説明

2型糖尿病改善剤及びそれを含有する飲食物

【課題】2型糖尿病改善に対して天然物由来の成分を利用する幾つかの試みがなされているものの、十分な効果を発現する有効な技術は未だ提案されていない。従って、本発明は副作用の少ない天然物由来の成分により2型糖尿病を十分改善できる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】コウリャンより抽出・分離されたワックス混合物が、従来試みられていたコウリャン以外の植物あるいは動物に由来する分離成分であるワックスあるいは高級飽和脂肪族アルコール(ポリコサノール)に比べた場合、2型糖尿病マウスの血糖値および血漿中のインスリン濃度を効果的に低下させて、アディポネクチン濃度を増加させると同時にインスリン抵抗性を引き起こすとされるアディポサイトカインの一種であるレジスチン濃度を減少させるという優れた生理活性効果を有することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然産物であるコウリャンより抽出・分離されたワックス混合物を有効成分とするインスリン非依存性の2型糖尿病の改善剤及びそれを含有する飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、上昇した血液中の糖分を正常レベルに戻す能力(耐糖能)が十分には機能しない病気であり、この耐糖能が低下するメカニズムによって1型糖尿病と2型糖尿病に大別される。
【0003】
1型糖尿病は、インスリン依存型糖尿病ともいい、遺伝的な要素が強く、血糖を下げるホルモンであるインスリンを分泌している膵臓ランゲルハンス島のβ細胞が免疫異常によって破壊されるため、体内のインスリン濃度が極端に低下して血中の糖濃度が異常に増加する病気である。
【0004】
一方、2型糖尿病は、インスリン非依存型糖尿病ともいい、肥満などの生活習慣病の原因から肝臓や筋肉などの細胞がインスリン作用に対して感受性の低下を引き起こすことが主な原因であり、この結果、血中のインスリン濃度および糖濃度が異常に増加する病気である。この2型糖尿病は、我が国の糖尿病全体の約95%以上を占めると言われている。
【0005】
2型糖尿病の一般的な改善方法は、まず食事療法・運動療法から行い、症状が軽減しない場合には投薬による治療が行われる。2型糖尿病患者向けの投薬治療としては、既に数多くの方法が提案されており、例えば、肝糖新生抑制作用のグアナイド剤、末梢インスリン感受性改善作用のチアゾリジン系インスリン感受性改善剤、インスリン分泌刺激作用のスルフォニル尿素酸等の投薬療法が知られている。
【0006】
一方、近年、重篤な副作用を伴わない天然物由来の分離成分(ワックス等)の生理活性効果がとくに注目され、現在までに有効成分の採取方法ならびに有効成分による糖尿病に対する改善の試みが以下のように数多く開示されている。
【0007】
(1)甘蔗(サトウキビ)茎部の表皮部分を剃刀あるいはピーラーで削り落して、有機溶媒を用いて加温状態下で抽出する方法の提案(特許文献1および2)
(2)甘蔗糖蜜などに含有されるケーンワックスを低級アルコールにて効率よく抽出し、分離回収する方法の提案(特許文献3)
(3)サトウキビ等の天然産物から得られるポリコサノールを含む抽出生成物の糖尿病性末梢神経障害の治療への応用の提案(特許文献4)
(4)トウモロコシのナンバの毛および冬虫夏草菌糸体の熱水抽出物が1型糖尿病ラットの血糖値を降下させる作用の開示(特許文献5)
【0008】
さらに、とくに2型糖尿病の改善については、以下のような試みが開示されている。
(5)サトウキビ等の天然産物から抽出・分離した高級飽和脂肪族アルコールを有効成分とする2型糖尿病改善剤ならびに2型糖尿病改善食品の提案(特許文献6)
(6)サトウキビ等の天然産物から抽出・分離したポリコサノールと特定の薬理作用について知られている特定の物質との組合せの2型糖尿病およびインスリン抵抗性に対する有効性の開示(特許文献7)
【0009】
