説明

2−{[2−(置換アミノ)エチル]スルホニル}エチルN,N,N’,N’−テトラキス(2−クロロエチル)ホスホロジアミデート

2-{[2-(置換アミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート、その製造およびその製造における中間体、それを含む医薬組成物、およびそれを用いた治療方法。該化合物は単独でまたは他の抗がん治療剤との併用でがんの治療に有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-{[2-(置換アミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート、それを含む医薬組成物、その医薬用途、ならびにその製造およびその製造における中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
PCT公開番号WO 95/09865は、式:
【化1】

[式中、
Lは電子吸引脱離基であり;
Sxは-S(=O)-、-S(=O)2-、-S(=NH)-、-S(=O)(=NH)-、-S+(C1-C6アルキル)-、-Se(=O)-、-Se(=O)2-、-Se(=NH)-もしくは-Se(=O)(=NH)-または-O-C(=O)-もしくは-HN-C(=O)-であり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立してHまたは非干渉置換基であり;
nは0、1または2であり;
Yは以下の基:
【化2】

(式中、mは1または2である)
からなる群から選択され;
AAcはペプチド結合により化合物の残りの部分と連結したアミノ酸である]
で示される化合物およびそのアミド、エステルおよび塩を開示する。
【0003】
その化合物は、相溶性グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)アイソザイムを含み、同時に骨髄における顆粒球マクロファージ前駆細胞のレベルを上昇する標的組織の選択的治療に有用な薬物である述べられている。Lについて開示される具体的態様としては、ホスホロアミデートおよびホスホロジアミデートマスタードなどの、不要な細胞に細胞毒性である薬物を生成するものが挙げられる。
【0004】
そのような化合物の一つは式:
【化3】

で示される。
その特許の中ではTER 286として称されており、γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホロアミデート)スルホニル)プロピオニル-(R)-(-)-フェニルグリシンと命名される。この化合物は、TLK286と後述されるが、非反転(uninverted)CAS名L-γ-グルタミル-3-[[2-[[ビス[ビス(2-クロロエチル)アミノ]ホスフィニル]オキシ]エチル]スルホニル]-L-アラニル-2-フェニル-(2R)-グリシンを有する。中性化合物として、その推奨国際一般名はカンフォスファミド(canfosfamide)であり;その塩酸塩酸付加塩として、その米国採用名はカンフォスファミド塩酸塩である。カンフォスファミドおよびその塩は、GST P1-1およびGST A1-1の作用により活性化されて細胞毒性ホスホロジアミデートマスタード部分を放出する抗がん化合物である。
【0005】
インビトロにて、カンフォスファミドは、ドキソルビシンへの耐性について選択されるM6709ヒト結腸がん細胞株およびシクロホスファミドへの耐性について選択されるMCF-7ヒト乳がん細胞株にてより強力であることが示されており、両方がその親の細胞株に対してGST P1-1を過剰発現し;マウスにおいてM7609の異種移植片が高、中および低レベルのGST P1-1を有するように処理され、カンフォスファミド塩酸塩の有効性はGST P1-1のレベルと正に相関した(Morgan et al.,「TER286の腫瘍有効性および骨髄予備特性, グルタチオン S-トランスフェラーゼにより活性化される細胞毒素」, がん Res., 58, 2568-2575 (1998))。
【0006】
カンフォスファミド塩酸塩は現在、卵巣がん、乳がん、非小細胞肺がんおよび結腸直腸がんの治療のための複数の臨床試験にて評価されている。それは非小細胞肺がんおよび卵巣がんの患者における有意な単一薬剤抗腫瘍活性および生存率の改善、および結腸直腸がんおよび乳がんにおける単一薬剤抗腫瘍活性を示している。インビトロ細胞培養および腫瘍生検からの証拠により、カンフォスファミドが白金、パクリタキセルおよびドキソルビシン(Rosario et al.,「グルタチオン S-トランスフェラーゼP1-1活性化プロドラッグに対する細胞応答」, Mol. Pharmacol., 58, 167-174 (2000))ならびにゲムシタビンに非架橋耐性であることが示される。カンフォスファミド塩酸塩で治療された患者は、臨床的に有意な血液毒性の非常に低い罹患率を示す。
【0007】
PCT公開番号WO 95/09865はまた、式:
【化4】

[式中、
Lは電子吸引脱離基であり;
S+はSまたはSeであり;
S*は-S(=O)-、-S(=O)2-、-S(=NH)-、-S(=O)(=NH)-、-S+(C1-C6アルキル)-、-Se(=O)-、-Se(=O)2-、-Se(=NH)-、-Se(=O)(=NH)-、-O-C(=O)-または-HN-C(=O)-であり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立してHまたは非干渉置換基であり;
nは0、1または2であり;
Yは以下:
【化5】

(式中、mは1または2である)
で示される基からなる群から選択され;
AAcはペプチド結合により化合物の残りの部分と連結するアミノ酸である]
で示される化合物およびそのアミド、エステルおよび塩である中間体も開示する。
【0008】
PCT公開番号WO 01/83496は抗腫瘍剤としての式:
【化6】

[式中、
Xはハロゲン原子であり;
QはO、SまたはNHであり;
Rは水素、適宜置換されていてもよい低級アルキル、適宜置換されていてもよいアリールもしくは適宜置換されていてもよいヘテロアリールであるか、またはR'CO-、R'NHCO-、R'SO2-もしくはR'NHSO2-であるか(ここに、R'は水素、適宜置換されていてもよい低級アルキル、適宜置換されていてもよいアリールまたは適宜置換されていてもよいヘテロアリールである);またはR-Qは一緒になって塩素である]
で示される化合物およびその塩を開示する。
【0009】
PCT公開番号WO 2005/118601は抗腫瘍剤としての式:
【化7】

[式中、
Rはそれぞれ独立して水素、C1-6アルキルまたは-CH2CH2X(ここに、Xはそれぞれ独立してCl、Br、C1-6アルカンスルホニルオキシ、ハロ-C1-6アルカンスルホニルオキシ、またはハロ、C1-3アルキル、ハロ-C1-3アルキル、C1-3アルキルオキシもしくはハロ-C1-3アルキルオキシから選択される3までの置換基で適宜置換されていてもよいベンゼンスルホニルオキシである)であるが、但し、それぞれのホスホロジアミデート基における少なくとも2のRは-CH2CH2Xであり;
R1は適宜置換されていてもよいアルキル、適宜置換されていてもよいヘテロアルキル、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアラルキル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールまたは適宜置換されていてもよいヘテロアラルキルであり;
R2は適宜置換されていてもよいアルカンジイル、適宜置換されていてもよいヘテロアルカンジイル、適宜置換されていてもよいアレーンジイル、適宜置換されていてもよいアレーンジアルキル、適宜置換されていてもよいヘテロアレーンジイルまたは適宜置換されていてもよいヘテロアレーンジアルキルである]
で示される化合物およびその塩を開示する。
式:
【化8】

で示される化合物はPCT公開番号WO 2005/118601の第38頁に化合物16Aとして開示されている。
【0010】
PCT公開番号WO 2005/118601の公報により公開されたUS特許出願番号60/588436は式:
【化9】

で示される化合物を第26頁に化合物13AAおよび14AAとして開示する。
【0011】
Jain et al.,「シクロホスファミド耐性腫瘍細胞株に対して標的された新規抗がんプロドラッグとしてのスルホニル含有アルドホスファミド類似体」, J. Med. Chem., 47(15), 3843-3852 (2004)は式:
【化10】

