説明

2つのブリッジングクラッチを備えた流体力学的コンバータ

ハウジング(102,104)と、インペラ(126)と、タービン(148)と、各々が第1及び第2のピストン(136,144)を備えた第1及び第2のクラッチ(176,178)とを備える、車両トランスミッション用の始動装置。第1及び第2のピストンは互いにシールされながら係合させられている。第1のクラッチはインペラをハウジングと解放可能に係合させ、第2のクラッチはタービンをハウジングと解放可能に係合させる。実施の形態の例において、第1のクラッチは第2のクラッチの半径方向外側に配置されている。第1のクラッチは第2の圧力によって係合させられ、第2のクラッチは、第1の圧力よりも高い第2の圧力によって係合させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、始動装置、特に流体継手始動装置に関する。
【0002】
背景
流体継手は公知である。車両動力伝達経路において使用される場合、流体継手のインペラは概してエンジンに接続され、流体継手のタービンは概してトランスミッションに接続される。車両が停止しているとき、インペラはエンジンと一緒に回転し、タービンは回転しない。流体継手は比較的剛性の結合であるので、車両が停止しているときには、大きなエンジンアイドル損失が生じることがある。これは、タービンが静止しているときにインペラを回転させ続けるためにエンジンが付加的なパワーを使用しなければならないことを意味する。
【0003】
簡単な概要
態様の例は、広くは、ハウジングと、インペラと、タービンと、各々が第1及び第2のピストンを備える第1及び第2のクラッチとを備える、車両トランスミッション用の始動装置を含む。第1及び第2のピストンは互いにシールされながら係合させられている。第1のクラッチはインペラをハウジングに解放可能に係合させ、第2のクラッチはタービンをハウジングに解放可能に係合させる。実施の形態の例において、第1のクラッチは第2のクラッチの半径方向外側に配置されている。実施の形態の例において、第1のクラッチは第1の圧力によって係合させられ、第2のクラッチは、第1の圧力よりも高い第2の圧力によって係合させられる。
【0004】
幾つかの実施の形態の例において、始動装置は、解放ばねを有し、この解放ばねは第2のクラッチを開放位置へ付勢する。実施の形態の一例において、始動装置は、解放ばねと第2のピストンとの間に配置された軸受又はブシュを有する。実施の形態の例において、第1のクラッチは第1の圧力によって係合させられ、第2のクラッチは、第1の圧力よりも高い第2の圧力によって係合させられる。
【0005】
幾つかの実施の形態の例において、始動装置は、タービンと駆動係合させられかつトルクをタービンから車両トランスミッションの入力シャフトに伝達するよう配置されたダンパを有する。実施の形態の例において、ダンパは、フランジを有し、インペラはこのフランジに対してセンタリングされている。実施の形態の例において、始動装置は、軸方向でダンパとインペラとの間に配置されたスラスト軸受と、軸方向でインペラとハウジングとの間に配置された第2のスラスト軸受とを有する。
【0006】
幾つかの実施の形態の例において、始動装置は、ハウジングに固定されたハブを有する。ハブは、ハウジングから第1の軸方向に延びた第1の円筒状部分と、ハウジングから、第1の軸方向とは反対の第2の軸方向に延びた第2の円筒状部分とを有し、インペラは、第2の円筒状部分によってセンタリングされている。実施の形態の例において、始動装置は、インペラ及び第2の円筒状部分と接触したハウジングを有する。
【0007】
実施の形態の例において、第1のクラッチは、インペラに駆動接続されるよう配置されたクラッチ板と、クラッチ板に固定されかつ半径方向壁部を有するブロッキング板とを有する。ブロッキング板の軸方向位置は、第1のクラッチピストンとクラッチ板との間の離反距離を制限するよう調節される。
【0008】
幾つかの実施の形態の例において、始動装置は、少なくとも部分的に第1及び第2のピストンによって形成された流体チャンバを有する。流体チャンバにおける流体圧力は、第1及び第2のクラッチを閉鎖するように第1及び第2のピストンの移動を引き起こす。実施の形態の例において、第1のクラッチは流体チャンバ内の第1の圧力により閉鎖可能であり、第1の圧力は、第2のクラッチを閉鎖するには不十分であり、第2のクラッチは、流体チャンバにおける、第1の圧力より高い第2の圧力によって閉鎖可能である。
