2型糖尿病のDNAマーカー
【課題】2型糖尿病のDNAマーカー及び2型糖尿病の診断/発症予測方法を提供すること。
【解決手段】p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNA、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNAをDNAマーカーとし、いずれかのDNAマーカーを有するヒトに対し、2型糖尿病として診断/発症予測する。
【解決手段】p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNA、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNAをDNAマーカーとし、いずれかのDNAマーカーを有するヒトに対し、2型糖尿病として診断/発症予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病のDNAマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の大多数を占める2型糖尿病は食事、肥満、加齢などの環境因子が発症に関わる生活習慣病として知られるが、その発症には遺伝因子も大きく関わることが広く認められている。これまでに遺伝因子を解明するために数々の研究が行われ,近年では特に、2型糖尿病を関連した一塩基多型 (single nucleotide polymorphism:SNP)が報告されてきた(例えば、非特許文献1、2参照)。しかし,それら各SNPの疾患への寄与度は決して大きくはなく、一方、コピー数多型 (copy number variation:CNV) についても、Framingham Heart StudyのサンプルでのCNV関連解析においては,2型糖尿病患者群で対照群に対して有意なCNVが存在する遺伝子は認めなかったと報告されている(例えば、非特許文献3参照)。このように、2型糖尿病発症に関する遺伝因子について、未だ解明はされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Zeggini E., Scott L. J., Saxena R.et al.:Meta-analysis of genome-wide association data and large-scale replication identifies additional susceptibility loci for type 2 diabetes. Nat Genet 40:638-45, 2008
【非特許文献2】The Wellcome Trust Case Control Consortium. :Genome-wide association study of 14,000 cases of seven common diseases and 3,000 shared controls. Nature 447:661-78, 2007
【非特許文献3】Shtir C., Pique-Regi R., Siegmund K.et al.:Copy number variation in the Framingham Heart Study. BMC Proc 3 Suppl 7:S133, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、2型糖尿病のDNAマーカー及び2型糖尿病の診断及び/又は発症予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施態様は、2型糖尿病のDNAマーカーであって、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたゲノムDNA、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたゲノムDNAからなるDNAマーカーである。なお、コピー数が減少している領域のテロメアからの距離は、4番染色体の場合、NCBIのデータベースBuild36.3を基準にし、16番染色体の場合、Build37.2を基準にしている。従って、他のデータベースにおいては異なる距離で表現されていても、上記領域に対応していれば、その対応領域は本発明の権利範囲に含まれる。また、任意の部分領域とは、領域内の、任意の少なくとも10bp以上、50bp以上、200bp以上、または500bp以上の部分領域を意味する。
【0006】
本発明の他の実施態様は、DNAの検出方法であって、単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域、または16q24.3領域の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法である。
【0007】
本発明のさらなる実施態様は、単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内の、任意の少なくとも10bp以上、50bp以上、200bp以上、または500bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法である。
【0008】
本発明のさらなる実施態様は、2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法であって、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)内、または16q24.3領域の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内に変異を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べる工程を含む方法である。前記変異が、第1の領域または第2の領域内の一部の領域のコピー数減少であることが好ましい。また、このスクリーニング方法は、第1の領域または第2の領域に変異を有する患者と、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる工程をさらに含んでもよい。
【0009】
本発明のさらなる実施態様は、2型糖尿病の診断及び/又は発症予測方法であって、診断対象から単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域、または16q24.3領域の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法である。当該コピー数が正常より減少している場合、2型糖尿病であると診断する、または2型糖尿病を発症する可能性が高いと予測する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、2型糖尿病のDNAマーカー及び2型糖尿病の診断及び/又は発症予測方法を提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1(A及びB)は、2型糖尿病患者群100名(図中番号1−100)及び健常人100名(図中番号101−200)から抽出したゲノムDNAに対し、第4番染色体短腕4p16.3領域のプローブ群を有するDNAアレイを用いて、ゲノムDNAのコピー数多型を解析した結果を示す図である。図1A上段に染色体全体におけるコピー数多型の位置(上下に突出している部分)を示し、下段に当該領域内で遺伝子のコードされている位置及びエクソン−イントロン構造を示す。
