異CGTaseを用いるのが好ましく、中でも、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−62株が産生するCGTaseが、アスコルビン酸2−グルコシドについての生成率を高くすることができるので、最も好ましい。
【0023】
用いるグルコアミラーゼにも特に制限はなく、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液に、CGTaseとグルコアミラーゼとをこの順に作用させたときに、アスコルビン酸2−グルコシドを生成率35質量%以上の高率で生成させることができる限り、その起源や由来に特段の制限はなく、天然の酵素であっても、遺伝子組換えによって得られる酵素であっても良い。
【0024】
また、原料として用いる澱粉質の種類にも依るが、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseを作用させるに際しては、CGTaseとともにイソアミラーゼやプルラナーゼなどの澱粉枝切り酵素を作用させてアスコルビン酸2−グルコシドの生成率を高めるようにしても良い。
【0025】
なお、本発明の製造方法の好ましい一態様において、上記アスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を精製してアスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86質量%超とする工程は、濾過、脱塩した酵素反応液を、アニオン交換樹脂に接触させてアスコルビン酸2−グルコシドとL−アスコルビン酸とを吸着せしめ、精製水でD−グルコースなどの糖類を溶出除去した後、溶離液として0.5N未満の塩酸か塩類の水溶液をカラムに供給しアスコルビン酸2−グルコシドとL−アスコルビン酸を溶出し、この溶出液を濃縮して、カチオン交換樹脂又は多孔性合成樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーに供し、溶離液により溶出する方法によって行われる。特に、カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーとして強酸性カチオン交換樹脂を充填剤とする擬似移動床式を用いる場合には、目的とするアスコルビン酸2−グルコシド含量が86質量%超の画分を効率良く、好収率で得られるので好ましい。
【0026】
加えて、本発明は、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末からなる粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、又は医薬品素材を提供することによって上記の課題を解決するものである。
【0027】
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が有利に用いられる食品素材としては、例えば、ビタミンC強化剤、コラーゲン産生増強剤、美白剤、呈味改善剤、品質改善剤、褐変防止剤、酸味料、賦形剤、増量剤、抗酸化剤などが、化粧品素材としては、例えば、美白剤、細胞賦活剤、コラーゲン産生増強剤、ビタミンC強化剤、呈味改善剤、品質改善剤、褐変防止剤、酸味料、賦形剤、増量剤、安定剤、抗酸化剤などが、医薬部外品素材としては、例えば、美白剤、細胞賦活剤、コラーゲン産生増強剤、ビタミンC強化剤、呈味改善剤、品質改善剤、褐変防止剤、酸味料、賦形剤、増量剤、安定剤、抗酸化剤などが、そして、医薬品素材としては、例えば、美白剤、細胞賦活剤、コラーゲン産生増強剤、臓器保存剤、ラジカル障害抑制剤、ビタミンC強化剤、褐変防止剤、賦形剤、増量剤、安定剤、抗酸化剤などが、それぞれ挙げられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、従来から化粧品素材、医薬部外品素材、食品素材などとして市販されている医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難いので、保存、保管時や流通時においても粉末としての流動性が損なわれ難く、取り扱いが容易であるという利点を有している。また、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、従来の医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難いにもかかわらず、アスコルビン酸2−グルコシドの純度を試薬級の粉末のレベルにまで高める必要がないので、その製造に際しては、再結晶工程や、結晶を繰り返し洗浄する工程を追加する必要がない。したがって、製品の歩留まりが大幅に低下することはなく、安価に製造することができるという利点を有している。
【0029】
また、本発明の製造方法によれば、L−アスコルビン酸と澱粉質とを原料として、従来の医薬部外品級の粉末の製造方法と工程的に変わるところのない製造方法によって、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を製造することができるので、医薬部外品級の粉末の製造に従来から必要とされていたのと大差ない時間、労力、製造設備、及びコストで、医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を製造することができるという優れた利点が得られる。
【0030】
さらに、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末からなる粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材によれば、粉末状素材を構成するアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が有意に固結し難いので、保存、保管はもとより、取り扱いが容易であるとともに、原料が流動性のある粉末であることを前提に作られている製造プラントに使用しても、原料の輸送や、篩い分け、混合などのプロセスに支障をきたす恐れがないという利点が得られる。
【0031】
また、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、食品素材などに求められる粒度分布、すなわち、粒径150μm未満の粒子を粉末全体の70質量%以上、かつ、粒径53μm以上150μm未満の粒子を粉末全体の40乃至60質量%含有する粒度分布に容易に調整することができるので、これを食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、又は医薬品素材として用いても、従前からの製造工程や原料規格を変えることなく、従前どおりに使用できるという利点が得られる。さらに、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを含有し、かつ、粉末全体の還元力が1質量%未満である場合には、L−アスコルビン酸と澱粉質とを原料にして製造された粉末であるにもかかわらず、アミノ酸や蛋白質などの分子内にアミノ基を有する他成分と混合しても変色などの品質低下を惹起する恐れがないという利点が得られる。特に、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末におけるL−アスコルビン酸含量が無水物換算で0.1質量%以下である場合には、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を、粉末単独で長期間保存した場合でも、粉末自体が淡褐色に着色する恐れがなく、実質的に無着色で白色の粉末として、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、及び医薬品素材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の特性X線による粉末X線回折パターンの一例である。
【図2】実質的に無定形部分からなるアスコルビン酸2−グルコシド含有粉末の特性X線による粉末X線回折パターンの一例である。
【図3】実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末のシンクロトロン放射光による粉末X線回折パターンの一例である。
【図4】実質的に無定形部分からなるアスコルビン酸2−グルコシド含有粉末のシンクロトロン放射光による粉末X線回折パターンの一例である。
【図5】ジオバチルス属に属する微生物由来のCGTaseの高次構造を示す模式図である。
【図6】ジオバチルス属に属する微生物由来のCGTaseの触媒残基及び保存領域を示す模式図である。
【図7】本発明で用いたジオバチルス属に属する微生物由来のCGTase遺伝子を含む組換えDNA「pRSET−iBTC12」の構造及び制限酵素認識部位を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.用語の定義
本明細書において以下の用語は以下の意味を有している。
【0034】
<結晶化度>
本明細書でいう「アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度」とは、下記式[1]によって定義される数値を意味する。
【0035】
式[1]:
【数1】

【0036】
式[1]において、解析値H100、H、Hsを求める基礎となる粉末X線回折プロフィル(profile)は、通常、反射式又は透過式の光学系を備えた粉末X線回折装置により測定することができる。粉末X線回折プロフィルは被験試料又は標準試料に含まれるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての回折角及び回折強度を含み、斯かる粉末X線回折プロフィルから結晶化度についての解析値を決定する方法としては、例えば、ハーマンス法、フォンク法などが挙げられる。これら解析方法のうち、ハーマンス法を用いるのが簡便さと精度の点で好適である。今日、これらの解析方法は、いずれもコンピューターソフトウェア化されていることから、斯かるコンピューターソフトウェアのいずれかが搭載された解析装置を備えた粉末X線回折装置を用いるのが好都合である。
【0037】
また、解析値H100を求める「実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末標準試料」としては、アスコルビン酸2−グルコシドについての純度が99.9質量%以上(以下、特にことわらない限り、本明細書では質量%を「%」と略記する。ただし、本明細書でいう結晶化度に付された%はこの限りではない。)である粉末又は単結晶であって、粉末X線回折パターンにおいて、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶に特有な回折ピークを示し、実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなるものを用いる。斯かる粉末又は単結晶としては、上述した試薬級の粉末、又はこれを再結晶化して得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末又はアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の単結晶が挙げられる。因みに、実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなる上記アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末標準試料の粉末X線回折プロフィルを、ハーマンス法によるコンピューターソフトウェアにて解析した場合の解析値H100は、通常、70.2乃至70.5%程度となる。
【0038】
一方、解析値Hを求める「実質的に無定形部分からなるアスコルビン酸2−グルコシド含有粉末標準試料」としては、アスコルビン酸2−グルコシドについての純度が99.1%以上である粉末であって、その粉末X線回折パターンが無定形部分に由来するハローだけからなり、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶に特有な回折ピークを実質的に示さないものを用いる。斯かる粉末としては、例えば、上記した解析値H100を求める標準試料を適量の精製水に溶解し、濃縮した後、凍結乾燥し、さらに、カールフィッシャー法により決定される水分含量が2.0%以下となるまで真空乾燥することにより得られた粉末が挙げられる。斯かる処理を施した場合に、実質的に無定形部分からなる粉末が得られることは、経験上知られている。因みに、実質的に無定形部分からなる上記アスコルビン酸2−グルコシド含有粉末標準試料の粉末X線回折プロフィルを、ハーマンス法によるコンピューターソフトウェアにて解析した場合の解析値Hは、通常、7.3乃至7.6%程度となる。
【0039】
なお、解析値Hを求める標準試料としては、アスコルビン酸2−グルコシドについての純度が高いものの方が好ましいことはいうまでもないが、解析値H100を求める標準試料から上述のようにして調製される解析値Hを求める標準試料におけるアスコルビン酸2−グルコシドの純度は、後述する実験1−1に示すとおり、解析値H100を求める標準試料のアスコルビン酸2−グルコシド純度が99.9%以上と極めて高いにもかかわらず、99.1%にとどまる。よって、「実質的に無定形部分からなるアスコルビン酸2−グルコシド含有粉末標準試料」のアスコルビン酸2−グルコシド純度は、上記のとおり、99.1%以上とした。
【0040】
<動的水分吸着量>
本明細書でいう「動的水分吸着量」とは、水分吸脱着測定装置を用い、温度25℃、相対湿度0%の条件下、窒素気流下で12時間保持して試料から遊離の水分を除去し、除去後の試料を秤量した後、試料を温度25℃、相対湿度35%の条件下で同じく窒素気流下に12時間保った直後に再度秤量し、得られた2種の秤量値に基づいて、下記式[2]により算出される値を意味する。
【0041】
式[2]:
【数2】

【0042】
<還元力>
本明細書でいう「粉末全体の還元力」とは、D−グルコースを標準物質として用い、斯界において汎用されるソモジ−ネルソン法及びアンスロン硫酸法によりそれぞれD−グルコース換算に基づく還元糖量及び全糖量を求め、下記式[3]を用いて求めることができる、含まれる全糖量に対する還元糖量の百分率(%)を意味する。
【0043】
式[3]:
【数3】

【0044】
<粒度分布>
本明細書において、粉末の粒度分布は以下のようにして決定する。すなわち、日本工業規格(JIS Z 8801−1)に準拠する、目開きが425、300、212、150、106、75及び53μmの金属製網ふるい(株式会社飯田製作所製)を正確に秤量した後、この順序で重ね合わせてロータップふるい振盪機(株式会社田中化学機械製造所製、商品名『R−1』)へ装着し、次いで、秤取した一定量の試料を最上段のふるい(目開き425μm)上に載置し、ふるいを重ね合わせた状態で15分間振盪した後、各ふるいを再度正確に秤量し、その質量から試料を載置する前の質量を減じることによって、各ふるいによって捕集された粉末の質量を求める。その後、ふるい上に載置した試料の質量に対する、各ふるいによって捕集された各粒度を有する粉末の質量の百分率(%)を計算し、粒度分布として表す。
【0045】
<アスコルビン酸2−グルコシドの生成率>
本明細書でいう「アスコルビン酸2−グルコシドの生成率」とは、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseなどの酵素を作用させて得られる酵素反応液中における、無水物換算したアスコルビン酸2−グルコシドの含量(%)を意味する。
【0046】
<アスコルビン酸2−グルコシドの無水物換算での含量>
アスコルビン酸2−グルコシドの無水物換算での含量とは、水分を含めないで計算した場合の全質量に占めるアスコルビン酸2−グルコシドの質量百分率(%)を意味する。例えば、溶液中のアスコルビン酸2−グルコシドの無水物換算での含量とは、溶液に含まれる水分を含めないで、残りの全固形分に対するアスコルビン酸2−グルコシドの質量百分率を意味する。また、粉末中におけるアスコルビン酸2−グルコシドの無水物換算での含量とは、粉末中の水分を含めないで残部を粉末全質量として計算した場合の粉末全質量に対するアスコルビン酸2−グルコシドの質量百分率を意味する。
【0047】
<CGTaseの活性>
本明細書において「CGTaseの活性」は以下のように定義される。すなわち、0.3%(W/V)可溶性澱粉、20mM酢酸緩衝液(pH5.5)、1mM塩化カルシウムを含む基質水溶液5mlに対し、適宜希釈した酵素液0.2mlを加え、基質溶液を40℃に保ちつつ、反応0分目及び反応10分目に基質溶液を0.5mlずつサンプリングし、直ちに0.02N硫酸溶液15mlに加えて反応を停止させた後、各硫酸溶液に0.2Nヨウ素溶液を0.2mlずつ加えて呈色させ、10分後、吸光光度計により波長660nmにおける吸光度をそれぞれ測定し、下記式[4]により澱粉分解活性として算出する。CGTaseの活性1単位とは、斯かる測定条件で、溶液中の澱粉15mgのヨウ素呈色を完全に消失させる酵素の量と定義する。
【0048】
式[4]:
【数4】

【0049】
<イソアミラーゼの活性>
本明細書において「イソアミラーゼの活性」は以下のように定義される。すなわち、0.83%(W/V)リントナー(Lintner)可溶化ワキシーコーンスターチ、0.1M酢酸緩衝液(pH3.5)を含む基質水溶液3mlに対し、適宜希釈した酵素液0.5mlを加え、基質溶液を40℃に保ちつつ、反応30秒目と30分30秒目に基質溶液、を0.5mlずつサンプリングし、直ちに0.02N硫酸溶液を15mlずつ加えて反応を停止させ、各硫酸溶液に0.01Nヨウ素溶液を0.5mlずつ加え、25℃で15分間呈色させた後、吸光光度計により波長610nmにおける吸光度をそれぞれ測定し、下記式[5]により澱粉分解活性として算出する。イソアミラーゼの活性1単位とは、斯かる測定条件で、波長610nmの吸光度を0.004増加させる酵素の量と定義する。
【0050】
式[5]:
【数5】

【0051】
2.本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末
<結晶化度及び動的水分吸着量>
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、上述したとおり、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを98.0%超、99.9%未満含有し、粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、又は、動的水分吸着量が0.01%以下であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である。以下の実験によって示すとおり、結晶化度又は動的水分吸着量が上記レベルにある本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、アスコルビン酸2−グルコシドの純度、すなわち、無水物換算でのアスコルビン酸2−グルコシドの含量が、医薬部外品級の粉末とほぼ同じレベルか、試薬級の粉末におけるアスコルビン酸2−グルコシドの純度に満たないにもかかわらず、医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難い。
【0052】
また、以下に実験で示すとおり、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを98.0%超、99.9%未満含有するアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末において、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が上記範囲にある粉末は、動的水分吸着量が0.01%以下であり、逆に、動的水分吸着量が上記範囲にある粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上である。したがって、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度又は粉末の動的水分吸着量のいずれによっても規定することができ、必要であれば、その双方によって規定することもできる。
