説明

2ヶ月を超える期間の長期持続放出を与えるステロイド眼内インプラント

【課題】長期間にわたって、かつ負の副作用をほとんどまたは全く生じずに、治療薬を持続的または制御的速度で放出することができる眼内移植可能な眼内インプラントを提供する。
【解決手段】ステロイドを含有する芯を被覆したポリマー層を含む眼内インプラントであって、ポリマー層が、液体を通過させ、患者の眼にインプラントを配置した後少なくとも2ヶ月にわたって、2μg/日未満の速度で、ステロイドをインプラントから外部環境へ通過させる大きさの複数の孔を含有する眼内インプラント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、患者の眼を治療する器具および方法に関し、更に詳しくは、インプラントを配置した眼に治療薬の長時間放出を与える眼内インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
コルチコステロイド、フルオシノロンアセトニド(1,4−プレグナジエン−6α,9α−ジフロロ−11β,16α,17,21−テトロール−3,20−ジオン16,17−アセトニド)のようなステロイド類は、通常、局所的に、全身的に、または眼周囲に注射で投与され、ブドウ膜炎を治療する。3種の送達方法はいずれも欠点があり、たとえば、コルチコステロイド類の局所投与は、眼の背後の疾患は治療しないし、コルチコステロイド類の全身投与は、しばしば、多くの望ましくない副作用を伴い、眼周囲への注射は、眼球穿孔、眼周囲線維症および下垂を起こすことがある。
【0003】
上述の送達方法の欠点を解決できる代わりの方法として、持続的放出薬物送達システムを使う方法がある。2000年に、Jaffeらは、シリコーンおよびポリビニルアルコールを被覆した純粋フルオシノロンアセトニドの圧縮ペレットをフルオシノロン持続送達器具として使用すること報告した。(Jaffe, G.J.ら、Journal of Ophthalmology and Vision Surgery、第41巻、No. 11、2000年10月)。彼らは、2-mg器具および15-mg器具について、それぞれ、1.9±0.25μg/日(6ヶ月間)および2.2±0.6μg/日(45日間)の放出速度を得た。2-mgおよび15-mg器具の放出持続時間は、それぞれ、2.7年および18.6年と評価された。米国特許第6,217,895号および同第6,548,078号には、フルオシノロンアセトニドのようなコルチコステロイドを眼に送達するための持続的放出インプラントが開示されている。しかし、Control Delivery System(米国特許第6,217,895号および同第6,548,078号の譲受人)によって製造されたフルオシノロンアセトニド硝子体内インプラントは、不十分にしか成功せず、白内障の発現および眼内圧力の上昇を招いた。
【0004】
さらに、非感染性ブドウ膜炎および種々の網膜疾患による黄斑浮腫の治療のための、トリアムシノロンアセトニド(KENALOG(登録商標))の硝子体内注射は、安全で効果的であるようである。
【0005】
眼への配置用の生体適合性インプラントは、下記のような多くの特許に開示されている:米国特許第4521210号、第4853224号、第4997652号、第5164188号、第5443505号、第5501856号、第5766242号、第5824072号、第5869079号、第6074661号、第6331313号、第6369116号、第6699493号および第6726918号。
【0006】
別の硝子体内治療方法は、2004年10月14日出願の米国特許出願第10/966764号、2005年1月19日出願の同第11/039192号および2004年7月12日出願の同第60/587092号に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,217,895号
【特許文献2】米国特許第6,548,078号
【特許文献3】米国特許第4521210号
【特許文献4】米国特許第4853224号
【特許文献5】米国特許第4997652号
【特許文献6】米国特許第5164188号
【特許文献7】米国特許第5443505号
【特許文献8】米国特許第5501856号
【特許文献9】米国特許第5766242号
【特許文献10】米国特許第5824072号
【特許文献11】米国特許第5869079号
【特許文献12】米国特許第6074661号
【特許文献13】米国特許第6331313号
【特許文献14】米国特許第6369116号
【特許文献15】米国特許第6699493号
【特許文献16】米国特許第6726918号
【特許文献17】米国特許出願第10/966764号
【特許文献18】米国特許出願第11/039192号
【特許文献19】60/587092号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jaffe, G.J.ら、Journal of Ophthalmology and Vision Surgery、第41巻、No. 11、2000年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
長期間にわたって、かつ負の副作用をほとんどまたは全く生じずに、治療薬を持続的または制御的速度で放出することができる眼内移植可能な薬物送達システム、例えば眼内インプラント、およびそのようなシステムを使用する方法を提供することが好都合である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、例えば1つまたはそれ以上の所望の治療効果を得るための、眼への長期間または持続的薬物放出用の新規薬物送達システム、ならびにそのようなシステムの製造法および使用法を提供する。該薬物送達システムは、眼に配置しうるインプラントまたはインプラント要素の形態である。本発明のシステムおよび方法は、好都合にも、1つまたはそれ以上の治療薬の長い放出時間を与える。従って、眼にインプラントを配置された患者は、薬剤の付加的投与を必要とせずに、長期間または延長された期間にわたって、治療量の薬剤を受ける。例えば、患者は、比較的長い期間にわたって、例えば、インプラントを配置されてから、少なくとも約2ヶ月程度、例えば約2ヶ月〜約6ヶ月間、あるいは約1年又は約2年またはそれ以上にわたって、実質的に一貫したレベルの治療的活性剤を、一貫した眼の治療のために得ることができる。そのような長い放出時間は、優れた治療効果を得ることを促進する。
【0011】
本明細書における開示による眼内インプラントは、治療成分と、該治療成分に付随した薬剤放出持続成分とを含んで成る。本発明によれば、治療成分は、ステロイドを含んで成るか、それから本質的に成るか、またはそれのみから成る。薬剤放出持続成分は、治療成分に付随して、インプラントを配置した眼への治療有効量のステロイドの放出を持続させる。治療有効量のステロイドは、インプラントを眼に配置した後、約2ヶ月を超える期間、眼の中に放出される。
【0012】
1つの態様では、眼内インプラントは、ステロイドと、生分解性ポリマーマトリックスとを含む。ステロイドは、眼の眼球部位または領域にインプラントを配置した時から約2ヶ月を超える期間、薬剤を、インプラントからステロイドの治療有効量の放出を持続させるのに有効な速度で、たとえば分解によって放出する生分解性ポリマーマトリックスに付随する。眼内インプラントは生分解性または生体内分解(腐食)性であり、眼内で、2ヶ月を超える、たとえば、約3ヶ月またはそれ以上〜約6ヶ月またはそれ以上の長期間にわたり、ステロイドの持続的な放出を提供する。
【0013】
上述のインプラントの生分解性ポリマー成分は、少なくとも1種の生分解性ポリマーが、分子量が40キロダルトン(kD)未満のポリ乳酸またはポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーである、生分解性ポリマーの混合物でもよい。それに加えてあるいは代えて、上述のインプラントは、遊離酸末端基を有する第一生分解性ポリマーと、異なる遊離酸末端基第二生分解性ポリマーとを含んでもよい。さらに、上述のインプラントは、それぞれの生分解性ポリマーが、約0.16デシリットル/グラム(dl/g)〜約0.24dl/gの範囲の固有粘度を有する異なる生分解性ポリマーの混合物を含んでもよい。適切な生分解性ポリマーの例として、乳酸またはグルコール酸のポリマー、およびその混合物が挙げられる。
【0014】
別の態様では、眼内インプラントは、ステロイドを含む治療成分と治療成分を覆うポリマー外層とを含む。ポリマー外層は、液体をインプラント中へ通過させ、ステロイドをインプラントから放出するのに有効なオリフィスまたは開口または孔を1個以上含む。治療成分は、インプラントの芯または内側部分に備えられ、ポリマー外層が芯を覆いまたは被覆する。ポリマー外層は、1箇所以上の生分解性部分を含んでよい。このインプラントは、約2ヶ月を超える、約1年を超える、または約5年あるいは約10年を超えるステロイドの持続放出を提供することができる。
【0015】
本明細書で開示するインプラントのステロイドは、眼の症状を治療するのに有効なコルチコステロイド類または他のステロイド類であってよい。適切なステロイドの1例は、フルオシノロンまたはフルオシノロンアセトニドである。適切なステロイドの他の例は、トリアムシノロンまたはトリアムシノロンアセトニドである。適切なステロイドの別の例は、ベクロメタゾンまたはジプロピオン酸ベクロメタゾンである。更に、本発明のインプラントの治療成分は、眼の症状を治療するのに有効な1種以上の異なる付加的治療薬を含んでもよい。
【0016】
インプラントは、眼の前部または後部に影響を与える症状を含む、種々の眼の症状を治療するために、眼の部分に置かれてもよい。たとえば、インプラントは、黄斑症および網膜変性、ブドウ膜炎、網膜炎、脈絡膜炎、血管の疾患および滲出性疾患、増殖性疾患、感染症、遺伝的障害、腫瘍、外傷および外科手術、網膜裂孔など(これらに限定されない)、多くの眼の症状を治療するために用いられてもよい。
【0017】
本発明のキットは、1つまたはそれ以上の本発明のインプラント、およびインプラントの使用説明書を含んで成ってよい。例えば、使用説明書は、患者へのインプラントの投与の仕方、およびインプラントで治療しうる症状のタイプを説明しうる。
【0018】
本明細書に記載する個々のおよび全ての特徴、ならびにそのような特徴の2つまたはそれ以上の個々のおよび全ての組合せは、そのような組合せに含まれる特徴が互いに矛盾しないことを条件として、本発明の範囲に含まれる。さらに、任意の特徴または特徴の組合せは、本発明の任意の態様から特に除外しうる。
【0019】
本発明の付加的局面および利点は、特に添付の図面および実施例に関連して考慮する場合に、以下の説明および請求の範囲に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】37℃の0.9%サリン中で測定した生分解性フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図2】異なった生分解性ポリマーの組合せを用いた生分解性フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示す図1と同様のグラフである。
【図3】生分解性トリアムシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示す図1と同様のグラフである。
【図4】異なった孔構造を有する非殺菌フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図5】図4に記載したインプラントの1日あたりのフルオシノロン放出量を示すグラフである。
【図6】異なった孔構造を有する殺菌フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図7】図6に記載したインプラントの1日あたりのフルオシノロン放出量を示すグラフである。
【図8】図4に記載のものとは異なった孔構造を有する非殺菌フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図9】図8に記載したインプラントの1日あたりのフルオシノロン放出量を示すグラフである。
【図10】図8に記載のものと同じ孔構造を有する殺菌フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図11】図10に記載したインプラントの1日あたりのフルオシノロン放出量を示すグラフである。
【図12】異なった孔構造を有する殺菌フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図13】図12に記載したインプラントの1日あたりのフルオシノロン放出量を示すグラフである。
【図14】異なった孔構造を有する非殺菌フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図15】図14に記載したインプラントの1日あたりのフルオシノロン放出量を示すグラフである。
【図16】図14に記載した殺菌フルオシノロンアセトニド含有インプラントの、累積放出プロフィールを示すグラフである。
【図17】図16に記載したインプラントの1日あたりのフルオシノロン放出量を示すグラフである。
【図18】トリアムシノロン30%含有インプラントのためのリン酸塩緩衝サリン中の、時間の関数としてのトリアムシノロンの合計放出割合を示すグラフである。
【図19】トリアムシノロン50%含有インプラントのためのリン酸塩緩衝サリン中の、時間の関数としてのトリアムシノロンの合計放出割合を示すグラフである。
【図20】トリアムシノロン30%含有インプラントのためのリン酸クエン酸塩緩衝液中の、時間の関数としてのトリアムシノロンの合計放出割合を示すグラフである。
【図21】トリアムシノロン50%含有インプラントのためのリン酸クエン酸塩緩衝液中の、時間の関数としてのトリアムシノロンの合計放出割合を示すグラフである。
【図22】トリアムシノロン30%含有インプラントのためのリン酸塩緩衝サリン中の、時間の関数としてのベクロメタソンジプロピオネートの合計放出割合を示すグラフである。
【図23】トリアムシノロン50%含有インプラントのためのリン酸塩緩衝サリン中の、時間の関数としてのベクロメタソンジプロピオネートの合計放出割合を示すグラフである。
【図24】トリアムシノロン30%含有インプラントのためのリン酸クエン酸塩緩衝液中の、時間の関数としてのベクロメタソンジプロピオネートの合計放出割合を示すグラフである。
【図25】トリアムシノロン50%含有インプラントのためのリン酸クエン酸塩緩衝液中の、時間の関数としてのベクロメタソンジプロピオネートの合計放出割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記載するように、1つまたはそれ以上の眼内インプラントの使用による治療薬の制御および持続投与は、望ましくない眼症状の治療を向上させることができる。インプラントは、医薬的に許容されるポリマー組成物を含んで成り、1つまたはそれ以上の医薬的に活性な薬剤、例えばステロイドを、長期間にわたって放出するように配合される。インプラントは、1つまたはそれ以上の望ましくない眼症状の1つまたはそれ以上の症状を、治療するために、眼の領域に直接的に、治療有効量の1つまたはそれ以上の薬剤を与えるのに有効である。従って、患者を、繰り返しの注入、または自己投与点眼剤の場合の、単に限定されたバーストの活性剤への暴露による非効率的な治療に付すのではなく、単一投与によって、治療薬が、それらを必要とする部位で使用され、しかも長期間にわたって維持される。
【0022】
本明細書の開示による眼内インプラントは、治療成分、および治療成分に付随する薬剤放出持続成分を含んで成る。本発明によれば、治療成分は、ステロイドを含んで成るか、またはそれから本質的に成るか、またはそれのみから成る。薬剤放出持続成分は、インプラントを配置した眼への治療有効量のステロイドの放出を持続させるために、治療成分に付随している。治療有効量のステロイドは、インプラントを眼に配置してから約2ヶ月間より長い期間にわたって放出される。
【0023】
定義
本発明の説明のために、用語の文脈が異なる意味を示す場合を除いて、このセクションで定義されるように以下の用語を使用する。
【0024】
本明細書において使用する場合、「眼内インプラント」は、眼に配置されるように構成され、サイズ設定され、またはその他の設計を施された器具または要素を意味する。眼内インプラントは、一般に、眼の生理学的条件に生体適合性であり、不利な副作用を生じない。眼内インプラントは、視覚を損なわずに眼に配置しうる。
【0025】
本明細書において使用する場合、「治療成分」は、眼の医学的症状を治療するのに使用される1つまたはそれ以上の治療薬または物質を含んで成る眼内インプラントの部分を意味する。治療成分は、眼内インプラントの個別の領域であってもよく、またはインプラント全体に均一に分布させてもよい。治療成分の治療薬は、一般に、眼科的に許容され、インプラントを眼に配置した際に不利な反応を生じない形態で使用される。
【0026】
本明細書において使用する場合、「薬剤放出持続成分」は、インプラントの治療薬の持続放出を与えるのに有効な、眼内インプラントの部分を意味する。薬剤放出持続成分は、生分解性ポリマーマトリックスであってもよく、または治療成分を含んで成るインプラントのコア領域を覆う被覆物であってもよい。
【0027】
本明細書において使用する場合、「付随する」は、混合するか、分散するか、結合するか、覆うか、または包囲することを意味する。生分解性ポリマーマトリックスに付随する治療成分を含有する眼内インプラントに関して、「付随する」は、特に、マトリックス上又はマトリックス周囲に供給され得る生物分解性ポリマー被膜を除外する。
【0028】
本明細書において使用する場合、「眼の領域」または「眼の部位」は、眼の前区および後区を含む眼球の任意領域を一般に意味し、かつ、眼球に見出される任意の機能的(例えば、視覚用)または構造的組織、または眼球の内部または外部に部分的にまたは完全に並んだ組織または細胞層を一般に包含するが、それらに限定されない。眼領域における眼球領域の特定の例は、前眼房、後眼房、硝子体腔、脈絡膜、脈絡膜上腔、結膜、結膜下腔、強膜外隙、角膜内隙、角膜上隙、強膜、毛様体輪、外科的誘導無血管領域、網膜黄斑および網膜である。
【0029】
本明細書において使用する場合、「眼の症状」は、眼、または眼の部分または領域の1つを冒しているか、またはそれに関係している疾患、不快または症状である。一般的に言えば、眼は、眼球、および眼球を構成している組織および流体(体液)、眼周囲筋(例えば、斜筋および直筋)、ならびに眼球の中かまたは眼球に近接した視神経の部分を包含する。
【0030】
前眼症状は、水晶体包の後壁または毛様体筋の前方に位置する、前眼(即ち、眼の前方)領域または部位、例えば、眼周囲筋、眼瞼または眼球組織または流体を冒しているか、またはそれに関係している疾患、不快または症状である。従って、前眼症状は、結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房(網膜の後ろであるが、水晶体包の後壁の前)、水晶体または水晶体包、および前眼領域または部位を血管新生化するかまたは神経支配する血管および神経を、主に冒しているかまたはそれに関係している。
【0031】
従って、前眼症状は、下記のような疾患、不快または症状を包含しうる:無水晶体;偽水晶体;乱視;眼瞼痙攣;白内障;結膜疾患;結膜炎;角膜疾患;角膜潰瘍;眼乾燥症候群;眼瞼疾患;涙器疾患;涙管閉塞;近視;老眼;瞳孔障害;屈折障害および斜視。緑内障も前眼症状と考えられるが、その理由は、緑内障治療の臨床目的が、前眼房における水性液の高圧を減少させる(即ち、眼内圧を減少させる)ことでありうるからである。
【0032】
後眼症状は、後眼領域または部位、例えば、脈絡膜または強膜(水晶体包の後壁全体にわたる平面の後方位置)、硝子体、硝子体腔、網膜、視神経(即ち、視神経円板)、ならびに後眼領域または部位を血管新生化するかまたは神経支配する血管および神経を、主に冒しているかまたはそれに関係している疾患、不快または症状である。
【0033】
従って、後眼症状は、下記のような疾患、不快または症状を包含しうる:急性斑状視神経網膜疾患;ベーチェット病;脈絡膜新生血管形成;糖尿病性ブドウ膜炎;ヒストプラスマ症;感染症、例えば、真菌またはウイルスによる感染症;黄斑変性、例えば、急性黄斑変性、非滲出性老化関連黄斑変性および滲出性老化関連黄斑変性;浮腫、例えば、黄斑浮腫、類嚢胞黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫;多病巣性脈絡膜炎;後眼部位または領域を冒す眼の外傷;眼腫瘍;網膜障害、例えば、網膜中心静脈閉鎖、糖尿病性網膜症(増殖性糖尿病性網膜症を含む)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉鎖性疾患、網膜剥離、ブドウ膜炎網膜疾患;交感性眼炎;フォークト−コヤナギ−ハラダ(VKH)症候群;ブドウ膜拡散;眼のレーザー治療によって生じたかまたは影響を受けた後眼症状;光ダイナミック療法によって生じたかまたは影響を受けた後眼症状;光凝固、放射線網膜症、網膜上膜疾患、網膜枝静脈閉鎖、前虚血性視神経症(anterior ischemic optic neuropathy)、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、色素性網膜炎および緑内障。緑内障は、その治療目標が、網膜細胞または視神経細胞の損傷または欠損による視力低下を予防するか、または視力低下の発生を減少させること(即ち、神経保護)であるので、後眼症状と考えることができる。
【0034】
「生分解性ポリマー」という用語は、生体内で分解する1つまたはそれ以上のポリマーを意味し、1つまたはそれ以上のポリマーの侵食は、治療薬の放出と同時かまたはそれに続いて、経時的に起こる。厳密に言えば、ポリマーの膨潤によって薬剤を放出する作用をするメチルセルロースのようなヒドロゲルは、「生分解性ポリマー」という用語から特に除外される。「生分解性」および「生体内分解性」という用語は、同意義であり、本明細書において互換的に使用される。生分解性ポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、または3種類以上のポリマー単位を有するポリマーであってよい。
【0035】
本明細書において使用する場合、「治療する」、「治療すること」または「治療」という用語は、眼症状、眼の傷害または損傷の減少または回復または予防、または傷害または損傷を受けた眼組織の治癒を促進することを意味する。
【0036】
本明細書において使用する場合、「治療有効量」という用語は、眼または眼領域に有意な負のまたは不利な副作用を生じずに、眼症状を治療するか、眼傷害または損傷を減少させるかまたは予防するのに必要とされる薬剤のレベルまたは量を意味する。
【0037】
様々な期間にわたって薬剤装入量を放出することができる眼内インプラントが開発されている。これらのインプラントは、眼、例えば眼の硝子体に挿入された場合に、治療レベルのステロイドを、長期間にわたって(例えば、約2ヶ月またはそれ以上)与える。開示されるインプラントは、眼症状、例えば後眼症状を治療するのに有効である。
【0038】
