説明

2つの位相センサーを使用した患者と換気装置の同期

【課題】患者の呼吸努力の位相と同期した換気補助を行い、目標最小換気量を保証する改良された換気装置を提供する。
【解決手段】努力センサーアクセサリー、好適には胸骨上切痕センサーを使用して、測定された呼吸気流と測定された呼吸努力に基づいて瞬間呼吸の位相を求めるプロセスを通して、改善された同期が達成される。換気装置は標準的なファジー論理の方法を使用して、呼吸気流信号、呼吸努力信号及びそれらの変化率を処理して位相を求める。計算された圧力振幅は、計算された位相と滑らかな圧力波形テンプレートに基づいて調整され、同期した換気を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、1999年9月15日に出願された米国仮特許出願第60/154,196号の出願日について優先権を主張する。
【0002】
本発明は、患者に換気補助を施す方法及び装置に関する。より詳しくは、本発明は呼吸努力のセンサーを使用することにより、患者の呼吸努力と同期して換気を行う、改良された方法及び装置を含んでいる。
【背景技術】
【0003】
患者の呼吸を補助するために機械的換気を行う装置は、従来よく知られている。かかる換気装置は、重度の肺疾患、胸壁の疾患、筋肉神経系疾患その他の呼吸制御に関る疾患などの病気を持つ患者を助けるために使用されてきた。一般に換気装置は、吸気中は高い圧力で、また呼気中は低い圧力で、空気又は酸素濃度の高い空気を患者に供給する。
【0004】
いくつかのタイプの換気装置が存在する。それらのタイプにはバイレベル換気装置、比例補助換気装置およびサーボ制御換気装置が含まれる。各タイプの換気装置は、患者の呼吸を補助するための異なる方法を使用して、異なる目的を達成する。
【0005】
バイレベル換気装置は、最も単純なレベルの補助を行うものである。これらの換気装置が供給するマスク圧力P(t)は、呼吸気流f(t)が吸気の時、すなわちf(t)>0の時は、呼吸気流が呼気の時よりも、すなわちf(t)≦0の時よりも、初期圧力Pに対して振幅Aだけ高くなる。
【数1】

f(t)>0(吸気)
【数2】

それ以外(呼気)
そのため、これらの装置はAという固定した程度の補助を行う。しかし例えば患者の努力が不十分な場合には、これらの装置は特定の換気を行うという保証がない。
【0006】
比例補助換気装置は、患者の呼吸努力に対してより密接に同期した補助を行おうとするものである。比例補助換気装置は、次式で与えられるマスク圧力を供給する:
【数3】

f(t)>0(吸気)
【数4】

それ以外(呼気)
ここでRは患者の気道抵抗の実質的な部分(fraction)であり、ELCは患者の胸壁を加えた肺のエラスタンスの実質的な部分(fraction)である。漏れがない限り、これにより患者の呼吸努力に対してはるかに良く同期した補助が得られる。しかしこの場合も、例えば睡眠中の呼吸の化学反射制御が低下したことで患者の努力が不十分になっている場合には、最小限の換気が行われると言う保証は無い。
【0007】
十分な換気補助を保証する1つの方法はサーボ換気装置を使うことであるが、これは瞬間換気量V(t)を目標換気量VTGTに等しくするようにサーボ制御するために、補助の程度Aを調節するものである。
【数5】

f(t)>0、又は直前の吸息の開始時からの時間が>TMAX
【数6】

それ以外
ここで
【数7】

この換気装置では、V(t)は呼吸気流の絶対値の半分であり、Gは積分サーボコントローラーの利得であって毎秒換気量におけるL/分エラー(L/min error)当たり0.3cmHOの値が適切であり、AMINとAMAXは快適さと安全性のために補助の程度Aに対して設定される限界値であって、それぞれ0.0及び20.0cmHOが一般に適切である。具合の悪いことに、この方法は保証された最小換気量を実現するが、呼吸補助と患者自身の呼吸努力との同期を正確に維持する試みは余り行われていない。このシステムは単に吸気の開始時と終了時に圧力をステップ状に変化させるだけである。
【0008】
より進歩したサーボ制御換気装置では、保証された換気量と位相同期の両方が達成されている。この装置は、国際公報番号WO98/12965の共通所有の国際特許出願「患者の呼吸要求に合致した補助換気」(以下”AutoVPAP”と呼ぶ)の主題である。AutoVPAP装置は、患者の気道抵抗の実質的な部分(fraction)R、呼吸気流f(t)、振幅A及び滑らかな圧力波形テンプレートΠ(Φ)に適用された患者の瞬間的な呼吸の位相Φの推定値に基づいて、次式によって求められた瞬間マスク圧力P(t)を供給する。