これらの試みでは、いずれも、甘蔗(サトウキビ)、トウモロコシ、その他の植物あるいは動物に由来する分離・抽出成分であるワックスあるいは高級飽和脂肪族アルコール(ポリコサノール)が用いられている。
【0010】
また、前記特許文献1〜3では、サトウキビからの有効成分の抽出・分離方法あるいは抗脂血症や骨粗鬆症改善を試みてはいるが、2型糖尿病の改善効果については何ら言及されていない。また、前記特許文献4および5では、サトウキビ、トウモロコシのナンバの毛や冬虫夏草菌糸体の熱水抽出物についての生理活性効果を提案しているが、同様に2型糖尿病の改善効果については何ら言及されていない。
【0011】
一方、前記特許文献6および7ではサトウキビ等の天然産物から抽出・分離した高級飽和脂肪族アルコール(ポリコサノール)の2型糖尿病の改善効果を開示しているが、本発明の天然産物原料であるコウリャンについては何ら言及されていない。
【0012】
したがって、現在までに天然産物原料の中で、とくにコウリャンに着目した試みは一切なく、しかもコウリャンより抽出・分離された特定組成のワックス混合物が、2型糖尿病において血糖値あるいは血中インスリン濃度に対して優れた低下作用を有しかつアディポネクチン産生量を増加するとする先行技術はこれまでに全く見当らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭59−053427号公報
【特許文献2】WO2004/105739号公報
【特許文献3】特開平01−271496号公報
【特許文献4】特表2001−511447号公報
【特許文献5】再表99/053936号公報
【特許文献6】特開2007−063203号公報
【特許文献7】特表2008−509132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記のごとく、2型糖尿病改善に対して天然物由来の成分を利用する幾つかの試みがなされているものの、十分な効果を発現する有効な技術は未だ提案されていない。従って、本発明は副作用の少ない天然物由来の成分により2型糖尿病を十分改善できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記の問題点に鑑み鋭意検討した結果、コウリャンより抽出・分離されたワックス混合物が、従来試みられていたコウリャン以外の植物あるいは動物に由来する分離成分であるワックスあるいは高級飽和脂肪族アルコール(ポリコサノール)に比べた場合、2型糖尿病マウスの血糖値および血漿中のインスリン濃度を効果的に著しく低下させ、かつアディポネクチン濃度を増加する優れた生理活性効果を有することを見出して本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、
(1)コウリャンより抽出・分離されたワックス混合物を有効成分とする2型糖尿病改善剤、
(2)ワックス混合物が、オクタコサナールおよびトリアコンタナールを主成分とする(1)記載の2型糖尿病改善剤、
(3)コウリャンが、コウリャンの表皮であることを特徴とする(1)記載の2型糖尿病改善剤、
(4)(1)、(2)又は(3)記載の2型糖尿病改善剤を含有する2型糖尿病改善飲食物
に関するものである。
【0017】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-233649号、2010-089463号、の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、副作用の少ない天然物由来の成分により、2型糖尿病の病状が十分に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】コントロール(標準飼料系)と各ワックス配合系試験飼料での空腹時血漿インスリン濃度の比較を示す図。(昭和女子大学 生活科学部 渡辺 睦行先生提供)
【図2】血糖値推移(mg/dL)に関して実施例と比較例との差を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)本発明に用いる天然原料
