説明

2位相出力電圧制御発振器

【課題】小型で低価格および高精度な位相差を持った2位相出力電圧制御発振器を提供すること。
【解決手段】1つの電圧制御発振器とハイブリッドカプラとを備え、電圧制御発振器の出力をハイブリッドカプラにより2つに分岐して互いに(π/4)異なる位相差の2信号を出力する2位相出力電圧制御発振器1であって、1つの上記電圧制御発振器回路4が多層プリント配線板上の最上層に形成され、上記ハイブリッドカプラ回路2が同じ多層プリント配線板の内層で構成されると共に、上記ハイブリッドカプラ回路2はトリプレートストリップライン導体構造を有しかつ上記多層プリント配線板内層の同一平面上に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるデジタル無線通信に用いられる電圧制御発振器に係り、特に、1つの信号発生部から複数位相の出力信号が得られる多位相出力電圧制御発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタル無線通信の変調方式には、限られた周波数帯域をできるだけ有効に利用して伝送スピードを稼ぐため、様々な偏移位相変調(PSK;Phase Shift Keying)方式が採用されている。この変調方式では、復調時に、搬送波信号と、これに(π/2)や(π/4)、(π/8)等の位相差を持たせた高周波信号を用いる。一般のPSK復調器は、例えば特開平9−238172公報に記載されているように、局部発振器を1つ用い、信号を2つ以上に分配した後、(π/2)や(π/4)の移相器を配置して、所望の位相差のある局部発振信号としている。
【0003】
また、デジタル無線通信の受信機には、ダイレクトコンバージョン方式の復調が有望視されている。ダイレクトコンバージョンは、例えば特許2743635公報に記載されているように、高周波信号と同じ周波数の局部発振信号をミックスして復調波信号を直接取り出す受信方式のため、回路構成がシンプルでIFフィルタを必要とせず、かつ、データレートが上昇する際には高いS/N比を確保することが可能で、将来の高速デジタル通信に有利であるといわれている。また、IFを経由する復調方式に比べて、無線経路における周波数アップコンバージョンの1つまたは2つのステージが不要になるため、外付け部品数が大幅に低減され、コストも削減できる。但し、ダイレクトコンバージョンでは、高周波でかつS/N比のよい発振器を必要とするため、VCSO(電圧制御SAW発振器)やVCXO(電圧制御水晶発振器)等の高いQ値を有する発振器が必要となる。
【特許文献1】特開平9−238172公報
【特許文献2】特許2743635公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、PSK復調では、2つあるいは2つ以上に分割した局部発振器の信号間の位相差を正確に(π/2)や(π/4)に合わせる必要がある。位相差が正確にとれないと、復調時のS/Nが悪くなり、つまりはジッタが増加するため、符号判定に支障をきたして伝送エラーレートに影響する。
【0005】
しかし、GHz帯のダイレクトコンバージョンによるPSK復調では、線路長差の影響や波形歪みの影響が無視できないため、2つに分割した局部発振器の信号間の位相差を正確に合わせることは困難である。また、ハイブリッドカプラを付加する場合には、一辺が(λ/4:λは使用する信号の波長)相当の実装面積を確保しなければならないため、電圧制御発振器と上記ハイブリッドカプラを合わせた実装面積は、例えば1GHz帯で計算した場合、発振回路部の倍以上に拡大させる必要が生ずる。
【0006】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、小型で低価格および高精度な位相差を持った2位相出力電圧制御発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1に係る発明は、
1つの電圧制御発振器とハイブリッドカプラとを備え、上記電圧制御発振器の出力をハイブリッドカプラにより2つに分岐して、互いに(π/4)異なる位相差の2信号を出力する2位相出力電圧制御発振器を前提とし、
1つの上記電圧制御発振器回路が多層プリント配線板上の最上層に形成され、上記ハイブリッドカプラ回路が同じ多層プリント配線板の内層で構成されると共に、上記ハイブリッドカプラ回路はトリプレートストリップライン導体構造を有しかつ上記多層プリント配線板内層の同一平面上に形成されていることを特徴とし、
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る2位相出力電圧制御発振器を前提とし、
1つの上記電圧制御発振器回路として、電圧制御SAW発振器または電圧制御水晶発振器が適用されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明に係る2位相出力電圧制御発振器によれば、
最上層に1つの電圧制御発振器回路が形成された多層プリント配線板の内層でトリプレートストリップライン導体構造を有するハイブリッドカプラ回路が構成されているため、互いに(π/4)異なる位相差を持って出力される2信号間、特に高周波領域においても良好な上記位相差関係を確保することができると共に、1つの電圧制御発振器回路が形成された同じ多層プリント配線板の内層で上記ハイブリッドカプラ回路が構成されているため、2位相出力電圧制御発振器の大型化を回避することが可能となる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明に係る2位相出力電圧制御発振器によれば、
1つの電圧制御発振器回路として、電圧制御SAW発振器または電圧制御水晶発振器が適用されているため、高いQ値と良好なジッタ特性を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
尚、図1は本発明に係る2位相出力電圧制御発振器を構成する多層プリント配線板(実装基板)の概略分解斜視図、図2は上記2位相出力電圧制御発振器の機能を示すブロック図、図3は1つの電圧制御発振器回路として適用された電圧制御SAW発振器のブロック図、図4(A)は本発明に係る2位相出力電圧制御発振器の表面を斜め上方から視た概略斜視図、図4(B)は本発明に係る2位相出力電圧制御発振器の裏面を斜め下方から視た概略斜視図である。
【0012】
すなわち、本発明に係る2位相出力電圧制御発振器1は、図1に示すように、多層プリント配線板(実装基板)の最上層に1つの電圧制御発振器回路4が配置され、絶縁層5を介して2層目にはトリプレートストリップラインを構成するためのアイソレーション(Isolation:GND)層61が配置され、かつ、絶縁層5を介して3層目にはトリプレートストリップラインで構成したハイブリッドカプラ回路2が配置されると共に、最後に絶縁層5を介して4層目にはトリプレートストリップラインを構成するためのアイソレーション(Isolation:GND、Bottom)層62が配置された構造になっている。
【0013】
そして、最上層に配置された電圧制御発振器回路4からの出力はスルーホールを介して3層目のハイブリッドカプラ回路2に出力され、また、ハイブリッドカプラ回路2のアイソレーション(Isolation)ポートは、スルーホールを介し最上層に出て50Ωの負荷抵抗器3によりGNDに接続される。更に、ハイブリッドカプラ回路2の2つの出力ポートは、それぞれ多層プリント配線板(実装基板)の出力端子に接続され、互いに(π/4)の位相差を持った信号が出力される。
【0014】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0015】
1つの電圧制御発振器回路4として図3のブロック図で示される1.5GHz電圧制御SAW発振器を用い、10mm×10mmの4層プリント配線板(実装基板)の最上層に上記電圧制御発振器回路4を配置した。また、4層プリント配線板(実装基板)の材質はFR−4(ガラスエポキシ基板)を使用し、トリプレートストリップラインを構成するためのアイソレーション層61、62の厚みは2層とも0.2mmとした。また、4層プリント配線板(実装基板)の総厚みは0.8mmである。
【0016】
上記構造により得られた実施例1に係る2位相出力電圧制御発振器の測定結果を以下の表1に示す。
【0017】
【表1】