【数8】

全てのf(t)について(吸気及び呼気)
ここで、
【数9】

呼吸の位相を推定する場合、AutoVPAP装置は、呼吸の特定の位相と結びつけられた1組のファジー論理ルールに対する入力データとして、呼吸気流信号とその微分を使用する。これらルールの評価結果を使用して、1つの位相の値が導かれて瞬間的な呼吸の位相として使用される。これにより、患者の呼吸と同期して換気補助の程度が変化させられる。更に、Aの計算は目標換気量VTGTに基づいているので、換気量の保証されたレベルが与えられる。
【0009】
しかしこのAutoVPAPシステムには、漏れの問題のために位相の決定に改善の余地がある。マスクを使用した非侵襲的換気補助を行っている間、マスク及び/又は口からは常に漏れがあり、これは特に睡眠中に問題となる。漏れは呼吸気流の間違った測定の原因となり、従って患者と機械の同期を甚だしく損なう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第98/12965
【特許文献2】国際公開第99/61088
【特許文献3】カナダ国特許出願公開第2230857号
【特許文献4】特開平11−206884号
【特許文献5】米国特許第05316010号
【特許文献6】特公平07−016517号
【特許文献7】米国特許第05107830号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、患者の自発的換気努力が所定の目標換気量を維持する上で十分である場合に、患者の自発的換気努力と正確に同期した換気補助を行う方法と装置を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、患者の呼吸努力が不規則になり、あるいは停止した場合でも、少なくとも所定の目標換気量を保証する方法と装置を提供することである。
【0013】
その他の目的は、以下に述べる本発明の説明から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はその最も広い態様において、患者の呼吸努力の位相と同期した換気補助を行い、かつ目標の最小換気量を保証する改良された換気装置を含む。この装置は、前述のAutoVPAPシステムの場合と類似した一般的な方法を使用して、瞬間マスク圧力の計算値に一部基づいて患者に換気補助を行う。しかし呼吸気流と呼吸努力の双方を表すデータを使うことにより、呼吸の位相の決定は改善されている。
【0015】
具体的には、呼吸の位相を推定する際に、前記装置は呼吸気流信号及び好適にはその変化率を使用する。ゼロ、正値、大きな正値、負値及び大きな負値からなるファジー集合のそれぞれに呼吸気流信号が属する程度は、適切なメンバーシップ関数を使って計算される。同様に、定常、増加、急速増加、減少及び急速減少からなるファジー集合のそれぞれに呼吸気流信号の微分が属する程度は、適切なメンバーシップ関数を使って計算される。これらのクラスに属する程度が、1組のファジー論理推論ルールで使用される。ファジー論理推論ルールの各々は、呼吸の特定の位相と結びつけられている。
【0016】
様々な変種が可能であるが好適な実施例では、呼吸気流に関連する推論ルールは以下の通りである。
1.気流がゼロで急速に増加していれば、位相は0回転である。
2.気流が大きな正の値で定常状態であれば、位相は0.25回転である。
3.気流がゼロで急速に減少していれば、位相は0.5回転である。
4.気流が大きな負の値で定常状態であれば、位相は0.75回転である。
5.気流がゼロで定常状態であり、かつ5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が大きければ、位相は0.9回転である。
6.気流が正の値で位相が呼気であれば、位相は0.1回転である。
7.気流が負の値で位相が吸気であれば、位相は0.6回転である。
8.5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が小さければ、呼吸サイクルの位相は患者の予想呼吸数に等しい一定の割合で増加している。
9.5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が大きければ、呼吸サイクルの位相は、時定数20秒で低域通過フィルターにかけられた現在の位相変化率に等しい安定した割合で増加している。