【図1B】図1Bでは、図1Aと共に、その下段に患者又は健常人においてコピー数が減少していると判定された領域(黒色の横棒で示されている)を示す。なお、灰色の横棒で示された領域は、DNAアレイ解析においてプローブが配置されていないため、連続するコピー数減少領域と推定される領域を示す。灰色のカラムは、gap-177の位置を示す。なお、横軸は、第4番染色体における位置を示している。
【図2A】図2(A及びB)は、2型糖尿病患者群100名(図中番号1−100)及び健常人100名(図中番号101−200)から抽出したゲノムDNAに対し、第16番染色体長腕16q24.3領域のプローブ群を有するDNAアレイを用いて、ゲノムDNAのコピー数多型を解析した結果を示す図である。図2A上段に染色体全体におけるコピー数多型の位置(上下に突出している部分)を示し、下段に当該領域内で遺伝子のコードされている位置及びエクソン−イントロン構造を示す。
【図2B】図2Bでは、図2Aと共に、その下段に患者又は健常人においてコピー数が減少していると判定された領域(黒色の横棒で示されている)を示す。なお、灰色の横棒で示された領域は、DNAアレイ解析においてプローブが配置されていないため、連続するコピー数減少領域と推定される領域を示す。なお、横軸は、第16番染色体における位置を示している。
【図3A】図3(A及びB)は、解析を行った1.3 Mbの領域の移動平均線 (moving average pattern)より判定された2型糖尿病13名のコピー数多型領域を、4p16.3サブテロメア領域と共に示した図である。図3A上段はこの領域の第4番染色体上の位置を示し、下段はこの領域にコードされる遺伝子の位置・名称・エクソン−イントロン構造、およびgap-177の位置を示す。
【図3B】図3Aと共に、その下段に、各患者でコピー数が減少していると判定された範囲(黒色の横棒で示されている)を示す。灰色の横棒は、低頻度反復配列のある領域を示している。斜線のカラムは、gap-177の位置を示す。なお、横軸は、第4番染色体における位置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0013】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.; Juan S. Bonifacino (Bethesda, Maryland); Mary Dasso (Bethesda, Maryland); J. B. Harford, J. L-Schwartz, K. M. Yamada (Ed.), Current Protocols in Cell Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0014】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0015】
[1]2型糖尿病のDNAマーカー
本発明の2型糖尿病のDNAマーカーは、第4染色体上の4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたヒトゲノムDNA、または第16染色体上の16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたヒトゲノムDNAからなる。このようなヒトゲノムDNAは、2型糖尿病を診断及び/又は発症予測するための有用なDNAマーカーになりうる。
【0016】
2型糖尿病とは、抗GAD (glutamic acid decarboxylase)抗体や抗IA-2 (insulinoma-associated antigen-2) 抗体などの膵島関連自己抗体が陰性であることで、1型糖尿病を除外でき、病歴調査や検査成績を評価することで、膵外分泌疾患、内分泌疾患、肝疾患による糖尿病、薬剤性糖尿病、ミトコンドリア糖尿病などを除外できる。
【0017】
ヒトゲノムDNAの単離方法は、特に限定されず、当業者に周知の方法で抽出し、後の解析に障害がない程度の純度まで精製すればよい。
【0018】
対象者から単離したヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域内のテロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその任意の部分領域、または16q24.3領域内の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその任意の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べ、対照者における同じ領域のゲノム当たりのコピー数と比較することによって、ゲノム当たりコピー数が対照者より減少していることが判明すれば、当該対象者は、2型糖尿病であると診断したり、現在発症していない場合は、将来2型糖尿病を発症する可能性が高いと予測したりすることができる。ここで、対照者とは、健常者であることが好ましいが、ランダムに選択した集団でも良い。比較すべき、対照者におけるコピー数とは、複数の対照者を調べて得られたコピー数から、当業者が適切に選択する値や範囲であればよく、例えば、調べたうちの60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の人数が含まれる範囲や、得られた値の中央値や平均値でもよい。
【0019】
当該領域またはその部分領域のコピー数の調べ方は、特に限定されない。すなわち、対象者から単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域内の、任意の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べればよい。部分領域の長さは、コピー数の変動が検出される長さであればと特に限定されず、少なくとも10bp以上が好ましく、50bp以上がより好ましく、200bp以上がさらに好ましく、500bp以上がさらに好ましい。具体的な方法としては、例えば、当該部分領域を検出できるPCR用プライマーや、ハイブリダイゼーション用プローブ等を用い、定量PCRやサザンハイブリダイゼーション等で、当該領域のコピー数を調べることができる。また、当該領域の周辺のDNAをプローブとしたDNAアレイを用いれば、当該領域全体のコピー数が減少していることを、容易に示すことができる。
【0020】
なお、第4番染色体上の4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域とは、PDE6B遺伝子よりLETM1遺伝子までを含む領域であって、WHSC1遺伝子より近位の領域及びPIGG遺伝子より遠位の領域は含まない。同様に、第16番染色体上の16q24.3領域内の、テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域とは、ZNF469遺伝子よりPRDM7遺伝子までを含む領域であって、BANP遺伝子より近位の領域及びFAM157遺伝子より遠位の領域は含まない。