【0053】
なお、動的水分吸着とは、一定温度で試料周囲の湿度を変化させたときに、試料に含まれる水分量が変化する現象であり、結晶化度のように試料である粉末の結晶構造に直接に由来する指標ではないが、粉末の固結には吸湿現象が関与し、水分吸着のし易さを表す動的水分吸着量は、粉末の糖組成やアスコルビン酸2−グルコシドの純度、粉末粒子の大きさなどによって有意に変動すると推定されるので、吸湿による粉末の固結性を評価する上で有力な指標になるものと考えられる。
【0054】
後述する実験にみられるとおり、動的水分吸着量が約0.05%を超えるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、行われた実験環境下で比較的容易に固結するのに対し、動的水分吸着量が約0.01%以下であるものは、同環境下で実質的に固結しない。この事実は、固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を実現するうえで、結晶化度とともに、動的水分吸着量が有力な指標であることを示している。
【0055】
因みに、結晶化度を求めるにあたり、解析値Hを決定するために用いた標準試料、すなわち、「実質的に無定形部分からなるアスコルビン酸2−グルコシド含有粉末標準試料」は、後述する実験3に示すとおり、1.7%の動的水分吸着量を示したのに対し、解析値H100を決定するために用いた標準試料、すなわち、「実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末標準試料」は、同じく実験3に示すとおり、動的水分吸着量が検出限界以下であり、実質的に動的水分吸着を示さない。
【0056】
<粒度分布>
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、その好適な一態様において、粒径150μm未満の粒子を粉末全体の70%以上、かつ、粒径53μm以上150μm未満の粒子を粉末全体の40乃至60%含有する。本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、例えば、食品素材などに求められる上記の粒度分布に容易に調整することができるので、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、又は医薬品素材として、製造工程や原料規格を変えることなく、従前どおりに使用できるという利点を有している。
【0057】
<反応夾雑物及び還元力>
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、その好適な一態様において、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを含み、かつ、粉末全体の還元力が1%未満である。良く知られているとおり、L−アスコルビン酸やD−グルコースは直接還元性を有し、アミノ酸や蛋白質などの分子内にアミノ基を有する化合物の共存下で加熱すると褐色の着色を引き起こすので、これらの物質が製品としてのアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末に含まれることは好ましくない。しかし、例えば、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseなどの酵素を作用させる工程を経てアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を製造する場合には、量の多寡はともかく、未反応のL−アスコルビン酸や、原料である澱粉質に由来するD−グルコースなどが、反応夾雑物として製品であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末に混入することは避けられない。例えば、従来の医薬部外品級の粉末においては、含まれるL−アスコルビン酸とD−グルコースの量が、無水物換算した両者の合計で約1%にも達することがあり、食品素材などとして用いた場合に予期せぬ褐色の着色を引き起こすことがあった。
【0058】
そこで、本発明においては、不可避的に避けられないL−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースの混入を許容するとともに、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末における粉末全体の還元力を1%未満に規制することとした。後述する実験に示すとおり、本発明の製造方法によって本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を製造する場合には、粉末全体の還元力を1%未満とすることは容易である。L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを含有していても、粉末全体の還元力が1%未満であれば、アミノ酸や蛋白質などの分子内にアミノ基を有する化合物の共存下で加熱しても褐色の着色を引き起こすことが実質的にない。したがって、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを含有し、かつ、粉末全体の還元力が1%未満であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、着色や変色を懸念することなく、食品、化粧品、医薬部外品、医薬品一般へ配合使用することができるという利点を有している。因みに、粉末全体の還元力が1%未満である場合、含まれるL−アスコルビン酸とD−グルコースの量は、無水物換算した合計量で0.2%以下である。
【0059】
また、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、より好適な一態様において、L−アスコルビン酸含量が無水物換算で0.1%以下である。L−アスコルビン酸は、酸化防止剤や脱酸素剤として飲食品などに用いられているとおり、酸素との反応性が高い。このため、L−アスコルビン酸は、分子内にアミノ基を有する化合物の共存下で加熱すると褐色の着色を引き起こすだけでなく、L−アスコルビン酸を含有する粉末自体の着色にも深く関与していると考えられる。現に、後述する実験に示すとおり、医薬部外品級の粉末にはL−アスコルビン酸が0.2%程度含まれているが、本発明者らが得た知見によれば、医薬部外品級の粉末は、これを前述した商品形態で比較的長期間保存すると、往々にして、粉末自体が淡褐色に着色する現象が見られる。これに対し、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末におけるL−アスコルビン酸含量が0.1%以下である場合には、この粉末を医薬部外品級の粉末と同様の商品形態で比較的長期間保存しても、粉末自体が淡褐色に着色する懸念がない。因みに、本発明の製造方法によれば、精製工程に、D−グルコースなどの糖類を除去するためのアニオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーに続き、カチオン交換樹脂又は多孔性樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを行うことによって、特に、カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーとして擬似移動床式を用いる場合には、製造コストを上昇させることなく比較的容易に、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末におけるL−アスコルビン酸含量を0.1%以下にすることができる。
【0060】
3.本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造方法
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを98.0%超、99.9%未満含有するアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末であって、粉末中のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、又は、動的水分吸着量が0.01%以下である限り、如何なる方法によって製造されたものであっても良く、特定の製造方法によって製造されたものに限定されるものではない。
【0061】
しかしながら、以下に示す本発明の製造方法による場合には、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を比較的容易に製造することができる。すなわち、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造方法は、基本的に、以下の(1)乃至(5)の工程を含んでいる:
(1)L−アスコルビン酸と澱粉質とを含む溶液にCGTaseとグルコアミラーゼをこの順で作用させて、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率が35%以上であるアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を得る工程;
(2)得られたアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を精製して、アスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86%超とする工程;
(3)アスコルビン酸2−グルコシドを無水物換算で86%超含有する溶液からアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を析出させる工程;
(4)析出したアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を採取する工程;
(5)採取されたアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を熟成、乾燥し、必要に応じて粉砕する工程。
以下、各工程について説明する。
【0062】
<(1)の工程>
(1)の工程は、L−アスコルビン酸と澱粉質とから酵素反応によってアスコルビン酸2−グルコシドを生成させる工程である。まず、使用する原料及び酵素について説明し、次に行われる酵素反応について説明する。
【0063】
A.使用原料及び酵素
(L−アスコルビン酸)
用いるL−アスコルビン酸としては、ヒドロキシ酸の形態のものであっても、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの金属塩の形態のものであっても、さらには、それらの混合物であっても差し支えない。
【0064】
(澱粉質)
また、用いる澱粉質としては、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉などが挙げられる。澱粉質としては、分子内に実質的な枝分かれ構造を有せず、かつ、グルコース重合度が揃ったものが好ましく、例えば、シクロマルトデキストリン、シクロアミロース、合成アミロースなどは、グルコース重合度が、いずれも6乃至100の範囲にあり、直鎖構造又は直鎖の環状構造を有しているので好ましい。また、澱粉質として、通常一般の液化澱粉や、デキストリンなどの澱粉部分分解物を用いる場合には、CGTaseとともに、例えば、イソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)、プルラナーゼ(EC 3.3.1.41)などの澱粉枝切り酵素を併用して、澱粉の枝分かれ部分を切断し、そのグルコース重合度を調整するのが好ましい。なお、澱粉枝切り酵素としては、イソアミラーゼが、酵素活性及び基質特異性などの面で取り扱い易いので特に好ましい。
【0065】
(CGTase)
用いるCGTase(EC2.4.1.19)としては、上述したとおり、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseとグルコアミラーゼとをこの順で作用させたときに、アスコルビン酸2−グルコシドを生成率35%以上の高率で生成させることができる限り、その起源や由来に特段の制限はなく、天然の酵素であっても、遺伝子組換えによって得られる酵素であっても良い。天然の酵素としては、例えば、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)Tc−62株由来のCGTase、及びジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−27株由来のCGTaseが、アスコルビン酸2−グルコシドについて高い生成率が得られるので好ましく、中でも、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−62株が産生するCGTaseがアスコルビン酸2−グルコシドの生成率の観点からは最も好ましい。
【0066】
遺伝子組換えによって得られるCGTaseとしては、例えば、後述する実施例3に示すとおり、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−91株由来のCGTaseのアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号1で表されるアミノ酸配列における第228番目のリジン残基をグルタミン酸残基に置換したアミノ酸配列を有するCGTaseが挙げられる。斯かる変異CGTaseを得るには、周知のとおり、配列表における配列番号1で表されるアミノ酸配列における第228番目のリジン残基をグルタミン酸残基に置換したアミノ酸配列をコードする遺伝子を、例えば、大腸菌、枯草菌などの適宜宿主に導入して、形質転換し、その形質転換体中で斯かる遺伝子を発現させれば良い。
【0067】
なお、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−27株、同Tc−62株及び同Tc−91株は、いずれも、同じ出願人による特開昭50−63189号公報(特公昭53−27791号公報)に開示された微生物であり、平成21年7月14日の時点で、それぞれ、受託番号FERM BP−11142、FERM BP−11143、及びFERM P−2225(国際寄託に移管手続中:受領番号FERM ABP−11273)として茨城県つくば市東1−1−1中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されている。なお、「バチルス・ステアロサーモフィルス」という種名をもって従来分類されていた微生物は、現在では、「ジオバチルス・ステアロサーモフィルス」という種名に一括して変更され、その一方で、「バチルス」という属名が、依然、独立した微生物の属を呼称する名称として用いられていることから、混乱を避けるため、本明細書では、「バチルス・ステアロサーモフィルス」と「ジオバチルス・ステアロサーモフィルス」とを一括して「ジオバチルス・ステアロサーモフィルス」と記載する。
【0068】
(グルコアミラーゼ)
用いるグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)にも特に制限はなく、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液に、CGTaseとグルコアミラーゼとをこの順に作用させたときに、アスコルビン酸2−グルコシドを生成率35%以上の高率で生成させることができる限り、その起源や由来に特段の制限はなく、天然の酵素であっても、遺伝子組換えによって得られる酵素であっても良い。
【0069】
グルコアミラーゼは、通常、酵素反応液を加熱してCGTaseによる糖転移反応を停止させてから添加されるので、加熱後の酵素反応液の冷却に要するエネルギーと時間を節約することができるように、比較的高い温度、例えば40乃至60℃程度の温度で実用に足る酵素活性を発揮し得るものが望ましい。また、使用するグルコアミラーゼがα−グルコシダーゼを含んでいた場合、生成されたアスコルビン酸2−グルコシドが加水分解されてしまうので、グルコアミラーゼとしてはα−グルコシダーゼを実質的に含まないものを使用するのが望ましい。このような条件を満たすものであれば、使用するグルコアミラーゼの給源、純度には特段の制限はなく、例えば、グルコアミラーゼ剤として市販されているリゾプス属に属する微生物に由来する酵素剤(商品名『グルコチーム#20000』 ナガセケムテックス株式会社販売)や、アスペルギルス属の微生物に由来する酵素剤(商品名『グルクザイムAF6』 天野エンザイム株式会社販売)を好適に使用することができる。
【0070】
B.酵素反応
次に、L−アスコルビン酸への糖転移反応について説明する。まず、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液、通常は水溶液にCGTaseを作用させる。L−アスコルビン酸と澱粉質とを含む水溶液にCGTaseを作用させると、CGTaseの酵素作用によって、L−アスコルビン酸の2位の水酸基に1個又は2個以上のD−グルコースが転移し、前記2位の水酸基に1個のD−グルコースが結合したアスコルビン酸2−グルコシドが生成するとともに、前記2位の水酸基に2個以上のD−グルコースが結合した2−O−α−マルトシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトトリオシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトテトラオシル−L−アスコルビン酸などのα−グリコシル−L−アスコルビン酸が生成する。
【0071】
CGTaseは、通常、澱粉質濃度が1乃至40%になるように澱粉質とL−アスコルビン酸とを溶解した水溶液に対し、澱粉質1g当り1乃至500単位の割合で添加され、当該溶液をpH約3乃至10、温度30乃至70℃に保ちつつ、6時間以上、好ましくは約12乃至96時間反応させる。L−アスコルビン酸は酸化により分解しやすいので、反応中、溶液を嫌気又は還元状態に保つ一方、光を遮断するのが望ましく、必要に応じ、反応溶液に、例えば、チオ尿素、硫化水素などの還元剤を共存させる。
【0072】
溶液中の澱粉質とL−アスコルビン酸との質量比は、無水物換算で8:2乃至3:7の範囲に設定するのが望ましい。澱粉質の割合がこの範囲より大きくなると、L−アスコルビン酸への糖転移は効率よく進行するものの、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率がL−アスコルビン酸の始発濃度による制約を受け、低レベルに止まることとなる。逆に、L−アスコルビン酸の割合が上記した範囲より大きくなると、未反応のL−アスコルビン酸が著量残存することとなり、工業的生産には好ましくない。よって、上記した比率の範囲をもって最良とした。
【0073】
なお、CGTaseに加えて、澱粉枝切り酵素としてイソアミラーゼを併用する場合、イソアミラーゼは、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液中でCGTaseと共存させた状態で澱粉質に作用させるのが望ましく、添加量としては、イソアミラーゼの至適温度、至適pHなどにもよるけれども、通常、澱粉質1g当り200乃至2,500単位とし、55℃以下で反応させる。また、澱粉枝切り酵素としてプルラナーゼを用いる場合も、イソアミラーゼに準じて用いれば良い。
【0074】
CGTase、又はCGTaseと澱粉枝切り酵素による酵素反応が一通り完了した後、酵素反応液をただちに加熱してCGTase、又はCGTaseと澱粉枝切り酵素とを失活させて酵素反応を停止させ、次いで、この酵素反応液にグルコアミラーゼを作用させる。グルコアミラーゼを作用させると、L−アスコルビン酸の2位の水酸基に結合している2個以上のD−グルコース鎖は切断されて、2−O−α−マルトシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトトリオシル−L−アスコルビン酸などのα−グリコシル−L−アスコルビン酸はアスコルビン酸2−グルコシドに変換され、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率が35%以上、好ましくは37乃至45%に高まることになる。
【0075】
アスコルビン酸2−グルコシドの生成率が35%以上、好ましくは37乃至45%である場合には、後続する(2)乃至(5)の工程を経ることによって、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、粉末の動的水分吸着量が0.01%以下であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を容易に得ることができる。なお、好ましい生成率の上限を45%としたのは、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率を45%を超えて高めることは現在の酵素工学上の技術水準からみて実質的に困難であり、また、時間と労力をかけて、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率を45%を超えて高めても、得られる粉末中のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度や、粉末の動的水分吸着量にそれほどの改善がみられないと考えられるからである。
【0076】
因みに、アスコルビン酸2−グルコシドの生成率が35%未満である場合には、後続する(2)乃至(5)の工程を経ても、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、粉末の動的水分吸着量が0.01%以下であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得ることは困難である。その理由は定かではないが、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseを作用させることによって不可避的に生成する副反応物である5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸や6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸の相対的な量が影響しているのではないかと推測される。
【0077】
すなわち、L−アスコルビン酸の5位又は6位の水酸基にD−グルコースが結合した5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸及び6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸は、一般に、アスコルビン酸2−グルコシドの結晶化を阻害する結晶化阻害物質であると考えられているが、従来のアスコルビン酸2−グルコシドの製造方法において、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液にCGTaseを作用させると、アスコルビン酸2−グルコシドや上述したα−グリコシル−L−アスコルビン酸と共に、これら5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸及び6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸が不可避的に副生成する。その量は、無水物換算で、5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸と6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸とが合計で通常約1%程度とわずかではあるが、これらの糖転移物は、カラム精製工程においてアスコルビン酸2−グルコシドとほぼ同じ位置に溶出するので、その除去は一般的に困難であった。ところが、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含有する溶液に、先述した天然型若しくは遺伝子組換え型のCGTaseを作用させて、酵素反応液中にアスコルビン酸2−グルコシドを生成率35%以上、好ましくは37乃至45%の高率で生成させる場合には、これら5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸及び6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸が無水物換算した合計で0.5%を超えることはない。その結果、その後の工程を経て得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末におけるアスコルビン酸2−グルコシドの結晶化がよりスムースに進行するのではないかと推測される。
【0078】
また、糖転移酵素としてCGTaseを用いる場合には、L−アスコルビン酸の2位の水酸基に2個以上のD−グルコースが転移されるときにも、2−O−α−マルトシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトトリオシル−L−アスコルビン酸などのα−グリコシル−L−アスコルビン酸におけるD−グルコース間の結合はα−1,4結合であるので、その後のグルコアミラーゼの作用によってD−グルコース間の結合は切断されてアスコルビン酸2−グルコシドに容易に変換され、例えば、α−イソマルトシルグルコ糖質生成酵素を用いる場合のように、グルコアミラーゼ処理後も、α−1,6結合などによる分岐構造を含むα−グリコシル−L−アスコルビン酸などの結晶化阻害物質が残存する恐れがないことも関係しているのではないかと推測される。
【0079】
<(2)の工程>
(2)の工程は、上記(1)の工程で得られたアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を精製して、アスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86%超とする工程である。すなわち、(1)の工程で得られたアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液を、活性炭などにより脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂により脱塩し、さらに、カラムクロマトグラフィーを適用することにより、溶液中のアスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86%超、好ましくは88%以上にまで精製する。精製に用いるカラムクロマトグラフィーとしては、溶液中のアスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86%超にまで高めることができる限り、原則的にどのようなカラムクロマトグラフィーを用いても良いが、好適な例としては、D−グルコースなどの糖類を除去するためのアニオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーに続き、カチオン交換樹脂又は多孔性樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを行うのがよい。D−グルコースなどの糖類を除去するための望ましいアニオン交換樹脂としては、『アンバーライトIRA411S』、『アンバーライトIRA478RF』(以上、ローム・アンド・ハース社製)、『ダイヤイオンWA30』(三菱化学社製)等が挙げられる。アスコルビン酸2−グルコシドとL−アスコルビン酸とを分離するための望ましいカチオン交換樹脂としては、『ダウエックス 50WX8』(ダウケミカル社製)、『アンバーライト CG120』(ローム・アンド・ハース社製)、『XT−1022E』(東京有機化学工業社製)、『ダイヤイオンSK104』、『ダイヤイオン UBK 550』(以上、三菱化学社製)等が挙げられる。多孔性樹脂としては、『トヨパールHW−40』(東ソー社製)、『セルファインGH−25』(チッソ社製)等を挙げることができる。カチオン交換樹脂又は多孔性樹脂を用いてカラムクロマトグラフィーを行う場合、カラムに負荷する原料液の濃度は固形分約10乃至50%、樹脂への負荷量は湿潤樹脂容積の約1/1000乃至1/20、湿潤樹脂容積とほぼ等量の精製水を線速度0.5乃至5m/時間で通液するのが望ましい。中でも、カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーとして擬似移動床式を用いる場合には、精製して得られるアスコルビン酸2−グルコシドの純度が高まり、L−アスコルビン酸やD−グルコースなどの夾雑物、特に、L−アスコルビン酸含量が低減され、L−アスコルビン酸含量が無水物換算で0.1%以下と少ないアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が得られるので好ましい。因みに、カチオン交換樹脂を充填剤として用いる擬似移動床式のカラムクロマトグラフィーにおける溶離条件としては、操作温度、設定流速などにもよるが、擬似移動床式のカラムクロマトグラフィーに供されるアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液の濃度は無水物換算で60%以下、アスコルビン酸2−グルコシド含有溶液の負荷量は湿潤樹脂容積に対し容積比で1/20以下、溶離液として用いる精製水量は容積比で前記負荷量の30倍まで、通常、5〜20倍程度とするのが好ましい。
【0080】
溶液中のアスコルビン酸2−グルコシドの含量が無水物換算で86%以下である場合には、後続する(3)乃至(5)の工程を経ても、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、粉末の動的水分吸着量が0.01%以下であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得ることは困難である。その理由は、溶液中のアスコルビン酸2−グルコシドの含量が無水物換算で86%以下である場合には、その後の工程を経て得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末中のアスコルビン酸2−グルコシドの純度が低く、結晶化がスムースに進行しないためであると考えられる。
【0081】
アスコルビン酸2−グルコシド含量を無水物換算で86%を超、好ましくは88%以上にまで精製した溶液は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶を析出させる工程に先立ち、所定の濃度、通常は、アスコルビン酸2−グルコシド濃度約65乃至85%まで濃縮される。濃縮液の温度は、通常、約30乃至45℃に調節される。この濃度及び温度は、アスコルビン酸2−グルコシドについての過飽和度としては1.05乃至1.50に相当する。
【0082】
<(3)の工程>
(3)の工程は、アスコルビン酸2−グルコシドを無水物換算で86%超、好ましくは88%以上含有する溶液からアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を析出させる工程である。すなわち、(2)の工程で所定の純度及び濃度にまで精製、濃縮され、所定の温度に調整されたアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液は、助晶缶に移され、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の種晶を0.1乃至5%含有せしめ、緩やかに撹拌しつつ、6乃至48時間かけて液温を5乃至20℃まで徐冷することによりアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶を析出させる。なお、助晶缶内等に既にアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶の種晶が存在する場合には、アスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶の種晶は特段添加する必要はない。いずれにせよ、濃縮液からのアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶の析出は、種晶の存在下で行われれば良い。また、必要に応じて、精製液の濃縮と、濃縮液からのアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶の析出は、それらを同時に行う煎糖方式によって行っても良い。
【0083】
<(4)の工程>
(4)の工程は、析出したアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を採取する工程である。すなわち、助晶缶からマスキットを採取し、常法にしたがい、このマスキットからアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶を遠心分離によって採取する。
【0084】
<(5)の工程>
(5)の工程は、採取されたアスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を熟成、乾燥し、必要に応じて粉砕する工程である。すなわち、遠心分離によって採取したアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶を少量の脱イオン水や蒸留水などの精製水などで洗浄し、結晶表面に付着した不純物を洗い流す。洗浄に用いる水の量には特段の制限はないが、多すぎると表面の不純物だけでなく結晶自体も溶解するので歩留まりが低下し、加えて、洗浄水のコストも嵩むので、通常は、結晶質量の30%まで、好ましくは15〜25%の量の洗浄水を用いて結晶表面を洗浄するのが望ましい。なお、この洗浄は、結晶をバスケット式の遠心分離器に入れ、遠心力下で行うのが望ましい。かくして採取、洗浄された結晶は、所定の温度及び湿度雰囲気中に一定時間保持することにより、熟成、乾燥し、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、又は、動的水分吸着量が0.01%以下の粉末とする。
【0085】
熟成、乾燥工程における結晶含有粉末の品温や雰囲気の相対湿度、並びに、熟成、乾燥時間は、所期の結晶化度又は動的水分吸着量を示す粉末が得られる限り、特段の制限はないものの、熟成、乾燥工程において、結晶含有粉末の品温は20乃至55℃、雰囲気の相対湿度は60乃至90%に保もたれるのが好ましい。また、熟成、乾燥時間は、両者の合計で、約5乃至24時間とするのが好ましい。熟成、乾燥工程を経た結晶含有粉末は、次いで、室温まで自然放冷される。これによりアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか又は粉末の動的水分吸着量が0.01%以下であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得ることができる。得られた結晶粉末はそのまま、若しくは、必要に応じて粉砕して製品とされる。
【0086】
上記(1)乃至(5)の工程は、上記(1)の工程におけるアスコルビン酸2−グルコシドの生成率、及び、上記(2)(3)の工程における溶液中のアスコルビン酸2−グルコシドの含量を除いて、医薬部外品級の粉末の製造工程と基本的に同じであり、試薬級の粉末の製造工程では必須とされる、再結晶工程や、結晶を繰り返し洗浄する工程は含まれていない。
【0087】
因みに、上述のようにして得られたアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、熟成、乾燥工程を経た後自然放冷することにより、極めて速やかに流動性に優れ、かつ、殆ど吸湿性のない粉末となるが、自然放冷時間が短いと、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上に上がらず、また、粉末の動的水分吸着量が0.01%以下に下がらない。したがって、このような粉末をそのまま製品とした場合には、医薬部外品級の粉末と同様に、通常の保存環境下においても固結する可能性のある粉末しか得られない。固結し難い本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得るに必要な最短の自然放冷時間は、雰囲気の温度や湿度などの影響を受け、また、用いる乾燥用装置・設備の規模や構造などによっても変化するが、一定の条件下ではほとんど変化しないと考えられる。したがって、実際に用いる特定の装置、設備について、一旦、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上、かつ、粉末の動的水分吸着量が0.01%以下となるに必要な自然放冷時間と、雰囲気の温度及び湿度の関係を調べておけば、その後は、その都度、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の結晶化度や動的水分吸着量を調べる必要はなく、自然放冷時間を目安にして、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を製造することが可能となる。
【0088】
また、本発明者らは、上記熟成、乾燥後に、結晶含有粉末を自然放冷するのではなく、例えば、室温程度の清浄な空気を吹き付けて室温程度の品温にまで強制的に冷却することにより、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶化がより速やかに進行し、より短時間でアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度を90%以上、粉末の動的水分吸着量を0.01%以下とすることができることを見出した。吹き付ける空気の温度は、約15℃乃至30℃の範囲内にあるのが好ましく、より好ましくは18乃至28℃の範囲内である。また、吹き付ける時間は、通常、5乃至60分程度が好ましく、より好ましくは10乃至30分である。吹き付ける空気の温度にもよるものの、吹き付ける時間が5分未満では吹付による強制冷却の効果があまり認められず、60分を超えて吹き付けても、それ以上の結晶化度の上昇が見込めないので好ましくない。また、空気の吹付に際しては、結晶含有粉末を適宜撹拌するか、結晶含有粉末に適宜の振動を与えて、吹付による冷却効果が粉末全体に行き渡るようにするのが好ましい。
【0089】
以上のようにして得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを98.0%超99.9%未満含有し、粉末X線回折プロフィルに基づき算出される、粉末中のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、又は、窒素気流下で粉末中の遊離水分を除去した後、温度25℃、相対湿度35%で12時間保持したときの動的水分吸着量が0.01%以下である本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末であり、従来の医薬部外品級の粉末が固結する条件下でも固結しない、医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である。
【0090】