【0009】
別の態様の例は、広くは、トランスミッションとシールされながら係合させられたハウジングと、第1のピストンと、第2のピストンとを備える、トランスミッション用の始動装置を含む。第2のピストンは、第1のピストンとシールされながら係合させられており、かつトランスミッションの入力シャフトとシール係合するよう配置されている。幾つかの実施の形態の例において、始動装置は、インペラと、タービンと、インペラをハウジングに接続するための、第1のピストンを有する第1のクラッチと、タービンをハウジングに接続するための、第2のピストンを有する第2のクラッチとを含む。第1のピストンは、第1のクラッチを係合させるためのものであり、第2のピストンは、第2のクラッチを係合させるためのものである。実施の形態の例において、ハウジングはハブを有し、インペラはハブによってセンタリングされている。
【0010】
幾つかの実施の形態の例において、始動装置は、第2のピストンと駆動係合させられかつ入力シャフトと駆動係合させられるよう配置されたダンパを有する。実施の形態の例において、ダンパはフランジを有し、インペラはフランジによってセンタリングされている。
【0011】
別の態様の例は、広くは、ハウジングと、インペラと、タービンと、ばねとを有する、車両トランスミッション用の始動装置を含む。始動装置はまた、インペラをハウジングに係合させるよう配置された、第1のピストンを有する第1のクラッチと、タービンをハウジングに係合させるよう配置された、第2のピストンを有する第2のクラッチとを含む。第1のピストンは、第2のピストンの半径方向外側に配置されており、第2のピストンに対してシールされている。ばねは、第2のクラッチを開放位置へ付勢する。
【0012】
ここで本発明の性質及び作動形式を、添付の図面に関連した発明の以下の詳細な説明においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本願において用いられる空間的用語を説明する円柱座標系の斜視図である。
【図1B】本願において用いられる空間的用語を説明する、図1Aの円柱座標系における物体の斜視図である。
【図2】流体継手始動装置の一例の断面図である。
【図3】流体継手始動装置の一例の断面図である。
【図4】様々な係合状態における流体継手始動装置の作動を示す測定値である。
【0014】
最初に、複数の異なる図面に示された同じ符号は、同じ、又は機能的に類似の構造的エレメントを表すということを認識すべきである。さらに、本発明は、本明細書に記載された特定の実施の形態、方法、材料及び変化形のみに限定されるのではなく、もちろん変化してよいことが理解される。本明細書で使用される用語は特定の態様を説明するためだけのものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではなく、本発明の範囲は添付の請求項のみによって限定されることも理解される。
【0015】
そうでないことが定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術の分野における当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似又は均等のあらゆる方法、装置又は材料は、発明の実用又は試験において使用することができるが、ここでは以下の方法、装置及び材料の例を説明する。
【0016】
図1Aは、本願で用いられる空間的用語を説明する円柱座標系80の斜視図である。本発明は少なくとも部分的に円柱座標系に関連して説明される。円柱座標系80は、以下の方向及び空間に関する用語のための基準として用いられる長手方向軸線81を有する。「軸方向の」、「半径方向の」及び「周方向の」という形容詞は、それぞれ軸線81、半径82(軸線81に対して直交する)、及び円周83に対して平行な向きに関する。「軸方向の」、「半径方向の」及び「周方向の」という形容詞は、それぞれの平面に対して平行な向きにも関する。様々な平面の配置を明らかにするために、物体84,85及び86が用いられる。物体84の面87は軸方向平面を形成する。すなわち、軸線81は、面に沿った線を形成する。物体85の面88は半径方向平面を形成する。すなわち、半径82は、面に沿った線を形成する。物体86の面89は、周方向平面を形成する。すなわち、円周83は、面に沿った線を形成する。別の例として、軸方向移動又は配置は、軸線81に対して平行であり、半径方向移動又は配置は、半径82に対して平行であり、周方向移動又は配置は、円周83に対して平行である。回転は軸線81に関する。