で示されるスルホニルエチルホスホロジアミデート類を開示する。
該化合物はベータ-脱離により自発的にホスホラミドマスタードを放出し、インビトロにて対応するホスホラミドマスタードよりもV-79チャイニーズハムスター肺線維芽細胞に対してより強力であると言われている。いくつかの化合物はCD2F1マウスにてP388/0(野生)およびP388/CPA(シクロホスファミド耐性)白血病細胞株に対して優れたインビボ抗腫瘍活性を示すと言われた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
カンフォスファミドと同程度またはそれ以上に有効かつ安全な化学的および医薬的に単純な(合成および製剤化しやすい)抗がん剤を開発することが所望であろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の開示
第一態様にて、本発明は式A:
【化11】

[式中、Rはそれぞれ独立してメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであるか、または-NR2は一緒になって1-ピロリジニルまたは1-ピペリジニルである]
で示される化合物およびその酸付加塩である。
【0014】
第二態様にて、本発明は、本発明の第一態様の化合物を含む医薬組成物である。
【0015】
第三態様にて、本発明は、本発明の第一態様の化合物または本発明の第二態様の医薬組成物の投与により;それのみでまたは他の抗がん治療と併用でがんを治療する方法である。
【0016】
第四態様にて、本発明は、本発明の第一態様の化合物および中間体を製造する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
【0018】
「酸付加塩」は「本発明化合物」と題されたセクションにて記載する。
【0019】
「治療的有効量」はがんを治療するためにヒトに投与する場合にがんの治療に影響するのに十分な量を意味する。ヒトにおけるがんの「治療」または「治療する」としては、以下の1以上のものが挙げられる:
(1)がんの増殖の制限/阻害、すなわちその発症の制限/阻止、
(2)がんの拡張の軽減/予防、すなわち転移の軽減/予防、
(3)がんの緩和、すなわちがんの退行、
(4)がんの再発の軽減/予防、および
(5)がんの症状の緩和。
【0020】
「併用治療」は、一連のがん治療中の本発明の第一態様の化合物および別の抗がん治療剤の投与を意味する。そのような併用治療は、別の抗がん治療剤の投与前、中および/または後の本発明の第一態様の化合物の投与を含むことができる。本発明の第一態様の化合物の投与は、別の抗がん治療剤の投与から数週間まで時間的に分離してそれに先行するかまたは続くことができるが、より一般的には本発明の第一態様の化合物の投与は、別の抗がん治療剤の少なくとも一つの態様(化学療法剤、分子標的治療剤、生物学的治療剤または放射線治療の一用量の投与など)を48時間内までに、最も一般的には24時間未満内に伴うだろう。
【0021】
「別の抗がん治療」は、本発明の第一態様の化合物による治療ではない抗がん治療である。そのような「別の抗がん治療」としては、化学療法;分子標的治療;生物学的治療;および放射線治療が挙げられる。これらの治療は単一治療または併用治療にて用いられるものである。
【0022】
化学療法剤としては:
アルキル化剤
(ブスルファンなどのアルキルスルホネート、
チオテパなどのエチレンイミン誘導体、
クロラムブシル、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メルファランおよびウラムスチンなどのナイトロジェンマスタード、
カルムスチン、ロムスチンおよびストレプトゾシンなどのニトロソウレア、
ダカルバジン、プロカルバジンおよびテモゾールアミドなどのトリアゼン、および
シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチンおよびピコプラチンなどの白金化合物)、
代謝拮抗剤
(メトトレキセート、パーメトレキセド(permetrexed)、ラルチトレキセドおよびトリメトレキセートなどの抗葉酸剤、
クラドリビン、クロロデオキシアデノシン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントスタチンおよびチオグアニンなどのプリン類似体、
アザシチジン、カペシタビン、シタラビン、エダトレキセート、フロクスウリジン、フルオロウラシル、ゲムシタビンおよびトロキサシタビンなどのピリミジン類似体);
天然物
(ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ポルフィロマイシン、およびダウノルビシン(リポソームダウノルビシンなど)、ドキソルビシン(リポソームドキソルビシンなど)、エピルビシン、イダルビシンおよびバルルビシンなどのアントラサイクリンなどの抗腫瘍抗生剤、
L-アスパラギナーゼおよびPEG-L-アスパラギナーゼなどの酵素、
タキサン類パクリタキセルおよびドセタキセルなどの微小管ポリマー安定化剤、
ビンカアルカロイド類ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビノレルビンなどの分裂抑制剤、
カンプトテシン イリノテカンおよびトポテカンなどのトポイソメラーゼI阻害剤、および
アムサクリン、エトポシドおよびテニポシドなどのトポイソメラーゼII阻害剤);
ホルモンおよびホルモンアンタゴニスト
(フルオキメステロンおよびテストラクトンなどのアンドロゲン、
ビカルタミド、シプロテロン、フルタミドおよびニルタミドなどの抗アンドロゲン、
アミノグルテチミド、アナストロゾール、エキセメスタン、ホルメスタンおよびレトロゾールなどのアロマターゼ阻害剤、
デキサメタゾンおよびプレドニゾロンなどのコルチコステロイド、
ジエチルスチルベストロールなどのエストロゲン、
フルベストラント、ラロキシフェン、タモキシフェンおよびトレミフェンなどの抗エストロゲン、
ブセレリン、ゴセレリン、ロイプロリドおよびトリプトレリンなどのLHRHアゴニストおよびアンタゴニスト
酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン、および
レボチロキシンおよびリオチロニンなどの甲状腺ホルモン);および
種々の薬剤(アルトレタミン、三酸化ヒ素、硝酸ガリウム、ヒドロキシウレア、レバミゾール、ミトタン、オクトレオチド、プロカルバジン、スラミン、サリドマイド、レナリドマイド、メトキサレンおよびポルフィマーナトリウムなどの光力学化合物、およびボルテゾミブなどのプロテアソーム阻害剤)が挙げられる。
【0023】
分子標的治療剤としては:
機能的治療剤
(遺伝子治療剤、
アンチセンス治療剤、
エルロチニブ塩酸塩、ゲフィチニブ、イマチニブメシレートおよびセマキサニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤、および
レチノイドおよびレキシノイド、例えばアダパレン、ベキサロテン、trans-レチノイン酸、9-cis-レチノイン酸およびN-(4-ヒドロキシフェニル)レチナミドなどの遺伝子発現モジュレータ);
表現型標的治療剤
(アレムツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、イブリツモマブ チウキセタン、リツキシマブおよびトラスツズマブなどのモノクローナル抗体、
ゲムツズマブ オゾガミシンなどの抗毒素、および
131I-トシツモマブなどの放射性免疫複合体);および
がんワクチンが挙げられる。
【0024】
生物学的治療剤としては:
インターフェロン-α2aおよびインターフェロン-α2bなどのインターフェロン、および
アルデスロイキン、デニロイキンジフチトクスおよびオプレルベキンなどのインターロイキンが挙げられる。
【0025】
がん細胞に対して作用するものであるこれらの薬剤に加えて、抗がん治療としては、保護薬または補助薬
(アミホスチン、デクスラゾキサンおよびメスナなどの細胞保護剤、
パミドロネートおよびゾレドロン酸などのホスホネート、および
エポエチン、ダルベポエチン、フィルグラスチム、PEG-フィルグラスチムおよびサルグラモスチムなどの刺激因子)の使用が挙げられる。
【0026】
本発明の第一態様の化合物と組み合わすことができる併用がん治療計画は、上記段落「0022」〜「0024」に記載の2以上の抗がん治療剤(抗がん剤)および/または放射線治療(適宜上記段落「0025」に記載の保護薬および補助薬を含む)の使用を伴うすべての治療計画を含み;本発明の第一態様の化合物は、文献(Chabner and Longo, eds.,「Cancer Chemotherapy and Biotherapy: Principles and Practice」, 3rd ed. (2001)およびSkeel, ed.,「Handbook of Cancer Chemotherapy」, 6th ed. (2003), ともにLippincott Williams&Wilkins, Philadelphia, Pennsylvania, U.S.A.より)に記載の治療計画などの種々のがんの治療について既知の存在する抗がん治療計画に加えることができ;抗がん治療のための治療計画、特に化学療法は、ウェブサイト(National Cancer Institute (www.cancer.gov)、the American Society for Clinical Oncology (www.asco.org)およびNational Comprehensive Cancer Network (www.nccn.org)により維持される)に見ることができる。
【0027】
多くの併用化学療法計画は、当分野にて知られており、白金化合物およびタキサンの組合せ、例えばカルボプラチン/パクリタキセル、カペシタビン/ドセタキセル、「Cooper regimen」、フルオロウラシル-レバミゾール、フルオロウラシル-ロイコボリン、メトトレキセート-ロイコボリンなど、およびアクロニム(acronym)ABDIC、ABVD、AC、ADIC、AI、BACOD、BACOP、BVCPP、CABO、CAD、CAE、CAF、CAP、CD、CEC、CF、CHOP、CHOP+リツキシマブ、CIC、CMF、CMFP、CyADIC、CyVADIC、DAC、DVD、FAC、FAC-S、FAM-S、FOLFOX-4、FOLFOX-6、M-BACOD、MACOB-B、MAID、MOPP、MVAC、PCV、T-5、VAC、VAD、VAPA、VAP-シクロ、VAP-II、VBM、VBMCP、VIP、VPなどにより知られるものである。
【0028】
化学療法および分子標的治療、生物学的治療および放射線治療の組合せもまた、当分野にてよく知られており;例えば、特定の乳がんについてトラスツズマブ+パクリタキセル、単独またはカルボプラチンとの併用などの治療、および他のがんについての多くの他の治療計画;および食道がんについて「Dublin治療計画」および「Michigan治療計画」、および他のがんについての多くの他の治療計画である。
【0029】
「含む」または「含有する」およびその文法的変形は、包含を意味するものであり、限定ではなく、記載の成分、基、工程などの存在を明確にすることを意味するが、他の成分、基、工程などの存在または追加を排除するものではない。従って、「含む」は「〜からなる」、「実質的に〜からなる」または「〜のみからなる」を意味するものではなく;例えば化合物を「含む」医薬組成物はその化合物を含まなければならないが他の有効成分および/または賦形剤も含むことができる。
【0030】
本発明化合物
【0031】
第一態様において、本発明は式A:
【化12】