因みに、粉末原料が固結すると、製造プラントには種々の悪影響を及ぼす恐れがある。例えば食品製造の分野において、粉末状の原料を扱う場合には、粉末原料をロール粉砕機でさらに細かく粉砕したり、製造ラインへのエアーブローによる空気輸送や、蛇状屈曲コンベアによる輸送が度々行われる。その際、もしも粉末原料が固結していると、ロール粉砕機のロールが傷ついたり、焼け付いたりするなどのトラブルが発生し、また、製造ラインに設置した篩や輸送管が閉塞するなどのトラブルを引き起こしかねない。また、固結した粉末原料は、それ自体の溶解や他の原料との混合、混練において作業上の支障をきたす恐れが大きい。このような粉末の固結が原因となる製造工程における種々のトラブルに関しては、例えば、柴田力著、「粉粒体トラブルシューティング」、株式会社工業調査会発行、2006年、15乃至19頁に詳述されている。
【0091】
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、従来の医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難いので、粉末原料を取り扱うことを前提に設計された製造プラントを用いる飲料を含めた食品製造、化粧品製造、医薬部外品製造、さらには医薬品製造の各分野において、他の単独若しくは複数の粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などに安心して含有せしめることができるという優れた利点を備えている。
【0092】
上記した他の粉末状の食品素材としては、例えば、穀粉、澱粉、粉糖、粉末調味料、粉末香辛料、粉末果汁、粉末油脂、粉末ペプチド、粉末卵黄、粉乳、脱脂粉乳、粉末コーヒー、粉末ココア、粉末味噌、粉末醤油、野菜粉末などが、化粧品素材としては、例えば、白粉(おしろい)、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト、澱粉、ベントナイト、シルクパウダー、セルロースパウダー、ナイロンパウダー、バスソルト、ソープチップ、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化亜鉛などが、医薬部外品素材としては、例えば、アミノ酸塩、ビタミン剤、カルシウム剤、賦形剤、増量剤、殺菌剤、酵素剤などが、また、医薬品素材としては、例えば、粉末状の有効成分、オリゴ糖、乳糖、澱粉、デキストリン、白糖、結晶セルロース、ショ糖エステル、脂肪酸エステルなどの賦形剤、増量剤、シェラックなどのコーティング剤などが挙げられる。
【0093】
また、上記のようにして得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、通常、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを含有し、かつ、粉末全体の還元力が1%未満である。すなわち、上記のようにして得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、通常、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを、それぞれ単独又は合計で、高速液体クロマトグラフィーなどの分析方法により検出し得るレベル、具体的には、無水物換算で0.01%以上0.2%以下含有しているが、粉末全体の還元力は1%未満であり、後述する実験に示すとおり、アミノ酸や蛋白質などの分子内にアミノ基を有する化合物の存在下で加熱しても、実質的に変色のない優れた粉末である。また、上記のようにして得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、好ましくは、L−アスコルビン酸の含量が0.1%以下である。このようにL−アスコルビン酸含量が0.1%以下と低い本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、これを医薬部外品級の粉末と同様の商品形態で比較的長期間保存しても、粉末自体が着色する懸念がない優れた粉末である。
【0094】
さらに、上記のようにして得られるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、通常、粒径150μm未満の粒子を粉末全体の70%以上含み、かつ、粒径53μm以上150μm未満の粒子を粉末全体の40乃至60%含んでおり、そのままでアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末製品とすることが可能である。もしも、粒径が大きい粉末粒子が多く含まれているか、粒度分布が所期の粒度分布と異なっている場合には、適宜粉砕して粒径を小さくするか、あるいは、篩などにより分級して、粒度を調整して粉末製品とすれば良い。
【0095】
以下、本発明について、実験により具体的に説明する。
【0096】
<実験1:アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結性におよぼす結晶化度の影響>
アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が0乃至100%の範囲にある複数のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を調製し、それらの固結性を試験することにより、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末における結晶化度と固結性との関連性を調べた。詳細は以下のとおり。
【0097】
<実験1−1:被験試料の調製>
<被験試料1>
実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなる標準試料として、試薬級のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末(商品名『アスコルビン酸2−グルコシド 999』、コード番号:AG124、純度99.9%以上)を使用し、これを被験試料1とした。
【0098】
<被験試料2>
実質的に無定形部分からなる標準試料としては、被験試料1を適量の精製水に溶解し、3日間かけて凍結乾燥した後、40℃以下で1晩真空乾燥して得られた、実質的に無定形部分からなる粉末を使用し、これを被験試料2とした。なお、被験試料2の水分含量をカールフィッシャー法により測定したところ、2.0%であった。
【0099】
<被験試料3、4>
被験試料3、4として、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が、被験試料1と被験試料2の間に入るものを以下の手順で調製した。すなわち、被験試料2と同様にして調製した無定形部分からなる粉末を金属製トレイ内に延展し、温度25℃、相対湿度90%に調整された恒温、恒湿のチャンバー内に24時間又は72時間収容することにより結晶化を促し、粉末を部分的に結晶化させた。その後、金属製トレイをチャンバーから取り出し、38℃で一晩真空乾燥することにより2種類の粉末を調製した。恒温、恒湿のチャンバー内の収容時間が24時間のものを被験試料3、72時間のものを被験試料4とした。なお、被験試料3及び4は、分析試験に供する直前まで蓋つきバイアル瓶内に密封し、乾燥剤とともにデシケーター内に密封保存した。
【0100】
<実験1−2:被験試料1乃至4のアスコルビン酸2−グルコシド純度と結晶化度>
<アスコルビン酸2−グルコシド純度>
被験試料1乃至4のアスコルビン酸2−グルコシド純度を以下のようにして求めた。すなわち、被験試料1乃至4のいずれかを精製水により2%溶液とし、0.45μmメンブランフィルターにより濾過した後、下記条件による液体クロマトグラフィー(HPLC)分析に供し、示差屈折計によるクロマトグラムに出現したピークの面積から計算し、無水物換算した。結果は表1に示した。
・分析条件
HPLC装置:『LC−10AD』(株式会社島津製作所製)
デガッサー:『DGU−12AM』(株式会社島津製作所製)
カラム:『Wakopak Wakobeads T−330』(和光純薬工業株式会社販売 H型)
サンプル注入量:10μl
溶離液:0.01%(容積/容積)硝酸水溶液
流 速:0.5ml/分
温 度:25℃
示差屈折計:『RID−10A』(株式会社島津製作所製)
データ処理装置:『クロマトパックC−R7A』(株式会社島津製作所製)
【0101】
<結晶化度>
被験試料1乃至4におけるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度を以下のようにして求めた。すなわち、市販の反射光方式による粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社製、商品名『X’Pert PRO MPD』)を用い、Cu対陰極から放射される特性X線であるCuKα線(X線管電流40mA、X線管電圧45kV、波長1.5405オングストローム)による粉末X線回折プロフィルに基づき、同粉末X線回折装置に搭載された専用の解析コンピューターソフトウェアを用い、被験試料1乃至4の各々についてハーマンス法による結晶化度の解析値を求めた。ハーマンス法による結晶化度の解析に先立ち、各粉末X線回折パターンにおけるピーク同士の重なり、回折強度、散乱強度などを勘案しながら、最適と判断されるベースラインが得られるように、ソフトウェアに設定された粒状度及びベンディングファクターをそれぞれ適切なレベルに合わせた。なお、ハーマンス法については、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A. Weidinger)、「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」(Journal of Applied Physics)、第19巻、491〜506頁(1948年)、及び、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A. Weidinger)、「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス」(Journal of Polymer Science)、第4巻、135〜144頁(1949年)に詳述されている。
【0102】
被験試料1についての結晶化度の解析値を解析値H100、被験試料2についての結晶化度の解析値を解析値Hとし、各被験試料についての結晶化度の解析値をHsとして前記した式[1]に代入することにより結晶化度を求めた。因みに被験試料1についてのハーマンス法による結晶化度の解析値(解析値H100)及び被験試料2についての同解析値(解析値H)は、それぞれ、70.23%及び7.57%であった。結果は表1に併せて示した。なお、標準試料である被験試料1及び2については、粉末X線回折パターンをそれぞれ図1及び図2に示した。
【0103】
図1に見られるとおり、被験試料1の粉末X線回折パターンにおいては、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶に特有な回折ピークが回折角(2θ)4乃至65°の範囲に明瞭かつシャープに出現し、無定形部分に特有なハローは一切認められなかった。一方、図2に見られるとおり、被験試料2の粉末X線回折パターンにおいては、図1の粉末X線回折パターンとは異なり、無定形部分に特有なハローがベースラインの膨らみとして著明に出現したものの、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶に特有な回折ピークは一切認められなかった。
【0104】
<実験1−3:被験試料1及び2のシンクロトロン放射光による粉末X線回折>
本実験では、被験試料1及び2がそれぞれ、解析値H100及びHを決定するための標準試料として適切なものであることをさらに裏付ける目的で、これら被験試料をシンクロトロン放射光(以下、「放射光」と言う。)をX線源に用い、微弱な回折や散乱のシグナルを検出することができる透過光方式の粉末X線回折に供した。なお、測定条件は次のとおりであった。
【0105】
<測定条件>
粉末X線回折装置:高速粉末X線回折装置(神津精機社販売、
型番『PDS−16』)、デバイシェラモード、
カメラ長:497.2mm
X線源 :偏向電磁石からの放射光(兵庫県ビームライン(BL08B2))
測定波長:0.7717オングストローム(16.066keV)
測定強度:10フォトン/秒
測定角 :2乃至40°
露光時間:600秒間
画像撮影:イメージングプレート(富士フイルム社製、商品名『イメージ
ングプレート BAS−2040』)
画像読取装置:イメージアナライザー(富士フイルム社製、『バイオイメー
ジアナライザーBAS−2500』)
【0106】
測定は、大型放射光施設「SPring−8」(兵庫県佐用郡佐用町光都1−1−1)内に設けられた「兵庫県ビームライン(BL08B2)」を利用して実施した。
【0107】
粉末X線回折の測定に先立ち、被験試料1及び2を乳鉢によりすり潰した後、53μmの篩によりふるい分け、篩を通過した粉末をX線結晶回折用のキャピラリー(株式会社トーホー販売、商品名『マークチューブ』、No.14(直径0.6mm、リンデマンガラス製))内に充填長が略30mmとなるように均一に充填した。次いで、キャピラリーを試料の充填終端で切断し、開口部を接着剤により封じた後、試料マウントへキャピラリーを粘土により固定し、キャピラリーの長手方向が粉末X線回折装置の光軸に対して垂直になるように、試料マウントを粉末X線回折装置に取り付けた。
【0108】
アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の配向による粉末X線回折プロフィルへの影響を除くため、測定中、キャピラリーの長手方向に、1回/60秒の周期で、試料マウントを±1.5mmの幅で等速往復振動させながら、キャピラリーの長手方向を回転軸として、試料マウントを2回/秒の周期で等速回転させた。
【0109】
被験試料1及び2について得られた粉末X線回折プロフィルを解析し、粉末X線回折パターンを作成する過程においては、測定精度を上げるため、常法にしたがい、各粉末X線回折プロフィルから粉末X線回折装置に由来するバックグラウンドシグナルを除去した。斯くして得られた被験試料1及び2についての粉末X線回折パターンをそれぞれ図3及び図4に示す。
【0110】
図3に見られるとおり、放射光を用いた粉末X線回折による被験試料1についての粉末X線回折パターンにおいてはアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶に特有な回折ピークが回折角(2θ)2乃至40°の範囲に明瞭かつシャープに出現した。図3と図1とを比較すると、放射光の波長(0.7717オングストローム)、と特性X線の波長(1.5405オングストローム)とが異なるため、図3においては、図1におけるほぼ2分の1の回折角(2θ)で各回折ピークが出現するという違いはあるものの、図1及び図3における回折パターンは極めてよく一致していた。また、図3における各回折ピークの強度は、図1における回折ピークの強度より100倍近く強いにもかかわらず、各回折ピークの半値幅は図1におけるよりも明らかに狭く、分離度も高かった。また、図3の粉末X線回折パターンにおいては、後述する図4におけるがごとき、無定形部分に特有なハローは一切認められなかった。このことは、被験試料1中のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶性が極めて高く、被験試料1が実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなることを示している。
【0111】
一方、図4に示すとおり、放射光を用いた粉末X線回折による被験試料2についての粉末X線回折パターンにおいては、無定形部分に特有なハローがベースラインの膨らみとして著明に出現し、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶に特有な回折ピークは一切認められなかった。このことは、被験試料2が実質的に無定形部分からなることを示している。
【0112】
放射光をX線源として用いて得られた上記の結果は、被験試料1及び被験試料2が、式[1]における解析値H100及び解析値Hを決定するための標準試料として適切なものであることを裏付けている。
【0113】
<実験1−4:固結性試験>
被験試料1乃至4の各々について、その固結性を調べる目的で、以下の実験を行った。すなわち、実験1−1で調製した被験試料1乃至4を1gずつ秤取し、それぞれ別個に内底部が半球状の14ml容蓋つきポリプロピレン製円筒チューブ(ベクトン・ディッキンソン社販売、商品名『ファルコンチューブ2059』、直径1.7cm、高さ10cm)の内部に充填し、チューブを試験管立てに直立させた状態で50℃のインキュベーター(アドバンテック東洋株式会社販売、商品名『CI−410』)の内部に収容し、24時間にわたって静置した後、チューブをインキュベーター外に取り出し、チューブから蓋を外し、チューブを緩慢に転倒させることにより、被験試料を黒色プラスチック製平板上に取り出し、取り出された被験試料の状態を肉眼観察した。
【0114】
固結の有無は、被験試料が平板上でもなおチューブ内底部の半球状を明らかに保っている場合を「固結あり」(+)、被験試料がチューブ内底部の形状をわずかではあるが識別できる場合を「やや固結あり」(±)、被験試料が崩壊し、チューブ内底部の形状を保っていない場合を「固結なし」(−)と判定した。結果は、表1における「固結性」の欄に示すとおりであった。
【0115】
【表1】

【0116】
表1に示されるとおり、解析値H100を決定するための標準試料とした被験試料1(結晶化度100.0%)は、平板上に取り出すと崩壊し、チューブ内底部の形状を保っておらず、「固結なし」(−)と判断された。これに対し、解析値Hを決定するための標準試料とした被験試料2(結晶化度0.0%)は、チューブから平板上に取り出しても、なおチューブ内底部の半球状を明確に保っており、明らかに「固結あり」(+)と判断された。平板上に取り出された被験試料2が保っているチューブ内底部の半球状の形態は、平板に軽く振動を与えた程度では崩壊しないほどであった。
【0117】
結晶化度が88.3%である被験試料3は、被験試料2と同様に、チューブから平板上に取り出しても、なおチューブ内底部の半球状を明確に保っており、明らかに「固結あり」(+)と判断されたが、結晶化度が93.1%である被験試料4は、被験試料1と同様に、平板上に取り出した途端に崩壊し、「固結なし」(−)と判断された。
【0118】
なお、被験試料2乃至4は、上述したとおり、アスコルビン酸2−グルコシド純度が99.9%の被験試料1を基に調製したものであるが、上述したHPLC分析によれば、それらのアスコルビン酸2−グルコシド純度はいずれも99.1%にとどまった。この理由は定かではないが、調製途中に何らかの理由でアスコルビン酸2−グルコシドが、ごく微量ではあるが、分解などして失われたものと推測される。
【0119】
上記の結果は、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを99.1%以上含有する粉末の場合、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が高いほど固結性が低い傾向にあることを示しており、結晶化度が88.3%の被験試料3が「固結あり」(+)と判断され、結晶化度が93.1%の被験試料4が「固結なし」(−)と判断されたという事実は、上記固結性試験において、「固結あり」(+)から「固結なし」(−)に変わる臨界点が、結晶化度88.3%と93.1%の間にあることを示している。
【0120】
<実験2:アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結性と結晶化度の関係>