【0017】
「軸方向に」、「半径方向に」及び「周方向に」という副詞は、それぞれ軸線81、半径82又は円周83に対して平行な向きに関する。「軸方向に」、「半径方向に」及び「周方向に」という副詞は、それぞれの平面に対して平行な向きにも関する。
【0018】
図1Bは、本願において用いられる空間的用語を説明する、図1Aの円柱座標系80における物体90の斜視図である。円筒状の物体90は、円柱座標系における円筒状の物体を表し、あらゆる点で本発明を限定しようとするものではない。物体90は、軸方向面91と、半径方向面92と、円周方向面93とを有する。面91は軸方向平面の一部であり、面92は半径方向平面の一部であり、面93は周方向平面の一部である。
【0019】
以下の説明は図2に関してなされる。図2は、流体継手始動装置100の断面図である。装置100は、溶接領域106において結合されたシェル102及び104を有する。シェル104は、突出部110、ボルト112、フレックスプレート114、及びクランクシャフトボルト116を介して、エンジンクランクシャフト108と駆動係合させられている。シェル104は突出部110及びボルト112によってフレックスプレート114に取り付けられているが、その他の取付け方法が用いられもよい。例えば、シェル104は、フレックスプレート114との取付けのための植込ボルト(図示せず)及び/又は駆動プレート(図示せず)を有してよい。
【0020】
シェル102は、溶接領域120において取り付けられたハブ118を有する。ハブ118は、シール124において、トランスミッションケース122にシールされながら係合させられている。ハブ118は、例えばトランスミッションポンプ(図示せず)と駆動係合させられていてよい。
【0021】
インペラ126は、シェル128及びブレード130を有する。ブレード130は、タブ(図示せず)、凹み(図示せず)、溶接、及び/又はろう付けによってシェル128に取り付けられていてよい。シェル128は軸方向延長部134を有し、この軸方向延長部134は、接続部138において外側ピストン136と係合させられている。接続部138は、回転方向で固定されかつ軸方向で可動な、技術分野で公知のあらゆる接続部であることができる。例えば、接続部138は、スプライン接続部、又はシェル延長部134のインターロッキングタブが外側ピストン延長部140のタブと係合させられるようなタブ接続部であることができる。接続部138は、技術分野で一般的に公知の板ばね接続部であってもよい。
【0022】
外側ピストン136は、ハウジングシェル104と係合するための摩擦材料142を有する。外側ピストン136は、シール146において内側ピストン144にシールされながら係合させられている。シール146は、技術分野で公知のあらゆる運動用シールであってよい。例えば、シール146は、スクエアカットテフロンシールであってよい。
【0023】
始動装置100は、シェル150及びブレード152を備えたタービン148も有する。シェル150及びブレード152は、上記のシェル128及びブレード130の取付けと同様の形式で取り付けられている。シェル150は、例えば、リベット156においてピストン144に固定結合されている。
【0024】
ピストン144は、例えば、リベット156においてクラッチキャリヤ158に固定結合されている。キャリヤ158は、摩擦プレート160,162及び164と駆動係合させられている。プレート160,162及び164は、各々の摩擦材料リング166を有する。摩擦プレートの各々の対の間には、スペーサプレート168及び170が配置されており、駆動プレート172と駆動係合させられている。例えば、スペーサプレート168及び170と、駆動プレート172とは、駆動係合した各々のタブを有してよい。プレート172は、例えば、溶接部174においてハウジング104に固定して取り付けられている。溶接部174は、例えば、レーザ溶接部であってよい。プレート168及び170と、ハウジング104とを駆動係合させるその他の方法が用いられてもよい。例えば、プレート168及び170は、板ばね(図示せず)を用いてハウジング104に取り付けられてよい。
