説明

2コンポーネント型湿分硬化性コーティング組成物

【課題】2パート型湿分硬化性組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも1種のシラン末端化ポリウレタンを含む第1のパートと、少なくとも1種のシラノール末端化ポリシロキサンを含む第2のパートとを含み;前記シラン末端化ポリウレタンベースのポリマーが一般式−A−(CH−SiR(OR3−nの少なくとも1つの末端基を有し;前記シラン末端化ポリウレタンは天然油ポリオールおよびその誘導体を用いて製造され;当該組成物は、湿分硬化した後で、水接触角が101°より大きい表面を形成する。当該組成物は低い表面エネルギーおよび向上した機械的特性をもたらす防汚コーティングにおける適用に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した機械的強度および優れた汚損放出(foul releasing)特性を有するポリウレタン−ポリシロキサン−Si(PU−PDMS−Si)有機−無機ハイブリッドネットワークを形成することができる2パート型(two−part)湿分硬化性コーティング組成物に関する。このコーティング組成物は防汚(antifouling)コーティングの分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
生物汚損は海洋環境のどこでも起こり、海洋人工物についてのかなりの問題である。汚損微生物を「落とす」試みの1つは、シリコーンエラストマーをベースにした自己清浄化汚損放出コーティングを使用することである。ポリジメチルシロキサン(PDMS)ベースのシリコーンエラストマー汚損放出コーティングはゴム状弾性、非常に低い表面エネルギーおよび滑らかな表面を有する。これら表面上での海洋生物の付着強度は低く、それら海洋生物は流体力学的抗力によって生じる剪断応力下でコーティング表面から外れる。しかし、PDMSは極度に柔らかく、そして良好な損傷許容性を有していない。シリコーン成分は容易に磨り減るので、シリコーンゴムベースの防汚コーティングは頻繁な再塗装を必要とし、これは非常に煩雑で、コストがかかりかつ時間がかかる。
【0003】
PDMSベースのシリコーンコーティングの機械的特性を向上させる1つの効果的なアプローチは、PDMSを、より良好な機械的特性を有する他のポリマー、例えば、ポリウレタン(PU)とブレンドすることである。ポリシロキサンおよびポリウレタンは非常に異なるが非常に有用な物理的および機械的特性を有しており、これらは数え切れない用途でのそれらの広範囲の使用を導いてきた。汚損放出コーティングにおいて、ポリジメチルシロキサンとの組み合わせにおいて、機械的強度、弾性、付着抵抗性および耐摩耗性の理由でポリウレタンは目立っている。しかし、ポリシロキサンとポリウレタンとの均質な物理的ブレンドは、これらの樹脂の高い不適合性およびそれらの最初の混合の後で相分離を受けるその顕著な傾向のせいで、得られるのが非常に困難である。シラン末端化PUはシーラント、接着剤もしくはバインダーの領域においてすでに知られている。米国特許出願公開第2007/0129528A1号は、第1のパートが湿分硬化性シリル化ポリウレタン樹脂と、シラノール末端化ジオルガノポリシロキサンのための架橋剤とを含み、第2のパートがシラノール末端化ジオルガノポリシロキサンおよび縮合触媒を含む、ポリウレタン−ポリシロキサン樹脂混合物の2包装型システムを記載する。得られる混合物は均質な物理的外観、高い弾性係数、高い引っ張り強さ、および高い耐熱性を示す。しかし、シラン末端化PUの製造に使用されると開示されるポリオールはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオールおよびポリエステルエーテルポリオールである。このシステムにおいて、シリル化PUプレポリマーとシラノール末端化ポリシロキサンとの架橋生成物は様々な有利な特性を有するが、特に時間の経過による環境耐久性、例えば、満足できない耐UV性、耐酸化性、および耐アルカリ性における欠点を依然として有する。これら欠点を克服することが望まれており、かつ汚損放出コーティングとして潜在的に使用されるPU−PDMS−Siハイブリッドシステムの製造におけるさらにコスト効果的でかつ環境に優しい原料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0129528A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は驚くべきことに、天然油、豊富な再生可能資源が、圧縮強度および弾性のような優れた機械的特性並びに優れた環境耐久性をも示す生成物へのヒドロキシル官能基の導入を通じて、PUの製造に成功裏に使用されうることを見いだした。