【0017】
本発明において、上記装置は努力センサーからの努力信号に基づいた追加のファジー推論ルールを組み合わせる。努力センサーは気流の測定値に依存せず、そのため漏れに関連するエラーに影響されない。努力信号及び好適にはその変化率が、追加のファジー推論ルールに対するメンバーシップ関数の入力値として使用されるが、これら追加のルールもまた特定の位相と結びついている。メンバーシップ関数を使用して、ゼロ、中程度及び大からなるファジー集合のそれぞれに努力信号が属する程度と、ゆっくり増加、急速増加、ゆっくり減少及び急速減少からなるファジー集合のそれぞれにその微分が属する程度が計算される。
【0018】
好適な実施例では、呼吸努力に関連する推論ルールは以下の通りである。
10.努力信号がゼロで急速に増加していれば、位相は0回転である。
11.努力信号が中程度でゆっくり増加していれば、位相は0.2回転である。
12.努力信号が大きくて急速に減少していれば、位相は0.5回転である。
13.努力信号が中程度でゆっくり減少していれば、位相は0.7回転である。
一般に、位相の値は正確にこれらの値である必要はなく、それらを近似するものであればよい。
【0019】
AutoVPAPシステムの場合と類似したプロセスにおいて、ファジー推論ルールの全てについて評価が行われ、1つの位相値が導かれてこれが患者の瞬間呼吸の位相とされる。これにより、装置が供給する補助の程度を患者の呼吸と同期した状態に維持することが可能になる。
【0020】
好適な実施例では、努力センサーは胸骨上切痕センサー(notch sensor)である。しかし本発明の別の実施例では、例えば食道圧力センサーや筋電計のような他の努力センサーを使用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】努力センサーが付属したサーボ制御された換気装置の各要素を示す。
【図2】努力信号の使用を含む、供給される圧力レベルを求めるための各ステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
サーボ制御された換気装置は、図1に示す本発明を実施する上で有用である。ブロワー10は、供給チューブ12を介してマスク11に加圧空気を供給する。排気は排気口13を通って排出される。マスク流量は呼吸流量計14を使って測定され、差圧トランスデューサ15を使って流量信号f(t)が導かれる。マスク圧力は圧力トランスデューサ18を使って圧力測定点17で測定される。呼吸努力は努力センサー22で測定され、努力信号ESS(t)を発生する。流量信号、努力信号及び圧力信号は、図2に示す処理を行うマイクロコントローラー16に送られ、圧力要求信号P(t)が導かれる。実際に測定された圧力と圧力要求信号P(t)は、ブロワーモーター20を制御するモーターサーボ19に供給され、望ましい瞬間マスク圧力を生成する。このタイプの換気装置で努力センサー22が無いものの一例として、国際公報番号WO98/12965の主題となっているものがあるが、これは関連する米国特許出願番号08/935,785にも開示されている。別の例が国際公報番号WO99/61088開示されているが、これは関連する米国特許出願番号09/316,432にも含まれている。上記の各米国特許出願はここに参考として組み込まれている。
【0023】
本発明の好適な実施例では、努力信号を発生する努力センサーとして胸骨上切痕センサー(notch sensor)が使用される。このセンサーは、1999年9月15日に申請された出願番号09/396,031「胸骨上センサーを使用した呼吸努力の測定」と題する共通所有の特許出願にもっと詳しく説明されている。胸骨上切痕センサーは胸骨上切痕の変化を測定する。吸気努力が増大すると胸骨上切痕の皮膚が後退する。胸骨上切痕の皮膚の深さ(深度)の変化を測定することにより得られる吸気努力の増加関数である電気信号を、光学的センサーが発生する。1999年9月15日に申請された別の共通所有の特許出願「外部努力センサーを使用する換気補助」出願番号09/396,032では、努力信号はバイレベル換気装置を起動するのに使用される。これら2つの出願はここに参考として組み込まれている。
【0024】
図2を参照して、上で説明した図1のシステムを使用して、圧力要求信号P(t)を導くためにいくつかのステップが用いられる。ステップ30及び32では、瞬間気流信号f(t)と努力信号ESS(t)が生成される。ファジー位相計算と書かれたステップ34では、システムは1組のファジー推論ルールを使って、呼吸サイクル中での位相Φを連続変数として計算する。ファジー推論ルールは、呼吸気流と呼吸努力の両方を基礎としている。