【0025】
ピストン136と、摩擦材料142と、ハウジング104とは、外側クラッチアセンブリ176を構成する。ピストン144と、プレート160,162及び164と、摩擦材料リング166と、スペーサプレート168及び170とは、内側クラッチアセンブリ178を構成する。ピストン144とハウジング104との間には解放ばね180が配置されている。ハウジング104は、ハウジング104に対するばね180の回転を防止するために回転防止スロット182を有してよい。つまり、ばね180は、より柔軟なハウジング104に対するより硬いばね180の摩耗を防止するため、スロット182内に配置されている。ピストン144は、ハウジング104と一緒に回転するばね180と、タービン148と一緒に回転するピストン144との回転速度差による、ピストン144に対するばね180の摩耗を防止するため、摩耗プレート184を有してよい。
【0026】
カバープレート186及び188は、例えば、リベット156によってピストン144及びタービン148に固定結合されている。プレート186及び188はばね190と駆動係合させられている。翼状部192及び194はばね190の軸方向移動を防止する。ばね190はフランジ196と駆動係合させられており、このフランジ196自体は、スプライン結合200を介して入力シャフト198と駆動係合させられている。フランジ196は、ブシュ202と、インペラシェル軸方向延長部204とを介して、インペラシェル128をセンタリングする。ピストン144は、シール206によって入力シャフト198に対してシールされている。軸受208及び210は、半径方向で、シェル128及びカバープレート186の各々の軸方向延長部によって位置決めされている。軸受208及び210は、シェル128及びカバープレート186を軸方向で位置決めする。流体チャンバ211は、部分的にピストン136及び144によって形成されている。
【0027】
ここで始動装置100の作動を説明する。エンジンクランシャフト108から受け取られたトルクはハウジング104に伝達される。車両停止状態の間は、入力シャフト198の中心孔213を通じてオイル圧力が導入される。この解放圧力は、ピストン136及び144を矢印212の方向に付勢し、クラッチ176及び178を切断する。切断されたクラッチは、有利には、アイドル速度を維持するために必要なエンジン動力を減じる。なぜならば、インペラ126が回転しないからである。インペラ126は、外側クラッチ176が係合させられたときにだけトルクを受け取る。
【0028】
車両始動状態の間、半径方向で入力シャフト198と管状ステータシャフト214との間に配置されたチャネル215及び/又は半径方向でステータシャフト214と管状インペラハブ118との間に配置されたチャネル217を通じてチャンバ211に適用圧力が導入される。発明の実施の形態の一例(図示せず)においては、ステータシャフト214は存在せず、圧力は、半径方向で入力シャフト198と管状インペラハブ118との間に配置されたチャネル(図示せず)に導入される。
【0029】
チャンバ211内の適用圧力はピストン136及び144を矢印216の方向に付勢する。ばね180はピストン144を矢印212の方向に付勢する。始動の間、適用圧力は、外側ピストン136に作用する力が、インペラ126を回転させるために外側クラッチ176を係合させるのに十分となるよう制御される。内側ピストン144に作用する始動圧力は、ばね180の力を克服するには十分ではなく、したがって、内側クラッチ178は切断されたままである。冷却流は、摩擦材料142における溝(図示せず)及び/又は外側ピストン136及び/又は内側ピストン144におけるオリフィス(図示せず)を通過する。
【0030】
インペラ126は流体をタービン148内へ送り込む。タービンからの反応トルクは、上記のように、カバープレート186及び188に伝達され、ばね190及びフランジ196を介してトランスミッション入力シャフト198に伝達され、車両を推進する。初期始動の後、ピストン144に作用する力が、クラッチ178を係合させるためにばね180の力を克服するのに十分となるよう、適用圧力が増大される。クラッチ178の係合は流体回路をバイパスし、トルクは、ハウジング104からピストン144、カバープレート186及び188へ伝達され、上記のように、ばね190及びフランジ196を介してトランスミッション入力シャフト198へ伝達される。ダンパばね190は、有利には、入力シャフト198からクラッチ178へ伝達されるエンジン振動を隔絶する。
