説明

2ピース缶体用ラミネート金属板および2ピースラミネート缶体

【課題】高い加工度を有し、かつ、レトルトのような厳しい環境に耐える2ピース缶体に好適なラミネート金属板および2ピースラミネート缶体を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂フィルム層を金属板の両面に有する2ピース缶体用のラミネート金属板。この時、ラミネート金属板を構成する缶体の外面側になるポリエステル樹脂フィルム層の結晶化温度は60〜100℃であり、かつ、表面の中心線表面粗さ(Ra)は0.2〜1.8μmである。好ましくは、缶体の外面側になる前記ポリエステル樹脂フィルム層は、ブチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:40〜100質量%と、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:0〜60質量%とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ピース缶体用ラミネート金属板および2ピースラミネート缶体に関し、詳しくは絞りしごき缶(DI缶)のように高い加工度を有し、かつレトルト処理等の厳しい環境で使用される食品缶詰用2ピース缶の缶体に使用されるラミネート金属板および2ピースラミネート缶体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DI缶は、缶胴と底の部分につなぎ目の無い2ピース缶の一つであり、金属板を絞り成形(カッピング)して作製した絞り缶をしごき成形または再絞り・しごき成形して加工される缶である。ビール、清涼飲料などの飲料用容器やスープ、野菜などの食品用容器として使用されている。
ここで、絞り成形とは、カッピングプレスと称される絞り成形機において、円盤状に切り抜いた金属板をしわ押さえ装置により固定し、ポンチとダイスの組み合わせからなる工具で底付きのカップ状に成形する加工方法である。また、しごき成形とは、絞り成形により得られたカップの側壁を薄く伸ばす加工である。
絞り成形において、円盤状に切り抜かれた金属板の直径がしごきポンチの直径に比べて大きすぎる場合には1回の絞り成形では所要の形状のカップを得ることが困難なことがあり、その場合2回の絞り成形(絞り−再絞り成形)で所要の形状に成形することが一般に行われる。この工程では、カッピングプレスにより比較的直径の大きなカップが製造され、次いでボディメーカー(缶体成形機)において先ず再絞り成形が行われ、その後しごき成形を実施することになる。
【0003】
ここで、DI缶の素材としては、これまでは錫めっき鋼板またはアルミ薄板等の金属板が通常用いられてきた。そして、これらの金属板をDI成形により所望の形状に成形にした後に、洗浄、表面処理、塗装等の後処理が行われ、製品(DI缶)となる。しかし、最近は、このような後処理を省略または簡略化できるようにと、フィルムをラミネートした金属板(以下、ラミネート金属板と称することもある)を用いてDI成形することで後処理すること無しに容器製品とする方法が検討されている。
【0004】
フィルムがラミネートされた金属板をDI成形して2ピース缶体とする場合、フィルムがしごかれて伸ばされた時に穴が開いたり、下地金属から剥離したりしないようにフィルムには非常に高い加工性が要求される。さらに、このようなラミネート金属板を2ピース缶体に成形して食品缶詰に使用する場合、レトルト処理のような厳しい環境に置かれるため、フィルムには高度の加工を施された後の耐久性も必要となる。
このように、ラミネート金属板をDI成形して2ピース缶体として食品缶詰等の容器に使用する場合、フィルムには非常に高い加工性と耐久性が必要になる。しかし、飲料缶等のそれほど厳しくない用途に使用するDI用ラミネート金属板の検討はなされているものの、このような高度の加工と厳しい使用環境の両方に耐えるものはこれまで検討されていない。
【0005】
例えば、特許文献1〜4には、ブチレンテレフタレートとエチレンテレフタレートからなるフィルムを主にアルミニウム板にラミネートして絞りしごき加工用に用いた金属板被覆用フィルムが例示されている。しかし、特許文献1〜4に記載されているような平滑なラミネート金属板では、DI成形した時にフィルムに欠陥が発生したり、下地金属への密着性が低下しやすいため、食品缶詰等の容器に使用する場合にはレトルト等の厳しい環境で十分な耐久性が得られない可能性がある。特に、アルミニウム板に比べ強度の高い鋼板を下地とした場合には、成形時にフィルムにダメージが発生しやすく厳しい環境で使用できないことがある。
【特許文献1】特開2002−88233号公報