【0021】
[2]2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法
本発明にかかる、2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法は、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内に変異を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べる工程を含む。これによって、ランダムな変異を有するヒトを対象にするより、効率的に2型糖尿病のDNAマーカーが同定でき、当該領域内で2型糖尿病に責任のある遺伝子又は領域を絞り込むことができる可能性がある。
【0022】
この変異の種類は、特に限定されず、点突然変異であっても、挿入または欠失突然変異であっても構わないが、当該領域内の一部の領域のコピー数減少であることが好ましい。
【0023】
4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域には、それぞれ少なくとも34個及び55個の遺伝子が存在することがわかっており、当該変異によって、それら遺伝子の中の少なくとも一つが変異していてもよい。なお、それらの遺伝子の詳細を、それぞれ表1及び表2に示す。
【0024】
[表1]4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域に含まれる遺伝子(NCBI build 36.3)
Start, Stop, NCBIデータベースによる遺伝子塩基の開始,終了部位
Model Evidence, データベース上でのmodel evidence
【0025】
[表2]16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域に含まれる遺伝子(NCBI Build37.2)
【0026】
さらに、上記患者を、2型糖尿病患者から選択するため、第1の領域または第2の領域にコピー数多型を有する患者と、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる工程を含んでもよい。コピー数多型を有するヒトと、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる方法は、特に限定されず、例えば、2型糖尿病を発症した患者において、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域内に変異を有するかどうか調べる。そして、いずれかの領域にコピー数減少を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べ、特定する。
【実施例】
【0027】
本実施例では、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少したDNA、及び16q24.3領域内の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少したDNAが、2型糖尿病のDNAマーカーとして利用できることを示す。
【0028】
[実施例1]
本実施例では、東北大学病院並びにその関連医療機関に通院中である東北地方在住の35歳未満発症2型糖尿病患者群100名、及び東北地方在住の健常者群100名(60歳以上)からゲノムDNAを抽出し、第4番染色体短腕4p16.3領域のプローブ群を有するDNAアレイ及び第16番染色体長腕16q24.3領域のプローブ群を有するDNAアレイ(deCODE-Illumina CNV370K beadchip)を使用して、DosageMiner(deCODE genetics社)を用いて結果を解析することによって、各群で、それぞれの領域におけるコピー数を比較した。以下、詳細を説明する。
【0029】
まず、表3に解析対象者の臨床背景を示す。なお、括弧内の数値は、実施例2で行ったカスタムオリゴヌクレオチドアレイでの対象者のデータを示す。また、糖尿病の診断は1999年日本糖尿病学会発表の糖尿病診断基準(葛谷健, 中川昌一.糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 糖尿病 42:385-401, 1999)に基づいて行われた。なお、2型糖尿病患者は環境因子による2型糖尿病発症の要素を可能な限り除く目的で、高度肥満歴のある患者を除外し、既往最大BMI (body mass index)値35 kg/m2未満の患者を採択した。さらに,遺伝因子の関与が強く推測される家族歴が濃厚な患者(100名中94名で家族歴があり、うち第1度近親に2型糖尿病罹患者を有する者が75名含まれている)を優先して採択した。家系内で明らかな優性遺伝を示し、MODYが疑われる患者は含まれていない。一方、健常対照者は、過去に糖尿病の診断を受けたことのない、60歳以上かつ第3度近親に聴取しうる限り糖尿病の家族歴がないHbA1c 6.0%未満の正常耐糖能者を採択した。この集団は2型糖尿病発症に関わる環境因子の一つである加齢が加わっても糖尿病を発症していない、遺伝的素因の希薄な正常者として設定した。
【0030】
[表3]
【0031】
DNAの抽出は、対象者の末梢血管から採血した全血5ml中の白血球からKURABO全自動核酸抽出器NA-1000を用いて行った。そして、deCODE-Illumina CNV370K beadchip (Illumina Infinium system, deCODE Genetics, Inc., Iceland) を用いて,Infinium II Whole-Genome Genotyping Assayプロトコールに沿って全ゲノムのCNV解析を行った。コピー数の判定は、DosageMiner(deCODE genetics社)を用いて結果を解析した。
【0032】
図1A及びBは、4p16.3領域の一部における結果を示しているが、2型糖尿病患者群100名のうち、13名で、4p16.3領域にコピー数減少が検出され、しかも4p16.3領域内のGap-177領域周辺に、共通してコピー数減少が見られた。一方、健常者群では、100名のうち、1名でしか4p16.3領域にコピー数減少が検出されなかった。この差は、Fisher’s exact testでは、p=0.00128、オッズ比14.7となり、統計学的に有意であった。さらに、健常者で認められたコピー数減少領域は4p16.3領域のGap-177領域を含んでいなかった。
【0033】