【0031】
クラッチ176及び178は、特定の数のプレート及び摩擦材料リングを有して示されているが、クラッチはその他の数のプレート及びリングを有してよい。概して、内側クラッチ178は、外側クラッチ176よりも多いプレート及びリングを有する。なぜならば、内側ピストン144に作用する力は、解放ばね180を克服しなければならないからである。つまり、解放ばね180はピストン144に作用する力を減じるので、クラッチ178を係合させるためにより小さい力が使われる。付加的なクラッチプレートは、より小さな力を補償するためのクラッチ能力を増大する。
【0032】
発明の実施の形態の例において、インペラ126及びタービン148によって形成された流体回路のトルク能力は、エンジンによってクランクシャフト108に伝達されるトルクよりも小さい。したがって、クラッチ176及び178は、エンジンが暴走するのを防止するため高トルク始動時に関連して使用されなければならない。流体回路を通じて伝達されるトルクは、有利には、典型的な始動クラッチよりも摩擦性能を高める。低トルク始動時(つまり駐車場での低速"クリープ"時)には、流体回路は、有利には、エンジンからトランスミッションへの滑らかなトルク伝達を提供する。
【0033】
以下の説明は、図3に関連してなされる。図3は、流体継手始動装置300の断面図を示す。装置300は、コネクタリング306によって結合されたシェル302及び304を有する。リング306は、ボルト305によってシェル302に固定されており、シール307によってシェル302に対してシールされている。幾つかの実施の形態の例において、シール307はOリングシールである。リング306は溶接部309によってシェル304に固定されている。
【0034】
シェル304は、例えば、プロジェクション溶接によってシェル304に固定された植込ボルト308によってエンジンクランクシャフト(図示せず)と駆動係合させられている。シェル302は、溶接領域320に取り付けられたハブ318を有する。ハブ318は、トランスミッションケース(図示せず)とシールされながら係合させられており、例えば、トランスミッションポンプ(図示せず)と駆動係合させられている。
【0035】
インペラ326は、シェル328及びブレード330を有する。ブレード330は、シェル328に配置されたスロット331と係合させられたタブ329によって、シェル328に取り付けられている。実施の形態の例において、ブレード330は、溶接及び/又はろう付けによってシェル328に取り付けられている。シェル328は、接続部338においてクラッチプレート335と係合させられた軸方向延長部334を有する。接続部338は、回転方向で固定されかつ軸方向で可動な、技術分野において公知のあらゆる接続部であることができる。例えば、接続部338は、スプライン接続部、シェル延長部334のインターロッキングタブがクラッチプレート延長部340のタブと係合させられるタブ接続部であることができる。
【0036】
クラッチプレート335は、結合部337においてピストン336と係合させられている。プレート335は、半径方向壁部341を備えたブロッキングプレート339を有する。プレート339は、ボルト343によって延長部340に固定されている。プレート339の軸方向位置は、ピストン336とクラッチプレート335との間の離反距離を制限するように調節される。クラッチプレート345は、例えば、板ばね347を介してカバー304と駆動係合させられている。
【0037】
プレート335は、ハウジングシェル304と係合するための摩擦材料342を有する。クラッチプレート345は、クラッチプレート335及びピストン336と各々係合するための摩擦材料349A及び349Bを有する。外側ピストン336は、シール346において内側ピストン344とシールされながら係合させられている。シール346は、技術分野で公知のあらゆる運動用シールであってよい。例えば、シール346は、スクエアカットテフロンシールであってよい。
【0038】
始動装置300は、シェル350及びブレード352を備えたタービン348をも有する。シェル350及びブレード352は、上記のシェル328及びブレード330の取付けと同様の形式で取り付けられている。シェル350は、例えば、ボルト(図示せず)によってピストン344に固定結合されている。
