説明

2つの性腺刺激ホルモン放出ホルモンおよびそれらを単離するための方法

【課題】魚類の繁殖を誘導するための新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンを単離および同定すること。
【解決手段】2つの性腺刺激ホルモン放出ホルモンであるmuGnRH IおよびmuGnRH IIであって、該ホルモンは、それぞれ、アミノ酸配列QHWSAWRLPGおよびQHWSWGILPGからなり、該ホルモンは、性腺刺激ホルモンの生成を活性化することによって、魚類における誘導性繁殖のために組み合わせおよび単独の両方で有用である、ホルモン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2つの性腺刺激ホルモン放出ホルモンである、muGnRH IおよびmuGnRH II(それぞれ、アミノ酸配列番号1(QHWSAWRLPG)および配列番号2(GHWSWGILPG))に関し、これらは、組み合わせおよび単独の両方で、性腺刺激ホルモンの産生を活性化することによって魚類における誘導された繁殖に有用であり、そして、インディアンムーレルの脳からこれらを単離する方法、およびこの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンを使用して魚類における繁殖を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は、現在、魚類の誘導された繁殖のための最も利用可能なバイオテクノロジーのツールである。GnRHは、全ての脊椎動物における生殖のカスケードの重要な調節因子であり、かつ中心的な開始因子である。
【0003】
それは、デカペプチドであり、黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の下垂体放出を誘導する能力を有するブタおよびヒツジの海馬から単離される。それ以来、GnRHの1つの形態のみが、LHおよびFSHの放出を引き起こす唯一の神経ペプチドとして、胎盤哺乳動物(ヒトを含む)において最も同定されている。
【0004】
しかし、非哺乳動物種(モルモットを除く)において、12のGnRH改変体が、現在構造的に明らかにされており、これらのうち、7つの異なる形態は、魚類から単離されている。構造的改変体およびそれらの生物学的活性に依存して、多くの化学的アナログが調製され、それらのうちの1つは、サケ(sahnon)GnRHアナログであり、現在、魚類の繁殖によく使用されており、全世界で市販されている。疑問なのは、なぜ魚類は、雄および雌のパートナーから生殖細胞を放出するために、この神経ペプチドホルモンによる誘導を必要とするのか、そしてなぜ、それにより、精子による卵母細胞の受精が水性環境において生じ得るのかということである。
【0005】
実際、陸に固定された水における商業用の重要な培養可能な魚類のほとんどは、それらがホルモンによって誘導されるまで繁殖しない。海水または河川の水における魚類は、それらの繁殖のためにホルモンによる誘導を必要としない。しかし、海または河川における産生の収率を増加させるという意図で魚類を培養することは、可能ではない。培養は、制御可能な領域を必要とし、これが、収率を増大させるための水酸養殖が、陸に固定された水性本体(ここで、魚類は、通常、ホルモンの誘導なしに繁殖も産卵もしない)に制限される理由である。
【0006】
魚肉は、全ての動物の肉のうちで最も高品質であることが見出されているので、最近、全世界の潮流として、主要な律速因子が繁殖されている漁業産業が非常に増加している。魚類の誘導された繁殖は、現在、GnRH技術の発展によって首尾良く達成される。この概要において、本発明者らの食物供給の非常に重要な領域のバイオテクノロジーを理解するための簡単な説明が、与えられる。
【0007】
GnRHの構造 − GnRHをデカペプチドとして哺乳動物の海馬から単離した(Burgusら,1972;Mastuoら,1971)。それ以来、GnRHの幾つかの構造的改変体が、図1に見られ得るように記載されている(添付の図面の簡単な説明という表題の下に示される)。
【0008】
GnRHペプチド長における著しい保存が存在し、第1の4つの−NH2末端および2つの−COOH末端アミノ酸は、異なる脊椎動物において顕著に保存されている。5アミノ酸残基と8アミノ酸残基との間にいかなる変化が生じようとも、8位は、最も可変的であり、続いて、6位、5位そして7位が可変的である。この非常に可変的な8位は、種間での生物学的活性のバリエーションにおけるその役割および下垂体細胞膜上のGnRHレセプターを認識する際のその重要な役割を示唆する。その生物学的機能を実行するために、それは、まず、下垂体性腺刺激細胞膜上のそのレセプターを認識し、そして、そのようにしなければならない場合、その線状構造は、ループへと変化する。GnRHのNH2−末端およびCOOH−末端は、GnRHがそのレセプターに結合する場合、近接して対向し、これは、残基5〜8を含むP−II型rumからの提案された結果である。このPターンは、N末端とC末端とを整列させるヘアピンループを生成する(Sealfonら,1997)(図2)。(添付の図面の簡単な説明という表題の下に示される)。