【0025】
呼吸気流に関して好適なルールは上に説明したルール1〜9であるが、しかし呼吸気流に基づいて他の多くの推論ルールを作ることができる。気流がゼロ、正値、大きな正値、負値及び大きな負値からなるファジー集合のそれぞれに属する、また5秒の低域通過フィルターにかけた絶対値が小及び大の各クラスに属するというファジー範囲、つまり真実さの程度は、測定された呼吸気流f(t)を使用して適切なメンバーシップ関数で決定できる。同様に、気流が定常状態、急速増加及び急速減少からなるファジー集合のそれぞれに属するファジー範囲は、呼吸流量の変化df(t)/dtを使用して適切なメンバーシップ関数で決定できる。位相が呼気及び吸気からなるファジー集合に属するファジー範囲は、前に計算された瞬間位相を使用してメンバーシップ関数で決定される。呼吸気流を使って位相を求めるというこの方法は、国際公報番号WO98/12965及びWO99/61088に開示されているものである。
【0026】
ルール1〜4は、瞬間呼吸気流から位相を直接推定する。ルール5は呼吸の休止期間を許容するが、患者の最も間近の呼吸が十分であればこの期間は長くなる可能性があり、患者が呼吸をしていなければこの期間は短いか又はゼロである。ルール6〜7は、患者が不規則に呼吸をしている場合に急速な再同期を与える。ルール8は、患者が呼吸を停止したか又は十分に呼吸をしていない場合は、換気装置が適切な固定した速度で換気サイクルを行う時限的バックアップの等価物を与える。ルール9によれば、患者が十分に呼吸をしている場合に、換気装置は患者の最も間近の平均呼吸数に追随する傾向を持つ。心不全やチェインストークス型呼吸の問題を持つ患者の場合、呼吸数は極めて安定しているにもかかわらずその振幅がリズミカルに変動するが、この様な患者にはこのアプローチは特に適切である。
【0027】
ルール8及び9の起動をする程度を変化させることの影響は、瞬間換気量が目標換気量に等しいか又はそれを超えるというファジー範囲に応じて患者自身の呼吸努力と同期した換気補助が行われ、また瞬間換気量が目標換気量よりも小さいというファジー範囲に応じて換気補助が事前に設定された割合で行われるというものである。
【0028】
本実施例の構成において、ルール1〜6の重み付けは、瞬間換気量が目標換気量と比べて大きいというファジー範囲に比例させることができ、それにより前の段落で述べた挙動が強化される。
【0029】
別の構成においては、漏れの量が多いか又は漏れの量が急変する場合は、ルール1〜6とルール9の重み付けを小さく、ルール8の重み付けを大きくすることができる。このようにして、呼吸気流信号が質の高いものである限り、前の段落で述べたように換気補助が行われるが、呼吸気流信号が質の低いものであり、しかも患者の努力と確実に同期を取ること、または患者の努力が十分かどうかを知ることが困難な場合は、所定の固定した速度で規則的な換気補助が行われる。
【0030】
前に述べたように、ステップ34のファジー位相計算には呼吸努力に関連するファジー推論ルールも含まれる。そのために本発明では、努力センサー22からの努力信号ESS(t)を取り込んで、追加のファジー推論ルールを処理する。
【0031】
努力信号に対するこれらの追加のファジー推論ルールを開発して使用するための一般的な方法は、国際公報番号WO98/12965及びWO99/61088で説明された方法と同じである。一般に吸気の開始点のような様々な特徴が、位相に対して努力をプロットしたグラフ上で識別され、各位相に対して対応するファジールールが開発される。例えば、吸気の開始点に対して適切なルールは「努力信号が小さく、努力信号の時間に関する2次微分が大きな正の値である」というものであろう。メンバーシップ関数は吸気の開始点又はその近くでそのルールを最大限起動させる。好適には、最大の起動の時点での正確な位相は、実験的に求めるべきである。現在の例では、最大の起動は吸気の実際の開始時点よりもわずか後、例えば0.05回転後の位相で行われ、これがルールと関連づける最良の位相である。より多くの特徴を知ることができ、またそれにルールと位相が割り当てられるほど、それによる位相の決定がスムーズになる。
【0032】
胸骨上努力センサーからの努力信号ESS(t)とこの信号の変化率dESS(t)/dtに関連する追加のファジー推論ルールの例は、上記のルール10〜13である。
