説明

2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤、及び、これより得られるヒアルロン酸ゲル

【課題】生体内長期貯留可能で2液反応型であるため均一なヒアルロン酸ゲルをin situで作製することができ、また皮膚などの生体組織を切開せず注射器で注入できる2液反応型ヒアルロン酸ゲルを医療の現場に提供する。
【解決手段】重量平均分子量が1000〜300万であるアルデヒド化ヒアルロン酸の水溶液を第1反応液とし、アミノ基含有ヒアルロン酸の水溶液を第2反応液とする。前記アミノ基含有ヒアルロン酸の重量平均分子量が1000〜300万であって、前記の第1反応液及び第2反応液を混合した際には、pHが5.0〜8.0となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症,慢性関節リウマチ等の関節性疾患治療材、組織再生足場材やDDS用担体等の医療材料として適用される2液反応型ヒアルロン酸ゲルとその製造方法に関する。特に、第1反応成分を含有する液と、第2反応成分を含有する液とからなり、第1反応成分と第2反応成分とを混合することにより、互いに反応させてゲル状に硬化させた後、一定期間経過後に、分解・流動化し生体内の酵素により分解され代謝される医用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、D―グルクロン酸とN−アセチル-D-グルコサミンが交互にβ-1,4結合とβ-1,3結合で結合した2糖単位の直鎖状高分子多糖である。このヒアルロン酸は哺乳動物の結合組織に分布しニワトリのとさかにも存在し、生体内に注入しても異害性を示さない生体適合性を示すことが知られている。以前はこのニワトリのとさかや動物の臍帯から抽出されていたが、最近では連鎖球菌の培養物から精製されている製品もある。ヒアルロン酸はその酸の形でも塩(ナトリウム塩やカリウム塩)の形でも水に対する溶解度が高い。ところが、ヒアルロン酸は保水力が高いものの、生体内の酵素作用を受けやすいため体内でのその半減期は非常に短く約1〜3日であり、生体内で医療材料として使用した場合は、体内滞留時間が短いことが指摘されている。このため、これまでに化学修飾をはじめ、化学架橋など、様々な方法で体内滞留時間の延長を試み、報告されてきた。これらの代表的な例として、例えば、ジビニルスルホンやビスエポキシド類及びホルムアルデヒドの様な二官能性架橋剤を使用して架橋ヒアルロン酸ゲルが報告されている(特開平7−97401)。また、ジビニルスルホン、ビスエポキシド類、ホルムアルデヒド等の二官能性試薬を架橋剤に使用して、得られた高膨潤性の架橋ヒアルロン酸ゲルを挙げることができる(米国特許第4,582,865号明細書、特公平6−37575号公報、特開平7−97401号公報、特開昭60−130601号公報参照)。また、ヒアルロン酸のテトラブチルアンモニウム塩がジメチルスルフォキシド等の有機溶媒に溶解する特徴を利用したヒアルロン酸の化学的修飾方法が開示されている(特開平3−105003号)。また、共有結合を形成する化学的試薬を使用しない方法として、ヒアルロン酸とアミノ基あるいはイミノ基を有する高分子化合物とを、ヒアルロン酸のカルボキシル基と高分子化合物のアミノ基あるいはイミノ基をイオン複合体として結合させてヒアルロン酸高分子複合体を調製する方法が開示されている(特開平6−73103号公報参照)。しかし、この様な従来の化学的な改質方法では、架橋ヒアルロン酸微粒子を生理食塩水の様な溶媒に分散させた状態で使用せざるを得ないため、目的の場所に長期間貯留させることが困難であり、また、体内貯留期間もそれほど長くはない。更に、注射器やスプレーデバイスを用いて必要な部位にその場での注入によるin situでは使用することが出来ない。しかし、本願の2液反応型ヒアルロン酸ゲルでは2液混合デバイスやスプレーデバイスを用いin situで目的とする部位で注入でき、その使用が簡単である。
【0003】
近年、組織工学分野の発展に基づいた再生医療に関心が持たれている。この組織工学では種々の細胞の増殖を手助けする組織再生用足場が重要となる。ヒアルロン酸ゲルを用いた組織工学への応用として、培養皮膚、培養軟骨や顎骨再生が知られている。その例として、ヒアルロン酸とアミノ基あるいはイミノ基を有する高分子化合物とのイオン複合体からなる水不溶性の医療材料(特開平6−73103号)やヒアルロン酸と架橋剤ジ(もしくはビス)ヒドラジン又はジ(もしくはビス)ヒドラジドとの縮合反応による水不溶性の生体適合性材料(特開平9−59303号)、また、難水溶性ヒアルロン酸ゲルの軟骨組織や歯周辺組織の組織再生用基材への適用(特開2003−10308)等が提案されている。ところが、これらのヒアルロン酸ゲルはin vitroでゲルを形成した後に種々の細胞を播種して使用されているため、注射器による注入は出来ないためin situでは使用することが出来ない。