本発明の1つの態様において、眼内インプラントは、生分解性ポリマーマトリックスを含んで成る。生分解性ポリマーマトリックスは、薬剤放出持続成分の1つのタイプである。生分解性ポリマーマトリックスは、生分解性眼内インプラントを形成するのに有効である。生分解性眼内インプラントは、生分解性ポリマーマトリックスを伴うステロイドを含んで成る。マトリックスは、インプラントを眼の領域または眼の部位、例えば眼の硝子体に配置してから約2ヶ月より長い期間にわたって、治療有効量のステロイドの放出を持続させるのに有効な速度で分解する。
【0039】
インプラントのステロイドはコルチコステロイドであってよい。ある態様では、ステロイドは、フルオシノロン、トリアムシノロン、又はフルオシノロンとトリアムシノロンとの混合物であってよい。いくつかの態様では、フルオシノロンをフルオシノロンアセトニドとしてインプラントに供給し、トリアムシノロンをトリアムシノロンアセトニドとしてインプラントに供給する。トリアムシノロンアセトニドは、KENALOG (登録商標)の商品名で公に入手できる。本発明のインプラントに有用な別のステロイドは、ベクロメタゾンまたはジプロピオン酸ベクロメタゾンである。従って、本発明のインプラントは、1つまたはそれ以上の下記成分を含んでよい:フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ベクロメタゾンまたはジプロピオン酸ベクロメタゾン。
【0040】
ステロイドは、粒状または粉末形態であってよく、生分解性ポリマーマトリックスに閉じ込めうる。一般に、眼内インプラントにおけるステロイド粒子は、約3000ナノメートル未満の有効平均粒度を有する。あるインプラントにおいて、粒子は、約3000ナノメートル未満のオーダーの有効平均粒度を有しうる。例えば、粒子は、約500ナノメートル未満の有効平均粒度を有しうる。他のインプラントにおいて、粒子は、約400ナノメートル未満の有効平均粒度、さらに他の態様においては、約200ナノメートル未満の粒度を有しうる。
【0041】
インプラントのステロイドは、好ましくは、インプラントの重量に対して約10%〜90%である。より好ましくは、ステロイドは、インプラントの重量に対して約50%〜約80%である。好ましい態様において、ステロイドは、インプラントの重量の約50%を占める。他の態様において、ステロイドは、インプラントの重量の約70%を占める。
【0042】
インプラントに使用される好適なポリマー材料または組成物は、眼に適合性、即ち生体適合性であり、それによって、眼の機能または生理機能に実質的障害を生じない材料を包含する。そのような材料は、好ましくは少なくとも部分的に、より好ましくは実質的に完全に生分解性または生体内分解性である。
【0043】
有用なポリマー材料の例は、有機エステルおよび有機エーテルから誘導され、かつ/またはそれらを含有する材料であって、分解した際に、生理学的に許容される分解生成物を生じる材料(モノマーを含む)であるが、それらに限定されない。無水物、アミド、オルトエスエル等から誘導され、かつ/またはそれらを含有するポリマー材料を、単独で、または他のモノマーと組み合わせて、使用してもよい。ポリマー材料は、付加または縮合重合体、好都合には縮合重合体であってよい。ポリマー材料は、架橋または非架橋、例えば軽架橋以下であってよく、例えば、ポリマー材料の約5%未満または約1%未満が架橋されている。多くの場合、炭素および水素の他に、ポリマーは、酸素および窒素の少なくとも1つ、好都合には酸素を含有する。酸素は、オキシ、例えばヒドロキシまたはエーテル、カルボニル、例えば非オキソ−カルボニル、例えばカルボン酸エステル等として存在しうる。窒素は、アミド、シアノおよびアミノとして存在しうる。制御薬物送達のための被包形成を記載しているHeller, Biodegradable Polymers in Controlled Drug Delivery, CRC Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems, 第1巻, CRC Press, Boca Raton, FL 1987, p.39-90に示されているポリマーを、本発明のインプラントに使用しうる。
【0044】
他に関心がもたれるものは、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸のポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)、および多糖類である。関心がもたれるポリエステルは、D−乳酸、L−乳酸、ラセミ乳酸、グリコール酸、ポリカプロラクトンおよびそれらの組合せのポリマーを包含する。一般に、L−ラクテートまたはD−ラクテートを使用することによって、ゆっくり侵食されるポリマーまたはポリマー材料が得られ、一方、ラクテートラセミ体を使用することによって、侵食が実質的に促進される。
【0045】
有用な多糖類の例は、アルギン酸カルシウム、および官能化セルロース、特に、水不溶性であることを特徴とし、分子量が例えば約5kD〜500kDの、カルボキシメチルセルロースエステルであるが、それらに限定されない。
【0046】
関心がもたれる他のポリマーは、生体適合性であり、かつ生分解性および/または生体内分解性の場合もある、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエーテルおよびそれらの組合せであるが、それらに限定されない。
【0047】
本発明に使用されるポリマーまたはポリマー材料のいくつかの好ましい特徴は、生体適合性、治療成分との適合性、本発明の薬物送達システムの製造におけるポリマーの使い易さ、少なくとも約6時間の、好ましくは約1日より長い、生理環境における半減期、硝子体の粘度を有意に増加させないこと、および水不溶性を包含しうる。
【0048】
マトリックスの形成のために含有される生分解性ポリマー材料は、酵素的または加水分解的に不安定になりやすいことが望ましい。水溶性ポリマーを、加水分解的または生分解的に不安定な架橋で架橋させて、有用な水不溶性ポリマーが得られる。安定性の程度は、モノマーの選択、ホモポリマーまたはコポリマーを使用するか、ポリマー混合物の使用、ポリマーが末端酸根を有するか、に依存して広く変化させることができる。
【0049】
インプラントに使用されるポリマー組成物の相対平均分子量も、ポリマーの生分解性、従ってインプラントの長時間放出プロフィールを調節するのに同じく重要である。種々の分子量の同じかまたは異なるポリマーの組成物を、インプラントに含有させて、放出プロフィールを調節しうる。特定のインプラントにおいて、ポリマーの相対平均分子量は、約9〜約60kD、一般に約10〜約54kD、より一般的には約12〜約45kD、最も一般的には約40kD未満である。
【0050】
いくつかのインプラントにおいて、グリコール酸と乳酸のコポリマーを使用し、生分解速度をグリコール酸/乳酸の比率によって調節する。最も急速に分解されるコポリマーは、ほぼ同量のグリコール酸および乳酸を含有する。ホモポリマー、または等しくない比率を有するコポリマーは、分解に対してより抵抗性である。グリコール酸/乳酸の比率は、インプラントの脆性にも影響を与え、より大きい形状には、より柔軟性のインプラントが望ましい。ポリ乳酸ポリグリコール酸(PLGA)コポリマーにおけるポリ乳酸のパーセントは、0〜100%、好ましくは約15〜85%、より好ましくは約35〜65%にすることができる。いくつかのインプラントにおいて、50/50 PLGAコポリマーが使用される。
【0051】
眼内インプラントの生分解性ポリマーマトリックスは、2つまたはそれ以上の生分解性ポリマーの混合物を含有しうる。例えば、インプラントは、第一生分解性ポリマーおよび異なる第二生分解性ポリマーの混合物を含有しうる。1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーは、末端酸根を有してよい。特定のインプラントでは、マトリックスは、末端酸根を有する第一生分解性ポリマー、および末端酸根を有する異なる第二生分解性ポリマーを含有する。第一生分解性ポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)であってよい。第二生分解性ポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド)であってよい。
【0052】
分解性ポリマーからの薬剤放出は、いくつかのメカニズム、またはメカニズムの組合せの結果である。これらのメカニズムのいくつかは、インプラント表面からの脱離、溶解、水和ポリマーの多孔流路からの拡散、および侵食である。侵食は、本体または表面、またはその両方の組合せであることができる。本明細書に記載するように、眼内インプラントのマトリックスは、眼への移植から3ヶ月より長い期間にわたって、治療有効量のステロイドの放出を持続させるのに有効な速度で、薬剤を放出しうる。ある種のインプラントでは、移植後、治療量のステロイドが、4ヶ月を超えて放出される。たとえば、インプラントはフルオシノロンを含んでもよく、インプラントのマトリックスは、インプラントを眼の中に配置した後約3ヶ月間、治療有効量のフルオシノロンの放出を維持するのに有効な速度で分解する。他の例として、インプラントはトリアムシノロンを含んでもよく、マトリックスは、3ヶ月を超え、たとえば、約3ヶ月〜約6ヶ月間、治療有効量のトリアムシノロンの放出を維持するのに有効な速度で薬剤を放出する。
【0053】
また、本発明のインプラントからの薬剤の放出は、インプラント内に存在する薬剤の量およびポリマー分子量およびグリコール酸の乳酸に対する比のような、インプラントのポリマーの特性にも関係することがある。本発明のインプラントの1つの態様では、ステロイドのような薬剤は、ポリマー特性には実質的に依存しない第一期に第一速度で放出され、次いで薬剤は、第一期の後のインプラントのポリマー特性に依存する第二期に、第二速度で放出される。たとえば、インプラントは、ステロイドと、主にステロイド溶解により約30日間ステロイドをインプラントから放出し、30日後、主にポリマー特性により、ステロイドをインプラントから放出するポリマー成分とを含む。
【0054】
生分解性眼内インプラントの一例は、生分解性ポリマーの混合物を含む生分解性ポリマーマトリックスと付随したステロイドを含む。生分解性ポリマーの少なくとも1種は、分子量が40kD未満のポリラクチドである。そのような混合物は、インプラントを眼の中に配置した時から約2ヶ月を超える期間、治療有効量のステロイドの放出を持続させるのに有効である。ある態様では、ポリラクチドの分子量は、20kD未満である。別の態様では、ポリラクチドの分子量は、約10kDである。ポリラクチドはポリ(D,L−ラクチド)でもよく、ポリラクチドは、遊離酸末端基を有するポリマーを含んでもよい。特定の1態様では、インプラントのマトリックスは、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)とポリラクチドの混合物を含む。ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)とポリラクチドは、それぞれ、遊離酸末端基を有してもよい。
【0055】
生分解性眼内インプラントの別の例は、各生分解性ポリマーの固有粘度が約0.16dl/g〜約0.24dl/gの異なる生分解性ポリマーの混合物を含む生分解性ポリマーマトリックスに付随したステロイドを含む。たとえば、生分解性ポリマーの1つの固有粘度は、約0.2dl/gである。あるいは、混合物は、2つの異なる生分解性ポリマーを含んでもよく、各生分解性ポリマーの固有粘度は、約0.2dl/gである。上述の固有粘度は、0.1%クロロホルム中、25℃で測定できる。
【0056】
他のインプラントは、生分解性ポリマーの生分解性ポリマーマトリックスを含んでもよく、このポリマーの少なくとも1つのポリマーの固有粘度は、約0.25dl/g〜約0.35dl/gである。付加的なインプラントは、各ポリマーの固有粘度が約0.50dl/g〜約0.70dl/gである生分解性ポリマーの混合物を含んでもよい。
【0057】
生分解性ポリマーマトリックスを含有する眼内インプラントからのステロイドの放出は、初期放出バースト、次に、放出されるステロイドの量の漸増を含む場合があり、または該放出は、ステロイドの初期放出遅延、次に、放出増加を含む場合もある。インプラントが実質的に完全に分解した場合、放出されたステロイドのパーセントは、約100である。既存のインプラントと比較して、本明細書に開示するインプラントは、眼に配置してから約2ヶ月後までは、ステロイドを完全には放出しないか、または約100%を放出しない。従って、本発明のインプラントは、既存のインプラントより長い期間、放出の緩やかな勾配または緩慢な速度を有しうる累積放出プロフィールを示す。
【0058】
少なくとも1つの態様では、本発明のインプラントは、ポリマー成分を含まない同じステロイドのボーラスまたは液体注射より減少した毒性を有する量で、眼の中にステロイドを放出する。例えば、20mgのKenalog40を1回または繰返し投与することによって、網膜色素上皮を含む網膜の実質的変化を招くことが報告されている。このような投与は、長期の治療効果を与えるために液状製剤でなければならないことがある。
【0059】
それに比べ、本発明のインプラントは、このような大量投与を要することなく、長期間、治療有効量のステロイドを供給できる。例えば、本発明のインプラントは、1mg、2mg、3mg、4mgまたは5mgの、ステロイド、例えばトリアムシノロンアセトニドまたはフルオシノロンアセトニドを含有してよい。ステロイドは、ステロイド20mg液状製剤の注射に関連する実質的な眼毒性または他の副作用を生じることなく、長期にわたって徐々に放出される。従って、1つの態様では、硝子体内インプラントは、トリアムシノロンアセトニド、およびトリアムシノロンアセトニドを付随する生分解性ポリマーを、液状製剤に投入するトリアムシノロンアセトニドの毒性より減少した毒性を伴う量でトリアムシノロンアセトニドを放出する硝子体内インプラントの形で含む。
【0060】
インプラントの寿命にわたって、インプラントからのステロイドの比較的定速の放出を与えることが望ましい場合がある。例えば、ステロイドが、インプラントの寿命にわたって、1日当たり約0.01μg〜約2μgの量で放出されることが望ましい場合がある。しかし、放出速度は、生分解性ポリマーマトリックスの配合に依存して変化して、増加するかまたは減少する場合もある。さらに、ステロイドの放出プロフィールは、1つまたはそれ以上の直線部分および/または1つまたはそれ以上の非直線部分を含みうる。一旦、インプラントが分解または侵食しはじめたら、放出速度はゼロより大きいことが好ましい。
【0061】
インプラントは、モノリシックである(即ち、1つまたはそれ以上の活性剤がポリマーマトリックス全体に均一に分散されている)か、または被包され、その場合、活性剤の貯留部がポリマーマトリックスによって被包されている。製造容易性により、モノリシックインプラントが、被包形態より一般に好ましい。しかし、被包された貯留部型インプラントによって得られるより優れた調節は、薬剤の治療レベルが狭い幅内にあるいくつかの状況において有利な場合もある。さらに、ステロイドを含有する治療成分を、マトリックス中に不均質に分散させてもよい。例えば、インプラントは、インプラントの第二部分に対してより高い濃度のステロイドを有する部分を含有してよい。
【0062】
本発明の別の態様では、眼内インプラントは、ステロイドを含む治療成分と、インプラントの芯領域を覆う皮膜を含む薬剤放出持続成分とを含む。治療成分は芯領域に供給される。ポリマー外層は、治療成分および眼球液に対して不透過性であってもよい。あるいは、ポリマー外層は、治療成分および眼球液に対して始めは不透過性であるが、外層が分解するにつれて、治療成分または眼球液に対し透過性になってもよい。したがって、ポリマー外層は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化エチレンプロピレン、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、シリコーン、またはこれらの混合物のようなポリマーを含んでもよい。
【0063】
上述のインプラントは、1種以上のステロイドのような治療薬の貯蔵部を含むと理解されてもよい。あるインプラントでは、ステロイドは、先に説明したように、フルオシノロンまたはトリアムシノロンのようなコルチコステロイドであってもよい。治療薬の貯蔵部を含むインプラントの1例が米国特許第6,331,313号に記載されている。
【0064】
いくつかのインプラントでは、薬剤放出持続成分は、治療成分を覆うポリマー外層を含み、この外層は、治療成分が、薬剤送達システムから眼の眼球領域のようなインプラントの外部環境へ通過できる開口または孔を複数含む。孔によって液体をインプラントの内部に侵入させ、そこに含まれている治療薬を溶解させる。インプラントからの治療薬の放出は、液体中の薬剤の溶解度、孔のサイズおよび数に影響される。あるインプラントでは、孔のサイズと数とによって、インプラントの所望の放出特性の全てが実質的に効果的に提供される。したがって、所望の結果を達成するために、付加的な賦形剤は必ずしも必要でない可能性がある。しかし、他のインプラントにおいては、インプラントの放出特性をさらに増強するために、賦形剤を備えてもよい。
【0065】
インプラントの外層の調製において、種々の生体適合性で実質的に不透過性のポリマー組成物を使用してもよい。ポリマー組成物を選ぶ際に考慮すべきいくつかの関連因子として、インプラントの生物学的環境とのポリマーの親和性、ポリマーとの薬剤の親和性、製造の容易さ、生理学的環境における少なくとも数日の半減期、硝子体の粘度に顕著な増大がないこと、および所望の薬剤放出速度が挙げられる。これらの特性の相対的な重要度によって、組成は種々変わりうる。そのようなポリマーの数種およびその製造は、この技術分野でよく知られている。たとえば、米国特許第4,304,765号、同第4,668,506号、同第4,959,217号、同第4,144,317号および同第5,824,074号、Encyclopedia of Polymer Science and Technology、第3巻、Interscience Publishers 発行、ニューヨーク州、最新版、およびHandbook of Common Polymers、Scott, J.R.およびRoff, W.J.ら、CRC Press 発行、クリーブランド、オハイオ州、最新版を参照されたい。
【0066】
興味あるポリマーとして、ホモポリマー、コポリマー、直鎖、分岐状、または架橋誘導体がある。ポリマーのいくつかの例として、ポリカーバメートまたはポリウレア、架橋ポリ酢酸ビニルなど、エチレン−酢酸ビニル(EVA)コポリマー、エチレン−ヘキサン酸ビニルコポリマー、エチレン−プロピオン酸ビニルコポリマー、エチレン−酪酸ビニルコポリマー、エチレン−ペンタン酸ビニルコポリマー、エチレン−トリメチル酢酸ビニルコポリマー、エチレン−ジエチル酢酸ビニルコポリマー、エチレン−3−メチルブタン酸ビニルコポリマー、エチレン−3,3−ジメチルブタン酸ビニルコポリマーおよびエチレン−安息香酸ビニルコポリマーなどのエステル含有量が4〜80%のエチレンビニルエステルコポリマー、またはこれらの混合物を挙げられる。
【0067】
更なる例として、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、可塑化ポリ(ビニルクロライド)、可塑化ポリ(アミド)、可塑化ナイロン、可塑化ソフトナイロン、可塑化ポリ(エチレンテトラフタレート)、天然ゴム、シリコーン、ポリ(イソプレン)、ポリ(ブタジエン)、ポリ(エチレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ビニリデンクロライド)、ポリ(アクリロニトリル)、架橋ポリ(ビニルピロリドン)、塩素化ポリ(エチレン)、ポリ(トリフルオロクロロエチレン)、ポリ(エチレンクロロフルオロエチレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(エチレンテトラフルオロエチレン)、ポリ(4,4'−イソプロピリデンジフェニレンカーボネート)、ポリウレタン、ポリ(パーフルオロアルコキシ)、ポリ(ビニリデンフルオライド)、ビニリデンクロライド−アクリロニトリルコポリマー、ビニルクロライド−フマル酸ジエチルコポリマー、シリコーン、(Silastic(登録商標)Medical Grade ETR Elastomer Q7-4750またはDowCorning(登録商標)MDX4-4210 Medical Grade Elastomerのような医用等級の)シリコーンゴム、およびポリジメチルシランシリコーンポリマーの架橋コポリマーのようなポリマーが挙げられる。
【0068】
更に、ポリマーのいくつかの例として、ポリ(ジメチルシロキサン)、エチレンプロピレンゴム、シリコーン−カーボネートコポリマー、ビニリデンクロライド−ビニルクロライドコポリマー、ビニルクロライド−アクリロニトリルコポリマー、ビニリデンクロライド−アクリロニトリルコポリマー、ポリ(オレフィン)、ポリ(ビニル−オレフィン)、ポリ(スチレン)、ポリ(ハロオレフィン)、ポリ酢酸ビニルのようなポリ(ビニル)、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリ酪酸ビニル、エチレン−エチルアクリレートコポリマー、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリビニルクロライド、ポリビニルアセタール、可塑化エチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、エチレン−ビニルクロライドコポリマー、ポリビニルエステル、ポリ酪酸ビニル、ポリビニルホルムアルデヒド、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(オキサイド)、ポリ(エステル)、ポリ(アミド)、ポリ(カーボネート)およびこれらの混合物が挙げられる。
【0069】
いくつかの態様では、孔のある外層皮膜を持つインプラントは、薬剤が所望の期間で放出してしまった後、外層が分解する生分解性であってもよい。生分解性ポリマー組成物は、上述の生分解性ポリマーまたはこれらの組合せのいずれを含んでもよい。いくつかのインプラントにおいて、ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標)として市場で知られている)、エチルビニルアルコールまたはエチレン−酢酸ビニルである。
【0070】
ステロイド含有インプラントは、通常、インプラントの総表面積の1%未満の合計面積を持つように構成されたオリフィスで、所望の放出期間を発現した。実質的に円筒状の形をしたインプラントは、第一端部と第二端部とを有し、この第一および第二端部の間に本体部を有する。通常、本明細書に開示するインプラントは、第一および第二端部でシールされている。1個以上の孔がインプラントの本体部に形成されている。孔は、通常、直径が少なくとも約250μmで約500μm未満である。たとえば、孔の直径は約250μm、325μm、375μmまたは500μmである。他のインプラントではより小さな孔が設けられてもよい。通常、2個あるいは3個の孔がインプラント外層に設けられる。孔は、約7mm〜約10mmの長さのインプラントについて、約1mm〜約2mmの距離を置いて別々に設けられてもよい。
【0071】
ステロイド含有インプラントの1つでは、孔の合計面積が、インプラントの総表面積の約0.311%であった。他のステロイド含有インプラントでは、孔の合計面積がインプラントの総表面積の約0.9%であった。オリフィスまたは孔の面積は、以下の式で決定される。
【数1】

