2型糖尿病治療用の併用医薬
【課題】2型糖尿病の病態を制御するため、複数の医薬を組み合わせてなる新規な医薬、及びそれを用いた2型糖尿病の治療方法を提供すること。
【解決手段】ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物と、ボグリボース、アカルボース等のα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬、並びにそれを用いた治療方法であり、本医薬は、2型糖尿病患者における早朝空腹時血糖値、食後血糖値及びHbA1cの極めて強い低下作用を示し、さらにグルコーススパイク、インスリン抵抗性及び脂質代謝を改善させることができる。
【解決手段】ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物と、ボグリボース、アカルボース等のα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬、並びにそれを用いた治療方法であり、本医薬は、2型糖尿病患者における早朝空腹時血糖値、食後血糖値及びHbA1cの極めて強い低下作用を示し、さらにグルコーススパイク、インスリン抵抗性及び脂質代謝を改善させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病の治療に有用な医薬に関するものである。さらに詳しく述べれば、本発明は、ミチグリニドとα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病患者に対しては、通常、食事療法や運動療法等の生活習慣改善に向けた患者教育、経口血糖降下薬やインスリンを投与する薬物療法、さらに両者を組み合わせた治療が施される。
経口血糖降下薬としては、スルホニルウレア薬等のインスリン分泌促進薬、α−グルコシダーゼ阻害薬等の糖吸収調節薬、チアゾリジン薬やビグアナイド薬等のインスリン抵抗性改善薬などが患者の病態に応じて使われている。
【0003】
最近、経口血糖降下薬の一種であるナテグリニド、レパグリニド及びミチグリニドカルシウム水和物〔製品名:グルファスト(登録商標)〕等の速効型インスリン分泌促進薬が提案され、食後血糖推移の改善に顕著な治療効果を示すことから注目を集めている。2型糖尿病患者では、糖負荷後の早期インスリン分泌の上昇、特に負荷後30分の上昇が乏しく健常者に比べて著しく低いことが知られている。すなわち、健常者にブドウ糖を負荷すると、30〜60分間かけて血糖値が徐々に上昇した後、緩やかに下降するのに対し、糖尿病患者にブドウ糖を負荷すると、インスリン分泌能が低いため、30〜90分間に血糖値が急激に上昇するグルコーススパイクの現象が観察される(非特許文献1)。したがって、食後早期に、特に30〜60分間に薬効を示すことにより、健常者に近い血糖推移を示す薬物が好ましい。速効型インスリン分泌促進薬、特にミチグリニドカルシウム水和物については、食後血糖推移の改善に顕著な効果を示すことが知られている。しかしながら、ミチグリニドカルシウム水和物がグルコーススパイク、特に食後1時間以内に生ずるグルコーススパイクを効果的に抑制することは知られていない。
【0004】
ところで、糖尿病の病態を改善するため、種々の薬物を組み合わせて投与する併用療法が試みられている。例えば、α−グルコシダーゼ阻害薬と非スルホニルウレア系インスリン分泌促進薬とを組み合わせた併用医薬が報告されている(特許文献1)。しかしながら、この報告にはミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬との具体的な併用効果、例えば早朝空腹時血糖値、食後血糖値及びHbA1Cに対する極めて強い相乗的な低下作用、グルコーススパイクの抑制、インスリン抵抗性及び脂質代謝の改善作用、並びに併用療法の安全性等については記載されていない。
【0005】
また、ナテグリニドとα−グルコシダーゼ阻害薬との併用療法について、併用療法により健常者と同等の血糖応答を再現することが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、この報告はナテグリニド又はα−グルコシダーゼ阻害薬の単独療法と併用療法とを詳細に比較したものではなく、上述した具体的な併用効果に関する記載及びそれを示唆する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−316293号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mebio 2003年5月別冊「食後高血糖/IGTと大血管障害」p.26−37
【非特許文献2】河盛隆造、内分泌・糖尿病科、12(6):574−578、2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、2型糖尿病の病態を制御するため、複数の医薬を組み合わせてなる新規な医薬、及びそれを用いた2型糖尿病の治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究したところ、ミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬が、2型糖尿病患者に対して極めて優れた治療効果を有すること、特に食後1時間以内に生ずるグルコーススパイクを顕著に抑制すること、及び安全であることを知り、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る医薬は、2型糖尿病患者の食後血糖推移の改善薬であって、早朝空腹時血糖値、食後血糖値及びHbA1Cに対する極めて強い低下作用を有し、さらにグルコーススパイク、インスリン抵抗性及び脂質代謝を改善させることができる極めて高い安全性を有する医薬である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、治療期開始時からのHbA1C値変化量の推移を示す図である。
【図2】図2は、最終評価時における治療期開始時からのHbA1C変化量を示す図である。
【図3】図3は、最終評価時における治療期開始時からのHbA1C目標達成率を示す図である。
【図4】図4は、治療期開始時の血中インスリン値(IRI)5μU/mLで層別した、最終評価時における治療期開始時からのHbA1C値変化量を示す図である。VK10は試験例1、VK5は試験例2、Vは比較例1、K10は比較例2を表し、IRIは血中インスリン値を表す。