本発明の原料であるコウリャンは、現代中国名が高粱(こうりゃん、カオリャン)であり、モロコシ、タカキビ(高黍)、また地方によりモロコシキビ、トウキビ、ソルガムとも呼ばれる、イネ科モロコシ属の一年草の植物・穀物である。熱帯、亜熱帯の作物で乾燥に強く、米、コムギなどが育たない地域でも成長し、主にアフリカ・中央アメリカ・東南アジアで食用に栽培される。草丈は、野生種でおおむね3メートルに達するが、栽培用品種では1.5メートル程度のものが多い。葉も長さ1メートル以上で幅10センチメートル程度になり、茎は太さ3センチメートル程度で芯の詰まったものとなっている。
【0021】
コウリャンには子実型コウリャン(グレインソルガム)、ソルゴー型コウリャン(フォレッジソルガム)がある。子実型は、穀物を採取するのが目的で栽培されており、穀物を食料や酒の原料および飼料として用いられる。ソルゴー型は、穂はほとんどつかないが、茎および葉を丸ごと飼料として用いられる。
【0022】
本発明に適する品種としては、子実型コウリャンが本発明において2型糖尿病に顕著な改善効果を有することが判明したオクタコサナール及びトリアコンタナール成分をより多く含むため好適である。前記両成分の含有量は、コウリャン茎からのサンプル採取方法に大きく依存すること、ならびに前記両成分はとくに茎部の表皮部分に多く、さらには茎の節近傍の表皮部分に極めて高濃度で存在することから、採取の仕方によってはソルゴー型においても十分に本願の効果を発揮できることが確認されている。他方、茎部の袴及び葉の表面にも同様に白い粉状のワックスが吹いているが、前記ワックスにはオクタコサナール及びトリアコンタナールはほとんど含まれないことが我々の分析で明らかになっている。
【0023】
一方、本願において比較例に使用しているサトウキビは、イネ科サトウキビ属の植物でありカンショ(甘蔗)とも呼ばれ、テンサイと並んで砂糖(蔗糖)の原料となる。世界各地の熱帯、亜熱帯地域で広く栽培されており、主な産出国および生産量の割合は、ブラジル(28.0%)、インド(21.7%)、中国(6.4%)である。日本では、主に沖縄県と奄美群島を中心に栽培されている。
【0024】
すなわち、コウリャンはイネ科モロコシ属に属し食用であるが、サトウキビはイネ科サトウキビ属に属し砂糖の原料であり、両者は全く属の異なる植物である。
【0025】
(2)本発明のワックス混合物の分離及び抽出方法
以下に本発明のワックス混合物の代表的な製造方法を挙げる。
【0026】
表皮の分離方法
本発明のワックス混合物は、コウリャンの茎部の表皮部分、とくに節部の近傍に集中して高濃度に存在しているため、各種手段を用いて選択的かつ効率的に回収することが望ましい。例えば、ケインセパレーションシステム(以下、CSSと略記する。米国AmClyde社製、米国特許第3690358号、図2)等の分離装置により表皮のラインド部分と内部組織のピス(Pith)とを機械的に分離して、そのうちの表皮を抽出に供する方法、コウリャンの表皮をワイヤーブラシを用いて手作業で研磨して収集する方法、ナイフ、剃刀等により手作業によって削り取って収集する方法、あるいは自動皮むき機等を利用する方法が有効である。
【0027】
ワックス成分の抽出・精製方法
次に、ワックス成分は、採取した表皮部分からガラス製ソックスレー抽出器等を用いた溶剤抽出法によって得る。すなわち、溶剤は、ベンゼン、イソプロパノール、ヘキサンなどの有機溶媒を用いて、湯浴にて70〜100℃で、2〜4時間加温して抽出を行った後、残留溶剤を蒸発して乾固させて粗ワックスを得る。さらに、前記粗ワックスを薄膜蒸留器にて蒸留し、高沸点分を残渣として除去することにより、本発明の精製ワックス混合物を得る。
【0028】
(3)併用可能なワックス混合物以外の成分