[式中、Rはそれぞれ独立してメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであるか、あるいは-NR2は一緒になってピロリジン-1-イルまたはピペリジン-1-イルである]
で示される化合物およびその酸付加塩である。
【0032】
典型的な本発明化合物は、Rがそれぞれ独立してメチル、エチルまたはイソプロピルであり;Rがそれぞれ同一であり;-NR2がジメチルアミノ(化合物1A)、ジエチルアミノ(化合物2A)、ジイソプロピルアミノ(化合物3A)、ピロリジン-1-イル(化合物4A)またはピペリジン-1-イル(化合物5A)およびその酸付加塩であるものである。
【0033】
式Aの化合物の酸付加塩(例えば医薬的に許容される酸付加塩)は、本発明に含まれ、本願に記載の組成物、方法および使用に有用である。適切な塩は、無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸およびクロロスルホン酸)または有機酸(例えば酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、コハク酸およびアセツル酸、およびメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸などのアルカン-またはアレーンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸およびトルエンスルホン酸などの置換ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸および置換ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸および置換ナフタレンジスルホン酸およびカンファースルホン酸)が反応して化合物のアミン基の酸付加塩を形成する場合に形成されるものである。そのような塩は好ましくは医薬的に許容される酸と形成される。例えば、医薬的塩、その選択、製造および使用の広範な議論についての文献(Stahl and Wermuth, eds.,「Handbook of Pharmaceutically Acceptable Salts」, (2002), Verlag Helvetica Chimica Acta, Zurich, Switzerland)を参照のこと。
【0034】
化合物の製造
【0035】
式Aの化合物は、
(1) 式B:
【化13】

で示されるチオエチルホスホロジアミデートを製造した後、スルフィドを対応するスルホンに酸化し(方法1−合成実施例1〜6に説明);または
(2) 2-[(2-ヒドロキシエチル)スルホニル]エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを製造した後、ヒドロキシ基を脱離基に変換し、式R2NHのアミンと反応させる(方法2−合成実施例2に説明)
ことにより都合よく製造することができる。
【0036】
方法1は以下に示す:
【化14】

【0037】
方法1の第一工程にて、2-(NR2)-エタンチオールは、2-X-エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(ここに、XはCl、Br、C1-6アルカンスルホニルオキシ、ハロ-C1-6アルカンスルホニルオキシ、または適宜ハロ、C1-3アルキル、ハロ-C1-3アルキル、C1-3アルキルオキシもしくはハロ-C1-3アルキルオキシから選択される3までの基で置換されていてもよいベンゼンスルホニルオキシ、例えばメタンスルホニルオキシ、ベンゼンスルホニルオキシ、4-ブロモベンゼンスルホキシもしくは4-トルエンスルホニルオキシなどの脱離基である)との反応により2-{[2-(NR2)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートに変換する。典型的な手順は、2-(NR2)-エタンチオールを水、アルカノール、ジメチルホルムアミドまたはテトラヒドロフランなどの極性溶媒と、水酸化物、アルコキシド、フッ化物もしくはヒドリドなどの塩基または第三級アミンもしくはアミド塩基で処理し、チオレートアニオンを形成させた後、ホスホロジアミデートを加えることを含む。ホスホロジアミデートの脱離基Xのチオレート置換により、2-{[2-(NR2)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを得る。
【0038】
2-(ジメチルアミノ)エタンチオールおよび2-(ジエチルアミノ)エタンチオールはともに、塩酸塩として市販されており、容易に入手可能である。2-(NR2)-エタンチオールが入手可能でない場合、これは2-(NR2)-エチルハライド(クロリドが反応式に示される)をチオウレアと反応させて2-(NR2)-エチルイソチオウレアを製造するような方法により製造することができ、所望ならば酸付加塩として単離することができる。2-(NR2)-エチルイソチオウレアを塩基で処理する場合、対応する2-(NR2)-エタンチオレートが溶液中にて形成され、得られた溶液を2-{[2-(NR2)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートの形成に直接用いることができる。典型的な手順は、2-(NR2)-エチルクロリド塩酸塩をエタノールなどの低級アルカノール中、上昇する温度にてチオウレアで処理することを含む。冷却時、イソチオウレアは二塩酸塩として析出し、これをろ過により単離することができる。イソチオウレアを低級アルカノールに懸濁し、塩基で処理し、チオレートアニオンを形成させた後、ホスホロジアミデートを加える。ホスホロジアミデートの脱離基Xのチオレート置換により、2-{[2-(NR2)エチル)チオ]エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを得る。
【0039】
方法1の第二工程にて、2-{[2-(NR2)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートは対応する2-{[2-(NR2)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートに酸化される。この酸化は、スルフィドのスルホンへの酸化のための当分野にて知られている任意の方法、例えば過酸(ペルオキシカルボン酸)、過硫酸塩、過ホウ酸塩、過酸化物、オゾン、ヨードシル試薬、ハロゲンなどの使用により行うことができる。過酸を用いる場合、典型的な手順は、2-{[2-(NR2)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートをジクロロメタン、酢酸または酢酸イソプロピルなどの溶媒に温度を低下させながら溶解した後、過酸(例えば過酢酸)を過剰に加えることを含む。酸化は、アミン窒素の酸化を最小限にする条件下、例えば十分に低いpHにて行い、アンモニウムカチオンとしてアミンを安定化することにより行う。
【0040】
方法2は以下に示す:
【化15】