【0004】
一方、変形性関節症,慢性関節リウマチ等の各種関節症の治療に有効な手段として、ヒアルロン酸水溶液を疾患関節部位へ注入する方法が採用されてきており、その膝関節治療剤の例としては「アルツ(商品名)」(生化学工業製、平均分子量90万)、「Hyalgan(商品名)」(Fidia 製、平均分子量<50万)や、「スベニール(商品名)」(アベンティスファーマ社/中外製薬社/電気化学工業社製、平均分子量190万)が知られている。また、ヒアルロン酸を化学的に架橋することで高分子化し粘弾性を改良した「Synvisc(商品名)」(ジェンザイム製)が開発されている。この架橋ヒアルロン酸ゲルは架橋剤ジビニルスルホンでヒアルロン酸を化学的に架橋したヒアルロン酸ゲルでハイラン(米国特許第4,713,448号)である。さらに、ヒアルロン酸をベースとする単一及び混合ゲルは、米国特許第4,582,865号及び同第4,605,691号に記載されている。これら関節治療製剤を用いた治療は、患者の関節に直接1週間毎に3〜5回の頻度で注射を行う必要があり、患者にとっては極めて苦痛であり、その軽減が望まれている。
【特許文献1】国際公開WO2006/080523
【特許文献2】特開2003−10308
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の改質方法では、目的の場所に長期間貯留させることが困難であること、体内貯留期間も短いことからその改善が特に望まれていた。そこで、本発明者らは、これらの問題点を解決した新しいin situで使用できる2液反応型ヒアルロン酸ゲルを提供するものである。
【0006】
ヒアルロン酸そのものが本来持っている優れた生体適合性の特長を最大限生かし、安全性に優れた医用材料の医療への提供を目的とし、毒性の高い低分子の化学的架橋剤を使用することなく、またカチオン性の高分子化合物と複合体を形成することなくヒアルロン酸ゲルを提供する手段はこれまで開発されていなかった。本願の発明者らは、低分子架橋剤等を使用しないでヒアルロン酸単独からなる難水溶性ヒアルロン酸ゲルを簡便な方法で製造することを初めて見出し、この難水溶性ヒアルロン酸ゲルの関節性疾患治療材、DDS用担体や軟骨組織や歯周辺組織の組織再生用足場への適用の可能性を鋭意検討した結果、その有用性を見出し本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤は、重量平均分子量が1000〜300万であるアルデヒド化ヒアルロン酸の水溶液からなる第1反応液と、重量平均分子量が1000〜300万であるアミノ基含有ヒアルロン酸の水溶液からなる第2反応液とよりなり、前記の第1反応剤及び第2反応剤を混合した際には、pHが5.0〜8.0となることを特徴とする。
【0008】
本発明の2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤は、2液混合の前または後の水溶液、または未硬化のゾルの状態で患部に適用して利用されるが、それ以外にも予め使用前にシート状、フィルム状、破砕状、スポンジ状、塊状、繊維状、又はチューブ状の含水ゲルに成型加工してから患部に適用しても良い。また、DDS用担体として利用することができ、この場合の生理活性物質としては、細胞増殖因子、例えば、インシュリン、肝細胞成長因子、トランスフォーミング成長因子、神経成長因子、上皮成長因子、血小板由来成長因子、インシュリン様成長因子、線維芽細胞成長因子、コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、トランスフェリン、インターロイキン、及びインターフェロン等を含有させることができる。また、抗生物質、タンパク、オリゴ糖、又は核酸、婦人科疾患治療材、例えば子宮内投与薬、膣内投与薬などを、単独でまたは他の生理活性物質と組み合わせて含有させることができる。
【0009】
本発明の医療用含水ゲルを細胞組織再生用足場として用いる場合、再生させる組織としては、関節軟骨、肋軟骨、気管軟骨、咽頭軟骨、頭蓋骨、歯槽骨、歯周組織、セメント質、歯根膜、腱、又は靱帯などを挙げることができる。すなわち、ほぼ、いずれの生体組織の再生にも利用できる。その際、軟骨細胞、幹細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、又はES細胞などを播種して細胞を足場に培養し、増殖させた後、これらを生体組織欠損部分に充填することにより欠損組織の再生を促進させるために用いることが出来る。
【発明の効果】
【0010】