【図5】図5は、治療期開始時の血中インスリン値5μU/mL以上の患者層におけるHbA1C目標達成率を示す図である。VK10は試験例1、VK5は試験例2、Vは比較例1、K10は比較例2を表す。
【図6】図6は、治療期開始時からの早朝空腹時血糖値(FPG)の変化量の推移を示す図である。
【図7】図7は、最終評価時における治療期開始時からの食後血糖1時間値の変化量を示す図である。
【図8】図8は、最終評価時における治療期開始時からの食後血糖2時間値の変化量を示す図である。
【図9】図9は、治療期開始時からの脂質検査の推移を示す図である。
【図10】図10は、アカルボース又はボグリボースとの併用投与試験における観察期開始時からのHbA1C測定値の推移を示す図である。
【図11】図11は、ナテグリニド、ミチグリニド又はレパグリニドとボグリボースとの併用投与試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いるミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物は、特開平4−356459号公報に記載されている方法により製造することができる。ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物のうち、ミチグリニドカルシウム水和物を用いるのが好ましい。ミチグリニドカルシウム水和物は市販されているものを用いることもできる。ミチグリニドカルシウム水和物を用いる場合の単回投与量は、通常、5〜45mgの範囲であり、5〜20mg、特に5〜10mgの範囲であるのが好ましい。
【0013】
α−グルコシダーゼ阻害薬としては、例えば、アカルボース、ボグリボース、ミグリトール及びエミグリテート等が挙げられる。なかでもアカルボース又はボグリボースが好ましい。アカルボース、ボグリボース又はミグリトールは市販されているものを用いることもできる。アカルボースを用いる場合の単回投与量は50〜100mgの範囲であるのが好ましく、ボグリボースを用いる場合の単回投与量は、0.2〜0.5mgの範囲であるのが好ましい。
【0014】
本明細書において「相乗的」とは、ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせて投与したことにより得られる効果が、それぞれを単独で投与したことにより得られる効果の和よりも大きいことを意味する。
【0015】
本発明に係る医薬は、1日3回、毎食前(食事開始前10分以内)、特に食事の直前(食事開始前5分以内)に、ミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害剤とを含む単一の製剤(配合剤)又はミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤を同時に又は時間差をおいて投与するのが好ましい。
【0016】
ミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害剤とを含む配合剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の経口剤が好ましい。例えば、錠剤は、活性成分のミチグリニドカルシウム水和物及びα−グルコシダーゼ阻害剤を、乳糖、白糖、トウモロコシデンプン、D−マンニトール、結晶セルロース、炭酸カルシウム等の賦形剤;カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;アルファー化デンプン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤;タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の滑沢剤などと、適宜、混合し、圧縮成形することにより製造することができる。
【0017】
本発明に係る医薬を異なる2種の製剤とする場合は、ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを、同時に、又は10分以内という極めて短い間隔で投与するため、例えば、市販されているミチグリニドカルシウム水和物を有効成分とする医薬〔製品名:グルファスト(登録商標)〕の添付文書や販売パンフレット等の文書に、その旨を記載するのが好ましい。また、ミチグリニドカルシウム水和物を含む製剤及びα−グルコシダーゼ阻害薬を含む製剤からなるキットとするのも好ましい。
【0018】
本発明に係る医薬の治療対象となる患者としては、食事療法により十分な血糖コントロールが得られず、薬物療法の導入が必要な患者であって、HbA1Cが6.5%以上の患者、特にα−グルコシダーゼ阻害薬を服用してもHbA1Cが6.5%以上である患者が好ましい。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されることはない。
【0020】
(硬度試験)
被験錠剤の硬度を、硬度計(TS−75N、岡田精工社製)を用いて測定した。なお、試験は3錠で行い、平均値を求めた。
【0021】
(崩壊試験)
試験液に37℃の精製水を用い、日本薬局方 一般試験法 崩壊試験法に準じて、崩壊試験を実施した。なお、試験は3錠で行い、平均値を求めた。
【0022】
(実施例1)
ミチグリニドカルシウム水和物:10.0mg
ボグリボース:0.2mg
乳糖:137.0mg
トウモロコシデンプン:60.0mg
結晶セルロース:55.0mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース:12.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース:2.5mg
ステアリン酸マグネシウム:3.3mg
(合計280.0mg/1錠)
【0023】
ミチグリニドカルシウム水和物0.5g、乳糖(HMS社製)6.85g、トウモロコシデンプン(日本食品化工社製)3g、結晶セルロース(旭化成工業社製)2.75g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業社製)0.6gを乳鉢で3分間混合した後、ボグリボース0.01g及びヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)0.125gを含む精製水3.375gを徐々に添加し、さらに精製水1.26gを徐々に添加しながら攪拌して造粒した。この造粒物を棚乾燥器(DN64、ヤマト科学社製)にて60℃、2時間乾燥した後、30号篩で篩過した。この造粒物11gに、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)0.131gを添加し、30秒間混合した。この混合物を、単発打錠機(N−30E、岡田精工社製)を用いて、錠剤重量280mg、φ9.5mm10.5R円形、圧縮圧13kN/杵の条件で圧縮成形して錠剤を製した。この錠剤の硬度は68N、崩壊時間は3.1分であった。