本実験では、実験1の結果に基づき、固結性と結晶化度の関係をさらに詳細に調べるために、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が0乃至100%の範囲にあり、アスコルビン酸2−グルコシドの純度が99.1乃至99.9%である7種類のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を用い、実験1におけると同様に固結性について試験した。
【0121】
<実験2−1:被験試料の調製>
実験1−1で調製した被験試料1と被験試料2とをそれぞれ適量とり、均一に混合することにより、表2に示す被験試料5乃至9の粉末を調製した。実験1−2に記載した方法によって求めた被験試料5乃至9のアスコルビン酸2−グルコシド純度と、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度は表2に示すとおりであった。なお、表2における被験試料1及び2についての結果は表1から転記した。
【0122】
<実験2−2:固結性試験>
被験試料5乃至9を実験1−4の固結性試験に供した。結果を表2の「固結性」の欄に示した。なお、表2における被験試料1及び2についての「固結性」は、表1に記載した被験試料1及び2についての固結性試験結果を転記したものである。
【0123】
【表2】

【0124】
表2の結果に見られるとおり、結晶化度が29.9%である被験試料9は「固結あり」(+)と判断され、結晶化度が89.2%である被験試料8は「やや固結あり」(±)と判断された。これに対し、結晶化度が91.5%である被験試料7、結晶化度が92.6%である被験試料6、及び結晶化度が99.8%である被験試料5は、いずれも被験試料1と同様に、「固結なし」(−)と判断された。これらの結果は、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを99.1%以上99.9%未満含有するアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末において、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上の場合、本実験の条件下では固結しないことを示している。
【0125】
<実験3:アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結性に及ぼす動的水分吸着量の影響>
アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結には粉末の吸湿性が有意に関与していると推定されることから、本実験では、被験試料1及び2ならびに被験試料5乃至9につき、吸湿性の多寡を判定する有用な指標の1つであると考えられる動的水分吸着量を測定し、実験2−2で得た固結性についての試験結果と照合することにより、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結におよぼす動的水分吸着量の影響について検討した。
【0126】
<実験3−1:動的水分吸着量の測定>
実験1−1で調製した被験試料1及び2、並びに実験2−1で調製した被験試料5乃至9を、それぞれ約50mgずつ秤取し、それぞれ別個に、メッシュバケットに入れ、バケットホルダー(SUS製)に設置した状態で水分吸脱着測定
装置(Hiden Isocheme社販売、商品名『IGA SORP』)の内部に静置し、200ml/分の窒素気流下、温度25℃、相対湿度0%で12時間保つことにより被験試料から水分を除去し、直ちに被験試料を秤量した。その後、さらに、窒素気流下、温度25℃、相対湿度35%で12時間保ち、再度秤量した。水分を一旦除去した被験試料の質量と、被験試料を窒素気流下、温度25℃、相対湿度35%で12時間加湿した直後の質量とを上記式[2]に代入し、動的水分吸着量(%)を求めた。被験試料1及び2ならびに被験試料5乃至9につき、本実験で得た動的水分吸着量の結果を表3に示す。併せて、実験2−1で得たアスコルビン酸2−グルコシドの純度、及び実験2−2で得た固結性についての試験結果を表3に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
表3に示すとおり、被験試料2、5乃至9の動的水分吸着量は検出限界である0.01未満(すなわち表中の「<0.01」に対応する。以下同様。)から1.70%の範囲にばらついており、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを99.1%以上99.9%未満含有するアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末であっても、動的水分吸着量の数値が有意に異なるものがあることを示している。すなわち、被験試料1、5、6の動的水分吸着量はいずれも検出限界以下の低い値であったのに対し、被験試料2、8、9は、いずれも0.05%を超える動的水分吸着量を示し、被験試料2に至っては、動的水分吸着量は1.70%であり、被験試料8、9の10倍以上であった。
【0129】
これらの結果と、表3の「固結性」の欄に示す結果とを比べると、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末において、粉末の固結性と動的水分吸着量との間には明らかな相関性があることが窺われる。すなわち、動的水分吸着量が検出限界以下か、0.01%と低い値を示す被験試料1、5、6、7が、いずれも、「固結なし」(−)であったのに対し、動的水分吸着量が0.05乃至1.70%に達する被験試料2、8、9は、いずれも「固結あり」(+)、若しくは「やや固結あり」(±)であった。本実験の結果は、固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を実現するうえで、結晶化度とともに、動的水分吸着量が有力な指標となり得ることを物語っている。また、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシドを99.1%以上99.9%未満含有するアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、動的水分吸着量が0.01%以下であれば、本実験の条件下では固結しないと判断される。
【0130】
なお、本実験において、被験試料2が1.70%という極めて高い動的水分吸着量を示したことは、被験試料2における水分吸着の主体が無定形部分であることを示唆している。一方、被験試料1の動的水分吸着量が検出限界以下の低い値であったことは、被験試料1が被験試料2におけるがごとき無定形部分を実質的に含有していないことを示唆している。このことは、図1及び図3に図示した被験試料1の粉末X線回折パターンとも良く整合しており、式[1]に基づいてアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度を計算する基礎となる解析値H100を決定するための標準試料として被験試料1が適切なものであることを裏付けている。
【0131】
<実験4:強制冷却が粉末の結晶化度、動的水分吸着量及び固結性に及ぼす影響>
先行する実験により、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末においては、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度と粉末の動的水分吸着量とが、それぞれ、粉末の固結性と密接な関係を有していることが明らかとなった。本実験では、粉末製造時の熟成、乾燥工程後における結晶含有粉末の強制冷却が、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の結晶化度、動的水分吸着量及び固結性に及ぼす影響について調べた。
【0132】
<実験4−1:被験試料の調製>
実験1−1における被験試料2と同様にして調製した粉末を金属製トレイ内に延展し、温度25℃、相対湿度90%になるように調節した恒温、恒湿のチャンバー内に16時間収容することにより結晶化を促し、粉末を部分的に結晶化させた。その後、金属製トレイをチャンバーから取り出し、40℃で8時間乾燥させ、続いて、約2時間自然に放冷して得た粉末を被験試料10、乾燥後に20℃の空気を15分間又は40分間金属製トレイ内の粉末に吹き付けてトレイ内の粉末を強制冷却することにより得た粉末を、それぞれ被験試料11及び被験試料12とした。なお、被験試料10乃至12は、分析試験に供する直前まで蓋つきバイアル瓶内に密封し、乾燥剤とともにデシケーター内に密封保存した。
【0133】
<実験4−2:アスコルビン酸2−グルコシド純度の測定>
実験1−2に記載した方法によって、被験試料10乃至12のアスコルビン酸2−グルコシド純度を求め、表4に記載した。被験試料1のアスコルビン酸2−グルコシド純度は表1から転記した。
【0134】
<実験4−3:結晶化度及び動的水分吸着量の測定>
被験試料10乃至12のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度及び粉末の動的水分吸着量は、それぞれ実験1及び実験3記載の方法で測定した。結果を表4に示す。なお、表4における被験試料1についての結果は表1及び表3から転記した。
【0135】
<実験4−4:固結性試験>
被験試料10乃至12を実験1−4の固結性試験に供した。結果を、表1に記載した被験試料1についての固結性試験の結果とともに、表4における「固結性」の欄に示した。
【0136】
【表4】

【0137】
表4から明らかなように、結晶化により得たアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を熟成、乾燥した後に、自然放冷して調製した被験試料10は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が88.1%、動的水分吸着量が0.06%であり、固結性試験において「固結あり」(+)という結果となった。これに対し、粉末を熟成、乾燥した後に、20℃の空気を15分間吹き付けて強制冷却した被験試料11は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が91.5%、動的水分吸着量が検出限界以下であり、固結性試験において「固結なし」(−)という結果となった。同様に、粉末を熟成、乾燥した後に、20℃の空気を40分間吹き付けて強制冷却した被験試料12は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が94.1%、動的水分吸着量が検出限界以下であり、固結性試験において「固結なし」(−)という結果となった。これらの結果は、粉末を熟成、乾燥した後に自然に放冷するよりも強制冷却する方が、粉末の結晶化が促進され、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が高く、かつ、粉末の動的水分吸着量が低い、すなわち、固結し難い粉末を製造する上で有利であることを示している。
【0138】
<実験5:アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結性に及ぼすアスコルビン酸2−グルコシド純度の影響>
先行する実験によって、アスコルビン酸2−グルコシド純度が99.1%以上という高純度のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末においては、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度と粉末の動的水分吸着量とが、それぞれ、粉末の固結性と密接な関係を有していることが明らかとなった。本実験では、さらに、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の固結性とアスコルビン酸2−グルコシド純度との関係について検討した。
【0139】
<実験5−1:被験試料の調製>
以下のようにして、L−アスコルビン酸と、澱粉質の一種であるデキストリンとを含有する水溶液から、表5に示すアスコルビン酸2−グルコシド純度が互いに異なる被験試料13乃至18を調製し、実験1−4におけると同様の固結性試験に供した。
【0140】
すなわち、デキストリン(松谷化学工業株式会社販売、商品名『パインデックス#100』)4質量部を水15質量部に加熱溶解し、L−アスコルビン酸3質量部を加え、pH5.5、液温を55℃に保ちつつ、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスTc−62株由来のCGTaseをデキストリン1g当り100単位と、イソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所販売)をデキストリン1g当り250単位加え、50時間反応させ、アスコルビン酸2−グルコシドを生成させた。なお、反応液中には、2−O−α−マルトシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトトリオシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトテトラオシル−L−アスコルビン酸などのα−グリコシル−L−アスコルビン酸類も当然に生成していると推測される。
【0141】
反応液を加熱することにより酵素を失活させた後、pH4.5に調整し、グルコアミラーゼ(商品名『グルクザイムAF6』 天野エンザイム株式会社販売)をデキストリン1g当り50単位加え、24時間反応させることにより、上記のごときα−グリコシル−L−アスコルビン酸類をアスコルビン酸2−グルコシドにまで、また、混在するオリゴ糖をD−グルコースにまで分解した。この時点で、反応液におけるアスコルビン酸2−グルコシドについての生成率は39%であった。
【0142】
反応液を加熱することによりグルコアミラーゼを失活させ、活性炭で脱色濾過した後、濾液をカチオン交換樹脂(H型)のカラムに通液して脱塩した後、アニオン交換樹脂(OH型)にL−アスコルビン酸及びアスコルビン酸2−グルコシドを吸着させ、水洗してD−グルコースを除いた後、0.5N塩酸溶液で溶出した。さらに、この溶出液を固形分約50%にまで濃縮し、次いで、強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社製造、商品名『ダウェックス50WX4』、Ca2+型)を用いるカラムクロマトグラフィーに供した。この固形分約50%に濃縮した溶出液を、カラムに、その湿潤樹脂容積の約1/50量負荷し、負荷量の50倍の精製水を線速度1m/時間で通液し、溶出液をカラム容積の0.05容積量ずつ分画した。その後、各画分の組成を実験1−1で述べたHPLC法により測定し、無水物換算でアスコルビン酸2−グルコシド含量が80%以上であった6画分につき、それらを濃度約76%まで減圧濃縮し、得られた濃縮液を助晶缶にとり、種晶として、実験1−1における被験試料1を2%ずつ加え、濃縮液を緩慢に撹拌しながら、2日間かけて液温を40℃から15℃に下げることによりアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶を晶析させた。
【0143】
その後、常法にしたがい、バスケット型遠心分離機によりマスキットから結晶を採取し、少量の蒸留水で洗浄した後、熟成、乾燥し、25℃の空気を30分間吹き付け冷却し、粉砕することにより、表5に示す被験試料13乃至18を得た。
【0144】
【表5】

【0145】
なお、表5に見られる被験試料1及び2は実験1−1におけると同様のものであり、それらのアスコルビン酸2−グルコシドの純度、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度、及び動的水分吸着量は先行する実験で得た結果をそのまま転記したものである。また、被験試料19は、従来の医薬部外品級の粉末であるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末(商品名『AA2G』 株式会社林原生物化学研究所販売)を用いた。先行する実験で述べた方法により被験試料13乃至19のアスコルビン酸2−グルコシドの純度、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度、及び粉末の動的水分吸着量を測定し、結果を表5に示した。
【0146】
<実験5−2:固結性試験>
実験5−1で得た被験試料13乃至19の固結性を実験1−4におけると同様の方法で試験した。結果を表5に示す。なお、表5に見られる被験試料1及び2についての固結性試験の結果は表1におけるものをそのまま転記したものである。
【0147】
<実験5−3:保存性試験>
実験1−4等において行われた固結性試験が、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の実際の保存時における固結性を評価する試験として妥当なものであることを確認すべく、実験1−1の方法で得た被験試料1、実験5−1で得た被験試料13乃至18、及び被験試料19について、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が実際に保存される状態、環境、期間などを想定した保存性試験を行った。
【0148】
すなわち、被験試料1及び被験試料13乃至19を10kgずつとり、それぞれを、二重にしたポリエチレン袋(縦80mm×横600mm)に入れたものを各被験試料につき1袋ずつ作製した。次いで各ポリエチレン袋を、開口部を上向きにし、開口したままスチール缶に入れ(18リットル容)、スチール缶の蓋をせずに静置し、室温で、湿度調節なしの環境下で45日間保存した。45日間保存後、スチール缶から各被験試料の入ったポリエチレン袋を取り出し、袋から被験試料を黒色プラスチック製平板上に取り出し、その際の被験試料の流動性と固結の状態を肉眼観察した。
【0149】
固結の有無は、被験試料中に塊状物が認められ、保存開始時と比べ流動性が低下している場合を「固結あり」(+)、塊状物が認められず、保存開始時と比べ流動性に変化がない場合を「固結なし」(−)と判定した。なお、本保存試験における各被験試料の保存形態は、開口部をゴムバンドで閉口していない点、乾燥剤を入れていない点、及び、スチール缶の蓋をしていない点を除き、医薬部外品級の粉末の商品形態と同じであり、実際に市場に流通し、保存される際の形態と同じである。なお、上記3つの相違点は、試験結果を早期に得られるように、保存試験での保存環境を実際の保存環境よりもやや過酷にすべく、意図的に設定された相違点である。結果を表5に併せて示した。
【0150】
表5に示されるとおり、実質的に無定形部分からなる被験試料2、及び医薬部外品級の粉末である被験試料19を除いて、その余の被験試料1及び被験試料13乃至18においては、アスコルビン酸2−グルコシド純度が高まるにつれ、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が高くなる傾向がある。さらに、固結性試験において、アスコルビン酸2−グルコシド純度がそれぞれ97.4%及び98.0%である被験試料13及び14が「固結あり」(+)又は「やや固結あり」(±)と判断されたのに対し、アスコルビン酸2−グルコシド純度が98.6乃至99.7%である被験試料15乃至18は「固結なし」(−)と判断された。これらの結果は、固結性を左右すると考えられるアスコルビン酸2−グルコシド純度についての閾値が98.0%付近にあることを示しており、「固結なし」(−)と評価されるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得るには98.0%を超えるアスコルビン酸2−グルコシド純度が必要であると結論づけることができる。
【0151】