さらに、天然油ポリオール(NOP)およびその誘導体から製造されたポリマーの疎水性はPU−PDMS−Siシステムに優れた物理的および化学的特性をさらに提供した。NOPをベースにしたPU−PDMS−Siシステムから得られる新規の湿分硬化性コーティング組成物は、優れた機械的特性、低い表面エネルギーおよび優れた汚損放出特性だけでなく、向上した耐UV性、耐酸化性および耐アルカリ性のような環境耐久性も有していたことが認められた。これら有利な特性はPU−PDMS−Siシステムが、汚損放出コーティングの分野における適用に非常に適することを可能にする。このコーティングは、シリル化PUおよびシラノールPDMSの相分離のせいで、特別な表面形態を示した。このコーティングシステムにおいて、コーティングの表面で起こる微小相分離が特別な表面構造を生じさせる。適切な種類および分子量を有するシラノール末端化ポリシロキサンおよびシリル化PUを適切に選択することによりドメインサイズが制御されうる。このコーティングは充分に特定された表面構造を有し、そして汚損生物の定着を阻害することが示された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも1種のシラン末端化ポリウレタンを含む第1のパートと、少なくとも1種のシラノール末端化ポリシロキサンを含む第2のパートとを含む2成分型湿分硬化性組成物であって、前記シラン末端化ポリウレタンベースのポリマーが一般式−A−(CH−SiR(OR3−n(式中、Aはウレタンもしくは尿素結合基であり、RはC1−12アルキル、アルケニル、アルコキシ、アミノアルキル、アリールおよび(メタ)アクリルオキシアルキル基から選択され、Rはそれぞれ置換もしくは非置換のC1−18アルキルもしくはC−C20アリール基であり、mは1〜60の整数であり、並びにnは0〜1の整数である)の少なくとも1つの末端基を有し、前記シラン末端化ポリウレタンが天然油ポリオールおよびその誘導体を用いて製造されている、2パート型湿分硬化性組成物に関する。シラノール末端化ポリシロキサンの少なくとも1種は少なくとも1つのSi−OH基を有する。組成物は、湿分硬化した後で、水接触角が101°より大きい表面を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、天然油ポリオールおよびその誘導体を、ポリウレタン−ポリシロキサン組成物の製造に導入することによって、湿分硬化プロセス後に、より疎水性でかつより安定な有機−無機ハイブリッドネットワークを達成する、2パート型湿分硬化性組成物を提供する。このネットワークによって、塗膜はより低い表面エネルギーおよびより良好な機械的特性だけでなく、優れたアルカリ耐久性およびUV耐久性並びに耐酸化性も達成する。
【0008】
本発明の2パート型湿分硬化性組成物は、少なくとも1種のシラン末端化ポリウレタンを含む実質的に水でない第1パートを含む。本明細書における、用語「ポリウレタン」はポリマー単位がウレタン結合、すなわち−O−CO−NH−、および/または1以上の尿素結合、すなわち、−NH−CO−NH−によって連結されている樹脂を意味する。
【0009】
シラン末端化ポリウレタンは少なくとも1種のイソシアナート官能化シランと1種以上のポリオールとを反応させることにより、または少なくとも1種のイソシアナート官能化シランと1種以上のヒドロキシル末端化プレポリマーとを反応させることにより、または少なくとも1種のアミノ官能化シランと1種以上のイソシアナート末端化プレポリマーとを反応させることにより製造されうる。プレポリマーはポリウレタン、ポリウレア、ポリエーテル、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリラート、ポリカルボナート、ポリスチレン、ポリアミンまたはポリアミド、ポリビニルエステル、スチレン/ブタジエンコポリマー、ポリオレフィン、ポリシロキサンおよびポリシロキサン尿素/ウレタンコポリマーからなる群から選択されうる。
【0010】
本発明のシラン末端化ポリウレタンは、天然油ポリオールおよびその誘導体を使用して本質的に製造される。本明細書においては、この天然油ポリオールは、分子あたり少なくとも1つまたはそれより多いヒドロキシル基を有するポリオールであり、これは反応物質である(a)少なくとも約45重量パーセントのモノ不飽和脂肪酸もしくはその誘導体を含む脂肪酸もしくは脂肪酸の誘導体の混合物と、少なくとも1種の開始剤との反応生成物である、少なくとも1種のポリエステルポリオールもしくは脂肪酸由来ポリオール、並びに(b)場合によっては、(a)のポリオールとは異なっており、そしてポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカルボナートポリオール、アクリル系ポリオール、ポリブタジエンポリオールおよびポリシロキサンポリオールから選択される少なくとも1種のポリオール;の反応生成物である。