【0024】
(実施例2)
ミチグリニドカルシウム水和物:5.0mg
ボグリボース:0.2mg
乳糖:111.4mg
トウモロコシデンプン:50.0mg
結晶セルロース:27.5mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース:6.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース:2.5mg
ステアリン酸マグネシウム:2.4mg
(合計205.0mg/1錠)
【0025】
ミチグリニドカルシウム水和物0.25g、乳糖(HMS社製)5.57g、トウモロコシデンプン(日本食品化工社製)2.5g、結晶セルロース(旭化成工業社製)1.375g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業社製)0.3gを乳鉢で3分間混合した後、ボグリボース0.01g及びヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)0.125gを含む精製水3.375gを徐々に添加しながら攪拌して造粒した。この造粒物を棚乾燥器(DN64、ヤマト科学社製)にて60℃、2時間乾燥した後、30号篩で篩過した。この造粒物8gに、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)0.095gを添加し、30秒間混合した。この混合物を、単発打錠機(N−30E、岡田精工社製)を用いて、錠剤重量205mg、φ8mm12R円形、圧縮圧10kN/杵の条件で圧縮成形して錠剤を製した。この錠剤の硬度は62N、崩壊時間は4.3分であった。
【0026】
(試験例1,2及び比較例1,2)
2型糖尿病患者を対象として、二重盲検並行群間比較試験により以下の臨床試験を実施した。
【0027】
〔選択基準〕
食事療法により十分な血糖コントロールが得られず、薬物療法の導入が必要な患者であって、HbA1Cが6.5%以上かつ8.5%未満の年齢20歳以上の2型糖尿病患者。
【0028】
〔治験薬〕
(1)ミチグリニドカルシウム水和物(mitiglinide calcium hydrate;以下「KAD−1229」ということがある。)の5mg錠
(2)KAD−1229の5mg錠プラセボ錠
(3)KAD−1229の10mg錠
(4)KAD−1229の10mg錠プラセボ錠
(5)ボグリボース(voglibose)の0.2mg錠
(6)ボグリボースの0.2mg錠プラセボ錠
【0029】
〔投与方法〕
ボグリボースの0.2mg錠を1回1錠、1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、16週間経口投与した(観察期:非盲検期)後、表1のように割り付けた治験薬を1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、12週間経口投与した(治療期:二重盲検期)。なお、治験薬の食後投与は不可とし、食事を摂取しない場合は投与しないこととした。
【0030】
【表1】
【0031】
投与期間中及び投与終了後に、以下の項目を評価した。
(1)HbA1C値
図1に、治療期開始時からの臨床試験中のHbA1C値変化量の推移を示す。
なお、スルホニルウレア等のインスリン分泌促進薬を用いた場合、HbA1C値の推移は、投薬期間の長期化に伴い低下傾向が鈍化し、ときには上昇することすらある。しかしながら、併用投与群では長期投与においても良好にHbA1C値を制御することができる。
【0032】
図2に、治療期終了時HbA1C値の変化量HbA1Cを示す。併用投与群はいずれの場合も、単独投与群に比べて、相乗的にHbA1C値低下ことがわかる。
【0033】
図3に、最終評価HbA1C値を6.5%未満低下の割合HbA1Cを示す。併用投与群は、単独投与群よりもHbA1Cが明らかに高いことがわかる。
【0034】
図4に、血中インスリン値(IRI)5μU/mL未満のインスリン抵抗性傾向のない患者と、5μU/mL以上のインスリン抵抗性傾向のある患者におけるHbA1C変化量を示す。
【0035】
図5に、血中インスリン値5μU/mL以上の患者HbA1C目標達成率を示す。
インスリン抵抗性傾向のある血中インスリン値5μU/mL以上の患者に対するKAD−1229とボグリボースとの併用投与が、KAD−1229又はボグリボースの単独投与よりも極めて良好にHbA1C値を制御していることがわかる。すなわち、インスリン抵抗性の患者における治療目標達成率は、併用投与により格段に高まっている。このことは、KAD−1229とボグリボースとの併用投与により、患者のインスリン抵抗性が改善されHbA1Cたことを示すものである。
【0036】
(2)早朝空腹時血糖値
治療期開始時からの早朝空腹時血糖値(FPG)の変化量の推移を図6に示す。併用投与群は単独投与群に比べて、相乗的に早朝空腹時血糖値を低下させた。
【0037】
(3)食後血糖1時間値及び2時間値
最終評価時における治療期開始時からの食後血糖1時間値及び2時間値の変化量を図7及び図8に示す。併用投与群は単独投与群に比べて、相乗的に血糖値を低下させた。また、食後血糖1時間値から、併用投与群のグルコーススパイクが、単独投与群に比べて顕著に抑制されていることがわかる。
【0038】
(4)脂質検査値
高脂血症を合併している患者におけるトリグリセリド(TG)及び総コレステロール(TC)値の変化量を図9に示す。単独投与群に比べて、併用群ではTG値及びTC値が顕著に低下していることがわかる。
【0039】
(5)低血糖症状
治療期間中に認められた低血糖症状の発現率は、試験例1では6.9%、試験例2では3.3%、比較例1では1.1%、比較例2では3.9%であった。
【0040】
(6)胃腸障害
治療期間中に認められた胃腸障害の発現率は、試験例1では9.8%、試験例2では6.6%、比較例1では10.1%、比較例2では6.8%であった。併用投与群の胃腸障害発現率は、いずれもボグリボース単独投与群よりも低いものである。このことは、KAD−1229投与によりボグリボースにより生ずる胃腸障害が軽減されたことを意味する。
【0041】
(試験例3)