【0009】
インドの魚類からのGnRH − インドは、幾つかの種類の固有の培養可能な硬骨魚を有するが、実際には、それらのGnRHについて何も知られていない。このことは、実に、非常に不幸なことであり、このために、本発明者らはなお、本発明者らの商業的に重要な培養可能な魚類の生殖の生物学を調査するために、他国からの供給に依存している。なぜなら、GnRHは、生殖の制御機構の重要な調節因子であるからである。
【0010】
数年前に、本発明者らは、この研究を開始し、そして重大な問題に直面した。このペプチドの単離のために、本発明者らは、精製の各工程において所望の分子を同定するためのアッセイシステムを必要とした。単離精製され、構造が決定された第1の魚類のGnRHは、サケGnRHであり(Sherwoodおよび協力者、1983)、そして最も現在のGnRHは、2000年に2つの異なるグループ(CarolsfeldらおよびRobinsonら)によって精製および特徴付けされた。この期間の間、多くのGnRH改変体が、この分子の免疫反応性に依存することによって単離されている。サケGnRHの単離の間、Sherwoodらは、哺乳動物の供給源由来の抗GnRH抗体を利用し、その後、彼女らは、他の供給源由来の異なるGnRH形態を単離することを可能にするサケ抗GnRH抗体を発展させた。
【0011】
本出願人らの研究室において、非特許文献1は、非常に信頼性の高いGnRHバイオアッセイを開発した。このバイオアッセイの基本的な原理は、ムーレル(murrel)の一次下垂体細胞培養物からGTHを放出させて、GTH−RIAによって放出されるGTHの量を決定することにある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Jamaluddinら、Gen comp Endocrinology 1989年5月;74(2):190−8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
(本発明の目的)
本発明の主な目的は、魚類の繁殖を誘導するための新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンを単離および同定することにある。
【0014】
本発明の別の主な目的は、インディアンムーレル(Indian Murrel)脳から新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンを単離および配列決定する方法を開発することにある。
【0015】
本発明のなお別の目的は、魚類における性腺刺激ホルモンの放出を増強させるための性腺刺激ホルモン放出ホルモンを開発することにある。
【0016】
本発明のなお別の目的は、相乗効果を示す性腺刺激ホルモン放出ホルモンを開発することにある。
【0017】
本発明のなお別の目的は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン活性を有する視床下部の種々の画分を開発することにある。
【0018】
本発明のなお別の目的は、GnRHの性腺刺激ホルモン放出ホルモン活性に対するカルシウムの効果を決定することにある。
【0019】
本発明のなお別の実施形態は、上記新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンを使用して、魚類の繁殖を誘導する方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明は、性腺刺激ホルモンの産生を活性化することによって、組み合わせておよび単独での両方において、魚類の繁殖を誘導するのに有用な、それぞれアミノ酸配列番号1(QHWSAWRLPG)およびアミノ酸配列番号2(QHWSWGILPG)の、2つの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモン(muGnRH IおよびmuGnRH II)、ならびにインディアンムーレル(Indian Murrel)脳からこれらの性腺刺激ホルモン放出ホルモンを単離する方法、ならびにさらに、これらの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンを使用して、魚類の繁殖を誘導する方法に関する。
好適な実施形態によれば、本発明は例えば、以下のホルモンなどを提供する:
(項目1)
2つの性腺刺激ホルモン放出ホルモンであるmuGnRH IおよびmuGnRH IIであって、該ホルモンは、それぞれ、アミノ酸配列QHWSAWRLPGおよびQHWSWGILPGからなり、該ホルモンは、性腺刺激ホルモンの生成を活性化することによって、魚類における誘導性繁殖のために組み合わせおよび単独の両方で有用である、ホルモン。