【0041】
方法2の第一工程にて、2-メルカプトエタノールを2-X-エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(ここに、Xは段落「0037」の方法1の第一工程と同様である)との反応により2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートに変換する。本反応は、方法1の第一工程に記載の任意の方法により行うことができる。
【0042】
方法2の第二工程にて、2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートに酸化する。本酸化は段落「0039」の方法1の第二工程に記載の任意の方法により行うことができるが;方法2にてアミン酸化の危険性はない。
【0043】
方法2の第三工程にて、2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートのヒドロキシ基をスルホン酸無水物、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸無水物、フルオロスルホン酸無水物またはペンタフルオロベンゼンスルホン酸無水物などの強い脱離基を与えるものとの反応によりエステル化する。典型的に、2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートをジクロロメタンなどの非求核性、好ましくは低沸点溶媒に溶解し、無水物を例えば0℃にて加える。スルホネートエステルを所望ならば単離することができるが、より都合よく次の工程にて直接用いる。
【0044】
方法2の第四工程にて、スルホネートエステルを過剰R2NHで置き換える。典型的に、過剰のアミンを第三工程からの溶液に加え、反応が完了するまで進行させる。2-{[2-(NR2)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートは都合よく、水性酸を反応混合物に添加し、有機層を除去し、弱塩基(固体NaHCO3など)で中和し、2-{[2-(NR2)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを有機溶媒にて再抽出し、その溶媒を除去することにより単離する。
【0045】
式Aの化合物は、酸付加塩の形成について当業者によく知られる技術を用いて、適当な酸との反応により酸付加塩に変換することができる。用いる酸および反応条件を選択し、単離および製剤化に便利な形態、例えば固体形態(例えばアモルファスまたは結晶)を有する医薬的に許容される酸付加塩を与えることができる。
【0046】
医薬組成物および投与
【0047】
本発明の第二態様は、本発明の第一態様の化合物および適宜医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物である。
【0048】
本発明の第一態様の化合物は、治療される対象および対象の病態の性質に適した任意の経路により投与することができる。投与の経路としては、静脈内、腹腔内、筋肉内および皮下注射などの注射による投与、経粘膜または経皮送達による投与、局所塗布、鼻腔スプレー、坐剤などによる投与が挙げられるか、または経口投与することができる。医薬組成物は適宜リポソーム組成物、乳剤、粘膜を通して薬物を投与するよう設計された組成物、または経皮組成物であってもよい。これらの投与方法に適切な組成物は、例えば文献(Gennaro, ed.,「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」, 20th ed. (2000), Lippincott Williams&Wilkins, Philadelphia, Pennsylvania, U.S.A.)に見ることができる。典型的な組成物は経口または静脈内注入用溶液であろう。典型的な剤形は、錠剤(コーティングされた錠剤および「カプレット」など)または経口投与用カプセル(硬ゼラチンカプセルおよび「ソフトゲル」など)、静脈内注入用溶液、および静脈内注入用溶液としての再構成用固体(特に凍結乾燥散剤)であろう。
【0049】
投与の目的とする形態に応じて、医薬組成物は、固体、半固体または液体剤形の形態、好ましくは正確な投与量の単一投与に適した単位投与形態であることができる。有効量の有効成分に加えて、組成物は、活性化合物を医薬的に用いることができる製剤への加工を容易にするアジュバントなどの適切な医薬的に許容される賦形剤を含むことができる。「医薬的に許容される賦形剤」は、有効成分の生物学的活性の有効性と干渉せず、宿主に投与されても無毒性である、賦形剤または賦形剤の混合物を意味する。
【0050】
固体組成物について、従来の賦形剤としては、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。医薬的に投与可能な液体組成物は、例えば本明細書に記載の活性化合物および任意の医薬的アジュバントを賦形剤中、例えば水、食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどに溶解、分散させて、溶液または懸濁液を形成することにより製造することができる。所望ならば、投与される医薬組成物はまた、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンナトリウムアセテート、トリエタノールアミンオレエートなどの少量の無毒性補助賦形剤を含むこともできる。
【0051】
経口投与について、組成物は一般に、錠剤もしくはカプセルの形態をとるか、または水性もしくは非水性溶液、懸濁液もしくはシロップであることができる。錠剤およびカプセルは好ましい経口投与形態である。経口使用のための錠剤およびカプセルは一般に、1以上の一般的に用いられる賦形剤、例えばラクトースおよびトウモロコシデンプンを含むだろう。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤もまた典型的に加える。液体懸濁物を用いる場合、活性剤を乳化および懸濁賦形剤と合わせることができる。所望ならば、香料、着色料および/または甘味料をさらに加えてよい。他の経口組成物に組み込まれる任意の賦形剤としては、保存剤、懸濁剤、増粘剤などが挙げられる。
【0052】
注射用医薬組成物は、従来の形態、液体溶液または懸濁液、注射前に液体に可溶化もしくは懸濁化されるのに適した固体形態、または乳剤もしくはリポソーム組成物として製造することができる。滅菌注射用組成物もまた、無毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸濁液であってよい。用いることができる許容されるビヒクルおよび溶媒は、水、リンゲル溶液および等張性塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌、固定油、脂肪エステルまたはポリオールは溶媒または懸濁媒体として通常用いられる。
【0053】
本発明の医薬組成物はまた、非経口投与用凍結乾燥散剤として製剤化することができる。散剤は水または他の主に水性媒体の添加により再構成した後、使用前に適切な希釈剤で希釈することができる。液体組成物は一般に、緩衝、等張性水溶液である。適切な希釈剤の例は、食塩水、水性5%デキストロース溶液および緩衝ナトリウムまたは酢酸アンモニウム溶液である。医薬的に許容される固体または液体賦形剤を加えて、組成物を増強もしくは安定化するか、または組成物の製造を容易にすることができる。
【0054】
典型的に、本発明の医薬組成物は、がんの治療における医薬組成物の使用を示すラベルもしくは指示またはその両者とともに容器にパッケージされる。
【0055】
医薬組成物は、本発明化合物に加えて1以上の他の薬理学的に活性な物質を含んでよい。これらのさらなる活性な物質は典型的に、がんの治療または本発明化合物によるがんの治療の増強に有用であろう。
【0056】
化合物の使用方法
【0057】
本発明の第一態様の化合物は、以下のインビトロおよびインビボ実施例にて記載されるようにヒトがん細胞株に対する活性を有しており、それゆえヒトがんの治療のためのヒトがん化学療法剤として有用であると考えられる。
【0058】
従って、本発明の第三態様は、治療的有効量の本発明の第一態様の化合物または本発明の第二態様の医薬組成物をヒトに投与することによりヒトにおけるがんを治療する方法;およびヒトにおけるがんの治療のための医薬の製造における本発明の第一態様の化合物の使用を含む。場合により、方法はさらに、治療されるがんにすでに通常となっている療法などの別の抗がん治療によるヒトの治療を含む。
【0059】
本発明の方法により特に治療可能であるがんは、アポトーシス誘導剤に感受性であるがん、より具体的には1以上のグルタチオンS-トランスフェラーゼアイソザイムを発現、特に過剰発現するがんである。他の抗がん化合物または組合せがん化学療法投与計画で治療された場合の1以上のグルタチオンS-トランスフェラーゼアイソザイムを発現または過剰発現するがんは特に、本発明の方法により治療することができる。そのようながんとしては、脳がん、乳がん、膀胱がん、頸がん、結腸直腸がん、食道がん、頭部および頸部がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんおよび胃がん;ALL、AML、AMML、CLL、CML、CMMLおよびヘアリー細胞白血病などの白血病;ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫;中皮腫、多発性骨髄腫;および骨および軟組織の肉腫が挙げられる。特に本発明の方法により治療可能ながんとしては、乳がん、卵巣がん、結腸直腸がんおよび非小細胞肺がんが挙げられる。
【0060】
ヒトに投与される本発明の第一態様の化合物の量(単独またはより通常では本発明の第二態様の組成物にて)は、単独または別の抗がん治療との併用(本発明の第一態様の化合物を別の抗がん治療と組み合わせて投与する場合)で用いられる治療的有効量であるべきであり;同様に、哺乳動物に投与される別の抗がん治療の量(本発明の第一態様の化合物を別の抗がん治療と組み合わせて投与する場合)は本発明の第一態様の化合物との併用で用いられる治療的有効量であるべきである。しかし、本発明の第一態様の化合物の治療的有効量およびがん化学療法との併用にて投与される場合の別の抗がん治療の量はそれぞれ、ヒトに単独で送達される場合に治療的に有効であろう量未満であることができる。しかし、用いられる治療の一般的な毒性または一の治療の毒性の別の治療による増強のためだけで軽減されるそのまたはそれぞれの治療の最大耐性用量を用いることはがん治療において一般的である。例えばいくつかの一般的な化学療法剤および臨床的に重篤な毒性の相対的な欠乏、特に臨床的に重篤な血液学的毒性の欠乏を伴うカンフォスファミドの交差抵抗性の欠乏のために、本発明の第一態様の化合物が単一薬剤として本質的にその最大耐性用量にて投与可能であり、別の抗がん治療の量の軽減は必要ないであろうことが予想される。
【0061】
従って、本発明の第一態様の化合物または本発明の第二態様の医薬組成物は、治療的有効量の選択化合物または組成物を投与することによりそのような治療を必要とするヒトにおけるがんを治療するために用いる。本発明化合物の治療的有効量は10〜10,000 mg/m2、例えば30〜3000 mg/m2または100〜1000 mg/m2の範囲である。投与は1〜35日間隔;例えば2、3もしくは4週間ごとに繰り返される投与で1〜5週間隔、特に1、2、3もしくは4週間隔もしくは数(例えば5もしくは7)日間1回/日などのより高頻度にて約500〜1000 mg/m2、または2、3もしくは4週間ごとに繰り返される投与で6〜72時間の持続注入であることができる。適切な投与量および投与回数は、当業者および本明細書の記載により容易に決定可能であろう。本発明化合物が本発明に従って投与される場合、許容されない毒物学的効果は全く予想されない。
【0062】
