説明

2周波切替式圧電発振器

【課題】共振周波数が互いに異なる2つの水晶振動子Y1とY2(共振周波数fY2>共振周波数fY1)とを切替スイッチSW1により切替える周波数切替式圧電発振器において、共振周波数の周波数比fY1/fY2が定まると一義的に最適な周波数調整回路を用いて回路を構成することができ、且つ、小型化に適した2周波切替式圧電発振器を提供する
【解決手段】発振回路と可変回路とを共通に用いて構成すると共に、前記2つの水晶振動子の周波数比が、1>fY1/fY2≧0.9の範囲用と、周波数比が0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲用と、周波数比が0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲用と、周波数比が0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲用とで、周波数調整回路の構成を使い分けることで、小型化に適した最もシンプルな2周波切替式圧電発振器を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多周波出力発振器に関し、特に、2つの圧電素子(振動子または共振子)を内蔵しつつ、単一の周波数出力端子から異なる周波数を切換えて出力する2周波切替式圧電発振器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、単一の移動体無線機において、複数の送受信周波数帯に対応、或いは、周波数帯だけでなく移動体システム自体が異なる幾つかのシステムに対応させる場合、移動体無線機には、それぞれの周波数帯に対応すべく電圧制御型水晶発振器(VCXO;Voltage Controlled Crystal Oscillator)などの発振器を複数個内蔵して構成していた。
【0003】
その一例として、PDC(Personal Digital Cellular Telecommunication System)方式の所謂、携帯電話システムがある。これは800MHz帯に加え、1.5GHzの周波数帯も割り当てられており、一台の携帯電話機を両方の周波数帯域にて使用可能とする携帯電話機(デュアルバンド端末とも呼ばれる)がある。或いは、800MHz帯のPDC方式と、1.8GHz帯のPHS(Personal Handy−Phone
System)方式の双方に対応可能な携帯電話機もある。
このような複数の送受信周波数帯に対応するような移動体無線機などにあっては、それぞれの帯域の基準周波数を生成すべく複数の発振器を備えている。
【0004】
図6は、従来の多周波出力発振器の構成例を示す機能ブロック図である。
この例に示す多周波出力発振器は、それぞれ発振周波数が異なる電圧制御型水晶発振器VCXO100とVCXO200の出力を、切替器300を介して選択出力する構成となっている。
前記VCXO100は、周波数制御部101と水晶振動子102と発振部103とを備え、同様にVCXO200は、周波数制御部201と水晶振動子202と発振部203とを備えている。
【0005】
この図に示す多周波出力発振器は、以下のように機能する。即ち、当該移動体無線機などが存在する地理的位置におけるサービスエリアや、或いは、この移動体無線機を用いて通信しようとする目的の伝送データの種別などの要因に基づいて、図示を省略した制御部から切替器300に切替制御信号が出力され、これにより用いようとする送受信周波数帯域に対応したVCXO100、又は、VCXO200の何れかが選択される。
【0006】
ここで図示を省略するが、例えば、多周波出力発振器はPLL(Phase−Lock−Loop)発振回路の一部として組み込まれている場合を想定する。
そして、仮にVCXO100が選択されると、VCXO100では、周波数制御部101にて、与えられる制御電圧(図示を省略)に応じて水晶振動子102の発振周波数を制御しつつ、発振部103は水晶振動子102が発振動作を継続するよう動作し、発振部103の出力からは制御がなされた所望の周波数が出力される。
他方、VCXO200が選択された場合も、周波数制御部201、水晶振動子202、及び発振部203は同様に機能するものであるが、VCXO100とは水晶振動子の共振周波数が異なるため、出力される周波数帯域が異なる。
【0007】
このように、送受信周波数帯域に対応したVCXO100、又は、VCXO200の何れかを選択するようにした多周波出力発振器が用いられていた。ところが、移動体無線機などの端末の小型化への要求が高まり、実装部品の小型化や実装面積の縮小が望まれている。
このようなことから、多周波出力発振器内の回路を共通に用いるようにした発振器が提案されている。例えば、特開2002−359521号公報には、光通信用の発振源となる高周波数帯(例えば150MHz及び600MHz帯)の電圧制御型とした水晶発振器において、必要に応じて発振周波数を選択可能な周波数切替発振器について記載されている。
【0008】
図7は、上述の公報に示される従来の周波数切替発振器(同公報の図4に相当する)の構成例を示す図である。
この例に示す周波数切替発振器は、所謂、コルピッツ発振回路を用いた電圧制御型水晶発振器(VCXO)であって、インダクタ成分として動作する2つの水晶振動子Y1、Y2が切替スイッチSW1aとSW1bとの間に切替え可能に設けられると共に、これと共振回路を形成する分割コンデンサC1、C2と、共振回路の共振周波数を帰還増幅する発振用トランジスタQ1と、発振用トランジスタQ1のベースにバイアスを与えるためのバイアス抵抗R2、R3とを備えており、発振用トランジスタQ1は、例えば負荷抵抗R5を経てエミッタ側を接地し、エミッタと負荷抵抗R5の接続点から、直流阻止用コンデンサC5を介して発振周波数が出力される。そして、SW1bの共通端子は可変容量ダイオードD1を介して接地されると共に、高周波阻止抵抗R1を介して電圧制御(Vcont)端子へ接続されている。なお、電源電圧(Vcc)には発振用トランジスタQ1のコレクタが接続され、電源電圧(Vcc)はバイパスコンデンサC6を介して接地されている。
【0009】
この図に示す周波数切替発振器は、以下のように機能する。即ち、例えば、水晶振動子Y1の共振周波数が155.52MHzとし、他方、水晶振動子Y2の共振周波数が622.08MHzとした場合、この周波数切替発振器からは必要に応じて選択制御(Select)することにより、155.52MHzと622.08MHzとを切替えて、単一の周波数出力(OUT)端子から出力することができる。
【0010】
なお、同公報による発明は、上述の図7に示した周波数切替発振器における発振周波数のレベル変動の発生を問題とし、これを防止することを目的とした周波数切替発振器について記載されている。これによれば、2つの水晶振動子Y1、Y2をダイオードORして結合し、且つ、水晶振動子Y1、Y2の夫々に応じたバイアス抵抗を2つ設けて、このバイアス抵抗に与える電源電圧(Vcc)を切替スイッチにて切替えるようにすることで、発振周波数のレベル変動を防止することができるようになる。
【特許文献1】特開2002−359521号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の周波数切替発振器においては、以下に示すような問題点があった。つまり、2つの水晶振動子Y1、Y2の周波数の関係により、それぞれにおける直列等価容量が適宜必要になる。例えば、上述の周波数155.52MHzと622.08MHzとを切替える場合にあっては、その周波数比fY1/fY2は、0.25であり、これらそれぞれの共振周波数に適合した周波数調整回路が必要となってくる。このように周波数調整回路を共振周波数のそれぞれに応じて構成しておかなければならないという問題点があった。
【0012】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、共振周波数の周波数比fY1/fY2に応じた、周波数調整回路を予め用意しておく。このとき、周波数比が1に近づくほど周波数調整回路を構成する部品の定数も接近するため、共用可能な部品は共用化した周波数調整回路とする。このようにして、共振周波数の周波数比fY1/fY2が定まると一義的に最適な周波数調整回路を用いて回路を構成することができ、且つ、小型化に適した2周波切替式圧電発振器を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係わる2周波切替式圧電発振器の請求項1の発明は、共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、当該2つの圧電素子の周波数比が1>fY1/fY2≧0.9の範囲にある場合に、前記周波数調整手段は、前記第1の圧電素子に接続した第1のコンデンサと、前記第2の圧電素子に接続した第2のコンデンサと、前記2つのコンデンサの他端に接続したコイルとから構成したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係わる2周波切替式圧電発振器の請求項2の発明は、共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、当該2つの圧電素子の周波数比が0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲にある場合に、前記周波数調整手段は、前記第1の圧電素子に接続した第1のコイルと、前記第2の圧電素子に接続した第2のコイルと、前記2つのコイルの他端に接続したコンデンサとから構成したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係わる2周波切替式圧電発振器の請求項3の発明は、共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、当該2つの圧電素子の周波数比が0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲にある場合に、前記周波数調整手段は、第1のコンデンサと第1のコイルとを直列に前記第1の圧電素子に接続し、第2のコンデンサと第2のコイルとを直列に前記第2の圧電素子に接続して構成したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係わる2周波切替式圧電発振器の請求項4の発明は、共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、当該2つの圧電素子の周波数比が0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲にある場合に、前記周波数調整手段は、第1のコンデンサと第1のコイルと抵抗とを直列に前記第1の圧電素子に接続し、第2のコンデンサと第2のコイルとを直列に前記第2の圧電素子に接続して構成したことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係わる2周波切替式圧電発振器の請求項5の発明は、前記請求項1乃至4の何れかに記載の2周波切替式圧電発振器において、前記2つ圧電素子を一つの収容器内に格納したものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係わる2周波切替式圧電発振器の請求項6の発明は、前記請求項1乃至5の何れかに記載の2周波切替式圧電発振器において、少なくとも、前記発振手段と周波数調整手段とをプログラマブルIC内にて構成し、前記プログラマブルICに書き込むべきプログラムとして、2つの圧電素子の周波数比が1>fY1/fY2≧0.9の範囲用と、周波数比が0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲用と、周波数比が0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲用と、周波数比が0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲用との何れかを用いることにより周波数調整手段の構成を設定可能にしたことを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図示した実施の形態例に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は本発明に係わる2周波切替式圧電発振器の実施の形態例を示す機能ブロック図である。
【0020】
この例に示す2周波切替式圧電発振器は、所謂、コルピッツ発振回路を用いた電圧制御型水晶発振器(VCXO)であって、共振周波数fY1を有する水晶振動子Y1(第1の圧電素子)と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する水晶振動子Y2(第2の圧電素子)と、該圧電振動子の一端を選択的に切替える切替スイッチSW1(スイッチ手段)と、前記切替スイッチSW1の共通端子に接続する発振回路と、前記水晶振動子Y1、Y2の共振周波数に適合した直列等価容量になるよう調整するための周波数調整回路と、外部からの電圧制御(Vcont)により周波数の制御を行なうための可変回路とを備えて構成する。なお、電圧制御を行なわない場合には、前記可変回路を取り外して、周波数調整回路を接地する。
前記発振回路は、共振回路の共振周波数を帰還増幅する発振用トランジスタQ1と、発振用トランジスタQ1のベースと接地(GND)の間に設けた分割コンデンサC1、C2と、発振用トランジスタQ1のベースにバイアスを与えるためのバイアス抵抗R2、R3と、発振用トランジスタQ1のエミッタと接地(GND)の間に設けた負荷抵抗R5と、発振用トランジスタQ1のコレクタと電源電圧(Vcc)の間に設けた電流制限抵抗R4とを備えている。なお、電源電圧(Vcc)はバイパスコンデンサC6を介して接地している。そして、発振用トランジスタQ1のコレクタと電流制限抵抗R4の接続点から、直流阻止用コンデンサC5を介して発振周波数が出力される。
【0021】
前記可変回路は、電圧制御(Vcont)端子に接続した高周波阻止抵抗R1と、該高周波阻止抵抗R1の他端と接地(GND)との間に設けた可変容量ダイオードD1とからなる。
そして、周波数調整回路は、水晶振動子Y1に接続したコンデンサC3(第1のコンデンサ)と、水晶振動子Y2に接続したコンデンサC4(第2のコンデンサ)と、前記2つのコンデンサC3、C4の他端に接続したコイルL1とからなり、該コイルL1の他端は、高周波阻止抵抗R1と可変容量ダイオードD1との接続点に接続している。
【0022】
ここで、上記の発振回路は、発振用トランジスタQ1のコレクタから直流阻止コンデンサC5を介して周波数を出力するものであるが、これは、周波数切替に際して生ずるレベル変動を抑圧するためにコレクタから出力を取り出している。つまり、発振用トランジスタQ1のコレクタに若干値の電流制限抵抗R4を挿入するように変形したコレクタ接地回路とすることによって、発振振幅値を飽和させ、それによってピークレベルの変動を抑圧するのである。これは、従来から一般的に用いられている手法であって、この周波数出力から出力される波形は正弦波ではなくなるものの、周波数の用途がクロックパルスなどである場合には、後段の波形整形により矩形波にされるため、このようにコレクタから出力を取り出しても問題はない。換言すれば、本願発明においては、正弦波の周波数出力におけるレベル変動を防止しようとするものではない。
【0023】
更に、この例に示す2周波切替式圧電発振器の前提とする構成として、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比1>fY1/fY2≧0.9の範囲にあるものとする。例えば、ここでfY2の共振周波数が600MHzとすれば、fY1の共振周波数は、600MHzよりも低く、540MHz以上の周波数であるということになり、ここでは、fY1の共振周波数を540MHzとして以下に説明する。
【0024】
この図に示す2周波切替式圧電発振器は以下のように機能する。即ち、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比1>fY1/fY2≧0.9の範囲にある場合は、直列等価容量としては、ほとんど同様の負荷容量にて2つの共振周波数の特性を満足することができることから、コイルL1を共用部品とし、微調整用として夫々コンデンサC3、C4の定数を適宜に定めて用いること対応する。このようにして、コイルL1の共用化により部品点数を削減しつつ、それぞれの共振周波数に適合した周波数調整回路となるので、2周波切替式圧電発振器は、選択制御(Select)により切替スイッチSW1を切り替えることで、600MHzと540MHzとを単一の周波数出力端子から出力させることができる。
これにより、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比1>fY1/fY2≧0.9の範囲にある場合における小型化に適した2周波切替式圧電発振器を得ることができる。
【0025】
次に、図2は、本発明に係る2周波切替式圧電発振器における2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲にある場合の構成例を示す図である。なお、可変回路と、切替スイッチSW1と、発振回路についての基本構成は、上述の図1に示したものと同様であるので同一符号を付してその説明を省略する。
【0026】
即ち、この例に示す2周波切替式圧電発振器は、周波数調整回路の構成が特徴的な点であって、水晶振動子Y1に接続したコイルL1(第1のコイル)と、水晶振動子Y2に接続したコイルL2(第2のコイル)と、前記2つのコイルL1、L2の他端に接続したコンデンサC3とからなり、該コンデンサC3の他端は、高周波阻止抵抗R1と可変容量ダイオードD1との接続点に接続している。
なお、ここでは、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数として、例えば、fY2の共振周波数が600MHzとすれば、fY1の共振周波数は、540MHzよりも低く、480MHz以上の周波数であるということになり、ここでは、fY1の共振周波数を480MHzとして以下に説明する。
【0027】
この図に示す2周波切替式圧電発振器は以下のように機能する。即ち、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲にある場合は、直列等価容量としては、負荷容量をそれぞれに応じて設定する必要があるが、コンデンサC3を共用部品とし、微調整用として夫々コイルL1、L2の定数を適宜に定めて用いることで対応する。仮に、上述の図1のような周波数調整回路の構成とすると、発振条件としては満足するかもしれないが、外部からの電圧制御による周波数可変特性を満足するのは困難となるであろう。
このようにして、コンデンサC3の共用化により部品点数を削減しつつ、それぞれの共振周波数に適合した周波数調整回路となるので、2周波切替式圧電発振器は、選択制御(Select)により切替スイッチSW1を切り替えることで、600MHzと480MHzとを単一の周波数出力端子から出力させることができる。
これにより、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲にある場合における小型化に適した2周波切替式圧電発振器を得ることができる。
【0028】
次に、図3は、本発明に係る2周波切替式圧電発振器における2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲にある場合の構成例を示す図である。なお、可変回路と、切替スイッチSW1と、発振回路についての基本構成は、上述の図1に示したものと同様であるので同一符号を付してその説明を省略する。
【0029】
即ち、この例に示す2周波切替式圧電発振器は、周波数調整回路の構成が特徴的な点であって、コイルL1(第1のコイル)とコンデンサC3(第1のコンデンサ)とを直列にして水晶振動子Y1に接続し、コイルL2(第2のコイル)とコンデンサC4(第2のコンデンサ)とを直列にして水晶振動子Y2に接続した構成となっている。なお、コイルとコンデンサの配置位置は入れ替わってもよい。この例にあっては、水晶振動子Y1にコンデンサC3が接続し、該コンデンサC3の他端がコイルL1に接続し、コイルL1の他端は、高周波阻止抵抗R1と可変容量ダイオードD1との接続点に接続している。一方、水晶振動子Y2にコンデンサC4が接続し、該コンデンサC4の他端がコイルL2に接続し、コイルL2の他端も、高周波阻止抵抗R1と可変容量ダイオードD1との接続点に接続している。
なお、ここでは、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数として、例えば、fY2の共振周波数が600MHzとすれば、fY1の共振周波数は、480MHzよりも低く、300MHz以上の周波数であるということになり、ここでは、fY1の共振周波数を300MHzとして以下に説明する。
【0030】
この図に示す2周波切替式圧電発振器は以下のように機能する。即ち、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲にある場合は、直列等価容量としては差が大きく、負荷容量をそれぞれに応じて設定する必要がある。そこで、微調整用として夫々コイルL1、L2、およびコンデンサC3、C4の定数を適宜に定めて用いることで対応する。仮に、上述の図2のような周波数調整回路の構成とすると、発振条件および外部からの電圧制御による周波数可変特性の何れも満足するのは困難となるであろう。
このようにして、それぞれの共振周波数に適合した周波数調整回路となるので、2周波切替式圧電発振器は、選択制御(Select)により切替スイッチSW1を切り替えることで、600MHzと300MHzとを単一の周波数出力端子から出力させることができる。
これにより、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲にある場合における小型化に適した2周波切替式圧電発振器を得ることができる。
【0031】
次に、図4は、本発明に係る2周波切替式圧電発振器における2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲にある場合の構成例を示す図である。なお、可変回路と、切替スイッチSW1と、発振回路についての基本構成は、上述の図1に示したものと同様であるので同一符号を付してその説明を省略する。
【0032】
即ち、この例に示す2周波切替式圧電発振器は、周波数調整回路の構成が特徴的な点であって、コイルL1(第1のコイル)とコンデンサC3(第1のコンデンサ)と抵抗R6とを直列にして水晶振動子Y1に接続し、コイルL2(第2のコイル)とコンデンサC4(第2のコンデンサ)とを直列にして水晶振動子Y2に接続した構成となっている。なお、コイルとコンデンサと抵抗の配置位置は入れ替わってもよい。この例にあっては、水晶振動子Y1に抵抗R6が接続し、該抵抗の他端にコンデンサC3が接続し、該コンデンサC3の他端がコイルL1に接続し、コイルL1の他端は、高周波阻止抵抗R1と可変容量ダイオードD1との接続点に接続している。一方、水晶振動子Y2にコンデンサC4が接続し、該コンデンサC4の他端がコイルL2に接続し、コイルL2の他端も、高周波阻止抵抗R1と可変容量ダイオードD1との接続点に接続している。
なお、ここでは、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数として、例えば、fY2の共振周波数が600MHzとすれば、fY1の共振周波数は、300MHzよりも低く、120MHz以上の周波数であるということになり、ここでは、fY1の共振周波数を120MHzとして以下に説明する。
【0033】
この図に示す2周波切替式圧電発振器は以下のように機能する。即ち、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲にある場合は、直列等価容量としては差が大きく、負荷容量をそれぞれに応じて設定する必要があるだけでなく、水晶振動子に流れるドライブレベルによる経年変化の影響にも配慮する必要が生じてくる。つまり、可変回路と発振回路とを共通に用いているため、周波数の低い側の水晶振動子Y1にあっては、必要以上に高いドライブレベルで振動子が動作する傾向にある。ドライブレベルが高いと周波数ジャンプ(主信号が副信号と結合し、ある周波数から突然別の周波数に変化する現象)が生ずる虞が高くなるばかりでなく、水晶振動子への高いストレスから経年変化による周波数ズレの量も大きくなってしまう。
そこで、周波数の低い側の水晶振動子Y1に、直列にドライブレベル低減用の抵抗R6を挿入すると共に、微調整用として夫々コイルL1、L2、およびコンデンサC3、C4の定数を適宜に定めて用いることで対応する。
このようにして、それぞれの共振周波数に適合した周波数調整回路となるので、2周波切替式圧電発振器は、選択制御(Select)により切替スイッチSW1を切り替えることで、600MHzと120MHzとを単一の周波数出力端子から出力させることができる。
これにより、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲にある場合における小型化に適した2周波切替式圧電発振器を得ることができる。
【0034】
以上説明した本発明の実施の形態例においては、共振周波数が互いに異なる2つの水晶振動子Y1とY2を用いるという例を示したが、本発明の実施にあってはこの例に限らず、例えば、共振周波数が互いに異なる2つのSAW(Surface Acoustic Wave)レゾネータとするように構成しても良い。また、更に小型化を図るために、図5R>5に示す如く、2つの水晶振動子(圧電素子)Y1とY2を一つのパッケージ容器内に納めた、所謂、2チップ−1パッケージタイプの振動子、或いは、Dual SAW Resonatorを用いても良い。
【0035】
更にまた、近年、発振器においては回路のIC化が進んでおり、プログラマブルICを用いて、発振回路や周波数調整回路に加えて可変回路をも一つのICの中に構築可能になってきている。本発明に係る2周波切替式圧電発振器にあってもIC化することで、2チップ−1パッケージタイプの振動子と、電子スイッチからなる切替スイッチと、プログラマブルICとにより実現できるわけであり、この場合にあっては、プログラマブルICに書き込むべきプログラムを、予め上述した図1乃至図4の周波数比の段階毎に対応したものを用意しておくことになる。即ち、2つの圧電素子の周波数比が、1>fY1/fY2≧0.9の範囲用と、周波数比が0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲用と、周波数比が0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲用と、周波数比が0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲用プログラムを用意しておき、2つの圧電素子の共振周波数が決まれば、それに応じて何れかのプログラムを選択し、プログラマブルICに書き込みをするといった手段により、最適な周波数調整手段の構成を設定可能にすることができる。
これによれば、小型化要求に応じつつ、その周波数要求にも用意に対応することが可能な2周波切替式圧電発振器ができる。
【0036】
また、以上説明した本発明の実施の形態例においては、2周波を切替えて出力するという例を示したが、更に多数の周波数を切替えて出力させる場合にも応用可能なことは言うまでもない。
【0037】
以上のように、本発明に係わる2周波切替式圧電発振器は、共振周波数が互いに異なる2つの水晶振動子Y1とY2(共振周波数fY2>共振周波数fY1)とを切替スイッチSW1により切替える周波数切替式圧電発振器において、発振回路と可変回路とを共通に用いて構成すると共に、前記2つの水晶振動子の周波数比が、1>fY1/fY2≧0.9の範囲用と、周波数比が0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲用と、周波数比が0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲用と、周波数比が0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲用とで、周波数調整回路の構成を使い分けることで、小型化に適した最もシンプルな2周波切替式圧電発振器を得ることができる。
【0038】
【発明の効果】
以上のように本発明に係わる2周波切替式圧電発振器は、共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えて構成し、前記2つの圧電素子の周波数比fY1/fY2に応じた、周波数調整回路を予め用意しておき、2つの圧電素子の周波数比に応じて最適な周波数調整手段を採択するようにしたので、共用可能な部品は共用化した周波数調整回路となって小型化に寄与し、更には、共振周波数の周波数比fY1/fY2が定まると一義的に最適な周波数調整回路を用いた回路を用意に構成することができる2周波切替式圧電発振器が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る2周波切替式圧電発振器の実施の形態例を示す図であり、2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比1>fY1/fY2≧0.9の範囲にある場合の構成例を示す図である。
【図2】本発明に係る2周波切替式圧電発振器における2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲にある場合の構成例を示す図である。
【図3】本発明に係る2周波切替式圧電発振器における2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲にある場合の構成例を示す図である。
【図4】本発明に係る2周波切替式圧電発振器における2つの水晶振動子Y1とY2の共振周波数が、周波数比0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲にある場合の構成例を示す図である。
【図5】本発明に係る2周波切替式圧電発振器において、2つの水晶振動子Y1とY2を一つのパッケージ容器内に納めたものを用いた場合の例を示す図である。
【図6】従来の多周波出力発振器の構成例を示す図である。
【図7】従来の他の周波数切替発振器の構成例を示す図である。
【符号の説明】
Y1・・・水晶振動子(第1の圧電素子)
Y2・・・水晶振動子(第2の圧電素子)
SW1、SW1a、SW1b・・・切替スイッチ(スイッチ手段)
R1・・・高周波阻止抵抗
D1・・・可変容量ダイオード
Q1・・・発振用トランジスタ
R2、R3・・・バイアス抵抗
C1、C2・・・分割コンデンサ
R4・・・電流制限抵抗
R5・・・負荷抵抗
C3、C4・・・コンデンサ(第1のコンデンサ、第2のコンデンサ)
L1、L2・・・コイル(第1のコイル、第2のコイル)
C5・・・直流阻止コンデンサ
C6・・・バイパスコンデンサ
R6・・・抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、
当該2つの圧電素子の周波数比が1>fY1/fY2≧0.9の範囲にある場合に、
前記周波数調整手段は、前記第1の圧電素子に接続した第1のコンデンサと、前記第2の圧電素子に接続した第2のコンデンサと、前記2つのコンデンサの他端に接続したコイルとから構成したことを特徴とする2周波切替式圧電発振器。
【請求項2】
共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、
当該2つの圧電素子の周波数比が0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲にある場合に、
前記周波数調整手段は、前記第1の圧電素子に接続した第1のコイルと、前記第2の圧電素子に接続した第2のコイルと、前記2つのコイルの他端に接続したコンデンサとから構成したことを特徴とする2周波切替式圧電発振器。
【請求項3】
共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、
当該2つの圧電素子の周波数比が0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲にある場合に、
前記周波数調整手段は、第1のコンデンサと第1のコイルとを直列に前記第1の圧電素子に接続し、第2のコンデンサと第2のコイルとを直列に前記第2の圧電素子に接続して構成したことを特徴とする2周波切替式圧電発振器。
【請求項4】
共振周波数fY1を有する第1の圧電素子と、前記共振周波数fY1よりも高い周波数の共振周波数fY2を有する第2の圧電素子と、該圧電振動子の一端を選択的に切替えるスイッチ手段と、前記スイッチ手段を介して前記圧電素子の何れかと接続される発振手段と、前記圧電素子の夫々の共振周波数に適する周波数調整手段とを備えた2周波切替式圧電発振器において、
当該2つの圧電素子の周波数比が0.5>fY1/fY2≧0.2の範囲にある場合に、
前記周波数調整手段は、第1のコンデンサと第1のコイルと抵抗とを直列に前記第1の圧電素子に接続し、第2のコンデンサと第2のコイルとを直列に前記第2の圧電素子に接続して構成したことを特徴とする2周波切替式圧電発振器。
【請求項5】
前記2つ圧電素子を一つの収容器内に格納したものであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の2周波切替式圧電発振器。
【請求項6】
少なくとも、前記発振手段と周波数調整手段とをプログラマブルIC内にて構成し、前記プログラマブルICに書き込むべきプログラムとして、2つの圧電素子の周波数比が1>fY1/fY2≧0.9の範囲用と、周波数比が0.9>fY1/fY2≧0.8の範囲用と、周波数比が0.8>fY1/fY2≧0.5の範囲用と、周波数比が0.5>f/fY2≧0.2の範囲用との何れかを用いることにより周波数調整手段の構成を設定可能にしたことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の2周波切替式圧電発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2004−356757(P2004−356757A)
【公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−149689(P2003−149689)
【出願日】平成15年5月27日(2003.5.27)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】