(式中、rはオリフィスの半径である。)各オリフィスの面積が決定され、足し合わされてオリフィスの合計面積が決定される。管状インプラントの表面積は、以下の式で決定され得る。
【数2】

(式中、ODは管状インプラントの断面の外径であり、長さは管状インプラントの長さであり、rodは管状インプラントの断面の半径である。)
【0072】
上述の構成において、インプラントは、2μg/日未満の濃度のステロイドを放出することができる。いくつかのインプラントは、約0.5μg/日の濃度のステロイドを放出することができた。これらのインプラントは、1年を超え、例えば5年を超え、さらに約13年間という期間でさえ、眼の眼球領域に治療有効量のステロイドを提供することができる。
【0073】
このようなインプラントで使用される材料および製造法の例は、米国特許第6,331,313号に開示されている。簡単に言えば、治療薬を含む芯の回りに皮膜を形成する。芯は、生分解性ポリマーマトリックスに付随した治療薬を含んでもよく、芯は、管のような、予め形成した皮膜に充填することによって形成してもよい。
【0074】
治療薬は、予め形成した皮膜中に、乾燥粉末、粒子あるいは顆粒、または圧縮固体として堆積させることができる。また、治療薬は、溶液中に存在させてもよい。更に、芯は、上述のインプラントを含むマトリックスのように、生分解性ポリマーマトリックスと治療薬との混合物を含むこともできる。治療薬を含むマトリックスに使用されるポリマーは、体組織および体液と生体適合性があり、体液中で生分解性でありまたは実質的に不溶であることもできる。マトリックスを調製するために、上述の生体適合性ポリマー組成物の任意のものを使用することができる。芯中のポリマーの量は、約0%〜80wt%であってよい。これらのポリマーは市販されており、ポリマー材料を調製する方法はこの技術分野でよく知られている。たとえば、米国特許第5,882,682号を参照されたい。
【0075】
生体適合性で実質的に不透過性の外層は、上述のポリマー組成物で芯を被覆することによって得ることができる。皮膜は、有機溶剤を使用して塗布することができ、次いでこの溶剤を皮膜から真空下で蒸発させ、乾燥皮膜を残すことができる。ポリマーを、約10〜約80wt%の濃度で、適切な温度下、たとえばポリ乳酸ポリマーに関しては60℃〜90℃の間で、有機溶剤に溶解あるいは懸濁する。得られた混合物は、予め形成した芯に、切断、成型、射出成形、押出し、注入、あるいは噴霧して、体内移植のために任意の形およびサイズにすることができる。噴霧は、所望の皮膜厚が得られるまで、回転槽コーターまたは流動床コーター中で行うことができる。
【0076】
あるいは、芯を浸漬コーティングまたは溶融コーティングしてもよい。このタイプのコーティングは特にワックスおよび油剤に関して有用である。別の態様では、芯に、適切なポリマー組成物を予め形成した芯に押し付ける、圧縮コーティングを施してもよい。別の態様では、不透過性皮膜の芯への接着性を向上させるために、不透過性皮膜を塗布する前に、シェラックまたはポリ酢酸ビニルフタレート(PVAP)のような接着性皮膜を芯に塗布してもよい。これらの技術は、この技術分野でよく知られている。たとえば、J.R. ScottおよびW.J. RoffのHandbook of Common Polymers、第64項、(1971)、CRC Press発行、クリーブランド、オハイオ州を参照されたい。
【0077】
外層を所望の形に射出成型または押出成型する場合、外層により形成された空洞に、治療薬組成物を充填することができる。次いで、末端は、末端キャップで密封する。少なくとも1個のオリフィスが器具内に開けられる。場合によっては、オリフィスが開けられあるいは壁に予め形成され、オリフィスは、使用時に破壊して開けられるあるいは切断して開けられる離脱タブレットで、シールされている。
【0078】
あるいは、たとえば、治療薬を含む溶液に、器具が治療薬を充分吸収する時間、器具を浸漬することによって、芯のない器具に治療薬を取り込ませてもよい。器具は中空繊維を含んでいてよく、治療薬が直接、この繊維に取り込まれ、次いで、器具はシールされる。治療薬の活性が影響を受けない場合は、次いで、治療薬を充填した器具を使用するまでの貯蔵のため、乾燥あるいは部分乾燥する。この方法は、特に、選択された治療薬の活性が、溶媒、熱、または常套の溶媒蒸発、成型、押出し若しくは記載した他の方法など、他の形態に対する曝露に敏感である場合、採用される。
【0079】
オリフィスは、この技術分野で既知の任意の技術で形成してよい。たとえば、オリフィスは、針、または他の機械的ドリルまたはレーザーのような穿孔機を使用して、器具の不透過性部分のある箇所を取り除いて開けられてもよい。あるいは、圧縮点で不透過性箇所を貫通するために、特別に設計されたパンチの先端を圧縮機器に組み込んでもよい。
【0080】
孔は、機械的なまたはレーザーを基本とする処理を使用して、器具の壁に適正なサイズの孔を開けてもよい。あるインプラントでは、デジタルレーザー標識システムを使用して孔を開ける。このシステムは、投薬剤形の両面に開けられるべき開口の列と同時に投薬剤形の製造に適切な速度も考慮する。この方法は、デジタルレーザー標識システム(たとえば、Directed Energy から市販されているDigiMark(登録商標)可変標識システム)を利用して、投薬剤形の製造に実用上適切な速度で、投薬剤形の表面または皮膜を通して孔(数は限定されない)を作る。
【0081】
このレーザードリル法の工程は以下の通りである。デジタルレーザー標識システムのレーザーステージに焦点を合わせ;デジタルレーザー標識システムのレーザーステージ上に移動させた投薬剤形にパルスを送り、投薬剤形上の直線列に沿って所望の開口を開けるのに必要なだけ、それらレーザーチューブにエネルギーを加え、投薬剤形をレーザーステージの前方へ移動し、再び、デジタルレーザー標識システムを、更に開口の直線列を作るのに必要な分だけエネルギーを加え;次いで、投薬剤形をレーザーステージから取り出す。
【0082】
オリフィスおよびオリフィスを形成する機器は、米国特許第3,845,770号、第3,916,899号、第4,063,064号および第4,008,864号に開示されている。リーチングによって形成されるオリフィスは、米国特許第4,200,098号および第4,285,987号に開示されている。器具を位置づけるための光波長検出システムを備えたレーザーボール盤は、米国特許第4,063,064号および第4,088,864号に記載されている。
【0083】
本明細書に開示する眼内インプラントは、針での投与用に、約5μm〜約10mm、または約10μm〜約1mmの大きさ、外科的移植による投与用に、1mmより大、または2mmより大、例えば3mm〜10mmの大きさであってよい。針注入インプラントの場合、インプラントの直径がインプラントの針内での移動を可能にするかぎり、インプラントは適当な長さを有していてよい。例えば、約6mm〜約7mmの長さを有するインプラントを眼に挿入できる。針を用いて投与できるインプラントは、針の内径より小さい直径を持たなければならない。あるインプラントでは、直径は約500μm未満である。ヒトの硝子体腔は、例えば1〜10mmの長さを有する種々の形状の比較的大きいインプラントを収容することができる。インプラントは約2mm×0.75mm直径の寸法を有する円筒形ペレット(例えばロッド)であってよい。または、インプラントは、長さ約7mm〜約10mm、直径約0.75mm〜約1.5mmの円筒形ペレットであってもよい。
【0084】
インプラントは、眼、例えば硝子体へのインプラントの挿入、およびインプラントの収容の両方を容易にするように、少なくとも幾分柔軟性であってもよい。インプラントの全重量は、一般に約250〜5000μg、より好ましくは約500〜1000μgである。例えば、インプラントは約500μg、または約1000μgであってよい。非ヒト個体に関しては、インプラントの寸法および全重量は、個体の種類に依存してより大きいかまたはより小さくてよい。例えば、ウマの約30mLおよびゾウの約60〜100mLと比較して、ヒトは約3.8mLの硝子体容量を有する。ヒトに使用される大きさのインプラントを、他の動物に応じて大きくするかまたは小さくし、例えばウマ用のインプラントは約8倍大きくし、または、例えばゾウ用のインプラントは26倍大きくしうる。
【0085】
例えば、中心が1つの材料で形成され、表面が同じかまたは異なる組成物の1つまたはそれ以上の層を有し、層が架橋しているか、または異なる分子量、異なる密度または多孔率等であるインプラントを製造することができる。例えば、薬剤の初期ボーラスを急速に放出することが望ましい場合、中心が、ポリラクテート−ポリグリコレートコポリマーで被覆されたポリラクテートであってよく、それによって初期分解速度を増加しうる。または、中心が、ポリラクテートで被覆されたポリビニルアルコールであってもよく、それによって、外側のポリラクテートの分解時に、中心が溶解し、眼から急速に流れ出るようにしうる。
【0086】
インプラント、特に生分解性ポリマーに付随したステロイドを含むインプラントは、繊維、シート、フィルム、微小球、球体、円板、プラク等を包含する任意の形状であってよい。インプラントの大きさの上限は、インプラントに関する許容性(toleration for the implant)、挿入時の大きさ制限、取扱い容易性等のような要因によって決定される。シートまたはフィルムを使用する場合、シートまたはフィルムは、取扱い容易性のために、少なくとも約0.5mm×0.5mm、一般に約3〜10mm×5〜10mm、厚さ約0.1〜1.0mmである。繊維を使用する場合、繊維の直径は、一般に約0.05〜3mmであり、繊維の長さは一般に約0.5〜10mmである。球体は、直径約0.5μm〜4mmであり、他の形状の粒子に匹敵する容量を有しうる。
【0087】
インプラントの大きさおよび形は、放出速度、治療期間、および移植部位における薬剤濃度を調節するために使用することもできる。より大きいインプラントは、比例的により高い投与量を送達するが、表面積/質量比に依存して、より遅い放出速度を有する場合もある。移植部位に適合させるために、インプラントの特定の大きさおよび形状を選択する。
【0088】
ステロイド、ポリマーおよび任意の他の調節剤の比率は、変化する比率においていくつかのインプラントを処方することによって経験的に決定しうる。USP承認の溶解または放出試験方法を使用して、放出速度を測定することができる(USP 23;NF 18(1995), p.1790-1798)。例えば、無限沈下法(infinite sink method)を使用して、秤量したインプラント試料を、水中に0.9%NaClを含有する測定容量の溶液に添加すると、該溶液容量は、放出後の薬剤濃度が飽和の5%未満であるような容量になる。混合物を37℃に維持し、ゆっくり撹拌して、インプラントを懸濁状態に維持する。時間の関数としての溶解薬剤の外観を、当分野で既知の種々方法、例えば、分光光度的に、HPLC、質量分析等によって、吸収が一定になるまでか、または90%を超える薬剤が放出されるまで、追跡しうる。
【0089】
本明細書に開示される眼内インプラントに含有されるステロイドに加えて、眼内インプラントは、1つまたはそれ以上の付加的な眼科的に許容される治療剤も含有しうる。例えば、インプラントは、1つまたはそれ以上の抗ヒスタミン薬、1つまたはそれ以上の抗生物質、1つまたはそれ以上のβ遮断薬、1つまたはそれ以上の異なったコルチコステロイド、1つまたはそれ以上の抗新生物薬、1つまたはそれ以上の免疫抑制薬、1つまたはそれ以上の抗ウイルス薬、1つまたはそれ以上の酸化防止剤、およびそれらの混合物を含有しうる。
【0090】
本発明のシステムに使用しうる薬理学的または治療的薬剤は、米国特許第4474451号第4〜6欄、および同第4327725号第7〜8欄に開示されている薬剤を包含するが、それらに限定されない。
【0091】
抗ヒスタミン薬の例は、ロラダチン、ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ブロムフェニルアミン、シプロヘプタジン、テルフェナジン、クレマスチン、トリプロリジン、カルビノキサミン、ジフェニルピラリン、フェニンダミン、アザタジン、トリペレナミン、デクスクロルフェニラミン、デクスブロムフェニラミン、メトジラジン、およびトリメプラジン、ドキシラミン、フェニラミン、ピリラミン、キオルシクリジン、トンジラミン、ならびにそれらの誘導体であるが、それらに限定されない。
【0092】
抗生物質の例は、セファゾリン、セフラジン、セファクロール、セファピリン、セフチゾキシム、セフォペラゾン、セフォテタン、セフトキシム(cefutoxime)、セフォタキシム、セファドロキシル、セフタジジム、セファレキシン、セファロチン、セファマンドール、セフォキシチン、セフォニシド、セフォラニド、セフトリアキソン、セファドロキシル、セフラジン、セフロキシム、アンピシリン、アモキシリン、シクラシリン、アンピリシン、ペニシリンG、ペニシリンVカリウム、ピペラシリン、オキサシリン、バカンピシリン、クロキサシリン、チカルシリン、アズロシリン、カルベニシリン、メチシリン、ナフシリン、エリスロマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、アズトレオナム、クロラムフェニコール、塩酸シプロフロキサシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ゲンタマイシン、リンコマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、硫酸ポリミキシンB、コリスチメテート、コリスチン、アジスロマイシン、オーグメンチン、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、およびそれらの誘導体であるがそれらに限定されない。
【0093】
β遮断薬の例は、アセブトロール、アテノロール、ラベタロール、メトプロロール、プロプラノロール、チモロール、およびそれらの誘導体である。
【0094】
他のコルチコステロイドの例は、コルチゾン、プレドニゾロン、フルオロメトロン、デキサメタゾン、メドリゾン、ロテプレドノール(loteprednol)、フルアザコート、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、ベタメタゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、リアムシノロンヘキサカトニド、酢酸パラメタゾン、ジフロラゾン、フルオシノニド、それらの誘導体、ならびにそれらの混合物である。
【0095】
抗新生物薬の例は、アドリアマイシン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ジュアノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、カルボプラチン、カルムスチン(BCNU)、メチル−CCNU、シスプラチン、エトポシド、インターフェロン、カンプトテシンおよびその誘導体、フェネステリン、タキソールおよびその誘導体、タキソテールおよびその誘導体、ビンブラスチン、ビンクリスチン、タモキシフェン、エトポシド、ピポスルファン、シクロホスファミド、およびフルタミド、ならびにそれらの誘導体である。
【0096】
免疫抑制薬の例は、シクロスポリン、アザチオプリン、タクロリムスおよびそれらの誘導体である。
【0097】
抗ウイルス薬の例は、インターフェロンガンマ、ジドブジン、塩酸アマンタジン、リバビリン、アシクロビル、バルシクロビル、ジデオキシシチジン、ホスホノ蟻酸、ガンシクロビルおよびそれらの誘導体である。
【0098】