他の抗がん治療についての適切な投与(本発明の第一態様の化合物を併用する場合)は、段落「0026」に記載の文献に記載の治療のためにすでに確立された投与であろう。そのような投与は治療により大きく変化する:例えばカペシタビン(2500 mg/m2経口)を2週間毎日2回投与し、1週間投与せず、イマチニブメシレート(経口400または600 mg/日)を毎日投与、リツキシマブを毎週投与、パクリタキセル(135〜175 mg/m2)およびドセタキセル(60〜100 mg/m2)を毎週〜3週間ごとに投与、カルボプラチン(4〜6 mg/mL・分)を3または4週間ごとに1回投与(しかし用量を分割し、数日にわたり投与することができる)、カルムスチンなどのニトロソウレアアルキル化剤を6週間ごとに1回の頻度で投与する。放射線治療を毎週の頻度で投与することができる(またはより少量に分割して毎日投与の範囲内)。
【0063】
がん治療の当業者は、過度の実験なしで個人的な知識および本出願の開示に基づき、与えられるがんおよび疾患の段階のための本発明の第一または第二態様の化合物の治療的有効量および別の抗がん治療の治療的有効量を確かめることができるだろう。
【0064】
併用治療としては、本発明の第一態様の化合物とカルボプラチンまたはシスプラチンなどの白金化合物、適宜さらにゲムシタビンまたはドセタキセルもしくはパクリタキセルなどのタキサンとの併用;ゲムシタビンとの併用;タキサンとの併用;ドキソルビシンもしくはリポソームドキソルビシンなどのアントラサイクリンとの併用;オキサリプラチン、適宜さらにカペシタビンまたはフルオロウラシル/ロイコボリンとの併用;ゲムシタビンまたはカルボプラチンもしくはシスプラチンなどの白金化合物、さらにビノレルビンなどのビンカアルカロイドとの併用が挙げられる。
【実施例】
【0065】
実施例
【0066】
次の実施例は、本発明化合物の製造、および予測的インビトロおよびインビボ抗がんアッセイにおけるそれらの活性を説明する。
【0067】
合成実施例
【0068】
本発明化合物は有機化学の従来法により製造する。例えばLarock,「Comprehensive Organic Transformations」, (1989), Wiley-VCH, New York, New York, U.S.A.を参照のこと。本発明化合物は、次の実施例にて示されるように一般に本出願にて先に記載の合成スキームに従い、または当業者に知られる方法により例示される合成を改変することにより合成することができる。
【0069】
合成実施例1:2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート, 化合物3A, その塩酸塩としての製造
【0070】
2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート。2-(ジイソプロピルアミノ)エチルクロリド塩酸塩(1.0 g, 5.0 mmol)およびチオウレア(380 mg, 5.0 mmol, 1.0 eq.)のエタノール4 mL中の混合物を120℃まで5分間加熱した後、室温まで冷却させた。形成された2-(ジイソプロピルアミノ)エチルイソチオウロニウム二塩酸塩の白色析出物をろ過し、エタノールで洗浄し、メタノール50 mLの入った丸底フラスコに入れ、水酸化ナトリウム(メタノール中4M溶液5.0 mL, 20 mmol, 4.0 eq.)で処理した。混合物を室温にて30分間撹拌し、2-(4-ブロモベンゼンスルホニルオキシ)エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(トルエン中0.7M溶液7.0 mL, 4.9 mmol, 0.98 eq.)を加えた。HPLC-ELSD(Evaporative Light Scattering Detection)で測定してすべての2-(4-ブロモベンゼンスルホニルオキシ)エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートが消費されるまで混合物を室温にて撹拌した。混合物を1.0 M水性H3PO4でpH 7に酸性化し、減圧濃縮して高粘度スラリーとした。スラリーを酢酸エチル800 mLに取り、5%水性NaHCO3(2×800 mL)で洗浄した。有機層を分離し、無水MgSO4で乾燥し、ろ過し、減圧濃縮し、2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを透明油状物として得た(2.3 g, 86%収率)。
【0071】
2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート塩酸塩。2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(2.3 g, 4.3 mmol)のジメチルホルムアミド30 mL溶液を0℃にてトリフルオロ酢酸(1.6 mL, 21.5 mmol, 5.0 eq.)で処理し、0℃にてさらに10分間撹拌した。過酢酸(酢酸中32%/wt溶液726μL, 10.8 mmol, 2.5 eq.)を5分にわたり加えた後、混合物を室温まで昇温させた。LC/MSによるアリコートの分析が2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートの2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(典型的に約2時間)への完全な変換を示すまで撹拌を続けた。反応混合物を酢酸エチル800 mLで希釈し、0.2M水性Na2S2O4および飽和水性NaHCO3(2×800 mL)の1:1混合物で洗浄した。有機層を分離し、無水MgSO4で乾燥し、ろ過し、過剰量の塩酸(ジオキサン中4.0M)で処理した。得られた濁溶液を減圧濃縮し、2-{[2-(ジイソプロピルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート塩酸塩を透明油状物(2.53g, 100%収率)として得た。MS (ES+): m/z = 564 [C18H39Cl4N3O4PS+H]; 1H NMR (CD3OD): δ= 1.44 (t, J = 6.3 Hz, 12H), 3.41 3.52 (m, 8H), 3.64 3.87 (m, 16H), 4.53 (q, J = 5.5 Hz, 2H); 31P NMR (CD3OD): δ= 18.01.
【0072】
合成実施例2:2-{[2-(ピロリジン-1-イル)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート, 化合物4A, その塩酸塩としての製造
【0073】
合成実施例1の手順を用いて、2-{[2-(ピロリジン-1-イル)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを1-(2-クロロエチル)ピロリジン塩酸塩から製造した。MS (ES+): m/z = 536 [C16H33Cl4N3O4PS+H]; 1H NMR (CD3OD): δ= 2.02 2.09 (m, 2H), 2.15 2.22 (m, 2H), 3.15 3.22 (m, 2H), 3.42 3.53 (m, 8H), 3.68 3.75 (m, 16H), 4.51 (dd, J = 5.5, 5.9 Hz, 2H); 31P NMR (CD3OD): δ= 18.01.
【0074】
合成実施例3:2-{[2-(ピペリジン-1-イル)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート, 化合物5A, その塩酸塩としての製造
【0075】
合成実施例1の手順を用いて、2-{[2-(ピペリジン-1-イル)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを1-(2-クロロエチル)ピペリジン塩酸塩から製造した。MS (ES+): m/z = 548 [C17H35Cl4N3O4PS+H]; 1H NMR (CD3OD): δ= 1.50 1.58 (m, 1H), 1.74 1.88 (m, 3H), 1.94 2.04 (m, 2H), 3.04 (t, J = 3.1 Hz, 2H), 3.41 3.52 (m, 8H), 3.61 3.77 (m, 16H), 4.51 (dd, J = 5.5, 6.3 Hz, 2H).
【0076】
合成実施例4:2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート, 化合物2A, その塩酸塩としての製造
【0077】
2-(ジエチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(840 g, 5 mmol)のメタノール20 mL溶液に、NaOH(メタノール中4M溶液3.8 mL, 15 mmol, 3 eq.)および2-(4-ブロモベンゼンスルホニルオキシ)エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(トルエン中0.7M溶液7.0 mL, 4.9 mmol, 0.98 eq.)を加えた。HPLC-ELSDにより2-(4-ブロモベンゼンスルホニルオキシ)エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートがすべて消費されるまで、混合物を室温にて撹拌した。混合物を1.0 M水性H3PO4でpH 7に酸性化し、減圧濃縮して粘性スラリーとした。スラリーを酢酸エチル400 mLに取り、5%水性NaHCO3(2×400 mL)、次いで水性HCl(2×400 mL)で洗浄した。酸性水層を集め、固体NaHCO3でpH>9とした後、酢酸エチル(2×800 mL)で抽出した。酢酸エチル溶液を分離し、無水MgSO4で乾燥し、ろ過し、減圧濃縮し、2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを透明油状物として得た(1.05 g, 42%収率)。2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートに酸化し、合成実施例1の手順を用いて、塩酸塩として単離した。MS (ES+): m/z = 536 [C16H35Cl4N3O4PS+H]; 1H NMR (CD3OD): δ= 1.36 (t, J = 7.4 Hz, 6H), 3.28 3.34 (m, 2H), 3.40 3.50 (m, 10H), 3.65 3.77 (m, 14H), 4.51 (dd, J = 5.1, 6.3 Hz, 2H); 31P NMR (CD3OD): δ= 18.02.
【0078】
合成実施例5:2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート, 化合物1A, その塩酸塩としての製造
【0079】
合成実施例4の手順を用いて、2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを2-(ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩から製造した。MS (ES+): m/z = 508[C14H31Cl4N3O4PS+H]; 1H NMR (CD3OD): δ= 2.98 (s, 6H), 3.30 3.31 (m, 4H), 3.43 3.50 (m, 8H), 3.66 3.77 (m, 14H), 4.51 (dd, J = 5.1, 6.7 Hz, 2H); 31P NMR (CD3OD): δ= 18.08.
【0080】
合成実施例6:2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート, 化合物2A, クエン酸塩としての製造
【0081】