【0039】
ピストン344は、クラッチキャリヤ部分358を有する。キャリヤ358は、摩擦プレート360,362及び364と駆動係合させられている。プレート360,362及び364は、各々の摩擦材料リング366を有する。スペーサプレート368及び370は、摩擦プレートの各々の対の間に配置されており、駆動プレート372と駆動係合させられている。例えば、スペーサプレート368及び370と、駆動プレート372とは、駆動係合した各々のタブを有してよい。プレート372は、例えば、溶接部374においてハウジング304に固定して取り付けられている。溶接部374は、例えば、MIG溶接部であってよい。
【0040】
ピストン336と、クラッチプレート335及び345と、摩擦材料342,349A及び349Bと、ハウジング304とは、外側クラッチアセンブリ376を構成する。ピストン344と、プレート360,362及び364と、摩擦材料リング366と、スペーサプレート368及び370とは、内側クラッチアセンブリ378を構成する。解放ばね380及び381はピストン344とハウジング304との間に配置されている。ピストン344はブシュ382を有し、このブシュ382は、ブシュ382に対するばね380及び381の回転を防止するための回転防止スロットを備える。つまり、ばね380及び382は、より柔軟なブシュに対するより硬いばねによる摩耗を防止するためにブシュスロットに配置されている。ブシュ382は、ばねとピストンとの回転速度差によるピストン344に対するばね380及び382による摩耗を防止するために使用されている。
【0041】
カバープレート386及び388は、例えば、ボルト(図示せず)によってピストン344及びタービン348に固定結合されている。プレート386及び388はばね390と駆動係合させられている。翼状部392及び394は、ばね390の軸方向移動を防止する。ばね390はフランジ396と駆動係合させられており、このフランジ396自体は、スプライン結合部400を介して入力シャフト398と駆動係合させられている。ハブ318のフランジ397は、ブシュ402及びインペラシェル軸方向延長部404を介してインペラシェル328をセンタリングしている。ピストン344は、シール406によって入力シャフト398に対してシールされている。軸受408及び410は、半径方向で軸方向延長部404によって位置決めされている。軸受408及び410は、軸方向でシェル328及びカバープレート386を位置決めしている。流体チャンバ411は、部分的にピストン336及び344によって形成されている。
【0042】
始動装置300の作動は、上記始動装置100の作動と同様であるので、繰返し説明しない。始動装置100及び300の特定の用途が示されているが、その他の用途が存在し、発明の範囲で考慮されるべきである。例えば、装置100又は300は、トルクコンバータであってよく、一方向クラッチ(図示せず)を介して選択的にステータシャフト214に固定されるステータ(図示せず)を有してよい。装置100及び300が作動させられる形式に応じて、インペラ126及び326と、タービン152及び352とは、通常よりも小さなトーラス(円環)を備えて設計されてよい。より小さな構成部材は、有利には、重量及び慣性を提言し、性能を高める。
【0043】
以下の説明は図4に関してなされる。図4は、コマンド圧力変化に応答した、流体継手始動装置300の作動を示す試験測定結果である。線450は、時間に関する、始動装置によるトルク出力のプロットである。線452は、時間に関する、クラッチ376及び378を係合させるためのピストン336及び344に作用する液圧適用圧力のプロットである。線454は、時間に関する、入力速度、つまりカバー304が回転させられる速度のプロットである。入力速度は、試験中を通じて一定値に保たれている。トランスミッション入力シャフト398は、回転しないように保持されており、出力速度は試験中にゼロに保たれている。したがって、入力部と出力部との速度差は一定である。時間は、I、II、III、IV及びVで示された複数の時間帯に分割されている。これらの時間帯は、
I アイドル切断、
II 車両クリープ、
III 係合、
IV 車両クリープ、
V アイドル切断、
と表されてよい。
【0044】