酸化防止剤の例は、アスコルベート、α−トコフェロール、マンニトール、還元型グルタチオン、種々のカロテノイド、システイン、尿酸、タウリン、チロシン、スーパーオキシドジスムターゼ、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、アスタザンチン(astazanthin)、リコペン、N−アセチル−システイン、カルノシン、γ−グルタミルシステイン、ケルセチン、ラクトフェリン、ジヒドロリポ酸、シトレート、イチョウエキス、茶カテキン、ビルベリーエキス、ビタミンEまたはビタミンEのエステル、レチニルパルミテート、およびそれらの誘導体である。
【0099】
他の治療薬は、スクアラミン、炭酸脱水酵素阻害薬、αアゴニスト、プロスタミド、プロスタグランジン、駆虫薬、抗真菌薬、およびそれらの誘導体を包含する。
【0100】
個々にまたは組み合わせてインプラントに使用される1つまたはそれ以上の活性剤の量は、必要とされる有効投与量、およびインプラントからの所望放出速度に依存して広く変化する。通常、薬剤は、インプラントの少なくとも約1wt%、より一般的には少なくとも約10wt%であり、かつ、一般に約80wt%以下、より一般的には約40wt%以下である。
【0101】
本明細書に開示する眼内インプラントは、治療成分に加えて、有効量の緩衝剤、防腐剤等も含有しうる。好適な水溶性緩衝剤は、アルカリおよびアルカリ土類炭酸塩、燐酸塩、炭酸水素塩、クエン酸塩、硼酸塩、酢酸塩、琥珀酸塩等、例えば、燐酸、クエン酸、硼酸、酢酸、炭酸水素、炭酸等を包含するが、それらに限定されない。これらの緩衝剤は、システムのpHを約2〜約9、より好ましくは約4〜約8に維持するのに充分な量で存在するのが好都合である。従って、緩衝剤は、全インプラントの約5wt%もの量で存在する場合もある。好適な水溶性防腐剤は、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルベート、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硼酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、パラベン、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール等、およびそれらの混合物を包含する。これらの防腐剤は、0.001〜約5wt%、好ましくは0.01〜約2wt%の量で存在しうる。
【0102】
ある場合には、同じかまたは異なる薬理学的物質を使用して、インプラントの混合物を使用しうる。この場合、単一投与によって二相または三相放出を与える放出プロフィールの組み合わせが得られ、放出のパターンがかなり変化しうる。
【0103】
さらに、米国特許第5869079号に記載されているような放出調節剤もインプラントに含有させてよい。使用される放出調節剤の量は、所望の放出プロフィール、調節剤の活性、および調節剤の不存在下のグルココルチコイドの放出プロフィールに依存する。電解質、例えば塩化ナトリウムおよび塩化カリウムも、インプラントに含有させてよい。緩衝剤または促進剤が親水性である場合、それは放出促進剤としても作用しうる。親水性添加剤は、薬剤粒子を囲んでいる材料のより速い溶解(これは、露出した薬剤の表面積を増加させ、それによって薬剤の生体内分解速度を増加させる)によって、放出速度を増加させる作用をする。同様に、疎水性緩衝剤または促進剤は、よりゆっくり溶解し、薬剤粒子の露出を遅くし、それによって薬剤の生体内分解速度を遅くする。
【0104】
種々の方法を使用して、本明細書に開示するインプラントを製造しうる。有用な方法は、溶媒蒸発法、相分離法、界面法、成形法、射出成形法、押出法、同時押出法、カーバープレス(carver press)法、ダイ打抜き法、熱圧縮法、それらの組合せ等であるが、必ずしもそれらに限定されない。
【0105】
特定の方法が、米国特許第4997652号に記載されている。押出法を使用して、製造における溶媒の必要性を回避しうる。押出法を使用する場合、ポリマーおよび薬剤は、製造に必要とされる温度(一般に、低くとも約85℃)において安定であるように選択される。押出法は、約25℃〜約150℃、より好ましくは約65℃〜約130℃の温度を使用する。インプラントは、薬剤/ポリマー混合のために、約0〜1時間、0〜30分間、または5〜15分間にわたって、温度を約60℃〜約150℃、例えば約130℃にすることによって製造しうる。例えば、時間は、約10分間、好ましくは約0〜5分間であってよい。次に、インプラントを、約60℃〜約130℃、例えば約75℃の温度で押し出す。
【0106】
さらに、インプラントを同時押出してもよく、それによってインプラントの製造の間に、コア領域に被膜を形成しうる。
【0107】
圧縮法を使用してインプラントを製造してもよく、圧縮法は、一般に、押出法より速い放出速度のインプラントを生じる。圧縮法は、約50〜150psi、より好ましくは約70〜80psi、さらに好ましくは約76psiの圧力を使用し、約0℃〜約115℃、より好ましくは約25℃の温度を使用する。
【0108】
本発明のインプラントは、2〜3mmの強膜切開後の鉗子またはトロカールによる配置を包含する種々の方法によって、眼、例えば眼の硝子体腔に挿入しうる。配置方法は、治療成分または薬剤放出速度論に影響を与えうる。例えば、トロカールでのインプラントの送達は、鉗子による配置より、硝子体内に深くインプラントを配置し、それによって、インプラントを硝子体の縁により近づけうる。インプラントの位置は、要素の周囲の治療成分または薬剤の濃度勾配に影響を与える場合があり、従って、放出速度に影響を与えうる(例えば、硝子体の縁の近くに配置するほど、より遅い放出速度を生じうる)。
【0109】
本発明で処理するまたは扱うことができる疾患/症状は、これらに限定するわけではないが、以下のものを包含する。
【0110】
黄斑症/網膜変性:
非滲出性老化関連黄斑変性(ARMD)、滲出性老化関連黄斑変性(ARMD)、脈絡膜新生血管形成、糖尿病性網膜症、急性斑状視神経網膜疾患、中心性漿液性脈絡網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、糖尿病性黄斑浮腫。
【0111】
ブドウ膜炎/網膜炎/脈絡膜炎:
急性多発性斑状色素上皮症、ベーチェット病、バードショット(Birdshot)網膜脈絡膜症、感染症(梅毒、ライム病、結核、トキソプラズマ症)、中間部ブドウ膜炎(扁平部炎)、多病巣性脈絡膜炎、多発性一過性白点症候群(Multiple Evanescent White Dot Syndrome)(MEWDS)、眼類肉腫症、後強膜炎、ほ行性脈絡膜炎、網膜下線維症およびブドウ膜炎症候群、フォークト−コヤナギ−ハラダ(VKH)症候群。
【0112】
血管疾患/滲出性疾患:
網膜動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、播種性血管内凝固症候群、網膜静脈分枝閉塞症、 高血圧性眼底変化、眼性急性冠動脈症候群、網膜動脈微小動脈瘤、コーツ病、傍中心窩(parafoveal)毛細管拡張症、半網膜静脈閉塞症、乳頭静脈炎、網膜中心動脈閉塞、網膜動脈分岐閉塞症、頸動脈病変(CAD)、霜状分岐血管炎、鎌状赤血球網膜症および他の異常ヘモグロビン症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イールズ病。
【0113】
外傷性/外科性:
交感神経性眼炎、ブドウ膜炎網膜疾患、網膜剥離、外傷、レーザー、PDT、光凝固、手術時低灌流、放射線性網膜症、骨髄移植性網膜症。
【0114】
増殖性疾患:
増殖性硝子体網膜症および網膜上膜、増殖性糖尿病性網膜症。
【0115】
感染性疾患:
眼ヒストプラスマ症候群、眼トキソカラ症、推定眼ヒストプラスマ症候群(POHS)、眼内炎、トキソプラスマ症、HIV感染関連網膜疾患、HIV感染関連脈絡膜疾患、HIV感染関連ブドウ膜炎疾患、ウイルス性網膜炎、急性網膜壊死、進行性外網膜壊死、真菌性網膜疾患、眼梅毒、眼結核、広汎性片側性亜急性視神経網膜炎、ハエウジ病。
【0116】
遺伝性疾患:
網膜色素変性症、網膜ジストロフィー関連全身性疾患、先天性停在夜盲症、錐体ジストロフィー、スタルガルト病および黄色斑眼底、ベスト病、網膜色素上皮のパターンジストロフィー(Pattern Dystrophy of the Retinal Pigmented Epithelium)、X染色体性網膜分離、ソーズビー眼底ジストロフィー、良性同心性黄斑症、ビエッティ結晶性ジストロフィー(Bietti's Crystalline Dystrophy)、弾性線維性仮性黄色腫。
【0117】
網膜断裂/円孔:
網膜剥離、斑状円孔、巨大網膜断裂。
【0118】
腫瘍:
腫瘍に関連した網膜疾患、RPEの先天性肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の複合過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星状細胞腫、眼内リンパ系腫瘍。
【0119】
その他:
点状内脈絡膜症、急性後多発性斑状色素上皮症、近視性網膜変性、急性網膜色素上皮炎、眼炎症性および免疫性疾患、眼血管機能不全、角膜移植片拒絶、血管新生緑内障等。
【0120】
1つの態様において、インプラント、例えば、本明細書に開示するインプラントを、ヒトまたは動物患者、好ましくは生体ヒトまたは動物の、眼の後区に投与する。少なくとも1つの態様において、眼の網膜下腔に接近せずに、インプラントを投与する。例えば、患者の治療法は、後眼房に直接的にインプラントを配置することを含みうる。他の態様において、患者の治療法は、硝子体内注入、結膜下注入、テノン下注入、眼球後注入および脈絡膜上注入の少なくとも1つによって、患者にインプラントを投与することを含みうる。
【0121】
少なくとも1つの態様において、後眼症状を治療する方法は、本明細書に開示する1つまたはそれ以上のステロイドを含有する1つまたはそれ以上のインプラントを、硝子体内注入、結膜下注入、テノン下注入、眼球後注入および脈絡膜上注入の少なくとも1つによって、患者に投与することを含んで成る。適切な太さの針、例えば、22ゲージ針、27ゲージ針または30ゲージ針を含む注入器具を効果的に使用して、ヒトまたは動物の眼の後区に組成物を注入することができる。インプラントからのステロイドの長期間放出により、繰り返しの注入が必要でない場合が多い。
【0122】
本発明のインプラントは、眼の治療を必要としている患者に長期治療を提供する。本明細書に記載したように、本発明のインプラントは、患者の眼の硝子体に設置後少なくとも約2ヶ月間ステロイドを放出できる。ある種のインプラントでは、ステロイドおよび/または他の治療剤を、少なくとも約1年間、例えば約3年間放出できる。更なるインプラントでは、3年間以上、例えば約5年間、治療有効量のステロイドを放出できる。
【0123】
本発明の他の局面において、下記を含んで成る眼疾患治療用キットを提供する:a)ステロイド、例えばフルオシノロンまたはトリアムシノロンを含有する治療成分および薬剤放出持続成分を含んで成る長期間放出インプラントを含有する容器、およびb)使用説明書。使用説明書は、インプラントの取扱い方法、眼領域へのインプラントの挿入方法、およびインプラントの使用により予期される事柄を含みうる。
【0124】
本明細書の開示によれば、生分解性眼内インプラントの1つの態様は、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾンなどのステロイドと、生分解性ポリマー成分とを含み、ポリビニルアルコールは実質的に含まない。このようなインプラントは、非感染性ブドウ膜炎のようなブドウ膜炎、および黄斑浮腫、加齢性黄斑変性および本明細書に記載した障害のような他の眼球障害の治療において有用である。これらのインプラントは、患者の眼の硝子体中に配置することができ、殆どあるいは全く副作用なしに、1種以上の治療的利点を提供することができ、好ましい。たとえば、フルオシノロンアセトニドのようなステロイド類を、患者に白内障、硝子体出血、網膜新生血管形成および/または眼球高血圧を発症させることなく、インプラントから放出することができる。
【0125】
別の態様では、インプラントは、フルオシノロンアセトニドのようなステロイドを含むことができ、このインプラントは、錠剤以外の形をとることができる。たとえば、このインプラントは棒状、球状などの形状をとることができる。あるインプラントでは、圧縮錠剤ではなく、押出し要素である。インプラントは、眼内の所定位置にこのインプラントを保持するのに有効な接着成分を含んでもよい。たとえば、あるインプラント、たとえば非錠剤インプラントは、ポリビニルアルコール縫合糸を含んでもよい。圧縮錠剤を含む他のインプラントは、ポリビニルアルコール以外の接着成分を含んでもよい。
たとえば、ヒドロゲル材料を、患者の眼にインプラントを固定するために使用してもよい。
【0126】
更なる態様では、インプラントは、フルオシノロンアセトニドまたはトリアムシノロンアセトニドのようなステロイドと、α−2アドレナリンアゴニストのような眼圧降下剤とを含むことができる。これらのインプラントは、インプラントから眼内にステロイドが放出されるときに起こる眼圧の上昇を抑えるのに、特に有用である。
【0127】
別の態様では、ステロイド含有眼内錠剤は、ポリビニルアルコール皮膜を有してもよく、シリコーン成分を実質的に含まない。有用な皮膜のいくつかの例として、先に記載したものが挙げられる。
【実施例】
【0128】
次に、実施例を用いて、当業者に特に好ましい薬剤送達システム、そのようなシステムの製造方法、本発明の範囲での症状を治療する方法を説明する。以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0129】
実施例1
フルオシノロンおよび生分解性ポリマーマトリックスを含有するインプラントの製造および試験
フルオシノロンアセトニドを、ステンレス鋼製乳鉢中でポリマーと合わせ、96RPMに設定したTurbula 撹拌器を使用して15分間混合した。フルオシノロンとポリマーとの粉末をステンレス鋼乳鉢の壁からこすり落とし、次いで、再び15分間混合した。粉末混合物を、使用したポリマーに依存して、110℃〜160℃の範囲の温度に合計30分間加熱し、ポリマー/薬剤溶融物を形成した。この溶融物をペレット化し、次いで、バレルに入れ、フィラメントに押出し、最後にこのフィラメントを約0.5mgまたは約1mgのサイズのインプラントに切断した。このインプラントの重さは、約450μg〜約550μg、または約900μg〜約1100μgであった。1mgサイズのインプラントは、長さが約2mmで、直径が約0.72mmであった。
【0130】
各インプラントを、0.9%食塩水10mlを含む、20mlスクリューキャップ付バイアルに入れた。バイアルを37℃の振盪水浴中に置いた。1日目、4日目、7日目およびその後毎週、試料9mlを採取し、等体積の新鮮な培地で置き換えた。インビトロ放出試験は、インプラントの各ロットについて、6回の反復試験を行った。
【0131】
薬剤分析は、Waters 2690 Separation Module (または2696)とWaters 2996 Phtodiode Array Detector とからなるHPLCで行った。分離のためにVarian Microsorb-MV(登録商標)100Å C18 カラムを使用し、検出器は254nmに設定した。移動相は、(50:50)アセトニトリル/0.005M酢酸ナトリウム(pH=4.0)であった。流速は1.00ml/分であり、合計実行時間は6分であった。放出速度は、時間とともに所定の体積の培地中に放出された薬剤の量を計算して、μg/日で決定した。
【0132】
表1に示すような、合計20個のフルオシノロンアセトニド製剤を調製した。使用したポリマーは、Boehringer Ingelheim社のResomerRG755、RG503、R202H、RG502HおよびRG502であった。固有粘度は、それぞれ、約0.6、0.4、0.2、0.2および0.2dl/gであった。平均分子量は、それぞれ、40000、28300、6500、8400および11400であった。
【0133】
【表1】

【0134】
FA=フルオシノロンアセトニド
I.V.=固有粘度
Melt T=溶融温度
Extru T=押出温度
ノズル=ノズル直径(μm)
DDSサイズ=薬剤送達システムのサイズ(すなわち、個々のインプラントの重さ)
【0135】
調製した20製剤のうち、16製剤を放出試験用に選別した(製剤#1〜11および16〜20)。最初、放出培地は、各時点で1mlを交換する、10mlのリン酸塩緩衝液−食塩水(PBS)であったが、3週間まで放出は殆ど観察されなかった。続いて、放出培地を、9mlを交換するPBSに変えたが、放出には一貫性がなく、許容できないほど標準偏差が高かった。最後に、放出培地を、各時点で9mlを交換する0.9%食塩水に変更した。放出プロフィールを図1および2に示す。
【0136】
フルオシノロンアセトニド製剤の殆どが、約2〜3ヶ月のうちに全薬剤を放出した。16製剤のうち、11製剤が、約2ヶ月間放出を示した。11製剤のうち、6製剤が、約3ヶ月間放出を示した。
【0137】
特に、Resomer RG755(453-98A、453-98Bおよび453-99)およびRG752(453-117)で調製した全ての製剤は、4日後に殆ど放出せず、試験は1ヵ月後に中止した。
【0138】
RG503(453-100および453-101)およびRG502(453-119)で調製した製剤は、49日目と56日目の間で100%放出する前に、3〜4週間の遅延を示した。
【0139】
RG502H(453-118)で調製した製剤は、一番速く、49日目であった。
【0140】
RG502HおよびR202Hの(1:1)混合物で調製した製剤は、84日間までと、見たところ、最も長い放出となった。
【0141】
最後に、RG502HおよびRG752の(1:1)混合物で調製した製剤は、見たところ、最初はRG502H(453-118)で調製した製剤と比べて、遅いようであったが、最終的には、49日で放出が完了した。
【0142】
これらのデータに基づいて、より遅い放出をするRG502Hと他のポリマーとの混合物が、より長い放出とゼロ次動態に比較的より近い製剤を提供するであろうことが結論付けられた。所望の放出特性を持つ1製剤は、RG502HとR202Hとの1:2であり、これは、84日後に、94%フルオシノロンを放出させた。
【0143】
実施例2
トリアムシノロンおよび生分解性ポリマーマトリックスを含有するインプラントの製造および試験
トリアムシノロンアセトニドを、ステンレス鋼製乳鉢中でポリマーと合わせ、96RPMに設定したTurbula 撹拌器を使用して15分間混合した。フルオシノロンとポリマーとの粉末をステンレス鋼乳鉢の壁からこすり落とし、次いで、再び15分間混合した。粉末混合物を、使用したポリマーに依存して、110℃〜160℃の範囲の温度に合計30分間加熱し、ポリマー/薬剤溶融物を形成した。この溶融物をペレット化し、次いで、バレルに入れ、フィラメントに押出し、最後にこのフィラメントを約0.5mgまたは約1mgのサイズのインプラントに切断した。このインプラントの重さは、約450μg〜約550μg、または約900μg〜約1100μgであった。1mgサイズのインプラントは、長さが約2mmで、直径が約0.72mmであった。
【0144】
トリアムシノロンインプラントの試験を実施例1に記載したように行った。
表2に示すような、合計20個のトリアムシノロンアセトニド製剤を調製した。使用したポリマーは、Boehringer Ingelheim社のResomerRG755、RG503、R202H、RG502HおよびRG502であった。固有粘度は、それぞれ、約0.6、0.4、0.2、0.2および0.2dl/gであった。平均分子量は、それぞれ、40000、28300、6500、8400および11400であった。
【0145】
【表2】