【特許文献2】特開2001−335682号公報
【特許文献3】特開2004−58402号公報
【特許文献4】特開2004−249705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、これまで、ラミネート金属板、特にラミネート鋼板を用いてDI缶のように加工度が高く、かつレトルトのような厳しい環境に耐える2ピース缶の缶体を得る方法はどこにも開示されていない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、高い加工度を有し、かつ、レトルトのような厳しい環境に耐える2ピース缶の缶体の素材として好適なラミネート金属板および2ピースラミネート缶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
加工度が高い2ピース缶の加工においては、樹脂層が高度の加工に追随可能な加工性を有していることが必要である。
ここで、高加工性の樹脂組成の検討は多くなされているが、樹脂表面の形状という観点からの検討は少ない。樹脂表面の凹凸を増して加工性を向上させる方法としては、一般に滑剤と言われる小径のシリカ等の粒子を樹脂層に添加することにより微細な凹凸を付与して加工金型等に対する表面摩擦を低減し、加工しやすくする試みがなされている。
しかし、このような滑剤の添加でさらに大きな表面凹凸を付与しようとすると、滑剤の大きさを大きくしたり量を増やしたりする必要があるが、フィルム製造において溶融した樹脂を冷却しながら薄く延ばす時にフィルムの欠陥や破れ等が発生しやすくなり難しい。
そこで、本発明者らは、平滑なフィルムをラミネートする時に、ラミネートロールによりそのフィルム樹脂表面に大きな凹凸を付与させることが可能であることに着目し検討を進めた。その結果、フィルム樹脂表面に大きな凹凸を付与させることで、加工性が大きく向上することを見出した。
詳細には以下の通りである。
絞りしごき加工においては、缶体の外面側になるフィルム表面を工具がしごいてフィルムを伸ばしていく。そのため、缶体の外面側になるフィルムの摩擦抵抗の軽減が成形性を大きく向上させることになる。
一般に加工金型に対する表面摩擦を低減するために使用される滑剤の大きさは1μm以下でそのような滑剤を添加した樹脂層の表面凹凸は非常に微細なものである。一方で、ラミネートロールによりそのフィルム樹脂表面に凹凸を付与させる方法では、ラミネートロールの表面形状やラミネート時の温度、圧力を制御することで、ラミネート時にラミネートロールの表面形状に応じた形状の凹凸を付与することができる。
例えば、中心線表面粗さ(Ra)0.5μmのゴムロールをラミネートロールとして用いて、適切なラミネート条件でラミネートした場合、中心線表面粗さで0.2〜1.8μmのレベルの凹凸をフィルム樹脂表面に付与することが可能である。その加工性については、表面摩擦が大きく低減し加工応力も低減されることにより加工性が飛躍的に向上する。
このような表面形状のラミネート金属板では、DI缶のような加工度の高い成形加工をした場合にも、フィルム剥離やフィルム破れ等の発生が起こりにくく、また、成型加工後のフィルム密着性が高いため、レトルト処理などの厳しい環境に置かれた時にフィルム剥離等欠陥が発生しにくい。さらに、成形加工後に熱処理を行うことにより、成形加工により発生したフィルム内部応力が緩和されフィルム密着性はさらに向上するので、成形加工後に熱処理を行うことが好ましいことも判明した。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]ポリエステル樹脂フィルム層を金属板の両面に有し、缶体の外面側になるポリエステル樹脂フィルム層の結晶化温度は60〜100℃であり、かつ、表面の中心線表面粗さ(Ra)は0.2〜1.8μmであることを特徴とする2ピース缶体用ラミネート金属板。
[2]前記[1]において、缶体の外面側になる前記ポリエステル樹脂フィルム層は、ブチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:40〜100質量%と、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:0〜60質量%とからなることを特徴とする2ピース缶体用ラミネート金属板。
[3]前記[1]または[2]において、缶体の内面側になるフィルム層表面の中心線表面粗さ(Ra)が0.2〜1.8μmであることを特徴とする2ピース缶体用ラミネート金属板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の2ピース缶体用ラミネート金属板を、絞りしごき成形することにより製造される2ピースラミネート缶体。