(項目2)
項目1に記載のホルモンであって、該ホルモンは、インディアンムーレル(Indian Murrel)の脳から得られる、ホルモン。
(項目3)
項目1に記載のホルモンであって、muGnRH IIは、muGnRH Iよりも活性な性腺刺激ホルモン放出ホルモンである、ホルモン。
(項目4)
項目1に記載のホルモンであって、muGnRH Iは、性腺刺激ホルモン放出を約30倍増加させる、ホルモン。
(項目5)
項目1に記載のホルモンであって、muGnRH IIは、性腺刺激ホルモン放出を約35倍増加させる、ホルモン。
(項目6)
項目1に記載のホルモンであって、該2つのホルモンは、魚類の誘導性繁殖において相乗効果を示す、ホルモン。
(項目7)
項目1に記載のホルモンであって、約1:1の比率で組み合わせたmuGnRH IおよびmuGnRH IIの両方は、性腺刺激ホルモン放出を約50倍増加させる、ホルモン。
(項目8)
項目1に記載のホルモンであって、該ホルモンは、魚類の誘導性繁殖において種障壁を示さず、性腺刺激ホルモン放出が、20〜50倍の範囲で増加する、ホルモン。
(項目9)
項目1に記載のホルモンであって、該ホルモンは、組み合わせおよび単独の両方において、哺乳動物GnRH、サケGnRH、GnRHスーパー活性アナログ、および市販のGnRH Ovaprimを含む他のGnRHよりも活性である、ホルモン。
(項目10)
2つの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンであるmuGnRH IおよびmuGnRH
IIを単離および配列決定する方法であって、該ホルモンは、それぞれ、アミノ酸配列QHWSAWRLPGおよびQHWSWGILPGからなり、該ホルモンは、性腺刺激ホルモンの生成を活性化することによって、魚類における誘導性繁殖のために組み合わせおよび単独の両方で有用であり、該方法は、
(a)酸性条件において視床下部をホモジ−ネートする工程;
(b)該ホモジネートを濾過して、脂肪および細胞破片を除去する工程;
(c)該濾液にアセトンを段階的に添加して、3つの沈殿(すなわちAC I、AC II、およびAC III)を得る工程;
(d)工程(c)の沈殿中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価する工程、
(e)さらに分子排除クロマトグラフィーを用いて活性沈殿AC IIのみを分画して、画分SG Iおよび画分SG IIを得る工程;
(f)工程(e)の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価する工程;
(g)アニオンカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーを使用して活性画分SG IIのみをさらに分画して、画分MQ I、MQ II、MQ III、およびMQ IVを収集する工程;
(h)工程(g)の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価する工程であって、画分MQ Iおよび画分MQ IIのみが該活性を有する、工程;
(i)カチオンカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーを使用して工程(h)のMQ Iをさらに分画して、画分MS I、MS II、MS III、およびMS IVを得る工程;
(j)工程(i)の画分における性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価する工程であって、MS II画分のみが該活性を有する、工程;
(k)逆相クロマトグラフィーを用いてMS II画分を分画して、画分SRP I、SRP II、およびSRP IIIを得る工程;
(l)工程(k)の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価する工程であって、画分SRP IIのみが該活性を有する工程;
(m)逆相クロマトグラフィーを用いて工程(h)のMQ IIをさらに分画して、画分QRP I、QRP II、およびQRP IIIを得る工程;
(n)工程(m)の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を計算する工程であって、画分QRP IIのみが該活性を有する工程;ならびに
(o)工程(n)および(l)のQRP II画分およびSRP II画分を配列決定し、それぞれmuGnRH IおよびmuGnRH IIと命名する工程;
を包含する、方法。
(項目11)
項目10に記載の方法であって、画分SG IIが、性腺刺激ホルモン放出を約20倍増加させる、方法。
(項目12)
項目10に記載の方法であって、画分SG IIが、性腺刺激ホルモン放出を約20倍増加させる、方法。
(項目13)
項目10に記載の方法であって、画分MQ Iが、性腺刺激ホルモン放出を約10倍増加させる、方法。