また、図2A及びBは、16q24.3領域の一部における結果を示しているが、2型糖尿病患者群100名のうち、15名で、16q24.3領域にコピー数減少が検出された。しかも16q24.3領域内の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mb、特に約88.5Mb-89.7Mbの領域に、共通してコピー数減少が見られた。一方、健常者群では、100名のうち、3名でしか16q24.3領域にコピー数減少が検出されなかった。これらのデータをFisher’s exact testで解析したところ、p=0.00519、オッズ比5.70となり、2型糖尿病患者群と健常者群では、統計学的に有意な差があった。さらに、健常者で認められたコピー数減少領域は16q24領域の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域の領域を含んでいなかった。
【0034】
[実施例2]
次に、高密度カスタムオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて、4p16.3領域の部分領域のコピー数減少を、より詳細に解析した。
【0035】
まず、4p16.3領域の部分領域のコピー数減少を有する2型糖尿病患者13名およびゲノムDNA上のどこかの場所にコピー数減少を有する健常者15名から抽出したゲノムを用い、高密度カスタムオリゴヌクレオチドマイクロアレイ(Agilent社)を用いて、実施例1と同様に解析を行った。
【0036】
解析方法はarray comparative genomic hybridization (aCGH) 法を基礎とした。Agilent社website (http://earray.chem.agilent.com/earray/) のツールを用い,オリゴヌクレオチドプローブの選択、アレイデザインを行い、4p16.3のサブテロメア領域中の1.3Mbの範囲(第4染色体 550,000-1,850,000[NCBI Build 36.1, hg18])を対象としたカスタムマイクロアレイを作成した。アレイは60merサイズのオリゴヌクレオチドプローブから構成され,この領域に対するプローブは約10000個配置された (Agilent Technologies, Santa Clara, Ca)。
【0037】
アレイによる解析はAgilent社の推奨する方法で行なった。まず、患者、対照および基準検体(NA19000,HapMap projectの日本人男性)のゲノムDNA(1サンプルあたり250ng)を制限酵素Alu I,Rsa I処理で断片化し、ULS (Universal Linkage System社) Labeling Kit (Agilent Technologies社) を用いで、cyanine 5-dUTP(患者及び対照検体)またはcyanine 3-dUTP(基準検体)でそれぞれ蛍光標識を行った。標識した対象検体と基準検体を混合し、Cot-1DNA (Invitrogen社) とblocking agent (Agilent Technologies社)とともに前処理した。標識された断片化ゲノムDNAをマイクロアレイ上のオリゴヌクレオチドプローブとrotating oven (Agilent Technologies社)で65℃、20rpmの条件で、24時間ハイブリダイズさせた。洗浄後、Agilent G2505Cスキャナで3μmの解像度でアレイのスキャンを行った。スキャンされた画像はFeature Extraction Software 10.7.3.1 (Agilent Technologies社) のCGH_107_Sep09 protocolで解析し、シグナル強度を算出した。コピー数の判定に関しては,アレイより得られた蛍光強度のlog2値を移動平均法(moving window幅は82プローブで設定)で表し、健常対照者における最大値、最小値に0.8を乗じた値から1S.D. (standard deviation) を超えた値を示した場合に異常と判断し、その連続性からコピー数の増幅や減少を判定した。
【0038】
図3A及びBは、解析を行った1.3 Mbの領域の移動平均線 (moving average pattern)より判定された2型糖尿病13名のコピー数減少領域を示しているが、13名全員で、4p16.3領域のGap-177領域を含んだ、4p16.3領域内のテロメアより約800kb-1.7Mb、特に約1.0Mb-1.6Mbの領域が共通してコピー数が減少していた。一方,健常者15名には、この領域にコピー数減少を認めた例はなかった。
【0039】
このように、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域であるDNAは、2型糖尿病患者では特異的にコピー数が減少しているため、2型糖尿病患者のDNAマーカーとして利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病のDNAマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の大多数を占める2型糖尿病は食事、肥満、加齢などの環境因子が発症に関わる生活習慣病として知られるが、その発症には遺伝因子も大きく関わることが広く認められている。これまでに遺伝因子を解明するために数々の研究が行われ,近年では特に、2型糖尿病を関連した一塩基多型 (single nucleotide polymorphism:SNP)が報告されてきた(例えば、非特許文献1、2参照)。しかし,それら各SNPの疾患への寄与度は決して大きくはなく、一方、コピー数多型 (copy number variation:CNV) についても、Framingham Heart StudyのサンプルでのCNV関連解析においては,2型糖尿病患者群で対照群に対して有意なCNVが存在する遺伝子は認めなかったと報告されている(例えば、非特許文献3参照)。このように、2型糖尿病発症に関する遺伝因子について、未だ解明はされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Zeggini E., Scott L. J., Saxena R.et al.:Meta-analysis of genome-wide association data and large-scale replication identifies additional susceptibility loci for type 2 diabetes. Nat Genet 40:638-45, 2008
【非特許文献2】The Wellcome Trust Case Control Consortium. :Genome-wide association study of 14,000 cases of seven common diseases and 3,000 shared controls. Nature 447:661-78, 2007