時間帯Iにおいて、トルク及び圧力はゼロ付近から始まる。時間帯Iは、例えば、車両が停止信号に遭遇し、ブレーキペダルが踏み込まれたときの低トルクの切断モードである。装置が時間帯IIに進むと、圧力がわずかに(つまり1bar)だけ上昇させられる。低いトルクを伝達するためのクラッチ376を完全に係合させるためには小さな圧力で十分であり、インペラ326を車両エンジンに接続し、トルクは、タービンからフランジ406を通ってトランスミッション入力シャフト398へ出力される。上記のように、車両クリープモードの間は伝達されるトルクが概して小さいので、より小さなトーラスで十分である。圧力しきい値456(つまり3bar)に達するまで圧力は時間帯IIの間上昇させられ、時間帯IIIへ進む。
【0045】
時間帯IIの間、ばね380及び381は、ピストン344の軸方向移動及びクラッチ376の係合に抵抗する。つまり、ピストン344に作用するばね380及び381の付勢力は、ピストンをカバー304に向かって付勢する圧力の力よりも大きい。出力トルクは、入力速度と出力速度との差により、インペラ326及びタービン348から成る流体継手によって伝達されるトルクに制限される。典型的な車両始動の間、入力速度及び出力速度は変化し、これにより、伝達されるトーラストルクは一定ではないということに留意すべきである。
【0046】
コマンド圧力が、点458によって示されたしきい値に近づくと、線450におけるトルクが増大することによって示されているように、内側ピストン344はクラッチ378を係合させ始める。言い換えれば、ピストン344に作用するコマンド圧力の力が、ばね380及び381の付勢力を超えて、ピストンをカバー304に向かって付勢する。したがって、時間帯IIIの間のトルクは、トーラストルクと、クラッチ378からのトルクとの組み合わせとなっている。上記のように、入力速度及び出力速度は一定に保たれているが、典型的な車両始動の間、入力速度及び出力速度は互いに近づく。なぜならば、クラッチ378が係合し、クラッチトルクがエンジントルクに近づきながら、トーラスによって伝達されるトルクの大きさがゼロになるからである。
【0047】
コマンド圧力がしきい値456よりも低下しかつクラッチ378が時間帯IVへの移行部(点460によって示されている)において完全に切断させられるまで、時間帯IIIの後半において圧力は低下させられる。クラッチ376が完全に切断されかつ装置が時間帯Vにおける切断モードに進むまで、時間帯IVの間に圧力はさらに低下させられる。これは単に試験の例であり、装置300は、異なる試験条件下では別の特性を有することに留意すべきである。例えば、トルクの増減率、切断モードにおいて伝達されるトルク、又はしきい値圧力は、装置300の特定の構成又は装置の作動中の圧力入力に基づいて変化してよい。
【0048】
もちろん、発明の上記の例に対する変更は、請求項に記載の発明の思想又は範囲から逸脱することなく、当業者に容易に明らかになるだろう。発明は、特定の好適な及び/又は例としての実施の形態に関連して説明されているが、請求項に記載の発明の範囲又は思想から逸脱することなく、変更を行うことができることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
インペラと、
タービンと、
各々が第1及び第2のピストンを有する第1及び第2のクラッチであって、前記第1及び第2のクラッチは互いにシールされながら係合させられている、第1及び第2のクラッチと、を備え、
前記第1のクラッチは、前記インペラを前記ハウジングと解放可能に係合させ、
前記第2のクラッチは、前記タービンを前記ハウジングと解放可能に係合させることを特徴とする、車両トランスミッション用の始動装置。
【請求項2】
前記第1のクラッチは、前記第2のクラッチの半径方向外側に配置されている、請求項1記載の始動装置。
【請求項3】
前記第1のクラッチは、第1の圧力によって係合させられ、前記第2のクラッチは、前記第1の圧力よりも高い第2の圧力によって係合させられる、請求項1記載の始動装置。
【請求項4】
さらに解放ばねを備え、該解放ばねは、前記第2のクラッチを開放位置へ付勢する、請求項1記載の始動装置。
【請求項5】
さらに、前記解放ばねと前記第2のピストンとの間に配置された軸受又はブシュを備える、請求項4記載の始動装置。
【請求項6】