(項目14)
項目10に記載の方法であって、画分MQ IIが、性腺刺激ホルモン放出を約40倍増加させる、方法。
(項目15)
項目10に記載の方法であって、画分MS IIが、性腺刺激ホルモン放出を約45倍増加させる、方法。
(項目16)
項目10に記載の方法であって、カルシウムが、muGnRH IおよびmuGnRH
IIの性腺刺激ホルモン放出活性を増加させる、方法。
(項目17)
項目1に記載の性腺刺激ホルモン放出ホルモンを使用して魚類において繁殖を誘導する方法であって、該方法は、
魚類を、該性腺刺激ホルモン放出ホルモンに曝露して、性腺刺激ホルモンを放出するのを補助する工程;および
該性腺刺激ホルモンを使用して、魚類において繁殖を誘導する工程;
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、天然に存在する脊椎動物および原索動物GnRHの主なアミノ酸配列の比較を示す。下線を引いたアミノ酸は、哺乳動物GnRHと比較して、異なる形態を表す。
【図2】図2は、GnRHのヘアピンループを示す。
【図3】図3は、アセトン画分から得られた異なる画分のムーレル GnRH活性の試験を示す。3つの異なる画分の調製の後、100マイクログラムのタンパク質を、インビトロで下垂体細胞培養物に添加し、そしてGtHの放出をRIAによって測定した。
【図4】図4は、Sephadex G−25カラムからの哺乳動物GnRHの溶出プロファイルを示す。AC II画分を、1Nの酢酸に溶解し、そして24ml/時間の流速でSephadex G−25カラム(58×1.5cm)から溶出した。
【図5a】図5aは、FPLC MonoQカラムからのムーレルSephadex G−25 P−IIの溶出プロファイルを示す。SG II画分を、緩衝液A−20mM Tris(pH8.0)に溶解し、そしてFPLCアニオン交換カラム(Mono Q)へと注入した。まず、カラムを緩衝液Aで洗浄し、次いで、緩衝液B−20mM Tris(pH8.0)(1MのNaClを含む)で溶出した。
【図5b】図5bは、FPLC Mono SカラムからのムーレルMono Q未結合ピーク(MQ I)の溶出プロファイルを示す。MQ Iを、緩衝液A−50mM 酢酸アンモニウム(pH4.8)に溶解し、そしてFPLCカチオン交換カラム(Mono S)に注入した。まず、カラムを、緩衝液Aで洗浄し、次いで、緩衝液B−50mM 酢酸アンモニウム(pH4.8)(0.5M NaClを含む)で溶出した。
【図6】図6は、FPLC Pep−RPCカラムからのMono QP−II(a)およびMono SP−II(b)の溶出プロファイルを示す。GnRHに富んだ画分(Mono QP−II)および(Mono SP−II)を、個々に水中の溶媒A−0.1% TFAに溶解し、そしてFPLCペプチド逆相クロマトグラフィー(Pep−RPC)に個々に注入した。始めに、カラムを溶媒Aで洗浄し、次いでアセトニトリル中の溶媒B−0.1% TFAで溶出した。
【図7】図7は、muGnRH IおよびmuGnRH IIのアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(本発明の詳細な説明)
従って、本発明は、性腺刺激ホルモンの産生を活性化することによって、組み合わせておよび単独での両方において、魚類の繁殖を誘導するのに有用な、それぞれアミノ酸配列番号1(QHWSAWRLPG)およびアミノ酸配列番号2(QHWSWGILPG)の、2つの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモン(muGnRH IおよびmuGnRH II)、ならびにインディアンムーレル(Indian Murrel)脳からこれらの性腺刺激ホルモン放出ホルモンを単離する方法、ならびにさらに、これらの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモンを使用して、魚類の繁殖を誘導する方法に関する。
【0023】
さらに、本発明は、性腺刺激ホルモンの産生を活性化することによって、組み合わせておよび単独での両方において、魚類の繁殖を誘導するのに有用な、それぞれアミノ酸配列QHWSAWRLPGおよびQHWSWGILPGの、2つの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモン(muGnRH IおよびmuGnRH II)に関する。
【0024】
本発明の1つの実施形態において、上記ホルモンは、インディアンムーレル(Indian Murrel)脳から得られる。
【0025】
本発明の別の実施形態において、muGnRH IIは、muGnRH Iよりもさらに活性な性腺刺激ホルモン放出ホルモンである。
【0026】
本発明のなお別の実施形態において、muGnRH Iは、性腺刺激ホルモン放出を約30倍増加させる。
【0027】
本発明のなお別の実施形態において、muGnRH IIは、性腺刺激ホルモン放出を約35倍増加させる。
【0028】
本発明のなお別の実施形態において、muGnRH IおよびmuGnRH IIの両方を、1:1の割合で組み合わせることによって、性腺刺激ホルモン放出を約50倍増加させる。
【0029】
本発明のなお別の実施形態において、上記ホルモンは、誘導された魚類の繁殖において相乗効果を示す。
【0030】
本発明のなお別の実施形態において、muGnRH IおよびmuGnRH IIの両方を組み合わせることによって、性腺刺激ホルモン放出を約50倍増加させる。
【0031】
本発明のなお別の実施形態において、上記ホルモンは、誘導された魚類の繁殖において種障壁を示さず、性腺刺激ホルモン放出は、20〜50倍の範囲で増加する。
【0032】
本発明のなお別の実施形態において、上記ホルモンは、組み合わせておよび単独での両方において、他のGnRH(哺乳動物GnRH、サケGnRH、GnRHスーパー活性アナログ、および市販のGnRH Ovaprimが挙げられる)よりもさらに活性である。
【0033】
本発明の1つの実施形態において、それぞれアミノ酸配列QHWSAWRLPGおよびQHWSWGILPGの、2つの新規な性腺刺激ホルモン放出ホルモン(muGnRH IおよびmuGnRH II)を単離および配列決定する方法は、性腺刺激ホルモンの産生を活性化することによって、組み合わせておよび単独での両方において、魚類の繁殖を誘導するのに有用である。
【0034】
本発明の別の実施形態において、酸性条件で視床下部を均質化する。
【0035】
本発明のなお別の実施形態において、上記ホモジネートを濾過して、脂肪および細胞片を除去する。
【0036】
本発明のなお別の実施形態において、前記の濾液にアセトンを徐々に添加して、3つの沈殿物(すなわちAC I、AC II、およびAC III)を得る。
【0037】
本発明のなお別の実施形態において、前記沈殿物中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価する。
【0038】
本発明のなお別の実施形態において、分子排除クロマトグラフィーを用いて活性沈殿物AC IIのみをさらに分画し、画分SG Iおよび画分SG IIを得る。
【0039】
本発明のなお別の実施形態において、前記工程の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価する。
【0040】
本発明のなお別の実施形態において、アニオンカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーを使用して、活性画分SG IIのみをさらに分画し、画分MQ I、MQ II、MQ III、およびMQ IVを収集する。
【0041】
本発明のなお別の実施形態において、前記工程の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価し、画分MQ Iおよび画分MQ IIのみがこの活性を有する。
【0042】
本発明のなお別の実施形態において、カチオンカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーを使用してMQIをさらに分画し、画分MS I、MS II、MS III、およびMS IVを得る。
【0043】
本発明のなお別の実施形態において、前記工程の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価し、画分MS IIのみがこの活性を有する。
【0044】
本発明のなお別の実施形態において、逆相クロマトグラフィーを用いてMS II画分を分画し、画分SRP I、SRP II、およびSRP IIIを得る。
【0045】
本発明のなお別の実施形態において、前記工程の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を評価し、画分SRP IIのみがこの活性を有する。
【0046】
本発明のなお別の実施形態において、逆相クロマトグラフィーを用いて、さらにMQ IIを分画し、画分QRP I、QRP II、およびQRP IIIを得る。
【0047】
本発明のなお別の実施形態において、前記工程の画分中の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)活性を計算し、画分SRP IIのみがこの活性を有する。
【0048】
本発明のなお別の実施形態において、上記工程のQRP IIおよびSRP II画分を配列決定し、それぞれmuGnRH IおよびmuGnRH IIと命名する。
【0049】
本発明のなお別の実施形態において、画分SG IIは、性腺刺激ホルモン放出を約20倍まで増加する。
【0050】
本発明のなお別の実施形態において、画分SG IIは、性腺刺激ホルモン放出を約20倍まで増加する。
【0051】
本発明のなお別の実施形態において、画分MQ Iは、性腺刺激ホルモン放出を約10倍まで増加する。