本発明において併用可能なワックス混合物以外の成分としては、本発明の目的を妨げない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下の薬効成分、添加剤などが挙げられる。前記薬効成分としては、例えば、ビタミン類、血圧降下剤、血管拡張剤、抗不整脈剤、血栓溶解剤、高脂血症用剤、などが挙げられる。前記添加剤としては、特に制限はなく、例えば、安定化剤、界面活性剤、可溶化剤、水溶性高分子、抗酸化剤、pH調整剤、分散剤などが挙げられる。
【0029】
(4)本発明の改善剤の形状
本発明の2型糖尿病改善剤ならびに飲食品の剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末、細粒、顆粒、マイクロカプセルなどの固形剤としてもよく、更に、これらを錠剤、フィルムコート剤などとしてもよく、カプセルなどに充填してもよい。また、適宜選択した溶媒によって溶液化又は懸濁化して、液剤としてもよい。
【0030】
(5)本発明の飲食物
本発明のワックス混合物を含む2型糖尿病改善飲食物としては、これらのワックス混合物を配合した調理油、飲料類、錠剤、顆粒剤、ドレッシング類、マヨネーズ類、クリーム類、チョコレート、ポテトチップス等が挙げられる。このような飲食物は、本発明のワックス混合物の他に、飲食物の種類に応じて一般に用いられる食品原料を添加して製造することができる。
【0031】
(6)本発明のワックス混合物の適正投与量
本発明の実施例において、約40g のマウスが0.5質量%のワックス混合物を配合した混合飼料を7g/日(ワックス混合物として0.035g)摂取した場合、2型糖尿病改善効果があることが見出された。一般的には、ラットやマウスでの体重1kgの有効量の約1/50がヒトでの適正用量であると言われる。したがって、ここでの摂取量は50kgのヒトに換算すると0.875g/日となる。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】
[製造例1]
(1)コウリャン茎の表皮の採取
マウス試験に採用したコウリャンワックスの原料であるコウリャンの産地と品種及び表皮の採取方法は次の通りである。コウリャン原料として、沖縄県粟国島産のフォレッジソルガム(品種名:ビッグシュガーソルゴー)を用いて、前記CSSよって表皮とラインドと芯とに機械的に分離して、表皮を収集して以下の溶剤抽出に供した。なお、比較のためのサトウキビワックスについても前記の方法で同様に得た。
【0033】
(2)ワックス成分の抽出・分離
抽出には2L用ガラス製ソックスレー抽出器を使用した。表皮サンプル150g、溶媒としてヘキサンを用い、ソックスレー抽出した。湯浴温度を90℃として、3時間抽出した後、残留溶剤を蒸発して乾固させて約100gの粗ワックスを得た。次に、前記粗ワックスを薄膜蒸留器にて蒸留して、高沸点分を残渣として除去することにより70gの精製ワックス混合物を得た。
【0034】
(3)ワックス成分の分析
前記ワックス混合物の組成は、下記の条件にてガスクロマトグラフィーを行い、表1の結果を得た。
【0035】
ガスクロマトグラフィー条件
カラム:DB−5((5%-Phenyl)-Methylpolysiloxane、カラム長:30m、
ID:0.25mm、膜厚:0.25μm、J&Wサイエンティフィック社製)
昇温条件:150℃→(4℃/分)→320℃(10分)
カラム流量:1.70mL/分
検出器:FID、検出器温度:350℃
キャリアーガス:N2
【0036】
表1より、由来原料のコウリャンにおいては、サトウキビに比べて本発明で着目しているオクタコサナール(C28)とトリアコンタナール(C30)を合計した高級飽和脂肪族アルデヒド成分が多く、とくにトリアコンタナール(C30)の含有量が顕著に多いことが特徴であることに対して、サトウキビにおいてはとくにオクタコサノール(C28)は多いが、高級飽和脂肪族アルデヒド成分が相対的に少ないことが分かる。
【0037】
【表1】

【0038】
[マウス試験条件]
・試験マウスの種類;雄性、4週齢(「KK−Ay/Ta」、日本クレア(株))、2型糖尿病モデルマウス)を使用した。
・1群のマウス数;6匹
・飼育方法;1週間のAIN−93G標準飼料で予備飼育後、下記の実施例1および比較例1の各ワックス配合系試験飼料を投与して8週間飼育した。