【0011】
NOPは、その疎水性および良好な化学物質耐性のせいでこの出願に特に適する。適切なNOPには、非修飾NOP、例えば、天然種子油ジオールモノマーなど;並びに修飾NOP、例えば、飽和、モノ−ヒドロキシル、ビ−ヒドロキシルおよびトリ−ヒドロキシルメチルエステルのモノマー、約32%、38%、28%および2%の重量比で再構成されたNOP分子である、ダウケミカルカンパニーから市販のGen1 NOP DWD2080などが挙げられる。別の例においては、市販のGen4 NOPはUnoxol(商標)(ユノキソール)ジオールと、種子油モノマーから分離される種子油ジオールモノマーとを反応させることにより得られる。Gen4 NOPは、170g/モルのヒドロキシル当量を有する下記の構造を有する:
【0012】
【化1】

【0013】
天然油由来のポリオールは、天然および/または遺伝的に改変された植物種子油および/または動物由来脂肪のような再生可能原料資源に基づくもしくはこれに由来するポリオールである。この油および/または脂肪は概してトリグリセリド、すなわち、グリセロールに結合した脂肪酸を含んでなる。好ましいのは、少なくとも約70パーセントの不飽和脂肪酸をトリグリセリド中に有する植物油である。天然産物は少なくとも約85重量パーセントの不飽和脂肪酸を含むことができる。好ましい植物油の例には、これに限定されないが、例えば、ヒマシ油、大豆油、オリーブ油、落花生油、菜種油、トウモロコシ油、ゴマ油、綿実油、キャノーラ油、ベニバナ油、亜麻仁油、パーム油、グレープシード油、ブラックキャラウェー油、カボチャ核油、ルリヂサ種子油、ウッド胚芽油、アプリコット核油、ピスタチオ油、アーモンド油、マカダミアナッツ油、アボカド油、サジー油、大麻油、ヘーゼルナッツ油、月見草油、野バラ油、アザミ油、クルミ油、ヒマワリ油、ジャトロファ種子油またはこれらの組み合わせからのものが挙げられる。
【0014】
さらに、藻類のような生物から得られる油も使用されうる。動物産物の例には、ラード、牛脂、魚油およびこれらの混合物が挙げられる。植物および動物ベースの油/脂肪の組み合わせも使用されうる。
【0015】
天然油ベースのポリオールを製造するためにいくつかの化学物質が使用されうる。再生可能な資源のこのような改変には、これに限定されないが、例えば、エポキシ化、ヒドロキシル化、オゾン分解、エステル化、ヒドロホルミル化またはアルコキシル化が挙げられる。このような改変は当該技術分野において一般的に知られている。
【0016】
ある実施形態においては、天然油ベースのポリオールは、動物もしくは植物油/脂肪がエステル交換にかけられ、そして構成要素の脂肪酸エステルが回収される多工程プロセスによって得られる。この工程の後に、構成要素の脂肪酸エステル中の炭素炭素二重結合の還元的ヒドロホルミル化が行われて、ヒドロキシメチル基を形成し、次いで、ヒドロキシメチル化脂肪酸エステルと適切な開始剤化合物との反応によってポリエステルもしくはポリエーテル/ポリエステルを形成する。この多工程プロセスは少なくとも疎水性部分を有するポリオールの生産をもたらす。
【0017】
天然油ベースのポリオールの生産のための多工程プロセスにおける使用のための開始剤は従来の石油ベースのポリオールの生産に使用されるあらゆる開始剤であることができる。この開始剤は、例えば、1,3シクロヘキサンジメタノール;1,4シクロヘキサンジメタノール;ネオペンチルグリコール;1,2−プロピレングリコール;トリメチロールプロパン;ペンタエリスリトール;ソルビトール;スクロース;グリセロール;ジエタノールアミン;アルカンジオール、例えば、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール;1,4−シクロヘキサンジオール;2,5−ヘキサンジオール;エチレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール;ビス−3−アミノプロピルメチルアミン;エチレンジアミン;ジエチレントリアミン;9(1)−ヒドロキシメチルオクタデカノール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン;8,8−ビス(ヒドロキシメチル)トリサイクルデセン;ジメロールアルコール(Henkel Corporationから入手可能な36炭素ジオール);水素化ビスフェノール;9,9(10,10)−ビスヒドロキシメチルオクタデカノール;1,2,6−ヘキサントリオールおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されうる。別の場合には、開始剤は、グリセロール;エチレングリコール;1,2−プロピレングリコール;トリメチロールプロパン;エチレンジアミン;ペンタエリスリトール;ジエチレントリアミン;ソルビトール;スクロース;または、上記化合物のいずれか中に存在するアルコールもしくはアミン基の少なくとも1つがエチレンオキシド、プロピレンオキシドもしくはこれらの混合物と反応させられている上記化合物のいずれか;並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されうる。別の場合には、開始剤はグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、スクロース、ソルビトール、および/またはこれらの混合物である。
【0018】
ある実施形態においては、開始剤はエチレンオキシドもしくはエチレンオキシドと少なくとも1種の他のアルキレンオキシドとの混合物でアルコキシ化されて、100〜500の分子量を有するアルコキシ化開始剤を生じさせている。
【0019】
少なくとも1種の天然油ベースのポリオールの平均ヒドロキシル官能価は1〜10の範囲;または別の場合には2〜6の範囲である。
【0020】
天然油ベースのポリオールは100〜3,000、例えば、300〜2,000、または別の場合には350〜1,500の範囲の数平均分子量を有することができる。
【0021】
本発明のNOPは以下のいずれとブレンドされてもよい:脂肪族および芳香族ポリエステルポリオール、例えば、カプロラクトンベースのポリエステルポリオール、ポリエステル/ポリエーテルハイブリッドポリオール、ポリ(テトラメチレンエーテルグリコール)PTMEGベースのポリエーテルポリオール;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、およびこれらの混合物をベースにしたポリエーテルポリオール;ポリカルボナートポリオール;ポリアセタールポリオール、ポリアクリラートポリオール;ポリエステルアミドポリオール;ポリチオエーテルポリオール;ポリオレフィンポリオール、例えば、飽和もしくは不飽和ポリブタジエンポリオール。
【0022】
天然油ベースのポリオールから製造される本発明の組成物は、ポリオールの骨格の疎水性に起因する疎水性特性を有することができ、これはコーティングの固有の腐蝕耐性に重要である。本発明のNOP組成物は、水性媒体の侵入を妨げる飽和炭化水素ポリマー鎖である。よって、本発明のNOPベースのコーティングは優れた耐アルカリ性、耐水性および耐UV性を提供する。
【0023】
シラン末端化ポリウレタンはNOPとイソシアナート官能化シランとの反応によって製造されうる。さらに、NOPとジイソシアナートとの反応から得られるイソシアナートもしくはヒドロキシル末端化プレポリマーはNOPポリオールを置き換えるために使用されることができ、そしてイソシアナート官能化シランもしくはアミノ官能化シランはプレポリマーの末端基に従って使用されうる。プレポリマーがイソシアナート基で末端化される場合には、アミノ末端化シランが使用されうる。プレポリマーがヒドロキシル基で末端化される場合には、イソシアナート官能化シランが使用されうる。
【0024】
適するジイソシアナートの例には、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアナート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナート、1,10−デカメチレンジイソシアナート、1,4−シクロヘキサンジイソシアナート、m−およびp−フェニレンジイソシアナート、2,6−および2,4−トリエンジイソシアナート、キシレンジイソシアナート、4−クロロ−1,3−フェニレンジイソシアナート、4,4’−ビスフェニレンジイソシアナート、4,4’−メチレンジフェニルイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナート、1,5−テトラヒドロナフチレンジイソシアナート、1,12−ドデシルジイソシアナート、ノルボルナートジイソシアナート、2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアナートおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0025】
適するアミノ末端化シランの例には、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびこれらの混合物などが挙げられる。
【0026】
ヒドロキシル末端化プレポリマー樹脂に有用なシリル化反応物質はイソシアナート末端および容易に加水分解可能な官能基、例えば、1〜3個のアルコキシ基を含むものである。適するイソシアナート末端化シランには、これに限定されないが、イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、イソシアナトメチルメチルジエトキシシラン、イソシアナトメチルメチルジメトキシシランおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
シリル化ポリマーは、分子鎖の末端にシラン基を有する。シリル化ポリマーの末端基は下記一般式を有しうる:
−A−(CH−SiR(OR3−n
式中、Aは官能性連結基、例えば、これに限定されないがウレタンもしくは尿素基である。RはC1−12アルキル、アルケニル、アルコキシ、アミノアルキルもしくはアリール基または(メタ)アクリルオキシアルキル基であり得る。Rはそれぞれ置換もしくは非置換のC1−18アルキルもしくはC−C20アリール基である。mは1〜60の整数である。nは0〜1の整数である。湿分硬化性組成物中のシラン末端化ポリウレタンの含量は、組成物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、10〜99%、あるいは70〜95%、あるいは70〜90%、あるいは85〜90%、またはあるいは85〜95%である。
【0028】
好ましくは、シラン末端化ポリウレタンは、500〜100,000、より好ましくは800〜50,000の範囲の数平均分子量を有する。
【0029】
実質的に非水の(non−water)第1のパートは湿分硬化性シリル化ポリウレタン樹脂に加えて、シラノール末端化ジオルガノポリシロキサンの架橋のための少なくとも1種の架橋剤を含むことができる。
【0030】
硬化性組成物の第1のパート中の架橋剤成分は、シラノール末端化ポリシロキサンの架橋に有効なものであり、後者は硬化性組成物の第2のパートの成分である。ある実施形態においては、架橋剤は下記一般式のアルキルシリケートである:
12(R13O)(R14O)(R15O)Si
式中、R12はそれぞれ置換もしくは非置換のC〜C60炭化水素基もしくはアルコキシ基から選択され、R13、R14およびR15は独立してそれぞれ置換もしくは非置換のC1−18アルキルまたはC−C20アリール基である。
【0031】
本明細書において有用な架橋剤には、テトラ−N−プロピルシリケート(NPS)、テトラエチルオルトシリケート、メチルトリメトキシシランおよび同様のアルキル置換アルコキシシラン組成物が挙げられる。
【0032】
本発明の2パート型湿分硬化性組成物は、下記式を有するシラノール末端化ポリシロキサンを含む実質的に非水の第2のパートを含む:
【化2】

式中、R、R、RおよびR基は独立して一価C〜C60炭化水素基から選択され、この基は場合によってはフッ素もしくは塩素で置換されており、R、R、R、R10およびR11基は独立してヒドロキシル基またはそれぞれ置換もしくは非置換のC〜C60炭化水素基から選択され、mおよびnのそれぞれは独立して0〜1,500の整数であり、並びにm+n≧2である。
【0033】
上記シラン末端化ポリシロキサンポリマーおよびその上述のようなアルキルシリケート架橋剤との架橋は米国特許出願公開第2005/0192387号にさらに詳述されている。具体的なシラン末端化ポリシロキサンには、末端Si−OH基を有する市販の製品、例えば、以下の構造のPDMSが挙げられる:
【化3】

【0034】
好ましくは、シラノール末端化ポリシロキサンは、500〜200,000、より好ましくは1,000〜50,000の範囲の数平均分子量を有する。
【0035】
本発明の2成分型湿分硬化性組成物は第1のパートおよび/または第2のパートに縮合触媒を含む。
【0036】
本発明者は、追加の成分が第1のパートおよび/または第2のパートに、その成分がどちらのパートと適合性であるにしても、特性に実質的に影響することなく、場合によっては組み込まれることができると考える。追加の成分には、例えば、充填剤、UV安定化剤、酸化防止剤、接着促進剤、硬化促進剤、チキソトロープ剤、可塑剤、湿分スカベンジャー、顔料、染料、界面活性剤、溶媒および殺生物剤が挙げられる。
【0037】