【0146】
TA=トリアムシノロンアセトニド
I.V.=固有粘度
Melt T=溶融温度
Extru T=押出温度
ノズル=ノズル直径(μm)
DDSサイズ=薬剤送達システムのサイズ(すなわち、個々のインプラントの重さ)
【0147】
調製した16製剤のうち、8製剤を放出試験用に選別した(製剤#1〜8)。放出培地に関して、フルオシノロンと同じ問題に直面した。放出培地を、各時点で9mlを交換する0.9%食塩水に変更した。放出プロフィールを図3に示す。
【0148】
あるトリアムシノロンアセトニド製剤は、約4〜6ヶ月の期間の放出であった。8製剤のうち、5製剤は、4ヶ月以上の間放出し、2製剤は5ヶ月を超える放出を示した。
【0149】
RG755(453-96)、RG752(453-114)およびR202H(453-115)で調製した製剤は、本質的に0の、非常に遅い放出を示した。
【0150】
RG502H(453-113)で調製した製剤は、約4ヶ月を費やす最小限の遅延のある、最も速くそしておそらく最もスムーズな放出プロフィールを有していた。
【0151】
RG502(453-112)で調製した製剤は、4ヶ月の同じように速い放出を示したが、2〜3週間の遅延時間があった。
【0152】
RG503(453-97)で調製した製剤は、4ヶ月を超える放出を示したが、4週間の遅延時間もあった。
【0153】
実施例1の製剤と同様に、RG502HおよびR202Hロット(453-123)との(1:1)混合物で調製した製剤は、5〜6ヶ月に達する、所望の放出プロフィールを示した。この放出プロフィールは、殆ど直線的で最も長かった(>140日間)。
【0154】
実施例1および2のデータに基づくと、ポリマーブレンドは、単独のポリマーに比べて、より望みどおりに調整された放出速度を達成するようであった。R202Hのようなゆっくり分解するポリ(D,L−ラクチド)を用い、それをRG502Hのような早急に分解するポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)と混合することで、フルオシノロンおよびトリアムシノロンアセトニドの両方の放出速度の調整が効果的になる。
【0155】
実施例3
フルオシノロンおよびポリマー皮膜を含有するインプラントの製造およびインビトロ試験
シリコーンチューブ(Specialty Silicone Fabricators, Inc. SSF-METN-755、P.N.OP-2)を10mmまたは7mmのチューブに切断してインプラント構成要素を形成した。種々のサイズの孔を切断したチューブ上にドリル(Photomachining, Inc.)で開けた。各チューブの構造は、孔の数、孔の直径および孔間の距離と、チューブ長さ、チューブの滅菌状態によって特徴づけた。孔を開けた各チューブの一方の端部を、シリコーン接着剤(Nusil Silicone Technology、MED-1511)で接着し、室温で72時間乾燥し、次いで、フルオシノロンアセトニドを充填した。10mm長の各チューブは4〜5mgのフルオシノロンを含み、7mm長の各チューブは、2〜3mgのフルオシノロンを含んでいた。最後に、各チューブの他方の端部を接着し、72時間乾燥した。このインプラントは、いかなる賦形剤も放出変性剤も含んでいなかった。合計で30個の異なるチューブ構造体を試験した。表3にそれを示す。
【0156】
【表3】