・飼育環境;飼育中、試験飼料、水は自由摂食とし、室温20〜25℃、12時間の明暗サイクルで、プラスチックケージ内に一匹ずつ隔離飼育した。
・AIN−93G基本飼料の配合組成(単位:質量%);カゼイン20、コーンスターチ39.8、α化コーンスターチ13.2、シュークロース10.0、大豆油7.0、セルロースパウダー5.0、AIN−93Gミネラル混合3.5、AIN−93Gビタミン混合1.0
・標準飼料;上記の基本飼料に、オリーブ油を0.5添加
・試験飼料;上記の基本飼料に、ワックス混合物を各々0.5添加
【0039】
[実施例1]
(コウリャンワックス配合系試験飼料)(本発明)
製造例1により得られた精製ワックス混合物を用いて、飼育試験を行った。
試験飼料は、予め基本飼料に使用する大豆油に固形状のコウリャンワックスを均一に溶解した後、AIN−93G基本飼料 99.5質量%、コウリャンワックス0.5質量%となるように、均一に混合して用意したものを試験食飼料として、前記の条件下で飼育した。
【0040】
[比較例1]
(サトウキビワックス配合系試験飼料)
試験飼料は、予め基本飼料に使用する大豆油に固形状のサトウキビワックスを均一に溶解した後、AIN−93G基本飼料 99.5質量%、サトウキビワックス0.5質量%となるように、均一に混合して用意したものを試験食として、前記の条件下で飼育した。2型糖尿病モデルマウスに対するコウリャンワックスおよびサトウキビワックスの投与の血糖値ならびに空腹時血漿中のインスリン濃度に及ぼす影響を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2から、2型糖尿病モデルマウスにワックス配合系試験飼料を投与すると、サトウキビワックス配合系試験飼料に比べて、本発明のコウリャンワックス配合系試験飼料マウスにおける血糖値、インスリン濃度が大幅に低下している。また、図1に示すように、コントロール(標準飼料系)に比べて、サトウキビワックス配合系での空腹時血漿インスリン濃度は改善が認められないのに対して、コウリャンワックス配合系でのそれは約50%減と大幅な改善効果が認められている。
【0043】
[製造例2]
次に、本発明の特徴である、オクタコサナールとトリアコンタナールが2型糖尿病改善剤として有効であることを証明するために、ワックスの還元処理を行った場合と、還元処理を行わない場合との比較試験を行った。
【0044】
(1)コウリャン茎の表皮の採取
コウリャン原料として、中国遼寧省黒山県産のコウリャンの茎(品種名:瀋雑5号 通称6A)を用いた。まず、コウリャン茎部の表皮部分のみを剃刀あるいはピーラーで削り落して収集して、以下の溶剤抽出に供した。
【0045】
(2)ワックス成分の抽出・分離
抽出には2L用ガラス製ソックスレー抽出器を使用した。表皮サンプル150g、溶媒としてヘキサンを用い、ソックスレー抽出した。湯浴温度を90℃として、3時間抽出した後、残留溶剤を蒸発して乾固させて約100gの粗ワックスを得た。次に、前記粗ワックスを薄膜蒸留器にて蒸留して、高沸点分を残渣として除去することにより70gの精製ワックス混合物(以下、「非還元処理コウリャンワックス」という。)を得た。
【0046】
(3)ワックスの還元処理
前記の非還元処理コウリャンワックスを以下の反応条件で還元処理を行って、還元処理コウリャンワックス(以下、「還元処理コウリャンワックス」という。)を得た。
【0047】
<還元処理条件>
反応:クロロホルム250mLと非還元処理コウリャンワックス10gを還流管付き2リットル丸底フラスコに入れ、60℃の湯浴で加熱溶解する。溶解した後、イソプロバノール250mLを添加し、軽く振とうする。あらかじめ0.1N NaOH水溶液125mLにNaBH4粉末25gを溶解したNaBH4溶液を調整しておき、これを上記ワックス溶液のフラスコに添加し、よく振とうし、60℃湯浴で2時間放置する。