前記第1のクラッチは、第1の圧力によって係合させられ、前記第2のクラッチは、前記第1の圧力よりも高い第2の圧力によって係合させられる、請求項4記載の始動装置。
【請求項7】
さらに、前記タービンと駆動係合させられておりかつトルクを前記タービンから車両トランスミッションの入力シャフトへ伝達するよう配置されたダンパを備える、請求項1記載の始動装置。
【請求項8】
前記ダンパは、フランジを有し、前記インペラは、前記フランジに対してセンタリングされている、請求項7記載の始動装置。
【請求項9】
さらに、軸方向で前記ダンパと前記インペラとの間に配置された第1のスラスト軸受と、軸方向で前記インペラと前記ハウジングとの間に配置された第2のスラスト軸受とを備える、請求項7記載の始動装置。
【請求項10】
さらに、前記ハウジングに固定されかつ該ハウジングから第1の軸方向に延びた第1の円筒状部分と前記ハウジングから前記第1の軸方向とは反対の第2の軸方向に延びた第2の円筒状部分とを有するハブを備え、前記インペラは、前記第2の円筒状部分によってセンタリングされている、請求項1記載の始動装置。
【請求項11】
さらに、前記インペラ及び前記第2の円筒状部分と接触したブシュを備える、請求項10記載の始動装置。
【請求項12】
前記第1のクラッチは、
前記インペラに駆動結合されるよう配置されたクラッチ板と、
該クラッチ板に固定されかつ半径方向壁部を有するブロッキング板とを有し、該ブロッキング板の軸方向部分は、前記第1のクラッチピストンと前記クラッチ板との間の離反距離を制限するよう調節される、請求項1記載の始動装置。
【請求項13】
さらに、少なくとも部分的に前記第1及び第2のピストンによって形成された流体チャンバを備え、該流体チャンバ内の流体圧力は、前記第1及び第2のクラッチを閉鎖するように前記第1及び第2のピストンの移動を引き起こす、請求項1記載の始動装置。
【請求項14】
前記第1のクラッチは、前記流体チャンバにおける第1の圧力によって閉鎖可能であり、
該第1の圧力は、前記第2のクラッチを閉鎖するには不十分であり、
該第2のクラッチは、前記流体チャンバにおける、前記第1の圧力よりも高い第2の圧力によって閉鎖可能である、請求項13記載の始動装置。
【請求項15】
トランスミッションにシールされながら係合させられたハウジングと、
第1のピストンと、
第2のピストンと、を備え、該第2のピストンは、前記第1のピストンにシールされながら係合させられておりかつ前記トランスミッションの入力シャフトとシール係合するよう配置されていることを特徴とする、トランスミッション用の始動装置。
【請求項16】
さらに、インペラと、
タービンと、
前記インペラを前記ハウジングに接続するための、前記第1のピストンを有する第1のクラッチと、
前記タービンを前記ハウジングに接続するための、前記第2のピストンを有する第2のクラッチとを備え、前記第1のピストンは前記第1のクラッチを係合させるためのものであり、前記第2のピストンは前記第2のクラッチを係合させるためのものである、請求項15記載の始動装置。
【請求項17】
前記ハウジングは、ハブを有し、前記インペラは、前記ハブによってセンタリングされている、請求項16記載の始動装置。
【請求項18】
さらに、前記第2のピストンと駆動係合しておりかつ前記入力シャフトと駆動係合するよう配置されたダンパを備える、請求項15記載の始動装置。
【請求項19】
前記ダンパは、フランジを有し、前記インペラは、前記フランジによってセンタリングされている、請求項18記載の始動装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−521457(P2013−521457A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556406(P2012−556406)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2011/001065
【国際公開番号】WO2011/110310
【国際公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(512006239)シェフラー テクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (59)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany