説明

2型糖尿病に対する感受性の判定方法

【課題】2型糖尿病の発症に関連する遺伝子を同定し、その多型を利用して、2型糖尿病に対する感受性を判別する方法を提供すること。
【解決手段】被検者について、MPIF-1遺伝子における多型を検出することを含む、2型糖尿病に対する感受性の判定方法。本発明の2型糖尿病に対する感受性の判定方法を用いれば、発症前に2型糖尿病に対する感受性が高いと判明した人に対して食事や運動を指導することによって、2型糖尿病の発症を未然に防ぐことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病に対する感受性の判定方法等に関する。より具体的には、2型糖尿病に対する感受性を判定するための、ミエロイド前駆体阻害因子−1(myeloid progenitor inhibitory factor-1:MPIF-1)遺伝子領域の多型の使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病は、中高年において多く発症し、日本人の糖尿病患者のほとんど(約95%)を占める糖尿病のタイプである。2型糖尿病の原因としては、末梢組織におけるインスリン抵抗性、膵臓ランゲルハンス島のβ細胞の機能障害等が考えられているが、正確な原因と機序はいまだ不明である。
【0003】
2型糖尿病患者の多くは、遺伝的な要因に、環境因子(肥満、運動不足、脂肪の多い食生活など)が加わって発症すると考えられている。従って、2型糖尿病に関与する遺伝因子を事前に診断し、発症前に2型糖尿病に罹患する可能性(即ち2型糖尿病に対する感受性)が高いと判明した人に対しては食事や運動を指導することによって、2型糖尿病の発症を未然に防ぐことが可能となる。そのため、遺伝的に2型糖尿病に罹患する可能性が高い人を発症前に検出するため、2型糖尿病に関連する遺伝子を同定し、その多型を検出することが求められる。
【0004】
2型糖尿病の発症に関連する遺伝子としては、例えば、カルパイン10、PPARγ、グルコキナーゼ遺伝子、HNF-1α、HNF-1β、HNF-4α、PDX-1、ミトコンドリア遺伝子等が同定されている。しかし、これらの遺伝子の変異や多型により発症原因が説明される2型糖尿病は、全体の症例の一部でしかない。
【0005】
一方、ミエロイド前駆体阻害因子−1(myeloid progenitor inhibitory factor-1:以下MPIF-1と略記する)は、C-Cケモカインの一種であり、CCL23とも呼ばれる。MPIF-1遺伝子は、脂肪細胞、肝臓、脾臓、肺、膵臓、骨格筋などにおいて発現している。MPIF-1遺伝子のヌクレオチド配列は公知であり、例えば、ヒトMPIF-1遺伝子のゲノムDNA配列は、GenBank accession number: NT_010799等として、ヒトMPIF-1遺伝子のmRNA(cDNA)配列は、GenBank accession number: NM_145898、NM_005064等として、それぞれ開示されている。ヒトMPIF-1遺伝子は、chromosome 17q12に存在し、エクソン1〜4を有する。ヒトMPIF-1遺伝子には、エクソン3におけるスプライシングバリアントが存在し、そのlong formは137アミノ酸からなるMPIF-1ポリペプチドを、short formは120アミノ酸からなるMPIF-1ポリペプチドをそれぞれコードすることが知られている。MPIF-1遺伝子座において、幾つかの多型、例えば、NCBI reference SNP ID number: rs6505500、rs854656、rs854655、rs1003645等が存在することが知られている。rs6505500におけるG>Tの多型により、CEBP/GATA3モチーフが出現する。また、rs1003645における多型により、Met/Valのアミノ酸置換が生じる。
【0006】
MPIF-1はESTデータベースの検索及びHCC2をプローブとしたcDNAライブラリーのスクリーニングにより単離された遺伝子である。MPIF-1遺伝子は染色体上のCCケモカイン遺伝子クラスターのMIPグループ領域内に存在する。各種阻害剤を用いて、CCR1を介したシグナル伝達が解析されている。MPIF-1の詳細に関しては、非特許文献1−4を参照のこと。
【0007】
しかしながら、MPIF-1と2型糖尿病との関連については知られていない。
【非特許文献1】細胞工学別冊 ハンドブックシリーズ ケモカインハンドブック、秀潤社、2000年
【非特許文献2】Patel VP, Kreider BL, Li Y, Li H, Leung K, Salcedo T, Nardelli B, Pippalla V, Gentz S, Thotakura R, Parmelee D, Gentz R and Garotta G, Molecular and functional characterization of two novel human C-C chemokines as inhibitors of two distinct classes of myeloid progenitors., J. Exp. Med., 185, p.1163-1172 (1997)
【非特許文献3】Nomiyama H, Fukuda S, Iio M, Tanase S, Miura Rand Yoshie O., Organization of the chemokine gene cluster on human chromosome 17q11.2 containing the genes for CC chemokine MPIF-1, HCC-2, HCC-1, LEC, and RANTES., J Interferon Cytokine Res., 19, p. 227-234 (1999)
【非特許文献4】Nardelli B, Tiffany HL, Bong GW, Yourey PA, Morahan DK, Li Y, Murphy PM, Alderson RF., Characterization of the signal transduction pathway activated in human monocytes and dendritic cells by MPIF-1, a specific ligand for CC chemokine receptor 1., J Immunol, 162 (1), p. 435-444 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、2型糖尿病の発症に関連する遺伝子を同定し、その多型を利用して、2型糖尿病に対する感受性を判別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、3T3L1細胞の脂肪細胞への分化過程において、培養上清中に分泌されるタンパク質を探索したところ、該タンパク質としてケモカインの一種であるマウスCCL6が同定された。該遺伝子の発現は、3T3L1細胞が脂肪細胞へ分化する際に増加し、また高脂肪負荷によって脂肪組織におけるCCL6 mRNAの発現が増加した。しかし、ヒトには、マウスCCL6に対応するオルソログ遺伝子が存在していなかったため、その周辺遺伝子について2型糖尿病との関連性を更に検討した。その結果、ケモカインの一種であるMPIF-1(CCL23)遺伝子領域における特定の多型(SNP及びハプロタイプ)の出現頻度が、2型糖尿病患者群と正常対照者群との間で有意に異なっていること、特定のハプロタイプとMPIF-1血中濃度との間に相関があること、MPIF-1の血中濃度と内臓脂肪量、HOMA-IRとの間に有意な相関があり、特定のハプロタイプを有する群においてはその相関性が高いこと等を見い出し、MPIF-1が2型糖尿病に関連する遺伝子の1つであることを立証した。以上の着想に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1]被検者について、MPIF-1遺伝子における多型を検出することを含む、2型糖尿病に対する感受性の判定方法。
[2]該多型は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNPである、[1]記載の方法。
[3]3152 T、4274 G、4712 G又は9651 Gが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される、[2]記載の方法。
[4]3152 T、4274 G、4712 G又は9651 Gが両方のアレルにおいて検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される、[2]記載の方法。
[5]該多型は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなるハプロタイプである、[1]記載の方法。
[6]3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が低いと判定される、[5]記載の方法。
[7]3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される、[5]記載の方法。
[8]被検者が非肥満者である、[6]又は[7]記載の方法。
[9]MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬を含む、2型糖尿病に対する感受性の診断剤。
[10]試薬が以下の(1)〜(3)のいずれかである、[9]の剤:
(1)配列番号1に記載のヌクレオチド配列の部分配列又はその相補配列を含む核酸であって、該部分配列又はその相補配列は3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位を含み、且つ、該部分配列又はその相補配列は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;
(2)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸に特異的にハイブリダイズし得る核酸であって、該核酸がハイブリダイズし得る領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該領域は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;及び
(3)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸の全部又は一部を増幅し得る核酸プライマーであって、増幅される領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該プライマーがハイブリダイズし得る領域が少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸プライマー。
[11]被検者由来の生体試料におけるMPIF-1レベルを測定することを含む、内臓脂肪量の評価方法。
[12]MPIF-1レベルを測定するための試薬を含む、内臓脂肪量の評価用キット。
[13]被検者由来の生体試料におけるMPIF-1レベルを測定することを含む、インスリン抵抗性の評価方法。
[14]MPIF-1レベルを測定するための試薬を含む、インスリン抵抗性の評価用キット。
[15]被検者について、MPIF-1遺伝子における多型を検出することを含む、MPIF-1レベル傾向の判定方法。
[16]該多型は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなるハプロタイプである、[15]記載の方法。
[17]3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者のMPIF-1レベルは高い傾向であると判定される、[16]記載の方法。
[18]3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者のMPIF-1レベルは低い傾向であると判定される、[16]記載の方法。
[19]MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬を含む、MPIF-1レベル傾向の診断剤。
[20]試薬が以下の(1)〜(3)のいずれかである、[19]の剤:
(1)配列番号1に記載のヌクレオチド配列の部分配列又はその相補配列を含む核酸であって、該部分配列又はその相補配列は3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位を含み、且つ、該部分配列又はその相補配列は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;
(2)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸に特異的にハイブリダイズし得る核酸であって、該核酸がハイブリダイズし得る領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該領域は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;及び
(3)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸の全部又は一部を増幅し得る核酸プライマーであって、増幅される領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該プライマーがハイブリダイズし得る領域が少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸プライマー。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、MPIF-1遺伝子における多型と2型糖尿病に対する感受性との関連性について明らかにした。該多型を検出することにより、2型糖尿病に対する感受性を判定することが可能となった。本発明の2型糖尿病に対する感受性の判定方法を用いれば、発症前に2型糖尿病に罹患する可能性(即ち2型糖尿病に対する感受性)が高いと判明した人に対して食事や運動を指導することによって、2型糖尿病の発症を未然に防ぐことが可能となる。また、被検者におけるMPIF-1レベルを測定することにより、容易に、被検者の内臓脂肪、インスリン抵抗性を評価することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0013】
(I.2型糖尿病に対する感受性の判定方法)
本発明は、被検者について、MPIF-1遺伝子における多型を検出することを含む、2型糖尿病に対する感受性の判定方法(本発明の方法I)を提供するものである。
【0014】
本明細書において、「感受性」とは、被検者が2型糖尿病に罹患し易い体質であることを言う。また、「抵抗性」とは、被検者が2型糖尿病に罹患しにくい体質である(罹患しにくい素因を有する)ことを言う。
【0015】
ヒトMPIF-1遺伝子をコードするヒトゲノムDNAのヌクレオチド配列を配列番号1に示す。MPIF-1遺伝子のfirst codon(ATG)のAが5001位に相当する。MPIF-1は、C-Cケモカインの一種であり、CCL23とも呼ばれる公知のポリペプチドである。MPIF-1遺伝子の全ヌクレオチド配列、もしくは任意の部分配列、および該遺伝子によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に関するデータは、当業者においては、例えば、公共の遺伝子情報ウェブサイト(NCBI (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等)を利用して、適宜取得することが可能である。例えば、ヒトMPIF-1遺伝子のゲノムDNA配列は、GenBank accession number: NT_010799等として、ヒトMPIF-1遺伝子の転写産物(mRNA)のヌクレオチド配列は、GenBank accession number: NM_145898(配列番号35)、NM_005064(配列番号37)等として、ヒトMPIF-1ポリペプチドのアミノ酸配列は、、GenBank accession number: NP_665905(配列番号36)、NP_005055(配列番号38)等として、それぞれ開示されている。
【0016】
検出され得るMPIF-1遺伝子の多型としては、その保有頻度と、2型糖尿病に対する感受性との間に有意な関連性を与えるような多型が好ましい。
【0017】
本発明の方法Iにおいて用いられる多型は、好ましくは、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における、
G又はTである3152位のSNP(本明細書中3152 G/Tと略記する)、
T又はGである4274位のSNP(本明細書中4274 T/Gと略記する)、
T又はGである4712位のSNP(本明細書中4712 T/Gと略記する)、及び
A又はGである9651位のSNP(本明細書中9651 A/Gと略記する)
からなる群から選択される1以上のSNPである。
【0018】
なお、本明細書において、「3152 G/T」等と記載する場合、前にメジャーアレルの塩基(この場合G)を、後にマイナーアレルの塩基(この場合T)を記載することとする。
【0019】
ヒトゲノムDNA上で、MPIF-1遺伝子のfirst codonのATGのAを「+1」としたときに、3152 G/Tは-1849位に、4274 T/Gは-727位に、4712 T/Gは-289位に、9651 A/Gは+4651位に、それぞれ位置する。3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gの各SNPは、それぞれ、NCBI reference SNP ID number: rs6505500、rs854656、rs854655及びrs1003645として公知である。
【0020】
本発明の1つの態様においては、上記SNPについて、
Tである3152位のSNP(本明細書中3152 Tと略記する)、
Gである4274位のSNP(本明細書中4274 Gと略記する)、
Gである4712位のSNP(本明細書中4712 Gと略記する)、又は
Gである9651位のSNP(本明細書中9651 Gと略記する)
が検出された場合、被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される。
【0021】
DNAは通常、互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては、便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を示した場合であっても、当然の如く、該配列(塩基)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基)が判れば、該配列(塩基)に相補的な配列(塩基)は自明である。従って、例えば、配列番号:1に記載のヌクレオチド配列の3152位の部位に対応する該配列の相補鎖上の部位について、塩基種がA(アデニン)である場合も、被検者は2型糖尿病に対する感受性が高いものと判定される。なお、本明細書においては、便宜上、ヒトゲノムDNAのMPIF-1遺伝子をコードするヌクレオチド鎖(プラス鎖)における位置で各SNPの位置を記載することとする。
【0022】
尚、当業者においては、本明細書において開示されたヌクレオチド配列および多型部位に関する情報を用いれば、適宜、被検者において検出されたMPIF-1遺伝子の多型部位が、本明細書において開示されたヌクレオチド配列および多型部位のどこに該当するかを知ることは容易である。即ち、配列表に掲げたヌクレオチド配列と被検者より得られた多型部位を含むヌクレオチド配列との間に若干のヌクレオチド配列の相違(欠失、置換、付加等)がみられた場合であっても、配列表に掲げたヌクレオチド配列を基に被検者由来のヌクレオチド配列と相同性検索等を行うことにより、検出された多型が上記多型のいずれに該当するかを正確に知ることが可能である。
【0023】
上記態様においては、3152 T、4274 G、4712 G又は9651 Gが被検者について、少なくとも一方のアレルにおいて検出されればよい。即ち、本発明の方法Iにおいては、被検者の相同染色体のうち少なくとも一方の染色体について上記SNPを検出すればよい。
【0024】
本発明の方法Iにおいては、被検者の対となる二本の染色体の両方について、上記のSNPを検出することによって、判定を行うこともできる。両方のアレルにおいて上記SNPが検出された被検者については、より高い確度で判定を行うことが可能である。即ち、3152 T、4274 G、4712 G又は9651 Gが、両方のアレルにおいて検出された被検者の場合、一方のアレルでのみ検出された場合と比較して、2型糖尿病に対して感受性である可能性がより高い。
【0025】
また、別の態様においては、本発明の方法Iにおいて用いられる多型は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなるハプロタイプである。
【0026】
該態様において、被検者について、3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が低いと判定される。一方、3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される。ここで、3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者のインスリン抵抗性が高いと判定することも出来る。
【0027】
この場合、被検者について、3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプ又は3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが少なくとも一方のアレルにおいて検出されればよい。即ち、本発明の方法Iにおいては、被検者の相同染色体のうちの少なくとも一方の染色体について上記ハプロタイプを検出すればよい。
【0028】
該態様において、被検者は非肥満者であり得る。このように被検者を限定することにより、肥満による影響のない被検者において、2型糖尿病に対する感受性に関する遺伝的な背景をより正確に判定することが出来る。なお、非肥満者とは、医学的且つ客観的に肥満でないヒトをいい、例えば肥満に関する医学的指標が一定基準値を下回ること(例えばBMI<22)をいう。
【0029】
本発明の方法Iにおいて、多型の検出は、当業者においては種々の自体公知の方法によって行うことができる。一例を示せば、上記多型部位を含むゲノムDNAのヌクレオチド配列を直接決定することによって行うことができる。この方法においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。本発明においてDNA試料は、例えば被検者の毛髪、爪、血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等から抽出されたゲノムDNA、あるいは脂肪細胞、肝臓、脾臓、肺、膵臓、骨格筋等のMPIF-1遺伝子を発現し得る組織から抽出されたRNA(mRNA, 全RNA等)を基に調製することができる。
【0030】
次いで、上記多型部位を含むDNAが単離される。該DNAの単離は、上記多型部位を含むDNAに特異的にハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムDNA、cDNAあるいはRNAを鋳型としたPCR等によって行うことも可能である。
【0031】
次いで、単離したDNAの塩基配列が決定される。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0032】
本発明においては、多型の検出に、上述の様なヌクレオチド配列の直接決定を好適に用いることができる。その際使用されるプライマーとしては、特に制限されないが、例えば、後述の実施例に記載のオリゴヌクレオチド(配列番号:2〜17)を好適に使用することができる。
【0033】
上述の多型部位は、通常、その部位の塩基種のバリエーションが既に明らかになっている。従って、本明細書において、「多型の検出」とは、必ずしもその多型部位の塩基種がA、G、T、Cのいずれかであるかを判別することを意味するものではない。例えば、ある多型部位について塩基種のバリエーションがGまたはTであることが判明している場合には、その部位の塩基種が「Tでない」もしくは「Gでない」ことが判明すれば充分である。
【0034】
予め塩基のバリエーションが明らかにされている多型部位について、その塩基種を決定するための様々な方法が公知である。本発明の塩基種の決定のための方法は、特に限定されない。例えば、PCR法を応用した解析方法として、TaqMan PCR法、Intercalator mediated FRET probe (IFP)法、AcycloPrime法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が知られている。更に核酸アレイを用いても多型を検出することができる。
標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法、PCR-SSCP法、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE)法等が挙げられる。
【0035】
TaqMan PCR法は、アレルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアレルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0036】
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0037】
多型に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアレルのアレルAのTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、アレルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアレルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アレルAまたはアレルBのホモであることが判明する。他方、アレルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者について多型を検出できる方法として有用である。
【0038】
本発明においては、多型の検出に、TaqMan PCR法を好適に用いることができる。その際使用されるプライマーおよびプローブとしては、特に制限されないが、例えば、後述の実施例に記載のオリゴヌクレオチド(配列番号:18〜25)を好適に使用することができる。
【0039】
Intercalator mediated FRET probe (IFP)法は、SNPを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、FRETプローブを利用した解析方法である。FRETプローブは、このプライマーセットによって増幅される多型を含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0040】
IFP法においては、まず、SNPを含む領域を増幅することができるプライマーセットにより、該領域を増幅し、増幅産物を得る。次に、増幅産物を蛍光標識する。蛍光試薬としては、二重鎖DNAに結合することによってのみ蛍光を発し、二重鎖DNAに結合してない遊離状態ではほとんど蛍光しないような蛍光試薬(SYBR Green等)が好ましい。次に、蛍光標識された増幅産物と、該蛍光と蛍光エネルギー共鳴反応を起し得るような対応する蛍光により標識されたFRETプローブを会合させ、蛍光エネルギー共鳴反応を促す。次に、徐々にこの産物を加熱することにより、増幅産物とFRETプローブとを解離させ、蛍光エネルギー共鳴反応を消失させる。このとき、蛍光エネルギー共鳴反応が消失する温度を測定することにより、FRETプローブと増幅産物の配列の一致・非一致を判定し、多型を検出する。FRETプローブと増幅産物の配列が一致すれば、前記温度は比較的高くなり、不一致であれば、前記温度は比較的低くなる。
【0041】
本発明においては、多型の検出に、IFP法を好適に用いることができる。その際使用されるプライマーおよびプローブとしては、特に制限されないが、例えば、後述の実施例に記載のオリゴヌクレオチド(配列番号:26〜34)を好適に使用することができる。
【0042】
本発明は、また、MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬を含む、2型糖尿病に対する感受性の診断剤(診断用キット)(本発明の診断剤I)を提供するものである。該診断剤を用いれば、上記本発明の方法Iにより、容易に2型糖尿病に対する感受性を判定することが出来る。
【0043】
MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬としては、例えば、以下の(1)〜(3)を挙げることが出来る。
(1)配列番号1に記載のヌクレオチド配列の部分配列又はその相補配列を含む核酸であって、該部分配列又はその相補配列は3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位を含み、且つ、該部分配列又はその相補配列は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;
(2)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸に特異的にハイブリダイズし得る核酸であって、該核酸がハイブリダイズし得る領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該領域は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;及び
(3)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸の全部又は一部を増幅し得る核酸プライマーであって、増幅される領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該プライマーがハイブリダイズし得る領域が少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸プライマー。
【0044】
本明細書において、核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよいが、好ましくは一本鎖である。
【0045】
本明細書において、「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、核酸は、検出する遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における、上記のヌクレオチド配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0046】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、具体的には、通常「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件を例示することができる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0047】
上記(1)又は(2)の核酸は、本発明の方法Iにおいて多型を検出するためのプローブやプライマーとして用いることができる。
【0048】
上記(1)又は(2)の核酸がプローブやプライマーとして用いられる場合、該核酸には、任意のヌクレオチド配列が付加されていてもよい。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このような核酸も、上記SNP部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明の核酸に含まれる。また、該核酸は、修飾されていてもよい。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識された核酸がプローブとして利用される。
【0049】
上記(1)の核酸がプローブやプライマーとして用いられる場合、上記(1)の核酸に含まれる配列番号1に記載のヌクレオチド配列の部分配列又はその相補配列の長さは、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。
【0050】
上記(2)の核酸がプローブやプライマーとして用いられる場合、該核酸が配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸にハイブリダイズし得る領域の長さは、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。
【0051】
また、上記(1)や(2)の核酸の長さは、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。
【0052】
上記(1)や(2)の核酸がプローブとして用いられる場合、該核酸は固相に固定され、核酸アレイの態様で提供されてもよい。
【0053】
上記(3)のプライマーには、上記SNP部位を含む核酸(例えばゲノムDNA)を鋳型として、該SNP部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーが含まれる。該プライマーは、SNP部位を含む核酸における、SNP部位の3'側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域とSNP部位との間隔は任意である。両者の間隔は、SNP部位の塩基の解析手法に応じて、好適な長さを選択することができる。たとえば、DNAチップによる解析のためのプライマーであれば、SNP部位を含む領域として、通常25〜500、例えば50〜200ヌクレオチドの長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。当業者においては、SNP部位を含む周辺DNA領域についてのヌクレオチド配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。上記(3)のプライマーを構成するヌクレオチド配列は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列に対して完全に相補的なヌクレオチド配列のみならず、適宜改変することができる。
【0054】
上記(3)のプライマーには、任意のヌクレオチド配列が付加されていてもよい。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。更に、上記プライマーは、修飾されていてもよい。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種のジェノタイピング方法において利用される。
【0055】
上記(3)のプライマーが配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸にハイブリダイズし得る領域の長さは、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。
【0056】
上記(3)のプライマーの全長は、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。
【0057】
本発明の診断剤Iには、多型の検出方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合わせることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の多型の検出方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0058】
また、本発明の診断剤Iには、MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬、例えば上記(1)〜(3)の核酸又はプライマーを、2型糖尿病に対する感受性の診断に用いることが出来る、或いは用いるべきであることを記した記載物を組み合わせることが出来る。
【0059】
(II.MPIF-1レベルの判定方法)
本発明は、被検者について、MPIF-1遺伝子における多型を検出することを含む、MPIF-1レベル傾向の判定方法(本発明の方法II)を提供するものである。
【0060】
本明細書において、「MPIF-1レベル」とは、生体中のMPIF-1ポリペプチド又はMPIF-1遺伝子転写産物(mRNA)の量、例えば血清中のMPIF-1ポリペプチドの濃度をいう。下記実施例にも示されるように、MPIF-1レベルは、内臓脂肪、インスリン抵抗性スコア(HOMA-IR)、BMI等の様々な医学的な指標と相関することから、個体のMPIF-1レベル傾向を判定することで、MPIF-1レベルに関連する疾患や状態(例えば肥満、インスリン抵抗性等)への感受性を判定することが出来る。
【0061】
検出され得るMPIF-1遺伝子の多型としては、その保有頻度と、MPIF-1レベル傾向との間に有意な関連性を与えるような多型が好ましい。
【0062】
一つの態様において、本発明の方法IIにおいて用いられる多型は、好ましくは、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなるハプロタイプである。
【0063】
該態様において、3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者のMPIF-1レベルは高い傾向であると判定される。一方、3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者のMPIF-1レベルは低い傾向であると判定される。MPIF-1レベルは、内臓脂肪、BMI及びインスリン抵抗性スコア(HOMA-IR)と負の相関を示すことから、3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプを有する被検者は、肥満やインスリン抵抗性への感受性が低く、抵抗性である可能性があり、3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプを有する被検者は肥満やインスリン抵抗性への感受性が高い可能性がある。
【0064】
この場合、被検者について3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプ又は3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが少なくとも一方のアレルにおいて検出されればよい。即ち、本発明の方法IIにおいては、被検者の相同染色体の少なくとも一方の染色体について上記ハプロタイプを検出すればよい。
【0065】
本発明の方法IIにおいては、被検者の対となる二本の染色体の両方について、上記ハプロタイプを検出することによって、判定を行うこともできる。両方のアレルにおいて上記ハプロタイプが検出された被検者については、より高い確度で判定を行うことが可能である。例えば3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプが、両方のアレルにおいて検出された被検者の場合、一方のアレルでのみ検出された場合と比較して、MPIF-1レベルはより高い傾向であると判定することが出来る。
【0066】
本発明の方法IIにおける多型の検出は、上記(I)の項で挙げたものと同様の方法により行うことができる。
【0067】
本発明は、また、MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬を含む、MPIF-1レベル傾向の診断剤(診断用キット)(本発明の診断剤II)を提供するものである。該診断剤を用いれば、上記本発明の方法IIにより、容易に被検者のMPIF-1レベル傾向を判定することが出来る。
【0068】
MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬としては、上記(I)の項に記載された(1)〜(3)の核酸又はプライマーを挙げることが出来る。
【0069】
本発明の診断剤IIには、多型の検出方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合わせることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の多型の検出方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0070】
また、本発明の診断剤IIには、MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬、例えば上記(1)〜(3)の核酸又はプライマーを、MPIF-1レベル傾向の診断に用いることが出来る、或いは用いるべきであることを記した記載物を組み合わせることが出来る。
【0071】
(III.内臓脂肪量の評価方法)
後述の実施例において示されるように、被検者由来の生体試料中のMPIF-1レベルは、該被検者の内臓脂肪量と有意に相関する。従って、MPIF-1ポリペプチドやMPIF-1遺伝子転写産物を、内臓脂肪量を反映するマーカーとして用いることが出来る。即ち、本発明は、被検者由来の生体試料におけるMPIF-1レベルを測定することを含む、内臓脂肪量の評価方法(本発明の方法III)を提供するものである。
【0072】
本発明の方法IIIにおいて、被検者のMPIF-1遺伝子多型は、特に限定されないが、被検者が少なくとも一方のアレルにおいて3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプを有している場合、MPIF-1レベルと内臓脂肪量との相関性が高いため、被検者は少なくとも一方のアレルにおいて3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプを有していることが好ましい。
【0073】
本発明の方法IIIにおいては、通常、ヒト由来の生体試料が用いられる。生体試料としては、MPIF-1ポリペプチド又はMPIF-1遺伝子転写産物を含む限り特に限定されないが、例えば、血清、血漿、血液、脂肪組織(脂肪細胞)、肝臓、脾臓、肺、膵臓、骨格筋等を用いることが出来る。
【0074】
生体試料におけるMPIF-1レベルの測定は、当業者に公知の方法を用いて行うことが出来る。例えば、MPIF-1ポリペプチドの量は、MPIF-1ポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いた免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法、フローサイトメトリーなどが使用できる。TOF−massなどのプロテオミクス技術を用いて、MPIF-1ポリペプチドの量を測定してもよい。更には、MPIF-1ポリペプチドの生物学的活性(例えばケモタキシス誘導活性)を指標に、MPIF-1ポリペプチドの量を測定してもよい。MPIF-1遺伝子転写産物の量は、MPIF-1遺伝子転写産物に特異的にハイブリダイズし得る核酸プローブや、MPIF-1遺伝子転写産物を特異的に増幅し得る核酸プライマーを用い、RT-PCR、ノザンブロッティング、核酸アレイ等により測定することが出来る。
【0075】
次に、測定されたMPIF-1レベルに基づき、被検者の内臓脂肪量が評価される。例えば、あらかじめ求められたMPIF-1レベルと内臓脂肪量との相関(例えば相関式)に、測定されたMPIF-1レベルをあてはめることにより、被検者の内臓脂肪量を評価することが出来る。或いは、測定されたMPIF-1レベルを、あらかじめ求めておいた内臓脂肪量が一定基準値より高い多数被検者群の平均値、内臓脂肪量が一定基準値より低い多数被検者群(例えば正常対照群)の平均値、被検者個々の値の分布図などと比較してもよい。
【0076】
MPIF-1レベルと内臓脂肪量とは負の相関を示し、MPIF-1レベルが高いほど内臓脂肪量が低い傾向を示し、反対にMPIF-1レベルが低いほど内臓脂肪量が高い傾向を示す。従って、MPIF-1レベルが相対的に高い場合には、内臓脂肪量は相対的に低い可能性があると判断することができる。反対に、MPIF-1レベルが相対的に低い場合には、内臓脂肪量は相対的に高い可能性があると判断することができる。
【0077】
また、MPIF-1レベルのカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたMPIF-1レベルとこのカットオフ値とを比較することによって、内臓脂肪量を評価することもできる。例えば、測定されたMPIF-1レベルが前記カットオフ値を上回る場合には、内臓脂肪量は相対的に低い可能性があると判断し、前記カットオフ値以下である場合には、内臓脂肪量は相対的に高い可能性があると判断することができる。
【0078】
「カットオフ値」は、その値を基準として疾患や状態の判定をした場合に、高い診断感度(有病正診率)及び高い診断特異度(無病正診率)の両方を満足できる値である。例えば、内臓脂肪量が一定基準値を上回る被検者で高い陰性率を示し、かつ、内臓脂肪量が一定基準値以下である被検者で高い陽性率を示す、MPIF-1レベルをカットオフ値として設定することが出来る。
【0079】
カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。例えば、内臓脂肪量が一定基準値を上回る被検者及び内臓脂肪量が一定基準値以下である被検者において、MPIF-1レベルを測定し、測定された値における診断感度および診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。また、例えば、検出された値における診断効率(全症例数に対する、有病正診症例と無病正診症例の合計数の割合)を求め、最も高い診断効率が算出される値をカットオフ値とすることができる。
【0080】
また、本発明は、MPIF-1レベルを測定するための試薬を含む、内臓脂肪量の評価用キット(本発明のキットIII)を提供するものである。該キットを用いれば、上記本発明の方法IIIにより、容易に内臓脂肪量を評価することが出来る。
【0081】
MPIF-1レベルを測定するための試薬としては、例えば、MPIF-1ポリペプチドを特異的に認識する抗体やその結合性断片、MPIF-1遺伝子転写産物に特異的にハイブリダイズし得る核酸プローブ、MPIF-1遺伝子転写産物を特異的に増幅し得る核酸プライマー等を挙げることが出来る。これらの試薬は標識されていてもよい。標識物質としては、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、3H、14C、32P、35S、125I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素等を挙げることが出来る。
【0082】
MPIF-1ポリペプチドを特異的に認識する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、MPIF-1ポリペプチドやその部分ペプチドを抗原として用い、周知の免疫学的手法により作製することができる。該抗体の結合性断片は、MPIF-1ポリペプチドに対する抗原結合部位(CDR)を有する限りいかなるものであってもよく、例えば、Fab、F(ab’)2、ScFv、minibody等が挙げられる。
【0083】
また、MPIF-1ポリペプチドを特異的に認識する抗体としては、市販のものを用いることができる。かかる抗体としては、Quantikine Human MPIF-1/CCL23 Immunoassay(R&D Systems inc. Minneapolis, MS, USA)中に含まれる抗体を用いることが出来る。
【0084】
MPIF-1遺伝子転写産物に特異的にハイブリダイズし得る核酸プローブは、当業者であれば、MPIF-1遺伝子転写産物のヌクレオチド配列情報を基に、解析手法に応じたものをデザインすることが出来る。該プローブがMPIF-1遺伝子転写産物にハイブリダイズし得る領域の長さは、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。また、該プローブの長さは、特に限定されないが、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。
【0085】
MPIF-1遺伝子転写産物に特異的にハイブリダイズし得る核酸プローブとしては、例えば、
(A)配列番号35又は37に記載のヌクレオチド配列の部分配列又はその相補配列を含む核酸であって、該部分配列又はその相補配列が少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸、
(B)配列番号35又は37に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸に特異的にハイブリダイズし得る核酸であって、該核酸がハイブリダイズし得る領域が少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸
等を挙げることが出来る。
【0086】
MPIF-1遺伝子転写産物を特異的に増幅し得る核酸プライマーは、当業者であれば、MPIF-1遺伝子転写産物のヌクレオチド配列情報を基に、解析手法に応じたものをデザインすることが出来る。2つのプライマー間の間隔は、解析手法に応じて、好適な長さを選択することができる。たとえば、RT-PCRによる解析のためのプライマーであれば、通常25〜500、例えば50〜200ヌクレオチドの長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。該プライマーを構成するヌクレオチド配列は、MPIF-1遺伝子転写産物のヌクレオチド配列又はその相補配列に対して完全に相補的なヌクレオチド配列のみならず、適宜改変することができる。
【0087】
該プライマーがMPIF-1遺伝子転写産物のヌクレオチド配列又はその相補配列にハイブリダイズし得る領域の長さは、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。また、該プライマーの長さは、特に限定されないが、少なくとも12ヌクレオチド、例えば15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチド、より好ましくは15〜30ヌクレオチド、更に好ましくは18〜30ヌクレオチドである。
【0088】
MPIF-1遺伝子転写産物を特異的に増幅し得る核酸プライマーとしては、例えば、配列番号35又は37に記載のヌクレオチド配列或いはその相補配列からなる核酸の全部又は一部を増幅し得る核酸プライマーであって、該プライマーがハイブリダイズし得る領域が少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸プライマー等を挙げることが出来る。
【0089】
本発明のキットIIIには、MPIF-1レベルの測定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合わせることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼなどの、上記のMPIF-1レベルの測定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。酵素基質としては、例えば、ELISA等における発色基質等が用いられる。
【0090】
また、本発明のキットIIIには、MPIF-1レベルを測定するための試薬を、内臓脂肪量の評価に用いることが出来る、或いは用いるべきであることを記した記載物や、MPIF-1レベルと内臓脂肪量との相関を記した記載物等を組み合わせることが出来る。
【0091】
(IV.インスリン抵抗性の評価方法)
後述の実施例において示されるように、被検者由来の生体試料中のMPIF-1レベルは、該被検者のインスリン抵抗性と有意に相関する。従って、MPIF-1ポリペプチドやMPIF-1遺伝子転写産物を、インスリン抵抗性を反映するマーカーとして用いることが出来る。即ち、本発明は、被検者由来の生体試料におけるMPIF-1レベルを測定することを含む、インスリン抵抗性の評価方法(本発明の方法IV)を提供するものである。
【0092】
本発明の方法IVにおいて、被検者のMPIF-1遺伝子多型は、特に限定されないが、被検者が少なくとも一方のアレルにおいて3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプを有している場合、MPIF-1レベルとインスリン抵抗性との相関性が高いため、被検者は少なくとも一方のアレルにおいて3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプを有していることが好ましい。
【0093】
本発明の方法IVにおいては、上記方法IIIと同様の生体試料が用いられる。
【0094】
生体試料におけるMPIF-1レベルの測定は、上記方法IIIと同様の方法を用いて行うことが出来る。
【0095】
次に、測定されたMPIF-1レベルに基づき、被検者のインスリン抵抗性が評価される。例えば、あらかじめ求められたMPIF-1レベルとインスリン抵抗性との相関(例えば相関式)に、測定されたMPIF-1レベルをあてはめることにより、被検者のインスリン抵抗性を評価すことが出来る。或いは、測定されたMPIF-1レベルを、あらかじめ求めておいたインスリン抵抗性(例えばインスリン抵抗性スコア(HOMA-IR)等)が一定基準値より高い多数被検者群の平均値、インスリン抵抗性が一定基準値より低い多数被検者群(例えば正常対照群)の平均値、被検者個々の値の分布図などと比較してもよい。
【0096】
通常、MPIF-1レベルとインスリン抵抗性とは負の相関を示し、MPIF-1レベルが高いほどインスリン抵抗性が低い傾向を示し、反対にMPIF-1レベルが低いほどインスリン抵抗性が高い傾向を示す。従って、MPIF-1レベルが相対的に高い場合には、インスリン抵抗性は相対的に低い可能性があると判断することができる。反対に、MPIF-1レベルが相対的に低い場合には、インスリン抵抗性は相対的に高い可能性があると判断することができる。
【0097】
また、MPIF-1レベルのカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたMPIF-1レベルとこのカットオフ値とを比較することによって、インスリン抵抗性を評価することもできる。例えば、測定されたMPIF-1レベルが前記カットオフ値以を上回る場合には、インスリン抵抗性は相対的に低い可能性があると判断し、前記カットオフ値以下である場合には、インスリン抵抗性は相対的に高い可能性があると判断することができる。
【0098】
例えば、インスリン抵抗性が一定基準値を上回る被検者で高い陰性率を示し、かつ、インスリン抵抗性が一定基準値以下である被検者で高い陽性率を示す、MPIF-1レベルをカットオフ値として設定することが出来る。
【0099】
カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。例えば、インスリン抵抗性が一定基準値を上回る被検者及びインスリン抵抗性が一定基準値以下である被検者において、MPIF-1レベルを測定し、測定された値における診断感度および診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。また、例えば、検出された値における診断効率(全症例数に対する、有病正診症例と無病正診症例の合計数の割合)を求め、最も高い診断効率が算出される値をカットオフ値とすることができる。
【0100】
また、本発明は、MPIF-1レベルを測定するための試薬を含む、インスリン抵抗性の評価用キット(本発明のキットIV)を提供するものである。該キットを用いれば、上記本発明の方法IVにより、容易にインスリン抵抗性を評価することが出来る。
【0101】
MPIF-1レベルを測定するための試薬としては、上記キットIIIに含まれるものと同様の試薬を用いることが出来る。
【0102】
本発明のキットIVには、上記キットIIIと同様に、MPIF-1レベルの測定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合わせることができる。
【0103】
また、本発明のキットIVには、上記キットIIIと同様に、MPIF-1レベルを測定するための試薬を、インスリン抵抗性の評価に用いることが出来る、或いは用いるべきであることを記した記載物や、MPIF-1レベルとインスリン抵抗性との相関を記した記載物等を組み合わせることが出来る。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
方 法
(患者対象)
2型糖尿病の診断は、日本糖尿病学会の診断基準(1999年)によった。年齢60歳以上で、耐糖能異常の既往がなく、家族歴に糖尿病がなく、HbA1cが5.6%以下の対象を正常者とした。
【0106】
(遺伝子多型の同定)
正常者24人の末梢血白血球から、QIAamp DNA Blood Maxi Kit (Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いてゲノムDNAを抽出した。GenBankに登録されているMPIF-1遺伝子のヌクレオチド配列情報(GenBank accession number NT_010799)を元にプライマーを設計し、ゲノムDNA を鋳型としたPCR直接シークエンス法により、MPIF-1遺伝子のエクソン、イントロン境界を含む全蛋白コード領域及び上流約1000bpのプロモーター領域のヌクレオチド配列を決定することにより、遺伝子多型の検索を行った。PCRは、ExTaq polymerase (TaKaRa Biotechnology, Shiga, Japan)を用い、反応溶液を94℃で5分間加熱することによりDNAを変性させ、その後94℃で30秒、各プライマーに個別のアニール温度で30秒、 72℃で30秒の反応サイクルを各プライマーに個別の回数繰り返し、最後に72℃で5分間加熱した。各プライマー配列及びプライマーごとの個別のアニール温度と反応サイクル数は表1に記す。遺伝子塩基配列は Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA) を用い、ABI 3100 DNA automated sequencer (Applied Biosystems)によって決定した。
【0107】
【表1】

【0108】
(ハプロタイプブロックの作成)
同定された遺伝子多型に関して正常検体120例のタイピングを行い、遺伝子解析ソフトウェアSNPAlyze version 5.0 Pro (Dynacom, Mobara, Japan)を用いて、LD Blockを作成し、ハプロタイプの検討を行った。
【0109】
(遺伝子ハプロタイプタイピング)
遺伝子ハプロタイプタイピングは、MPIF-1遺伝子の蛋白コード領域の9651 A/G多型(db SNP番号rs1003645)、非コード領域の4274 T/G多型(db SNP番号rs854656)及び4712 T/G多型(db SNP番号rs854656)を検出することによって行った。
これらの多型の検出にはTaqMan PCR法もしくはIntercalator mediated FRET probe(IFP)法(Toyobo Gene Analysis, Tsuruga, Japan)を用いた。TaqMan PCR 法においては、ゲノムDNA20ng, 各PCRプライマー(1 mM)及び遺伝子型判定用蛍光色素標識プローブ (200nM)をTaqMan Universal Master Mix (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)により作成した緩衝液(最終容量25ul)に溶解し、ABI PRISM 7700 Sequence Detector System (Applied Biosystems) を用いて、50℃ 2分、次いで95℃ 10分の加熱によりDNA変性を行った後、92℃ 15秒及び60℃ 1分の反応サイクルを40回繰り返した。この反応により生じた蛍光を測定することにより、ゲノム上の多型を判定した。PCRプライマー及び遺伝子型判定用標識プローブの配列を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
Intercalator mediated FRET probe(IFP)法においては、まずゲノムDNA 20ng、各PCRプライマー(1 mM)、2.0mM MgCl2、0.2 mM dNTP、 rTaq ポリメラーゼ1.25Uを25μl の緩衝液に溶解し、95℃で5分の過熱によりDNAを変性させ、その後95℃ 30秒、60℃ 30秒 、72℃ 30秒の反応サイクルを45回繰り返し、最後に72℃ で2分間加熱という条件でPCRを行った。この反応はPE9700thermocycler (Applied Biosystems)を用いて行った。上記反応で得られたPCR産物に、SYBR GreenI試薬及び、遺伝子型判定用標識プローブを加えた後に、ABI PRISM 7700 Sequence Detector System (Applied Biosystems)を用いて、95℃で30秒加熱後、40℃で1分冷却することにより、蛍光標識プローブとPCR産物との会合による蛍光エネルギー共鳴反応を促した。その後、次の10分間で 80℃にまで加熱することにより、蛍光標識プローブとPCR産物を解離させ、蛍光エネルギー共鳴強度を消失させた。蛍光エネルギー共鳴強度が消失する温度を測定することにより、標識プローブとゲノムDNAの配列の一致、非一致を推定し、ゲノム上の多型を判定した。蛍光エネルギー共鳴強度は、励起波長485nm、蛍光波長612nmの蛍光を検出することにより測定した。PCRプライマー及び遺伝子型判定用標識プローブの配列は表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
(血中MPIF-1濃度の測定)
凍結患者血清中のMPIF-1濃度は、Quantikine Human MPIF-1/CCL23 Immunoassay(R&D Systems inc. Minneapolis, MS, USA)を用いたELISA法によって測定した。測定は同一検体を2連で行い、その平均値を血中濃度とした。
【0114】
(疾患感受性及び代謝パラメータとハプロタイプとの関連の解析)
2型糖尿病患者747例、正常対照者441例を用いてハプロタイプ患者対照関連解析を行い、2型糖尿病に対する疾患感受性を検討した。2型糖尿病患者においてハプロタイプと血中MPIF-1濃度、糖尿病の各種臨床的指標との関連について検討した。
【0115】
結 果
(SNPの同定及びハプロタイプブロックの作成)
図1にMPIF-1遺伝子座の構造の模式図を示す。
MPIF-1遺伝子のエクソン、イントロン境界を含む全蛋白コード領域及び上流1000bpのプロモーター領域の direct sequenceを行いSNPの同定を行ったところ、配列番号1に記載のヌクレオチド配列中、4274 T/G、4712 T/G、Met123Val (9651 A/G)の3SNPを同定した。3つのSNPは、それぞれ、rs854656、rs854655及びrs1003645としてNCBIによるdb SNPのデータベース(Reference SNP (refSNP) Cluster Report)に登録されているものであった。
また上流promoter部位である3152 G/T(rs6505500)をdb SNPのデータベース上から選択し、これら4SNPを用いて正常対照者120例のtypingを行いHaplotype blockを作成したところ、配列番号1に記載のヌクレオチド配列中、3152位から9651位までは、同一ブロック内にあることが明らかとなった。
【0116】
(SNPの出現頻度の測定)
上記4SNP個々において、さらに検体数を2型糖尿病患者761-789例、正常対照者442-461例に増やし、2型糖尿病患者(DM)と正常対照者(NC)のcase-control studyを行った結果を表4に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
いずれのSNPも2型糖尿病群においてminor alleleの頻度が有意に多く認められた。出現頻度で有意差を認めたのは、3152 G/TとMet123Val(9651 A/G)であったが、recessive modelでは全てのSNPに関し有意差を認めた。
ここで、recessive modelとは、両方のアリルともminor alleleである場合、すなわちminor alleleのホモの個体の頻度とそれ以外の遺伝型の個体の頻度との比較を意味する。dominant modelとは、minor alleleを一つでも持つ個体の頻度とそれ以外の遺伝型の個体の頻度との比較を意味する。
【0119】
表5に、2型糖尿病患者におけるMM、Mm、mmの出現頻度と、正常対象者におけるMM、Mm、mmの出現頻度に差が有るかどうかを検定した結果を示す。尚、Mはmajor alleleを、mはminor allelを示す。やはり、3152 G/TとMet123Val(9651 A/G)において出現頻度に有意差が認められた。
【0120】
【表5】

【0121】
(ハプロタイプの出現頻度の測定)
2型糖尿病患者747例及び正常対照者441例を用いて、Haplotypeの患者対照関連解析を行い、各Haplotypeと2型糖尿病に対する疾患感受性との関連性について検討した。結果を表6に示す。表6に示されるように、Haplotype 1 (Ht1)及びHaplotype 3 (Ht3)において有意差を認め、Ht1(0-0-0-0)を持つ群は正常対照者に多く、Ht3 (1-1-1-1)を持つ群は2型糖尿病患者に多く認められた。
尚、Haplotypeの表記において、“0”はmajor alleleを、“1”はminor alleleを表す。つまり、Ht1とは「3152 G、4274 T、4712 Tかつ 123 Met(9651 A)」を示し、Ht3は「3152 T 4274 G、4712 Gかつ 123 Val(9651 G)」を示す。
【0122】
【表6】

【0123】
(MPIF-1血中濃度と各種臨床パラメータとの関連)
MPIF-1血中濃度と各種臨床パラメータの関連を検討した。
MPIF-1血中濃度測定とSNP typingが行われた140例全体において、MPIF-1血中濃度と内臓脂肪との間に負の相関が認められた(図2、左上)。Ht1群93例においては、より強い相関が認められた(図2、右上)。
また、Ht1群93例において、MPIF-1血中濃度とHOMA-IRとの間に負の相関が認められた(図2、右下)。
【0124】
(MPIF-1血中濃度とHaplotype 1又は3との関連)
MPIF-1血中濃度とHt1又はHt3の関連を検討した。
2型糖尿病患者において有意に頻度が低い遺伝子型であるHt1群において、MPIF-1血中濃度は有意に高い値を示した(図3)。MPIF-1血中濃度は、Ht1(-/-)群では159±121(pg/ml)、Ht1(-/+, +/-)群では368±135(pg/ml)、Ht1(+/+)群では524±173(pg/ml)であり、p値は2.8×10-19であった。
2型糖尿病患者に有意に頻度が高い遺伝子型であるHt3群において、MPIF-1血中濃度は有意に低い値を示した(図4)。MPIF-1血中濃度は、Ht3(-)群では400±194(pg/ml)、Ht3(+)群では239±173(pg/ml)であり、p値は0.000029であった。
なお、Ht1(-/-)はHt1を有していない群を、Ht1(-/+, +/-)はいずれか一方のアレルがHt1である群を、Ht1(+/+)は両方のアレルがHt1である群を、それぞれ示す。また、Ht3(-)はHt3を有していない群を、Ht3(+)は一方又は両方のアレルがHt3である群を、それぞれ示す。
【0125】
(非肥満者におけるHaplotypeの患者対照関連解析)
肥満による影響を除くため、非肥満者(BMI<22)においてHaplotypeの患者対照関連解析を行い、各Haplotypeと2型糖尿病に対する疾患感受性との関連性について検討した。 結果を表7に示す。
【0126】
【表7】

【0127】
肥満による影響を除かなかった場合と同様に、表7示されるように、Ht1及びHt3において有意差を認め、Ht1群は正常対照者に多く、Ht3群は2型糖尿病患者に多く認められた。肥満による影響を除くことにより、有意差は更に大きくなった。また、Ht3群は有意にHOMA-IRが高く(図5)、インスリン抵抗性が増す傾向を認めた。
以上より、非肥満者においては、2型糖尿病に対する感受性に関して、更にgeneticな要素が増大し、2型糖尿病に対して感受性の高いハプロタイプ(例えばHt3)においてはインスリン抵抗性が増大していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の2型糖尿病に対する感受性の判定方法を用いれば、発症前に2型糖尿病に罹患する可能性(即ち2型糖尿病に対する感受性)が高いと判明した人に対して食事や運動を指導することによって、2型糖尿病の発症を未然に防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】MPIF-1遺伝子座の構造を模式に示す図である。
【図2】MPIF-1血中濃度と各臨床パラメータとの相関を示すグラフである。左上は、全被検者におけるMPIF-1血中濃度と内臓脂肪との相関を示す。右上は、ハプロタイプ1(+)の被検者におけるMPIF-1血中濃度と内臓脂肪との相関を示す。左下は、全被検者におけるMPIF-1血中濃度とBMIとの相関を示す。右下はハプロタイプ1(+)の被検者におけるMPIF-1血中濃度とインスリン抵抗性スコア(HOMA-IR)との相関を示す。
【図3】MPIF-1血中濃度とハプロタイプ1との相関を示すグラフである。
【図4】MPIF-1血中濃度とハプロタイプ3との相関を示すグラフである。
【図5】インスリン抵抗性スコア(HOMA-IR)とハプロタイプ3との相関を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者について、MPIF-1遺伝子における多型を検出することを含む、2型糖尿病に対する感受性の判定方法。
【請求項2】
該多型は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNPである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
3152 T、4274 G、4712 G又は9651 Gが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
3152 T、4274 G、4712 G又は9651 Gが両方のアレルにおいて検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
該多型は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなるハプロタイプである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
3152 G、4274 T、4712 T及び9651 Aからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が低いと判定される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
3152 T、4274 G、4712 G及び9651 Gからなるハプロタイプが検出された場合、該被検者の2型糖尿病に対する感受性が高いと判定される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
被検者が非肥満者である、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
MPIF-1遺伝子における多型を検出するための試薬を含む、2型糖尿病に対する感受性の診断剤。
【請求項10】
試薬が以下の(1)〜(3)のいずれかである、請求項9の剤:
(1)配列番号1に記載のヌクレオチド配列の部分配列又はその相補配列を含む核酸であって、該部分配列又はその相補配列は3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位を含み、且つ、該部分配列又はその相補配列は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;
(2)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸に特異的にハイブリダイズし得る核酸であって、該核酸がハイブリダイズし得る領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該領域は少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸;及び
(3)配列番号1に記載のヌクレオチド配列又はその相補配列からなる核酸の全部又は一部を増幅し得る核酸プライマーであって、増幅される領域内に3152 G/T、4274 T/G、4712 T/G及び9651 A/Gからなる群から選択される1以上のSNP部位が含まれ、且つ、該プライマーがハイブリダイズし得る領域が少なくとも12ヌクレオチドの長さを有する、核酸プライマー。
【請求項11】
被検者由来の生体試料におけるMPIF-1レベルを測定することを含む、内臓脂肪量の評価方法。
【請求項12】
MPIF-1レベルを測定するための試薬を含む、内臓脂肪量の評価用キット。
【請求項13】
被検者由来の生体試料におけるMPIF-1レベルを測定することを含む、インスリン抵抗性の評価方法。
【請求項14】
MPIF-1レベルを測定するための試薬を含む、インスリン抵抗性の評価用キット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−274986(P2007−274986A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106848(P2006−106848)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】