ボグリボース1回0.2〜0.3mg又はアカルボース1回50〜100mgを1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、16週間経口投与した(観察期)。次いで、1回10mgのKAD−1229をボグリボース又はアカルボースとともに1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、28週間経口投与した(治療期)。
【0042】
なお、治療期開始時のHbA1Cが7.0%以上であった患者の12週後のHbA1Cが7.0%以上のとき、及び治療期開始時のHbA1Cが6.5%以上7.0%未満であった患者の12週後のHbA1Cが6.5%以上のときには、KAD−1229を1回20mgに増量した。また、KAD−1229の減量は、随時、可能とした。
【0043】
図10に、観察期開始時からのHbA1C測定値の推移を示す。HbA1C測定値に対するKAD−1229とボグリボースとの併用又はKAD−1229とアカルボースとの併用効果は、ほぼ同等であった。
【0044】
上記臨床試験において、重篤な副作用が認められなかったことから、併用療法における安全性が確認された。
【0045】
以上のように、ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とボグリボース等のα−グルコシダーゼ阻害薬とを併用することにより、極めて高い治療効果が得られ、同じ効果を得るのに必要なα−グルコシダーゼ阻害薬の投与量を減少させることができ、さらに治療目標達成率を格段に高めることができる。したがって、α−グルコシダーゼ阻害薬のもつ副作用、特に胃腸障害の発現率を低下させ、又は症状を軽減させることができる。
【0046】
(試験例4)
1)動物
日本エスエルシー株式会社より購入した雄性のWistarラットを試験に使用した。
【0047】
2)経口スクロース負荷試験
経口スクロース負荷試験は、7週齢のラットを用いて行った。
ラットを16時間以上絶食させて、調製被験物質又は媒体(0.5% CMC溶液)を2.5mL/kg経口投与後,続けて0.5g/mLスクロース溶液を5mL/kg経口投与(2.5g/kg)した。採血は投与直前、負荷0.25及び0.5時間後の各ポイントでラット尾静脈より行った。血漿中グルコース濃度は、グルコースCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。
【0048】
被験物質の投与量は、各薬物の2型糖尿病患者への通常の投与量(ミチグリニド10mg、ナテグリニド120mg、レパグリニド1mg)から換算した。なお、ナテグリニドについては、その効果を勘案し、換算値である12mgを20mgに変更して投与量とした。データ処理は以下のとおりに行った。
【0049】
1)評価項目
スクロース負荷前からスクロース負荷0.5時間後までの血漿中グルコース濃度−時間曲線下面積(AUC0−0.5 hr)を評価項目とした。血糖AUC0−0.5 hrは血漿中グルコース濃度−時間曲線下面積を用いて血漿中グルコース濃度より台形法を用いて算出した。各データは、Excelを用いて平均値及び標準誤差を算出し、小数点第1位まで表示した。
【0050】
2)使用ソフト
データの集計、計算及び図表の作成等にはExcel(Microsoft Corp.)及びGraphPad Prism 3.0(GraphPad Software Inc.)を用いた。データの統計解析には、SAS System Version 8.2(SAS Institute Inc.)及びその連動プログラムの前臨床パッケージVersion 5.0(株式会社SAS Institute Japan)を使用した。
【0051】
3)統計解析
ボグリボースとミチグリニド併用群、ナテグリニド併用群及びレパグリニド併用群間の比較は,パラメトリックDunnett多重比較検定を用いた。危険率は5%未満を有意水準(両側検定)として採用した。
【0052】
結果を図11に示す。α−グルコシダーゼ阻害薬と組み合わせることにより、速効型インスリン分泌促進剤のうちミチグリニドは、ナテグリニド又はレパグリニドに比べて、極めて短時間のうちに強力な血糖低下作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物と、α−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬は、治療効果が高く、かつ安全性も高い極めて優れた医薬である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病の治療に有用な医薬に関するものである。さらに詳しく述べれば、本発明は、ミチグリニドとα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病患者に対しては、通常、食事療法や運動療法等の生活習慣改善に向けた患者教育、経口血糖降下薬やインスリンを投与する薬物療法、さらに両者を組み合わせた治療が施される。
経口血糖降下薬としては、スルホニルウレア薬等のインスリン分泌促進薬、α−グルコシダーゼ阻害薬等の糖吸収調節薬、チアゾリジン薬やビグアナイド薬等のインスリン抵抗性改善薬などが患者の病態に応じて使われている。
【0003】
最近、経口血糖降下薬の一種であるナテグリニド、レパグリニド及びミチグリニドカルシウム水和物〔製品名:グルファスト(登録商標)〕等の速効型インスリン分泌促進薬が提案され、食後血糖推移の改善に顕著な治療効果を示すことから注目を集めている。2型糖尿病患者では、糖負荷後の早期インスリン分泌の上昇、特に負荷後30分の上昇が乏しく健常者に比べて著しく低いことが知られている。すなわち、健常者にブドウ糖を負荷すると、30〜60分間かけて血糖値が徐々に上昇した後、緩やかに下降するのに対し、糖尿病患者にブドウ糖を負荷すると、インスリン分泌能が低いため、30〜90分間に血糖値が急激に上昇するグルコーススパイクの現象が観察される(非特許文献1)。したがって、食後早期に、特に30〜60分間に薬効を示すことにより、健常者に近い血糖推移を示す薬物が好ましい。速効型インスリン分泌促進薬、特にミチグリニドカルシウム水和物については、食後血糖推移の改善に顕著な効果を示すことが知られている。しかしながら、ミチグリニドカルシウム水和物がグルコーススパイク、特に食後1時間以内に生ずるグルコーススパイクを効果的に抑制することは知られていない。
【0004】