【0033】
ゼロ、中程度及び大からなるファジー集合のそれぞれに努力信号が属するファジー範囲は、ESS(t)を使用して適切なメンバーシップ関数で計算される。同様に、努力信号がゆっくり増加、急速増加、ゆっくり減少及び急速減少からなるファジー集合のそれぞれに属するファジー範囲は、呼吸努力の変化率dESS(t)/dtを使用して適切なメンバーシップ関数で決定される。あるクラスに属する程度を計算する前に、例えば呼吸と比較して長い期間、例えば10〜30秒間にわたって計算された努力信号の振幅で割ることにより、努力信号が正規化されるのが望ましい。
【0034】
図2とステップ34のファジー位相計算を続け、組み合わされたファジー推論ルールの集合に含まれる各々のルールが評価され、標準的なファジー推論方法を使用して起動の程度G(n)が決定される。例えばルール12に関して、ルールの単位の重みづけを仮定してかかる1つの方法を使用して、もしも(a)メンバーシップ関数「努力信号が大きい」が真実である程度の評価が0.6であり、(b)メンバーシップ関数「努力信号が急速に減少している」が真実である程度の評価が0.4であり、またファジー論理のAND演算子が適用された場合は、起動の程度G(12)は0.4となる。
【0035】
更に、13件のファジー推論ルールのそれぞれが特定のルールを位相Φ(n)に結びつける。例えば上で説明したように、ルール12はG(12)=0.5回転に結びつけられる。次ぎに各Φ(n)に対する起動の程度G(n)を使用して、瞬間的な呼吸の位相Φを表す1つの値が、反ファジー化ステップで下記の公式を用いて計算される。
【数10】

次ぎに図2のステップ36で位相Φを使用して、滑らかな圧力波形テンプレートΠ(Φ)から1つの値が導かれる。
【0036】
「振幅計算」と書かれたステップ38では、瞬間換気量をサーボ制御して平均的に目標値VTGTに等しくするように選ばれた圧力補助の瞬間的な振幅Aの次式による計算が含まれる。
【数11】

【0037】
最後に、「圧力計算」というステップ40で、振幅Aの計算値、患者の気道抵抗の実質的な部分(fraction)R、呼吸気流f(t)及び滑らかな圧力波形テンプレートΠ(Φ)から、望ましい換気補助の程度P(t)がシステムによって計算される。
【数12】

上で述べた振幅計算と圧力計算の各ステップは、国際公報番号WO98/12965及びWO99/61088における各ステップに対応するものである。
【0038】
本発明の好適な実施例では、努力センサーは、患者とのより良い同期を実現するためにAutoVPAPシステムのような換気装置に対して取り付け及び取り外しが自在にできる付属品である。努力センサーが患者から外れたり、故障したり、電気的な接続が切られたり或いはその他の形で除去された場合には、ルール(10)〜(13)は位相の決定に何の影響も持たず、言い換えればこれらのルールは起動の程度を持たない。この場合、装置はAutoVPAP装置のような単純なサーボ制御換気装置として動作する。患者には依然として呼吸気流とほぼ同期した、したがって呼吸努力とほぼ同期した換気補助で換気が行われる。そのため瞬間的な換気が平均して目標換気量に等しいかそれよりも大きいことを保証するのに十分な程度の補助が得られるが、しかし正確なタイミング情報と、漏れの影響に対する向上した安定性は失われる。
【0039】
ここに説明した本発明の実施例は胸骨上努力センサーを利用しているが、その他のセンサーからの努力信号を利用することもできる。他の形態の努力信号には、例えば胸部に埋め込まれてテレメータを介して信号を送る圧力トランスデューサが発生する食道圧力から導かれた努力信号が含まれる。あるいは、筋電計からの筋電図信号も、本発明に何等の変更も必要とせずに利用できる。更にまた、複数の努力センサーを利用することも、追加の努力センサーに関連する追加のファジー推論ルールを追加するだけで可能となる。
【0040】
本発明を特定の実施例について説明してきたが、これらの実施例は本発明の原理の応用を説明するだけのものであることを理解すべきである。例えば本発明の1つの実施例では、ルールのうちのいくつかが呼吸気流の強さと努力信号の変化率だけに基づいて位相を決定するような、1組のルールを使って位相を決定しても良い。あるいはまた、いくつかのルールが努力信号の強さと呼吸気流の変化率に基づいて位相を決定しても良い。本発明の趣旨と範囲から外れることなく、ここで説明した本発明の実施例の他に数多くの変更を行い、またその他の構成を考えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に同期した換気補助を提供する方法であり、