【非特許文献3】Shtir C., Pique-Regi R., Siegmund K.et al.:Copy number variation in the Framingham Heart Study. BMC Proc 3 Suppl 7:S133, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、2型糖尿病のDNAマーカー及び2型糖尿病の診断及び/又は発症予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施態様は、2型糖尿病のDNAマーカーであって、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたゲノムDNA、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたゲノムDNAからなるDNAマーカーである。なお、コピー数が減少している領域のテロメアからの距離は、4番染色体の場合、NCBIのデータベースBuild36.3を基準にし、16番染色体の場合、Build37.2を基準にしている。従って、他のデータベースにおいては異なる距離で表現されていても、上記領域に対応していれば、その対応領域は本発明の権利範囲に含まれる。また、任意の部分領域とは、領域内の、任意の少なくとも10bp以上、50bp以上、200bp以上、または500bp以上の部分領域を意味する。
【0006】
本発明の他の実施態様は、DNAの検出方法であって、単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域、または16q24.3領域の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法である。
【0007】
本発明のさらなる実施態様は、単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内の、任意の少なくとも10bp以上、50bp以上、200bp以上、または500bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法である。
【0008】
本発明のさらなる実施態様は、2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法であって、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)内、または16q24.3領域の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内に変異を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べる工程を含む方法である。前記変異が、第1の領域または第2の領域内の一部の領域のコピー数減少であることが好ましい。また、このスクリーニング方法は、第1の領域または第2の領域に変異を有する患者と、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる工程をさらに含んでもよい。
【0009】
本発明のさらなる実施態様は、2型糖尿病の診断及び/又は発症予測方法であって、診断対象から単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域、または16q24.3領域の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法である。当該コピー数が正常より減少している場合、2型糖尿病であると診断する、または2型糖尿病を発症する可能性が高いと予測する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、2型糖尿病のDNAマーカー及び2型糖尿病の診断及び/又は発症予測方法を提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1(A及びB)は、2型糖尿病患者群100名(図中番号1−100)及び健常人100名(図中番号101−200)から抽出したゲノムDNAに対し、第4番染色体短腕4p16.3領域のプローブ群を有するDNAアレイを用いて、ゲノムDNAのコピー数多型を解析した結果を示す図である。図1A上段に染色体全体におけるコピー数多型の位置(上下に突出している部分)を示し、下段に当該領域内で遺伝子のコードされている位置及びエクソン−イントロン構造を示す。
【図1B】図1Bでは、図1Aと共に、その下段に患者又は健常人においてコピー数が減少していると判定された領域(黒色の横棒で示されている)を示す。なお、灰色の横棒で示された領域は、DNAアレイ解析においてプローブが配置されていないため、連続するコピー数減少領域と推定される領域を示す。灰色のカラムは、gap-177の位置を示す。なお、横軸は、第4番染色体における位置を示している。
【図2A】図2(A及びB)は、2型糖尿病患者群100名(図中番号1−100)及び健常人100名(図中番号101−200)から抽出したゲノムDNAに対し、第16番染色体長腕16q24.3領域のプローブ群を有するDNAアレイを用いて、ゲノムDNAのコピー数多型を解析した結果を示す図である。図2A上段に染色体全体におけるコピー数多型の位置(上下に突出している部分)を示し、下段に当該領域内で遺伝子のコードされている位置及びエクソン−イントロン構造を示す。
【図2B】図2Bでは、図2Aと共に、その下段に患者又は健常人においてコピー数が減少していると判定された領域(黒色の横棒で示されている)を示す。なお、灰色の横棒で示された領域は、DNAアレイ解析においてプローブが配置されていないため、連続するコピー数減少領域と推定される領域を示す。なお、横軸は、第16番染色体における位置を示している。
【図3A】図3(A及びB)は、解析を行った1.3 Mbの領域の移動平均線 (moving average pattern)より判定された2型糖尿病13名のコピー数多型領域を、4p16.3サブテロメア領域と共に示した図である。図3A上段はこの領域の第4番染色体上の位置を示し、下段はこの領域にコードされる遺伝子の位置・名称・エクソン−イントロン構造、およびgap-177の位置を示す。
【図3B】図3Aと共に、その下段に、各患者でコピー数が減少していると判定された範囲(黒色の横棒で示されている)を示す。灰色の横棒は、低頻度反復配列のある領域を示している。斜線のカラムは、gap-177の位置を示す。なお、横軸は、第4番染色体における位置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0013】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.; Juan S. Bonifacino (Bethesda, Maryland); Mary Dasso (Bethesda, Maryland); J. B. Harford, J. L-Schwartz, K. M. Yamada (Ed.), Current Protocols in Cell Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0014】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0015】
[1]2型糖尿病のDNAマーカー
本発明の2型糖尿病のDNAマーカーは、第4染色体上の4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたヒトゲノムDNA、または第16染色体上の16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその任意の部分領域のコピー数が減少している、単離されたヒトゲノムDNAからなる。このようなヒトゲノムDNAは、2型糖尿病を診断及び/又は発症予測するための有用なDNAマーカーになりうる。
【0016】
2型糖尿病とは、抗GAD (glutamic acid decarboxylase)抗体や抗IA-2 (insulinoma-associated antigen-2) 抗体などの膵島関連自己抗体が陰性であることで、1型糖尿病を除外でき、病歴調査や検査成績を評価することで、膵外分泌疾患、内分泌疾患、肝疾患による糖尿病、薬剤性糖尿病、ミトコンドリア糖尿病などを除外できる。
【0017】
ヒトゲノムDNAの単離方法は、特に限定されず、当業者に周知の方法で抽出し、後の解析に障害がない程度の純度まで精製すればよい。
【0018】
対象者から単離したヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域内のテロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその任意の部分領域、または16q24.3領域内の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその任意の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べ、対照者における同じ領域のゲノム当たりのコピー数と比較することによって、ゲノム当たりコピー数が対照者より減少していることが判明すれば、当該対象者は、2型糖尿病であると診断したり、現在発症していない場合は、将来2型糖尿病を発症する可能性が高いと予測したりすることができる。ここで、対照者とは、健常者であることが好ましいが、ランダムに選択した集団でも良い。比較すべき、対照者におけるコピー数とは、複数の対照者を調べて得られたコピー数から、当業者が適切に選択する値や範囲であればよく、例えば、調べたうちの60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の人数が含まれる範囲や、得られた値の中央値や平均値でもよい。
【0019】
当該領域またはその部分領域のコピー数の調べ方は、特に限定されない。すなわち、対象者から単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域内の、任意の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べればよい。部分領域の長さは、コピー数の変動が検出される長さであればと特に限定されず、少なくとも10bp以上が好ましく、50bp以上がより好ましく、200bp以上がさらに好ましく、500bp以上がさらに好ましい。具体的な方法としては、例えば、当該部分領域を検出できるPCR用プライマーや、ハイブリダイゼーション用プローブ等を用い、定量PCRやサザンハイブリダイゼーション等で、当該領域のコピー数を調べることができる。また、当該領域の周辺のDNAをプローブとしたDNAアレイを用いれば、当該領域全体のコピー数が減少していることを、容易に示すことができる。
【0020】
なお、第4番染色体上の4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域とは、PDE6B遺伝子よりLETM1遺伝子までを含む領域であって、WHSC1遺伝子より近位の領域及びPIGG遺伝子より遠位の領域は含まない。同様に、第16番染色体上の16q24.3領域内の、テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域とは、ZNF469遺伝子よりPRDM7遺伝子までを含む領域であって、BANP遺伝子より近位の領域及びFAM157遺伝子より遠位の領域は含まない。
【0021】
[2]2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法
本発明にかかる、2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法は、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内に変異を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べる工程を含む。これによって、ランダムな変異を有するヒトを対象にするより、効率的に2型糖尿病のDNAマーカーが同定でき、当該領域内で2型糖尿病に責任のある遺伝子又は領域を絞り込むことができる可能性がある。
【0022】
この変異の種類は、特に限定されず、点突然変異であっても、挿入または欠失突然変異であっても構わないが、当該領域内の一部の領域のコピー数減少であることが好ましい。
【0023】
4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域には、それぞれ少なくとも34個及び55個の遺伝子が存在することがわかっており、当該変異によって、それら遺伝子の中の少なくとも一つが変異していてもよい。なお、それらの遺伝子の詳細を、それぞれ表1及び表2に示す。
【0024】
[表1]4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域に含まれる遺伝子(NCBI build 36.3)
Start, Stop, NCBIデータベースによる遺伝子塩基の開始,終了部位
Model Evidence, データベース上でのmodel evidence
【0025】
[表2]16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域に含まれる遺伝子(NCBI Build37.2)
【0026】
さらに、上記患者を、2型糖尿病患者から選択するため、第1の領域または第2の領域にコピー数多型を有する患者と、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる工程を含んでもよい。コピー数多型を有するヒトと、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる方法は、特に限定されず、例えば、2型糖尿病を発症した患者において、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域内に変異を有するかどうか調べる。そして、いずれかの領域にコピー数減少を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べ、特定する。
【実施例】
【0027】
本実施例では、4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少したDNA、及び16q24.3領域内の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少したDNAが、2型糖尿病のDNAマーカーとして利用できることを示す。