ところで、糖尿病の病態を改善するため、種々の薬物を組み合わせて投与する併用療法が試みられている。例えば、α−グルコシダーゼ阻害薬と非スルホニルウレア系インスリン分泌促進薬とを組み合わせた併用医薬が報告されている(特許文献1)。しかしながら、この報告にはミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬との具体的な併用効果、例えば早朝空腹時血糖値、食後血糖値及びHbA1Cに対する極めて強い相乗的な低下作用、グルコーススパイクの抑制、インスリン抵抗性及び脂質代謝の改善作用、並びに併用療法の安全性等については記載されていない。
【0005】
また、ナテグリニドとα−グルコシダーゼ阻害薬との併用療法について、併用療法により健常者と同等の血糖応答を再現することが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、この報告はナテグリニド又はα−グルコシダーゼ阻害薬の単独療法と併用療法とを詳細に比較したものではなく、上述した具体的な併用効果に関する記載及びそれを示唆する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−316293号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mebio 2003年5月別冊「食後高血糖/IGTと大血管障害」p.26−37
【非特許文献2】河盛隆造、内分泌・糖尿病科、12(6):574−578、2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、2型糖尿病の病態を制御するため、複数の医薬を組み合わせてなる新規な医薬、及びそれを用いた2型糖尿病の治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究したところ、ミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬が、2型糖尿病患者に対して極めて優れた治療効果を有すること、特に食後1時間以内に生ずるグルコーススパイクを顕著に抑制すること、及び安全であることを知り、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る医薬は、2型糖尿病患者の食後血糖推移の改善薬であって、早朝空腹時血糖値、食後血糖値及びHbA1Cに対する極めて強い低下作用を有し、さらにグルコーススパイク、インスリン抵抗性及び脂質代謝を改善させることができる極めて高い安全性を有する医薬である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、治療期開始時からのHbA1C値変化量の推移を示す図である。
【図2】図2は、最終評価時における治療期開始時からのHbA1C変化量を示す図である。
【図3】図3は、最終評価時における治療期開始時からのHbA1C目標達成率を示す図である。
【図4】図4は、治療期開始時の血中インスリン値(IRI)5μU/mLで層別した、最終評価時における治療期開始時からのHbA1C値変化量を示す図である。VK10は試験例1、VK5は試験例2、Vは比較例1、K10は比較例2を表し、IRIは血中インスリン値を表す。
【図5】図5は、治療期開始時の血中インスリン値5μU/mL以上の患者層におけるHbA1C目標達成率を示す図である。VK10は試験例1、VK5は試験例2、Vは比較例1、K10は比較例2を表す。
【図6】図6は、治療期開始時からの早朝空腹時血糖値(FPG)の変化量の推移を示す図である。
【図7】図7は、最終評価時における治療期開始時からの食後血糖1時間値の変化量を示す図である。
【図8】図8は、最終評価時における治療期開始時からの食後血糖2時間値の変化量を示す図である。
【図9】図9は、治療期開始時からの脂質検査の推移を示す図である。
【図10】図10は、アカルボース又はボグリボースとの併用投与試験における観察期開始時からのHbA1C測定値の推移を示す図である。
【図11】図11は、ナテグリニド、ミチグリニド又はレパグリニドとボグリボースとの併用投与試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いるミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物は、特開平4−356459号公報に記載されている方法により製造することができる。ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物のうち、ミチグリニドカルシウム水和物を用いるのが好ましい。ミチグリニドカルシウム水和物は市販されているものを用いることもできる。ミチグリニドカルシウム水和物を用いる場合の単回投与量は、通常、5〜45mgの範囲であり、5〜20mg、特に5〜10mgの範囲であるのが好ましい。
【0013】
α−グルコシダーゼ阻害薬としては、例えば、アカルボース、ボグリボース、ミグリトール及びエミグリテート等が挙げられる。なかでもアカルボース又はボグリボースが好ましい。アカルボース、ボグリボース又はミグリトールは市販されているものを用いることもできる。アカルボースを用いる場合の単回投与量は50〜100mgの範囲であるのが好ましく、ボグリボースを用いる場合の単回投与量は、0.2〜0.5mgの範囲であるのが好ましい。
【0014】
本明細書において「相乗的」とは、ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせて投与したことにより得られる効果が、それぞれを単独で投与したことにより得られる効果の和よりも大きいことを意味する。
【0015】
本発明に係る医薬は、1日3回、毎食前(食事開始前10分以内)、特に食事の直前(食事開始前5分以内)に、ミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害剤とを含む単一の製剤(配合剤)又はミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤を同時に又は時間差をおいて投与するのが好ましい。
【0016】
ミチグリニドカルシウム水和物とα−グルコシダーゼ阻害剤とを含む配合剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の経口剤が好ましい。例えば、錠剤は、活性成分のミチグリニドカルシウム水和物及びα−グルコシダーゼ阻害剤を、乳糖、白糖、トウモロコシデンプン、D−マンニトール、結晶セルロース、炭酸カルシウム等の賦形剤;カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;アルファー化デンプン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤;タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の滑沢剤などと、適宜、混合し、圧縮成形することにより製造することができる。