【0157】
30個の各インプラントを、1mlのリン酸塩緩衝液−食塩水、pH7.4(PBS)を含む、5mlのキャップ付遠心分離バイアル中に37℃で置いた。等体積の新鮮培地での総入れ替えを、1日目、4日目、7日目、14日目、28日後に、その後は毎週行った。薬剤分析を、2690(または2696)分離モジュールと2996フォトダイオードアレイ検出器とを含むWatersHPLCシステムで行った。分離のためにRainin C18、4.6×100mmカラムを使用し、検出器を254nmに設定した。移動相は、(50:50)アセトニトリル−0.005MNaOAc/HOAc、pH4.0で、流速は1ml/分であり、合計実行時間は1試料当たり10分であった。放出速度は、時間とともに所定の体積の培地中に放出された薬剤の量を計算して、μg/日で決定した。放出試験は、それぞれ1試料しか試験しなかった構造体#5〜8を除いて、30個の構造体全てについて3回の反復試験を行った。
【0158】
試験されたインプラントは、表3に記載されるように、孔の数(2個または3個)、孔のサイズ(250、325、375、460または500μm)、孔間の距離(1mm、1.5mmまたは2mm)、インプラントの長さ(1cmまたは0.7cm)およびガンマー線滅菌の前後で異なっていた。
【0159】
一般に、30個のインプラントは全て、第1日目に薬剤放出の初期噴出があり、次いで、7日目またはそれ以後まで減少し、最後に、14日後から始まる平衡放出領域に徐々に落ち着いた。最初の8個の構造体は、表3に示すように、各器具に関し、長さが1cmで薬剤量が約4.5mg±0.2mgであった。構造体1〜4は非滅菌状態であり、一方、構造体5〜8は滅菌状態であった。時間の関数としての放出累積量(μg)および時間の関数としての1日当たりの放出量(μg)を、図4〜7に示す。
【0160】
構造体#1(2個の孔−250μm)、#2(2個の孔−500μm)、#3(3個の孔−250μm)、および#4(3個の孔−500μm)は、14日目〜487日目での平均放出が、それぞれ、0.63±0.23、1.72±0.52、0.94±0.30、および2.82μg/日±0.41μg/日であった。これらの結果を対応する滅菌状態のものと比べると、構造体#5、#6、#7および#8の14日目〜487日目での平均放出量はそれぞれ、0.88、1.10、2.48および2.84μg/日であった。最初の4個の構造体に関して、構造体における孔の数とその1日当たりの平均放出量との間に、良好な相関関係が観察された。たとえば、構造体#3は3個の孔を有し、構造体#1は、#3の直径と同じ直径の孔を2個有する。構造体#3は、構造体#1に比べて1日あたり1.5倍のフルオシノロンを放出した。同様の結果が、構造体#4および構造体#2に関しても得られた。
【0161】
構造体#5(2個の孔−250μm)、#6(2個の孔−500μm)、#7(3個の孔−250μm)および#8(3個の孔−500μm)に関し、構造体#7と#5との間および構造体#8と#6との間で、放出速度の約3倍の増加が観察された。これは対応する非滅菌のものに比べ2倍の増加であった。構造体#5(2個の孔−250μm)は、平均で1μg/日の放出があり、構造体#7(2個の孔−500μm)は平均で3μg/日放出した。
【0162】
構造体#9(2個の孔−375μm)、#10(2個の孔−460μm)、#11(3個の孔−325μm)および#12(3個の孔−375μm)を製造し、非滅菌とした。一方、構造体13〜16を対応する滅菌状態のものとした。時間の関数としての放出累積量(μg)、および時間の関数としての1日当たりの放出量(μg)を、図8〜11に示す。14日目〜397日目の結果は、構造体9、10、11および12に関し、それぞれ、平均放出量が1.02±0.25、1.22±0.29、1.06±0.21および1.50±0.39μg/日であった。同様に、対応する滅菌状態のものである構造体13、14、15および16に関するデータは、それぞれ、平均放出量が、1.92±00.23、2.29±0.33、1.94±0.18および3.15±0.64μg/日であった。各滅菌状態構造体は、対応する非滅菌のものに対し2倍早く放出したようであった。
【0163】
構造体#13(2個の孔−375μm−2mmの孔間)は、14日目〜376日目で平均放出量1.92±0.23μg/日を示した。同様に、構造体#15(3個の孔−325μm−2mmの孔間)は、14日目〜376日目に平均放出量1.94±0.18μg/日に達した。同じ期間、構造体#14および#16は、それぞれ、平均放出量2.29μg±0.33μg/日および3.15μg±0.64μg/日に達した。さらに、構造体#13および#15は、376日後、総放出量が、それぞれ、16.02%±0.78%および14.22%±1.13%に達した。放出速度に基づいて、構造体#13および#15の予期される寿命は、それぞれ、6.4年および7.24年である。
【0164】
また、フルオシノロン放出速度が約0.5μg/日となるようにインプラントを製造した。製造した管状インプラントの長さは約0.7cmで、約2.8mg±0.34mgの薬剤を充填した。構造体17、18、19および20とする。時間の関数としてのフルオシノロン放出累積量(μg)および時間の関数としての1日当たりの放出量(μg)をそれぞれ、図12および13に示す。
【0165】
結果は、14日目〜329日目で、構造体17、18、19および20に関し、それぞれ、平均放出量0.95±0.14、1.71±0.55、1.93±0.56および2.76±0.27μg/日であった。構造体17、18、19および20のチューブの長さを1.0cm〜0.7cmと短くしたので、約0.15cmのシリコーンチューブを両端から取り外した。その結果、調製中に接着剤が孔の周りに殆ど触れるほど、孔はチューブの端部に非常に近くなった。これが放出プロフィールに影響を与えたかどうかははっきりしなかった。この潜在的な問題を解決するために、中心に対して互いに非常に近い孔と、両端から離れている孔とを持つ構造体を調製した。
【0166】
最後の10個の構造体は、器具毎に長さが0.7cmであり、薬剤量が約2.69mg±0.36mgであった。構造体21〜25を呼び滅菌状態とし、一方、構造体26〜30を滅菌状態とした。時間の関数としての放出累積量(μg)および時間の関数としての1日当たりの放出量(μg)を図14〜17に示す。
【0167】
14日目〜289日目の結果は、構造体21、22、23、23および25に関し、平均放出量が、それぞれ1.01±0.23、1.76±0.57、1.73±0.30、3.0±1.26および3.32±1.06μg/日であった。同様に、対応する滅菌状態のものである構造体26、27、28、29および30のデータは、14日目〜289日目で平均放出量が、それぞれ、0.48±0.03、0.85±0.09、0.82±0.08、1.19±0.15および1.97±0.69μg/日であった。構造体#26(2個の孔−250μm−1mmの孔間)は、289日を超え、または9.5ヶ月に近い期間で、平均放出量が0.5μg/日(たとえば、14日目〜289日目で0.48±0.03μg/日)に、総放出量が5.76%±0.32%に達した。その放出速度に基づくと、13.75年の寿命を持つ。一般的に、非滅菌構造体は、対応する滅菌状態のものに対して約2倍速い。
【0168】
実施例4
フルオシノロンおよびポリマー皮膜を含有する眼内インプラントの製造およびインビボ試験
インビボ実験を実施例3の構造体#29によって示されるインプラントを用いて行った。
インプラントは実施例3に記載のように製造した。構造体#29は、289日間を超えたインビトロ試験を行った時、平均放出量1.19±0.15μg/日および総放出量14.28%±1.59%に達していた。
【0169】
インビボ実験は、4匹のウサギを用いて行った。フルオシノロン含有インプラントを、各ウサギの右目(OD)と左目(OS)の後部(すなわち硝子体)に外科的に移植した。眼房水(15〜20l)および硝子体液(150〜200l)を最初の2匹のウサギから取り去り、一方、残った2匹のウサギのサンプリングを、サンプリングの日が7、14、21、40および60、90および120日目であるサンプリング計画によって決定した。インビボ実験の結果を表4に示す。
【0170】
【表4】