[5]前記[4]において、前記絞りしごき成形の加工工程途中および/又は加工工程後において、150℃以上220℃以下の温度で熱処理を行うことにより製造される2ピースラミネート缶体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のラミネート金属板を素材として用いることで、樹脂層の剥離や破断がなく、さらにレトルト等の厳しい環境においても使用可能な2ピース缶用のラミネート缶体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明では2ピース缶を対象とするが、中でも、DI缶のような高い加工度を有する2ピース缶に対して好適に使用される。
【0012】
まず、本発明のラミネート金属板に用いられる下地の金属板について説明する。
下地の金属板としては、アルミ素材も使用可能であるが、アルミ板に比較して経済性に優れる鋼板が好適に使用できる。好適な鋼板としては、一般的なティンフリースチールやぶりきなどである。ティンフリースチールとしては、表面に付着量50〜200mg/mの金属クロム層と、金属クロム換算の付着量が3〜30mg/mのクロム酸化物層を有することが好ましい。また、ぶりきとしては、0.5〜15g/mのすずめっき量を有するものが好ましい。板厚は、特に限定されないが、0.15〜0.30mmの範囲のものが好適に使用できる。
【0013】
次いで、本発明のラミネート金属板を構成する樹脂層について説明する。
【0014】
本発明のラミネート金属板を構成する樹脂層は加工性、耐久性や食品安全性などの点からポリエステル樹脂を基本とする。ポリエステル樹脂フィルム(以下、単にフィルムと称することもある)は、機械的強度に優れ、摩擦係数が小さく潤滑性が良好で、ガスや液体に対する遮蔽効果すなわちバリア性に優れ、かつ安価である。従って、DI成形のように、伸び率が300%にもなる加工度の高い成形にも十分に耐えることができ、皮膜は成形後も健全である。
【0015】
さらに、食品缶詰に使用される場合には通常レトルト処理が施されるため、厳しいレトルト環境における耐久性が必要となる。レトルト環境では高温の水蒸気にさらされながらラミネート金属板の温度は急速に120〜130℃程度に上昇する。このような高温環境では、フィルム樹脂が結晶化している場合には水蒸気がフィルム内に侵入しにくいため変化は小さいが、非晶成分が多い場合水蒸気が容易にフィルム内に侵入しフィルムを劣化させる。特に、外面側のフィルムは高温の水蒸気に直接さらされるため非常に劣化しやすく、また白濁して透明性が失われるため外観も損なわれる。
一方で、DI成形されるラミネート金属板のポリエステル樹脂フィルム層は十分な加工性を持つように、加工性に乏しい結晶成分を減らして加工性に優れる非晶成分の多い構造になっている。そのため、ラミネート缶に加工された後にレトルト処理を施される時に非常に劣化しやすい状態にある。
そこで、本発明では、フィルムを結晶化しやすい構造にしてレトルト開始直後の昇温時にフィルムを結晶化させることによりレトルトによる劣化を抑えることとする。そのような耐レトルト性能に適当な物性としてラミネート後のフィルム樹脂の結晶化温度を60〜100℃にすることにより解決できる。ゆえに、本発明のラミネート金属板においては、少なくとも缶体の外面側になるポリエステル樹脂の結晶化温度を60℃以上100℃以下とする。結晶化温度が100℃超えではレトルトによるフィルム劣化を十分抑制できない。一方、結晶化温度が60℃未満ではフィルムをDI加工する時にも結晶化が進行し加工性を損なうため適当でない。
ここで、フィルムの結晶化温度は、以下の方法で決定する。ラミネート金属板より剥離したフィルムについて、示差走査熱量計(DSC)を用い、室温から10℃/分の昇温速度で吸熱発熱曲線を測定して、100〜200℃の間にある結晶化に伴う発熱ピークのピーク温度を結晶化温度とする。
【0016】
フィルム樹脂の結晶化温度を60〜100℃とするためには、結晶化速度の速いポリエステル樹脂を使用することが適当であり、特に結晶化速度の速い樹脂の一つであるポリブチレンテレフタレートを使用するのが好適である。しかしながら、ポリブチレンテレフタレートを単独で使用すると結晶化が速すぎてDI加工のような高加工に追随しない。そこで、ポリエチレンテレフタレートとブレンドして使用するのが適当である。
好適なポリエステル樹脂の組成としては、ブチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:40〜100質量%とエチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:0〜60質量%からなるものが好ましい。この組成範囲において結晶化温度が適正なものとなり、レトルト処理に対する高い耐久性が得られる。ブチレンテレフタレート樹脂の量が40質量%より少ないと結晶化温度は100℃より高くなり十分な耐レトルト性が得られない場合がある。さらには、ブチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂40〜80質量%とエチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂20〜60質量%とからなるものがより好ましい。
本発明では、ブチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂とエチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂は、それぞれの特性を損なわない範囲でテレフタル酸以外のジカルボン酸成分やエチレングリコールあるいはブタンジオール以外のグリコール成分を含んでもよい。ここで、ブチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂とは、ブチレンテレフタレート単位を80モル%以上、好ましくは85モル%以上含有する樹脂を指し、エチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とする樹脂とは、エチレンテレフタレート単位を、80モル%以上、好ましくは85モル%以上含有する樹脂である。
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分やエチレングリコールあるいはブタンジオール以外のグリコール成分としては、例えば、ジカルボン酸として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸等が使用でき、グリコール成分として、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA等が使用できる。
【0017】
しかし、レトルトによるフィルム劣化抑制の観点から結晶化温度を60〜100℃とすると、結晶化がかなり速いため加工性は劣る傾向にある。すなわち加工の途中で加工熱や加工伸びによりフィルム樹脂の結晶化が進行するため、高度の加工では樹脂が結晶化して加工性が低下し、それ以上の加工が難しくなり高い加工度が得られにくい。そこで、加工度に劣る結晶化温度の低い樹脂を使用しながらDI成形のような高い加工度の成形を可能とする方法を検討した。
加工度が高い2ピース缶体の成形加工においては、加工時の表面摩擦の影響も大きく、一般に表面摩擦が小さいほど加工性が高い傾向がある。特にしごき加工においてはフィルム表面を摩擦しながらフィルムを引き伸ばすためその摩擦抵抗が低いほど加工発熱も小さく加工しやすい。
表面摩擦を低下させるために、樹脂表面に凹凸を付与して加工性を高めることが一般的にもなされている。例えば、微細粒子を樹脂に添加して、その粒子を樹脂表面に露出させることで表面粗さを増加させ、加工性を向上させる方法がある。しかし、添加できる微細粒子の大きさには限度があり、通常の滑剤を入れたフィルムではせいぜい表面粗さRaが0.1μm程度で、大きな表面凹凸を付与することは困難である。そこで、本発明者らが検討したところ、微細粒子を樹脂に添加せずに平滑な樹脂フィルムを用いて、ラミネート時にフィルム樹脂表面に凹凸を付与させることにより、表面摩擦が大きく低減され、加工応力が低減し加工性が飛躍的に向上することがわかった。
【0018】
そこで、本発明では、樹脂層の表面凹凸について、中心線表面粗さ(以下、表面粗さと称することもある)で0.2μm以上1.8μm以下と規定する。通常飲料缶等の容器には高い光沢が求められるため、そのような容器に使用されるラミネート金属板の表面も平滑に保たれる。そのような高光沢のラミネート金属板に使用されるフィルムは通常表面粗さRaが0.1μm以下であり、ラミネート後もフィルム表面の平滑さは保たれ表面粗さは0.1μm程度である。そのような平滑なラミネート金属板ではDI成形でフィルムに欠陥が発生したり下地との密着性が低下しやすくなり、使用環境の厳しい食品缶詰の用途においては使用できない。
一方、表面粗さが0.2μmを超える粗さを樹脂層表面に付与すると加工時に金型とフィルムの接触面積が低下し、摩擦抵抗が減少するため成形抵抗が低減されることにより加工性が向上し、フィルムと下地との密着性も向上するため使用環境の厳しい食品缶詰の用途においても使用が可能となる。また、表面粗さが高まるほど加工性は高まりその結果耐久性も高まる傾向にあることがわかった。より好ましくは表面粗さが0.4μm以上である。一方、表面粗さが1.8μmを超えるとフィルムの厚さにムラが生じるためフィルム欠陥等が発生しやすくなる。よって1.8μmを上限とする。より好ましくは1.0μm以下である。
【0019】
なお、樹脂層(フィルム)表面の表面粗さは、ラミネートロールの表面形状やラミネート時の温度、圧力を制御することによりコントロールできる。ラミネートロールの表面粗さが粗く、ラミネート時の温度、圧力が高いほど粗さが大きくなる傾向にあるが、特にラミネート温度の影響が大きく、フィルム樹脂の融点付近とすることにより表面粗さが高まる。また、ラミネートロール表面の温度を高く設定することによって表面粗さが大きくなる傾向にある。
ラミネート温度によりフィルム樹脂の表面粗さをコントロールする場合は、(樹脂の融点−8℃)以上、(樹脂の融点+12℃)以下が適当である。ラミネート温度が、(樹脂の融点−8℃)より低いと表面粗さが十分に大きくならず、(樹脂の融点+12℃)を超えると表面が粗くなりすぎてフィルムの厚さにムラが生じるためフィルム欠陥等が発生しやすくなる他、フィルム樹脂がラミネートロールに融着する可能性がある。
【0020】
以上のような表面粗さを有するフィルム樹脂層表面では光沢が抑えられた艶消し状の表面となる。この点を考慮し、60度光沢では30以上100以下が好ましい。光沢が低いほど表面粗さが大きく加工性も高いが、30より小さいと表面粗さが大きすぎてフィルムの厚さにムラが生じる場合がある。好ましくは50以上である。一方、光沢が100より高いと表面粗さは小さく加工性の向上は見込めない場合がある。
【0021】
また、内面側のポリエステル樹脂層については、外面側の樹脂層と同じものを用いても良いが、内面側はレトルト時にも直接高温の水蒸気にさらされることはないので外面側ほど結晶化温度の低い樹脂を使用する必要は無く、加工性についてはDI成形に耐えるものであればよい。このような観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂ではDI成形に十分な加工性が無いので、テレフタル酸とエチレングリコールを主成分として、加工性と耐久性のバランスから、共重合成分として、5モル%以上15モル%以下のイソフタル酸成分またはシクロヘキサンジメタノールを含有した共重合ポリエステル樹脂が好ましい。
【0022】
共重合成分比率が低い場合、分子が配向し易く、加工度が高くなると、フィルム剥離が発生したり、缶高さ方向に平行な亀裂(破断)が生じる傾向にある。また、加工後の缶体に熱処理を施した場合も同様に配向が進む。このような問題を防止する観点から、本発明では共重合成分の含有量の好適下限を5モル%とする。配向のし難さの点からは、共重合成分の比率は高いほど良いが、15モル%を超えるとフィルムコストが高くなるため経済性が劣る他、フィルムが柔軟になり耐傷付き性や耐薬品性が低下する可能性がある。よって、共重合成分の含有量の好適上限を15モル%とする。
【0023】
缶体の内面側になるフィルム層についても、加工性の観点から外面側と同様に中心線表面粗さ(Ra)が0.2〜1.8μmであることが好ましい。外面側と同様に表面粗さを高めることにより加工性をさらに向上させることができる。その好ましい範囲の上下限の限定理由は外面側と同様である。
【0024】
さらに、本発明が対象とする高加工度の2ピース缶体の成形に樹脂層が追随する為には、ラミネート金属板の樹脂層の配向状態も重要である。2軸延伸等で作成されたフィルムは面内で延伸方向に配向しているが、ラミネート後もこの配向が高い状態にあると、加工に追随できず、破断にいたることがある。このような観点から、面配向係数は0.04以下が好ましい。面配向係数0.08〜0.15の2軸延伸フィルムを用いてこのようなラミネート金属板を作成するには、ラミネート時の温度を十分に上げ配向結晶を融解してやればよい。押出し法によって作製されたフィルムは、ほとんど無配向であるので、上記観点からは好適である。同様に、金属板に直接溶融樹脂をラミネートするダイレクトラミネート法も同様の理由で好適となる。
【0025】
本発明のラミネート金属板に使用されるポリエステル樹脂層中には顔料や滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、帯電防止剤、潤滑剤、結晶核剤などの添加剤を加えて用いても良い。また、本発明で規定する樹脂層に加えて他の機能を有する樹脂層をポリエステル樹脂層の上層または下層に配置しても良い。例えば、内面、外面側の各ポリエステル樹脂層の下層にエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、または非晶性ポリエステル樹脂をコーティングし、ポリエステル樹脂と下地金属板の湿潤接着性を高めることも可能である。
樹脂層の厚みについては、膜厚が薄くなると加工による欠陥が発生しやすくなるが、本発明で規定する樹脂層では薄い樹脂層であっても好適に用いることができる。樹脂厚は加工程度やその他要求特性に応じて適宜選択すればよいが、例えば、5μm以上50μm以下のものが好適に使用できる。特に30μm以下で樹脂層が薄い場合において、本発明の効果の寄与が大きい領域であり好ましい。
【0026】
次いで、本発明のラミネート金属板について、説明する。
本発明のラミネート金属板は、前述したポリエステル樹脂層を前述した金属板の両面に有する。金属板への樹脂のラミネート方法は特に限定されない。2軸延伸フィルム、あるいは無延伸フィルムを熱圧着させる熱圧着法、Tダイなどを用いて金属板上に直接樹脂層を形成させる押し出し法など適宜選択することができる。いずれの方法でも十分な効果が得られることが確認されている。
【0027】
本発明のDI成形では、市販のカッピングプレス、およびDI成形装置が使用可能であり、その仕様による差はない。これらの装置において、適切な絞り成形としごき成形とを組み合わせて所望の形状を得る。ここで、絞り成形において、円盤状に切り抜かれた金属板の直径がしごきポンチの直径に比べて大きすぎる場合には1回の絞り成形では所要の形状のカップを得ることが困難なため、その場合2回の絞り成形(絞り−再絞り成形)で所要の形状に成形する。この工程では、カッピングプレスにより比較的直径の大きなカップが製造され、次いでボディメーカー(缶体成形機)において先ず再絞り成形が行われ、その後しごき成形を実施する。
DI成形用クーラントとしては、水または食品安全性の高い成分を含む水溶液が好ましい。このようなクーラントを使用すれば、DI成形装置でのしごき成形(および再絞り成形)において装置内を循環して成形時の冷却を行う時に缶に付着しても簡単な洗浄ですませることができる。一方、カッピングプレスの絞り加工時の潤滑としては、ラミネート金属板表面にワックスを塗布することが好ましく、融点30〜80℃のパラフィンや脂肪酸エステル系のワックスを10〜500mg/m塗布したものが良好な成形性を示す。
【0028】
DI成形装置での成形後は、洗浄して、もしくは洗浄すること無しにそのまま、その後の乾燥とフィルムの密着性向上のために熱処理を行うことが好ましい。この時の熱処理温度は150℃以上が好ましい。さらに好ましくは200℃以上である。一方、フィルムの耐久性を劣化させないためには、熱処理温度は、220℃以下が好ましい。また樹脂層融点以下であることが好ましい。
熱処理は、加工によって生じる内部応力を緩和するためのものであり、内部応力を緩和することで下地金属への密着性を高める効果がある。本発明で定める高加工度の缶体は、樹脂層において歪の程度が大きく、大きな内部応力が生じやすい傾向にあるため、この内部応力により樹脂層の剥離が生じやすくなる可能性がある。そこで、熱処理を施すことで、その内部応力が緩和され、密着力の低下を抑制し剥離が防げる。
熱処理温度がポリエステル樹脂の融点よりも十分低い方が、表層の美観を保ち易く、樹脂が他の接触物に付着したりするのを回避し易い。好適な熱処理温度の上限は220℃である。一方、熱処理温度の下限は、内部応力緩和の効率を考慮して定められたものである。ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)以上の温度で内部応力の緩和が進み易い。しかし、処理時間が問題にならないような生産プロセスにおいてはガラス転移点(Tg)以上150℃未満の熱処理温度を選択することもできるが、一般的には生産性が悪化する。このような観点から好適な熱処理温度の下限は150℃である。より望ましい熱処理温度は200℃以上、ポリエステル樹脂の融点以下である。
さらに、熱処理後の冷却は、ポリエステル樹脂のような結晶性の樹脂の場合には、加工性を低下させる結晶化を抑制するためになるべく早いことが好ましい。冷却速度は、熱処理後10秒以内に樹脂のガラス転移温度まで低下させるようなスピードが好ましい。
【0029】
熱処理の方法については、特に限定されるものではない。電気炉、ガスオーブン、赤外炉、インダクションヒーターなどで同様の効果が得られることが確認されている。また、加熱速度、加熱時間、冷却時間(熱処理終了後樹脂のガラス転移点以下の温度に冷却されるまでの時間)は内部応力の緩和によるプラス効果と結晶化によるマイナス効果の双方を考慮して適宜選択すればよい。通常、加熱速度は速いほど効率的であり、加熱時間の目安は15秒〜60秒程度であるが、この範囲に限定されるものでない。
缶口部の高さを整えるために成形されたDI缶の上部を取り除くトリミングを行う。トリミングは、DI成形後に缶体を洗浄する前でも後でも、または熱処理した後いずれのタイミングで行われても構わない。また、トリミング後の缶体は、蓋を巻き締めるためのフランジ加工や缶体の強度を高めるためのビード加工を行った後、内容物をパックされて使用される。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。
「ラミネート金属板の作製」
厚さ0.20mm、調質度T3のティンフリースチール(金属Cr層:120mg/m、Cr酸化物層:金属Cr換算で10mg/m)を下地原板として用い、この原板に対して、詳細を下記に示すフィルムラミネート法(フィルム熱圧着法)、あるいはダイレクトラミネート法(直接押し出し法)を用いて種々の樹脂層を形成させた。
フィルム樹脂については、カネボウ合繊社製樹脂ペレットを用い、表1に示す組成となるように適宜樹脂を組み合わせて、通常の方法で単層または2層の無延伸または2軸延伸のフィルムを作製した。フィルムのラミネート方法については、厚さ25μmの各フィルムを上記原板の両面にラミネートして、ラミネート金属板を作製した。なお、ラミネート後のフィルム(樹脂層)表面の中心線表面粗さ(Ra)はラミネートロールの表面性状、ラミネート温度、圧力を制御することによりコントロールした。
フィルム熱圧着法1
2軸延伸法で作製したフィルムを、金属板を加熱し表1に示すラミネート温度で中心線表面粗さ(Ra)0.6μmのラミネートロールにて線圧80000N/mの条件で熱圧着し、次いで2秒以内に水冷によって冷却した。
フィルム熱圧着法2
無延伸フィルムを、金属板を加熱し表1に示すラミネート温度で中心線表面粗さ(Ra)0.6μmのラミネートロールにて線圧80000N/mの条件で熱圧着し、次いで2秒以内に水冷によって冷却した。
直接押し出し法
樹脂ペレットを押し出し機にて混練、溶融させ、Tダイより、走行中の加熱された金属板上に被覆し、次いで樹脂被覆された金属板を80℃の冷却ロールにてニップ冷却させ、更に、水冷によって冷却した。その時のラミネート温度は表1に示す。また、ラミネートロールの中心線表面粗さ(Ra)は0.6μm、線圧80000N/mとした。
【0031】
以上より得られたラミネート金属板に対して、ラミネートフィルムの結晶化温度、面配向係数、中心線表面粗さ(Ra)、60度光沢を以下のようにして算出した。得られた結果を表1に示す。
「結晶化温度の測定」
ラミネート金属板より剥離したフィルムについて、示差走査熱量計(DSC)を用い、室温から10℃/分の昇温速度で吸熱発熱曲線を測定して、100〜200℃の間にある結晶化に伴う発熱ピークのピーク温度によって、結晶化温度を決定した。
「面配向係数の測定」
アッベ屈折計を用い、光源はナトリウムD線、中間液はヨウ化メチレン、温度は25℃の条件で屈折率を測定して、フィルム面の長さ方向の屈折率Nx、フィルム面の幅方向の屈折率Ny、フィルムの厚み方向の屈折率Nzを求め、下式から面配向係数Nsを算出した。
面配向係数(Ns)=(Nx+Ny)/2−Nz
「中心線表面粗さ(Ra)の測定」
JIS−B0601に従い、株式会社小坂研究所社製表面粗さ測定器SE−30Dを用いて、カットオフ値0.8mm、測定長さ2.4mmの条件で測定した。フィルム長さ方向と幅方向にそれぞれ3点ずつ測定し、そのRa値の平均値をフィルムのRa値とした。
「60度光沢の測定」
JIS−Z8741に従い、日本電色工業株式会社製携帯型光沢計PG−1Mを用いて、測定角60度で測定した。フィルム長手方向と幅方向にそれぞれ3点ずつ測定し、得られた光沢値の平均値をフィルムの光沢値とした。
【0032】
「缶体成形」
次いで、上記により得られたラミネート金属板を用いて、以下に示す条件によりDI成形して缶を成形した。得られたDI缶体について、DI成形性(成形後の缶外面フィルム健全性)、耐食性(缶内面フィルムの健全性)、および耐レトルト性を、以下に述べる性能試験によって評価した。得られた結果を表1に示す。
【0033】
「DI成形」
DI成形は、まずラミネート金属板の両面に融点45℃のパラフィンワックスを50mg/m塗布した後に、123mmφのブランクを打ち抜き、そのブランクを市販のカッピングプレスで、内径71mmφ、高さ36mmのカップに絞り成形した。次いでこのカップを市販のDI成形装置に装入して、ポンチスピード200mm/s、ストローク560mmで、再絞り加工及び3段階のアイアニング加工(それぞれのリダクション20%、19%、23%)を行い、最終的に缶内径52mm、缶高さ90mmの缶体を成形した。なお、DI成形中には、水道水を50℃の温度で循環させた。
DI成形で作製された缶体に対し、実施例6以外は、缶体の内外面に50℃のイオン交換水を2分間スプレーして表面を洗浄し、次いで210℃の乾燥炉で30秒間乾燥した。実施例6のみ、洗浄後120℃の乾燥炉で30秒間乾燥した。
【0034】
(1)DI成形性(成形後の缶外面フィルム健全性)
成形後の缶外面フィルムの健全性(フィルム欠陥の少ないものが良好)により評価を行った。洗浄、乾燥後のDI缶について、DI缶の金属板に通電できるように缶口にやすりで傷をつけた後に、電解液(NaCl1%溶液、温度25℃)を入れた容器(DI缶よりやや大きい)にDI缶を、底を下にして入れて缶の外面だけが電解液に接するようにした。その後缶体と電解液間に6Vの電圧を付与した時に測定される電流値に応じて下記のように評価した。
(評価)
5mA超:×
0.5mA超、5mA以下:△
0.05mA超、0.5mA以下:○
0.05mA以下:◎
(2)耐食性(缶内面の健全性)
缶内面フィルムの健全性(フィルム欠陥の少ないものが良好)については、洗浄、乾燥後のDI缶について、DI缶の金属板に通電できるように、やすりで缶口に傷をつけた後に、缶内に電解液(NaCl1%溶液、温度25℃)を注ぎ缶口まで満たし、その後缶体と電解液間に6Vの電圧を付与した。この時測定される電流値に応じて下記のように評価した。
(評価)
1mA超:×
0.1mA超、1mA以下:△
0.01mA超、0.1mA以下:○
0.01mA以下:◎
(3)耐レトルト性
耐レトルト性については、洗浄、乾燥後のDI缶について、トリミング、フランジ加工を行った後、水道水を缶口まで満たした後に蓋を巻き締めた。水道水をパックした缶について、市販のレトルト装置で130℃、30分間処理を行い、レトルト処理後の缶外面の外観を下記の基準で評価した。
(評価)
フィルム表面が全体的にはっきりと白濁する:×
フィルム表面が一部だけ白濁する:△
フィルム表面がわずかに白濁する:○
フィルム表面に全く変化無し:◎
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、本発明例である1〜16を用いた場合は、成形性、耐食性、耐レトルト性のいずれも良好であった。
一方、比較例である17〜22を用いた場合は、成形性、耐食性、耐レトルト性のいずれか劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のラミネート金属板を用いて成型加工することにより、高い加工度を有し、樹脂層の剥離と破断のない、さらには、レトルトのような厳しい環境に耐える2ピースラミネート缶体が得られる。ゆえに、例えば、食品缶詰用缶に対して、本発明は好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂フィルム層を金属板の両面に有し、缶体の外面側になるポリエステル樹脂フィルム層の結晶化温度は60〜100℃であり、かつ、表面の中心線表面粗さ(Ra)は0.2〜1.8μmであることを特徴とする2ピース缶体用ラミネート金属板。
【請求項2】
缶体の外面側になる前記ポリエステル樹脂フィルム層は、ブチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:40〜100質量%と、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とする樹脂:0〜60質量%とからなることを特徴とする請求項1に記載の2ピース缶体用ラミネート金属板。
【請求項3】
缶体の内面側になるフィルム層表面の中心線表面粗さ(Ra)が0.2〜1.8μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の2ピース缶体用ラミネート金属板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の2ピース缶体用ラミネート金属板を、絞りしごき成形することにより製造される2ピースラミネート缶体。
【請求項5】
前記絞りしごき成形の加工工程途中および/又は加工工程後において、150℃以上220℃以下の温度で熱処理を行うことにより製造される請求項4に記載の2ピースラミネート缶体。

【公開番号】特開2009−184262(P2009−184262A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27530(P2008−27530)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】