【0017】
本発明に係る医薬を異なる2種の製剤とする場合は、ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを、同時に、又は10分以内という極めて短い間隔で投与するため、例えば、市販されているミチグリニドカルシウム水和物を有効成分とする医薬〔製品名:グルファスト(登録商標)〕の添付文書や販売パンフレット等の文書に、その旨を記載するのが好ましい。また、ミチグリニドカルシウム水和物を含む製剤及びα−グルコシダーゼ阻害薬を含む製剤からなるキットとするのも好ましい。
【0018】
本発明に係る医薬の治療対象となる患者としては、食事療法により十分な血糖コントロールが得られず、薬物療法の導入が必要な患者であって、HbA1Cが6.5%以上の患者、特にα−グルコシダーゼ阻害薬を服用してもHbA1Cが6.5%以上である患者が好ましい。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されることはない。
【0020】
(硬度試験)
被験錠剤の硬度を、硬度計(TS−75N、岡田精工社製)を用いて測定した。なお、試験は3錠で行い、平均値を求めた。
【0021】
(崩壊試験)
試験液に37℃の精製水を用い、日本薬局方 一般試験法 崩壊試験法に準じて、崩壊試験を実施した。なお、試験は3錠で行い、平均値を求めた。
【0022】
(実施例1)
ミチグリニドカルシウム水和物:10.0mg
ボグリボース:0.2mg
乳糖:137.0mg
トウモロコシデンプン:60.0mg
結晶セルロース:55.0mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース:12.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース:2.5mg
ステアリン酸マグネシウム:3.3mg
(合計280.0mg/1錠)
【0023】
ミチグリニドカルシウム水和物0.5g、乳糖(HMS社製)6.85g、トウモロコシデンプン(日本食品化工社製)3g、結晶セルロース(旭化成工業社製)2.75g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業社製)0.6gを乳鉢で3分間混合した後、ボグリボース0.01g及びヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)0.125gを含む精製水3.375gを徐々に添加し、さらに精製水1.26gを徐々に添加しながら攪拌して造粒した。この造粒物を棚乾燥器(DN64、ヤマト科学社製)にて60℃、2時間乾燥した後、30号篩で篩過した。この造粒物11gに、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)0.131gを添加し、30秒間混合した。この混合物を、単発打錠機(N−30E、岡田精工社製)を用いて、錠剤重量280mg、φ9.5mm10.5R円形、圧縮圧13kN/杵の条件で圧縮成形して錠剤を製した。この錠剤の硬度は68N、崩壊時間は3.1分であった。
【0024】
(実施例2)
ミチグリニドカルシウム水和物:5.0mg
ボグリボース:0.2mg
乳糖:111.4mg
トウモロコシデンプン:50.0mg
結晶セルロース:27.5mg
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース:6.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース:2.5mg
ステアリン酸マグネシウム:2.4mg
(合計205.0mg/1錠)
【0025】
ミチグリニドカルシウム水和物0.25g、乳糖(HMS社製)5.57g、トウモロコシデンプン(日本食品化工社製)2.5g、結晶セルロース(旭化成工業社製)1.375g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業社製)0.3gを乳鉢で3分間混合した後、ボグリボース0.01g及びヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)0.125gを含む精製水3.375gを徐々に添加しながら攪拌して造粒した。この造粒物を棚乾燥器(DN64、ヤマト科学社製)にて60℃、2時間乾燥した後、30号篩で篩過した。この造粒物8gに、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)0.095gを添加し、30秒間混合した。この混合物を、単発打錠機(N−30E、岡田精工社製)を用いて、錠剤重量205mg、φ8mm12R円形、圧縮圧10kN/杵の条件で圧縮成形して錠剤を製した。この錠剤の硬度は62N、崩壊時間は4.3分であった。
【0026】
(試験例1,2及び比較例1,2)
2型糖尿病患者を対象として、二重盲検並行群間比較試験により以下の臨床試験を実施した。
【0027】
〔選択基準〕
食事療法により十分な血糖コントロールが得られず、薬物療法の導入が必要な患者であって、HbA1Cが6.5%以上かつ8.5%未満の年齢20歳以上の2型糖尿病患者。
【0028】
〔治験薬〕
(1)ミチグリニドカルシウム水和物(mitiglinide calcium hydrate;以下「KAD−1229」ということがある。)の5mg錠
(2)KAD−1229の5mg錠プラセボ錠
(3)KAD−1229の10mg錠
(4)KAD−1229の10mg錠プラセボ錠
(5)ボグリボース(voglibose)の0.2mg錠
(6)ボグリボースの0.2mg錠プラセボ錠
【0029】
〔投与方法〕
ボグリボースの0.2mg錠を1回1錠、1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、16週間経口投与した(観察期:非盲検期)後、表1のように割り付けた治験薬を1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、12週間経口投与した(治療期:二重盲検期)。なお、治験薬の食後投与は不可とし、食事を摂取しない場合は投与しないこととした。
【0030】
【表1】
【0031】
投与期間中及び投与終了後に、以下の項目を評価した。
(1)HbA1C値
図1に、治療期開始時からの臨床試験中のHbA1C値変化量の推移を示す。