また、被験試料15乃至18のアスコルビン酸2−グルコシド純度は98.6乃至99.7%であり、医薬部外品級の粉末である被験試料19のアスコルビン酸2−グルコシド純度98.9%とほぼ同じレベルであり、試薬級の粉末であって実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなる被験試料1の純度より有意に低いにもかかわらず、被験試料1と同様に全く固結は認められなかった。因みに、被験試料15乃至18のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度は91.6乃至99.5%、医薬部外品級の粉末である被験試料19のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度は88.9%と90%を下回っていた。これらの結果から、医薬部外品級の粉末である被験試料19よりも有意に固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得るには、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度を90%以上とする必要があると判断される。
【0152】
さらに、被験試料1及び被験試料13乃至18においては、アスコルビン酸2−グルコシド純度が高まるにつれ、動的水分吸着量が低下する傾向が認められ、動的水分吸着量が0.07%である被験試料13が「固結あり」(+)、動的水分吸着量が0.04%である被験試料14、及び動的水分吸着量が0.03%である被験試料19が「やや固結あり」(±)と判断されたのに対し、動的水分吸着量が0.01%である被験試料15及び動的水分吸着量が検出限界以下である被験試料16乃至18は「固結なし(−)」と判断された。これらの結果は、粉末の動的水分吸着量が0.01%以下である場合には、医薬部外品級の粉末である被験試料19よりも有意に固結し難いアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得ることができることを示している。
【0153】
なお、表5の最下段に示すとおり、各被験試料を実際の商品形態に倣って、10kg入りの袋詰めの状態で45日間保存した保存性試験においても、アスコルビン酸2−グルコシドの純度がそれぞれ97.4%及び98.0%である被験試料13及び14が「固結あり」(+)と判断されたのに対し、アスコルビン酸2−グルコシド純度が98.6乃至99.7%である被験試料15乃至18は「固結なし」(−)と判断され、固結性試験と同様の結果が得られた。この事実は、実験1−4等における固結性試験が、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の実際の保存環境下での固結性を評価する試験として妥当なものであることを示している。
【0154】
〈実験6:アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末におけるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶化度と結晶子径との関係〉
一般的に、結晶含有粉末の一個の粉末粒子は複数の単結晶、すなわち、複数の結晶子により構成されていると考えられており、その粉末の結晶化度が高ければ、個々の粉末粒子の結晶子の大きさ(径)は大きいと推測される。斯かる結晶子径は、粉末X線回折プロフィルに基づき算出される回折ピークの半値(価)幅と回折角を用い、下記式[6]として示す「シェラー(Scherrer)の式」に基づき算出することができるとされており、一般的な粉末X線回折装置には、斯かる結晶子径算出用のコンピューターソフトウェアが搭載されている。そこで、実験1で調製した実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなる被験試料1、実験5で調製した本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末であって、アスコルビン酸2−グルコシドの純度及びその無水結晶の結晶化度が従来の医薬部外品級の粉末に比較的近い被験試料15、及び、実験5で用いた従来の医薬部外品級の粉末である被験試料19を選択し、下記方法により、これら粉末の一個の粉末粒子に含まれる結晶子径を算出した。
【0155】
式[6]:
【数6】

【0156】
〈アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶子径の算出方法〉
結晶子径算出の基となる粉末X回折プロフィルとして、実験1或いは実験5において、それぞれ、被験試料1、15、19におけるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度の解析値の決定に用いた粉末X回折プロフィルを用いた。斯かる末X回折プロフィルを解析し、作成した回折パターンから、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶子径の計算に用いる回折ピークとして、一個の粉末粒子内における結晶子の不均一歪に起因する回折ピーク幅への影響が少ないとされる比較的低角の領域で、かつ、個々に分離可能と考えられた、回折角(2θ)が10.4°、13.2°、18.3°、21.9°及び22.6°の付近の回折ピークを選択した。粉末X線回折装置に付属する解析処理用コンピューターソフトウェア(『エクスパート ハイスコア プラス(X’pert Highscore Plus)』)を用い、各々の被験試料の粉末X線回折プロフィルを処理し、選択した5個の回折ピークの半値幅と回折角(2θ)を求め、標準品として珪素(米国国立標準技術研究所(NIST)供給、X線回折用標準試料(『Si640C』))を用いた場合の測定値に基づき補正した。この補正後の半値幅と回折角(2θ)を用い、同ソフトウェア中の「シェラー(Scherrer)の式」によるプログラムにて、これら被験試料におけるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶子径を算出した。結果を表6に示す。なお、各被験試料の結晶子径は、選択した5個の回折ピークそれぞれについて算出し、それらの平均値として示した。また、各被験試料のアスコルビン酸2−グルコシドの純度及びその無水結晶についての結晶化度は表5におけるものをそのまま転記したものである。因みに、被験試料15及び19の粉末X線回折パターンは、何れも、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶に特有の明瞭、かつ、シャープな回折ピークが回折角(2θ)4乃至65°の範囲に出現し、回折ピークのパターンは、被験試料1の粉末X線回折パターン(図1)とよく整合していたので、これらの被験試料の粉末X線回折プロフィルから、各々の被験試料に含まれるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶子径を算出し、比較することは妥当と判断した。
【0157】
【表6】

【0158】
表6に見られるとおり、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が100%である被験試料1におけるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶子径は1,770Åと算出された。アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が91.6%である被験試料15におけるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶子径は1,440Åと算出された。また、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が88.9%である被験試料19におけるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶の結晶子径は1,380Åと算出された。これらの3種の被験試料間では、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が高いほど、その結晶子径が大きい値を示し、結晶化度と結晶子径との間には相関関係が認められた。
【0159】
<実験7:アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の還元力と着色との関係>
先行する実験で用いた被験試料は、いずれも、L−アスコルビン酸と澱粉質とを含む溶液にCGTaseを作用させる工程を経て得られたアスコルビン酸2−グルコシド含有溶液から調製されるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である。このような製法による場合、得られる粉末には、量の多寡はともかく、製造方法に特有の夾雑物であるL−アスコルビン酸及びD−グルコースが含まれることになる。L−アスコルビン酸やD−グルコースは、いずれも還元性を有しており、含まれる量にもよるが、蛋白質やアミノ酸などのアミノ基を有する化合物を含む製品に使用した場合、製品に不都合な変色をもたらす恐れがある。中でも、L−アスコルビン酸は、酸素との反応性が高く、これを使用した製品に不都合な変色をもたらすだけでなく、従来の医薬部外品級の粉末を長期間保存した場合に往々にして認められた粉末自体の着色の原因ともなると考えられる。
【0160】
そこで、本実験では、先行する実験で用いた被験試料1及び被験試料15乃至19につき、それらの粉末におけるL−アスコルビン酸とD−グルコースとの合計量、L−アスコルビン酸量、さらには、粉末全体の還元力と着色性との関係について、下記の手順にて、加熱処理による加速試験を行うことにより検討した。
【0161】
10ml容螺子蓋付き試験管内に各被験試料を無水物換算で150mgずつ秤取し、試験管の開口部を塞いだ状態でオーブン(増田理化株式会社販売、商品名『DRYING−OVEN SA310』)内に収容し、80℃で3日間加温した。次いで、試験管から螺子蓋を外し、各被験試料に脱イオン水を3mlずつ加え、溶解させた後、分光光度計(株式会社島津製作所販売、商品名『UV−2400PC』)により波長400nmにおける吸光度を測定した。加温に伴う着色の度合いは、波長400nmにおける吸光度の数値が0.50未満である場合:「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)、前記吸光度の数値が0.50以上である場合:「着色する」(+)、の2段階で判定した。結果を表7に示す。
【0162】
なお、各被験試料中のL−アスコルビン酸とD−グルコースの合計量は実験1−1で述べたHPLC法により決定した。また、粉末全体の還元力については、D−グルコースを標準物質として用い、斯界で汎用されているソモジ−ネルソン法及びアンスロン硫酸法により、それぞれ、還元糖量及び全糖量を測定し、それらを上述した式[3]に代入し、計算することにより求めた。各被験試料におけるL−アスコルビン酸とD−グルコースとの合計量、L−アスコルビン酸量、及び、粉末全体の還元力は表7に示すとおりであった。
【0163】
【表7】

【0164】
表7に示すとおり、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末においては、実質的にアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶からなる試薬級の粉末である被験試料1では、L−アスコルビン酸及びD−グルコース量は、何れも検出限界以下であった。これに対し、本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である被験試料12乃至18、及び、従来の医薬部外品級の粉末である被験試料19では、何れの粉末においてもL−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースが検出された。さらに、斯かる粉末においては、被験試料15乃至18のように、L−アスコルビン酸とD−グルコースの合計量が無水物換算で0.2%以下である場合には、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断されたのに対し、被験試料19のように、L−アスコルビン酸とD−グルコースの合計量が無水物換算で0.3%に達すると、「着色する」(+)と判断された。さらに、斯かる粉末の着色性に最も強く関与すると考えられるL−アスコルビン酸については、被験試料15乃至18のように、その含量が無水物換算で0.1%以下である場合には、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断されたのに対し、被験試料19のように、L−アスコルビン酸量が無水物換算で0.2%に達すると、「着色する」(+)と判断された。因みに、既述のごとく、L−アスコルビン酸は酸素との反応性が高く、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の着色に関与していると考えられるので、L−アスコルビン酸量が0.1%以下の場合には、斯かる粉末を従来の医薬部部外品級の粉末の商品形態で長期保存した場合、実質的な着色を懸念しなくてよい。
【0165】
一方、還元力から見ると、被験試料15乃至18のように、粉末全体の還元力が1%未満である場合、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断されたのに対し、被験試料19のように、粉末全体の還元力が1%を超えると、「着色する」(+)と判断された。この結果は、上記したL−アスコルビン酸とD−グルコースの合計量を指標にして判定した結果と良く一致していた。
【0166】
以上の結果は、製造方法に起因して、不可避的に、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを検出できるレベルで含んでいても、粉末全体の還元力を1%未満とする場合には、着色の懸念がないアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得ることができることを示している。また、使用した製品の着色だけでなく、粉末自体の着色という観点を含めれば、L−アスコルビン酸の含量は、無水物換算で0.1%以下が好ましいことを示している。
【0167】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0168】
〈CGTase粗酵素液の製造〉
ジオバチルス・ステアロサーモフィルス Tc−62株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受託番号FERM BP−11143)を、ニュートリエント・アガー(Difco社販売)のスラント培地を用いて、50℃で2日間培養した。スラント培地より菌体を1白金耳とり、可溶性澱粉2%、塩化アンモニウム0.5%、リン酸水素カリウム0.05%、硫酸マグネシウム0.025%及び炭酸カルシウム0.5%を含むシード用液体培地に植菌し、50℃で3日間振とう培養し、さらに、シード培養して得た培養液を、可溶性澱粉をデキストリンに換えた以外はシード培地と同一組成のメイン培養用液体培地に植菌して、50℃で3日間振とう培養した。この培養液を遠心分離にて除菌し、遠心上清をUF膜にて液量が約18分の1になるまで濃縮し、CGTase粗酵素液とした。
【0169】
〈アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造〉
液化馬鈴薯澱粉4質量部を水20質量部に加えて加熱溶解し、L−アスコルビン酸3質量部を加え、pHを5.5に調整し基質溶液とした。これに、上記CGTaseの粗酵素液を液化澱粉の固形分1g当り100単位と、イソアミラーゼ(株式会社林原製造)を液化澱粉の固形分1g当り250単位とを加え、55℃で40時間反応させアスコルビン酸2−グルコシドとともに、2−O−α−マルトシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトトリオシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトテトラオシル−L−アスコルビン酸などのα−グリコシル−L−アスコルビン酸を生成させた。
【0170】
本反応液を加熱し酵素を失活させた後、pH4.5に調整し、これにグルコアミラーゼ剤(天野エンザイム株式会社販売、商品名『グルクザイムAF6』、6,000単位/g)を液化澱粉の固形分1g当り50単位加え55℃で24時間処理し、α−グリコシル−L−アスコルビン酸をアスコルビン酸2−グルコシドにまで、また、混在する糖質をD−グルコースにまで分解した。本反応液中のL−アスコルビン酸2−グルコシドの生成率は約39%であった。また、本反応液は、無水物換算で、5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸と6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸とを合計で約0.1%含有していた。
【0171】
本反応液を加熱し酵素を失活させ、活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)にて脱塩し、次いで、アニオン交換樹脂(OH型)にL−アスコルビン酸及びアスコルビン酸2−グルコシドを吸着させ、水洗してD−グルコースを除いた後、0.5N塩酸溶液で溶出した。さらに、この溶出液を固形分約50%にまで濃縮し、強酸性カチオン交換樹脂(商品名『ダイヤイオン UBK 550』Na型、三菱化学社製)を充填した10本のカラムを用いた擬似移動床式のカラムクロマトグラフィーに供した。固形分約50%にまで濃縮した溶出液を、カラムにその湿潤樹脂容積の約40分の1量チャージし、チャージ量の約15倍の溶離液をカラムに供給することによりアスコルビン酸2−グルコシドを溶出し、L−アスコルビン酸含量の少ない、アスコルビン酸2−グルコシド高含有画分を採取した。採取した画分におけるアスコルビン酸2−グルコシド含量は無水物換算で92.2%であった。
【0172】
この画分を減圧濃縮し、濃度約72%の濃縮液とし、これを助晶缶にとり、分析用の標準試薬として販売されているL−アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末(株式会社林原生物化学研究所販売、商品名『アスコルビン酸2−グルコシド 999』(コード番号:AG124、アスコルビン酸2−グルコシド純度99.9%以上))を種晶として2%加えて40℃とし、穏やかに撹拌しつつ徐冷し2日間で15℃まで下げ、アスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を析出させた。
【0173】
析出した結晶をバスケット型遠心分離機で回収し、少量の冷精製水でスプレーし洗浄した後、38℃で3時間、熟成、乾燥した後、25℃の空気を45分間吹き付け冷却し、粉砕してアスコルビン酸2−グルコシド純度99.5%、L−アスコルビン酸とD−グルコースの合計の含量0.1%、L−アスコルビン酸含量0.1%未満、アスコルビン酸2ーグルコシド無水結晶についての結晶化度97.0%、粉末全体の還元力0.25%のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得た。本粉末の動的水分吸着量は検出限界以下であった。本粉末の粒度分布を測定したところ、粒径150μm未満の粒子が91.2%、粒径が53μm以上150μm未満の粒子が50.2%含まれていた。本粉末について、実験1−4及び実験7と、それぞれ同じ方法により固結性試験及び着色性試験を行ったところ、本粉末は固結性試験において「固結なし」(−)と判断され、着色性試験においては、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断された。
【0174】