【0028】
[実施例1]
本実施例では、東北大学病院並びにその関連医療機関に通院中である東北地方在住の35歳未満発症2型糖尿病患者群100名、及び東北地方在住の健常者群100名(60歳以上)からゲノムDNAを抽出し、第4番染色体短腕4p16.3領域のプローブ群を有するDNAアレイ及び第16番染色体長腕16q24.3領域のプローブ群を有するDNAアレイ(deCODE-Illumina CNV370K beadchip)を使用して、DosageMiner(deCODE genetics社)を用いて結果を解析することによって、各群で、それぞれの領域におけるコピー数を比較した。以下、詳細を説明する。
【0029】
まず、表3に解析対象者の臨床背景を示す。なお、括弧内の数値は、実施例2で行ったカスタムオリゴヌクレオチドアレイでの対象者のデータを示す。また、糖尿病の診断は1999年日本糖尿病学会発表の糖尿病診断基準(葛谷健, 中川昌一.糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 糖尿病 42:385-401, 1999)に基づいて行われた。なお、2型糖尿病患者は環境因子による2型糖尿病発症の要素を可能な限り除く目的で、高度肥満歴のある患者を除外し、既往最大BMI (body mass index)値35 kg/m2未満の患者を採択した。さらに,遺伝因子の関与が強く推測される家族歴が濃厚な患者(100名中94名で家族歴があり、うち第1度近親に2型糖尿病罹患者を有する者が75名含まれている)を優先して採択した。家系内で明らかな優性遺伝を示し、MODYが疑われる患者は含まれていない。一方、健常対照者は、過去に糖尿病の診断を受けたことのない、60歳以上かつ第3度近親に聴取しうる限り糖尿病の家族歴がないHbA1c 6.0%未満の正常耐糖能者を採択した。この集団は2型糖尿病発症に関わる環境因子の一つである加齢が加わっても糖尿病を発症していない、遺伝的素因の希薄な正常者として設定した。
【0030】
[表3]
【0031】
DNAの抽出は、対象者の末梢血管から採血した全血5ml中の白血球からKURABO全自動核酸抽出器NA-1000を用いて行った。そして、deCODE-Illumina CNV370K beadchip (Illumina Infinium system, deCODE Genetics, Inc., Iceland) を用いて,Infinium II Whole-Genome Genotyping Assayプロトコールに沿って全ゲノムのCNV解析を行った。コピー数の判定は、DosageMiner(deCODE genetics社)を用いて結果を解析した。
【0032】
図1A及びBは、4p16.3領域の一部における結果を示しているが、2型糖尿病患者群100名のうち、13名で、4p16.3領域にコピー数減少が検出され、しかも4p16.3領域内のGap-177領域周辺に、共通してコピー数減少が見られた。一方、健常者群では、100名のうち、1名でしか4p16.3領域にコピー数減少が検出されなかった。この差は、Fisher’s exact testでは、p=0.00128、オッズ比14.7となり、統計学的に有意であった。さらに、健常者で認められたコピー数減少領域は4p16.3領域のGap-177領域を含んでいなかった。
【0033】
また、図2A及びBは、16q24.3領域の一部における結果を示しているが、2型糖尿病患者群100名のうち、15名で、16q24.3領域にコピー数減少が検出された。しかも16q24.3領域内の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mb、特に約88.5Mb-89.7Mbの領域に、共通してコピー数減少が見られた。一方、健常者群では、100名のうち、3名でしか16q24.3領域にコピー数減少が検出されなかった。これらのデータをFisher’s exact testで解析したところ、p=0.00519、オッズ比5.70となり、2型糖尿病患者群と健常者群では、統計学的に有意な差があった。さらに、健常者で認められたコピー数減少領域は16q24領域の16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域の領域を含んでいなかった。
【0034】
[実施例2]
次に、高密度カスタムオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて、4p16.3領域の部分領域のコピー数減少を、より詳細に解析した。
【0035】
まず、4p16.3領域の部分領域のコピー数減少を有する2型糖尿病患者13名およびゲノムDNA上のどこかの場所にコピー数減少を有する健常者15名から抽出したゲノムを用い、高密度カスタムオリゴヌクレオチドマイクロアレイ(Agilent社)を用いて、実施例1と同様に解析を行った。
【0036】
解析方法はarray comparative genomic hybridization (aCGH) 法を基礎とした。Agilent社website (http://earray.chem.agilent.com/earray/) のツールを用い,オリゴヌクレオチドプローブの選択、アレイデザインを行い、4p16.3のサブテロメア領域中の1.3Mbの範囲(第4染色体 550,000-1,850,000[NCBI Build 36.1, hg18])を対象としたカスタムマイクロアレイを作成した。アレイは60merサイズのオリゴヌクレオチドプローブから構成され,この領域に対するプローブは約10000個配置された (Agilent Technologies, Santa Clara, Ca)。
【0037】
アレイによる解析はAgilent社の推奨する方法で行なった。まず、患者、対照および基準検体(NA19000,HapMap projectの日本人男性)のゲノムDNA(1サンプルあたり250ng)を制限酵素Alu I,Rsa I処理で断片化し、ULS (Universal Linkage System社) Labeling Kit (Agilent Technologies社) を用いで、cyanine 5-dUTP(患者及び対照検体)またはcyanine 3-dUTP(基準検体)でそれぞれ蛍光標識を行った。標識した対象検体と基準検体を混合し、Cot-1DNA (Invitrogen社) とblocking agent (Agilent Technologies社)とともに前処理した。標識された断片化ゲノムDNAをマイクロアレイ上のオリゴヌクレオチドプローブとrotating oven (Agilent Technologies社)で65℃、20rpmの条件で、24時間ハイブリダイズさせた。洗浄後、Agilent G2505Cスキャナで3μmの解像度でアレイのスキャンを行った。スキャンされた画像はFeature Extraction Software 10.7.3.1 (Agilent Technologies社) のCGH_107_Sep09 protocolで解析し、シグナル強度を算出した。コピー数の判定に関しては,アレイより得られた蛍光強度のlog2値を移動平均法(moving window幅は82プローブで設定)で表し、健常対照者における最大値、最小値に0.8を乗じた値から1S.D. (standard deviation) を超えた値を示した場合に異常と判断し、その連続性からコピー数の増幅や減少を判定した。