なお、スルホニルウレア等のインスリン分泌促進薬を用いた場合、HbA1C値の推移は、投薬期間の長期化に伴い低下傾向が鈍化し、ときには上昇することすらある。しかしながら、併用投与群では長期投与においても良好にHbA1C値を制御することができる。
【0032】
図2に、治療期終了時HbA1C値の変化量HbA1Cを示す。併用投与群はいずれの場合も、単独投与群に比べて、相乗的にHbA1C値低下ことがわかる。
【0033】
図3に、最終評価HbA1C値を6.5%未満低下の割合HbA1Cを示す。併用投与群は、単独投与群よりもHbA1Cが明らかに高いことがわかる。
【0034】
図4に、血中インスリン値(IRI)5μU/mL未満のインスリン抵抗性傾向のない患者と、5μU/mL以上のインスリン抵抗性傾向のある患者におけるHbA1C変化量を示す。
【0035】
図5に、血中インスリン値5μU/mL以上の患者HbA1C目標達成率を示す。
インスリン抵抗性傾向のある血中インスリン値5μU/mL以上の患者に対するKAD−1229とボグリボースとの併用投与が、KAD−1229又はボグリボースの単独投与よりも極めて良好にHbA1C値を制御していることがわかる。すなわち、インスリン抵抗性の患者における治療目標達成率は、併用投与により格段に高まっている。このことは、KAD−1229とボグリボースとの併用投与により、患者のインスリン抵抗性が改善されHbA1Cたことを示すものである。
【0036】
(2)早朝空腹時血糖値
治療期開始時からの早朝空腹時血糖値(FPG)の変化量の推移を図6に示す。併用投与群は単独投与群に比べて、相乗的に早朝空腹時血糖値を低下させた。
【0037】
(3)食後血糖1時間値及び2時間値
最終評価時における治療期開始時からの食後血糖1時間値及び2時間値の変化量を図7及び図8に示す。併用投与群は単独投与群に比べて、相乗的に血糖値を低下させた。また、食後血糖1時間値から、併用投与群のグルコーススパイクが、単独投与群に比べて顕著に抑制されていることがわかる。
【0038】
(4)脂質検査値
高脂血症を合併している患者におけるトリグリセリド(TG)及び総コレステロール(TC)値の変化量を図9に示す。単独投与群に比べて、併用群ではTG値及びTC値が顕著に低下していることがわかる。
【0039】
(5)低血糖症状
治療期間中に認められた低血糖症状の発現率は、試験例1では6.9%、試験例2では3.3%、比較例1では1.1%、比較例2では3.9%であった。
【0040】
(6)胃腸障害
治療期間中に認められた胃腸障害の発現率は、試験例1では9.8%、試験例2では6.6%、比較例1では10.1%、比較例2では6.8%であった。併用投与群の胃腸障害発現率は、いずれもボグリボース単独投与群よりも低いものである。このことは、KAD−1229投与によりボグリボースにより生ずる胃腸障害が軽減されたことを意味する。
【0041】
(試験例3)
ボグリボース1回0.2〜0.3mg又はアカルボース1回50〜100mgを1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、16週間経口投与した(観察期)。次いで、1回10mgのKAD−1229をボグリボース又はアカルボースとともに1日3回毎食直前(食事開始前5分以内)に、28週間経口投与した(治療期)。
【0042】
なお、治療期開始時のHbA1Cが7.0%以上であった患者の12週後のHbA1Cが7.0%以上のとき、及び治療期開始時のHbA1Cが6.5%以上7.0%未満であった患者の12週後のHbA1Cが6.5%以上のときには、KAD−1229を1回20mgに増量した。また、KAD−1229の減量は、随時、可能とした。
【0043】
図10に、観察期開始時からのHbA1C測定値の推移を示す。HbA1C測定値に対するKAD−1229とボグリボースとの併用又はKAD−1229とアカルボースとの併用効果は、ほぼ同等であった。
【0044】
上記臨床試験において、重篤な副作用が認められなかったことから、併用療法における安全性が確認された。
【0045】
以上のように、ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とボグリボース等のα−グルコシダーゼ阻害薬とを併用することにより、極めて高い治療効果が得られ、同じ効果を得るのに必要なα−グルコシダーゼ阻害薬の投与量を減少させることができ、さらに治療目標達成率を格段に高めることができる。したがって、α−グルコシダーゼ阻害薬のもつ副作用、特に胃腸障害の発現率を低下させ、又は症状を軽減させることができる。
【0046】
(試験例4)
1)動物
日本エスエルシー株式会社より購入した雄性のWistarラットを試験に使用した。
【0047】
2)経口スクロース負荷試験
経口スクロース負荷試験は、7週齢のラットを用いて行った。
ラットを16時間以上絶食させて、調製被験物質又は媒体(0.5% CMC溶液)を2.5mL/kg経口投与後,続けて0.5g/mLスクロース溶液を5mL/kg経口投与(2.5g/kg)した。採血は投与直前、負荷0.25及び0.5時間後の各ポイントでラット尾静脈より行った。血漿中グルコース濃度は、グルコースCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。
【0048】
被験物質の投与量は、各薬物の2型糖尿病患者への通常の投与量(ミチグリニド10mg、ナテグリニド120mg、レパグリニド1mg)から換算した。なお、ナテグリニドについては、その効果を勘案し、換算値である12mgを20mgに変更して投与量とした。データ処理は以下のとおりに行った。
【0049】
1)評価項目
スクロース負荷前からスクロース負荷0.5時間後までの血漿中グルコース濃度−時間曲線下面積(AUC0−0.5 hr)を評価項目とした。血糖AUC0−0.5 hrは血漿中グルコース濃度−時間曲線下面積を用いて血漿中グルコース濃度より台形法を用いて算出した。各データは、Excelを用いて平均値及び標準誤差を算出し、小数点第1位まで表示した。
【0050】
2)使用ソフト
データの集計、計算及び図表の作成等にはExcel(Microsoft Corp.)及びGraphPad Prism 3.0(GraphPad Software Inc.)を用いた。データの統計解析には、SAS System Version 8.2(SAS Institute Inc.)及びその連動プログラムの前臨床パッケージVersion 5.0(株式会社SAS Institute Japan)を使用した。
【0051】
3)統計解析