ヒアルロン酸をゲル状態で長期間体内貯留することが可能となり、医療用材料としての応用、例えば、関節疾患治療材、癒着防止材、止血剤、創傷被覆材、褥瘡治療材、人工皮膚、生体組織再生用足場材、眼科手術補助材、およびドラッグデリバリー(DDS)用担体などに好適に適用されうる。また、外科手術用、例えば、消化器、泌尿生殖器粘膜や口腔粘膜等、あるいは美容整形外科での皮膚組織の上皮膨隆用の医用材料にも応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1反応液をなすアルデヒド化ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸を酸化してアルデヒド基を導入したものであり、重量平均分子量が1000〜200万の範囲内にあるものである。ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸及びヒアルロネート塩、例えばヒアルロン酸ナトリウム(ナトリウム塩)、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム及びヒアルロン酸カルシウムが含まれ、これらを混合して用いることも出来る。なお、アルデヒド基の導入は、一般的な過ヨウ素酸酸化法により行うことができ、1繰り返し単位あたり、好ましくは0.01〜1.0個のアルデヒド基、より好ましくは0.02〜0.8個、さらに好ましくは0.05〜0.5個のアルデヒド基が導入される。
【0012】
アルデヒド化ヒアルロン酸を得るのに用いるヒアルロン酸は、重量平均分子量が、好ましくは2000〜1000万であり、より好ましくは2000〜200万である。例えば、株式会社紀文フードケミファより市販されている、化粧品用途や医薬用途を使用することができる。なお、アルデヒド化ヒアルロン酸の最適分子量は、具体的な用途によって異なり、特定の分子量ないし分子量分布のものを選択することにより、流動化するまでの期間を調整することができる。アルデヒド化ヒアルロン酸の分子量が過度に大きい場合、ゾル化が過度に遅延してしまう。また、アルデヒド化ヒアルロン酸の分子量が過度に小さい場合、ゲル化状態を維持する時間が短くなりすぎる。
【0013】
ヒアルロン酸の重量平均分子量及び分子量分布は、一般的な水系のGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー;正式にはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC))測定により、容易に求めることができる。具体的には、水溶性ポリマー架橋体(TOSOH TSK gel G3000PW及びG5000PW、TSK guard column PWH)からなるGPC用カラムを40℃に加温し、緩衝液(10mM KH2PO4+10mM K2HPO4)を溶離液とする測定により求めることができる。
【0014】
アルデヒド化ヒアルロン酸(第1反応液)としては、過ヨウ素酸酸化によるアルデヒド基の導入の後、凍結乾燥を経て蒸留水で溶解して用いることができる。場合によっては、減圧下、または窒素等の不活性ガスを吹き込みつつ、比較的低温でスプレードライを行うことにより粉末とした後蒸留水に溶解して用いることもできる。更に、アルデヒド化ヒアルロン酸(第1反応液)を凍結乾燥し、粉末状態でも使用できる。
【0015】
第2反応剤をなすアミノ化ヒアルロン酸は、重量平均分子量が2000〜1000万、好ましくは2000〜200万である。
【0016】
アミノ化ヒアルロン酸(第2反応液)としては、ヒアルロン酸のカルボキシル基をカルボジイミドで活性化し、アジピン酸ジヒドラジンと反応させた後、凍結乾燥を経て蒸留水で溶解して用いることができる。場合によっては、減圧下、または窒素等の不活性ガスを吹き込みつつ、比較的低温でスプレードライを行うことにより粉末とした後蒸留水に溶解して用いることもできる。更に、アミノ化ヒアルロン酸(第2反応液)を凍結乾燥し、粉末状態でも使用できる。第1反応剤と第2反応剤とが共に粉末の形態であっても良く、この場合、例えば、粉末同士混合された後、生体中の水分を吸ってゲル化するようにすることができる。また、第1反応剤の粉末と第2反応剤の粉末とを混合すると同時に、水を加えてゲル化するのであっても良く、第1反応剤の粉末と第2反応剤の粉末とを均一に混ぜた混合粉末に、水を加えてゲル化させるのであっても良い。第1反応剤及び第2反応剤の一方または両方を粉末の形態とすることにより保存安定性を向上することができる。
【0017】
アミノ化ヒアルロン酸の分子量が大きすぎるか、または、分子量の大きすぎる区画を過度に含むならば、流動化するまでの期間が過度に長くなる。
【0018】