本粉末は、医薬部外品向け美白成分などとして市販されている従来の医薬部外品級の粉末(商品名『AA2G』 株式会社林原生物化学研究所販売)と比べ、固結しにくく着色性が低いので取扱い容易である。本粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である点では従来の医薬部外品級の粉末と何ら変わりがないので、従来の医薬部外品級の粉末と同様に、それ単独で、或いは他の成分と混合して、粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などとして好適に用いることができる。また、L−アスコルビン酸含量が0.1%以下であるので、これを従来の医薬部外品級の粉末と同じ商品形態で長期間保存しても粉末自体が着色する恐れがない。
【実施例2】
【0175】
〈CGTase粗酵素液の製造〉
ジオバチルス・ステアロサーモフィルス Tc−62株に換えてジオバチルス・ステアロサーモフィルス Tc−27株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM BP−11142)を用いた以外は、実施例1と同様にしてCGTase粗酵素液を調製した。
【0176】
〈アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造〉
コーンスターチ5質量部を水15質量部に加え、市販の液化酵素を加え加熱溶解し、L−アスコルビン酸3質量部を加え、pHを5.5に調整し基質溶液とした。これに、上記CGTaseの粗酵素液とイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製造)とを、それぞれコーンスターチの固形分1g当り100単位及び1,000単位加えて55℃で50時間反応させアスコルビン酸2−グルコシド、及びその他のα−グリコシル−L−アスコルビン酸を生成させた。
【0177】
この反応液を加熱し酵素を失活させた後、pHを4.5に調整し、これにグルコアミラーゼ剤(ナガセケムテックス株式会社販売、商品名『グルコチーム#20000』、20,000単位/g)をコーンスターチの固形分1g当り50単位加え、55℃で24時間反応させ、2−O−α−マルトシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトトリオシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−マルトテトラオシル−L−アスコルビン酸などのα−グリコシル−L−アスコルビン酸をアスコルビン酸2−グルコシドにまで、また、混在する糖質をD−グルコースにまで分解した。本反応液におけるアスコルビン酸2−グルコシドの生成率は約37%であった。また、本反応液は、無水物換算で、5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸と6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸とを合計で約0.2%含有していた。
【0178】
本反応液を加熱し酵素を失活させた後、活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)にて脱塩し、次いで、アニオン交換樹脂(OH型)にL−アスコルビン酸及びアスコルビン酸2−グルコシドを吸着させ、水洗してD−グルコースを除いた後、0.5N塩酸溶液で溶出し、さらに多孔性樹脂(商品名『トヨパールHW−40』、東ソー社製)を用いたカラムクロマトグラフィーに供して、アスコルビン酸2−グルコシドを高含有し、L−アスコルビン酸量の少ない画分を採取した。採取した画分におけるアスコルビン酸2−グルコシド含量は無水物換算で89.5%であった
【0179】
この画分を減圧濃縮し、濃度約76%とし、これを助晶缶にとり、実施例1で製造したアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を種晶として2%加えて40℃とし、穏やかに撹拌しつつ徐冷し2日間で15℃まで下げ、アスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を晶析させた。
【0180】
バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶を少量の蒸留水でスプレーし洗浄した後、35℃で8時間、熟成、乾燥した後、25℃の空気を15分間吹き付け冷却し、粉砕することによりアスコルビン酸2−グルコシド純度99.2%、L−アスコルビン酸とD−グルコースの合計の含量0.1%未満、L−アスコルビン酸含量0.1%未満、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度94.4%、粉末全体の還元力0.15%のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得た。本粉末の動的水分吸着量は検出限界以下であった。本粉末の粒度分布を測定したところ、粒径が150μm未満の粒子が83.2%、粒径が53μm以上150μm未満の粒子が57.1%含まれていた。本粉末を用い、実験1−4及び実験7と、それぞれ同じ方法により固結性試験及び着色性試験を行ったところ、本粉末は固結性試験において「固結なし」(−)と判断され、着色性試験においては、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断された。
【0181】
本粉末は、医薬部外品向け美白成分などとして市販されている従来の医薬部外品級の粉末(商品名『AA2G』 株式会社林原生物化学研究所販売)と比べ、固結しにくく着色性が低いので取扱い容易である。本粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である点では従来の医薬部外品級の粉末と何ら変わりがないので、従来の医薬部外品級の粉末と同様に、それ単独で、或いは他の成分と混合して、粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などとして好適に用いることができる。また、L−アスコルビン酸含量が0.1%以下であるので、これを従来の医薬部外品級の粉末と同じ商品形態で長期間保存しても粉末自体が着色する恐れがない。
【実施例3】
【0182】
〈変異CGTaseの調製〉
ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(旧分類ではバチルス・ステアロサーモフィラス) Tc−91株起源のCGTaseは、その遺伝子がクローニングされ、遺伝子の塩基配列(配列表における配列番号2で示される塩基配列)から成熟型CGTaseのアミノ酸配列(配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列)が決定されており、当該CGTaseのアミノ酸配列上にはα−アミラーゼファミリーに分類される酵素群に共通して存在するとされる4つの保存領域が存在することが知られている。また、当該CGTase蛋白の立体構造はX線結晶構造解析によって既に明らかにされており、図5に示すように、A、B、C及びDの4つのドメインを有するとされている(『工業用糖質酵素ハンドブック』、講談社サイエンティフィク編集、講談社発行、56乃至63頁(1999年)参照)。さらに、当該CGTaseの3つの触媒残基、すなわち、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列における225番目のアスパラギン酸(D225)、253番目のグルタミン酸(E253)、324番目のアスパラギン酸(D324)も判明している(『工業用糖質酵素ハンドブック』、講談社サイエンティフィク編集、講談社発行、56乃至63頁(1999年)参照)。当該CGTaseの一次構造の模式図を図6に示す。当該CGTaseの遺伝子DNAに下記の手順で変異を導入し、野生型CGTaseよりもアスコルビン酸2−グルコシドの生成能に優れる変異CGTaseを取得した。
【0183】
すなわち、本発明者らが保有しているジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−2225(国際寄託に移管手続中:受領番号FERM ABP−11273))由来のCGTase遺伝子を用い、そのコードするアミノ酸配列を変えることなく変異させて制限酵素切断部位などを導入又は欠失させ、それをプラスミドベクターに組換え、野生型CGTaseをコードする遺伝子を含む組換えDNAを作製した。当該組換えDNA「pRSET−iBTC12」の構造を図7に示した。次いで、得られた組換えDNAにおける野生型CGTaseの活性残基を含む領域をコードする遺伝子断片(Nde I−EcoT22I断片)を切り出し、PCR変異キット(商品名『GeneMorph PCR Mutagenesis Kit』、ストラタジーン社販売)を用いて試験管内でランダムに変異を加え、元の組換えDNAに戻すことにより様々なアミノ酸置換が生じたCGTase変異体をコードする遺伝子混合物を作製した。その変異遺伝子を発現プラスミドベクターに組込み、組換えDNAを作製した。当該組換えDNAを用いて大腸菌を形質転換し、CGTase変異体遺伝子ライブラリーを作製した。
【0184】
次に、得られた遺伝子ライブラリーから13,000株を超える形質転換体を単離し、培養して得られた菌体からCGTase変異体を含む溶菌液を粗酵素液として調製した。得られた粗酵素液をL−アスコルビン酸と澱粉部分分解物とを含む水溶液に作用させ、生成するα−グリコシルL−アスコルビン酸をグルコアミラーゼ処理してアスコルビン酸2−グルコシドを生成させ、その生成量を野生型CGTaseと比較することによって、アスコルビン酸2−グルコシド高生産型CGTase変異体を産生する形質転換体をスクリーニングした。そのスクリーニングの過程で目的とする変異CGTase遺伝子を保持する形質転換体を得た。当該形質転換体が保持する変異CGTase遺伝子の塩基配列を解読したところ、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列における第228番目のリジン残基がグルタミン酸残基に置換していることが判明した。
【0185】
上記CGTase変異体をコードする遺伝子DNAを保持する形質転換体を、アンピシリンNa塩100μl/mlを含むT培地(培地1L当り、バクト−トリプトン12g、バクト−イーストエキストラクト24g、グリセロール5ml、17mM リン酸一カリウム、72mM リン酸二カリウムを含有)を用いて37℃で24時間好気的に培養した。培養液を遠心分離して得た菌体を超音波破砕器(商品名『Ultra Sonic Homogenizer UH−600』、エムエステー株式会社製)を用いて破砕処理し、破砕液上清を60℃で30分間熱処理し、宿主由来の非耐熱性蛋白質を変性、失活させた。熱処理液をさらに遠心分離しCGTase変異体の部分精製標品を製造した。
【0186】
〈アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造〉
馬鈴薯澱粉5質量部を水15質量部に加え、市販の液化酵素を加え加熱溶解し、L−アスコルビン酸3質量部を加え、pHを5.5に調整し基質溶液とした。これに上記方法で得たCGTase変異体の部分精製標品を馬鈴薯澱粉1g当り20単位加え、65℃で72時間反応させアスコルビン酸2−グルコシド及びα−グリコシル−L−アスコルビン酸を生成させた。反応後、反応液を加熱しCGTase変異体を失活させた。この反応液に、グルコアミラーゼ剤(ナガセケムテックス株式会社販売、商品名『グルコチーム#20000』、20,000単位/g)を馬鈴薯澱粉1g当り100単位加えて、pH5.0、40℃で約18時間反応させることにより反応液中のα−グリコシル−L−アスコルビン酸をアスコルビン酸2−グルコシドにまで、また、混在する糖質をD−グルコースにまで分解した。本反応液におけるアスコルビン酸2−グルコシドの生成率は約40%であった。また、本反応液は、無水物換算で、5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸と6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸とを合計で約0.3%含有していた。
【0187】
この反応液を加熱してグルコアミラーゼを失活させ、活性炭で脱色濾過し、濾液を濃縮し、アニオン交換樹脂(OH型)にL−アスコルビン酸及びアスコルビン酸2−グルコシドを吸着させ、水洗してD−グルコースを除いた後、0.5N塩酸溶液で溶出した。次いで、実施例1と同様にして、強酸性カチオン交換樹脂を用いた擬似移動床式のカラムクロマトグラフィーに供し、アスコルビン酸2−グルコシド含量が高く、L−アスコルビン酸含量が少ない画分を採取した。採取した画分におけるアスコルビン酸2−グルコシド含量は無水物換算で90.4%であった。
【0188】
これをカチオン交換樹脂(H型)で脱塩した後、減圧濃縮し、濃度約75%の濃縮液とし、これを助晶缶にとり、実施例1で製造したアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を種晶として2%加え、45℃とし、穏やかに撹拌しつつ、徐冷し2日間で10℃まで下げ、アスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を晶析させた。得られた結晶を回収し、結晶を少量の冷脱イオン水をスプレーして洗浄した後、38℃で3時間、熟成、乾燥し、一晩自然放冷し、粉砕することによりアスコルビン酸2−グルコシド純度98.8%、L−アスコルビン酸とD−グルコースの合計の含量0.1%未満、L−アスコルビン酸含量0.1%未満、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度93.5%、粉末全体の還元力0.31%のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得た。また、本粉末の動的水分吸着量は検出限界以下であった。本粉末の粒度分布を測定したところ、粒径150μm未満の粒子が93.1%、粒径53μm以上150μm未満の粒子が48.2%含まれていた。本粉末を用い、実験1−4及び実験7と、それぞれ同じ方法により固結性試験及び着色性試験を行ったところ、本粉末は固結性試験において「固結なし」(−)と判断され、着色性試験においては、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断された。
【0189】
本粉末は、医薬部外品向け美白成分などとして市販されている従来の医薬部外品級の粉末(商品名『AA2G』 株式会社林原生物化学研究所販売)と比べ、固結しにくく着色性が低いので取扱い容易である。本粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である点では従来の医薬部外品級の粉末と何ら変わりがないので、従来の医薬部外品級の粉末と同様に、それ単独で、或いは他の成分と混合して、粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などとして好適に用いることができる。また、L−アスコルビン酸含量が0.1%以下であるので、これを従来の医薬部外品級の粉末と同じ商品形態で長期間保存しても粉末自体が着色する恐れがない。
【実施例4】
【0190】
〈アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造〉
CGTaseと共にイソアミラーゼ(株式会社林原製造)を澱粉固形物1g当り500単位加えて55℃で反応させた以外は、実施例3と同様の方法で酵素反応を行った。グルコアミラーゼ処理後の反応液のL−アスコルビン酸2−グルコシド生成率は約45%であった。また、本反応液は、無水物換算で、5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸と6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸とを合計で約0.2%含有していた。実施例3と同様に精製し、採取した画分におけるアスコルビン酸2−グルコシド含量は無水物換算で91.8%であった。
【0191】
実施例3と同様に結晶化を行い、得られた結晶を回収し、結晶を少量の冷脱イオン水をスプレーして洗浄した後、38℃で3時間、熟成、乾燥し、一晩自然放冷し、粉砕することにより、アスコルビン酸2−グルコシド純度99.2%、L−アスコルビン酸とD−グルコースの合計の含量0.1%未満、L−アスコルビン酸含量0.1%未満、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度95.6%、粉末全体の還元力0.25%のL−アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得た。また、本粉末の動的水分吸着量は検出限界以下であった。本粉末の粒度分布を測定したところ、粒径150μm未満の粒子が92.7%、粒径53μm以上150μm未満の粒子が44.2%含まれていた。本粉末を用い、実験1−4及び実験7と、それぞれ同じ方法により固結性試験及び着色性試験を行ったところ、本粉末は固結性試験において「固結なし」(−)と判断され、着色性試験においては、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断された。
【0192】
本粉末は、医薬部外品向け美白成分などとして市販されている従来の医薬部外品級の粉末(商品名『AA2G』 株式会社林原生物化学研究所販売)と比べ、固結しにくく着色性が低いので取扱い容易である。本粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である点では従来の医薬部外品級の粉末と何ら変わりがないので、従来の医薬部外品級の粉末と同様に、それ単独で、或いは他の成分と混合して、粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などとして好適に用いることができる。また、L−アスコルビン酸含量が0.1%以下であるので、これを従来の医薬部外品級の粉末と同じ商品形態で長期間保存しても粉末自体が着色する恐れがない。
【実施例5】
【0193】
〈アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造〉
馬鈴薯澱粉5質量部を水15質量部に加え、市販の液化酵素を加え加熱溶解し、L−アスコルビン酸3質量部を加え、pHを5.5に調整し基質溶液とした。これに、CGTase(株式会社林原生物化学研究所製造、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス Tc−91株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−2225(国際寄託に移管手続中:受領番号FERM ABP−11273))由来)とイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製造)を、それぞれ馬鈴薯澱粉1g当り100単位及び1,000単位加えて55℃で50時間反応させアスコルビン酸2−グルコシド及びその他のα−グリコシル−L−アスコルビン酸を生成させた。この反応液を加熱し酵素を失活させた後、pHを4.5に調整し、これにグルコアミラーゼ剤(ナガセケムテックス株式会社販売、商品名『グルコチーム#20000』、20,000単位/g)を馬鈴薯澱粉1g当り50単位加え、55℃で24時間反応させ、α−グリコシル−L−アスコルビン酸をアスコルビン酸2−グルコシドにまで、また、混在する糖質をD−グルコースにまで分解した。本反応液におけるアスコルビン酸2−グルコシドの生成率は約38%であった。また、本反応液は、無水物換算で、5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸と6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸とを合計で約0.4%含有していた。