少なくとも部分的に測定された呼吸気流と、呼吸努力センサーからの信号との両方から患者の瞬間呼吸の位相を決定するステップと、
決定された位相と望ましい換気量とを使用して望ましい圧力を計算するステップと、
前記望ましい圧力に応じて前記患者に換気を供給するステップと、からなる方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、前記呼吸努力センサーが、
(a)胸骨上切痕センサーと、
(b)食道圧力努力センサーと、そして、
(c)筋電計と、からなる1群の努力センサーから選ばれることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1の方法において、前記位相を決定するステップが、前記呼吸努力センサーからの前記信号に関連するファジー推論ルールの評価からなることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3の方法において、前記位相を決定するステップが更に、前記呼吸努力センサーからの前記信号の変化率に関連するファジー推論ルールの評価からなることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4の方法において、前記位相を決定するステップが更に、測定された呼吸気流に関連するファジー論理推論ルールの評価を行うサブステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5の方法において、前記位相を決定するステップが更に、測定された呼吸気流の変化率に関連するファジー論理推論ルールの評価を行うサブステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1の方法において、前記位相を決定するステップが更に、測定された呼吸気流に関連するファジー論理推論ルールの評価を行うサブステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7の方法において、前記位相を決定するステップが更に、測定された呼吸気流の変化率に関連するファジー論理推論ルールの評価を行うサブステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1の方法において、望ましい換気量がゼロでない最小値と最大値を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9の方法において、前記望ましい圧力値を計算するステップが、患者の換気量の計算値と目標値の差の関数である誤差の値を導くことを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項4の方法において、前記ファジー推論ルールが、
(a)努力信号がゼロで急速に増加していれば、位相は約0回転である、
(b)努力信号が中程度でゆっくり増加していれば、位相は約0.2回転である、
(c)努力信号が大きくて急速に減少していれば、位相は約0.5回転である、及び、
(d)努力信号が中程度でゆっくり減少していれば、位相は約0.7回転である、を含む1群のルールから選択される少なくとも1つのルールを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項4の方法において、前記ファジー推論ルールが、概略ゼロの値で急速に増大している呼吸努力に吸気の開始が結びつけられているルールを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項4の方法において、前記ファジー推論ルールが、中程度の値でゆっくりと増大している呼吸努力に吸気の中間が結びつけられているルールを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項4の方法において、前記ファジー推論ルールが、大きな値で急速に減少している呼吸努力に呼気の開始が結びつけられているルールを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項4の方法において、前記ファジー推論ルールが、中程度の値でゆっくり減少している呼吸努力に呼気の中間が結びつけられているルールを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項6の方法において、前記ファジー推論ルールが、