疎水性汚損放出表面のために、当該技術分野において従来使用されてきた疎水化剤が、2成分型組成物の少なくとも一方のパートに場合によって使用される。適切な疎水化剤には、Si−ベースの疎水化剤、例えば、シロキサン、シラン、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(添加剤として);フルオロ−ベースの疎水化剤、例えば、フルオロシラン、フルオロアルキルシラン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリビニルフルオリドまたは官能性フルオロアルキル化合物;並びに炭化水素疎水化剤、例えば、反応性ワックス、ポリエチレン、またはポリプロピレンが挙げられる。
【0038】
新規の2包装型湿分硬化性汚損放出組成物は室温下で湿分条件で自己架橋することができ、有機−無機ハイブリッドネットワークを形成することができ、そして向上した機械的耐久性および優れた汚損放出性能を有する海洋塗料における適用に適する。シラン末端化ポリウレタンのSi−ORとシラノール末端化ポリシロキサンのSi−OH基との間の加水分解および共縮合の後で、コーティング組成物は架橋されうる。
【0039】
シリル化ポリウレタンとシラノールポリシロキサンとの間のSi−O−Si結合の形成は、汚損放出性能および機械的耐久性のような物理的特性を向上させ、そして容易な湿分硬化プロセスは実際の適用プロセスを、特に熱硬化コーティングにおける熱処理が困難な大きな表面のものに対して、非常に容易にする。
【0040】
NOPの疎水性特性は、耐UV性、耐酸化性、および耐アルカリ性をはじめとする優れた耐久性をさらに提供する。一方で、NOPベースのPU−PDMS−Siコーティングは従来の非−NOPポリオールベースのPU−PDMS−Siシステムと同じ低い表面エネルギーおよび優れた汚損放出特性を示す。
【0041】
特定された表面形態は異なるポリマードメインの微小相分離を伴う複雑な表面構造である。ある実施形態においては、ポリマードメインはシリル化PUおよびシラノールPDMS相である。2つのドメインは異なる表面エネルギーを示す。有意に低い表面エネルギーを有する一方のドメインは主としてシリル化シリノールPDMSから構成されており、一方、周りの材料はPDMSをほとんどもしくは全く含まないシリル化PUから構成されている。
【0042】
防汚コーティング組成物は、本明細書に記載される湿分硬化性組成物のシラン末端化ポリウレタンおよびシラノール末端化ポリシロキサンに加えて、1種以上の追加のポリマー系バインダー、例えば、エポキシおよびアクリル系ポリマーなどを含むことも可能である。
【0043】
本明細書においては、それぞれの好ましい技術的解決策およびより好ましい技術的解決策における技術的特徴は互いに組み合わせられて、他に示されない限りは、新たな技術的解決策を形成することができる。簡潔さのために、出願人はこれらの組み合わせの記載を省略する。しかし、これら技術的特徴を組み合わせることにより得られる全ての技術的解決策は本明細書中に明確に文字通り記載されていると見なされるべきである。
【実施例】
【0044】
1.原料
【表1】

【0045】
2.試験手順
模擬フジツボプルオフ(pull off)強さ試験
この試験は、エルコメーター(Elcometer(商標))プルオフ強さ試験器を用いて、文献(Kohl JG&Singer IL,Pull−off behavior of epoxy bonded to silicone duplex coatings(シリコーン二重コーティングへ結合されたエポキシのプルオフ挙動),Progress in Organic Coatings, 1999,36:15−20)に記載されるような変更された手順に従って行われた。
【0046】
エルコメーター(商標)装置のために、10ミリメートル直径のアルミニウムスタッド(studs)が設計された。コーティングされたパネルの表面にスタッドをのり付けするために、エポキシ接着剤(Araldite(商標)アラルダイト樹脂)が使用された。約1時間の硬化後に、過剰なエポキシは除かれた。次いで、エポキシ接着剤は3日間室温で硬化させられた。次いで、コーティング表面からスタッドが外れるまで、スタッドはエルコメーター(商標)装置によって引っ張り上げられた。各試験について、少なくとも3つの反復サンプルが使用され、プルオフ強さ(MPa)の平均値が記録された。模擬フジツボプルオフ強さが0.5MPa未満である場合には、それはそのコーティングが良好な汚損放出特性を有することを示す。
【0047】
アルカリ耐性試験