反応終了:1リットル分液ロ斗で下層を取り、上層を捨てる。下層をフラスコに戻し、60℃に加熱したイオン交換水500mLを加え、よく振とうする。再度分液ロ斗で下層を取り、上層を捨てる。下層を加熱濃縮した後、真空乾燥器で蒸発乾固させて反応物を得た。収率85%。
精製:薄膜蒸留器で、270℃、0.2mmHgで蒸留し、留分を得た。収率59%。
【0048】
(4)ワックス成分の分析
前記の非還元処理コウリャンワックスおよび還元処理コウリャンワックスの各ワックス混合物の組成は、下記の条件にてガスクロマトグラフィーにて測定を行い、表3の結果を得た。
【0049】
ガスクロマトグラフィー条件
カラム:DB−5((5%-Phenyl)-Methylpolysiloxane、カラム長:30m、
ID:0.25mm、膜厚:0.25μm、J&Wサイエンティフィック社製)
昇温条件:150℃→(4℃/分)→320℃(10分)
カラム流量:1.70mL/分
検出器:FID、検出器温度:350℃
キャリアーガス:N2
【0050】
表3より、非還元処理コウリャンワックスにおいては、本発明で着目している高級飽和脂肪族アルデヒドの中でとくに、オクタコサナール(C28)とトリアコンタナール(C30)の含有量が他の高級飽和脂肪族アルデヒド成分や高級飽和脂肪族アルコール成分に比較して顕著に多いのに対して、還元処理コウリャンワックスにおいては、オクタコサナール(C28)とトリアコンタナール(C30)の両成分が共に大幅に減少しており、同時に高級飽和脂肪族アルコールのオクタコサノール(C28)とトリアコンタノール(C30)の含有量が大幅に増加していることが分かる。
【0051】
【表3】

【0052】
[マウス試験条件]
・試験マウスの種類;雄性、4週齢(「KK−Ay/Ta」、日本クレア(株))、2型糖尿病モデルマウス)を使用した。
・1群のマウス数;8匹
・飼育方法;1週間のAIN−93G標準飼料で予備飼育後、下記の実施例2および比較例2の各ワックス配合系試験飼料を投与して8週間飼育した。
・飼育環境;飼育中、試験飼料、水は自由摂食とし、室温20〜25 ℃ 、12時間の明暗サイクルで、プラスチックケージ内に一匹ずつ隔離飼育した。
・AIN−93G基本飼料の配合組成(単位:質量%);カゼイン20、コーンスターチ39.8、α化コーンスターチ13.2、シュークロース10.0 、大豆油7.0、セルロースパウダー5.0、AIN−93Gミネラル混合3.5、AIN−93Gビタミン混合1.0
・標準飼料;上記の基本飼料に、オリーブ油を0.5添加
・試験飼料;上記の基本飼料に、ワックス混合物を各々0.5添加
【0053】
[実施例2]
(非還元処理コウリャンワックス配合系試験飼料)(本発明)
前記製造例1の非還元処理コウリャンワックスを用いて、飼育試験を行った。
試験飼料は、予め基本飼料に使用する大豆油に固形状の非還元処理コウリャンワックスを均一に溶解した後、AIN−93G基本飼料 99.5質量%、非還元処理コウリャンワックス0.5質量%となるように、均一に混合して用意したものを試験食飼料として、前記の条件下で飼育した。
【0054】
[比較例2]
(還元処理コウリャンワックス配合系試験飼料)
前記製造例2の還元処理コウリャンワックスを用いて、飼育試験を行った。
試験飼料は、予め基本飼料に使用する大豆油に固形状の還元処理コウリャンワックスを均一に溶解した後、AIN−93G基本飼料 99.5質量%、還元処理コウリャンワックス0.5質量%となるように、均一に混合して用意したものを試験食として、前記の条件下で飼育した。
【0055】
飼育終了後、エーテル麻酔下でマウスから約1mL採血した。約1mLを3000rpmで10分間遠心分離し、上清を血清サンプルとし、インスリン、アディポネクチンおよびレジスチンの各濃度の測定に用いた。
・インスリン濃度:モリナガ超高感度マウスインスリン測定キット( 株式会社森永生命科学研究所製)
・アディポネクチン濃度: QuantikineAdiponectin/Acrp30 Immunoassayキット(R&D SYSTEMS製)
・レジスチン濃度:Resistin, ELISA Kit,Quantikine (R&D SYSTEM製)