【0052】
本発明のなお別の実施形態において、画分MQ IIは、性腺刺激ホルモン放出を約40倍まで増加する。
【0053】
本発明のなお別の実施形態において、画分MS IIは、性腺刺激ホルモン放出を約45倍まで増加する。
【0054】
本発明のなお別の実施形態において、カルシウムは、muGnRH IおよびmuGnRH IIの性腺刺激ホルモン放出活性を増加する。
【0055】
前記新規性腺刺激ホルモン放出ホルモンを使用して、魚類の繁殖を誘導する方法(前記方法は、前記性腺刺激ホルモン放出ホルモンに魚類を曝露し、性腺刺激ホルモンの放出を助け、そして前記性腺刺激ホルモンを使用して魚類の繁殖を誘導する工程を包含する)。
【0056】
(ムーレル GnRHの精製)
((i)抽出および溶媒分画)
視床下部を、冷やしながら、Potter−Elvehjemホモジナイザーにおいて、1mM PMSFを含有する1N酢酸を用いてホモジナイズした。泡立ちを避けるため、ホモジナイズを、非常に慎重かつゆっくり行った。粗製ホモジネートのpHを、pH 3.2に維持した。抽出材料を二重に折り畳んだチーズクロスを介して濾過し、脂肪および細胞片を除去した。
【0057】
次いでそれを凍結乾燥し、そして−80℃でさらなる使用まで保存した。乾燥抽出物を、0.1N酢酸中でもどし、等量の冷却アセトンを添加し、−20℃で15分間、維持した。
【0058】
厚い沈殿物(AC I)が、懸濁液の底に現れるが、透明な上清をデカントし、そして2倍量の冷却アセトンを添加し、そして−20℃で30分間維持し、その後、別の薄い沈殿物層(AC II)が現れた。再度、透明な上清をデカントし、そして2倍量の冷却アセトンをそれに添加し、そして−20℃で14時間維持した。
【0059】
これは、別の薄い沈殿物層(AC III)の出現を生じ、そして透明な上清への冷却アセトンのさらなる添加は、−20℃で3日間維持した後にさえ、少しの沈殿物の形成も生じなかった。これらの3つのアセトン画分を、石油エーテル(40〜60℃)で抽出し、アセトン、脂質および他の疎水性物質を除去した。
【0060】
最終沈殿物を、8,000g、15分間、4℃で遠心分離し、そして残渣をさらなる使用まで、−80℃で保存した。GnRH濃縮画分を、インビトロの下垂体細胞培養物からのGTH放出の原理に基づいて、AC IIとして同定した(図3)。
【0061】
(分子排除クロマトグラフィー)
AC IIをSephadex G 25カラム上の分子排除クロマトグラフィーに供することにより、GnRHをさらに精製した。0.05M PBSを用いたカラムの溶出は、2つの異なるピーク(SG IおよびSG II)を生じた(図4)。従って、哺乳動物GnRHを流し、カラム上のパターンを同定した。インビトロにおける下垂体細胞インキュベーションからのGTH放出の原理に基づいて、GnRHが、SG IIに局在することを見出した。以下の表1に示される。
【0062】
(表1)
ムーレル下垂体細胞インキュベーションからのGtH放出期間における、Sephadex G−25溶出画分の生物活性
【0063】
【表1】

((ii)イオン交換クロマトグラフィー)
これを、FPLC Mono Q(アニオン性)およびMono S(カチオン性)イオン交換クロマトグラフィーを用いて、さらに精製した。プールし、透析し、そして凍結乾燥した分子排除クロマトグラフィー工程(SG II)の活性ピークを、Mono Qカラムに負荷し;Mono Qカラムを20mM Tris(pH 8.0)で洗浄して、非結合性ピーク(MQ I)を生じたが、20mM Tris(pH 8.0)含有NaCl(1.0 M)を用いた勾配溶出においては、3つの結合性ピーク(MQ II、MQ IIIおよびMQ IV)を得た(図5a)。
【0064】
インビトロの下垂体細胞培養物からのGTH放出の原理に基づいた、GnRH活性のアッセイは、結合性MQ IIが最大GnRH活性を有することを同定したが、MQ IIIおよびMQ IVは、極わずかな活性を示した(以下の表2aに示される)。
【0065】
(表2a)
ムーレル下垂体細胞インキュベーションからのGtH放出期間における、FPLC Mono QおよびMono S溶出画分の生物活性
【0066】
【表2a】

各ピーク由来の2μgのタンパク質を、インキュベーションシステムに加えた。値は、4つの実験の平均±SEMである。
【0067】
驚いたことに、Mono Q溶出の非結合性ピーク(MQ I)はまた、有意な量のGnRH活性を示し、従って、GnRHのカチオン形態の存在を示唆した。
【0068】
従って、MQ IをMono S(カチオン性)カラムに充填し;50 mM酢酸アンモニウム(pH 4.8)でカラムを洗浄し、単一の非結合性ピーク(MS I)を得たが、0.5M NaClを用いるその後の勾配溶出においては、3つの結合性ピーク(MS II、MS IIIおよびMS IV)を得た(図5b)。4つ全てのピークにおける、GnRH活性のアッセイは、MS IIが、GnRHに非常に富むことを同定した(以下の表2bに示される)。
