説明

2本鎖ヒドロゲル化剤

【課題】新規なヒドロゲル化剤、及びヒドロゲルを提供すること。
【解決手段】式(1)で示される、エチレングリコールのオリゴマー又はポリマー誘導体を結合したベンズアミド誘導体を有効成分として含むヒドロゲル化剤、及び、式(1)で示されるベンズアミド誘導体と水とを含んでなるヒドロゲル。
(式中で、XはOH又はNHを、kは0から4までの整数を、mは1から、好ましくは7から、100までの整数を、nは1から、好ましくは2から、6までの整数を、pは9から、好ましくは11から、17までの整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヒドロゲル化剤、及びヒドロゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
低分子ゲルは、低分子化合物が分子間力による自己組織化により3次元ネットワークを形成することによって、溶媒分子を捕捉したゲルである(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
低分子ゲルは、ゲルを形成する低分子化合物の分子設計が可能なことから、分離膜、センサー、触媒、電子材料、バイオ素材等、様々な分野への応用が期待されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
我々も、新規な構造を有する3,4,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体を合成し(特許文献1参照)、その一部の化合物が有機溶媒をゲル化することを見出し、さらに高いゲル化能を有する化合物を提供した(特許文献2参照)。
【0005】
また、3,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体のゲル形成についての報告はなかった。
【0006】
しかし、バイオ素材への応用を考えた場合、有機溶媒をゲル化したオルガノゲルよりも、水をゲル化したヒドロゲルが望ましいことは明らかであるが、低分子が形成するヒドロゲルの報告は少ない(例えば、非特許文献3参照)。また、得られたヒドロゲルをバイオ素材として利用する場合、ヒドロゲル自体が生体適合性を持つことが望ましいが、こうした観点からの報告はほとんど無かった。
【0007】
我々は、これまでに、エチレングリコールのオリゴマー又はポリマー誘導体を結合した3,4,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体を合成し、これらの化合物が医療用材料等に生体適合性を付与する目的で使用できること(特許文献3参照)、また、これらの化合物が有機溶媒をゲル化すること(特許文献4参照)を開示したばかりでなく、さらに、これらの化合物がヒドロゲルを形成することを見出した(特許文献5参照)。しかし、目的や用途に応じてヒドロゲルの物性や調製法等を最適化するために、さらに新規な分子構造を有するヒドロゲル化剤の開発が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−122889号公報
【特許文献2】特開2004−262809号公報
【特許文献3】特開2005−232061号公報
【特許文献4】特開2005−232278号公報
【特許文献5】特開2007−217551号公報
【非特許文献1】ケミカル・レビュー(Chem.Rev.)、1997年、97巻、p.3133−3159
【非特許文献2】アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)、2000年、39巻、p.2263−2266
【非特許文献3】ケミカル・レビュー(Chem.Rev.)、2004年、104巻、p.1201−1217
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、新規なヒドロゲル化剤、及びヒドロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に関して鋭意検討した結果、本発明者らは、3,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体のオルガノゲル形成は見られず、ゲル形成には構造特異性があることを見出した。
【0011】
更に本発明者らは、オルガノゲル形成の結果から予想されたゲル化能とは異なり、式(1)で示されるエチレングリコールのオリゴマー又はポリマー誘導体を結合し、3、5位に長鎖のアルキルオキシ基を有するベンズアミド誘導体が、親水性のエチレングリコールのオリゴマー又はポリマー部分の長さ、疎水性のアルキル部分の長さ、及び、ゲル化の条件の適切な選択によって、ヒドロゲルを形成することを見出し、本発明を完成するに至った。式(1)で示される化合物は、3、4、5位に長鎖のアルキルオキシ基を有するベンズアミド誘導体に加えて、化学構造に多様性を与えるものであり、ヒドロゲルの物性等を最適化する際に有効である。
【0012】
【化1】

(式中で、XはOH又はNHを、kは0から4までの整数を、mは1から、好ましくは7から、100までの整数を、nは1から、好ましくは2から、6までの整数を、pは9から、好ましくは11から、17までの整数を表す。)
すなわち、本発明は、式(1)で示される化合物を有効成分として含むヒドロゲル化剤、及び、式(1)で示される化合物と水とを含んでなるヒドロゲルを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、分子の自己組織化により、エチレングリコールのオリゴマー又はポリマーを部分構造とする化合物がヒドロゲル化する希な分子種に、新たな分子構造の多様性を加えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のヒドロゲル化剤には、式(1)で表される化合物が有効成分として含まれる。
【化2】

(式中で、XはOH又はNHを、kは0から4までの整数を、mは1から、好ましくは7から、100までの整数を、nは1から、好ましくは2から、6までの整数を、pは9から、好ましくは11から、17までの整数を表す。)
なお、室温付近でのヒドロゲル形成の観点からmは7以上、pは11以上が好ましく、合成工程の観点からnは2以上が好ましい。
式(1)で示される化合物は、既に開示した様に、エチレングリコールのオリゴマー又はポリマーのアミン誘導体と、3,5位にアルキルオキシ基を有する安息香酸誘導体とのアミド縮合によって得られる(特開2005−232061号公報)。また、末端のXとエチレングリコールのオリゴマー又はポリマーの間のアルキル鎖長、及び、ベンズアミドとエチレングリコールのオリゴマー又はポリマーの間のアルキル鎖長は、下に記載のエチレングリコールのオリゴマー又はポリマーのアミン誘導体の合成法に準じて、適当な末端修飾を施すことによって得られる。
【0015】
エチレングリコールのオリゴマー又はポリマーのアミン誘導体は、例えば、市販のエチレングリコールのオリゴマー又はポリマーの一端、又は、両端を、順次、トシル化、トシル基のヨウ素化、ヨウ素基のフタルイミドへの変換、ヒドラジンによる脱保護によって得られる。また、市販で入手できない長さのオリゴマーについては、オリゴエチレングリコールの一端を保護し、他の一端をトシル化して、合計が必要な長さとなるオリゴエチレングリコールと縮合の後、脱保護して得られる化合物(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.)2004年、69巻、p.639−647)の一端、又は、両端を、順次、トシル化、トシル基のヨウ素化、ヨウ素基のフタルイミドへの変換、ヒドラジンによる脱保護によって得られる(バイオケミストリー(Biochemistry)1980年、19巻、p.4595−4600)。あるいは、トシル化に続いて、トシル基のアジド化、それに引き続く還元によっても同様の化合物が得られる。
【0016】
式(1)で示される化合物は、そのまま単独で、あるいは、そのヒドロゲル化を妨げない物質との混合物として、ヒドロゲル化剤として用いることができる。
【0017】
ヒドロゲルは、式(1)で示される化合物を有効成分として含むヒドロゲル化剤を、適当量、水に懸濁させ、そのままヒドロゲルを用いる温度まで加熱するか、又は、一旦、ヒドロゲル化剤が溶解する温度まで加熱の後、室温まで冷却するか、該冷却後再度加熱するか、若しくは、該冷却後さらに低い温度まで冷却することによって製造する。
【0018】
以下に、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記述に限定されるものではない。なお、以下において、EDC・HClは水溶性カルボジイミド塩酸塩の、HOBtは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物の、PEGはポリエチレングリコールの略号である。
【実施例】
【0019】
<合成例1>
(式(1)で、X=OH、k=0、m=29〜32、n=2、p=13である化合物の合成)
3,5-ジヒドロキシ安息香酸 (3.08 g, 20.0 mmol)を蒸留精製したDMF (200 ml)に溶解し、1-ブロモテトラデカン(19.8 ml, 70.0 mmol)とK2CO3 (20 g)を加え、65℃に熱しN2気流下で一晩撹拌した。反応終了後室温に戻し、5% HCl水溶液(200 ml)とヘキサンを加え室温で攪拌した。4%NaHCO3水溶液と飽和NaClの順に洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水した。乾燥剤をろ別して溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)で精製し、エタノールで再結晶を行い、3,5-ビス(テトラデシルオキシ)安息香酸テトラデシル(10.22 g, 13.74 mmol, 69%) を得た。
【0020】
白色粉末; 1H-NMR (CDCl3) δ = 7.15 (2H, s, 2,6-H), 6.62 (1H, s, 4-H), 4.28 (2H, t, J = 7 Hz, 1-COOCH2), 3.96 (4H, t, J = 7 Hz, 3,5-OCH2), 1.77 (6H, m, 1-COOCCH2, 3,5-OCCH2), 1.43 (6H, m, 1-COOC2CH2, 3,5-OC2CH2), 1.26 (60H, m, 1-COOC3C10H20, 3,5-OC3C10H20), 0.88 (9H, t, J = 7 Hz, 1-COOC13CH3, 3,5-OC13CH3).
3,5-ビス(テトラデシルオキシ)安息香酸テトラデシル(2.23 g, 3.00 mmol) をメタノール(30 ml) 、ジクロロメタン(10 ml) に溶解し、ナトリウムメトキシド(0.162 g, 3.00 mmol) を加え、室温、N2気流下で一晩攪拌した。反応終了後、Amberlite IR-120(plus)resinで中和し、溶媒を留去した。エタノールで再結晶を行い、3,5-ビス(テトラデシルオキシ)安息香酸メチル(1.72 g, 2.46 mmol, 82%) を得た。
【0021】