【0056】
非還元処理コウリャンワックスおよび還元処理コウリャンワックスの投与の血糖値、空腹時血漿中のインスリン、アディポネクチンおよびレジスチンの各濃度に及ぼす影響を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4から、2型糖尿病モデルマウスにコウリャンワックス配合系試験飼料を投与すると、還元処理コウリャンワックス配合系に比べて本発明の非還元処理コウリャンワックス配合系試験飼料を用いたマウスにおける血糖値およびインスリン濃度が低下し、アディポネクチン濃度が増加している。一方、インスリン抵抗性を引き起こすとされるアディポサイトカインの一種であるレジスチン濃度が、還元処理コウリャンワックス配合系に比べて本発明の非還元処理コウリャンワックス配合系試験飼料を用いたマウスにおいて大幅に低下している。
【0059】
すなわち、オクタコサナール(C28)とトリアコンタナール(C30)が2型糖尿病の改善に有効であることが分かった。
【0060】
[実施例3]
年齢70歳男性を被験者とし、ヒト介入試験を行った。検査前日は過度な運動を避け、食事はSB食品の冷凍食品「貝柱雑炊」、「かに雑炊」及び「とり雑炊」のいずれも一食(180〜210kcal)を朝・昼・晩とし、飲酒はせず、19時以降は絶食とした。
【0061】
前日から12時間の絶食後、30ccの牛乳に非還元処理コウリャンワックス30mgを入れ、分散して飲んだ。その30分後に空腹時の血糖値を自己検査用血糖値測定器(アークレイ(株)グルコカードメーターセット)を用いて測定した。
【0062】
その直後、ブドウ糖14gを水100ccとともに摂取した。摂取開始から、30、60、120、150、180及び210分後と経時的に自己血糖測定を行った。
【0063】
[比較例3]
別の日に、非還元処理コウリャンワックスを服用しない以外は、実施例と同様に自己血糖測定を行った。
【0064】
実施例3と比較例3のそれぞれの血糖値をグラフにしたものを図2に示す。図2より、非還元処理コウリャンワックスを服用した方が、血糖値の上昇が小さいことが明瞭に認められた。
【0065】
以上の実施例ならびに比較例の結果から、オクタコサナール及びトリアコンタナールの高級飽和脂肪族アルデヒドを主成分とする本発明のコウリャンワックス混合物は、インスリン非依存性の2型糖尿病を極めて効果的に改善できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によると、低コストで容易に製造でき、生活習慣病に起因する2型糖尿病の改善に有効であり、安全性が高く常用可能なコウリャン由来の特定組成のワックス混合物を有効成分とする2型糖尿病改善剤、及び、それを含み、病院用飲食品、健康飲料乃至食品、飼料用サプリメント等として好適な飲食物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コウリャンより抽出・分離されたワックス混合物を有効成分とする2型糖尿病改善剤。
【請求項2】
ワックス混合物が、オクタコサナールおよびトリアコンタナールを主成分とする請求項1記載の2型糖尿病改善剤。
【請求項3】
コウリャンが、コウリャンの表皮であることを特徴とする請求項1記載の2型糖尿病改善剤。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の2型糖尿病改善剤を含有する2型糖尿病改善飲食物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−231095(P2011−231095A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189716(P2010−189716)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(390001339)光洋産業株式会社 (46)
【出願人】(509280006)
【Fターム(参考)】