【0069】
【表2b】

各ピーク由来の2μgのタンパク質を、インキュベーションシステムに加えた。値は、4つの実験の平均±SEMである。
【0070】
(iii)逆相クロマトグラフィー
本発明者らは、ここで、研究中の2つの形態のGnRHを有していた−一方は、アニオン性形態(MQ II)であり、他方は、カチオン性形態(MS II)であった。両方を、Pep−RPCカラムクロマトグラフィーによってさらに精製した。両方の場合において、MQ IIまたはMS nのいずれかでカラムを充填した後、未結合のタンパク質を、水中0.1%のトリフルオロ酢酸で溶出し、一方、結合した物質を、アセトニトリル中0.1%のトリフルオロ酢酸の勾配で溶出した。MQ IIは、1つの未結合ピーク(QRP I)および2つの結合ピーク(QRP HおよびQRP HI)に分離しした(図6a);MS Hは、1つの未結合ピーク(SRP I)および2つの結合ピーク(SRP IIおよびSRP ID)になった(図6b)。GnRHは、QRP HおよびSRP Hに位置することが見出され(図6の挿入図)、そしてmuGnRHI(アニオン性)およびmuGnRHH(カチオン性)と称した。
【0071】
(iv)精製GnRHの機能的活性
muGnRH Iおよびmu GnRH IIの両方は、ムーレル下垂体細胞からGTHが放出される際に、非常に活性であり、muGnRH IIの方が、わずかに活性が大きい。さらに、これら2つのGnRHは、異なる種のコイにおいてほとんど等しく作用し、種の境界を示さない(以下の表3に示される)。
【0072】
(表3)
ムーレル GnRH IおよびIIに応答する、異なるコイの下垂体からの性腺刺激ホルモン放出の比較
【0073】
【表3】

p<0.01(コントロールと比較した場合)
驚くべきことに、組み合わせて添加した場合、muGnRH IおよびIIは、組合せの結果として非常に有意なGTH放出の増加を示す(以下の表4に示される)。
【0074】
【表4】

値は、5つの実験の平均±SEMである。
p<0.01(哺乳動物またはサケのGnRHと比較した場合)
**p<0.01(GnRH過活性アナログと比較した場合)。
【0075】
実際、単独であろうと組合せであろうと、muGnRHは、哺乳動物GnRH、サケGnRHまたはGnRH過活性アナログと比較して有意に大きな活性を有していた。
【0076】
本発明の実施形態において、GnRH IおよびIIへのカルシウムの添加は、GnRH IおよびIIの性腺刺激ホルモン放出活性を増加させる。
【0077】
これら両方の合成GnRHは、研究室環境および現場環境において、サケGnRH、そのアナログおよび他の過活性アナログ、ならびに市販製品の「Ovaprim」と比較してはるかに大きな活性を示した。これら2つのデカペプチド(ムーレル GnRHIおよびII)のアミノ酸配列は、本発明者らが特許を申請したため、本明細書中に示すことが出来なかった。従って、このIndian Product(ムーレル GnRH I+II)は、国内市場および国際市場のための大きな期待が持たれる。
【0078】
上記の結果は、インディアンムーレル GnRH(I+II)を、非常に有望な世界的競合相手として位置付ける。なぜなら、Syndel Laboratory,Canadaによって調製されるサケGnRHアナログ(Ovaprim)は、市場を支配しており、養殖魚を繁殖するために世界中で大規模に販売されているからである。
【0079】
ムーレル GnRH(GnRH IおよびII)の両方は、新規であり、現在までに発見された天然に存在するGnRHは、このような配列を有さない(図7)。合成GnRHの活性は、コイを繁殖させるための研究室(下垂体細胞培養物)および現場で試験されている。
【0080】
上記の新規の性腺刺激ホルモン放出ホルモンを使用して、魚の繁殖を誘導する方法は、魚をこの性腺刺激ホルモン放出ホルモンに曝露して、性腺刺激ホルモンの放出を助ける工程、およびこの性腺刺激ホルモンを使用して魚類の繁殖を誘導する工程を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−292836(P2009−292836A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211136(P2009−211136)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【分割の表示】特願2003−564080(P2003−564080)の分割
【原出願日】平成15年1月30日(2003.1.30)
【出願人】(599032822)カウンセル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (6)
【出願人】(504290701)デパートメント オブ バイオテクノロジー (1)
【Fターム(参考)】