(a)気流がゼロで急速に増加していれば、位相は約0回転である、
(b)気流が大きな正の値で定常状態であれば、位相は約0.25回転である、
(c)気流がゼロで急速に減少していれば、位相は約0.5回転である、
(d)気流が大きな負の値で定常状態であれば、位相は約0.75回転である、
(e)気流がゼロで定常状態であり、しかも5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が大きければ、位相は約0.9回転である、
(f)気流が正の値で位相が呼気であれば、位相は約0.1回転である、
(g)気流が負の値で位相が吸気であれば、位相は約0.6回転である、
(h)5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が小さければ、呼吸サイクルの位相は患者の予想呼吸数に等しい一定の割合で増加している、
(i)5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が大きければ、呼吸サイクルの位相は、時定数20秒で低域通過フィルターにかけられた現在の位相変化率に等しい安定した割合で増加している、からなる1群のルールから選択される少なくとも1つのルールを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
患者に同期した換気補助を提供する装置であって、
呼吸努力信号を発生する少なくとも1つのセンサーと、
呼吸気流と前記努力信号の両方を解析して、患者の瞬間的な呼吸の位相を求めて前記瞬間的な呼吸の位相と望ましい換気量の関数としての望ましい圧力要求信号を発生するプロセッサーと、
前記圧力要求信号に従って、前記患者に圧縮空気を供給するサーボ制御されたブロワと、からなる装置。
【請求項18】
請求項17の装置において、前記少なくとも1つのセンサーが、
(a)胸骨上切痕センサーと、
(b)食道圧力努力センサーと、そして、
(c)筋電計と、からなる1群の努力センサーから選ばれることを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項17の装置において、前記プロセッサーが前記呼吸努力信号に関連するファジー推論ルールを評価することを特徴とする装置。
【請求項20】
請求項18の装置において、前記プロセッサーが前記呼吸努力信号の変化率に関連するファジー推論ルールを評価することを特徴とする装置。
【請求項21】
請求項20の装置において、前記プロセッサーが呼吸気流に関連するファジー推論ルールを評価することを特徴とする装置。
【請求項22】
請求項21の装置において、前記プロセッサーが呼吸気流の変化率に関連するファジー推論ルールを評価することを特徴とする装置。
【請求項23】
請求項17の装置において、前記プロセッサーが呼吸気流に関連するファジー論理推論ルールを評価することを特徴とする装置。
【請求項24】
請求項23の装置において、前記プロセッサーが呼吸気流の変化率に関連するファジー論理推論ルールを評価することを特徴とする装置。
【請求項25】
請求項17の装置において、望ましい換気量がゼロでない最小値と最大値を有することを特徴とする装置。
【請求項26】
請求項25の装置において、前記望ましい圧力を要求する信号の発生には、患者の換気量の計算値と目標値の差の関数である誤差の値を導くことが含まれることを特徴とする装置。
【請求項27】
請求項20の装置において、前記ファジー推論ルールが、
(a)努力信号がゼロで急速に増加していれば、位相は約0回転である、
(b)努力信号が中程度でゆっくり増加していれば、位相は約0.2回転である、
(c)努力信号が大きくて急速に減少していれば、位相は約0.5回転である、
(d)努力信号が中程度でゆっくり減少していれば、位相は約0.7回転である、を含む1群のルールから選択される少なくとも1つのルールを含むことを特徴とする装置。
【請求項28】
請求項20の装置において、前記ファジー推論ルールが、概略ゼロの値で急速に増大している呼吸努力に吸気の開始が結びつけられているルールを含むことを特徴とする装置。
【請求項29】
請求項20の装置において、前記ファジー推論ルールが、中程度の値でゆっくりと増大している呼吸努力に吸気の中間が結びつけられているルールを含むことを特徴とする装置。
【請求項30】