表1に記載の特性値から確認されるように、出力周波数範囲1.5GHz±1.5MHzの範囲で、2つの出力間の位相差は「90±1deg以内」である。
【0018】
また、出力レベルのバランスやリターンロスについても、ハイブリッドカプラを用いているため、全く問題無いレベルであることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、小型で低価格および高精度な位相差を持った2位相出力電圧制御発振器を提供できるため、例えばデジタル無線通信に適用される産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る2位相出力電圧制御発振器を構成する多層プリント配線板(実装基板)の概略分解斜視図。
【図2】2位相出力電圧制御発振器の機能を示すブロック図。
【図3】1つの電圧制御発振器回路として適用された電圧制御SAW発振器のブロック図。
【図4】図4(A)は本発明に係る2位相出力電圧制御発振器の表面を斜め上方から視た概略斜視図、図4(B)は本発明に係る2位相出力電圧制御発振器の裏面を斜め下方から視た概略斜視図。
【符号の説明】
【0021】
1 2位相出力電圧制御発振器
2 ハイブリッドカプラ回路
3 負荷抵抗器
4 電圧制御発振器回路
5 絶縁層
11 SAWフィルタ
12 整合回路
13 増幅回路
14 分配回路
15 電圧制御可変移相器
16 固定移相器
61 アイソレーション(Isolation:GND)層
62 アイソレーション(Isolation:GND、Bottom)層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの電圧制御発振器とハイブリッドカプラとを備え、上記電圧制御発振器の出力をハイブリッドカプラにより2つに分岐して、互いに(π/4)異なる位相差の2信号を出力する2位相出力電圧制御発振器において、
1つの上記電圧制御発振器回路が多層プリント配線板上の最上層に形成され、上記ハイブリッドカプラ回路が同じ多層プリント配線板の内層で構成されると共に、上記ハイブリッドカプラ回路はトリプレートストリップライン導体構造を有しかつ上記多層プリント配線板内層の同一平面上に形成されていることを特徴とする2位相出力電圧制御発振器。
【請求項2】
1つの上記電圧制御発振器回路として、電圧制御SAW発振器または電圧制御水晶発振器が適用されていることを特徴とする請求項1に記載の2位相出力電圧制御発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−4832(P2009−4832A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160978(P2007−160978)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】