【0194】
本反応液を加熱し酵素を失活させた後、活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H型)にて脱塩し、次いで、アニオン交換樹脂(OH型)にL−アスコルビン酸及びアスコルビン酸2−グルコシドを吸着させ、水洗してD−グルコースを除いた後、0.5N塩酸溶液で溶出し、さらに、多孔性樹脂(商品名『トヨパールHW−40』、東ソー社製)を用いたカラムクロマトグラフィーに供して、アスコルビン酸2−グルコシドを高含有し、L−アスコルビン酸量の少ない画分を採取した。採取した画分におけるアスコルビン酸2−グルコシド含量は無水物換算で87.6%であった。
【0195】
この画分を減圧濃縮し、濃度約76%とし、これを助晶缶にとり、実施例1で製造したアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を種晶として2%加えて40℃とし、穏やかに撹拌しつつ徐冷し2日間で15℃まで下げ、アスコルビン酸2−グルコシドの無水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶を少量の蒸留水でスプレーし洗浄した後、35℃で8時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を10分間吹き付け冷却し、粉砕することによりアスコルビン酸2−グルコシド純度98.5%、L−アスコルビン酸とグルコースの合計の含量0.1%未満、L−アスコルビン酸含量0.1%未満、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度94.8%、粉末全体の還元力0.15%のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を得た。本粉末の動的水分吸着量は検出限界以下であった。本粉末の粒度分布を測定したところ、粒径150μm未満の粒子が83.0%、粒径53μm以上150μm未満の粒子が57.7%含まれていた。本粉末を用い、実験1−4及び実験7と、それぞれ同じ方法により固結性試験及び着色性試験を行ったところ、本粉末は固結性試験において「固結なし」(−)と判断され、着色性試験においては、「着色しないか、あるいは、実質的に着色しない」(−)と判断された。
【0196】
本粉末は、医薬部外品向け美白成分などとして市販されている従来の医薬部外品級の粉末(商品名『AA2G』 株式会社林原生物化学研究所販売)と比べ、固結しにくく着色性が低いので取扱い容易である。本粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末である点では従来の医薬部外品級の粉末と何ら変わりがないので、従来の医薬部外品級の粉末と同様に、それ単独で、或いは他の成分と混合して、粉末状の食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などとして好適に用いることができる。また、L−アスコルビン酸含量が0.1%以下であるので、これを従来の医薬部外品級の粉末と同じ商品形態で長期間保存しても粉末自体が着色する恐れがない。
【比較例1】
【0197】
〈アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造〉
イソアミラーゼを用いなかった以外は実施例5と同一の方法で、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス Tc−91株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−2225(国際寄託に移管手続中:受領番号FERM ABP−11273))由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所製造)を用いて、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を製造したところ、グルコアミラーゼ処理後の反応液におけるアスコルビン酸2−グルコシド生成率は約28%であった。また、本反応液は、無水物換算で、5−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸と6−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸とを合計で約1.0%含有していた。この反応液を実施例5と同様に脱色、脱塩、精製してアスコルビン酸2−グルコシドの高含有画分を採取したところ、アスコルビン酸2−グルコシド高含有画分におけるアスコルビン酸2−グルコシドの含量は無水物換算で87.7%であった。
【0198】
この高含有画分を実施例5と同様に濃縮し、アスコルビン酸2−グルコシドを結晶化させて、これを採取、熟成、乾燥した後、冷却したところ、アスコルビン酸2−グルコシド純度98.5%、L−アスコルビン酸とD−グルコースの合計の含量0.4%、L−アスコルビン酸含量0.2%、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度89.1%、粉末全体の還元力1.17%のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末が得られた。本粉末の動的水分吸着量は0.04%であった。本粉末の粒度分布を測定したところ、粒径150μm未満の粒子が78.1%、粒径53μm以上150μm未満の粒子が50.2%含まれていた。
【0199】
本品粉末を用い、実験1−4及び実験7と、それぞれ同じ方法により固結性試験及び着色性試験を行ったところ、本粉末は固結性試験において「固結あり」(+)と判断され、着色性試験においては、「着色する」(+)と判断された。本粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%未満であり、かつ、動的水分吸着量が0.04%と0.01%を超えているので、商流乃至は保存期間中に固結する恐れがあり、これを食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材などとして用いる場合には深刻な支障をきたしかねない。また、L−アスコルビン酸含量が0.2%と高いので、商流乃至は保存期間中に粉末自体が着色する恐れがある。
【0200】
<保存性試験>
実施例1乃至5、及び、比較例1で得たアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末につき、実験5−3と同じ方法により保存性試験を行った。本保存性試験で得た結果と、各実施例及び比較例で確認した固結性試験の結果とを併せ表8に示す。
【0201】
【表8】

【0202】
表8にみられるとおり、各粉末を実際の商品形態に倣って、10kg入りの袋詰めの状態で45日間保存した保存性試験において、実施例1乃至5のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、いずれも、「固結なし」(−)と判断されたのに対し、比較例1のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は「固結あり」(+)と判断された。これらの結果は、固結性試験の結果と良く一致していた。
【0203】
以上のとおり、上記実験1乃至7及び実施例1乃至5に示される本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶についての結晶化度が90%以上であるか、動的水分吸着量が検出限界以下の0.01%以下であるので、製造方法に特有の夾雑物であるL−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを通常の液体クロマトグラフィーで検出可能なレベルで常に含みつつ、かつ、アスコルビン酸2−グルコシドの純度が98.0%を超え99.9%未満、具体的には、純度が98.5%(実施例5参照)以上99.8%以下(実験2参照)と、試薬級の粉末の純度99.9%に満たず、アスコルビン酸2−グルコシドの純度の点で試薬級の粉末と区別できるレベルであるにもかかわらず、固結性試験において「固結性なし」(−)と判断される、取り扱い容易な粉末である。
【実施例6】
【0204】
<ビタミンC粉末製剤(食品素材としての適用例)>
実施例1乃至5の何れかの方法で得たアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末20質量部を粉末状食品素材として用い、これにショ糖70質量部、デキストリン10質量部、適量の香料を加え、混合機を用い撹拌混合しビタミンC粉末製剤を製造した。本品は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末と他の粉末とを、混合機を用い容易に均一に混合することができ、製造工程上何ら支障なく製造することができた。本品は、他の食品素材と容易に混合可能であり、長期間保存しても褐変や固結を起こしにくいビタミンC粉末製剤である。本品やこれを配合した組成物は、ビタミンCの生理機能を有しているので、皮膚や粘膜の健康維持や美白の目的で経口的に摂取することができる。
【実施例7】
【0205】
<美白パウダー(化粧品素材としての適用例)>
〈配合処方〉
(配合成分) (%)
α,α−トレハロース 59.5
ポリエチレングリコール6000 20
シリカ 5
実施例1乃至5の何れかの方法で得た
アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末 15
香料 適量
色剤 適量
防腐剤 適量
全量を100%とする。
【0206】
〈製造方法〉
混合機にα,α−トレハロース、ポリエチレングリコール6000、シリカ、香料、色剤及び防腐剤を加え、均一に混合した粉末に、実施例1乃至5の何れかの方法で得たアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を加え、均一になるまで撹拌、混合し、美白パウダーを調製した。本品は、アスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末と他の粉末とを、混合機を用い容易に均一に混合することができ、製造工程上何ら支障なく製造することができた。本品は、他の化粧品素材と容易に混合可能であり、長期間保存しても褐変や固結を起こしにくい美白パウダーである。本品やこれを配合した組成物は皮膚外用剤として、美白目的で用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明のアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末は、従来の医薬部外品級の粉末に比べて有意に固結し難いので、従来の医薬部外品級の粉末よりも取り扱い易く、食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材又は医薬品素材として、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品、飼料、餌料、化学品、工業品などの諸分野で利用することができる。また、本発明によるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末の製造方法は、天然の原料である澱粉質及びL−アスコルビン酸から斯かるアスコルビン酸2−グルコシド無水結晶含有粉末を所望量、廉価に製造する方法として、澱粉糖化物を製造する業界や、ビタミン誘導体を製造する業界において利用することができる。
【符号の説明】
【0208】
図5及び6において、
A:CGTaseのドメインA
B:CGTaseのドメインB
C:CGTaseのドメインC
D:CGTaseのドメインD
図5において、
螺旋:α−へリックス構造
板状矢印:β−シート構造
細いひも:ループ構造
図6において、
[1]:α−アミラーゼファミリーに共通する保存領域1
[2]:α−アミラーゼファミリーに共通する保存領域2
[3]:α−アミラーゼファミリーに共通する保存領域3
[4]:α−アミラーゼファミリーに共通する保存領域4
●:触媒残基
D225:CGTaseにおける触媒残基のひとつである第225番目のアスパラギン酸残基
E253:CGTaseにおける触媒残基のひとつである第253番目のグルタミン酸残基
D324:CGTaseにおける触媒残基のひとつである第324番目のアスパラギン酸残基
図7において、
pUC ori:プラスミドpUCの複製開始点
T7:T7プロモーター
白矢印(Amp):アンピシリン耐性遺伝子
黒矢印:CGTase遺伝子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水物換算で2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸を98.0質量%を超え99.9質量%未満含有し、窒素気流下で粉末中の水分を除去した後、温度25℃、相対湿度35質量%で12時間保持したときの動的水分吸着量が0.01%以下であり、L−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースを含有し、かつ、粉末全体の還元力が1質量%未満であることを特徴とする2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末。
【請求項2】
L−アスコルビン酸とD−グルコースとを無水物換算した合計量で0.2質量%以下含有することを特徴とする請求項1記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末。
【請求項3】
L−アスコルビン酸を無水物換算で0.1質量%以下含有することを特徴とする請求項2記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末。
【請求項4】
L−アスコルビン酸と澱粉質とを含む溶液にシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼを作用させる工程を経て得られる2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含有溶液から製造された粉末であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末。
【請求項5】
澱粉質とL−アスコルビン酸とを含む溶液にシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼとグルコアミラーゼをこの順で作用させて、2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸の生成率が35質量%以上である2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含有溶液を得る工程;得られた2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含有溶液を精製して、2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含量を無水物換算で86質量%超とする工程;2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸を無水物換算で86質量%超含有する溶液から2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸の無水結晶を析出させる工程;析出した2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸の無水結晶を採取する工程;採取された2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸の無水結晶を熟成、乾燥し、必要に応じて粉砕する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末の製造方法。
【請求項6】
澱粉質とL−アスコルビン酸とを含む溶液にシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼとグルコアミラーゼをこの順で作用させて2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含有溶液を得る工程において、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼとともに澱粉枝切り酵素を作用させることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記得られた2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含有溶液を精製して、2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含量を無水物換算で86質量%超とする工程が、アニオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより糖類を除去する工程と、カチオン交換樹脂を充填剤として用いる擬似移動床式のカラムクロマトグラフィーを行う工程とを含む請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記得られた2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含有溶液を精製して、2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸含量を無水物換算で86質量%超とする工程が、アニオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより糖類を除去する工程と、強酸性カチオン交換樹脂又は多孔性樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを行う工程とを含む請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至4の何れかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末からなる粉末状の食品素材。
【請求項10】
請求項1乃至4の何れかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末からなる粉末状の化粧品素材。
【請求項11】
請求項1乃至4の何れかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末からなる粉末状の医薬部外品素材。
【請求項12】
請求項1乃至4の何れかに記載の2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸無水結晶含有粉末からなる粉末状の医薬品素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67064(P2012−67064A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218963(P2010−218963)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【分割の表示】特願2010−195482(P2010−195482)の分割
【原出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【特許番号】特許第4792534号(P4792534)
【特許公報発行日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】