この試験は以下に示されるような改変された手順に従って行われた。それはコーティングがアルカリ水溶液の影響に耐える能力を試験する。コーティングは1.0MのNaOH水溶液に24時間の間沈められた。この浸漬後、コーティングの外観が肉眼で評価された。耐アルカリ性は、外観の変化も、レジスト膜の剥離も観察されなかった場合に「G(良好)」と評価され、またはレジスト膜のリフティングおよび/または剥離、および/または黄変が観察された場合に「NG(不良)」と評価された。
【0048】
クイック紫外線(QUV)試験
コーティングは、標準QUV曝露試験手順に従って、QUVウェザロメータにおいて168時間の加速老化に曝露された。試験の全ての結果は表1に示される(N/AはそのサンプルについてQUV実験なしを意味する)。
【0049】
実施例1
合成手順
170g/モルのヒドロキシル当量を有する17gのGen4ポリオール(ダウケミカル)が、機械式攪拌装置を備えた250mLの丸底フラスコに入れられた。25gのイソシアナトプロピルトリエトキシシランIPTESおよび18gの酢酸ブチルがこの丸底フラスコに添加された。この混合物は75℃で窒素保護下で攪拌された。0.1重量%の触媒DBTDLが添加された。この反応はイソシアナート官能基の完全な消失まで進められ、これはIR分析によって確認された。5gのシラン官能化NOP溶液(70%固形分)が0.35gのシラノール末端化PDMS(XIAMETER(商標)PMX−0156、ダウコーニング)と混合された。0.1重量%のDBTDLおよび0.2重量%のp−トルエンスルホン酸が添加された。次いで、この溶液は20分間混合された。完全に混合された溶液はミキサーから取り出され、2〜5分間静値してほとんどの気泡を除いた。上記配合物はブレードコーターを用いてアルミニウムパネル上にコーティングされた。300μmの厚さを有する湿潤コーティングが清浄なアルミニウムパネルに適用された。コーティングされたパネルは、接触角測定および模擬フジツボプルオフ強さ試験の前に、室温で少なくとも2日間乾燥させられた。良好な汚損放出特性を有するコーティング表面は典型的には101°以上の静的接触角を示す。模擬フジツボプルオフ試験は良好な汚損放出特性を有するコーティング表面は典型的には0.5MPaより小さい模擬フジツボプルオフ強さを示す。
【0050】
湿分硬化性PU−PDMS−Siコーティングの配合は表1に示された。全ての配合において、IPTESはNOPを末端処理する官能化シランとして使用され、PDMS PMS−0156は配合物中のシラノールPDMSとして使用された。
【0051】
【表2】

色はおおむね変化なし、白亜化なし。
色はおおむね変化なし、白亜化なし。
色は黄色に変わる、白亜化なし。
色は黄色に変わる、白亜化なし。
【0052】
実施例2
シラン末端化ポリブタジエンベースのポリウレタンポリマーの製造
NCO/OHモル比=2で、NOPと過剰のジイソシアナートとの間で反応が行われた。イソシアナート末端化ポリウレタンプレポリマーはアミノ官能化シランと反応させられて、そしてNOPベースのシラン末端化ポリウレタンポリマーが得られた。
【0053】
4.25gのDWD2080が、機械式攪拌装置を備えた50mlの丸底フラスコに入れられた。1.68gの1,6−ヘキサメチレンジイソシアナートがこの丸底フラスコに添加された。0.1重量%の触媒DBTDLが添加された。この混合物は75℃で窒素保護下で1時間攪拌された。この混合物を室温に冷却した後で、2.75gの酢酸ブチルおよび2.2gの3−アミノプロピルトリエトキシシランが、空気と接触することのないように注意深くフラスコに添加された。この反応はイソシアナート官能基の完全な消失まで進められ、これはIR分析によって確認された。得られたサンプルは透明でかつ室温で安定であった。5gのシラン官能化NOP溶液(60%固形分)が0.35gのシラノール末端化PDMS(XIAMETER(商標)PMX−0156)と混合された。0.1重量%のDBTDLおよび0.2重量%のp−トルエンスルホン酸が添加された。コーティングは実施例1におけるように製造された。得られたコーティングの接触角および模擬フジツボプルオフ強さは、それぞれ109°および0.2MPaであった。
【0054】
実施例3
NOPおよびジイソシアナートのモル比がNCO/OH=0.5に変えられたことを除いて実施例2と同じ。シリル化プロセスはイソシアナトプロピルトリエトキシシランをヒドロキシル末端化PUプレポリマーと反応させることによって行われた。コーティングは実施例2におけるように製造された。得られたコーティングの接触角および模擬フジツボプルオフ強さは、それぞれ107°および0.3MPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のシラン末端化ポリウレタンを含む第1のパートと、少なくとも1種のシラノール末端化ポリシロキサンを含む第2のパートとを含む2パート型湿分硬化性組成物であって、湿分硬化した後で、水接触角が101°より大きい表面を形成する2パート型湿分硬化性組成物。