【0171】
硝子体でのフルオシノロン平均レベルは、第一週では比較的高く、次いで第二週を超えると、ほぼ30と50ng/mlの間を保った。フルオシノロンアセトニドは、全ての眼の前眼房においては、どの時点でも検出されなかった。
【0172】
すなわち、実施例3および4によって、長期間(たとえば、1〜2年を超える期間)、2μg/日または0.5μg/日の実質的に一定の放出速度で、フルオシノロンを送達することができるインプラントが開発された。
【0173】
構造体#29(2個の孔−500μm−1mm)をインビボ実験で使用し、120日間を超えて、硝子体内で、0.026μg/ml〜0.096μg/mlの間のフルオシノロンアセトニドの濃度を測定した。一方、眼房水には、本質的に全く存在しなかった。
【0174】
放出プロフィールは、インプラントが滅菌された時期によって異なっていることが分かった。いくつかの構造体に関しては、滅菌前の放出速度は、滅菌後の速度のほぼ2倍速く、他の構造体においては、その反対が観察された。滅菌は、インプラント内の孔のサイズを変化させることも可能である。120日後、2匹の動物に白内障が発症していた。
【0175】
実施例5
生分解性ポリマーマトリックスに付随したフルオシノロンを含有する眼内インプラントによるブドウ膜炎の治療
48歳の女性には、後部ブドウ膜炎の症状が見られる。彼女は、光に敏感であり眼球に痛みがあると訴えている。250μgのフルオシノロンアセトニドと250μgの生分解性ポリマーの混合物(上述の実施例1に記載したように、R502HおよびR202Hの1:2比)とを含有するインプラントを、トロカールを使用して、女性の両目の硝子体内に配置する。2日後、女性は、眼球の痛みおよび光過敏性の減少に気づき始める。彼女は、霧視の減少およびフローターの減少に気づく。ブドウ膜炎の症候からの実質的な軽減が、7日以内に得られ、約3ヶ月持続する。
【0176】
実施例6
ポリマー皮膜に付随したフルオシノロンを含有する眼内インプラントによるブドウ膜炎の治療
62歳の男性には、後部ブドウ膜炎の症状が見られる。250μgのフルオシノロンアセトニドと、直径が500μmの2個の孔を有し、孔間の距離が1mmであるポリマー皮膜とを含有するインプラントを、トロカールを使用して、患者の両目の硝子体内に移植する。患者は、体内移植後1週間以内に、痛みの軽減および視力の改善を報告する。改善は、約2年間持続する。その間白内障の発症はない。
【0177】
実施例7
ステロイド含有眼内インプラントによる黄斑浮腫の治療
黄斑浮腫を患う53歳の男性を、針付注射器を使用して、患者の各眼の硝子体内に生分解性インプラントを注射することによって治療する。インプラントは、500μgのフルオシノロンアセトニドと500μgのPLGAとを含む。患者は、体内移植後1週間以内に、痛みの軽減と視力の改善を報告する。改善は、約2年間持続する。その間、白内障は発症しない。
【0178】
実施例8
ステロイド含有眼内インプラントによる黄斑変性の治療
右目に黄斑変性があると診断された82歳の女性を、600μgのフルオシノロンアセトニドと500μgのPLGAとを含有する生分解性インプラントを硝子体内に配置することによって治療する。インプラントは、患者の視力を妨害しないように、中心窩近くに配置する。さらなる眼球診断では、黄斑変性が一時停止するとされ、患者は、黄斑変性に伴う更なる視力の低下がない。治療を通して、眼内圧力は、許容しうる限界内に保たれる。
【0179】
実施例9
ポリマー特性と眼内インプラントに充填された薬剤の効果
この実施例では、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)のポリマー特性と、ポリマーインプラントからのステロイド類のインビトロ薬剤放出プロフィールに充填された薬剤との効果を記載する。更に詳しくは、この実施例では、ポリマー分子量(MW)、ラクチド−グリコリド(LG)比と、トライアムシナロンアセトニド(TA)またはジプロピオン酸ベクロメタゾン(BD)を含有するポリ(D,Lラクチド−コ−グリコリド)ポリマーインプラントからの、トライアムシナロンアセトニド(TA)またはジプロピオン酸ベクロメタゾン(BD)の放出プロフィールに充填されたステロイドとの効果を記載する。
【0180】
本発明のインプラントの薬剤放出プロフィールは、この実施例におけるPLGAのようなポリマーの分子量(MW)、ポリマーのラクチド−グリコリド比(LG)、および薬剤充填量またはインプラント内の薬剤の量に関係する。インプラントからのステロイド放出は、リン酸塩緩衝化食塩水(pH7.4、PBS)または0.1%セチルトリメチルアンモニウムブロマイドを含有するクエン酸塩−リン酸塩緩衝液(pH5.4、CTAB)中で試験した。
【0181】
手短に言えば、インプラントは溶融押出しで製造し、インプラントからのステロイド放出は、37℃で、リン酸塩緩衝化食塩水pH7.4または0.1%セチルトリメチルアンモニウムブロマイドを含有するクエン酸塩−リン酸塩緩衝液pH5.4中で培養した後、HPLCによって分析した。インプラントからのトライアムシナロン放出は、90日間モニターし、インプラントからのジプロピオン酸ベクロメタゾン放出は35日間モニターした。
【0182】
これらの実験の結果は、両ステロイドが、リン酸塩緩衝液に比べて、クエン酸塩緩衝液中において相当速く放出されたことを示す。最初の30日間、トライアムシナロンアセトニドはジプロピオン酸ベクロメタゾンよりも約150倍水溶性であるが、2種のステロイドの放出プロフィールは非常に類似している。ポリマー特性は、この時間枠あるいは放出プロフィールの部分(たとえば、最初のほぼ30日間)では、放出プロフィールに対し、若干の効果しか持っていない。この初期の段階では、放出は、薬剤溶解に支配されているようである。ポリマー特性は、最初の30日後、第二時間枠の間、またはポリマーの加水分解速度の相違がより重要になり始める放出プロフィールの部分で、より重要になる。
【0183】
トライアムシナロンアセトニドは、Pharmacia Upjon Co.より入手した。ベクロメタソンジプロピオネートは、Sigmaから入手した。PLGAポリマーRG502、RG504、RG752およびRG755は、Boehringer-Ingelheim Pharma GmbH & Co.(ドイツ)から入手した。食塩水(0.9%NaCl)は、VWR Scientificから入手した。セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)は、Aldrichから入手した。
【0184】
以下の装置を使用した。すなわち、ボールミル(mm200型、F. Kurt Retsch GmbH & Co.、ドイツ)、ターブラ撹拌器(T2F型、Nr. 990720、Glen Mills, Inc.、ニュージャージー州)、APS Engineering, Inc.から入手したピストン押出機、圧縮機(A-1024型、Jamesville Tool & Manufacturing, Inc.、ミルトン、ウィスコン州)、振盪水浴(50型、Precision Scientific、ウィンチェスター、バージニア州)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Alliance2695型、Waters2497二波長吸収検出器、Waters, Inc.、ミルフォード、マサチューセッツ州付)、およびオーブン(1330F型、VWR Scientific、コーネリウス、オレゴン州)。
【0185】
この実施例では、インプラントは押出法で製造した。ステロイドおよびポリマーは、2個のステンレス鋼混合ボールを有する、ステンレス鋼ボールミルカプセル中で混合した。カプセルは、ボールミル上に置き、20cpsで5分間混合した。カプセルをボールミルから取り外し、中身をスパチュラで撹拌し、次いで、ボールミル上に再び戻した。これをもう2回5分のサイクルで繰り返した。次いで、ボールミルカプセルをターブラーミキサーに置き、20cpsで5分間撹拌した。カプセルの中身を、スパチュラと小さなステンレス鋼製漏斗とを使用して、少量ずつ、金型にはめ込まれた押出しバレルに移した。各少量を移した後、50psiに設定された圧縮機を使用して、粉末を押出バレル中で圧縮した。押出バレルが一杯になった時、押出機に移し、押出機を所定温度に加熱し、平衡にした。ポリマー−ステロイド混合物を0.025インチ/分で金型を通して押出し、得られたフィラメントを約4インチの長さに切断し、60mlのスクリューカップバイアル中に置き、それを、乾燥剤パックを有する積層フォイールパウチ中に置いた。
【0186】
トライアムシナロンアセトニドおよびベクロメタソンジプロピオネートに関する押出しの実験条件を、それぞれ、表5および表6に示す。
【0187】
【表5】

【0188】
【表6】

【0189】
押出されたフィラメントを重さ1mgの棒状インプラント(ロッド)に切断した。各ロッドを、37℃で振動している水浴(50rpm)中の、50mlのリン酸塩緩衝化食塩水pH7.4または0.1%セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)を含有するクエン酸塩リン酸塩緩衝液pH5.4を含有する60mlバイアル中に置いた。各時点で、放出したステロイドをHPLCによって分析し(n=6)、溶液をバイアルから取り除き、新鮮緩衝液で置き換えた。ステロイド放出は、以下の日に行った。1、4、7、14、21、28、35、48、69、77および90日目。
【0190】
PLGA(ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーインプラントから放出されたトライアムシナロンアセトニド(TA)を、HPLC(Waters、ミルフォード、マサチューセッツ州)によって、Waters Symmetry C18、4.6×75mm、3μmカラムを使用して、分析した。移動相は、流速1.0ml/分および注入量20μlのアセトニトリル−水(35:65、v/v)であった。TAの紫外線検出は243nmで行った。合計実行時間は10分間、TA滞留時間は4.0分間であった。量計算はピーク面積およびトライアムシナロンアセトニド標準化曲線に基づいた。
【0191】
PLGAポリマーインプラントから放出したジプロピオン酸ベクロメタゾン(BD)を、HPLC(Waters、ミルフォード、マサチューセッツ州)によって、HS F5C18、4.6×150mm、5μmカラムを使用して、分析した。移動相は、流速0.8ml/分および注入量30μlのアセトニトリル−水(85:15、v/v)であった。BDの紫外線検出は240nmで行った。合計実行時間は5分間、BD滞留時間は2.5分間であった。量計算は、ピーク面積およびBD標準化曲線に基づいた。
【0192】
この設計からの結果を、溶解中の初期、中期、後期の3回、定量的に分析した。
【0193】
トライアムシナロンアセトニド放出の結果を表7〜10と図18〜21にそれぞれ示す。
【0194】
示されるように、TAは、CTAB緩衝液に放出するほうが、PBS緩衝液に放出するより、速かった。また、薬剤放出速度は、ポリマーの加水分解速度を、したがって薬剤放出速度を変えることができる、pHおよび表面に影響されうる。
【0195】
ポリマーに充填された薬剤は、最初の30日間は、MWおよびLG比と比べて、薬剤放出速度に与えるプラス効果が最も大きい。最初の30日後、LG比が薬剤放出速度を支配し、マイナスの影響を示した。換言すると、LG比がより高ければ、薬剤放出はより低かった。いかなる特定の理論あるいは挙動の機構にも縛られないが、これらの効果は、ポリマーインプラントの表面で薬剤がより利用可能となる、溶解における早い時期の高薬剤充填に関係している可能性がある。薬剤がより利用可能にならなくなるほど、薬剤放出速度は、ポリマーの加水分解によって支配され、LG比のより低いポリマーがより速くなる可能性がある。
【0196】
ポリマーの分子量は、薬剤放出速度に対し、特に溶解の後の段階で、プラス効果を持ち、より速い放出がより高いMWを持つポリマーに観察された。いかなる特定の理論あるいは挙動の機構にも縛られる意図はないが、これは、より低いMWのポリマーパックはより高密度であり、より高いMWのポリマーは、より速く加水分解するので、生じるのであろう。総合的には、データは、早い時期の薬剤放出は、薬剤充填に支配されるが、遅い時期には薬剤放出速度は、ポリマーの加水分解速度によって支配されることを示す。
【0197】
【表7】

【0198】
【表8】

【0199】
【表9】

【0200】
【表10】

【0201】
ジプロピオン酸ベクロメタゾンの放出結果を表11〜14および図22〜25のグラフに、それぞれ示す。
【0202】
これらの実験では、ジプロピオン酸ベクロメタゾン放出を約1ヶ月間試験した。この早期の時間枠(たとえば、約1ヶ月以内)では、BDはTAの約150倍溶解しないが、BDおよびTAの放出プロフィールは類似していた。酸性培地に変えることで、僅かに、放出されるBDの量が増加したが、培地をTAに変えた場合と比べるとそう多くはなかった。BD放出は、リン酸塩緩衝液に充填された薬剤の増加とともに増加しなかったが、CTAB緩衝液内では増加した。増加するLG比に対する応答は、最初の月では、両ステロイドとも同じであった。最初の30日間は、効果は比較的小さいが、LG比を減少させると、薬剤放出の量も減少する。MWの効果は、2つのステロイドでは異なっており、トライアムシナロンの放出は、両培地において、より高いMWが僅かに増加したが、ベクロメタゾンの放出は、MWの増加にしたがって、PBS中では減少し、CTAB中では、増加した。
【0203】
【表11】

【0204】
【表12】

【0205】
【表13】

【0206】
【表14】

【0207】
これらの結果に基づくと、PLGAインプラントからの低水溶性ステロイド類の放出は、最初の3日間は、第一に、ステロイドの溶解に限定され、ステロイドの充填あるいは量、またはポリマーマトリックス特性には限定されない。溶解の初期の段階(たとえば、薬剤放出プロフィールの最初の部分の間)では、2種のステロイドの溶解性は全く異なるにもかかわらず、放出速度は非常に類似している。この期間では、薬剤放出速度は、ステロイドの溶解によって制御され、ポリマー特性は若干の効果しかないようである。溶解の後期(たとえば、薬剤放出プロフィールの第二部分)になると、ポリマーの加水分解速度がより重要になるので、ステロイド放出は、ポリマー特性により依存する。より低い界面張力を伴うより低いpH培地への変更によって、両ステロイドとも放出量が増加する。
【0208】
また、本発明は、薬剤送達システムまたはそのような薬剤送達システムを含む組成物のような、上述の症状を含む1以上の眼の症状を治療する医薬品の製造における、本明細書で開示した治療薬との、任意かつ全ての可能性のある組合せの用途も含む。
【0209】
本明細書に引用されている全ての文献、論文、刊行物、特許および特許出願は、参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【0210】
本発明を、種々の特定の実施例および態様に関して記載したが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲内において様々に実施しうるものと理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロイドを含有する芯を被覆したポリマー層を含む眼内インプラントであって、ポリマー層が、液体を通過させ、患者の眼にインプラントを配置した後少なくとも2ヶ月にわたって、2μg/日未満の速度で、ステロイドをインプラントから外部環境へ通過させる大きさの複数の孔を含有する眼内インプラント。
【請求項2】
ポリマー外層が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化エチレンプロピレン、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、シリコーンまたはこれらの混合物を含む請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
ポリマー外層が生分解性である請求項1に記載のインプラント。
【請求項4】
インプラントが、4個未満の孔を有する請求項1に記載のインプラント。
【請求項5】
各孔が、250μm〜500μmの直径を有する請求項1に記載のインプラント。
【請求項6】
ステロイドが、コルチコステロイドである請求項1に記載のインプラント。
【請求項7】
ステロイドが、フルオシノロン、トリアムシノロンまたはこれらの混合物である請求項1に記載のインプラント。
【請求項8】
孔が、インプラントから0.5μg/日のステロイドを放出するように形成された請求項1に記載のインプラント。
【請求項9】
孔が、インプラントから、1年の間、ステロイドを放出するように形成された請求項1に記載のインプラント。
【請求項10】
ステロイドに加えて、さらに他の治療薬を含む請求項1に記載のインプラント。
【請求項11】
インプラントを患者の眼に配置し、患者に、治療有効量のステロイドを少なくとも2ヶ月投与することによって患者の眼の症状を治療するための、請求項1に記載のインプラントである医薬品。
【請求項12】
眼の症状が、眼の炎症である請求項11に記載の医薬品。
【請求項13】
インプラントを眼の後部に配置する請求項11に記載の医薬品。
【請求項14】
トロカールを使用してインプラントを眼に配置する請求項11に記載の医薬品。
【請求項15】
注射器を使用してインプラントを眼に配置する請求項11に記載の医薬品。
【請求項16】
ステロイドに加えて、治療薬を患者に投与する請求項11に記載の医薬品。
【請求項17】
ステロイドを含む芯の全面にポリマー皮膜を形成する工程、および
皮膜に複数の孔を形成する工程を含む眼内インプラントを製造する方法であって、
孔が、液体を通過させ、患者の眼にインプラントを配置した後少なくとも2ヶ月にわたって、2μg/日未満の速度で、ステロイドをインプラントから外部環境へ通過させる大きさである方法。
【請求項18】
孔が、ステロイドをインプラントから0.5μg/日の速度で通過するように形成されている請求項17に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2012−107043(P2012−107043A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32612(P2012−32612)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【分割の表示】特願2007−511074(P2007−511074)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】