請求項20の装置において、前記ファジー推論ルールが、大きな値で急速に減少している呼吸努力に呼気の開始が結びつけられているルールを含むことを特徴とする装置。
【請求項31】
請求項20の装置において、前記ファジー推論ルールが、中程度の値でゆっくり減少している呼吸努力に呼気の中間が結びつけられているルールを含むことを特徴とする装置。
【請求項32】
請求項22の装置において、前記ファジー推論ルールが、
(a)気流がゼロで急速に増加していれば、位相は約0回転である、
(b)気流が大きな正の値で定常状態であれば、位相は約0.25回転である、
(c)気流がゼロで急速に減少していれば、位相は約0.5回転である、
(d)気流が大きな負の値で定常状態であれば、位相は約0.75回転である、
(e)気流がゼロで定常状態であり、しかも5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が大きければ、位相は約0.9回転である、
(f)気流が正の値でしかも位相が呼気であれば、位相は約0.1回転である、
(g)気流が負の値でしかも位相が吸気であれば、位相は約0.6回転である、
(h)5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が小さければ、呼吸サイクルの位相は患者の予想呼吸数に等しい一定の割合で増加している、
(i)5秒の低域通過フィルターにかけた呼吸気流の絶対値が大きければ、呼吸サイクルの位相は、時定数20秒の低域通過フィルターにかけた後の、現在の位相変化率に等しい安定した割合で増加している、からなる1群のルールから選択される少なくとも1つのルールを含むことを特徴とする装置。
【請求項33】
患者に同期した換気補助を提供する方法であって、
少なくとも部分的には呼吸努力センサーからの信号から、患者の瞬間的な呼吸の位相を求めるステップと、
求められた位相と望ましい換気量を使って望ましい圧力の値を計算するステップと、
前記望ましい圧力の値に従って、前記患者に換気を供給するステップと、からなる方法。
【請求項34】
請求項33の方法において、前記呼吸努力センサーが、
(a)胸骨上切痕センサーと、
(b)食道圧力努力センサーと、そして、
(c)筋電計と、からなる1群の努力センサーから選ばれることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項34の方法において、前記位相を決定するステップが、前記呼吸努力センサーからの前記信号に関連するファジー推論ルールを評価することからなる方法。
【請求項36】
請求項35の方法において、前記位相を決定するステップが更に、前記呼吸努力センサーからの前記信号の変化率に関連するファジー論理推論ルールを評価することからなる方法。
【請求項37】
患者に同期した換気補助を提供する装置であって、
呼吸努力信号を発生する少なくとも1つのセンサーと、
前記努力信号を解析して患者の瞬間的な呼吸の位相を求め、前記瞬間的な呼吸の位相と望ましい換気量の関数としての望ましい圧力要求信号を発生するプロセッサーと、
前記圧力要求信号に従って、前記患者に圧縮空気を供給するサーボ制御されたブロワと、からなる装置。
【請求項38】
請求項37の装置において、前記少なくとも1つのセンサーが、
(a)胸骨上切痕センサーと、
(b)食道圧力努力センサーと、そして、
(c)筋電計と、からなる1群の努力センサーから選ばれることを特徴とする装置。
【請求項39】
請求項38の装置において、前記プロセッサーが前記呼吸努力信号に関連するファジー推論ルールを評価することを特徴とする装置。
【請求項40】
請求項39の装置において、前記プロセッサーが前記呼吸努力信号の変化率に関連するファジー推論ルールを評価することを特徴とする装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−246952(P2010−246952A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−139716(P2010−139716)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【分割の表示】特願2001−523067(P2001−523067)の分割
【原出願日】平成12年9月15日(2000.9.15)
【出願人】(500046450)レスメド・リミテッド (192)
【氏名又は名称原語表記】RESMED LTD