2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート。オーバーヘッドスターラー、サーモメータおよび1 L滴下漏斗を備えた5 L三ツ口フラスコに、2-(ジエチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(170 g, 447 mmol)を加えた。NaOH(42.0 g, 1.05 mol)のメタノール480 mL溶液を加え、得られた溶液を氷浴中5℃まで冷却した。2-(4-ブロモベンゼンスルホニルオキシ)エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(トルエン中50%溶液320 g, 263 mmol)を1Lフラスコに入れ、溶媒を減圧留去した。得られた油状物をメタノール320 mLに溶解し、10℃以下を維持しながら反応混合物に50分にわたり滴加した後、白色固体析出物が形成された。得られた白色スラリーを10〜20℃にて4時間撹拌した後、室温にてさらに2時間撹拌した。HPLC-ELSDによる分析により2-(4-ブロモベンゼンスルホニルオキシ)エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートの消失および2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート生成物の出現に基づき、反応が>95%完了したことが示された。反応混合物をろ過し、白色析出物を除去し、ろ液から溶媒を減圧留去した。得られた粘性白色油状物を酢酸エチル3000 mLに溶解し、水(2×1500 mL)で洗浄した。この溶液をオーバーヘッドスターラー、サーモメータ、および2KHSO5.KHSO4.K2SO4(Oxone(登録商標), 257.0 g, 418 mmol)の水1 L溶液を含む1L滴下漏斗を備えた5 L三ツ口フラスコに入れた。Oxone(登録商標)を3時間にわたり約250 mL部にて加え、二相反応混合物のHPLC-ELSD分析によりモニターし、2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートに変換した。スルフィドおよび中間体スルホキシドの消失および生成物の出現により測定されるように、一旦反応が完了するとすぐに、Na2S2O4(1M水溶液400 mL)を添加して反応停止処理した。有機層を除去し、水(2×1 L)および1M水性NaOH(2×1 L)で洗浄した後、溶媒を留去し、減圧乾燥し、2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを透明油状物(128.5 g, 91%収率, HPLC-ELSDにより95%純度)として得た。
【0082】
2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートクエン酸塩。2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(90.0 g, 167.5 mmol)の酢酸エチル300 mL溶液に、クエン酸(1Mエタノール溶液167.5 mL, 167.5 mmol)溶液を激しく撹拌しながら加えた。室温にて6時間撹拌した後、反応混合物はベージュ色粘性スラリーになった。ろ過、析出物の酢酸エチルによる洗浄および高真空乾燥によりクエン酸塩を白色アモルファス粉末(80 g, 第一収量について65.5%収率, HPLC-ELSDにより98%純度)として得た。MS (ES+): m/z = 536 [C16H35Cl4N3O4PS+H].
【0083】
合成実施例7:2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート, 化合物2A, その塩酸塩として方法2により製造
【0084】
2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート。2-メルカプトエタノール(400μL, 5.7 mmol)をメタノール8 mLに溶解し、メタノール中のNaOH(4M 3.56 mL, 14.25 mmol)を加えた。溶液を0℃まで冷却し、2-(4-ブロモベンゼンスルホニルオキシ)エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(トルエン中0.82M溶液8.35 mL, 6.84 mmol)を加え、反応混合物を室温まで昇温させた。12時間後、混合物をろ過し、1M水性H3PO4でpH 7に中和し、減圧濃縮し、粘性シロップとした。このシロップを酢酸イソプロピル200 mLで希釈し、水(3×200 mL)で洗浄した。酢酸イソプロピル層をMgSO4で乾燥し、ろ過し、減圧濃縮し、透明油状物を得た。70:30酢酸エチル/ヘキサン〜100%酢酸エチルの勾配を用いて、この油状物を30 mm×150 mm シリカゲルカラムで精製し、2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを透明油状物として得た(1.41 g, 55%収率)。1H NMR (CDCl3): δ1.64 (bs, 1H), 2.76 (t, 2H, J = 5.9 Hz), 2.84 (t, 2H, J = 6.3 Hz), 3.40 3.47 (m, 8H), 3.62 3.69 (m, 8H), 3.76 (t, 2H, J = 5.9 Hz), 4.18 4.23 (m, 2H); 31P NMR (CDCl3): δ17.58.
【0085】
2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート。2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]チオ}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(4.53 g, 10 mmol)を酢酸イソプロピル10 mLに溶解し、0℃まで冷却し、過酢酸(酢酸中32%, 8 mL, 30 mmol)を5分にわたり加えた。反応混合物を室温まで昇温させ、3時間維持した。反応混合物を酢酸イソプロピル200 mLで希釈し、0.1M水性Na2S2O3(2×200 mL)および水200 mLで洗浄した。酢酸イソプロピル層をMgSO4で乾燥し、ろ過し、減圧濃縮し、2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデートを透明油状物として得た(3.89 g, 81%収率)。MS (ES+): m/z = 481 [C12H25Cl4N2O5PS+H]; 1H NMR (DMSO d6): δ3.26 3.36 (m, 12H), 3.67 3.82 (m, 10H), 4.28 (dd, J = 5.9, 6.3 Hz, 2H), 5.19 (t, J = 5.1 Hz, 1H); 31P NMR (DMSO d6): δ17.22.
【0086】
2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート塩酸塩。2-{[2-(ヒドロキシ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート(150 mg, 0.31 mmol)をジクロロメタン2 mLに溶解し、0℃まで冷却し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(108μL, 0.62 mmol)およびトリフルオロメタンスルホン酸無水物(55μL, 0.33 mmol)を加え、反応混合物を15分間放置した。反応混合物をジエチルアミン(64μL, 0.62 mmol)の酢酸イソプロピル2 mL溶液に加え、これを30分間放置した。反応混合物を酢酸イソプロピル10 mLで希釈し、5%水性NaHCO3(2×10 mL)および1M水性HCl(2×5 mL)で洗浄した。水性酸性フラクションを集め、ジクロロメタン10 mLで洗浄し、固体NaHCO3をpH>9に加えた。混合物を酢酸イソプロピル(2×10 mL)で抽出した。酢酸イソプロピル抽出物を集め、MgSO4で乾燥し、ろ過し、HCl(ジオキサン中4.0M, 1 mL)で希釈し、減圧濃縮し2-{[2-(ジエチルアミノ)エチル]スルホニル}エチル N,N,N',N'-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホロジアミデート塩酸塩を薄茶色油状物として得た(32 mg, 19%収率)。MS (ES+): m/z = 536 [C16H34Cl4N3O4PS+H].
【0087】
式Aの他の化合物を同様に製造することができる。
【0088】
化合物2Aのクエン酸塩を製造するために用いたものと同様の方法を用いて、化合物1Aをクエン酸で処理することにより化合物1Aのクエン酸塩を固体として製造し、塩酸塩(合成実施例5)を油状物として製造した。クエン酸塩を製造するために用いたものと同様の方法を用いて、化合物2Aを対応する酸と反応させることにより、化合物2Aのフマル酸塩、酒石酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩を固体として製造し、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩および硫酸塩を油状物として製造し、塩酸塩(合成実施例4)を油状物として製造した。化合物3Aのクエン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩および硫酸塩を塩酸塩(合成実施例1)と同様の方法により油状物として製造した。化合物5Aのクエン酸塩および酒石酸塩を固体として製造し、マレイン酸塩、コハク酸塩およびp-トルエンスルホネート塩を油状物として同様に製造し、塩酸塩(合成実施例3)を固体として製造した。式Aの化合物の他の塩は、好ましくは酸付加塩の固体としての単離を可能とする溶媒中で適当な酸を用いることにより製造することができる。
【0089】
化合物2Aの塩酸塩は少なくとも50 mg/mLの水可溶性を有し、クエン酸塩は約19 mg/mLの可溶性を有し、酒石酸塩はクエン酸塩よりもわずかに可溶であった。化合物1Aの塩酸塩もまた、水に高い可溶性を有し、クエン酸塩は化合物2Aのクエン酸塩よりもいくらかより可溶であった。
【0090】
インビトロ実施例1:細胞毒性/増殖阻害アッセイ
【0091】
次の実施例は、インビトロにおけるヒトがん細胞株に対する本発明化合物の有益な効果を説明する。これらのアッセイにて試験される他の抗がん剤がヒトにて抗がん活性を示すように、これらの結果はヒトがん化学療法における有効性を予測するものと考えられる。
【0092】
ヒトがん細胞株DLD-1(結腸直腸腺がん)、LNCaP(前立腺がん)およびMIA PaCa-2(膵臓がん)をAmerican Type Culture Collection, Manassas, Virginia, U.S.A.から入手し、MX-1(乳がん)をNational Cancer Institute, Bethesda, Maryland, U.S.A.から入手した。CellTiter-GloアッセイキットをPromega Corporation, Madison, Wisconsin, U.S.A.から入手した。すべての生成物を製造業者の方針に従い使用した。すべてのアッセイをジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒対照の三重ウェル中にて行った。細胞増殖の程度を溶媒対照ウェルからシグナルの百分率として表現した。
【0093】
Logフェーズ細胞をトリプシン処理し、遠心分離により集め、少量の新鮮な媒体に再懸濁させ、生存細胞の密度をトリパンブルー染色により測定した。細胞を新鮮な媒体(DLD-1、MIA PaCa-2およびMX-1について3×103細胞/mLおよびLNCaPについて6×103細胞/mL)中に希釈し、150μL/ウェルにて96ウェルプレートに加え、数時間インキュベーションし、付着細胞の場合に付着させた。その塩酸塩としてDMSOに溶解した化合物1A〜5Aを新鮮な媒体で50倍に希釈し、希釈溶液をすぐに50μL/ウェルにて細胞懸濁物に加え、0.1μM〜200μMの最終化合物濃度および0.5%の最終DMSO濃度とした。細胞をおよそ3つの二倍時間培養した(MIA PaCa-2およびMX-1について3日およびDLD-1およびLNCaPについて4日)。次いで細胞を遠心分離により集め、培養上清100μLをCellTiter-Glo試薬で置き換えた。室温にて10分間インキュベーションした後、プレートを照度計で記録した。多くの式Aの化合物を本アッセイにて試験し、活性であることが分かった。化合物はカンフォスファミドと同様の有効性であることが分かり、化合物2Aおよび3Aが全アッセイにてより有効であった。
【0094】
式Aの化合物は本アッセイにて次の活性を示した:
【表1】

【0095】
インビボ実施例
【0096】
インビボ実施例1:MX-1異種移植アッセイ、腹腔内投与
【0097】
メス無胸腺nu/nuマウス(Harlan, Indianapolis, Indiana, U.S.A.または同様の業者)、6-8週齢(およそ20 g)に対し、先にMX-1腫瘍を移植した同様のnu/nuマウスから採集した20-30 mg片のMX-1腫瘍を右前脇腹の乳房脂肪体に移植した。腫瘍重量がおよそ50-200 mgとなった腫瘍移植後およそ7-10日に、各処置群が処置の開始時に類似の平均腫瘍重量を有するようにマウスを処置群に割り当てた。マウスの群を化合物2Aおよび3A(50 mg/Kg)および化合物1A、2A、3Aおよび5A(100 mg/Kg)で、すべての場合にて水性5%デキストロースに溶解した塩酸塩として、ビヒクル対照とともに5日間連続で1回/日の腹腔内注射により処置した。容積から推定した腫瘍量を毎週2回測定し;対照群における平均腫瘍量が最初に2000 mgを超えたときに腫瘍増殖阻害を測定した。本アッセイにて、すべての化合物は、ビヒクルと比較して化合物2Aおよび3Aについてそれぞれ50 mg/Kgにて70%および23%、および化合物1A、2A、3Aおよび5Aについてそれぞれ100 mg/Kgにて100%、100%、100%および91%の腫瘍増殖阻害で活性であった。
【0098】
インビボ実施例2:MX-1異種移植アッセイ、経口投与
【0099】
化合物2Aおよび3Aの経口投与を用いて、インビボ実施例1に記載のものと同様の研究を行った。マウスの群を100、150、200もしくは300 mg/Kgの化合物2Aまたは150 mg/Kgの化合物3Aで、それぞれの場合にて水に溶解した塩酸塩として、ビヒクル対照とともに5日間連続で1回/日の強制経口投与により処置した。両化合物は本アッセイにて活性であり、化合物2Aは用量依存腫瘍阻害をもたらした。化合物2Aはビヒクルに対して92%(100 mg/Kg)〜100%(300 mg/Kg)の腫瘍増殖の用量依存阻害をもたらし、化合物3Aは98%(150 mg/Kg)の阻害をもたらした。
【0100】
インビボ実施例3:MX-1異種移植アッセイ、静脈内投与
【0101】
化合物2Aの静脈内投与を用いて、インビボ実施例1に記載のものと同様の研究を行った。マウスの群を40および80 mg/Kgの化合物で水性5%デキストロースに溶解した塩酸塩として、ビヒクル対照とともに5日間連続で1回/日の尾静脈注射により処置した。本アッセイにて化合物2Aは活性であり、ビヒクルと比較して腫瘍増殖の53%(40 mg/Kg)および99%(80 mg/Kg)阻害をもたらした。
【0102】
インビボ実施例4:MiaPaCa-2異種移植アッセイ、腹腔内投与
【0103】
オス無胸腺nu/nuマウス、6-8週齢(およそ20 g)に対し、先にMIA PaCa-2腫瘍を移植した同様のnu/nuマウスから採集した20-30 mg片のMIA PaCa-2腫瘍を右前脇腹にて皮下移植した。腫瘍重量がおよそ50-200 mgとなった腫瘍移植後およそ7-10日に、各処置群が処置の開始時に類似の平均腫瘍重量を有するようにマウスを処置群に割り当てた。マウスの群を100 mg/Kgの化合物2A、3Aおよび5Aで、すべての場合にて水性5%デキストロースに溶解した塩酸塩として、ビヒクル対照とともに7日間連続で1回/日の腹腔内注射により処置した。本アッセイにて、すべての化合物はビヒクルと比較して、化合物2A、3Aおよび5Aについてそれぞれ89%、89%および62%の腫瘍増殖阻害で活性であったが;すべての動物にいくらか体重損失が見られた。
【0104】
すべての試験化合物は、試験された用量にて安全かつ無毒であった。
【0105】
製剤および治療実施例
【0106】
製剤実施例1。経口投与用医薬組成物
【0107】
経口投与用固体医薬組成物を以下の物質:
本発明化合物 25.0% w/w
ステアリン酸マグネシウム 0.5% w/w
デンプン 2.0% w/w
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 1.0% w/w
微結晶性セルロース 71.5% w/w
を合わせることにより製造し、混合物を圧縮して錠剤を成形するか、または例えば本発明化合物100 mgを含む硬ゼラチンカプセルに充填する。錠剤は所望により、フィルム形成剤(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース)、色素(例えば二酸化チタン)および可塑剤(例えばフタル酸ジエチル)の懸濁液を適用し、溶媒の留去によりフィルムを乾燥することによりコーティングすることができる。
【0108】
製剤実施例2。IV投与用医薬組成物
【0109】
IV投与用医薬組成物は、本発明化合物を例えば医薬的に許容される塩としてリン酸緩衝食塩水中1% w/vの濃度に溶解することにより製造し;溶液を例えば滅菌ろ過により滅菌し、例えば本発明化合物100 mgを含む滅菌容器中に封印した。
【0110】
あるいは、凍結乾燥組成物は、本発明化合物を再度、例えば医薬的に許容される塩として適切な緩衝液、例えば上記リン酸緩衝食塩水のリン酸緩衝液に溶解し、溶液を滅菌し、適切な滅菌バイアル中にて拡散させ、溶液を凍結乾燥して水を除去し、バイアルに封をすることにより製造する。凍結乾燥組成物を滅菌水の添加により再構成し、再構成溶液はさらに0.9%塩化ナトリウム静脈内注入または5%デキストロース静脈内注入などの溶液による投与のために希釈することができる。
【0111】
治療的実施例。本発明化合物による治療
【0112】
5%デキストロース静脈内注入液にて希釈した本発明化合物を転移性卵巣がんに罹患している患者に100 mg/m2の初期用量にて30分にわたり静脈内投与し;この用量を250 mg/m2、500 mg/m2、750 mg/m2および1000 mg/m2まで増加させる。化合物を1週間隔にて投与する。同じ用量増加を2および3週間隔にて同じがんに罹患している他の患者に投与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A:
【化1】

[式中、Rはそれぞれ独立してメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであるか、または-NR2は一緒になってピロリジン-1-イルまたはピペリジン-1-イルである]
で示される化合物またはその酸付加塩。
【請求項2】
固体形態である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
Rがそれぞれ独立してメチル、エチルまたはイソプロピルである、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
Rがそれぞれ同一である、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
Rがそれぞれメチルである、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
Rがそれぞれエチルである、請求項4記載の化合物。
【請求項7】
Rがそれぞれイソプロピルである、請求項4記載の化合物。
【請求項8】
式Aの化合物の酸付加塩である、請求項1〜7のいずれか記載の化合物。
【請求項9】
固体形態である、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか記載の化合物および賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項11】
がんの治療のための医薬の製造における請求項1〜9のいずれか記載の化合物または請求項10記載の医薬組成物の使用。
【請求項12】
式A:
【化2】

[式中、Rはそれぞれ独立してメチル、エチル、プロピルもしくはイソプロピルであるか、または-NR2は一緒になってピロリジン-1-イルもしくはピペリジン-1-イルである]
で示される化合物またはその酸付加塩を製造する方法であって、
(a)式B:
【化3】

で示される対応化合物を式Aの化合物に酸化する工程を含むことを特徴とし、次いで適宜1以上の以下の工程:
(e)式Aの化合物の酸付加塩を形成する工程;
(f)式Aの化合物の酸付加塩を式Aの別の酸付加塩に変換する工程;および
(g)式Aの化合物の酸付加塩を式Aの化合物の非塩形態に変換する工程
を含んでもよい、方法。
【請求項13】
式B:
【化4】

[式中、Rはそれぞれ独立してメチル、エチル、プロピルもしくはイソプロピルであるか、または-NR2は一緒になってピロリジン-1-イルもしくはピペリジン-1-イルである]
で示される化合物またはその酸付加塩。
【請求項14】
Rがそれぞれ独立してメチル、エチルまたはイソプロピルである、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
Rがそれぞれ同一である、請求項14記載の化合物。
【請求項16】
Rがそれぞれメチルである、請求項15記載の化合物。
【請求項17】
Rがそれぞれエチルである、請求項15記載の化合物。
【請求項18】
Rがそれぞれイソプロピルである、請求項15記載の化合物。

【公表番号】特表2010−511040(P2010−511040A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539222(P2009−539222)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/045717
【国際公開番号】WO2008/066526
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(593182956)テリック,インコーポレイテッド (18)
【Fターム(参考)】