【請求項2】
前記シラン末端化ポリウレタンが、一般式
−A−(CH−SiR(OR3−n
(式中、Aはウレタンもしくは尿素結合基であり、RはC1−12アルキル、アルケニル、アルコキシ、アミノアルキル、アリールおよび(メタ)アクリルオキシアルキル基から選択され、Rはそれぞれ置換もしくは非置換のC1−18アルキルもしくはC−C20アリール基であり、mは1〜60の整数であり、並びにnは0〜1の整数である)
の少なくとも1つの末端基を含み、
前記シラン末端化ポリウレタンが天然油ポリオールおよびその誘導体を用いて製造される、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記シラン末端化ポリウレタンが、少なくとも1種のイソシアナート官能化シランと1種以上のポリオールとを反応させることにより;または少なくとも1種のイソシアナート官能化シランと1種以上のヒドロキシル末端化プレポリマーとを反応させることにより;または少なくとも1種のアミノ官能化シランと1種以上のイソシアナート末端化プレポリマーとを反応させることにより製造される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリオールが天然油ポリオールであり、前記天然油ポリオールが分子あたり少なくとも1つまたはそれより多いヒドロキシル基を有するポリオールであり、前記天然油ポリオールが、反応物質である(a)少なくとも約45重量パーセントのモノ不飽和脂肪酸もしくはその誘導体を含む、脂肪酸もしくは脂肪酸の誘導体の混合物と、少なくとも1種の開始剤との反応生成物である、少なくとも1種のポリエステルポリオールもしくは脂肪酸由来ポリオール、並びに(b)場合によっては、(a)のポリオールとは異なる少なくとも1種のポリオール;の反応生成物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
シラノール末端化ポリシロキサンが下記式を有する請求項1に記載の組成物:
【化1】

式中、R、R、RおよびR基は独立して一価C〜C60炭化水素基から選択され、当該基は場合によってはフッ素もしくは塩素で置換されており、R、R、R、R10およびR11基は独立してヒドロキシル基またはそれぞれ置換もしくは非置換のC〜C60炭化水素基から選択され、mおよびnのそれぞれは独立して0〜1,500の整数であり、並びにm+n≧2である。
【請求項6】
当該2パート型組成物の全乾燥重量を基準にして、前記シラン末端化ポリウレタンの量が10〜99重量%の範囲であり、および前記シラノール末端化ポリシロキサンの量が1〜90重量%の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
当該2パート型組成物の全乾燥重量を基準にして、前記シラン末端化ポリウレタンの量が70〜95重量%の範囲であり、および前記シラノール末端化ポリシロキサンの量が5〜30重量%の範囲である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記シラン末端化ポリウレタンが500〜100,000の範囲の数平均分子量を有し、および前記シラノール末端化ポリシロキサンが500〜200,000の範囲の数平均分子量を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記シラン末端化ポリウレタンが800〜5000の数平均分子量を有する請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
当該組成物の第1のパートが1種以上の架橋剤をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物の第1のパートと第2のパートとを混合する工程、混合物を基体に適用する工程、および湿分に曝露して組成物の硬化を開始する工程を含む、基体をコーティングする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物から得られた塗膜。
【請求項13】
請求項1に記載の湿分硬化性組成物から得られた防汚コーティング。

【公開番号】特開2012−229408(P2012−229408A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−88012(P2012−88012)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】