ボグリボースとミチグリニド併用群、ナテグリニド併用群及びレパグリニド併用群間の比較は,パラメトリックDunnett多重比較検定を用いた。危険率は5%未満を有意水準(両側検定)として採用した。
【0052】
結果を図11に示す。α−グルコシダーゼ阻害薬と組み合わせることにより、速効型インスリン分泌促進剤のうちミチグリニドは、ナテグリニド又はレパグリニドに比べて、極めて短時間のうちに強力な血糖低下作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物と、α−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる医薬は、治療効果が高く、かつ安全性も高い極めて優れた医薬である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、相乗的な早朝空腹時血糖値低下作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項2】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、相乗的なHbA1C低下作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項3】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、グルコーススパイク抑制作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項4】
グルコーススパイクが、食後1時間以内に生ずる血糖値上昇である請求項3記載の組み合わせ医薬。
【請求項5】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、インスリン抵抗性改善作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項6】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる高脂血症治療作用を示す組み合わせ医薬。
【請求項7】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物が、ミチグリニドカルシウム水和物である請求項1乃至6のいずれかに記載の組み合わせ医薬。
【請求項8】
α−グルコシダーゼ阻害薬が、ボグリボースである請求項1乃至7のいずれかに記載の組み合わせ医薬。
【請求項9】
ミチグリニドカルシウム水和物を5〜45mg含有する請求項7又は8記載の組み合わせ医薬。
【請求項10】
ボグリボースを0.2〜0.5mg含有する請求項9記載の組み合わせ医薬。
【請求項11】
ミチグリニドカルシウム水和物5〜10mg及びボグリボース0.2mgを含有する請求項10記載の組み合わせ医薬。
【請求項12】
配合剤である請求項11記載の組み合わせ医薬。
【請求項13】
キットである請求項11記載の組み合わせ医薬。
【請求項1】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、相乗的な早朝空腹時血糖値低下作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項2】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、相乗的なHbA1C低下作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項3】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、グルコーススパイク抑制作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項4】
グルコーススパイクが、食後1時間以内に生ずる血糖値上昇である請求項3記載の組み合わせ医薬。
【請求項5】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる食後血糖推移の改善薬であって、インスリン抵抗性改善作用を示すことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項6】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物とα−グルコシダーゼ阻害薬とを組み合わせてなる高脂血症治療作用を示す組み合わせ医薬。
【請求項7】
ミチグリニド、その薬理学的に許容される塩又はその水和物が、ミチグリニドカルシウム水和物である請求項1乃至6のいずれかに記載の組み合わせ医薬。
【請求項8】
α−グルコシダーゼ阻害薬が、ボグリボースである請求項1乃至7のいずれかに記載の組み合わせ医薬。
【請求項9】
ミチグリニドカルシウム水和物を5〜45mg含有する請求項7又は8記載の組み合わせ医薬。
【請求項10】
ボグリボースを0.2〜0.5mg含有する請求項9記載の組み合わせ医薬。
【請求項11】
ミチグリニドカルシウム水和物5〜10mg及びボグリボース0.2mgを含有する請求項10記載の組み合わせ医薬。
【請求項12】
配合剤である請求項11記載の組み合わせ医薬。
【請求項13】
キットである請求項11記載の組み合わせ医薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−92140(P2012−92140A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−738(P2012−738)
【出願日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【分割の表示】特願2008−66772(P2008−66772)の分割
【原出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000104560)キッセイ薬品工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【分割の表示】特願2008−66772(P2008−66772)の分割
【原出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000104560)キッセイ薬品工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】
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