第1反応液及び第2反応液を混合した状態におけるアルデヒド基/アミノ基のモル比は、0.1以上5未満であり、好ましくは0.2〜4.0、より好ましくは1.0〜3.5である。アルデヒド基/アミノ基のモル比がこれらの範囲より小さい場合には、生成ゲルの分解が早すぎ、また大きい場合には速やかなゲル化が達成されない。
【0019】
本発明の2反応剤型ヒアルロン酸ゲルを使用する際、第1反応液と第2反応液との混合及び塗布は種々の方法により行うことができる。例えば、第1及び第2の接着剤原液の一方を被着体表面に塗布し、続けてもう一方を塗布することで混合を行うことができる。また、第1反応液と第2反応液とが塗布装置の混合室中で混合された後に、ノズルから噴出してスプレー塗布を行うのであっても良く、また、アプリケーターのスリットから送り出されて塗布を行うのであっても良い。
【0020】
第1反応液と第2反応液とが混合されると、アルデヒド化ヒアルロン酸のアルデヒド基と、アミノ化ヒアルロン酸のアミノ基との間でシッフ結合が形成され、これが架橋点となって網目構造を有するハイドロゲルが形成される。その結果、硬化が、混合から2〜600秒、好ましくは3〜500秒、より好ましくは5〜300秒の間に生じる。混合から硬化までの好ましい時間は、用途によって多少異なる。
【0021】
このような硬化反応により生成する含水ゲル状の硬化接着剤層、または含水ゲル状の樹脂は、設計液化期間を経たならば、自己分解によって液体状態に変化する。すなわち、生体内での酵素分解等を経ずとも、含水状態にあるならば、自然に分解を生じ液体状態(流動可能なゾル状態)に変換される。したがって、生体内にあっては、ある所定の期間を経過時に、速やかに吸収あるいは排泄されて消滅されるようにすることができる。設計分解期間は、数時間〜4カ月、通常は1日〜1カ月の範囲、特には2日〜2週間の範囲内で任意に設定される。
【0022】
これに対して、生体内で酵素分解のみによって分解吸収される既存の生体分解樹脂の場合には、分解期間にばらつきが大きく、必要な接着力保持期間を経た後に速やかに分解されるようにするのは困難であったのである。
【0023】
自己分解による分解期間は、アルデヒド化ヒアルロン酸及び/またはアミノ化ヒアルロン酸の分子量ないしその分布の選択ないしは調整、及び、2液混合時のpHの調整などによって、任意に調整し、設定することができる。すなわち、分解され吸収される期間を、2液接着剤の構成の調整により、任意に設計しておくことができる。
【0024】
酵素分解によらない自己分解の機構は、明らかでないが、アルデヒド化ヒアルロン酸のアルデヒド基が、アミノ基と結合してシッフ塩基を形成した場合、シッフ塩基に隣接するグルコシド結合が含水状態にて分解を受けやすくなったものと考えている。
【0025】
また、第2反応液をなすアミノ基含有高分子化合物としては、アミノ化ヒアルロン酸に代えて、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、または、末端にアミノ基を導入した多分岐ポリエチレングリコールなどを用いることもできる。ここで、第1反応剤と第2反応剤の水溶液同士または粉−液の混合によるゲル化の反応速度を高めるため、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、キトサンなどの高分子鎖に、より多くのアミノ基を導入することもできる。更に、多分岐ポリエチレングリコールとしては、分岐の数(エチレンオキシドを付加させる出発物質における官能基の数)が2〜32であって、重量平均分子量が2、000〜200、000のものを用いることができる。
【0026】
本発明の2液反応型含水ゲル形成剤により得られるヒアルロン酸ゲルは、医療用材料として、関節疾患治療材、癒着防止材、止血剤、創傷被覆材、褥瘡治療材、人工皮膚、生体組織再生用足場材、眼科手術補助材、およびドラッグデリバリー(DDS)用担体などに好適に適用されうる。また、外科手術用、例えば、皮膚、あるいは消化器、泌尿生殖器粘膜や口腔粘膜等、さらに美容整形外科での上皮膨隆用の医用材料にも応用できる。以下、本発明を実施例により具体的に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
分子量100,000のヒアルロン酸ナトリウム(株式会社紀文フードケミファ、FCH−SU、ロット番号:5108)2gを200mlの蒸留水に溶解させた。次に、0.2gの過ヨウ素酸ナトリウム(分子量213.89)を添加し、50℃で3時間撹拌しながら反応させた。そして、反応後の溶液を蒸留水で24時間透析(分画分子量14,000の透析膜使用)した後、凍結乾燥し、1.89gのアルデヒド化ヒアルロン酸を得た。
【実施例2】
【0028】
分子量100,000のヒアルロン酸ナトリウム(株式会社紀文フードケミファ、FCH−SU、ロット番号:5108)1gを100mlの蒸留水に溶解させた。次に9.44gのアジピン酸ジヒドラジド(分子量174.2)を添加し、溶液のpHを4.75に調整した。そこに2.08gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(分子量191.7)を添加して溶液のpHを4.75に保ち、25℃で2時間攪拌しながら反応させた。そして、反応後の溶液を蒸留水で24時間透析(分画分子量14,000の透析膜使用)した後、凍結乾燥し、0.700gのアミノ化ヒアルロン酸を得た。
【実施例3】
【0029】
実施例1で得られたアルデヒド化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して10重量%の水溶液を調製し、実施例3で得られたアミノ化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して1重量%の水溶液を調製した。これらを直径15mmのガラス製試験管に1mlずつ加えてボルテックスミキサーで混和した。
【実施例4】
【0030】
実施例1で得られたアルデヒド化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して5重量%の水溶液を調製し、実施例3で得られたアミノ化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して0.5重量%の水溶液を調製した。これらを直径15mmのガラス製試験管に1mlずつ加えてボルテックスミキサーで混和した。
【実施例5】
【0031】
実施例1で得られたアルデヒド化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して2.5重量%の水溶液を調製し、実施例3で得られたアミノ化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して0.25重量%の水溶液を調製した。これらを直径15mmのガラス製試験管に1mlずつ加えてボルテックスミキサーで混和した。
【実施例6】
【0032】
実施例1で得られたアルデヒド化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して1.25重量%の水溶液を調製し、実施例3で得られたアミノ化ヒアルロン酸は、蒸留水に溶解して0.125重量%の水溶液を調製した。これらを直径15mmのガラス製試験管に1mlずつ加えてボルテックスミキサーで混和した。
【実施例7】
【0033】
実施例4から7までで2液を混合した時のゲル化時間と25℃でゲルからゾルに形態変化するまでの時間を目視にて調べた。その結果を表1に示す。
【表1】

【0034】
表1より、2液の濃度が高い場合はゲル化時間が短くゾル化時間が長くなる傾向が認められた。即ち、高濃度の場合、架橋密度が高くなるためゾル化までの時間も遅延される。従来のヒアルロン酸の架橋では1ヶ月以上形態を維持していることは出来なかったのに対して、本発明では28日以上ゲル状態を保つ事が出来た。
【実施例8】
【0035】
生体組織再生用足場として、12週齢のウサギの骨髄から採取した細胞(約2×108細胞個)を実施例2で作成したアミノ化ヒアルロン酸水溶液に入れ、実施例1のアルデヒド化ヒアルロン酸水溶液とをミキシングデバイスを用い、生後5ヶ月の雌日本白色ウサギの膝関節の大腿骨側の欠損軟骨に注入した。その結果、12週間後には軟骨、及びその他の骨の顕著な再生が観察された。
【実施例9】
【0036】
骨髄由来間葉系幹細胞(約2×108細胞個)を実施例8と同じようにアミノ化ヒアルロン酸水溶液に入れ、アルデヒド化ヒアルロン酸水溶液とをミキシングデバイスを用い、ビーグル犬歯槽骨欠損部へ移植した。その結果、3ヵ月後には顕著な歯槽骨とセメント質及び歯周靭帯の再生が観察された。
【実施例10】
【0037】
DDS用単体として、子宮内膜症治療ダナゾールを実施例2で作成したアミノ化ヒアルロン酸水溶液にケン濁させ、実施例1のアルデヒド化ヒアルロン酸水溶液とをミキシングデバイスを用い押し出すことにより、ダナゾール含有環状リング状のヒアルロン酸ゲル製剤を作成した。得られた婦人科疾患治療剤に含まれる薬剤(ダナゾール)のin vitro徐放試験を10単位/mlの牛睾丸ヒアルロニダーゼを含有する0.14mol/L リン酸緩衝液(pH7.4)3L中に置き、37℃で数十日間攪拌し、液中への1日毎に放出されるダナゾール量を液体クロマトグラフィー法により測定した。その結果、約200μg/日で安定に放出は持続した。
【実施例11】
【0038】
2液反応型ヒアルロン酸ゲルの関節内治療材としての効能効果を確認するため、日本白色家兎5羽(体重約3kg)を麻酔し右膝の関節に、実施例2で作成したアミノ化ヒアルロン酸水溶液と実施例1のアルデヒド化ヒアルロン酸水溶液とをミキシングデバイスを用いて注入した。4週後に全例屠殺しヒアルロン酸水溶液を注入した膝関節部分を観察したところ全ての膝関節内にヒアルロン酸ゲルが残存していた。
【0039】
以上に説明したように、本発明の2液反応型ヒアルロン酸ゲルは、生体適合性と安全性に優れ、2液混合デバイスやスプレーデバイスを用いin situで目的とする部位で注入でき、その使用が簡単であるため、医療用材料として、関節疾患治療材、癒着防止材、止血剤、創傷被覆材、褥瘡治療材、人工皮膚、生体組織再生用足場材、眼科手術補助材、およびドラッグデリバリー(DDS)用担体などに好適に適用されうる。また、外科手術用、例えば、皮膚、あるいは消化器、泌尿生殖器粘膜や口腔粘膜等、さらに美容整形外科での上皮膨隆用の医用材料にも応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1000〜300万であるアルデヒド化ヒアルロン酸からなる第1反応剤と、重量平均分子量が1000〜300万であるアミノ基含有ヒアルロン酸からなる第2反応剤とよりなり、前記の第1反応剤及び第2反応剤を混合した際には、pHが5.0〜8.0となることを特徴とする2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤。
【請求項2】
前記アルデヒド化ヒアルロン酸は、重量平均分子量が1000〜300万のヒアルロン酸を過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩で酸化して、アルデヒド基を導入したものであることを特徴とする請求項1に記載の2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤。
【請求項3】
前記アミノ基含有ヒアルロン酸は、重量平均分子量が1000〜300万のヒアルロン酸をアジピン酸ジヒドラジドを用いてアミノ基を導入したものであることを特徴とする請求項1および2に記載の2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤。
【請求項4】
重量平均分子量が1000〜300万であるアルデヒド化ヒアルロン酸の水溶液からなる第1反応剤と、重量平均分子量が1000〜300万であるアミノ化ヒアルロン酸の水溶液からなる第2反応剤とを混合して得られる含水ゲル状の医療用樹脂であって、含水状態で保存されたならば、1日〜3カ月の間で任意に設定可能なゲル状態保持期間を経た後には、自己分解によってゾル状態に変化することを特徴とする医療用樹脂。
【請求項5】
前記の第1反応剤及び第2反応剤について、10〜50KGyの電子線を照射して滅菌したことを特徴とする請求項1に記載の2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤。
【請求項6】
第1反応剤と第2反応剤がともに水溶液であるか、第1反応剤が粉で第2反応剤が液体であるか、または、第1反応剤と第2反応剤がともに粉(粉−粉)である請求項1に記載の2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤。
【請求項7】
重量平均分子量が1000〜300万であるアルデヒド化ヒアルロン酸からなる第1反応剤と、重量平均分子量が1000〜300万であるアミノ基含有高分子化合物の水溶液からなる第2反応剤とよりなり、前記の第1反応液及び第2反応液を混合した際には、pHが5.0〜8.0となることを特徴とする2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤。
【請求項8】
前記アミノ基含有高分子化合物がコラーゲン、ゼラチン、アルブミン、キトサン、または、末端にアミノ基を導入した多分岐ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項5に記載の2反応剤型の医療用含水ゲル形成剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの医療用含水ゲル形成剤から得られ、関節疾患治療材、癒着防止材、止血剤、創傷被覆材、褥瘡治療材、人工皮膚、生体組織再生用足場材、眼科手術補助材、およびドラッグデリバリー(DDS)用担体のいずれかとして用いられる含水ゲル。

【公開番号】特開2008−295885(P2008−295885A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147459(P2007−147459)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(506224252)株式会社バイオベルデ (12)
【Fターム(参考)】