【0038】
図3A及びBは、解析を行った1.3 Mbの領域の移動平均線 (moving average pattern)より判定された2型糖尿病13名のコピー数減少領域を示しているが、13名全員で、4p16.3領域のGap-177領域を含んだ、4p16.3領域内のテロメアより約800kb-1.7Mb、特に約1.0Mb-1.6Mbの領域が共通してコピー数が減少していた。一方,健常者15名には、この領域にコピー数減少を認めた例はなかった。
【0039】
このように、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域であるDNAは、2型糖尿病患者では特異的にコピー数が減少しているため、2型糖尿病患者のDNAマーカーとして利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2型糖尿病のDNAマーカーであって、
4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNA、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNAからなるDNAマーカー。
【請求項2】
DNAの検出方法であって、
単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項3】
DNAの検出方法であって、
単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内の、任意の少なくとも10bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項4】
請求項3に記載のDNAの検出方法であって、
第1の領域または第2の領域内の、任意の少なくとも50bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項5】
請求項3に記載のDNAの検出方法であって、
第1の領域または第2の領域内の、任意の少なくとも200bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項6】
請求項3に記載のDNAの検出方法であって、
第1の領域または第2の領域内の、任意の少なくとも500bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項7】
2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法であって、
4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約7.0Mb-88.5Mbの領域(第2の領域)内に変異を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べる工程を含む方法。
【請求項8】
請求項3に記載のスクリーニング方法であって、
前記変異が、第1の領域または第2の領域内の一部の領域のコピー数減少であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
請求項3または4に記載のスクリーニング方法であって、
第1の領域または第2の領域に変異を有する患者と、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる工程をさらに含む方法。
【請求項1】
2型糖尿病のDNAマーカーであって、
4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNA、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のコピー数が減少した、単離されたゲノムDNAからなるDNAマーカー。
【請求項2】
DNAの検出方法であって、
単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域またはその部分領域、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域またはその部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項3】
DNAの検出方法であって、
単離されたヒトゲノムDNAにおいて、4p16.3領域の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約88.5Mb-90.0Mbの領域(第2の領域)内の、任意の少なくとも10bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項4】
請求項3に記載のDNAの検出方法であって、
第1の領域または第2の領域内の、任意の少なくとも50bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項5】
請求項3に記載のDNAの検出方法であって、
第1の領域または第2の領域内の、任意の少なくとも200bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項6】
請求項3に記載のDNAの検出方法であって、
第1の領域または第2の領域内の、任意の少なくとも500bp以上の部分領域のゲノム当たりのコピー数を調べる工程を含む方法。
【請求項7】
2型糖尿病のDNAマーカーのスクリーニング方法であって、
4p16.3領域内の、テロメアより約800kb-1.7Mbの領域(第1の領域)内、または16q24.3領域内の、16番染色体短腕テロメアより約7.0Mb-88.5Mbの領域(第2の領域)内に変異を有する患者に共通して生じている変異領域あるいは変異遺伝子を調べる工程を含む方法。
【請求項8】
請求項3に記載のスクリーニング方法であって、
前記変異が、第1の領域または第2の領域内の一部の領域のコピー数減少であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
請求項3または4に記載のスクリーニング方法であって、
第1の領域または第2の領域に変異を有する患者と、2型糖尿病の発症との相関関係を調べる工程をさらに含む方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【公開番号】特開2012−200216(P2012−200216A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68481(P2011−68481)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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