白色粉末; 1H-NMR (CDCl3) δ = 7.15 (2H, s, 2,6-H), 6.63 (1H, s, 4-H), 3.96 (4H, t, J = 7 Hz, 3,5-OCH2), 3.89 (3H, s, 1-COOCH3), 1.77 (4H, quintet, J = 7 Hz, 3,5-OCCH2), 1.44 (4H, m, 3,5-OC2CH2), 1.26 (40H, m, 3,5-OC3C10H20), 0.88 (6H, t, J = 7 Hz, 3,5-OC13CH3).
3,5-ビス(テトラデシルオキシ)安息香酸メチル(5.084 g, 9.06 mmol) をエタノール(90 ml)と水(30 ml) に溶解し、水酸化カリウム(5.00 g) を加え、78℃で一晩加熱還流した。反応溶液を室温に戻し、2% HCl (200 ml)とジクロロメタン(120 ml) を加えさらに50時間撹拌した。反応終了後、溶媒を留去し、メタノールを加え粗結晶を得た。乾燥させた粗結晶を1-プロパノール(200 ml) に加え、55℃に熱して溶解させた。反応溶液を室温に戻し、さらに冷却すると結晶が析出した。メタノールで結晶を洗い、3,5-ビス(テトラデシルオキシ)安息香酸(4.55 g, 8.32 mmol, 92%) を得た。
【0022】
白色粉末; 1H-NMR (CDCl3) δ = 7.18 (2H, s, 2,6-H), 6.67 (1H, s, 4-H), 3.97 (4H, t, J = 7 Hz, 3,5-OCH2), 1.78 (4H, quintet, J = 7 Hz, 3,5-OCCH2), 1.44 (4H, m, 3,5-OC2CH2), 1.26 (40H, m, 3,5-OC3C10H20), 0.88 (6H, t, J = 7 Hz, 3,5-OC13CH3); MS (APCI) found: m/z 547.6, calcd for C53H99NO6: M+, 547.5.
3,5-ビス(テトラデシルオキシ)安息香酸(0.273 g, 0.500 mmol) をジクロロメタン(5 ml) に溶解し、HOBt (0.085 g, 0.600 mmol)とEDC・HCl (0.115 g, 0.600 mmol) を加え、室温で1時間撹拌した。ジクロロメタン(5 ml) にPEG 1540 mono-amineを溶解し、滴下ロートを用いて反応溶液に滴下しながら、さらに2時間撹拌した。反応終了後、有機相を4%NaHCO3水溶液、飽和NaCl水溶液の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した。乾燥剤をろ別して、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=9:1)で精製し、合成例1の化合物(0.592 g, 0.303 mmol, 61%) を得た。
【0023】
1H-NMR (CDCl3) δ = 6.91 (2H, s, 2,6-H), 6.55 (1H, s, 4-H), 3.96 (4H, t, J = 7 Hz, 3,5-OCH2), 3.71-3.59 (128H, m, OCH2CH2 × 32), 1.76 (4H, quintet, J = 7 Hz, 3,5-OCCH2), 1.43 (4H, m, 3,5-OC2CH2), 1.26 (40H, m, 3,5-OC3C10H20), 0.88 (6H, t, J = 7 Hz, 3,5-OC13CH3).
<実施例1>
(ヒドロゲル形成)
合成例1で合成した化合物を、60mM濃度になるように純水中に分散させ、一旦、100度に加熱の後、室温に戻した。室温では粘度の高いゾル状態であったが、さらに昇温すると、60℃でヒドロゲルを与えることを倒置法により確認した。なお、倒置法とは、溶液がゲル状態になったことをサンプル容器を倒置することによって確認する方法である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明が提供するヒドロゲルは、生体適合性が知られるエチレングリコールのオリゴマーまたはポリマー構造を有し、3次元細胞培養、細胞や蛋白質の分離・精製、蛋白質医薬品の徐放等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物を有効成分として含むヒドロゲル化剤。
【化1】

(式中で、XはOH又はNHを、kは0から4までの整数を、mは1から100までの整数を、nは1から6までの整数を、pは9から17の整数を表す。)
【請求項2】
式(2)で示される化合物を有効成分として含むヒドロゲル化剤。
【化2】

(式中で、XはOH又はNHを、kは0から4までの整数を、mは7から100までの整数を、nは2から6までの整数を、pは11から17までの整数を表す。)
【請求項3】
請求項1の式(1)又は請求項2の式(2)に記載の化合物と水とを含んでなるヒドロゲル。

【公開番号】特開2010−59323(P2010−59323A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227250(P2008−227250)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】